(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174429
(43)【公開日】2022-11-24
(54)【発明の名称】乳化食品の油の酸化抑制剤、油水分離抑制剤および乳化粒子安定性向上剤
(51)【国際特許分類】
A23L 29/00 20160101AFI20221116BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20221116BHJP
A23L 27/60 20160101ALI20221116BHJP
A23D 7/005 20060101ALI20221116BHJP
A23L 27/00 20160101ALN20221116BHJP
【FI】
A23L29/00
A23L5/00 L
A23L27/60 A
A23D7/005
A23L27/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080218
(22)【出願日】2021-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000226415
【氏名又は名称】物産フードサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】冨山 香里
(72)【発明者】
【氏名】平野 勝昭
(72)【発明者】
【氏名】林 沙紀
(72)【発明者】
【氏名】栃尾 巧
【テーマコード(参考)】
4B026
4B035
4B047
【Fターム(参考)】
4B026DC04
4B026DG01
4B026DL01
4B026DL03
4B026DL10
4B026DP01
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4B035LP21
4B047LB02
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4B047LE03
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4B047LG60
4B047LG62
4B047LG66
4B047LP03
4B047LP14
(57)【要約】
【課題】 乳化食品の時間経過に伴う油水分離や油の酸化といった品質低下を抑制する技術を提供する。
【解決手段】 下記(a)~(c)から選択される還元水飴を有効成分とする乳化食品の油の酸化抑制剤、;(a)単糖を30~50質量%、二糖を20~50質量%および三糖以上を25質量%以下含有する糖組成である、還元水飴、(b)単糖を30質量%未満および五糖以上を50質量%未満含有する糖組成である、還元水飴、(c)デキストロース当量が37以上70以下の水飴を還元してなる、還元水飴。本発明によれば、乳化食品において時間経過に伴って起こる油分の酸化を抑制できる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)~(c)から選択される還元水飴を有効成分とする、乳化食品の油の酸化抑制剤;
(a)単糖を30~50質量%、二糖を20~50質量%および三糖以上を25質量%以下含有する糖組成である、還元水飴、
(b)単糖を30質量%未満および五糖以上を50質量%未満含有する糖組成である、還元水飴、
(c)デキストロース当量が37以上70以下の水飴を還元してなる、還元水飴。
【請求項2】
下記(a)~(c)から選択される還元水飴を有効成分とする、乳化食品の油水分離抑制剤;
(a)単糖を30~50質量%、二糖を20~50質量%および三糖以上を25質量%以下含有する糖組成である、還元水飴、
(b)単糖を30質量%未満および五糖以上を50質量%未満含有する糖組成である、還元水飴、
(c)デキストロース当量が37以上70以下の水飴を還元してなる、還元水飴。
【請求項3】
下記(a)~(c)から選択される還元水飴を有効成分とする、乳化食品の乳化粒子安定性向上剤;
(a)単糖を30~50質量%、二糖を20~50質量%および三糖以上を25質量%以下含有する糖組成である、還元水飴、
(b)単糖を30質量%未満および五糖以上を50質量%未満含有する糖組成である、還元水飴、
(c)デキストロース当量が37以上70以下の水飴を還元してなる、還元水飴。
【請求項4】
前記還元水飴が下記(d)である、請求項1~3のいずれかに記載の剤;
(d)単糖を2~50質量%、二糖を30~55質量%、三糖を1~35質量%、四糖を1~10質量%および五糖以上を1~15質量%含有する糖組成である、還元水飴。
【請求項5】
前記乳化食品が乳化型調味料である、請求項1~4のいずれかに記載の剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の剤を、乳化食品の材料に混合する工程を有する、乳化食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の還元水飴を有効成分とする、乳化食品の油の酸化抑制剤、油水分離抑制剤および乳化粒子安定性向上剤、ならびに、これを用いる乳化食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳化食品は、油分と水分とが略均一に混ざり合った(乳化した)形態を有する食品であり、牛乳や生クリーム、マヨネーズ、アイスクリーム、乳化液状ドレッシング(O/W型)、バター(W/O型)など多くの種類が存在する。乳化食品は、一般に、製造直後は均一な乳化状態であるが、輸送や保管などの時間経過に伴って油分や水分が分離したり、油が酸化して風味が損なわれることが問題となっている。そこで、乳化食品の時間経過に伴う品質低下を抑制する技術が求められており、例えば、特許文献1には、蛋白性発酵調味料及びソルビトールを用いることで、乳化型ドレッシングの褐変を防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、褐変を防止することは示されているものの、油分や水分の分離や油の酸化を抑制できるか否かは不明である。すなわち、係る先行技術を鑑みても、乳化食品の時間経過に伴う品質低下を抑制する技術は十分に供給されている状況とはいえない。
【0005】
本発明は、係る課題を解決するためになされたものであって、乳化食品の時間経過に伴う油水分離や油の酸化といった品質低下を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究の結果、下記(a)~(d)に示す所定の還元水飴が、乳化食品において、時間経過に伴って起こる油水分離および油分の酸化を抑制できること、ならびに、乳化粒子の経時的安定性を向上させることを見出した。そこで、これらの知見に基づいて下記の各発明を完成した。
【0007】
(1)本発明に係る乳化食品の油の酸化抑制剤は、下記(a)~(c)から選択される還元水飴を有効成分とする;
(a)単糖を30~50質量%、二糖を20~50質量%および三糖以上を25質量%以下含有する糖組成である、還元水飴、
(b)単糖を30質量%未満および五糖以上を50質量%未満含有する糖組成である、還元水飴、
(c)デキストロース当量が37以上70以下の水飴を還元してなる、還元水飴。
【0008】
(2)本発明に係る乳化食品の油水分離抑制剤は、下記(a)~(c)から選択される還元水飴を有効成分とする;
(a)単糖を30~50質量%、二糖を20~50質量%および三糖以上を25質量%以下含有する糖組成である、還元水飴、
(b)単糖を30質量%未満および五糖以上を50質量%未満含有する糖組成である、還元水飴、
(c)デキストロース当量が37以上70以下の水飴を還元してなる、還元水飴。
【0009】
(3)本発明に係る乳化食品の乳化粒子安定性向上剤は、下記(a)~(c)から選択される還元水飴を有効成分とする;
(a)単糖を30~50質量%、二糖を20~50質量%および三糖以上を25質量%以下含有する糖組成である、還元水飴、
(b)単糖を30質量%未満および五糖以上を50質量%未満含有する糖組成である、還元水飴、
(c)デキストロース当量が37以上70以下の水飴を還元してなる、還元水飴。
【0010】
(4)本発明において、還元水飴は、下記(d)のものであってもよい;
(d)単糖を2~50質量%、二糖を30~55質量%、三糖を1~35質量%、四糖を1~10質量%および五糖以上を1~15質量%含有する糖組成である、還元水飴。
【0011】
(5)本発明において、乳化食品は、乳化型調味料であってもよい。
【0012】
(6)本発明に係る乳化食品の製造方法は、本発明に係る剤を、乳化食品の材料に混合する工程を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、乳化食品において時間経過に伴って起こる油分の酸化を抑制できる。また、本発明によれば、乳化食品において時間経過に伴って起こる油水分離を抑制できる。また、本発明によれば、乳化食品において乳化粒子の経時的安定性を向上できる。よって、本発明によれば、乳化食品の時間経過に伴う品質低下の抑制、賞味期限の延長、あるいは、フードロスの削減に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】還元水飴を配合しないドレッシング(試料1)および各種の還元水飴を配合したドレッシング(試料2~5)を長期間保存した際の試料外観を示す写真画像である。
【
図2】還元水飴を配合しないドレッシング(試料1)および各種の還元水飴を配合したドレッシング(試料2~5)を長期間保存した際のカルボニル化合物の変化率を示す棒グラフである。
【
図3】還元水飴を配合しないドレッシング(試料1)および各種の還元水飴を配合したドレッシング(試料2~5)を長期間保存した際の、乳化粒子を示す走査顕微鏡の観察画像である。
【
図4】原料のサラダ油、還元水飴を配合しないドレッシング(試料1)および高糖化還元水飴を配合したドレッシング(試料2)を長期間保存した際のカルボニル化合物の変化率を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明は、「乳化食品の油の酸化抑制剤」、「乳化食品の油水分離抑制剤」および「乳化食品の乳化粒子安定性向上剤」を提供する。本発明においては、これらをまとめて、あるいは、これらのいずれかを指して「本剤」という場合がある。
【0016】
「乳化食品」とは、油分と水分とが略均一に混ざり合った(乳化した)形態を有する食品をいう。乳化食品には、油脂が油滴として水相中に分散した水中油滴型(O/W型)と、水分が水滴として油相中に分散した油中水滴型(W/O型)とがある。具体的には、水中油滴型乳化食品としては牛乳や生クリーム、アイスクリーム、乳化型調味料、ガナッシュクリームやカスタードクリーム等の製菓用クリーム、シチュー、カレーなどを、油中水滴型乳化食品としてはバターやマーガリンなどを、それぞれ例示することができる。
【0017】
「乳化型調味料」とは、乳化形態をとる液状または半固体状の調味料をいう。具体的には、マヨネーズやサラダクリーミードレッシング、半固体状ドレッシング、乳化液状ドレッシングなどのドレッシング類、オランデーズソースやブール・ブランなどの油脂含有ソース類などを例示することができる。
【0018】
なお、本発明において「油」、「油脂」、「油分」という場合、いずれも食用油脂を指す。食用油脂には、常温で液体状のもの、常温で固体状のもの、植物性油脂、動物性油脂などがあるが、これらのいずれであってもよい。
【0019】
乳化食品に含有される油は、通常、時間経過に伴い酸化される。本発明において、油の酸化を抑制するとは、上記油の酸化を生じないようにすること、あるいは、酸化が生じたとしてもその程度を小さくすることをいう。
【0020】
油の酸化が抑制されたか否かは、例えば、本剤を用いた乳化食品Aと、本剤を用いていない乳化食品Bとを同条件下で一定時間保存した後、それぞれに含有される油の酸化の程度を比較することにより確認できる。油の酸化程度は、例えば、油脂が酸化した後分解してできるカルボニル化合物の量を定法にしたがって測定することにより評価できる。それにより、食品Aの方が食品Bよりもカルボニル化合物量が小さい、あるいは、食品Aの方が食品Bよりも、保存前後のカルボニル化合物の増加率が小さい、との比較結果が得られれば、本剤により、油の酸化が抑制されたと判断することができる。
【0021】
乳化食品に含有される油分や水分は、時間経過に伴い乳化状態から脱して、2相(油相と水相、油相と乳化相、もしくは、水相と乳化相)または3相(油相、水相および乳化相)に分離する場合がある。本発明において、油水分離を抑制するとは、上記2相または3相への分離を生じないようにすること、あるいは、分離が生じたとしてもその程度を小さくすることをいう。
【0022】
油水分離が抑制されたか否かは、例えば、本剤を用いた乳化食品Aと、本剤を用いていない乳化食品Bとを、透明の容器に入れて同条件下で一定時間保存した後、油水分離の程度(分離により新たに生じた相の有無ないし体積)を目視により観察し、比較することにより確認できる。それにより、食品Aの方が食品Bよりも、食品において分離により生じた相の体積が小さい、との比較結果が得られれば、本剤により、油水分離が抑制されたと判断することができる。
【0023】
乳化食品に含有される乳化粒子(油滴又は水滴)は、時間経過に伴い他の乳化粒子と凝集ないし合一して、粒子サイズが大きくなる場合がある。これにより食品の口当たりや舌触り、風味が変化したり、このような現象が進めば油水分離を生じたりするため、乳化粒子のサイズ変化は、品質低下の要因となる。したがって、乳化粒子は、そのサイズを安定的に保つことが好ましい。本発明において、乳化粒子の安定性を向上するとは、乳化粒子のサイズ変化を生じないようにすること、あるいは、サイズ変化が生じたとしてもその程度を小さくすることをいう。
【0024】
乳化粒子の安定性が向上したか否かは、例えば、本剤を用いた乳化食品Aと、本剤を用いていない乳化食品Bとを、同条件下で一定時間保存した後、乳化粒子の粒子径を顕微鏡により観察し、比較することにより確認できる。それにより、食品Aの方が食品Bよりも、保存前後の粒子径の変化量が小さい、との比較結果が得られれば、本剤により、乳化粒子の安定性が向上したと判断することができる。
【0025】
還元水飴は、水飴を還元して得られる糖アルコールの一種である。ここで、水飴は、デンプンを酸や酵素などで糖化して得られる物質であり、単糖(ブドウ糖)および多糖(オリゴ糖やデキストリンなど)の混合物である。よって、還元水飴もまた、単糖の糖アルコールおよび多糖(二糖、三糖、四糖または五糖以上)の糖アルコールのうち、2種以上の糖アルコールを含む混合物である。
【0026】
還元水飴は、糖化の程度により高糖化還元水飴、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴に分けられる場合がある。本発明においては、これらのうち、高糖化還元水飴または中糖化還元水飴を用いることが好ましい。
【0027】
高糖化還元水飴の糖組成としては(a)単糖を30~50質量%、二糖を20~50質量%および三糖以上を25質量%以下含有する糖組成を、中糖化還元水飴の糖組成としては(b)単糖を30質量%未満および五糖以上を50質量%未満含有する糖組成を、それぞれ例示することができる。また、高~中糖化還元水飴の糖組成としては、(d)単糖を2~50質量%、二糖を30~55質量%、三糖を1~35質量%、四糖を1~10質量%および五糖以上を1~15質量%含有する糖組成を例示することができる。
【0028】
なお、本発明において、糖組成とは、糖の総質量に占める各糖の質量割合を百分率で示すものをいう。すなわち、糖の総質量を100とした場合の、各糖の質量百分率である。
【0029】
糖組成は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて確認することができる。すなわち、還元水飴を試料としてHPLCに供してクロマトグラムを得る。当該クロマトグラムにおいて、全ピークの面積の総和が「糖の総質量」に、各ピークの面積が「各糖の質量」に相当する。よって、試料における各糖の質量百分率は、検出された全ピークの面積の総和に対する各ピークの面積の割合として算出することができる。HPLCの条件は、定法に従って適宜設定することができるが、下記条件を例示することができる。
《HPLCの条件》
カラム;MCI GEL CK04S(10mm ID x 200mm)
溶離液;高純水
流速;0.4mL/分
注入量;20μL
カラム温度;65℃
検出;示差屈折率検出器RI-10A(島津製作所)
【0030】
還元水飴は、水飴を還元して製造することから、還元水飴の糖化の程度は、水飴の糖化の程度に準じる。すなわち、原料水飴の糖化の程度が高いほど還元水飴の糖化の程度が高く、原料水飴の糖化の程度が低いほど還元水飴の糖化の程度は低い。水飴の糖化の程度の指標は、一般に、デキストロース当量(Dextrose Equivalent値;DE)が用いられる。DEは、試料中の還元糖をブドウ糖として測定したときの、当該還元糖の全固形分に対する割合(百分率)である。DEの最大値は100で、固形分の全てがブドウ糖であることを意味し、DEが小さくなるほど少糖類や多糖類が多いことを意味する。
【0031】
本発明に係る還元水飴は、高糖化ないし中糖化が好ましい。よって、その原料水飴のDEとしては、37以上70以下、40以上70以下または45以上70以下を例示することができる。
【0032】
なお、水飴のDEは、下記の方法により測定することができる。
《DEの測定方法》
試料2.5gを正確に量り、水で溶かして200mLとする。この液10mLを量り、1/25mol/L ヨウ素溶液(注1)10mLと1/25mol/L 水酸化ナトリウム溶液(注2)15mLを加えて20分間暗所に放置する。次に、2mol/L塩酸(注3)を5mL加えて混和した後、1/25mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液(注4)で滴定する。滴定の終点近くで液が微黄色になったら、デンプン指示薬(注5)2滴を加えて滴定を継続し、液の色が消失した時点を滴定の終点とする。水を用いてブランク値を求め、次式1によりDEを求める。
(注1)1/25mol/L ヨウ素溶液:ヨウ化カリウム20.4gとヨウ素10.2gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注2)1/25mol/L 水酸化ナトリウム溶液:水酸化ナトリウム3.2gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注3)2mol/L 塩酸:水750mLに塩酸150mLをかき混ぜながら徐々に加える。
(注4)1/25mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液:チオ硫酸ナトリウム20gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注5)デンプン指示薬:可溶性デンプン5gを水500mLに溶解し、これに塩化ナトリウム100gを溶解する。
【0033】
本発明において、還元水飴は、市販されているものをそのまま用いてもよく、当業者に公知の方法に従って製造して用いてもよい。還元水飴の公知の製造方法としては、原料となる水飴(原料糖)に水素を添加する還元反応を挙げることができる。
【0034】
水素添加による還元反応は、例えば、40~75質量%の原料糖水溶液を、還元触媒と併せて高圧反応器中に仕込み、反応器中の水素圧を4.9~19.6MPa、反応液温を70~180℃として、混合攪拌しながら、水素の吸収が認められなくなるまで反応を行なえばよい。その後、還元触媒を分離し、イオン交換樹脂処理、必要であれば活性炭処理等で脱色脱塩した後、所定の濃度まで濃縮すれば、高濃度の還元水飴を作ることができる。
【0035】
還元水飴は、乳化食品の通常の製造過程において、材料に添加して用いることができる。すなわち、本発明は、乳化食品の製造方法も提供する。本方法は、本剤を乳化食品の材料に混合する工程を有する。本方法によれば、油の酸化が抑制された乳化食品、油水分離が抑制された乳化食品、あるいは、乳化粒子の安定性が向上した乳化食品をつくることができる。
【0036】
本方法において、材料とは、乳化食品を構成する食品材料をいう。乳化食品は、通常、油分、水分、乳化剤成分およびその他の成分から構成される。よって、乳化食品の製造にあたって、食材は、これら全ての成分を含有する食材のほか、これらのうちいずれか1以上の成分を含有する食材を組み合わせて用いられる。また、材料には、乳化食品の製造に用いられる添加剤(例えば、増粘剤)を含んでもよい。
【0037】
本方法において、材料に還元水飴を混合するタイミングや方法は特に限定されず、任意に設定することができるが、還元水飴は親水性であるため、まず、水分ないし水分を多く含有する食材に添加して混合することが好ましい。また、乳化食品は、通常、攪拌等の乳化処理を経て製造されるが、還元水飴を食品中に均一に分散させるため、当該乳化処理の前ないし最中に還元水飴を添加することが好ましい。
【0038】
本方法は、本発明の特徴を損なわない限り他の工程を含むものであってもよい。係る工程としては、例えば、乳化工程、調味工程、加熱工程、冷却工程、包装工程、殺菌工程などを例示することができる。
【0039】
以下、本発明について、各実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例0040】
<還元水飴>
還元水飴は、表1に示す市販品を用いた。
【表1】
【0041】
<実施例1>乳化液状ドレッシング
(1)乳化液状ドレッシングの製造
下記ア)~ウ)の手順で、試料1~5の乳化液状ドレッシングを製造した。配合は表2に示すとおりとした(単位:g)。表2において、試料名のカッコ内に、用いた還元水飴の種類を示す。製造したドレッシングを40℃で50日保管し、下記(2)~(5)の評価に供した。
ア)増粘剤(増粘多糖類;三栄源エフエフアイ)を除くすべての原料をミキサーに入れ、30秒撹拌した。
イ)ア)に増粘剤を加え、5分撹拌した。
ウ)イ)をペットボトル容器に200gずつ充填した。
【表2】
【0042】
(2)分離安定性の検証
保管開始から3日目、11日目、30日目および50日目に試料の外観を目視にて観察し、水分と油分との分離の有無ないし程度を確認した。試料外観の写真画像を
図1に示す。
【0043】
図1に示すように、3日目ではドレッシングの外観に試料間で目立った差は見られなかった。一方、11日目では、試料1(還元水飴無し)に下層(分離した水分の層)が見られたのに対して、試料2(高糖化還元水飴:エスイー600)、試料3(高糖化還元水飴:エスイー600P)、試料4(中糖化還元水飴)および試料5(低糖化還元水飴)では下層が見られなかった。30日目および50日目では、全試料に下層が見られたが、試料1と比較して、試料2、試料3、試料4および試料5の方が、下層の高さが顕著に低かった。
【0044】
すなわち、保管開始から11~50日目では、還元水飴を配合した試料の方が、配合しない試料と比較して、ドレッシングにおける分離した水分量が顕著に小さかった。この結果から、還元水飴を配合すると、乳化食品における水分や油分の分離を抑制できることが明らかになった。
【0045】
(3)油の酸化の検証
保管開始時(0日目)ならびに保管開始から3日目、7日目および21日目に各試料から一部を採取し、右記方法によりカルボニル化合物の量を測定した。すなわち、採取した試料に対し5倍量のブタノールを添加してよく混合した後、上澄み液を回収した。等倍量の0.05%2,4-ジヒドロフェニルヒドラジン溶液とよく混合して、40℃で20分反応させた。反応終了後、一部を測り取り、4倍量の8%水酸化カリウムを含む1-ブタノール溶液とよく混合し、25℃、8,500×g、5分の条件で遠心分離した。得られた上澄み溶液について、420nmの吸光度を測定した。カルボニル化合物量は、Trans-2-デセナールを標品として作成した検量線から算出した。
【0046】
続いて、保管開始時のカルボニル化合物量を100%として、3日目、7日目および21日目におけるカルボニル化合物量を百分率に換算し、これを変化率とした。すなわち、変化率は、保管開始時を基準としたカルボニル化合物の増減量を表すことから、変化率が大きいほど、ドレッシングに含有される油脂の酸化の程度が大きい(保管時に油脂の酸化が進んだ)と解釈される。その結果を
図2に示す。
【0047】
図2に示すように、3日目および7日目の変化率は、試料1(還元水飴無し)と比較して試料2(高糖化還元水飴:エスイー600)、試料3(高糖化還元水飴:エスイー600P)、試料4(中糖化還元水飴)および試料5(低糖化還元水飴)の方が小さかった。21日目の変化率は、試料1と比較して試料2、試料3および試料4の方が顕著に小さかった。
【0048】
すなわち、高糖化還元水飴および中糖化還元水飴を配合した試料では、配合しない試料と比較して、保管開始後の全ての時点でカルボニル化合物の変化率が小さかった。特に、保管開始から21日目の変化率は顕著に小さかった。この結果から、高糖化還元水飴または中糖化還元水飴を配合すると、乳化食品における油の酸化を顕著に抑制できることが明らかになった。
【0049】
(4)乳化粒子安定性の検証
保管開始時(0日目)および保管開始から21日目に試料を走査顕微鏡にて観察し、乳化粒子の粒子経を確認した。その観察画像を
図3に示す。
【0050】
図3に示すように、試料1(還元水飴無し)および試料5(低糖化還元水飴)では、0日目と比較して21日目において乳化粒子の粒子経が大きくなっていた。これに対して、試料2(高糖化還元水飴:エスイー600)、試料3(高糖化還元水飴:エスイー600P)および試料4(中糖化還元水飴)では、0日目と21日目とで乳化粒子の粒子経に大きな差が無かった。
【0051】
すなわち、高糖化還元水飴および中糖化還元水飴を配合した試料では、21日間の保管後も、乳化粒子の粒子経の増大がほとんど見られなかった。この結果から、高糖化還元水飴または中糖化還元水飴を配合すると、乳化食品における乳化粒子の経時的安定性を向上できることが明らかになった。
【0052】
<実施例2>分離液状ドレッシング
(1)分離液状ドレッシングの製造
下記ア)~ウ)の手順で、試料1および試料2の分離液状ドレッシングを製造した。配合は表3に示すとおりとした(単位:g)。
ア)キサンタンガムを湯に溶き膨潤させた。
イ)サラダ油を除くすべての原料(ア)を含む)を混合し、これを80℃に加熱して粉末原料を溶解した。
ウ)ペットボトル容器にイ)160gとサラダ油40gとを合わせて充填した。
【表3】
【0053】
(2)油の酸化の検証
製造したドレッシングおよび試料製造の原料として用いたサラダ油を40℃で21日保管し、実施例1(3)に記載の方法により、3日目、7日目および21日目におけるカルボニル化合物の変化率を測定した。その結果を
図4に示す。
【0054】
図4に示すように、試料2(高糖化還元水飴)の変化率は、3日目、7日目および21日目のいずれの時点においても、サラダ油および試料1(還元水飴無し)とほぼ同じ値であった。すなわち、カルボニル化合物の変化率は、高糖化還元水飴を配合した試料、配合しない試料および原料サラダ油で、保管開始後の全ての時点において同等であったことから、還元水飴による油の酸化抑制効果は、分離液状ドレッシングでは得られなかった。この結果から、還元水飴による油の酸化抑制効果は、乳化形態を有する食品において特有に発揮される効果であることが明らかになった。