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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174457
(43)【公開日】2022-11-24
(54)【発明の名称】液状組成物、金属光沢膜及び物品
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/12 20060101AFI20221116BHJP
【FI】
C08G61/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080265
(22)【出願日】2021-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 聡哉
(72)【発明者】
【氏名】山田 渉
(72)【発明者】
【氏名】星野 勝義
(72)【発明者】
【氏名】塚田 学
(72)【発明者】
【氏名】田村 理人
(72)【発明者】
【氏名】土井 浩敬
【テーマコード(参考)】
4J032
【Fターム(参考)】
4J032BA04
4J032BB01
4J032BB08
4J032BC03
4J032BD07
4J032CG06
(57)【要約】
【課題】金属光沢膜を形成する液状組成物であって、経時の粘度安定性に優れる液状組成物を提供する。
【解決手段】液状組成物は、チオフェン重合体と溶媒とを含み、チオフェン重合体のハンセン溶解度パラメータの双極子間力項δpと溶媒のハンセン溶解度パラメータの双極子間力項δpとの差|δp-δp|が7.7MPa0.5以上13.4MPa0.5以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオフェン重合体と溶媒とを含み、
前記チオフェン重合体のハンセン溶解度パラメータの双極子間力項δpと前記溶媒のハンセン溶解度パラメータの双極子間力項δpとの差|δp-δp|が7.7MPa0.5以上13.4MPa0.5以下である、液状組成物。
【請求項2】
前記差|δp-δp|が12.0MPa0.5以上13.4MPa0.5以下である、請求項1に記載の液状組成物。
【請求項3】
ハンセン溶解度パラメータ空間における前記チオフェン重合体と前記溶媒との距離Raが9.1MPa0.5以上14.1MPa0.5以下である、請求項1又は請求項2に記載の液状組成物。
【請求項4】
前記距離Raが13.0MPa0.5以上14.1MPa0.5以下である、請求項3に記載の液状組成物。
【請求項5】
前記溶媒が、炭酸プロピレン、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項6】
前記チオフェン重合体の質量割合が1質量%以上10質量%以下である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項7】
前記チオフェン重合体が、アルコキシチオフェン、アルキルチオフェン、アミノチオフェン及びヒドロキシチオフェンからなる群から選択される少なくとも1種が重合した重合体を含む、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項8】
前記チオフェン重合体が、少なくともアルコキシチオフェンが重合した重合体を含み、
前記アルコキシチオフェンが、アルコキシ基の炭素数が1以上8以下であるアルコキシチオフェンを含む、請求項7に記載の液状組成物。
【請求項9】
前記チオフェン重合体が、少なくともアルキルチオフェンが重合した重合体を含み、
前記アルキルチオフェンが、アルキル基の炭素数が1以上8以下であるアルキルチオフェンを含む、請求項7又は請求項8に記載の液状組成物。
【請求項10】
請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の液状組成物が乾燥してなる金属光沢膜。
【請求項11】
請求項10に記載の金属光沢膜を有する物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液状組成物、金属光沢膜及び物品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、チオフェンモノマーを電位掃引法を用いて導電体上に電解重合することでチオフェン重合体からなる金属光沢膜を製造する方法が開示されている。
特許文献2には、重量平均分子量の分布ピークが200以上30000以下の範囲内にあるチオフェン重合体を含む金属光沢を有する膜が開示されている。
特許文献3には、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂及びスチレンアクリル共重合体樹脂の少なくともいずれかとチオフェン重合体が混合された金属光沢を有する物品が開示されている。
特許文献4には、ポリチオフェンを含有し、ポリチオフェンに塩化物イオン又は過塩素酸イオンがドーピングされたメタリック調塗膜形成用塗工液が開示されている。
特許文献5には、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、塩化物イオン及びパラトルエンスルホン酸イオンの少なくともいずれかがドーピングされ、炭素数が1又は2のアルコキシチオフェン及びアルキルチオフェンの少なくともいずれかが重量平均分子量の分布ピークが200以上30000以下の範囲内となるよう重合したチオフェン重合体を含む金色又は銅色の光沢を有する膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-052856号公報
【特許文献2】特開2017-110232号公報
【特許文献3】特開2018-012831号公報
【特許文献4】特許第6031197号公報
【特許文献5】特許第6308624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
チオフェン重合体を含む液状組成物は、時間が経つと増粘することがあり、増粘した液状組成物を塗布して形成した膜は、見る角度によって金属光沢が感じられないことがあった。
【0005】
本開示は、金属光沢膜を形成する液状組成物であって、経時の粘度安定性に優れる液状組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> チオフェン重合体と溶媒とを含み、前記チオフェン重合体のハンセン溶解度パラメータの双極子間力項δpと前記溶媒のハンセン溶解度パラメータの双極子間力項δpとの差|δp-δp|が7.7MPa0.5以上13.4MPa0.5以下である、液状組成物。
<2> 前記差|δp-δp|が12.0MPa0.5以上13.4MPa0.5以下である、<1>に記載の液状組成物。
<3> ハンセン溶解度パラメータ空間における前記チオフェン重合体と前記溶媒との距離Raが9.1MPa0.5以上14.1MPa0.5以下である、<1>又は<2>に記載の液状組成物。
<4> 前記距離Raが13.0MPa0.5以上14.1MPa0.5以下である、<3>に記載の液状組成物。
<5> 前記溶媒が、炭酸プロピレン、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドからなる群から選択される少なくとも1種を含む、<1>~<4>のいずれか1項に記載の液状組成物。
<6> 前記チオフェン重合体の質量割合が1質量%以上10質量%以下である、<1>~<5>のいずれか1項に記載の液状組成物。
<7> 前記チオフェン重合体が、アルコキシチオフェン、アルキルチオフェン、アミノチオフェン及びヒドロキシチオフェンからなる群から選択される少なくとも1種が重合した重合体を含む、<1>~<6>のいずれか1項に記載の液状組成物。
<8> 前記チオフェン重合体が、少なくともアルコキシチオフェンが重合した重合体を含み、前記アルコキシチオフェンが、アルコキシ基の炭素数が1以上8以下であるアルコキシチオフェンを含む、<7>に記載の液状組成物。
<9> 前記チオフェン重合体が、少なくともアルキルチオフェンが重合した重合体を含み、前記アルキルチオフェンが、アルキル基の炭素数が1以上8以下であるアルキルチオフェンを含む、<7>又は<8>に記載の液状組成物。
<10> <1>~<9>のいずれか1項に記載の液状組成物が乾燥してなる金属光沢膜。
<11> <10>に記載の金属光沢膜を有する物品。
【発明の効果】
【0007】
<1>、<5>、<6>、<7>、<8>又は<9>によれば、チオフェン重合体のハンセン溶解度パラメータの双極子間力項δpと溶媒のハンセン溶解度パラメータの双極子間力項δpとの差|δp-δp|が7.7MPa0.5未満又は13.4MPa0.5超である液状組成物と比較して、経時の粘度安定性に優れる液状組成物が提供される。
<2>によれば、チオフェン重合体のハンセン溶解度パラメータの双極子間力項δpと溶媒のハンセン溶解度パラメータの双極子間力項δpとの差|δp-δp|が12.0MPa0.5未満又は13.4MPa0.5超である液状組成物と比較して、経時の粘度安定性に優れる液状組成物が提供される。
<3>によれば、ハンセン溶解度パラメータ空間におけるチオフェン重合体と溶媒との距離Raが9.1MPa0.5未満又は14.1MPa0.5超である液状組成物と比較して、経時の粘度安定性に優れる液状組成物が提供される。
<4>によれば、ハンセン溶解度パラメータ空間におけるチオフェン重合体と溶媒との距離Raが13.0MPa0.5未満又は14.1MPa0.5超である液状組成物と比較して、経時の粘度安定性に優れる液状組成物が提供される。
<10>によれば、チオフェン重合体のハンセン溶解度パラメータの双極子間力項δpと溶媒のハンセン溶解度パラメータの双極子間力項δpとの差|δp-δp|が7.7MPa0.5未満又は13.4MPa0.5超である液状組成物が乾燥してなる金属光沢膜と比較して、金属光沢に優れる金属光沢膜が提供される。
<11>によれば、チオフェン重合体のハンセン溶解度パラメータの双極子間力項δpと溶媒のハンセン溶解度パラメータの双極子間力項δpとの差|δp-δp|が7.7MPa0.5未満又は13.4MPa0.5超である液状組成物が乾燥してなる金属光沢膜を有する物品と比較して、金属光沢に優れる金属光沢膜を有する物品が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本開示の実施形態について説明する。これらの説明及び実施例は実施形態を例示するものであり、実施形態の範囲を制限するものではない。
【0009】
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0010】
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。本開示において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0011】
<液状組成物>
本実施形態に係る液状組成物は、チオフェン重合体と溶媒とを含み、チオフェン重合体のハンセン溶解度パラメータの双極子間力項δpと溶媒のハンセン溶解度パラメータの双極子間力項δpとの差|δp-δp|(単位MPa0.5)が7.7以上13.4以下である。
【0012】
本開示の発明者は、液状組成物を構成するチオフェン重合体と溶媒とがハンセン溶解度パラメータにおいて上記の関係であると、液状組成物が経時の粘度安定性に優れることを見出した。
特定の理論に拘束されるものではないが、チオフェン重合体のδpと溶媒のδpとの差|δp-δp|(単位MPa0.5)が7.7未満であると、チオフェン重合体と溶媒との相互作用が強く、液状組成物の粘度上昇が発生すると推測され、チオフェン重合体のδpと溶媒のδpとの差|δp-δp|(単位MPa0.5)が13.4超であると、溶媒にいったんは溶解したチオフェン重合体が不溶化することがあり、液状組成物の粘度上昇が発生すると推測される。
上記の観点から、チオフェン重合体のδpと溶媒のδpとの差|δp-δp|(単位MPa0.5)は、7.7以上13.4以下であり、10.0以上13.4以下が好ましく、12.0以上13.4以下がより好ましい。
【0013】
本実施形態に係る液状組成物は、経時の粘度安定性に優れ、粘度の上昇が発生しにくいことにより、金属光沢に優れる膜を安定して形成することができる。
【0014】
さらに、本実施形態に係る液状組成物は、液状組成物を構成するチオフェン重合体と溶媒とがハンセン溶解度パラメータにおいて上記の関係、つまり、チオフェン重合体のδpと溶媒のδpとの差|δp-δp|(単位MPa0.5)が7.7以上13.4以下であることによって、塗膜から溶媒が揮発してチオフェン重合体の膜が形成される際に、チオフェン重合体が層状に配向し金属光沢を呈しやすいと推測される。
【0015】
以下に、ハンセン溶解度パラメータ(Hansen solubility parameter,HSP)を説明する。
【0016】
HSPは3つの成分、分散力項δd、双極子間力項δp及び水素結合力項δhで構成される。3つの成分の単位はいずれも、MPa0.5である。
【0017】
本実施形態においてHSPは、温度25℃(298.15K)における値である。HSPは、「Hansen Solubility Parameters: A User's Handbook, Second Edition」に記載された値を使用する。記載されていない化学物質については、ソフトウェア「Hansen Solubility Parameter in Practice (HSPiP) Ver5.202」を用いて計算する。
【0018】
本実施形態において混合溶媒のHSPは、体積比で重みづけした平均である。例えば、純溶媒A(δd,δp,δh)と純溶媒B(δd,δp,δh)とを体積比1:1で混合した混合溶媒のHSPは、(0.5・δd+0.5・δd,0.5・δp+0.5・δp,0.5・δh+0.5・δh)である。
【0019】
本実施形態においてチオフェン重合体を複数種類混合して(例えば、ポリ(メトキシチオフェン)とポリ(ブトキシチオフェン)とを混合して)使用する場合、チオフェン重合体の混合物のHSPは、質量比で重みづけした平均である。例えば、チオフェン重合体M(δd,δp,δh)とチオフェン重合体N(δd,δp,δh)とを質量比1:1で混合した混合物のHSPは、(0.5・δd+0.5・δd,0.5・δp+0.5・δp,0.5・δh+0.5・δh)である。
【0020】
チオフェン重合体のHSPを(δd,δp,δh)とし、溶媒のHSPを(δd,δp,δh)とするとき、HSP空間におけるチオフェン重合体と溶媒との距離Raは次式で与えられる。
Ra={4(δd-δd+(δp-δp+(δh-δh0.5
【0021】
本実施形態において、HSP空間におけるチオフェン重合体と溶媒との距離Ra(単位MPa0.5)は、液状組成物が経時の粘度安定性に優れる観点から、9.1以上14.1以下が好ましく、12.0以上14.1以下がより好ましく、13.0以上14.1以下が更に好ましい。
【0022】
本実施形態においてチオフェン重合体のHSPの双極子間力項δp(単位MPa0.5)は、2.0以上5.0以下が好ましく、3.0以上4.8以下がより好ましく、3.3以上4.6以下が更に好ましい。
【0023】
本実施形態において溶媒のHSPの双極子間力項δp(単位MPa0.5)は、8.0以上20.0以下が好ましく、10.0以上20.0以下がより好ましく、12.0以上18.0以下が更に好ましい。
【0024】
本実施形態においてチオフェン重合体のHSPの分散力項δd及び水素結合力項δh、並びに、溶媒のHSPの分散力項δd及び水素結合力項δhは、制限されるものではない。HSP空間におけるチオフェン重合体と溶媒との距離Raが先述の範囲になる(δd,δp,δh)及び(δd,δp,δh)であることが好ましい。
【0025】
以下、本実施形態に係る液状組成物の成分を詳しく説明する。
【0026】
[チオフェン重合体]
チオフェン重合体は、2個以上のチオフェン類が重合した重合体である。チオフェン重合体を含む膜は、層状に配向したチオフェン重合体が特定の波長の光を反射することにより、金属光沢を呈する。
【0027】
チオフェン重合体は、1種のチオフェン類が重合した重合体でもよく、複数種のチオフェン類が重合した重合体でもよい。チオフェン重合体の実施形態例として、下記の一般式で表される重合体が挙げられる。
【0028】
【化1】
【0029】
上記一般式において、Rは置換基であり、mは1又は2であり、nは2以上の整数である。Rは、1種でもよく、複数種でもよい。mが2の場合、1個のチオフェン環が有する2個のRは、同種でもよく、異種でもよい。mが2の場合、1個のチオフェン環において、2個のRが連結して環状基を形成していてもよい。
【0030】
Rは、例えば、アルコキシ基、アルキル基、アミノ基、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基、アリール基、アリル基、シアノ基、ハロゲノ基を示す。Rは、チオフェン重合体を含む膜がより確実に金属光沢を呈する観点から、アルコキシ基、アルキル基、アミノ基、ヒドロキシ基が好ましく、アルコキシ基、アルキル基、アミノ基がより好ましく、アルコキシ基、アルキル基が更に好ましい。
【0031】
Rがアルコキシ基である場合、アルコキシ基の炭素数は、チオフェン重合体が層状に配向しやすい観点から、1以上8以下が好ましく、1以上6以下がより好ましく、1以上4以下が更に好ましく、1又は2が特に好ましい。
アルコキシ基を少なくとも1個有するチオフェン類としては、3-メトキシチオフェン、3,4-ジメトキシチオフェン、3-エトキシチオフェン、3,4-ジエトキシチオフェン、3-プロポキシチオフェン、3-ブトキシチオフェン、3,4-エチレンジオキシチオフェン、3,4-プロピレンジオキシチオフェン等が挙げられる。
【0032】
Rがアルキル基である場合、アルキル基の炭素数は、チオフェン重合体が層状に配向しやすい観点から、1以上12以下が好ましく、1以上8以下がより好ましく、1以上6以下が更に好ましく、1以上4以下が更に好ましく、1又は2が特に好ましい。
アルキル基を少なくとも1個有するチオフェン類としては、3-メチルチオフェン、3,4-ジメチルチオフェン、3-エチルチオフェン、3,4-ジエチルチオフェン、3-ブチルチオフェン、3-ヘキシルチオフェン、3-ヘプチルチオフェン、3-オクチルチオフェン、3-ノニルチオフェン、3-デシルチオフェン、3-ウンデシルチオフェン、3-ドデシルチオフェン、3-ブロモ-4-メチルチオフェン等が挙げられる。
【0033】
Rがアミノ基である場合、アミノ基は、第1級アミノ基(-NH)でもよく、第2級アミノ基(-NHR、Rはアルキル基又はアリール基であり、アルキル基が好ましい。)でもよく、第3級アミノ基(-NR、R及びRはそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基であり、アルキル基が好ましい。)でもよい。第2級アミノ基又は第3級アミノ基におけるアルキル基の炭素数は、チオフェン重合体が層状に配向しやすい観点から、1又は2が好ましい。
アミノ基を少なくとも1個有するチオフェン類としては、3-アミノチオフェン、3,4-ジアミノチオフェン、3-メチルアミノチオフェン、3-ジメチルアミノチオフェン等が挙げられる。
【0034】
チオフェン重合体としては、チオフェン重合体を含む膜がより確実に金属光沢を呈する観点から、アルコキシチオフェン、アルキルチオフェン、アミノチオフェン及びヒドロキシチオフェンからなる群から選択される少なくとも1種が重合した重合体が好ましく、アルコキシチオフェン及びアルキルチオフェンからなる群から選択される少なくとも1種が重合した重合体がより好ましく、アルコキシチオフェンのみが重合したポリ(アルコキシチオフェン)、アルキルチオフェンのみが重合したポリ(アルキルチオフェン)又はアルキルチオフェンとアルコキシチオフェンのみが重合したポリ(アルキルチオフェン)(アルコキシチオフェン)が更に好ましい。アルコキシチオフェンにおけるアルコキシ基の炭素数は、1以上8以下が好ましく、1以上6以下がより好ましく、1以上4以下が更に好ましく、1又は2が特に好ましい。アルキルチオフェンにおけるアルキル基の炭素数は、1以上12以下が好ましく、1以上8以下がより好ましく、1以上6以下が更に好ましく、1以上4以下が更に好ましく、1又は2が特に好ましい。
【0035】
チオフェン重合体は、チオフェン重合体が層状に配向し金属光沢を呈しやすい観点から、重量平均分子量が200以上30000以下であることが好ましく、500以上20000以下であることがより好ましく、1000以上10000以下であることが更に好ましい。
【0036】
チオフェン重合体の分子量測定は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定する。測定装置に東ソー(株)製HPLC1100を使用し、カラムに東ソー(株)製TSKgel GMHHR-M(内径7.8mm、長さ30cm)を2本直列に配置して使用し、溶媒にクロロホルムを使用し、標準試料に単分散ポリスチレンを使用する。
【0037】
本実施形態に係る液状組成物に含まれるチオフェン重合体の質量割合は、液状組成物の全質量に対して、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、0.5質量%以上15質量%以下がより好ましく、1質量%以上10質量%以下が更に好ましい。
【0038】
チオフェン重合体は、例えば、酸化重合法によって合成する。酸化重合法は、酸化剤を用いて液相又は固相においてチオフェン類を重合する方法である。
【0039】
酸化剤としては、例えば、第二鉄塩、第二銅塩、セリウム塩、二クロム酸塩、過マンガン酸塩、過硫酸アンモニウム、三フッ化ホウ素、臭素酸塩、過酸化水素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
【0040】
酸化剤としては、第二鉄塩が好ましい。第二鉄塩は、水和物であってもよい。
第二鉄塩の対イオンとしては、例えば、塩化物イオン、クエン酸イオン、シュウ酸イオン、パラトルエンスルホン酸イオン、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン等が挙げられる。第二鉄塩の対イオンとして、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン及びテトラフルオロホウ酸イオンの少なくとも1種を用いると、金色に近い光沢を呈する膜を形成することができる。
【0041】
対イオンが過塩素酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン又は塩化物イオンである酸化剤を用いた場合、これら対イオンはチオフェン重合体に安定的に結合されて残留し、金属光沢の状態を安定的に維持することができる。
【0042】
酸化重合は、溶媒中において行うことが好ましい。溶媒は、チオフェン類及び酸化剤を溶解し、チオフェン類を効率的に重合させる溶媒が好ましい。溶媒としては、高い極性を有し、ある程度の揮発性を有する有機溶媒であることが好ましい。
【0043】
酸化重合に用いる溶媒としては、例えば、アセトニトリル、ニトロメタン、γ-ブチロラクトン、炭酸プロピレン、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ニトロメタン、1-メチル-2-ピロリジノン、2-ブタノン、テトラヒドロフラン、アセトン、メタノール、アニソール、クロロホルム、酢酸エチル、ヘキサン、トリクロロエチレン、シクロヘキサノン、ジクロロメタン、クロロホルム、エタノール、ブタノール、ピリジン、ジオキサン、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0044】
酸化重合に用いる溶媒としては、チオフェン重合体の溶解性の観点から、非プロトン性極性溶媒が好ましく、アセトニトリル、ニトロメタン、γ-ブチロラクトン、炭酸プロピレン、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドからなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0045】
酸化重合において溶媒とチオフェン類との質量比は、溶媒:チオフェン類=1:0.00007~1:7が好ましく、1:0.0007~1:0.7がより好ましい。
酸化重合において溶媒と酸化剤との質量比は、例えば、酸化剤が過塩素酸鉄(III)n水和物〔第二〕の場合、溶媒:過塩素酸鉄(III)n水和物〔第二〕=1:0.0006~1:6が好ましく、1:0.006~1:0.6がより好ましい。
酸化重合においてチオフェン類と酸化剤との質量比は、チオフェン類:酸化剤=1:0.1~1:1000が好ましく、1:1~1:100がより好ましい。
【0046】
酸化重合の方法及び操作は特に制限されない。チオフェン類と酸化剤とを溶媒に一度に加え溶解させて酸化重合を行ってもよく、溶媒にチオフェン類を溶解させた溶液と溶媒に酸化剤を溶解させた溶液とを別々に作製し、両溶液を混合して酸化重合を行ってもよい。
【0047】
酸化重合におけるチオフェン類の濃度、反応温度及び反応時間を変更することで、チオフェン重合体の分子量を調整することができる。
【0048】
酸化重合法で合成したチオフェン重合体は、溶液のまま使用してもよいし、溶媒を除去して粉末状のチオフェン重合体として使用してもよい。
【0049】
粉末状のチオフェン重合体は、酸化重合の際に使用した酸化剤に由来する不純物を含有することがある。不純物を除去する目的で、下記の(a)、(b)及び(c)の少なくとも1つの処理を行ってもよい。
(a)貧溶媒を用いてチオフェン重合体の洗浄を行う。
(b)チオフェン重合体を良溶媒に溶解させた溶液を、貧溶媒に滴下し、チオフェン重合体を沈殿させる。
(c)チオフェン重合体を良溶媒に溶解させた溶液に、貧溶媒を滴下し、チオフェン重合体を沈殿させる。
貧溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコールが好ましく、良溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン等が好ましい。
【0050】
チオフェン重合体の合成方法として、電解重合法も挙げられる。電解重合法によって得たチオフェン重合体を溶媒に溶解し、本開示の実施形態に使用することができる。
電解重合法は、モノマーを支持電解質を含む溶媒に溶解してなる電解溶液中において、モノマーを電極酸化することにより、不溶性重合体からなる膜を導電体上に形成する方法をいう。
【0051】
電解重合における溶媒としては、例えば、水、アルコール、これらの混合溶媒が挙げられる。また、「電気化学測定法 上巻」107~114頁(藤島昭、相澤益男、井上 徹、技報堂出版、1984年)に記載の溶媒を使用してもよい。
【0052】
支持電解質は、溶媒に十分溶解し且つ電気分解されにくい電解質が好ましい。支持電解質としては、カチオンに注目すれば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、テトラアルキルアンモニウム塩が好ましく、アニオンに注目すれば、ハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、過塩素酸塩、三フッ化ホウ素塩、六フッ化リン酸塩が好ましい。
【0053】
電解溶液におけるチオフェン類の濃度は、0.1mmol/L以上溶解度以下であることが好ましく、1mmol/L以上1mol/L以下であることがより好ましい。
電解溶液における支持電解質の濃度は、0.001mol/L以上溶解度以下であることが好ましく、0.01mol/L以上1mol/L以下であることがより好ましい。
【0054】
電解重合法は、動作電極として機能させる導電体と、対向電極と、電位の基準となる参照電極とを用いる3電極式、又は、動作電極として機能させる導電体と、対向電極とを用いる2電極式が好ましい。3電極式は、望むチオフェン重合体を再現性よく重合できる観点から好ましい。
【0055】
動作電極として機能させる導電体の材質は、3電極式及び2電極式のいずれにおいても、電極酸化に対して安定な物質であることが好ましい。例えば、酸化インジウムスズ、酸化スズ等の導電膜が塗布された電極(透明ガラス電極、金属電極、グラッシーカーボン電極等)が好ましい。対向電極としては、上記の電極、ステンレス、銅板等の金属電極が好ましい。参照電極は、Ag/AgCl電極、飽和カロメル電極が好ましい。
【0056】
電解重合法において陽極酸化させる際、電位掃引法を用いることが好ましい。電位掃引法とは、一定の速度で電位を変化させつつ印加する処理をいう。
【0057】
電位掃引法は、負電位と正電位の間で掃引することが好ましい。この場合、負電位は、-1.5V以上-0.01V以下の範囲が好ましく、より好ましくは-1.0V以上-0.1V以下の範囲、更に好ましくは-0.7V以上-0.2V以下の範囲である。正電位は、+1.0V以上+3.0V以下の範囲が好ましく、より好ましくは+1.0V以上+2.0V以下の範囲、更に好ましくは+1.0V以上+1.5V以下の範囲である。
電位掃引法の掃引速度は、0.1mV/秒以上10V/秒以下の範囲が好ましく、より好ましくは1mV/秒以上1V/秒以下の範囲、更に好ましくは2mV/秒以上300mV/秒以下の範囲である。
【0058】
電解重合の時間は、1秒以上5時間以下の範囲が好ましく、10秒以上1時間以下の範囲がより好ましい。
電解重合時の電気分解の温度は、-20℃以上60℃以下の範囲が好ましい。
【0059】
電解重合時の電気分解は、大気中の成分物質が関与することの少ない反応でありまた比較的低電位で行われるため、大気中で行うことができる。電解液中の不純物の酸化など、生成した膜を汚染する可能性を回避する観点から、窒素ガスやアルゴンガス雰囲気中で行うことが好ましいが、汚染の心配はほとんどない。それでもやはり、電解溶液中に酸素が多く存在すると電極反応に影響を与えるおそれがあるため、不活性ガス(窒素ガスやアルゴンガス)によるバブリングを行うことも有用である。
【0060】
[溶媒]
本実施形態に係る液状組成物は溶媒を含む。液状組成物を構成する溶媒は、金属光沢膜の形成過程において揮発し、金属光沢膜に実質的に残留しないことが好ましい。
【0061】
溶媒は、チオフェン重合体の溶解性の観点から、非プロトン性極性溶媒が好ましい。溶媒は、液状組成物が経時の粘度安定性に優れる観点から、炭酸プロピレン、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、及びこれらの混合溶媒が好ましく、炭酸プロピレンがより好ましい。
【0062】
本実施形態に係る液状組成物の粘度は、金属光沢膜の形成に使用する際において、1mPa・s以上100mPa・s以下が好ましく、10mPa・s以上50mPa・s以下がより好ましい。
本実施形態において液状組成物の粘度は、回転式粘度計を用いて、試料温度22℃±0.5℃、剪断速度10s-1の条件で測定する。
【0063】
[その他の成分]
本実施形態に係る液状組成物は、各種の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、熱安定剤、酸化防止剤、還元防止剤、消泡剤、浸透剤、レベリング剤、界面活性剤、分散安定剤、粘度調整剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防カビ剤等が挙げられる。
【0064】
<金属光沢膜>
本実施形態に係る金属光沢膜は、本実施形態に係る液状組成物が乾燥してなる膜である。
【0065】
本実施形態に係る金属光沢膜は、例えば、物品上に本実施形態に係る液状組成物を塗布して塗膜を形成し、塗膜を乾燥させて形成することができる。
塗膜を形成する方法としては、ドロップキャスト法、スピンコート法、バーコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、インクジェット法等が挙げられる。
塗膜を乾燥させるために乾燥処理(例えば、加熱、送風)を行ってもよく、自然な乾燥にまかせてもよい。
【0066】
金属光沢膜を形成後、金属光沢膜を物品上に固着させる観点から、金属光沢膜を加圧することが好ましい。加圧には、擦ることも含まれる。
【0067】
金属光沢膜の厚さは、金属光沢を呈する厚さであることが好ましく、具体的には、0.01μm以上200μm以下が好ましい。
【0068】
金属光沢膜に含まれるチオフェン重合体は、重量平均分子量が200以上30000以下であることが好ましく、500以上20000以下であることがより好ましく、1000以上10000以下であることが更に好ましい。
金属光沢膜に含まれるチオフェン重合体の分子量測定は、例えば、金属光沢膜を溶剤で溶かしチオフェン重合体を抽出して行う。
【0069】
<物品>
本実施形態に係る物品は、本実施形態に係る金属光沢膜を有する。
【0070】
本実施形態に係る物品は、物品上に本実施形態に係る金属光沢膜を形成して製造する。金属光沢膜を形成する対象の物品としては、家具、建築部材、玩具、雑貨、衣類、紙製品、包装等が挙げられる。ただし、これらは例示であり、金属光沢膜が形成できる物品であれば特に制限はない。物品の材質は、金属光沢膜の形成しやすさの観点から、樹脂、ガラス、紙等が好ましい。
【実施例0071】
以下、実施例を例示することで本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。合成、処理、製造などは、特に断りのない限り、室温(25℃±3℃)で行った。
【0072】
<チオフェン重合体の合成>
[ポリ(3-メトキシチオフェン)]
3-メトキシチオフェン11.4gを三つ口フラスコに入れ、アセトニトリル0.5Lを入れ、アセトニトリルに3-メトキシチオフェンを溶解した。次いで、三つ口フラスコ内を窒素で置換し、0℃に冷却した。次いで、過塩素酸鉄(III)n水和物〔第二〕101gをアセトニトリル0.5Lに溶解させた容液を、当該溶液及び反応系内を5℃以下に保ちながら滴下した。次いで、室温まで温度を上げ室温にて15時間攪拌した。次いで、メタノール1Lを加え1時間攪拌した。次いで、遠心分離機を用いて固液分離し、固形分を採取し、減圧下60℃で16時間乾燥し、チオフェン重合体10.5gを得た。
合成したチオフェン重合体2.0gをビーカーに取り、メタノール50mLを加え、液温を45℃に調整し1時間攪拌した。次いで、遠心分離機を用いて固液分離し、固形分をビーカーに取り、メタノール50mLを加え、液温を45℃に調整し1時間攪拌した。次いで、遠心分離機を用いて固液分離し、固形分を採取し、減圧下60℃で16時間乾燥し、チオフェン重合体1.8gを得た。メタノール洗浄後のチオフェン重合体の重量平均分子量は3000であった。
【0073】
上記の合成を繰り返して、必要な量のポリ(3-メトキシチオフェン)を得た。メタノール洗浄後のポリ(3-メトキシチオフェン)を後述の実施例及び比較例に使用した。
【0074】
[ポリ(3-ブトキシチオフェン)]
3-ブトキシチオフェン3.1gを三つ口フラスコ入れ、アセトニトリル0.1Lを入れ、アセトニトリルに3-ブトキシチオフェンを溶解した。次いで、三つ口フラスコ内を窒素で置換し、0℃に冷却した。次いで、過塩素酸鉄(III)n水和物〔第二〕20gをアセトニトリル0.1Lに溶解させた容液を、当該溶液及び反応系内を5℃以下に保ちながら滴下した。次いで、室温まで温度を上げ室温にて15時間攪拌した。次いで、メタノール0.2Lを加え1時間攪拌した。次いで、遠心分離機を用いて固液分離し、固形分を採取した。
採取した固形分を、ジメチルホルムアミド100mLに溶解させた。この溶液を攪拌しながら、イソプロピルアルコール1Lを30分間かけて滴下し、固体を徐々に析出させた。次いで、遠心分離機を用いて固液分離し、固形分をビーカーに取り、メタノール50mLを加え、液温を45℃に調整し1時間攪拌した。次いで、遠心分離機を用いて固液分離し、固形分を採取し、減圧下60℃で16時間乾燥し、チオフェン重合体1.9gを得た。メタノール洗浄後のチオフェン重合体の重量平均分子量は3200であった。
【0075】
上記の合成を繰り返して、必要な量のポリ(3-ブトキシチオフェン)を得た。メタノール洗浄後のポリ(3-ブトキシチオフェン)を後述の実施例に使用した。
【0076】
[ポリ(3-メチルチオフェン)(3-メトキシチオフェン)]
3-メチルチオフェン0.02gと3-メトキシチオフェン2.05gとを三つ口フラスコ入れ、アセトニトリル0.1Lを入れ、アセトニトリルにチオフェン類を溶解した。次いで、三つ口フラスコ内を窒素で置換し、0℃に冷却した。次いで、過塩素酸鉄(III)n水和物〔第二〕20gをアセトニトリル0.1Lに溶解させた容液を、当該溶液及び反応系内を5℃以下に保ちながら滴下した。次いで、室温まで温度を上げ室温にて15時間攪拌した。次いで、メタノール0.2Lを加え1時間攪拌した。次いで、遠心分離機を用いて固液分離し、固形分を採取した。
採取した固形分を、ジメチルホルムアミド100mLに溶解させた。この溶液を攪拌しながら、イソプロピルアルコール1Lを30分間かけて滴下し、固体を徐々に析出させた。次いで、遠心分離機を用いて固液分離し、固形分をビーカーに取り、メタノール50mLを加え、液温を45℃に調整し1時間攪拌した。次いで、遠心分離機を用いて固液分離し、固形分を採取し、減圧下60℃で16時間乾燥し、チオフェン重合体1.9gを得た。メタノール洗浄後のチオフェン重合体の重量平均分子量は3300であった。
【0077】
上記の合成を繰り返して、必要な量のポリ(3-メチルチオフェン)(3-メトキシチオフェン)を得た。メタノール洗浄後のポリ(3-メチルチオフェン)(3-メトキシチオフェン)を後述の実施例に使用した。
【0078】
<実施例1-1>
ポリ(3-メトキシチオフェン)1質量部を炭酸プロピレン99質量部に溶解し、スターラーにて30分間攪拌したのち12時間静置し、液状組成物を得た。
【0079】
上記の液状組成物を、温度24℃下に24時間静置した。温度24℃下に24時間静置する前後において液状組成物の粘度を測定し、その差を算出した。表1の「粘度変動」欄にその差を示す。粘度測定は、HAAKE精密回転式粘度計VT550を用いて、試料温度22℃±0.5℃、剪断速度10s-1で行った。
【0080】
温度24℃下に24時間静置した後の液状組成物を、金属光沢膜の形成に使用した。洗浄したガラス基板上に液状組成物をドロップキャストし、温度80℃に40分間置き乾燥させ、金属光沢膜を形成した。金属光沢膜の厚さは約1.0μmであった。
【0081】
金属光沢膜の光沢を目視観察し、下記のとおり分類した。表1の「光沢感」欄に結果を示す。
A:見る角度によらず全面に光沢感がある。
B:見る角度により光沢感がある。
C:光沢感がない。
【0082】
<実施例1-2>
実施例1-1と同様にして、ただし溶媒をジメチルスルホキシド(DMSO)に変更して液状組成物を得た。そして、実施例1-1と同様にして、ただし乾燥温度を25℃に変更して金属光沢膜を形成した。実施例1-1と同様に、粘度変動及び金属光沢膜の光沢を評価した。
【0083】
<実施例1-3>
実施例1-1と同様にして、ただし溶媒をN-メチルピロリドン(NMP)に変更して液状組成物を得た。そして、実施例1-1と同様にして金属光沢膜を形成した。実施例1-1と同様に、粘度変動及び金属光沢膜の光沢を評価した。
【0084】
<比較例1-1>
実施例1-1と同様にして、ただし溶媒をニトロメタンに変更して液状組成物を得た。そして、実施例1-1と同様にして、ただし乾燥温度を25℃に変更して金属光沢膜を形成した。実施例1-1と同様に、粘度変動及び金属光沢膜の光沢を評価した。
【0085】
<比較例1-2>
実施例1-1と同様にして、ただし溶媒をアセトニトリルに変更して液状組成物を得た。そして、実施例1-1と同様にして、ただし乾燥温度を25℃に変更して金属光沢膜を形成した。実施例1-1と同様に、粘度変動及び金属光沢膜の光沢を評価した。
【0086】
<比較例1-3>
実施例1-1と同様にして、ただし溶媒をアセトンに変更して液状組成物を得た。そして、実施例1-1と同様にして、ただし乾燥温度を25℃に変更して金属光沢膜を形成した。実施例1-1と同様に、粘度変動及び金属光沢膜の光沢を評価した。
【0087】
<比較例1-4>
実施例1-1と同様にして、ただし溶媒をγ-ブチロラクトンに変更して液状組成物を得た。そして、実施例1-1と同様にして金属光沢膜を形成した。実施例1-1と同様に、粘度変動及び金属光沢膜の光沢を評価した。
【0088】
<比較例1-5>
実施例1-1と同様にして、ただし溶媒を水に変更して液状組成物を得た。そして、実施例1-1と同様にして、ただし乾燥温度を60℃に変更して金属光沢膜を形成した。実施例1-1と同様に、粘度変動及び金属光沢膜の光沢を評価した。
【0089】
<実施例2-1>
実施例1-2と同様にして、ただしチオフェン重合体をポリ(3-ブトキシチオフェン)に変更して液状組成物を得た。そして、実施例1-2と同様にして金属光沢膜を形成した。実施例1-1と同様に、粘度変動及び金属光沢膜の光沢を評価した。
【0090】
<実施例2-2>
実施例1-3と同様にして、ただしチオフェン重合体をポリ(3-ブトキシチオフェン)に変更して液状組成物を得た。そして、実施例1-3と同様にして金属光沢膜を形成した。実施例1-1と同様に、粘度変動及び金属光沢膜の光沢を評価した。
【0091】
<実施例3-1>
実施例1-1と同様にして、ただしチオフェン重合体をポリ(3-メチルチオフェン)(3-メトキシチオフェン)に変更して液状組成物を得た。そして、実施例1-1と同様にして金属光沢膜を形成した。実施例1-1と同様に、粘度変動及び金属光沢膜の光沢を評価した。
【0092】
<実施例3-2>
実施例1-2と同様にして、ただしチオフェン重合体をポリ(3-メチルチオフェン)(3-メトキシチオフェン)に変更して液状組成物を得た。そして、実施例1-2と同様にして金属光沢膜を形成した。実施例1-1と同様に、粘度変動及び金属光沢膜の光沢を評価した。
【0093】
<実施例3-3>
実施例1-3と同様にして、ただしチオフェン重合体をポリ(3-メチルチオフェン)(3-メトキシチオフェン)に変更して液状組成物を得た。そして、実施例1-3と同様にして金属光沢膜を形成した。実施例1-1と同様に、粘度変動及び金属光沢膜の光沢を評価した。
【0094】
【表1】