(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174243
(43)【公開日】2022-11-22
(54)【発明の名称】金属材料の接合方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/02 20060101AFI20221115BHJP
B23K 20/00 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
B23K20/02
B23K20/00 340
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147409
(22)【出願日】2022-09-15
(62)【分割の表示】P 2021533312の分割
【原出願日】2021-01-28
(31)【優先権主張番号】P 2020057748
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000236920
【氏名又は名称】富山県
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】山岸 英樹
(57)【要約】
【課題】接合部のIMCの生成を抑えることで強度に優れ、かつ生産性の高い金属材料の接合方法の提供を目的とする。
【解決手段】第1金属材料と第2金属材料との接合部となる部位を重ね合せた状態で、前記接合部に加圧手段にてスポット的な荷重を加えることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属材料と第2金属材料との接合部となる部位を重ね合せた状態で、前記接合部に加圧手段にてスポット的な荷重を加えるものであり、
前記接合部における第1金属材料と第2金属材料の接合前の合計厚みT0mm、接合後の合計厚みT1mmとすると、圧下比R=T0/T1が1.4以上であることを特徴とする金属材料の接合方法。
【請求項2】
前記接合部に加圧手段にてスポット的な荷重を加えることで接合界面に塑性流動が生じ、低温で固相拡散接合されることを特徴とする請求項1記載の金属材料の接合方法。
【請求項3】
前記スポット的な荷重を加える加圧手段は外接円直径が3~15mmのパンチ形状であることを特徴とする請求項2記載の金属材料の接合方法。
【請求項4】
前記低温で固相拡散接合される接合温度は270~450℃の範囲であることを特徴とする請求項2記載の金属材料の接合方法。
【請求項5】
前記接合部の接合界面に生成されるIMC(金属間化合物)の厚みが1μm未満であることを特徴とする請求項2記載の金属材料の接合方法。
【請求項6】
前記第1金属材料と第2金属材料とは異種の金属材料であることを特徴とする請求項1記載の金属材料の接合方法。
【請求項7】
前記異種の金属材料は鉄系金属材料とアルミニウム系金属材料の組み合せ,鉄系金属材料とマグネシウム系金属材料との組み合せ,アルミニウム系金属材料と銅系金属材料との組み合せ,鉄系金属材料とチタン系金属材料との組み合せ,アルミニウム系金属材料とチタン系金属材料との組み合せ,マグネシウム系金属材料とチタン系金属材料との組み合せ,ニッケル系金属材料とアルミニウム系金属材料の組合せ,ニッケル系金属材料とマグネシウム系金属材料の組み合せ,銅系金属材料とマグネシウム系金属材料の組み合せのいずれかであることを特徴とする請求項6記載の金属材料の接合方法。
【請求項8】
前記第1金属材料と第2金属材料とは同種の金属材料であることを特徴とする請求項1記載の金属材料の接合方法。
【請求項9】
前記同種の金属材料は鉄系の同種金属材料又はアルミニウム系の同種金属材料であることを特徴とする請求項8記載の金属材料の接合方法。
【請求項10】
第1金属材料と第2金属材料との接合部となる部位を重ね合せた状態で、前記接合部に加圧手段にてスポット的な荷重を加えるものであり、
前記接合部における第1金属材料と第2金属材料の接合前の合計厚みT0mm、接合後の合計厚みT1mmとすると、圧下比R=T0/T1の値で接合品質を管理することを特徴とする金属材料の接合品質の管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は同種又は異種金属材料の接合方法に関し、特に接合界面に脆弱な金属間化合物(IMC:Inter Metallic Compound)が生成するのを抑えた新規の接合方法に係る。
【背景技術】
【0002】
金属材料の接合方法としては、レーザ溶接法やアーク溶接法、抵抗スポット溶接法等が採用されている。
例えば、自動車の組立ラインでは車両あたり数千点ものスポット溶接がロボットを用いて実施されている。
近年、車両軽量化の観点からアルミニウム材料等の軽合金材料の積極的な使用が検討されており、その場合に鉄系材料とアルミニウム材料等の異種金属材料間の接合が大きな技術的課題となる。
この場合に、従来の冶金的な接合においては、Al3Fe,Al5Fe2等の脆弱なIMCが容易に生成し、実用的な強度を得るのが困難であった。
非特許文献1には、IMCの厚みを1~2μm程度に抑えることで高い接合強度が得られる旨が報告されているが、Fe-Al系のIMCはその厚さが1μmを超えると接合強度が大幅に低下することが一般に知られており、当該法では生産管理上も実用レベルとはなっていない。
言い換えれば、IMCを1μm以下のサブミクロンオーダーで十分に薄く抑制できるスポット接合法が必要である。
【0003】
特許文献1には、先端に向けて縮径する電極に通電しながら、この電極を重ね合せた金属板に押し込む片側溶接方法を開示する。
同公報によれば、電極の先端部を押し込むことで、金属板の重ね部に密着変形させた清浄面を生成するものとなっているが、接合原理は加圧通電による溶接となっている。
【0004】
本出願人は、先に接合したい金属材料の間にインサート材を挟み込み、衝撃荷重を加えて機械的に加圧する方法を提案している(特許文献2)。
本発明者は、さらなる汎用性及び生産性の向上をなすべく検討した結果、本発明に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-31266号公報
【特許文献2】特開2019-107686号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「鋼板/アルミ異材抵抗スポット溶接技術の開発」,田中耕二郎他マツダ技板,NO.33(2016)P124-129
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記技術的課題を解決すべく、接合部のIMCの生成を抑えることで強度に優れ、生産性の高い金属材料の接合方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る金属材料の接合方法は、第1金属材料と第2金属材料との接合部となる部位を重ね合せた状態で、前記接合部に加圧手段にてスポット的な荷重を加えることを特徴とする。
ここで、スポット的な荷重とは接合部全体ではなく、所定の範囲を局部的に加圧する趣旨である。
このようにすることで、スポット的な荷重にて加圧された接合界面には、加圧部からその周囲に向けて塑性流動が生じる。
塑性流動により接合界面には新生面が出現し、この新生面での固相拡散により接合される。
【0009】
ここで接合界面における塑性流動の大きさを、接合部における第1金属材料と第2金属材料の接合前の合計厚みT0mmに対して、加圧接合後の合計厚みをT1mmとし、T0/T1=R・・・・圧下比と定義した場合に、圧下比Rは1.4以上がよい。
また、圧下比Rは好ましくは1.8以上、さらに望ましくは2.0以上である。
【0010】
本発明において、スポット的な荷重は接合界面に塑性流動を出現させるのが目的であり、局部的に加圧できればその大きさや形状に制限はないが、外接円で表現すると外接円直径が3~15mm程度のパンチ形状であってよい。
【0011】
本発明においてスポット的な荷重は、接合部に実質的な変形を加えるのが目的であることから荷重速度に制限はなく、ゆっくりとした静圧的な荷重でもよく、また荷重速度の速い動的な衝撃荷重でもよい。
衝撃荷重にすると、速度の速い分だけ生産性が向上する。
【0012】
本発明において、接合金属材料は同種の系統の金属材料間でもよく、異種の金属材料間でもよい。
同種の系統のものとしては、鉄系の各種金属材料間,アルミニウム系の各種金属材料間が例として挙げられる。
異種の金属材料としては、鉄系金属材料とアルミニウム系金属材料の組み合せ,アルミニウム系金属材料と銅系金属材料との組み合せ,鉄系金属材料とチタン系金属材料との組み合せ,アルミニウム系金属材料とチタン系金属材料との組み合せ,マグネシウム系金属材料とチタン系金属材料との組み合せ、ニッケル系金属材料とアルミニウム系金属材料の組合せ、ニッケル系金属材料とマグネシウム系金属材料等が例として挙げられる。
また、鉄系材料の場合に、表面に亜鉛メッキ等のメッキ処理が施されていてもよい。
ここで、鉄系,アルミニウム系,銅系,チタン系、マグネシウム系及びニッケル系 金属材料と表現したのは、それぞれの各種合金も含まれる趣旨である。
【0013】
本発明においては、接合界面での塑性流動を容易にするのに固相接合の範囲にて加温するのが好ましい。
例えば、鉄系材料は320~450℃,アルミ系材料は300~400℃等、接合する材料に合せて適宜設定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、金属材料の接合部にスポット的な荷重を加え、接合界面に生ずる塑性流動による新生面を用いて固相接合する新規の接合方法であることから、必要に応じて鍛接と称する。
本発明に係る鍛接にあっては、詳細は後述するが、接合界面にIMCが生成されるのを抑制でき、IMCが生じた場合にもその厚みは数nm~数十nmレベル(メゾスコピック領域)に抑えることができることから、機械的性質低下への悪影響がなく、事実上IMCフリーの接合法である。
この点において従来の技術では、IMCが1~2μmレベルまでにしか抑えることができなかったのに比較して、接合品質(強度)及び加工裕度に優れる。
これを例えば、従来法の1つである抵抗スポット溶接法で説明すると、IMCの厚みを抑えるには通電時間を短時間に制御しなければならないが、接合品質を確保するには接合材の融点(アルミニウム合金の場合約700℃)、あるいはそれ以上の高温にする必要があることから、必然的にクリティカルな厚み(約1μm)のIMCが形成されてしまう[後述
図7(b)を参照]。
これに対して本発明は、接合面に塑性流動界面を形成することを接合機構としているため、接合プロセスが低温でしかも極短時間で行うことができ、このIMCをメゾスコピック領域に抑制できる。
したがって、従来法に対して時間的な加工裕度に優れている。
即ち、加工条件が多少ばらつくなどの管理がラフでも、界面に形成されるIMCはクリティカルな厚みにならないという生産技術上の裕度が高い。
また本発明において、スポット的な荷重を加える前の接合部の予熱は、あらかじめ電気炉等で加熱しておいても良く、あるいはレーザ光,フレイム,通電、又は電磁誘導等により接合部を局所的に所定温度に加熱する方法でも良いが、最も現実的な適用スタイルとして、自動車組立ラインに用いられている抵抗スポット溶接同様の通電によるジュール熱を用いることができる。
本発明では、接合部に必要な加熱温度が低いことから、必要とする電流も一般の抵抗スポット溶接法よりも十分小さく、それにより従来の電気回路及びシステムが大幅にコンパクトかつ安価になる利点がある。
【0015】
また、本発明は接合品質が向上し、例えば接合強度を上記で説明した圧下比で評価することも可能であり、従来の破壊検査の低減や省略も可能になり、生産現場での品質管理が容易になる。
また、スポット的な加圧手段にて短時間で接合することも可能であることから、例えば車両の組立ライン等の従来の生産システムに組み込むことも容易になることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】(a)はSPCCとA5083の接合におけるACサーボプレス機のスライドストロークと加圧力の関係を示し、(b)は接合の瞬間における各変化をスライド速度も含めて詳細に示す。
【
図3】SPCC(Fe)とA5083(Al)の接合における接合後の継手外観写真(パンチング側、正面視)を示す。
【
図4】SPCC(Fe)とA5083(Al)の接合における接合後の継手外観写真(側面視)を示す。
【
図5】SPCC(Fe)とA5083(Al)の接合における圧下比Rと継手の引張せん断荷重Fの関係を示す。
【
図6】SPCC(Fe)とA5083(Al)の接合における接合部の金属顕微鏡及び走査型電子顕微鏡(SEM)による断面観察像を示す。
【
図7】(a)はSPCC(Fe)とA5083(Al)の接合における接合界面の透過型電子顕微鏡(TEM)による観察像を示し、(b)は鉄とアルミニウム合金の拡散接合において、各種接合温度における接合時間と反応拡散層厚みの成長関係について数値計算したグラフを示す。
【
図8】(a)はSPFC980(Fe)とA5083(Al)の組み合せにおける圧下比Rに対する継手の引張せん断荷重の関係を示し、(b)は接合部断面のTEM像を示す。
【
図9】はA2024とA6061の接合におけるACサーボプレス機のスライドストローク、スライド速度及び加圧力の関係を示す。
【
図10】A2024(Al)とA6061(Al)との組み合せにおける圧下比Rに対する継手の引張せん断荷重の関係を示す。
【
図11】A2024(Al)とA6061(Al)との組み合せにおける加圧力(接合部面圧)に対する継手の引張せん断荷重の関係を示す。
【
図12】(a)はA2024とA6061との組み合せにおける光学顕微鏡による接合部断面写真を示し、(b)はその接合部界面の断面TEM像を示す。
【
図13】A2024とA6061との組み合せにおける接合部断面の結晶方位解析結果を示す。
【
図14】SGCC(Fe)とA6061(Al)との組み合せにおける圧下比Rに対する継手の引張せん断荷重の関係を示す。
【
図15】SUS304(Fe)とA5083(Al)との組み合せにおける圧下比Rに対する継手の引張せん断荷重の関係を示す。
【
図16】SPFC980(Fe)とA7075(Al)との組み合せにおける圧下比Rに対する継手の引張せん断荷重の関係を示す。
【
図17】TP270(Ti)とA6061(Al)との組み合せにおける圧下比Rに対する継手の引張せん断荷重の関係を示す。
【
図18】TP270(Ti)とAZ61(Mg)との組み合せにおける圧下比Rに対する継手の引張せん断荷重の関係を示す。
【
図19】NW2201(Ni)とA5083(Al)との組み合せにおける圧下比Rに対する継手の引張せん断荷重の関係を示す。
【
図20】接合材料の組み合せとその破断強度の一覧表を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る鍛接について、具体的な実施例に基づいて以下説明するが、接合される金属材料や接合条件はこれらに限定されない。
【0018】
実際の生産ラインにおいては、各種プレス機や、アクチュエータ等を用いたC型アームを装着したロボット等を応用することができるが、以下説明する実験例はストローク動作がサーボモータにて制御されたACサーポプレス装置を用いた。
【0019】
図1に実験方法を示す。
図示を省略したが、ACサーボプレス装置のボルスタの上にベース部1をセットし、ベース部1の上に上側の第1金属材料11と下側の第2金属材料12との接合部を重ね合せる。
ベース部1は、ヒーター1aと温度センサー1bにて温調可能になっている。
接合部にスポット的な荷重を加えるのに、熱間金型用合金工具鋼JIS SKD61にて製作したパンチ用の加圧治具2をこの接合部の上に載置し、プレス機のスライドにてこの加圧治具2に位置制御により荷重を加えた。
なお加圧治具2もしくはベース部1は通電による加熱や耐高荷重のために銅系やタングステン系等の材料を用いても良い。
また加圧治具2及びベース部1の表面形状は、金属材料11と金属材料12の間の強度差もしくは加圧治具2と金属材料11との強度差等を考慮して、健全な塑性流動界面を形成するようレンズ状など適切な曲率、曲面等形状を設けても良い。
その場合、タングステン系材料など難切削材料の場合は焼結法や積層造形法で製作すると良い。
【実施例0020】
上側の第1金属材料11に冷間圧延鋼板(SPCC),幅W:20mm,長さL:80mm,厚みt
1:1mmを用い、下側の第2金属材料12にJIS A5083のアルミニウム合金板材,W:20mm,L:80mm,t
2:1mmを用いた。
ここでSPCCは、一般的な冷間圧延鋼板であり、熱間圧延軟鋼板を常温で冷間圧延して得られる。
A5083は、Al-Mg系の合金板材である。
ベース部1の表面温度を約300℃に予熱した。
SPCC及びA5083を予め加熱し、接合時は界面が420~430℃になっていた。
この状態でφ10mmの加圧治具2(以下必要に応じて鍛接径と称する)に衝撃荷重を加えた。
図2(a)に横軸に時間(ms),縦軸に荷重(Load,kN)及びスライドストローク(mm)を表したプレス加工グラフを示す。
図2(b)には荷重変化時の拡大図を示し、合せてスライド速度(荷重速度)も示した。
加圧時間は、0.082秒(82ms)であり、最大荷重は145kNであった。
本実験では、スライドの下降による加圧速度は、約75mm/sの衝撃的な荷重になっている。
得られた接合継手の正面外観写真及び側面外観写真をそれぞれ
図3及び
図4に示す。
図3は、上側の第1金属材料SPCCと下側の第2金属材料A5083との重ね部に加圧治具2による凹部が形成されているのが分かる。
また、
図4に示した側面視では、下側に突出していることが分かる(
図6の断面図を参照)。
なお、第1,第2金属材料にて強度のあるSPCC側を上側に重ねる方が接合しやすいことも明らかになった。
これは、
図4に示すように相対的に強度の高い側から加圧すると、相対的に柔らかい下側の金属材料の跳ね返りを抑えるからである。
接合後の重ね部合計厚みT
1:1mmであったことから、T
0(t
1+t
2)/T
1:圧下比R=2.0であり、試験片の両端部側をチャックした引張り試験(引張速度0.1mm/s)を行ったところ、約3.8kNでA5083側の母材破断となった。
そこで次に、スライド下死点(パンチ挿入量)を変化させ、
図5に示すように圧下比Rに対する接合部の引張せん断荷重Fとの関係をグラフにした。
この結果、圧下比Rが小さいと接合界面で破断するが、圧下比Rが約1.8以上ではA5083側の母材破断(接合部近傍の外周が破壊するプラグ破断)となった。プラグ破断は自動車業界において求められる接合部の破壊基準の一つであり、本法はこれを満たす。
また本接合法で得られる強度について、A5083(O材)の引張強さを290MPaとした場合、JIS Z3140 (スポット溶接部の検査方法及び判定基準)に定められる板厚1mmのA5083同士のスポット溶接部の引張せん断強度A級は約2kNとなるが、本法であればFe/Alの異材接合であってもこの規格を十分に上回っていることも明らかになった。
【0021】
SPCC/A5083(Al)の組み合せで接合した試験片で、鍛接直径10mm,圧下比R=2.0における接合部の金属顕微鏡による断面写真を
図6に示す。
接合部の肉厚が薄くなり、塑性流動が発現しているのが分かる。
接合部はパンチングにより選択的に加圧した加圧面に沿ってある。
よって、加圧面に沿ったその接合面(塑性流動界面)は、加圧部の周囲にできた凹部状の側面ではないことから、接合強度は機械的な接合機構によっていないことが分かる。
図6の下側に走査型電子顕微鏡(SEM)による中央近傍接合界面の二次電子像(SE)及びその反射電子像(COMPO)を示す。
また、当該接合界面をより高倍率で観察したTEMによる明視野像を
図7に示す。
この結果、SPCCの予熱時に生成したと推定されるスケールは分断され、新生面が生じた接合界面における冶金的な反応層(RL)、すなわちIMCの厚みは数nmから数十nmレベルに極めて薄く抑え込むことができていることが分かる。
柴田[金属学会誌,30(1966)P382-388]や、及川[鉄と鋼,83(1997)P641-646]らの報告によれば、FeとAlにおける反応拡散層の成長則は下記の式で記述できることが示されている。
d:反応拡散層(IMC)の厚み(m)
t:加熱時間(s)
K:反応速度定数
K
0:頻度因子(m
2/s),Fe/A5052:5.68×10
-2(m
2/s)
Q:活性化エネルギー(J/mol),Fe/A5052:176kJ/mol
R:気体定数(J/mol・K
-1)
T:接合界面温度(K)
接合温度を1073K(800℃)、873K(600℃)及び693K(420℃)の3種類仮定し、上記関係式によって計算される、接合時間に対するIMC厚みの成長挙動を
図7(b)に示す。
今回の実験評価では、接合時の界面温度は約420℃、また接合時間は約82msであり、この値を
図7(b)のグラフに対応させると、IMCの厚み計算値は約15.8nmとなることが分かる。この値は、
図7(a)で観察された反応層(RL)の厚みと概ね一致する。
また上記関係式より、Fe/Alで強度低下が大きく問題となるIMCの厚みを1μmとした場合、仮定した各接合温度で許容される接合時間(IMCが1μmに成長するまでの時間)は、1073K(800℃)で約0.007(7ms)、873K(600℃)で約0.6sと短時間であるのに対し、今回の実験におけるプロセス温度693K(420℃)では約330sと桁違いに長くなる。本発明は低温の接合法であるため、IMCを制御する上で非常に時間的裕度が大きいプロセスとなっていることが、これらの比較から明確に分かる。
よって、本発明に係る接合方法は、低温で短時間にスポット的な加圧することで、メゾスコピック領域のIMC厚みを実現可能にしている。