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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174416
(43)【公開日】2022-11-24
(54)【発明の名称】制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 3/20 20060101AFI20221116BHJP
   H02P 3/24 20060101ALI20221116BHJP
   H02P 29/02 20160101ALI20221116BHJP
   H02P 29/04 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
H02P3/20 B
H02P3/24 D
H02P29/02
H02P29/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080199
(22)【出願日】2021-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100135301
【弁理士】
【氏名又は名称】梶井 良訓
(72)【発明者】
【氏名】吉沢 大輔
(72)【発明者】
【氏名】松本 和則
【テーマコード(参考)】
5H501
5H530
【Fターム(参考)】
5H501AA30
5H501BB05
5H501CC07
5H501DD03
5H501EE01
5H501FF04
5H501FF05
5H501GG05
5H501GG08
5H501GG11
5H501HB08
5H501HB16
5H501JJ22
5H501JJ24
5H501LL22
5H501MM03
5H530AA05
5H530BB40
5H530CC15
5H530CC23
5H530CD01
5H530CD27
5H530CD32
5H530CE12
5H530CE13
5H530DD03
5H530DD04
5H530EE07
(57)【要約】
【課題】電動機の制動時に電流制御の安定性をより高めることができる制御装置及び制御方法を提供する。
【解決手段】制御装置は、電流制御部と、制動制御部とを備える。前記電流制御部は、電動機の巻線に流れる電流の検出値に対する電流帰還値と、前記電動機の巻線に流れる電流の大きさの制御目標の指標である電流基準とを用いた電流制御により、前記電動機の巻線に流れる電流の大きさを制御する。前記制動制御部は、前記電動機の制動制御のための制動指令を出力する。前記電流制御部は、前記制動制御の指令の出力に応じて、前記電流制御の制御ゲインについて、前記電動機を駆動させる駆動時の第1ゲインから、前記電動機を制動させる制動時の第2ゲインに切替える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機の巻線に流れる電流の検出値に対する電流帰還値と、前記電動機の巻線に流れる電流の大きさの制御目標の指標である電流基準とを用いた電流制御により、前記電動機の巻線に流れる電流の大きさを制御する電流制御部と、
前記電動機の制動制御のための制動指令を出力する制動制御部と
を備え、
前記電流制御部は、
前記制動制御の指令の出力に応じて、前記電流制御の制御ゲインについて、前記電動機を駆動させる駆動時の第1ゲインから、前記電動機を制動させる制動時の第2ゲインに切替える、
制御装置。
【請求項2】
前記電流制御部は、
前記電流帰還値と前記電流基準との偏差に対する比例演算を、前記第2ゲインを利用して実施して、前記偏差が小さくなるように制御するように形成されている、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記駆動時の第1ゲインにおける比例演算のゲインが、前記制動時の第2ゲインにおける比例演算のゲインよりも小さく設定されている、
請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記電流制御部は、
前記電流帰還値と、前記電流基準との偏差に対する比例積分演算を、前記第2ゲインを利用して実施して、前記偏差が小さくなるように制御するように形成されている、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項5】
前記電流制御部は、
前記比例積分演算における積分成分のゲインを、前記比例積分演算における比例成分のゲインの大きさに応じた大きさにするように形成されている、
請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
制御により前記電動機の逆相トルクを発生させるための前記電流基準を生成する電流設定部と、
前記制動時の前記電流基準の変化を緩やかにするフィルタと
を備え、
前記電流制御部は、
前記電流設定部を制御して前記制動時の前記電流基準を生成させる、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項7】
前記制動制御部は、前記電動機を逆相制動又は直流制動によって制動させる、
請求項1から請求項6の何れか1項に記載の制御装置。
【請求項8】
電動機の巻線に流れる電流の検出値に対する電流帰還値と、前記電動機の巻線に流れる電流の大きさの制御目標の指標である電流基準とを用いた電流制御により、前記電動機の巻線に流れる電流の大きさを電流制御部が制御するステップと、
制御装置が前記電動機の制動制御のための制動指令を出力するステップと、
前記制動制御の指令の出力に応じて、前記電流制御部における前記電流制御の制御ゲインについて、前記電動機を駆動させる駆動時の第1ゲインから、前記電動機を制動させる制動時の第2ゲインに前記電流制御部が切替えるステップと
を含む制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気推進装置により駆動される船舶において、電気推進装置の制御装置は、電力変換器を介して電動機を制御して、これによって発生する電動機の動力を船舶の推力にする。制御装置は、電動機の制動力を用いて船舶の減速又は停止に利用する。しかしながら、電動機の制動時に電動機の巻線に流れる電流の大きさが振動的に変化したり、電力変換器内のコンバータとインバータとを繋ぐ直流リンクに、電動機の制動中に許容値を超える過電圧が生じて、これにより保護回路が作動して電気推進装置が停止したりする可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-022660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、電動機の制動時に電流制御の安定性をより高めることができる制御装置及び制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の制御装置は、電流制御部と、制動制御部とを備える。前記電流制御部は、電動機の巻線に流れる電流の検出値に対する電流帰還値と、前記電動機の巻線に流れる電流の大きさの制御目標の指標である電流基準とを用いた電流制御により、前記電動機の巻線に流れる電流の大きさを制御する。前記制動制御部は、前記電動機の制動制御のための制動指令を出力する。前記電流制御部は、前記制動制御の指令の出力に応じて、前記電流制御の制御ゲインについて、前記電動機を駆動させる駆動時の第1ゲインから、前記電動機を制動させる制動時の第2ゲインに切替える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態に係る電気推進装置の制御装置の構成図。
図2A】実施形態の電流制御部の構成図。
図2B図2Aに示した電流制御部の等価回路図。
図3】実施形態の電流制御部のゲインについて説明するための図。
図4】実施形態の制動制御に関するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の制御装置及び制御方法を、図面を参照して説明する。なお、以下の説明では、同一又は類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それらの構成の重複する説明は省略する場合がある。なお、電気的に接続されることを、単に「接続される」ということがある。以下の説明に示す「直交する」とは、略直交する場合を含む。なお、「大きさが等しい」場合には、略等しい場合も含む。
【0008】
図1は、実施形態の電気推進装置の制御装置の構成図である。
図1には、電気推進装置1を形成する、発電機2と、電力変換器3と、推進器4と、制御装置5とが示されている。
【0009】
発電機2は、発電した交流電力を、発電機2の出力から電力変換器3に供給する。電力変換器3は、発電機2から供給される交流電力を変換して、推進器4内の交流電動機4aの駆動に利用する。交流電動機4aの出力軸に連結されるプロペラ4bは、交流電動機4aの出力軸の回転に応じて転動する。交流電動機4aは、例えば誘導電動機である。
【0010】
電力変換器3は、例えば変圧器3aと、コンバータ3bと、インバータ3cとを備える。電力変換器3は、変圧器3aを介して受電した交流電力をコンバータ3bによって直流電力に変換し、さらにインバータ3cによって交流電動機4aの速度制御に必要な電圧、周波数の交流電力に変換する。コンバータ3bとインバータ3cとの接続を直流リンクと呼ぶ。インバータ3cは、例えば、図示しない複数個のスイッチング素子をブリッジ接続して構成されており、これ等の複数個のスイッチング素子は、制御装置5によってオンオフ制御される。インバータ3cは、2レベル型インバータでも、3レベル型インバータでもよい。本実施形態は、インバータの方式によらず適用できる。
【0011】
インバータ3cの出力電流は、インバータ3cの出力と交流電動機4aの端子との間の配線に設けられた電流検出器31によって検出され、制御装置5に与えられる。例えば、インバータ3cの出力電流は、交流電動機4aの各相の巻線に流す電流(線電流)に対応する。制御装置5は、インバータ3cの出力電流に基づいた電流制御の帰還制御系を形成する。また、交流電動機4aには回転子位置検出器41が取り付けられ、交流電動機4aの回転子位置を検出して制御装置5に与える。制御装置5は、回転子位置検出器41の回転子位置の検出結果を用いた速度制御の帰還制御系を形成する。
【0012】
次に、実施形態のインバータ3cの制御装置5について説明する。
【0013】
制御装置5は、交流電動機4aの巻線に流す電流をトルク電流と励磁電流とに分解して制御する所謂ベクトル制御を、交流電動機4aの制御に利用する。以下このベクトル制御を中心として制御装置5の構成を説明する。
【0014】
例えば、制御装置5は、速度制御器5aと、速度演算部5bと、磁束演算部5cと、磁化電流演算部5dと、滑り周波数演算部5eと、滑り角演算部5fと、3相/2相座標変換器5g、電流制御器5hと、2相/3相変換器5iと、PWM制御器5jと、ゲート回路5kと、除算器5mと、加算器5nと、減算器5r、5sと、逆相制動制御回路6とを備える。
【0015】
逆相制動制御回路6は、例えば逆相制動制御器6aと、制御信号切替スイッチ6bと、電流設定部6cと、電流調節部6dと、周波数設定部6eと、回転方向切替器6fと、反転選択器6gと、減算器6hとを備える。
【0016】
以下、上記の各部について順に説明する。
【0017】
速度制御器5aは、速度設定器51からの速度基準信号ωr*(以下*は目標値を示す)と、回転子位置検出器41からの回転子位置θrを速度演算部5bによって微分して得られる速度フィードバック信号ωrとの偏差に基づいて、この偏差がゼロとなるようにトルク基準信号Tm*を演算して出力する。磁束演算部5cは、速度フィードバック信号ωrに基づいて、交流電動機4aの2次磁束基準信号φ2*を演算する。除算器5mは、トルク基準信号Tm*を2次磁束基準信号φ2*で除算して、トルク電流基準信号iq*を得る。磁化電流演算部5dは、2次磁束基準信号φ2*に基づいて、励磁電流基準信号id*を演算する。滑り周波数演算部5eは、トルク成分の電流基準信号iq*と2次磁束基準信号φ2*とに基づいて、滑り周波数信号ωsを演算する。
【0018】
このようにして得られたトルク電流基準信号iq*、及び滑り周波数信号ωsは、逆相制動制御回路6に与えられる。逆相制動制御回路6は、少なくともトルク電流基準信号iq*、及び滑り周波数信号ωsに基づいて、通常運転モードと逆相制動運転モードとを含む幾つかの運転モードを切替えて各部を制御する。なお、通常運転モードとは、後述する逆相制動運転モード以外の場合に適用する運転モードである。逆相制動運転モードとは、交流電動機4aの逆相制動を行う場合に適用する運転モードである。逆相制動運転モードでは、船舶の推進時にその電動機の出力軸を駆動させる方向のトルクとは逆方向のトルクを、交流電動機4aの出力軸に発生させて、船舶を制動させる逆相制動が選択される。逆相制動制御回路6の詳細は後述するが、通常運転モードと逆相制動運転モードの中の何れの運転モードで制御するかについて、逆相制動制御回路6内の逆相制動制御器6aが決定する。逆相制動制御器6aは、決定した運転モードに基づいて、制御信号切替スイッチ6bと、電流設定部6cと、電流制御器5hとを制御するとよい。電流設定部6cと、電流制御器5hとに対する制御の詳細については、後述する。なお、逆相制動制御回路6の逆相制動制御器6aは、上記の他、速度基準信号ωr*と速度フィードバック信号ωrと、その偏差を制動制御に用いるとよい。
【0019】
例えば、通常運転モードであれば、制御信号切替スイッチ6bは、上記トルク電流基準信号iq*、励磁電流基準信号id*及び滑り周波数信号ωsをそのまま逆相制動制御回路6の出力とする。
【0020】
滑り角演算部5fは、滑り周波数信号ωsに基づいて、滑り角θsを演算する。加算器5nは、回転子位置θrと滑り角θsとを加算して、2次磁束位置θ0を得る。なお、回転子位置検出器41が回転子位置θrでなく回転速度を出力する場合は、回転速度を積分してこの回転子位置θrを求めれば良い。
【0021】
3相/2相座標変換器5gは、この2次磁束位置θ0を基準位相として用いて、電流検出器31からの電流信号を、トルク電流フィードバック信号iqとこれと直交する励磁電流フィードバック信号idとに分解してこれらを出力する。
【0022】
電流制御器5hは、減算器5rによって算出されたトルク電流基準信号iq*とトルク電流フィードバック信号iqの偏差Δiqが小さくなるように、又はゼロになるように、その偏差Δiqに所定のゲインを乗じて、トルク電圧基準信号Eq*を算出して出力する。電流制御器5hは、減算器5sによって算出された励磁電流基準信号id*と励磁電流フィードバック信号idの偏差Δidが小さくなるように、又はゼロになるように、偏差Δidに所定のゲインを乗じて、励磁電圧基準信号Ed*を算出して出力する。例えば、電流制御器5hは、通常運転モードと逆相制動運転モードとの内から選択された運転モードに応じた所定のゲインを用いて、前段から入力される偏差に基づいてトルク電圧基準信号Eq*と励磁電圧基準信号Ed*とを夫々演算して出力する。上記の所定のゲインとして、制御系の安定性を確保できるような値が予め設定されている。上記の所定のゲインについて後述する。
【0023】
2相/3相変換器5iは、トルク電圧基準信号Eq*と励磁電圧基準信号Ed*及び2次磁束位置θ0に基づいて、3相電圧基準信号Vu*、Vv*、Vw*を演算して出力する。ここでPWM制御器5jは、得られた3相電圧基準信号Vu*、Vv*、Vw*に基づき、パルス幅変調されたゲートパルス信号を出力する。ゲート回路5kは、このゲートパルス信号を絶縁・増幅し、インバータ3cの主回路スイッチングデバイスにゲートパルスを与えて、これらの主回路スイッチングデバイスをオン・オフさせることにより、所望の電力変換を行う。
【0024】
次に、逆相制動制御回路6の内部構成について説明する。
逆相制動制御器6aは、運転停止条件回路7から与えられる運転/停止信号、トルク電流基準信号iq*、滑り周波数信号ωs、速度フィードバック信号ωr及び速度基準信号ωr*を監視し、これ等の信号の状態の検出結果に従って、通常運転モードと逆相制動運転モードとを切替える。その際、逆相制動制御器6aは、例えば、制御信号切替スイッチ6bによってトルク電流基準信号iq*、励磁電流基準信号id*及び滑り周波数信号ωsを切替える。
【0025】
以下の説明では、逆相制動を行う場合(逆相制動運転モード)を基準にして説明する。
例えば、逆相制動制御器6aは、運転/停止信号、トルク電流基準信号iq*、滑り周波数信号ωs、速度フィードバック信号ωr及び速度基準信号ωr*の状態に基づいて、逆相制動運転モードを選択すべき状態にあることを検出した場合に、制御信号切替スイッチ6bを逆相制動側に選択し、トルク電流基準信号iq*を電流設定部6cで設定された逆相トルク電流io*に切替える。上記の場合には、逆相制動制御器6aは、同様に、励磁電流基準信号id*を電流調節部6dで設定された逆相励磁電流ip*に切替えて、さらに、滑り周波数信号ωsを逆相制動時すべり周波数ωsiに切替える。
【0026】
なお、逆相励磁電流ip*の一例は、ゼロ、又はゼロに近い微小な値である。この逆相制動時すべり周波数ωsiは、例えば減算器6hによって、逆相制動周波数基準ωp*から速度フィードバック信号ωrを減算して求まる。
【0027】
例えば、周波数設定部6eは、逆相制動周波数を設定する。周波数設定部6eの出力には、反転選択器6gの入力が接続されている。回転方向切替器6fによる速度フィードバック信号ωrの識別結果に基づいて、反転選択器6gは、周波数設定部6eで設定された逆相制動周波数をそのまま出力するか、極性を変えて出力する。反転選択器6gは、これを逆相制動周波数基準ωp*とする。例えば、回転方向切替器6fは、速度フィードバック信号ωrが正のときには反転選択器6gで極性を反転させ、負のときには反転させない。
【0028】
図2A図2B、及び図3を参照して、実施形態の電流制御器5hについて説明する。
図2Aは、実施形態の電流制御器5hの構成図である。図2Bは、図2Aに示す電流制御器5hの等価回路図である。図3は、実施形態の電流制御器5hのゲインについて説明するための図である。
【0029】
図2Aに示すように電流制御器5hは、比例演算部211、221と、積分演算部212、222と、加算器213、223とを備える。
【0030】
先に、電流制御器5hのうちq軸成分に関する構成について説明する。説明中の各ゲインについては図3を参照する。
【0031】
比例演算部211の入力には偏差Δiqが供給され、比例演算部211は、偏差Δiqに所定の比例ゲインKp(例えば、比例ゲインK11)を乗じて、その結果を出力する。比例演算部211の出力には、積分演算部212の入力と、加算器213の第1入力とが接続されている。積分演算部212の入力には、比例演算部211の演算結果が供給され、積分演算部212は、偏差Δiqに基づいた比例演算部211の演算結果に所定の積分ゲインKi(例えば、積分ゲインK12)を乗じて、その結果を出力する。積分演算部212の出力には、加算器213の第2入力が接続されている。加算器213は、比例演算部211の演算結果と積分演算部212の演算結果とを加算して、これをトルク電圧基準信号Eq*として出力する。比例ゲインK11と積分ゲインK12の夫々は、予め定められた実数である。
【0032】
次に、電流制御器5hのうちd軸成分に関する構成について説明する。d軸成分に関する構成も、上記のq軸成分に関する構成と同様である。
【0033】
例えば、比例演算部221の入力には偏差Δidが供給され、比例演算部221は、偏差Δidに所定の比例ゲインKp(例えば、比例ゲインK11)を乗じて、その結果を出力する。比例演算部221の出力には、積分演算部222の入力と、加算器223の第1入力とが接続されている。積分演算部222の入力には、比例演算部221の演算結果が供給され、積分演算部222は、偏差Δidに基づいた比例演算部221の演算結果に所定の積分ゲインKi(例えば、積分ゲインK12)を乗じて、その結果を出力する。積分演算部222の出力には、加算器223の第2入力が接続されている。加算器223は、比例演算部221の演算結果と積分演算部222の演算結果とを加算して、これをトルク電圧基準信号Ed*として出力する。
【0034】
なお、上記のように構成された電流制御器5hの見かけの積分ゲインは、比例ゲインK11と積分ゲインK12の積になる。
【0035】
ところで、電流制御器5hの比例演算部211、221の比例ゲインKpは、逆相制動運転モードを指定する制動指令GCONTに応じて切替えられる。図3に示すように、例えば、通常運転モード時に利用するゲインの組を、比例ゲインK11と積分ゲインK12とし、逆相制動運転モード時に利用するゲインの組を、比例ゲインK21と積分ゲインK22とする。比例ゲインK11と比例ゲインK21とを比べると、比例ゲインK11の方が大きく設定される。これにより、電流制御器5hのゲインは、通常運転モード時に比べて逆相制動運転モード時の方が大きくなり、偏差を0にする制御をより強めることができる。
【0036】
図2Bに示すように、電流制御器5hを、PI演算部231から234と、切替スイッチ235、236との組み合わせた構成で示すことができる。
例えば、PI演算部231は、図2Aに示す比例ゲインK11が設定された比例演算部211と、積分ゲインK12が設定された積分演算部212と、加算器213とを含む。PI演算部232は、図2Aに示す比例ゲインK21が設定された比例演算部211と、積分ゲインK22が設定された積分演算部212と、加算器213とを含む。
【0037】
切替スイッチ235は、PI演算部231の演算結果と、PI演算部232の演算結果とを、制動指令GCONTに従い切替える。切替スイッチ235は、制動指令GCONTが活性化されていない場合(無効な場合)に、PI演算部231の演算結果をトルク電圧基準信号Eq*として出力し、制動指令GCONTが活性化された場合(有効な場合)に、PI演算部232の演算結果をトルク電圧基準信号Eq*として出力する。
【0038】
PI演算部233は、図2Aに示す比例ゲインK11が設定された比例演算部221と、積分ゲインK12が設定された積分演算部222と、加算器223とを含む。PI演算部234は、図2Aに示す比例ゲインK21が設定された比例演算部221と、積分ゲインK22が設定された積分演算部222と、加算器223とを含む。
【0039】
切替スイッチ236は、PI演算部233の演算結果と、PI演算部234の演算結果とを、切替える。切替スイッチ236は、制動指令GCONTが活性化されていない場合に、PI演算部233の演算結果をトルク電圧基準信号Ed*として出力し、制動指令GCONTが活性化された場合に、PI演算部234の演算結果をトルク電圧基準信号Ed*として出力する。
なお、上記の図2Bに示す構成を等価回路として説明したが、実際の構成に適用することを制限するものではなく、適宜利用してよい。
【0040】
次に、図4を参照して、交流電動機4aの制動制御について説明する。
図4は、実施形態の制動制御に関するフローチャートである。
例えば、交流電動機4aの運転中に運転停止条件回路7から停止指令が与えられると、逆相制動制御器6aは、これを検出して、この検出に応じて以下の処理を実施する。
【0041】
逆相制動制御器6aは、速度フィードバック信号ωrが制動不能回転数以下を示しているか否かを識別する(ST1)。制動不能回転数以下であれば、逆相制動制御器6aは、トルク電流基準信号iq*が所定値以下であるか否かを識別する(ST3)。
トルク電流基準信号iq*が所定値を超える状態、又はステップST1で制動不能回転数を超える状態は、逆相制動を行うことが好ましくない状態である。そのため、逆相制動制御器6aは、停止指令が与えられた時点の速度基準信号ωr*の値に拘わらず、所定の減速レートで減速させる(ST4)。
【0042】
ステップST3において、トルク電流基準信号iq*が所定値以下であれば、逆相制動制御器6aは、逆相制動を行う条件が満たされたと識別して、ゲートブロック指令GBを有効化して、これをゲート回路5kに対して出力してゲートブロック状態にする。交流電動機4aはフリーラン状態になる(ST5)。逆相制動制御器6aは、このステップST5の動作を、少なくとも交流電動機4aの逆起電圧が適度に低下するだけの所定の時間に亘って継続させる。この所定の時間は、交流電動機4aの誘起電圧が低下する時定数に基づいてその数倍程度に設定するとよい。
【0043】
次に、逆相制動制御器6aは、速度フィードバック信号ωrが制動可能な最大回転数(制動最大回転数)以下を示すようになったか否かを識別する(ST6)。
【0044】
そして、速度フィードバック信号ωrが制動最大回転数以下を示すようになった場合、その後に、逆相制動制御器6aは、以下の制御を行うことで逆相制動運転モードによる制動(逆相制動という。)を開始する(ST7)。
【0045】
例えば、逆相制動制御器6aは、電流制御器5hにおけるゲインを、通常運転モード用のゲインから、逆相制動運転モード用のゲインに切替えて、この後に上記のゲートブロック指令GBを無効化してゲートブロック状態を解除する。逆相制動制御器6aは、さらに制御信号切替スイッチ6bにおいて逆相制動側を選択し、トルク電流基準信号iq*を徐々に値が変化する逆相トルク電流io*に切替え、励磁電流基準信号id*を電流調節部6dによって設定される逆相励磁電流ip*に切替え、また滑り周波数信号ωsを逆相制動時すべり周波数ωsiに切替える。
【0046】
さらに、逆相制動制御器6aは、電流設定部6cを制御して、電流設定部6cから逆相制動運転モード時の指標値である逆相トルク電流io*0を出力させる。逆相トルク電流io*0は、電流設定部6cの後段に設けられたフィルタ6rによって急峻に変化する信号成分が抑制される。これにより、フィルタ6rによって、変化量(変化率)が適当に制限された逆相トルク電流io*が生成される。このような方法で、電流設定部6cの出力の切替え後に、ステップ状ではなく、徐々に単調に増加する逆相トルク電流io*を得る。逆相トルク電流io*について、運転モードの切替えに応じて生じ得る急峻な変動を抑制することができる。このフィルタ6rは、一次応答型のローパスフィルタとして構成されていてもよく、出力の変化率が所定の範囲内に制限するレート制限型回路で構成されていてもよい。
【0047】
なお、例えば、コンバータ3bにダイオードコンバータを使用した場合などのように、直流リンク側から発電機2側に電力を回生することができない場合がある。このような場合には、通常運転モード中のその値を通常0%に設定するとよい。電流設定部6cは、この値を、逆相トルク電流io*0の基準値として用いてもよい。
【0048】
ただし、逆相制動を開始してから所定の時間が経過した後、交流電動機4aが有する運動エネルギーが低下していれば、過大な回生エネルギーが、インバータ3cを介して直流リンク側に流入する可能性が低くなる。このような状態にあれば、逆相トルク電流io*を0%以外の値にすることで、より大きな制動トルクを発生させることができる場合がある。
【0049】
そこで、電流設定部6cについて、逆相制動を開始段階の逆相トルク電流io*0の初期値として、通常運転モード中の基準値と同じ0%に設定して、逆相制動運転モードを開始した後の目標値として、0%以外の所望の値を予め設定するとよい。例えば、運転モードの切替えによって、逆相トルク電流io*0の値が0%から0%以外の所望の値に変更する際に、フィルタ6rは、逆相トルク電流io*が急峻に変化することを抑制する。
【0050】
実施形態において、電流調節部6dについて、例えば逆相励磁電流ip*をゼロ(0%)に設定するとよい。
【0051】
次に、逆相制動制御器6aは、逆相制動期間中に、速度基準信号ωr*と速度フィードバック信号ωrを比較する(ST7A)。ステップST7Aにおける偏差が所定値未満となった場合に、逆相制動制御器6aは、逆相制動を終了させて(ST9)、そしてこの状態で運転を停止する。
【0052】
ステップST7Aにおける偏差が所定値以上であれば、逆相制動制御器6aは、速度フィードバック信号ωrを識別して、交流電動機4aの回転数が制動状態を継続する回転数の下限値である最小回転数(制動最小回転数という)以下か否かを識別する(ST8)。速度フィードバック信号ωrが、制動最小回転数を超えた回転数で交流電動機4aが回転している状態を示す場合には、逆相制動制御器6aは、ステップST8の速度フィードバック信号ωrの識別を繰り返して、交流電動機4aの回転数(速度)が低下するまで待機する。速度フィードバック信号ωrが制動最小回転数未満を示すようになった場合に、逆相制動制御器6aは、逆相制動を終了させて(ST9)、そしてこの状態で運転を停止する。
【0053】
なお、以上の説明においては、交流電動機4aが制動最小回転数以上で回転中に停止指令が与得られた状況を例示して説明したが、交流電動機4aが制動最小回転数未満で回転中である状況において、ステップST5によるフリーラン動作を行う必要はないので直接運転を停止すれば良い。また、ステップST3のトルク電流基準の判定を省略しても良い。なお、このステップST3のトルク電流基準の判定を行ったとき、トルク電流基準信号iq*が所定値を超えている場合には、電気推進装置1は、これを異常状態としてアラームを発することが好ましい。
【0054】
なお、上記は、電気推進装置1の運転中に交流電動機4aを制動する場合の事例であるが、交流電動機4aを減速させている場合についても、上記と同様の手法を適用可能である。
【0055】
上記の実施形態によれば、電流制御器5hは、交流電動機4aの巻線に流れる電流の検出値に対する電流帰還値と、交流電動機4aの巻線に流れる電流の大きさの制御目標の指標である電流基準iq*とを用いた電流制御により、交流電動機4aの巻線に流れる電流の大きさを制御する。逆相制動制御器6aは、交流電動機4aの制動制御のための制動指令GCONTを有効にして出力する。逆相制動制御器6aは、制動制御の指令の出力に応じて、電流制御の制御ゲインについて、交流電動機4aを駆動させる駆動時の第1ゲインから、交流電動機4aを制動させる制動時の第2ゲインに切替える。これにより、制御装置5は、逆相制動による交流電動機4aの制動時に電流制御の安定性をより高めることができる。
なお、交流電動機4aを駆動させる駆動時の状態は、通常運転モードを選択した状態の一例である。通常運転モードは、上記の駆動時、フリーラン時の制御等に適用できる。
【0056】
また、電流制御器5hは、交流電動機4aの巻線に流れる電流の検出値に対するトルク電流フィードバック信号iqと励磁電流フィードバック信号idとを電流帰還値として利用して、電流帰還値と電流基準との偏差に対する比例演算を、制動時用の第2ゲイン(例えば、上記の比例ゲインK21)を利用して実施して、その偏差が小さくなるように制御してもよい。
【0057】
電流制御器5hは、上記の電流帰還値と、電流基準との偏差に対する比例積分演算を、制動時用の第2ゲイン(例えば、上記の比例ゲインK21と積分ゲインK22)を利用して実施して、その偏差が小さくなるように制御してもよい。
【0058】
電流制御器5hは、比例積分演算における積分成分の見かけのゲインを、比例積分演算における比例成分のゲインの大きさに応じた大きさにするように形成されていてもよい。
【0059】
電流設定部6cは、制御により前記電動機の逆相トルクを発生させるための前記電流基準を生成する。フィルタ6rは、制動時の電流基準の変化を緩やかにする。電流制御器5hは、電流設定部6cを制御して、制動時の電流基準を生成させてよい。
【0060】
比較例において、制動制御時の制御状態が通常運転時とは異なるために、通常運転時のゲインを制動制御時に適用すると、制御が不安定になることがあり得る。本実施形態のように、通常運転モード時のゲインと、逆相制動運転モード時のゲインを分けたことにより、夫々の状況と制御に適した値に夫々設定できる。
例えば、逆相制動運転モード時には、積分成分による補償よりも、比例成分による補償を多くすると、交流電動機4aの減速を効率よく行うことができる。
【0061】
また、電流基準をステップ状に変化させるのではなく、フィルタ6rを用いて、制御系の応答性に合わせた制御目標を設定することが可能になり、過電流が発生することを抑制している。フィルタ6rの特性は、制御系の応答特性をモデル化して、これを用いるモデル予測制御の手法を適用して決定してもよい。
なお、逆相トルク電流io*が、逆相制動の開始後に逆相トルク電流io*0に対する所定の比率の大きさになるまでの時間に対して、逆相制動時の電流制御系の応答時間の方が短くなるように、フィルタ6rの応答特性(時定数)を決定する方法で決定してもよい。
フィルタ6rは、電流制御の制御ループの外に設けられている。この位置にフィルタ6rを設けることで、偏差に対する応答性を下げることなく、上記の制御が可能になる。
【0062】
(変形例)
上記の実施形態では、制動方法の一例として逆相制動の事例について説明した。これに代えて、他の制動方法を適用してもよい。
他の制動方法として、例えば、直流制動が挙げられる。直流制動の場合には、制御装置5は、制動中に交流電動機4aの巻線に所定の周波数の電流を流すことに代えて、同巻線に直通電圧を印加する。これにより、交流電動機4a内に磁界を発生させて、交流電動機4aの機械的な損失を増加させる。直流制動の具体的な制御方法については、周知の方法を適用してもよく、例えば、国際公開公報WO2019/234920A1などを参照してよい。
【0063】
比較例の場合には、直流制動を開始するとき、及び直流制動中に、交流電動機4aの巻線に流れる電流の大きさが振動的に変化したり、電力変換器3内のコンバータ3bとインバータ3cとを繋ぐ直流リンクに逆相制動中に許容値を超える過電圧が生じたりする。
【0064】
これに対して、変形例の制御装置5(電流制御器5h)によれば、直流制動の場合であっても、比較例のような電流の振動的な変化を軽減し、許容値を超える過電圧が生じることを抑制することができる。このように本変形例の場合も制動制御中の電流制御の安定性をより高めることができる。
【0065】
以上に説明した少なくとも一つの実施形態によれば、制御装置は、電流制御部と、制動制御部とを備える。電流制御部は、電動機の巻線に流れる電流の検出値と、電動機の巻線に流れる電流の大きさの制御目標の指標である電流基準とを用いた電流制御により、電動機の巻線に流れる電流の大きさを制御する。制動制御部は、電動機の制動制御のための制動指令GCONTを出力する。電流制御部は、制動制御の指令の出力に応じて、電流制御の制御ゲインについて、電動機を駆動させる駆動時の第1ゲインから、電動機を制動させる制動時の第2ゲインに切替える。これにより、制御装置は、電動機の制動時に電流制御の安定性をより高めることができる。
【0066】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0067】
1…電気推進装置、2…発電機、3…電力変換器、3c…インバータ、31…電流検出器、4…推進器、4a…交流電動機(電動機)、4b…プロペラ、5…制御装置、5a…速度制御器、5b…速度演算部、5c…磁束演算部、5d…磁化電流演算部、5e…滑り周波数演算部、5f…滑り角演算部、5g…3相/2相座標変換器、5h…電流制御器、5i…2相/3相座標変換器、5j…PWM制御器、5k…ゲート回路、5m…除算器、5n…加算器、5r、5s…減算器、6…逆相制動制御回路、6a…逆相制動制御器(制動制御部)、6b…制御信号切替スイッチ、6c…電流設定部、6d…電流調節部、6e…周波数設定部、6f…回転方向切替器、6g…反転選択器、6h…減算器、7…運転停止条件回路
図1
図2A
図2B
図3
図4