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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174192
(43)【公開日】2022-11-22
(54)【発明の名称】多重ベクターシステム及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/85 20060101AFI20221115BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20221115BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20221115BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20221115BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20221115BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20221115BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221115BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221115BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221115BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20221115BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20221115BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20221115BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20221115BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20221115BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20221115BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20221115BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20221115BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20221115BHJP
【FI】
C12N15/85 Z ZNA
C12N15/12
C12N15/861 Z
C12N15/864 100Z
C12N7/01
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/62 Z
A61K35/76
A61P27/02
A61P21/00
A61P11/00
A61P7/00
A61K48/00
A61K35/12
A61K35/761
【審査請求】有
【請求項の数】36
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142232
(22)【出願日】2022-09-07
(62)【分割の表示】P 2017546224の分割
【原出願日】2016-03-03
(31)【優先権主張番号】62/127,463
(32)【優先日】2015-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】511197958
【氏名又は名称】フォンダッツィオーネ・テレソン
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】パスクアリーナ・コレッラ
(72)【発明者】
【氏名】アルベルト・アウリッキオ
(72)【発明者】
【氏名】イヴァーナ・トラーパニ
(57)【要約】
【課題】ITRの低いプロモーター活性に起因するプロモーター配列を含む5'-半ベクターから及び/又は3'-半ベクターからの短縮型タンパク質産物の産生14,17,20,21は、依然として二重ベクターの使用に関連する主要な問題として残っている。これらの短縮型産物のin vivoでの有害な影響の可能性を評価ための正式な毒性試験は、これまで実施されておらず、したがって、安全性の懸念が提起される。したがって、それらの産生の低減又は撤廃が極めて望ましい。したがって、本発明は、二重ベクターシステムの使用に関連するこの主要問題を解決することを目的とする。
【解決手段】本発明は、とりわけ5Kbより大きい遺伝子の有効な遺伝子治療を可能にする構築物、ベクター、関連宿主細胞及び医薬組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞中の目的の遺伝子のコード配列を発現させるためのベクターシステムであって、前記コード配列が第1の部分及び第2の部分を含み、前記ベクターシステムが、
c)
- 前記コード配列の前記第1の部分(CDS1)、
- 第1の再構成配列
を含む第1のベクターと、
d)
- 前記コード配列の前記第2の部分(CDS2)、
- 第2の再構成配列
を含む第2のベクターと
を含み、
前記第1及び第2の再構成配列が、
i]第1の再構成配列はコード配列の前記第1の部分の3'末端からなり、第2の再構成配列はコード配列の前記第2の部分の5'末端からなり、第1及び第2の再構成配列がオーバーラップ配列であること;又は
ii]第1の再構成配列はスプライシングドナーシグナル(SD)を含み、第2の再構成配列はスプライシングアクセプターシグナル(SA)を含み、任意選択で第1及び第2の再構成配列のそれぞれが組換え遺伝子配列を更に含むこと
からなる群から選択される、ベクターシステムにおいて、
第1及び第2のベクターのいずれか一方又は両方が分解シグナルのヌクレオチド配列を更に含み、前記配列が、i)の場合はCDS1の3'末端及び/又はCDS2の5'末端に位置し、ii)の場合はSDに対して3'側の位置及び/又はSAに対して5'側の位置にあることを特徴とする、ベクターシステム。
【請求項2】
第1及び第2のベクターの両方が分解シグナルの前記ヌクレオチド配列を更に含み、第1のベクターにおける分解シグナルのヌクレオチド配列が第2のベクターにおける分解シグナルのヌクレオチド配列と同一又は異なる、請求項1に記載のベクターシステム。
【請求項3】
第1の再構成配列が、スプライシングドナーシグナル(SD)及び前記SDに対して3'側の位置にある組換え遺伝子領域を含み、第2の再構成配列が、スプライシングアクセプターシグナル(SA)及びSAに対して5'側の位置にある組換え遺伝子配列を含み、分解シグナルの前記ヌクレオチド配列が、第1及び第2のベクターの一方又は両方の組換え遺伝子領域のヌクレオチド配列の5'末端及び/又は3'末端に局在する、請求項1又は2に記載のベクターシステム。
【請求項4】
分解シグナルのヌクレオチド配列が、1つ若しくは複数のタンパク質ユビキチン化シグナル、1つ若しくは複数のマイクロRNA標的配列、及び/又は1つ若しくは複数の人工終止コドンから選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載のベクターシステム。
【請求項5】
分解シグナルのヌクレオチド配列が、CL1配列番号1、CL2配列番号2、CL6配列番号3、CL9配列番号4、CL10配列番号5、CL11配列番号6、CL12配列番号7、CL15配列番号8、CL16配列番号9、SL17配列番号10若しくはPB29(配列番号14又は配列番号15)から選択される配列をコードする配列を含む若しくはからなる;又は分解シグナルのヌクレオチド配列が、miR-204配列番号11、miR-124配列番号12若しくはmiR-26a配列番号13から選択される配列を含む若しくはからなる、請求項1から4のいずれか一項に記載のベクターシステム。
【請求項6】
第1のベクターの分解シグナルのヌクレオチド配列が、CL1配列番号1をコードする配列を含む若しくはからなる、又は配列番号16を含む若しくはからなる、又はmiR-204配列番号11及びmiR-124配列番号12を含む若しくはからなる、好ましくはmiR 204配列番号11の3コピー及びmiR 124配列番号12の3コピーを含む、又はmiR-26a配列番号13を含む若しくはからなる、好ましくはmiR-26a配列番号13の4コピーを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のベクターシステム。
【請求項7】
第2のベクターの分解シグナルのヌクレオチド配列が、PB29(配列番号14又は配列番号15)をコードする配列を含む若しくはからなる、又は配列番号19若しくは配列番号20を含む若しくはからなる、好ましくは第2のベクターの分解シグナルが、配列番号14又は配列番号15のPB29の3コピーをコードする配列を含む又はからなる、請求項1から6のいずれか一項に記載のベクターシステム。
【請求項8】
第1のベクターが、コード配列の前記第1の部分(CDS1)の5'末端部分に作動可能に連結したプロモーター配列を更に含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のベクターシステム。
【請求項9】
第1のベクター及び第2のベクターの両方が5'末端反復(5'-TR)ヌクレオチド配列及び3'末端反復(3'-TR)ヌクレオチド配列を更に含み、好ましくは5'-TRが5'逆向き末端反復(5'-ITR)ヌクレオチド配列であり、3'-TRが3'逆向き末端反復(3'-ITR)ヌクレオチド配列であり、好ましくはITRが同じウイルス血清型に又は異なるウイルス血清型に由来し、好ましくはウイルスがAAVである、請求項1から8のいずれか一項に記載のベクターシステム。
【請求項10】
組換え遺伝子配列が、AKGGGATTTTGCCGATTTCGGCCTATTGGTTAAAAAATGAGCTGATTTAACAAAAATTTAACGCGAATTTTAACAAAAT(配列番号22)又は
GGGATTTTTCCGATTTCGGCCTATTGGTTAAAAAATGAGCTGATTTAACAAAAATTTAACGCGAATTTTAACAAAAT(配列番号23)、AP1(配列番号24)、AP2(配列番号25)、及びAP(配列番号26)からなる群から選択される、請求項1から9のいずれか一項に記載のベクターシステム。
【請求項11】
コード配列が、天然エクソン-エクソン接合部において第1の部分と第2の部分に分割されている、請求項1から10のいずれか一項に記載のベクターシステム。
【請求項12】
スプライシングドナーシグナルが、
GTAAGTATCAAGGTTACAAGACAGGTTTAAGGAGACCAATAGAAACTGGGCTTGTCGAGACAGAGAAGACTCTTGCGTTTCT(配列番号27)
と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%又は100%同一である配列を含む又はから本質的になる、請求項1から11のいずれか一項に記載のベクターシステム。
【請求項13】
スプライシングアクセプターシグナルが、
GATAGGCACCTATTGGTCTTACTGACATCCACTTTGCCTTTCTCTCCACAG(配列番号28)
と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%又は100%同一である配列を含む又はから本質的になる、請求項1から12のいずれか一項に記載のベクターシステム。
【請求項14】
第1のベクターが、コード配列に作動可能に連結した少なくとも1つのエンハンサーヌクレオチド配列を更に含む、請求項1から13のいずれか一項に記載のベクターシステム。
【請求項15】
コード配列が、網膜変性を治すことができるタンパク質をコードする、請求項1から14のいずれか一項に記載のベクターシステム。
【請求項16】
コード配列が、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、嚢胞性線維症、血友病A及びディスフェリン異常症を治すことができるタンパク質をコードする、請求項1から14のいずれか一項に記載のベクターシステム。
【請求項17】
コード配列が、ABCA4、MYO7A、CEP290、CDH23、EYS、PCDH15、CACNA1、SNRNP200、RP1、PRPF8、RP1L1、ALMS1、USH2A、GPR98、HMCN1からなる群から選択される遺伝子のコード配列である、請求項1から15のいずれか一項に記載のベクターシステム。
【請求項18】
コード配列が、DMD、CFTR、F8及びDYSFからなる群から選択される遺伝子のコード配列である、請求項1から14及び16のいずれか一項に記載のベクターシステム。
【請求項19】
第1のベクターがポリアデニル化シグナルヌクレオチド配列を含まない、請求項1から18のいずれか一項に記載のベクターシステム。
【請求項20】
c)5'→3'方向に
- 5'逆向き末端反復(5'-ITR)配列、
- プロモーター配列、
- 前記プロモーターに作動可能に連結し、その制御下にある、目的の遺伝子のコード配列の5'末端部分(CDS1)、
- スプライシングドナーシグナルのヌクレオチド配列、
- 組換え遺伝子領域のヌクレオチド配列、及び
- 3'逆向き末端反復(3'-ITR)配列
を含む第1のベクターと、
d)5'→3'方向に
- 5'逆向き末端反復(5'-ITR)配列、
- 組換え遺伝子領域のヌクレオチド配列、
- スプライシングアクセプターシグナルのヌクレオチド配列、
- コード配列の3'末端(CDS2)、
- ポリアデニル化シグナルヌクレオチド配列、及び
- 3'逆向き末端反復(3'-ITR)配列
を含む第2のベクターと
を含み、
分解シグナルのヌクレオチド配列を更に含み、前記配列が、第1及び第2のベクターの一方又は両方の組換え遺伝子領域のヌクレオチド配列の5'末端又は3'末端に局在することを特徴とする、請求項1から19のいずれか一項に記載のベクターシステム。
【請求項21】
前記第1及び第2のベクターが独立にウイルスベクター、好ましくはアデノウイルスベクター又はアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであり、好ましくは、前記第1及び第2のアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターが同じ又は異なるAAV血清型から選択され、好ましくは、アデノ随伴ウイルスが血清型2、血清型8、血清型5、血清型7又は血清型9から選択される、請求項1から20のいずれか一項に記載のベクターシステム。
【請求項22】
前記コード配列の第3の部分(CDS3)及び再構成配列を含む第3のベクターを更に含み、第2のベクターが2つの再構成配列を含み、各再構成配列がCDS2の各末端に位置する、請求項1から21のいずれか一項に記載のベクターシステム。
【請求項23】
第3のベクターが、分解シグナルの少なくとも1つのヌクレオチド配列を更に含む、請求項22に記載のベクターシステム。
【請求項24】
第2のベクターが、前記コード配列(CDS2)の3'末端部分に連結されたポリアデニル化シグナルヌクレオチド配列を更に含む、請求項1から21のいずれか一項に記載のベクターシステム。
【請求項25】
請求項1から24のいずれか一項に記載のベクターシステムで形質転換された宿主細胞。
【請求項26】
医療用の請求項1から24のいずれか一項に記載のベクターシステム又は請求項25に記載の宿主細胞。
【請求項27】
遺伝子治療用の請求項1から24のいずれか一項に記載のベクターシステム又は請求項25に記載の宿主細胞。
【請求項28】
網膜変性を特徴とする病的状態又は疾患の治療及び/又は予防における使用のための請求項1から15及び17に記載のベクターシステム又は請求項25に記載の宿主細胞。
【請求項29】
網膜変性が遺伝性である、請求項28に記載の使用のためのベクターシステム又は宿主細胞。
【請求項30】
病的状態又は疾患が、網膜色素変性症(RP)、レーバー先天性黒内障(LCA)、シュタルガルト病(STGD)、アッシャー症候群(USH)、アルストレム症候群、先天性停止性夜盲(CSNB)、黄斑ジストロフィー、オカルト黄斑ジストロフィー、ABCA4遺伝子の突然変異により引き起こされる疾患からなる群から選択される、請求項28又は29に記載の使用のためのベクターシステム又は宿主細胞。
【請求項31】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー、嚢胞性線維症、血友病A及びディスフェリン異常症の治療及び/又は予防における使用のための請求項1から14、16及び18のいずれか一項に記載のベクターシステム又は請求項25に記載の宿主細胞。
【請求項32】
請求項1から24のいずれか一項に記載のベクターシステム又は請求項25に記載の宿主細胞及び薬学的に許容されるビヒクルを含む医薬組成物。
【請求項33】
網膜変性を特徴とする病的状態又は疾患を治療し、且つ/又は予防する方法であって、それを必要とする対象に、有効量の請求項1から15及び17のいずれか一項に記載のベクターシステム、請求項25に記載の宿主細胞又は請求項32に記載の医薬組成物を投与する工程を含む方法。
【請求項34】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー、嚢胞性線維症、血友病A又はディスフェリン異常症を治療し、且つ/又は予防する方法であって、それを必要とする対象に、有効量の請求項1から14、16及び18のいずれか一項に記載のベクターシステム、請求項25に記載の宿主細胞又は請求項32に記載の医薬組成物を投与する工程を含む方法。
【請求項35】
短縮型のタンパク質の発現を低減させるためのベクターシステムにおける分解シグナルのヌクレオチド配列の使用。
【請求項36】
分解シグナルのヌクレオチド配列をベクターシステムの1つ又は複数のベクターに挿入する工程を含む、短縮型のタンパク質の発現を低減させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、とりわけ5Kbより大きい遺伝子の有効な遺伝子治療を可能にする構築物、ベクター、関連宿主細胞及び医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの遺伝性網膜変性(IRD)に対する視力回復療法は、依然として主要なアンメット・メディカル・ニーズである。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療は、現在までのところ、多くのIRDの治療のための最も有望なアプローチである。実際、種々のIRDに関する長年にわたる前臨床研究及びいくつもの臨床試験により、罹患網膜層[光受容体(PR)及び網膜色素上皮(RPE)]に治療用遺伝子を効率的に送達するAAVの能力が明確にされ1,2、ヒトにおけるそれらの優れた安全性及び有効性プロファイルが明確に示された3-7。このような状況にもかかわらず、この成功を他の視力障害の状態に拡大するうえでの主な障害の1つは、AAVベクターのパッケージング能力(約5kb)である。これは、5kbより大きいコード配列(CDS)を有する遺伝子(本明細書で大遺伝子とも呼ぶ)における突然変異のため、一般的IRDに対する遺伝子置換療法の開発の制限因子となっていた。
【0003】
したがって、近年、AAVの運搬能力を増大させる戦略の特定にかなりの関心が向けられた。分子間組換えによりコンカテマー化するAAVゲノムの能力に基づく、二重AAVベクターを活用して、この問題に対処することに成功した14-16。二重AAVベクターは、大導入遺伝子発現カセットを、単一の正常サイズ(NS;<5kb)のAAVベクターにそれぞれパッケージングされた2つの別の半分に分割することによって作製される。全長発現カセットの再構成は、両二重AAVベクターによる同じ細胞のコインフェクションとそれに続く、i)2つのベクターゲノムの逆向き末端反復配列(ITR)媒介尾-頭コンカテマー化の後のスプライシング(二重AAVトランススプライシング、TS)15、ii)2つのベクターゲノムに含まれるオーバーラップ領域(二重AAVオーバーラップ、OV)間の相同的組換え15、iii)2つの組合せ(二重AAVハイブリッド)16のいずれかにより達成される。他発明者及び本発明者らは、最近、網膜における二重AAVベクターの可能性を示した14,17-19。二重AAVハイブリッドベクターの状況において最も利用される組換え遺伝子領域は、高レベルの二重AAVハイブリッドベクターの再構成をもたらすことが示されたヒトアルカリホスファターゼcDNAの中部3分の1の872bp配列に由来する16。本発明者らは、AK配列を含む二重AAVハイブリッドベクターが、本発明者らがGhoshら22に示されている記述に基づいて作製した、センスアルカリホスファターゼ頭領域配列14を含むものより機能が優れていることを示した。更なる試験で、このアルカリホスファターゼ領域の頭部又は尾部が、アルカリホスファターゼcDNAの全長中部3分の1により達成されたものと同様のレベルの導入遺伝子再構成をもたらすことが示された22。本発明者らは、二重AAVトランススプライシング及びハイブリッドAKベクター(F1ファージに由来する短AK組換え遺伝子配列を含む)がマウス及びブタ網膜に効率的に形質導入し、シュタルガルト病(STGD)及びアッシャー1B(USH1B)のマウスモデルを救出することを見いだした14,19。二重AAV TS及びハイブリッドAKベクターにより達成されたPR形質導入のレベルは、IRDのマウスモデルの網膜表現型の有意な改善をもたらし、遺伝性視力障害状態を治療するのに有効でありうる。更に、高度に異なっている(相同性23の58%)、血清型2及び5の異種ITR(それぞれITR2及びITR5)を有するベクターは、同種ITRを有するベクターよりも環状モノマーを形成する能力の低下及び方向性尾-頭コンカテマー化の増大を示す24。これに基づいて、Yanらは、異種ITR2及びITR5を有する二重AAVベクターは、同種ITRを有する二重AAVベクターより効率的に導入遺伝子発現を再構成することを示した24,25
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第8,137,962号
【特許文献2】米国特許第6,967,018号
【特許文献3】米国特許第8,298,818号
【特許文献4】米国特許第6,461,606号
【特許文献5】米国特許第6,204,251号
【特許文献6】米国特許第6,106,826号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Xianoら、J Cell Physiol、212巻、285~292頁、2007年
【非特許文献2】Wang Z、Methods Mol Biol、676巻、211~223頁、2011年
【非特許文献3】Gene Therapy: Principles and Applications、Springer Verlag、1999年
【非特許文献4】Sambrook & Russell、2001年、Molecular Cloning
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの研究は、網膜等の、目的の組織における大遺伝子再構成のための二重AAVベクターの可能性を強調したが、この戦略の更なる臨床への橋渡しを考慮する前に対処する必要がある重要な問題も強調した。
【0007】
ITRの低いプロモーター活性に起因するプロモーター配列を含む5'-半ベクターから及び/又は3'-半ベクターからの短縮型タンパク質産物の産生14,17,20,21は、依然として二重ベクターの使用に関連する主要な問題として残っている。これらの短縮型産物のin vivoでの有害な影響の可能性を評価ための正式な毒性試験は、これまで実施されておらず、したがって、安全性の懸念が提起される。したがって、それらの産生の低減又は撤廃が極めて望ましい。したがって、本発明は、二重ベクターシステムの使用に関連するこの主要問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、とりわけ5Kbより大きい遺伝子の有効な遺伝子治療を可能にする構築物、ベクター、関連宿主細胞及び医薬組成物に関する。大遺伝子は、とりわけ以下を含む。
【0009】
【表1】
【0010】
シュタルガルト病(STGD1;MIM#248200)は、光受容体特異的全トランス網膜トランスポーターをコードする8,9、ABCA4(CDS: 6822bp)における突然変異によって引き起こされる最も一般的な形の遺伝性黄斑変性である。3型錐体杆体ジストロフィー、黄色斑眼底、2型加齢黄斑変性、早期発症型重症網膜ジストロフィー及び19型網膜色素変性症もABCA4突然変異に関連する(ABCA4関連疾患)。IB型アッシャー症候群(USH1B;MIM#276900)は、網膜内のPR及びRPEの両方において発現するアクチン依存性モーター11-13をコードする、MYO7A(CDS: 6648bp)における突然変異によって引き起こされる最も重度の併発型の網膜色素変性症及び難聴である10
【0011】
更に、網膜症状を必ずしも引き起こさない、多くの他の遺伝病は、大遺伝子における突然変異に起因する。これらは、とりわけ、DMDにおける突然変異に起因するデュシェンヌ型筋ジストロフィー、CFTRにおける突然変異に起因する嚢胞性線維症、F8における突然変異に起因する血友病A及びDYSF遺伝子における突然変異に起因するディスフェリン異常症を含む。
【0012】
特に、本発明は、タンパク質の分解を媒介する又はそれらの翻訳を回避するシグナル(以後分解シグナル)の使用により、多重ベクターシステム、好ましくは多重ウイルスベクターシステムに関連する短縮型タンパク質産物の発現を低減させることを目的とする。分解シグナルは、多重ウイルスベクターとの関連で以前に使用されたことはない。本発明において、分解シグナルが多重ベクターシステムの少なくとも1つのベクターに存在する場合、短縮型のタンパク質の発現が著しく減少し、全長タンパク質のより高い収量がもたらされることが驚くべきことに見いだされた。
【0013】
したがって、第1の態様では、本発明は、細胞中の目的の遺伝子のコード配列を発現させるためのベクターシステムであって、前記コード配列が第1の部分及び第2の部分を含み、前記ベクターシステムが、
a)
- 前記コード配列の前記第1の部分(CDS1)、
- 第1の再構成配列
を含む第1のベクターと;
b)
- 前記コード配列の前記第2の部分(CDS2)、
- 第2の再構成配列
を含む第2のベクターと
を含み、
前記第1及び第2の再構成配列が、
i]第1の再構成配列はコード配列の前記第1の部分の3'末端からなり、第2の再構成配列はコード配列の前記第2の部分の5'末端からなり、第1及び第2の再構成配列がオーバーラップ配列であること;又は
ii]第1の再構成配列はスプライシングドナーシグナル(SD)を含み、第2の再構成配列はスプライシングアクセプターシグナル(SA)を含み、任意選択で第1及び第2の再構成配列のそれぞれが組換え遺伝子配列を更に含むこと
からなる群から選択される、ベクターシステムにおいて、
第1及び第2のベクターのいずれか一方又は両方が分解シグナルのヌクレオチド配列を更に含み、前記配列が、i)の場合はCDS1の3'末端及び/又はCDS2の5'末端に位置し、ii)の場合はSDに対して3'側の位置及び/又はSAに対して5'側の位置にあることを特徴とする、ベクターシステムを提供する。
【0014】
好ましくは、第1及び第2のベクターの両方が分解シグナルの前記ヌクレオチド配列を更に含み、第1のベクターにおける分解シグナルのヌクレオチド配列が第2のベクターにおける分解シグナルのヌクレオチド配列と同一又は異なる。
【0015】
好ましくは、第1の再構成配列は、スプライシングドナーシグナル(SD)及び前記SDに対して3'側の位置にある組換え遺伝子領域を含み、第2の再構成配列は、スプライシングアクセプターシグナル(SA)及びSAに対して5'側の位置にある組換え遺伝子配列を含み、分解シグナルの前記ヌクレオチド配列は、第1及び第2のベクターの一方又は両方の組換え遺伝子領域のヌクレオチド配列の5'末端及び/又は3'末端に局在する。
【0016】
好ましくは、分解シグナルのヌクレオチド配列は、1つ若しくは複数のタンパク質ユビキチン化シグナル、1つ若しくは複数のマイクロRNA標的配列、及び/又は1つ若しくは複数の人工終止コドンから選択される。
【0017】
好ましくは、分解シグナルのヌクレオチド配列は、CL1配列番号1、CL2配列番号2、CL6配列番号3、CL9配列番号4、CL10配列番号5、CL11配列番号6、CL12配列番号7、CL15配列番号8、CL16配列番号9、SL17配列番号10若しくはPB29(配列番号14又は配列番号15)から選択される配列をコードする配列を含む若しくはからなる;又は分解シグナルのヌクレオチド配列は、miR-204配列番号11、miR-124配列番号12若しくはmiR-26a配列番号13から選択される配列を含む若しくはからなる。
【0018】
好ましくは、第1のベクターの分解シグナルのヌクレオチド配列は、CL1配列番号1をコードする配列を含む若しくはからなる、又は配列番号16を含む若しくはからなる、又はmiR-204配列番号11及びmiR-124配列番号12を含む若しくはからなる、好ましくはmiR 204配列番号11の3コピー及びmiR 124配列番号12の3コピーを含む、又はmiR-26a配列番号13を含む若しくはからなる、好ましくはmiR-26a配列番号13の4コピーを含む。
【0019】
好ましくは、第2のベクターの分解シグナルのヌクレオチド配列は、PB29(配列番号14又は配列番号15)をコードする配列を含む若しくはからなる、又は配列番号19若しくは配列番号20を含む若しくはからなる、好ましくは第2のベクターの分解シグナルは、配列番号14又は配列番号15のPB29の3コピーをコードする配列を含む又はからなる。
【0020】
好ましくは、第1のベクターは、コード配列の前記第1の部分(CDS1)の5'末端部分に作動可能に連結したプロモーター配列を更に含む。
【0021】
好ましくは、第1のベクター及び第2のベクターの両方は、5'末端反復(5'-TR)ヌクレオチド配列及び3'末端反復(3'-TR)ヌクレオチド配列を更に含み、好ましくは5'-TRは、5'逆向き末端反復(5'-ITR)ヌクレオチド配列であり、3'-TRは、3'逆向き末端反復(3'-ITR)ヌクレオチド配列であり、好ましくはITRは、同じウイルス血清型に又は異なるウイルス血清型に由来し、好ましくはウイルスは、AAVである。
【0022】
好ましくは、組換え遺伝子配列は、AK GGGATTTTGCCGATTTCGGCCTATTGGTTAAAAAATGAGCTGATTTAACAAAAATTTAACGCGAATTTTAACAAAAT(配列番号22)又はGGGATTTTTCCGATTTCGGCCTATTGGTTAAAAAATGAGCTGATTTAACAAAAATTTAACGCGAATTTTAACAAAAT(配列番号23)、AP1(配列番号24)、AP2(配列番号25)及びAP(配列番号26)からなる群から選択される。
【0023】
好ましくは、コード配列は、天然エクソン-エクソン接合部において第1の部分と第2の部分に分割されている。
【0024】
好ましくは、スプライシングドナーシグナルは、GTAAGTATCAAGGTTACAAGACAGGTTTAAGGAGACCAATAGAAACTGGGCTTGTCGAGACAGAGAAGACTCTTGCGTTTCT(配列番号27)と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%又は100%同一である配列を含む又はから本質的になる。
【0025】
好ましくは、スプライシングアクセプターシグナルは、GATAGGCACCTATTGGTCTTACTGACATCCACTTTGCCTTTCTCTCCACAG(配列番号28)と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%又は100%同一である配列を含む又はから本質的になる。
【0026】
好ましくは、第1のベクターは、コード配列に作動可能に連結した少なくとも1つのエンハンサーヌクレオチド配列を更に含む。
【0027】
好ましくは、コード配列は、網膜変性を治すことができるタンパク質をコードする。
【0028】
好ましくは、コード配列は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、嚢胞性線維症、血友病A及びディスフェリン異常症を治すことができるタンパク質をコードする。
【0029】
網膜変性の場合、好ましくはコード配列は、ABCA4、MYO7A、CEP290、CDH23、EYS、PCDH15、CACNA1、SNRNP200、RP1、PRPF8、RP1L1、ALMS1、USH2A、GPR98、HMCN1からなる群から選択される遺伝子のコード配列である。
【0030】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー、嚢胞性線維症、血友病A及びディスフェリン異常症の場合、好ましくはコード配列は、DMD、CFTR、F8及びDYSFからなる群から選択される遺伝子のコード配列である。
【0031】
好ましくは、第1のベクターは、ポリアデニル化シグナルヌクレオチド配列を含まない。
【0032】
好ましくは、ベクターシステムは、
a)5'→3'方向に
- 5'逆向き末端反復(5'-ITR)配列、
- プロモーター配列、
- 前記プロモーターに作動可能に連結し、その制御下にある、目的の遺伝子のコード配列の5'末端部分(CDS1)、
- スプライシングドナーシグナルのヌクレオチド配列、
- 組換え遺伝子領域のヌクレオチド配列、
- 3'逆向き末端反復(3'-ITR)配列
を含む第1のベクターと、
b)5'→3'方向に
- 5'逆向き末端反復(5'-ITR)配列、
- 組換え遺伝子領域のヌクレオチド配列、
- スプライシングアクセプターシグナルのヌクレオチド配列、
- コード配列の3'末端(CDS2)、
- ポリアデニル化シグナルヌクレオチド配列、
- 3'逆向き末端反復(3'-ITR)配列
を含む第2のベクターと
を含み、
分解シグナルのヌクレオチド配列を更に含み、前記配列は、第1及び第2のベクターの一方又は両方の組換え遺伝子領域のヌクレオチド配列の5'末端又は3'末端に局在することを特徴とする。
【0033】
好ましくは、本発明のベクターにおいて、前記第1及び第2のベクターは、独立にウイルスベクター、好ましくはアデノウイルスベクター又はアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであり、好ましくは、前記第1及び第2のアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、同じ又は異なるAAV血清型から選択され、好ましくは、アデノ随伴ウイルスは、血清型2、血清型8、血清型5、血清型7又は血清型9から選択される。
【0034】
好ましくは、本発明のベクターシステムは、前記コード配列の第3の部分(CDS3)及び再構成配列を含む第3のベクターを更に含み、第2のベクターは、2つの再構成配列を含み、各再構成配列は、CDS2の各末端に位置する。
【0035】
好ましくは、第1のベクターの再構成配列は、CDS1の3'末端からなり、第2のベクターの2つの再構成配列は、CDS2の5'末端及び3'末端からそれぞれなり、第3のベクターの再構成配列は、CDS3の5'末端からなり、
第1のベクターの前記再構成配列及びCDS2の5'末端からなる第2のベクターの前記再構成配列は、オーバーラップ配列であり、
CDS2の3'末端からなる第2のベクターの前記再構成配列及び前記第3のベクターの前記再構成配列は、オーバーラップ配列であり、
前記第2のベクターは、分解シグナルを更に含み、前記分解シグナルは、CDS2の5'末端及び/又は3'末端に位置する。
【0036】
好ましくは、第3のベクターは、分解シグナルの少なくとも1つのヌクレオチド配列を更に含む。
【0037】
好ましくは、第2のベクターは、前記コード配列(CDS2)の3'末端部分に連結されたポリアデニル化シグナルヌクレオチド配列を更に含む。
【0038】
本発明は、上文で定義したベクターシステムで形質転換された宿主細胞を提供する。
【0039】
好ましくは、本発明のベクターシステム又は宿主細胞は、医療用である。好ましくは、遺伝子治療用である。好ましくは、網膜変性を特徴とする病的状態若しくは疾患の治療及び/若しくは予防における使用のため又はデュシェンヌ型筋ジストロフィー、嚢胞性線維症、血友病A及びディスフェリン異常症の治療及び/若しくは予防における使用のためである。
【0040】
好ましくは、網膜変性は、遺伝性である。
【0041】
好ましくは、病的状態又は疾患は、網膜色素変性症(RP)、レーバー先天性黒内障(LCA)、シュタルガルト病(STGD)、アッシャー症候群(USH)、アルストレム症候群、先天性停止性夜盲(CSNB)、黄斑ジストロフィー、オカルト黄斑ジストロフィー、ABCA4遺伝子の突然変異により引き起こされる疾患からなる群から選択される。
【0042】
本発明は、上文で定義したベクターシステム又は宿主細胞及び薬学的に許容されるビヒクルを含む医薬組成物を提供する。
【0043】
本発明は、網膜変性を特徴とする病的状態又は疾患を治療し、且つ/又は予防する方法であって、それを必要とする対象に、有効量の上文で定義したベクターシステム、宿主細胞又は医薬組成物を投与する工程を含む方法を提供する。
【0044】
本発明は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、嚢胞性線維症、血友病A又はディスフェリン異常症を治療し、且つ/又は予防する方法であって、それを必要とする対象に、有効量の上文で定義したベクターシステム、宿主細胞又は医薬組成物を投与する工程を含む方法を提供する。
【0045】
本発明は、短縮型のタンパク質の発現を低減させるためのベクターシステムにおける分解シグナルのヌクレオチド配列の使用を提供する。
【0046】
本発明は、分解シグナルのヌクレオチド配列をベクターシステムの1つ又は複数のベクターに挿入する工程を含む、短縮型のタンパク質の発現を低減させる方法を提供する。
【0047】
本発明の好ましい実施形態によれば、細胞中の目的の遺伝子のコード配列を発現させるためのベクターシステムは、2つのベクターを含み、各ベクターは、前記コード配列の異なる部分及び再構成配列を含み、好ましくは、第1のベクターの再構成配列は、スプライシングドナーを含む配列であるが、第2のベクターの再構成配列は、スプライシングアクセプターを含む配列である。
【0048】
本発明の更なる好ましい実施形態によれば、細胞中の目的の遺伝子のコード配列を発現させるためのベクターシステムは、3つのベクターを含み、各ベクターは、前記コード配列の異なる部分及び少なくとも1つの再構成配列を含み、好ましくは、第1のベクターは、コード配列の第1の部分に対して3'側の位置にスプライシングドナーを含む再構成配列を含み、第2のベクターは、コード配列の第2の部分に対して5'側の位置にスプライシングアクセプターを含む再構成配列及びコード配列の第2の部分に対して3'側の位置にスプライシングドナーを含む再構成配列を含み、第3のベクターは、コード配列の第3の部分に対して5'側の位置にスプライシングアクセプターを含む再構成配列を含む。
【0049】
好ましくは、第1及び第2のベクターの再構成配列又は第1、第2及び第3のベクターの再構成配列は、好ましくはスプライシングドナーに対して3'側の位置及びスプライシングアクセプターに対して5'側の位置に組換え遺伝子領域を更に含む。
【0050】
本発明のベクターシステムのいずれか1つ若しくは2つ又はすべてのベクターは、分解シグナルのヌクレオチド配列を更に含む。
【0051】
好ましくは、第1のベクターは、分解シグナルを含む。好ましくは、第2のベクターは、分解シグナルを含む。
【0052】
ベクターが組換え遺伝子領域を含む再構成配列を含む、本発明の好ましい実施形態によれば、分解シグナルは、前記組換え遺伝子領域の配列の5'末端又は3'末端に局在する。
【0053】
本発明の好ましい実施形態によれば、細胞中の目的の遺伝子のコード配列を発現させるためのベクターシステムは、2つのベクターを含み、ベクターシステムの第1のベクターは、5'→3'方向に
- 目的の遺伝子のコード配列の5'末端部分、
- スプライシングドナーシグナルの核酸配列、
- 組換え遺伝子領域の核酸配列、及び
- 分解シグナルの核酸配列
を含む。
【0054】
本発明の好ましい実施形態によれば、細胞中の目的の遺伝子のコード配列を発現させるためのベクターシステムは、2つのベクターを含み、ベクターシステムの第2のベクターは、5'→3'方向に
- 組換え遺伝子領域の核酸配列と、
- 分解シグナルの核酸配列と、
- スプライシングアクセプターシグナルの核酸配列と、
- 目的の遺伝子のコード配列の3'末端部分と
を含む。
【0055】
好ましくは、本発明によるベクターシステムの第1のベクターは、プロモーター配列を更に含み、より好ましくは前記プロモーター配列は、目的の遺伝子のコード配列の第1の部分の5'末端に作動可能に連結している。
【0056】
好ましくは、2つのベクターからなるベクターシステムの第2のベクターは、ポリアデニル化シグナル核酸配列を更に含み、より好ましくは前記ポリアデニル化シグナル核酸配列は、目的の遺伝子のコード配列の第2の部分の3'末端に連結している。好ましくは本発明によるベクターシステムの第1のベクターは、ポリアデニル化シグナル核酸配列を含まない。
【0057】
好ましくは、3つのベクターからなるベクターシステムの第3のベクターは、ポリアデニル化シグナル核酸配列を更に含み、より好ましくは前記ポリアデニル化シグナル核酸配列は、目的の遺伝子のコード配列の第3の部分の3'末端に連結している。
【0058】
好ましくは、本発明のベクターシステムのベクターの少なくとも1つ、より好ましくは本発明のベクターシステムの第1のベクターは、CL1配列番号1をコードする配列を含む又はからなる配列の分解シグナルを含み、好ましくは、CL1配列番号1をコードする前記配列は、配列番号16を含む又はからなる。
【0059】
好ましくは、本発明のベクターシステムのベクターの少なくとも1つ、より好ましくは本発明のベクターシステムの第1のベクターは、miR-204配列番号11及びmiR-124配列番号12、より好ましくはmiR 204配列番号11の3コピー及びmiR 124配列番号12の3コピーを含む配列の分解シグナルを含み、好ましくはmiR 204配列及びmiR 124配列並びに/又はmiR 204配列の及びmiR 124配列の各コピーは、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個のヌクレオチドのリンカー配列により連結されている。
【0060】
好ましくは、本発明のベクターシステムのベクターの少なくとも1つ、より好ましくは本発明のベクターシステムの第1のベクターは、miR-26a配列番号13を含む又はからなる、より好ましくはmiR-26a配列番号13の4コピーを含む配列の分解シグナルを含む。
【0061】
好ましくは、本発明のベクターシステムのベクターの少なくとも1つ、より好ましくは本発明のベクターシステムの第2のベクターは、PB29(配列番号14又は配列番号15)をコードする配列を含む又はからなる配列の分解シグナルを含み、好ましくはPB29をコードする前記配列は、配列番号19又は配列番号20を含む又はからなり、更に好ましくは、配列の前記分解シグナルは、配列番号14又は配列番号15のPB29の3コピーをコードする配列を含む又はからなる。
【0062】
本発明の好ましい実施形態によれば、ベクターシステムは、
a)5'→3'方向に
- 5'逆向き末端反復(5'-ITR)配列、
- プロモーター配列、
- 好ましくは前記プロモーターに作動可能に連結し、その制御下にある、目的の遺伝子のコード配列の、好ましくは5'末端部分である第1の部分、
- スプライシングドナーシグナルの核酸配列、
- 組換え遺伝子領域の核酸配列、及び
- 3'逆向き末端反復(3'-ITR)配列
を含む第1のベクターと、
b)5'→3'方向に
- 5'逆向き末端反復(5'-ITR)配列、
- 組換え遺伝子領域の核酸配列、
- スプライシングアクセプターシグナルの核酸配列、
- 目的の遺伝子のコード配列の、好ましくは3'末端部分である第2の部分、
- ポリアデニル化シグナル核酸配列、及び
- 3'逆向き末端反復(3'-ITR)配列
を含む第2のベクターと
を含み、
前記第1及び/又は第2のベクターは、分解シグナルの核酸配列を更に含み、前記配列は、組換え遺伝子領域の核酸配列の5'末端又は3'末端に局在する。
【0063】
本発明の更なる好ましい実施形態によれば、ベクターシステムは、
a)5'→3'方向に
- 5'逆向き末端反復(5'-ITR)配列、
- プロモーター配列、
- 好ましくは前記プロモーターに作動可能に連結し、その制御下にある、目的の遺伝子のコード配列の第1の部分、
- スプライシングドナーシグナルの核酸配列、
- 組換え遺伝子領域の核酸配列、及び
- 3'逆向き末端反復(3'-ITR)配列
を含む第1のベクターと、
b)5'→3'方向に
- 5'逆向き末端反復(5'-ITR)配列、
- 組換え遺伝子領域の核酸配列、
- スプライシングアクセプターシグナルの核酸配列、
- 目的の遺伝子のコード配列の第2の部分、
- スプライシングドナーシグナルの核酸配列、
- 組換え遺伝子領域の核酸配列、及び
- 3'逆向き末端反復(3'-ITR)配列
を含む第2のベクターと、
c)5'→3'方向に
- 5'逆向き末端反復(5'-ITR)配列、
- 組換え遺伝子領域の核酸配列、
- スプライシングアクセプターシグナルの核酸配列、
- 目的の遺伝子のコード配列の第3の部分、
- ポリアデニル化シグナル核酸配列、及び
- 3'逆向き末端反復(3'-ITR)配列
を含む第3のベクターと
を含み、
前記第1及び/又は第2及び/又は第3のベクターは、分解シグナルの核酸配列を更に含み、前記配列は、組換え遺伝子領域の核酸配列の5'末端又は3'末端に局在する。
【0064】
好ましくは、病的状態又は疾患は、1F型アッシャー症候群(USH1F)、先天性停止性夜盲(CSNB2)、常染色体優性(ad)及び/又は常染色体劣性(ar)網膜色素変性症(RP)、USH1B、STGD1、10型レーバー先天性黒内障(LCA10)、RP、1D型アッシャー症候群(USH1D)、2A型アッシャー症候群(USH2A)、常染色体優性黄斑ジストロフィー、2C型アッシャー症候群(USH2C)、オカルト黄斑ジストロフィー、アルストレム症候群から選択される。
【0065】
本発明において、ベクターシステムは、構築物システム、プラスミドシステムを、またウイルス粒子をも意味する。
【0066】
本発明において、構築物又はベクターシステムは、2つを超えるベクターを含みうる。
【0067】
とりわけ構築物システムは、目的の配列の第3の部分を含む第3のベクターを含みうる。
【0068】
本発明において、全長コード配列は、種々の(2つ、3つ又はそれ以上の)ベクターが細胞に導入されると再構成する又は得られる。
【0069】
コード配列は、2つに分割することができる。それらの部分は、長さが等しくても異なってもよい。全長コード配列は、ベクターシステムのベクターが細胞に導入されると得られる。第1の部分は、コード配列の5'末端部分でありうる。第2の部分は、コード配列の3'末端でありうる。更に、コード配列は、3つの部分に分割することができる。それらの部分は、長さが等しくても異なってもよい。全長コード配列は、ベクターシステムのベクターが細胞に導入されると得られる。第1の部分はコード配列の5'部分であり、第2の部分はコード配列の中間部分であり、第3の部分はコード配列の3'部分である。
【0070】
本発明において、細胞は、好ましくは哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞である。
【0071】
本発明において、ベクターのいずれかにおける1つの分解シグナルの存在は、短縮型のタンパク質の産生を減少させるのに十分である。
【0072】
分解シグナルという用語は、それが含まれるmRNA/タンパク質の分解を媒介しうる配列(ヌクレオチド又はアミノ酸)を意味する。
【0073】
「短縮型のタンパク質」又は「短縮型タンパク質」という用語は、1個から多数個のアミノ酸(例として1~10個、1~20個、1~50個、100個、200個等)の欠失を示すので、その全長型で産生されないタンパク質である。
【0074】
本発明において、「再構成配列」は、全長コード配列が正しいフレームで再構成することを可能にする、したがって機能しうるタンパク質の発現を可能にする配列である。
【0075】
「スプライシングドナー/アクセプターシグナル」という用語は、mRNAのスプライシングに関与するヌクレオチド配列を意味する。
【0076】
本発明において、イントロンからのスプライシングドナー又はアクセプターシグナル配列を用いることができる。通常の実験により適切なスプライシングドナー又はアクセプターシグナル配列を認識し選択する方法は当業者に知られている。
【0077】
本発明において、2つの配列のそれぞれの少なくとも一部が他方と相同のものである場合、2つの配列は、オーバーラップしている。配列は、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも5個、少なくとも10個、少なくとも20個、少なくとも50個、少なくとも100個、少なくとも200個のヌクレオチドについてオーバーラップしうる。
【0078】
「組換え遺伝子領域又は配列」という用語は、2つの異なる配列の間の組換えを媒介する配列を意味する。「組換え遺伝子領域又は配列」と「相同性の領域」は、本明細書で同義で用いる。
【0079】
「末端反復」という用語は、ヌクレオチド配列の両末端において反復される配列を意味する。
【0080】
「逆向き末端反復」という用語は、逆の向き(逆相補性)のヌクレオチド配列の両末端において反復される配列を意味する。
【0081】
タンパク質ユビキチン化シグナルは、プロテアソームによるタンパク質の分解を媒介するシグナルである。本発明において、分解シグナルが、同じ配列又は異なる配列である、反復配列を含む場合、前記反復配列は、好ましくは少なくとも1個のヌクレオチドのリンカーにより連結されている。
【0082】
人工終止コドンは、タンパク質の翻訳の早期の終結をもたらすために転写物に意図的に含められるヌクレオチド配列である。
【0083】
エンハンサー配列は、遺伝子の転写を増大させる配列である。
【0084】
本発明による適切な分解シグナルは、(i)ミスフォールドタンパク質と構造類似性を共有し、したがってユビキチン化システムにより認識されるC末端不安定化ペプチドである31,32、短デグロンCL1、(ii)ドナータンパク質のN末端におけるその融合が直接タンパク質分解又はN末端則経路を介する分解の両方を媒介する33,34、ユビキチン及び(iii)CL1デグロンと同様に、ユビキチン化経路の酵素により認識される構造においてフォールドすると予測される35、9アミノ酸長ペプチドであるN末端PB29デグロンを含む。本発明者らは、多重ベクターシステムに分解配列又はシグナルを含めることにより、短縮型タンパク質の発現が軽減されることを見いだした。一例として、本発明者らは、CL1分解シグナルを含めることにより、in vitro及び大きなブタ網膜の両方における全長タンパク質産生が影響を受けることなく、5'-半分からの短縮型タンパク質の選択的分解がもたらされることを見いだした。
【0085】
更に、mRNAの早期終結をもたらすために人工終止コドンを挿入することができる。短縮型タンパク質産物の分解を媒介するためにマイクロRNA(miR)標的配列、人工終止コドン又はタンパク質ユビキチン化シグナルを活用することができる。本発明において、分解シグナル配列は、複数のマイクロRNA(miR)標的配列、人工終止コドン又はタンパク質ユビキチン化シグナル等の、反復配列を含みうるものであり、前記反復配列は、少なくとも2回反復される同じ又は異なる配列であり、好ましくは、反復配列は、少なくとも1個のヌクレオチドのリンカーにより連結されている。
【0086】
網膜において発現するmiRのうち、miR-let7b又は-26aは、高レベルで発現する26-29が、miR-204及び-124は、AAV媒介性導入遺伝子発現をRPE又は光受容体に制限することが示された30。Karaliら30は、特定の細胞型における単一AAVベクターに含まれる遺伝子の発現の調節におけるmiR標的部位の有効性を試験した。Karaliらにおいて、miR標的部位は、コード配列の下流及びポリアデニル化シグナル(polyA)の前のカノニカル発現カセット(全リポーター遺伝子をコードする)に含まれていた。Karaliらは、miR-204又はmiR-124に対するmiR標的部位を使用し、各miRの4つのタンデムコピーを使用した。
【0087】
本発明において、miRは、miR模倣体でもありうる(Xianoら、J Cell Physiol、212巻、285~292頁、2007年;Wang Z、Methods Mol Biol、676巻、211~223頁、2011年)。初めて、本発明者らは、これらの戦略を多重ベクター構築物に適用し、そのようなベクターから発生する短縮型タンパク質の発現を止めることができた。
【0088】
過去10年間に、遺伝子治療は、何百件もの臨床試験において疾患の治療に適用された。遺伝子をヒト細胞内に送達するために様々なツールが開発された。本発明においては、送達担体を患者に投与することができる。当業者は、適切な用量範囲を決定することができよう。「投与する」という用語は、ウイルス又は非ウイルス技術による送達を含む。非ウイルス送達メカニズムは、脂質媒介トランスフェクション、リポソーム、イムノリポソーム、リポフェクチン、カチオン性面状両親媒性物質(CFA)及びそれらの組合せを含むが、これらに限定されない。ウイルス送達のうち、アデノ随伴ウイルスを含む、遺伝子改変ウイルスは、現在のところ遺伝子送達のためのとりわけ最も一般的なツールである。ウイルスベースの遺伝子送達の概念は、ウイルスが目的の遺伝子又はプロモーター及びイントロン等の調節配列を発現させることができるようにウイルスを改変することである。特定の用途及びウイルスの種類によって、大部分のウイルスベクターは、宿主において野生型ウイルスとして自由に複製するそれらの能力を妨げる突然変異を含む。いくつかの異なる科のウイルスを改変して、遺伝子送達用のウイルスベクターを作製した。これらのウイルスは、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、バキュロウイルス、ピコルナウイルス及びアルファウイルスを含む。本発明は、好ましくはアデノ随伴ウイルスを用いる。システムの大部分は、目的の遺伝子を収容することができるベクター及びウイルス構造タンパク質を供給しうるヘルパー細胞並びにベクター含有感染性ウルス粒子の作製を可能にする酵素を含む。アデノ随伴ウイルスは、ヌクレオチド及びアミノ酸配列、ゲノム構造、病原性並びに宿主範囲が異なるウイルスの科である。この多様性は、異なる治療応用を開発するために異なる生物学的特性を有するウイルスを使用する機会を提供する。送達ツールと同様に、アデノ随伴ウイルスベースのシステムの効率、特定の組織又は細胞型を標的とする能力、目的の遺伝子の発現及び安全性は、遺伝子治療の応用の成功のために重要である。遺伝子発現を変化させ、送達を標的にし、ウイルス力価を改善し、安全性を向上させるためにアデノ随伴ウイルスベースのベクター及びヘルパー細胞の様々な改変が行われた。本発明は、目的の遺伝子をそのようなウイルスベクター内に効率的に送達するように働く点でこの設計過程の改善を示す。
【0089】
遺伝子送達のための理想的なアデノ随伴ウイルスベースのベクターは、効率的であり、細胞特異的であり、制御され、且つ安全でなければならない。送達の効率は重要である。その理由は、それが療法の有効性を決定しうるためである。現在の努力は、アデノ随伴ウイルスベクターによる細胞型特異的感染及び遺伝子発現を実現することを目的とする。更に、アデノ随伴ウイルスベクターは、目的の遺伝子の発現を制御するように開発されている。その理由は、療法は、長時間持続性又は制御発現を必要としうるからである。大部分のウイルスは、病原体である又は病原性を有するので、安全性は、ウイルス遺伝子送達に関する主要な問題である。遺伝子送達中に、患者は、完全な複製能を有する病原性ウイルスの投与を不用意に受けないことも重要である。
【0090】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、ヒト及びいくつかの他の霊長類の動物種を感染させる小型のウイルスである。AAVは、現在のところ疾患を引き起こすことは知られておらず、したがって、該ウイルスは、非常に軽度の免疫反応を引き起こす。AAVを用いる遺伝子治療ベクターは、分裂及び静止細胞の両方を感染させることができ、宿主細胞のゲノムに組み込まれることなく染色体外状態で存続する。これらの特徴により、AAVは、遺伝子治療用のウイルスベクターを創製するため及び同系ヒト疾患モデルの創製のための非常に魅力的な候補となっている。
【0091】
野生型AAVは、多くの特徴があるため遺伝子治療研究者らによるかなりの関心を集めた。これらのうちの主なものは、ウイルスの病原性の明らかな欠如である。野生型AAVは、非分裂細胞も感染させることができ、ヒト19番染色体の特定の部位(AAVS1と呼ぶ)における宿主細胞ゲノムに安定に組み込まれる能力を有する。この特徴により、時として癌の発生が後続する、ランダム挿入及び突然変異誘発の恐れをもたらすレトロウイルスよりも多少予測できるものとなっている。AAVゲノムは、最も高頻度には述べた部位に組み込まれるが、ゲノムへのランダム組込みは、無視できる頻度で起こる。しかし、遺伝子治療ベクターとしてのAAVの開発で、ベクターのDNAからのrep及びcapの除去によってこの組込み能力が失われた。所望の遺伝子は、該遺伝子の転写を促進するためのプロモーターと一緒に、一本鎖ベクターDNAが宿主細胞DNAポリメラーゼ複合体によって二本鎖DNAに転換された後に核内でのコンカテマー形成を促進するITR間に挿入される。AAVベースの遺伝子治療ベクターは、宿主細胞核内でエピソームコンカテマーを形成する。非分裂細胞では、これらのコンカテマーは、宿主細胞の命と引き換えであっても完全なままである。分裂細胞では、エピソームDNAは、宿主細胞DNAと共に複製されないので、AAV DNAは、細胞分裂により失われる。宿主ゲノムへのAAV DNAのランダム組込みは、検出可能であるが、非常に低い頻度で起こる。AAVは、一見したところ中和抗体の発生に限定される、非常に低い免疫原性も示すが、明確に定義される細胞傷害反応を誘発しない。この特徴は、静止細胞を感染させる能力と共に、ヒト遺伝子治療用のベクターとしてのアデノウイルスに対する優位性を示す。
【0092】
AAVゲノム、トランスクリプトーム及びプロテオーム
AAVゲノムは、約4.7キロ塩基長である、プラス又はマイナス鎖の一本鎖デオキシリボ核酸(ssDNA)の構築物である。該ゲノムは、DNA鎖の両末端における逆向き末端反復(ITR)並びに2つのオープンリーディングフレーム(ORF):rep及びcapを含む。前者は、AAVのライフサイクルに必要なRepタンパク質をコードする4つのオーバーラップ遺伝子から構成され、後者は、共に相互作用して正20面体対称のキャプシドを形成する、キャプシドタンパク質:VP1、VP2及びVP3のオーバーラップヌクレオチド配列を含む。
【0093】
ITR配列
逆向き末端反復(ITR)配列は、AAVゲノムの効率的な増殖に必要であることが示された、それらの対称性のためにそれらの命名を受けた。これらの配列の他の特性は、第二DNA鎖のプライマーゼ非依存性合成を可能にするいわゆる自己プライマー化に寄与する、ヘアピンを形成するそれらの能力である。ITRはまた、宿主細胞ゲノム(ヒトにおける19番染色体)へのAAV DNAの組込み及びそれからの救出に、並びに完全にアセンブルされた、デオキシリボヌクレアーゼ抵抗性AAV粒子の生成と相まってのAAV DNAの効率的なキャプシド形成に必要であることが示された。
【0094】
遺伝子治療に関して、ITRは、治療用遺伝子の次にシスで必要な唯一の配列であると思われ、構造(cap)及びパッケージング(rep)遺伝子は、トランスで送達することができる。この仮定により、リポーター又は治療用遺伝子を含む組換えAAV(rAAV)ベクターの効率的な作製のための多くの方法が確立された。しかし、ITRが、効果的な複製及びキャプシド形成にシスで必要な唯一のエレメントではないことも公表された。少数の研究グループは、rep遺伝子のコード配列内のシス作用性Rep依存性エレメント(CARE)と呼ばれる配列を同定した。CAREは、シスで存在する場会、複製及びキャプシド形成を増強させることが示された。
【0095】
2006年現在、11種のAAV血清型が報告されており、11番目は2004年に報告された。公知の血清型のすべてが複数の多様な組織型の細胞を感染させることができる。組織特異性は、キャプシド血清型によって決定され、それらの向性範囲を変化させるためのAAVベクターのシュードタイピングは、療法におけるそれらの使用にとって重要である可能性が高い。
【0096】
本発明のAAVベクターシステムに用いる逆向き末端反復(ITR)配列は、あらゆるAAV ITRでありうる。AAVベクターに用いるITRは、同じであっても異なってもよい。例えば、ベクターは、AAV血清型2のITR及びAAV血清型5のITRを含みうる。本発明のベクターの一実施形態では、ITRは、AAV血清型2、4、5又は8のものである。本発明において、AAV血清型2及びAAV血清型5のITRが好ましい。AAV ITR配列は、当技術分野で周知である(例えば、ITR2について、GenBank受託番号AF043303.1;NC_001401.2;J01901.1;JN898962.1参照;ITR5について、GenBank受託番号NC_006152.1参照)。
【0097】
血清型2
血清型2(AAV2)は、これまでに最も広範囲に検討された。AAV2は、骨格筋、ニューロン、血管平滑筋細胞及び肝細胞への天然向性を示す。
【0098】
AAV2に対する3種の細胞受容体として、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)、avβ5インテグリン及び線維芽細胞増殖因子受容体1(FGFR-1)が報告されている。最初の受容体は、主受容体として機能するが、後2者は、副受容体活性を有し、受容体媒介エンドサイトーシスによりAAVが細胞に侵入することを可能にする。これらの研究結果は、Qiu、Handaらによって異議が唱えられた。HSPGは、細胞外マトリックスにおけるその豊富さがAAV粒子を除去し、感染効率を減じうるが、主受容体として機能する。
【0099】
血清型2及び癌
研究により、血清型2のウイルス(AAV-2)は、健常な細胞を害することなく癌細胞を殺滅するようであることが示された。「我々の結果は、集団の大多数を感染させるが、公知の有害な作用を有さない、2型アデノ随伴ウイルスが複数の種類の癌細胞を殺滅するが、健常な細胞に対する何らの作用も有さないことを示唆している。」とペンシルベニア州のペンステート医科大学(Penn State College of Medicine in Pennsylvania)の免疫学及び微生物学の教授であるCraig Meyersが述べた。これは、新たな抗癌薬につながりうる。
【0100】
他の血清型
AAV2は、様々なAAVベースの研究における最も一般的な血清型であるが、他の血清型は、遺伝子送達ベクターとしてより有効でありうることが示されている。例えば、AAV6は、気道上皮細胞を感染させるのにはるかにより有効であると思われ、AAV7は、マウス骨格筋細胞の非常に高い形質導入率を示し(AAV1及びAAV5と同様に)、AAV8は、肝細胞及び光受容体に形質導入するのに優れており、AAV1及び5は、血管内皮細胞への遺伝子送達に非常に効率的であることが示された。脳では、大部分のAAV血清型は、ニューロン向性を示すが、AAV5は、星状細胞にも形質導入する。AAV1とAAV2のハイブリッドである、AAV6は、AAV2より低い免疫原性も示す。
【0101】
血清型は、それらが結合する受容体に関して異なりうる。例えば、AAV4及びAAV5形質導入は、可溶性シアル酸(これらの血清型のそれぞれについて異なる形態の)により抑制されうる。またAAV5は、血小板由来増殖因子受容体を介して細胞に侵入することが示された。
【0102】
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチド、発現構築物又はベクター構築物を含むウイルスベクターシステムに関する。一実施形態では、ウイルスベクターシステムは、AAVシステムである。異種ポリヌクレオチド又は構築物を含むウイルス及びビリオンを作製する方法は、当技術分野で公知である。AAVの場合、細胞は、アデノウイルス構築物又はAAVヘルパー機能に適するアデノウイルス遺伝子を含むポリヌクレオチド構築物で共感染又はトランスフェクトすることができる。材料及び方法の例は、例えば、米国特許第8,137,962号及び第6,967,018号に記載されている。本発明のAAVウイルス又はAAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10及びAAV11血清型を含むが、これらに限定されない、あらゆるAAV血清型でありうる。特定の実施形態では、AAV2又はAAV5又はAAV7又はAAV8又はAAV9血清型を利用する。一実施形態では、AAV血清型は、キャプシド表面上の1つ又は複数のチロシンのフェニルアラニンへの(Y-F)突然変異をもたらす。特定の実施形態では、AAVは、733位におけるチロシンのフェニルアラニンへの突然変異(Y733F)を有するAAV8血清型である。
【0103】
本発明によるベクターシステムによる1つ又は複数の治療用遺伝子又はプロモーター若しくはイントロン等の調節配列の送達は、単独で又は他の治療法若しくは治療法の構成要素と併用して用いることができる。
【0104】
本発明はまた、本発明の構築物システム又はウイルスベクターシステムを含む宿主細胞に関する。宿主細胞は、培養細胞又は初代細胞、すなわち、生物、例えば、ヒトから直接単離された細胞でありうる。宿主細胞は、接着細胞又は懸濁細胞、すなわち、懸濁液中で増殖する細胞でありうる。適切な宿主細胞は、当技術分野で公知であり、例えば、DH5α、大腸菌(E. coli)細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞、サルVERO細胞、COS細胞、HEK293細胞等を含む。細胞は、ヒト細胞又は他の動物由来のものでありうる。一実施形態では、細胞は、光受容体細胞又はRPE細胞である。特定の実施形態では、細胞は、錐体細胞である。細胞は、筋細胞、とりわけ骨格筋細胞、肺細胞、膵細胞、肝細胞、腎細胞、腸細胞、血球でもありうる。特定の実施形態では、細胞は、ヒト錐体細胞又は杆体細胞である。適切な宿主の選択は、本明細書における教示から当業者の範囲内にあると思われる。好ましくは、前記宿主細胞は、動物細胞、最も好ましくはヒト細胞である。細胞は、本発明のウイルスベクターシステムに備えられているヌクレオチド配列を発現しうる。
【0105】
当業者は、ポリヌクレオチド又はベクターの宿主細胞への組込みの標準的な方法、例えば、トランスフェクション、リポフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、ウイルス感染、熱ショック、膜の化学透過化後の形質転換又は細胞融合を十分に認識している。本発明の構築物又はベクターシステムは、トランスフェクション、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿等の当技術分野で公知の方法を用いて、及びバイオリスティック法(biolistic method)により、裸のDNAとしてin vivoで導入することもできる。
【0106】
本明細書で用いているように、「宿主細胞又は遺伝子組換え宿主細胞」という用語は、本発明の構築物システム又はウイルスベクターシステムで形質導入、形質転換又はトランスフェクトされた宿主細胞に関する。
【0107】
本明細書で用いているように、「核酸」及び「ポリヌクレオチド配列」及び「構築物」という用語は、一本又は二本鎖型のデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドポリマーを意味し、特に制限のない限り、天然ヌクレオチドと同様に機能しうる天然ヌクレオチドの公知の類似体を含むものとする。ポリヌクレオチド配列は、全長配列並びに全長配列に由来するより短い配列を含む。特定のポリヌクレオチドは、特定の宿主細胞におけるコドン選択を可能にするように導入されうる天然配列又は複数の天然配列の縮重コドンを含むことが理解される。本発明の範囲内に入るポリヌクレオチド配列は、本発明のペプチドをコードする配列と特異的にハイブリダイズする配列を更に含む。ポリヌクレオチドは、個別の鎖としての又は二重らせんにおけるセンス及びアンチセンス鎖を含む。
【0108】
本発明は、標準的厳密条件及び標準的方法のもとでの当配列とのハイブリダイゼーションを可能にするように本発明のポリヌクレオチド配列と十分に相同である配列を有するポリヌクレオチド分子も想定する(Maniatis, T.ら、1982年)。
【0109】
本発明はまた、構築物を発現させるべき意図される宿主細胞において機能しうる調節エレメントを含みうる構築物システムに関する。当業者は、適切な宿主細胞、例えば、哺乳類又はヒト宿主細胞に使用する調節エレメントを選択することができる。調節エレメントは、例えば、プロモーター、転写終結配列、翻訳終結配列、エンハンサー、シグナルペプチド、分解シグナル及びポリアデニル化エレメントを含む。本発明の構築物は、所望のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結したプロモーター配列を含みうる。
【0110】
本発明における使用が想定されるプロモーターは、天然遺伝子プロモーター、サイトメガウイルス(CMV)プロモーター(KF853603.1、bp149~735)、キメラCMV/ニワトリベータ-アクチンプロモーター(CBA)及び短縮型のCBA(smCBA)プロモーター(US8298818及びAAVGC1で処理した出生後グアニレートシクラーゼ1ノックアウトマウス網膜の錐体における光駆動錐体アレスチン転位)、ロドプシンプロモーター(NG_009115、bp4205~5010)、光受容体間レチノイド結合タンパク質プロモーター(NG_029718.1、bp4777~5011)、卵黄状黄斑ジストロフィー2プロモーター(NG_009033.1、bp4870~5470)、PR特異的ヒトGタンパク質共役受容体キナーゼ1(hGRK1;AY327580.1 bp1793~2087又はbp1793~1991)(Haireら、2006年;米国特許第8,298,818号)を含むが、これらに限定されない。しかし、当技術分野で公知のあらゆる適切なプロモーターを用いることができる。特定の実施形態では、プロモーターは、CMV又はhGRK1プロモーターである。一実施形態では、プロモーターは、1つの組織又は組織の群において選択的活性を示すが、他の組織においてはさほど活性でない又は全く活性でない組織特異的プロモーターである。一実施形態では、プロモーターは、光受容体特異的プロモーターである。更なる実施形態では、プロモーターは、錐体細胞特異的及び/又は杆体細胞特異的プロモーターである。
【0111】
好ましいプロモーターは、CMV、GRK1、CBA及びIRBPプロモーターである。更に好ましいプロモーターは、様々なプロモーターに由来する調節エレメントを組み合わせたハイブリッドプロモーター(例として、CMVプロモーターに由来するエンハンサー、CBAプロモーター及びSv40キメライントロンを組み合わせたキメラCBAプロモーター、本明細書でCBAハイブリッドプロモーターと呼ぶ)である。
【0112】
プロモーターは、当技術分野で公知の標準的技術を用いて構築物に組み込むことができる。プロモーターの複数のコピー又は複数のプロモーターを本発明のベクターに用いることができる。一実施形態では、プロモーターは、それがその天然の遺伝子の環境における転写開始部位からの距離に存在するのとほぼ同じ転写開始部位からの距離に配置することができる。この距離のある程度の変動は、プロモーター活性の実質的な低下が起こらなければ、許容される。本発明のシステムでは、転写開始部位は、一般的に5'構築物に含め、3'構築物には含めない。更なる実施形態では、転写開始部位は、分解シグナルの上流の3'構築物に含めることができる。
【0113】
本発明の構築物は、転写終結配列、翻訳終結配列、シグナルペプチド配列、配列内リボソーム侵入部位(IRES)、エンハンサーエレメント及び/又はウッドチャック肝炎ウイルス(WHV)転写後調節エレメント(WPRE)等の転写後調節エレメントを任意選択で含みうる。転写終結領域は、一般的に真核生物又はウイルス遺伝子配列の3'非翻訳領域から得ることができる。転写終結配列は、効率的な終結を可能にするためにコード配列の下流に配置することができる。本発明のシステムでは、転写終結部位は、一般的に3'構築物に含め、5'構築物には含めない。
【0114】
シグナルペプチド配列は、作動可能に連結したポリペプチドの、特定のオルガネラコンパートメントからタンパク質の作用部位及び細胞外環境に及ぶ広範囲の翻訳後の細胞における行き先への再配置の要因である情報をコードするアミノ末端配列である。エンハンサーは、遺伝子転写を増加させるシス作用性エレメントであり、ベクターに含めることもできる。エンハンサーエレメントは、当技術分野で公知であり、CaMV 35Sエンハンサーエレメント、サイトメガロウイルス(CMV)初期プロモーターエンハンサーエレメト及びSV40エンハンサーエレメトを含むが、これらに限定されない。構造遺伝子によりコードされるmRNAのポリアデニル化を導くDNA配列もベクターに含めることができる。好ましくは、本発明において、コード配列は、天然エクソン-エクソン接合部において第1及び第2の断片又は部分(5'末端部分及び3'末端部分)に分割する。好ましくはコード配列の各断片又は部分は、60kbのサイズを超えるべきでなく、好ましくはコード配列の各断片又は部分は、50Kb、40Kb、30Kb、20Kb、10Kbのサイズを超えるべきでない。好ましくはコード配列の各断片又は部分は、約2Kb、2.5Kb、3Kb、3.5Kb、4Kb、4.5Kb、5Kb、5.5Kb、6Kb、6.5Kb、7kb、7.5Kb、8Kb、8.5Kb、9Kb、9.5Kbのサイズ又はより小さいサイズを有しうる。
【0115】
スプライセオソームイントロンは、真核生物タンパク質コード遺伝子の配列内にしばしば存在する。イントロン内で、ドナー部位(イントロンの5'末端)、ブランチ部位(イントロンの3'末端の近く)及びアクセプター部位(イントロンの3'末端)がスプライシングのために必要である。スプライスドナー部位は、より大きな、さほど高度に保存されていない領域内の、イントロンの5'末端におけるほぼ不変の配列GUを含む。イントロンの3'末端におけるスプライスアクセプター部位は、ほぼ不変のAG配列によりイントロンを終わらせる。AGから上流(5'方向)にはピリミジン(C及びU)を多く含む領域又はポリピリミジン配列が存在する。ポリピリミジン配列の上流にアデニンヌクレオチドを含むブランチポイントが存在する。スプライシングアクセプターシグナル及びスプライシングドナーシグナルはまた、当業者によって当技術分野で公知の配列のうちから選択されうる。
【0116】
タンパク質の分解を媒介し、多重ウイルスシステムに関連して以前に使用されたことがないシグナルは、CL1、CL2、CL6、CL9、CL10、CL11、CL12、CL15、CL16、SL17のような短いデグロン、ミスフォールドタンパク質と構造的類似性を共有し、したがってユビキチン化システムによって認識されるC末端不安定ペプチド、ドナータンパク質のN末端におけるその融合が直接的タンパク質分解又はN末端則経路を介する分解の両方を媒介する、ユビキチン、CL1デグロンと同様に、ユビキチン化経路の酵素によって認識される構造において折り重なると予測される、9アミノ酸長ペプチドであるN末端PB29デグロン、mRNAの早期終結をもたらす人工終止コドン、マイクロRNA(miR)標的配列を含むが、これらに限定されない。
【0117】
当業者が容易に理解できるように、当業者が実験室で人工的に創出することができる変異体に加えて、天然に見いだされるタンパク質の多数の変異型配列が存在しうる。本発明のポリヌクレオチド及びポリペプチドは、本明細書で具体的に例示するもの、並びにその天然変異体、並びに人工的に創出することができるあらゆる変異体を、それらの変異体が所望の機能活性を保持している限りでは、含む。また、これらの変異型ポリペプチドが本明細書で具体的に例示するポリペプチドと実質的に同じ関連機能活性を保持している限り、ポリペプチドの配列内のアミノ酸の置換、付加又は欠失を除く本明細書で例示するポリペプチドの同じアミノ酸配列を有するポリペプチドは、本発明の範囲内にある。例えば、ポリペプチドの機能に影響を及ぼさないポリペプチド内の同類アミノ酸置換は、本発明の範囲内にあることになる。したがって、本明細書で開示するポリペプチドは、具体的に例示した配列の上述のような変異体及び断片を含むと理解すべきである。本発明は、本明細書で開示するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を更に含む。これらのヌクレオチド配列は、本明細書で示すタンパク質及びアミノ酸配列の知識を有する当業者によって容易に構築することができる。当業者によって理解されるように、遺伝コードの縮重は、当業者が特定のポリペプチド又はタンパク質をコードする様々なヌクレオチド配列を構築することを可能にするものである。特定のヌクレオチド配列の選択は、例えば、特定の発現システム又は宿主細胞のコドン使用頻度に依存しうる。対象ポリペプチドにおける具体的に例示するもの以外のアミノ酸の置換を有するポリペプチドも本発明の範囲内で想定される。例えば、置換されたアミノ酸を有するポリペプチドが、アミノ酸が置換されなかったポリペプチドと実質的に同じ活性を保持する限りは、非天然アミノ酸を本発明のポリペプチドのアミノ酸と置換することができる。非天然アミノ酸の例は、オルニチン、シトルリン、ヒドロキシプロリン、ホモセリン、フェニルグリシン、タウリン、ヨードチロシン、2,4-ジアミノ酪酸、α-アミノイソ酪酸、4-アミノ酪酸、2-アミノ酪酸、γ-アミノ酪酸、ε-アミノヘキサン酸、6-アミノヘキサン酸、2-アミノイソ酪酸、3-アミノプロピオン酸、ノルロイシン、ノルバリン、サルコシン、ホモシトルリン、システイン酸、τ-ブチルグリシン、τ-ブチルアラニン、フェニルグリシン、シクロヘキシルアラニン、β-アラニン、フルオロアミノ酸、β-メチルアミノ酸、C-メチルアミノ酸、N-メチルアミノ酸等のデザイナーアミノ酸(designer amino acid)及び一般的なアミノ酸類似体を含むが、これらに限定されない。非天然アミノ酸は、誘導体化側基を有するアミノ酸も含む。更に、タンパク質におけるアミノ酸のいずれかは、D(右旋性)型又はL(左旋性)型でありうる。アミノ酸は、一般的に次のクラスに分類することができる:非極性、非荷電極性、塩基性及び酸性。1つのクラスのアミノ酸を有するポリペプチドが同じクラスの他のアミノ酸で置換される同類置換は、置換を有するポリペプチドが置換を有さないポリペプチドと実質的に同じ生物学的活性を依然として保持している限りは、本発明の範囲内にある。Table 1(表2)に各クラスに属するアミノ酸の例の一覧を示す。
【0118】
【表2】
【0119】
また、これらの変異型ポリヌクレオチドが本明細書で具体的に例示するポリヌクレオチドと実質的に同じ関連機能活性を保持している(例えば、それらが、例示したポリヌクレオチドによりコードされるのと同じアミノ酸配列又は同じ機能活性を有するタンパク質をコードする)限り、ポリヌクレオチドの配列内のヌクレオチドの置換、付加又は欠失を除く本明細書で例示するポリヌクレオチドの同じヌクレオチド配列を有するポリペプチドは、本発明の範囲内にある。したがって、本明細書で開示するポリヌクレオチドは、具体的に例示した配列の上述のような変異体及び断片を含むと理解すべきである。
【0120】
本発明は、標準的厳密条件及び標準的方法のもとでの当配列とのハイブリダイゼーションを可能にするように本発明のポリヌクレオチド配列と十分に相同である配列を有するポリヌクレオチド分子も想定する(Maniatis, T.ら、1982年)。本明細書で述べるポリヌクレオチドは、本明細書で例示したものとのより詳細な同一性及び/又は類似性範囲に関して定義することができる。配列の同一性は、一般的に60%より大きい、好ましくは75%より大きい、より好ましくは80%より大きい、更により好ましくは90%より大きい、95%より大きいことがありうる。配列の同一性及び/又は類似性は、本明細書で例示した配列と比較して49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98若しくは99%又はより大きい。特に指定のない限り、本明細書で用いているように、2つの配列の配列同一性及び/又は類似性百分率は、Karlin及びAltschul(1993年)において修正された、Karlin及びAltschul(1990年)のアルゴリズムを用いて決定することができる。そのようなアルゴリズムは、Altschulら(1990年)のNBLAST及びXBLASTプログラムに組み込まれている。BLAST検索は、所望のパーセントの配列同一性を有する配列を得るためにNBLASTプログラム、スコア=100、語長=12を用いて実施することができる。比較の目的のためのギャップ入りアラインメントを得るために、Gapped BLASTをAltschulら(1997年)に記載のように用いることができる。BLAST及びGapped BLASTを利用する場合、それぞれのプログラム(NBLAST及びXBLAST)のデフォルトパラメーターを用いることができる。NCBI/N1Hウェブサイトを参照のこと。
【0121】
本発明はまた、本発明のベクターシステム若しくはウイルスベクターシステム又は宿主細胞を、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤又はアジュバントと任意選択で一緒に含む医薬組成物に関する。医薬担体、賦形剤又は希釈剤の選択は、意図される投与経路及び標準医薬実務に関して選択することができる。医薬組成物は、担体、賦形剤若しくは希釈剤として、又はそれに加えて、適切な結合剤、滑沢剤、懸濁化剤、コーティング剤、可溶化剤及び標的部位へのウイルスの侵入を促進又は増大させうる他の担体物質(例えば、脂質送達システム等)を含みうる。構築物又はベクターは、in vivo又はex vivoで投与することができる。
【0122】
ある量の化合物を含む、局所又は非経口投与に適応させた医薬組成物は、本発明の好ましい実施形態を構成する。非経口投与のために、該組成物は、他の物質、例えば、溶液を血液と等張性にするのに十分な塩類又は単糖類を含みうる滅菌水溶液の形で最適に用いることができる。本発明の医薬組成物は、網膜下注射により網膜に選択的に送達することができる。又はそれを非侵襲的方法により網膜に送達することができる注射用懸濁剤、眼ローション剤若しくは眼軟膏の形で調製することもできる。
【0123】
本発明との関連での、患者、とりわけヒトに投与される用量は、致死毒性を伴わず、好ましくは単に許容できるレベルの副作用又は病的状態をもたらすにすぎず、妥当な時間枠にわたる患者における治療反応を達成するのに十分であるべきである。当業者は、用量が対象の状態(健康)、対象の体重、もしあれば、併用療法の種類、治療の頻度、治療可能比、並びに病的状態の重症度及び病期を含む様々な因子に依存することを認識する。
【0124】
本発明の方法は、ヒト及び他の動物について用いることができる。本明細書で用いているように、「患者」及び「対象」という用語は、同義で用い、そのようなヒト及び非ヒト種を含むものとする。同様に、本発明のin vitro方法は、そのようなヒト及び非ヒト種の細胞に受けさせることができる。
【0125】
本発明はまた、1つ又は複数の容器に本発明の構築物システム若しくはウイルスベクターシステム又は宿主細胞を含むキットに関する。本発明のキットは、薬学的に許容される担体及び/又は希釈剤を任意選択で含みうる。一実施形態では、本発明のキットは、本明細書で述べる1つ又は複数の他の成分、添加物又はアジュバントを含む。一実施形態では、本発明のキットは、キットのベクターシステムをどのようにして投与するかを記述した使用説明書又は包装材料を含む。キットの容器は、適切な材料、例えば、ガラス、プラスチック、金属等からなるもので、適切なサイズ、形状又は構成のものでありうる。一実施形態では、本発明の構築物システム若しくはウイルスベクターシステム又は宿主細胞は、固体としてキットに備えられている。他の実施形態では、本発明の構築物システム若しくはウイルスベクターシステム又は宿主細胞は、液体又は溶液としてキットに備えられている。一実施形態では、キットは、液体又は溶液の形態の本発明の構築物システム若しくはウイルスベクターシステム又は宿主細胞を含むアンプル又は注射器を含む。
【0126】
本発明はまた、遺伝子治療により個体を治療するための医薬組成物を提供するものであって、該組成物は、治療有効量の1つ若しくは複数の送達可能な治療用及び/若しくは診断用導入遺伝子又はそれにより生成した若しくはそれから得られたウイルス粒子を含む本発明のベクターシステム若しくはウイルスベクターシステム又は宿主細胞を含む。医薬組成物は、ヒト又は動物用でありうる。一般的に、通常の熟練臨床医は、個々の対象に最も適切である実際の用量を決定し、それは、個々の個体の年齢、体重及び反応並びに投与経路により異なる。1×10e10~1×10e15ゲノムコピーの各ベクター/kg、優先的には1×10e11~1×10e13ゲノムコピーの各ベクター/kgの用量範囲がヒトにおいて有効であると予想される。1×10e10~1×10e15ゲノムコピーの各ベクター/眼、優先的には1×10e10~1×10e13の用量範囲が眼投与に有効であると予想される。
【0127】
投与方法及び投与すべき有効量は、通常の熟練臨床医によって決定されうる。投与は、単回投与又は複数回投与の形でありうる。ポリヌクレオチド、発現構築物及びベクターを用いる遺伝子治療を実施する一般的な方法は、当技術分野で公知である(例えば、Gene Therapy: Principles and Applications、Springer Verlag、1999年並びに米国特許第6,461,606号、第6,204,251号及び第6,106,826号参照)。本発明はまた、細胞中の選択されるポリペプチドを発現させる方法に関する。一実施形態では、方法は、選択されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を含む本発明のベクターシステムを細胞に組み込むことと、細胞中でポリヌクレオチド配列を発現させることとを含む。選択されるポリペプチドは、細胞と異種であるものでありうる。一実施形態では、細胞は、哺乳類細胞である。一実施形態では、細胞は、ヒト細胞である。一実施形態では、細胞は、光受容体細胞又はRPE細胞である。細胞は、筋細胞、とりわけ骨格筋細胞、肺細胞、膵細胞、肝細胞、腎細胞、腸細胞、血球でもありうる。特定の実施形態では、細胞は、錐体細胞又は杆体細胞である。特定の実施形態では、細胞は、ヒト錐体細胞又は杆体細胞である。
【0128】
配列
AP1(配列番号24)
AP2(配列番号25)
AK seqA(配列番号22)
AK seqB(配列番号23)
AP(配列番号26)
左ITR2(配列番号29)
右ITR2(配列番号30)
左ITR5(配列番号31)
右ITR5(配列番号32)
CMV
CMVエンハンサー(配列番号33)
CMVプロモーター(配列番号34)
キメライントロン(SV40イントロン)(配列番号35)
hGRK1プロモーター(配列番号36)
CBAハイブリッドプロモーター
CMVエンハンサー(配列番号37)
CBAプロモーター(配列番号38)
IRBP(配列番号39)
スプライシングドナーシグナル(配列番号27)
miR-let 7b分解シグナル(配列番号40)
4xmiR-let 7b分解シグナル(配列番号41)
miR-26a分解シグナル(配列番号13)
4xmiR-26a分解シグナル(配列番号18)
miR-204分解シグナル(配列番号11)
miR-124分解シグナル(配列番号12)
3xmiR-204+3xmiR-124分解シグナル(配列番号17)
CL1分解シグナル(デグロン)
ヌクレオチド配列:(配列番号16)
アミノ酸配列:(配列番号1)
CL2分解シグナル(デグロン)
ヌクレオチド配列:(配列番号42)
アミノ酸配列:(配列番号2)
CL6分解シグナル(デグロン)
ヌクレオチド配列:(配列番号43)
アミノ酸配列:(配列番号3)
CL9分解シグナル(デグロン)
ヌクレオチド配列:(配列番号44)
アミノ酸配列:(配列番号4)
CL10分解シグナル(デグロン)
ヌクレオチド配列:(配列番号45)
アミノ酸配列:(配列番号5)
CL11分解シグナル(デグロン)
ヌクレオチド配列:(配列番号46)
アミノ酸配列:(配列番号6)
CL12分解シグナル(デグロン)
ヌクレオチド配列:(配列番号47)
アミノ酸配列:(配列番号7)
CL15分解シグナル(デグロン)
ヌクレオチド配列:(配列番号48)
アミノ酸配列:(配列番号8)
CL16分解シグナル(デグロン)
ヌクレオチド配列:(配列番号49)
アミノ酸配列:(配列番号9)
SL17分解シグナル(デグロン)
ヌクレオチド配列:(配列番号50)
アミノ酸配列:(配列番号10)
PB29分解シグナル(デグロン)
ヌクレオチド配列:(配列番号19)
アミノ酸配列:(配列番号15)
ショートPB29分解シグナル(デグロン)
ヌクレオチド配列:(配列番号20)
アミノ酸配列:(配列番号14)
3x PB29分解シグナル(デグロン)(配列番号21)
人工終止コドン(配列番号51)
スプライシングアクセプターシグナル(配列番号28)
SV40 Poly A(配列番号52)
ABCA4 5'(配列番号53)
hGRK1-5' ABCA4+AK+CL1全長配列(配列番号54)
【0129】
【化1A】
【0130】
【化1B】
【0131】
説明:
ITR:肉太大文字
hGRKプロモーター:イタリック体肉太小文字
ABCA4 5':下線付き小文字
SDS:肉太小文字
AK:大文字
CL1:下線付きイタリック体小文字
Abca4_3'(配列番号55)
ABCA4 3'+AK_SV40全長配列(配列番号56)
【0132】
【化2A】
【0133】
【化2B】
【0134】
説明:
ITR:下線付き肉太大文字
AK:大文字
SAS:肉太小文字
ABCA4 3':下線付き小文字
SV40 polyA:イタリック体肉太小文字
CMV 5' ABCA4-SD-AK全長配列(配列番号57)
AK-SA-3' ABCA4-3XFLAG-SV40全長配列(配列番号58)
CMV 5' ABCA4-SD-AP1全長配列(配列番号59)
AP1-SA-3' ABCA4-3XFLAG-SV40全長配列(配列番号60)
CMV 5' ABCA4-SD-AP2全長配列(配列番号61)
AP2-SA-3' ABCA4-3XFLAG-SV40全長配列(配列番号62)
CMV 5' ABCA4-SD-AP全長配列(配列番号63)
AP-SA-3' ABCA4-3XFLAG-SV40全長配列(配列番号64)
hGRK1 5' ABCA4-SD-AP1全長配列(配列番号65)
GRK1 5' ABCA4-SD-AP2全長配列(配列番号66)
ITR5-CMV 5' ABCA4-SD-AK-ITR2全長配列(配列番号67)
ITR2-AK-SA-3' ABCA4-SV40-ITR5全長配列(配列番号68)
ITR5-CBA 5' MYO7A-SD-AK-ITR2全長配列(配列番号69)
ITR2-AK-SA-3' MYO7A-HA-BGH-ITR5全長配列(配列番号70)
CMV 5' ABCA4-3XFLAG-SD-AK-4xmiR26a全長配列(配列番号71)
CMV 5' ABCA4-3XFLAG-SD-AK-3xmiR204+3xmir124全長配列(配列番号72)
CMV 5' ABCA4-3XFLAG-SD-AK-CL1全長配列(配列番号73)
AK-STOP-SA-3' ABCA4-3XFLAG-SV40全長配列(配列番号74)
AK-PB29-SA-3' ABCA4-3XFLAG-SV40全長配列(配列番号75)
AK-3XPB29-SA-3' ABCA4-3XFLAG-SV40全長配列(配列番号76)
AK-UBIQUITIN-SA-3' ABCA4-3XFLAG-SV40全長配列(配列番号77)
【0135】
本発明は、以下の図面を参照して非限定的な実施例により例示することとする。
【図面の簡単な説明】
【0136】
図1】本発明の実施例の多重ベクター戦略の概略図である。ITR:逆向き末端反復;Prom:プロモーター;CDS、コード配列;SD、スプライシングドナーシグナル;RR:組換え遺伝子領域、AK又はアルカリホスファターゼ(AP1、AP2及びAP)由来;Deg Sig、分解シグナル(Table 2(表3)参照);SA、スプライシングアクセプターシグナル;pA、ポリアデニル化シグナル。A及びC:本発明の好ましい実施形態による、トランススプライシング及び組換え遺伝子領域を含む、(二重又は三重)ハイブリッドベクター戦略を示す。B及びD:(二重又は三重)ベクターオーバーラップベクター戦略を示す。更なる例については、図12~14を参照のこと。
図2】AK、AP1及びAP2相同性の領域を用いた効率的なABCA4タンパク質発現を示す図である。(a、c)(a)二重AAV2/2(AAV血清型2、AAV2に由来する同種ITRを有する)ベクターを感染させたHEK293細胞(50マイクログラム/レーン)又は(c)ABCA4をコードする二重AAV2/8(AAV血清型8、AAV2に由来する同種ITRを有する)ベクターを注射したC57BL/6網膜(全網膜溶解物)の代表的なウエスタンブロット解析を示す。矢印は、全長タンパク質を示し、分子量ラダーを左に示す。(b)(a)におけるウエスタンブロット解析からのABCA4タンパク質バンドの定量を示す。(a)におけるABCA4バンドの強度をフィラミンAバンドの強度で割った。ヒストグラムは、タンパク質の発現を二重AAVハイブリッドAKベクターに対する百分率として示し、平均値は、対応するバーの上に示す。値は、平均値±s.e.m.(平均値の標準誤差)として表す。*pANOVA<0.05;アステリスクは、AK、AP1及びAP2との有意差を示す。(a-c)AK:二重AAVハイブリッドAKベクターを感染させた細胞又は注射した眼;AP1:二重AAVハイブリッドAP1ベクターを感染させた細胞又は注射した眼;AP2:二重AAVハイブリッドAP2ベクターを感染させた細胞又は注射した眼;AP:二重AAVハイブリッドAPベクターを感染させた細胞;neg:陰性対照としての、3'-半ベクター又はEGFP発現ベクターを感染させた細胞又は注射した眼。α-3xflag:抗3xflag抗体を用いたウエスタンブロット;α-フィラミンA、ローディング対照として用いた、抗フィラミンA抗体を用いたウエスタンブロット;α-ディスフェリン、ローディング対照として用いた、抗ディスフェリン抗体を用いたウエスタンブロット。
図3】異種ITR2及びITR5を有するベクターのゲノム及び形質導入効率を示す図である。 (a)同種(2:2)又は異種(5:2又は2:5)ITRを有する5'-及び3'-ABCA4半ベクター並びに同種ITR2を有する対照AAV調製物(CTRL)の3×1010GCから抽出したDNAのアルカリサザンブロット解析を示す。各ゲノムの予測サイズを各レーンの下に示す。分子量マーカー(kb)を左に示す。5':5'-半ベクター;3':3'-半ベクター。(b~d)ITR2(b及びc)又は導入遺伝子(b及びd)力価に基づくm.o.i.における異種ITR2及びITR5又は同種ITR2を有するAAV2/2ハイブリッドABCA4ベクターを感染させたHEK293細胞の代表的なウエスタンブロット解析及び定量を示す。ウエスタンブロット画像(b)は、n=3独立実験を代表するものである。定量(c及びd)は、n=3独立実験から得られたものである。(b)上部の矢印は、全長ABCA4タンパク質を示し、下部の矢印は、短縮型タンパク質を示す。分子量ラダーを左に示す。加えたタンパク質のマイクログラム数を画像の下に示す。α-3×flag:抗3×flag抗体を用いたウエスタンブロット;α-フィラミンA:ローディング対照として用いた抗フィラミンA抗体を用いたウエスタンブロット。(c及びd)ITR2(c)又は導入遺伝子(d)力価に基づく用量のベクターを感染させた細胞のウエスタンブロット解析からの全長及び短縮型ABCA4タンパク質バンドの定量を示す。ヒストグラムは、フィラミンAバンドの強度で割った全長及び短縮型タンパク質バンドの強度又は対応するレーンにおける短縮型タンパク質バンドの強度で割った全長タンパク質バンドの強度を示す。MYO7Aをコードする異種ITR2及びITR5又は同種ITR2を有する二重AAV2(AAV血清型2)ハイブリッドベクターを感染させたHEK293細胞の代表的なウエスタンブロット解析及び定量を示す(e、f)。ウエスタンブロット画像(e)は、n=3独立実験を代表するものであり、定量(f)は、該実験から得られたものである。(e)上部の矢印は、全長タンパク質を示し、下部の矢印は、短縮型タンパク質を示す。分子量ラダーを左に示す。加えたタンパク質のマイクログラム数を画像の下に示す。(f)ウエスタンブロット解析によるMYO7Aタンパク質バンドの定量を示す。平均値は、対応するバーの上に示す。値は、平均値±s.e.m.として表す。*p スチューデントのt検定≦0.05。 2:2 2:2: AAV2に由来する同種ITRを有する二重AAVハイブリッドベクターを感染させた細胞;5:2 2:5: AAV2及びAAV5に由来する異種ITRを有する二重AAVハイブリッドベクターを感染させた細胞;neg:陰性対照としての、EGFP発現ベクターを感染させた細胞。
図4】5'-半ベクターにおけるmiR標的部位の包含は短縮型タンパク質産物の有意な減少をもたらさないことを示す図である。 miR-let7b(左パネル)、miR-204+124(中央パネル)又はmiR-26a(右パネル)に関するmiR標的部位を含む、ABCA4をコードする二重AAV2/2(AAV血清型2)ハイブリッドベクターを感染させたHEK293細胞の代表的なウエスタンブロット解析を示す。上部の矢印は、全長ABCA4タンパク質を示し、下部の矢印は、短縮型タンパク質を示す。分子量ラダーを左に示す。加えたタンパク質のマイクログラム数を画像の下に示す。5'+3':miR標的部位を含まない5'-半ベクター及び3'-半ベクターを共感染させた細胞;5'+3'+スクランブル:スクランブルmiR模倣体の存在下でmiR標的部位を含まない5'-半ベクター及び3'-半ベクターを共感染させた細胞;5'mir+3':miR標的部位を含む5'-半ベクター及び3'-半ベクターを共感染させた細胞;5'mir+3'+スクランブル:スクランブルmiR模倣体の存在下でmiR標的部位を含む5'-半ベクター及び3'-半ベクターを共感染させた細胞;5'mir+3'+模倣let7b:mir-let7b模倣体の存在下でmiR標的部位を含む5'-半ベクター及び3'-半ベクターを共感染させた細胞;5':miR標的部位を含まない5'-半ベクターを感染させた細胞;5'mir:スクランブルmiR模倣体の存在下でmiR標的部位を含む5'-半ベクターを感染させた細胞;5'mir+模倣let7b:mir-let7b模倣体の存在下でmiR標的部位を含む5'-半ベクターを感染させた細胞;neg:3'-半ベクター又はEGFP発現ベクターを感染させた対照細胞;5'mir+3'+模倣204+124: mir-204及び124模倣体の存在下でmiR標的部位を含む5'-半ベクター及び3'-半ベクターを共感染させた細胞;5'mir+模倣204+124:mir-204及び124模倣体の存在下でmiR標的部位を含む5'-半ベクターを感染させた細胞;5'mir+3'+模倣26a:mir-26a模倣体の存在下でmiR標的部位を含む5'-半ベクター及び3'-半ベクターを共感染させた細胞;5'mir+模倣26a:mir-26a模倣体の存在下でmiR標的部位を含む5'-半ベクターを感染させた細胞。α-3xflag:抗3xflag抗体を用いたウエスタンブロット;α-フィラミンA、ローディング対照として用いた抗フィラミンA抗体を用いたウエスタンブロット。 スクランブル配列は、例えば、mir-let7b模倣体を用いた実験における異なるmiRNAの配列に対応し、スクランブル配列は、mir26aの配列である。
図5】5'-半ベクターにおけるCL1分解シグナルの包含が短縮型タンパク質産物の有意な減少をもたらすことを示す図である。 (a)二重AAV2/2(AAV血清型2、AAV2に由来する同種ITRを有する)ハイブリッドベクターを感染させたHEK293細胞又は(b)ABCA4をコードし、CL1分解シグナルを含む若しくは含まない二重AAV2/8(AAV血清型8、AAV2に由来する同種ITRを有する)ハイブリッドベクターの注射1カ月後のブタ眼(RPE+網膜)の代表的なウエスタンブロット解析を示す。上部の矢印は、全長ABCA4タンパク質を示し、下部の矢印は、5'-半ベクターからの短縮型タンパク質を示す。分子量ラダーを左に示す。加えたタンパク質のマイクログラム数を各画像の下に示す。5'+3':CL1を含まない5'-半ベクター及び3'-半ベクターを共感染させた細胞又は共注射した眼;5'-CL1+3':CL1を含む5'-半ベクター及び3'-半ベクターを共感染させた細胞又は共注射した眼;5':CL1を含まない5'-半ベクターを感染させた細胞;5'-CL1:CL1を含む5'-半ベクターを感染させた細胞;neg:陰性対照としての、3'-半ベクター又はEGFP発現ベクターを感染させた対照細胞又は注射した対照眼;α-3xflag:抗3xflag抗体を用いたウエスタンブロット;α-フィラミンA:ローディング対照として用いた、抗フィラミンA抗体を用いたウエスタンブロット;α-ディスフェリン:ローディング対照として用いた、抗ディスフェリン抗体を用いたウエスタンブロット。(a)ウエスタンブロット画像は、n=3独立実験を代表するものである。(b)ウエスタンブロット画像は、5'+3'ベクターを注射したn=5眼、5'-CL1+3'ベクターを注射したn=2眼及び陰性対照としての3'-半ベクター又はEGFP発現ベクターを注射したn=5の眼を代表するものである。
図6】3'-半ベクターにおける分解シグナルの包含が短縮型タンパク質産物のわずかな減少をもたらすことを示す図である。 ABCA4をコードし、種々の分解シグナルを含む二重AAV2/2ハイブリッドベクターを感染させたHEK293細胞の代表的なウエスタンブロット解析を示す。上部の矢印は、全長ABCA4タンパク質を示し、下部の矢印は、短縮型タンパク質産物を示す。分子量ラダーを左に示す。加えたタンパク質のマイクログラム数を各画像の下に示す。5'+3':分解シグナルを含まない5'-及び3'-半ベクターを共感染させた細胞;5':5'-半ベクターを感染させた細胞;3'(無標識):分解シグナルを含まない3'-半ベクターを感染させた細胞;stop:終止コドンを含む3'-半ベクターを感染させた細胞;PB29:PB29分解シグナルを含む3'-半ベクターを感染させた細胞;3xPB29:PB29分解シグナルの3つのタンデムコピーを含む3'-半ベクターを感染させた細胞;ユビキチン:ユビキチン分解シグナルを含む3'-半ベクターを感染させた細胞;α-3xflag:抗3xflag抗体を用いたウエスタンブロット;α-フィラミンA:ローディング対照として用いた、抗フィラミンA抗体を用いたウエスタンブロット。
図7】本発明の好ましい実施形態で用いたALPP(胎盤アルカリホスファターゼ)由来のAP、AP1及びAP2相同領域の概略図である。CDS:コード配列
図8】改良型二重AAVベクターの網膜下送達がマウス光受容体におけるABCA4発現及びAbca4-/-マウス網膜におけるリポフスチンの蓄積の有意な減少をもたらすことを示す図である。(a)二重AAV2/8ハイブリッドABCA4ベクター(5'+3')又は陰性対照(neg)を注射したC57BL/6網膜(全網膜溶解物)の代表的なウエスタンブロット解析を示す。矢印は、全長タンパク質を示す。分子量ラダーを左に示す。α-3×flag:抗3×flag抗体を用いたウエスタンブロット;α-ディスフェリン:ローディング対照として用いた、抗ディスフェリン抗体を用いたウエスタンブロット。(b及びc)対照としてのAAVを注射しなかった若しくは注射した色素沈着Abca4+/-マウス(Abca4+/-)又は二重AAVハイブリッドABCA4ベクターを注射しなかった(Abca4-/-)若しくは注射した(Abca4-/- AAV5'+3')色素沈着Abca4-/-マウスの網膜(RPE又はRPE+OS)におけるリポフスチン自己蛍光(赤色シグナル)の代表的な写真(b)及び定量(c)を示す。(b)スケールバー(75μm)を写真に示す。RPE:網膜色素上皮;ONL:外顆粒層;INL:内顆粒層;GCL:神経節細胞層。矢印は、リポフスチンシグナルを示す。(c)各試料の3つの切片の側頭側における平均リポフスチン自己蛍光を示す。各切片における平均自己蛍光を下層のRPEの長さについて標準化した。平均値を対応するバーの上に示す。値は、平均値±s.e.m.として表す。***p ANOVA<0.0001。各群についてn=4眼。(d)PBSを注射しなかった(Abca4+/+ not inj)又は注射した(Abca4+/+ PBS)アルビノAbca4+/+マウス及びPBS(Abca4-/- PBS)又は二重AAVハイブリッドABCA4ベクター(Abca4-/- AAV5'+3')を注射したアルビノAbca4-/-マウスの少なくとも40視野(25μm2)/網膜において計数したRPEリポフスチン顆粒の平均数を示す。平均値を対応するバーの上に示す。値は、平均値±s.e.m.として表す。*pANOVA≦0.05;**pANOVA≦0.01。Abca4+/+ not injのn=4眼;Abca4+/+ PBSのn=4眼;Abca4-/- PBSのn=3眼;Abca4-/- AAV5'+ 3'のn=3眼。
図9】マウス及びブタの陰性対照又は改良型二重AAV処理眼の間の類似した電気的活性を示す図である。(a)二重AAVハイブリッドABCA4ベクター(AAV5'+3')又は陰性対照(すなわち、陰性対照AAVベクター又はPBS;neg)の注射1カ月後のC57BL/6マウスの平均a波(左パネル)及びb波(右パネル)振幅を示す。データは、平均値±s.e.m.として表す。Nは、解析した眼の数を示す。 (b)二重AAVハイブリッドABCA4ベクター(AAV5'+3')又はPBSの注射1カ月後のブタにおける暗所、最大応答、明所及び点滅ERG試験における平均b波振幅(μV)を示す。二重AAVハイブリッドABCA4ベクターを注射したn=5眼;PBSを注射したn=4;*: n=2。
図10】ブタ杆体及び錐体光受容体におけるIRBP及びGRK1プロモーターからのEGFPタンパク質発現を示す図である。3カ月齢のラージホワイト種(Large White)ブタに1×1011GC/眼のAAV2/8-IRBP-又はAAV2/8-GRK1-EGFPベクターを網膜下注射した。注射4週間後に網膜低温切片を得て、蛍光顕微鏡法を用いてEGFPを解析した。(a~b)PR層における蛍光強度の代表的な画像(a)及び定量(b)を示す。蛍光強度は、低温切片(6つの異なる視野/眼;倍率20×)において動物の各群について定量した。(c~d)錐体形質導入効率の代表的な画像(c)及び定量(d)を示す。錐体形質導入効率は、抗LUMIf-hCAR抗体で免疫染色した低温切片(6つの異なる視野/眼;倍率63×)において評価し、各視野における錐体(CAR+)の総数に対するEGFPを発現する錐体(EGFP+/CAR+)の数として表す。(a、c)スケールバーを写真に示す。(b~d)AAV2/8-IRBP-EGFPベクターを注射したn=3眼;AAV2/8-GRK1-EGFPベクターを注射したn=3眼。値は、平均値±s.e.m.として表す。スチューデントのt検定を用いて有意な差は認められなかった。OS:外節;ONL:外顆粒層;EGFP:天然EGFP蛍光;CAR:抗錐体アレスチン染色;DAPI: 4',6'-ジアミジノ-2-フェニルインドール染色。矢印は、形質導入錐体を示す。
図11】改良型二重AAVベクターの網膜下送達がAbca4-/-マウス網膜におけるリポフスチンの蓄積の有意な減少をもたらすことを示す図である。対照としてのAAVを注射しなかった若しくは注射した色素沈着Abca4+/-マウス(Abca4+/-)又は二重AAVハイブリッドABCA4ベクターを注射しなかった(Abca4-/-)若しくは注射した(Abca4-/- AAV5'+3')色素沈着Abca4-/-マウスの網膜(RPE又はRPE+OS)におけるリポフスチン自己蛍光(赤色シグナル)を示す網膜断面の側頭(注射)側の画像のモンタージュを示す。各群についてn=4眼。T:側頭側;N:鼻側。
図12】マウス及びブタの陰性対照又は改良型二重AAV処理眼の間の類似した電気的活性を示す図である。(a)二重AAVハイブリッドABCA4ベクター(AAV5'+3')又は陰性対照(すなわち、陰性対照AAVベクター又はPBS;neg)の注射1カ月後のC57BL/6マウスからの代表的なERGトレースを示す。(b)二重AAVハイブリッドABCA4ベクター(AAV5'+3')又はPBSの注射1カ月後のブタにおける暗所、最大応答、明所及び点滅ERG試験からの代表的なトレースを示す。
図13A】本発明の実施例によるベクターシステム戦略の概略図である。本発明の好ましい実施形態による2つのベクターからなるベクターシステムの概略図であり、第1のベクターは、コード配列の第1の部分(CDS1部分)を含み、第2のベクターは、コード配列の第2の部分(CDS2部分)を含む。(A1)ベクターシステムの再構成配列は、コード配列部分のオーバーラップ末端にある。(A2)第1及び第2のベクターの再構成配列は、スプライシングドナー及びスプライシングアクセプター配列にそれぞれある。(A3)各再構成配列は、A2と同様に配置されたスプライシングドナー/アクセプターを含み、組換え遺伝子領域を更に含む。分解シグナルは、ベクターの少なくとも1つに含まれる。図に各ベクターについて、本発明の好ましい非限定的な実施形態による、ベクターシステムの1つ又は複数の分解シグナルのすべての可能な位置を示す。 CDS、コード配列;SD、スプライスドナーシグナル;RR:組換え遺伝子領域;Deg Sig;分解シグナル(Table 2(表3)参照);SA、スプライスアクセプターシグナル。
図13B】本発明の実施例によるベクターシステム戦略の概略図である。本発明の好ましい実施形態による3つのベクターからなるベクターシステムの概略図であり、第1のベクターは、コード配列の第1の部分(CDS1部分)を含み、第2のベクターは、コード配列の第2の部分(CDS2部分)を含み、第3のベクターは、コード配列の第3の部分(CDS3部分)を含む。(B1)ベクターシステムの再構成配列は、コード配列部分のオーバーラップ末端にある(CDS1の3'末端がCDS2の5'末端とオーバーラップし、CDS2の3'末端がCDS3の5'末端とオーバーラップしている)。(B2)第1のベクターの再構成配列は、スプライシングドナーにあり、第2のベクターは、CDS2の5'末端における第1の再構成配列及びCDS2の3'末端における第2の再構成配列を含み、第1の再構成配列は、スプライシングアクセプターであり、第2は、スプライシングドナーであり、第3のベクターの再構成配列は、スプライシングアクセプターにある。(B3)各再構成配列は、B2と同様に配置されたスプライシングドナー/アクセプターを含み、組換え遺伝子領域を更に含む。分解シグナルは、ベクターの少なくとも1つに含まれる。図に各ベクターについて、本発明の好ましい非限定的な実施形態による、ベクターシステムの1つ又は複数の分解シグナルのすべての可能な位置を示す。 CDS、コード配列;SD、スプライスドナーシグナル;RR:組換え遺伝子領域;Deg Sig;分解シグナル(Table 2(表3)参照);SA、スプライスアクセプターシグナル。
図14】大遺伝子導入のための先行技術多重ベクターベースの戦略の概略図である。CDS:コード配列;pA:ポリアデニル化シグナル;SD:スプライスドナーシグナル;SA:スプライシングアクセプターシグナル;AP:アルカリホスファターゼ組換え遺伝子領域;AK:F1ファージ組換え遺伝子領域。破線は、SDとSAの間でスプライシングが起こることを示し、点線は、相同組換えに利用可能なオーバーラップ領域を示す。正常サイズ及び過剰サイズAAVベクタープラスミドは、プロモーターを含む全長発現カセット、全長導入遺伝子CDS及びポリアデニル化シグナル(pA)を含んでいた。二重AAVベクターを作製するために必要な2つの別個のAAVベクタープラスミド(5'及び3')は、プロモーターとそれに続く導入遺伝子CDSのN末端部分(5'プラスミド)又は導入遺伝子CDSのC末端部分とそれに続くpAシグナル(3'プラスミド)を含んでいた。
【発明を実施するための形態】
【0137】
材料及び方法
プラスミドの作製
AAVベクターの製造のために用いたプラスミドはすべて、AAV血清型2の逆向き末端反復(ITR)を含むヒトABCA4、ヒトMYO7A又はEGFPリポータータンパク質をコードする二重ハイブリッドAKベクタープラスミドに由来するものであった14
【0138】
ABCA4をコードするベクタープラスミドに含まれていたAK組換え遺伝子配列14をアルカリホスファターゼ遺伝子に由来する3種の異なる組換え遺伝子配列:AP(NM_001632、bp823~110014);AP1(XM_005246439.2、bp1802~151620);AP2(XM_005246439.2、bp1225~93820)で置換した。
【0139】
5:2-2:5配置のAAV血清型2の異種ITR(ITR2)及びAAV血清型5のITR(ITR5)を有する二重AAVベクタープラスミドは、5'-半ベクタープラスミドにおける左ITR2及び3'-半ベクタープラスミドにおける右ITR2をそれぞれITR5(NC_006152.1、bp 1~175)で置換することによって作製した。2:5又は5:2配置の異種ITR2及びITR5を有する二重AAVベクタープラスミドは、右又は左ITR2をそれぞれITR5で置換することによって作製した。Rep5(NC_006152.1、bp171~2206)及びAAV2 Cap(AF043303、bp2203~2208)遺伝子(Rep5Cap2)を含むpAAV5/2パッケージングプラスミドは、Rep2遺伝子をAAV5に由来するRep5オープンリーディングフレーム(NC_006152.1、bp171~2206)で置換することによって、AAV2に由来するRep(AF043303 bp321~1993)及びCap(AF043303 bp2203~2208)遺伝子(Rep5Cap2)を含む、pAAV2/2パッケージングプラスミドから得た。
【0140】
ITR5を有するEGFP発現カセットを含むpZac5:5-CMV-EGFPプラスミドは、EGFP発現カセットに隣接したITR2を含む、pAAV2.1-CMV-EGFPプラスミドから作製した45
【0141】
分解シグナルは、ABCA4をコードする二重AAVハイブリッドAKベクターに、次のように、AK配列と右ITR2の間の5'-半ベクタープラスミドに、AK配列とスプライスアクセプターシグナルの間の3'-半ベクタープラスミドにクローニングした。分解シグナル配列に関する詳細は、Table 2(表3)に見いだすことができる。
【0142】
【表3】
【0143】
下線付き配列は、分解シグナルに対応する。反復配列を含む分解シグナルについて、クローニングの目的のための反復配列の間に含まれていた下線付きでないヌクレオチドを示す。
【0144】
二重AAVベクターから発現するABCA4タンパク質は、図3及び図4並びに図6に示した実験のためにN末端(アミノ酸位置590)及びC末端の両方に、並びに図2及び図8aにおける実験のためにC末端のみに3xflagによりタグを付ける。
【0145】
本試験で用いたABCA4をコードする二重AAVハイブリッドベクターセットは、遍在性CMV46又はPR特異的ヒトGタンパク質共役受容体キナーゼ1(GRK1)47プロモーターを含んでいたが、MYO7Aをコードする二重AAVハイブリッドベクターは、遍在性CBAプロモーター39を含んでいた。
【0146】
AAVベクターの製造及び特徴付け
AAVベクター大規模調製物は、HEK293細胞の三重トランスフェクションとそれに続く2ラウンドのCsCl2精製によりTIGEM AAV Vector Coreに製造された。同種ITR2を有するAAVベクターは、以前に記載されたように得た48
【0147】
異種ITR2及びITR5を有するAAVベクターを得るために、1.1×109個の低継代数のHEK293細胞の懸濁液にAdヘルパー遺伝子49、260μgのpAAVシス-プラスミド並びに種々の量のRep2Cap2及びRep5パッケージング構築物を含む500μgのpDeltaF6ヘルパープラスミドをリン酸カルシウムにより四重トランスフェクトした。Rep2Cap2及びRep5パッケージング構築物の量は、以下の通りであった。
(i)プロトコールA: 130μgの各Rep5及びRep2Cap2(比1:1)
(ii)プロトコールB: 90μgのRep5及び260μgのRep2Cap2(比1:3)
(iii)プロトコールC: 26μgのRep5及び260μgのRep2Cap2(比1:10)
次いで各AAV調製物を公表されたプロトコール48に従って精製した。
【0148】
下記のプロトコールをRep競合実験に用いた。
1- ITR2を有するAAVベクターの生成に対するRep5とRep2との競合を評価するために、HEK293細胞に2:1:1.5:1.5の質量比のpDeltaF6、pAAV2.1-CMV-EGFPシス、Rep2Cap2及びRep5Cap2構築物をリン酸カルシウムにより四重トランスフェクトするか、又は対照として、2:1:1.5:1.5の質量比のpDeltaF6、pAAV2.1-CMV-EGFP、Rep2Cap2パッケージング構築物及び対照無関連プラスミドを四重トランスフェクトした。
2- ITR5を有するAAVベクターの生成に対するRep5とRep2との競合を評価するために、HEK293細胞に2:1:1.5:1.5の質量比のpDeltaF6、pZac5:5-CMV-EGFP、Rep5Cap2及びRep2Cap2構築物をリン酸カルシウムにより四重トランスフェクトするか、又は対照として、2:1:1.5:1.5の質量比のpDeltaF6、pZac5:5-CMV-EGFP、Rep5構築物及び対照無関連プラスミドを四重トランスフェクトした。
【0149】
大規模AAVベクター調製物については、物理的力価[ゲノムコピー(GC)/mL]は、ITR2上にアニールしたプローブを用いてTaqMan(Applied Biosystems、Carlsbad、CA、USA)48を用いたPCR定量により得られた力価及びITR2から1kb以内にアニールしたプローブを用いてドットブロット解析50より得られた力価を平均することによって決定した。異なるRep5:Rep2Cap2質量比を用いて製造された大規模AAVベクター調製物については、物理的力価[ゲノムコピー(GC)/mL]は、ITR2にアニールしたプローブを用いてTaqManを用いたPCR定量により決定した。競合実験に用いたAAVベクター調製物については、物理的力価[ゲノムコピー(GC)]は、AAVベクターにパッケージングされるEGFP発現カセットに含まれた、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナル上にアニールしたプローブを用いてTaqManを用いたPCR定量により決定した。
【0150】
HEK293細胞のAAV感染
HEK293細胞のAAV感染は、以前に記載されたように実施した14。異種ITR2及びITR5を有し、プロトコールCに従って製造されたAAV2ベクターを用いて、各ウイルス調製物について得られる最低力価を考慮して計算された各ベクターの1×104GC/細胞(本発明者らが1:1の比の二重AAVベクターを用いた場合、2×104総GC/細胞)の感染多重度(m.o.i)でHEK293細胞を感染させた。組換え遺伝子領域及び分解シグナルを有するAAV2/2による感染は、TaqManとドットブロットとの平均力価を考慮して計算された各ベクターの5×104GC/細胞(1:1の比の二重AAVベクターの場合、1×105総GC/細胞)のm.o.iで行った。
【0151】
miR標的部位を含む5'-半ベクターを用いる実験のために、対応するmiR模倣体(50nM;miRIDIANマイクロRNA mimic hsa-let-7b-5p、hsa-miR-204-5p、hsa-miR-124-3p及びhsa-miR-26a-5p;Dharmacon社、Lafayette、CO、USA)による感染の4時間前にリン酸カルシウムを用いて細胞をトランスフェクトした。
【0152】
マウス及びブタにおけるAAVベクターの網膜下注射
マウスは、遺伝学生物物理学研究所(Institute of Genetics and Biophysics)の動物舎(Naples、Italy)に収容し、12時間明/暗サイクル(明期中10~50ルクス曝露)のもとで飼育した。C57BL/6マウスをHarlan Italy SRL社(Udine、Italy)から購入した。色素沈着Abca4-/-マウスは、アルビノAbca4-/-マウス14とSv129マウスとの連続交配により作製し、同系交配を維持した。繁殖は、異型接合マウスを同型接合マウスと交配して行った。アルビノAbca4-/-マウスは、連続交配により作製し、BALB/cマウス(Rpe65 Leu450について同型接合)と戻し交配し、同系交配を維持した。繁殖は、異型接合マウスを同型接合マウスと交配して行った。C57BL/6(5週齢)、色素沈着Abca4-/-(5.5カ月齢)及びアルビノAbca4-/-(2.5~3カ月齢)マウスを以前に記載された61ように麻酔し、次いで1μlのPBS又はAAV2/8ベクターをLiangら62により記載された経強膜経脈絡膜アプローチにより網膜の側頭側に網膜下送達した。AAV2/5-VMD2-ヒトチロシナーゼ63(用量:2×108GC/眼)を、アルビノAbca4-/-マウスに網膜下送達したAAV2/8ベクター溶液に加えた(図8d)。これにより、我々がその後に切開し、解析した、アイカップの導入された部分内のRPEに標識を付けることができた。
【0153】
本試験に用いたラージホワイト種雌ブタは、LW Herd Book of the Italian National Pig Breeders' Associationに純血種として登録されていた。ブタは、Cardarelli病院の動物舎(Naples、Italy)に収容し、12時間明/暗サイクル(明期中10~50ルクス曝露)のもとで飼育した。本試験は、視覚眼科学研究協会の眼科・視覚研究における動物実験指針(Association for Research in Vision and Ophthalmology Statement for the Use of Animals in Ophthalmic and Vision Research)及びイタリア保健省動物実験に関する規則(Italian Ministry of Health regulation for animal procedures)に準拠して実施した。すべての手順は、イタリア保健省公衆衛生局動物保健栄養食物安全部門(Italian Ministry of Health; Department of Public Health, Animal Health, Nutrition and Food Safety)に提出した。手術は、麻酔下で実施し、苦痛を最小限にするためのあらゆる努力を払った。動物は、以前に記載された39ように屠殺した。3カ月齢のブタへのAAVベクターの網膜下送達は、以前に記載された39ように実施した。すべての眼に100μlのPBS又はAAV2/8ベクター溶液を投与した。AAV2/8の用量は、1×1011GCの各ベクター/眼であり、したがって、1:1の比の二重AAVの共注射では、総用量が2×1011GC/眼となった。
【0154】
図2c図5b図8図9図10図11及び図12に含めた動物試験については、右及び左目を種々の実験群に無作為に割り当て、実験を実施し、定量した研究者を動物が受けた処置に対して盲検化した。
【0155】
ウエスタンブロット解析
ウエスタンブロット解析のために、HEK293細胞、マウス及びブタ網膜をRIPA緩衝液(50mM Tris-HCl pH8.0、150mM NaCl、1% NP40、0.5%Na-デオキシコレート、1mM EDTA pH8.0、0.1%SDS)で溶解した。溶解緩衝液にプロテアーゼ阻害剤(完全プロテアーゼ阻害剤カクテル錠剤;Roche社)及び1mMフェニルメチルスルホニルを添加した。溶解後、MYO7Aを含む細胞の試料を1×Laemli試料緩衝液中で99℃で5分間変性し、ABCA4を含む試料を4M尿素を添加した1×Laemli試料緩衝液中で37℃で15分間変性した。溶解物を6~7%(それぞれABCA4及びMYO7A試料)又は8%(図5bにおけるWB)SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離した。イムノブロッティングに用いた抗体は、次の通りである:抗3xflag(1:1000、A8592;Sigma-Aldrich社);ヒトMYO7Aタンパク質のアミノ酸941~1070に対応するペプチドを用いて得た抗MYO7A(1:500、ポリクローナル;Primm Srl社、Milan、Italy);抗フィラミンA(1:1000、カタログ#4762;Cell Signaling Technology社、Danvers、MA、USA);抗ディスフェリン(1:500、ディスフェリン、クローンHam1/7B6、MONX10795;Tebu-bio社、Le Perray-en-Yveline、France)。ウエスタンブロットにより検出されたABCA4及びMYO7Aバンドの定量は、ImageJソフトウエア(http://rsbweb.nih.gov/ij/で無料ダウンロード利用可能)を用いて実施した。異種ITR2及びITR5を有するAAVを用いて実施したin vitro実験については、全長ABCA4及びMYO7Aバンドの強度は、対応するレーンにおける短縮型タンパク質産物の強度に対して又はフィラミンAバンドの強度に対して標準化したが、より短いABCA4及びMYO7Aタンパク質バンドの強度は、フィラミンAバンドの強度に対して標準化した。分解シグナル又は相同領域を有するAAVベクターを用いて得られたABCA4バンドの強度は、in vitro実験のフィラミンAバンド又はin vivo実験のディスフェリンバンドの強度に対して標準化した。
【0156】
ウエスタンブロット実験の定量は、以下の通りに実施した。
- 図2a図2b:ABCA4バンドの強度を対応するレーンにおけるフィラミンAバンドの強度に対して標準化した。次いで標準化ABCA4発現を二重AAVハイブリッドAKベクターに対する百分率として表した。
- 図2c:ABCA4バンドの強度(a.u.)を各ゲルの陰性対照レーンにおける同じレベルで測定された平均強度に対する増加の倍率として計算した(左下パネルのレーン7における陰性対照試料の測定は、例外的に高いバックグラウンドシグナルを考慮して解析から除外した)。各群の値を平均値±平均値の標準誤差(s.e.m.)として表す。
- 図3b図3d:全長ABCA4及び短縮型タンパク質バンド強度をフィラミンAバンドの強度で割った。又は全長ABCA4タンパク質バンドの強度を対応するレーンにおける短縮型タンパク質バンドの強度で割った。値は、平均値±s.e.m.として表す。
- Table 5(表6):5'-及び3'-半ベクターを共感染させた細胞中の全長ABCA4及び短縮型タンパク質バンド強度を測定した。対応する模倣体又はスクランブル模倣体の存在下の全長ABCA4及び短縮型タンパク質バンドの強度間の比を計算した。値は、3回の独立した実験から得られた比の平均値±s.e.m.を示す。
- Table 6(表7):5'-及び3'-半ベクターを共感染させた細胞中の全長ABCA4及び短縮型タンパク質バンド強度を測定した。分解シグナルを有する又は有さないベクターからの全長ABCA4及び短縮型バンドの強度間の比を計算した。値は、3回の独立した実験から得られた比の平均値±s.e.m.を示す。
- 図8a:ABCA4バンドの強度(a.u.)を対応するゲルの陰性対照レーンにおける測定された平均バックグラウンド強度に対する増加の倍率として計算した。値は、平均値±s.e.m.として表す。
【0157】
サザンブロット解析
3つのx1010GCのウイルスDNAをAAV粒子から抽出した。パッケージングされていないゲノムを消化するために、ベクター溶液を240μlのpH7.4 19(GIBCO;Invitrogen S.R.L.社、Milan、Italy)中に再懸濁し、次いで、40mM TRIS-HCl、10mM NaCl、6mM MgCl2、1mM CaCl2 pH7.9を含む300μlの総容積中1U/μlのDNase I(Roche社)と共に37℃で2時間インキュベートした。次いで、DNase Iを50mM EDTAにより不活性化した後、プロテイナーゼK及び2.5% N-ラウロイル-サルコシル溶液と共に50℃で45分間インキュベートして、キャプシドを溶解した。DNAをフェノール-クロロホルムで2回抽出し、2容積のエタノール100及び10%酢酸ナトリウム(3M、pH7)で沈殿させた。アルカリアガロースゲル電気泳動及びブロッティングを以前に記載されたように実施した(Sambrook & Russell、2001年、Molecular Cloning)。10μlの1kb DNAラダー(N3232L;New England Biolabs社、Ipswich、MA、USA)を分子量マーカーとして加えた。2種の二本鎖DNA断片をDIGハイプライムDNAラベリング及び検出スターターキット(Roche社)を用いてジゴキシゲニン-dUTPで標識し、プローブとして用いた。5'プローブ(768bp)は、SpeI及びNotIを有するpZac2.1-CMV-ABCA4_5'プラスミドの二重消化により作製し、3'プローブ(974bp)は、ClaI及びMfeIを有するpZac2.1-ABCA4_3'_3xflag_SV40プラスミドの二重消化により作製した。プレハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーションは、Church緩衝液(Sambrook & Russel、2001年、Molecular cloning)中で65℃でそれぞれ1時間及び一夜実施した。次いで、膜(Whatman Nytran N、荷電ナイロン膜;Sigma-Aldrich社、Milan、Italy)を最初にSSC 29-0.1% SDSで30分間、次いでSSC 0.59-0.1% SDSで65℃で30分間、次いでSSC 0.19-0.1% SDSで37℃で30分間洗浄した。次いで膜をDIG DNA Labeling and Detection Kit(Roche社)を用いて酵素免疫測定法による化学発光検出により解析した。
【0158】
組織学的解析
マウスを安楽死させ、次いでそれらの眼球を採取し、4%パラホルムアルデヒド(PFA)中に浸漬することにより一夜固定した。眼球を採取する前に、含める時に注射部位に眼の方向を合わせるために、強膜の側頭側を焼灼により印を付けた。アイカップを無傷のままとして、水晶体及び硝子体を除去できるように眼球を切断した。マウスのアイカップに低温保存用30%スクロースを浸透させ、組織凍結媒体(O.C.T.マトリックス;Kaltek社、Padua、Italy)に埋め込んだ。各眼について、150~200枚の連続切片(厚さ10μm)を水平面に沿って切り出し、各スライドガラスが異なるレベルの全眼をそれぞれ代表する15~20枚の切片を含むように、切片を10枚のスライドガラス上に漸進的に分配した。切片を4',6'-ジアミジノ-2-フェニルインドール(Vectashield;Vector Lab社、Peterborough、United Kingdom)で染色し、種々の倍率でZeiss Axiocam(Carl Zeiss社、Oberkochen、Germany)によりモニターした。
【0159】
ブタを屠殺し、それらの眼球を採取し、4%PFA中に浸漬することにより一夜固定した。アイカップを所定の位置に残したまま、水晶体及び硝子体を除去できるように眼球を切断した。アイカップに10%、20%及び30%スクロースを漸進的に浸透させることによって、アイカップを徐々に脱水した。組織凍結媒体(O.C.T.マトリックス;Kaltek社)への埋込みを行った。埋込みの前に、EGFPコードベクターを投与する場合に導入領域を特定するためにブタアイカップを蛍光立体顕微鏡(Leica Microsystems GmbH社、Wetzlar、Germany)で解析した。各眼について、200~300枚の連続切片(厚さ12μm)を水平経線に沿って切り出し、各スライドガラスが6~10枚の切片を含むように、切片をスライドガラス上に漸進的に分配した。切片の染色及び画像の取得は、マウスについて述べたように実施した。
【0160】
錐体免疫蛍光染色
凍結網膜切片をPBSで1回洗浄し、次いで0.1% Triton X-100を含むPBS中で1時間透過処理した。10%正常ヤギ血清を含むブロッキング溶液(Sigma-Aldrich社)を1時間加えた。一次抗体[抗ヒトCAR66,67、ブタCARも認識する(「Luminaire founders」-hCAR、1:10,000;Dr. Cheryl M. Craft、Doheny Eye Institute、Los Angeles、CAによりご好意により提供された)]をPBSで希釈し、4℃で一夜インキュベートした。二次抗体(Alexa Fluor 594、抗ウサギ、1:1,000;Molecular Probes、Invitrogen社、Carlsbad、CA)を45分間インキュベートした。抗CAR抗体で染色した切片を以前に記載された64ように、Leicaレーザー共焦点顕微鏡システム(Leica Microsystems GmbH社)を用いて63xの倍率で解析した。手短に述べると、各眼について6つの異なる導入領域の6つの異なるzスタックを撮影した。各zスタックについて、単一の面からの画像を用いて、CAR+/EGFP+細胞を計数した。これを行うに際して、本発明者らは、Z軸に沿って注意深く移動して、1つの細胞と他の細胞を区別し、それにより同じ細胞を2回数えることを避けた。各網膜について、本発明者らは、総CAR+細胞におけるCAR陽性(CAR+)/EGFP陽性(EGFP+)細胞を計数した。次いで、本発明者らは、各実験群の3つの眼のCAR+/EGFP+細胞の平均数を計算した。
【0161】
EGFPの定量
PRにおける蛍光強度を以前に記載された64ように不偏の方法で厳密且つ再現性良く定量した。Leica顕微鏡(Leica Microsystems GmbH社)を用いて個々の色チャンネル画像を撮影した。画像解析ソフトウエア(LAS AF lite;Leica Microsystems GmbH社)を用いてTIFF画像をグレースケール化した。各眼の6つの画像を盲検化観察者が20xの倍率で解析した。すべての画像におけるPR(外顆粒層+OS)に選択的に輪郭を付け、囲まれた部分の総蛍光を画像解析ソフトウエアを用いて不偏の方法で計算した。次いで各眼の別個の網膜切片から収集した6つの画像のPRにおける蛍光を平均した。次いで本発明者らは、各実験群の3つの眼の平均蛍光を計算した。
【0162】
リポフスチン自己蛍光の定量
リポフスチン蛍光解析のために、AAVの注射3カ月後に色素沈着Abca4+/-及びAbca4-/-マウスから眼を採取した。マウスは、一夜暗順応させ、暗赤色灯下で屠殺した。各眼について、TX2フィルター(励起:560±40nm;発光:645±75)71-75を装着したLeica DM5000B顕微鏡を用いて、20X対物レンズ下で眼の異なる領域の3つの切片の側頭側の4つのオーバーラップ写真を撮影した。次いで各切片の4つの画像を、更なる蛍光解析に用いた単一モンタージュに併合した。各切片におけるリポフスチン蛍光(赤色シグナル)の強度をImageJソフトウエアを用いて自動的に計算し、次いで蛍光の範囲の下層のRPEの長さについて標準化した。
【0163】
透過型電子顕微鏡法
電子顕微鏡解析のために、AAVの注射3カ月後にアルビノAbca4-/-及びAbca4+/+マウスから眼を採取した。眼を0.1M PHEM緩衝液pH6.9(240mM PIPES、100mM HEPES、8mM MgCl2、40mM EGTA)中0.2%グルタルアルデヒド-2%パラホルムアルデヒドで一夜固定し、次いで0.1M PHEM緩衝液ですすいだ。次いで眼を光学顕微鏡下で切開して、アイカップのチロシナーゼ陽性部分を選択した。アイカップの導入部分をその後12%ゼラチンに埋め込み、2.3Mスクロースを注入し、液体窒素で凍結した。低温切片(50nm)をLeica超ミクロトームEM FC7(Leica Microsystems社)を用いて切断し、まつ毛を結び付けるPRを縦方向に整列させるように細心の注意を払った。様々な実験群への形態学的データの帰属のバイアスを避けるために、リポフスチン顆粒の計数は、盲検化操作者(Dr. Roman Polishchuk)がiTEMソフトウエア(Olympus SYS社、Hamburg、Germany)を用いて実施した。iTEMソフトウエアの「Touch count」モジュールを用いて、RPE層にわたってランダムに分布した25μm2の範囲内のリポフスチン顆粒の数(少なくとも40個)を計数した。顆粒密度は、25μm2当たりの顆粒の数として表した。
【0164】
網膜電図記録
マウス及びブタにおける電気生理学的記録は、それぞれ(68)及び(69)に詳述されているように実施した。
【0165】
統計解析
≦0.05のp値を統計的に有意であるとみなした。事後多重比較法を伴う一元配置ANOVA(R statistical software)を用いて、図2b(pANOVA=1.2×10-6)、図2c(pANOVA=0.326)、図8c(pANOVA=1.5×10-10)、図8d(pANOVA=0.034)及び図9a(pANOVA a波:0.5;pANOVA b波:0.8)並びにTable 6(表7)(pANOVA=0.0135)に示すデータを比較した。リポフスチン顆粒の計数(図8d)は、離散的な数として表されるので、これらは、負の二項一般化線形モデル65からの逸脱により解析した。事後多重比較法により判定された群間の統計的に有意な差は、次の通りである:図2b: AP対AK: 1.08×10-5;AP1対AK: 0.05;AP2対AK: 0.17;AP1対AP: 1.8×10-6;AP2対AP: 2.8×10-6;AP2対AP1: 0.82;図8c: Abca4+/- not inj対Abca4-/- not inj: 0.00;Abca4-/- not inj対Abca4-/- AAV5'+3': 9.3×10-5;Abca4+/- not inj対Abca4-/- AAV5'+3': 4×10-6;図8d: Abca4-/- PBS対Abca4-/- AAV5'+3': 0.01;Abca4+/+ PBS対Abca4-/- AAV5'+3': 0.37;Abca4+/+ not inj対Abca4-/- AAV5'+3': 0.53;Abca4+/+ PBS対Abca4-/- PBS: 0.05;Abca4+/+ not inj対Abca4-/- PBS: 0.03;Abca4+/+ not inj対Abca4+/+ PBS: 0.76;Table 6(表7): 3xSTOP対無分解シグナル:0.97;3xSTOP対PB29: 1.0;0;3xSTOP対3xPB29: 0.15;3xSTOP対ユビキチン:0.10;PB29対無分解シグナル:1.0;PB29対3xPB29: 0.1;PB29対ユビキチン:0.07;3xPB29対無分解シグナル:0.06;3xPB29対ユビキチン:1.0;ユビキチン対無分解シグナル:0.04。スチューデントのt検定を用いて、図3c図3d
図3fに示すデータを比較した。
【0166】
結果
AP1、AP2又はAK組換え遺伝子領域を含む二重AAVハイブリッドベクターは、効率的な形質導入を示す
本発明者らは、図1及び図13に示すいくつかの多重ベクター戦略を評価した。
【0167】
とりわけ、本発明者らは、異なる相同領域を有する二重AAVハイブリッドベクターの導入効率を並行して評価した。この目的のために、本発明者らは、普遍CMVプロモーターの制御下の、ABCA4-3xflagコード配列、及びAK14、AP14、AP1又はAP220相同領域(図7)を含む二重AAV2/2ハイブリッドベクターを作製した。本発明者らは、これらのベクターを用いてHEK293細胞を感染させた[各ベクターの感染多重度、m.o.i.: 5×104ゲノムコピー(GC)/細胞]。細胞溶解物を抗3xflag抗体を用いたウエスタンブロットにより解析して、ABCA4-3xflagを検出した(図2)。二重AAVハイブリッドベクターセットのそれぞれは、陰性対照を加えたレーンで検出されなかった予測されたサイズの全長タンパク質の発現をもたらした(図2a)。ABCA4発現の定量(図2b)により、二重AAVハイブリッドAP1及びAP2ベクターによる感染は、二重AAVハイブリッドAKベクターよりもわずかに高いレベルの導入遺伝子発現をもたらし、すべてが二重AAVハイブリッドAPベクターより有意に機能が優れていたことが示された14。本発明者らは、相同組換えに依拠する二重AAVベクターの効率が細胞培養におけるよりもPRとして最終的に分化した細胞で低いことを以前に見いだした14。したがって、本発明者らは、PR特異的ヒトGタンパク質共役受容体キナーゼ1(GRK1)プロモーターを含む二重AAV AK、AP1及びAP2ベクターの網膜下投与(各ベクター/眼の用量:1.9×109GC;図2c)後のC57BL/6マウスにおけるPR特異的導入レベルを評価した。ベクターの投与1カ月後に本発明者らは、AP1又はAP2ベクターよりも二重AAVハイブリッドAKを投与した網膜で一貫性のあるABCA4タンパク質発現を検出した(図2c)。
【0168】
AAVベクターに異種ITRを含めることは、それらの生成収量に影響を及ぼし、短縮型タンパク質産物のレベルを低下させない
異種ITRを用いることによって、二重AAVベクターの生産的な方向性コンカテマー化が改善するかどうかを試験するために、本発明者らは、5:2(AAV5に由来する左ITR及びAAV2に由来する右ITR)又は2:5(AAV2に由来する左ITR及びAAV5に由来する右ITR)配置の異種ITR2及びITR5を有する配列をコードするABCA4-3xflag又はMYO7A-HAを含んでいた二重AAV2/2ハイブリッドAKベクターを作製した(図1)。異種ITR2及びITR5を有する二重AAVベクターの生成には、クロスコンプレメント(cross-complement)ウイルス複製をしえないAAV血清型2及び5に由来するRepタンパク質の同時発現を必要とする23。実際、同種ITRより効率的でないが、Rep2及びRep5は、ITR2又はITR5に交互に結合することができることが示されたが、それらは、他の血清型に由来するITRの末端溶解部位を切断できないことが示された36。したがって、異種ITR2及びITR5を有する二重AAVハイブリッドAKベクターを作製する前に、本発明者らは、同じ量のRep5Cap2及びRep2Cap2パッケージング構築物(比1:1)を用いて、(i)AAV2/2-CMV-EGFPベクター(すなわち、同種ITR2を有するベクター)の生成におけるRep2とのRep5の及び(ii)AAV5/2-CMV-EGFPベクター(すなわち、同種ITR5を有するベクター)の生成におけるRep5とのRep2の競合の可能性を評価した。実際、Rep5Cap2パッケージング構築物をRep2Cap2に加えて用意した場合、AAV2/2-CMV-EGFPベクターの総収量が、Rep2Cap2のみをパッケージング構築物として用意した場合に得られた対照調製物の収量の42%に低下する(各種類の4つの独立した調製物の平均、p スチューデントのt検定<0.05)。逆に、Rep5Cap2がトランスフェクトされた唯一のパッケージング構築物であった場合に得られたものの83%であった、Rep2Cap2をRep5Cap2に加えた場合に得られたAAV5/2-CMV-EGFP調製物の総収量の有意な差は認められなかった(各種類の4つの独立した調製物の平均、スチューデントのt検定を用いた場合、有意な差は認められなかった)。ITR2を有するベクターの生成におけるRep5のRep2との競合を考慮して、本発明者らは、異種ITR2及びITR5を有するAAVの生成におけるRep5及びRep2Cap2パッケージング構築物の間の3種類の異なる比を試験した(Rep5/Rep2Cap2比がプロトコールAで1:1、プロトコールBで1:3及びプロトコールCで1:10)。Table 3(表4)に示すように、ITR2にアニールしたプローブを用いたPCR定量により決定されたウイルス力価は、Rep5の量が低下した場合、漸進的に増大し、プロトコールCによって最良の力価が得られた。
【0169】
【表4】
【0170】
これらの結果から、ITR2を有するベクターの生成時のRep5とRep2の競合が確認され、我々が異種ITR2及びITR5を有するAAVベクターの生成のためにプロトコールCに従うこととなった。しかし、この戦略により得られたいくつかのAAV調製物は、(i)ITR2の完全性が損なわれていることを示唆しうる、ITRの間の導入遺伝子配列において決定された力価よりもITR2において決定された最大6倍低い力価(Table 4(表5))、並びに(ii)同種ITR2を含むものと比較して異種ITR2及びITR5を有するAAVベクターの総収量の約6倍の平均低下(Table 4(表5))を示した。
【0171】
【表5】
【0172】
しかし、異種ITRを有するAAV調製物のサザンブロット解析により、ゲノムの完全性の明らかな変化は示されなかった(図3a)。
【0173】
二重AAVハイブリッドAKベクターに異種ITRを含めることにより、短縮型タンパク質の産生が低下すると同時に尾-頭生産性コンカテマーの形成及び全長タンパク質導入が増大するかどうかを試験するために、本発明者らは、HEK293細胞に異種ITR2及びITR5(5:2/2:5配置の)又は同種ITR2を有するABCA4又はMYO7Aをコードする二重AAVハイブリッドベクターを感染させた(図3b図3e)。
【0174】
同種ITRについては該当しない、異種ITRを有するベクターのITR2及び導入遺伝子力価の間の差(Table 4(表5))を考慮して、本発明者らは、細胞にITR2又は導入遺伝子力価に基づいて104ゲノムコピー(GC)/細胞の各ベクターを感染させた。抗3xflag(ABCA4-3xflagを検出するための、図3b)又は抗Myo7a(図3e)抗体を用いた、ITR2力価に基づいて二重AAVベクターを感染させたHEK293細胞のウエスタンブロット解析で、異種ITR2及びITR5を含めることにより、同種ITR2よりも高いレベルの全長及び短縮型タンパク質が得られることが示された(図3b図3c図3d図3f)。しかし、HEK293細胞に導入遺伝子力価に基づいて同じ二重AAVベクター調製物を感染させた場合には、これは認められなかった(図3b図3d)。結論として、全長及び短縮型タンパク質発現の間の比は、ベクターに含めたITR(図3c図3d図3f)及び細胞に投与するのに用いたベクター力価(図3b図3c図3d)と無関係に同様であった。
【0175】
5'-半ベクターにおけるCL1デグロンは、短縮型タンパク質産物の産生を減少させる
二重AAVハイブリッドベクターの各5'-及び3'-半分14によって産生される短縮型タンパク質産物のレベルを選択的に低下させるために、本発明者らは、AKと右ITRの間のスプライシングドナーシグナルの後の5'-半ベクターに、及びAKとスプライシングアクセプターシグナルの間の3'-半ベクターに推定分解配列を配置した(図1)。したがって、分解シグナルは、短縮型タンパク質に含まれるが、スプライシングされたmRNAから生じる全長タンパク質には含まれない。5'-半ベクターにおける分解シグナルとして、本発明者らは、(i)CL1デグロン(CL1)、(ii)4コピーのmiR-let7b標的部位(4×Let7b)、(iii)4コピーのmiR-26a標的部位(4×26a)又は(iv)miR-204及びmiR-124標的部位のそれぞれ3コピーの組合せ(3×204+3×124)(Table 2(表3))を含めた。3'-半ベクターにおける分解シグナルとして、本発明者らは、(i)3つの終止コドン(STOP)、(ii)単一(PB29)若しくは3つのタンデムコピー(3×PB29)のPB29又は(iii)ユビキチン(Table 2(表3))を含めた。本発明者らは、様々な分解シグナルを含むABCA4をコードする二重AAV2/2ハイブリッドAKベクターを作製し、HEK293細胞の感染[m.o.i.: 5×104ゲノムコピー(GC)/細胞の各ベクター]の後のそれらの有効性を評価した。miR-let7b、miR-26a、miR-204及びmiR-124が不十分に発現する又はHEK293細胞中に完全に非存在である(Ambion miRNA Research Guide及び37)ことから、これらのmiRの標的部位を含む構築物のサイレンシングを試験するために、本発明者らは、対応する標的部位を含むAAV2/2ベクターによる感染の前に細胞をmiR模倣体(すなわち、内因性miRを模倣する低分子の化学修飾二本鎖RNA38)にトランスフェクトさせた。対応するmiR標的部位を含む遺伝子のサイレンシングを達成するために必要なmiR模倣体の濃度を明らかにするために、本発明者らは、リポーターEGFPタンパク質をコードし、ポリアデニル化シグナルの前のmiR標的部位を含むプラスミドを用いた(データは示さず)。二重AAVハイブリッドAKベクターとの関連でのmiR標的部位の更なる評価に同じ実験構成を用いた。本発明者らは、二重AAVハイブリッドAKベクターの5'-半分にmiR-204+124及び26a標的配列を含めることにより、全長タンパク質発現が影響を受けることなく、短縮型タンパク質産物の発現が低減したが、消失しなかったことを見いだした(図4)。それと異なって、miR-let7b標的部位を含めることは、短縮型タンパク質発現を低減させるのに有効でなかった(図4)。
【0176】
特に、図5aに示すように、本発明者らは、5'-半ベクターにCL1分解シグナルを含めることにより、全長タンパク質発現が影響を受けることなく、短縮型タンパク質発現が検出不可能なレベルに低減した(図5a)ことを見いだした。CL1分解を媒介するユビキチン化経路の酵素の組織特異的発現の差異31がCL1の有効性の変化の原因でありうるので、本発明者らは、ヒトと類似したサイズ及び構造を有し19,30,39,40、したがって、ベクターの安全性及び効率を評価するための優れた前臨床大型動物モデルである、ブタ網膜におけるCL1デグロンの有効性を更に評価した。この目的のために、本発明者らは、ABCA4をコードするAAV2/8二重AAVハイブリッドAKベクター(その5'-半ベクターがCL1配列を含んでいた又は含んでいなかった)(各ベクター/眼の用量:1×1011GC)をラージホワイト種ブタに網膜下注射した。特に、本発明者らは、5'-半ベクターにCL1分解シグナルを含めることにより、全長タンパク質発現が影響を受けることなく、ウエスタンブロット解析の検出限界を下回る短縮型タンパク質発現の有意な低下がもたらされたことを見いだした(図5b)。3'-半ベクターにおいて試験した分解シグナルのうちで、本発明者らは、STOPコドンが短縮型タンパク質の産生に影響を及ぼさなかったことを見いだした。これと異なって、PB29(単一又は3つのタンデムコピーの)及びユビキチンはすべて、短縮型タンパク質発現を低減するのに有効であった。しかし、ユビキチンは、全長タンパク質発現も消失させたが、PB29は、全長タンパク質の産生により低い程度に影響を及ぼした(図6)。
【0177】
3'-半ベクターにおいて試験した分解シグナルのうちで、本発明者らは、短縮型タンパク質産物及び全長タンパク質のレベルの両方を低下させた3つ(PB29、3xPB29及びユビキチン)を特定した(図6並びにTable 5(表6)及びTable 6(表7))。
【0178】
【表6】
【0179】
【表7】
【0180】
改良型二重AAVベクターの網膜下投与は、Abca4-/-網膜におけるリポフスチンの蓄積を減少させる
我々の所見に基づいて、改良型二重AAVハイブリッドABCA4ベクターは、同種ITR2、AK相同領域及びCL1を含むべきである。ABCA4は、ヒトにおける杆体及び錐体光受容体の両方において発現する70ので、本発明者らは、様々な種における高レベルの同時の杆体及び錐体PR導入を駆動すると記載された53-55、ヒトGRK1(Gタンパク質共役受容体キナーゼ1)又はIRBP(光受容体間レチノイド結合タンパク質)プロモーターに由来するEGFPをコードする単一AAV2/8ベクターのPR導入特性を比較することによって、ABCA4の送達のための適切なプロモーターを同定した。ヒト黄斑と同様の錐体:杆体=1:356を有する縞状領域を含むブタ網膜構造を利用して、本発明者らは、1×1011GC/眼のAAV2/8-GRK1-又はIRBP-EGFPベクターを3カ月齢のラージホワイト種ブタに網膜下注射した。注射4週間後に、本発明者らは、蛍光顕微鏡下で対応する網膜低温切片を解析した。PR細胞層におけるEGFP蛍光の定量(図10a図10b)により、両プロモーターが同等のレベルのPR導入(この領域における主として杆体)をもたらすことが示された。しかし、本発明者らが、EGFP陽性でもあった錐体アレスチン(CAR)57に対する抗体で標識された錐体の数を計数した場合、本発明者らは、GRK1プロモーターによる統計的に有意でないが、より高いレベルの錐体PR導入を認めた(材料、図10c図10d)。これに基づいて、本発明者らは、GRK1プロモーターを我々の改良型二重AAVハイブリッドABCA4ベクターに含め、ABCA4を発現する、及びAbca4-/-マウスのRPEにおけるA2E含有自己蛍光リポフスチン物質の異常な含量を減少させるそれらの能力を検討した。本発明者らは、最初に1カ月齢のC57/BL6マウスに改良型二重AAVベクター(各ベクター/眼の用量:2×109GC)を網膜下注射し、注射眼の24例中12例(50%)がウエスタンブロットによる変動性であるが、検出可能なレベルの全長ABCA4タンパク質を有していたことを見いだした[図8a;ABCA4陽性眼におけるABCA4タンパク質レベル:2.8±0.7a.u.(平均値±平均値の標準誤差)]。これは、異なる型の二重AAVプラットフォームが50%のABCA4発現眼をもたらした14という我々の以前の所見と同様である。本発明者らは、次に5.5カ月齢の色素沈着Abca4-/-マウスの眼の側頭領域に改良型二重AAVベクター(各ベクター/眼の用量:1.8×109GC)を網膜下注射した。3カ月後に本発明者らは、眼を採取し、眼の側頭領域における網膜低温切片上[RPE単独又はRPE+外節(OS)における]のリポフスチン蛍光(励起:560±40nm;発光:645±75)のレベルを測定した(図8b図8c及び図11)。本発明者らは、眼のこの領域におけるリポフスチン蛍光強度が治療用二重AAVハイブリッドABCA4ベクターを注射したAbca4+/-及び-/-マウスよりも無処置Abca4-/-において有意に高かったことを見いだした(図8b図8c及び図11)。次いで、透過型電子顕微鏡法を用いて、本発明者らは、RPEリポフスチン顆粒の数を計数した。これらは、本発明者らが対照AAVベクターを注射しなかった又は注射したAbca4-/-マウスにおいて独立に測定したもの(データは示さず)と同様のレベルの、年齢対応Abca4+/+対照と比較してPBSを注射した5.5~6カ月齢のアルビノAbca4-/-マウスにおいて増加した(図8d)。Abca4-/- RPEにおけるリポフスチン顆粒の数を改良型二重AAVハイブリッドABCA4ベクター(各ベクター/眼の用量:1×109GC、図8d)の網膜下注射の3カ月後に標準化した。
【0181】
改良型二重AAVベクターは、マウス及びブタ網膜への網膜下投与で安全である
改良型二重AAVハイブリッドABCA4ベクターの安全性を検討するために、本発明者らは、それらを野生型C57BL/6マウス及びラージホワイト種ブタの両方に網膜下注射した(各ベクター/眼の用量:それぞれ3×109及び1×1011GC)。注射1カ月後に本発明者らは、Ganzfeld網膜電図(ERG)により網膜の電気的活性を測定し、a及びb波振幅の両方が二重AAVハイブリッドABCA4ベクターを注射したマウス眼と陰性対照AAVベクター又はPBSを注射した眼との間で有意に異なっていなかったことを見いだした(図9a及び材料、図12a)。同様に、暗所、明所、最大応答及び明滅ERG試験におけるb波振幅は、二重AAVハイブリッドABCA4ベクターを注射したブタ眼においてPBSを注射した対照眼のそれと同等であった(図9b及び材料、図12b)。
【0182】
考察
AAVの限定的なパッケージング能力は、IRDの遺伝子治療に対するAAVの広範囲の応用の主な障害の1つである。しかし、最近、いくつかのグループは、二重AAVベクターがマウス及びブタ網膜におけるAAVの貨物容量を効果的に拡大し14,17,19,41、ひいては単一の標準的AAVベクターに適合しえない遺伝子の突然変異に起因するIRDへのAAVの適用可能性を拡張することを独立に報告した。ここに本発明者らは、二重AAVベクターの使用に関連するいくつかの制限、すなわち、単一ベクターと比較した場合に比較的に低い効率及び安全性の懸念を提起しうる短縮型タンパク質の産生を克服することを提示した。
【0183】
二重AAVゲノム尾-頭コンカテマー化の増大を目的とした戦略は、理論的には全長タンパク質のレベルを増大させ、単一半ベクターを免れた短縮型タンパク質のレベルを低下させるはずである。本発明者らは、最適な相同領域又は異種ITRを含めることによって尾-頭二重AAVハイブリッドゲノムコンカテマー化を改善することを提示した。前述の相同領域の比較評価において、本発明者らは、Lostalら20により最近公表されたAP1及びAP2配列並びにF1ファージに由来するAK配列14が、マウス網膜におけるより一貫したABCA4発現を駆動する二重AAVハイブリッドAKベクターと全体的な類似したレベルのタンパク質発現をin vitroで駆動することを見いだした。それと無関係に、異なる相同領域の利用可能性は、AAV貨物容量を更に拡大するための三重AAVベクターの適切なコンカテマー化を誘導するのに有用である20, 42。異種ITR2及びITR5を二重24, 25及び三重42AAVベクターに含めることに成功した。本発明者らは、異種ITR2及びITR5を有するAAVベクターの収量が同種ITR2を有するものよりも低いことを見いだした。本発明者らはまた、本発明者らがそれらのITR2を探査した場合に、それらのゲノムの異なる領域を探査した場合よりも異種ITRを有する少ないベクターゲノムを検出した。本発明者らは、Rep5がITR2を有するベクターの生成を妨げることを示しているので、これは、Rep5の存在下で生成されるが、Rep2存在下でのみ生成され、本発明者らがITR2又はゲノムの異なる領域を探査するかを問わず同様な力価を示した、同種ITR2を有するAAVベクターでは生成されない異種ITRを有するAAVベクターに含まれるITR2のレベルにおける異常を示唆している。これらの結果は、異種ITR2及びITR5を有する二重AAVが、同種ITRを有し、生成問題を有さないようであるベクターよりも高い導入効率を有していた24,25、以前に報告されたものと部分的に異なる。異なるパッケージング構築物及び生成プロトコールに加えて、本試験では、本発明者らは、コンカテマー化のために単にITRに依拠する以前の報告で用いられたトランススプライシングシステム24,25に対して、2つの半ベクターの間に相同領域を含んでいた二重AAVハイブリッドベクターを使用した。二重AAVハイブリッドベクターにおいて、全長遺伝子の再構成がコンカテマー形成を導くベクターに含まれる相同領域によって主として媒介される16ので、これは、トランススプライシングベクターを用いた以前の試験24,25と比較して異種ITRを有するベクターについて本発明者らが認めた導入遺伝子発現のより小さい増加の説明となりうる。更に、本発明者らは、本発明者らがそれぞれMYO7A及びABCA4発現ベクターの導入遺伝子配列について計算されたものの3~6分の1であるITR2について計算された力価に基づいてベクターを用いたので、異種ITRを有するベクターの効率を過大評価した可能性があった。ITR2及び導入遺伝子配列について計算された両力価が、同種ITR2を有する対応する二重AAVベクター間で同様であるので、本発明者らは、異種ITR2及びITR5を有するものの3~6分の1の容積でそれらを使用した。これは、同種ITRを有するものより異種ITRを有する二重AAVベクターからの全長及び短縮型タンパク質産物の高いように見えるレベルを説明しうる。
【0184】
本発明者らの以前の試験において、二重AAVベクターの網膜下投与後8カ月まで局所毒性の徴候を認めなかった14が、二重AAVの単一半ベクターからの短縮型タンパク質産物の産生は、安全性の懸念を提起しうるものである。遺伝子の転写物にmiR標的部位を含めることは、網膜を含む、様々な組織における導入遺伝子の発現を制限するための有効な戦略であることが示された30。しかし、in vitroで本発明者らは、本発明者らがmiR-204+124及び26aの標的部位を含めた場合にのみ短縮型タンパク質の産生の部分的な減少を達成した。実際、miR標的部位の外部のmRNAの特徴がサイレンシングの効率に影響を及ぼしうる43,44。これに関連して、5'-半分に由来する短縮型タンパク質産物は、標準的なポリアデニル化シグナルを付与されていないベクターから産生されるので、得られるmRNAは、効率的なmiR媒介サイレンシングを受けることができない可能性がありうる。重要なことに、本発明者らは、CL1デグロンを含めることによって5'-半ベクターからの短縮型タンパク質産物の完全な分解を達成した。本発明者らは、このシグナルがin vitro及びブタ網膜の両方において有効であり、これがCL1活性に必要な分解経路の酵素が様々な細胞型において発現することを示唆していることを示した。3'-半ベクターからの短縮型タンパク質産物が5'-半ベクターにより産生されるものほど多くない(図6)ので、その存在は、安全性の懸念をさほど提起するものでない。マウス及びブタ網膜におけるここに示したデータは、改良型二重AAVベクターの安全性を裏付けている。
【0185】
特に、本発明者らは、高レベルの同時の杆体及び錐体形質導入をもたらす、GRK1プロモーターの制御下にある、改良型二重AAVベクターの網膜下投与が、変動性レベルであるが、マウスにおける効果的なABCA4の送達をもたらすことを見いだした。これは、小さなマウス眼における網膜下注射の固有の変動及び単一AAVベクターと比較して二重AAVシステムの全体的なより低い有効性14の両方に起因する可能性がある。この変動にもかかわらず、本発明者らは、二重AAV媒介ABCA4送達がAbca4-/-網膜における有意なリポフスチンの減少をもたらし、これが、広範囲の導入遺伝子発現レベルが同様に治療有効性に寄与しうることを示唆するものであることを見いだした。これは、2つの独立した技術を用いて観測されたが、本発明者らがリポフスチン顆粒の数の正常化を実際に示した網膜のAAV導入部位を切開し、解析した場合、表現型のより顕著な改善が認められた。結論として、本発明は、臨床応用、とりわけ網膜疾患の療法に適する改善された特徴を有する多重ベクターを提供する。更に、本発明は、貨物容量を更に拡大する多重ベクターの安全性及び有効性を改善する20,42
(参考文献)
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【配列表】
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