(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174217
(43)【公開日】2022-11-22
(54)【発明の名称】抗体の精製方法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/34 20060101AFI20221115BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20221115BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
C07K1/34
C07K16/00
C12P21/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】35
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2022144658
(22)【出願日】2022-09-12
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】日高 純臣
(72)【発明者】
【氏名】谷口 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】二村 朱香
(57)【要約】
【課題】ろ過が困難な抗体を精製可能な抗体の精製方法を提供する。
【解決手段】抗体を含む溶液を用意することと、再生セルロースを含む多孔質中空糸膜であって、弾性限界圧力が200kPa以上である多孔質中空糸膜を用いて溶液をろ過し、抗体を精製することと、を含む、抗体の精製方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体を含む溶液を用意することと、
再生セルロースを含む多孔質中空糸膜であって、弾性限界圧力が200kPa以上である多孔質中空糸膜を用いて前記溶液をろ過し、前記抗体を精製することと、
を含み、
前記抗体を含む溶液において、前記抗体の粒径の分布が22.0nm以上の範囲を含む、
抗体の精製方法。
【請求項2】
前記抗体を含む溶液において、前記抗体の粒径の分布が24.0nm以上の範囲を含む、請求項1に記載の抗体の精製方法。
【請求項3】
前記粒子が、前記抗体の凝集体を含む、請求項1に記載の抗体の精製方法。
【請求項4】
前記抗体が、二以上の異なる抗原に結合可能な抗体である、請求項1に記載の抗体の精製方法。
【請求項5】
前記抗体が、モノクローナル抗体である、請求項1に記載の抗体の精製方法。
【請求項6】
前記抗体が、抗体薬物合体に含まれている、請求項1に記載の抗体の精製方法。
【請求項7】
前記多孔質中空糸膜の膜厚(t)に対する内径(R)の比(R/t)が8.4以下である、請求項1に記載の抗体の精製方法。
【請求項8】
前記多孔質中空糸膜の膜厚(t)が20μm以上70μm以下の範囲である、請求項1に記載の抗体の精製方法。
【請求項9】
前記再生セルロースが銅アンモニア法による再生セルロースである、請求項1に記載の抗体の精製方法。
【請求項10】
前記多孔質中空糸膜の内表面における孔径が外表面における孔径より大きい、請求項1に記載の抗体の精製方法。
【請求項11】
前記多孔質中空糸膜の内表面側から外表面側に向かって孔径が小さくなる傾斜構造を有する、請求項1に記載の抗体の精製方法。
【請求項12】
ろ過圧力27kPa、37℃における前記多孔質中空糸膜における透水量が10L/(m2・hr)以上50L/(m2・hr)以下である、請求項1に記載の抗体の精製方法。
【請求項13】
前記多孔質中空糸膜のバブルポイントが1.2MPa以上である、請求項1に記載の抗体の精製方法。
【請求項14】
前記抗体を精製することにおいて、ウイルスが除去される、請求項1に記載の抗体の精製方法。
【請求項15】
前記多孔質中空糸膜のパルボウイルス除去率(LRV)が4.0以上である、請求項14に記載の抗体の精製方法。
【請求項16】
前記抗体を含む溶液のpHが4.5以上10.0以下である、請求項1に記載の抗体の精製方法。
【請求項17】
前記抗体を含む溶液の塩濃度が0mmol/L以上1000mmol/L以下である、請求項1に記載の抗体の精製方法。
【請求項18】
前記抗体を含む溶液の電気伝導度が0mS/cm以上100mS/cm以下である、請求項1に記載の抗体の精製方法。
【請求項19】
抗体を含む溶液を用意することと、
再生セルロースを含む多孔質中空糸膜であって、弾性限界圧力が200kPa以上である多孔質中空糸膜を用いて前記溶液をろ過し、前記抗体を精製することと、
を含み、
(A)疎水性相互作用クロマトグラフィーにおける前記抗体のTr-Tmが15分以上である、及び/又は(B)疎水性相互作用クロマトグラフィーにおける前記抗体のk値が19以上である、
抗体の精製方法。
【請求項20】
前記Tr-Tmが16分以上である、及び/又は前記k値が20以上である、請求項19に記載の抗体の精製方法。
【請求項21】
前記抗体が、二以上の異なる抗原に結合可能な抗体である、請求項19に記載の抗体の精製方法。
【請求項22】
前記抗体が、モノクローナル抗体である、請求項19に記載の抗体の精製方法。
【請求項23】
前記抗体が、抗体薬物合体に含まれている、請求項19に記載の抗体の精製方法。
【請求項24】
前記多孔質中空糸膜の膜厚(t)に対する内径(R)の比(R/t)が8.4以下である、請求項19に記載の抗体の精製方法。
【請求項25】
前記多孔質中空糸膜の膜厚(t)が20μm以上70μm以下の範囲である、請求項19に記載の抗体の精製方法。
【請求項26】
前記再生セルロースが銅アンモニア法による再生セルロースである、請求項19に記載の抗体の精製方法。
【請求項27】
前記多孔質中空糸膜の内表面における孔径が外表面における孔径より大きい、請求項19に記載の抗体の精製方法。
【請求項28】
前記多孔質中空糸膜の内表面側から外表面側に向かって孔径が小さくなる傾斜構造を有する、請求項19に記載の抗体の精製方法。
【請求項29】
ろ過圧力27kPa、37℃における前記多孔質中空糸膜における透水量が10L/(m2・hr)以上50L/(m2・hr)以下である、請求項19に記載の抗体の精製方法。
【請求項30】
前記多孔質中空糸膜のバブルポイントが1.2MPa以上である、請求項19に記載の抗体の精製方法。
【請求項31】
前記抗体を精製することにおいて、ウイルスが除去される、請求項19に記載の抗体の精製方法。
【請求項32】
前記多孔質中空糸膜のパルボウイルス除去率(LRV)が4.0以上である、請求項31に記載の抗体の精製方法。
【請求項33】
前記抗体を含む溶液のpHが4.5以上10.0以下である、請求項19に記載の抗体の精製方法。
【請求項34】
前記抗体を含む溶液の塩濃度が0mmol/L以上1000mmol/L以下である、請求項19に記載の抗体の精製方法。
【請求項35】
前記抗体を含む溶液の電気伝導度が0mS/cm以上100mS/cm以下である、請求項19に記載の抗体の精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人血液由来の血漿分画製剤やバイオ医薬品等の生物学的製剤において、ウイルスに対する安全性を向上させる対策として、その製造工程にはウイルス除去/不活化工程が導入されている。なかでも、多孔質中空糸膜を用いたろ過によるウイルス除去法は、有用なタンパク質を変性させることなくウイルスを低減することができる有効な方法である(例えば、特許文献1から3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/156401号公報
【特許文献2】国際公開第2017/170874号公報
【特許文献3】国際公開第2022/118943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
生物学的製剤に用いられる有用なタンパク質として、抗体が挙げられる。また、近年、複数の抗原結合部位を有することにより、複数の抗原に対して特異性を有する多重特異的抗体が注目を集めている。多重特異的抗体を含め、抗体には、フィルターで目詰まりしやすい、ろ過が困難な抗体がある。そこで、本発明は、ろ過が困難な抗体を精製可能な抗体の精製方法を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]実施形態に係る抗体の精製方法は、抗体を含む溶液を用意することと、再生セルロースを含む多孔質中空糸膜であって、弾性限界圧力が200kPa以上である多孔質中空糸膜を用いて溶液をろ過し、抗体を精製することと、を含み、抗体を含む溶液において、抗体の粒径の分布が22.0nm以上の範囲を含む。ここで、粒径の分布は、動的光散乱法で測定してもよい。
【0006】
[2]上記[1]の抗体の精製方法において、抗体を含む溶液において、抗体の粒径の分布が24.0nm以上の範囲を含んでいてもよい。
【0007】
[3]上記[1]又は[2]の抗体の精製方法において、粒子が、抗体の凝集体を含んでいてもよい。
【0008】
[4]上記[1]から[3]のいずれかの抗体の精製方法において、抗体が、二以上の異なる抗原に結合可能な抗体であってもよい。
【0009】
[5]上記[1]から[4]のいずれかの抗体の精製方法において、抗体が、モノクローナル抗体であってもよい。
【0010】
[6]上記[1]から[5]のいずれかの抗体の精製方法において、抗体が、抗体薬物合体に含まれていてもよい。
【0011】
[7]上記[1]から[6]のいずれかの抗体の精製方法において、多孔質中空糸膜の膜厚(t)に対する内径(R)の比(R/t)が8.4以下であってもよい。
【0012】
[8]上記[1]から[7]のいずれかの抗体の精製方法において、多孔質中空糸膜の膜厚(t)が20μm以上70μm以下の範囲であってもよい。
【0013】
[9]上記[1]から[8]のいずれかの抗体の精製方法において、再生セルロースが銅アンモニア法による再生セルロースであってもよい。
【0014】
[10]上記[1]から[9]のいずれかの抗体の精製方法において、多孔質中空糸膜の内表面における孔径が外表面における孔径より大きくてもよい。
【0015】
[11]上記[1]から[10]のいずれかの抗体の精製方法において、多孔質中空糸膜の内表面側から外表面側に向かって孔径が小さくなる傾斜構造を有していてもよい。
【0016】
[12]上記[1]から[11]のいずれかの抗体の精製方法において、ろ過圧力27kPa、37℃における多孔質中空糸膜における透水量が10L/(m2・hr)以上50L/(m2・hr)以下であってもよい。
【0017】
[13]上記[1]から[12]のいずれかの抗体の精製方法において、多孔質中空糸膜のバブルポイントが1.2MPa以上であってもよい。
【0018】
[14]上記[1]から[13]のいずれかの抗体の精製方法において、抗体を精製することにおいて、ウイルスが除去されてもよい。
【0019】
[15]上記[1]から[14]のいずれかの抗体の精製方法において、多孔質中空糸膜のパルボウイルス除去率(LRV)が4.0以上であってもよい。
【0020】
[16]上記[1]から[15]のいずれかの抗体の精製方法において、抗体を含む溶液のpHが4.5以上10.0以下であってもよい。
【0021】
[17]上記[1]から[16]のいずれかの抗体の精製方法において、抗体を含む溶液の塩濃度が0mmol/L以上1000mmol/L以下であってもよい。
【0022】
[18]上記[1]から[17]のいずれかの抗体の精製方法において、抗体を含む溶液の電気伝導度が0mS/cm以上100mS/cm以下であってもよい。
【0023】
[19]実施形態に係る抗体の精製方法は、抗体を含む溶液を用意することと、再生セルロースを含む多孔質中空糸膜であって、弾性限界圧力が200kPa以上である多孔質中空糸膜を用いて溶液をろ過し、抗体を精製することと、を含み、(A)疎水性相互作用クロマトグラフィーにおける抗体のTr-Tmが15分以上である、及び/又は(B)疎水性相互作用クロマトグラフィーにおける抗体のk値が19以上である。ここで、Trは、抗体が、疎水性相互作用クロマトグラフィー装置において、疎水性相互作用クロマトグラフィーカラムを通過し検出器に至る時間である。Tmは、疎水性相互作用クロマトグラフィーカラムを取り外した疎水性相互作用クロマトグラフィー装置において、抗体が、検出器に至る時間である。k値は、下記式で与えられる。なお、T0は、疎水性相互作用クロマトグラフィー装置において、疎水性相互作用クロマトグラフィーカラムと相互作用せず素通りする抗体が検出器に至る時間である。
k=(Tr―T0)/(T0―Tm)
【0024】
[20]上記[19]の抗体の精製方法において、Tr-Tmが16分以上であってもよい、及び/又はk値が20以上であってもよい。
【0025】
[21]上記[19]又は[20]の抗体の精製方法において、抗体が、二以上の異なる抗原に結合可能な抗体であってもよい。
【0026】
[22]上記[19]から[21]のいずれかの抗体の精製方法において、抗体が、モノクローナル抗体であってもよい。
【0027】
[23]上記[19]から[22]のいずれかの抗体の精製方法において、抗体が、抗体薬物合体に含まれていてもよい。
【0028】
[24]上記[19]から[23]のいずれかの抗体の精製方法において、多孔質中空糸膜の膜厚(t)に対する内径(R)の比(R/t)が8.4以下であってもよい。
【0029】
[25]上記[19]から[24]のいずれかの抗体の精製方法において、多孔質中空糸膜の膜厚(t)が20μm以上70μm以下の範囲であってもよい。
【0030】
[26]上記[19]から[25]のいずれかの抗体の精製方法において、再生セルロースが銅アンモニア法による再生セルロースであってもよい。
【0031】
[27]上記[19]から[26]のいずれかの抗体の精製方法において、多孔質中空糸膜の内表面における孔径が外表面における孔径より大きくてもよい。
【0032】
[28]上記[19]から[27]のいずれかの抗体の精製方法において、多孔質中空糸膜の内表面側から外表面側に向かって孔径が小さくなる傾斜構造を有していてもよい。
【0033】
[29]上記[19]から[28]のいずれかの抗体の精製方法において、ろ過圧力27kPa、37℃における多孔質中空糸膜における透水量が10L/(m2・hr)以上50L/(m2・hr)以下であってもよい。
【0034】
[30]上記[19]から[29]のいずれかの抗体の精製方法において、多孔質中空糸膜のバブルポイントが1.2MPa以上であってもよい。
【0035】
[31]上記[19]から[30]のいずれかの抗体の精製方法において、抗体を精製することにおいて、ウイルスが除去されてもよい。
【0036】
[32]上記[19]から[31]のいずれかの抗体の精製方法において、多孔質中空糸膜のパルボウイルス除去率(LRV)が4.0以上であってもよい。
【0037】
[33]上記[19]から[32]のいずれかの抗体の精製方法において、抗体を含む溶液のpHが4.5以上10.0以下であってもよい。
【0038】
[34]上記[19]から[33]のいずれかの抗体の精製方法において、抗体を含む溶液の塩濃度が0mmol/L以上1000mmol/L以下であってもよい。
【0039】
[35]上記[19]から[34]のいずれかの抗体の精製方法において、抗体を含む溶液の電気伝導度が0mS/cm以上100mS/cm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、ろ過が困難な抗体を精製可能な抗体の精製方法を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】実施形態に係る多孔質中空糸膜の膜断面の模式図である。多孔質中空糸膜の内径(R)と膜厚(t)との関係を示している。
【
図3】疎水性相互作用クロマトグラフィーカラムによる抗体の保持時間を示すグラフである。
【
図4】抗体を含む溶液のろ過速度を示すグラフである。
【
図5】抗体を含む溶液のろ過速度を示すグラフである。
【
図6】抗体を含む溶液のろ過速度を示すグラフである。
【
図7】抗体を含む溶液のろ過速度を示すグラフである。
【
図8】抗体を含む溶液のろ過速度を示すグラフである。
【
図9】抗体を含む溶液のろ過速度を示すグラフである。
【
図10】抗体を含む溶液のろ過速度を示すグラフである。
【
図11】抗体を含む溶液のろ過速度を示すグラフである。
【
図12】抗体を含む溶液のろ過速度を示すグラフである。
【
図13】抗体を含む溶液のろ過速度を示すグラフである。
【
図15】抗体を含む溶液のろ過速度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明を具体的な実施の形態(以下、「本実施形態」という。)に即して詳細に説明する。ただし、本発明は以下の本実施形態に束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0043】
本実施形態に係る抗体の精製方法は、抗体を含む溶液を用意することと、再生セルロースを含む多孔質中空糸膜であって、弾性限界圧力が200kPa以上である多孔質中空糸膜を用いて溶液をろ過し、抗体を精製することと、を含む。
【0044】
抗体を含む溶液において、抗体の粒径は分布をなしていてもよい。抗体の粒径の分布は、動的光散乱(DLS)法により測定可能である。動的光散乱法の詳細については、実施例で説明する。実施例で説明する動的光散乱法で得られる抗体の粒径の分布は、22.0nm以上の範囲、23.0nm以上の範囲、24.0nm以上の範囲、25.0nm以上の範囲、あるいは26.0nm以上の範囲を含んでいてもよい。抗体の粒径の分布の上限は、50nm、40nm、35nm、あるいは30nmであってもよい。粒径の分布において大きな粒径を与える粒子は、抗体の単量体であってもよいし、抗体の凝集体であってもよい。
【0045】
また、精製される抗体の特徴を表す指標の例として、抗体の疎水性の程度が挙げられる。抗体の疎水性の程度は、疎水性相互作用クロマトグラフィーカラムを通過し検出器に至る時間Trの長さで測定することができる。抗体の疎水性が高くなるほど、時間Trが長くなる。時間Trは、疎水性相互作用クロマトグラフィー装置の配管長に影響され得るが、疎水性相互作用クロマトグラフィーカラムを取り外した際に検出ピークが得られる時間TmをTrから差し引くことで、配管長の影響をキャンセルすることができる。実施例で詳細に説明する測定方法による、本実施形態で精製される溶液に含まれる抗体のTr-Tmの値は、15分以上、16分以上、17分以上、18分以上、あるいは19分以上であってもよい。また、抗体のTr-Tmの値は、40分以下、35分以下、30分以下、あるいは25分以下であってもよい。
【0046】
また、クロマトグラフィー装置の配管長や測定条件の影響を受けない、抗体の疎水性の程度を示す指標として、実施例で詳細に説明する保持係数k値を使用することができる。実施例で説明する分析方法による、本実施形態で精製される溶液に含まれる抗体のk値は、19以上、19.5以上、あるいは20以上であってもよい。また、抗体のk値は、30以下、以下、28以下、あるいは25以下であってもよい。
【0047】
抗体を含む溶液は、抗体の凝集体を含んでいてもよい。抗体の凝集体は、二量体以上の抗体を含む。一般に、抗体の凝集体は、抗体の単量体よりも荷電量が多い。また、一般に、抗体の凝集体は、抗体の単量体よりも疎水性が高い。溶液の塩濃度が高くなると、抗体どうしの疎水性相互作用が高くなり、抗体の会合体や凝集体が生じやすくなる傾向にある。また、溶液の温度が高くなると、抗体の凝集体が増える傾向にある。
【0048】
抗体は、ヒト抗体であってもよく、ヒト以外のウシ及びマウス等の哺乳動物由来抗体タンパク質であってもよい。あるいは、抗体は、ヒトIgGとのキメラ抗体タンパク質、及びヒト化抗体であってもよい。ヒトIgGとのキメラ抗体とは、可変領域がマウスなどのヒト以外の生物由来であるが、その他の定常領域がヒト由来の免疫グロブリンに置換された抗体である。また、ヒト化抗体とは、可変領域のうち、相補性決定領域(complementarity-determining region:CDR)がヒト以外の生物由来であるが、その他のフレームワーク領域(framework region:FR)がヒト由来である抗体である。ヒト化は、キメラ抗体よりも免疫原性がさらに低減される。
【0049】
抗体のクラス(アイソタイプ)及びサブクラスは特に限定されない。例えば、抗体は、定常領域の構造の違いにより、IgG,IgA,IgM,IgD,及びIgEの5種類のクラスに分類される。しかし、実施形態に係る多孔質中空糸膜が精製対象とする抗体は、5種類のクラスの何れであってもよい。また、ヒト抗体においては、IgGにはIgG1からIgG4の4つのサブクラスがあり、IgAにはIgA1とIgA2の2つのサブクラスがある。実施形態に係る多孔質中空糸膜が精製対象とする抗体のサブクラスは、いずれであってもよい。なお、Fc領域にタンパク質を結合したFc融合タンパク質等の抗体関連タンパク質も、実施形態に係る多孔質中空糸膜が精製対象とする抗体に含まれ得る。
【0050】
抗体は、由来によっても分類することができる。実施形態に係る多孔質中空糸膜が精製対象とする抗体は、天然のヒト抗体、遺伝子組換え技術により製造された組換えヒト抗体、モノクローナル抗体、又はポリクローナル抗体の何れであってもよい。抗体は、例えば、血漿生成物由来であってもよく、あるいは細胞培養液由来であってもよい。細胞培養によって抗体を得る場合は細胞として動物細胞もしくは微生物を使用することができる。動物細胞としては、種類は特に限定されないが、CHO細胞、Sp2/0細胞、NS0細胞、Vero細胞、PER.C6細胞などが挙げられる。微生物としては、種類は特に限定されないが、大腸菌や酵母などが挙げられる。
【0051】
抗体は、複数の抗原に対して特異性を有する多重特異的抗体であってもよい。多重特異性抗体は、次世代抗体と呼ばれる場合がある。多重特異的抗体の例としては、完全長抗体、2つ以上のVL及びVHドメインを有する抗体、DART(登録商標、MacroGenics, Inc.)分子、Fab、Fv、dsFv、scFv、ダイアボディ、二重特異性ダイアボディ(TandAb)、及びトリアボディ等の抗体断片、並びに共有結合的又は非共有結合的に連結されている抗体断片が挙げられる。
【0052】
2種類の抗原に対して特異性を有する多重特異的抗体を、二重特異的抗体という。二重特異的抗体は、1つの生物学的分子上の2つの異なるエピトープに特異的に結合することができる。あるいは、二重特異的抗体は、2つの異なる生物学的分子上のエピトープに特異的に結合することができる。
【0053】
二重特異的抗体の抗原結合ドメインは、例えば、2つのVH/VL単位を含み、第1のVH/VL単位は、第1のエピトープに特異的に結合し、第2のVH/VL単位は、第2のエピトープに特異的に結合する。各VH/VL単位は、重鎖可変ドメイン(VH)及び軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。
【0054】
VH/VL単位は、少なくとも1つのH鎖の超可変領域(VH HVR)と、少なくとも1つのL鎖の超可変領域(VL HVR)と、を含む。VH/VL単位は、例えば、1つ、2つ、又は3つ全てのVH HVRと、1つ、2つ、又は3つ全てのVL HVRと、を含む。VH/VL単位は、フレームワーク領域の少なくとも一部をさらに含んでいてもよい。VH/VL単位は、3つのVH HVR及び3つのVL HVRを含んでいてもよく、この場合、VH/VL単位は、1つ、2つ、3つ、又は4つ全てのH鎖のフレームワーク領域と、1つ、2つ、3つ、又は4つ全てのL鎖のフレームワーク領域を含む。
【0055】
重鎖定常領域の少なくとも一部分及び/又は軽鎖定常領域の少なくとも一部分をさらに含むVH/VL単位は、半抗体とも呼ばれる。半抗体は、単一の重鎖可変領域の少なくとも一部分と、単一の軽鎖可変領域の少なくとも一部分と、を含む。半抗体は、一価の抗原結合ポリペプチドとも定義される。半抗体は、定常ドメインをさらに含んでいてもよい。
【0056】
例えば、半抗体は、他の半抗体と分子内ジスルフィド結合を形成することを可能にするのに十分な重鎖可変領域の一部分を含む。また、例えば、半抗体は、相補的ホール変異又はノブ変異を含む他の半抗体とのヘテロ二量体化を可能にする、ホール変異又はノブ変異を含む。ここで、ポリペプチドに隆起(ノブ)が導入される変異をノブ変異という。ポリペプチドに空洞(ホール)が導入される変異をホール変異という。
【0057】
例えば、2つの半抗体を含み、2つの抗原に結合する二重特異的抗体は、第1のエピトープに結合するが、第2のエピトープには結合しない第1の半抗体と、第2のエピトープに結合するが、第1のエピトープには結合しない第2の半抗体と、を含む。
【0058】
二重特異的抗体は、例えば、ノブインホール(KiH)抗体である。ノブインホールとは、2つのポリペプチドを、それらが相互作用する界面で一方のポリペプチドに隆起(ノブ)を導入し、他方のポリペプチドに空洞(ホール)を導入することによって、2つのポリペプチドを対合させることをいう。ノブインホールは、例えば、抗体のFc:Fc結合界面、CL:CH1界面、又はVH/VL界面に導入される。例えば、2つの異なる重鎖をノブインホールにより対合することにより、二重特異的抗体が製造される。また、例えば、二重特異的抗体は、CrossMab抗体である。CrossMabとは、2つの異なる抗体の半分ずつを結合させることをいう。
【0059】
多重特異的抗体において、複数のL鎖が共通であってもよい。複数の抗原に対する異なるL鎖を改変して共通のL鎖を作製し、複数の互いに異なるH鎖と共発現させることにより、L鎖が共通していながら、複数の抗原に対する結合能力を維持している抗体を作製することが可能である。
【0060】
抗体は、一般に、疎水性が高いと、凝集や会合を起こしやすい傾向にある。多重特異的抗体も、疎水性が高いと、凝集や会合を起こしやすい。しかし、多重特異的抗体は、疎水性が低くても、凝集や会合を起こしやすい傾向にある。理論に拘束されるものではないが、多重特異的抗体は、複数の異なる抗原結合部位を有するため、抗体分子内で電荷の分布が非対称となる。そのため、抗体分子どうしの電荷相互作用が強くなり、凝集や会合が起こりやすいものと考えられる。
【0061】
したがって、多重特異的抗体を含む溶液においては、抗体の粒径の分布が22.0nm以上の範囲を含み得る。また、多重特異的抗体は、疎水性相互作用クロマトグラフィーでのTr-Tmが15分以上であり得る。また、多重特異的抗体は、k値が19以上であり得る。
【0062】
抗体は、抗体薬物合体(ADC)に含まれていてもよい。抗体薬物合体において、抗体に薬物が付加されている。抗体に付加される薬物の例としては、低分子医薬品であり、例えば抗ガン剤が挙げられる。
【0063】
抗体を含む溶液に用いる溶媒は、純水であってもよいし、緩衝液であってもよい。緩衝液は、特に限定されないが、例えば、tris塩、酢酸塩、Tween、ソルビトール、マルトース、グリシン、アルギニン、リジン、ヒスチジン、スルホン酸塩、リン酸塩、クエン酸、及び塩化ナトリウムの少なくともいずれかを溶解した緩衝液が挙げられる。緩衝液に含まれる上記の塩の濃度は、抗体が溶解可能であれば特に限定されない。緩衝液の塩濃度の下限値は、緩衝液の種類によるが、例えば、0mmol/L以上、0.5mmol/L以上、1.0mmol/L以上、5.0mmol/L以上、10.0mmol/L以上、15.0mmol/L以上、あるいは25.0mmol/L以上である。緩衝液の塩濃度の上限値は、緩衝液の種類によるが、例えば、1000mmol/L以下、900mmol/L以下、800mmol/L以下、700mmol/L以下、600mmol/L以下、500mmol/L以下、400mmol/L以下、300mmol/L以下あるいは200mmol/L以下である。
【0064】
緩衝液のpHは、特に限定されない。緩衝液のpHの下限値は、緩衝液の種類によるが、例えば、4.5以上、5.0以上、5.5以上、あるいは6.0以上である。緩衝液のpHの上限値は、緩衝液の種類によるが、例えば、10.0以下、9.0以下、8.0以下、8.5以下、8.0以下、7.5以下、あるいは7.0以下である。
【0065】
緩衝液の電気伝導度は、特に限定されない。緩衝液の電気伝導度の下限値は、緩衝液の種類によるが、例えば、0mS/cm以上、1mS/cm以上、2mS/cm以上が、3mS/cm以上、4mS/cm以上、あるいは5mS/cm以上である。緩衝液の電気伝導度の上限値は、緩衝液の種類によるが、例えば、100mS/cm以下、90mS/cm以下、80mS/cm以下、70mS/cm以下、60mS/cm以下、50mS/cm以下、40mS/cm以下、30mS/cm以下、あるいは20mS/cm以下である。
【0066】
溶液における抗体の濃度は、抗体が溶液に溶解されていれば特に限定されない。溶液における抗体の濃度の下限値は、例えば、0.01mg/mL以上、0.05mg/mL以上、0.10mg/mL以上、0.50mg/mL以上、1.00mg/mL以上、あるいは5.00mg/mL以上である。溶液における抗体の濃度の上限値は、例えば、100mg/mL以下、90mg/mL以下、80mg/mL以下、70mg/mL以下、60mg/mL以下、50mg/mL以下、40mg/mL以下、30mg/mL以下、25mg/mL以下、あるいは20mg/mL以下である。
【0067】
本実施形態に係る多孔質中空糸膜は、物質を透過あるいは捕捉するための多数の細孔を含有する多孔質構造を有する中空状の膜である。多孔質中空糸膜は、その形状は特に限定されないが、円筒状に連続した形状を有することができる。本明細書では、当該多孔質中空糸膜の円筒内側に位置する面を内表面、円筒外側に位置する表面を外表面と記載する。
【0068】
本実施形態に係る多孔質中空糸膜は、再生セルロースを含む多孔質中空糸膜であって、弾性限界圧力が200kPa以上である多孔質中空糸膜であれば特に限定されない。再生セルロースとしては、天然セルロースを化学処理により溶解した原液により賦形化した後に別の化学処理により再生したセルロースであれば特に限定されることはなく、銅アンモニアセルロース溶液から作成する方法(銅アンモニア法)又は酢酸セルロースをアルカリでケン化させて作成する方法(ケン化法)から得られた再生セルロースが例示できる。
【0069】
本実施形態に係る多孔質中空糸膜は、再生セルロース以外の成分を含んでもよく、再生セルロースの一部が修飾されていてもよい。例えば、セルロース水酸基がエステル化修飾された再生セルロース又は部分架橋された再生セルロース等が例示される。また多孔質中空糸膜表面が高分子皮膜でコーティングされていてもよい。コーティングするための高分子としては、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレートとアクリルアミドの共重合体、ポリメトキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタアクリレートとジエチルアミノエチルメタアクリレートの共重合体、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとn-ブチルメタクリレートの共重合体、2-(N-3-スルホプロピル-N,N-ジメチルアンモニウム)エチルメタクリレートとn-ブチルメタクリレートの共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、又はビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体などが例示される。
【0070】
多孔質中空糸膜の弾性限界圧力は、中空糸膜の内表面側から空気で加圧した際の圧力増大に伴う中空糸膜外径変化により観測される膨張が線形的変化から逸脱する時の圧力として定義される。中空糸膜膨張の線形的変化からの逸脱は、中空糸膜の塑性変形により生じる。多孔質中空糸膜の製造工程内での各種検査、ろ過、及びリークテスト等の完全性試験では、試験前後で多孔質中空糸膜のウイルス除去性及び透水性に実質的な変化が無いことが好ましく、試験に用いる圧力は弾性限界以下の圧力を選択することが好ましい。なお、本実施形態に係る多孔質中空糸膜の弾性限界圧力は、多孔質中空糸膜が水により湿潤された状態で測定される。
【0071】
多孔質中空糸膜の弾性限界圧力は200kPa以上であり、210kPa以上、220kPa以上、230kPa以上、240kPa以上、あるいは250kPa以上があってもよい。あるいは多孔質中空糸膜の弾性限界圧力は、215kPa以上、225kPa以上、235kPa以上、245kPa以上、255kPa以上、270kPa以上、あるいは280kPa以上であってもよい。多孔質中空糸膜の弾性限界圧力の上限値は、現実的に加えることができる圧力であれば特に限定されないが、1000kPa以下、900kPa以下、800kPa以下、700kPa以下、600kPa以下、500kPa以下、450kPa以下、400kPa以下、350kPa以下、あるいは300kPa以下が例示される。
【0072】
弾性限界圧力は200kPa以上である多孔質中空糸膜は、弾性限界圧力が低い膜と比較して、ろ過速度を速くすることが可能である。また、単位時間当たりのろ過量を増やすことが可能である。さらに、ろ過の効率がよいため、膜面積を小さくすることが可能であり、製造コストを下げることが可能である。加えて、弾性限界圧力は200kPa以上である多孔質中空糸膜は、リークテスト等の完全性試験において、金コロイドを用いた評価試験が必ずしも必要でない。
【0073】
弾性限界圧力が200kPa以上である、再生セルロースを含む多孔質中空糸膜を用いることにより、目詰まりによりろ過することが困難であると従来考えれられていた抗体を含む溶液をろ過することが可能である。上述した、粒径の分布において22.0nm以上の範囲を含む抗体、疎水性相互作用クロマトグラフィーにおけるTr-Tmが15分以上の抗体、及びk値が19以上の抗体が、目詰まりによりろ過することが困難であると従来考えれられていた抗体に該当する。弾性限界圧力が200kPa以上である、再生セルロースを含む多孔質中空糸膜は、目詰まりを抑制しつつ、粒径の分布において22.0nm以上の範囲を含む抗体、疎水性相互作用クロマトグラフィーにおけるTr-Tmが15分以上の抗体、及びk値が19以上の抗体をろ過することが可能である。
【0074】
ろ過時の膜間差圧を高く設定することは、単位時間あたりの処理量が増大するという経済的メリットの他に、ウイルス除去膜ではろ過時の膜間差圧を高く設定する程ウイルスの膜への物理的拘束力が増すことでウイルス捕捉の信頼性が高まるという利点がある。膜間差圧は、多孔質中空糸膜の弾性限界圧力の75%程度以下で設定することが好ましい。したがって、ろ過時の好ましい膜間差圧は、165kPa以上、188kPa以上、あるいは225kPa以上である。また、ろ過時の膜間差圧の別の態様として、150kPa以上、200kPa以上、あるいは250kPa以上が例示される。ろ過時の膜間差圧の上限値は、現実的に加えることができる圧力であれば特に限定されないが、1000kPa以下、900kPa以下、800kPa以下、700kPa以下、600kPa以下、500kPa以下、450kPa以下、400kPa以下、350kPa以下、あるいは300kPa以下が例示される。膜間差圧は、特段高いろ過排圧がかからない条件においては、低圧ろ過のろ過圧力と同義と扱われる。また、膜間差圧のコントロール手段としては、多孔質中空糸膜にかかる圧力が一定圧となるようにろ過対象物を圧送してもよいし、多孔質中空糸膜の弾性限界圧力を超えない範囲でろ過対象物を定速でろ過してもよい。
【0075】
ここで、多孔質中空糸膜の膜間差圧とは、多孔質中空糸膜の内表面側の圧力と、多孔質中空糸膜の外表面側の圧力と、の差圧を指す。したがって、多孔質中空糸膜の膜間差圧とは、例えば、多孔質中空糸膜の内表面側の圧力から多孔質中空糸膜の外表面側の圧力を差し引いた値である。
【0076】
本実施形態に係る多孔質中空糸膜は、膜厚(t(μm))に対する内径(R(μm))の比(R/t)が8.4以下であることが好ましい。
図1に示すように、内径(R)と膜厚(t)は乾燥状態の中空糸を輪切りにした断面画像から測定され、内径は中空糸の内表面直径、膜厚は中空糸の内表面と外表面の間の垂直距離である。以下、特に断らない限り、内径(R)と膜厚(t)は乾燥状態で測定された値を示す。
【0077】
本発明者らは、多孔質中空糸膜のプロファイルに基づき、粒子径が20nm弱から100nm程度のろ過対象物に適した再生セルロースを含む多孔質中空糸膜について、多孔質中空糸膜の膜厚(t)に対する内径(R)の比であるR/tと、弾性限界圧力と、に特定の相関があることを見出した。多孔質中空糸膜の弾性限界圧力200kPa以上を実現する観点で、R/tの上限値は8.4以下が好ましい。上述の弾性限界圧力のより好ましい下限値に対応してR/tのより好ましい範囲は8.0以下、さらに好ましい範囲は7.7以下である。R/tの下限値は、中空糸形状を安定的に生産し、また中空糸ろ過膜として供給流量と透過流量のバランスを満足する観点から2.0以上、すなわち膜厚に対して内径が2倍以上であることが好ましい。
【0078】
多孔質中空糸膜の膜厚は、20μm以上70μm以下の範囲であることが好ましい。多孔質中空糸膜としてのふるい効果で微小物質を捕捉する領域を設計することの簡便さの観点から、膜厚は20μm以上であることが好ましい。また、多孔質中空糸膜の透過性能を高く設定することの簡便さの観点から、膜厚を70μm以下とすることが好ましい。多孔質中空糸膜の膜厚は、より好ましくは30μm以上60μm以下の範囲であり、さらに好ましくは40μm以上50μm以下の範囲である。
【0079】
高い流速を実現し、多孔質中空糸膜の目詰まりを抑制する観点から、多孔質中空糸膜の内表面における孔径は、外表面における孔径より大きいことが好ましい。さらに、除去対象の微粒子の捕捉性能を高め、目詰まりの影響を抑制する観点から、内表面側から外表面側に向かって孔径が小さくなる傾斜構造を有し、かつ、除去対象の微粒子を捕捉するために孔径変化の少ない均質構造をさらに含むことがより好ましい。ここで孔径とは、膜の内表面、外表面、あるいは中空糸膜を輪切りにした断面を光学顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡で観察して得られた画像における孔の部分の大きさであり、その比較による違いの程度は、顕微鏡画像で視認できる程度に明確であることが好ましい。
【0080】
多孔質中空糸膜は、ウイルス除去膜に求められる多孔質構造と、優れた親水性の特徴をと、を両立させる観点から、銅アンモニア法から得られる再生セルロースを含む。銅アンモニア法を用いた本実施形態に係る多孔質中空糸膜の製造方法の例を以下説明する。
【0081】
まず、セルロースを銅アンモニア溶液に溶解させた、セルロース濃度6質量%から8質量%、アンモニア濃度4質量%から5質量%、銅濃度2質量%から3質量%の紡糸原液と、アセトン濃度30質量%から50質量%、アンモニア濃度0.5質量%から1.0質量%の水溶液である内部凝固液と、アセトン濃度20質量%から40質量%、アンモニア濃度0.2質量%以下の水溶液である外部凝固液と、を準備する。紡糸原液には原液のミクロ相分離の速度を調整する観点から、硫酸ナトリウム等の無機塩を0.03質量%から0.1質量%程度の範囲で含有してもよい。
【0082】
次に、紡糸原液を環状二重紡口より2mL/分から5mL/分の速度で吐出し、同時に、環状二重紡口の中央部に設けられた中央紡出口より内部凝固液を0.3mL/分から3.0mL/分の速度で吐出することが好ましい。例えば、200kPaを超える弾性限界圧力を実現する中空糸内径及び膜厚を得るために、製造される多孔質中空糸膜の膜厚を20μmから70μmの好ましい範囲にするためには、原液吐出速度を2.5mL/分以上4mL/分以下、内部凝固液速度を0.3mL/分以上1.6mL/分以下の範囲とすることがより好ましい。さらに好ましい方法は、内部凝固液速度を0.3mL/分以上1.4mL/分以下の範囲とすることである。環状二重紡口から吐出した紡糸原液及び内部凝固液を、直ちに外部凝固液中に浸漬して、内部凝固液及び外部凝固液を凝固させた後に、膜を枠で巻き取る。
【0083】
外部凝固液への紡糸原液及び内部凝固液の浸漬は、凝固浴槽内へ溜めた外部凝固液へ紡糸原液及び内部凝固液を浸漬する方法、紡糸用ろ斗内を外部凝固液と共に流下、落下させながら凝固を進行させる方法、同様に紡糸用ろ斗を使用する方法としてU字型細管を利用する方法が挙げられる。凝固過程の延伸抑制により高い微粒子除去率を有する膜構造を実現する観点からU字型細管を利用する方法が好ましい。
【0084】
多孔質中空糸膜を後述する透水性能及びウイルス除去性能を安定実現する膜構造として形成する観点から、外部凝固液の温度は25℃以上45℃以下の範囲から選択される所定の温度で制御することが好ましい。より好ましい温度範囲は30℃以上45℃以下、さらに好ましい範囲は35℃以上45℃以下である。
【0085】
巻き取られた中空糸膜を2質量%から10質量%の希硫酸水溶液に浸漬し、次いで純水で水洗することでセルロースを再生し、さらにメタノール、エタノール等の有機溶媒で中空糸膜の水分を置換した後に、中空糸膜束の両端を固定して中空糸膜を1%から8%延伸した状態で30℃から60℃、5kPa以下の条件で減圧乾燥することにより、乾燥状態の多孔質中空糸膜を得る。
【0086】
多孔質中空糸膜で抗体を含む溶液をろ過する際に、多孔質中空糸膜は、溶液中の除去対象の微粒子を効果的に捕捉できるように用いるために、中空糸の内表面側から外表面側に向かって溶液が流れる方向でろ過を行う方法(内圧ろ過法)を採用することが好ましい。除去対象の微粒子とは、例えばウイルスである。ウイルスの例としては、小ウイルスであるパルボウイルスが挙げられる。
【0087】
パルボウイルス等のウイルスを多孔質中空糸膜で除去する場合、ろ過圧力27kPa、37℃における多孔質中空糸膜の透水量が、10L/(m2・hr)以上50L/(m2・hr)以下であることが好ましい。透水量とは、内圧ろ過法により水をろ過した際の単位時間当たりの流量であり、透水量を高く設計されたウイルス除去膜では生物学的製剤のウイルス除去工程を短時間で行うことができる。一方、透水量は、多孔質中空糸膜の全体の平均孔径を示す尺度であり、除去対象となるウイルス粒子の大きさに応じて設計される。したがって、直径20nmより小さいパルボウイルスの捕捉性能をより確実にする観点から、透水量は、10L/(m2・hr)以上50L/(m2・hr)以下であることが好ましく、15L/(m2・hr)以上45L/(m2・hr)以下とすることがさらに好ましい。ここで透水量をろ過圧力27kPa、37℃の条件で規定するのは、当該技術領域において多孔質中空糸膜の平均孔径(nm)を算出する際の透水量の測定条件として一般的だからである。
【0088】
ろ過圧力98kPa、25℃における多孔質中空糸膜の透水量は、20L/(m2・hr)以上100L/(m2・hr)以下であることが好ましく、30L/(m2・hr)以上85L/(m2・hr)以下があることがより好ましい。
【0089】
多孔質中空糸膜のバブルポイントは、例えば、1.2MPa以上である。ここで、バブルポイントとは、多孔質中空糸膜の最大孔の大きさを示す尺度である。直径20nmより小さいパルボウイルスの捕捉を確実にする観点から、バブルポイントの下限値としては1.3MPa以上が好ましく、1.4MPa以上がより好ましく、1.5MPa以上がさらに好ましい。また、上述の透水性を実現する観点から、バブルポイントの上限値としては2.4MPa以下が好ましく、2.3MPa以下がより好ましく、2.2MPa以下がさらに好ましい。なお、バブルポイントは、多孔質中空糸膜の一端を封止して、他端から空気、あるいは窒素により加圧することが可能な試験モジュールを作成し、当該試験モジュールを表面張力の低いフッ素系液体に浸漬した状態で昇圧した際に漏れ出す気体流量が2.4mL/分の時の圧力を指す。
【0090】
多孔質中空糸膜のウイルス除去性は、ウイルスを含む元液と、ろ液と、の50%組織培養感染値(TCID50/mL)の比の対数値であるウイルス除去率(LRV:Logarithmic Reduction Value)によって評価されることができる。
【0091】
多孔質中空糸膜でパルボウイルスを除去する場合、6.0TCID50/mL以上8.0TCID50/mL以下のパルボウイルスを含む元液を膜間差圧196kPa、150L/m2の量でろ過した際のパルボウイルス除去率が4.0以上であることが好ましい。さらに多くのろ過量への対応、ろ過圧力変動への影響を考慮すれば、同条件のパルボウイルス除去率は4.5以上であることがより好ましく、5.0以上であることがさらに好ましい。当該LRVは、後述する実施例の測定方法例の(5)に記載のLRVの測定方法において、(5-A)に記載したウイルス含有タンパク質溶液を用い測定されることが好ましい。
【0092】
多孔質中空糸膜でろ過する時間が長いほど、ろ過量は多くなる。ろ過時間は、例えば、30分以上、1時間以上、3時間以上、あるいは6時間以上である。ろ過時間の上限値は、特に限定されないが、例えば、7日以下、6日以下、5日2日以下、4日以下、あるいは3日以下である。
【0093】
多孔質中空糸膜で抗体を含む溶液を精製する前に、別の手段で、抗体を含む溶液を精製もしくは濃縮してもよい。別の手段の例としては、プロテインA担体、アフィニティークロマトグラフィー担体、イオン交換クロマトグラフィー担体、疎水相互作用クロマトグラフィー担体、ミックスモードクロマトグラフィー担体、ヒドロキシアパタイト、デプスフィルター、限外ろ過膜、プレフィルター、及び活性炭等を用いる方法が挙げられる。また、多孔質中空糸膜で抗体を含む溶液を精製した後に、上記のような手段で、抗体を含む溶液を精製もしくは濃縮してもよい。なお、多孔質中空糸膜で抗体を含む溶液を精製する方法は、上記のような手段と連結して連続して実施してもよく、上記のような方法と独立して実施してもよい。
【実施例0094】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0095】
[測定方法例]
(1)多孔質中空糸膜の弾性限界圧力の測定方法
長さ50mmの多孔質中空膜1本の一方の端部をウレタン樹脂等の硬化性液状樹脂により空気が漏れ出ないように封止し、他方の端をマイクロカプラ(日東工器社製、MC-04PH)に挿入した状態でウレタン樹脂等の硬化性液状樹脂により中空部を埋めないように接着固定した測定用モジュールを準備する。別に圧縮空気供給用の配管に圧力調整弁、圧力計、測定用モジュールのマイクロカプラを接続可能とするようマイクロカプラ(日東工器社製、MC-10SM)を備えた加圧装置を準備する。測定用モジュールを水に浸漬した状態で加圧装置に接続し、20kPa間隔で圧力を増大させて中空部に圧縮空気を供給したときの、中空糸の外径を寸法測定器(キーエンス社製、型式LS-9006M)で測定する。次式により各測定圧力による外径変化率(%)を計算し、X軸を測定圧力(kPa)、Y軸を外径変化率(%)とするグラフを作成する。
外径変化率(%)=(D/D0-1)×100
(式中、D:各圧力における外径(μm)、D0:無加圧状態での外径初期値(μm))
【0096】
次に20kPaから100kPaの20kPa間隔の5つの測定値を用いて原点を通る回帰直線式(Y=aX)を求め、その式の右辺に外径変化率1%の上乗せを意味する1を加えた式(Y=aX+1)を導出する。導出した式による直線を上記グラフに加え、直線の外径変化率を超えないプロットの圧力のうち、最も高い圧力を測定用モジュールの弾性限界圧力とする。
【0097】
試験は測定用モジュール6本以上について行い、その平均値を多孔質中空糸膜の弾性限界圧力とする。
【0098】
(2)内径及び膜厚の測定方法
多孔質中空糸膜の断面切片を作成して、マイクロスコープ(キーエンス社製、型式VHX-5000)を用いて200倍で撮影した画像を準備し、画像上の中空糸断面の膜厚を全周にわたって少なくとも20ヶ所を測定し、平均した値を膜厚の測定値とする。内径は、同画像の中空糸断面の中空部の面積を画像処理により求め、円形近似とした時の直径として算出する。
【0099】
(3)多孔質中空糸膜の透水量の測定方法
多孔質中空糸膜10本を束ね、一方の端部に透水測定機に接続可能なポリエチレン性チューブを接着剤で取り付け、中空糸他方の端部を16cmの有効長さになるように調整して封止した測定用モジュールを準備する。
【0100】
透水測定装置は、測定用モジュールのポリエチレン製チューブを接続可能な導管部から一定圧力で水を吐出する機構、吐出液量を高精度に定量可能な機構、吐出液量の定量時間を計測する機構、測定用モジュールを浸漬する浴槽、及び吐出水と浴水を温調する機構を備えている。
【0101】
測定用モジュールを37℃の水浴に浸漬し、測定用モジュールのポリエチレン製チューブに透水測定機の導管部を接続して37℃の水を27kPaで1mL通水する時間を計測する。測定用モジュールの多孔質中空糸膜と同一条件で作成した多孔質中空糸膜の内径(μm)測定の結果を基に計算されるろ過膜面積と、1mL通水時間の測定値と、から膜面積1m2、1時間当たりの透水量(L/(m2・hr)を算出する。
【0102】
試験は評価用モジュール3本以上について行い、その平均値を多孔質中空糸膜の透水量とする。
【0103】
(4)多孔質中空糸膜のバブルポイント測定方法
多孔質中空糸膜の一端を封止して、他端を空気、あるいは窒素により加圧することが可能となるよう金属カプラにウレタン樹脂により固定した試験モジュール(有効長8cm)を作製する。試験モジュールにチューブを装着して、チューブ内に3M Novec 7200高機能性液体(商標、スリーエムジャパン株式会社製)を注入して多孔質中空糸膜を液体に浸漬させる。
【0104】
バブルポイント測定装置は、金属カプラを通じて多孔質中空糸膜の内表面側を加圧し、徐々に昇圧を可能とする圧力調整機構、及び圧力表示機構を備えており、試験モジュールのチューブから流れ出る気体流量を計測可能な流量計を備えている。
【0105】
試験モジュールの金属カプラ部を加圧機構の端部を装着し、試験モジュールのチューブの端部に流量測定機構のラインを装着して、徐々に昇圧した際に漏れ出す気体流量が2.4mL/分の時の圧力(MPa)を検出する。試験は試験モジュール3本以上で行い、その平均値をバブルポイント値とする。
【0106】
(5)多孔質中空糸膜のウイルスLRVの測定方法
公知の技術を用いて特開2013-17990号公報の
図1に記載の小型膜モジュールを0.001m
2の膜面積で作成する。
【0107】
ろ過対象の溶液は、下記(5-A)又は(5-B)に記載の方法により調製する。
【0108】
(5-A)ウイルス含有タンパク質溶液の調製は、まず、ポリクローナル抗体(ヒトIgG)(ヴェノグロブリン-IH、ベネシス社製)を用いて、抗体濃度が1mg/mLになるように注射用水(大塚製薬)で希釈した抗体溶液を得る。また、1mol/L NaCl水溶液を用いて塩濃度を0.1mol/Lに調整する。さらに、0.1mol/L HCl又は0.1mol/L NaOHを用いて、水素イオン指数(pH)を4.0に調整し、これをタンパク質溶液とする。得られたタンパク質溶液に、ブタパルボウイルス(PPV、社団法人動物用生物学的製剤協会)を1.0vol%添加し、よく攪拌して、ウイルス含有タンパク質溶液を得る。
【0109】
(5-B)ウイルス含有溶液として、pH4.5、0.02mol/L酢酸、0.1mol/LNaClの水溶液にブタパルボウイルス(PPV、タイプVR742、米国培養細胞系統保存機関(以下、ATCC)から購入)を0.2%添加した水溶液を作成する。
【0110】
準備した0.001m2小型膜モジュールと、上記ウイルス含有タンパク質溶液又はウイルス含有溶液と、を用いて、デッドエンド内圧ろ過方法によって、上記ウイルス含有タンパク質溶液(5-A)を用いる場合はろ過量150L/m2に到達するまでろ過を行い、上記ウイルス含有溶液(5-B)を用いる場合はろ過量5L/m2に到達するまでろ過を行い、ろ液を得る。ここでろ過圧力は多孔質中空糸膜の弾性限界圧力に応じて選択され、弾性限界圧力が200kPaに満たない多孔質中空糸については98kPaを適性圧力として実施され、弾性限界圧力が200kPaを超える多孔質中空糸については196kPaを適性圧力として実施される。
【0111】
次に、ウイルス感染価を測定するために、56℃の水浴で30分間加熱し非働化させた後の3%BenchMark Fetal Bovine Serum(商標、Gemini Bio-Products社製)、及び1%PENICILLIN STREPTOMYCIN SOL(商標、Life Technologies Corporation製)を含むDulbecco’s Modified Eagle Medium (1X), liquid+4.5g/L D-Glucose+L-Glutamine-Sodium Pyruvate(商標、Life Technologies Corporation製、以下D-MEM)溶液(以下、3%FBS/D-MEM)を準備し、ろ過元液、ろ液のそれぞれを分取して3%FBS/D-MEMで10倍、102倍、103倍、104倍及び105倍に希釈する。
【0112】
さらに、PK-13細胞(No.CRL-6489、ATCCから購入)を3%FBS/D-MEMで希釈し、細胞濃度2.0×105(細胞/mL)の希釈細胞懸濁液を調製し、96ウェル丸底細胞培養プレート10枚の全てのウェルに100μLずつ分注し、それに加えて、8ウェル毎に準備したろ過元液とその希釈液、ろ液とその希釈液をそれぞれ100μLずつ分注する。その後、37℃、5%二酸化炭素雰囲気下で10日間細胞培養を実施する。
【0113】
10日間培養した細胞に対し、赤血球吸着法(ウイルス実験学 総論 国立予防衛生研究所学友会編、p.173参照)を用いて、50%組織培養感染値(TCID50)の測定を行う。
【0114】
すなわち、ニワトリ保存血液(商標、株式会社日本バイオテスト研究所製)をダルベッコPBS(-)粉末(商標、日水製薬株式会社製)のPBS(ー)調整液で5倍に希釈した後、2500rpm、4℃、5分間の遠心分離上清を吸引除去して、得られた沈殿物を再度PBS(-)調整液で200倍に希釈し、同希釈液を細胞培養プレートの全ウェルに100μLずつ分注し、2時間静置後に細胞組織表面への赤血球の吸着を観察してウイルス感染を評価する方法であり、ろ過元液、ろ液、それぞれの希釈液に対してウイルス感染の割合を確認し、Spearman-Karber計算式により、感染価(TCID50/mL)を算出する。
【0115】
ウイルスの対数除去率(LRV)はLRV=log10(C0/CF)で算出され、ここで、C0はろ過元液の感染価(TCID50/mL)、CFはろ液の感染価をウイルス除去膜でろ過した後のろ過液の感染価(TCID50/mL)を表す。
【0116】
0.001m2膜モジュールによるウイルス含有タンパク質溶液のろ過速度は、ろ過量150L/m2に到達するまでの時間を計測して、膜面積1m2、1時間当たりのろ過量(L/(m2・hr))として算定する。
【0117】
(6)0.001m2膜モジュールの透水量の測定方法
0.001m2膜モジュールを準備し、内圧ろ過、デッドエンド方式により温度25℃、膜間差圧98kPa、10分間、限外ろ過膜を通した純水をろ過し、ろ液を計量して、膜面積1m2、1時間当たりの透水量(L/(m2・hr))として算定する。
【0118】
(7)0.001m2膜モジュールの金コロイドLRVの測定方法
粒子径が約20nmの金コロイドを含む溶液AGP-HA20(商標、旭化成メディカル社製)を注射用蒸留水(大塚製薬社製)、0.27質量%SDS(ラウリル硫酸ナトリウム)水溶液で希釈し、紫外・可視分光光度計(島津製作所製、型式UV-2450)にて測定した波長526nmにおける吸光度が1.00になるよう調整して金コロイド溶液ろ過元液を準備する。
【0119】
0.001m2膜モジュールを準備し、準備した金コロイド溶液を用いて、内圧ろ過、デッドエンド方式により温度25℃、膜間差圧25kPa、ろ過量2L/m2の条件でろ過を実施し、0.5L/m2から2.0L/m2のろ液をサンプリングする。
【0120】
紫外・可視分光光度計(島津製作所製、型式UV-2450)を用いて、ろ過元液とろ液の波長526nmの吸光度をそれぞれ測定して、LRV=log10(A/B)の式から金コロイド粒子の対数除去率(LRV)を算出する。式中Aはろ過元液の吸光度、Bはろ液の吸光度を表す。
【0121】
[多孔質中空糸膜の物性の測定結果]
再生セルロースからなる多孔質中空糸膜型ウイルスフィルター(Planova S20N、登録商標、旭化成)について、上記の各種測定方法により弾性限界圧力、内径(R)、膜厚(t)、透水量、及びバブルポイントを測定した結果を表1に示す。また、当該多孔質中空糸膜型ウイルスフィルターを用いて、公知の技術により特開2013-17990号公報の
図1と類似の小型膜モジュールを0.001m
2の膜面積で作成し、0.001m
2膜モジュールとし、ウイルスLRV(上記測定方法例の(5-A)に記載のウイルス含有タンパク質溶液を使用)、透水量、及び金コロイドLRVを測定した結果を表1に示す。
【0122】
さらに、完全性試験を行った際に多孔質中空糸膜の性能が変化していないことを確認するために、得られた0.001m2膜モジュールの多孔質中空糸膜の外表面側領域に純水を満たした状態で、多孔質中空糸膜の内表面側を250kPa、10分間空気加圧した後に、透水量及び金コロイドLRVの測定した結果と、前述の加圧を施さずに行った測定結果との差異を示すための、加圧前後の透水量及び金コロイドLRVの比を表1に示す。
【0123】
ここで発明者らがウイルス除去性能評価の代替手法として金コロイド除去性能評価を選択したのは、ウイルス評価方法にはその溶液中のウイルス濃度に応じた測定限界があり、さらにウイルス溶液には感染性のない粒子等を多く含むことから、膜構造の微妙な違いを判定するためには金コロイド粒子の除去性を評価することが好ましいからである。
【表1】
【0124】
再生セルロースからなる多孔質中空糸膜型ウイルスフィルター(Planova S20N、登録商標、旭化成)によるウイルス含有タンパク溶液のろ過速度は、145LMHであった。
【0125】
[実施例1及び比較例1]
(1)培養上澄の調製
モノクローナル抗体mAb A(遺伝子組み換えヒト化IgG4モノクローナル抗体、分子量約149000)の産生CHO細胞を含む培養液を、ろ過膜(旭化成メディカル社製、商品名 BioOptimal(登録商標)MF-SL)を用いてろ過し、不純物と抗体を含む培養上澄を取得した。培養上澄は、抗体タンパク質としてのモノクローナル抗体mAb Aを1.5g/L含んでいた。
【0126】
(2)抗体溶液の作製(培養上澄の精製)
商業的に典型的な方法において、(1)で得られた培養上澄を、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー及びイオン交換クロマトグラフィーで精製し、精製された溶液を塩化ナトリウムを含む15mmol/L 酢酸緩衝液(pH5.0、22mS/cm)でバッファー交換し、抗体mAb Aを含む溶液を作製した。緩衝液のpHの測定には、pHメータであるHM-30R(東亜ディーケーケー社製)を使用した。また、緩衝液の電気伝導度は電気伝導率計CM-42X(東亜ディーケーケー社製)を使用し、測定した。なお、後述する緩衝液のpH及び電気伝導度の値も同じ測定装置によって得られている。調製した抗体溶液を、分光光度計;NanoDrop One(Thermo Fisher Scientific社製)で分析し、抗体濃度を測定したところ、15.4mg/mLであった。
(3)DLS測定
(2)で調製した抗体mAb Aを含む溶液をポリスチレンキュベットに注入し、動的光散乱(DLS)測定装置ゼータサイザーナノZSP(スペクトリス社製)にて下記の条件下で溶液に含まれる抗体mAb Aの粒子径の分布を測定した。1つのサンプルに対して3回測定を行い、それらの平均値を得た。得られた平均値を
図2に示す。粒子径の最大値は28.2nm、散乱強度の最も大きな粒子径は13.5nmであった。また、抗体mAb Aの粒径の分布において、22.0nm以上の範囲が含まれていた。
【0127】
動的光散乱測定方法
・試料:Protein
・分散媒:Water
・温度:25℃、平衡時間:15秒
・セル:ポリスチレンセル ZEN0040
・測定角度:173°Backscatter(NIBS default)
・測定時間:自動
・測定回数:3回
・詳細設定:減衰の自動選択→はい
【0128】
(4)HIC(疎水性相互作用クロマトグラフィー)測定
(2)で調製した抗体mAb Aを含む溶液を、抗体濃度が0.3mg/mLになるように純粋で希釈し、高速液体クロマトグラフProminence(島津製作所社製)を用いて、下記の条件下で、抗体が、装置におけるカラムへの供給開始から検出器で検出されるまでの時間を測定した。
・ガードカラム:メンブレンフィルタ(フロロポア 0.45μm FP―045、東ソー社製)内蔵の、フィルターアセンブリNPR(東ソー社製)
・本カラム:TSKgel Butyl-NPR(粒子径2.5μm、内径4.6mm、長さ10cm、東ソー社製)
・カラム温度:35℃
・流速:1.0mL/min
・注入量:100μL
・検出波長:280nm
・バッファーA:20mmol/Lリン酸緩衝液+1.5mol/L硫酸アンモニウム(pH7.0)
・バッファーB:20mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)
・グラジエント:Bバッファーの割合を測定開始時0%から一定速度で上げてゆき、25分後時点で100%になるようにする。
【0129】
上記条件で測定された保持時間の検出ピークのうち、最も高い検出ピークの時間をTrとすると、
図3に示すように、抗体mAb AのTrは19.12分であった。
【0130】
溶液に含まれる抗体が疎水性相互作用クロマトグラフィーカラムを通過し検出器に至る時間は、疎水性相互作用クロマトグラフィー装置の配管長に影響される。その影響を検討するため、ガードカラム及び本カラムを装置から取り外し、分析ステンレス鋼ユニオン(島津製作所社製、品番228-16004-13)を取り付けてmAb Aを分析したところ、0.22分で検出ピークが得られた。このカラム無しで測定した際の検出ピークの時間をTmとする。配管長の影響を除いた抗体mAb AのTr―Tmは、18.90分であった。
【0131】
また、溶液に含まれる抗体が疎水性相互作用クロマトグラフィーカラムを通過し検出器に至る時間は、疎水性相互作用クロマトグラフィー装置の配管長や測定条件に影響されるため、それらの影響を受けない抗体の疎水度を示す指標として、下記のような保持係数k値を定義した。
k=(Tr―T0)/(T0―Tm)
Tr:最大ピークの検出時間(分)
T0:カラムと相互作用せず素通りする抗体を流した場合のピークの検出時間(分)
Tm:カラム無しで測定した際のピークの検出時間(分)
【0132】
疎水クロマトグラフィーにおいて、バッファーAの塩濃度によってピークの検出時間が変化し得るが、T0は、バッファーAの塩濃度を高濃度から低濃度へ変化させても、ピークの検出時間が変わらなくなった時点でのピークの検出時間で表すことができる。実施例1の(4)のバッファーAを、20mmol/Lのリン酸緩衝液+3.0mol/L塩化ナトリウム(pH7.0)、及び20mmol/Lのリン酸緩衝液+1.0mol/L塩化ナトリウム(pH7.0)とし、mAb B(遺伝子組み換えヒトIgG4モノクローナル抗体)を分析したところ、いずれも検出時間が0.96分であったため、これをT0とした。上記のTm、Tr、T0をもとにk値を計算すると、表4に示すようにk値は24.5であった。
【0133】
したがって、抗体mAb Aの、疎水性相互作用クロマトグラフィーにおけるTr-Tmは15分以上であり、k値は19以上であった。
【0134】
(5)比較例に係るウイルス除去フィルターの準備
日本国特許5755136号公報の[0061]及び[0062]に記載されている方法と同様の方法により作製した親水化PVDF中空糸膜を、有効膜面積が0.000075m2となるようにカートリッジに接合して、比較例に係るウイルス除去フィルターを作製した。比較例に係るウイルス除去フィルターを、以下、VF Aと表記する場合がある。
【0135】
(6)比較例に係るFlux decayの測定
(5)で作製した比較例に係るウイルス除去フィルターに、(2)で作製した抗体mAb Aを含む溶液をデッドエンドで196kPaの一定圧力で通液させた。その際に比較例に係るウイルス除去フィルターの単位面積あたりにおける単位時間当たりの抗体溶液処理速度(LMH=処理液量(L)/ウイルス除去膜面積(m
2)/時間)を測定し、
図4に示す結果を得た。また、下記のFlux decay(%)をウイルス除去フィルターの目詰まりの指標として算出した。
Flux decay(%)=(V120-V5)/V5
V120:ろ過開始120分後の抗体溶液処理速度(LMH)
V5:ろ過開始5分後の抗体溶液処理速度(LMH)
【0136】
V5は32であった。ろ過開始55分後の抗体溶液処理速度(LMH)が既に3.2であったことから、V120は3.2以下である。そのため、VF BのFlux decayは90%以上であった。したがって、高圧でろ過可能なウイルス除去フィルターであっても、抗体mAb Aを含む溶液をろ過すると、激しく目詰まりし、ろ過速度が大きく低下していた。
【0137】
(7)実施例に係るウイルス除去フィルターの準備
再生セルロースからなる中空糸型ウイルスフィルター(Planova S20N、登録商標、旭化成)を準備し、有効膜面積が0.000075m2となるようにして、実施例に係るウイルス除去フィルターを作製した。実施例に係るウイルス除去フィルターを、以下、VF Bと表記する場合がある。
【0138】
(8)実施例に係るFlux decayの測定
抗体mAb Aを含む溶液を用いてVA Aと同じ方法でVF BのLMHを測定し、
図4に示す結果を得た。VF BのFlux decayは28.6%以上であった。したがって、VF BはVF Aに比べ、mAb Aをろ過した時のFlux decayが小さく、安定したろ過性能を発揮した。よって、VF Bは、粒径の分布において22.0nm以上の範囲が含まれる抗体であり、疎水性相互作用クロマトグラフィーにおけるTr-Tmが15分以上、k値が19以上である抗体を、目詰まりを抑制しつつ、精製可能であることが示された。なお、以降のウイルス除去フィルターのろ過条件を表2に示す。
【0139】
[実施例2から4]
実施例1の(1)及び(2)と同様の方法で調製したmAb Aを含む溶液を、実施例1の(2)と同様の方法で塩化ナトリウムを含む15mmol/L 酢酸緩衝液(pH5.5、20mS/cm)でバッファー交換し、抗体濃度が10.0mg/mLの実施例2に係るmAb Aを含む溶液、抗体濃度が30.0mg/mLの実施例3に係るmAb Aを含む溶液、及び抗体濃度が50.0mg/mLの実施例4に係るmAb Aを含む溶液を作製した。
【0140】
これらのmAb Aを含む溶液をVF Bでろ過し、実施例1の(6)と同様の方法でLMHを測定したところ、
図5から
図7に示す結果が得られ、抗体濃度が10.0mg/mLのときのFlux decayは0%、抗体濃度が30.0mg/mLのときのFlux decayは50.0%、抗体濃度が50.0mg/mLのときのFlux decayは75.0%であった。一般的に溶液中の抗体濃度が高くなると、抗体同士の会合や膜への抗体吸着により目詰まりが起こりやすくなるが、このような抗体の濃度が高い溶液であっても、VF BはVF Aに比べて目詰まりが小さいことが示された。
【0141】
[実施例5から7]
実施例1の(1)及び(2)と同様の方法で調製したmAb Aを含む溶液を、抗体濃度、pH、電気伝導度、及びバッファー種を表2に示す条件に変更して、実施例5から7に係るmAb Aを含む溶液を作製した。実施例5から7に係るmAb Aを含む溶液のそれぞれをVF Bでろ過し、実施例1の(6)と同様の方法でLMHを測定したところ、
図8から
図10に示す結果が得られ、実施例5に係るmAb Aを含む溶液のFlux decayは1.5%、実施例6に係るmAb Aを含む溶液のFlux decayは18.0%、実施例7に係るmAb Aを含む溶液のFlux decayは83.3%であった。一般的に溶液中の電気伝導度が高くなると、抗体同士の会合や膜への抗体吸着により目詰まりが起こりやすくなるとともに、溶液のpHもフィルターのろ過性能に影響を与えるが、pH、電気伝導度が変化しても、VF BはVF Aに比べて目詰まりが小さいことが示された。
【0142】
[実施例8及び比較例2]
実施例2と同様の実験を、抗体溶液の抗体種を変更して行った。モノクローナル抗体ベバシズマブ(ファイザー社製)を含む溶液を、塩化ナトリウムを含む20mmol/Lの酢酸緩衝液(pH5.5、20mS/cm)でバッファー交換し、抗体濃度が10.0mg/mLであるベバシズマブを含む溶液を作製した。
【0143】
実施例1の(3)と同様の方法でベバシズマブを含む溶液に含まれる粒子の粒径の分布をDLSで測定したところ、
図2に示すように、ベバシズマブを含む溶液に含まれる粒子の粒子径の最大値は24.4nm、散乱強度の最も大きな粒子径は11.7nmであった。また、ベバシズマブの粒径の分布において、22.0nm以上の範囲が含まれていた。実施例1の(4)と同様の方法でベバシズマブのHICによる保持時間を測定したところ、最も高いピークの保持時間は、
図3に示すように、19.24分であった。したがって、ベバシズマブの、疎水性相互作用クロマトグラフィーにおけるTr-Tmは15分以上であり、k値は19以上であった。
【0144】
比較例2としてベバシズマブを含む溶液をVF Aでろ過し、実施例8としてベバシズマブを含む溶液をVF Bでろ過した。実施例1の(6)と同様の方法で実施例8及び比較例2のLMHを測定したところ、
図11に示す結果が得られた。比較例2に係るVF Aを用いた場合のFlux decayは61.4%であり、実施例8に係るVF Bを用いた場合のFlux decayは12.3%であった。抗体がmAb Aであったと同様に、ベバシズマブの場合も、VF AよりもVF Bのほうが、目詰まりが小さいことが示された。
【0145】
[実施例9及び比較例3、4]
実施例2と同様の実験を、抗体溶液の抗体種を変更して行った。二重特異的抗体ビメキズマブ(ユーシービージャパン社製)を含む溶液を、塩化ナトリウムを含む15mmol/Lの酢酸緩衝液(pH5.5、22mS/cm)でバッファー交換し、抗体濃度15.4mg/mLであるビメキズマブを含む溶液を作製した。
【0146】
実施例1の(3)と同様の方法でビメキズマブを含む溶液に含まれる粒子の粒径の分布をDLSで測定したところ、
図2に示すように、ビメキズマブを含む溶液に含まれる粒子の粒子径の最大値は24.4nm、散乱強度の最も大きな粒子径は13.5nmであった。また、ビメキズマブの粒径の分布において、22.0nm以上の範囲が含まれていた。実施例1の(4)と同様の方法でビメキズマブのHICによる保持時間を測定したところ、最も高いピークの保持時間は、
図3に示すように、16.16分であった。したがって、ビメキズマブの、疎水性相互作用クロマトグラフィーにおけるTr-Tmは15分以上であり、k値は19以上であった。
【0147】
比較例3としてビメキズマブを含む溶液をVF Aでろ過した。また、実施例9としてビメキズマブを含む溶液をVF Bでろ過した。実施例1の(6)と同様の方法で実施例9及び比較例3のLMHを測定したところ、
図12に示す結果が得られた。比較例3に係るVF Aを用いた場合のFlux decayは51.1%であり、実施例9に係るVF Bを用いた場合のFlux decayは12.7%であった。抗体がmAb A及びベバシズマブであったと同様に、ビメキズマブの場合も、VF AよりもVF Bのほうが、目詰まりが小さいことが示された。
【0148】
また、国際公開第2020/203716号の実施例1に記載されている方法で、PES製フィルターVF Cを作製した。比較例4として、ビメキズマブを含む溶液をVF Cでろ過し、実施例1の(6)と同様の方法で比較例4のLMHを測定したところ、
図13に示す結果が得られた。比較例4に係るVF Cを用いた場合のFlux decayは69.1%であった。したがって、VF CよりもVF Bのほうが、目詰まりが小さいことが示された。
【0149】
[比較例5]
抗体タンパク質として、モノクローナル抗体mAb B(遺伝子組み換えヒトIgG4モノクローナル抗体、分子量約145000)を2.3g/L含む培養液上澄みを用意し、実施例1の(1)及び(2)と同様の方法で抗体溶液を調整し、液性が塩化ナトリウムを含む15mmol/Lの酢酸緩衝液(pH5.5、15mS/cm)である抗体濃度が14.6mg/mLであるmAb Bを含む溶液を作製した。
【0150】
実施例1の(3)と同様の方法でmAb Bを含む溶液に含まれる粒子の粒径の分布をDLSで測定したところ、
図14に示すように、mAb Bを含む溶液に含まれる粒子の粒子径の最大値は21.0nm、散乱強度の最も大きな粒子径は11.7nmであった。また、mAb Bの粒径の分布において、22.0nm以上の範囲が含まれていなかった。実施例1の(4)と同様の方法でmAb BのHICによる検出時間を測定したところ、最も高いピークの検出時間は、
図3に示すように、14.46分であった。したがって、抗体mAb Bの、疎水性相互作用クロマトグラフィーにおけるTr-Tmは15分未満であり、k値は19未満であった。
【0151】
比較例5として、mAb Bを含む溶液をVF Aでろ過し、実施例1の(6)と同様の方法で比較例5のLMHを測定したところ、
図15に示す結果が得られた。比較例5に係るmAb Bを含む溶液のFlux decayは19.4%であり、比較例1に係るmAb A、比較例2に係るベバシズマブ、及び比較例3に係るビメキズマブほどの目詰まりは起こらなかった。したがって、粒径の分布において、22.0nm以上の範囲が含まれない抗体、あるいは疎水性相互作用クロマトグラフィーにおけるTr-Tmが15分未満であり、k値が19未満である抗体は、VF Aでも目詰まりしにくいことが示された。
【0152】
VF Aで目詰まりが大きかった比較例1から4に係る抗体と、目詰まりの少なかった比較例5に係る抗体のDLS測定の結果を表3に示す。比較例1から4に係る抗体の粒径分布において最大粒径が24.4nm以上であったのに対し、比較例5に係る抗体の粒径分布において最大粒径が21.0nmであった。DLSでは粒子間での会合が、測定される粒子径に反映される。表3に示す結果から、VF Aで目詰まりが大きかった抗体は、抗体間で会合しやすい抗体であることが示される。一般的に、多重特異的抗体は、電荷と疎水度が抗原結合部位間で非対称であり、モノクローナル抗体に比べて抗体どうしの会合が起こりやすいと考えられる。しかし、VF Bは、会合が起こりやすい抗体を含む溶液であっても、Flux decayが低かったことから、VF Bは、会合の起こりやすい抗体を含む溶液のろ過に適していることが示された。
【0153】
また、mAb A、ベバシズマブ、ビメキズマブ、及びmAb BのTr-Tmの値及びk値を比較した結果を表4に示す。VF Aで目詰まりが小さかったmAb BはTr-Tmの値が14.24であったのに対し、VF Aで目詰まりの大きかったmAb A、ベバシズマブ、及びビメキズマブのTr-Tmの値はそれぞれ18.90、19.02、16.14であり、mAb BのTr-Tmの値よりも大きかった。VF Aで目詰まりが小さかったmAb Bはk=18.3であるのに対し、VF Aで目詰まりの大きかったmAb A、ベバシズマブ、及びビメキズマブのk値は、それぞれ、24.5、24.6、20.6であり、mAb Bのk値よりも大きかった。したがって、mAb A、ベバシズマブ、及びビメキズマブは、mAb Bと比較して疎水性が高いことが示された。一般的に抗体の疎水性が高いとフィルターへの吸着により目詰まりが起こりやすくなるが、VF Bは親水性の高いセルロースでできており、かつ、弾性限界圧力が200kPa以上と高いことから、抗体の疎水度の影響を受けにくく、目詰まりがしにくかったことが示された。
【表2-1】
【表2-2】
【表3】
【表4】