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特開2022-174400水電解セル、および、水電解セルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174400
(43)【公開日】2022-11-24
(54)【発明の名称】水電解セル、および、水電解セルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/00 20210101AFI20221116BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20221116BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20221116BHJP
   C25B 9/65 20210101ALI20221116BHJP
   C25B 9/67 20210101ALI20221116BHJP
   C25B 13/02 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
C25B9/00 A
C25B1/04
C25B9/23
C25B9/65
C25B9/67
C25B13/02 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080169
(22)【出願日】2021-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(72)【発明者】
【氏名】村田 元
(72)【発明者】
【氏名】植田 忠伸
(72)【発明者】
【氏名】香山 智之
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC01
4K021BC05
4K021CA03
4K021CA07
4K021CA12
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB49
4K021DB53
4K021DC01
4K021DC03
4K021EA05
(57)【要約】
【課題】 水電解セルにおいて、部材の劣化を抑制し、水の電気分解を安定して行う技術を提供する。
【解決手段】 水電解セルは、複極板と、水を拡散させる拡散層と、複極板とは別体に形成され、複極板と拡散層との間に配置される板状の水電解用集電板であって、導電性金属材料を含んでおり、一方の主面に凸部が形成され、他方の主面のうち、一方の主面に凸部が形成されている部分の反対側の部分には凹部が形成されている水電解用集電板と、を備え、水電解用集電板は、凸部の先端が拡散層に接触し、凹部の内側を水が流通可能なように形成されており、一方の主面側を流通する気体が、凹部の内側に移動することを規制する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水電解セルであって、
複極板と、
水を拡散させる拡散層と、
前記複極板とは別体に形成され、前記複極板と前記拡散層との間に配置される板状の水電解用集電板であって、導電性金属材料を含んでおり、一方の主面に凸部が形成され、他方の主面のうち、前記一方の主面に前記凸部が形成されている部分の反対側の部分には凹部が形成されている水電解用集電板と、を備え、
前記水電解用集電板は、
前記凸部の先端が前記拡散層に接触し、前記凹部の内側を水が流通可能なように形成されており、
前記一方の主面側を流通する気体が、前記凹部の内側に移動することを規制する、
水電解セル。
【請求項2】
請求項1に記載の水電解セルであって、
前記水電解用集電板の前記凸部は、前記一方の主面において、第1の方向に沿って延設され、かつ、前記第1の方向に交差する方向に複数並んで配置される、
水電解セル。
【請求項3】
請求項2に記載の水電解セルであって、
前記水電解用集電板は、
互いに隣接する2つの凸部のそれぞれの先端の間の距離が、1mm以下であり、
前記凸部の高さが、0.6mm以下である、
水電解セル。
【請求項4】
請求項1に記載の水電解セルであって、
前記水電解用集電板は、前記一方の主面に、略円筒形状の前記凸部が複数形成されている、
水電解セル。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の水電解セルであって、
前記水電解用集電板の厚みは、0.2mm以下である、
水電解セル。
【請求項6】
水電解セルの製造方法であって、
導電性金属材料を含む板状の部材を、冷間加工によって、一方の主面に凸部を形成し、他方の主面のうち、前記一方の主面に前記凸部が形成されている部分の反対側の部分に凹部が形成し、水電解用集電板を成形する加工工程と、
前記水電解用集電板を、複極板と拡散層との間に配置する配置工程と、を備える、
水電解セルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水電解セル、および、水電解セルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、水を電気分解して、水素ガスと酸素ガスを生成する水電解セルが知られている(例えば、特許文献1)。一般的に、水電解セルでは、電気分解される水は、複極板に形成されている流路を流れる。この複極板は、電極と電気的に接続されており、水を電気分解するための電力を電極に供給する。このため、複極板と電極との接点には電流が集中するため、発熱しやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-12994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複極板と電極との接点における発熱によって部材に温度が上昇する場合、流路を流れる水を用いて冷却する場合がある。しかしながら、流路を流れる水の一部は、電気分解されるため、流路を流れていくにしたがって流量が徐々に減少する。さらに、流路を流れる水には、電気分解によって生成される酸素ガスが含まれるため、流路の単位体積当たりの水の量はさらに減少する。このため、流路を流れる水では発熱個所を十分に冷却することが困難であり、局所的に温度が上昇するヒートスポットが発生するため、部材が劣化するおそれがあった。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、水電解セルにおいて、部材の劣化を抑制し、水の電気分解を安定して行う技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、水電解セルが提供される。この水電解セルは、複極板と、水を拡散させる拡散層と、前記複極板とは別体に形成され、前記複極板と前記拡散層との間に配置される板状の水電解用集電板であって、導電性金属材料を含んでおり、一方の主面に凸部が形成され、他方の主面のうち、前記一方の主面に前記凸部が形成されている部分の反対側の部分には凹部が形成されている水電解用集電板と、を備え、前記水電解用集電板は、前記凸部の先端が前記拡散層に接触し、前記凹部の内側を水が流通可能なように形成されており、前記一方の主面側を流通する気体が、前記凹部の内側に移動することを規制する。
【0008】
この構成によれば、板状の水電解用集電板は、一方の主面に形成されている凸部の先端が拡散層に接触しており、複極板から水電解用集電板を介して拡散層に電流が流れる。これにより、凸部の先端と拡散層との接触部分に電流が集中するため、温度が上昇しやすく、ヒートスポットになりやすい。上述の構成では、水電解用集電板は、他方の主面のうち、一方の主面に凸部が形成されている部分の反対側の部分には、水が流通可能な凹部が形成されている。これにより、凹部の内側を流れる水によって、凸部の先端と拡散層との接触部分を効率的に冷却することができる。さらに、水電解用集電板は、一方の主面側を流
通する気体が凹部の内側に移動することを規制するように形成されている。一方の主面側では、水の電気分解によって酸素ガスが生成されるため、一方の主面側を流れる水は、下流に向かうにしたがって含まれる酸素ガスの量が多くなり、冷却効率が低下する。一方、他方の主面側を流れる水には、下流であっても酸素ガスは含まれないため、冷却効率が維持され、凸部の先端と拡散層との接触部分を冷却することができる。したがって、水電解セルにおいて、ヒートスポットの発生を抑制することができるため部材の劣化が抑制され、水の電気分解を安定して行うことができる。
【0009】
(2)上記形態の水電解セルにおいて、前記水電解用集電板の前記凸部は、前記一方の主面において、第1の方向に沿って延設され、かつ、前記第1の方向に交差する方向に複数並んで配置されていてもよい。この構成によれば、凸部の先端と拡散層との接触によって温度が上昇しやすい部分は、水電解用集電板と拡散層との接触面において比較的均等に分布するため、局所的な温度上昇を抑制することができる。さらに、凸部の先端と拡散層との接触部分を効率的に冷却する水が流れる凹部も、一方の主面に凸部が形成されている部分の反対側の部分に形成されているため、水電解用集電板と拡散層との接触面において比較的均等に配置されており、凸部の先端と拡散層との接触部分を冷却することができる。したがって、ヒートスポットの発生を抑制することができるため、水の電気分解を安定して行うことができる。
【0010】
(3)上記形態の水電解セルにおいて、前記水電解用集電板は、前記複極板と前記拡散層との間に配置されており、互いに隣接する2つの凸部のそれぞれの先端の間の距離が、1mm以下であり、前記凸部の高さが、0.6mm以下であってもよい。この構成によれば、互いに隣接する2つの凸部のそれぞれの先端の間の距離が比較的小さいため、一方の主面側の水の流れは、乱流になりやすい。これは、凸部の反対側に形成される凹部においても同様である。これにより、水電解用集電板の一方の主面側の水は、流れが乱れるため、水の電気分解が進むことで酸素ガスが含まれるようになっても、拡散層に水を供給しやすくなる。また、水電解用集電板の他方の主面側の水は、流れが乱れるため、水による冷却効果を向上させることができる。さらに、上述の構成によれば、凸部の高さは、隣接する2つの凸部のそれぞれの先端の間の距離と同程度のスケールを有しており、水が流れる流路として比較的深い。これにより、一方の主面側と他方の主面側とのそれぞれにおいて圧力損失を低減することができるため、水を流すために必要なエネルギを低減することができる。したがって、水電解セルにおいて水の電気分解を行うために必要なエネルギを低減しつつ、ヒートスポットの発生を抑制することができるため、水の電気分解を安定して行うことができる。
【0011】
(4)上記形態の水電解セルにおいて、前記水電解用集電板は、前記一方の主面に、略円筒形状の前記凸部が複数形成されていてもよい。この構成によれば、水電解用集電板の一方の主面に形成されている複数の凸部は、略円筒形状を有している。ここで「略円筒形状」の断面形状である「円」は、真円に限られず、一見して円形状のものや、楕円形状にものも含まれる。一方の主面に沿って流れる水は、複数の凸部の間を流れることで凸部に衝突し、流れの方向が変化する。これにより、水電解用集電板の一方の主面側の水は、流れが乱れるため、水の電気分解が進むことで酸素ガスが含まれるようになっても、拡散層に水を供給しやすくなる。また、略円筒形状の凹部が複数形成される他方の主面側においても、他方の主面に沿って流れる水は、流れが乱れるため、水による冷却効果を向上させることができる。したがって、ヒートスポットの発生を抑制することができるため、水の電気分解を安定して行うことができる。
【0012】
(5)上記形態の水電解セルにおいて、前記水電解用集電板の厚みは、0.2mm以下であってもよい。この構成によれば、水電解用集電板の厚みは、比較的小さいため、熱容量が小さい。これにより、水電解セルの始動時の温度上昇を比較的短時間で行うことがで
きるため、水の電気分解を早期に安定して行うことができる。また、凸部の先端と拡散層との接触部分で電流の集中によって温度が上昇しても、熱容量が小さいため、凹部を流れる水によって冷却しやすい。これにより、水電解用集電板や拡散層の温度を速やかに下げることができるため、ヒートスポットの発生を抑制することができる。したがって、水の電気分解を安定して行うことができる。
【0013】
(6)本発明の別の形態によれば、水電解セルの製造方法が提供される。この水電解セルの製造方法は、導電性金属材料を含む板状の部材を、冷間加工によって、一方の主面に凸部を形成し、他方の主面のうち、前記一方の主面に前記凸部が形成されている部分の反対側の部分に凹部が形成し、水電解用集電板を成形する加工工程と、前記水電解用集電板を、複極板と拡散層との間に配置する配置工程と、を備える。この構成によれば、水電解用集電板は、部材に熱を加えることなく折り曲げる冷間加工によって、凸部と凹部とを形成する。これにより、加熱工程が不要であるため、加熱用の設備が不要であり、比較的短時間で加工することができる。また、加工時に不要となる材料が排出されないため、切削加工に比べて、材料を有効に利用することができる。さらに、このように加工された水電解用集電板では、凹部の内側を流れる水によって、凸部の先端と拡散層との接触部分を効率的に冷却することができるため、ヒートスポットの発生を抑制することができる。したがって、水の電気分解を安定して行うことができる。
【0014】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、水電解用集電板、水電解用集電板の製造方法、水電解セルを製造するときの部材の積層方法、水電解セルを備える水電解装置、水電解装置を含む水電解システム、水電解装置または水電解システムの制御方法、制御部が水電解装置または水電解システムを制御するためのコンピュータプログラム等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態の水電解装置を備える水電解システムの模式図である。
図2】水電解装置が備える水電解セルの模式図である。
図3】水電解装置の概略構成を示す図である。
図4】水電解装置の流路の配置を説明する図である。
図5】アノード側スペーサの斜視図である。
図6】水電解用集電板の斜視図である。
図7】水電解セルの作用を説明する図である。
図8】水電解用集電板の機能を説明する図である。
図9】第1の比較例の水電解セルの作用を説明する図である。
図10】第2の比較例の水電解システムの模式図である。
図11】第1の評価試験の結果を示す図である。
図12】第2の評価試験の結果を示す図である。
図13】第2実施形態の水電解用集電板の模式図である。
図14】第3実施形態の水電解用集電板の模式図である。
図15】第4実施形態の水電解用集電板の模式図である。
図16】第5実施形態の水電解用集電板の斜視図である。
図17】水電解用集電板の断面図である。
図18】第6実施形態のアノード側スペーサの模式図である。
図19】マニホールド部の位置変更による効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の水電解装置101を備える水電解システム100の模式図である。本実施形態の水電解システム100は、水を電気分解することで水素ガスと酸素ガス
とを生成する。水電解システム100は、水電解装置101と、DC電源102と、2台の気液分離器103a、103bと、熱交換器104と、浄水器105と、除湿器106と、純水貯蔵タンク107と、供給ポンプ108などを備える。
【0017】
水電解装置101は、複数の水電解セルを備え、純水貯蔵タンク107とDC電源102に接続されている。水電解装置101は、純水貯蔵タンク107から供給される純水を、DC電源102から供給される電力を用いて電気分解し、酸素ガスと水素ガスとを生成する。水電解装置101の詳細な構成は、後述する。
【0018】
水電解装置101で生成される酸素ガスを含む水は、気液分離器103aにおいて、酸素ガスと水とに分離される。気液分離器103aにおいて分離された酸素ガスは、水電解システム100の外部の供給先に送られる。気液分離器103aにおいて酸素ガスと分離された水は、供給ポンプ108を介して純水貯蔵タンク107から供給される純水とともに、熱交換器104において冷却されたのち、循環ポンプ100aによって浄水器105に送られる。浄水器105において不純物が取り除かれた水は、水電解装置101に供給され、再度、電気分解に利用される。水電解装置101で生成される水素ガスを含む水は、気液分離器103bにおいて、水素ガスと水とに分離される。気液分離器103bにおいて分離された水素ガスは、水電解システム100の外部の供給先に送られる。気液分離器103bにおいて水素ガスと分離された水は、循環ポンプ100bによって、水電解装置101に送られる。
【0019】
図2は、水電解装置101が備える水電解セル1の模式図である。図3は、水電解装置101の概略構成を示す図である。図4は、水電解装置101の流路の配置を説明する図である。図2に示す水電解セル1は、固体高分子形水電解セルであり、複数個が積層されることで図1に示す固体高分子形の水電解装置101を構成する。水電解装置101は、いわゆる、水電解スタックであって、本実施形態では、4個の水電解セル1を積層することで形成される(図3参照)。しかしながら、1つの水電解装置101において積層される水電解セル1の数はこれに限定されない。なお、図2から図4において、水電解セル1が積層される方向をz軸方向とし、z軸に垂直な平面上において直交する2つの方向をx軸方向とy軸方向とする。また、図2から図4に示す水電解セル1や水電解装置101を構成する部材の厚みや大きさは、説明の便宜上、実際の厚みや大きさと異なっている。
【0020】
水電解セル1は、バイポーラプレート10と、アノード側スペーサ20と、膜電極接合部30と、カソード側スペーサ40と、図示しない複数のガスケットと、を備える。水電解セル1では、z軸方向のマイナス側から、バイポーラプレート10、ガスケット、アノード側スペーサ20、ガスケット、膜電極接合部30、ガスケット、カソード側スペーサ40、ガスケットが、この順で積層されている。本実施形態では、水電解セル1は、直方体形状をなしており、4個の水電解セル1と1枚のバイポーラプレート10が積層されている水電解装置101には、水電解装置101をz軸方向に貫通する貫通孔1a、1b、1c、1dのそれぞれが四隅に形成されている(図4参照)。貫通孔1a、1b、1c、1dは、水電解装置101が有する複数の水電解セル1のそれぞれでの水の電気分解に関与する流体が流れる流路となる。
【0021】
バイポーラプレート10は、略長方形の板状部材であって、隣り合う水電解セル1との間に配置されるセパレータである。バイポーラプレート10には、アノード側スペーサ20に供給される水が流れる流路11が形成されている。流路11は、バイポーラプレート10において、x軸方向のマイナス側であって、y軸方向のマイナス側の角に形成されており、貫通孔1aの一部となる。バイポーラプレート10には、流路11の他に、図2に示す流路12を含む流路が長方形状の四隅のそれぞれに形成されている。これらの流路は、水電解セル1の貫通孔1b、1c、1dの一部となる。
【0022】
アノード側スペーサ20は、内側に開口が形成される樹脂製の枠状部材であって、バイポーラプレート10のz軸方向のプラス側に配置される。アノード側スペーサ20に形成される開口は、流路11を流れる水を水電解セル1における貫通孔1aが形成される角部から、該角部の対角に形成される水電解セル1における貫通孔1dまで流す。アノード側スペーサ20の構造の詳細は、後述する。
【0023】
膜電極接合部30は、略長方形の板状部材であって、樹脂製の枠部31と、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly、以下、「MEA」という)32と、を有する。枠部31の外形は、長方形であって、内側にMEA32が配置される開口が形成されている。MEA32は、電解質膜33と、アノード側電極34と、カソード側電極35と、を有する。
【0024】
電解質膜33には、例えば、ポリパーフルオロカーボンスルホン酸膜が用いられており、水素イオンや水を透過可能である。電解質膜33の両面のそれぞれに、アノード側電極34と、カソード側電極35が接合されている。
【0025】
アノード側電極34は、電解質膜33のz軸方向のマイナス側に接合される。アノード側電極34は、酸化イリジウム(Ir2O)を含むアノード側触媒層34aと、チタン(Ti)から形成されるメッシュであるアノード側拡散層34bと、を有する。アノード側電極34は、DC電源102が供給する電力を用いて水を電気分解し、酸素ガスと水素イオンとを生成する。アノード側電極34で生成された水素イオンと水の一部は、電解質膜33を通って、電解質膜33のz軸方向のプラス側に接合されるカソード側電極35に移動する。
【0026】
カソード側電極35は、白金(Pt)を含むカソード側触媒層35aと、カーボンペーパであるカソード側拡散層35bと、を有する。カソード側電極35は、DC電源102が供給する電力を用いて、電解質膜33を通過した水素イオンを水素ガスにする。
【0027】
カソード側スペーサ40は、内側に開口が形成されている樹脂製の板状部材であって、膜電極接合部30のz軸方向のプラス側に配置されている。本実施形態では、カソード側スペーサ40は、アノード側スペーサ20と同じ構成の部材を用いており、具体的には、アノード側スペーサ20の状態で配置されているものを、z軸方向のプラス側とマイナス側とが入れ替わるようにひっくり返したものである。
【0028】
図5は、アノード側スペーサ20の斜視図である。アノード側スペーサ20は、枠部21と、2つのマニホールド部22、23と、水電解用集電板24と、を備える。
【0029】
枠部21は、外形が長方形であり、内側には、水電解用集電板24が配置される開口が形成されている。枠部21の開口において、アノード側スペーサ20のz軸方向のプラス側の表面には、開口を囲むように配置される環状の溝21aが形成される。枠部21には、貫通孔1bの一部である流路21bと、貫通孔1cの一部である流路21cが形成されている。流路21bの開口の周囲には、流路21bの開口を囲むように配置される環状の溝21dが形成される。流路21bの開口の周囲には、流路21bの開口を囲むように配置される環状の溝21eが形成される。枠部21に形成されている環状の溝21a、21d、21eのそれぞれは、アノード側スペーサ20と膜電極接合部30との間に配置されるガスケットの表面が変形し入り込むことで、アノード側スペーサ20とガスケットとの間での流体の漏れを抑制する。
【0030】
マニホールド部22は、厚みが枠部21の厚みに比べ薄い略三角形状の部材であって、
枠部21の内側において、x軸のマイナス側であって、y軸のマイナス側の角に配置される。マニホールド部22は、枠部21の厚み方向、すなわち、z軸方向において、枠部21におけるz軸方向のマイナス側に配置されている(図2参照)。マニホールド部22には、流路11に連通する流路22aが形成されている。流路22aを流れる流体は、マニホールド部22を通って、水電解用集電板24に流入する。
【0031】
マニホールド部23は、厚みが枠部21の厚みに比べ薄い略三角形状の部材であって、枠部21の内側において、x軸のプラス側であって、y軸のプラス側に配置されている。マニホールド部23は、枠部21の厚み方向、すなわち、z軸方向においては、枠部21のz軸方向のマイナス側に配置されている。マニホールド部23には、水電解用集電板24を流れた流体が流れる流路23aが形成される。水電解用集電板24から流出する流体は、マニホールド部23を通って、流路23aに流入する。
【0032】
図6は、水電解用集電板24の斜視図である。水電解用集電板24は、バイポーラプレート10やアノード側スペーサ20の枠部21、マニホールド部22,23とは別体に形成されている。水電解用集電板24は、バイポーラプレート10とアノード側拡散層34bとの間に配置されている。水電解用集電板24は、白金(Pt)がコーティングされているチタン(Ti)からなる板状の部材であり、電気伝導性を有する。
【0033】
水電解用集電板24は、厚さが0.2mm以下の板状部材に対して、冷間加工、例えば、エンボス加工やロールプレス加工によって、部材を折り曲げることで形成されている。本実施形態の水電解用集電板24は、図6に示すように、一方の主面25に複数の凸部25aが形成され、他方の主面26に複数の凹部26aが形成されている。本実施形態では、凸部25aは、x軸に垂直な断面形状が曲線形状となるように形成されている。凹部26aは、一方の主面25に凸部25aが形成されている部分の反対側に形成されている。水電解セル1に取り付けられている水電解用集電板24では、凸部25aは、一方の主面25において、x軸方向に沿って延設され、かつ、y軸方向に複数並んで配置されている。本実施形態の水電解用集電板24では、隣接する2つの凸部25aのそれぞれの先端の間の距離L1が、1mm以下であり、凸部25aのz軸方向の高さH24が、0.6mm以下である。
【0034】
水電解セル1が備えるカソード側スペーサ40は、上述したように、アノード側スペーサ20と同じ構成を有しており、枠部41と、2つのマニホールド部42、43と、水電解用集電板24と同様の構成を有する流路構造体44と、を備える。マニホールド部42には、貫通孔1bの一部である流路42aが形成されている(図1参照)。マニホールド部43には、貫通孔1cの一部である流路43aが形成されている(図1参照)。
【0035】
図7は、水電解セル1の作用を説明する図である。水電解セル1に供給される水は、流路11およびアノード側スペーサ20の流路22aからマニホールド部22を通り、水電解用集電板24に流入する。水電解用集電板24に流入する水は、一方の主面25側(一方の主面25とアノード側触媒層34aとの間)と、他方の主面26側(他方の主面26とバイポーラプレート10との間)と、のそれぞれを流れる。一方の主面25側を流れる水は、アノード側拡散層34bを通り、アノード側触媒層34aにおいて電気分解される。アノード側触媒層34aにおける水の電気分解のための電力は、アノード側触媒層34aと電気的に接続する、水電解用集電板24とアノード側拡散層34bによって、バイポーラプレート10から供給される。アノード側触媒層34aでの水の電気分解によって生成される酸素ガスG1は、未反応の水とともに水電解用集電板24の一方の主面25側を通り、水電解セル1の外部に送られる。アノード側触媒層34aでの水の電気分解によって生成される水素イオンは、未反応の水とともに、電解質膜33を通り、カソード側電極35に到達する。カソード側電極35に到達した水素イオンは、カソード側触媒層35a
において水素ガスG2となり、カソード側拡散層35bと流路構造体44を通って、水電解セル1の外部に送られる。
【0036】
図8は、水電解用集電板24の機能を説明する図である。図8には、水電解セル1が水を電気分解している状態において、水電解用集電板24と、水電解用集電板24の両側に配置されるアノード側のバイポーラプレート10と、アノード側拡散層34bとのそれぞれについて、x軸に垂直な断面を示している。
【0037】
水電解用集電板24では、一方の主面25側と、他方の主面26側とのそれぞれに水が流れる構成となっている。具体的には、図8に示すように、アノード側スペーサ20が有するマニホールド部22の表面22bが、バイポーラプレート10と、アノード側拡散層34bとの間のほぼ中間に位置しており、表面22bに沿って流れる水は、一方の主面25側と、他方の主面26側とのそれぞれに流入する。これにより、図8での断面位置Cs1、Cs2、Cs3のそれぞれにおいて、水電解用集電板24の形状に応じて、一方の主面25側を流れる水であるか、他方の主面26側を流れる水であるかが異なる。具体的には、断面位置Cs1では、水電解用集電板24がバイポーラプレート10の近傍に位置するため、一方の主面25とアノード側拡散層34bとの間を流れる水となる(図8の符号Sv1)。断面位置Cs3では、水電解用集電板24がアノード側拡散層34bの近傍に位置するため、他方の主面26とバイポーラプレート10との間を流れる水となる(図8の符号Sv3)。また、断面位置Cs2では、水電解用集電板24がバイポーラプレート10とアノード側拡散層34bとのほぼ中間に位置するため、半分が一方の主面25とアノード側拡散層34bとの間を流れる水となり、半分が他方の主面26とバイポーラプレート10との間を流れる水となる(図8の符号Sv2)
【0038】
一方の主面25とアノード側拡散層34bとの間を流れる水は、上述したように、一部がアノード側拡散層34bに浸透し、アノード側触媒層34aにおいて電気分解されることで、酸素ガスG1を生成する。これにより、一方の主面25とアノード側拡散層34bとの間を流れる水の流量は、少なくなるとともに、水に含まれる酸素ガスG1の量は、水電解セル1における流路の上流から下流に向かうにしたがって増える。したがって、一方の主面25とアノード側拡散層34bとの間における単位体積当たりの水の量は、流路の上流から下流に向かうにしたがって少なくなる。
【0039】
他方の主面26とバイポーラプレート10との間を流れる水は、そのまま流れるため、水電解セル1における流路の上流から下流にかけて、水の流量は変化しない。さらに、一方の主面25側のように、酸素ガスG1が混入することもないため、他方の主面26とバイポーラプレート10との間における単位体積当たりの水の量も、変化しない。
【0040】
水電解用集電板24は、一方の主面25に形成されている凸部25aの先端25bがアノード側拡散層34bに接触しており、他方の主面26がバイポーラプレート10に接触している。これにより、バイポーラプレート10から水電解用集電板24とアノード側拡散層34bを介して、アノード側触媒層34aに電流が流れている。凸部25aの先端25bとアノード側拡散層34bとの接触部分Cp1は、電流が集中しやすい箇所となるため、発熱しやすく、温度上昇しやすい。本実施形態の水電解用集電板24では、接触部分Cp1のすぐ近くに、他方の主面26とバイポーラプレート10との間の水が流れているため、この水によって、接触部分Cp1は冷却される。これにより、接触部分Cp1での温度上昇を抑制することができる。
【0041】
図9は、第1の比較例の水電解セルの作用を説明する図である。図9に示す第1の比較例の水電解セル9では、本実施形態と比較して、バイポーラプレート10の形状が異なる。具体的には、水電解セル9では、2つのバイポーラプレート10のそれぞれに、アノー
ド側拡散層34bまたはカソード側拡散層35bのいずれかに接触する複数の接触部16が設けられている。複数の接触部16は、図9に示すように、バイポーラプレート10のアノード側拡散層34b側、または、カソード側拡散層35bに設けられており、バイポーラプレート10から突出している。これにより、アノード側拡散層34bに浸透する水は、隣り合う接触部16の間を流れる。
【0042】
第1の比較例の水電解セル9では、バイポーラプレート10から複数の接触部16とアノード側拡散層34bを介して、アノード側触媒層34aに電流が流れている。このため、接触部16とアノード側拡散層34bとの接触部分Cp0は、電流が集中しやすい箇所となるため、発熱しやすく、温度上昇しやすい。さらに、図8での説明で述べたように、水電解セル9では、流路の上流から下流に向かうにしたがって水に含まれる酸素ガスG1の量は増えるため、単位体積当たりの水の量は、流路の上流から下流に向かうにしたがって少なくなる。このため、接触部分Cp0の冷却が不十分となり、ヒートスポットが発生する。ヒートスポットが発生すると、水電解セル6が破損するおそれがあるため、DC電源102が出力する電力を低下させる必要があり、水電解セル9の水素ガスの発生量が少なくなる。
【0043】
図10は、第2の比較例の水電解システム200の模式図である。水電解システム200は、本実施形態の水電解システム100と異なり、第1の比較例の水電解セル9を備えた水電解装置201を冷却するための冷却システム202を備えている。冷却システム202では、図10に示すように、例えば、供給ポンプ202aを用いて、純水貯蔵タンク107の貯蔵されている純水が、貯水タンク202bに供給される。貯水タンク202bに貯留されている純水の一部は、熱交換器202cにおいて低温にされてから、水電解装置201のアノード側に供給される。また、貯水タンク202bに貯留されている純水の一部は、循環ポンプ202dによって加圧され、浄水器202eを用いて不純物が除去されたのち、水電解装置201のカソード側に供給される。これにより、水電解装置2011が備える2つのバイポーラプレート10のそれぞれに冷却水を供給することで、接触部分Cp0の冷却を行う。しかしながら、冷却システム202が供給する冷却水は、部材の腐食を抑制するため、電気分解用の水と同じくレベルの純水であることが望ましく、電気伝導度を測定するなどの水質管理や、イオン交換システムなどが必要になる。このため、水電解システム200は、本実施形態の水電解システム100に比べ大きくなる。
【0044】
次に、本実施形態の水電解セル1に関する2つの評価試験について説明する。第1の評価試験では、水電解セル1に組み込まれた水電解用集電板24の凸部25aとアノード側拡散層34bとの接触の程度を確認した。
【0045】
図11は、第1の評価試験の結果を示す図である。図11に示す図は、エンボス加工で作製した水電解用集電板24を用いて水電解セル1を組み上げたときに、感圧紙を用いて、水電解用集電板24の凸部25aの面圧測定を行った結果を示している。図11に示すように、凸部25aの荷重は、アノード側拡散層34bの全体にかかっていることが確認された。この試験結果より、水電解セル1において、全体に荷重が均一にかかっており、水電解セル1を構成する複数の部品のそれぞれに存在する公差レベルのゆがみやひずみ、z軸方向の寸法誤差を吸収することが可能な構造となっていることが明らかとなった。
【0046】
第1の評価試験によって図11に示すような結果が得られるのは、水電解用集電板24が、エンボス加工やロールプレス加工などの冷間加工によって作製されているためである。水電解用集電板24の作製方法の比較例としての切削加工で水電解用集電板を作製する場合、水電解用集電板の厚みを薄くするには限界があり、上述したようなひずみを吸収するような変形は困難である。また、別の比較例としての面プレス方法では、板形状の部材の厚み方向に上述したようなひずみを吸収するために深堀りを行う場合、大きさを変えず
にプレスするためには、部材を部分的に引き伸ばす必要がある。そのためには、加熱により熱間プレスが必要になるため、加工時間が非常に長くなり、生産効率が低下する。また、生産効率を向上させようとすると、主面に沿った方向のひずみが大きくなり、深掘りにすればするほどずれが大きくなるため、主面に沿った方向の大きさに個体差が生じやすい。そのため、水電解セルを構成する部品として積層した場合、シールができなくなるおそれがある。
【0047】
本実施形態では、水電解用集電板24は、上述したように、エンボス加工やロールプレス加工などの冷間加工によって作製されているため、板形状の部材を延ばすのではなく、折り畳むようにして、凸部25aと凹部26aとが形成される。これにより、板形状の部材の大きさは、縮小するもののその縮小幅は、凸部25aや凹部26aの大きさなどから容易に予想できるため、この縮小幅に合わせた枠部21やマニホールド部22、23を別体で準備することで、シールを確保することができる。
【0048】
第2の評価試験では、水電解セルのセル電圧について評価を行った。具体的には、水電解セルに入力される電力に対するセル電圧を測定し、測定したセル電圧を用いて算出した効率(セル効率)を比較例と比較した。第2の評価試験では、本実施形態の水電解用集電板24を備える水電解セル1の出力電圧と、比較例として切削加工によって作製した水電解用集電板を備える水電解セルの出力電圧とを比較した。
【0049】
図12は、第2の評価試験の結果を示す図である。第2の評価試験では、水電解セルに入力される3A/cm2の電力に対して測定される1cm2あたりのセル電圧から算出されたセル効率を示している。本評価試験では、測定温度を80℃とした。図12に示すように、本実施形態の水電解セル1は、比較例の水電解セルに比べて、高いセル効率を示すことが明らかとなった。これにより、本実施形態の水電解セル1は、3A/cm2のような比較的高電流密度での運転においても、比較例の水電解セルに比べて高いセル効率を示すことから、高性能の水電解セルであることが明らかとなった。
【0050】
比較例の水電解セルでは、アノード側において、水は、電気分解によって消費されるとともに、水素イオンとともにカソード側に移動するため、水の流量は、流路の上流から下流に向かうにしたがって減少する。さらに、アノード側では、酸素ガスが発生し、バイポーラプレートとアノード側拡散層との間を流れる水に気泡として含まれる。例えば、18グラムの水が電気分解すると、11.2リットルの酸素ガスが発生するため、バイポーラプレートとアノード側拡散層との間を流れる水において、気泡が含まれる割合が急激に大きくなる。このため、流路の下流側では、水は、酸素ガス中を粒状となって流れるため、拡散層への水の供給が不足するおそれがある。また、酸素ガスは、水に比べ熱伝導率などが低いため、アノード側拡散層は、バイポーラプレートと拡散層との間を流れる流体では、冷却されにくくなる。一方、バイポーラプレートから水電解用集電板を介してアノード側拡散層に至る電流経路において、例えば、水電解用集電板と拡散層との接触部分など電流が集中する箇所では、電気抵抗が大きくなる傾向がある。このため、このような箇所に、ヒートスポットが形成され、局所的に部材が劣化するおそれがある。
【0051】
以上説明した、本実施形態の水電解セル1によれば、板状の水電解用集電板24は、一方の主面25に形成されている凸部25aの先端25bがアノード側拡散層34bに接触しており、バイポーラプレート10から水電解用集電板24とアノード側拡散層34bを介してアノード側触媒層34aに電流が流れる。これにより、凸部25aの先端25bとアノード側拡散層34bとの接触部分Cp1に電流が集中するため、温度が上昇しやすい。水電解セル1では、水電解用集電板24は、他方の主面26のうち、一方の主面25に凸部25aが形成されている部分の反対側の部分には、水が流通可能な凹部26aが形成されている。これにより、凹部26aの内側を流れる水によって、凸部25aの先端25
bとアノード側拡散層34bとの接触部分Cp1を効率的に冷却することができる。さらに、水電解用集電板24は、一方の主面25側を流通する気体が凹部26aの内側に移動することを規制するように形成されている。一方の主面25側では、水の電気分解によって酸素ガスG1が生成されるため、一方の主面25側を流れる水は、下流に向かうにしたがって含まれる酸素ガスG1の量が多くなり、冷却効率が低下する。一方、他方の主面26側を流れる水には、下流であっても酸素ガスG1は含まれないため、冷却効率が維持され、凸部25aの先端25bとアノード側拡散層34bとの接触部分Cp1を冷却することができる。したがって、水電解セル1において、ヒートスポットの発生を抑制することができるため部材の劣化が抑制され、水の電気分解を安定して行うことができる。
【0052】
また、本実施形態の水電解セル1によれば、バイポーラプレート10からアノード側触媒層34aに電流が流れるときに電流の集中によって発熱しやすい、水電解用集電板24とアノード側拡散層34bとの接触部分Cp1を集中的に冷却する。これにより、冷却機構を有していない、例えば、図9に示すような水電解セル9では、電流密度を増大させると温度が上昇するため、低電流密度での運転に限定されるが、本実施形態の水電解セル1では、高密度電流での運転を行うことができる。したがって、より多くの水素ガスを生成することができる。
【0053】
図9に示す比較例の水電解セル9のように、バイポーラプレートに流路が形成される場合、比較的深い流路を形成するためには、流路間の間隔を大きくする必要があり、水の供給量が少なくなる。また、流路に腐食などの不具合が発生した場合、バイポーラプレートごと交換する必要がある。本実施形態の水電解セル1では、水電解用集電板24は、バイポーラプレート10やアノード側スペーサ20の枠部21、マニホールド部22、23とは別体に形成されている。これにより、水電解用集電板24は、バイポーラプレート10やアノード側拡散層34bとともに、水が流れる比較的深い流路を形成することができるとともに、流路に不具合が生じた場合、水電解用集電板24のみを交換することで不具合に対処することができる。
【0054】
また、本実施形態の水電解セル1によれば、流路11および流路22aからマニホールド部22に供給された水は、水電解用集電板24の一方の主面25側と他方の主面26側とのそれぞれに分流される。これにより、一方の主面25側では、水の電気分解によって酸素ガスが生成される一方、他方の主面26側では、水電解用集電板24とアノード側拡散層34bとの接触部分Cp1を冷却する水を流すことができる。これにより、例えば、図10に示した比較例の水電解システム200とは異なり、冷却のための新たな仕組みを別に設ける必要がないため、水電解システムの大型化を抑制することができる。
【0055】
また、本実施形態の水電解セル1によれば、凸部25aの先端25bとアノード側拡散層34bとの接触によって温度が上昇しやすい接触部分Cp1は、水電解用集電板24とアノード側拡散層34bとの接触面において比較的均等に分布しているため、局所的な温度上昇を抑制することができる。さらに、凸部25aの先端25bとアノード側拡散層34bとの接触部分Cp1を効率的に冷却する水が流れる凹部26aも、一方の主面25に凸部25aが形成されている部分の反対側の部分に形成されているため、水電解用集電板24とアノード側拡散層34bとの接触面において比較的均等に配置されており、凸部25aの先端25bとアノード側拡散層34bとの接触部分Cp1を冷却することができる。したがって、局所的な温度上昇を抑制することができるため、水の電気分解を安定して行うことができる。
【0056】
また、本実施形態の水電解セル1によれば、隣接する2つの凸部25aのそれぞれの先端25bの間の距離L1が比較的小さいため、一方の主面25側の水の流れは、乱流になりやすい。これは、凸部25aの反対側に形成される凹部26aにおいても同様である。
これにより、水電解用集電板24の一方の主面25側の水は、流れが乱れるため、水の電気分解が進むことで酸素ガスG1が含まれるようになっても、アノード側拡散層34bに水を供給しやすくなる。また、水電解用集電板24の他方の主面26側の水は、流れが乱れるため、水による冷却効果を向上させることができる。さらに、凸部25aの高さH24は、隣接する2つの凸部25aのそれぞれの先端25bの間の距離L1と同程度のスケールを有しており、水が流れる流路としては比較的深い。これにより、一方の主面25側と他方の主面26側とのそれぞれにおいて圧力損失を低減することができるため、水を流すために必要なエネルギを低減することができる。したがって、水電解セル1において水の電気分解を行うために必要なエネルギを低減しつつ、ヒートスポットの発生を抑制することができるため、水の電気分解を安定して行うことができる。
【0057】
また、本実施形態の水電解セル1によれば、水電解用集電板24の厚みは、比較的小さいため、熱容量が小さい。これにより、水電解セル1の始動時の温度上昇を比較的短時間で行うことができるため、水の電気分解を早期に安定して行うことができる。また、水電解用集電板24の凸部25aの先端25bとアノード側拡散層34bとの接触部分Cp1で電流の集中によって温度が上昇しても、熱容量が小さいため、凹部26aを流れる水によって冷却しやすい。これにより、水電解用集電板24やアノード側拡散層34bの温度を速やかに下げることができるため、ヒートスポットの発生を抑制することができる。したがって、水の電気分解を安定して行うことができる。
【0058】
また、本実施形態の水電解セル1の製造方法によれば、水電解用集電板24は、厚さが0.2mm以下の板状部材に熱を加えることなく折り曲げる冷間加工によって形成される。これにより、加熱工程が不要であるため、比較的短時間で加工することができるとともに、加熱用の設備が不要となる。また、冷間加工による折り曲げによる製造方法では、加工時に不要となる材料が発生しないため、切削加工に比べて、材料を有効に利用することができる。さらに、このように加工された水電解用集電板24では、凹部26aの内側を流れる水によって、凸部25aの先端25bとアノード側拡散層34bとの接触部分Cp1を効率的に冷却することができるため、ヒートスポットの発生を抑制することができる。したがって、水の電気分解を安定して行うことができる水電解セル1を製造することができる。
【0059】
図9に示す比較例の水電解セル9のように、バイポーラプレートの流路が形成される場合、上述したように、深い流路を形成することは困難であり、加工時間が長くなる。例えば、チタンを原料とする板状部材に深い溝を形成する方法として、超塑性加工が知られているが、プロセスに時間がかかりすぎるため、生産面で現実的でない。また、チタンの超塑性加工では、純度が高いチタン材料は不向きであり、添加物を入れる場合がある。しかしながら、このような添加物が含まれるチタンの部材を水電解セルの水電解用集電板に用いる場合、添加物が溶出し、水電解セルの性能を低下させるおそれがある。また、超塑性加工では加工時に大きさが変化するため、シール位置がずれるおそれがある。本実施形態の水電解セル1の製造方法によれば、水電解用集電板24は、厚さが0.2mm以下の板状部材に熱を加えることなく折り曲げる冷間加工によって形成される。これにより、比較的深い溝を有する形状に成形できるとともに、加工時の大きさの変化が予測できるため、シール位置のずれを予測して水電解セル1を製造することができる。したがって、水の電気分解を安定して行うことができる水電解セル1を製造することができる。
【0060】
<第2実施形態>
図13は、第2実施形態の水電解用集電板の模式図である。第2実施形態の水電解セル2は、第1実施形態の水電解セル1と比べて、水電解用集電板の形状が異なる。
【0061】
本実施形態の水電解セル2が備える水電解用集電板54は、バイポーラプレート10や
アノード側スペーサ20の枠部21、マニホールド部22,23とは別体に形成されており、バイポーラプレート10とアノード側拡散層34bとの間に配置されている。水電解用集電板54は、図13に示すように、一方の主面55に、x軸に垂直な断面形状が台形形状となる凸部55aが形成されている。凸部55aの平面状の先端55bは、アノード側拡散層34bと接触している(接触部分Cp2)。他方の主面56には、一方の主面55に凸部55aが形成されている部分の反対側に凹部56aが形成されている。本実施形態の水電解セル2に取り付けられている水電解用集電板54では、凸部55aは、一方の主面55において、x軸方向に沿って延設されて、かつ、y軸方向に複数並んで配置されている。水電解用集電板54では、隣接する2つの凸部55aのそれぞれの先端の間の距離L2が、1mm以下であり、凸部55aのz軸方向の高さH54が、0.6mm以下である。水電解用集電板54は、厚さが0.2mm以下の板状部材に対して、冷間加工によって、部材を折り曲げることで形成されている。
【0062】
以上、本実施形態の水電解セル2によれば、水電解用集電板54は、他方の主面56のうち、一方の主面55に凸部55aが形成されている部分の反対側の部分には、水が流通可能な凹部56aが形成されている。これにより、凹部56aの内側を流れる水によって、凸部55aの先端55bとアノード側拡散層34bとの接触部分Cp2を効率的に冷却することができる。したがって、水電解セル2において、ヒートスポットの発生を抑制することができるため部材の劣化が抑制され、水の電気分解を安定して行うことができる。
【0063】
また、本実施形態の水電解セル2によれば、一方の主面55の凸部55aは、アノード側拡散層34bと平面形状の部分で接触している。これにより、凸部55aの先端55bとアノード側拡散層34bとの接触部分Cp2の面積を比較的大きくすることができるため、水電解用集電板54とアノード側拡散層34bとの接触を確保することができる。したがって、水電解用集電板54とアノード側拡散層34bとの間の電気抵抗が小さくなるため、ヒートスポットの発生を抑制され、水の電気分解を安定して行うことができる。
【0064】
<第3実施形態>
図14は、第3実施形態の水電解用集電板の模式図である。第3実施形態の水電解セル3は、第1実施形態の水電解セル1と比べて、水電解用集電板の形状が異なる。
【0065】
本実施形態の水電解セル3が備える水電解用集電板64は、バイポーラプレート10やアノード側スペーサ20の枠部21、マニホールド部22,23とは別体に形成されており、バイポーラプレート10とアノード側拡散層34bとの間に配置されている。水電解用集電板64は、図14に示すように、一方の主面65に凸部65aが形成されている。凸部65aは、x軸に垂直な断面形状が、y軸方向の大きさが段階的に変化する、いわゆる、階段形状を有している。凸部65aの平面状の先端65bは、アノード側拡散層34bと接触している(接触部分Cp3)。他方の主面66には、一方の主面65に凸部65aが形成されている部分の反対側に凹部66aが形成されている。本実施形態の水電解セル3に取り付けられている水電解用集電板64では、凸部65aは、一方の主面65において、x軸方向に沿って延設され、かつ、y軸方向に複数並んで配置されている。水電解用集電板64では、隣接する2つの凸部65aのそれぞれの先端の間の距離L3が、1mm以下であり、凸部65aのz軸方向の高さH64が、0.6mm以下である。水電解用集電板64は、厚さが0.2mm以下の板状部材に対して、冷間加工によって、部材を折り曲げることで形成されている。
【0066】
以上、本実施形態の水電解セル3によれば、水電解用集電板64は、他方の主面66のうち、一方の主面65に凸部65aが形成されている部分の反対側の部分には、水が流通可能な凹部66aが形成されている。これにより、凹部66aの内側を流れる水によって、凸部65aの先端65bとアノード側拡散層34bとの接触部分Cp3を効率的に冷却
することができる。したがって、水電解セル3において、ヒートスポットの発生を抑制することができるため部材の劣化が抑制され、水の電気分解を安定して行うことができる。
【0067】
また、本実施形態の水電解セル3によれば、一方の主面65の凸部65aは、アノード側拡散層34bと平面形状の部分で接触している。これにより、凸部65aの先端65bとアノード側拡散層34bとの接触部分Cp3の面積を比較的大きくすることができるため、水電解用集電板64とアノード側拡散層34bとの接触を確保することができる。したがって、水電解用集電板64とアノード側拡散層34bとの間の電気抵抗が小さくなるため、ヒートスポットの発生を抑制され、水の電気分解を安定して行うことができる。
【0068】
また、本実施形態の水電解セル3によれば、凸部65aは、x軸に垂直な断面形状が、y軸方向の大きさが段階的に変化する、いわゆる、階段形状を有している。これにより、凸部65aは、z軸方向に沿ってある程度伸縮することができるため、水電解セル3を構成する複数の部品のそれぞれに存在する公差レベルのゆがみやひずみを吸収することができる。
【0069】
<第4実施形態>
図15は、第4実施形態の水電解用集電板の模式図である。第4実施形態の水電解セル4は、第1実施形態の水電解セル1と比べて、水電解用集電板の形状が異なる。
【0070】
本実施形態の水電解セル4が備える水電解用集電板74は、バイポーラプレート10やアノード側スペーサ20の枠部21、マニホールド部22,23とは別体に形成されており、バイポーラプレート10とアノード側拡散層34bとの間に配置されている。水電解用集電板74は、図15に示すように、一方の主面75に凸部75aが形成されている。凸部75aは、図15に示すように、x軸に垂直な断面形状が、z軸のプラス方向に突出する半円形状の部分と、z軸方向のマイナス方向に突出する中心角が90度の円弧形状の部分とが、直線77で接続される形状を有している。凸部75aの平面状の先端75bは、アノード側拡散層34bと接触している(接触部分Cp4)。他方の主面76には、一方の主面75に凸部75aが形成されている部分の反対側に凹部76aが形成されている。本実施形態の水電解セル4に取り付けられている水電解用集電板74では、凸部75aは、一方の主面75において、x軸方向に沿って延設され、かつ、y軸方向に複数並んで配置されている。水電解用集電板74では、隣接する2つの凸部75aのそれぞれの先端の間の距離L4が、1mm以下であり、凸部75aのz軸方向の高さH74が、0.6mm以下である。水電解用集電板74は、厚さが0.2mm以下の板状部材に対して、冷間加工によって、部材を折り曲げることで形成されている。
【0071】
以上、本実施形態の水電解セル4によれば、水電解用集電板74は、他方の主面76のうち、一方の主面75に凸部75aが形成されている部分の反対側の部分には、水が流通可能な凹部76aが形成されている。これにより、凹部76aの内側を流れる水によって、凸部75aの先端75bとアノード側拡散層34bとの接触部分Cp4を効率的に冷却することができる。したがって、水電解セル4において、ヒートスポットの発生を抑制することができるため部材の劣化が抑制され、水の電気分解を安定して行うことができる。
【0072】
また、本実施形態の水電解セル4によれば、凸部75aは、z軸方向のプラス側の円弧形状と、z軸方向のマイナス側の円弧形状とが直線で接続される形状を有する。これにより、凸部75aは、z軸方向に沿ってある程度伸縮することができるため、水電解セル4を構成する複数の部品のそれぞれに存在する公差レベルのゆがみやひずみを吸収することができる。
【0073】
また、本実施形態の水電解セル4によれば、凸部75aは、z軸方向のプラス側に、円
弧形状を有している。これにより、凸部75aは、第2実施形態の凸部55aや第3実施形態の凸部65aと異なり、曲面でアノード側拡散層34bに接触することができる。したがって、水電解用集電板74との接触によるアノード側拡散層34bの破損を抑制することができる。
【0074】
<第5実施形態>
図16は、第5実施形態の水電解用集電板の斜視図である。図17は、第5実施形態の水電解用集電板の断面図である。第5実施形態の水電解セルは、第1実施形態の水電解セル1と比べて、水電解用集電板の形状が異なる。
【0075】
本実施形態の水電解セルが備える水電解用集電板84は、バイポーラプレート10やアノード側スペーサ20の枠部21、マニホールド部22、23とは別体に形成されており、バイポーラプレート10とアノード側拡散層34bとの間に配置されている。水電解用集電板84は、図16に示すように、一方の主面85に、複数の凸部85aが形成されている。複数の凸部85aは、略円筒形状を有するように形成されており、凸部85aの平面状の先端は、アノード側拡散層34bと接触している。ここで「略円筒形状」の断面形状である「円」は、真円に限られず、一見して円形状のものや、楕円形状にものも含まれる。他方の主面86には、一方の主面85に凸部85aが形成されている部分の反対側に凹部86aが形成されている(図16のα-α線断面図である図17参照)。本実施形態では、図17に示すように、他方の主面86に、略円筒形状を有する複数の凸部86bが形成されており、他方の主面86に凸部86bが形成されている部分の反対側に凹部85bが形成されている。凸部86bの平面状の先端は、バイポーラプレート10と接触している。
【0076】
本実施形態では、図16に示すように、水電解用集電板84の一方の主面85には、x軸のマイナス側からプラス側に向かって、y軸方向に6個並べられている凸部85aの2列と、y軸方向に6個並べられている凹部85bの2列と、が交互に配置されている。図17に示すように、y軸方向に6個並べられている凸部85aの一列と、その後方に6個並べられている凸部85aの一列とは、互い違いに配置されており、例えば、一方の主面85に沿って流れる水は、凸部85aに衝突しやすくなっている。この構成は、他方の主面86においても同様である。水電解用集電板84は、厚さが0.2mm以下の板状部材に対して、冷間加工によって、部材を折り曲げることで形成されている。
【0077】
以上、本実施形態の水電解セルによれば、水電解用集電板84は、他方の主面86のうち、一方の主面85に凸部85aが形成されている部分の反対側の部分には、水が流通可能な凹部86aが形成されている。これにより、凹部86aの内側を流れる水によって、凸部85aの先端とアノード側拡散層34bとの接触部分を効率的に冷却することができる。したがって、ヒートスポットの発生を抑制することができるため部材の劣化が抑制され、水の電気分解を安定して行うことができる。
【0078】
また、本実施形態の水電解セルによれば、水電解用集電板84に形成されている複数の凸部85aは、互いに離間して形成されており、1つの凸部85aに対して、2つの異なる方向に、別の凸部85aが形成されている。これにより、水電解用集電板84の一方の主面85に沿って流れる水は、凸部85aに衝突することで、流れの方向が変化する。これは、凸部86bが形成されている他方の主面86側においても同様である。これにより、水電解用集電板84の一方の主面85側の水は、流れが乱れるため、水の電気分解が進むことで酸素ガスG1が含まれるようになっても、アノード側拡散層34bに水を供給しやすくなる。また、水電解用集電板84の他方の主面86側の水は、流れが乱れるため、水による冷却効果を向上させることができる。したがって、ヒートスポットの発生を抑制することができるため、水の電気分解を安定して行うことができる。
【0079】
<第6実施形態>
図18は、第6実施形態のアノード側スペーサの模式図である。第6実施形態の水電解セルは、第1実施形態の水電解セル1と比べて、アノード側スペーサの形状が異なる。
【0080】
第6実施形態の水電解セルは、バイポーラプレート10と、アノード側スペーサ90と、膜電極接合部30と、カソード側スペーサ40と、図示しない複数のガスケットと、を備える。第6実施形態の水電解セルでは、z軸方向のマイナス側から、バイポーラプレート10、ガスケット、アノード側スペーサ90、ガスケット、膜電極接合部30、ガスケット、カソード側スペーサ40、ガスケットが、この順で積層されている。
【0081】
アノード側スペーサ90は、内側に開口が形成される樹脂製の枠状部材であって、枠部21と、2つのマニホールド部22、23と、水電解用集電板24と、を備える。本実施形態では、マニホールド部22、23のそれぞれと、枠部21の内側に配置される水電解用集電板24との間に、隙間97、98が形成されている。
【0082】
図19は、マニホールド部の位置変更による効果を説明する図である。本実施形態では、マニホールド部22の表面22bは、水電解用集電板24に対して、図19(A)に示す位置に配置されている。マニホールド部22の水は、表面22bよりz軸方向のプラス側を流れており、マニホールド部22の表面22bが図19(A)の位置Mpにある場合、マニホールド部22を流れる水は、図19(A)に示す開口部分Op1のうちの一方の主面25とアノード側拡散層34bとの間の面積と、他方の主面26とバイポーラプレート10との間の面積との比に応じた流量で、水電解用集電板24に流入する。図19(A)の状態では、一方の主面25とアノード側拡散層34bとの間の水の流量は、他方の主面26とバイポーラプレート10との間の水の流量より多い。
【0083】
一方、マニホールド部22の表面22bが、水電解用集電板24に対して、図19(A)に示す位置Mpより、図19(B)に示す、z軸のマイナス方向の位置に配置されるとする(図19(B)の白抜き矢印A6参照)。この場合、図19(A)の状態に比べて、開口部分Op2のうちの他方の主面26とバイポーラプレート10との間の面積が比較的大きくなるため、他方の主面26とバイポーラプレート10との間の水の流量は、一方の主面25とアノード側拡散層34bとの間の水の流量より多くなる。これにより、凹部26aの水の流量を増大させることで、水電解用集電板24とアノード側拡散層34bの冷却度合いを向上させることができる。
【0084】
以上、本実施形態の水電解セルによれば、水電解用集電板24に対する、マニホールド部22の表面22bの位置を変更することで、一方の主面25とアノード側拡散層34bとの間の水の流量と、他方の主面26とバイポーラプレート10との間の水の流量を調整することができる。これにより、水電解セルの出力特性に応じて、冷却度合いを調整することができるため、水電解セルの出力特性を向上させることができる。
【0085】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0086】
[変形例1]
上述の実施形態では、水電解用集電板における、隣接する2つの凸部のそれぞれの先端の間の距離が、1mm以下であり、z軸方向の高さが、0.6mm以下であるとした。先端の間の距離、および、z軸方向の高さは、これらに限定されない。また、水電解用集電板は、厚さが0.2mm以下の板状部材に対して、冷間加工、例えば、エンボス加工やロ
ールプレス加工によって、部材を折り曲げることで形成されるとした。しかしながら、水電解用集電板となる部材の厚みは、これに限定されない。
【0087】
[変形例2]
第1実施形態では、凸部25aは、x軸に垂直な断面形状が曲線形状となるように形成されているとした。第2実施形態では、凸部55aは、x軸に垂直な断面形状が台形形状となるように形成されるとした。第3実施形態では、凸部65aは、x軸に垂直な断面形状が、y軸方向の大きさが段階的に変化する、いわゆる、階段形状を有しているとした。第4実施形態では、凸部75aは、x軸に垂直な断面形状が、z軸のプラス方向に突出するように配置される半円形状の部分と、z軸方向のマイナス方向に突出する中心角が90度の円弧形状の部分とが、直線77で接続される形状を有しているとした。しかしながら、凸部の断面形状は、これらに限定されない。
【0088】
[変形例3]
上述の実施形態では、MEA32のアノード側電極34は、アノード側触媒層34aと、アノード側拡散層34bと、を有しているとした。しかしながら、MEAの構成はこれに限定されない。例えば、アノード側拡散層は、アノード側スペーサに含まれてもよい。
【0089】
[変形例4]
第5実施形態では、水電解用集電板84は、一方の主面85に形成される複数の凸部85aは、略円筒形状を有するとした。しかしながら、凸部85aの形状はこれに限定されない。断面が矩形形状や三角形状であってもよく、柱状でなく、円錐形状であってもよい。
【0090】
[変形例5]
上述の実施形態では、アノード側における水電解用集電板での冷却について述べた。同様の効果は、カソード側における流路構造体44についても言える。具体的には、水電解システム100の構成を示した図1に示すように、カソード側には、熱交換器104と、循環ポンプ100aと、浄水器105とを経由した水が供給される。この水は、カソード側において、流路構造体44の一方の主面側と他方の主面側とのそれぞれを流れる。一方の主面側を流れる水には、生成された水素ガスが混入し、他方の主面側を流れる水には、水素ガスなどの気体は混入しない。カソード側では、カソード側電極35とバイポーラプレート10とが流路構造体44によって電気的に接続されており、カソード側電極35からバイポーラプレート10に向かって電気が流れる。このため、流路構造体44とカソード側電極35との接触部分では、電流集中によって高温になりやすいが、流路構造体44の他方の主面側を流れる水によって冷却することができるため、ヒートスポットの発生を抑制することができる。したがって、部材の劣化を抑制することができるため、水の電気分解を安定して行うことができる。
【0091】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0092】
1,2,3,4,5…水電解セル
10…バイポーラプレート
24,54,64,74,84…水電解用集電板
25,55,75,85…一方の主面
25a,55a,65a,75a,85a…凸部
25b,55b,65b,75b…先端
26,56,66,76,86…他方の主面
26,56a,66a,76a,86a…凹部
34b…アノード側拡散層
35b…カソード側拡散層
G1…酸素ガス
G2…水素ガス
L1,L2,L3,L4…距離
H24,H54,H64,H74…高さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図19