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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173967
(43)【公開日】2022-11-22
(54)【発明の名称】手織機
(51)【国際特許分類】
   D03D 29/00 20060101AFI20221115BHJP
   D03D 49/20 20060101ALI20221115BHJP
   D03D 49/12 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
D03D29/00
D03D49/20 A
D03D49/12
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080088
(22)【出願日】2021-05-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】517005891
【氏名又は名称】有限会社うえざと木工
(74)【代理人】
【識別番号】100178939
【弁理士】
【氏名又は名称】本堂 裕司
(72)【発明者】
【氏名】東上里 和広
【テーマコード(参考)】
4L050
【Fターム(参考)】
4L050AA07
4L050CA06
4L050CA07
4L050CA12
4L050CA21
4L050CA23
4L050CC02
4L050CC11
(57)【要約】
【課題】織り作業を中断して行う縦糸移送工程は、織子の身体的・精神的負担が大きく、時間的な作業効率も良いとは言えない。
【解決手段】織布巻き取り軸及び縦糸供給軸にトルクヒンジを採用し一定の張力を維持したまま、織布巻き取り軸に設けられたラチェットレバーを操作することにより、織り作業工程と同じく椅子に座ったまま任意の移動量の縦糸移送工程を行うことが出来、更に受け取りローラーの導入により筬位置調整も不要になった手織機を提供することが出来た。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
織布巻き取り軸及び縦糸供給軸にトルクヒンジを採用することにより、一定の張力を維持したまま織布巻き取り軸の自由回転による任意の移送量の縦糸移送工程が可能な手織機。
【請求項2】
前記織布巻き取り軸を織機下部に設置し、該織布巻き取り軸に設けられたラチェットレバーにより、織り作業工程と同じく椅子に座ったままラチェットレバーを操作するだけで任意の移動量の縦糸移送工程を行うことが出来、織布形成位置に受け取りローラーを設置し、該受け取りローラーの太さが一定となることにより、筬位置調整も不要になった、請求項1に記載の手織機。
【請求項3】
ラチェットレバーに正転・逆転切り替え機構を有し、一時的かつ意図的に張力を緩めること可能である、請求項1~2に記載の手織機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本質的な織り作業以外にかかる手間を簡略化し、織子が本来の織り作業に専念出来るよう効率が良好になった手織機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機械化の進んだ現在においても、伝統的に継承された手織りによる織物の価値は依然高く、それらを製造する手織機については、基本的には伝統を守るため大きな改革を経ること無く、その織り方と共に織機自体もそのまま継承されてきた。
【0003】
一部の織機所有者はそれぞれが独自に、経糸移送経路のロック機構やブレーキ機構等を後付けで追加し個別の工夫を凝らしている場合もあるが、後付けの機構はその機構によるメリットを生むと同時に、重量の増加、整備の煩雑さ、特注部品を使用したことによる故障した際の修理の困難さ等のデメリットを生じていた。
【0004】
特許文献1の特許請求の範囲には、糸を巻き取る時に一対のロッドの間を通すことによって、巻き取られる糸にテンションを与えることが記載されている。しかしこれは巻き取られる糸に掛けるテンションを目的とし、その機構も極めて複雑なものである。
【0005】
特許文献2の特許請求の範囲には、フロントローラーとバックローラーのそれぞれにラチェット機構を設けることにより回転方向を規制することにより経糸が緩まないようにすることが記載されているが、移動量がギアのステップ単位に制限されること、張力の調整が出来ないこと、ローラー自体に糸を巻く織機であるため小型の織機に限られることなどに問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-3348号公報
【特許文献2】特許第3543083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
織り作業における本質的な織り作業工程(A)は、
(1)2つの綜絖の位置を移動し、縦糸の奇数糸と偶数糸の上下を交換する
(2)横糸を巻き付けた杼を上下に分かれた縦糸の間を通す
(3)通した横糸を筬で1~数回打ち付けて織布を成型する
を繰り返すことにより織布が順次形成されていくものであるが、織布巻き取り軸付近から織り始めた織布は次第に織子から前方に向かって伸び、筬の可動範囲や織子の腕の長さ等の要因により、ある程度織り上がった段階で縦糸を移送する必要が生じる。
【0008】
縦糸の移送が必要になった場合の縦糸移送行程(B)は、
(1)織布巻き取り軸及び縦糸供給軸のロックを解除する
(2)織布巻き取り軸をハンドル等により回転させて形成された織布を一定長さ分巻き取る
(3)縦糸供給軸のロックを固定する
(4)織布巻き取り軸の回転調整により織布巻き取り軸及び送り出しローラー間の張力を調整する
(5)織布巻き取り軸のロックを固定する
の様に煩雑であり、この作業中は本質的には織り作業は進行しておらず、上記(4)の張力調整作業における調整は毎回同じ張力で無いと均一の織布は形成されないため、熟練及び細心の注意を必要とする物である。
【0009】
加えて、上記織り作業工程(A)は織子が織り位置である椅子に座った状態で作業出来るものである一方、上記縦糸移送工程(B)は、織子が織機本体の側部に移動し、かつ低くしゃがみ込んで作業する必要が有り、肉体的にも負担が大きいと共に、椅子に座っての織り作業を大きく中断させるものとなっている。
【0010】
さらに、上記縦糸移送工程(B)を続けていくと、織布巻き取り軸に巻かれた織布が増えるに従い巻かれた織布の巻きが太くなり、これにより織布の形成位置が徐々に高い位置に移動し、これに伴いこの高さと送り出しローラーとの高低差による角度が徐々に大きくなるため、それに合わせる調整が必要となる。
筬の高さ及び角度の調整が必要になった場合の筬位置調整行程(C)は、
(1)上部鳥居の位置を調整する
(2)手元に近い筬柄の高さを調整する
の行程があり、筬位置が織布形成位置に配置される必要性、左右の筬位置が正確に均等である必要性から、繊細な調整が必要である一方、従来の織機ではそれらの調整のために紐等を用いているため精度を維持することが難しく、織子が調整に細心の注意を払う必要が有る。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、織布巻き取り軸及び縦糸供給軸にトルクヒンジを採用することにより、張力の調整を簡略にする。
また縦糸移送行程も、織布巻き取り軸に設けられたラチェットレバーにより、織り作業工程と同じく椅子に座ったままラチェットレバーを操作するだけで任意の移動量の縦糸移送工程を行うことが出来る。
さらに織布巻き取り軸を織機下部へ移動し、代わりに太さの変わらない受け取りローラーを設置することにより、筬位置調整行程を不要にする。
一方あえて一時的に張力を緩めることもラチェットレバーの切り替え機構により実現される。
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、織布巻き取り軸及び縦糸供給軸にトルクヒンジを採用することにより、一定の張力を維持したまま織布巻き取り軸の自由回転による任意の移送量の縦糸移送工程が可能な手織機が提供される。
請求項2に記載の発明によれば、前記織布巻き取り軸を織機下部に設置し、該織布巻き取り軸に設けられたラチェットレバーにより、織り作業工程と同じく椅子に座ったままラチェットレバーを操作するだけで任意の移動量の縦糸移送工程を行うことが出来、織布形成位置に受け取りローラーを設置し、該受け取りローラーの太さが一定となることにより、筬位置調整も不要になった、請求項1に記載の手織機が提供される。
請求項3に記載の発明によれば、ラチェットレバーに正転・逆転切り替え機構を有し、一時的かつ意図的に張力を緩めること可能である、請求項1~2に記載の手織機が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明による実現される新たな縦糸移送工程(B’)は、
(1)織り作業と同じ椅子に座ったままラチェットレバーの操作により任意の移送量の縦糸移送を行う
の1工程のみにより実現され、織子の身体的、精神的負担の大幅軽減と縦糸移送工程にかかる時間の大幅短縮が、織機本体の大幅な重量増加を伴わずかつ電気等の外部エネルギーを必要とせずに実現される。またその際に特段の調整を必要とせずに一定の張力が維持される。
さらに太さの変わらない受け取りローラーの使用により、筬位置調整行程(C)が不要になるという利点も有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は本発明の手織機における縦糸及び織布の簡略化移動経路の断面図である。(実施例)
図2図2は従来の手織機における縦糸及び織布の簡略化移動経路の断面図である。(従来例)
図3図3は本発明の手織機の簡略化斜視図である
図4図4は従来の手織機の簡略化斜視図である
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は基本的に従来からある手織機の基本構造を踏襲しつつも、
・織布巻き取り軸6と縦糸供給軸2の回転軸にトルクヒンジ1を使用する
・織布巻き取り軸6を織機下部に設置し、織布形成位置に受け取りローラー5を設置する
・織布巻き取り軸6を回転させる手段としてラチェットレバー7を設ける
と言う比較的簡単な構成からなり、部品点数も少ないため調整や故障の負担も少ないシンプルな構造を有する。
以下、従来の手織機(図2)及び本発明の手織機(図1)を元に説明する。
【0016】
従来の手織機及び本発明の手織機に共通する織り作業工程(A)としては、
(1)2つの綜絖(図示せず)の位置を交換し、縦糸の奇数糸と偶数糸の上下を交換する
(2)横糸を巻き付けた杼(図示せず)を上下に分かれた縦糸の間を通す
(3)通した横糸を筬4で1~数回打ち付けて織布を成型する
を繰り返すことにより織布が順次形成されていくものであるが、受け取りローラー5(図1)または織布巻き取り軸6(図2)付近から織り始めた織布は次第に織子から前方に向かって伸び、筬4の可動範囲や織子の腕の長さ等の要因により、ある程度織り上がった段階で縦糸を移送する必要が生じる。
なお、上記綜絖の位置交換については、通常足踏み式のレバーを用いることが多い。
ここまでの工程は共通であると共に、関連する織機の構成についても共通するものである。
そしてここまでの織り作業工程(A)は織子が織り位置である椅子に座った状態で作業を行う。
【0017】
[従来例]
しかし従来の織機において、縦糸の移送が必要になった場合の縦糸移送行程(B)は、
(1)織布巻き取り軸6及び縦糸供給軸2のロックを解除する
(2)織布巻き取り軸6をハンドル等により回転させて形成された織布を一定長さ分巻き取る
(3)縦糸供給軸のロック10を固定する
(4)織布巻き取り軸6の回転調整により織布巻き取り軸6及び送り出しローラー3間の張力を調整する
(5)織布巻き取り軸のロック(図示せず)を固定する
の様な煩雑な作業が必要である。
そしてこの縦糸移送工程(B)は、織子が織機本体の側部に移動し、かつ低くしゃがみ込んで作業する必要が有る。
【0018】
さらに、上記縦糸移送工程(B)を続けていくと、織布巻き取り軸6に巻かれた織布が増えるに従い巻かれた織布の巻きが太くなり、これにより織布の形成位置が徐々に高い位置に移動し、かつこの高さと送り出しローラー3との高低差による角度が徐々に大きくなるため、それに合わせる調整が必要となる。
筬の高さ及び角度の調整が必要になった場合の筬位置調整行程(C)は、
(1)上部鳥居8の位置を調整する
(2)手元に近い筬柄9の高さを調整する
の行程があり、筬位置が織布形成位置に配置される必要性、左右の筬位置が正確に均等である必要性から、極めて繊細な調整が必要である一方、従来の織機ではそれらの調整のために紐等を用いているため精度を維持することが難しく、織子が調整に細心の注意を払う必要が有る。
【実施例0019】
一方本発明による実現される新たな縦糸移送工程(B’)は、
(1)ラチェットレバー7の操作により任意の移送量の縦糸移送を行う
の1工程のみにより実現され、織子の負担の軽減と時間の短縮が実現される。
そして織り作業と同じ椅子に座ったまま縦糸移送工程(B’)をも行うことが出来る。
【0020】
また織布巻き取り軸6の巻が太くなったとしても、受け取りローラー5と送り出しローラー3の両者とも高さが変わらないことにより織布形成位置は一定で、筬位置の調整を途中で行う必要が無い。
さらに本発明のラチェットレバー7は正転・逆転切り替え機構を有し、一時的かつ意図的に張力を緩めること可能である。これにより織子が一時的に縦糸の張力を下げ、横糸の密度を密に織るなどの微調整が可能である。
【0021】
用いるトルクヒンジは、通常使用される蝶番型のものとは異なり、360度自由回転が可能なインサート取付仕様のものが用いられる。これを縦糸供給軸2及び織布巻き取り軸6の回転軸として、軸と織機本体の間に使用する。
発生するトルクの大きさは、通常の4.0~6.0N・m程度のものが使用可能であるが、目的とする張力及び縦糸移送工程の操作に必要な力を勘案した結果に応じて必要なトルクを発生するものが適宜使用される。必要な張力を維持するため縦糸供給軸2及び織布巻き取り軸6の両方で対称なトルクの大きさとなるトルクヒンジを採用することが合理的であるが、張力を低減させるためあえて片方の軸のトルクの大きさを低下させた非対称のトルクヒンジを用いることも可能である。
【0022】
発生するトルクの回転方向は、送り出しローラー3と受け取りローラー5の間の張力を維持するためであるから、縦糸供給軸2は縦糸移送に抵抗する回転方向で、織布巻き取り軸6は縦糸移送の逆行に抵抗する回転方向でトルクを発生することが必要である。この時縦糸の安定化を重視して両回転方向でトルクの発生するトルクヒンジを使用しても構わないが、張力を維持する回転方向と逆の回転方向にはトルクを発生しないワンウェイトルクヒンジを用いると、縦糸移送工程に必要な力が半分となるため好ましい。
具体的には、スガツネ工業株式会社製のTI-160型等を使用することが出来る。
【0023】
用いるラチェットレバー7は、軸の回転に対しラチェット機構により一方向の回転にのみ力が加わり、逆方向については空転するような機構を持ち、一定の長さのレバーにより軸の回転に力を加えることが出来る構造を持つ。レバーの長さは15~45cm程度あれば構わないが、縦糸移送工程における織布巻き取り軸6の回転に必要な力を加えることが出来、織機全体の他の部位や織子の動作に干渉しない長さであれば構わない。また織機本体の内側であっても外側であっても設ける場所として適宜選択される。
またラチェット機構には正転・逆転切り替え機構を持ち、通常の巻き取り操作に加え、一時的に緩める方向での操作も可能であることが好ましい。
以上の機能を持つラチェットレバーに最も近い市販品は、ラチェットレンチである。
【0024】
その両者の間で縦糸及び織布の張力が維持される送り出しローラー3と受け取りローラー5は、自由回転が可能な軸を持つ断面円形の回転体であることが縦糸移送工程の操作に必要な力の観点から望ましいが、古い織機を利用する場合に、単に断面が四角形または円形の固定された木材の側面を滑らせるだけの構造であっても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0025】
縦糸移送工程にかかる織子の負担を軽減しかつかかる時間を短縮し、織り作業工程に専念出来ることによって、効率の良い手織物製造作業を実現することが出来る。
【符号の説明】
【0026】
1 トルクヒンジ
2 縦糸供給軸
3 送り出しローラー
4 筬
5 受け取りローラー
6 織布巻き取り軸
7 ラチェットレバー
8 鳥居
9 筬柄
10 縦糸供給軸ロック機構
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2021-08-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
織布巻き取り軸及び縦糸供給軸にトルクヒンジを採用することにより、一定の張力を維持したまま織布巻き取り軸の自由回転による任意の移送量の縦糸移送工程が可能な手織機。
【請求項2】
前記織布巻き取り軸を織機下部に設置し、該織布巻き取り軸に設けられたラチェットレバーを用いた織布巻き取り軸の回転により、織り作業工程と同じく椅子に座ったままラチェットレバーを操作するだけで任意の移動量の縦糸移送工程を行うことが出来、織布形成位置に受け取りローラーを設置し、該受け取りローラーの太さが一定となることにより、筬位置調整も不要になった、請求項1に記載の手織機。
【請求項3】
ラチェットレバーに正転・逆転切り替え機構を有し、一時的かつ意図的に張力を緩めること可能である、請求項2に記載の手織機。