(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022017439
(43)【公開日】2022-01-25
(54)【発明の名称】高効率空調システム及び方法
(51)【国際特許分類】
F25B 1/00 20060101AFI20220118BHJP
F25B 1/053 20060101ALI20220118BHJP
F25B 43/00 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
F25B1/00 396Z
F25B1/00 321A
F25B1/053 Z
F25B43/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021178482
(22)【出願日】2021-11-01
(62)【分割の表示】P 2018535410の分割
【原出願日】2017-01-06
(31)【優先権主張番号】62/275,382
(32)【優先日】2016-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15/400,891
(32)【優先日】2017-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500575824
【氏名又は名称】ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】Honeywell International Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100168066
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 雄太
(72)【発明者】
【氏名】ピーターセン,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ヤナ・モッタ,サミュエル・エフ
(72)【発明者】
【氏名】セシ,アンキット
(72)【発明者】
【氏名】ヴェラ・ベセラ,エリザベス・デル・カルメン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】冷媒を適切に選択することにより、効率を向上させた空調システムを提供する。
【解決手段】冷却システムは、冷却される熱源、及びその中に熱を遮断することができるヒートシンクを含み、システムは、約2~約30トンの能力を有し、少なくとも約95重量%のトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(トランス-1233zd)、又は少なくとも約80重量%のトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(トランス-HFO-1234ze)を含む冷媒を含む熱伝達組成物を含む。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却される熱源、及びその中に熱を遮断することができるヒートシンクを有するタイプの冷却システムであって、
約2~約30トンの能力を有し、
(a)少なくとも約95重量%のトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(トランス-1233zd)、又は少なくとも約80重量%のトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(トランス-HFO-1234ze)を含む冷媒を含む熱伝達組成物;
(b)約45~約75kPaの圧力の低圧冷媒蒸気を受容するための冷媒吸入口、及び約100~約520kPaの圧力の高圧冷媒蒸気を吐出するための吐出口を有し、少なくとも約0.65の効率を有する遠心圧縮機;
(c)高圧冷媒蒸気を受容し、ヒートシンクによる熱伝達によって冷媒蒸気の少なくとも相当部分を凝縮させて、約10℃~約60℃の範囲の温度の高圧冷媒液を生成させるための、圧縮機の冷媒吐出口に流体接続されている凝縮器;
(d)高圧冷媒液の圧力を実質的に等エンタルピー低下させて、約45~約75kPaの圧力の低圧冷媒液を生成させるための、凝縮器に流体接続されている膨張器;
(e)低圧冷媒液を受容し、冷却される熱源から熱を吸収することによって低圧冷媒液を蒸発させて、約45~約75kPaの圧力の低圧冷媒蒸気を生成させるための、膨張器に流体接続されていている蒸発器;及び
(f)蒸発器と圧縮機の冷媒吸入口の間で流体接続されていて、蒸発器からの低圧冷媒蒸気の少なくとも一部を受容し、低圧冷媒蒸気を加熱して、少なくとも1つの熱交換器に導入される蒸気の温度よりも少なくとも約5℃高い温度を有する低圧冷媒蒸気を生成させる少なくとも1つの熱交換器(少なくとも1つの熱交換器からの高温冷媒蒸気は、低圧冷媒蒸気を圧縮機に供給するための圧縮機吸入口と流体接続されている);
を含む冷却システム。
【請求項2】
冷媒が少なくとも約80重量%のトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(トランス-HFO-1234ze)を含む、請求項1に記載の冷却システム。
【請求項3】
冷媒が少なくとも約95重量%のトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(トランス-1233zd)を含む、請求項1に記載の冷却システム。
【請求項4】
冷却される熱源、及びその中に熱を遮断することができるヒートシンクを有するタイプの冷却システムであって、
約2~約30トンの能力を有し、
(a)少なくとも約95重量%のトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(トランス-1233zd)、又は少なくとも約70重量%のトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(トランス-HFO-1234ze)を含む冷媒を含む熱伝達組成物;
(b)第1段及び少なくとも第2段を有し、かかる段のそれぞれは、約45~約75kPaの圧力の相対的に低圧の冷媒蒸気を受容するための冷媒吸入口、及び約100~約520kPaの圧力の相対的により高圧の冷媒蒸気を吐出するための冷媒吐出口を有し、少なくとも約0.65の効率を有する遠心圧縮機;
(c)少なくとも第2段からの高圧冷媒蒸気を受容し、ヒートシンクによる熱伝達によって冷媒蒸気の少なくとも相当部分を凝縮させて、約10℃~約60℃の範囲の温度の高圧冷媒液を生成させるための、圧縮機の少なくとも第2段の冷媒吐出口に流体接続されている凝縮器;
(d)高圧冷媒液の少なくとも第1の部分の圧力を実質的に等エンタルピー低下させて、約45~約75kPaの圧力の第1の低圧冷媒液を生成させるための、凝縮器に流体接
続されている少なくとも第1の膨張器;
(e)高圧冷媒液の少なくとも第2の部分の圧力を実質的に等エンタルピー低下させて、約100~約520kPaの圧力の第2の低圧冷媒液を生成させるための、凝縮器に流体接続されている少なくとも第2の膨張器;
(f)第1の低圧冷媒液を受容し、冷却される熱源から熱を吸収することによって低圧冷媒液を蒸発させて、約100~約520kPaの圧力の低圧冷媒蒸気を生成させるための、少なくとも第1の膨張器に流体接続されていている蒸発器(蒸発器からの冷媒蒸気の少なくとも一部は第1段圧縮機吸入口に流体接続されている);及び
(g)第2の低圧冷媒液の少なくとも一部を受容し、それからほぼ第2の低圧冷媒液の圧力の冷媒蒸気を吐出するための、第2の膨張器と少なくとも第2段の吸入口の間で流体接続されている少なくとも1つ熱交換器及び/又は少なくとも1つのフラッシュタンク(ほぼ第2の低圧冷媒液の圧力の冷媒蒸気は第2段圧縮機吸入口に流体接続されている);を含む冷却システム。
【請求項5】
冷媒が少なくとも約80重量%のトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(トランス-HFO-1234ze)を含む、請求項4に記載の冷却システム。
【請求項6】
冷媒が少なくとも約95重量%のトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(トランス-1233zd)を含む、請求項4に記載の冷却システム。
【請求項7】
冷却される熱源、及びその中に熱を遮断することができるヒートシンクを有するタイプの冷却システムであって、
約2~約5トンの能力を有し、
(a)少なくとも約95重量%のトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(トランス-1233zd)、又は少なくとも約80重量%のトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(トランス-HFO-1234ze)を含む冷媒を含む熱伝達組成物;
(b)約45~約75kPaの圧力の相対的に低圧の冷媒蒸気を受容するための冷媒吸入口、及び約100~約520kPaの圧力の相対的により高圧の冷媒蒸気を吐出するための冷媒吐出口を有し、少なくとも約0.65の効率を有する遠心圧縮機;
(c)圧縮機からの高圧冷媒蒸気を受容し、ヒートシンクによる熱伝達によって冷媒蒸気の少なくとも相当部分を凝縮させて、約45~約75kPaの範囲の温度の高圧冷媒液を生成させるための、圧縮機の冷媒吐出口に流体接続されている凝縮器;
(d)高圧冷媒液の少なくとも第1の部分の圧力を実質的に等エンタルピー低下させて、約45~約75kPaの圧力の第1の低圧冷媒液を生成させるための、凝縮器に流体接続されている少なくとも第1の膨張器;
(e)低圧冷媒液を受容し、冷却される熱源から熱を吸収することによって低圧冷媒液の少なくとも一部を蒸発させて、約45~約75kPaの圧力の低圧冷媒蒸気を生成させるための、少なくとも第1の膨張器に流体接続されていている蒸発器(蒸発器からの冷媒蒸気の少なくとも一部は圧縮機吸入口に流体接続されており、凝縮器及び蒸発器の少なくとも1つは本質的な部分がアルミニウムで形成されている);
を含む冷却システム。
【請求項8】
冷媒が少なくとも約80重量%のトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(トランス-HFO-1234ze)を含む、請求項7に記載の冷却システム。
【請求項9】
冷媒が少なくとも約95重量%のトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(トランス-1233zd)を含む、請求項7に記載の冷却システム。
【請求項10】
冷却される熱源、及びその中に熱を遮断することができるヒートシンクを有するタイプ
の冷却システムであって、
約2~約30トンの能力を有し、
(a)少なくとも約95重量%のトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(トランス-1233zd)、又は少なくとも約80重量%のトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(トランス-HFO-1234ze)を含む冷媒を含む熱伝達組成物;
(b)約45~約75kPaの圧力の相対的に低圧の冷媒蒸気を受容するための冷媒吸入口、及び約100kPa~約520kPaの圧力の相対的により高圧の冷媒蒸気を吐出するための冷媒吐出口を有し、少なくとも約0.65の効率を有する遠心圧縮機;
(c)圧縮機からの高圧冷媒蒸気を受容し、ヒートシンクによる熱伝達によって冷媒蒸気の少なくとも相当部分を凝縮させて、約10℃~約60℃の範囲の温度の高圧冷媒液を生成させるための、圧縮機の冷媒吐出口に流体接続されている凝縮器;
(d)高圧冷媒液の少なくとも第1の部分の圧力を実質的に等エンタルピー低下させて、約45~約75kPaの圧力の冷媒液と冷媒蒸気の組合せを含む低圧流を生成させるための、凝縮器に流体接続されている少なくとも第1の膨張器;
(e)少なくとも、かかる少なくとも第1の膨張器からの冷媒蒸気と冷媒液の組合せを受容し、ほぼかかる低圧の液体冷媒を含み、実質的に蒸気の冷媒を含まない少なくとも1つの液体流出流、及びほぼかかる低圧の冷媒蒸気を含み、実質的に液体の冷媒を含まない低圧蒸気流を生成させるための分離器;及び
(f)分離器からの少なくとも1つの液体流出流の少なくとも一部に流体接続されていて、冷却される熱源から熱を吸収することによってかかる流れの少なくとも一部を蒸発させて、約45~約75kPaの圧力の低圧冷媒蒸気を生成させるための蒸発器(蒸発器からの冷媒蒸気の少なくとも一部は圧縮機吸入口に流体接続されている);
を含む冷却システム。
【請求項11】
冷媒が少なくとも約80重量%のトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(トランス-HFO-1234ze)を含む、請求項10に記載の冷却システム。
【請求項12】
冷媒が少なくとも約95重量%のトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(トランス-1233zd)を含む、請求項10に記載の冷却システム。
【請求項13】
冷却される熱源、及びその中に熱を遮断することができるヒートシンクを有するタイプの冷却システムであって、
約2~約30トンの能力を有し、
(a)好ましくは少なくとも約95重量%のトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(トランス-1233zd)又は少なくとも約80%のトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(トランス-HFO-1234ze)を含む燃焼抑制特性を有する冷媒を含む、閉止ループ冷却回路内の熱伝達組成物;
(b)冷却される熱源に近接している領域内に配置されている、かかる近接領域内における炎又は火災の存在を感知するための少なくとも1つのセンサー;
(c)冷却システム内に含まれる相対的に高圧の冷媒蒸気と連絡している、閉止ループ冷却回路内のポート;
(d)センサーに応答し、冷却システムから冷媒蒸気の少なくとも一部を吐出するためのポートに流体連絡しているバルブ;及び
(e)かかる近接領域に冷媒蒸気を送るための導管;
を含む冷却システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2016年1月6日出願の米国仮出願62/275,382(その全部を参照として本明細書中に包含する)に関連し、その優先権の利益を主張する。
本発明は、概して空調システムに関し、より詳しくは、遠心圧縮機を用い、約30トンまでの範囲の冷却能力を有するかかるシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
化合物の1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HFCO-1233zd)及び1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)などの幾つかのハロゲン化オレフィンは、蒸気圧縮冷却システムにおいて用いることが提案されている。US-7,833,433を参照。‘433特許においては、標準的な蒸気圧縮システムが、冷媒蒸気を圧縮して相対的に上昇した圧力及び温度の蒸気を生成させるための圧縮機を含むものとして記載されている。かかるシステムの例を本明細書において
図Pとして示す。かかるシステムにおいては、導管19Aを通して冷媒を相対的に低い圧力で圧縮機11の吸入側の中に導入し、高圧の冷媒を吐出して、導管19Bを通して凝縮器12に送る。凝縮器12内において冷媒蒸気を凝縮させることによってこの高温の冷媒蒸気から熱を除去して、相対的に高い圧力の液体冷媒を生成させて、これを導管15Aに導入する。次に、相対的に高い圧力の液体を、膨張装置14内でみかけの等エンタルピー圧力低下にかけて、相対的に低い温度で低い圧力の液体を生成させ、これを次に蒸発器24内において冷却される物体又は流体から移動される熱によって気化させる。かくして生成する低圧の蒸気は、導管19Aを通して圧縮機の吸入側に戻して、これによってサイクルが完結する。
【0003】
‘433特許においては、概して、そこに開示する冷媒組成物は、遠心圧縮機を用いるチラーシステムを含む蒸気圧縮システムを用いる種々の異なる冷却運転において用いることができることが示唆されている。通常は、遠心式チラーは、大能力のシステム、即ち50トンよりも高い能力を有するシステムである。最も通常的には、かかるシステムは50~150トンの範囲の冷却能力のものであり、幾つかのシステムは8500トンの高さに至っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本出願人らは、高効率の遠心圧縮機を用いる小能力空調システムにおいてトランス-HFCO-1233zd及び/又はトランス-HFO-1234zeを用いる試みに関して幾つかの予期しなかった問題が存在することを認識するに至った。下記において詳細に記載するように、本出願人らは、予期しなかったことに、高効率の圧縮機及び蒸発器を含む高効率の装置を用いることを可能にする1以上の特別な構成を空調システムにおいて用いることによって、かかるシステムにおいてトランス-HFCO-1233zd及び/又はトランス-HFO-1234zeを用いることに関して本出願人らが認識している問題を同時に克服しながら、これらの問題を克服することができることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願人らは、高効率の遠心圧縮機及び高効率の蒸発器を用いる低能力の空調システム
を提供することが多くの用途において非常に望ましいことを認識するに至った。しかしながら、本出願人らはまた、高い割合(例えば約80重量%超)のHCFO-1233zd(E)又は高い割合(例えば約80重量%超)のHFO-1234ze(E)を含む冷媒組成物を用いると、かかるシステムの信頼性及び/又は有効性及び/又は効率に関して重大な問題をもたらす可能性があることも認識するに至った。
【0007】
例えば、幾つかの空調システムにおいては満液式蒸発器を用いることが非常に望ましい。これは、かかる熱交換装置は液体冷媒への高効率の熱移動が可能であるからである。この高効率の運転は、少なくとも部分的には、かかる装置においては伝熱面が液体冷媒によって実質的に十分に覆われているという事実のためである。しかしながら、かかる高効率の装置を用いる結果として、かかる蒸発器から排出される蒸気は実質的に飽和状態であり、即ち過熱を少ししか有しないか又は全く有しない。これは効率の観点からは有利であるが、かかる状況においては飽和又は飽和付近の状態で圧縮機に導入される蒸気が凝縮しないことを確実にすることが特に重要になる。これは、圧縮機内にかかる液体冷媒が存在することは圧縮機運転の効率及び/又は信頼性に対してマイナスの結果を与えるからである。高効率の圧縮機内で起こるみかけの等エントロピー膨張中においては、熱が冷媒蒸気に加えられて、圧縮機からの吐出の際に少なくとも約5℃の過熱が生成するので、他の冷媒を用いる通常の運転条件下においては、圧縮機吸入口において飽和又は飽和付近の冷媒蒸気を用いることは問題を示さない。
【0008】
しかしながら、本出願人らは、本発明において好ましいタイプの条件下で高効率の遠心圧縮機を用いるシステムにおいて本発明の好ましい冷媒組成物を用いる場合には問題が生じることを認識するに至った。より具体的には、本出願人らは、本発明の好ましい冷媒組成物は、通常の条件下において、高効率の圧縮中に通常の量又は予期される量の過熱を生成しないことを見出した。実際には、本出願人らは、高効率の遠心圧縮機の運転に関して、本発明において与える1つ又は複数の解決策が存在しない場合には、圧縮機から「湿潤蒸気」が吐出されることを見出した。本明細書において用いる「湿潤蒸気」という用語は、凝縮液がその中に同伴している蒸気を指す。当業者に周知なように、圧縮機内にかかる蒸気が存在することは、遠心圧縮機の効率的及び/又は信頼できる運転にとって非常に有害である可能性がある。したがって、本出願人らは、本発明の好ましい形態による冷媒を用いると、本解決手段が存在しない場合には、特に高効率の低過熱又は無過熱の蒸発器も用いる用途においては、高効率の遠心圧縮機の運転において予期しなかった問題が生成する可能性があることを見出した。しかしながら、本出願人らはまた、本発明の好ましい熱伝達組成物を用いてかかるシステムを運転することは、有利で環境に優しい運転を与えることができるので非常に望ましいことも認識するに至った。
【0009】
本出願人らが認識するに至った問題及び困難性を克服するために、本発明の一形態は、冷却される熱源、及びその中に熱を遮断することができるヒートシンクを有するタイプの冷却システムであって、
好ましくは約2~約30トンの能力を有し、
(a)少なくとも約80重量%のトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd(E))、又は少なくとも約80重量%のトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze(E))を含む冷媒を含む熱伝達組成物;
(b)(i)約40~約350kPaの圧力の相対的に低圧の冷媒蒸気を受容するための冷媒吸入口(refrigerant suction)、及び(ii)所定圧力の相対的に高圧の冷媒蒸気
を吐出するための吐出口(discharge)を有し、吐出口:吸入口の圧力比が少なくとも約2
:1である遠心圧縮機;
(c)圧縮機吐出冷媒蒸気の少なくとも一部を受容し、ヒートシンクによる熱伝達によって冷媒蒸気の少なくとも相当部分、好ましくは冷媒蒸気の実質的に全部を凝縮させて、
約10℃~約60℃の範囲の温度の相対的に高圧の冷媒液を生成させるための、圧縮機の冷媒吐出口に流体接続されている凝縮器;
(d)高圧冷媒液の圧力を実質的に等エンタルピー低下させて、約40~約350kPaの圧力の低圧冷媒液を生成させるための、凝縮器に流体接続されている膨張器;
(e)膨張器からの低圧冷媒液を受容し、冷却される熱源から熱を吸収することによって低圧冷媒液を蒸発させて、約40~約350kPaの圧力の相対的に低圧の冷媒蒸気を生成させるための、膨張器に流体接続されていている高効率蒸発器、好ましくは満液式蒸発器(蒸発器から排出される冷媒蒸気は好ましくは実質的に過熱を有しない);
(f)蒸発器と圧縮機の冷媒吸入口の間で流体接続されていて、蒸発器からの低圧冷媒蒸気の少なくとも一部を受容し、低圧冷媒蒸気を加熱して、少なくとも1つの熱交換器に導入される蒸気の温度よりも少なくとも約5℃高い温度を有する低圧冷媒蒸気を生成させる少なくとも1つの熱交換器(少なくとも1つの熱交換器からの高温冷媒蒸気は、低圧冷媒蒸気を圧縮機に供給するための圧縮機吸入口と流体接続されている);
を含む上記冷却システムを提供する。
【0010】
本明細書において用いる、「トン」の数値の単位で規定される「能力」という用語は、1トン(2000ポンド;907kg)の0℃(32°F)の氷を24時間で融解させるために必要な熱の量に等しい熱伝達率を指し、一般に約12,000BTU/時に等しい。
【0011】
本発明の他の態様及び形態を下記に開示する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】
図Pは従来技術の熱伝達システムの図である。
【
図1B】
図1は、本発明による空調システムの1つの好ましい態様の一般化したプロセスフロー図である。
【
図2】
図2は、本発明による空調システムの他の好ましい態様の一般化したプロセスフロー図である。
【
図3】
図3は、本発明による空調システムの他の好ましい態様の一般化したプロセスフロー図である。
【
図4A】
図4Aは、本発明による空調システムの他の好ましい態様の一般化したプロセスフロー図である。
【
図4B】
図4Bは、本発明の一形態による燃焼抑制機構を有する空調システムの好ましい態様のより具体的なプロセスフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
好ましい熱伝達組成物:
本明細書に記載する複数の態様のそれぞれにおいて、本システムは、冷媒、及び好ましくは(必須ではないが)圧縮機のための潤滑剤を含む熱伝達組成物を含む。好ましくは、冷媒は、少なくとも約70重量%、又は少なくとも約80重量%のトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd(E))、又はトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze(E))を含み、好ましくはASHRAE標準規格2013にしたがってクラスAの毒性、及びASHRAE標準規格34-2013にしたがい、且つASHRAE標準規格34-2013への付表B1に記載されているクラス1又はクラス2或いはクラス2Lの燃焼性を有する低燃焼性及び低毒性の冷媒である。
【0014】
システム及び方法に燃焼抑制機構を与えることを含む本明細書に開示するタイプの複数の態様などの非常に好ましい態様においては、冷媒は、少なくとも約95重量%のHFCO-1233zd(E)を含み、幾つかの態様においてはこれから実質的に構成されるか
、又はこれから構成される。
【0015】
他の非常に好ましい態様においては、冷媒は、約1重量%~約5重量%の5炭素飽和炭化水素、好ましくはイソペンタン、n-ペンタン、又はネオペンタンの1以上を含み、かかる態様の好ましい形態においては、HFCO-1233zd(E)とペンタンの組み合わせは共沸性組成物の形態である。かかる共沸混合物及び共沸混合物様の組成物は、米国特許8,802,874、米国特許8,163,196、及び米国特許8,703,006(これらのそれぞれを参照として本明細書中に包含する)において開示されている。このパラグラフに記載する冷媒組成物を含む本発明の熱伝達組成物は、好ましくはPOE及び/又は鉱油及び/又はアルキルベンゼンを含むか、或いはこれらから構成される潤滑剤を含む。
【0016】
システム及び方法に燃焼抑制機構を与えることを含む本明細書に開示するタイプの複数の態様などの非常に好ましい態様においては、冷媒は、約85重量%~約90重量%のトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze(E))及び約10重量%~約15重量%の1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(HFC-227ea)、更により好ましくは幾つかの態様においては約88%のトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze(E))及び約12重量%の1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(HFC-227ea)を含む。このパラグラフに記載する冷媒組成物を含む本発明の熱伝達組成物は、好ましくはPOEを含むか、又はこれから構成される潤滑剤を含む。
【0017】
当業者であれば、本明細書に含まれる開示事項を考慮して、本発明の幾つかの態様は、比較的安全(低い毒性及び低い燃焼性)で低いGWP(これにより、これらは空調用途において通常遭遇する居室に居住する人又は他の動物に近接する位置において用いるのに非常に好ましくなる)の冷媒のみを用いる有利性を与える。
【0018】
本発明の熱伝達組成物は、一般に潤滑剤を含む。しかしながら、本発明の複数の態様は、潤滑剤を必要とせず、及び/又は潤滑剤を冷媒と組み合わせる必要がない圧縮機を用いるシステム及び方法を包含する。しかしながら、潤滑剤と冷媒をシステム内の1以上の位置において混合物として一緒に含ませる好ましい態様に関しては、潤滑剤は、好ましくは、システム内の冷媒の総重量及びシステム内の潤滑剤の総重量を基準として熱伝達組成物の約30~約50重量%の量でシステム内に存在させ、以下に記載する他の随意的な成分も場合によっては存在させる。好ましい態様においては、特に圧縮機からのキャリーオーバー蒸気の形態、及び凝縮器からの液体の形態で蒸発器に導入される本発明の熱伝達組成物は、約97重量%~約99.5重量%の本発明の冷媒、及び約0.5~約3重量%の潤滑剤を含み、かかる潤滑剤は好ましくはPOE潤滑剤及び/又は鉱油潤滑剤である。
【0019】
他の随意的な成分としては、潤滑剤の相溶性及び/又は溶解性を促進する目的のプロパンのような相溶化剤が挙げられる。存在させる場合には、プロパン、ブタン類、及びペンタン類などのかかる相溶化剤は、好ましくは組成物の約0.5~約5重量%の量で存在させる。また、米国特許6,516,837(その開示事項を参照として本明細書中に包含する)によって開示されているように、界面活性剤と相溶化剤の組み合わせを本組成物に加えて油溶性を促進させることもできる。ヒドロフルオロカーボン(HFC)冷媒と共に冷却機内で用いられるポリオールエステル(POE)及びポリアルキレングリコール(PAG)、シリコーン油、鉱油、アルキルベンゼン類(AB)、及びポリ(α-オレフィン)(PAO)のような通常用いられる冷却潤滑剤を、本発明の冷媒組成物と共に用いることができる。本発明の好ましい潤滑剤は、POE及び鉱油並びにアルキルベンゼン類から選択される。
【0020】
システム:
本冷却システム及び方法は、低能力の空調システム、即ち30トン以下の能力を有するシステム、特に住居用空調システム、特に約2~約5トンの能力を有する住居用空調システム、及び特に約5~約30トンの能力を有する商業用パッケージ型屋上空調ユニットにおいて用いるのに特に良く適している。
【0021】
図1に示すタイプの態様:
概して10で示される好ましい空調システムを
図1に示す。かかる好ましい空調システムは、圧縮機11、凝縮器12、蒸発器24(好ましくは満液式蒸発器)、膨張弁14、及び吸入ライン熱交換器30を、任意の関連する導管15A、15B、16A、及び16B、並びに他の接続装置及び関連する装置(図示せず)と一緒に含む。運転においては、本発明による冷媒を、同伴している潤滑剤を含んでいてよい相対的に高圧の冷媒蒸気として圧縮機11から吐出し、これを次に導管19Cを通して凝縮器12に送る。凝縮器12において、冷媒蒸気が、好ましくは相変化によって、好ましくは周囲空気にその熱の一部を移動させて、少なくとも部分的、好ましくは実質的に完全に凝縮された冷媒を含む流出流を生成させる。凝縮器12からの冷媒流出流は、導管15Aを通して吸入ライン熱交換器30に送られて、そこで下記においてより完全に説明するように蒸発器24からの流出流に更なる熱を取られる。吸入/液体ライン熱交換器30からの流出流は、次に導管15Bを通して膨張弁14に送られて、ここで冷媒の圧力を好ましくは実質的に等エンタルピー低下させて、これにより冷媒の温度を低下させる。膨張弁14からの相対的に低温の液体冷媒は、低温の液体冷媒の貯留槽を与える受液器タンク18に流入し、これを導管19A内の制御弁(図示せず)を経由して蒸発器24中に供給し、そこで冷却される物体又は流体、好ましくは冷却される居室又は他の空間内の周囲空気から熱を吸収する。好ましくは実質的に過熱を有しない(例えば、蒸発器から排出される蒸気の過熱は、約1℃未満、より好ましくは約0.5℃未満、更により好ましくは約0.1℃未満である)実質的に飽和状態の冷媒蒸気である蒸発器24からの冷媒流出蒸気は、次に導管19Aを通して吸入/液体ライン熱交換器30に送られ、そこで導管15Aからの凝縮器流出流から熱を得てより高温の冷媒蒸気が生成し、これは導管16Bによって圧縮機11の入口に送られる。好ましい態様においては、吸入ライン熱交換器から排出される蒸気は、吸入ライン熱交換器に導入される実質的に飽和状態の蒸気よりも少なくとも約5℃、更により好ましくは少なくとも約7℃高い温度を有する。次に、高温の冷媒蒸気は圧縮機11の吸入口に送られ、そこで上記に記載したように圧縮される。
【0022】
冷媒が少なくとも約90重量%のHCFO-1233zd(E)を含み、好ましくはこれから実質的に構成され、好ましくはこれから構成される好ましい態様においては、運転条件は下表に記載する値に対応する。
【0023】
【0024】
冷媒が少なくとも約80重量%のHFO-1234ze(E)、更により好ましくは8
8重量%のHFO-1234ze(E)及び12重量%のHFC-227eaを含む好ましい態様においては、運転条件は下表に記載する値に対応する。
【0025】
【0026】
図2に示すタイプの態様:
概して10で示される更なる好ましい空調システムを
図2に示す。かかる好ましい空調システムは、2段圧縮機11として示される多段圧縮機、凝縮器12,蒸発器24(好ましくは幾つかの態様においては満液式蒸発器)、膨張弁14、及び関連する中間膨張弁41を含む蒸気注入熱交換器40を、任意の関連する導管15A~15C及び19A~19D、並びに他の接続装置及び関連する装置(図示せず及び/又は表示せず)と一緒に含む。運転においては、本発明による冷媒を、同伴している潤滑剤を含んでいてよい相対的に高圧の冷媒蒸気として圧縮機11から吐出し、これを次に導管19Dを通して凝縮器12に送る。凝縮器12において、冷媒蒸気が、好ましくは相変化によって、好ましくは周囲空気にその熱の一部を移動させて、少なくとも部分的、好ましくは実質的に完全に凝縮された冷媒を含む流出流を生成させる。凝縮器12からの冷媒流出流は導管15Aを通して送られ、冷媒流出流の一部は導管15Bを通して中間膨張装置41に送られ、流出流の他の部分、好ましくは流出流の残りは、蒸気注入熱交換器40に送られる。
【0027】
運転においては、中間膨張装置41は、流出流の圧力を、ほぼ圧縮機11の第2段吸入口の圧力か、又は熱交換器41及び関連する導管、付属品などを通る圧力低下を計上した圧力よりも十分に高い圧力に、好ましくは実質的に等エンタルピー低下させる。膨張装置41を横切る圧力低下の結果として、熱交換器40に流入する冷媒の温度は、熱交換器40に流入する高圧冷媒の温度と比べて低下する。熱交換器40内において、熱が、高圧の流れから、膨張弁41を通過した流れに移動する。その結果、熱交換器40から排出される中間圧力の流れの温度は、入口流の温度よりも好ましくは少なくとも約5℃の温度高くなり、それにより過熱蒸気流が生成し、これを導管19Cを通して圧縮機11の第2段に送る。
【0028】
導管15Aによって送られるより高圧の流れが熱交換器40を通って送られる際に、それは膨張装置41から排出されるより低圧の流れに熱を取られ、導管15Cを通して熱交換器から排出され、次に、導管19A内の制御バルブ(図示せず)を経由して蒸発器24中に供給される低温の液体冷媒の貯留槽を与える受液器タンク18に流入する。冷却される周囲空気は、蒸発器内の低温の液体冷媒に熱を取られて、これにより液体冷媒が気化して、過熱を少ししか有しないか又は全く有しない冷媒蒸気が生成し、この蒸気を次に圧縮機11の第1段に流入させる。
【0029】
冷媒が少なくとも約90重量%のHCFO-1233zd(E)を含み、好ましくはこれから実質的に構成され、好ましくはこれから構成される好ましい態様においては、運転条件は下表に記載する値に対応する。
【0030】
【0031】
冷媒が少なくとも約80重量%のHFO-1234ze(E)、更により好ましくは88重量%のHFO-1234ze(E)及び12重量%のHFC-227eaを含む好ましい態様においては、運転条件は下表に記載する値に対応する。
【0032】
【0033】
図3に示すタイプの態様:
概して10で示される更なる好ましい空調システムを
図3に示す。かかる好ましい空調システムは、本明細書に記載されているタイプの多段圧縮機であってよいが、示されている態様においては1段圧縮機として示されている圧縮機11、凝縮器12,蒸発器24(好ましくは幾つかの態様においては満液式蒸発器)、膨張弁14、フラッシュガス分離器18を、任意の関連する導管15A~15C及び19A~19C、並びに他の接続装置及び関連する装置(図示せず及び/又は表示せず)と一緒に含む。運転においては、本発明による冷媒を、同伴している潤滑剤を含んでいてよい相対的に高圧の冷媒蒸気として圧縮機11から吐出し、これを次に導管19Cを通して凝縮器12に送る。凝縮器12において、冷媒蒸気が、好ましくは相変化によって、好ましくは周囲の外気にその熱の一部を移動させて、少なくとも部分的、好ましくは実質的に完全に凝縮された冷媒を含む流出流を生成させる。凝縮器12からの冷媒流出流は、導管15Aを通して膨張装置14に送られる。膨張器14から排出されるより低圧の流れは、導管15Bを通って、導管15C内の制御バルブ(図示せず)を経由して蒸発器24に供給される低温の液体冷媒の貯留槽を与えるフラッシュガス分離器18に流入する。冷却される周囲空気は、蒸発器24内の低温の液体冷媒に熱を取られて、これにより液体冷媒が気化して、過熱を少ししか有しないか又は全く有しない冷媒蒸気が生成し、この蒸気を次に圧縮機11の第1段に流入させる。次に、膨張装置14内における圧力低下中に生成するフラッシュガスを、導管19Bを通して圧縮機11の吸入側に流入させる。
【0034】
冷媒が少なくとも約90重量%のHCFO-1233zd(E)を含み、好ましくはこ
れから実質的に構成され、好ましくはこれから構成される好ましい態様においては、運転条件は下表に記載する値に対応する。
【0035】
【0036】
冷媒が少なくとも約80重量%のHFO-1234ze(E)、更により好ましくは88重量%のHFO-1234ze(E)及び12重量%のHFC-227eaを含む好ましい態様においては、運転条件は下表に記載する値に対応する。
【0037】
【0038】
図4Aに示すタイプの態様:
概して10で示される更なる好ましい空調システムを
図4Aに示す。かかる好ましい空調システムは、本明細書に記載されているタイプの多段圧縮機であってよい圧縮機11、凝縮器12,蒸発器24(好ましくは幾つかの態様においては満液式蒸発器)、膨張弁14、高圧受液器を、任意の関連する導管15A~15C及び19A~19B、並びに他の接続装置及び関連する装置(図示せず及び/又は表示せず)と一緒に含む。運転においては、本発明による冷媒を、同伴している潤滑剤を含んでいてよい相対的に高圧の冷媒蒸気として圧縮機11から吐出し、これを次に導管19Bを通して凝縮器12に送る。凝縮器12において、冷媒蒸気が、好ましくは相変化によって、好ましくは周囲の外気にその熱の一部を移動させて、少なくとも部分的、好ましくは実質的に完全に凝縮された冷媒を含む流出流を生成させる。凝縮器12からの冷媒流出流は、導管15Aを通して、液体冷媒の貯留槽を与える高圧受液器50に送られる。センサー作動式安全弁60が、ポート又は他の形態の接続部を介して導管15Aに接続されている。センサー作動式安全弁は、炎、煙、可燃性ガス濃度、又は炎が存在しているか又は発生する可能性が高いことの他の兆候を監視するセンサーを含み、及び/又はこれと通信接続されており、かかるセンサーは、冷却システムの幾つかの部分の近傍、好ましくは冷却される居室又は他の領域内に配置される。本発明の好ましい冷媒は燃焼性抑制特性を有しているので、センサーが炎及び/又は煙(又は火災の可能性又は増加した見込みが存在することの他の兆候)を検出したら、センサー作動式安全弁が開放され、それが配置されている領域中に冷媒を放出して、これ
により火災の抑止及び/又は排除を助ける。高圧受液器を用いることにより、かかる非常時の場合に高圧液体冷媒の比較的大きな貯留槽を利用できるようになることが確保される。冷却システムの残りは、本明細書に記載する任意の1以上の態様にしたがって運転することができる。
【実施例0039】
実施例1:吸入ライン熱交換器を用いない1233zd:
従来技術と表示されている図面に示される代表的な配置にしたがう空調システムにおいて、以下のパラメーターにしたがってHCFO-1233zd(E)から構成される冷媒を用いた。
【0040】
運転条件:
1.蒸発温度:7℃;
2.凝縮温度:20℃~60℃で変化;
3.等エントロピー効率:0.7~0.8で変化;
4.過冷却又は過熱なし。
【0041】
本実施例のシステムは蒸発器から排出される蒸気中に過熱を有しない(これは、例えば満液式蒸発器を用いる場合にあてはまる)ので、飽和蒸気が遠心圧縮機の吸入側に導入される。多くの他の冷媒を用いる通常運転においては、冷媒蒸気の等エントロピー又はほぼ等エントロピーの膨張によって、吐出圧において少なくとも約5℃の過熱を示す温度を有する吐出ガスが生成する。この過熱度は、一般に、「湿潤蒸気」が圧縮機内に存在しないことを確保する圧縮機の安全で信頼できる運転を確保するために必要であると考えられている。本実施例のシステムに関して、幾つかのレベルのほぼ等エントロピーの圧縮における運転を評価して、HCFO-1233zd(E)を用いて安全で信頼できる運転が達成されるかどうかを求めた。これらの結果を下表1に報告する。
【0042】
【0043】
上表1において報告されている結果から分かるように、最も効率の良い圧縮機(等エントロピー効率=1)を用いた場合には、圧縮機から排出される蒸気は少なくとも多少の割
合の液体を含み、したがって湿潤蒸気吐出流が生成し、これは上記に記載したように効率的及び/又は信頼できる運転に関して重大なマイナス要素を与える。圧縮機効率を0.8まで低下させた場合、試験した凝縮器温度のいずれに関しても所望のレベルの過熱は未だ達成されなかった。圧縮機効率を0.75及び0.7まで低下させた場合(それ自体は好ましいオプションではない)でも、凝縮器温度条件の全範囲に関して所望のレベルの過熱は達成されなかった。
【0044】
実施例2A:吸入ライン熱交換器を用いる1233zd:
図1に示すような吸入ライン熱交換器(SLHX)を用い、HCFO-1233zd(E)から構成される冷媒を用いて、本発明による配置にしたがう空調システムを、実施例1と同じ運転パラメーターにしたがって、80%の等エントロピー効率で運転する1段圧縮機に関して試験した。吸入ライン熱交換器に関する熱交換器効率の幾つかのレベルを調べて、結果を下表2Aに報告する。
【0045】
【0046】
上記に報告する結果から分かるように、
図1に示すような本発明の態様による運転によって、試験した凝縮温度の全範囲に関して圧縮機吐出において少なくとも約5℃の過熱が生成した。
【0047】
実施例2B:R1233zdとの共沸混合物:
実施例2Aにおいて用いた1233zd(E)のみから構成される冷媒に代えて、下表2Bに記載するHCFO-1233zd(E)をベースとする一連の共沸性冷媒ブレンドを用いた他は、実施例2Aを繰り返した。許容しうる運転が達成された。
【0048】
更に、これらの更なる冷媒の輸送特性を、HCFO-1233zd(E)から構成される冷媒の特性と一緒に試験し、下記の表2Bにおいて報告する。
【0049】
【0050】
実施例3A:吸入ライン熱交換器を用いる1233zd:
0.5及び0.7のSLHX有効度を有する吸入ライン熱交換器(SLHX)を用い、HCFO-1233zd(E)から構成される冷媒を用いて、実施例1と同じ運転パラメーターにしたがって、
図1に示す本発明による空調システムを試験した。この試験は、かかるシステムと、SLHXを用いない実施例1に記載したシステム(両方のシステムとも80%の圧縮機効率を用いる)との相対的有効性の比較を与えるものであり、この比較を下表3Aに報告する。
【0051】
【0052】
表3Aにおいて上記で報告する結果から分かるように、湿潤蒸気の問題を克服するのに加えて、
図1の構成にしたがうシステムは、試験した全ての条件に関して全システム効率(COP)の向上を与えた。
【0053】
実施例4A:多段圧縮機を用いる1233zd:
図2に示すシステム構成にしたがう2段圧縮機を用いる本発明による空調システムを、
HCFO-1233zd(E)から構成される冷媒を用いて30℃~60℃の範囲の一連の凝縮温度にわたって試験した。これらの凝縮器温度のそれぞれに関して、80%の等エントロピー効率及び7℃の蒸発器温度における圧縮機に関する運転条件を表4A1に報告する。
【0054】
【0055】
多段圧縮機配置を用いる
図2に示すものと同じ空調を、HCFO-1233zd(E)から構成される冷媒を用いて試験し、実施例1における構成にしたがう1段圧縮機の運転と比べた。更に、R11から構成される冷媒に関して、同じ組の比較試験を行った。これらの比較試験の結果を下表4A2に報告する。
【0056】
【0057】
上記に報告する結果から分かるように、本発明の構成を用いるとシステム効率(COP)における劇的な向上が認められ、
図2に示すタイプの態様によれば、2及び3段圧縮を用いる結果として115%までの量の向上が認められた。更に、上記に報告する試験結果は、2段及び3段圧縮機運転の両方においてHCFO-1233zd(E)を用いると、同じであるがR-11を用いるシステムにおいて認められる向上と比べて効率(COP)における実質的により良好な向上が得られたことを示している。
【0058】
実施例5:フラッシュガス分離器を用いる1233zd及び1233zdブレンド:
図3に示すフラッシュガス分離器を用い、HCFO-1233zd(E)から構成される冷媒、及び下表5において特定するブレンドを用いて、本発明による配置にしたがう空調システムを、実施例1と同じ運転パラメーターにしたがって、80%の等エントロピー
効率で運転する1段圧縮機に関して試験した。蒸発器は満液式構成で運転し、蒸発器を横切る減少した圧力低下が与えられ、これにより圧縮機におけるより高い吸引圧力が与えられた。更に、システム内の圧力は、HCFO-1233zd(E)から構成される冷媒及び表5におけるブレンドを用いる結果として比較的低いので、低コスト材料で形成される小型熱交換器を用いることができる。例えば、円形チューブ/フィン及び/又はマイクロチャンネル熱交換器を、銅に代えてアルミニウムで形成することができる。この構成によって、優れた熱交換性能の低重量で小型の熱交換システムが与えられる。
【0059】
実施例6:センサー作動式安全弁を用いる1233zd(E)及び1233zd(E)のブレンド:
図4A及び4Bに示すセンサー作動式安全弁を用い、HCFO-1233zd(E)から構成される冷媒、及び表2Bに開示する冷媒のそれぞれを用いて、本発明による配置にしたがう空調システムを試験した。センサー作動式安全弁は、好ましくはソレノイドタイプの弁である。用いたセンサーは、家庭用暖房ヒーターユニット内の天然ガス濃度を測定するもものであった。例えば暖房ヒーターのバーナー機構の天然ガスの漏れのように燃料が漏れている場合には、センサーが例えば1000ppmの上昇したガス濃度を検出して、ソレノイド弁を作動させる。作動した弁が開放され、R1233zd(E)をこの燃焼性の天然ガス雰囲気中に放出する。R1233zd(E)の燃焼抑制特性のために、感知された燃焼性の雰囲気に近接して配置されている安全弁の近傍の火災状態を抑止及び/又は排除することによって火災の可能性が減少する。而して、センサーによって火災状態又は増加した火災の可能性を示す状態が検出され、安全弁が開放されて、感知された炎及び/又は感知された状態に近接して配置されている安全弁の近傍の火災状態が抑止及び/又は排除される。
【0060】
実施例7A:吸入ライン熱交換器を用いない1234ze(E)ブレンド:
従来技術と表示されている図面に示される代表的な配置にしたがう空調システムにおいて、以下のパラメーターにしたがって約88重量%のHFO-1234ze(E)及び約12重量%のR227eaから構成される冷媒を用いた。
【0061】
運転条件-従来技術:
1.蒸発温度:7℃;
2.凝縮温度:20℃~60℃で変化;
3.等エントロピー効率:0.7~0.8;
4.過冷却又は過熱なし。
【0062】
本実施例のシステムは蒸発器から排出される蒸気中に過熱を有しない(これは、例えば満液式蒸発器を用いる場合にあてはまる)ので、飽和蒸気が遠心圧縮機の吸入側に導入される。多くの他の冷媒を用いる通常運転においては、冷媒蒸気の等エントロピー又はほぼ等エントロピーの膨張によって、吐出圧において少なくとも約5℃の過熱を示す温度を有する吐出ガスが生成する。この過熱度は、一般に、「湿潤蒸気」が圧縮機内に存在しないことを確保する圧縮機の安全で信頼できる運転を確保するために必要であると考えられている。本実施例のシステムに関して、幾つかのレベルのほぼ等エントロピーの圧縮における運転を評価して、上記のHFO-1234ze(E)とR-227eaのブレンドを用いて安全で信頼できる運転が達成されるかどうかを求めた。これらの結果を下表7Aに報告する。
【0063】
【0064】
上表7Aに報告する結果から分かるように、試験した条件の5つを除いて全ては、圧縮機吐出において5℃の最小レベルの過熱を生成せず、この最小値より多い過熱を生成した条件は、高い凝縮器温度において0.7の望ましくなく低い等エントロピー効率を用いたものであった。
【0065】
実施例7B:吸入ライン熱交換器を用いる1234zeブレンド:
図1に示すような吸入ライン熱交換器(SLHX)を用い、約88重量%のHFO-1234ze(E)及び約12重量%のR227eaから構成される冷媒を用いて、本発明による配置にしたがう空調システムを、実施例7と同じ運転パラメーターにしたがって、80%の等エントロピー効率で運転している1段圧縮機に関して試験した。吸入ライン熱交換器に関する熱交換器効率の幾つかのレベルを調べて、結果を下表7Bに報告する。
【0066】
【0067】
上表7Bに報告する結果から分かるように、
図1に示すような本発明の態様による運転によって、試験した凝縮温度の全範囲に関して圧縮機吐出において少なくとも約5℃の過熱が生成した。
【0068】
実施例7C:吸引ライン熱交換器を用いる1234zeブレンド:
0.5及び0.7のSLHX有効度を有する吸入ライン熱交換器(SLHX)を用い、約88重量%のHFO-1234ze(E)及び約12重量%のR227eaから構成される冷媒を用いて、実施例7Aと同じ運転パラメーターにしたがって、
図1に示す本発明による空調システムを試験した。この試験は、かかるシステムと、SLHXを用いない実施例7Aに記載したシステム(両方のシステムとも80%の圧縮機効率を用いる)との相対的有効性の比較を与えるものであり、この比較を下表7Cに報告する。
【0069】
【0070】
表7Cにおいて上記で報告する結果から分かるように、湿潤蒸気の問題を克服するのに加えて、
図1の構成にしたがうシステムは、試験した全ての条件に関して全システム効率(COP)の向上を与えた。
【0071】
実施例8A:多段圧縮機を用いる1234zeブレンド:
図2に示すシステム構成にしたがって2段圧縮機及び3段圧縮機を用い、約88重量%のHFO-1234ze(E)及び約12重量%のR227eaから構成される冷媒を用いて、本発明による空調システムを試験し、実施例1における構成にしたがって運転する1段圧縮機の運転と比べた。更に、R134aから構成される冷媒に関して、同じ組の比較試験を行った。これらの比較試験の結果を下表8Aに報告する。
【0072】
【0073】
上記に報告する結果から分かるように、
図2に示すタイプの態様にしたがって本発明の構成を用いると、2及び3段圧縮を用いる結果として115%までの量のシステム効率(COP)における劇的な向上が認められた。更に、上記に報告する試験結果は、2段及び3段圧縮機運転の両方においてHFO-1234ze(E)/227eaブレンドを用いると、同じであるがR134aを用いるシステムにおいて認められる向上と比べて効率(COP)における実質的により良好な向上が得られたことを示している。
【0074】
実施例9:
上記の実施例のそれぞれにおいては、システムは運転中に冷媒と接触するプラスチック部品を含む。それからこれらの部品を製造するこれらの材料は、適合性及び/又は安定である。本出願人らは、トランス-HFCO-1233zdに曝露した際の種々のプラスチック材料の安定性を試験した。試験は、種々のプラスチックの試料を、周囲圧力条件下、室温(約24℃~25℃)においてトランス-HFCO-1233zd中に2週間浸漬し、その後、試料をトランス-HFCO-1233zdから取り出して24時間脱ガスすることを含む。結果を下表9に報告する。
【0075】
【0076】
上表5における結果によって示されるように、試験したプラスチック材料のそれぞれに関する平均体積変化(%)は5%未満であった。