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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174318
(43)【公開日】2022-11-22
(54)【発明の名称】評価方法および荷電粒子ビーム装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20221115BHJP
   H01J 37/22 20060101ALI20221115BHJP
   H01J 37/147 20060101ALI20221115BHJP
   H01J 37/153 20060101ALI20221115BHJP
   H01J 37/305 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
H01L21/30 541B
H01L21/30 541Q
H01J37/22 502Z
H01J37/147 C
H01J37/153 Z
H01J37/305 B
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152266
(22)【出願日】2022-09-26
(62)【分割の表示】P 2018206774の分割
【原出願日】2018-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2017212953
(32)【優先日】2017-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100161540
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 良伸
(72)【発明者】
【氏名】森村 利幸
(72)【発明者】
【氏名】金田 源太
(72)【発明者】
【氏名】熊野 泰寛
(72)【発明者】
【氏名】中村 洋次郎
(72)【発明者】
【氏名】河島 隆志
(72)【発明者】
【氏名】若杉 幸伸
(57)【要約】
【課題】制御動作の評価を精度よく行うことができる評価方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る評価方法は、荷電粒子源と、前記荷電粒子源から放出された荷電粒子ビームを成形する成形偏向器およびアパーチャーと、荷電粒子ビームまたは荷電粒子ビームが測定対象物に照射されることにより発生する信号を検出する検出器と、前記成形偏向器を制御する成形偏向器制御装置と、を備えた荷電粒子ビーム装置における前記成形偏向器制御装置の制御動作の評価方法であって、荷電粒子ビームが第1断面積から前記第1断面積とは大きさの異なる第2断面積に変化するように前記成形偏向器制御装置が前記成形偏向器を制御する制御動作を行ったときの過渡応答を観測し、前記成形偏向器制御装置の制御動作の評価を行う工程を含み、前記過渡応答は、荷電粒子ビームまたは前記信号を前記検出器で検出して検出信号を取得することで観測する。
【選択図】図22
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子源と、前記荷電粒子源から放出された荷電粒子ビームを成形する成形偏向器およびアパーチャーと、荷電粒子ビームまたは荷電粒子ビームが測定対象物に照射されることにより発生する信号を検出する検出器と、前記成形偏向器を制御する成形偏向器制御装置と、を備えた荷電粒子ビーム装置における前記成形偏向器制御装置の制御動作の評価方法であって、
荷電粒子ビームが第1断面積から前記第1断面積とは大きさの異なる第2断面積に変化するように前記成形偏向器制御装置が前記成形偏向器を制御する制御動作を行ったときの過渡応答を観測し、前記成形偏向器制御装置の制御動作の評価を行う工程を含み、
前記過渡応答は、荷電粒子ビームまたは前記信号を前記検出器で検出して検出信号を取得することで観測する、評価方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御動作の評価を行う工程では、
第1方向の長さが前記第1方向に垂直な第2方向の長さよりも短い矩形の荷電粒子ビームを、前記第2方向の長さを固定して前記第1方向の長さを変更することによって、前記第1断面積から前記第2断面積に変化するように前記成形偏向器制御装置が前記成形偏向器を制御する制御動作を行ったときの過渡応答を観測し、前記成形偏向器制御装置における前記第1方向の成形の評価を行う、評価方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記制御動作の評価を行う工程では、
荷電粒子ビームを前記第1断面積にしたときの前記検出信号の強度をIA1とし、荷電粒子ビームを前記第2断面積にしたときの前記検出信号の強度をIA2とした場合に、前記検出信号の強度がIA1からIA2となるまでの間の前記検出信号の強度の変化から前記成形偏向器制御装置の出力信号の波形の異常を検出する、評価方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記制御動作の評価を行う工程では、
前記検出信号の強度がIA1からIA2となるまでの間において、前記検出信号の強度のピークを観測する、評価方法。
【請求項5】
荷電粒子源と、前記荷電粒子源から放出された荷電粒子ビームの非点収差を補正する非点収差補正器と、荷電粒子ビームまたは荷電粒子ビームが測定対象物に照射されることにより発生する信号を検出する検出器と、前記非点収差補正器を制御する非点収差補正器制御装置と、を備えた荷電粒子ビーム装置における前記非点収差補正器制御装置の制御動作の評価方法であって、
非点収差の補正量が第1補正量から第2補正量となるように前記非点収差補正器制御装置が前記非点収差補正器を制御する制御動作を行ったときの過渡応答を観測し、前記非点収差補正器制御装置の制御動作の評価を行う工程を含み、
前記過渡応答は、荷電粒子ビームまたは前記信号を前記検出器で検出して検出信号を取得することで観測する、評価方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記測定対象物は、第1領域と、第2領域と、前記第1領域と前記第2領域との間に位置している第3領域と、を有し、
荷電粒子ビームを同じ照射条件で照射したときに、前記第1領域で観測される前記検出信号の強度をIaとし、前記第2領域で観測される前記検出信号の強度をIbとし、前記第3領域で観測される前記検出信号の強度をIcとした場合に、
Ia<Ic<Ib
の関係を満たし、
前記制御動作の評価を行う工程では、
非点収差の補正量が前記第1補正量であり、かつ、荷電粒子ビームが前記第1領域に位置している状態から、非点収差の補正量を前記第1補正量から前記第2補正量に変化させることによって、荷電粒子ビームが前記第1領域と前記第2領域に跨るように、前記非点収差補正器制御装置が前記非点収差補正器を制御する制御動作を行う、評価方法。
【請求項7】
請求項5において、
前記測定対象物は、第1領域と、第2領域と、前記第1領域と前記第2領域との間に位置している第3領域と、を有し、
荷電粒子ビームを同じ照射条件で照射したときに、前記第1領域で観測される前記検出信号の強度をIaとし、前記第2領域で観測される前記検出信号の強度をIbとし、前記第3領域で観測される前記検出信号の強度をIcとした場合に、
Ia<Ic<Ib
の関係を満たし、
前記制御動作の評価を行う工程では、
非点収差の補正量が前記第1補正量であり、かつ、荷電粒子ビームが前記第2領域に位置している状態から、非点収差の補正量を前記第1補正量から前記第2補正量に変化させることによって、荷電粒子ビームが前記第2領域と前記第3領域に跨るように、前記非点収差補正器制御装置が前記非点収差補正器を制御する制御動作を行う、評価方法。
【請求項8】
請求項5において、
前記過渡応答は、荷電粒子ビームを前記検出器で検出して検出信号を取得することで観測する、評価方法。
【請求項9】
請求項8において、
非点収差の補正量が前記第1補正量であり、かつ、荷電粒子ビームがナイフエッジの先端部に位置している状態から、非点収差の補正量を前記第1補正量から前記第2補正量に変化させることによって、前記ナイフエッジに妨げられずに前記検出器に入射する荷電粒子ビームを前記検出器で検出して検出信号を取得する、評価方法。
【請求項10】
荷電粒子源と、前記荷電粒子源から放出された荷電粒子ビームのオンとオフを切り替えるブランキング偏向器と、荷電粒子ビームまたは荷電粒子ビームが測定対象物に照射されることにより発生する信号を検出する検出器と、前記ブランキング偏向器を制御するブランキング偏向器制御装置と、を備えた荷電粒子ビーム装置における前記ブランキング偏向器制御装置の制御動作の評価方法であって、
荷電粒子ビームのオンとオフが切り替えられるように前記ブランキング偏向器制御装置が前記ブランキング偏向器を制御する制御動作を行ったときの過渡応答を観測し、前記ブランキング偏向器制御装置の制御動作の評価を行う工程を含み、
前記過渡応答は、荷電粒子ビームまたは前記信号を前記検出器で検出して検出信号を取得することで観測する、評価方法。
【請求項11】
荷電粒子源と、
前記荷電粒子源から放出された荷電粒子ビームを成形する成形偏向器およびアパーチャーと、
荷電粒子ビームまたは荷電粒子ビームが測定対象物に照射されることにより発生する信号を検出する検出器と、
前記成形偏向器を制御する成形偏向器制御装置と、
荷電粒子ビームまたは前記信号を前記検出器で検出して得られる検出信号を取得する検
出信号取得部と、
荷電粒子ビームが第1断面積から前記第1断面積とは大きさの異なる第2断面積に変化するように前記成形偏向器制御装置が前記成形偏向器を制御する制御動作を行ったときの前記検出信号に基づいて、前記制御動作時の過渡応答を観測し、前記成形偏向器制御装置の制御動作の評価を行う評価部と、
を含む、荷電粒子ビーム装置。
【請求項12】
請求項11において、
前記評価部は、
第1方向の長さが前記第1方向に垂直な第2方向の長さよりも短い矩形の荷電粒子ビームを、前記第2方向の長さを固定して前記第1方向の長さを変更することによって、前記第1断面積から前記第2断面積に変化するように前記成形偏向器制御装置が前記成形偏向器を制御する制御動作を行ったときの前記検出信号に基づいて、前記制御動作時の過渡応答を観測し、前記成形偏向器制御装置における前記第1方向の成形の評価を行う、荷電粒子ビーム装置。
【請求項13】
請求項11において、
前記評価部は、
荷電粒子ビームを前記第1断面積にしたときの前記検出信号の強度をIA1とし、荷電粒子ビームを前記第2断面積にしたときの前記検出信号の強度をIA2とした場合に、前記検出信号の強度がIA1からIA2となるまでの間の前記検出信号の強度の変化から前記成形偏向器制御装置の出力信号の波形の異常を検出する、荷電粒子ビーム装置。
【請求項14】
請求項13において、
前記評価部は、前記検出信号の強度がIA1からIA2となるまでの間において、前記検出信号の強度のピークを観測する、荷電粒子ビーム装置。
【請求項15】
荷電粒子源と、
前記荷電粒子源から放出された荷電粒子ビームの非点収差を補正する非点収差補正器と、
荷電粒子ビームまたは荷電粒子ビームが測定対象物に照射されることにより発生する信号を検出する検出器と、
前記非点収差補正器を制御する非点収差補正器制御装置と、
前記信号を前記検出器で検出して得られる検出信号を取得する検出信号取得部と、
非点収差の補正量が第1補正量から第2補正量となるように前記非点収差補正器制御装置が前記非点収差補正器を制御する制御動作を行ったときの前記検出信号に基づいて、前記制御動作時の過渡応答を観測し、前記非点収差補正器制御装置の制御動作の評価を行う評価部と、
を含む、荷電粒子ビーム装置。
【請求項16】
請求項15において、
前記測定対象物が設けられたステージを含み、
前記測定対象物は、第1領域と、第2領域と、前記第1領域と前記第2領域との間に位置している第3領域と、を有し、
荷電粒子ビームを同じ照射条件で照射したときに、前記第1領域で観測される前記検出信号の強度をIaとし、前記第2領域で観測される前記検出信号の強度をIbとし、前記第3領域で観測される前記検出信号の強度をIcとした場合に、
Ia<Ic<Ib
の関係を満たし、
前記評価部は、
非点収差の補正量が前記第1補正量であり、かつ、荷電粒子ビームが前記第1領域に位置している状態から、非点収差の補正量を前記第1補正量から前記第2補正量に変化させることによって、荷電粒子ビームが前記第1領域と前記第2領域に跨るように、前記非点収差補正器制御装置が前記非点収差補正器を制御する制御動作を行ったときの前記検出信号に基づいて、前記制御動作時の過渡応答を観測する、荷電粒子ビーム装置。
【請求項17】
請求項15において、
前記測定対象物が設けられたステージを含み、
前記測定対象物は、第1領域と、第2領域と、前記第1領域と前記第2領域との間に位置している第3領域と、を有し、
荷電粒子ビームを同じ照射条件で照射したときに、前記第1領域で観測される前記検出信号の強度をIaとし、前記第2領域で観測される前記検出信号の強度をIbとし、前記第3領域で観測される前記検出信号の強度をIcとした場合に、
Ia<Ic<Ib
の関係を満たし、
前記評価部は、
非点収差の補正量が前記第1補正量であり、かつ、荷電粒子ビームが前記第2領域に位置している状態から、非点収差の補正量を前記第1補正量から前記第2補正量に変化させることによって、荷電粒子ビームが前記第2領域と前記第3領域に跨るように、前記非点収差補正器制御装置が前記非点収差補正器を制御する制御動作を行ったときの前記検出信号に基づいて、前記制御動作時の過渡応答を観測する、荷電粒子ビーム装置。
【請求項18】
請求項17において、
前記検出器は、荷電粒子ビームを検出する、荷電粒子ビーム装置。
【請求項19】
請求項18において、
前記評価部は、
非点収差の補正量が前記第1補正量であり、かつ、荷電粒子ビームがナイフエッジの先端部に位置している状態から、非点収差の補正量を前記第1補正量から前記第2補正量に変化させることによって、前記ナイフエッジに妨げられずに前記検出器に入射する荷電粒子ビームを前記検出器で検出して得られた検出信号に基づいて、前記制御動作時の過渡応答を観測する、荷電粒子ビーム装置。
【請求項20】
荷電粒子源と、
前記荷電粒子源から放出された荷電粒子ビームのオンとオフを切り替えるブランキング偏向器と、
荷電粒子ビームまたは荷電粒子ビームが測定対象物に照射されることにより発生する信号を検出する検出器と、
前記ブランキング偏向器を制御するブランキング偏向器制御装置と、
荷電粒子ビームまたは前記信号を前記検出器で検出して得られる検出信号を取得する検出信号取得部と、
荷電粒子ビームのオンとオフが切り替えられるように前記ブランキング偏向器制御装置が前記ブランキング偏向器を制御する制御動作を行ったときの前記検出信号に基づいて、前記制御動作時の過渡応答を観測し、前記ブランキング偏向器制御装置の制御動作の評価を行う評価部と、
を含む、荷電粒子ビーム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、評価方法および荷電粒子ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ビームなどの荷電粒子ビームを用いた荷電粒子ビーム装置として、電子ビーム描画装置が知られている。電子ビーム描画装置は、例えば、微細な半導体集積回路パターン(LSIパターン等)を描画するために用いられる。電子ビーム描画装置では、定期的に、電子ビームの制御動作の較正や、制御動作の検査が行われる。
【0003】
例えば、特許文献1には、電子ビームの試料上の照射位置をリアルタイムに検出して、電子ビームの位置ずれなどの異常を検出することを可能とした電子ビーム描画装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-339405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図43は、電子ビーム描画装置における、従来の制御動作の異常検出方法の一例を説明するための図である。図44は、電子ビームEBでマークMを走査することで発生する電子信号(二次電子または反射電子)を検出して得られる検出信号の波形を示すグラフである。なお、図44に示すグラフにおいて、横軸は時間tを示し、縦軸は検出信号の強度Iを示している。
【0006】
図43に示すように、電子ビームEBを所定のステップで移動させて電子ビームEBでマークMを走査する。これにより、電子ビームEBが照射された領域から電子信号(二次電子および反射電子)が放出される。この電子信号を検出器(図示せず)で検出して検出信号を観測することで、図44に示す検出信号の波形が得られる。この検出信号の波形からビーム制御系の制御動作に異常がないかを確認することができる。すなわち、検出信号の波形からビーム制御系の制御動作を評価することができる。
【0007】
上述した従来の制御動作の評価方法では、例えば、ビーム制御系を構成する素子が壊れるなどして制御動作に明確な異常が生じた場合には、検出信号の波形が大きく変化するため異常を検出できる。しかしながら、従来の制御動作の異常検出方法では、例えば、ビーム制御系を構成する素子の性能劣化により制御動作に僅かな異常が生じた場合に、異常を検出できないことがある。
【0008】
図45および図46は、電子ビームを偏向させるための静電偏向器を制御する制御回路の出力信号の波形(電圧出力)の一例を示す図である。なお、図45は、正常状態の波形を示し、図46は、異常状態の波形を示している。
【0009】
制御回路(出力アンプ等を含む)を構成するトランジスタ等の素子が経年変化により特性が劣化した場合、図46に示すように、制御回路の出力信号にリンギングが発生する場合がある。リンギングなどによる出力信号の波形の僅かな歪みは、上述した従来の異常検出方法では検出することはできない。
【0010】
出力信号の波形の僅かな歪みなどにより描画結果に異常が発生した場合、フォトマスク等の成果物に不良が発生してしまうなど成果物の品質低下を招き、装置の信頼性を低下させる要因の1つとなる。
【0011】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、制御動作の評価を精度よく行うことができる評価方法を提供することにある。また、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、制御動作の評価を精度よく行うことができる荷電粒子ビーム装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る評価方法の一態様は、
荷電粒子源と、前記荷電粒子源から放出された荷電粒子ビームを成形する成形偏向器およびアパーチャーと、荷電粒子ビームまたは荷電粒子ビームが測定対象物に照射されることにより発生する信号を検出する検出器と、前記成形偏向器を制御する成形偏向器制御装置と、を備えた荷電粒子ビーム装置における前記成形偏向器制御装置の制御動作の評価方法であって、
荷電粒子ビームが第1断面積から前記第1断面積とは大きさの異なる第2断面積に変化するように前記成形偏向器制御装置が前記成形偏向器を制御する制御動作を行ったときの過渡応答を観測し、前記成形偏向器制御装置の制御動作の評価を行う工程を含み、
前記過渡応答は、荷電粒子ビームまたは前記信号を前記検出器で検出して検出信号を取得することで観測する。
【0013】
このような評価方法では、成形偏向器制御装置の出力信号の波形に生じるリンギングなどの僅かな歪みを、検出信号の波形から観測することができる。したがって、このような評価方法によれば、成形偏向器制御装置の制御動作の異常を精度よく検出することができる。
【0014】
本発明に係る評価方法の一態様は、
荷電粒子源と、前記荷電粒子源から放出された荷電粒子ビームの非点収差を補正する非点収差補正器と、荷電粒子ビームが測定対象物に照射されることにより発生する信号を検出する検出器と、前記非点収差補正器を制御する非点収差補正器制御装置と、を備えた荷電粒子ビーム装置における前記非点収差補正器制御装置の制御動作の評価方法であって、
非点収差の補正量が第1補正量から第2補正量となるように前記非点収差補正器制御装置が前記非点収差補正器を制御する制御動作を行ったときの過渡応答を観測し、前記非点収差補正器制御装置の制御動作の評価を行う工程を含み、
前記過渡応答は、前記信号を前記検出器で検出して検出信号を取得することで観測する。
【0015】
このような評価方法では、非点収差補正器制御装置の出力信号の波形に生じるリンギングなどの僅かな歪みを、検出信号の波形から観測することができる。したがって、このような評価方法によれば、非点収差補正器制御装置の制御動作の異常を精度よく検出することができる。
【0016】
本発明に係る評価方法の一態様は、
荷電粒子源と、前記荷電粒子源から放出された荷電粒子ビームのオンとオフを切り替えるブランキング偏向器と、荷電粒子ビームまたは荷電粒子ビームが測定対象物に照射されることにより発生する信号を検出する検出器と、前記ブランキング偏向器を制御するブランキング偏向器制御装置と、を備えた荷電粒子ビーム装置における前記ブランキング偏向器制御装置の制御動作の評価方法であって、
荷電粒子ビームのオンとオフが切り替えられるように前記ブランキング偏向器制御装置
が前記ブランキング偏向器を制御する制御動作を行ったときの過渡応答を観測し、前記ブランキング偏向器制御装置の制御動作の評価を行う工程を含み、
前記過渡応答は、荷電粒子ビームまたは前記信号を前記検出器で検出して検出信号を取得することで観測する。
【0017】
このような評価方法では、ブランキング偏向器制御装置の出力信号の波形に生じるリンギングなどの僅かな歪みを、検出信号の波形から観測することができる。したがって、このような評価方法によれば、ブランキング偏向器制御装置の制御動作の異常を精度よく検出することができる。
【0018】
本発明に係る荷電粒子ビーム装置の一態様は、
荷電粒子源と、
前記荷電粒子源から放出された荷電粒子ビームを成形する成形偏向器およびアパーチャーと、
荷電粒子ビームまたは荷電粒子ビームが測定対象物に照射されることにより発生する信号を検出する検出器と、
前記成形偏向器を制御する成形偏向器制御装置と、
荷電粒子ビームまたは前記信号を前記検出器で検出して得られる検出信号を取得する検出信号取得部と、
荷電粒子ビームが第1断面積から前記第1断面積とは大きさの異なる第2断面積に変化するように前記成形偏向器制御装置が前記成形偏向器を制御する制御動作を行ったときの前記検出信号に基づいて、前記制御動作時の過渡応答を観測し、前記成形偏向器制御装置の制御動作の評価を行う評価部と、
を含む。
【0019】
このような荷電粒子ビーム装置では、成形偏向器制御装置の出力信号の波形に生じるリンギングなどの僅かな歪みを、検出信号の波形から観測することができる。したがって、このような荷電粒子ビーム装置によれば、成形偏向器制御装置の制御動作の異常を精度よく検出することができる。
【0020】
本発明に係る荷電粒子ビーム装置の一態様は、
荷電粒子源と、
前記荷電粒子源から放出された荷電粒子ビームの非点収差を補正する非点収差補正器と、
荷電粒子ビームが測定対象物に照射されることにより発生する信号を検出する検出器と、
前記非点収差補正器を制御する非点収差補正器制御装置と、
前記信号を前記検出器で検出して得られる検出信号を取得する検出信号取得部と、
非点収差の補正量が第1補正量から第2補正量となるように前記非点収差補正器制御装置が前記非点収差補正器を制御する制御動作を行ったときの前記検出信号に基づいて、前記制御動作時の過渡応答を観測し、前記非点収差補正器制御装置の制御動作の評価を行う評価部と、
を含む。
【0021】
このような荷電粒子ビーム装置では、非点収差補正器制御装置の出力信号の波形に生じるリンギングなどの僅かな歪みを、検出信号の波形から観測することができる。したがって、このような荷電粒子ビーム装置によれば、非点収差補正器制御装置の制御動作の異常を精度よく検出することができる。
【0022】
本発明に係る荷電粒子ビーム装置の一態様は、
荷電粒子源と、
前記荷電粒子源から放出された荷電粒子ビームのオンとオフを切り替えるブランキング偏向器と、
荷電粒子ビームまたは荷電粒子ビームが測定対象物に照射されることにより発生する信号を検出する検出器と、
前記ブランキング偏向器を制御するブランキング偏向器制御装置と、
荷電粒子ビームまたは前記信号を前記検出器で検出して得られる検出信号を取得する検出信号取得部と、
荷電粒子ビームのオンとオフが切り替えられるように前記ブランキング偏向器制御装置が前記ブランキング偏向器を制御する制御動作を行ったときの前記検出信号に基づいて、前記制御動作時の過渡応答を観測し、前記ブランキング偏向器制御装置の制御動作の評価を行う評価部と、
を含む。
【0023】
このような荷電粒子ビーム装置では、ブランキング偏向器制御装置の出力信号の波形に生じるリンギングなどの僅かな歪みを、検出信号の波形から観測することができる。したがって、このような荷電粒子ビーム装置によれば、ブランキング偏向器制御装置の制御動作の異常を精度よく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】第1実施形態に係る電子ビーム描画装置の構成を示す図。
図2】偏向信号制御回路の構成を示す図。
図3】信号検出制御回路の構成を示す図。
図4】第1実施形態に係る異常検出方法の一例を示すフローチャート。
図5】第1実施形態に係る異常検出方法を説明するための図。
図6】偏向信号制御回路の出力信号の波形に歪みが生じている場合の電子ビームの動きを示す図。
図7】検出信号の波形を示すグラフ。
図8】検出信号の波形を示すグラフ。
図9】検出信号の波形を示すグラフ。
図10】第1実施形態に係る異常検出方法の変形例を示すフローチャート。
図11】第2実施形態に係る異常検出方法の一例を示すフローチャート。
図12】第2実施形態に係る異常検出方法を説明するための図。
図13】検出信号の波形を示すグラフ。
図14】検出信号の波形を示すグラフ。
図15】第3実施形態に係る異常検出方法の一例を示すフローチャート。
図16】検出信号の波形を示すグラフ。
図17】検出信号の波形を示すグラフ。
図18】第4実施形態に係る異常検出方法の一例を説明するための図。
図19】第5実施形態に係る異常検出方法の一例を説明するための図。
図20】第6実施形態に係る電子ビーム描画装置の構成を示す図。
図21】第6実施形態に係る異常検出方法の一例を示すフローチャート。
図22】第6実施形態に係る異常検出方法を説明するための図。
図23】第6実施形態に係る異常検出方法を説明するための図。
図24】検出信号の波形を示すグラフ。
図25】検出信号の波形を示すグラフ。
図26】検出信号の波形を示すグラフ。
図27】第7実施形態に係る異常検出方法の一例を示すフローチャート。
図28】第7実施形態に係る異常検出方法を説明するための図。
図29】検出信号の波形を示すグラフ。
図30】検出信号の波形を示すグラフ。
図31】検出信号の波形を示すグラフ。
図32】第8実施形態に係る電子ビーム描画装置の構成を示す図。
図33】非点収差を補正している様子を説明するための図。
図34】非点収差を補正している様子を説明するための図。
図35】第8実施形態に係る異常検出方法の一例を示すフローチャート。
図36】第8実施形態に係る異常検出方法を説明するための図。
図37】第8実施形態に係る異常検出方法の変形例を説明するための図。
図38】検出信号の波形を示すグラフ。
図39】検出信号の波形を示すグラフ。
図40】検出信号の波形を示すグラフ。
図41】測定対象物を用いた、非点収差補正回路の異常検出方法の一例を説明するための図。
図42】電子ビームをビーム電流検出器で検出して検出信号を観測する様子を説明するための図。
図43】従来の制御動作の異常検出方法の一例を説明するための図。
図44】検出信号の波形を示すグラフ。
図45】制御回路の出力信号の波形の一例を示す図。
図46】制御回路の出力信号の波形の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0026】
また、以下では、本発明に係る荷電粒子ビーム装置として、電子ビーム描画装置を例に挙げて説明するが、本発明に係る荷電粒子ビーム装置は電子ビーム以外の荷電粒子ビーム(イオンビーム等)を照射する装置であってもよい。本発明に係る荷電粒子ビーム装置は、例えば、電子顕微鏡、集束イオンビーム装置などであってもよい。
【0027】
1. 第1実施形態
1.1. 電子ビーム描画装置
まず、第1実施形態に係る電子ビーム描画装置について図面を参照しながら説明する。図1は、第1実施形態に係る電子ビーム描画装置100の構成を示す図である。
【0028】
電子ビーム描画装置100は、図1に示すように、電子源(荷電粒子源の一例)10と、ブランキング偏向器12と、電子レンズ14と、スリット16(絞り)と、ビーム偏向器18と、電子レンズ20(対物レンズ)と、ステージ22と、電子検出器24と、ビーム電流検出器26と、高圧電源28と、ブランキング制御回路30と、レンズ制御回路32と、偏向信号制御回路34(偏向器制御装置の一例)と、信号検出制御回路36(検出信号取得部の一例)と、データ制御部38と、制御部40と、を含む。
【0029】
電子源10は、例えば、電子ビームを放出する電子銃である。
【0030】
ブランキング偏向器12は、電子源10から放出された電子ビームを偏向させて、電子ビームのブランキングを行う(すなわち、電子ビームを遮断する)。これにより、電子ビームのオン、オフを制御することができる。
【0031】
電子レンズ14および電子レンズ20は、電子ビームを収束する。スリット16(絞り)は、不要な電子ビームをカットし、試料Sに照射される電子ビームの電流量を制御する
。なお、電子ビーム描画装置100は、電子レンズ14、スリット16、および電子レンズ20以外のレンズやスリットを備えていてもよい。
【0032】
ビーム偏向器18は、電子ビームを二次元的に偏向させる。ビーム偏向器18で電子ビームを偏向させることにより、電子ビームを移動させたり、所望の位置で静止させたりすることができる。
【0033】
ステージ22には、試料Sが載置される。試料Sは、例えば、半導体基板やマスクブランクス等である。ステージ22は、試料Sを所望の位置に移動させる移動機構を備えている。
【0034】
電子検出器24は、測定対象物(例えば試料S、後述する異常検出のために用いられるマーク2等)に電子ビームが照射されることにより発生する電子信号(二次電子または反射電子)を検出する検出器である。電子ビーム描画装置100は、電子検出器24として、二次電子検出器を備えていてもよいし、反射電子検出器を備えていてもよい。また、電子ビーム描画装置100は、2つの電子検出器24(二次電子検出器および反射電子検出器)を備えていてもよい。
【0035】
ビーム電流検出器26は、ステージ22に設けられている。ビーム電流検出器26は、例えば、図示しないナイフエッジとともに、試料Sへの描画に先立って、描画に用いる電子ビームの電流やサイズ、位置、電子ビームのぼけ等を測定するために用いられる。
【0036】
高圧電源28は、電子源10から放出される電子ビームを加速させるための電圧を発生させる電源である。
【0037】
ブランキング制御回路30は、データ制御部38の出力を受けてブランキング偏向器12の制御を行う。ブランキング偏向器12は、ブランキング制御回路30の出力を受けて動作する。
【0038】
レンズ制御回路32は、データ制御部38の出力を受けて電子レンズ14および電子レンズ20の制御を行う。電子レンズ14および電子レンズ20は、レンズ制御回路32の出力を受けて動作する。
【0039】
偏向信号制御回路34は、データ制御部38の出力を受けてビーム偏向器18の制御を行う。ビーム偏向器18は、偏向信号制御回路34の出力を受けて動作する。
【0040】
信号検出制御回路36は、電子検出器24が電子信号を検出して得られる検出信号を取得(観測)するために用いられる。信号検出制御回路36は、電子検出器24の出力(検出信号)を収集し処理する。また、信号検出制御回路36は、ビーム電流検出器26がビーム電流を検出して得られる検出信号を取得(観測)するためにも用いられる。信号検出制御回路36の詳細については後述する。
【0041】
データ制御部38は、制御部40からの描画データを受けて、ブランキング制御回路30、レンズ制御回路32、および偏向信号制御回路34を制御する。また、データ制御部38は、信号検出制御回路36で収集および処理された検出信号を、制御部40に送る処理を行う。データ制御部38の機能は、例えば、専用回路によって実現することができる。
【0042】
制御部40は、電子ビーム描画装置100の全体の動作を制御するコンピューターである。また、制御部40は、後述するように、偏向信号制御回路34の制御動作の異常を検
出する異常検出部(偏向信号制御回路34の制御動作の評価を行う評価部)としても機能する。
【0043】
制御部40の機能は、例えば、プロセッサ(CPU(Central Processing Unit)等)がROM(Read Only Memory)やRAM(Random access Memory)などの記憶装置(図示せず)に記憶されているプログラムを実行することにより実現できる。
【0044】
次に、電子ビーム描画装置100が試料Sにパターンを描画する際の動作について説明する。
【0045】
電子ビーム描画装置100では、電子源10から放出された電子ビームは、電子レンズ14および電子レンズ20によって試料S上に収束される。ここで、描画データ(パターンデータ)が制御部40の記憶装置に格納されると、格納された描画データはデータ制御部38で処理されて、ブランキング制御回路30、レンズ制御回路32、および偏向信号制御回路34に送られる。電子ビームは、ブランキング偏向器12でオン、オフされ、ビーム偏向器18で試料S上の所定の位置に偏向される。この電子ビームの動きと、ステージ22の動きと、を組み合わせることで、描画データに基づくパターンを描画することができる。ステージ22は、例えば、制御部40で制御される。
【0046】
なお、電子ビーム描画装置100は、可変成形ビーム方式の電子ビーム描画装置であってもよい。すなわち、電子ビーム描画装置100は、電子ビームの断面形状を矩形にし、その大きさを可変にする複数のスリット(図示せず)を備えていてもよい。このような電子ビーム描画装置100では、描画パターンを矩形に分割し、分割されたパターンにあわせて大きさの調整された矩形の電子ビームを用いて、パターンの描画を行うことができる。
【0047】
1.2. 異常検出方法
次に、第1実施形態に係る異常検出方法について説明する。ここでは、電子ビーム描画装置100において、電子ビームを偏向させる際の制御動作の異常を検出する場合について説明する。
【0048】
第1実施形態に係る異常検出方法は、電子ビームが第1位置から第2位置に移動するように偏向信号制御回路34がビーム偏向器18を制御する制御動作を行ったときの過渡応答を観測し、偏向信号制御回路34の制御動作の評価を行う工程を含み、過渡応答は、電子信号を電子検出器24で検出して検出信号を取得することで観測する。
【0049】
第1実施形態に係る異常検出方法では、偏向信号制御回路34に所定の入力(電子ビームを第1位置から第2位置に移動させる制御信号、ステップ入力)を与えたときの出力(ステップ応答)を観測して、偏向信号制御回路34の異常を検出する。
【0050】
図2は、偏向信号制御回路34の構成を示す図である。
【0051】
偏向信号制御回路34は、図2に示すように、D/A変換部341と、出力アンプ342と、モニタアンプ343と、A/D変換部344と、を含んで構成されている。データ制御部38の出力(制御信号)は、D/A変換部341によりD/A変換(デジタルアナログ変換)され、出力アンプ342から出力される。モニタアンプ343およびA/D変換部344により、偏向信号制御回路34(出力アンプ342)の出力(出力信号)を観測することができる。
【0052】
例えば、出力アンプ342を構成するトランジスタ等の素子の性能が劣化した場合、偏向信号制御回路34の出力信号にリンギングなどの歪みが発生する場合がある(図46参照)。このような出力アンプ342の性能劣化に伴う出力の異常は、変動が小さく、かつ、高速である。そのため、モニタアンプ343およびA/D変換部344による出力の観測では、確認が困難である。このような出力の高速変動を観測できる回路等を追加することも考えられるが、制御動作への応答負荷の影響や、回路規模の増大により故障率が増加して信頼性が低下するという問題がある。
【0053】
そのため、第1実施形態に係る異常検出方法では、電子ビームが第1位置から第2位置に移動するように偏向信号制御回路34がビーム偏向器18を制御する制御動作を行ったときの過渡応答を観測することで、偏向信号制御回路34の制御動作(出力)の異常を検出する。過渡応答は、信号検出制御回路36で検出信号を取得することで行われる。
【0054】
図3は、信号検出制御回路36の構成を示す図である。
【0055】
信号検出制御回路36は、図3に示すように、初段アンプ361と、信号切り替え部362と、増幅アンプ363と、ゲイン切り替え部364と、A/D変換部365と、レベル・ゲイン制御部366と、タイミング調整部367と、を含んで構成されている。
【0056】
信号検出制御回路36では、電子検出器24による検出信号およびビーム電流検出器26による検出信号のいずれかを信号切り替え部362にて選択する。選択された検出信号は、ゲイン切り替え部364により信号ゲインが調整された増幅アンプ363で増幅され、A/D変換部365にてA/D変換(アナログデジタル変換)される。これにより、検出信号を取得(観測)することができる。検出信号を取得(観測)する時間やタイミングは、タイミング調整部367により制御される。また、信号ゲインの制御は、レベル・ゲイン制御部366で行われる。
【0057】
図4は、第1実施形態に係る異常検出方法の一例を示すフローチャートである。図5は、第1実施形態に係る異常検出方法を説明するための図である。
【0058】
(1)異常検出条件の設定(S100)
まず、異常を検出するための条件を設定する。具体的には、マーク2の位置合わせ、電子ビームEBを移動させる際の開始位置A(第1位置の一例)および静止位置B(第2位置の一例)の設定、検出信号を観測する時間およびタイミングの設定などを行う。設定された条件は、制御部40の記憶装置に記憶される。
【0059】
まず、図5に示すマーク2について説明する。マーク2は、異常を検出するための測定対象物となる。マーク2は、ステージ22上に配置される。マーク2は、図5に示すように、基板3に設けられ、基板3とともにステージ22上に配置される。なお、マーク2が、ステージ22(または試料ホルダー)上に直接設けられていてもよい。マーク2は、平面視で、直線状である。例えば、直線状のマーク2が複数設けられ、X方向に並ぶ複数のマーク2とY方向に並ぶ複数のマーク2とが互いに直交するように配置されてもよい。
【0060】
マーク2は、例えば、重金属で構成されている。基板3は、例えば、半導体基板で構成されている。マーク2の断面形状は、図示の例では、台形であるが、その形状は特に限定されない。基板3上にマーク2が配置されることで、マーク2の外の領域(基板3の上面で構成されている領域)2a(第1領域の一例)、マーク2の上面で構成されている領域2b(第2領域の一例)、およびマーク2のエッジ部分(傾斜面)で構成されている領域2c(第3領域の一例)が形成される。領域2cは、領域2aと領域2bとの間に位置している。領域2cと領域2aと接しており、領域2cと領域2bとは接している。このよ
うに、第1実施形態では、測定対象物は、マーク2と基板3とで構成されており、領域2a、領域2b、および領域2cを有している。
【0061】
マーク2は、重金属で構成されているため、電子ビームEBを同じ照射条件で照射した場合、領域2bおよび領域2cでは、マーク2の外の領域2aよりも多くの電子信号が放出される。そのため、領域2bおよび領域2cでは、領域2aよりも検出信号の強度が大きくなる。また、領域2bと領域2cとでは、面が向く方向が異なるため、反射電子が放出される方向が異なる。そのため、例えば、電子信号としての反射電子を検出する場合、電子ビームEBが同じ照射条件で照射されても、領域2bと領域2cとでは、検出信号の強度に差が生じる。ここでは、電子ビームEBを同じ照射条件で照射した場合、領域2bでは、領域2cよりも検出信号の強度が大きくなるものとする。
【0062】
したがって、電子ビームEBを同じ照射条件で照射した場合に、領域2aで観測される検出信号の強度をIaとし、領域2bで観測される検出信号の強度をIbとし、領域2cで観測される検出信号の強度をIcとした場合に、
Ia<Ic<Ib
の関係を満たす。
【0063】
なお、上記では、領域2aの材質と、領域2bおよび領域2cの材質と、を異ならせ、かつ、領域2bの表面形状と領域2cの表面形状とを異ならせることで、Ia<Ic<Ibの関係を満たす場合について説明したが、測定対象物は、上記の関係を満たしていればその表面形状および材質は特に限定されない。例えば、領域2aの材質、領域2bの材質、領域2cの材質を互いに異ならせることで、上記の関係を満たすようにしてもよいし、領域2aの表面形状、領域2bの表面形状、領域2cの表面形状を互いに異ならせることで、上記の関係を満たすようにしてもよい。また、各領域の表面形状と材質の組み合わせにより、上記の関係を満たすようにしてもよい。
【0064】
次に、電子ビームEBを移動させる際の開始位置Aおよび静止位置Bの設定について説明する。
【0065】
開始位置Aは領域2a内に設定され、静止位置Bは領域2c内に設定される。また、電子ビームEBは静止位置Bで所定時間静止するように設定される。具体的には、電子ビームEBが開始位置Aから静止位置Bまで移動し、静止位置Bで、所定時間、静止するように偏向信号制御回路34がビーム偏向器18を制御する制御動作が行われるように設定される。この設定は、例えば、制御部40の記憶装置に制御データを格納することで行われる。電子ビームEBが静止位置Bで静止する時間(所定時間)は、例えば、検出対象となる異常の種類に応じて適宜設定される。
【0066】
静止位置Bを領域2c内とすることにより、偏向信号制御回路34の出力信号の波形に生じた僅かな歪み(リンギング等)の影響が検出信号の波形に現れる。
【0067】
図6は、偏向信号制御回路34の出力信号の波形に歪みが生じている場合の電子ビームEBの動きを示す図である。
【0068】
図6に示すように、偏向信号制御回路34の出力信号にリンギングによる僅かな歪み(図46参照)が生じている場合、その出力信号を受けたビーム偏向器18の動作により、電子ビームEBは静止位置Bで静止せずに、僅かに移動(振動)する。この電子ビームEBの移動(振動)により、電子ビームEBの照射領域は領域2cと領域2aと含む領域となったり、領域2cと領域2bとを含む領域となったりする。この結果、検出信号の強度が変化するため、偏向信号制御回路34の出力信号の波形に生じる僅かな歪みの影響が検
出信号の波形に現れる。
【0069】
開始位置Aは、マーク2の外の領域である領域2a内であれば特に限定されない。そのため、動作確認を行いたい偏向距離や、出力信号の波形の振幅値に合わせて、開始位置Aの位置を設定することで、所望の偏向条件での異常の検出が可能である。
【0070】
静止位置Bは、マーク2のエッジ部分である領域2c内であるため、領域2cと、電子ビームの偏向を確認したい位置と、がずれる場合には、ステージの移動や、他のビーム偏向器(図示せず)で位置の調整を行う。
【0071】
(2)開始位置Aへの電子ビームの偏向(S102)
次に、偏向信号制御回路34が、電子ビームが開始位置Aに移動するようにビーム偏向器18を制御する制御動作を行う。これにより、電子ビームが開始位置Aに偏向される。偏向信号制御回路34は、制御データに基づくデータ制御部38の出力を受けて制御動作を行う。後述する偏向信号制御回路34の制御動作(S106、S108)についても同様である。
【0072】
(3)観測開始(S104)
次に、検出信号の観測(取得)を開始する。検出信号は、上述したように、信号検出制御回路36を用いて取得される。
【0073】
(4)静止位置Bへの電子ビームの偏向(S106)
次に、偏向信号制御回路34が、電子ビームが開始位置Aから静止位置Bに移動するようにビーム偏向器18を制御する制御動作を行う。開始位置Aから静止位置Bへの電子ビームの移動は、電子ビームがオンの状態で行われる。
【0074】
(5)静止位置Bでの電子ビームの静止(S108)
次に、偏向信号制御回路34が、電子ビームが静止位置Bで所定時間静止するようにビーム偏向器18を制御する制御動作を行う。
【0075】
(6)観測終了(S110)
電子ビームが静止位置Bで所定時間静止するようにビーム偏向器18を制御する制御動作を行った後、検出信号の取得(観測)を終了する。以上の処理により、電子ビームが開始位置Aから静止位置Bに移動する前から、静止位置Bで静止して所定時間経過するまでの検出信号を観測(連続観測)することができる。
【0076】
信号検出制御回路36を用いて取得された検出信号は、制御部40で処理される。これにより、電子ビームが開始位置Aから静止位置Bに移動する前から、静止位置Bで静止して所定時間経過するまでの検出信号の時間変化を示す波形(検出信号の波形)が生成される。この検出信号の波形は、例えば、制御部40の表示部(図示せず)に表示され、記憶装置に記憶される。
【0077】
(7)異常の検出(S112)
次に、検出信号の波形から、偏向信号制御回路34の制御動作の異常を検出する。
【0078】
図7図9は、電子ビームが開始位置Aから静止位置Bに移動する前から、静止位置Bで静止して所定時間経過するまでの検出信号の波形を示すグラフである。図7および図8は、偏向信号制御回路34の出力信号の波形に異常がある場合に観測される検出信号の波形を示すグラフである。図9は、偏向信号制御回路34の出力信号の波形が正常である場合に観測される検出信号の波形を示すグラフである。
【0079】
なお、図7図9に示すグラフにおいて、横軸は時間tを示し、縦軸は検出信号の強度Iを示している。また、図7図9において、強度Iaは電子ビームを領域2aに照射したときに観測される検出信号の強度である。また、強度Ibは電子ビームを領域2bに照射したときに観測される検出信号の強度である。また、強度Icは電子ビームを領域2cに照射したときに観測される検出信号の強度である。
【0080】
図7および図8に示すように、偏向信号制御回路34の出力信号の波形(入力波形)に異常がある場合、検出信号の波形(応答波形)が変化する。そのため、上述した測定で観測された検出信号の波形を、図9に示す正常時の検出信号の波形と比較することで、偏向信号制御回路34の制御動作(出力信号)の異常を検出することができる。
【0081】
具体的には、図7に示す検出信号の波形は、偏向信号制御回路34の出力信号の波形に図46に示すようなリンギングが発生した場合に観測される。例えば、検出信号を観測する間隔がリンギングの周期よりも小さいと、検出信号の波形には、図46に示す出力信号の波形と同様の波形が観測される。また、検出信号を観測する間隔がリンギングの周期よりも大きいと、検出信号の波形には、出力信号のリンギングによる波形が積分されて現れる。そのため、図7に示す検出信号の波形には、立ち上がりにピークが観測される。このように、図7に示す検出信号の波形から、偏向信号制御回路34の出力信号にリンギングが発生していることがわかる。
【0082】
図8に示す検出信号の波形は、偏向信号制御回路34の応答時間に遅れがある場合に観測される。図8に示す検出信号の波形は、応答時間の遅れにより、図9に示す正常時の検出信号の波形と比べて、検出信号の強度が強度Icに達するまでの時間に遅れがでている。このように、図8に示す検出信号の波形から、応答時間に遅れがあることがわかる。
【0083】
制御部40は、電子ビームを開始位置Aから静止位置Bに移動させる制御動作を行ったときの検出信号に基づいて、当該制御動作時の過渡応答を観測し、偏向信号制御回路34の制御動作の異常を検出する。具体的には、制御部40は、取得した検出信号の波形を、正常時の検出信号の波形と比較して、偏向信号制御回路34の制御動作の異常を検出する処理を行う。なお、異常の検出は、ユーザーが検出信号の波形を、正常時の検出信号の波形と比較することで行ってもよい。
【0084】
第1実施形態に係る異常検出方法は、例えば、以下の特徴を有する。
【0085】
第1実施形態に係る異常検出方法は、電子ビームが開始位置Aから静止位置Bに移動するように偏向信号制御回路34がビーム偏向器18を制御する制御動作を行ったときの過渡応答を観測し、偏向信号制御回路34の制御動作の評価を行う工程を含み、過渡応答は、電子信号を電子検出器24で検出して検出信号を取得することで観測する。そのため、第1実施形態に係る異常検出方法によれば、偏向信号制御回路34の出力信号の波形の僅かな歪みを、検出信号の波形から観測することができる。したがって、第1実施形態に係る異常検出方法によれば、偏向信号制御回路34の制御動作の異常を精度よく検出することができる。さらに、第1実施形態に係る異常検出方法によれば、簡易な構成で、異常検出が可能である。
【0086】
第1実施形態に係る異常検出方法では、制御動作の評価を行う工程において、電子ビームが開始位置Aに位置している状態から電子ビームが静止位置Bに移動して所定時間経過するまでの検出信号を観測し、検出信号の時間変化に基づいて、制御動作の評価を行う。したがって、第1実施形態に係る異常検出方法によれば、制御動作の異常を精度よく検出することができる。
【0087】
第1実施形態に係る異常検出方法では、マーク2と基板3とを含む測定対象物は、領域2aと、領域2bと、領域2aと領域2bとの間に位置している領域2cと、を有している。また、電子ビームを同じ照射条件で照射したときに、領域2aで観測される検出信号の強度をIaとし、領域2bで観測される検出信号の強度をIbとし、領域2cで観測される検出信号の強度をIcとした場合に、Ia<Ic<Ibの関係を有している。また、静止位置Bは、領域2cである。そのため、第1実施形態では、偏向信号制御回路34の出力信号の波形に生じるリンギングなどの僅かな歪みを検出信号の波形の変化として観測することができる。
【0088】
第1実施形態に係る電子ビーム描画装置100では、電子源10と、電子源10から放出された電子ビームを偏向させるビーム偏向器18と、電子ビームが測定対象物に照射されることにより発生する電子信号を検出する電子検出器24と、ビーム偏向器18を制御する偏向信号制御回路34と、電子信号を電子検出器24で検出して得られる検出信号を取得する信号検出制御回路36と、電子ビームが開始位置Aから静止位置Bに移動するように偏向信号制御回路34がビーム偏向器18を制御する制御動作を行ったときの検出信号に基づいて、当該制御動作時の過渡応答を観測し、偏向信号制御回路34の制御動作の評価を行う制御部40(評価部の一例)と、を含む。
【0089】
そのため、電子ビーム描画装置100では、偏向信号制御回路34の制御動作の異常を精度よく検出することができる。また、電子ビーム描画装置100では、検出条件の設定(ステップS100)を行うことで、ステップS102~ステップS112の処理を自動で行うことができる。そのため、電子ビーム描画装置100では、容易に、偏向信号制御回路34の制御動作の異常を検出することができる。
【0090】
また、電子ビーム描画装置100では、容易に、偏向信号制御回路34の制御動作の異常を検出することができるため、容易に、定期的に異常検出を行うことができる。したがって、ビーム制御動作の性能維持が可能である。
【0091】
また、電子ビーム描画装置100では、パターン描画前に偏向信号制御回路34の制御動作の評価を行うことで、電子ビームの制御動作の動作品質の維持が可能であり、高い描画精度を維持できる。
【0092】
なお、上述した実施形態では、図4に示すステップS100~S110の処理により観測された検出信号の波形から偏向信号制御回路34の制御動作の異常を検出する場合について説明したが、図4に示すステップS100~S110の処理により観測された検出信号の波形から、電子ビームを制御するビーム制御系の評価も可能である。例えば、検出信号の波形から偏向信号制御回路34のセトリング時間や、ビーム応答遅れなどの評価も可能である。
【0093】
セトリング時間は、偏向信号制御回路34に制御信号が入力されてから、出力が設定された値に落ち着くまでの時間である。
【0094】
電子ビーム描画装置100では、ある位置に電子ビームを照射した後に、次の位置に電子ビームを照射する場合、電子ビームを移動させている間は電子ビームがブランキングされる。電子ビームがブランキングされる時間は、電子ビームの移動距離が小さい場合(電子ビームの偏向量が小さい場合)には短く設定され、電子ビームの移動距離が大きい場合(電子ビームの偏向量が大きい場合)には長く設定される。
【0095】
電子ビームがブランキングされる時間は、セトリング時間に、所定の待ち時間が加えら
れた時間である。この待ち時間を短くすることで、描画性能は落ちてしまうが短時間で描画することが可能になる。また、待ち時間を長くすることで、描画性能を向上できるが描画に時間がかかってしまう(電子ビームの応答遅れ)。ステップS100~ステップS110の処理で観測される検出信号の波形から、偏向距離に応じたセトリング時間や、電子ビームがブランキングされる時間を計測することができる。そのため、例えば、待ち時間が適切か否かを評価することができる。
【0096】
偏向器の偏向方向や電極数が異なる場合でも、検出条件の設定(ステップS100)を変更することにより待ち時間の評価が可能である。例えば、電子ビームの偏向方向に対してマーク2の位置を移動させることで、任意の開始点および偏向距離に応じた、待ち時間の評価が可能である。また、例えば、既知の幅のマーク2上を予め較正されたビームサイズにて走査して得られる検出信号の波形(ゲイン強度)から、異常が発生した場合の影響評価が可能である。
【0097】
このように、第1実施形態に係る異常検出方法は、偏向信号制御回路34の制御動作の異常を検出する場合に限定されず、偏向信号制御回路34の制御動作全般を評価するための評価方法として用いることができる。
【0098】
また、上記の異常検出方法において、ビーム偏向器18の偏向極性や、電子ビームの偏向方向に応じてマーク2を準備することにより、任意の偏向極性や任意の偏向方向における制御動作の異常を検出することができる。例えば、電子ビームの偏向方向がY方向の場合、X方向に直線状に形成されているマーク2を用いることで、検出感度の向上が可能である。すなわち、電子ビームの偏向方向に対して90度または90度に近い角度に直線状に形成されたマーク2を用いることで、検出感度の向上が可能である。これにより、より精度の高い異常検出が可能である。
【0099】
1.3. 変形例
次に、第1実施形態に係る異常検出方法の変形例について説明する。図10は、第1実施形態に係る異常検出方法の変形例を示すフローチャートである。以下では、上述した第1実施形態に係る異常検出方法の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0100】
本変形例では、電子ビームが開始位置Aから静止位置Bに移動して静止し、所定時間経過するまでの検出信号を観測する処理が繰り返し行われる。すなわち、本変形例では、図10に示すように、ステップS102~ステップS110の処理があらかじめ設定された回数だけ繰り返し行われる。繰り返し回数は、例えば、要求される検出精度に応じて適宜設定される。
【0101】
具体的には、制御部40は、検出信号の観測を終了する処理を行った後(ステップS110の後)、ステップS102からステップS110の処理があらかじめ設定された回数だけ繰り返されたか否かを判定する(S111)。制御部40が設定された回数だけ繰り返されていないと判定した場合(S111のNo)、ステップS102に戻って、ステップS102~ステップS110の処理が行われる。制御部40が設定された回数だけ繰り返されたと判定した場合(S111のYes)、異常を検出する処理が行われる(S112)。
【0102】
このように、本変形例では、電子ビームが開始位置Aから静止位置Bに移動して静止し、所定時間経過するまでの検出信号を観測する処理が繰り返し行われるため、信号検出制御回路36の初期変動や、検出バラツキの影響を軽減できる。したがって、検出精度を向上できる。
【0103】
2. 第2実施形態
2.1. 電子ビーム描画装置
第2実施形態に係る電子ビーム描画装置の構成は、図1に示す第1実施形態に係る電子ビーム描画装置の構成と同じであり、図示およびその説明を省略する。
【0104】
2.2. 異常検出方法
次に、第2実施形態に係る異常検出方法について説明する。以下では、上述した第1実施形態に係る異常検出方法の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0105】
上述した第1実施形態に係る異常検出方法では、電子ビームが開始位置Aから静止位置Bに移動して所定時間経過するまでの検出信号を観測(連続観測)していた。
【0106】
これに対して、第2実施形態に係る異常検出方法では、電子ビームが開始位置Aから静止位置Bに移動するように偏向信号制御回路34がビーム偏向器18を制御する制御動作を複数回行い、複数回の制御動作において、検出信号を取得するタイミングを異ならせる。
【0107】
図11は、第2実施形態に係る異常検出方法の一例を示すフローチャートである。図12は、第2実施形態に係る異常検出方法を説明するための図である。
【0108】
(1)異常検出条件の設定(S200)
まず、異常を検出するための条件を設定する。第2実施形態では、制御動作を繰り返すごとに、すなわち、検出信号を観測(取得)する処理を繰り返すごとに、検出信号を観測するタイミングを異ならせる。そのため、検出信号を観測するタイミングを繰り返し回数ごとに設定する。検出信号を観測するタイミングは、例えば、検出対象となる異常の種類に応じて適宜設定される。
【0109】
例えば、偏向信号制御回路34が、電子ビームが開始位置Aから静止位置Bに移動するようにビーム偏向器18を制御する制御動作を行ったときを基準時とすると、1回目の検出信号を観測するタイミングは、基準時に設定する。2回目の検出信号を観測するタイミングは、基準時から0.1秒後に設定し、3回目の検出信号を観測するタイミングは基準時から0.2秒後に設定し、・・・、n回目の検出信号を観測するタイミングは、基準時から(n-1)/10秒後に設定する。
【0110】
その他の条件の設定は、図4に示すステップS100の処理と同様に行われる。
【0111】
(2)開始位置Aへの電子ビームの偏向(S202)
次に、偏向信号制御回路34が、電子ビームが開始位置Aに移動するようにビーム偏向器18を制御する制御動作を行う。この処理は、図4に示すステップS102と同様に行われる。
【0112】
(3)静止位置Bへの電子ビームの偏向(S204)
次に、偏向信号制御回路34が、電子ビームが開始位置Aから静止位置Bに移動するようにビーム偏向器18を制御する制御動作を行う。この処理は、図4に示すステップS106と同様に行われる。
【0113】
(4)静止位置Bでの電子ビームの静止(S206)
次に、偏向信号制御回路34が、電子ビームが静止位置Bで所定時間静止するようにビ
ーム偏向器18を制御する制御動作を行う。この処理は、図4に示すステップS108と同様に行われる。
【0114】
(5)観測(S208)
次に、偏向信号制御回路34が、あらかじめ設定されたタイミングで検出信号を観測する。検出信号は、上述したように、信号検出制御回路36を用いて観測(取得)される。検出信号を観測するタイミングは、図3に示すタイミング調整部367で制御される。
【0115】
(6)繰り返し(S210)
制御部40は、ステップS202からステップS208の処理があらかじめ設定された回数だけ繰り返されたか否かを判定する。
【0116】
(7)観測するタイミングの変更(S212)
制御部40は、設定された回数だけ繰り返されていないと判定した場合(S210のNo)、検出信号を観測するタイミングを変更する。例えば、1回目の検出信号の観測が行われた後、2回目の検出信号の観測が行われる場合、制御部40は、検出信号を観測するタイミングが基準時から0.1秒後となるように、信号検出制御回路36(タイミング調整部367)を制御する。
【0117】
制御部40は、検出信号を観測する処理(S202~S208)が設定された回数だけ繰り返されるまで、検出信号を観測(取得)する処理を行うごとに、検出信号を観測するタイミングを変更しながら(S212)、検出信号を観測する処理を繰り返す。
【0118】
(8)異常の検出(S214)
制御部40は、設定された回数だけ繰り返されたと判定した場合(S210のYes)、異常を検出する処理を行う。
【0119】
図13および図14は、電子信号を検出して検出信号を観測する処理を複数回行い、複数回行われた検出信号を観測する処理の各々において、検出信号を観測するタイミングを異ならせて観測された検出信号の波形を示すグラフである。図13は、偏向信号制御回路34の出力信号の波形に異常がある場合に観測される検出信号の波形を示すグラフである。図14は、偏向信号制御回路34の出力信号の波形が正常である場合に観測される検出信号の波形を示すグラフである。
【0120】
図13に示すように、偏向信号制御回路34の出力信号の波形に異常がある場合、検出信号の波形が変化する。そのため、観測された検出信号の波形を、図14に示す正常時の検出信号の波形と比較することで、偏向信号制御回路34の制御動作(出力信号)の異常を検出することができる。
【0121】
具体的には、図13に示す検出信号の波形は、偏向信号制御回路34の出力信号の波形に図46に示すようなリンギングが発生した場合に観測される。リンギングが発生した場合、検出信号を観測する間隔がリンギングの周期よりも小さいと、検出信号の波形には、図46に示す出力信号の波形と同様の波形が観測される。検出信号を観測する間隔が、リンギングの周期よりも大きいと、図13に示すような出力信号のリンギングによる波形が積分される。
【0122】
図13に示す検出信号の波形では、リンギングによる出力信号の波形の歪みの持続時間(リンギング時間T)が、検出信号の強度変化として観測される。このように、図13に示す検出信号の波形から、偏向信号制御回路34の出力信号の波形の歪みの持続時間(リンギング時間T)がわかる。
【0123】
第2実施形態に係る異常検出方法よれば、上述した第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。さらに、第2実施形態に係る異常検出方法によれば、制御動作を複数回行い、複数回の制御動作において、検出信号を取得するタイミングは異なるため、例えば、制御動作の異常が持続している時間を測定することができる。
【0124】
なお、第2実施形態に係る異常検出方法を用いることで、第1実施形態と同様に、セトリング時間やビーム応答遅れなどの評価も可能である。
【0125】
2.3. 変形例
次に、第2実施形態に係る異常検出方法の変形例について説明する。上述した第2実施形態では、制御動作を複数回行い、複数回の制御動作において、検出信号を取得するタイミングを異ならせていたが、複数回の制御動作において、電子ビームを照射するタイミングを異ならせてもよい。このとき、信号検出制御回路36では、検出信号を連続して検出してもよい。電子ビームを照射するタイミングを異ならせることにより、検出信号を観測するタイミングを異ならせる場合と同様の検出信号の波形を観測(取得)することができる。したがって、本変形例によれば、上述した第2実施形態に係る異常検出方法と同様の作用効果を奏することができる。
【0126】
3. 第3実施形態
3.1. 電子ビーム描画装置
第3実施形態に係る電子ビーム描画装置の構成は、図1に示す第1実施形態に係る電子ビーム描画装置の構成と同じであり、図示およびその説明を省略する。
【0127】
3.2. 異常検出方法
次に、第3実施形態に係る異常検出方法について説明する。以下では、上述した第1実施形態に係る異常検出方法および第2実施形態に係る異常検出方法の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0128】
上述した第2実施形態に係る異常検出方法では、制御動作を複数回行い、複数回の制御動作において、検出信号を取得するタイミングを異ならせていた。
【0129】
これに対して、第3実施形態に係る異常検出方法では、制御動作を複数回行い、複数回の制御動作において、検出信号を観測するタイミングを同じとする。
【0130】
図15は、第3実施形態に係る異常検出方法の一例を示すフローチャートである。ここでは、第3実施形態に係る異常検出方法を、図1および図12を参照しながら説明する。以下では、上述した第1実施形態に係る異常検出方法の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0131】
(1)異常検出条件の設定(S300)
まず、異常を検出するための条件を設定する。第3実施形態では、検出信号を観測する処理を繰り返すごとに、同じタイミングで検出信号を観測する。そのため、検出信号を観測するタイミングを設定する。検出信号を観測するタイミングは、例えば、検出対象となる異常の種類に応じて適宜設定される。その他の条件の設定は、図4に示すステップS100の処理と同様に行われる。
【0132】
(2)開始位置Aへの電子ビームの偏向(S302)
次に、偏向信号制御回路34が、電子ビームが開始位置Aに移動するようにビーム偏向器18を制御する制御動作を行う。この処理は、図4に示すステップS102と同様に行
われる。
【0133】
(3)静止位置Bへの電子ビームの偏向(S304)
次に、偏向信号制御回路34が、電子ビームが開始位置Aから静止位置Bに移動するようにビーム偏向器18を制御する制御動作を行う。この処理は、図4に示すステップS106と同様に行われる。
【0134】
(4)静止位置Bでの電子ビームの静止(S306)
次に、偏向信号制御回路34が、電子ビームが静止位置Bで所定時間静止するようにビーム偏向器18を制御する制御動作を行う。この処理は、図4に示すステップS108と同様に行われる。
【0135】
(5)観測(S308)
次に、偏向信号制御回路34が、電子ビームが開始位置Aから静止位置Bに移動するようにビーム偏向器18を制御する制御動作を行ったときを基準時として、あらかじめ設定されたタイミングで検出信号を観測(取得)する。
【0136】
(6)繰り返し(S310)
制御部40は、ステップS302からステップS308の処理があらかじめ設定された回数だけ繰り返されたか否かを判定する。制御部40が設定された回数だけ繰り返されていないと判定した場合(S310のNo)、ステップS302に戻って、ステップS302~ステップS310の処理が行われる。
【0137】
(7)異常の検出(S312)
制御部40は、設定された回数だけ繰り返されたと判定した場合(S310のYes)、異常を検出する処理を行う。
【0138】
図16および図17は、複数回の制御動作において、検出信号を観測するタイミングを同じにして観測された検出信号の波形を示すグラフである。図16は、偏向信号制御回路34の出力信号の波形に異常がある場合に観測される検出信号の波形を示すグラフである。図17は、偏向信号制御回路34の出力信号の波形が正常である場合に観測される検出信号の波形を示すグラフである。図16および図17に示すグラフにおいて、横軸は繰り返し回数nを示し、縦軸は検出信号の強度Iを示している。
【0139】
図16に示すように、偏向信号制御回路34の出力信号の波形に異常がある場合、検出信号の波形が変化する。そのため、観測された検出信号の波形を、図17に示す正常時の検出信号の波形と比較することで、偏向信号制御回路34の制御動作(出力信号)の異常を検出することができる。
【0140】
具体的には、図16に示す検出信号の波形は、偏向信号制御回路34の出力信号の波形に図46に示すようなリンギングが発生した場合に観測される。図16に示す検出信号の波形では、図17に示す正常時の検出信号の信号強度(信号レベル)と比べて、出力信号にリンギングが発生した分だけ、信号強度が大きくなっている。したがって、第3実施形態では、観測された検出信号の信号強度(信号レベル)を、正常時の検出信号の信号強度(信号レベル)と比較することで、偏向信号制御回路34の制御動作の異常を検出することができる。
【0141】
また、第3実施形態では、検出信号を取得する処理が繰り返されることにより、信号検出制御回路36の初期変動や、検出バラツキの影響を軽減できる。したがって、検出精度を向上できる。
【0142】
第3実施形態に係る異常検出方法よれば、上述した第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。さらに、第3実施形態に係る異常検出方法によれば、制御動作を複数回行い、複数回の制御動作において、検出信号を観測するタイミングが同じであるため、検出信号の信号強度を、正常時の検出信号の信号強度と比較することで、異常を検出することができる。したがって、異常を検出するための複雑な信号処理回路が不要であり、偏向信号制御回路34の制御動作の異常を簡易的に検出する際に有効である。
【0143】
なお、第3実施形態に係る異常検出方法を用いることで、第1実施形態と同様に、セトリング時間やビーム応答遅れなどの評価も可能である。
【0144】
3.3. 変形例
次に、第3実施形態に係る異常検出方法の変形例について説明する。上述した第3実施形態では、制御動作を複数回行い、複数回の制御動作において、検出信号を観測するタイミングを同じにしていたが、複数回の制御動作において、電子ビームを照射するタイミングを同じにしてもよい。このとき、信号検出制御回路36では、検出信号を連続して検出してもよい。電子ビームを照射するタイミングを同じにすることにより、検出信号を観測するタイミングを同じにする場合と同様の検出信号の波形を観測することができる。したがって、本変形例によれば、上述した第3実施形態に係る異常検出方法と同様の作用効果を奏することができる。
【0145】
4. 第4実施形態
4.1. 電子ビーム描画装置
第4実施形態に係る電子ビーム描画装置の構成は、図1に示す第1実施形態に係る電子ビーム描画装置の構成と同じであり、図示およびその説明を省略する。
【0146】
4.2. 異常検出方法
上述した第1~第3実施形態では、静止位置Bは、領域2cに設定されていた。そのため、上述した実施形態では、偏向信号制御回路34の出力信号にリンギングなどの僅かな歪みが生じた場合に、この僅かな歪みを検出信号の波形の変化として観測することができた。
【0147】
これに対して、第4実施形態では、測定対象物は、電子ビームを同じ照射条件で照射した場合に観測される検出信号の強度が異なる2つの領域を有し、電子ビームが2つの領域の境界に静止するように制御する。すなわち、静止位置Bは、2つの領域の境界に設定される。
【0148】
図18は、第4実施形態に係る異常検出方法の一例を説明するための図である。以下では、上述した第1~第3実施形態に係る異常検出方法の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0149】
測定対象物4は、図18に示すように、領域4aと領域4bとを有している。領域4aと領域4bとは、電子ビームEBの照射による電子信号の発生効率が異なる材料で構成されている。そのため、領域4aと領域4bとは、電子ビームを同じ照射条件で照射した場合に観測される検出信号の強度が異なる。
【0150】
第4実施形態では、静止位置Bは、領域4aと領域4bとの境界に設定される。すなわち、電子ビームを静止位置Bに静止させたときの電子ビームの照射領域は、領域4aと領域4bとの境界を含む。この結果、静止位置Bを領域2c(図5参照)に設定した場合と同様に、偏向信号制御回路34の出力信号の波形に生じる僅かな歪み(リンギング等)の
影響が検出信号の波形に現れる。
【0151】
なお、上記では、領域4aの材質と領域4bの材質とを異ならせることで、電子ビームを同じ照射条件で照射した場合に観測される検出信号の強度を異ならせていたが、例えば、領域4aの表面形状と領域4bの表面形状とを異ならせることで、電子ビームを同じ照射条件で照射した場合に観測される検出信号の強度を異ならせてもよい。
【0152】
第4実施形態では、上述した第1~第3実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0153】
5. 第5実施形態
5.1. 電子ビーム描画装置
第5実施形態に係る電子ビーム描画装置の構成は、図1に示す第1実施形態に係る電子ビーム描画装置の構成と同じであり、図示およびその説明を省略する。
【0154】
5.2. 異常検出方法
上述した第1~第3実施形態では、電子ビームを測定対象物(マーク2)に照射することにより発生する電子信号(二次電子または反射電子)を電子検出器24で検出して検出信号を観測(取得)した。
【0155】
これに対して、第5実施形態では、電子ビームをビーム電流検出器26で検出して検出信号を観測(取得)する。
【0156】
図19は、第5実施形態に係る異常検出方法の一例を説明するための図である。以下では、上述した第1~第3実施形態に係る異常検出方法の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0157】
図19に示すように、電子ビームEBが任意の開始位置Aからナイフエッジ27の先端部(静止位置B)に移動して静止するように偏向信号制御回路34がビーム偏向器18を制御する制御動作を行ったときに、ナイフエッジ27に妨げられずにビーム電流検出器26(ファラデーカップ)に入射する電子ビーム(ビーム電流)をビーム電流検出器26で検出して検出信号を観測(取得)してもよい。この場合、ナイフエッジ27の先端が、図18に示す領域4aと領域4bとの境界に対応する。すなわち、ナイフエッジ27の先端が静止位置Bとなる。そのため、第5実施形態において観測される検出信号の波形にも、上述した他の実施形態と同様に、偏向信号制御回路34の出力信号の波形に生じる僅かな歪み(リンギング等)の影響が現れる。
【0158】
したがって、第5実施形態では、上述した第1~第3実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0159】
6. 第6実施形態
6.1. 電子ビーム描画装置
次に、第6実施形態に係る電子ビーム描画装置について図面を参照しながら説明する。図20は、第6実施形態に係る電子ビーム描画装置200の構成を示す図である。以下、第6実施形態に係る電子ビーム描画装置200において、第1実施形態に係る電子ビーム描画装置100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0160】
電子ビーム描画装置200は、図20に示すように、成形偏向器202と、第1アパーチャー204aと、第2アパーチャー204bと、成形偏向器202を制御する成形制御
回路230(成形偏向器制御装置の一例)と、を含む。
【0161】
電子ビーム描画装置200は、可変成形ビーム方式の電子ビーム描画装置である。電子ビーム描画装置200は、例えば、描画パターンを矩形に分割し、分割されたパターンにあわせて大きさの調整された矩形の電子ビームを用いて、パターンの描画を行うことができる。
【0162】
電子ビーム描画装置200では、成形偏向器202、第1アパーチャー204aおよび第2アパーチャー204bによって、電子ビームを成形して、ショット形状(試料Sに照射される電子ビームの断面形状)およびショットサイズ(試料Sに照射される電子ビームの断面積)を調整することができる。
【0163】
成形偏向器202は、電子ビームを二次元的に偏向させる。第1アパーチャー204aおよび第2アパーチャー204bの開口の形状は、例えば、矩形である。なお、第1アパーチャー204aおよび第2アパーチャー204bの開口の形状は特に限定されない。例えば、第1アパーチャー204aの開口の形状と、第2アパーチャー204bの開口の形状とは、異なっていてもよい。成形偏向器202によって電子ビームの進行方向を制御することにより、第2アパーチャー204b上での電子ビームの照射領域を制御することができる。これにより、電子ビームを成形することができる。
【0164】
成形制御回路230は、データ制御部38の出力を受けて成形偏向器202の制御を行う。成形偏向器202は、成形制御回路230の出力を受けて動作する。
【0165】
なお、図示の例では、2つのアパーチャー(第1アパーチャー204aおよび第2アパーチャー204b)によって電子ビームを成形しているが、電子ビームを成形するためのアパーチャーの数は特に限定されない。
【0166】
電子ビーム描画装置200では、データ制御部38は、制御部40からの描画データを受けて、ブランキング制御回路30、レンズ制御回路32、偏向信号制御回路34、および成形制御回路230を制御する。また、制御部40は、後述するように、成形制御回路230の制御動作の異常を検出する異常検出部(成形制御回路230の制御動作の評価を行う評価部)としても機能する。
【0167】
次に、電子ビーム描画装置200が試料Sにパターンを描画する際の動作について説明する。
【0168】
電子ビーム描画装置200では、電子源10から放出された電子ビームは、電子レンズ14および電子レンズ20によって試料S上に収束される。ここで、描画データ(パターンデータ)が制御部40の記憶装置に格納されると、格納された描画データはデータ制御部38で処理されて、ブランキング制御回路30、レンズ制御回路32、偏向信号制御回路34、および成形制御回路230に送られる。電子ビームは、成形偏向器202、第1アパーチャー204aおよび第2アパーチャー204bにより成形され、ブランキング偏向器12でオン、オフされ、ビーム偏向器18で試料S上の所定の位置に偏向される。この電子ビームの動きと、ステージ22の動きと、を組み合わせることで、描画データに基づくパターンを描画することができる。
【0169】
6.2. 異常検出方法
次に、第6実施形態に係る異常検出方法について説明する。以下では、上述した第1実施形態に係る異常検出方法の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0170】
上述した第1実施形態に係る異常検出方法では、偏向信号制御回路34の制御動作の異常を検出した。これに対して、第6実施形態に係る異常検出方法では、成形制御回路230の制御動作の異常を検出する。
【0171】
第6実施形態に係る異常検出方法は、電子ビームが第1断面積から第1断面積とは大きさの異なる第2断面積に変化するように成形制御回路230が成形偏向器202を制御する制御動作を行ったときの過渡応答を観測し、成形制御回路230の制御動作の評価を行う工程を含み、過渡応答は、電子信号を電子検出器24で検出して検出信号を取得することで観測する。
【0172】
成形制御回路230は、例えば、図2に示す偏向信号制御回路34と同様の構成を有している。そのため、成形制御回路230では、偏向信号制御回路34と同様に、例えば、出力アンプを構成するトランジスタ等の素子の性能が劣化した場合、出力信号にリンギングなどの歪みが発生する場合がある。
【0173】
そのため、第6実施形態に係る異常検出方法では、電子ビームが第1断面積から第1断面積とは大きさの異なる第2断面積に変化するように成形制御回路230が成形偏向器202を制御する制御動作を行ったときの過渡応答を観測し、成形制御回路230の制御動作(出力)の異常を検出する。
【0174】
図21は、第6実施形態に係る異常検出方法の一例を示すフローチャートである。図22および図23は、第6実施形態に係る異常検出方法を説明するための図である。なお、図22図23とは、電子ビームEBを見る方向が異なっている。
【0175】
(1)異常検出条件の設定(S300)
まず、異常を検出するための条件を設定する。具体的には、初期状態での電子ビームEBのショット形状(第1ショット形状S1)およびショット断面積(第1ショット面積A1)の設定、変化後の電子ビームEBのショット形状(第2ショット形状S2)およびショット断面積(第2ショット面積A2)の設定、検出信号を観測する時間およびタイミングの設定などを行う。設定された条件は、制御部40の記憶装置に記憶される。
【0176】
異常を検出するための測定対象物6は、電子ビームEBが照射されることで電子信号を発生させるものであれば特に限定されない。測定対象物6は、例えば、半導体ウエハ上に金属膜を成膜したものである。
【0177】
ここで、図23に示すように、初期状態において、電子ビームEBの形状(第1ショット形状S1)は、X方向の長さがY方向の長さよりも短く設定される。また、変化後の電子ビームEBの形状(第2ショット形状S2)は、Y方向の長さは初期状態と同じで、X方向の長さを変更した形状に設定される。この結果、電子ビームEBのX方向の変化に対して検出信号の変化を大きくできる。したがって、成形制御回路230における電子ビームEBのX方向の成形の評価を精度よく行うことができる。なお、Y方向の成形の評価を行う場合は、電子ビームEBのY方向の長さがX方向の長さよりも短い状態を初期状態とし、X方向の長さを固定してY方向の長さを変更すればよい。
【0178】
(2)電子ビームの成形(S302)
次に、成形制御回路230が、電子ビームEBが第1ショット形状S1および第1ショット面積A1となるように成形偏向器202を制御する制御動作を行う。これにより、電子ビームEBが第1ショット形状S1および第1ショット面積A1となる。成形制御回路230は、制御データに基づくデータ制御部38の出力を受けて制御動作を行う。後述す
る成形制御回路230の制御動作についても同様である。
【0179】
(3)観測開始(S304)
次に、検出信号の観測(取得)を開始する。検出信号は、信号検出制御回路36を用いて取得される。
【0180】
(4)電子ビームの成形(S306)
次に、成形制御回路230が、電子ビームEBが第1ショット形状S1および第1ショット面積A1から、第2ショット形状S2および第2ショット面積A2となるように成形偏向器202を制御する制御動作を行う。これにより、電子ビームEBが第2ショット形状S2および第2ショット面積A2となる。成形制御回路230は、電子ビームEBが第2ショット形状S2および第2ショット面積A2の状態で所定時間維持されるように、成形偏向器202を制御する。
【0181】
(5)観測終了(S308)
電子ビームEBが第1ショット形状S1および第1ショット面積A1から、第2ショット形状S2および第2ショット面積A2となるように成形偏向器202を制御する制御動作を行った後、検出信号の取得(観測)を終了する。以上の処理により、電子ビームが第1ショット形状S1および第1ショット面積A1から第2ショット形状S2および第2ショット面積A2に変化して所定時間経過するまでの検出信号を観測(連続観測)することができる。
【0182】
信号検出制御回路36を用いて取得された検出信号は、制御部40で処理される。これにより、電子ビームが第1ショット形状S1および第1ショット面積A1から第2ショット形状S2および第2ショット面積A2に変化して所定時間経過するまでの検出信号の時間変化を示す波形(検出信号の波形)が生成される。この検出信号の波形は、例えば、制御部40の表示部(図示せず)に表示され、記憶装置に記憶される。
【0183】
(6)異常の検出(S310)
次に、検出信号の波形から、成形制御回路230の制御動作の異常を検出する。
【0184】
図24図26は、電子ビームが第1ショット形状S1および第1ショット面積A1から第2ショット形状S2および第2ショット面積A2に変化して所定時間経過するまでの検出信号の波形を示すグラフである。図24および図25は、成形制御回路230の出力信号の波形に異常がある場合に観測される検出信号の波形を示すグラフである。図26は、成形制御回路230の出力信号の波形が正常である場合に観測される検出信号の波形を示すグラフである。
【0185】
なお、図24図26に示すグラフにおいて、横軸は時間tを示し、縦軸は検出信号の強度Iを示している。また、図24図26において、強度IA1は電子ビームを第1ショット面積A1にしたときに観測される検出信号の強度である。また、強度IA2は電子ビームを第2ショット面積A2にしたときに観測される検出信号の強度である。
【0186】
図24および図25に示すように、成形制御回路230の出力信号の波形に異常がある場合、検出信号の波形が変化する。そのため、上述した測定で観測された検出信号の波形を、図26に示す正常時の検出信号の波形と比較することで、成形制御回路230の制御動作(出力信号)の異常を検出することができる。
【0187】
成形制御回路230の出力信号にリンギングによる僅かな歪み(図46参照)が生じている場合、その出力信号を受けた成形偏向器202の動作により、電子ビームEBは、第
1ショット面積A1から第2ショット面積A2となるまでの間に、僅かな断面積の増減を繰り返す。この電子ビームEBの断面積の増減の繰り返しに応じて、測定対象物6から放出される電子信号の強度が変化する。この結果、成形制御回路230の出力信号の波形に生じる僅かな歪みの影響が検出信号の波形に現れる。
【0188】
具体的には、図24に示す検出信号の波形は、成形制御回路230の出力信号の波形に図46に示すようなリンギングが発生した場合に観測される。図24に示す検出信号の波形には、立ち上がりに、出力信号のリンギングに起因するピークが観測されている。このように、図24に示す検出信号の波形から、成形制御回路230の出力信号にリンギングが発生していることがわかる。
【0189】
図25に示す検出信号の波形は、成形制御回路230の応答時間に遅れがある場合に観測される。図25に示す検出信号の波形は、応答時間の遅れにより、図26に示す正常時の検出信号の波形と比べて、検出信号の強度が強度IA2に達するまでの時間に遅れがでている。このように、図25に示す検出信号の波形から、応答時間に遅れがあることがわかる。
【0190】
制御部40は、電子ビームを第1ショット形状S1および第1ショット面積A1から第2ショット形状S2および第2ショット面積A2とする制御動作を行ったときの検出信号に基づいて、当該制御動作時の過渡応答を観測し、成形制御回路230の制御動作の異常を検出する。具体的には、制御部40は、取得した検出信号の波形を、正常時の検出信号の波形と比較して、成形制御回路230の制御動作の異常を検出する処理を行う。なお、異常の検出は、ユーザーが検出信号の波形を、正常時の検出信号の波形と比較することで行ってもよい。
【0191】
なお、上記では、電子ビームEBのショット面積を大きくする制御動作を行う場合について説明したが、電子ビームEBのショット面積を小さくする制御動作を行う場合についても同様の手法で異常の検出が可能である。
【0192】
第6実施形態に係る異常検出方法および電子ビーム描画装置200は、例えば、以下の特徴を有する。
【0193】
第6実施形態に係る異常検出方法は、電子ビームEBが第1ショット形状S1および第1ショット面積A1から第2ショット形状S2および第2ショット面積A2に変化するように成形制御回路230が成形偏向器202を制御する制御動作を行ったときの過渡応答を観測し、成形制御回路230の制御動作の評価を行う工程を含み、過渡応答は、電子信号を電子検出器24で検出して検出信号を取得することで観測する。したがって、第6実施形態に係る異常検出方法によれば、成形制御回路230の制御動作の異常を精度よく検出することができる。さらに、第6実施形態に係る異常検出方法によれば、簡易な構成で、異常検出が可能である。
【0194】
電子ビーム描画装置200は、電子源10と、電子源10から放出された電子ビームを成形する成形偏向器202、第1アパーチャー204aおよび第2アパーチャー204bと、電子ビームEBが測定対象物6に照射されることにより発生する電子信号を検出する電子検出器24と、成形偏向器202を制御する成形制御回路230と、電子信号を電子検出器24で検出して得られる検出信号を取得する信号検出制御回路36と、電子ビームが第1ショット形状S1および第1ショット面積A1から第2ショット形状S2および第2ショット面積A2に変化するように成形制御回路230が成形偏向器202を制御する制御動作を行ったときの検出信号に基づいて、当該制御動作時の過渡応答を観測し、成形制御回路230の制御動作の評価を行う制御部40(評価部の一例)と、を含む。
【0195】
そのため、電子ビーム描画装置200では、成形制御回路230の制御動作の異常を精度よく検出することができる。また、電子ビーム描画装置200では、検出条件の設定(ステップS300)を行うことで、ステップS302~ステップS310の処理を自動で行うことができる。そのため、電子ビーム描画装置200では、容易に、成形制御回路230の制御動作の異常を検出することができる。
【0196】
なお、第6実施形態に係る異常検出方法は、第1実施形態に係る異常検出方法と同様に、成形制御回路230の制御動作全般を評価するための評価方法として用いることができる。
【0197】
6.3. 変形例
6.3.1. 第1変形例
上述した第6実施形態では、電子ビームを測定対象物6に照射することにより発生する電子信号を電子検出器24で検出して検出信号を観測したが、電子ビームをビーム電流検出器26で検出して検出信号を観測(取得)してもよい。この場合も、上述した第6実施形態と同様の作用効果を奏することができる。成形偏向器202で電子ビームの断面積を変化させることによって、ビーム電流も変化する。そのため、電子ビームをビーム電流検出器26で検出して検出信号を得ることで、上述した第6実施形態と同様に、成形偏向器202の異常検出が可能である。
【0198】
6.3.2. 第2変形例
上述した第6実施形態では、電子ビームのショット形状およびショット断面積を変更する制御動作を行う場合について説明したが、電子ビームのショット形状を変更せずに、ショット断面積のみを変更してもよい。この場合も、上述した第6実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0199】
6.3.3. 第3変形例
上述した第6実施形態に係る異常検出方法においても、第2実施形態に係る異常検出方法を適用可能である。
【0200】
具体的には、電子ビームが第1ショット形状S1および第1ショット面積A1から第2ショット形状S2および第2ショット面積A2となるように成形制御回路230が成形偏向器202を制御する制御動作を複数回行い、複数回の制御動作において、検出信号を取得するタイミングを異ならせる。この結果、第2実施形態と同様に、図13および図14に示すような検出信号の波形が得られる。したがって、成形制御回路230の出力信号の波形の歪みの持続時間(リンギング時間T)を知ることができる。
【0201】
6.3.4. 第4変形例
上述した第6実施形態に係る異常検出方法においても、第3実施形態に係る異常検出方法を適用可能である。
【0202】
具体的には、電子ビームが第1ショット形状S1および第1ショット面積A1から第2ショット形状S2および第2ショット面積A2となるように成形制御回路230が成形偏向器202を制御する制御動作を複数回行い、複数回の制御動作において、検出信号を取得するタイミングを同じとする。この結果、第3実施形態と同様に、図16および図17に示すような検出信号の波形が得られる。したがって、成形制御回路230の初期変動や、検出バラツキの影響を軽減して、リンギングが発生した場合に観測させる信号強度を精度よく観測することができる。
【0203】
7. 第7実施形態
7.1. 電子ビーム描画装置
第7実施形態に係る電子ビーム描画装置の構成は、図20に示す第6実施形態に係る電子ビーム描画装置200の構成と同じであり、図示およびその説明を省略する。なお、第7実施形態に係る電子ビーム制御装置は、図1に示す第1実施形態に係る電子ビーム描画装置100の構成と同じであってもよい。
【0204】
7.2. 異常検出方法
次に、第7実施形態に係る異常検出方法について説明する。以下では、上述した第1実施形態に係る異常検出方法と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0205】
上述した第1実施形態に係る異常検出方法では、偏向信号制御回路34の制御動作の異常を検出した。これに対して、第7実施形態に係る異常検出方法では、電子ビームのオンとオフを切り替えるブランキング制御回路30(ブランキング偏向器制御装置の一例)の制御動作の異常を検出する。
【0206】
第7実施形態に係る異常検出方法は、電子ビームのオンとオフが切り替えられるようにブランキング制御回路30がブランキング偏向器12を制御する制御動作を行ったときの過渡応答を観測し、ブランキング制御回路30の制御動作の評価を行う工程を含み、過渡応答は、電子信号を電子検出器24で検出して検出信号を取得することで観測する。
【0207】
ブランキング制御回路30は、例えば、図2に示す偏向信号制御回路34と同様の構成を有している。そのため、ブランキング制御回路30では、偏向信号制御回路34と同様に、例えば、出力アンプを構成するトランジスタ等の素子の性能が劣化した場合、出力信号にリンギングなどの歪みが発生する場合がある。
【0208】
そのため、第7実施形態に係る異常検出方法では、電子ビームのオンとオフが切り替えられるようにブランキング制御回路30がブランキング偏向器12を制御する制御動作を行ったときの過渡応答を観測し、ブランキング制御回路30の制御動作(出力)の異常を検出する。
【0209】
図27は、第7実施形態に係る異常検出方法の一例を示すフローチャートである。図28は、第7実施形態に係る異常検出方法を説明するための図である。
【0210】
(1)異常検出条件の設定(S400)
まず、異常を検出するための条件を設定する。具体的には、電子ビームEBのオンとオフのタイミングの設定、検出信号を観測する時間およびタイミングの設定などを行う。設定された条件は、制御部40の記憶装置に記憶される。
【0211】
異常を検出するための測定対象物6は、電子ビームEBが照射されることで電子信号を発生させるものであれば特に限定されない。測定対象物6は、例えば、半導体ウエハ上に金属膜を成膜したものである。
【0212】
(2)電子ビームをオフ(S402)
次に、ブランキング制御回路30が、電子ビームEBがオフとなるようにブランキング偏向器12を制御する制御動作を行う。これにより、電子ビームEBがオフとなる。ブランキング制御回路30は、制御データに基づくデータ制御部38の出力を受けて制御動作を行う。後述するブランキング制御回路30の制御動作についても同様である。
【0213】
(3)観測開始(S404)
次に、検出信号の観測(取得)を開始する。検出信号は、信号検出制御回路36を用いて取得される。
【0214】
(4)電子ビームをオン(S406)
次に、ブランキング制御回路30が、電子ビームEBがオフの状態からオンの状態となるようにブランキング偏向器12を制御する制御動作を行う。これにより、電子ビームEBがオフからオンに切り替わる。ブランキング制御回路30は、電子ビームEBがオンの状態で所定時間維持されるように、ブランキング偏向器12を制御する。
【0215】
(5)観測終了(S408)
電子ビームEBがオフの状態からオンの状態となるようにブランキング偏向器12を制御する制御動作を行った後、検出信号の取得(観測)を終了する。以上の処理により、電子ビームがオフの状態からオンの状態に変化して所定時間経過するまでの検出信号を観測(連続観測)することができる。
【0216】
信号検出制御回路36を用いて取得された検出信号は、制御部40で処理される。これにより、電子ビームEBがオフの状態からオンの状態に変化して所定時間経過するまでの検出信号の時間変化を示す波形(検出信号の波形)が生成される。この検出信号の波形は、例えば、制御部40の表示部(図示せず)に表示され、記憶装置に記憶される。
【0217】
(6)異常の検出(S410)
次に、検出信号の波形から、ブランキング制御回路30の制御動作の異常を検出する。
【0218】
図29図31は、電子ビームがオフの状態からオンの状態に変化して所定時間経過するまでの検出信号の波形を示すグラフである。図29および図30は、ブランキング制御回路30の出力信号の波形に異常がある場合に観測される検出信号の波形を示すグラフである。図31は、ブランキング制御回路30の出力信号の波形が正常である場合に観測される検出信号の波形を示すグラフである。
【0219】
なお、図29図31に示すグラフにおいて、横軸は時間tを示し、縦軸は検出信号の強度Iを示している。また、図29図31において、強度IOFFは電子ビームをオフにしたときに観測される検出信号の強度である。また、強度IONは電子ビームをオンにしたときに観測される検出信号の強度である。
【0220】
図29および図30に示すように、ブランキング制御回路30の出力信号の波形に異常がある場合、検出信号の波形が変化する。そのため、上述した測定で観測された検出信号の波形を、図31に示す正常時の検出信号の波形と比較することで、ブランキング制御回路30の制御動作(出力信号)の異常を検出することができる。
【0221】
ブランキング制御回路30の出力信号にリンギングによる僅かな歪み(図46参照)が生じている場合、その出力信号を受けたブランキング偏向器12の動作により、電子ビームEBは、オフの状態からオンの状態となるまでの間に、僅かな断面積の増減を繰り返す。この電子ビームEBの断面積の増減の繰り返しに応じて、測定対象物6から放出される電子信号の強度が変化する。この結果、ブランキング制御回路30の出力信号の波形に生じる僅かな歪みの影響が検出信号の波形に現れる。
【0222】
具体的には、図29に示す検出信号の波形は、ブランキング制御回路30の出力信号の波形に図46に示すようなリンギングが発生した場合に観測される。図29に示す検出信号の波形には、立ち上がりに、出力信号のリンギングに起因する波形の乱れが観測されて
いる。このように、図29に示す検出信号の波形から、ブランキング制御回路30の出力信号にリンギングが発生していることがわかる。
【0223】
図30に示す検出信号の波形は、ブランキング制御回路30の応答時間に遅れがある場合に観測される。図30に示す検出信号の波形は、応答時間の遅れにより、図31に示す正常時の検出信号の波形と比べて、検出信号の強度が強度IONに達するまでの時間に遅れがでている。このように、図30に示す検出信号の波形から、応答時間に遅れがあることがわかる。
【0224】
制御部40は、電子ビームがオフの状態からオンの状態とする制御動作を行ったときの検出信号に基づいて、当該制御動作時の過渡応答を観測し、ブランキング制御回路30の制御動作の異常を検出する。具体的には、制御部40は、取得した検出信号の波形を、正常時の検出信号の波形と比較して、ブランキング制御回路30の制御動作の異常を検出する処理を行う。なお、異常の検出は、ユーザーが検出信号の波形を、正常時の検出信号の波形と比較することで行ってもよい。
【0225】
第7実施形態に係る異常検出方法および電子ビーム描画装置は、例えば、以下の特徴を有する。
【0226】
第7実施形態に係る異常検出方法は、電子ビームのオンとオフが切り替えられるようにブランキング制御回路30がブランキング偏向器12を制御する制御動作を行ったときの過渡応答を観測し、ブランキング制御回路30の制御動作の評価を行う工程を含み、過渡応答は、電子信号を電子検出器24で検出して検出信号を取得することで観測する。したがって、第7実施形態に係る異常検出方法によれば、ブランキング制御回路30の制御動作の異常を精度よく検出することができる。さらに、第7実施形態に係る異常検出方法によれば、簡易な構成で、異常検出が可能である。
【0227】
第7実施形態に係る電子ビーム描画装置は、電子源10と、電子源10から放出された電子ビームのオンとオフを切り替えるブランキング偏向器12と、電子ビームが測定対象物に照射されることにより発生する電子信号を検出する電子検出器24と、ブランキング偏向器12を制御するブランキング制御回路30と、電子信号を電子検出器24で検出して得られる検出信号を取得する信号検出制御回路36と、電子ビームのオンとオフが切り替えられるようにブランキング制御回路30がブランキング偏向器12を制御する制御動作を行ったときの検出信号に基づいて、制御動作時の過渡応答を観測し、ブランキング制御回路30の制御動作の評価を行う制御部40と、を含む。
【0228】
そのため、第7実施形態に係る電子ビーム描画装置200では、ブランキング制御回路30の制御動作の異常を精度よく検出することができる。また、電子ビーム描画装置200では、検出条件の設定(ステップS400)を行うことで、ステップS402~ステップS410の処理を自動で行うことができる。そのため、電子ビーム描画装置200では、容易に、ブランキング制御回路30の制御動作の異常を検出することができる。
【0229】
近年、電子ビームの1ショットあたりの時間(ショット時間)は、短くなっている。従来、ショット時間が長い場合には、ブランキング制御回路30の出力信号のリンギングが継続する時間はショット時間に対して短いため無視できた。しかしながら、ショット時間が短くなるに従って、リンギングの影響が相対的に大きくなる。第7実施形態に係る異常検出方法では、ブランキング制御回路30の出力信号の波形の僅かな歪みを、検出信号の波形から観測することができるため、ショット時間が短い場合の評価に極めて有効である。
【0230】
なお、第7実施形態に係る異常検出方法は、第1実施形態に係る異常検出方法と同様に、ブランキング制御回路30の制御動作全般を評価するための評価方法として用いることができる。
【0231】
7.3. 変形例
7.3.1. 第1変形例
上述した第7実施形態では、電子ビームを測定対象物6に照射することにより発生する電子信号を電子検出器24で検出して検出信号を観測したが、電子ビームをビーム電流検出器26で検出して検出信号を観測(取得)してもよい。この場合も、上述した第7実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0232】
7.3.2. 第2変形例
上述した第7実施形態では、電子ビームをオフにした状態からオンにした状態に切り替える制御動作の評価を行う場合について説明したが、電子ビームをオンにした状態からオフにした状態に切り替える制御動作の評価を行ってもよい。この場合も、上述した第7実施形態と同様の手法で評価を行うことができる。
【0233】
7.3.3. 第3変形例
上述した第7実施形態に係る異常検出方法においても、第2実施形態に係る異常検出方法を適用可能である。
【0234】
具体的には、電子ビームがオフの状態からオンの状態となるようにブランキング制御回路30がブランキング偏向器12を制御する制御動作を複数回行い、複数回の制御動作において、検出信号を取得するタイミングを異ならせる。この結果、第2実施形態と同様に、図13および図14に示すような検出信号の波形が得られる。したがって、ブランキング制御回路30の出力信号の波形の歪みの持続時間(リンギング時間T)を知ることができる。
【0235】
7.3.4. 第4変形例
上述した第7実施形態に係る異常検出方法においても、第3実施形態に係る異常検出方法を適用可能である。
【0236】
具体的には、電子ビームがオフの状態からオンの状態となるようにブランキング制御回路30がブランキング偏向器12を制御する制御動作を複数回行い、複数回の制御動作において、検出信号を取得するタイミングを同じとする。この結果、第3実施形態と同様に、図16および図17に示すような検出信号の波形が得られる。したがって、ブランキング制御回路30の初期変動や、検出バラツキの影響を軽減して、リンギングが発生した場合に観測させる信号強度を精度よく観測することができる。
【0237】
8. 第8実施形態
8.1. 電子ビーム描画装置
次に、第8実施形態に係る電子ビーム描画装置について図面を参照しながら説明する。図32は、第8実施形態に係る電子ビーム描画装置300の構成を示す図である。以下、第8実施形態に係る電子ビーム描画装置300において、第1実施形態に係る電子ビーム描画装置100および第6実施形態に係る電子ビーム描画装置200の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0238】
電子ビーム描画装置300は、図32に示すように、非点収差補正器302と、非点収差補正器302を制御する非点収差補正回路330(非点収差補正器制御装置の一例)と、を含む。
【0239】
電子ビーム描画装置300は、非点収差補正器302によって、非点収差を補正することができる。
【0240】
図33および図34は、非点収差を補正している様子を説明するための図である。非点収差補正器302では、例えば、図33および図34に示すように、X軸およびY軸の2軸に対して非点収差をそれぞれ独立して補正することができる。具体的には、図33に示す例では、X軸に沿った長軸を有する楕円形状の電子ビームEBが円となるように、非点収差補正器302でY軸に沿った非点収差を導入して補正する。また、図34に示す例では、Y軸に沿った長軸を有する楕円形状の電子ビームが円となるように、非点収差補正器302でX軸に沿った非点収差を導入して補正する。
【0241】
非点収差の大きさは、電子ビームEBの位置に応じて変化する。そのため、非点収差補正器302による非点収差の補正量は、電子ビームEBの位置に応じて変化させる。なお、非点収差の補正量を変えても、電子ビームEBのビーム電流は変化しない。
【0242】
電子ビーム描画装置300では、データ制御部38は、制御部40からの描画データを受けて、ブランキング制御回路30、レンズ制御回路32、偏向信号制御回路34、成形制御回路230、および非点収差補正回路330を制御する。また、制御部40は、後述するように、非点収差補正回路330の制御動作の異常を検出する異常検出部(非点収差補正回路330の制御動作の評価を行う評価部)としても機能する。
【0243】
次に、電子ビーム描画装置300が試料Sにパターンを描画する際の動作について説明する。
【0244】
電子ビーム描画装置300では、電子源10から放出された電子ビームは、電子レンズ14および電子レンズ20によって試料S上に収束される。ここで、描画データ(パターンデータ)が制御部40の記憶装置に格納されると、格納された描画データはデータ制御部38で処理されて、ブランキング制御回路30、レンズ制御回路32、偏向信号制御回路34、成形制御回路230、および非点収差補正回路330に送られる。電子ビームは、成形偏向器202、第1アパーチャー204aおよび第2アパーチャー204bにより成形され、ブランキング偏向器12でオン、オフされ、ビーム偏向器18で試料S上の所定の位置に偏向される。このとき、非点収差補正器302が非点収差を補正する。このような電子ビームの動きと、ステージ22の動きと、を組み合わせることで、描画データに基づくパターンを描画することができる。
【0245】
8.2. 異常検出方法
次に、第8実施形態に係る異常検出方法について説明する。以下では、上述した第1実施形態に係る異常検出方法の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0246】
上述した第1実施形態に係る異常検出方法では、偏向信号制御回路34の制御動作の異常を検出した。これに対して、第8実施形態に係る異常検出方法では、非点収差補正回路330の制御動作の異常を検出する。
【0247】
第8実施形態に係る異常検出方法は、非点収差の補正量が第1補正量から第2補正量に変化するように非点収差補正回路330が非点収差補正器302を制御する制御動作を行ったときの過渡応答を観測し、非点収差補正回路330の制御動作の評価を行う工程を含み、過渡応答は、電子信号を電子検出器24で検出して検出信号を取得することで観測する。なお、第1補正量と第2補正量とは、補正量が異なる。
【0248】
非点収差補正回路330は、例えば、図2に示す偏向信号制御回路34と同様の構成を有している。そのため、非点収差補正回路330では、偏向信号制御回路34と同様に、例えば、出力アンプを構成するトランジスタ等の素子の性能が劣化した場合、出力信号にリンギングなどの歪みが発生する場合がある。
【0249】
そのため、第8実施形態に係る異常検出方法では、非点収差の補正量が第1補正量から第2補正量に変化するように非点収差補正回路330が非点収差補正器302を制御する制御動作を行ったときの過渡応答を観測し、非点収差補正回路330の制御動作(出力)の異常を検出する。
【0250】
図35は、第8実施形態に係る異常検出方法の一例を示すフローチャートである。図36は、第8実施形態に係る異常検出方法を説明するための図である。以下では、非点収差補正回路330のX方向の制御動作について説明する。
【0251】
(1)異常検出条件の設定(S500)
まず、異常を検出するための条件を設定する。具体的には、マーク2の位置合わせ、初期状態の非点収差の補正量(第1補正量)の設定、変化後の非点収差の補正量(第2補正量)の設定、検出信号を観測する時間およびタイミングの設定などを行う。設定された条件は、制御部40の記憶装置に記憶される。
【0252】
非点収差の補正量を変化させても、測定対象物に照射される電子ビームEBの電流量は変化しない。そのため、例えば、図22に示す測定対象物6を用いた場合、非点収差の補正量を変化させても、電子信号の量は変化しない。したがって、第8実施形態では、マーク2を測定対象物として用いる。
【0253】
初期状態では、非点収差の補正量を第1補正量とし、電子ビームEBが領域2aに配置されるように設定する。このとき、電子ビームEBの位置は、領域2aと領域2cの境界近傍に設定される。具体的には、電子ビームEBを第1補正量から第2補正量にした場合に、電子ビームEBが領域2cに跨がる位置に設定される。これにより、補正量の変化を、電子信号の変化、すなわち、検出信号の変化として観測することができる。
【0254】
なお、初期状態における電子ビームEBの位置は、図36に示す位置に限定されず、非点収差の補正量を第1補正量から第2補正量とした場合に、補正量の変化を検出信号の変化として観測できる位置に設定されればよい。例えば、図37に示すように、初期状態における電子ビームEBの位置は、マーク2の領域2bに設定されてもよい。このように、初期状態は、例えば、非点収差の補正量を第1補正量から第2補正量とした場合に、他の領域に跨がる位置に設定されればよい。
【0255】
(2)非点収差の補正量を第1補正量とする(S502)
次に、非点収差補正回路330が、非点収差の補正量が第1補正量となるように非点収差補正器302を制御する制御動作を行う。これにより、電子ビームEBに非点収差が第1補正量だけ導入される。非点収差補正回路330は、制御データに基づくデータ制御部38の出力を受けて制御動作を行う。後述する非点収差補正回路330の制御動作についても同様である。
【0256】
(3)観測開始(S504)
次に、検出信号の観測(取得)を開始する。検出信号は、信号検出制御回路36を用いて取得される。
【0257】
(4)非点収差の補正量を第2補正量とする(S506)
次に、非点収差補正回路330が、非点収差の補正量が第1補正量から第2補正量となるように非点収差補正器302を制御する制御動作を行う。これにより、電子ビームEBに導入される非点収差が第1補正量から第2補正量となる。非点収差補正回路330は、非点収差の補正量が第2補正量で所定時間維持されるように、非点収差補正器302を制御する。
【0258】
(5)観測終了(S508)
非点収差の補正量が第1補正量から第2補正量となるように非点収差補正器302を制御する制御動作を行った後、検出信号の取得(観測)を終了する。以上の処理により、非点収差の補正量が第1補正量から第2補正量に変化して所定時間経過するまでの検出信号を観測(連続観測)することができる。
【0259】
信号検出制御回路36を用いて取得された検出信号は、制御部40で処理される。これにより、非点収差の補正量を第1補正量から第2補正量に変化させて所定時間経過するまでの検出信号の時間変化を示す波形(検出信号の波形)が生成される。この検出信号の波形は、例えば、制御部40の表示部(図示せず)に表示され、記憶装置に記憶される。
【0260】
(6)異常の検出(S510)
次に、検出信号の波形から、非点収差補正回路330の制御動作の異常を検出する。
【0261】
図38図40は、非点収差の補正量が第1補正量から第2補正量に変化して所定時間経過するまでの検出信号の波形を示すグラフである。図38および図39は、非点収差補正回路330の出力信号の波形に異常がある場合に観測される検出信号の波形を示すグラフである。図40は、非点収差補正回路330の出力信号の波形が正常である場合に観測される検出信号の波形を示すグラフである。
【0262】
なお、図38図40に示すグラフにおいて、横軸は時間tを示し、縦軸は検出信号の強度Iを示している。また、図38図40において、強度Iは非点収差の補正量を第1補正量にしたときに観測される検出信号の強度である。また、強度Iは非点収差の補正量を第2補正量にしたときに観測される検出信号の強度である。
【0263】
図38および図39に示すように、非点収差補正回路330の出力信号の波形に異常がある場合、検出信号の波形が変化する。そのため、上述した測定で観測された検出信号の波形を、図40に示す正常時の検出信号の波形と比較することで、非点収差補正回路330の制御動作(出力信号)の異常を検出することができる。
【0264】
非点収差補正回路330の出力信号にリンギングによる僅かな歪み(図46参照)が生じている場合、その出力信号を受けた非点収差補正器302の動作により、電子ビームEBは、第1補正量から第2補正量に変化するまでの間に、X方向の大きさが僅かに変動する。この電子ビームEBのX方向の大きさの変動により、電子ビームEBの全照射領域における領域2cを照射する割合が変動する。この結果、検出信号の強度が変化するため、非点収差補正回路330の出力信号の波形に生じる僅かな歪みの影響が検出信号の波形に現れる。
【0265】
具体的には、図38に示す検出信号の波形は、非点収差補正回路330の出力信号の波形に図46に示すようなリンギングが発生した場合に観測される。図38に示す検出信号の波形には、立ち上がりに、出力信号のリンギングに起因するピークが観測されている。このように、図38に示す検出信号の波形から、非点収差補正回路330の出力信号にリンギングが発生していることがわかる。
【0266】
図39に示す検出信号の波形は、非点収差補正回路330の応答時間に遅れがある場合に観測される。図39に示す検出信号の波形は、応答時間の遅れにより、図40に示す正常時の検出信号の波形と比べて、検出信号の強度が強度Iに達するまでの時間に遅れがでている。このように、図39に示す検出信号の波形から、応答時間に遅れがあることがわかる。
【0267】
制御部40は、非点収差の補正量を第1補正量から第2補正量とする制御動作を行ったときの検出信号に基づいて、当該制御動作時の過渡応答を観測し、非点収差補正回路330の制御動作の異常を検出する。具体的には、制御部40は、取得した検出信号の波形を、正常時の検出信号の波形と比較して、非点収差補正回路330の制御動作の異常を検出する処理を行う。なお、異常の検出は、ユーザーが検出信号の波形を、正常時の検出信号の波形と比較することで行ってもよい。
【0268】
なお、上記では、非点収差補正回路330のX方向の制御動作の異常を検出する場合について説明したが、非点収差補正回路330のY方向の制御動作の異常も、同様の手法で検出することができる。
【0269】
また、上記では、非点収差の補正量を第1補正量から第2補正量とする場合に、電子ビームEBのX方向の大きさが大きくなる場合について説明したが、非点収差の補正量を第1補正量から第2補正量とする場合に、電子ビームEBのX方向の大きさが小さくなってもよい。この場合も、同様の手法で異常を検出することができる。
【0270】
第8実施形態に係る異常検出方法および電子ビーム描画装置300は、例えば、以下の特徴を有する。
【0271】
第8実施形態に係る異常検出方法は、非点収差の補正量が第1補正量から第2補正量となるように非点収差補正回路330で非点収差補正器302を制御する制御動作を行ったときの過渡応答を観測し、非点収差補正回路330の制御動作の評価を行う工程を含み、過渡応答は、電子信号を電子検出器24で検出して検出信号を取得することで観測する。したがって、第8実施形態に係る異常検出方法によれば、非点収差補正回路330の制御動作の異常を精度よく検出することができる。さらに、第8実施形態に係る異常検出方法によれば、簡易な構成で、異常検出が可能である。
【0272】
第8実施形態に係る電子ビーム描画装置は、電子源10と、電子源10から放出された電子ビームの非点収差を補正する非点収差補正器302と、電子ビームが測定対象物に照射されることにより発生する電子信号を検出する電子検出器24と、非点収差補正器302を制御する非点収差補正回路330と、電子信号を電子検出器24で検出して得られる検出信号を取得する信号検出制御回路36と、非点収差の補正量が第1補正量から第2補正量となるように非点収差補正回路330が非点収差補正器302を制御する制御動作を行ったときの検出信号に基づいて、制御動作時の過渡応答を観測し、非点収差補正回路330の制御動作の評価を行う制御部40と、を含む。
【0273】
そのため、第8実施形態に係る電子ビーム描画装置300では、非点収差補正回路330の制御動作の異常を精度よく検出することができる。また、電子ビーム描画装置300では、検出条件の設定(ステップS500)を行うことで、ステップS502~ステップS510の処理を自動で行うことができる。そのため、電子ビーム描画装置300では、容易に、非点収差補正回路330の制御動作の異常を検出することができる。
【0274】
なお、第8実施形態に係る異常検出方法は、第1実施形態に係る異常検出方法と同様に
、非点収差補正回路330の制御動作全般を評価するための評価方法として用いることができる。
【0275】
8.3. 変形例
8.3.1. 第1変形例
上述した第8実施形態に係る異常検出方法においても、第4実施形態に係る異常検出方法を適用可能である。すなわち、測定対象物として、図18に示す電子ビームを同じ照射条件で照射した場合に観測される検出信号の強度が異なる2つの領域(領域4aおよび領域4b)を有する測定対象物4を用いてもよい。
【0276】
図41は、測定対象物4を用いた、非点収差補正回路330の異常検出方法の一例を説明するための図である。
【0277】
図41に示すように、電子ビームEBの位置を領域4aと領域4bとの境界近傍とし、非点収差の補正量を第1補正量とした状態から、非点収差の補正量を第1補正量から第2補正量になるように非点収差補正回路330が非点収差補正器302を制御する制御動作を行う。このとき、非点収差補正回路330の出力信号にリンギングによる僅かな歪みが生じていると、その出力信号を受けた非点収差補正器302の動作により、電子ビームEBは、第1補正量から第2補正量に変化するまでの間に、X方向の大きさが僅かに変動する。この電子ビームEBのX方向の大きさの変動により、電子ビームEBの全照射領域における領域4bを照射する割合が変動する。この結果、検出信号の強度が変化するため、非点収差補正回路330の出力信号の波形に生じる僅かな歪みの影響が検出信号の波形に現れる。
【0278】
第1変形例によれば、上述した第8実施形態に係る異常検出方法と同様に、非点収差補正回路330の制御動作の異常を検出することができる。
【0279】
8.3.2. 第2変形例
上述した第8実施形態に係る異常検出方法においても、第5実施形態に係る異常検出方法を適用可能である。すなわち、電子ビームをビーム電流検出器26で検出して検出信号を観測(取得)してもよい。
【0280】
図42は、電子ビームEBをビーム電流検出器26で検出して検出信号を観測する様子を説明するための図である。
【0281】
図42に示すように、電子ビームEBの位置をナイフエッジ27の先端部とし、非点収差の補正量を第1補正量とした状態から、非点収差の補正量を第1補正量から第2補正量になるように非点収差補正回路330が非点収差補正器302を制御する制御動作を行う。このとき、ナイフエッジ27に妨げられずにビーム電流検出器26(ファラデーカップ)に入射する電子ビーム(ビーム電流)をビーム電流検出器26で検出して検出信号を観測(取得)する。これにより、観測される検出信号の波形にも、上述した第8実施形態と同様に、非点収差補正回路330の出力信号の波形に生じる僅かな歪み(リンギング等)の影響が検出信号の波形に現れる。
【0282】
第2変形例によれば、上述した第8実施形態に係る異常検出方法と同様に、非点収差補正回路330の制御動作の異常を検出することができる。
【0283】
8.3.3. 第3変形例
上述した第8実施形態に係る異常検出方法においても、第2実施形態に係る異常検出方法を適用可能である。
【0284】
具体的には、非点収差の補正量が第1補正量から第2補正量となるように非点収差補正回路330が非点収差補正器302を制御する制御動作を複数回行い、複数回の制御動作において、検出信号を取得するタイミングを異ならせる。この結果、第2実施形態と同様に、図13および図14に示すような検出信号の波形が得られる。したがって、非点収差補正回路330の出力信号の波形の歪みの持続時間(リンギング時間T)を知ることができる。
【0285】
8.3.4. 第4変形例
上述した第8実施形態に係る異常検出方法においても、第3実施形態に係る異常検出方法を適用可能である。
【0286】
具体的には、非点収差の補正量が第1補正量から第2補正量となるように非点収差補正回路330が非点収差補正器302を制御する制御動作を複数回行い、複数回の制御動作において、検出信号を取得するタイミングを同じとする。この結果、第3実施形態と同様に、図16および図17に示すような検出信号の波形が得られる。したがって、非点収差補正回路330の初期変動や、検出バラツキの影響を軽減して、リンギングが発生した場合に観測させる信号強度を精度よく観測することができる。
【0287】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0288】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0289】
2…マーク、2a…領域、2b…領域、2c…領域、3…基板、4…測定対象物、4a…領域、4b…領域、6…測定対象物、10…電子源、12…ブランキング偏向器、14…電子レンズ、16…スリット、18…ビーム偏向器、20…電子レンズ、22…ステージ、24…電子検出器、26…ビーム電流検出器、27…ナイフエッジ、28…高圧電源、30…ブランキング制御回路、32…レンズ制御回路、34…偏向信号制御回路、36…信号検出制御回路、38…データ制御部、40…制御部、100…電子ビーム描画装置、200…電子ビーム描画装置、202…成形偏向器、204a…第1アパーチャー、204b…第2アパーチャー、230…成形制御回路、300…電子ビーム描画装置、302…非点収差補正器、330…非点収差補正回路、341…D/A変換部、342…出力アンプ、343…モニタアンプ、344…A/D変換部、361…初段アンプ、362…信号切り替え部、363…増幅アンプ、364…ゲイン切り替え部、365…A/D変換部、366…レベル・ゲイン制御部、367…タイミング調整部
図1
図2
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