(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174198
(43)【公開日】2022-11-22
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20221115BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20221115BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20221115BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20221115BHJP
H01L 23/48 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
H01L21/52 E
H01L29/78 652Q
H01L29/78 655F
H01L29/78 652T
H01L23/48 T
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142540
(22)【出願日】2022-09-07
(62)【分割の表示】P 2018037198の分割
【原出願日】2018-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100133514
【弁理士】
【氏名又は名称】寺山 啓進
(74)【代理人】
【識別番号】100135714
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 一生
(74)【代理人】
【識別番号】100167612
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 直行
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 一成
(72)【発明者】
【氏名】辻 雄太
(72)【発明者】
【氏名】村田 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】馬場 太基
(72)【発明者】
【氏名】鶴見 直明
(57)【要約】
【課題】高温下でも安定な接着構造体、及びこの接着構造体を備える半導体モジュールを提供する。
【解決手段】接着構造体2Dは、貴金属層10の貴金属と、貴金属層10の貴金属との相互作用により接着される接着性樹脂18とを備える。ここで、貴金属層10の貴金属と接着性樹脂18は、接着性樹脂18を構成する官能基の一部から貴金属層10の貴金属に向かって電子が供与されるσ供与と、貴金属層10の貴金属から官能基に向かって電子が供与されるπ逆供与とにより接着される。接着性樹脂18を構成する官能基は、孤立電子対と空の反結合性π軌道(π
*軌道)との両方を備え、σ供与とπ逆供与による結合を形成可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面と裏面とを有し、前記表面に電極を有する半導体デバイスと、
前記半導体デバイスが搭載される第1リードフレームおよび前記第1リードフレームと分離された第2リードフレームと、
前記第1リードフレームの前記半導体デバイスが搭載される部分の表面に前記半導体デバイスよりも広い領域に形成された第1貴金属層と、
前記第1貴金属層上の前記半導体デバイスに対向する部分に配置された第1樹脂層と、
前記半導体デバイスの前記電極と前記第2リードフレームとを接続するボンディングワイヤと、
前記第1リードフレームと前記第1貴金属層と前記第1樹脂層と前記半導体デバイスと前記ボンディングワイヤと前記第2リードフレームの一部とを覆う第2樹脂層と
を備える、半導体装置。
【請求項2】
前記第1樹脂層は導電性樹脂層であり、前記第2樹脂層は非導電性樹脂層である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第1貴金属層はメッキ層からなり清浄な貴金属表面を備える、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第1貴金属層は、Au若しくはAgメッキ、または、Pt若しくはPdメッキを含む、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第1貴金属層は、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ru、Ir、及びOsの群から選ばれる少なくとも1種類もしくは複数種類を含む、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記第1樹脂層は、Agペースト、または金属フィラーを含む、請求項2に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記第1樹脂層および前記第2樹脂層は、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、シリコーン系樹脂の群から選ばれる少なくとも1種類もしくは複数種類を含む、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記半導体デバイスは、動作時に高温となるLED、半導体レーザ、パワー半導体、若しくは集積回路のいずれか若しくはこれらの組み合わせを備える、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記第1貴金属層は、前記第1樹脂層のCN系の官能基および/またはCO系の官能基と結合している、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記CN系の官能基は、硬化剤由来である、請求項9に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記第1貴金属層と前記第1樹脂層は、前記第1樹脂層を構成する官能基の一部から前記第1貴金属層に向かって電子が供与されるσ供与と、前記第1貴金属層から前記第1樹脂層の前記官能基に向かって電子が供与されるπ逆供与とにより接着される、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項12】
前記第1貴金属層と前記第2樹脂層は、前記第1樹脂層を構成する官能基の一部から前記第1貴金属層に向かって電子が供与されるσ供与と、前記第1貴金属層から前記第2樹脂層の前記官能基に向かって電子が供与されるπ逆供与とにより接着される、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項13】
前記第2リードフレームの前記ボンディングワイヤと接続される部分の表面に形成された第2貴金属層を更に有し、
前記第2貴金属層と前記第2樹脂層は、前記第2樹脂層を構成する官能基の一部から前記第2貴金属層に向かって電子が供与されるσ供与と、前記第2貴金属層から前記第2樹脂層の前記官能基に向かって電子が供与されるπ逆供与とにより接着される、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項14】
前記半導体デバイスの上方に配置された導電性の第3樹脂層と、
前記第3樹脂層上に配置された第2半導体デバイスと
を更に有する、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項15】
前記官能基は、孤立電子対と空の反結合性π軌道(π*軌道)との両方を備え、前記σ供与と前記π逆供与による結合を形成可能である、請求項11~13のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項16】
前記官能基は、シアノ基、チオシアノ基、カルボニル基、エステル基、アミド基、アジド基、イソシアノ基、スルホ基、及びニトロ基の群から選ばれる少なくとも1種類もしくは複数種類を含む、請求項11~13のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項17】
前記半導体デバイスは、動作時に高温となるSi系又はSiC系のIGBT、ダイオード、MOSFET、GaN系FETのいずれかのパワー半導体素子を備える、請求項1に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施の形態は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクスにおける半導体デバイスの接着技術としては、電気的な接続、熱耐性、かつ機械的ストレスへの耐性の点で、はんだや導電性接着剤が用いられている。更に、半導体デバイスは、パッケージ内に封止樹脂により固定されるのが一般的である。
【0003】
一方、金属/エポキシ樹脂界面の接着に関する分子論的研究や、密度汎関数法による金属/エポキシ樹脂界面の接着機構に関する研究、エポキシ樹脂とガラス界面の接着機構に関する理論的研究も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】小日向 茂“電子部品・実装技術基礎講座「導電性接着剤」第3回導電性接着剤の基礎(その2)”、エレクトロニクス実装学会誌 Vol.9, No.7, 2006, pp. 581-586
【非特許文献2】大迫文裕、吉澤一成“金属/エポキシ樹脂界面の接着に関する分子論的研究”、高分子論文集(Koubunshi Ronbunshu),Vol. 68, No.2, pp.72-80 (Feb., 2011)
【非特許文献3】瀬本貴之、辻雄太、吉澤一成“密度汎関数法による金属/エポキシ樹脂界面の接着機構に関する研究”、分子科学会、第5回分子科学討論会(2011年9月)、1P054
【非特許文献4】樋口千紗、村田裕幸、瀬本貴之、田中宏昌、吉澤一成“エポキシ樹脂とガラス界面の接着機構に関する理論的研究”、分子科学会、第10回分子科学討論会(2016年9月)、1P070
【非特許文献5】Kazunari Yoshizawa, Takayuki Semoto, Seiji Hitaoka, Chisa Higuchi, Yoshihito Shiota, and Hiromasa Tanaka, "Synergy of Electrostatic and van der Waals Interactions in the Adhesion of Epoxy Resin with Carbon-Fiber and Glass Surfaces", BCSJ Selected Paper, Bull. Chem. Soc. Jpn, 2017, 90, 500-505, 2017 The Chemical Society of Japan.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、導電性接着剤が、金(Au)に着き難いことは経験的に知られている。対策として、プラズマ処理等により密着性を向上させている。プラズマ処理は、表面のクリーニング、濡れ性の改善、表面粗さの増加、OH基の付与等の効果が期待されるが、経験的なものであり、詳細なメカニズムは不明である。半導体デバイスの接着技術としては、設計及び製造上、より厳格な品質が求められる。
【0007】
本発明者らは、分子シミュレーション技術により、貴金属と樹脂との接着において、強固に相互作用可能で、高温化でも切断し難い接着構造体を見出した。
【0008】
本実施の形態は、高温下でも安定な半導体装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施の形態の一態様によれば、表面と裏面とを有し、前記表面に電極を有する半導体デバイスと、前記半導体デバイスが搭載される第1リードフレームおよび前記第1リードフレームと分離された第2リードフレームと、前記第1リードフレームの前記半導体デバイスが搭載される部分の表面に前記半導体デバイスよりも広い領域に形成された第1貴金属層と、前記第1貴金属層上の前記半導体デバイスに対向する部分に配置された第1樹脂層と、前記半導体デバイスの前記電極と前記第2リードフレームとを接続するボンディングワイヤと、前記第1リードフレームと前記第1貴金属層と前記第1樹脂層と前記半導体デバイスと前記ボンディングワイヤと前記第2リードフレームの一部とを覆う第2樹脂層とを備える、半導体装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本実施の形態によれば、高温下でも安定な半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本技術を適用した一実施の形態に係る接着構造体の模式的断面構造図(ダイボンディング)。
【
図2】(a)本技術を適用した一実施の形態に係る接着構造体を備える半導体モジュールの模式的断面構造図、(b)比較例として、一部剥がれている接着不良な状態の半導体モジュールの模式的断面構造図、(c)比較例として、全部剥がれている接着不良な状態の半導体モジュールの模式的断面構造図。
【
図4】本技術を適用した一実施の形態に係る接着構造体の模式的断面構造図(モールド封止)。
【
図5】本技術を適用した一実施の形態に係る接着構造体を備える半導体モジュールの模式的断面構造図。
【
図7】(a)実施の形態に係る接着構造体に適用可能な、硬化剤としてジシアンジアミドを用いたビスフェノールA型エポキシ樹脂の分子構造例(分子シミュレーションモデル)、(b)比較例として、硬化剤を除いた、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の分子構造例。
【
図8】ビスフェノールA型エポキシ樹脂の重合構造例(n=0、1、…)。
【
図9】
図8においてn=0の場合に対応するビスフェノールAジグリシジルエーテル(DGEBA)の分子構造例。
【
図10】実施の形態に係る接着構造体に適用可能な硬化剤の例であって、ジシアンジアミドの分子構造例。
【
図11】実施の形態に係る接着構造体に適用可能なエポキシ樹脂の生成方法の説明図であって、(a)DGEBAの分子構造例、(b)ジシアンジアミドの分子構造例((B)構造)、(c)
図11(a)のDGEBAと、ジシアンジアミド((B)構造)の反応生成物(エポキシ樹脂)の分子構造例。
【
図12】実施の形態に係る接着構造体に適用可能なエポキシ樹脂の生成方法の説明図であって、(a)
図11(c)に示されるDGEBAとジシアンジアミド((B)構造)の反応生成物と、DGEBAとの反応生成物の分子構造例、(b)アンモニア脱離により、
図12(a)に示される反応生成物の環化された分子構造例。
【
図13】貴金属表面と接着剤の分子骨格との間の接着力が弱い状態の模式的説明図。
【
図14】貴金属表面と接着剤の分子骨格との間の接着力が強固な状態の模式的説明図。
【
図15】(a)清浄なAu表面構造を形成する方法であって、シアノ錯体を原料に用いるプロセスを用いて形成したAuメッキ層の最表面構造の模式的説明図、(b)清浄なAu表面構造を形成する方法であって、非シアノ錯体を原料に用いるプロセスを用いて形成したAuメッキ層の最表面構造の模式的説明図、(c)清浄なAu表面構造の模式的説明図。
【
図16】(a)シアン系貴金属メッキ層の最表面構造の模式的説明図、(b)ジニトロジアンミン系貴金属メッキ層の最表面構造の模式的説明図。
【
図17】(a)錯体におけるπ逆供与の説明図、(b)金属表面での接着におけるπ逆供与の説明図。
【
図18】実施の形態に係る接着構造体に適用可能な官能基の化学式であって、(a)シアノ基の例、(b)チオシアノ基の例、(c)カルボニル基の例、(d)エステル基の例、(e)アミド基の例、(f)アジド基の例、(g)イソシアノ基の例、(h)スルホ基の例、(i)ニトロ基の例。
【
図19】硬化剤の有無における引き剥がしエネルギーEと引き剥がし距離Δrの関係。
【
図20】硬化剤の有無における接着応力Fと引き剥がし距離Δrの関係。
【
図21】分散力、密度汎関数(DFT)及びこれらの合計をパラメータとする接着応力Fと引き剥がし距離Δrの関係(硬化剤を添加したモデル)。
【
図22】分散力、密度汎関数(DFT)及びこれらの合計をパラメータとする接着応力Fと引き剥がし距離Δrの関係(硬化剤を除いたモデル)。
【
図23】本技術を適用した一実施の形態に係る接着構造体を備える半導体モジュールの模式的断面構造図(SOPに搭載した半導体モジュール例)。
【
図24】(a)
図23の領域A近傍における模式的断面構造図、(b)
図23の領域B近傍における模式的断面構造図。
【
図25】本技術を適用した一実施の形態に係る接着構造体を備える半導体モジュールの模式的断面構造図(リードフレーム型MCPに実装された半導体モジュール例)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、図面を参照して、本実施の形態について説明する。以下に説明する図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各構成部品の厚みと平面寸法との関係等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面の相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0013】
また、以下に示す実施の形態は、技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、各構成部品の材質、形状、構造、配置等を特定するものではない。この実施の形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0014】
(半導体デバイスのダイボンディング)
本技術を適用した一実施の形態に係る接着構造体2Dの模式的断面構造は、
図1に示すように表される。また、本技術を適用した一実施の形態に係る接着構造体2Dを備える半導体モジュール4Dの模式的断面構造は、
図2(a)に示すように表される。また、比較例として、一部剥がれている接着不良な状態の半導体モジュール4Aの模式的断面構造は、
図2(b)に示すように表され、全部剥がれている接着不良な状態の半導体モジュール4Aの模式的断面構造は、
図2(c)に示すように表される。
【0015】
ダイパッド上に貴金属メッキとして金(Au)メッキ10Aを形成し、Auメッキ10A上にAgペーストからなる導電性樹脂層12Aを介して半導体デバイス14を配置した半導体モジュール4Aにおいて、Auメッキ10Aと導電性樹脂層12Aとの接着が弱いと、
図2(b)や
図2(c)に示すように、ダイボンディングが剥がれ、電気的接続不良が発生する。また、パッケージ基板上に配置されたLEDチップにおいて、
図2(c)に示すように、Agペーストが全面で剥がれることがある。半導体デバイス14/導電性樹脂層12A/Auメッキ10Aからなる積層構造において、導電性樹脂層12A/Auメッキ10A界面で剥がれるモードが多い。
【0016】
金表面とエポキシ樹脂の接着界面を強固にするため、分子シミュレーションと実験を実施した。その結果、高温下でも安定な接着構造体を見出した。以下、詳述する。
【0017】
本技術を適用した一実施の形態に係る接着構造体2Dは、
図1に示すように、貴金属層10の貴金属と、貴金属層10の貴金属との相互作用により接着される接着性樹脂18とを備える。ここで、貴金属層10の貴金属と接着性樹脂18は、接着性樹脂18を構成する官能基の一部から貴金属に向かって電子が供与されるσ供与と、貴金属層10の貴金属から官能基に向かって電子が供与されるπ逆供与とにより接着される。
【0018】
接着性樹脂18を構成する官能基は、孤立電子対と空の反結合性π軌道(π*軌道)との両方を備え、σ供与とπ逆供与による結合を形成可能である。
【0019】
また、貴金属層10の貴金属は、例えばAu、Ag、Pt、Pd、Rh、Ru、Ir、及びOs等の群から選ばれる少なくとも1種類もしくは複数種類を備えていても良い。
【0020】
また、接着性樹脂18は、例えばエポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、及びシリコーン系樹脂等の群から選ばれる少なくとも1種類もしくは複数種類を備えていても良い。
【0021】
接着性樹脂18を構成する官能基は、例えばシアノ基、チオシアノ基、カルボニル基、エステル基、アミド基、アジド基、イソシアノ基、スルホ基、及びニトロ基等の群から選ばれる少なくとも1種類もしくは複数種類を備えていても良い。
【0022】
また、接着性樹脂18は、例えばビスフェノールAジグリシジルエーテル(DGEBA)と、ジシアンジアミドとの反応により形成されるエポキシ樹脂を備えていても良い。
【0023】
また、貴金属層10は、貴金属メッキ層を備えていても良い。
【0024】
また、貴金属と接着性樹脂18は、更に、貴金属と接着性樹脂18との一部の結合において、水素結合を含むこともある。貴金属表面の状態によっては、清浄な表面の一部にOH基と結合可能な官能基が存在することもあるからである。
【0025】
本技術を適用した一実施の形態に係る接着構造体2Dを備える半導体モジュール4Dは、
図2(a)に示すように、貴金属層10と、貴金属層10と相互作用により接着される導電性樹脂層12と、導電性樹脂層12上に配置される半導体デバイス14とを備える。ここで、貴金属層10と導電性樹脂層12は、導電性樹脂層12を構成する第1接着性樹脂18の官能基の一部から貴金属層10の貴金属に向かって電子が供与されるσ供与と、貴金属層10の貴金属から第1接着性樹脂18の官能基に向かって電子が供与されるπ逆供与とにより接着される。
【0026】
ここで、導電性樹脂層12の模式的構造は、
図3に示すように表される。
【0027】
導電性樹脂層12は、
図3に示すように、第1接着性樹脂18と、第1接着性樹脂18に含有される金属フィラー16とを備える。金属フィラー16は、金属粒子からなる。ここで、金属粒子を構成する金属材料としては、例えばAu、Ag、Pt、Pd等を適用可能である。
【0028】
貴金属層10の貴金属は、例えばAu、Ag、Pt、Pd、Rh、Ru、Ir、及びOs等の群から選ばれる少なくとも1種類もしくは複数種類を備えていても良い。
【0029】
また、第1接着性樹脂18は、例えばエポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、及びシリコーン系樹脂等の群から選ばれる少なくとも1種類もしくは複数種類を備えていても良い。
【0030】
また、半導体デバイス14は、例えば発光ダイオード(LED)、半導体レーザ、パワー半導体素子、若しくは集積回路等のいずれか若しくはこれらの組み合わせを備えていても良い。
【0031】
本技術を適用した一実施の形態に係る接着構造体によれば、例えば導電性樹脂層を用いたダイボンディングにおける剥がれを防止することができる。
【0032】
本技術を適用した一実施の形態に係る接着構造体によれば、第1接着性樹脂の硬化剤に由来する官能基からσ供与を行い、同時に金属界面からπ逆供与を実施することで、高温下でも安定な接着構造体、及びこの接着構造体を備える半導体モジュールを提供することができる。
【0033】
(半導体デバイスのモールド封止)
本技術を適用した一実施の形態に係る接着構造体2Sの模式的断面構造は、
図4に示すように表される。また、本技術を適用した一実施の形態に係る接着構造体2Sを備える半導体モジュール4Sの模式的断面構造は、
図5に示すように表される。
【0034】
本技術を適用した一実施の形態に係る接着構造体2Sは、
図4に示すように、貴金属層10の貴金属と、貴金属層10の貴金属との相互作用により接着されるモールド樹脂層20とを備える。ここで、貴金属層10の貴金属とモールド樹脂層20は、モールド樹脂層20を構成する第2接着性樹脂19の官能基の一部から貴金属に向かって電子が供与されるσ供与と、貴金属層10の貴金属から第2接着性樹脂19の官能基に向かって電子が供与されるπ逆供与とにより接着される。
【0035】
本技術を適用した一実施の形態に係る接着構造体2Sは、半導体デバイス14を搭載する金属フレームからなる貴金属層10とモールド樹脂層20との接合のみならず、パッケージの外部接続用の金属フレームからなる貴金属層10とモールド樹脂層20との接合においても同様に適用可能である。
【0036】
第2接着性樹脂19の官能基は、孤立電子対と空の反結合性π軌道(π*軌道)との両方を備え、σ供与とπ逆供与による結合を形成可能である。
【0037】
また、貴金属とモールド樹脂層20は、更に、貴金属とモールド樹脂層20との一部の結合において、水素結合を含むこともある。貴金属表面の状態によっては、清浄な表面の一部にOH基と結合可能な官能基が存在することもあるからである。
【0038】
また、貴金属層10の貴金属は、例えばAu、Ag、Pt、Pd、Rh、Ru、Ir、及びOs等の群から選ばれる少なくとも1種類もしくは複数種類を備えていても良い。
【0039】
また、モールド樹脂層20は、例えばエポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、及びシリコーン系樹脂等の群から選ばれる少なくとも1種類もしくは複数種類を備えていても良い。
【0040】
モールド樹脂層20を構成する官能基は、例えばシアノ基、チオシアノ基、カルボニル基、エステル基、アミド基、アジド基、イソシアノ基、スルホ基、及びニトロ基等の群から選ばれる少なくとも1種類もしくは複数種類を備えていても良い。
【0041】
また、貴金属層10は、貴金属メッキ層を備えていても良い。
【0042】
第2の実施の形態に係る接着構造体2Sを備える半導体モジュール4Sは、
図5に示すように、貴金属層10と、貴金属層10と相互作用により接着される導電性樹脂層12と、導電性樹脂層12上に配置される半導体デバイス14と、更に貴金属層10と相互作用により接着されるモールド樹脂層20とを備える。
【0043】
ここで、貴金属層10と導電性樹脂層12は、導電性樹脂層12を構成する第1接着性樹脂18の官能基の一部から貴金属層10の貴金属に向かって電子が供与されるσ供与と、貴金属層10の貴金属から第1接着性樹脂18の官能基に向かって電子が供与されるπ逆供与とにより接着される。
【0044】
更に、貴金属層10とモールド樹脂層20は、モールド樹脂層20を構成する第2接着性樹脂19の官能基の一部から貴金属層10の貴金属に向かって電子が供与されるσ供与と、貴金属から官能基に向かって電子が供与されるπ逆供与とにより接着される。
【0045】
モールド樹脂層20の模式的構造は、
図6に示すように表される。
【0046】
モールド樹脂層20は、
図6に示すように、接着性樹脂19と、接着性樹脂19に含有されるフィラー22とを備える。モールド樹脂層20は、非導電性であり、フィラー22は、セラミックス粒子からなる。ここで、セラミックス粒子のセラミックス材料としては、例えばシリカ、アルミナ等を適用可能である。セラミック製のフィラー22を添加することで、線膨張係数の制御や信頼性が向上する。
【0047】
貴金属層10の貴金属は、例えばAu、Ag、Pt、Pd、Rh、Ru、Ir、及びOs等の群から選ばれる少なくとも1種類もしくは複数種類を備えていても良い。
【0048】
また、第1接着性樹脂18及び第2接着性樹脂19は、例えばエポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、及びシリコーン系樹脂等の群から選ばれる少なくとも1種類もしくは複数種類を備えていても良い。
【0049】
また、第1接着性樹脂18及び第2接着性樹脂19を構成する官能基は、例えばシアノ基、チオシアノ基、カルボニル基、エステル基、アミド基、アジド基、イソシアノ基、スルホ基、及びニトロ基等の群から選ばれる少なくとも1種類もしくは複数種類を備えていても良い。
【0050】
また、半導体デバイス14は、例えばLED、半導体レーザ、パワー半導体、若しくは集積回路等のいずれか若しくはこれらの組み合わせを備えていても良い。
【0051】
本技術を適用した一実施の形態に係る接着構造体によれば、導電性樹脂層を用いたダイボンディングにおける剥がれを防止することができるのみならず、モールド樹脂層と金属フレーム間の強固な結合も達成可能である。
【0052】
本技術を適用した一実施の形態に係る接着構造体によれば、第1接着性樹脂及び第2接着性樹脂の硬化剤に由来する官能基からσ供与を行い、同時に金属界面からπ逆供与を実施することで、高温下でも安定な接着構造体、及びこの接着構造体を備える半導体モジュールを提供することができる。
【0053】
(分子シミュレーションモデル)
本実施の形態に係る接着構造体に適用可能な、硬化剤としてジシアンジアミドを用いたビスフェノールA型エポキシ樹脂の分子構造例(分子シミュレーションモデル)は、
図7(a)に示すように表され、比較例として、硬化剤を除いた、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の分子構造例は、
図7(b)に示すように表される。
【0054】
(ビスフェノールA型エポキシ樹脂の一般構造)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の重合構造例(n=0、1、…)は、
図8に示すように表される。また、
図8においてn=0の場合に対応するビスフェノールAジグリシジルエーテル(DGEBA)の分子構造例は、
図9に示すように表される。
【0055】
接着剤のような液状樹脂の場合、平均的なnの値は、約0.1~0.2と云われている。以下の反応式では、n=0の場合を例として説明する。
【0056】
(硬化剤の例:ジシアンジアミド)
本実施の形態に係る接着構造体に適用可能な硬化剤の例であって、ジシアンジアミドの分子構造例は、
図10に示すように表される。ジシアンジアミドは互変異性を有するため、
図10に示される(A)、(B)2つの構造がある。これらの内、(B)構造の方が存在確率が高い。このため、以下の反応式では、(B)構造を例として説明する。
【0057】
(ビスフェノールA型エポキシ樹脂とジシアンジアミドの硬化反応)
実施の形態に係る接着構造体に適用可能なエポキシ樹脂の生成方法を説明する。
【0058】
実施の形態に係る接着構造体に適用可能なエポキシ樹脂の生成方法の説明図であって、DGEBAの分子構造例は、
図11(a)に示すように表される。また、ジシアンジアミドの分子構造例((B)構造)は、
図11(b)に示すように表される。また、DGEBAと、ジシアンジアミド((B)構造)の反応生成物(エポキシ樹脂)の分子構造例は、
図11(c)に示すように表される。
【0059】
更に反応が進行して、
図11(c)に示されるDGEBAとジシアンジアミド((B)構造)の反応生成物と、DGEBAとの反応生成物の分子構造例は、
図12(a)に示すように表される。更に反応が進行して、アンモニア脱離により、
図12(a)に示される反応生成物の環化された分子構造例は、
図12(b)に示すように表される。末端のエポキシ基が更に反応することで、硬化反応が進行する。
【0060】
(接着力が弱い状態)
貴金属表面と接着剤の分子骨格との間の水素結合による接着力が弱い状態の模式的説明図は、
図13に示すように表される。貴金属層として、Auメッキ層30、分子骨格24を有するエポキシ樹脂からなる接着性樹脂を例として説明する。
【0061】
貴金属メッキの最表面は、原料錯体を構成する配位子で終端され易い。例えば、Auメッキの場合、原料としてシアン化金(I)カリウム(K[Au(CN)2])を適用すると、Auメッキ層30の表面構造は、CN系の官能基26で終端されることを分析により見出した。
【0062】
(XPSによるAuの最表面分析結果)
パッケージ基板の金ランド部の最表面をX線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)を用いて分析した。その結果、最表面では、Auが約50%、Cが約33.8%、Oが約5.4%、Cuが約1.0%検出された。
【0063】
(TOF-SIMSによるAuの最表面解析結果)
パッケージ基板の金ランド部の最表面ではカーボン(C)が多く検出されるため、元素の存在状態を調べるため、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS:Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)による金ランド部のAuの最表面解析を実施した。その結果、AuC2N2、CuAu2、NiAu2、C3N、C6、Au4等が検出された。すなわち、TOF-SIMSによるAuの最表面解析結果によると、最表面からAuCN系/CN系/C系/Au金属/…が検出され、このうちAuCN系/CN系/C系までの深さは、約8Å(約8原子層分)であった。したがって、金ランド部のAuメッキで形成したAuの最表面は、AuCN系で終端していることが特定された。
【0064】
つまり、Auメッキ層30の最表面は、原料錯体を構成する配位子で終端され易い。この場合、水素結合に基づく接着となり、充分な接着強度が得られない。水素結合(OH)され易いと、例えば、約100℃以上高温下では剥離が発生し易くなる。
【0065】
Auメッキ層30の表面構造は、
図13に示すように、CN系の官能基26で終端される。この結果、CN系の官能基26で終端されたAu表面のCN結合に対して、分子骨格24は、OH基28による水素結合(OH)により結合される。接着力が弱い状態とは、OH基28による水素結合(OH)による弱い接着状態である。ここで、結合エネルギーの値は、例えば、約5kJ/mol~40kJ/mol程度である。接着力が弱い状態では、結合エネルギーが低いため、結合は高温下で切断されやすい。
【0066】
(接着力が強固な状態)
分子シミュレーション技術により、Auと強固に相互作用可能な接着構造体を見出した。Auと相互作用していない場合に比べて、約1.5倍の接着力が得られる。
【0067】
貴金属表面と接着剤の分子骨格24との間のσ供与と同時にπ逆供与により、OH基28による水素結合より安定な相互作用に基づく接着力が強固な状態の模式的説明図は、
図14に示すように表される。理想状態に近い清浄なAu表面に対しては、OH基28による水素結合は困難であり、OH基28以外の官能基が結合可能である。OH基28以外の官能基としては、例えば、
図14に示すように、CN系の官能基34やCO系の官能基32等が適用可能である。
【0068】
分子シミュレーションの結果、これらの結合は、σ供与とπ逆供与に基づいていることを見出した。孤立電子対と空の反結合性π軌道(π*軌道)を両方持つ官能基により、σ供与とπ逆供与による結合を同時に形成可能である。
【0069】
ここで、接着力が強固な状態の結合エネルギーの値は、例えば約100kJ/mol以上である。樹脂を構成する官能基の一部から貴金属表面に対して、孤立電子対がσ供与されると同時に、貴金属表面から前記官能基に対して、π逆供与により、電子が供与されることで、水素結合より安定な相互作用に基づく接着構造体を形成可能である。
【0070】
(清浄なAu表面構造を形成する方法)
清浄なAu表面構造を形成する方法であって、シアノ錯体を原料に用いるプロセスを用いて形成したAuメッキ層30の最表面構造の模式的説明図は、
図15(a)に示すように表される。
【0071】
Auメッキ層30の最表面構造は、
図15(a)に示すように、Au表面がCN系で終端される。シアノ錯体を原料に用いるプロセスの場合、例えば、ジシアノ金(I)酸カリウムK[Au(CN)
2]や、テトラシアノ金(III)カリウムK[Au(CN)
4]等を適用可能である。
【0072】
次に、アルゴン(Ar)プラズマを用いた物理的なスパッタリング技術や、水素プラズマを用いた化学的相互作用により、Au表面のCN系の官能基は、CN→C
xH
y系+NH
3系に分解可能であるため、
図15(c)に示すように、清浄なAu表面構造を形成することができる。
【0073】
清浄なAu表面構造を形成する方法であって、非シアノ錯体を原料に用いるプロセスを用いて形成したAuメッキ層30の最表面構造の模式的説明図は、
図15(b)に示すように表される。
【0074】
Auメッキ層30の最表面構造は、
図15(b)に示すように、Au表面がSO
3系の官能基で終端される。非シアノ錯体を原料に用いるプロセスの場合、例えば、ジスルフィト金(I)ナトリウムNa
3[Au(SO
3)
2]等を適用可能である。
【0075】
次に、アルゴン(Ar)プラズマを用いた物理的なスパッタリング技術や、水素プラズマを用いた化学的相互作用により、15(c)に示すように、清浄なAu表面構造を形成することができる。
【0076】
(各種処理を実施した場合の接着強度の比較)
酸素(O2)プラズマ処理を実施した接着構造体では、実施しない場合に比べて、接着力は約30%低下した。一方、アルゴン(Ar)プラズマ処理を実施した接着構造体では、実施しない場合に比べて、接着力は約10%以上増大した。酸素(O2)プラズマ処理により、Au表面のCN官能基は酸化されてカルボン酸やケトンとなるため、水素結合による接着が支配的となり、接着力は低下する。一方、アルゴン(Ar)プラズマ処理では、Au表面のCN官能基を除去することができるため、接着力を増大可能である。
【0077】
(高温での接着力測定)
導電性樹脂層としてAgペースト層について、高温引張試験を実施し、温度を変化させて接着強度を評価した。その結果、接着強度は、室温に比べ、120℃では約15%低下し、180℃では約48%低下した。接着強度と変位量の関係は、室温、120℃、180℃でほぼ同程度であり、硬化後の樹脂が軟化した挙動は見られなかった。
【0078】
以上の結果より、高温下での接着強度の低下を確認するとともに、接着強度の低下は接着界面の水素結合が切断したことによる可能性が大きいと推測される。
【0079】
(貴金属メッキの種類)
シアン系貴金属メッキ層の最表面構造の模式的説明図は、
図16(a)に示すように表される。シアン系貴金属メッキ層40を構成する貴金属原子50は、例えばAu若しくはAgを適用可能である。Auメッキの場合、シアン化金(I)カリウムK[Au(CN)
2]を原料とすることができる。また、Agメッキの場合、シアン化銀(I)カリウムK[Ag(CN)
2]を原料とすることができる。
【0080】
ジニトロジアンミン系貴金属メッキ層の最表面構造の模式的説明図は、
図16(b)に示すように表される。ジニトロジアンミン系貴金属メッキ層60を構成する貴金属原子70は、例えばPt若しくはPdを適用可能である。Ptメッキの場合、ジニトロジアンミン白金(II)cis-[Pt(NO
2)
2(NH
3)
2]を原料とすることができる。また、Pdメッキの場合、ジニトロジアンミン白金(II)cis-[Pd(NO
2)
2(NH
3)
2]を原料とすることができる。
【0081】
本実施の形態に係る接着構造体、及びこの接着構造体を備える半導体モジュールに適用可能な貴金属には、例えばAu、Ag、Pt、Pd、Rh、Ru、Ir、及びOs等の群から選ばれる少なくとも1種類もしくは複数種類等を挙げることができる。
【0082】
(π逆供与)
錯体におけるσ供与及びπ逆供与の説明図は、
図17(a)に示すように表され、金属表面での接着におけるσ供与及びπ逆供与の説明図は、
図17(b)に示すように表される。
図17(b)において、金属Mの充満帯をE
V、伝導帯をE
C、金属MのフェルミレベルをE
fで表すと、充満帯E
VからフェルミレベルE
fまでは電子で満たされている。
【0083】
図17(a)及び
図17(b)に示すように、通常はCO系、CN系等の高分子鎖に含まれる特定の官能基の配位子(LIGAND)から金属Mに向かって電子が供与されるσ供与が働く。これに対して、更に、金属Mから配位子に向かって電子が供与されるのがπ逆供与(π back donation)である。
【0084】
例えば、Auメッキ層とCN系の官能基を有するエポキシ系接着剤は、CN系の官能基の一部からAuに向かって電子が供与されるσ供与と、AuからCN系の官能基に向かって電子が供与されるπ逆供与とにより接着される。ここで、Au5d軌道とCN系のπ*軌道との間でπ逆供与が働く。
【0085】
分子シミュレーション技術を用いて得られた結果では、HOMO準位におけるσ供与において、C-N間距離=1.30Å、1.19Åである。一方、LUMO準位におけるπ逆供与において、C-N=1.31Å、1.18Åである。
【0086】
(対応する官能基の例)
適用できる官能基を列挙すると以下の通りである。すなわち、本実施の形態に係る接着構造体に適用可能な官能基の化学式であって、シアノ基の例は
図18(a)に示すように表され、チオシアノ基の例は
図18(b)に示すように表され、カルボニル基の例は
図18(c)に示すように表され、エステル基の例は
図18(d)に示すように表され、アミド基の例は
図18(e)に示すように表され、アジド基の例は
図18(f)に示すように表され、イソシアノ基の例は
図18(g)に示すように表され、スルホ基の例は
図18(h)に示すように表され、ニトロ基の例は
図18(i)に示すように表される。これらの内、シアノ基、カルボニル基、エステル基、アミド基などが安定性の観点から望ましい。
【0087】
(分子シミュレーション技術)
分子シミュレーション技術により、ビスフェノールA型エポキシ樹脂+ジシアンジアミド系の分子モデルの理論的に安定な分子構造を計算した。その結果、Au表面と相互作用するのは、OH基ではなく、硬化剤由来のCN系官能基であることが判明した。以下、分子シミュレーションについて、詳述する。
【0088】
(分子シミュレーションに関する説明_1)
(実施手順)
(1)Au(111)のモデル構造を作成する。
【0089】
Auのバルク構造最適化においては、プログラムはVASP(密度汎関数法)、汎関数はGGA-PBE、カットオフエネルギーは500eV、k-point meshは2π×0.05Å-1、擬ポテンシャルはPAW、分散力補正はTkatchenko-Schefflerをそれぞれ用いた。
【0090】
この結果、最適化した構造から、(111)面を切り出す。
【0091】
(2)次に、Auの表面構造を作成する。
【0092】
切り出した(111)面を拡張して、5×5のスラブモデルを作製する。ここで、原子数:5×5×3(75原子)である。下部2層を固定し、厚さ30Åの真空層をAuの上に形成した。
【0093】
(分子シミュレーションに関する説明_2)
(3)エポキシ樹脂のモデル構造作成する。
【0094】
―材料系の選定―
エポキシ樹脂は、DGEBA+硬化剤(ジシアンジアミド)とした。対象とするエポキシ樹脂の分子モデルは、
図9の化学式の構造に対応する。
【0095】
次に、分子モデル化を実行した。分子モデル化は、DGEBAのエポキシ基とジシアンジアミドのアミノ基が付加反応した状態とし、簡略化のため、DGEBAの未反応側のグリシジル基はメチル基で置換した。その結果、
図7(a)の分子構造が得られる。比較例として、硬化剤を除いたビスフェノールA型エポキシ樹脂の分子モデルは
図7(b)の化学式の構造に対応する。
【0096】
次に、分子モデルの配置を実行した。
【0097】
上記(3)の材料系の選定で作製した分子モデルを上記(2)で作製したAuスラブモデルの真空層内へ配置した。
【0098】
(分子シミュレーションに関する説明_3)
(実施手順)
(4)最安定構造の計算
分子動力学計算による最安定構造の探索を実行する。
【0099】
プログラムはForcite、time stepは1fs、力場はCOMPASS 、Simulation timeは5ps、温度は350K、quench stepは250、アンサンブルはNVE、 minimizeはsmartとした。
【0100】
次に、密度汎関数法による接着モデルの構造最適化を実行する。初期構造モデルは、上記で見出された最安定構造とし、プログラムはVASP、汎関数はGGA-PBE、カットオフエネルギーは500eV、k-point meshは2π×0.05Å-1、擬ポテンシャルはPAW、分散力補正はTkatchenko-Schefflerを用いた。
【0101】
次に、差電子密度の計算を実行した。その結果、ヒドロキシ基(OH)では電子のやり取りが起こっていないこと、シアノ基において、σ供与とπ逆供与が起こっていることを突き止めた。
【0102】
(分子シミュレーションに関する説明_4)
(実施手順)
(5)接着応力を算出する。
【0103】
上記の(4)の最安定構造の計算で最適化された接着モデルにおいて、エポキシ分子を引き剥がす際のエネルギーEをNEB (Nudged Elastic Band)法で算出する。NEB法は、二つの局所安定構造の間のポテンシャルエネルギー面の最小エネルギー経路(MEP)を求める方法である。
【0104】
(接着応力の算出方法)
エポキシ分子を引き剥がす際の引き剥がしエネルギーEは、モースポテンシャル(Morse potential)で近似して、(1)式で表される。
【0105】
E=De[1-exp(-aΔr)]2 (1)
ただし、a=ωe(M/2De)1/2、Δr=re-rである。Deは解離エネルギー、Δrは引き剥がし距離をそれぞれ表す。rは二原子分子の結合距離を表す。また、reは平衡結合間隔、Mは換算質量、ωeは振動の波数である。
【0106】
モースポテンシャル近似曲線を微分することで接着応力(Adhesion Stress)Fを見積もることができる。接着応力Fは、(2)式で表される。
【0107】
F=dE/dΔr (2)
(分子シミュレーションに関する説明_5)
(実施手順)
(6)比較用の分子モデルでの計算を実施した。
【0108】
硬化剤の官能基が接着力に寄与した程度を明らかにするため、硬化剤の部分をHで終端したモデルで同様に計算した。比較用の分子モデルは、
図7(b)の化学式の構造に対応する。
【0109】
(OH基が及ぼす影響)
Au表面とエポキシ樹脂との接着構造の分子シミュレーションにおいて、OH基が及ぼす影響を検討した。その結果、OH基がAu表面に対して遠いモデルでは、Au-N間の距離=2.527Å、Au-OH間の距離=5.689Åであり、結合エネルギー=-583.50 eVであった。一方、OH基がAu表面に対して近いモデルでは、Au-N間の距離=3.313Å、Au-OH間の距離=3.119Åであり、結合エネルギー=-583.42 eVであった。OH基がAu表面に対して遠いモデルとOH基がAu表面に対して近いモデルの結合エネルギー差ΔE=1.8kcalであった。
【0110】
また、差電子密度の計算結果より、OH基がAu表面に対して近いモデル及びOH基がAu表面に対して遠いモデルのいずれにおいてもシアノ基において電子移動(π逆供与)は見られた。
【0111】
(硬化剤のCN基が及ぼす効果)
―接着応力の評価―
硬化剤の有無における引き剥がしエネルギーEと引き剥がし距離Δrの関係(ポテンシャルエネルギーの比較)は、
図19に示すように表される。
【0112】
ポテンシャルエネルギーの変化より、硬化剤ありの曲線の方が、硬化剤無しの曲線に比べて、引き剥がしエネルギーEが高い傾向がある。
【0113】
硬化剤の有無における接着応力Fと引き剥がし距離Δrの関係(変位―応力曲線の比較)は、
図20に示すように表される。
【0114】
硬化剤を添加したモデルの接着応力Fの最大値は、約1150(MPa)である。一方、硬化剤を除いたモデルの接着応力Fの最大値は、約800(MPa)である。
【0115】
金表面とビスフェノールA型エポキシ樹脂+ジシアンジアミド系の分子モデルにおいて
、引き剥がし距離Δr(Å)が2Åの場合、3Åの場合、4Åの場合を比較すると、4Åの場合で安定的に引き剥がすことができる。
【0116】
(DFTと分散力)
接着力の寄与を分散力による成分F
dispとそれ以外(密度汎関数(DFT)で計算できる成分F
DFT)に分割した関係は、
図21に示すように表される。また、接着力の寄与を分散力による成分F
dispとそれ以外(DFTで計算できる成分F
DFT)に分割した関係(硬化剤を除いたモデル)は、
図22に示すように表される。
【0117】
合計値の接着応力Ftotは、(3)式で表される。
【0118】
F
tot=F
DFT+F
disp (3)
図21及び
図22の結果より、接着応力Fに及ぼす影響は、分散力の接着応力F
dispによる寄与が大きいことがわかる。
【0119】
以上、まとめると、Auとエポキシ樹脂の接着応力は、分散力による寄与が大きい。硬化剤を含んだエポキシ樹脂のモデルでは、硬化剤に含まれるシアノ基におけるπ逆供与が接着に寄与する。
【0120】
(SOPに搭載した半導体モジュール)
以下の説明において、上述した本技術を適用した一実施の形態に係る接着構造体及び接着構造体を備える半導体モジュールと重複する説明は、同様に適用可能であるため説明を省略する。
【0121】
本技術を適用した一実施の形態に係る接着構造体を備える半導体モジュール6の模式的断面構造は、
図23に示すように表される。
図23には、スモールアウトラインパッケージ(SOP:Small Outline Package)に搭載した半導体モジュール例が示される。また、
図23の領域A近傍における模式的断面構造は
図24(a)に示すように表され、
図23の領域B近傍における模式的断面構造は
図24(b)に示すように表される。
【0122】
SOPに搭載した半導体モジュール6は、
図23に示すように、リードフレーム66と、リードフレーム66上に形成された貴金属層10Dと、貴金属層10Dと相互作用により接着される導電性樹脂層12と、導電性樹脂層12上に配置される半導体デバイス14とを備える。貴金属層10Dと導電性樹脂層12は、
図24(b)に示すように、導電性樹脂層12を構成する第1接着性樹脂の官能基の一部から貴金属層10Dの貴金属に向かって電子が供与されるσ供与と、貴金属層10Dの貴金属から第1接着性樹脂の官能基に向かって電子が供与されるπ逆供与とにより接着される。
【0123】
更に、SOPに搭載した半導体モジュール6は、
図23に示すように、貴金属層10Dと相互作用により接着されるモールド樹脂層20を備える。貴金属層10Dとモールド樹脂層20は、モールド樹脂層20を構成する第2接着性樹脂の官能基の一部から貴金属層10Dの貴金属に向かって電子が供与されるσ供与と、貴金属層10Dの貴金属から第2接着性樹脂の官能基に向かって電子が供与されるπ逆供与とにより接着される。
【0124】
更に、SOPに搭載した半導体モジュール6は、
図23に示すように、リードフレーム64と、リードフレーム64上にメッキ技術により形成された貴金属層10Lを備える。貴金属層10Lとモールド樹脂層20は、
図24(a)に示すように、モールド樹脂層20を構成する第2接着性樹脂の官能基の一部から貴金属層10Lの貴金属に向かって電子が供与されるσ供与と、貴金属層10Lの貴金属から第2接着性樹脂の官能基に向かって電子が供与されるπ逆供与とにより接着される。
【0125】
SOPに搭載した半導体モジュール6全体は、
図23に示すように、モールド樹脂層20により樹脂封止されている。貴金属層10Lと半導体デバイス14間には、ボンディングワイヤ62が接続されている。
【0126】
(リードフレーム型MCPに搭載した半導体モジュール)
本技術を適用した一実施の形態に係る接着構造体を備える半導体モジュール6Mの模式的断面構造は、
図25に示すように表される。
図25には、リードフレーム型マルチチップパッケージ(MCP:Multi Chip Package)に実装された半導体モジュール例が示される。また、
図25の領域A近傍における模式的断面構造は
図24(a)と同様に表され、
図25の領域B近傍における模式的断面構造は
図24(b)と同様に表される。
【0127】
リードフレーム型MCPに搭載した半導体モジュール6Mは、
図25に示すように、リードフレーム64Lと、リードフレーム64L上に形成された貴金属層10Dと、貴金属層10Dと相互作用により接着される導電性樹脂層12Dと、導電性樹脂層12D上に配置される半導体デバイス14Bと、半導体デバイス14B上に配置される導電性樹脂層12Uと、導電性樹脂層12U上に配置される半導体デバイス14Aとを備える。貴金属層10Dと導電性樹脂層12Dは、
図24(b)と同様に、導電性樹脂層12Dを構成する第1接着性樹脂の官能基の一部から貴金属層10Dの貴金属に向かって電子が供与されるσ供与と、貴金属層10Dの貴金属から第1接着性樹脂の官能基に向かって電子が供与されるπ逆供与とにより接着される。
【0128】
更に、リードフレーム型MCPに搭載した半導体モジュール6Mは、
図25に示すように、貴金属層10Dと相互作用により接着されるモールド樹脂層20を備える。貴金属層10Dとモールド樹脂層20は、モールド樹脂層20を構成する第2接着性樹脂の官能基の一部から貴金属層10Dの貴金属に向かって電子が供与されるσ供与と、貴金属層10Dの貴金属から第2接着性樹脂の官能基に向かって電子が供与されるπ逆供与とにより接着される。
【0129】
更に、リードフレーム型MCPに搭載した半導体モジュール6Mは、
図25に示すように、リードフレーム64と、リードフレーム64上にメッキ技術により形成された貴金属層10Lを備える。貴金属層10Lとモールド樹脂層20は、
図24(a)に示すように、モールド樹脂層20を構成する第2接着性樹脂の官能基の一部から貴金属層10Lの貴金属に向かって電子が供与されるσ供与と、貴金属層10Lの貴金属から第2接着性樹脂の官能基に向かって電子が供与されるπ逆供与とにより接着される。
【0130】
リードフレーム型MCPに搭載した半導体モジュール6M全体は、
図25に示すように、モールド樹脂層20により樹脂封止されている。貴金属層10Lと半導体デバイス14A・14B間には、ボンディングワイヤ62が接続されている。
【0131】
本実施の形態に係る接着構造体、及びこの接着構造体を備える半導体モジュールに搭載可能な半導体デバイスは、例えばLED、半導体レーザ、パワー半導体、若しくは集積回路等のいずれか若しくはこれらの組み合わせを備えていても良い。
【0132】
集積回路としては、例えば、車載エレクトロニクス用として、ボディ制御モジュール(BCM:Body Control Module)、先進運転支援システム(ADAS:Advanced Driver Assistance System)、メインインバータ(Main inverter)、LEDランプモジュール(LED Lamp Module)、エンジンコントロールユニット(ECU:Engine Control Unit)、カーオーディオ(Car Audio)等の車載エレクトロニクス用集積回路を適用可能である。
【0133】
また、本実施の形態に係る接着構造体、及びこの接着構造体を備える半導体モジュールに搭載可能な半導体デバイスは、Si系又はSiC系のIGBT、ダイオード、MOSFET、GaN系FETのいずれかを備えていても良い。
【0134】
また、本実施の形態に係る接着構造体、及びこの接着構造体を備える半導体モジュールに搭載可能な半導体デバイスは、ワンインワンモジュール、ツーインワンモジュール、フォーインワンモジュール、シックスインワンモジュール、セブンインワンモジュール、エイトインワンモジュール、トゥエルブインワンモジュール、又はフォーティーンインワンモジュールのいずれかの構成を備えていても良い。
【0135】
本実施の形態によれば、高温下でも安定な界面構造を有する接着構造体、及びこの接着構造体を備える半導体モジュールを提供することができる。σ供与とπ逆供与が同時に起こっている接着構造体では、より多くの電子が共有されているため、特に高温下での接着性が向上可能である。
【0136】
[その他の実施の形態]
上記のように、いくつかの実施の形態について記載したが、開示の一部をなす論述及び図面は例示的なものであり、限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0137】
このように、本実施の形態は、ここでは記載していない様々な実施の形態等を含む。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本実施の形態の接着構造体、及び半導体モジュールは、LEDモジュール、オプティカルモジュール、IGBTモジュール、ダイオードモジュール、MOSモジュール(Si、SiC、GaN)等の各種の半導体モジュールや集積回路技術、各種パッケージ技術等に利用することができ、幅広い応用分野に適用可能である。
【符号の説明】
【0139】
2D、2S…接着構造体、4D、4S、6、6M…半導体モジュール、10、10D、10L…貴金属層、10A…金(Au)メッキ、12、12D、12U…導電性樹脂層、14、14A、14B…半導体デバイス、16…金属フィラー、18、19…接着性樹脂、20…モールド樹脂層、22…フィラー、24…分子骨格、26、34…CN系の官能基、28…OH基、30…Auメッキ層、32…CO系の官能基、40…シアン系貴金属メッキ層、50、70…貴金属原子、60…ジニトロジアンミン系貴金属メッキ層、62…ボンディングワイヤ、64、64L、66…リードフレーム