(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174130
(43)【公開日】2022-11-22
(54)【発明の名称】ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 67/03 20060101AFI20221115BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20221115BHJP
C08L 51/08 20060101ALI20221115BHJP
C08L 101/04 20060101ALI20221115BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
C08L67/03
C08L69/00
C08L51/08
C08L101/04
C08J3/20 Z CEZ
C08J3/20 CFD
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022136089
(22)【出願日】2022-08-29
(62)【分割の表示】P 2021574015の分割
【原出願日】2021-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2020010537
(32)【優先日】2020-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 創貴
(72)【発明者】
【氏名】山中 康史
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低温時および常温時の耐衝撃性、靱性、難燃性、流動性、表面外観性、耐加水分解性に優れたポリカーボネート樹脂組成物成形体およびポリカーボネート樹脂組成物。
【解決手段】(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(B)ポリカーボネート樹脂、および(C)エラストマーを含有する樹脂組成物からなる成形体であって、(A)と(B)の合計100質量部基準で、(A)を30質量部超75質量部以下、(B)を25質量部以上70質量部未満含有し、(A)の相(a)及び(B)の相(b)を有し、(C)が相(a)及び相(b)の両方の相に存在し、(C)の、(A)の相(a)中の断面面積と(B)の相(b)中の断面面積との合計面積100%に対し、相(a)中の断面面積の面積率(単位:%)が10~60%であるモルフォロジーを有することを特徴とするポリブチレンテレフタレート樹脂組成物成形体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(B)ポリカーボネート樹脂、および(C)エラストマーを含有する樹脂組成物からなる成形体であって、
(A)と(B)の合計100質量部基準で、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂を30質量部超75質量部以下、(B)ポリカーボネート樹脂を25質量部以上70質量部未満含有し、
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の相(a)及び(B)ポリカーボネート樹脂の相(b)を有し、(C)エラストマーが相(a)及び相(b)の両方の相に存在し、
(C)エラストマーの、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の相(a)中の断面面積と(B)ポリカーボネート樹脂の相(b)中の断面面積との合計面積100%に対し、相(a)中の断面面積の面積率(単位:%)が10~60%であるモルフォロジーを有することを特徴とするポリブチレンテレフタレート樹脂組成物成形体。
【請求項2】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の相(a)がマトリックス相を形成し、(B)ポリカーボネート樹脂の相(b)が島状に存在する海島構造を有する請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
樹脂組成物成形体を構成する樹脂組成物が、さらに、難燃剤(E)を、(A)と(B)の合計100質量部に対し、3~30質量部含有する請求項1または2に記載の成形体。
【請求項4】
難燃剤(E)が臭素化ポリカーボネートである請求項3に記載の成形体。
【請求項5】
樹脂組成物成形体を構成する樹脂組成物が、さらに、酸化チタン(F)を(A)と(B)の合計100質量部に対し、0.05~10質量部含有する請求項1~4のいずれかに記載の成形体。
【請求項6】
筐体である請求項1~5のいずれかに記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び成形体に関し、詳しくは、耐衝撃性、靱性、難燃性、流動性、表面外観性、耐加水分解性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、優れた耐熱性、成形性、耐薬品性及び電気絶縁性等エンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有していることから、電気電子部品、自動車部品その他の電装部品、機械部品等に好適に使用されている。
【0003】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、結晶特性に優れるため、衝撃強度に代表される靭性が不十分であるという課題を有しており、この課題を解決するためにポリマーアロイの研究が従来から行われ、その難燃処方についても各種の提案がなされている。
例えば、特許文献1では、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ハロゲン系難燃剤、難燃助剤およびエステル交換防止剤を構成成分とする難燃性ポリエステル樹脂組成物が開示され、また、特許文献2には、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、エラストマー、難燃剤及び難燃助剤からなる難燃性ポリエステル樹脂組成物が開示されている。さらに、特許文献3には、ポリエステル樹脂、ポリスチレン系ゴム及び難燃剤からなるポリエステル樹脂組成物が開示されている。
【0004】
また、ポリブチレンテレフタレート樹脂は、高温では水や水蒸気によって加水分解が起きやすく、電気部品や電子部品、自動車部品、機械部品などの工業用材料として使用するためには、一般の化学的および物理的諸特性のバランスに加えて、優れた耐加水分解性を有することが求められている。
また、近年では、電気電子機器分野における要求物性は、益々高度化してきており、耐衝撃性、靱性、難燃性、流動性、表面外観性、耐加水分解性等に優れた材料が求められている。さらには、例えば-30℃というような低温環境下での耐衝撃性が求められるニーズも出てきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-314664号公報
【特許文献2】特開平6-100713号公報
【特許文献3】特開2005-112994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題(目的)は、上記問題点を解決し、耐衝撃性、靱性、難燃性、流動性、表面外観性、耐加水分解性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びその成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねてきた結果、ポリブチレンテレフタレート樹脂にポリカーボネート樹脂を特定量配合したアロイに、エラストマーを配合したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなり、ポリブチレンテレフタレート樹脂の相(a)及びポリカーボネート樹脂の相(b)を有し、エラストマーが相(a)及び相(b)の両方の相に存在するモルフォロジーを有する成形体が、低温及び常温時の耐衝撃性、靱性、難燃性、が向上することを見出し、本発明に到達した。
本発明は、以下のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物成形体及びポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関する。
【0008】
1.(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(B)ポリカーボネート樹脂、および(C)エラストマーを含有する樹脂組成物からなる成形体であって、
(A)と(B)の合計100質量部基準で、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂を30質量部超75質量部以下、(B)ポリカーボネート樹脂を25質量部以上70質量部未満含有し、
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の相(a)及び(B)ポリカーボネート樹脂の相(b)を有し、(C)エラストマーが相(a)及び相(b)の両方の相に存在するモルフォロジーを有することを特徴とするポリブチレンテレフタレート樹脂組成物成形体。
2.(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の相(a)がマトリックス相を形成し、(B)ポリカーボネート樹脂の相(b)が島状に存在する海島構造を有する上記1に記載の成形体。
3.(C)エラストマーがポリシロキサンゴムコアとスチレン系シェルを有するコア/シェル型エラストマーであり、その含有量が、(A)と(B)の合計100質量部基準で、3~30質量部である上記1または2に記載の成形体。
4.樹脂組成物成形体を構成する樹脂組成物が、さらに、エラストマーとしてポリシロキサンゴムコアとアクリル系シェルを有するコア/シェル型エラストマーを含有する上記1~3のいずれかに記載の成形体。
5.ポリシロキサンゴムコアとアクリル系シェルを有するコア/シェル型エラストマーが、ポリカーボネート樹脂の相(b)に存在する上記4に記載の成形体。
6.ポリシロキサンゴムコアとアクリル系シェルを有するコア/シェル型エラストマーの含有量が、(A)と(B)の合計100質量部基準で、3~30質量部である上記4または5に記載の成形体。
7.樹脂組成物成形体を構成する樹脂組成物が、さらに、難燃剤(E)を、(A)と(B)の合計100質量部に対し、3~30質量部含有する上記1~6のいずれかに記載の成形体。
8.難燃剤(E)が臭素化ポリカーボネートである上記7に記載の成形体。
9.樹脂組成物成形体を構成する樹脂組成物が、さらに、酸化チタン(F)を、(A)と(B)の合計100質量部に対し、0.05~10質量部含有する上記1~8のいずれかに記載の成形体。
10.筐体である上記1~9のいずれかに記載の成形体。
【0009】
11.(A)と(B)の合計100質量部基準で、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂を30質量部超75質量部以下、(B)ポリカーボネート樹脂を25質量部以上70質量部未満、およびポリシロキサンゴムコアとスチレン系シェルを有するコア/シェル型エラストマーを3~30質量部含有することを特徴とするポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
12.さらに、ポリシロキサンゴムコアとアクリル系シェルを有するコア/シェル型エラストマーを、(A)と(B)の合計100質量部に対し、3~30質量部含有する上記11に記載の樹脂組成物。
13.さらに、難燃剤(E)を、(A)と(B)の合計100質量部に対し、3~30質量部含有する上記11または12に記載の樹脂組成物。
14.難燃剤(E)が臭素化ポリカーボネートである上記13に記載の樹脂組成物。
15.さらに、酸化チタン(F)を、(A)と(B)の合計100質量部に対し、0.05~10質量部含有する上記11~14のいずれかに記載の樹脂組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物成形体及びポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、-30℃等の極低温での耐衝撃性及び常温時の耐衝撃性が極めて高く、かつ靱性にも優れ、かつ、優れた流動性、表面外観性、耐加水分解性、難燃性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例1で得た成形体のSEM写真である。
【
図2】
図2は、実施例2で得た成形体のSEM写真である。
【
図3】
図3は、比較例2で得た成形体のSEM写真である。
【
図4】
図4は、実施例及び比較例で作成したスパイラル状樹脂成形品を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0013】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物成形体は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(B)ポリカーボネート樹脂、および(C)エラストマーを含有する樹脂組成物からなる成形体であって、
(A)と(B)の合計100質量部基準で、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂を30質量部超75質量部以下、(B)ポリカーボネート樹脂を25質量部以上70質量部未満含有し、
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の相(a)及び(B)ポリカーボネート樹脂の相(b)を有し、(C)エラストマーが相(a)及び相(b)の両方の相に存在するモルフォロジーを有することを特徴とする。
【0014】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物成形体は、海島構造を有し、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の相(a)がマトリックス相を形成し、(B)ポリカーボネート樹脂の相(b)が島状に存在する海島構造を有するモルフォロジーを有する。そして、(C)エラストマーが相(a)及び相(b)の両方の相に存在することで、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂及び(B)ポリカーボネート樹脂の耐衝撃性の補強効果が著しく発現し、-30℃というような極低温時においても優れた耐衝撃性を向上させることができる。常温及び低温における耐衝撃性を向上させるために、成形体中の(C)エラストマーは、モルフォロジー観察により、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の相(a)中の断面面積と、(B)ポリカーボネート樹脂の相(b)の断面面積との合計面積100%に対しての、相(a)中の断面面積の面積率(単位:%)が10~60%であることが好ましく、特に20~50%であることが好ましい。
【0015】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物成形体のモルフォロジーの観察は、光学顕微鏡、SEM(走査型電子顕微鏡)、TEM(透過型電子顕微鏡)等により成形体断面を観察することで測定できる。
具体的には、SEM、STEM、TEM分析装置を用い、成形体断面のコア部(深さ20μm未満の表層部を除く部分で、断面の中心部、樹脂組成物流動方向に平行な断面。)を、20kVの加速電圧下で、倍率3,000~100,000倍の倍率により観察される。
【0016】
図1は、本発明の成形体のモルフォロジーの一例を示すものであって、本発明の実施例1で得られた成形体のコア部のSEM写真(倍率:30000倍)である。
図1中、濃い灰色部分が(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の相(a)であり、マトリックス相を形成していることが分かる。相(a)より薄い灰色の層が(B)ポリカーボネート樹脂の相(b)であり、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の相(a)の海に島状に存在して、海島構造を形成しているのが分かる。
その薄い灰色のポリカーボネート樹脂相(b)中に、
図1中、実線の丸で示した粒子状に存在しているのが(C)エラストマーであり、ポリカーボネート樹脂相(b)中に存在していることが分かる。また、
図1中、矢印で示したのが(C)エラストマーの相であり、ポリブチレンテレフタレート樹脂相(a)のマトリックス相中に粒子状に存在していることが分かる。
【0017】
図2は、本発明の成形体のモルフォロジーの他の一例を示すものであって、本発明の実施例2で得られた成形体のコア部のSEM写真(倍率:30000倍)である。
図2中、濃い灰色部分が(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の相(a)であり、マトリックス相を形成していることが分かる。相(a)より薄い灰色の層が(B)ポリカーボネート樹脂の相(b)であり、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の相(a)の海に島状に存在して、海島構造を形成しているのが分かる。
その薄い灰色のポリカーボネート樹脂相(b)中に、
図2中、実線の丸で示した粒子状に存在しているのが(C)エラストマーであり、ポリカーボネート樹脂相(b)中に存在していることが分かる。また、
図2中、矢印で示したのが(C)エラストマーの相であり、ポリブチレンテレフタレート樹脂相(a)のマトリックス相中に粒子状に存在していることが分かる。
【0018】
本発明の成形体は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の相(a)がマトリックス相を形成し、(B)ポリカーボネート樹脂の相(b)が島状に存在する海島構造を有することが好ましい。
また、本発明の成形体は、(C)エラストマーがポリシロキサンゴムコアとスチレン系シェルを有するコア/シェル型エラストマーであることが好ましく、その含有量が、(A)と(B)の合計100質量部基準で、3~30質量部であることが好ましい。
【0019】
樹脂組成物成形体を構成する樹脂組成物は、さらに、エラストマーとしてポリシロキサンゴムコアとアクリル系シェルを有するコア/シェル型エラストマーを含有することが好ましく、好ましくはポリシロキサンゴムコアとアクリル系シェルを有するコア/シェル型エラストマーは、ポリカーボネート樹脂の相(b)に存在する。ポリシロキサンゴムコアとアクリル系シェルを有するコア/シェル型エラストマーの含有量は、(A)と(B)の合計100質量部基準で、3~30質量部であることが好ましい。
【0020】
樹脂組成物成形体が(C)エラストマーがポリシロキサンゴムコアとスチレン系シェルを有するコア/シェル型エラストマーとさらにポリシロキサンゴムコアとアクリル系シェルを有するコア/シェル型エラストマーを含有する際には、ポリシロキサンゴムコアとスチレン系シェルを有するコア/シェル型エラストマーが(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂相(a)及び(B)ポリカーボネート樹脂相(b)の両方に存在し、ポリシロキサンゴムコアとアクリル系シェルを有するコア/シェル型エラストマーはポリカーボネート樹脂の相(b)に存在するモルフォロジーを有する。ポリシロキサンゴムコアとアクリル系シェルを有するコア/シェル型エラストマーはポリカーボネート樹脂の相(b)にのみ存在することで、(B)ポリカーボネート樹脂の耐衝撃性の補強効果がより発現することで、さらに低温時の耐衝撃性を向上させることができる。
【0021】
樹脂組成物成形体を構成する樹脂組成物は、さらに、難燃剤(E)を、(A)と(B)の合計100質量部に対し、3~30質量部含有することが好ましく、難燃剤(E)は臭素化ポリカーボネートであることが好ましい。
また、樹脂組成物成形体を構成する樹脂組成物は、さらに、酸化チタン(F)を含有することが好ましく、その含有量は(A)と(B)の合計100質量部に対し、0.05~10質量部であることが好ましい。
【0022】
上記したモルフォロジーを有する樹脂組成物成形体を構成する樹脂組成物は、以下のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であることが好ましい。
【0023】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、(A)と(B)の合計100質量部基準で、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂を30質量部超75質量部以下、(B)ポリカーボネート樹脂を25質量部以上70質量部未満、および(C)エラストマーとしてポリシロキサンゴムコアとスチレン系シェルを有するコア/シェル型エラストマーを3~30質量部含有することを特徴とする。
【0024】
[(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂]
本発明において、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂を含有する。
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸単位及び1,4-ブタンジオール単位がエステル結合した構造を有するポリエステル樹脂であって、ポリブチレンテレフタレート樹脂(ホモポリマー)の他に、テレフタル酸単位及び1,4-ブタンジオール単位以外の、他の共重合成分を含むポリブチレンテレフタレート共重合体や、ホモポリマーと当該共重合体との混合物を含む。
【0025】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸以外のジカルボン酸単位を含んでいてもよく、他のジカルボン酸の具体例としては、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル-2,2’-ジカルボン酸、ビフェニル-3,3’-ジカルボン酸、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ビス(4,4’-カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類、1,4-シクロへキサンジカルボン酸、4,4’-ジシクロヘキシルジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸類、および、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸類等が挙げられる。
【0026】
ジオール単位としては、1,4-ブタンジオールの外に他のジオール単位を含んでいてもよく、他のジオール単位の具体例としては、炭素原子数2~20の脂肪族又は脂環族ジオール類、ビスフェノール誘導体類等が挙げられる。具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、4,4’-ジシクロヘキシルヒドロキシメタン、4,4’-ジシクロヘキシルヒドロキシプロパン、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加ジオール等が挙げられる。また、上記のような二官能性モノマー以外に、分岐構造を導入するためトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の三官能性モノマーや分子量調節のため脂肪酸等の単官能性化合物を少量併用することもできる。
【0027】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂は、上記した通り、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールとを重縮合させたポリブチレンテレフタレート単独重合体が好ましいが、また、カルボン酸単位として、前記のテレフタル酸以外のジカルボン酸1種以上及び/又はジオール単位として、前記1,4-ブタンジオール以外のジオール1種以上を含むポリブチレンテレフタレート共重合体であってもよく、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂が、共重合により変性したポリブチレンテレフタレート樹脂である場合、その具体的な好ましい共重合体としては、ポリアルキレングリコール類、特にはポリテトラメチレングリコールを共重合したポリエステルエーテル樹脂や、ダイマー酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂、イソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂が挙げられる。中でも、ポリテトラメチレングリコールを共重合したポリエステルエーテル樹脂を用いることが好ましい。
なお、これらの共重合体は、共重合量が、ポリブチレンテレフタレート樹脂全セグメント中の1モル%以上、50モル%未満のものをいう。中でも、共重合量が好ましくは2モル%以上50モル%未満、より好ましくは3~40モル%、特に好ましくは5~20モル%である。このような共重合割合とすることにより、流動性、靱性、耐トラッキング性が向上しやすい傾向にあり、好ましい。
【0028】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、0.5~2dl/gであるのが好ましい。固有粘度が0.5dl/gより低いものを用いると、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂材料が機械強度の低いものとなりやすい。また2dl/gより高いものでは、ポリブチレンテレフタレート樹脂材料の流動性が悪くなり成形性が悪化する場合がある。固有粘度は0.8dl/g以上であるものがより好ましく、また1.8dl/g以下であることが好ましい。
なお、固有粘度は、テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定するものとする。
【0029】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂は、末端カルボキシル基量は、適宜選択して決定すればよいが、通常、60eq/ton以下であり、50eq/ton以下であることが好ましく、30eq/ton以下であることがさらに好ましい。60eq/tonを超えると、耐アルカリ性及び耐加水分解性が低下し、また樹脂組成物の溶融成形時にガスが発生しやすくなる。末端カルボキシル基量の下限値は特に定めるものではないが、ポリブチレンテレフタレート樹脂の製造の生産性を考慮し、通常、10eq/tonである。
【0030】
なお、ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、ベンジルアルコール25mLにポリアルキレンテレフタレート樹脂0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/lベンジルアルコール溶液を用いて滴定により測定する値である。末端カルボキシル基量を調整する方法としては、重合時の原料仕込み比、重合温度、減圧方法などの重合条件を調整する方法や、末端封鎖剤を反応させる方法等、従来公知の任意の方法により行えばよい。
【0031】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分又はこれらのエステル誘導体と、1,4-ブタンジオールを主成分とするジオール成分を、回分式又は連続式で溶融重合させて製造することができる。また、溶融重合で低分子量のポリブチレンテレフクタレート樹脂を製造した後、さらに窒素気流下又は減圧下固相重合させることにより、重合度(又は分子量)を所望の値まで高めることもできる。
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と1,4-ブタンジオールを主成分とするジオール成分とを、連続式で溶融重縮合する製造法で得られたものが好ましい。
【0032】
エステル化反応を遂行する際に使用される触媒は、従来から知られているものであってよく、例えば、チタン化合物、錫化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物等を挙げることができる。これらの中で特に好適なものは、チタン化合物である。エステル化触媒としてのチタン化合物の具体例としては、例えば、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等を挙げることができる。
【0033】
[(B)ポリカーボネート樹脂]
本発明において、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と共に(B)ポリカーボネート樹脂を含有する。
ポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物又はこれと少量のポリヒドロキシ化合物を、ホスゲン又は炭酸ジエステルと反応させることによって得られる、分岐していてもよい熱可塑性重合体又は共重合体である。ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)により製造したものを使用することができる。
【0034】
原料のジヒドロキシ化合物は、実質的に臭素原子を含まないものであり、芳香族ジヒドロキシ化合物が好ましい。具体的には、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4-ジヒドロキシジフェニル等が挙げられ、好ましくはビスフェノールAが挙げられる。また、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物を使用することもできる。
【0035】
ポリカーボネート樹脂としては、上述した中でも、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導される芳香族ポリカーボネート樹脂、又は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導される芳香族ポリカーボネート共重合体が好ましい。また、シロキサン構造を有するポリマー又はオリゴマーとの共重合体等の、芳香族ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体であってもよい。更には、上述したポリカーボネート樹脂の2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
ポリカーボネート樹脂の分子量を調節するには、一価の芳香族ヒドロキシ化合物を用いればよく、例えば、m-及びp-メチルフェノール、m-及びp-プロピルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、p-長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。
【0037】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、15000以上であることが好ましく、20000以上であることがより好ましく、さらに好ましくは23000以上、特に好ましくは25000以上、特に28000を超えるものであることが最も好ましい。粘度平均分子量が15000より低いものを用いると、得られる樹脂組成物が耐衝撃性等の機械的強度の低いものとなりやすい。またMvは60000以下であることが好ましく、40000以下であることがより好ましく、35000以下であることがさらに好ましい。60000より高いものでは、樹脂組成物の流動性が悪くなり成形性が悪化する場合がある。
【0038】
なお、本発明において、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、ウベローデ粘度計を用いて、25℃にて、ポリカーボネート樹脂のメチレンクロライド溶液の粘度を測定し極限粘度([η])を求め、次のSchnellの粘度式から算出される値を示す。
[η]=1.23×10-4Mv0.83
【0039】
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、ホスゲン法(界面重合法)及び溶融法(エステル交換法)のいずれの方法で製造したポリカーボネート樹脂も使用することができる。また、溶融法で製造したポリカーボネート樹脂に、末端のOH基量を調整する後処理を施したポリカーボネート樹脂も好ましい。
【0040】
(B)ポリカーボネート樹脂の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂及び(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部基準で、(B)ポリカーボネート樹脂が25質量部以上70質量部未満であり、好ましくは27質量部以上、より好ましくは28質量部以上、さらに好ましくは30質量部以上であり、好ましくは65質量部以下、より好ましくは63質量部以下、さらに好ましくは60質量部以下、中でも55質量部以下、50質量部以下、48質量部以下、46質量部以下が好ましく、特に好ましくは45質量部以下である。(B)ポリカーボネート樹脂の含有量が上記範囲にあることで、耐衝撃性や靭性、耐薬品性、さらに寸法安定性が優れ、流動性・成形性に優れ、前記したモルフォロジーとすることが容易となる。上記下限値を下回ると、耐衝撃性や靭性の改良効果が小さく、さらに、寸法安定性が低下する。また、上記上限値を上回ると流動性が悪くなり成形性が悪化する。さらに後述するモルフォロジーとすることが難しくなりやすく、耐薬品性が低下しやすくなる。
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂及び(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部基準で、30質量部超75質量部以下であり、好ましくは73質量部以下、より好ましくは72質量部以下、さらに好ましくは70質量部以下であり、好ましくは35質量部以上、より好ましくは37質量部以上、さらに好ましくは40質量部以上、中でも45質量部以上、50質量部以上、52質量部以上、54質量部以上が好ましく、特に好ましくは55質量部以上である。
【0041】
[(C)エラストマー]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物成形体において、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、(C)エラストマーを含有する。(C)エラストマーは、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の相(a)及び(B)ポリカーボネート樹脂の相(b)の両方の相に存在するモルフォロジーを形成できるものであれば、いずれの種類でも使用可能である。特に、ポリシロキサンゴムコアとスチレン系シェルを有するコア/シェル型エラストマーが好ましい。ポリシロキサンゴムコアとスチレン系シェルを有するコア/シェル型エラストマーを含有することにより、前記したモルフォロジーを形成しやすくなり、常温及び低温での耐衝撃性、さらに、靱性、耐加水分解性、滞留熱安定性を優れたものとすることができる。以下、(C)エラストマーの好ましい例である、ポリシロキサンゴムコアとスチレン系シェルを有するコア/シェル型エラストマーについて説明する。
【0042】
コア/シェル型エラストマーは、ゴム成分にこれと共重合可能な単量体成分とをグラフト共重合したグラフト共重合体が好ましく、グラフト共重合体の製造方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などのいずれの製造方法であってもよく、共重合の方式は一段グラフトでも多段グラフトであってもよい。
なお、本発明におけるコア/シェル型とは必ずしもコア層とシェル層が明確に区別できるものでなくてもよく、コアとなる部分の周囲にゴム成分をグラフト重合して得られる化合物を広く含む趣旨である。
【0043】
ポリシロキサンゴムコアとスチレン系シェルを有するコア/シェル型エラストマーのコア層を構成するポリシロキサンゴムは、オルガノポリシロキサン等のポリシロキサンゴム(すなわち、シリコーンゴム)であり、アクリル-シリコーン複合ゴムであることも好ましい。
アクリル-シリコーン複合ゴムに用いるアクリル化合物としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸オクチル2-エチルヘキシル等のアクリル酸エステル、またメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸オクチル等のメタクリル酸エステルを好ましく挙げることができ、これらは単独または複数を組み合わせて使用することができる。
【0044】
なお、本発明において、コア/シェル型エラストマーのゴムは、そのガラス転移温度が好ましくは-10℃以下、より好ましくは-30℃以下であるものが好ましい。
【0045】
ポリシロキサンゴムコアとスチレン系シェルを有するコア/シェル型エラストマーのシェル層を構成するスチレン系成分としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、アルコキシスチレン、ハロゲン化スチレン等のスチレン系単量体の重合体であり、またアクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物との共重合体であることも好ましい。
シェル層を構成するスチレン系成分としては、スチレン-アクリロニトリル共重合体が特に好ましい。
【0046】
ポリシロキサンゴムコアとスチレン系シェルを有するコア/シェル型エラストマーにおいて、ポリシロキサンゴム成分は40質量%以上含有するものが好ましく、60質量%以上含有するものがさらに好ましい。
【0047】
コア/シェル型エラストマーの含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対し、3~30質量部である。含有量がこのような範囲にあることで、常温及び低温での耐衝撃性、さらには靱性、耐加水分解性、滞留熱安定性を優れたものとすることができる。含有量は、好ましくは5質量部以上、より好ましくは7質量部以上、さらに好ましくは9質量部以上であり、好ましくは25質量部以下、より好ましくは20質量部以下である。
常温及び低温における耐衝撃性を向上させるために、ポリシロキサンゴムコアとスチレン系シェルを有するコア/シェル型エラストマーは、モルフォロジー観察により、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の相(a)中の断面面積と、(B)ポリカーボネート樹脂の相(b)の断面面積との合計面積100%に対しての、相(a)中の断面面積の面積率(単位:%)が30~70%であることが好ましく、特に40~60%であることが好ましい。
【0048】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、さらに、ポリシロキサンゴムコアとアクリル系シェルを有するコア/シェル型エラストマーを含有することも好ましい。
【0049】
コア層を構成するポリシロキサンゴムは、オルガノポリシロキサン等のポリシロキサンゴム(すなわち、シリコーンゴム)であり、アクリル-シリコーン複合ゴムであることも好ましい。
アクリル-シリコーン複合ゴムに用いるアクリル化合物としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸オクチル2-エチルヘキシル等のアクリル酸エステル、またメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸オクチル等のメタクリル酸エステルを好ましく挙げることができ、これらは単独または複数を組み合わせて使用することができる。
【0050】
シェル層を構成するアクリル系成分のアクリル系化合物としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸オクチル2-エチルヘキシル等のアクリル酸エステル、またメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸オクチル等のメタクリル酸エステルを好ましく挙げることができ、特にメタクリル酸メチルが好ましい。
アクリル系化合物は単独または複数を組み合わせて使用することができる。
【0051】
ポリシロキサンゴム成分は40質量%以上含有するものが好ましく、60質量%以上含有するものがさらに好ましい。
【0052】
ポリシロキサンゴムコアとアクリル系シェルを有するコア/シェル型エラストマーの含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対し、好ましくは3~30質量部である。含有量がこのような範囲にあることで、前記したモルフォロジーを形成しやすくなり、耐衝撃性、特に低温での耐衝撃性をさらに向上させることができ、さらには靱性、耐加水分解性を優れたものとすることができる。含有量は、より好ましくは5質量部以上、さらに好ましくは7質量部以上、特に好ましくは9質量部以上であり、より好ましくは25質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下、中でも15質量部以下、特に10質量部以下が好ましい。
【0053】
[難燃剤(E)]
本発明において、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、難燃剤(E)を含有することが好ましい。
難燃剤としては、既知のプラスチック用難燃剤が使用可能であり、具体的には、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤(ポリリン酸メラミン等)、窒素系難燃剤(シアヌル酸メラミン等)、金属水酸化物(水酸化マグネシウム等)である。
ハロゲン系難燃剤としては、臭素系難燃剤がより好ましい。
【0054】
臭素系難燃剤としては、従来公知の任意の、熱可塑性樹脂に使用される臭素系難燃剤を用いることが出来る。このような臭素系難燃性としては、芳香族系化合物が挙げられ、具体的には例えば、ペンタブロモベンジルポリアクリレート等のポリ臭素化ベンジル(メタ)アクリレート、ポリブロモフェニレンエーテル、臭素化ポリスチレン、テトラブロモビスフェノールAのエポキシオリゴマー等の臭素化エポキシ化合物、N,N’-エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)(EBTPI)等の臭素化イミド化合物、臭素化ポリカーボネート等が挙げられる。
【0055】
中でも熱安定性の良好な点より、ペンタブロモベンジルポリアクリレート等のポリブロモ化ベンジル(メタ)アクリレート、テトラブロモビスフェノールAのエポキシオリゴマー等の臭素化エポキシ化合物、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリカーボネートが好ましく、特に臭素化ポリカーボネートが耐衝撃性、難燃性の点から好ましい。
【0056】
臭素化ポリカーボネート系難燃剤としては、具体的には例えば、臭素化ビスフェノールA、特にテトラブロモビスフェノールAから得られる、臭素化ポリカーボネートであることが好ましい。その末端構造は、フェニル基、4-t-ブチルフェニル基や2,4,6-トリブロモフェニル基等が挙げられ、特に、末端基構造に2,4,6-トリブロモフェニル基を有するものが好ましい。
【0057】
臭素化ポリカーボネート系難燃剤における、カーボネート繰り返し単位数の平均は適宜選択して決定すればよいが、通常、2~30である。カーボネート繰り返し単位数の平均が小さいと、溶融時に(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の分子量低下を引き起こす場合がある。逆に大きすぎても(B)ポリカーボネート樹脂の溶融粘度が高くなり、成形体内の分散不良を引き起こし、成形体外観、特に光沢性が低下する場合がある。よってこの繰り返し単位数の平均は、中でも3~15、特に3~10であることが好ましい。
【0058】
臭素化ポリカーボネート系難燃剤の分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、好ましくは、粘度平均分子量で1000~20000、中でも2000~10000であることが好ましい。なお、臭素化ポリカーボネート系難燃剤の粘度平均分子量は、(B)ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量の測定と同様の方法で求めることができる。
【0059】
上記臭素化ビスフェノールAから得られる臭素化ポリカーボネート系難燃剤は、例えば、臭素化ビスフェノールとホスゲンとを反応させる通常の方法で得ることができる。末端封鎖剤としては芳香族モノヒドロキシ化合物が挙げられ、これはハロゲン又は有機基で置換されていてもよい。
【0060】
ポリ臭素化ベンジル(メタ)アクリレートとしては、臭素原子を含有するベンジル(メタ)アクリレートを単独で重合、又は2種以上を共重合、もしくは他のビニル系モノマーと共重合させることによって得られる重合体であることが好ましく、該臭素原子は、ベンゼン環に付加しており、付加数はベンゼン環1個あたり1~5個、中でも4~5個付加したものであることが好ましい。
【0061】
該臭素原子を含有するベンジルアクリレートとしては、ペンタブロムベンジルアクリレート、テトラブロムベンジルアクリレート、トリブロムベンジルアクリレート、又はそれらの混合物等が挙げられる。また、臭素原子を含有するベンジルメタクリレートとしては、上記したアクリレートに対応するメタクリレートが挙げられる。
【0062】
臭素原子を含有するベンジル(メタ)アクリレートと共重合させるために使用される他のビニル系モノマーとしては、具体的には例えば、アクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ベンジルアクリレートのようなアクリル酸エステル類;メタクリル酸、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ベンジルメタクリレートのようなメタクリル酸エステル類;スチレン、アクリロニトリル、フマル酸、マレイン酸のような不飽和カルボン酸又はその無水物;酢酸ビニル、塩化ビニル、等が挙げられる。
【0063】
これらは通常、臭素原子を含有するベンジル(メタ)アクリレートに対して等モル量以下、中でも0.5倍モル量以下が用いることが好ましい。
【0064】
また、ビニル系モノマーとしては、キシレンジアクリレート、キシレンジメタクリレート、テトラブロムキシレンジアクリレート、テトラブロムキシレンジメタクリレート、ブタジエン、イソプレン、ジビニルベンゼン等を使用することもでき、これらは通常、臭素原子を含有するベンジルアクリレート又はベンジルメタクリレートに対し、0.5倍モル量以下が使用できる。
【0065】
該ポリブロム化ベンジル(メタ)アクリレートとしては、ペンタブロモベンジルポリアクリレートが、高臭素含有量であること、電気絶縁特性(耐トラッキング特性)が高い観点で好ましい。
【0066】
臭素化エポキシ化合物としては、具体的には、テトラブロモビスフェノールAエポキシ化合物に代表されるビスフェノールA型ブロモ化エポキシ化合物が挙げられる。
【0067】
臭素化エポキシ化合物の分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、好ましくは、質量平均分子量(Mw)で3000~100000であり、中でも分子量が高い方が好ましく、具体的にはMwとして15000~80000、中でも18000~78000(Mw)、更には20000~75000(Mw)、特に22000~70000であることが好ましく、この範囲内に於いても分子量の高いものが好ましい。
臭素化エポキシ化合物は、そのエポキシ当量が3000~40000g/eqであることが好ましく、中でも4000~35000g/eqが好ましく、特に10000~30000g/eqであることが好ましい。
【0068】
また、臭素化エポキシ化合物系難燃剤として臭素化エポキシオリゴマーを併用することもできる。この際、例えばMwが5000以下のオリゴマーを0~50質量%程度用いることで、難燃性、離型性および流動性を適宜調整することができる。臭素化エポキシ化合物における臭素原子含有量は任意だが、十分な難燃性を付与する上で、通常10質量%以上であり、中でも20質量%以上、特に30質量%以上であることが好ましく、その上限は60質量%、中でも55質量%以下であることが好ましい。
【0069】
難燃剤の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂及び(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対し、好ましくは3~30質量部であり、より好ましくは7質量部以上であり、さらに好ましくは10質量部以上であり、より好ましくは25質量部以下であり、さらに好ましくは20質量部以下である。難燃剤の含有量が少なすぎると本発明に用いる樹脂組成物の難燃性が不十分となり、逆に多すぎても機械的特性、離型性の低下や難燃剤のブリードアウトの問題が生ずる。
【0070】
[アンチモン化合物]
本発明において、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、難燃剤助剤であるアンチモン化合物を含有することが好ましい。
アンチモン化合物としては、三酸化アンチモン(Sb2O3)、五酸化アンチモン(Sb2O5)およびアンチモン酸ナトリウムが好ましい例として挙げられる。これらの中でも、耐衝撃性の点から三酸化アンチモンが好ましい。
【0071】
アンチモン化合物は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂とのマスターバッチとして配合することが好ましい。これにより、アンチモン化合物が(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂相に存在しやすくなり、(B)ポリカーボネート樹脂に対する悪影響が抑制でき、耐衝撃性の低下が抑えられる傾向となる。
マスターバッチ中のアンチモン化合物の含有量は20~90質量%であることが好ましい。アンチモン化合物が20質量%未満の場合は、難燃剤マスターバッチ中のアンチモン化合物の割合が少なく、これを配合するポリブチレンテレフタレート樹脂への難燃性向上効果が小さい。一方、アンチモン化合物が90質量%を超える場合は、アンチモン化合物の分散性が低下しやすく、これをポリブチレンテレフタレート樹脂に配合すると樹脂組成物の難燃性が不安定になり、また難燃剤マスターバッチ製造時の作業性も著しく低下する、例えば、押出機を使用して製造する際に、ストランドが安定せず、切れやすい等の問題が発生しやすいため好ましくない。
マスターバッチ中のアンチモン化合物の含有量は、好ましくは30~85質量%であり、より好ましくは40~80質量%、さらに好ましくは50~75質量%である。
【0072】
アンチモン化合物の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂及び(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対し、好ましくは1~15質量部であり、より好ましくは2質量部以上、さらに好ましくは2.5質量部以上であり、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは7質量部以下、なかでも6質量部以下、特に好ましくは5質量部以下である。上記下限値を下回ると難燃性が低下しやすく、上記上限値を上回ると、結晶化温度が低下し離型性が悪化したり、耐衝撃性等の機械的物性が低下する。
【0073】
[滴下防止剤]
本発明において、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、滴下防止剤を含有することも好ましい。
滴下防止剤としては、フルオロポリマーが好ましい。フルオロポリマーとしては、フッ素を有する公知のポリマーを任意に選択して使用できるが、中でもフルオロオレフィン樹脂が好ましい。
フルオロオレフィン樹脂としては、例えば、フルオロエチレン構造を含む重合体や共重合体が挙げられる。その具体例を挙げると、ジフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合樹脂等が挙げられる。中でもテトラフルオロエチレン樹脂等が好ましい。このフルオロエチレン樹脂としては、フィブリル形成能を有するテトラフルオロエチレン樹脂が好ましい。
【0074】
また、フルオロエチレン樹脂の水性分散液や、さらに、ビニル系単量体を重合してなる多層構造を有するフルオロエチレン重合体も、フルオロポリマーとして使用することができる。
【0075】
滴下防止剤の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂及び(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対し、0.05~1質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.12質量部以上、特に好ましくは0.15質量部以上であり、より好ましくは0.6質量部以下、さらに好ましくは0.45質量部以下、特に好ましくは0.35質量部以下である。滴下防止剤の含有量が少なすぎると、樹脂組成物の難燃性が不十分となる可能性があり、逆に多すぎても樹脂組成物の成形品の外観不良や機械的強度の低下が生じる可能性がある。
【0076】
[顔料]
本発明において、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、着色性、耐候性改良のために、さらに顔料を含有することも好ましい。顔料としては、例えば、無機顔料(カーボンブラック、例えば、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック等)等の黒色顔料、酸化チタン等の白色顔料、酸化鉄赤等の赤色顔料、モリブデートオレンジ等の橙色顔料、有機顔料(黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、緑色顔料等)等が挙げられる。なかでも、着色性、耐候性の点から、カーボンブラックが好ましく、耐衝撃性、難燃性、耐加水分解性の点から酸化チタンを配合することが好ましい。
酸化チタンを含有することにより、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の結晶化が適度に遅延し、より高い耐衝撃性を達成でき、また難燃性もより向上する。
【0077】
用いられる酸化チタンは、製造方法、結晶形態および平均粒子径などは、特に限定されるものではない。酸化チタンの製造方法には硫酸法および塩素法があるが、硫酸法で製造された酸化チタンは、これを添加した組成物の白度が劣る傾向があるため、本発明の目的を効果的に達成するには、塩素法で製造されたものが好適である。
【0078】
また、酸化チタンの結晶形態には、ルチル型とアナターゼ型があるが、耐光性の観点からルチル型の結晶形態のものが好適である。酸化チタンの平均粒子径は、0.01~3μmであることが好ましく、0.05~1μmであることがより好ましく、0.1~0.7μmであることがさらに好ましく、特に好ましくは0.1~0.4μmである。平均粒子径が0.01μm未満では樹脂組成物製造時の作業性に劣り、3μmを超える場合は、成形品表面に肌荒れを起こしたり、成形品の機械的強度が低下したりしやすい。なお、平均粒子径の異なる酸化チタンを2種類以上混合して使用してもよい。
【0079】
酸化チタンは、オルガノシロキサン系の表面処理剤で表面処理することが好ましい。
【0080】
顔料の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂及び(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対して、好ましくは、0.05~10質量部である。0.05質量部未満であると、所望の色が得られなかったり、耐候性改良効果が十分でない場合があり、10質量部を超えると機械的物性が低下する場合がある。顔料の含有量は、より好ましくは0.05~7質量部、さらに好ましくは0.1~5質量部である。
酸化チタンの好ましい含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対し、0.05~10質量部であり、より好ましくは0.05~7質量部、さらに好ましくは0.1~5質量部である。
【0081】
[安定剤]
本発明において、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、安定剤を含有することが、熱安定性改良や、機械的強度、透明性や色相の悪化を防止する効果を有するという点で好ましい。安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0082】
安定剤の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂及び(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対し、好ましくは0.001~2質量部である。安定剤の含有量が0.001質量部未満であると、樹脂組成物の熱安定性や相溶性の改良が期待しにくく、成形時の分子量の低下や色相悪化が起こりやすく、2質量部を超えると、過剰量となりシルバーの発生や、色相悪化が更に起こりやすくなる傾向がある。安定剤の含有量は、より好ましくは0.001~1.5質量部であり、更に好ましくは、0.005~1.0質量部である。
【0083】
安定剤としては、リン系安定剤およびフェノール系安定剤が好ましい。特に、両者を併用するのが、耐衝撃性等の機械的特性が良好となる傾向にあり好ましい。
【0084】
リン系安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル、リン酸エステル等が挙げられ、中でも有機リン酸エステル化合物が好ましい。
【0085】
有機リン酸エステル化合物は、リン原子にアルコキシ基又はアリールオキシ基が1~3個結合した部分構造を有するものである。なお、これらのアルコキシ基やアリールオキシ基には、さらに置換基が結合していてもよい。好ましくは、下記一般式(1)~(5)のいずれかで表される有機リン酸エステル化合物を用いる。有機リン酸エステル化合物は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0086】
【化1】
一般式(1)中、R
1~R
4は、それぞれ独立して、アルキル基又はアリール基を表す。Mはアルカリ土類金属又は亜鉛を表す。
【0087】
【化2】
一般式(2)中、R
5はアルキル基又はアリール基を表し、Mはアルカリ土類金属又は亜鉛を表す。
【0088】
【化3】
一般式(3)中、R
6~R
11は、それぞれ独立して、アルキル基又はアリール基を表す。M’は3価の金属イオンとなる金属原子を表す。
【0089】
【化4】
一般式(4)中、R
12~R
14は、それぞれ独立して、アルキル基又はアリール基を表す。M’は3価の金属イオンとなる金属原子を表し、2つのM’はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0090】
【化5】
一般式(5)中、R
15はアルキル基又はアリール基を表す。nは0~2の整数を表す。なお、nが0のとき3つのR
15は同一でも異なっていてもよく、nが1のとき2つのR
15は同一でも異なっていてもよい。
【0091】
一般式(1)~(5)中、R1~R15は、通常は炭素数1~30のアルキル基又は炭素数6~30のアリール基である。滞留熱安定性、耐薬品性、耐湿熱性等の観点からは、炭素数2~25のアルキル基であるのが好ましく、更には炭素数6~23のアルキル基であるのが最も好ましい。アルキル基としては、オクチル基、2-エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。また、一般式(1)、(2)のMは亜鉛であるのが好ましく、一般式(3)、(4)のM’はアルミニウムであるのが好ましい。
【0092】
有機リン酸エステル化合物の好ましい具体例としては一般式(1)の化合物としてはビス(ジステアリルアシッドホスフェート)亜鉛塩、一般式(2)の化合物としてはモノステアリルアシッドホスフェート亜鉛塩、一般式(3)の化合物としてはトリス(ジステアリルアッシドホスフェート)アルミニウム塩、一般式(4)の化合物としては1個のモノステアリルアッシドホスフェートと2個のモノステアリルアッシドホスフェートアルミニウム塩との塩、一般式(5)の化合物としてはモノステアリルアシッドホスフェートやジステアリルアシッドホスフェート等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、また混合物として用いてもよい。
【0093】
有機リン酸エステル化合物としては、エステル交換抑制効果が非常に高く、成形加工時の熱安定性がよく成形性に優れ、射出成形機での計量部の設定温度を高めに設定することが可能となって成形が安定すること、また耐加水分解性、耐衝撃性が優れる観点から、前記一般式(1)で表される有機リン酸エステル化合物の亜鉛塩であるビス(ジステアリルアシッドホスフェート)亜鉛塩、前記一般式(2)で表される有機リン酸エステル化合物の亜鉛塩であるモノステアリルアシッドホスフェート亜鉛塩等のステアリルアシッドホスフェートの亜鉛塩を用いるのが好ましい。これらの市販のものとしては、城北化学工業製「JP-518Zn」等がある。
【0094】
有機リン酸エステル化合物の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂及び(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対し、好ましくは0.001~1質量部である。含有量が0.001質量部未満であると、樹脂組成物の熱安定性や相溶性の改良が期待しにくく、成形時の分子量の低下や色相悪化が起こりやすく、1質量部を超えると、過剰量となりシルバーの発生や、色相悪化が更に起こりやすくなる傾向がある。有機リン酸エステル化合物の含有量は、より好ましくは0.01~0.8質量部であり、更に好ましくは、0.05~0.7質量部、特に好ましくは0.1~0.5質量部である。
【0095】
フェノール系安定剤としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-ネオペンチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)等が挙げられる。これらの中でも、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。
【0096】
フェノール系安定剤の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂及び(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対し、好ましくは0.001~1質量部である。含有量が0.001質量部未満であると、樹脂組成物の熱安定性や相溶性の改良が期待しにくく、成形時の分子量の低下や色相悪化が起こりやすく、1質量部を超えると、過剰量となりシルバーの発生や、色相悪化が更に起こりやすくなる傾向がある。フェノール系安定剤の含有量は、より好ましくは0.001~0.7質量部であり、更に好ましくは、0.005~0.5質量部である。
【0097】
[離型剤]
本発明において、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、離型剤を含有することが好ましい。離型剤としては、ポリエステル樹脂に通常使用される既知の離型剤が利用可能であるが、中でも、耐アルカリ性が良好な点で、ポリオレフィン系化合物、脂肪酸エステル系化合物が好ましく、特に、ポリオレフィン系化合物が好ましい。
【0098】
ポリオレフィン系化合物としては、パラフィンワックス及びポリエチレンワックスから選ばれる化合物が挙げられ、中でも、重量平均分子量が、700~10000、更には900~8000のものが好ましい。
【0099】
脂肪酸エステル系化合物としては、飽和又は不飽和の1価又は2価の脂肪族カルボン酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類等の脂肪酸エステル類やその部分鹸化物等が挙げられる。中でも、炭素数11~28、好ましくは炭素数17~21の脂肪酸とアルコールで構成されるモノ又はジ脂肪酸エステルが好ましい。
【0100】
脂肪酸としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸等が挙げられる。また、脂肪酸は、脂環式であってもよい。
【0101】
アルコールとしては、飽和又は不飽和の1価又は多価アルコールを挙げることができる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の1価又は多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和1価アルコール又は多価アルコールが更に好ましい。ここで脂肪族とは、脂環式化合物も含有する。
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2-ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0102】
なお、上記のエステル化合物は、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよく、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0103】
脂肪酸エステル系化合物の具体例としては、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンジベヘネート、グリセリン-12-ヒドロキシモノステアレート、ソルビタンモノベヘネート、ぺンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ステアリルステアレート、エチレングリコールモンタン酸エステル等が挙げられる。
【0104】
離型剤の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対して、好ましくは0.1~3質量部であるが、0.2~2.5質量部であることがより好ましく、更に好ましくは0.5~2質量部である。0.1質量部未満であると、溶融成形時の離型不良により表面性が低下しやすく、一方、3質量部を超えると、樹脂組成物の練り込み作業性が低下しやすく、また成形体の外観が悪化しやすい。
【0105】
[その他成分]
本発明において、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、必要に応じて本発明の効果を阻害しない範囲内で、上記した以外の他の樹脂添加剤を含有することもできる。他の樹脂添加剤としては、強化充填材、滴下防止剤、紫外線吸収剤、耐候安定剤、滑剤、触媒失活剤、帯電防止剤、発泡剤、可塑剤、結晶核剤、結晶化促進剤等が挙げられる。
【0106】
本発明において、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、必要に応じて本発明の効果を阻害しない範囲内で、前記した必須成分の樹脂以外の、他の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等を含有することができる。他の熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられ、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、1種でも2種類以上であってもよい。
【0107】
ただし、前記した必須成分の樹脂以外の、他の樹脂を含有する場合の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂及び(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対し、40質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは30質量部以下、さらには20質量部以下、中でも10質量部以下、特には5質量部以下、2質量部以下とすることが最も好ましい。
【0108】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造]
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を製造するには、特定の方法に限定されるものではないが、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(B)ポリカーボネート樹脂及び(C)エラストマー、並び必要に応じて配合されるその他成分を混合し、次いで溶融・混練する。
【0109】
溶融・混練方法としては、例えば、前記した必須成分、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分をヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダー、タンブラー等により均一に混合した後、一軸又は多軸混練押出機、ロール、バンバリーミキサー、ラボプラストミル(ブラベンダー)等で溶融・混練する方法が挙げられる。本発明のモルフォロジー構造を形成しやすい点から二軸押出機で溶融・混練することが好ましい。溶融・混練する際の温度は200~300℃の範囲が好ましく、本発明のモルフォロジー構造を形成しやすい点から220~280℃の範囲がより好ましい。
【0110】
[成形体]
上記したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いて成形体を製造する方法は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用でき、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法等が挙げられるが、射出成形法が特に好ましい。
【0111】
得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物成形体は、前記したように(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の相(a)及び(B)ポリカーボネート樹脂の相(b)を有し、(C)エラストマーが相(a)及び相(b)の両方の相に存在する海島構造を有し、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の相(a)がマトリックス相を形成し、(B)ポリカーボネート樹脂の相(b)が島状に存在する海島構造を有するモルフォロジーを有する。
【0112】
また、樹脂組成物成形体が、好ましくは(C)エラストマーがポリシロキサンゴムコアとスチレン系シェルを有するコア/シェル型エラストマーであることで、相(a)及び相(b)の両方の相に存在して(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂及び(B)ポリカーボネート樹脂の耐衝撃性の補強効果が著しく発現し、-30℃というような極低温時においても優れた耐衝撃性を向上させることができる。
さらにポリシロキサンゴムコアとアクリル系シェルを有するコア/シェル型エラストマーを含有する際には、ポリシロキサンゴムコアとスチレン系シェルを有するコア/シェル型エラストマーが(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂相(a)及び(B)ポリカーボネート樹脂相(b)の両方に存在し、ポリシロキサンゴムコアとアクリル系シェルを有するコア/シェル型エラストマーはポリカーボネート樹脂の相(b)にのみ存在することで、(B)ポリカーボネート樹脂の耐衝撃性の補強効果がより発現することで、さらに低温時の耐衝撃性を向上させることができる。
【0113】
前記した通り、
図1中、濃い灰色部分が(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の相(a)であり、相(a)がマトリックス相を形成し、相(a)より薄い灰色の層が(B)ポリカーボネート樹脂の相(b)であり、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の相(a)の海に島状に存在して、海島構造を形成しているのが分かる。
その薄い灰色のポリカーボネート樹脂相(b)中に、
図1中、実線の丸で示した粒子状に存在しているのがポリシロキサンゴムコアとスチレン系シェルを有するコア/シェル型エラストマーであり、ポリカーボネート樹脂相(b)中に存在していることが分かる。また、
図1中、矢印で示したのがポリシロキサンゴムコアとスチレン系シェルを有するコア/シェル型エラストマーの相であり、ポリブチレンテレフタレート樹脂相(a)のマトリックス相中に粒子状に存在していることが分かる。
さらに、
図1中、破線の丸がポリシロキサンゴムコアとアクリル系シェルを有するコア/シェル型エラストマーであり、ポリカーボネート樹脂相(b)中にのみ存在していることが分かる。
【0114】
また、前記した通り、
図2中、濃い灰色部分が(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の相(a)であり、相(a)がマトリックス相を形成し、相(a)より薄い灰色の層が(B)ポリカーボネート樹脂の相(b)であり、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の相(a)の海に島状に存在して、海島構造を形成している。
そして、その薄い灰色のポリカーボネート樹脂相(b)中に、
図2中、実線の丸で示した粒子状に存在しているのがポリシロキサンゴムコアとスチレン系シェルを有するコア/シェル型エラストマーであり、ポリカーボネート樹脂相(b)中に存在していることが分かる。また、
図2中、矢印で示したのがポリシロキサンゴムコアとスチレン系シェルを有するコア/シェル型エラストマーの相であり、ポリブチレンテレフタレート樹脂相(a)のマトリックス相中に粒子状に存在していることが分かる。
【0115】
図3は、比較例2で得られた成形体のコア部のSEM写真である。
図3中、濃い灰色部分が(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の相(a)であり、マトリックス相を形成していることが分かる。相(a)より薄い灰色の層が(B)ポリカーボネート樹脂の相(b)であり、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の相(a)の海に島状に存在して、海島構造を形成している。
その薄い灰色のポリカーボネート樹脂相(b)中に、
図3中、破線の丸で示した真っ黒の相がポリシロキサン-アクリレート系コアとアクリレート系シェルを有するコア/シェル型エラストマーであり、ポリカーボネート樹脂相(b)中にのみ存在し、ポリブチレンテレフタレート樹脂相(a)のマトリックス相中には粒子状に存在していないことが分かる。
【0116】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物成形体は、低温時および常温時の耐衝撃性、靱性、難燃性、流動性、表面外観性、耐加水分解性に優れる。ここでいう成形体としては、射出成形体、押出成形体、シート、パイプ、各種フィルム等が挙げられる。これら成形体の形状、大きさ、厚み等は任意である。
【0117】
成形体としては、電気電子部品、自動車部品その他の電装部品、機械部品、調理器具等の家電製品の部品として、例えば、電気自動車用充電器コネクター、電池キャパシタ用ホルダー、電池キャパシタ用筐体あるいは電気自動車用充電スタンド用筺体、電子電気機器部品の筐体、コネクター、リレー、スイッチ、センサー、アクチュエーター、ターミナルスイッチ、炊飯器関連部品、グリル調理機器部品等に好適に使用できる。特には電気自動車用充電器コネクター、電池キャパシタ用ホルダー、電池キャパシタ用筐体あるいは電気自動車用充電スタンド用筺体として好適に使用でき、特にこれらが-30℃のような低温環境で使用される場合に好適である。
【実施例0118】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の記載例に限定して解釈されるものではない。
実施例及び比較例で使用した原料成分は、下記の表1の通りである。
【0119】
【0120】
〔実施例1~7、比較例1~4〕
<ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造>
表1に記載の各成分を、下記の表2に示される割合(全て質量部)にて、ブレンドし、これを30mmのベントタイプ二軸押出機(日本製鋼所社製、二軸押出機TEX30α)を使用して、バレル温度270℃にて溶融混練し、ストランドに押し出した後、ストランドカッターによりペレット化し、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを得た。
次いで得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを、熱風乾燥機を使用して120℃で8時間乾燥させ、縦100mm×横100mm×厚さ3mmの平板を、射出成形機(日精樹脂工業社製「NEX80」)にて、フィルムゲート金型を用い、シリンダー温度260℃、金型温度80℃、冷却時間20秒、充填時間1.0秒、射出ピーク圧の5割の値を保圧値とする条件で、射出成形した。
【0121】
<測定評価方法>
実施例及び比較例における各種の物性・性能の測定評価は、以下の方法により実施した。
【0122】
[モルフォロジー観察]
上記で得られた平板の縦50mm、横50mmの位置にあって、厚さが1.5mmである中心点を含む、成形時の流動方向に平行な断面から、Leica社製「UC7」を用い、ダイヤモンドナイフにて、観察面が縦500μm×横500μm、厚み約1cmのブロック形状の試料を切り出した。得られた試料の観察面を四酸化ルテニウムで、気相、室温にて120分染色後、走査電子顕微鏡(日立ハイテク社製、「SU8020」)を用い、加速電圧1kV、信号LA100(U)、エミッション電流10μA、プローブ電流:Normalの条件で、倍率30000倍のSEM画像を取得した。
得られたSEM画像から、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂相(a)、(B)ポリカーボネート樹脂相(b)、(C)エラストマーのモルフォロジーを観察し、各エラストマーがどの相に存在しているかを確認した。
【0123】
また、加速電圧1kV、信号LA100(U)、エミッション電流10μA、プローブ電流:Normalの条件で倍率10000倍のSEM画像を取得し、その画像に対して、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂相(a)中のエラストマー及び(B)ポリカーボネート樹脂相(b)中のエラストマーを2値化処理し、区別した。画像処理は、株式会社日本ローパー製「Image Pro Plus」を用いた。
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂相(a)中のエラストマーC1の断面面積の合計Sa1および、(B)ポリカーボネート樹脂相(b)中のエラストマーC1の断面面積の合計Sa2を求め、Sa1とSa2の合計面積100%に対するSa1の面積率(単位:%)「Sa」を算出した。また、Saをポリブチレンテレフタレート樹脂の質量部「W」で除した値を算出した。Sa/Wは、0.75~1.30であることが好ましく、0.75~1.20であることがより好ましく、0.75~1.10であることがさらに好ましい。上記範囲であると、常温および低温でのノッチ付きシャルピーの双方が向上する。
更に、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂相(a)中の全エラストマーの断面面積の合計Sb1および、(B)ポリカーボネート樹脂相(b)中の全エラストマーの断面面積の合計Sb2を求め、Sb1とSb2の合計面積100%に対するSb1の面積率(単位:%)「Sb」を算出した。また、Sbをポリブチレンテレフタレート樹脂の質量部「W」で除した値を算出した。Sb/Wは、0.35~0.90であることが好ましい。上記範囲であると、常温および低温でのノッチ付きシャルピーの双方が向上する。
Sa,Sa/W,Sb及びSb/Wを表2に記載した。
【0124】
[耐衝撃性 ノッチ付シャルピー衝撃強度(単位:kJ/m2)]
得られたペレットを120℃で6時間乾燥後、日精樹脂工業社製射出成形機「NEX80-9E」を使用して、シリンダー温度250℃、金型温度80℃の条件で、シャルピー衝撃強度測定用ISO試験片を成形し、ISO179に準拠して、常温時(23℃)と、低温時(-30℃)でのノッチ付シャルピー衝撃強度を測定した。
【0125】
[燃焼性 UL94(1.5mmt)]
得られたペレットを、射出成形機(日精樹脂工業社製「NEX80」)にて、シリンダー温度250℃、金型温度80℃の条件で、12.5mm×125mm×1.5mm厚みの燃焼試験片を射出成形した。
難燃性の評価を、以下のようにして行った。
アンダーライターズ・ラボラトリーズのサブジェクト94(UL94)の方法に準じ、上記で得られた燃焼試験片(厚み1.5mm)5本を用いて、燃焼性を試験し、V-0、V-1、V-2及び不適合に分類した。
燃焼試験片5本の1回目の10秒間の接炎後の燃焼時間t1(秒)の平均秒数を求めた。
【0126】
[流動特性 スパイラル流動長(単位:mm)]
流動性の評価として、樹脂組成物のスパイラルフロー流動長を測定した。
得られたペレットを用い、射出成形機(ファナック社製「α100iA型」)を使用して、シリンダー温度250℃、金型温調機設定温度80℃、射出圧力168MPa、射出時間2sec、冷却7sec、サックバック1mmの条件で、樹脂を注入して成形し、
図4に示すようなスパイラル状成形品を得、得られた成形品の長さをスパイラル流動長(mm)として測定した。
評価したスパイラル状成形品の形状は、縦105mm、横90mm、断面の肉厚1.0mmで幅5mm(ゲート部は肉厚1.0mm、幅1.5mm)であり、長尺状樹脂成形品であり、渦巻き状となったものである。
このスパイラルフロー長さは、数値が大きいほど、流動性に優れることを表している。
【0127】
[総合評価]
以上の結果を基に、以下の基準A~Dにより、総合評価を行った。
総合評価A:
シャルピー衝撃強度が常温時50kJ/m2以上で-30℃時15kJ/m2以上、UL94がV-0、且つt1燃焼平均時間が3秒以下、スパイラル流動長が100mm以上
総合評価B:
シャルピー衝撃強度が常温時50kJ/m2以上で-30℃時15kJ/m2以上、UL94がV-0、且つt1燃焼平均時間が3秒以下、スパイラル流動長が100mm未満
総合評価C:
シャルピー衝撃強度が常温時50kJ/m2以上で-30℃時15kJ/m2以上、UL94がV-0、且つt1燃焼平均時間が3秒超
総合評価D:
シャルピー衝撃強度が常温時50kJ/m2以上で-30℃時15kJ/m2未満、UL94がV-0、且つt1燃焼平均時間が3秒超
総合評価 E:
シャルピー衝撃強度が常温時50kJ/m2未満で-30℃時15kJ/m2未満
結果を以下の表2に示す。
【0128】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物成形体及び樹脂組成物は、耐衝撃性、靱性、流動性、表面外観性、耐加水分解性、難燃性に優れるので、各種の電気電子機器部品、自動車用部品、その他の電装部品、機械部品、調理器具等の家電製品用として、特に、電気自動車用充電器コネクター、電池キャパシタ用ホルダー、電池キャパシタ用筐体あるいは電気自動車用充電スタンド用筺体に、特にこれらが-30℃のような低温環境で使用される場合にも好適であり、産業上の利用性は非常に高いものがある。