(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174207
(43)【公開日】2022-11-22
(54)【発明の名称】アルツハイマー病の治療用組成物および治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20221115BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20221115BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221115BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20221115BHJP
A61K 31/366 20060101ALI20221115BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20221115BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20221115BHJP
C07K 16/24 20060101ALN20221115BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20221115BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61P25/28
A61P43/00 111
A61K39/395 U
A61K31/366
A61K31/713
A61K39/395 F
C07K16/28
C07K16/24
C12N15/09 110
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022143550
(22)【出願日】2022-09-09
(62)【分割の表示】P 2019563786の分割
【原出願日】2018-05-09
(31)【優先権主張番号】62/506,782
(32)【優先日】2017-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】519405514
【氏名又は名称】ジェネラス バイオファーマ リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】シン-ユアン フー
(57)【要約】
【課題】 対象においてアルツハイマー病(AD)を治療する、予防するまたは発症を遅らせる方法の提供。
【解決手段】 対象においてアルツハイマー病(AD)を治療する、予防するまたは発症を遅らせる方法であって、AD発症における新規経路STAT1-Ch25Hを標的とすることによる、具体的には薬学的に有効な量のSTAT1阻害剤、CH25H阻害剤または25-OHC阻害剤、例えば3-ヒドロキシ-3-メチル-グルタリル補酵素A(HMG-CoA)レダクターゼ阻害剤、例えばシンバスタチンを前記対象に投与することによる方法が開示される。
【選択図】
図6B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるアルツハイマー病(AD)の治療方法であって、薬学的に有効な量のSTAT1阻害剤を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項2】
前記STAT1阻害剤がIFNまたはIFN受容体に対する抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記STAT1阻害剤がIL-6またはIL-6受容体に対する抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記STAT1阻害剤がJAK1およびJAK3を阻害する剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記STAT1阻害剤がSTAT1リン酸化を低減させる剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記STAT1阻害剤がSTAT1の核内移行を阻害する剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記STAT1阻害剤がSTAT1に対するRNAi剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
対象におけるアルツハイマー病(AD)の治療方法であって、薬学的に有効な量のCH25H阻害剤を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項9】
前記CH25H阻害剤がSTAT1阻害剤である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記CH25H阻害剤が、IFNまたはIFN受容体に対する抗体であるSTAT1阻害剤である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記CH25H阻害剤がIL-6またはIL-6受容体に対する抗体であるSTAT1阻害剤である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記CH25H阻害剤がJAK1とJAK3を阻害する剤であるSTAT1阻害剤である、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記CH25H阻害剤が、STAT1リン酸化を低減させる剤であるSTAT1阻害剤である、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記CH25H阻害剤が、STAT1の核内移行を阻害する剤であるSTAT1阻害剤である、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記CH25H阻害剤が、STAT1に対するRNAi剤であるSTAT1阻害剤である、請求項8に記載の方法。
【請求項16】
対象におけるアルツハイマー病(AD)の治療方法であって、薬学的に有効な量の25-OHC阻害剤を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項17】
前記25-OHC阻害剤が、CH25H阻害剤またはSTAT1阻害剤である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記25-OHC阻害剤が25-OHCの類似体である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記25-OHC阻害剤が、3-ヒドロキシ-3-メチル-グルタリル補酵素A(HMG-CoA)レダクターゼ阻害剤である、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記HMG-CoAレダクターゼ阻害剤がシンバスタチンである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
対象においてアルツハイマー病(AD)を予防するまたは発症を遅らせる方法であって、薬学的に有効な量のSTAT1阻害剤を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項22】
前記STAT1阻害剤がIFNまたはIFN受容体に対する抗体である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記STAT1阻害剤がIL-6またはIL-6受容体に対する抗体である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記STAT1阻害剤がJAK1およびJAK3を阻害する剤である、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記STAT1阻害剤がSTAT1リン酸化を低減させる剤である、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記STAT1阻害剤がSTAT1の核内移行を阻害する剤である、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記STAT1阻害剤がSTAT1に対するRNAi剤である、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
対象においてアルツハイマー病(AD)を予防するまたは発症を遅らせる方法であって、薬学的に有効な量のCH25H阻害剤を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項29】
前記CH25H阻害剤がSTAT1阻害剤である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記CH25H阻害剤が、IFNまたはIFN受容体に対する抗体であるSTAT1阻害剤である、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記CH25H阻害剤が、IL-6またはIL-6受容体に対する抗体であるSTAT1阻害剤である、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記CH25H阻害剤が、JAK1とJAK3を阻害する剤であるSTAT1阻害剤である、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
前記CH25H阻害剤が、STAT1リン酸化を低減させる剤であるSTAT1阻害剤である、請求項28に記載の方法。
【請求項34】
前記CH25H阻害剤が、STAT1の核内移行を阻害する剤であるSTAT1阻害剤である、請求項28に記載の方法。
【請求項35】
前記CH25H阻害剤が、STAT1に対するRNAi剤であるSTAT1阻害剤である、請求項28に記載の方法。
【請求項36】
対象においてアルツハイマー病(AD)を予防するまたは発症を遅らせる方法であって、薬学的に有効な量の25-OHC阻害剤を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項37】
前記25-OHC阻害剤がCH25H阻害剤またはSTAT1阻害剤である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記25-OHC阻害剤が25-OHCの類似体である、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記25-OHC阻害剤が、3-ヒドロキシ-3-メチル-グルタリル補酵素A(HMG-CoA)レダクターゼ阻害剤である、請求項36に記載の方法。
【請求項40】
前記HMG-CoAレダクターゼ阻害剤がシンバスタチンである、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
対象におけるアルツハイマー病(AD)の治療方法であって、次のステップ:
a.ゲノム編集ツールを用意し;
b.前記ゲノム編集ツールを神経細胞に送達し;そして
c.全STAT1遺伝子、STAT1遺伝子のリン酸化部位、STAT1遺伝子のプロモーター領域、またはSTAT1遺伝子のSH2ドメインを削除することによりSTAT1遺伝子を編集すること
を含む方法。
【請求項42】
前記ゲノム編集ツールがCRISPR-CAS9システムである、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
対象におけるアルツハイマー病(AD)の治療方法であって、次のステップ:
a.ゲノム編集ツールを用意し;
b.前記ゲノム編集ツールを神経細胞に送達し;そして
c.全CH25H遺伝子、CH25H遺伝子のヒスチンクラスター領域、またはCH25H遺伝子のプロモーター領域を削除することによりCH25H遺伝子を編集すること
を含む方法。
【請求項44】
前記ゲノム編集ツールがCRISPR-CAS9システムである、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
対象におけるアルツハイマー病(AD)を予防するまたは発症を遅らせる方法であって、次のステップ:
a.ゲノム編集ツールを提供し;
b.前記ゲノム編集ツールを神経細胞に送達し;そして
c.全STAT1遺伝子、STAT1遺伝子のリン酸化部位、STAT1遺伝子のプロモーター領域、またはSTAT1遺伝子のSH2ドメインを削除することによりSTAT1遺伝子を編集すること
を含む方法。
【請求項46】
前記ゲノム編集ツールがCRISPR-CAS9システムである、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
対象におけるアルツハイマー病(AD)を予防するまたは発症を遅らせる方法であって、次のステップ:
a.ゲノム編集ツールを提供し;
b.前記ゲノム編集ツールを神経細胞に送達し;そして
c.全CH25H遺伝子、CH25H遺伝子のヒスチンクラスター領域、またはCH25H遺伝子のプロモーター領域を削除することによりCH25H遺伝子を編集すること
を含む方法。
【請求項48】
前記ゲノム編集ツールがCRISPR-CAS9システムである、請求項47に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、薬剤および疾患治療のための該薬剤の使用に関し、具体的にはシグナル伝達兼転写活性化因子1(STAT1)を標的として阻害する薬剤であるコレステロール25-ヒドロキシラーゼ(CH25H)および25-ヒドロキシル化コレステロール(25-OHC);並びに生理学的状態を管理することにおける該薬剤の使用、具体的には中枢神経系疾患、アルツハイマー病などの神経変性疾患、および他の疾患を含む様々な疾患の治療および/または予防における当該薬剤の使用に関する。
【発明の背景】
【0002】
人類の寿命が延びるに従い、アルツハイマー病(AD)が世界中に広まる健康問題になりつつある。AD患者は自身の記憶、適応、判断および推理力において認知低下を患っている(Tanzi & Bertram, 2005)。典型的には、その疾患は発症から死に至る最終段階まで約10年を要する。現在まで、治療または予防的療法は全く利用可能ではない。
【0003】
アミロイド前駆体タンパク質(以後APPと称する)の代謝物であるAβタンパク質の脳への堆積は、それらの毒性と共に、ADの発症の主な原因因子であると考えられる(Selkoe 2001)。Aβは、AD患者に認められる老人斑において同定されたタンパク質成分である(Ikeda, Wong他、1987;Cole, Masliah他、1991)。生物学的には、Aβは、異なるサイズの断片を生じるアミロイドβ前駆体タンパク質(APP)の連続開裂を通して生成される。薬学研究は、Aβ42をADの発症に寄与する最も病原性の形態として同定した(Roher, Chaney他、1996、Morelli, Prat他、1999)。Aβ42の生産は、APPのβ開裂とそれに続くγ開裂からの結果である(Citron 2010, De Strooper, Vassar他、2010)。この不溶性Aβ42断片は、細胞外間隙中で凝集してプラーク(斑)を形成する。幾つかの証拠の系列は、Aβ42の可溶性オリゴマーが更により毒性であることを示唆している。Aβ42の存在は、シナプス活性に影響を与える。Aβ42の蓄積は潜在的に異常なネットワーク活動とシナプス抑圧を誘導しうる(Palop & Mucke 2009)。
【0004】
トランスジェニックマウスモデルにおける前臨床研究は、免疫療法がADとプリオン病の両方の予防において多大な効果があることを示した(Wisniewski 2012)。AβがADの中心分子であることがわかったため、小分子または免疫療法によりAβの根絶を目指した幾つかの方策が開発された(Tabira 2011;Huang & Mucke, 2012;Ozudogru & Lippa, 2012;Delrieu, Ousset他、2014)。Aβに向けられた免疫処置はADのマウスモデルにおいて有望な結果を与えたけれども、ヒトへの有効な治療法の移行はまだ難しい状況である。
【0005】
能動的予防接種試験において、能動免疫処置を受けた個体は、非免疫処置対照に比較してプラークの堆積の有意な減少とAβの著しい減少を示した。有望な結果にもかかわらず、処置群は長期生存、重症認知症を発症するまでの時間、および認知機能の改善を全く示さなかった(Holmes, Boche他、2008)。2つの最近行われた、Aβを標的とする受動免疫処置の大規模第III相臨床試験は、臨床的ベネフィットの証拠(エビデンス)を持たないまま終了に至った(Doody, Thomas他、2014;Salloway, Sperling他、2014)。従って、ADのための新しい新規な治療または予防的療法を見つけることが望ましい。
【発明の簡単な説明】
【0006】
一態様では、本発明は、対象に薬学的に有効な量のSTAT1阻害剤を投与することによる、対象のアルツハイマー病(AD)を治療する方法である。一実施形態では、STAT1阻害剤はIFNまたはIFN受容体に対する抗体である。別の実施形態では、STAT1阻害剤はIL-6またはIL-6受容体に対する抗体である。更に別の実施形態では、STAT阻害剤はJAK1およびJAK3を阻害する剤である。更にまた別の実施形態では、STAT1阻害剤は、STAT1リン酸化を減少させる剤である。更なる実施形態では、STAT1阻害剤は、STAT1の核内移行を防止する剤である。更なる実施形態では、STAT1阻害剤はSTAT1に対するRNAi剤である。
【0007】
別の態様では、本発明は、対象に薬学的に有効な量のCH25Hを投与することによる、対象のアルツハイマー病(AD)を治療する方法である。幾つかの実施形態では、CH25H阻害剤はSTAT1阻害剤である。別の実施形態では、CH25H阻害剤は、IFNまたはIFN受容体に対する抗体であるSTAT1阻害剤である。更に別の実施形態では、CH25H阻害剤は、IL-6またはIL6受容体に対する抗体であるSTAT1阻害剤である。更に別の実施形態では、CH25H阻害剤は、STAT1リン酸化を減少させる剤であるSTAT1阻害剤である。更に別の実施形態では、CH25阻害剤は、STAT1の核内移行を防止する剤である。更にまた別の実施形態では、CH25H阻害剤はSTAT1に対するRNAi剤であるSTAT1阻害剤である。更にまた別の実施形態では、CH25H阻害剤は、STAT1に対するRNAi剤であるSTAT1阻害剤である。
【0008】
更に別の態様では、本発明は、対象においてアルツハイマー病(AD)を治療する方法であって、薬学的に有効な量の25-OHC阻害剤を前記対象に投与することによる方法である。一実施形態では、25-OHC阻害剤がCH25H阻害剤またはSTAT1阻害剤である。別の実施形態では、25-OHC阻害剤は25-OHCの誘導体である。更に別の実施形態では、25-OHC阻害剤が3-ヒドロキシ-3-メチル-グルタリル補酵素A(HMG-CoA)レダクターゼ阻害剤、例えばシンバスタチンである。
【0009】
別の態様では、本発明は、対象におけるアルツハイマー病(AD)を予防するかまたは発症を遅らせる方法であって、薬学的に有効な量のSTAT1阻害剤を前記対象に投与することによる方法である。一実施形態では、STAT1阻害剤はIFNまたはIFN受容体に対する抗体である。別の実施形態では、STAT1阻害剤はIL-6またはIL-6受容体に対する抗体である。更に別の実施形態では、STAT1阻害剤はJAK1およびJAK3を阻害する剤である。更に別の実施形態では、STAT1阻害剤はSTAT1リン酸化を減少させる剤である。更なる実施形態では、STAT1阻害剤はSTAT1の核内移行を防止する剤である。更なる実施形態では、STAT1阻害剤はSTAT1に対するRNAi剤である。
【0010】
更に別の態様では、本発明は対象におけるアルツハイマー病(AD)を予防するかまたは発症を遅らせる方法であって、薬学的に有効な量のCH25H阻害剤を前記対象に投与することによる方法である。幾つかの実施形態では、CH25H阻害剤はSTAT1阻害剤である。一実施形態では、STAT1阻害剤はIFNまたはIFN受容体に対する抗体である。別の実施形態では、STAT1阻害剤はIL-6またはIL-6受容体に対する抗体である。更に別の実施形態では、STAT1阻害剤はJAK1およびJAK3を阻害する剤である。更に別の実施形態では、STAT1阻害剤はSTAT1リン酸化を減少させる剤である。更なる実施形態では、STAT1阻害剤はSTAT1の核内移行を抑制する剤である。更なる実施形態では、STAT1阻害剤はSTAT1に対するRNAi剤である。
【0011】
更に別の態様では、本発明は、対象におけるアルツハイマー病(AD)を予防するまたは発症を遅らせる方法であって、薬学的に有効な量の25-OHC阻害剤を前記対象に投与することによる方法である。一実施形態では、25-OHC阻害剤がCH25H阻害剤またはSTAT1阻害剤である。別の実施形態では、25-OHC阻害剤が25-OHCの誘導体である。更に別の実施形態では、25-OHC阻害剤が3-ヒドロキシ-3-メチル-グルタリル補酵素A(HMG-CoA)レダクターゼ阻害剤、例えばシンバスタチンである。
【0012】
更に別の態様では、本発明は、対象におけるアルツハイマー病(AD)を治療する方法であって、ゲノム編集ツールを提供し;該ゲノム編集ツールを神経細胞に送達し;そして全STAT1遺伝子、STAT1遺伝子のリン酸化部位、STAT1遺伝子のプロモーター領域、またはSTAT1遺伝子のSH2ドメインを削除することによってSTAT1遺伝子を編集することによる方法である。幾つかの実施形態では、ゲノム編集ツールがCRISPR-CAS9システムである。
【0013】
更に別の態様では、本発明は、対象においてアルツハイマー病(AD)を治療する方法であって、ゲノム編集ツールを提供し;該ゲノム編集ツールを神経細胞に送達し;そして全STAT1遺伝子、STAT1遺伝子のリン酸化部位、STAT1遺伝子のプロモーター領域、またはSTAT1遺伝子のSH2ドメインを削除することによってSTAT1遺伝子を編集することによる方法である。幾つかの実施形態では、ゲノム編集ツールがCRISPR-CAS9システムである。
【0014】
更に別の態様では、本発明は、対象においてアルツハイマー病(AD)を予防するまたは発症を遅らせる方法であって、ゲノム編集ツールを用意し;該ゲノム編集ツールを神経細胞に送達し;そして全STAT1遺伝子、STAT1遺伝子のリン酸化部位、STAT1遺伝子のプロモーター領域、またはSTAT1遺伝子のSH2ドメインを削除することによってSTAT1遺伝子を編集することによる方法である。幾つかの実施形態では、ゲノム編集ツールがCRISPR-CAS9システムである。
【0015】
更に別の態様では、本発明は、対象においてアルツハイマー病(AD)を予防するまたは発症を遅らせる方法であって、ゲノム編集ツールを用意し;該ゲノム編集ツールを神経細胞に送達し;そして全STAT1遺伝子、STAT1遺伝子のリン酸化部位、STAT1遺伝子のプロモーター領域、またはSTAT1遺伝子のSH2ドメインを削除することによってSTAT1遺伝子を編集することによる方法である。幾つかの実施形態では、ゲノム編集ツールがCRISPR-CAS9システムである。
【0016】
特許または特許出願ファイルは少なくとも1つのカラー図面を含む。カラー図面を含む本特許または特許出願公報の複製は、申請の上、必要な費用を支払うことで局官庁により提供されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】
図1Aと
図1Bは、リン酸化STAT1の上昇レベルがアルツハイマー病患者において検出されることを示す画像である。
図1Aは、3人のAD患者(症例1、症例2および症例3)と1名の健常者(対照)からの脳組織におけるリン酸化STAT1(pSTAT1)の染色を示す4枚の画像を示す。
【
図1B】
図1Bは、pSTAT1染色の形態を明らかにする拡大画像であり、その形態は、核内へのpSTAT1の蓄積を示唆する。長方形の枠内の染色を参照されたい。
【0018】
【
図2A】
図2A~2Eは、STAT1遺伝子欠損が脳内のアミロイドβ沈着を弱めることを示す画像とグラフである。
図2Aは、ADのマウスモデル(APP/PS1マウス)およびSTAT1欠損を有するADマウス(APP/PS/STAT1-/-)におけるアミロイドβ(Aβ)の染色の画像を示す。脳切片は、3か月齢のAPP/PS1およびAPP/PS1/STAT1-/-マウスからそれぞれ得た。画像は、全脳切片に加えて海馬領域におけるAβの染色を高倍率で示す。
【
図2B】
図2Bは、3か月齢のAPP/PS1およびAPP/PS1/STAT1-/-マウスからそれぞれ得た5つの連続切片におけるAβプラークの数を表すグラフである。
【
図2C】
図2Cは、3か月齢のAPP/PS1およびAPP/PS1/STAT1-/-マウスからそれぞれ得た5つの連続切片におけるAβプラーク面積を表すグラフである。
【
図2D】
図2Dは、3か月齢の野生型、APP/PS1およびAPP/PS1/STAT1-/-マウスからそれぞれ得られた脳組織のTBS抽出物におけるAβ42のELISA測定を示すグラフである。
【
図2E】
図2Eは、3か月齢の野生型、APP/PS1およびAPP/PS1/STAT1-/-マウスからそれぞれ得られた脳組織のギ酸抽出物におけるAβ42のELISA測定を示すグラフである。
【0019】
【
図3A】
図3Aと
図3Bは、STAT1下流標的としてのCH25Hの同定を表すグラフである。具体的には、
図3Aは、倍率変化>1.5、p値<0.05を有する、差次的に発現された遺伝子のオントロジー分析を表すヒートマップを示し、各遺伝子型について2つの生物学的繰り返し体を使用した。
【
図3B】
図3Bは、David機能注解(functional annotation)クラスタリングによる差次的に発現された遺伝子のパスウェイ解析を表す分円図である。
【0020】
【
図4A】
図4Aと
図4Bは、STAT1欠損マウスにおいてCH25Hが減少することを示すグラフと画像をそれぞれ示す。具体的には、
図4Aは、APP/PS1およびAPP/PS1/STAT1-/-マウスの脳内のCH25H mRNAレベルのリアルタイムPCR定量の結果を表すグラフを示す。データは、3つの独立した実験の代表例である。
【
図4B】
図4Bは、3対のAPP/PS1およびAPP/PS1/STAT1-/-マウスの脳ホモジネートにおけるCH25H、STAT1およびα-チューブリンのウエスタンブロットの結果を表す画像を示す。
【0021】
【
図5A】
図5Aと5Bは、STAT1がCH25Hプロモーターに物理的に結合することを表すグラフを示す。具体的には、
図5Aは、CH25H遺伝子とそのプロモーターの概略図を示す。
【
図5B】
図5Bは、CH25Hプロモーターを含むDNA断片がSTAT1抗体プルダウンにより富化され、この富化が野生型(WT)マウスのものに比較して、STAT1 KO(STAT1-/-)マウスからのサンプルでは減少したというクロマチンヒストン免疫沈澱(ChIP)実験の結果を表すグラフを示す。
【0022】
【
図6A】
図6Aと
図6Bは、STAT1欠損が脳内の25-OHCの減少を引き起こすことを表すグラフを示す。具体的には、
図6Aは、APP/PS1およびAPP/PS1/STAT1-/-マウスにおける総脳コレステロールレベルの測定結果を表すグラフを示す。各グループにつきn=3。
【
図6B】
図6Bは、
図6Aのコレステロール測定に使用した同一マウスにおける25-OHCレベルの測定結果を表すグラフを示す。
【0023】
【
図7】
図7は、全長APPタンパク質がSTAT1-/-マウスのエキソソーム画分において減少することを表す画像を示す。APP/PS1およびAPP/PS1/STAT1-/-マウスからの脳組織をホモジナイズし、視床後核画分(post nuclear fraction)を5%~45%ショ糖密度勾配遠心にかけた。10個の画分を収集し、Triton-100で可溶化した。各画分をウエスタンブロットに使用し、APPおよびエキソソームマーカーFlotillin 1についてブロッティングした。
【0024】
【
図8A】
図8A~
図8Cは、25-OHCでの処置がエキソソームAPPを減少させたが細胞内APPは増加させることを表すグラフと画像を示す。APPを過剰発現しているSH-SY5Y細胞を異なる用量の25-OHCで処置した。
図8Aは、エキソソーム精製用に培地を採取しそして精製したエキソソームを溶解することにより作製したサンプルからの、APPによるウエスタンブロットの結果を表す画像を示す。
【
図8B】
図8Bは、細胞内APPレベルを評価するために細胞溶解物を採取することにより作製したサンプルからの、APPを用いたウエスタンブロットの結果を表す画像を示す。
【
図8C】
図8Cは、対照細胞および25-OHC処置細胞における表面APPのFACS分析の結果を表すグラフを示す。
【0025】
【
図9】
図9は、25-OHC処置後のエキソソームにおけるAβ42の増加を表すグラフを示す。異なる濃度の25-OHCで処置した細胞培養培地から採取したエキソソームにおけるAβ42のELISA測定。データは、3つの独立した実験の代表である。
*p<0.05。
【0026】
【
図10A】
図10A~10Cは、25-OHC処置後の細胞内APPの保持時間の増加を表す画像を示す。
図10Aは、FITC結合抗体で標識した表面APPにより描写された、APP分子の輸送を表す画像を示す。細胞を様々な時点で固定し、特定の時点におけるAPPの分布を調べた。
【
図10B】
図10Bは、対照細胞におけるAPP輸送の延長時間を示すタイムラプス撮影ビデオのスナップショットの画像を示す。
【
図10C】
図10Cは、25-OHC処置細胞におけるAPP輸送を示すタイムラプス撮影ビデオのスナップショットの画像を示す。
【0027】
【
図11A】
図11A、11Bおよび11Cは、25-OHCの注入がAPP/PS1マウスにおいてAβ沈着を促進したことを表す画像とグラフを示す。
図11Aは、アミロイドβが染色された脳組織切片の画像を示す。2か月齢のマウスに25-OHCまたは対照として生理食塩水を1か月間に渡り隔日に投与した。それらのマウスからの脳を切片にし、アミロイドβ染色した。データは、生理食塩水または25-OHC注入マウスの3組のペアの代表例である。
【
図11B】
図11Bおよび11Cは、生理食塩水対照マウスと25-OHC処置マウスそれぞれから得られた、全脳(
図11B)および海馬(
図11C)の5つの連続切片におけるAβプラークの数を表すグラフを示す。
【
図11C】
図11Bおよび11Cは、生理食塩水対照マウスと25-OHC処置マウスそれぞれから得られた、全脳(
図11B)および海馬(
図11C)の5つの連続切片におけるAβプラークの数を表すグラフを示す。
【0028】
【
図12A】
図12A~12Eは、CH25H KOマウスの創製を表すグラフと画像である。
図12Aは、CH25H遺伝子および2つの標的指向性(ターゲティング)sgRNAの概略図である。
【
図12B】
図12Bは、2つの標的指向性(ターゲティング)sgRNAのDNA配列を示す。
【
図12C】
図12Cは、CH25HノックアウトマウスにおけるCH25H遺伝子の欠損を示す配列分析結果を表す。
【
図12D】
図12Dは、WT(534 bp)およびKO(488 bp)バンドの遺伝子型決定結果を表す画像を示す。
【
図12E】
図12Eは、WTマウスとCH25H KOマウスそれぞれのCH25H RNAレベルのリアルタイムPCR結果を表すグラフを示す。
【0029】
【
図13A】
図13Aと13Bは、CH25H KOマウスにおいてAβプラーク沈着が減少することを示す画像とグラフを示す。
図13Aは、ADのマウスモデル(APP/PS1マウス)とCH25H欠損を有するADマウス(APP/PS/CH25H-/-)におけるアミロイドβの染色を示す画像である。脳切片は3か月齢のAPP/PS1およびAPP/PS1/CH25H-/-マウスからそれぞれ得た。全脳切片に加えて海馬領域におけるアミロイドβの染色を高倍率で示す。
【
図13B】
図13Bと13Cは、3か月齢のAPP/PS1およびAPP/PS1/CH25H-/-マウスからそれぞれ得られた全脳(
図13B)と海馬(
図13C)の5つの連続切片中のAβプラークの数を表すグラフである。
【
図13C】
図13Bと13Cは、3か月齢のAPP/PS1およびAPP/PS1/CH25H-/-マウスからそれぞれ得られた全脳(
図13B)と海馬(
図13C)の5つの連続切片中のAβプラークの数を表すグラフである。
【0030】
【
図14】
図14は、CH25H遺伝子欠損がAPP/PS1マウスにおいて学習と記憶を改善することを表すグラフを示す。APP/P S1(n=11)およびAPP/PS1/CH25H-/-(n=8)マウスを水迷路で訓練した。5日間の訓練の間、隠したプラットフォームにたどり着くのに要する平均時間を記録する。x軸は日数であり、y軸はマウスが水迷路でプラットフォームを探し当てるのに要した時間である。
【0031】
【
図15】
図15は、様々な用量のプレドニゾロントリメチルアセテートまたはシンバスタチンと共に25-OHCで処置した細胞におけるAPPのウエスタンブロット結果の画像を示す。シンバスタチンは有力な25-OHC阻害剤として作用する。SH-SY5Y細胞を様々な用量のプレドニゾロントリメチルアセテートまたはシンバスタチンと共に25-OHCで処置した。細胞を24時間後に溶解し、APPについてブロッティングした。
【0032】
【
図16A】
図16A、16B、16Cおよび16Dは、Aβ沈着の差が、APP発現レベルの差またはAPPを切断するセクレターゼによるものでないことを表すグラフを示す。
図16Aは、APP/PS1マウスとAPP/PS1/STAT1-/-マウスの脳内のAPP mRNAレベルのリアルタイムPCR定量結果を表すグラフを示す。
【
図16B】
図16B、16Cおよび16Dは、Adam10(
図16B)、BACE1(
図16C)およびNicastrin(
図16D)、すなわちそれぞれAPPのα、βおよびγセクレターゼのリアルタイムPCR定量の結果を表す3つのグラフを示す。
【
図16C】
図16B、16Cおよび16Dは、Adam10(
図16B)、BACE1(
図16C)およびNicastrin(
図16D)、すなわちそれぞれAPPのα、βおよびγセクレターゼのリアルタイムPCR定量の結果を表す3つのグラフを示す。
【
図16D】
図16B、16Cおよび16Dは、Adam10(
図16B)、BACE1(
図16C)およびNicastrin(
図16D)、すなわちそれぞれAPPのα、βおよびγセクレターゼのリアルタイムPCR定量の結果を表す3つのグラフを示す。
【0033】
【
図17A】
図17Aと17Bは、WTおよびSTAT1欠損マウス間でミクログリア細胞の食作用(ファゴサイトーシス)能力が類似していることを表す画像とグラフを示す。
図17Aは、WTまたはSTAT1欠損マウスからのミクログリア細胞を蛍光ビーズと共にインキュベートした画像を示す。インキュベーション5分後に細胞を固定し、内在化されたビーズを撮像した。WTおよびKO培地は、それぞれWTまたはKOミクログリア細胞からの培地である。
【
図17C】
図17Cは、WTマウスとSTAT1欠損マウスにおけるSV2AのリアルタイムPCR測定を表すチャートである。
【
図17D】
図17Dは、WTマウスとSTAT1欠損マウスにおけるCCR2のリアルタイムPCR測定を表すチャートである。
【0034】
【
図18A】
図18A、18B、18Cおよび18Dは、APP/PS1マウスとAPP/PS1/STAT1-/-マウスにおけるCH25H(
図18A)並びに他の既知コレステロールヒドロキシラーゼCyp46al(
図18B)、Cyp7b1(
図18C)およびCyp7a1(
図18D)のそれぞれのリアルタイムPCR定量結果を表す4つのグラフを示す。これらの結果は、他のコレステロールヒドロキシラーゼCyp46al、Cyp7b1およびCyp7a1がSTAT1欠損により影響を受けなかったことを示す。
【
図18B】
図18A、18B、18Cおよび18Dは、APP/PS1マウスとAPP/PS1/STAT1-/-マウスにおけるCH25H(
図18A)並びに他の既知コレステロールヒドロキシラーゼCyp46al(
図18B)、Cyp7b1(
図18C)およびCyp7a1(
図18D)のそれぞれのリアルタイムPCR定量結果を表す4つのグラフを示す。これらの結果は、他のコレステロールヒドロキシラーゼCyp46al、Cyp7b1およびCyp7a1がSTAT1欠損により影響を受けなかったことを示す。
【
図18C】
図18A、18B、18Cおよび18Dは、APP/PS1マウスとAPP/PS1/STAT1-/-マウスにおけるCH25H(
図18A)並びに他の既知コレステロールヒドロキシラーゼCyp46al(
図18B)、Cyp7b1(
図18C)およびCyp7a1(
図18D)のそれぞれのリアルタイムPCR定量結果を表す4つのグラフを示す。これらの結果は、他のコレステロールヒドロキシラーゼCyp46al、Cyp7b1およびCyp7a1がSTAT1欠損により影響を受けなかったことを示す。
【
図18D】
図18A、18B、18Cおよび18Dは、APP/PS1マウスとAPP/PS1/STAT1-/-マウスにおけるCH25H(
図18A)並びに他の既知コレステロールヒドロキシラーゼCyp46al(
図18B)、Cyp7b1(
図18C)およびCyp7a1(
図18D)のそれぞれのリアルタイムPCR定量結果を表す4つのグラフを示す。これらの結果は、他のコレステロールヒドロキシラーゼCyp46al、Cyp7b1およびCyp7a1がSTAT1欠損により影響を受けなかったことを示す。
【0035】
【
図19A】
図19A~19Fは、STAT1欠損が一般的脂質代謝に影響を与えなかったことを示すグラフと画像を示す。
図19Aは、各群n=5の3か月齢のAPP/PS1およびAPP/PS1/STAT1-/-マウスの体重を表すグラフを示す。
【
図19B】
図19Bは、APP/PS1およびAPP/PS1/STAT1-/-マウスそれぞれの肝臓切片のOil-RedO染色の画像を示す。画像は3組のペアのマウスの代表例である。
【
図19C】
図19C、19D、19Eおよび19Fは、APP/PS1およびAPP/PS1/STAT1-/-マウスそれぞれにおけるLPL、ABCA1、APOE、HMGCRのリアルタイムPCR定量の結果を表す4つのグラフを示す。
【
図19D】
図19C、19D、19Eおよび19Fは、APP/PS1およびAPP/PS1/STAT1-/-マウスそれぞれにおけるLPL、ABCA1、APOE、HMGCRのリアルタイムPCR定量の結果を表す4つのグラフを示す。
【
図19E】
図19C、19D、19Eおよび19Fは、APP/PS1およびAPP/PS1/STAT1-/-マウスそれぞれにおけるLPL、ABCA1、APOE、HMGCRのリアルタイムPCR定量の結果を表す4つのグラフを示す。
【
図19F】
図19C、19D、19Eおよび19Fは、APP/PS1およびAPP/PS1/STAT1-/-マウスそれぞれにおけるLPL、ABCA1、APOE、HMGCRのリアルタイムPCR定量の結果を表す4つのグラフを示す。
【0036】
【
図20A】
図20A、20B、20C、20D、20E、20Fおよび20Gは、KCl処置後の前初期遺伝子の誘導を測定するために、50mMのKClで30分処置後にWTマウスまたはSTAT1 KOマウスから得られた一次ニューロン培養物におけるc-fos(
図20A)、zif268(
図20B)、BDNF-IV(
図20C)、BDNF-IX(
図20D)、Gadd45b(
図20E)、Npas4(
図20F)およびCH25H(
図20G)のリアルタイムPCR定量結果を表すグラフを示す。結果は、STAT1欠損が定常神経活動を変更しなかったことを示す。
【
図20B】
図20A、20B、20C、20D、20E、20Fおよび20Gは、KCl処置後の前初期遺伝子の誘導を測定するために、50mMのKClで30分処置後にWTマウスまたはSTAT1 KOマウスから得られた一次ニューロン培養物におけるc-fos(
図20A)、zif268(
図20B)、BDNF-IV(
図20C)、BDNF-IX(
図20D)、Gadd45b(
図20E)、Npas4(
図20F)およびCH25H(
図20G)のリアルタイムPCR定量結果を表すグラフを示す。結果は、STAT1欠損が定常神経活動を変更しなかったことを示す。
【
図20C】
図20A、20B、20C、20D、20E、20Fおよび20Gは、KCl処置後の前初期遺伝子の誘導を測定するために、50mMのKClで30分処置後にWTマウスまたはSTAT1 KOマウスから得られた一次ニューロン培養物におけるc-fos(
図20A)、zif268(
図20B)、BDNF-IV(
図20C)、BDNF-IX(
図20D)、Gadd45b(
図20E)、Npas4(
図20F)およびCH25H(
図20G)のリアルタイムPCR定量結果を表すグラフを示す。結果は、STAT1欠損が定常神経活動を変更しなかったことを示す。
【
図20D】
図20A、20B、20C、20D、20E、20Fおよび20Gは、KCl処置後の前初期遺伝子の誘導を測定するために、50mMのKClで30分処置後にWTマウスまたはSTAT1 KOマウスから得られた一次ニューロン培養物におけるc-fos(
図20A)、zif268(
図20B)、BDNF-IV(
図20C)、BDNF-IX(
図20D)、Gadd45b(
図20E)、Npas4(
図20F)およびCH25H(
図20G)のリアルタイムPCR定量結果を表すグラフを示す。結果は、STAT1欠損が定常神経活動を変更しなかったことを示す。
【
図20E】
図20A、20B、20C、20D、20E、20Fおよび20Gは、KCl処置後の前初期遺伝子の誘導を測定するために、50mMのKClで30分処置後にWTマウスまたはSTAT1 KOマウスから得られた一次ニューロン培養物におけるc-fos(
図20A)、zif268(
図20B)、BDNF-IV(
図20C)、BDNF-IX(
図20D)、Gadd45b(
図20E)、Npas4(
図20F)およびCH25H(
図20G)のリアルタイムPCR定量結果を表すグラフを示す。結果は、STAT1欠損が定常神経活動を変更しなかったことを示す。
【
図20F】
図20A、20B、20C、20D、20E、20Fおよび20Gは、KCl処置後の前初期遺伝子の誘導を測定するために、50mMのKClで30分処置後にWTマウスまたはSTAT1 KOマウスから得られた一次ニューロン培養物におけるc-fos(
図20A)、zif268(
図20B)、BDNF-IV(
図20C)、BDNF-IX(
図20D)、Gadd45b(
図20E)、Npas4(
図20F)およびCH25H(
図20G)のリアルタイムPCR定量結果を表すグラフを示す。結果は、STAT1欠損が定常神経活動を変更しなかったことを示す。
【
図20G】
図20A、20B、20C、20D、20E、20Fおよび20Gは、KCl処置後の前初期遺伝子の誘導を測定するために、50mMのKClで30分処置後にWTマウスまたはSTAT1 KOマウスから得られた一次ニューロン培養物におけるc-fos(
図20A)、zif268(
図20B)、BDNF-IV(
図20C)、BDNF-IX(
図20D)、Gadd45b(
図20E)、Npas4(
図20F)およびCH25H(
図20G)のリアルタイムPCR定量結果を表すグラフを示す。結果は、STAT1欠損が定常神経活動を変更しなかったことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本開示は、一部は、STAT1で制御されるCH25H発現がアルツハイマー病(AD)の発病に影響を及ぼすという新規で驚くべき発見に基づいている。本発明者らは、CH25HがSTAT1の下流標的であること、そしてSTAT1とその標的CH25HがAD発症の間のAβ沈着を促進することを発見した。STAT1の遺伝的欠損が脳内のAβ沈着を遅らせたことから、AD患者において検出される多量のリン酸化STAT1(pSTAT1)がAD発症の原因となる事象であった。CH25Hはコレステロールを25-OHCに変換する酵素である。25-OHCのユニークな特徴の1つは、それが血液脳関門(BBB)を通過できる点であり、現在臨床試験段階にある多数の薬物がBBBの透過に問題を有するために、その特徴は医薬開発にとって有益となりうる。本発明者らは、AD発症に対するCH25Hまたは25-OHCの効果を証明した。CH25Hノックアウトマウスは、STAT1ノックアウトマウスに匹敵する程度にAβ沈着を減少させた。対照的に、25-OHC投与は脳内へのAβ沈着を増加させた。
【0038】
Aβ沈着を調節するエフェクターとして25-OHCを生成するSTAT1-CH25H軸に少なくとも一部は関連付けられる疾患または医学的症状を治療または予防する手段が、本明細書に記載される。そのような疾患または医学的症状では、STAT1-CH25H活性の増強は、限定されないが次の原因によると考えられる:1) STAT1リン酸化の増加;2) STAT1またはCH25Hの発現の増加;3) CH25Hの基質としてのコレステロールの増加。当該治療または予防のための本明細書に記載のアンタゴニストは、化学物質、小分子、薬剤、ノンコーディングRNA、アンチセンスヌクレオチド、ペプチド、タンパク質もしくは抗体またはそれらの部分であることができる。特定の実施形態では、アンタゴニストは治療有効量で投与される。
【0039】
本発明は、対象の脳細胞におけるAβ沈着に関連した疾患または医学的症状を治療する方法を提供する。一実施形態では、該疾患または医学的症状は、Aβの異常な生産、輸送またはクリアランスによるものである。別の実施形態では、該疾患または医学的症状は、限定されないが、例えばIFN-α、IFN-β、IFN-γ、IL-6ファミリーサイトカインなどの因子により引き起こされるSTAT1-CH25H経路の活性の増加、または急性もしくは慢性炎症の状態によるものである。更なる実施形態では、該疾患または医学的症状は、対象の高コレステロール量により引き起こされる25-OHC量の増加によるものである。
【0040】
本発明者らは、STAT1シグナル伝達の遮断、STAT1発現の廃止またはCH25Hの枯渇が、Aβプラークを減少させるとともにADの発症を軽減することを発見した。25-OHCの化学的類似体も、培養細胞においてAPPを減少させた。本発明の治療方法は、STAT1またはCH25Hのシグナル伝達、発現または活性を変更させる剤、例えば25-OHC活性を遮断する剤または25-OHC分解を促進する剤を投与することを含む。特に、本発明は、アルツハイマー病を治療する方法および手段を提供する。
【0041】
よって、本発明は、一態様において、対象の脳においてSTAT1、その下流標的であるCH25H、または25-ヒドロキシル化コレステロール(25-OHC)を阻害することによる、ADのような疾患を治療する方法に向けられる。
【0042】
一態様では、本発明は、対象の脳においてSTAT1、その下流標的であるCH25H、または25-ヒドロキシル化コレステロール(25-OHC)を阻害することによる、ADのような疾患を予防するまたは発症を遅らせる方法に向けられる。
【0043】
別の態様では、本発明は、対象の脳においてSTAT1、その下流標的であるCH25H、または25-ヒドロキシル化コレステロール(25-OHC)を阻害することによる、アミロイドβ(Aβ)沈着を減少させる方法に向けられる。
【0044】
別の態様では、本発明は、対象の脳においてSTAT1、その下流標的であるCH25H、または25-ヒドロキシル化コレステロール(25-OHC)を阻害することによる、アミロイドβ(Aβ)沈着を予防するまたは蓄積を遅らせる方法に向けられる。
【0045】
一実施形態では、上記方法でのSTAT1の阻害は、薬学的に有効な量のSTAT1阻害剤を対照に投与することによる。
【0046】
本明細書中で用いられる「対象」という用語は、動物、好ましくは哺乳類、最も好ましくはヒトを意味する。ある場合には、対象は、ある一定のバイオマーカーの存在または不在に従って異なるサブグループに分類されてもよい。別の場合には、対象は、ある一定のバイオマーカーの量が閾値より下または上であるかどうかに基づいて異なるサブグループに分類されてもよい。どちらの場合でも、サブグループが本発明の処置に含まれてよくまたは除外されてもよい。
【0047】
幾つかの実施形態では、STAT1阻害剤は、薬学的に有効な量の有効成分、例えば化合物、ペプチド、抗体またはその断片、または核酸と、薬学的に許容される賦形剤とを含有する組成物である。
【0048】
「賦形剤」、「担体」、「薬学的に許容される賦形剤」、「薬学的に許容される担体」またはその類義語は、本発明の組成物または製剤の他の成分と適合性であり、かつSTAT1阻害剤組成物または製剤を投与しようとする患者、動物、組織または細胞に対して過度に有害でないという意味において許容される、1または複数の構成要素または成分を意味する。
【0049】
STAT1に関する「薬学的に有効な量」、「有効量」等の用語は、所望の応答を惹起させるのに十分であるSTAT1阻害剤の量、例えばそれが投与される対象、例えばヒトにおいてAβ沈着を減少させるのに十分である量、またはADの分子もしくは細胞パラメータまたはADの臨床状態もしくは症状の検出可能な改変もしくは緩和に十分である量を意味する。有効量、例えばヒトの療法利用のための有効量は、1日に投与されるSTAT1阻害剤の1回量もしくは2以上の分割量であることができ、またはそれは一定期間に渡って、例えば1、2、3、4もしくは約7日~約1年間に渡って複数回投与量として投与することができる。
【0050】
治療有効量の決定は、本明細書中に与えられる詳細な開示に照らせば当業者の能力の十分範囲内である。例えば、治療有効量または用量は、最初は試験管内(インビトロ)アッセイおよび細胞培養アッセイから推測することができる。別の例では、有効量は、所望の濃度または力価を達成するように動物モデルにおいて用量決定することができる。そのような情報を利用して、ヒトでの有効量をより正確に決定することができる。
【0051】
本明細書に記載の活性成分の毒性は、試験管内、細胞培養または実験動物における標準的な製剤プロセスにより決定することができる。インビトロおよび細胞培養アッセイでの上記から得られたデータは、ヒトでの使用のための用量範囲を決定するのに利用することができる。投与量は、使用する剤形および使用する投与経路によって異なり得る。正確な製剤化、投与経路および投与量は、患者の状態を斟酌して個々の医師により選択することができる。
【0052】
投与量と投与間隔は、生物学的効果(最小有効濃度、MEC)を誘導または抑制するのに十分である有効成分の血中レベルに個別に調整することが可能である。MECは各製剤毎に異なり得るが、インビトロデータから推測することができる。MECを達成するのに必要な投与量は、個体の特徴と投与経路に依存するだろう。検出アッセイを用いて血漿濃度を決定することができる。処置すべき状態の重症度と応答性によって、投薬は単回または複数回投与であることができ、治療過程は数日から数週間続くかまたは病状の治癒が果たされるまでまたは病状の減衰が果たされるまで続く。投与すべき組成物の量は、もちろん、例えば処置すべき対象、苦痛の重症度、投与の方法、および処方医の判断などに依存するだろう。
【0053】
例えば、幾つかの実施形態では、薬学的に有効な量のSTAT1阻害剤は、ヒトの場合約0.02mg/kg/日から約0.03mg/kg/日ほどの少量であってよく、また約2mg/kg/日から約3mg/kg/日ほどの多量であってもよい。更に幾つかの実施形態では、Aβ沈着がより深刻になる時、有効量は3mg/kg/日より高くてもよい。別の実施形態では、Aβ沈着を予防するまたは発症を遅らせるためにSTAT1阻害剤を用いる場合よりもSTAT1阻害剤を治療に用いる場合に有効量が高くなることがある。
【0054】
幾つかの実施形態では、投与量と治療スケジュールは、処置すべきヒト対象の性別にもよるだろう。ある場合には、女性患者の方がSTAT1処置に応答しやすい傾向があり、従って男性患者よりも用量がより少量でよく、投与スケジュールがより低頻度であってもよい。別の場合には、女性患者の方がSTAT1処置に対してより敏感であり、従って男性患者よりも用量がより少量でよく、投与スケジュールがより低頻度であってよい。
【0055】
幾つかの実施形態では、投与は好ましくはAβ沈着が検出されるよりもずっと早期に開始することができる。別の実施形態では、Aβ沈着が検出された後であるがADのいずれかの臨床症状が認められるより前に、投与を開始することができる。更に別の実施形態では、ADの臨床症状が認められた後に投与を開始することができる。投与はある場合には単回投与のためであってよい。また別の場合には、投与は複数回投与のためであってよく、例えば他の場合に2,3,4,5または6回分の量であってよい。投与は医師が必要と判断するのと同じ位の回数を続けることができる。
【0056】
別の実施形態では、投与スケジュールと投与量が関連する。一例では、初回投与がADの臨床症状が認められるより早期に開始される場合には、各投与の投与量が、ADの臨床症状が認められた後に初回量が投与される場合よりも少量であることができる。別の例では、投与が頻繁である時(例えば12時間毎に1回)、各投与の投与量が、投与が低頻度である時(例えば24時間毎に1回)よりも少量であることができる。
【0057】
本明細書に開示される処置方法または他の方法においてSTAT1阻害剤を使用する状況において、「使用する(use)」、「処置する(treat)」、「治療(treatment)」、「施す(adress)」などの用語は、STAT1阻害剤が、例えば本明細書に記載の通りにまたは本明細書に引用された参考文献に記載の通りに、対象に投与され、対象の組織に送達され、またはインビボでもしくはインビトロで、組織、細胞もしくは無細胞系と接触されることを意味する。典型的には、そのような使用または治療は、例えば次の結果をもたらす:(1)処置される症状または症状の検出可能な改善または軽減、(2)関連する生体分子、治療細胞集団または病理細胞集団の活性、レベルまたは数の検出可能な変更、(3)状態の進行の遅延、症状の発生の遅延、または症状の重症度の低減、または(4)本明細書に記載のような別の検出可能な応答。そのような軽減は、例えば少なくとも数時間または数日、例えば約1~24時間または日、例えば約1,2,3,4,5,6または7日間続いてもよく、あるいは軽減はより長期間、例えば約8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,24,26,28,35,42,49,56日から約60日以上続いてもよい、あるいは軽減は永久であってもよい。処置は疾患または症状の進行を遅らせるものであってもよく、あるいはその重症度を低減するものであってもよく、例えば、STAT1阻害剤の十分量で処置していない対象に比較して、少なくとも一部の対象において疾患または症状の発症を約1~24時間、約2~10日、約2~30日または約1~5年遅らせるものであってもよい。よって、STAT1阻害剤での使用または処置は、典型的には関連のある免疫パラメータの検出可能な変更、例えば適当な対照(例えば未処置のもの)に比較して、標的エフェクターもしくはサプレッサー細胞集団、インターロイキン、サイトカイン、ケモカイン、免疫グロブリンのレベル、活性もしくは相対量の変更をもたらす。STAT1阻害剤処置は、関連の転写因子、酵素、細胞生物活性のレベルもしくは活性、または疾患の病原因子のレベルもしくは活性の変更もまた引き起こし得る。STAT1阻害剤での処置は、疾患、症状もしくは合併症(例えばADにおけるAβ沈着)の発症を遅らせるまたは防止するために、現存する前記疾患、状態、症状もしくは合併症の進行を軽減するまたは遅らせるために、あるいは前記疾患、症状もしくは合併症の除去を促進するために、用いられてもよい。
【0058】
「軽減する」、「軽減」、「改善」などは、対象においてまたは対象の少なくとも少数部分において、例えば少なくとも約2%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、100%において、またはそれらの数値のいずれか2つの間の範囲内において、検出可能な改善または改善と一致する検出可能な変化が起こることを意味する。そのような改善または変化は、STAT1阻害剤で処置しない対象に比較して処置対象において観察されるものであってもよく、ここで未処置の対象は、同一または類似した疾患、状態、症状などを有しているかまたは発症することになる。疾患、状態、症状またはアッセイパラメータの軽減は、受動的にまたは能動的に決定されてもよく、例えば対象による自己評価により、臨床医の評価により、または適当なアッセイもしくは測定を実施することにより、例えば生活の質の評価、(1または複数の)疾患もしくは症状の進行の遅れ、(1または複数の)疾患もしくは症状の重症度の低減の評価により、または生体分子、細胞のレベルもしくは活性についての適当なアッセイにより、または対象の細胞遊走の検出により、決定されてもよい。軽減は一時的、長期または永久であってもよく、あるいはSTAT1阻害剤が対象に投与される、またはSTAT1阻害剤が本明細書にもしくは引用文献中に記載のアッセイまたは他の方法において用いられる間もしくは後の関連する時点で、例えばSTAT1阻害剤の投与または使用の約1時間以内から、対象がSTAT1阻害剤を受けた後の約3,6,9か月もしくはそれ以上までに渡り、変動することができるものであってもよい。
【0059】
分子、細胞応答、細胞活性等の兆候、レベルまたは生物活性の「変更(modulation)」は、細胞、レベルまたは活性等が検出可能な程度に増加または減少することを意味する。そのような増加または減少は、STAT1阻害剤で処置されない対象に比較して処置対象において観察されるものであってもよく、ここで未処置の対象は、同じまたは類似の疾患、状態、症状等を有するかまたは発症を受けることになる。そのような増加または減少は、少なくとも約2%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、100%、150%、200%、250%、300%、400%、500%、1000%もしくはそれ以上であることができ、またはそれらの数値のいずれか2つの間の任意の範囲内のおよその数であることができる。変更は、受動的または能動的に決定されてもよく、例えば対象の自己評価により、臨床医の評価により、または適当なアッセイもしくは測定を実施することにより、例えば生活の質の評価、(1または複数の)疾患もしくは症状の進行の遅れ、(1または複数の)疾患もしくは症状の重症度の低減の評価により、または生体分子、細胞のレベルもしくは活性についての適当なアッセイにより、または対象の細胞遊走の検出により、決定されてもよい。変更は一時的、長期または永久であってもよく、あるいはSTAT1阻害剤が対象に投与される、またはSTAT1阻害剤が本明細書にもしくは引用文献中に記載のアッセイまたは他の方法において用いられる間もしくは後の関連する時点で、例えばSTAT1阻害剤の投与または使用の約1時間以内から、対象がSTAT1阻害剤を受けた後の約3,6,9か月もしくはそれ以上までに渡り、変動することができるものであってもよい。
【0060】
本開示中の様々な箇所において、例えば任意の開示される実施態様または特許請求の範囲において、1または複数の特定の成分、要素またはステップを「含む」化合物、組成物、製剤または方法について言及が行われる。本発明の実施態様は、特定された成分、要素またはステップである、またはそれから成るまたは本質的にから成るそれらの化合物、組成物、製剤または方法も具体的に包含する。「含む」、「から成る」および「本質的に~から成る」という用語は、米国特許法の下で通常認められる意味を有する。例えば、ある成分またはステップを「含む」本開示の成分または方法は、制限のない意味であり、それらはその組成物または方法に加えて追加の成分またはステップを包含するまたは読むことができる。同様に、ある成分またはステップ「から成る」本開示の組成物または方法は、適当な量の追加の成分または追加のステップを有するそれらの組成物または方法を包含するまたはと読むことができる。
【0061】
ある場合には、STAT1阻害剤は、インターフェロンに対する抗体であってもよい。何故なら、インターフェロンはSTAT1の活性化に必要であり、かつインターフェロンの阻害がSTAT1の活性化を防止または減少させることになるからである。インターフェロン抗体の一例は、インターフェロンγに対するヒト化モノクローナル抗体であるフォントリズマブ(Fontolizumab)(計画商標名HuZAF)である。抗体の作製方法と抗体活性のアッセイ方法は当業界で一般に既知であるため、インターフェロンに対する類似の抗体も当業者により作製することができ、インターフェロンに対するその阻害効果についてスクリーニングすることができる。
【0062】
ある場合には、STAT1阻害剤はインターフェロン受容体に対する抗体であってもよい。それは、インターフェロン受容体がSTAT1の活性化に必要でありそしてインターフェロン受容体の阻害がSTAT1の活性化を防止または減少させることになるためである。インターフェロン受容体抗体の一例は、I型インターフェロン(IFN)受容体1を標的とするヒトモノクローナル抗体であるアニフロルマブ(Anifrolumab)である。抗体の作製方法と抗体活性のアッセイ方法は当業界で一般に既知であるため、インターフェロン受容体に対する類似の抗体も当業者により作製することができ、インターフェロン受容体に対するその阻害効果についてスクリーニングすることができる。
【0063】
幾つかの場合、STAT1阻害剤はIL-6に対する抗体であってもよい。それは、IL-6がSTAT1の活性化に必要でありそしてIL-6の阻害がSTAT1の活性化を防止または減少させることになるためである。IL-6抗体の一例は、IL-6に対するキメラ(ヒトとマウスのタンパク質から作製)モノクローナル抗体であるシルツキシマブ(Siltuximab)である。抗体の作製方法と抗体活性のアッセイ方法は当業界で一般に既知であるため、IL-6に対する類似の抗体も当業者により作製することができ、IL-6に対するその阻害効果についてスクリーニングすることができる。
【0064】
幾つかの場合、STAT1阻害剤はIL-6受容体(IL-6R)に対する抗体であってもよい。それは、インターフェロン受容体がSTAT1の活性化に必要でありそしてIL-6受容体の阻害がSTAT1の活性化を防止または減少させることになるからである。IL-6受容体抗体の一例は、インターロイキン6受容体に対するヒト化モノクローナル抗体であるトシリズマブ(Tocilizuma)である。抗体の作製方法と抗体活性のアッセイ方法は当業界で一般に既知であるため、IL-6Rに対する類似の抗体も当業者により作製することができ、IL-6Rに対するその阻害効果についてスクリーニングすることができる。
【0065】
更に別の場合、STAT1阻害剤はJAK1またはJAK3を阻害する剤であってもよい。それは、JAK1とJAK3がSTAT1シグナル伝達を活性化する周知の上流キナーゼであるためである。JAK1とJAK3を阻害する剤は小分子、例えばJAK1阻害剤として使用されるフィルゴチニブ(Filgotinib)、JAK3阻害剤としてのトファシチニブ(Tofacitinib)であってもよい。
【0066】
更に別の場合、STAT1阻害剤はSTAT1リン酸化を低減させる剤であってもよい。STAT1リン酸化を低減させるそのような剤は、STAT1リン酸化を阻害すると報告されたFLLL32であってもよい。
【0067】
更に別の場合、STAT1阻害剤はSTAT1の核内移行を阻害する剤であってもよい。そのようなSTAT1の核内移行を阻害する剤は、麻疹ウイルスPタンパク質およびVタンパク質であってもよい。
【0068】
更なる場合、STAT1阻害剤はSTAT1に対するRNAi剤である。そのようなRNAi剤はSTAT1を標的とする任意のsiRNA、例えばThermo Fisher Scientificからの製品105153であってもよい。特定の標的に対するsiRNAを作製する方法は当業界で一般に周知であるので、当業者はSTAT1を標的とする別のsiRNA剤を作製することができる。
【0069】
更に別の場合、ADを治療する、予防するまたは発症を遅らせる方法として、神経細胞中の全STAT1遺伝子、STAT1遺伝子のリン酸化部位、STAT1遺伝子のプロモーター領域、またはSTAT1遺伝子のSH2ドメインを削除するためにゲノム編集ツールが使用されてもよい。ゲノム編集ツールは、それがSTAT1遺伝子の特定領域を標的指向するのに使用でき、かつ着目の細胞にそれを送達することができる限り、任意のゲノム編集ツールであることができる。そのようなゲノム編集ツールの一例は、Ran, F.他、“In vivo genome editing using Staphylococcus aureus Cas9”, Nature (2015)中に記載されたCRISPR-CAS9システムである。そのようなゲノム編集ツールの別の例は、Zetsche他、CPfl1 is a Single RNA-Guided Endonuclease of a Class 2 CRISPR-Cas System, Cell (2015)に記載されたCRISPR-Cpflシステムである。
【0070】
別の実施態様では、上記方法でのCH25Hの阻害は、対象に薬学的に有効な量のCH25H阻害剤を投与することによる。幾つかの実施形態では、CH25H阻害剤はSTAT1阻害剤である。これはSTAT1がCH25Hを活性化し、そしてSTAT1の阻害が、CH25Hを活性化するSTAT1の能力を喪失させるからである。STAT1阻害剤は本明細書中に開示された任意のSTAT1阻害剤であることができる。
【0071】
別の実施形態において、ADを治療する、予防するまたは発症を遅らせる方法として、神経細胞中の全CH25H遺伝子、CH25H遺伝子のヒスチン(histine)クラスター領域、またはCH25H遺伝子のプロモーター領域を削除するためにゲノム編集ツールが使用されてもよい。ゲノム編集ツールは、それがCH25H遺伝子の特定領域を標的指向するのに使用でき、かつ着目の細胞にそれを送達することができる限り、任意のゲノム編集ツールであることができる。そのようなゲノム編集ツールの一例は、Ran, F.他、“In vivo genome editing using Staphylococcus aureus Cas9”, Nature (2015)中に記載されたCRISPR-CAS9システムである。そのようなゲノム編集ツールの別の例は、Zetsche他、“Cpfl Is a Single RNA-Guided Endonuclease of a Class 2 CRISPR-Cas System”, Cell (2015)に記載されたCRISPR-Cpflシステムである。
【0072】
別の実施形態では、上記方法における25-OHCの阻害が、薬学的に有効な量の25-OHC阻害剤を対象に投与することによるものである。
【0073】
幾つかの場合、25-OHC阻害剤はCH25H阻害剤またはSTAT1阻害剤であることができる。これはCH25HおよびSTAT1が25-OHCより上流であり、CH25HまたはSTAT1のいずれかの阻害が25-OHCを生成するCH25Hの能力を失わせるからである。別の場合、25-OHC阻害剤は25-OHCの類似体であってもよい。更に別の場合、25-OHC阻害剤は3-ヒドロキシ-3-メチル-グルタリル補酵素A(HMG-CoA)レダクターゼ阻害剤であってもよい。HMG-CoAレダクターゼ阻害剤の一例はシンバスタチンである。
【0074】
本明細書全体を通して、本発明の様々な実施形態を範囲形式で表現することが可能である。範囲形式での記載は単に利便性と簡潔性のためであると理解され、本発明の範囲に対する限定として解釈してはならない。従って、ある範囲の記載は、全ての可能な部分範囲並びにその範囲内の個々の数値を具体的に開示していると見なされるべきである。例えば、1~6のような範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6等のような部分範囲に加えて、その範囲の中の個々の数、例えば1,2,3,4,5および6を具体的に開示していると見なされるべきである。これは、その範囲の幅に関係なく適用される。
【0075】
明確化のために、個別の実施態様の中で記載されている本発明の幾つかの特徴は、それを単一の実施形態に組み合わせて提供することもできると理解されよう。逆に、簡潔性のために単一の実施形態の中で記載されている本発明の様々な特徴は、別々にまたは任意の適当な部分組み合わせ(sub-combination)の形で、または本発明の任意の別の記載において適当に提供することもできる。様々な実施形態の範囲内で記載される幾つかの特徴は、その実施形態がそれらの要素なしでは無効となるものでない限り、それらの実施形態の必須の特徴としては見なされない。
【0076】
本発明は本明細書中に記載の特定の方法論、プロトコルおよび試薬に限定されず、異なることができると理解すべきである。本明細書中で用いる用語法は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0077】
開示される発明の内容(subject matter)の実施例を下記に与える。開示される内容の他の特徴、目的および利点は、詳細な説明、図面、実施例および特許請求の範囲から明白であろう。本明細書中に記載されるのと実質的に類似したまたは同等の方法および材料は、ここに開示される内容の実施または試験において利用することができる。典型的な方法と材料を下記に記載する。
【実施例0078】
実施例
【0079】
方法
【0080】
マウス
【0081】
APP/PS1 5XFADマウスはJackson ラボから購入し、STAT1欠損マウスはDaved Levyにより提供された。CH25H KOマウスはCRISPR/Cas9法によって作製した。Cas9タンパク質の発現に使用するpST1374-Cas9-N-NLS-flag-リンカープラスミド(Addgene ID44758)は以前に記載されている(Zhou他、2014)。Ch25h遺伝子配列は、UCSCゲノム・ブラウザWebサイト(http//genome.ucsc.edu/)からダウンロードした。2つのsgRNAオリゴを合成し、pUC57-sgRNA構成物にアニールした。以前に記載された通りに(Zhou他、2014)、インビトロ転写を実施した。Cas9 mRNAとsgRNAをC57BL6/Jの背景中に導入した。APP/PS1マウスをCH25H(-/-)マウスと交配させて、APP/PS1遺伝子と、CH25HのWTまたはKO対立遺伝子の一方とを保有する子孫を生成した。全てのマウスは、CH57BL/6の遺伝的背景にあり、シンガポール国立大学の特別な無菌条件下で飼育された。全ての実験は3~4か月齢のマウスを用いて実施され、NUSの実験動物管理および使用委員会によって承認された。
【0082】
組織溶解物の調製およびショ糖勾配
【0083】
マウスの脳の重量を秤量し、9容のTBSでホモジナイズした。得られたホモジネートを4℃にて1000×gで15分間遠心分離した。上清を視床後核画分(post nuclear fraction)として採取した。視床後核画分を慎重に5%~45%のショ糖勾配の上に置き、4℃で147,000×gで16時間遠心分離した。遠心分離後、各画分として上から下まで1mLずつ採取した。膜関連タンパク質を溶解させるために、トリトン(Triton)を各画分に加えて0.1%の最終濃度となるようにした。得られたサンプルをウエスタンブロット分析に使用した。
【0084】
エキソソームの調製
【0085】
ヒトAPPを過剰発現するSH-SY5Y細胞を、10%FBS含有DMEM中で培養した。エキソソーム調製の1日前に、血清エキソソームの汚染を避けるために、培地をブランクDMEMに交換した。培地交換の24時間後、培地を回収し、200×gで5分間回転させて浮遊細胞を沈澱させた。無細胞培地を4℃で100,000×gで1時間更に遠心分離し、エキソソームを含むペレットをRIPAバッファーに溶解させた。
【0086】
マイクロアレイ分析
【0087】
マイクロアレイ分析は、Molecular Genomicsが提供するaffimetrixマイクロアレイシステム(Affymetrix)を使用して実施した。データ分析は、GeneSpringソフトウェアを用いて実行した。差次的に発現された遺伝子は、David Functional Annotation Clustering Webサイト(http://david.abcc.ncifcrf.gov/home.jsp)での入力情報(input)として使用され、中程度の分類厳密性のデフォルトを使用した。クラスタリングの結果を円グラフで再プロットした。
【0088】
組織学的分析
【0089】
組織を4%パラホルムアルデヒド固定し、脱水し、浸透させ、パラフィン包埋した。切片(5μm)をヘマトキシリンとエオシン(H&E)で染色し、一般的形態を評価した。免疫蛍光(IF)または免疫組織化学(IHC)用に切片を再水和し、Aβに対する一次抗体(Cell Signaling Tec.社製)で染色し、蛍光標識二次抗体(Invitrogen社製)と共にインキュベートした。オイルレッドO染色には、肝臓をTissue Tek(Electron Microscopy Science)中に包埋し、-80℃で凍結した。厚さ10μmの切片を切り取り、dH2Oで水和した後、オイルレッドO染色液(60%イソプロパノール中の0.3%オイルレッドO(Sigma社製))中で1時間インキュベートした。その後、スライドから落ちるイソプロパノールの液滴が透明になるまで、スライドを60%イソプロパノールで素早く3回洗浄した。その後、スライドをH2Oで洗浄し、ヘマトキシリンで対比染色した。
【0090】
リアルタイムPCR
【0091】
製造元の指示に従って、トライゾール試薬(Invitrogen社製)を用いて細胞から全RNAを抽出した。相補的DNA(cDNA)は、Superscript逆転写酵素(Invitrogen社製)を用いて合成した。遺伝子発現は、SYBR qPCRキット(KAPA社製)と共に7500リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社製)によって測定した。Actib、GapdhまたはRn18Sを内部標準として使用した。プライマー配列は請求により入手可能である。
【0092】
ELISA
【0093】
製造元の指示に従ってELISAキット(Millipore社製)を用いてAβ42の定量を行った。
【0094】
クロマチン免疫沈降アッセイ
【0095】
APP/PS1またはAPP/PS1/STAT1(-/-)マウスの脳半球の半分を9容のTBSでホモジナイズして脳ホモジネートを得た。最終濃度1%にまでホルムアルデヒドを10分間添加した後、グリシンでクエンチングすることによりクロスリンク(架橋)を形成させた。ホモジネートを低張緩衝液で処理した後、核溶解緩衝液で処理することによりクロマチンを放出させた。クロマチンを超音波処理によって断片化し、プロテインGビーズを使って事前に浄化した後、抗STAT1抗体(Santa Cruz社製)または通常のウサギIgG(Santa Cruz社製)を用いて4℃にて一晩沈殿させた。洗浄および溶出後、65℃で8時間インキュベートすることにより、脱クロスリンクを行った。溶出したDNAを精製し、前述のようにCH25Hプロモーターに対して特異的なプライマーを用いたRT-PCRにより該DNAを分析した。
【0096】
統計
【0097】
統計的有意性は、GraphPad Prism 6.01を使用したスチューデントt検定により決定した。p値<0.05を有意とみなした。臨床スコアのp値は、多重比較のために、一方向多範囲分散分析(ANOVA)により決定した。特に指定のない限り、データは平均と平均の標準誤差(平均±SEM)として表した。
【0098】
実施例1:STAT1ノックアウトマウスはAβ沈着を減少させた
【0099】
年齢の一致した対照症例よりもAD症例においてSTAT1の発現がより高いことが実証された(
図1Aおよび1B)。
図1Aでは、リン酸化STAT1(pSTAT1)の染色は対照細胞には全く認められなかった。対照的に、同じ
図1Aと
図1Bの症例1の写真の拡大スナップショットに示されるように、3つの症例の各々において、pSTAT1のかなり多くの染色が見られた。
【0100】
STAT1経路の活性化がADの発病の原因であるのか、またはADの後期における神経炎症の結果であるのかを解明するために、本発明者らはSTAT1-/-マウスをAPP/PS1マウスと交配して、STAT1-/-背景を有するADマウスを創出した。APP/PS1/STAT1-/-マウス、およびAPP/PS1遺伝子型のそれらの同腹子対照マウスを3~4か月間飼育し、その後、Aβ沈着の組織学的検査のために犠牲にした。驚くべきことに、STAT1-/-マウスではAβ数並びにAβによる占有面積が一貫して減少していることを見出した(
図2Aおよび2B)。TBSまたはギ酸抽出によりAβ42を測定した時と同様の結果が観察された(
図2Cおよび
図2D)。更に、Aβの減少はAPP発現レベルの変化のためでなく、セクレターゼ切断APPのためでもなかった(
図16Aおよび16B)。
【0101】
実施例2:STAT1-KOマウスにおけるAβ沈着の減少は、その下流の標的CH25Hの減少によるものであった
【0102】
本発明者らのマイクロアレイデータは、AD状態におけるSTAT1調節遺伝子としてCH25Hを同定した(
図3Aおよび3B)。更に、リアルタイムPCR、ウエスタンブロット、ChIPアッセイにより、CH25Hに対するSTAT1の調節効果を確証した(
図4A、4B、5A、5B)。リアルタイムPCRの結果を表した
図4Aに示される通り、STAT1欠損マウスではCH25H mRNAの発現が大幅に減少する。ウエスタンブロットの結果を表した
図4Bに示される通り、STAT1欠損マウスではCH25Hタンパク質レベルも有意に減少した。
図5Aおよび5BのChIPアッセイの結果は、STAT1欠損マウスでは、STAT1が少量しかCH25H遺伝子プロモーター配列に結合していないことも示した。STAT1欠損マウスで25-OHCのレベルが低下したという結果は、STAT1-CH25H軸が脳内の25-OHCレベルを調節するという概念を更に支持した(
図6A~6B)。
【0103】
実施例3:STAT1-CH25Hで調節される25-OHCは、エキソソームにおけるAPP分泌に影響を及ぼす
【0104】
マウス脳ホモジネートをショ糖勾配により分画し、APPタンパク質の細胞内局在化を調べた。明らかに、APPの分布パターンは、エキソソームマーカーであるフロチリン1(Flotillin 1)を豊富に含んでいた最高密度の画分を除き、5XFADマウスと5XFAD/STAT1-/-マウス間で類似していた。STAT1-/-マウスでは、この画分に有意に多量のAPPが含まれていた(
図7)。
【0105】
本発明者らは、APP過剰発現SH-SY5Y細胞株を使用して、エキソソームAPPの差が25-OHCによるものであるかどうかを更に確認した。細胞を種々の用量の25-OHCで処理し、細胞溶解物と培地からのエキソソームの双方を収集した。25-OHCは、細胞質APPを増加させ、一方でエキソソームAPPを減少させる、用量依存効果を示した(
図8Aおよび8B)。
図8Aに示すように、25-OHCの投与量が増加するにつれて、エキソソーム画分に検出されるAPP量は少なくなった。対照的に、25-OHCの投与量が増加するにつれて、細胞溶解物におけるAPP量はより多く認められた。
【0106】
表面APPのFACS分析はまた、25-OHCが細胞表面上のAPPの量を増加させることを明らかにした(
図8C)。25-OHC処理後、APPを過剰発現している細胞の細胞表面上で、より多くの量のAPPが検出された。
【0107】
更に、25-OHCでの処置後、エキソソームにおけるAβ42の増加を検出した。様々な濃度の25-OHCで処置した細胞培養培地を収集し、培地から回収したエキソソーム中のAβ42をELISAで測定した。
図9に示すように、増加する25-OHC濃度で処置した細胞の培地では、増加したAβ42が検出された。データは3つの独立した実験の代表である。
【0108】
実施例4:25-OHCは細胞中のAPPの保持時間を増加させた
【0109】
多数の機序が25-OHC処理後の細胞APPの増加に寄与しうる。しかしながら、本発明者らのマウスデータは、APPの合成と分解の両方が正常であったことを示唆する:APPの発現は同様であり、APP開裂の酵素レベルも同等であった(
図16Aおよび16B)。
図16Aに示すように、APPの発現レベルはSTAT1欠損に関係なく同様であった。
図16Bに示すように、Adam10、BACE1およびNicastrinの発現レベル、すなわちAPPのα、βおよびγセクレターゼレベルも、それぞれSTAT1欠損に関係なく同等であった。
【0110】
本発明者らは、次にAPPタンパク質の輸送を調べることに取り掛かった。表面APPを抗体で標識し、細胞をインキュベーターに戻し、染色のために様々な時点で固定した。未処理の細胞では、APPは細胞内の特定の区画へと移動し、6時間以内にシグナルが消失した。一方で25-OHC処理細胞ではAPPの輸送が遅くなった(
図10A)。タイムラプス動画は、未処理の細胞ではAPPが特定の区画にクラスター化し、一方で25-OHC処理細胞では、APPが試験期間内ずっと均一に分布していることを明確に示した(
図10B)。
【0111】
実施例5:CH25H KOは、STAT1 KOの表現型を再構成してADの発病を遅らせた
【0112】
本発明者らは、AD発病におけるCH25H KOの効果を研究した。CH25Hを標的とするsgRNAは、sgRNA1が配列番号1であり、sgRNA2が配列番号2であるように設計された。
図12Aと12Bを参照のこと。2つのsgRNAを用いて、CH25H遺伝子のエキソン中の46塩基対(bp)が削除されるようにCRISPR/Cas9法によりCH25H遺伝子をノックアウトし、CH25Hノックアウト(KO)マウスを創生した。
【0113】
CH25H KOマウスでは、CH25H遺伝子の46bp断片の欠失が検出され、488bpバンドが欠失型CH25H遺伝子であり、そして534bpが野生型遺伝子である。CH25H KOマウスにおいてCH25H mRNAの発現が有意に減少した(
図12E)。
【0114】
5XFADマウスと交配すると、CH25H KOはSTAT1 KOと同様な表現型を提示した。免疫染色とELISA定量の両方でAβが大幅に減少した(それぞれ
図13A、13Bおよび13C)。反対に、25-OHCを注射したマウスは有意に多量のAβを有していた(
図11A、11Bおよび11C)。
【0115】
減少したAβの認知能力に対する効果を試験するために、マウスを水迷路により検査した。5XFADマウスは徐々に水面下のプラットフォームに辿り着くことを習得したが、CH25H KOマウスはプラットフォームを見つけるのに有意に(p<0.05)少ない時間を要し、学習および記憶課題の面で優れた結果を成し遂げたことを示す(
図14)。
【0116】
実施例6:シンバスタチンは25-OHC誘導性APP蓄積を阻害する
【0117】
本発明者らは、潜在的25-OHC阻害剤について多数の小分子をスクリーニングし、シンバスタチンが25-OHCで誘導される細胞APPの増加を遮断することを見出した。この効果は、細胞傷害効果を引き起こす可能性のある投与量よりもはるかに低い、10 nMほどのシンバスタチン濃度において観察することができた。
【0118】
図15に示すように、25-OHC処置はAPPレベルの増加を引き起こした。しかしながら、シンバスタチン処置は、25-OHC処置によって誘発されるAPPレベルの増加を減少させることができた。対照的に、プレドニゾロントリメチルアセテート処置は、25-OHCによって誘発されるAPPレベルの増加に全く影響を及ぼさなかった。従って、シンバスタチンは25-OHCの強力な阻害剤であった。
【0119】
実施例7:WT型とSTAT1欠損型ミクログリア細胞間の食作用は同様であった
【0120】
WT型またはSTAT1-/-型ミクログリア細胞を蛍光ビーズと共にインキュベートし、それらの食作用能力を試験した。培地中に分泌される因子の効果を調べるために、両細胞をWT細胞からの培地またはSTAT1-/-細胞からの培地中に保持した。画像化および定量化により、食作用は試験した全ての条件で類似していることが示された(
図17Aおよび17B)。また、食作用過程に関与する鍵遺伝子であるSV2aおよびCCR2のmRNAも測定した。それらの発現レベルは、APP/PS1とAPP/PS1/STAT1-/-の間で同等であった(
図17Cおよび17D)。
【0121】
実施例8:CH25HはSTAT1依存性コレステロールヒドロキシラーゼであった
【0122】
異なる位置でコレステロールにヒドロキシ基を付加するCH25H、Cyp46a1、Cyp7b1およびCyp7a1を含む幾つかの既知コレステロールヒドロキシラーゼを試験した。本発明者らが試験した酵素のうち、CH25Hの発現のみが有意に減少したため、CH25HのみがSTAT1依存性発現パターンを示した(
図18A、18B、18Cおよび18D)。
【0123】
実施例9:STAT1欠損は、一般的な代謝異常を引き起こさなかった
【0124】
CH25Hはそもそもコレステロール代謝を調節することが知られている。しかしながら、体重、肝臓での脂質沈着、および脂質代謝に関与する鍵酵素を比較したところ、WTマウスとSTAT1-/-マウスとの間に有意な変化は見られなかった(
図19A~19F)。
図19Aに示すように、APP/PS1マウスとAPP/PS1/STAT1-/-マウス間で体重に有意差はなかった。
図19Bに示すように、APP/PS1マウスとAPP/PS1/STAT1-/-マウス間で肝細胞への脂質沈着に有意差は認められなかった。更に、
図19C~19Fに示すように、APP/PS1マウスとAPP/PS1/STAT1-/-マウスとの間でLPL、ABCA1、APOE、HMGCRを含む鍵酵素の発現に有意差は認められなかった。
【0125】
実施例10:STAT1欠損は前初期遺伝子の誘導により測定されるニューロン活動を変化させなかった
【0126】
WTまたはSTAT1-/-マウス由来の初代海馬ニューロンを培養し、次いで50 mM KClで処理した。cfos、Zif268、BDNF-IX、Gadd45b、Npas4およびCh25hを含む幾つかの前初期遺伝子の誘導を、ニューロン活動のマーカーとしてRT-PCRにより測定した。
図20A~20Gに示すように、WTおよびSTAT1-/-ニューロンの両方が、これらの遺伝子を同程度に誘導することができた。
【0127】
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