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特開2022-174467通信システム、受信機、等化信号処理回路、方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174467
(43)【公開日】2022-11-24
(54)【発明の名称】通信システム、受信機、等化信号処理回路、方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/61 20130101AFI20221116BHJP
   H04B 10/2507 20130101ALI20221116BHJP
   H04B 3/06 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
H04B10/61
H04B10/2507
H04B3/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080278
(22)【出願日】2021-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】有川 学
【テーマコード(参考)】
5K046
5K102
【Fターム(参考)】
5K046AA07
5K046EF11
5K102AA01
5K102AD15
5K102AH02
5K102AH14
5K102AH26
5K102KA01
5K102KA02
5K102KA06
5K102KA39
5K102PB11
5K102PH13
5K102PH31
5K102RD11
5K102RD28
(57)【要約】
【課題】送信機及び受信機内非線形歪み補償を高精度に行う。
【解決手段】検波器21は、送信機から送信された信号をコヒーレント受信する。フィルタ群23は、受信信号の信号経路に沿って縦列に接続される複数のフィルタを含む。複数のフィルタは、複数の非線形歪み補償フィルタ24と、1以上の線形歪み補償フィルタ25とを含む。係数更新手段26は、複数の非線形歪み補償フィルタのフィルタ係数と、前記線形歪み補償フィルタの少なくとも一部のフィルタ係数とを制御する。係数更新手段26は、フィルタ群23から出力される出力信号と、その出力信号の所定値との差分に基づいて、フィルタ係数を、誤差逆伝播法を用いて適応的に制御する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝送路を介して送信機から送信された信号をコヒーレント受信する検波器と、
前記コヒーレント受信された受信信号に対して等化信号処理を実施する等化信号処理回路とを備え、
前記等化信号処理回路は、
前記受信信号の信号経路に沿って縦列に接続される複数のフィルタを含むフィルタ群であって、前記複数のフィルタは、前記受信信号に含まれる非線形歪みを補償する複数の非線形歪み補償フィルタと、前記受信信号に含まれる線形歪みを補償する1以上の線形歪み補償フィルタとを含むフィルタ群と、
前記フィルタ群から出力される出力信号と、該出力信号の所定値との差分に基づいて、複数の非線形歪み補償フィルタ及び前記線形歪み補償フィルタの少なくとも一部のフィルタ係数を、誤差逆伝播法を用いて適応的に制御する係数更新手段とを有する、受信機。
【請求項2】
前記複数の非線形歪み補償フィルタは、前記送信機内で生じる非線形歪みを補償する送信機内非線形歪み補償フィルタと、前記受信機内で生じる非線形歪みを補償する受信機内非線形歪み補償フィルタとを含む請求項1に記載の受信機。
【請求項3】
前記フィルタ群において、前記受信機内非線形歪み補償フィルタは、前記送信機内非線形歪み補償フィルタの前に配置される請求項2に記載の受信機。
【請求項4】
前記1以上の線形歪み補償フィルタは、前記送信機内で生じる線形歪みを補償する送信機内線形歪み補償フィルタと、前記受信機内で生じる線形歪みを補償する受信機内線形歪み補償フィルタとを含み、
前記フィルタ群において、前記受信機内線形歪み補償フィルタは前記受信機内非線形歪み補償フィルタの後段で、かつ前記送信機内線形歪み補償フィルタより前に配置され、かつ前記送信機内線形歪み補償フィルタは前記送信機内非線形歪み補償フィルタの前段に配置される請求項3に記載の受信機。
【請求項5】
前記1以上の線形歪み補償フィルタは、波長分散補償フィルタ、偏波分離フィルタ、及びキャリア位相補償フィルタの少なくとも1つを更に含み、
前記フィルタ群において、前記1以上の線形歪み補償フィルタは、波長分散補償フィルタ、偏波分離フィルタ、及びキャリア位相補償フィルタの少なくとも1つは、前記受信機内線形歪み補償フィルタと、前記送信機内線形歪み補償フィルタとの間に配置される請求項4に記載の受信機。
【請求項6】
前記非線形歪み補償フィルタは、DNN(Deep neural network)、CNN(Convolutional neural network)、又はVolterraフィルタを含む請求項1から5何れか1項に記載の受信機。
【請求項7】
前記非線形歪み補償フィルタは、前記DNN、前記CNN、又は前記Volterraフィルタと並列に接続される線形フィルタを更に含み、前記DNN、前記CNN、又は前記Volterraフィルタの出力と、前記線形フィルタの出力とを加算し、出力信号として出力する請求項6に記載の受信機。
【請求項8】
コヒーレント受信される受信信号の信号経路に沿って縦列に接続される複数のフィルタを含むフィルタ群であって、前記複数のフィルタは、前記受信信号に含まれる非線形歪みを補償する複数の非線形歪み補償フィルタと、前記受信信号に含まれる線形歪みを補償する1以上の線形歪み補償フィルタとを含むフィルタ群と、
前記フィルタ群から出力される出力信号と、該出力信号の所定値との差分に基づいて、複数の非線形歪み補償フィルタ及び前記線形歪み補償フィルタの少なくとも一部のフィルタ係数を、誤差逆伝播法を用いて適応的に制御する係数更新手段とを備える等化信号処理回路。
【請求項9】
前記複数の非線形歪み補償フィルタは、送信機内で生じる非線形歪みを補償する送信機内非線形歪み補償フィルタと、受信機内で生じる非線形歪みを補償する受信機内非線形歪み補償フィルタとを含む請求項8に記載の等化信号処理回路。
【請求項10】
前記フィルタ群において、前記受信機内非線形歪み補償フィルタは、前記送信機内非線形歪み補償フィルタの前に配置される請求項9に記載の等化信号処理回路。
【請求項11】
前記非線形歪み補償フィルタは、DNN(Deep neural network)、CNN(Convolutional neural network)、又はVolterraフィルタを含む請求項8から10何れか1項に記載の等化信号処理回路。
【請求項12】
伝送路を介して信号を送信する送信機と、
前記送信された信号を受信する受信機とを備え、
前記受信機は、
前記送信機から送信された信号をコヒーレント受信する検波器と、
前記コヒーレント受信された受信信号に対して等化信号処理を実施する等化信号処理回路とを有し、
前記等化信号処理回路は、
前記受信信号の信号経路に沿って縦列に接続される複数のフィルタを含むフィルタ群であって、前記複数のフィルタは、前記受信信号に含まれる非線形歪みを補償する複数の非線形歪み補償フィルタと、前記受信信号に含まれる線形歪みを補償する1以上の線形歪み補償フィルタとを含むフィルタ群と、
前記フィルタ群から出力される出力信号と、該出力信号の所定値との差分に基づいて、複数の非線形歪み補償フィルタ及び前記線形歪み補償フィルタの少なくとも一部のフィルタ係数を、誤差逆伝播法を用いて適応的に制御する係数更新手段とを有する、通信システム。
【請求項13】
前記複数の非線形歪み補償フィルタは、前記送信機内で生じる非線形歪みを補償する送信機内非線形歪み補償フィルタと、前記受信機内で生じる非線形歪みを補償する受信機内非線形歪み補償フィルタとを含む請求項12記載の通信システム。
【請求項14】
前記フィルタ群において、前記受信機内非線形歪み補償フィルタは、前記送信機内非線形歪み補償フィルタの前に配置される請求項13に記載の通信システム。
【請求項15】
前記非線形歪み補償フィルタは、DNN(Deep neural network)、CNN(Convolutional neural network)、又はVolterraフィルタを含む請求項12から14何れか1項に記載の通信システム。
【請求項16】
コヒーレント受信される受信信号の信号経路に沿って縦列に接続される複数のフィルタを含むフィルタ群であって、前記複数のフィルタは、前記受信信号に含まれる非線形歪みを補償する複数の非線形歪み補償フィルタと、前記受信信号に含まれる線形歪みを補償する1以上の線形歪み補償フィルタとを含むフィルタ群から出力される出力信号と、該出力信号の所定値との差分に基づいて損失関数を計算し、
前記損失関数に基づいて、複数の非線形歪み補償フィルタ及び前記線形歪み補償フィルタの少なくとも一部のフィルタ係数を、誤差逆伝播法を用いて適応的に制御する等化信号処理方法。
【請求項17】
コヒーレント受信される受信信号の信号経路に沿って縦列に接続される複数のフィルタを含むフィルタ群であって、前記複数のフィルタは、前記受信信号に含まれる非線形歪みを補償する複数の非線形歪み補償フィルタと、前記受信信号に含まれる線形歪みを補償する1以上の線形歪み補償フィルタとを含むフィルタ群から出力される出力信号と、該出力信号の所定値との差分に基づいて損失関数を計算し、
前記損失関数に基づいて、複数の非線形歪み補償フィルタ及び前記線形歪み補償フィルタの少なくとも一部のフィルタ係数を、誤差逆伝播法を用いて適応的に制御する処理をプロセッサに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、通信システム、受信機、等化信号処理回路、等化信号処理方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信において、高いスペクトル利用効率を実現するため、高次のQuadrature amplitude modulation(QAM)変調などの多値変調が採用されている。コヒーレント受信技術の導入以来、光ファイバ伝送路で蓄積される波長分散を受信側で一括して補償するなど、デジタル信号処理による柔軟な受信側での等化信号処理が可能となった。しかしながら、一般的に、高次の多値変調信号は歪みに脆弱である。このため、送受信機内のコンポーネントの不完全性等に起因する歪みが、高多値化を進める上での新たなボトルネックとなりつつある。
【0003】
関連技術として、非特許文献1は、コヒーレント受信されたQAM信号の等化を行う受信側等化デジタル信号処理を開示する。図8は、非特許文献1に記載される受信側等化デジタル信号処理の例を示す。等化デジタル信号処理は、波長分散補償501、偏波分離502、及びキャリア位相補償503を含む。受信機がコヒーレント受信したX/Yそれぞれの偏波の受信信号をx、xとする。各偏波の同相成分(in-phase:I)、及び直交位相成分(quadrature:Q)をxjI、xjQとすると、受信信号はx=xjI+ixjQで表される。
【0004】
波長分散補償501は、光信号が光ファイバを伝搬する際に生じる波長分散を補償する。波長分散補償501は、偏波ごとに独立した静的なフィルタを含む。波長分散補償501に含まれる静的なフィルタの係数は、蓄積された波長分散量から定められる波長分散の逆特性となるよう決定される。
【0005】
偏波分離502は、光ファイバ伝搬中に光信号に生じる偏波状態変動、及び偏波モード分散を補償する。偏波分離502は、偏波間のクロス項を持つMulti-input multi-output(MIMO)フィルタを含む。図9は、偏波分離502に用いられる2×2MIMOフィルタを示す。MIMOフィルタ600は、例えば2×2のFinite impulse response(FIR)フィルタ601を含む。FIRフィルタ601の係数は、h11、h12、h21、及びh22で表される。
【0006】
光ファイバ伝搬中に光信号に生じる偏波状態変動は、外部の環境に依存して時間変化する。係数更新部510は、2×2MIMOフィルタ(偏波分離502)の入力と出力とに基づいて、各FIRフィルタ601の係数を、偏波状態変動に追従するように適応的に制御する。偏波分離502において、係数更新には、Constant modulus algorithm(CMA)や、data-aided least mean square(DALMS)アルゴリズム、decision-directed least mean square(LMS)アルゴリズムといったアルゴリズムが用いられる。これらアルゴリズムは、フィルタ出力と所望の状態との差分の平均的な大きさを最小化するように係数を更新するアルゴリズムである。これらアルゴリズムにおいて、係数更新量は、フィルタの入出力を使用して計算される。
【0007】
キャリア位相補償503は、送信された光信号のキャリア周波数と受信側のローカルオシレータ光との間の周波数オフセット、及び位相オフセットを補償する。キャリア位相補償503は、偏波ごとに独立した、受信信号に位相回転を施すフィルタを含む。位相ロックループ(PLL:Phase-locked loop)520は、キャリア位相補償503の位相回転量を定める。キャリア位相補償後、各種の歪みが補償された、それぞれの偏波の信号y,yが得られる。
【0008】
図8に示される受信側等化デジタル信号処理では、IQ成分間の平均信号強度の不一致、IQ成分間の時間ずれ、及びIQ成分間の直交ずれといった、送信機又は受信機内で生じるIQ歪みを補償することができない。これは、図9に示されるMIMOフィルタのような、複素数信号入力複素数係数フィルタでは、IQ成分ごとに独立した応答を付与することができないためである。この意味で、複素数信号入力複素数係数フィルタは、Strictly linear(SL)と呼ばれる。
【0009】
送信機又は受信機内で生じるIQ歪みを補償するためには、IQ成分を独立に扱うことができるフィルタが必要とされる。そのようなフィルタは、例えば、IQ成分それぞれの実数の信号を入出力とする、実数係数のMIMOフィルタである。実数係数のMIMOフィルタは、複素数信号とその複素共役とを入力とし、複素数信号を出力するフィルタと等価である。これらのフィルタは、Widely linear(WL)と呼ばれる。
【0010】
IQ歪みは、一般には、波長分散などの他の歪みと順序交換可能でない。したがって、図8の構成のように、ブロックごとの歪み補償でIQ歪み補償ブロックを設けようとした場合、その順序が重要となる。
【0011】
送信機又は受信機内で生じるIQ歪みを含む、光ファイバ通信における各種の歪みを等化するための受信側等化デジタル信号処理の例が、非特許文献2に記載されている。図10は、等化信号処理を行う適応多層フィルタを示す。適応多層フィルタは、受信機内歪み補償701、波長分散補償702、偏波分離703、キャリア位相補償704、及び送信機内歪み補償705を、この順に有する。
【0012】
受信機内歪み補償701は、偏波ごとに、すなわち入力信号x及びxのそれぞれに対応して、WL2×1フィルタを有する。波長分散補償702は、偏波ごとに、SLフィルタを有する。偏波分離703は、2×2MIMO SLフィルタを含む。キャリア位相補償704は、偏波ごとに、SLフィルタを有する。送信機内歪み補償705は、偏波ごとに、WL2×1フィルタを有する。
【0013】
図11は、受信機内歪み補償701及び送信機内歪み補償705に用いられるWL2×1フィルタを示す。WL2×1フィルタ800は、複素共役計算部801を有する。複素共役計算部801は、入力される複素数信号の複素共役を計算する。WL2×1フィルタ800において、複素数信号はFIRフィルタ802に入力され、複素共役信号はFIRフィルタ803に入力される。WL2×1フィルタ800は、FIRフィルタ802の出力とFIRフィルタ803の出力とを加算した信号を出力する。受信機内歪み補償701及び送信機内歪み補償705は、それぞれ、このようなWL2×1フィルタ800を偏波ごとに有する。
【0014】
光通信システムにおいて生じている送信機内歪み、及び受信機内歪みの特性は、通常、未知である。したがって、受信機内歪み補償701及び送信機内歪み補償705のフィルタ係数は、適応的に制御される必要がある。ただし、図8の構成のように、それぞれのフィルタブロックの直接の入出力を基に係数を制御することは、この場合困難である。これは、最後の送信機内歪み補償705以外のブロックでは、その出力に補償されていない歪みが残存するためである。このことは、適応制御のために最小化すべき適切な損失関数の設計を著しく困難にする。
【0015】
図10において、損失関数計算部730は、最終層のフィルタ出力、すなわち送信機内歪み補償705の出力の所望状態からの差分の大きさを損失関数として計算する。係数更新部710は、全てのフィルタブロックの出力が、その入力と係数に関して微分可能な形に表現できることと、誤差逆伝播法とに基づいて、各フィルタブロックの全ての係数の損失関数についての勾配を計算する。係数更新部710は、計算した勾配を用いて、損失関数を最小化するように、各フィルタブロックの係数を適応的に制御する。
【0016】
PLL720は、キャリア位相補償704の位相回転量を定める。キャリア位相補償704は、PLL720によって制御される。図10に示される適応多層フィルタを用いることで、送信機内及び受信機内IQ歪みを含む複数の歪みが同時に存在する場合においても、高精度な受信側等化信号処理を実現できる。
【0017】
図10の構成で扱う歪みは、SLとWLとの違いはあるものの、全て線形の歪みである。実際の光ファイバ通信システムでは、受信信号に非線形の歪みも生じる。代表的な非線形歪みは、光ファイバ伝搬中に生じる光Kerr効果に起因する非線形歪みである。また、送信機及び受信機内では、デバイスの不完全性に起因して、例えば光変調器の特性や、トランスインピーダンスアンプ特性により、非線形な歪みが生じる。信号の高多値化及び複雑化につれて、こういった送信機内及び受信機内で生じる非線形の歪みへの対策が必要となっている。
【0018】
非線形歪み補償に関し、非特許文献3は、送信機内及び受信機内非線形歪み補償を含む等化を行う受信側デジタル信号処理を開示する。図12は、非特許文献3に記載される受信側デジタル信号処理の例を示す。受信側デジタル信号処理は、波長分散補償901、偏波分離902、キャリア位相補償903、及び非線形歪み補償904を含む。図12における波長分散補償901、偏波分離902、及びキャリア位相補償903は、図8における波長分散補償501、偏波分離502、及びキャリア位相補償503と同様である。係数更新部910は、偏波分離902の入力と出力とに基づいて、フィルタの係数を適応的に制御する。キャリア位相補償903は、PLL920により制御される。
【0019】
図12では、波長分散補償901、偏波分離902、及びキャリア位相補償903の後段に、送信機及び受信機内歪み補償のためのフィルタブロックである非線形歪み補償904が配置されている。非線形歪み補償904は、非線形フィルタを含む。非特許文献3には、非線形フィルタをディープニューラルネットワーク(DNN:Deep Neural Network)、及びVolterraフィルタで構成した場合の例が記載されている。係数更新部930は、DNN及びVolterraフィルタの内部のパラメータ、すなわち係数を制御する。係数更新部930は、非線形歪み補償904の直接の出力の所望の状態からの差分の平均的な大きさを最小化するように、非線形フィルタの係数を制御する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】S. J. Savory, “Digital filters for coherent optical receivers,” Opt. Express 16(2), 804 (2008).
【非特許文献2】M. Arikawa and K. Hayashi, “Adaptive equalization of transmitter and receiver IQ skew by multi-layer linear and widely linear filters with deep unfolding,” Opt. Express 28(16), 23478 (2020).
【非特許文献3】C. Bluemm et. al., “Equalizing nonlinearities with memory effects: Volterra series vs. deep neural networks,” ECOC 2019, W.3.B.3.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、図12の構成では、非線形歪み補償904の前段の、偏波分離902及びキャリア位相補償903の段階では、非線形歪みが補償されていないため、これらの係数更新は、残存する非線形歪みの影響を受ける。さらに、非線形歪みは、送信機及び受信機の双方で生じ得るが、これらの歪みは、波長分散といった他の歪みと順序交換ではない。このため、歪み補償が不完全となる影響も生じる。このように、送信機及び受信機内非線形歪みを含む各種の歪みが存在する光ファイバ通信システムにおいて、送信機及び受信機内非線形歪み補償を行う場合、その補償性能に限りがあるという課題があった。
【0022】
本開示は、送信機及び受信機内非線形歪みを含む各種の歪みが存在する通信システムにおいて、送信機及び受信機内非線形歪み補償を高精度に行うことができる通信システム、受信機、等化信号処理回路、及び方法を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を達成するために、本開示は、第1の態様として、伝送路を介して送信機から送信された信号をコヒーレント受信する検波器と、前記コヒーレント受信された受信信号に対して等化信号処理を実施する等化信号処理回路とを備える受信機を提供する。受信機において、等化信号処理回路は、前記受信信号の信号経路に沿って縦列に接続される複数のフィルタを含むフィルタ群であって、前記複数のフィルタは、前記受信信号に含まれる非線形歪みを補償する複数の非線形歪み補償フィルタと、前記受信信号に含まれる線形歪みを補償する1以上の線形歪み補償フィルタとを含むフィルタ群と、前記フィルタ群から出力される出力信号と、該出力信号の所定値との差分に基づいて、複数の非線形歪み補償フィルタ及び前記線形歪み補償フィルタの少なくとも一部のフィルタ係数を、誤差逆伝播法を用いて適応的に制御する係数更新手段とを有する。
【0024】
本開示は、第2の態様として、等化信号処理回路を提供する。等化信号処理回路は、コヒーレント受信される受信信号の信号経路に沿って縦列に接続される複数のフィルタを含むフィルタ群であって、前記複数のフィルタは、前記受信信号に含まれる非線形歪みを補償する複数の非線形歪み補償フィルタと、前記受信信号に含まれる線形歪みを補償する1以上の線形歪み補償フィルタとを含むフィルタ群と、前記フィルタ群から出力される出力信号と、該出力信号の所定値との差分に基づいて、複数の非線形歪み補償フィルタ及び前記線形歪み補償フィルタの少なくとも一部のフィルタ係数を、誤差逆伝播法を用いて適応的に制御する係数更新手段とを備える。
【0025】
本開示は、第3の態様として、伝送路を介して信号を送信する送信機と、前記送信された信号を受信する受信機とを備える通信システムを提供する。通信システムにおいて、受信機は、前記送信機から送信された信号をコヒーレント受信する検波器と、前記コヒーレント受信された受信信号に対して等化信号処理を実施する等化信号処理回路とを有する。受信機において、等化信号処理回路は、前記受信信号の信号経路に沿って縦列に接続される複数のフィルタを含むフィルタ群であって、前記複数のフィルタは、前記受信信号に含まれる非線形歪みを補償する複数の非線形歪み補償フィルタと、前記受信信号に含まれる線形歪みを補償する1以上の線形歪み補償フィルタとを含むフィルタ群と、前記フィルタ群から出力される出力信号と、該出力信号の所定値との差分に基づいて、複数の非線形歪み補償フィルタ及び前記線形歪み補償フィルタの少なくとも一部のフィルタ係数を、誤差逆伝播法を用いて適応的に制御する係数更新手段とを有する。
【0026】
本開示は、第4の態様として、等化信号処理方法を提供する。等化信号処理方法は、コヒーレント受信される受信信号の信号経路に沿って縦列に接続される複数のフィルタを含むフィルタ群であって、前記複数のフィルタは、前記受信信号に含まれる非線形歪みを補償する複数の非線形歪み補償フィルタと、前記受信信号に含まれる線形歪みを補償する1以上の線形歪み補償フィルタとを含むフィルタ群から出力される出力信号と、該出力信号の所定値との差分に基づいて損失関数を計算し、前記損失関数に基づいて、複数の非線形歪み補償フィルタ及び前記線形歪み補償フィルタの少なくとも一部のフィルタ係数を、誤差逆伝播法を用いて適応的に制御することを含む。
【0027】
本開示は、第5に態様として、プログラムを提供する。プログラムは、コヒーレント受信される受信信号の信号経路に沿って縦列に接続される複数のフィルタを含むフィルタ群であって、前記複数のフィルタは、前記受信信号に含まれる非線形歪みを補償する複数の非線形歪み補償フィルタと、前記受信信号に含まれる線形歪みを補償する1以上の線形歪み補償フィルタとを含むフィルタ群から出力される出力信号と、該出力信号の所定値との差分に基づいて損失関数を計算し、前記損失関数に基づいて、複数の非線形歪み補償フィルタ及び前記線形歪み補償フィルタの少なくとも一部のフィルタ係数を、誤差逆伝播法を用いて適応的に制御する処理をプロセッサに実行させる。
【発明の効果】
【0028】
本開示に係る通信システム、受信機、等化信号処理回路、方法、及びプログラムは、送信機及び受信機内非線形歪みを含む各種の歪みが存在する通信システムにおいて、送信機及び受信機内非線形歪み補償を高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本開示に係る通信システムを概略的に示すブロック図。
図2】受信機の概略的な構成を示すブロック図。
図3】本開示の一実施形態に係る信号伝送システムを示すブロック図。
図4】等化部におけるデジタル信号処理の例を示すブロック図。
図5】非線形フィルタの構成例を示すブロック図。
図6】等化部の動作手順を示すフローチャート。
図7】シミュレーション結果を示すグラフ。
図8】非特許文献1に記載される受信側等化デジタル信号処理の例を示すブロック図。
図9】2×2MIMOフィルタを示すブロック図。
図10】等化信号処理を行う適応多層フィルタを示すブロック図。
図11】WL2×1フィルタを示すブロック図。
図12】受信側デジタル信号処理の例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本開示の実施の形態の説明に先立って、本開示の概要を説明する。図1は、本開示に係る通信システムを概略的に示す。通信システム10は、送信機11、及び受信機15を有する。送信機11と受信機15とは、伝送路13を介して相互に接続される。送信機11は、伝送路13を介して信号を送信する。受信機15は、送信機11から送信された信号を、伝送路13を介して受信する。
【0031】
図2は、受信機15の概略的な構成を示す。受信機15は、検波器21、及び等化信号処理回路22を有する。検波器21は、送信機11から送信された信号をコヒーレント受信する。等化信号処理回路22は、コヒーレント受信された受信信号に対して等化信号処理を実施する。
【0032】
等化信号処理回路22は、フィルタ群23と、係数更新手段26とを有する。フィルタ群23は、受信信号の信号経路に沿って縦列に接続される複数のフィルタを含む。複数のフィルタは、複数の非線形歪み補償フィルタ24と、1以上の線形歪み補償フィルタ25とを含む。非線形歪み補償フィルタ24は、受信信号に含まれる非線形歪みを補償する。線形歪み補償フィルタ25は、受信信号に含まれる線形歪みを補償する。
【0033】
係数更新手段26は、複数の非線形歪み補償フィルタのフィルタ係数と、1以上の線形歪み補償フィルタの少なくとも1つのフィルタ係数とを制御する。係数更新手段26は、フィルタ群23から出力される出力信号と、その出力信号の所定値との差分に基づいて、フィルタ係数を、誤差逆伝播法を用いて適応的に制御する。
【0034】
本開示において、係数更新手段26は、例えば、フィルタ群23の最終のフィルタブロックの出力の所望状態からの差分の大きさを最小化すべき損失関数として、誤差逆伝播法によりそれぞれのフィルタ係数の勾配を計算する。係数更新手段26は、フィルタ係数の勾配に応じて、非線形歪み補償フィルタ24のフィルタ係数、及び線形歪み補償フィルタ25の少なくとも一部のフィルタ係数を制御する。本開示では、係数更新手段26は、フィルタ群23の最終のフィルタブロックの出力の所望状態からの差分の大きさを用いて、最終段のフィルタだけでなく、その前段に配置されている非線形歪み補償フィルタ24のフィルタ係数を制御する。このような構成を採用することで、受信信号に各種の歪みが存在する通信システムにおいて、送信機及び受信機内非線形歪み補償を高精度に行うことができる。
【0035】
以下、図面を参照しつつ、本開示の実施の形態を詳細に説明する。図3は、本開示の一実施形態に係る信号伝送システムを示す。本実施形態において、信号伝送システムは、偏波多重QAM方式が採用され、コヒーレント受信を行う光ファイバ通信システムであることを想定する。光ファイバ通信システム100は、光送信機110、伝送路130、及び光受信機150を有する。光ファイバ通信システム100は、例えば光海底ケーブルシステムを構成する。光ファイバ通信システム100は、図1に示される通信システム10に対応する。光送信機110は、図1に示される送信機11に対応する。伝送路130は、図1に示される伝送路13に対応する。光受信機150は、図1に示される受信機15に対応する。
【0036】
光送信機110は、送信データを、偏波多重光信号に変換する。光送信機110は、符号化部111、予等化部112、DAC(Digital analog converter)113、光変調器114、及びLD(Laser diode)115を有する。符号化部111は、送信データを符号化し、光変調のための信号系列を生成する。偏波多重QAM方式の場合、符号化部111は、X偏波(第1の偏波)及びY偏波(第2の偏波)のそれぞれのin-phase(I)成分、及びquadrature(Q)成分の計4系列の信号を生成する。なお、図3では、図面簡略化のため、符号化された4系列の信号は、1つの実線として示されている。以下、図3に示される1つの実線は、物理的実体として、所定数の信号系列をまとめて表している。
【0037】
予等化部112は、符号化された4系列の信号に対し、光送信機内のデバイスの歪みなどをあらかじめ補償する予等化を実施する。DAC113は、予等化が実施された4系列の信号を、それぞれアナログ電気信号に変換する。
【0038】
LD115は、CW(Continuous wave)光を出力する。光変調器114は、LD115から出力されたCW光を、DAC113から出力される4系列の信号に応じて変調し、偏波多重QAMの光信号を生成する。光変調器114が生成した光信号(偏波多重光信号)は、伝送路130に出力される。
【0039】
伝送路130は、光送信機110から出力された偏波多重光信号を光受信機150に伝送する。伝送路130は、光ファイバ132、及び光増幅器133を有する。光ファイバ132は、光送信機110から送信された光信号を導波する。光増幅器133は、光信号を増幅し、光ファイバ132における伝搬損失を補償する。光増幅器は133、例えば、エルビウム添加ファイバ増幅器(EDFA:erbium doped fiber amplifier)として構成される。伝送路130は、複数の光増幅器133を含み得る。
【0040】
光受信機150は、LD151、コヒーレント受信機152、ADC(Analog digital converter)153、等化部154、復号部155、及び歪み推定部156を有する。光受信機150において、等化部(等化器)154、及び復号部(復号器)155など回路は、例えばDSP(digital signal processor)などのデバイスを用いて構成され得る。
【0041】
LD151は、ローカルオシレータ光となるCW光を出力する。本実施形態において、コヒーレント受信機152は、偏波ダイバーシティ型コヒーレント受信機として構成される。コヒーレント受信機152は、LD151から出力されるCW光を用いて、光ファイバ132を伝送された光信号に対してコヒーレント検波を実施する。コヒーレント受信機152は、コヒーレント検波されたX偏波及びY偏波のI成分及びQ成分に相当する4系列の受信信号(電気信号)を出力する。コヒーレント受信機152は、図2に示される検波器21に対応する。
【0042】
ADC153は、コヒーレント受信機152から出力される受信信号をサンプリングし、受信信号をデジタル領域の信号に変換する。等化部154は、ADC153でサンプリングされた4系列の受信信号に対して受信側等化信号処理を行う。等化部154は、受信信号に対して等化信号処理を行うことで、光送信機110及び光受信機150内で生じて非線形歪みを含む、光ファイバ通信システムにおける各種の歪みを補償する。復号部155は、等化部154で等化信号処理が実施された信号に対して復号を行い、送信されたデータを復元する。復号部155は、復元したデータを、図示しない他の回路に出力する。
【0043】
図4は、等化部154におけるデジタル信号処理の例を示す。等化部154は、受信機内非線形歪み補償フィルタ161、受信機内線形歪み補償フィルタ162、波長分散補償フィルタ163、偏波分離フィルタ164、キャリア位相補償フィルタ165、送信機内線形歪み補償フィルタ166、送信機内非線形歪み補償フィルタ167を、光信号の入力側から順に有する。等化部154は、更に、係数更新部170、位相ロックループ(PLL)171、及び損失関数計算部172を有する。等化部154は、図2に示される等化信号処理回路22に対応する。
【0044】
光ファイバ通信システムを考えると、歪みは、(1)送信機における歪み、(2)光ファイバ中の現象(波長分散、偏波変動/偏波モード分散)、(3)周波数オフセット、(4)受信機における歪み、といった順序で生じる。ここで、(2)と(3)の間は、光ファイバ中の非線形効果を無視すれば、可換である。本実施形態では、歪みが生じる順序と可換性を考慮し、受信機内非線形歪み補償、受信機内線形歪み補償、波長分散補償、偏波変動補償、キャリア位相補償、送信機内線形歪み補償、及び送信機内非線形歪み補償を、この順で行うフィルタが用いられる。
【0045】
受信機内非線形歪み補償フィルタ161は、受信機内非線形歪みを補償するためのフィルタである。受信機内非線形歪み補償フィルタ161は、偏波ごとに配置される非線形フィルタを含む。受信機内非線形歪み補償フィルタ161に含まれる非線形フィルタは、その出力が、入力及び係数に関して微分可能な形で表現される非線形フィルタである。受信機内非線形歪み補償フィルタ161は、例えば、DNN、CNN(Convolutional neural network)、又はVolterraフィルタを用いて構成され得る。送信機内非線形歪み補償フィルタ167は、送信機内非線形歪みを補償するためのフィルタである。送信機内非線形歪み補償フィルタ167は、受信機内非線形歪み補償フィルタ161と同様に、偏波ごとに配置される非線形フィルタを含む。受信機内非線形歪み補償フィルタ161及び送信機内非線形歪み補償フィルタ167は、それぞれ、図2に示される非線形歪み補償フィルタ24に対応する。
【0046】
図5は、受信機内非線形歪み補償フィルタ161及び送信機内非線形歪み補償フィルタ167に用いられ得る非線形フィルタの構成例を示す。受信機内非線形歪み補償フィルタ161及び送信機内非線形歪み補償フィルタ167は、偏波ごとに、非線形フィルタ180を有する。非線形フィルタ180は、信号変換部181、CNN182及び184、線形フィルタ183及び185、並びに信号変換部186を有する。
【0047】
各偏波に対応する非線形フィルタ180には、1つの系列の複素信号が入力される。信号変換部181は、入力された複素信号を、IQ成分の2つの実信号に変換する。送信機及び受信機内において、通常、非線形歪みはIQ成分ごとに独立に生じる。このため、非線形歪みの補償は、IQ成分ごとに実施される。I成分の信号は、2つに分岐され、CNN182及び線形フィルタ183に入力される。また、Q成分の信号は、2つに分岐され、CNN184及び線形フィルタ185に入力される。線形フィルタ183及び185は、それぞれ、CNN182及び184による畳み込みの時間広がりと同じ時間広がりを持つ。線形フィルタ183及び185は、CNN182及び184の係数の適応制御の収束を助ける働きをする。
【0048】
信号変換部186には、I成分の信号について、CNN182の出力と、線形フィルタ183の出力とが加算された信号が入力される。また、信号変換部186には、Q成分の信号について、CNN184の出力と、線形フィルタ185の出力とが加算された信号が入力される。信号変換部186は、I成分の信号と、Q成分の信号とを複素信号に変換し、変換された複素信号を出力する。
【0049】
一般的に、CNNの内部の係数は、その初期値としてランダムな値が選ばれる。このため、CNNの出力は、制御の初期段階ではランダムな値となる。一方、通信システムにおける歪み補償を考えると、通常、非線形歪みの影響は摂動的で、他の歪みと比べて大きくないことが想定される。従って、CNNの他の一般的な適用先である画像認識とは異なり、通信システムにおける歪み補償へのCNNへの適用では、線形の処理が0次解として機能すると考えられる。
【0050】
図5に示される非線形フィルタ180において、線形フィルタ183及び185の初期係数は、ランダムな値ではなく、適切に選ばれた値に設定されている。非線形フィルタ180において、CNN182及び184の出力と、適切に初期係数が選ばれた線形フィルタ183及び185の出力とが加算される。この場合、非線形フィルタ180は、適応制御の初めから、ある程度所望の状態に近い値を出力することができる。このため、図5に示されるような非線形フィルタ180が用いられる場合、適応制御の収束に要する時間を短縮することができる。
【0051】
図4に戻り、受信機内線形歪み補償フィルタ162は、受信機内線形歪みを補償するためのフィルタである。受信機内線形歪み補償フィルタ162は、偏波ごとに配置されるWL2×1フィルタを含む。波長分散補償フィルタ163は、波長分散補償を行うためのフィルタである。波長分散補償フィルタ163は、偏波ごとに配置されるSLフィルタを含む。偏波分離フィルタ164は、偏波変動補償を行うためのフィルタである。偏波分離フィルタ164は、2×2MIMO SLフィルタを含む。
【0052】
キャリア位相補償フィルタ165は、キャリア位相補償を行うためのフィルタである。キャリア位相補償フィルタ165は、偏波ごとに配置されるSLフィルタを含む。送信機内線形歪み補償フィルタ166は、送信機内線形歪みを補償するためのフィルタである。送信機内線形歪み補償フィルタ166は、偏波ごとに配置されるWL2×1フィルタを含む。送信機内線形歪み補償フィルタ166は、送信機内非線形ひずむ補償フィルタ167の前段に配置される。受信機内線形歪み補償フィルタ162は、受信機内非線形歪み補償フィルタ161よりも後段で、かつ送信機内線形歪み補償フィルタ166よりも前段に配置される。受信機内線形歪み補償フィルタ162、波長分散補償フィルタ163、偏波分離フィルタ164、キャリア位相補償フィルタ165、及び送信機内線形歪み補償フィルタ166は、それぞれ、図2に示されるフィルタ群23に含まれる線形歪み補償フィルタ25に対応する。
【0053】
なお、理論的には、図5に示される、非線形フィルタ180に用いられる線形フィルタ183及び185は、図4に示される受信機内線形歪み補償フィルタ162、及び送信機内線形歪み補償フィルタ166の役割を兼ねることができる。ただし、CNN182及び184の出力と線形フィルタ183及び185の出力とが加算される関係上、線形フィルタ183及び185の時間広がりは、CNN182及び184におけるそれと一致している必要がある。一般に、送信機内又は受信機内で生じる線形歪みの時間広がりと、非線形歪みの時間広がりとは異なる。したがって、受信機内非線形歪み補償フィルタ161又は送信機内非線形歪み補償フィルタ167が線形フィルタ183及び185を含む場合でも、受信機内線形歪み補償フィルタ162、又は送信機内線形歪み補償フィルタ166が別途配置されていることが、設計上好ましい。
【0054】
図4において、各ブロックで扱われるフィルタは、それぞれが補償する歪みの特徴に応じて構成されている。例えば、波長分散の蓄積は、通信パスが変更されない場合は変化しない。このため、波長分散補償フィルタ163のフィルタは、一度補償される波長分散量に応じて係数が設定された後は、静的に扱うことができる。また、波長分散はSL過程であり、偏波依存性はほとんどなく、波長分散単独による偏波間の混合は生じない。このため、波長分散補償フィルタ163のフィルタは、偏波間のクロス項を持たない、偏波ごとに独立したSLフィルタとなっている。
【0055】
対照的に、受信機内線形歪み、すなわち受信機内IQ歪みはWL過程であることから、受信機内線形歪み補償フィルタ162のフィルタはWLフィルタとなっている。通常、受信機内IQ歪みは、偏波間の混合を生じないので、受信機内線形歪み補償フィルタ162には、偏波ごとに独立した2×1WLフィルタが用いられる。仮に、受信機内IQ歪みにおいて偏波間の混合が生じることが示唆される構成の受信機が用いられる場合、受信機内線形歪み補償フィルタ162において、偏波間のクロス項を持つ、4×2WLフィルタが用いられる。
【0056】
なお、上記では、等化部154が、受信機内非線形歪み補償フィルタ161、受信機内線形歪み補償フィルタ162、波長分散補償フィルタ163、偏波分離フィルタ164、キャリア位相補償フィルタ165、送信機内線形歪み補償フィルタ166、及び送信機内非線形歪み補償フィルタ167を含む例を説明した。しかしながら、等化部154に含まれるフィルタは、上記したフィルタには限定されない。例えば、上述の歪み以外に、歪みが生じる要因が存在する場合、等化部154は、その歪みを補償するためのフィルタを更に有していてもよい。その場合、そのフィルタは、歪みが生じる順序を考慮して、適切な位置に挿入される。あるいは、等化部154において、上記したフィルタのうちのいくつかは省略可能である。例として、等化部154は、非線形歪み補償フィルタ167の後段に、係数固定の整合フィルタを有していてもよい。その場合、最終段のフィルタブロックは、係数固定の整合フィルタであってもよい。
【0057】
損失関数計算部172は、最終フィルタブロックの出力である送信機内非線形歪み補償フィルタ167の出力信号の所望状態からの差分の大きさを、損失関数として計算する。係数更新部170は、静的に扱うことができる波長分散補償フィルタ163、及びキャリア位相補償フィルタ165以外のフィルタブロックのフィルタ係数を適応的に制御する。すなわち、係数更新部170は、受信機内非線形歪み補償フィルタ161、受信機内線形歪み補償フィルタ162、偏波分離フィルタ164、送信機内線形歪み補償フィルタ166、及び送信機内非線形歪み補償フィルタ167の各フィルタブロックのフィルタ係数を適応的に制御する。係数更新部170は、損失関数計算部172が計算した損失関数を最小化すべき損失関数として、誤差逆伝播法を用いて、各フィルタブロックにおける勾配を計算することで、各フィルタブロックの係数を更新する。係数更新部170は、図2に示される係数更新手段26に対応する。
【0058】
ここで、受信機内非線形歪み補償フィルタ161、受信機内線形歪み補償フィルタ162、波長分散補償フィルタ163、偏波分離フィルタ164、キャリア位相補償フィルタ165、送信機内線形歪み補償フィルタ166、及び送信機内非線形歪み補償フィルタ167は、各フィルタブロックの出力が、入力と係数に関して微分可能である。このため、係数更新部170は、係数の損失関数についての勾配を、誤差逆伝播法を用いて、最終層から逐次計算することができる。例えば、係数更新部170は、最終出力の所望状態からの差分の大きさを損失関数とし、損失関数の平均的な大きさを最小化するように、各フィルタブロックのフィルタ係数を、確率的勾配降下法を用いて更新する。
【0059】
PLL171は、フィルタブロックの最終出力である送信機内非線形歪み補償フィルタ167に出力に基づいて、キャリア位相補償フィルタ165の位相回転量を定める。キャリア位相補償フィルタ165の係数は、PLL720によって制御される。
【0060】
動作手順を説明する。図6は、等化部154の動作手順(等化信号処理方法)を示す。損失関数計算部172は、縦列に接続された複数のフィルタブロックの最終フィルタブロックである送信機内非線形歪み補償フィルタ167から出力される出力信号と、その出力信号の所望値との差分に基づいて損失関数を計算する(ステップS1)。係数更新部170は、損失関数に基づいて、受信機内非線形歪み補償フィルタ161、受信機内線形歪み補償フィルタ162、偏波分離フィルタ164、送信機内線形歪み補償フィルタ166、及び送信機内非線形歪み補償フィルタ167のフィルタ係数を、誤差逆伝播法を用いて適応的に制御する(ステップS2)。上記とは別に、PLL171は、送信機内非線形歪み補償フィルタ167から出力される出力信号を用いて、キャリア位相補償フィルタ165の係数を制御する。
【0061】
以下、本実施形態における等化部154の動作を具体的に説明する。以下では、CNNで畳み込むフィルタを含め、それぞれのブロックのフィルタとして全てFIRフィルタが使用される場合を考える。一般に、フィルタ群において、L層のフィルタが縦列に接続されていることを考える。図4の例の場合、L=7である。
【0062】
時刻k(kは整数)のl段目(1≦l≦L)のフィルタの出力(出力ベクトル)をu [l][k]とし、入力(入力ベクトル)をu [l-1][k]とする。i、jは、それぞれの偏波を表す。以下の説明は、iの取り得る範囲を2×モード数まで拡張することで、空間多重伝送の場合などにも容易に拡張できる。入力ベクトル及び出力ベクトルの長さをそれぞれMin [l]、Mout [l]とした場合、出力ベクトルu [l][k]及び入力ベクトルu [l-1][k]は、それぞれ下記式1及び式2で表される。
【数1】
【数2】
上記式において、「T」は転置を表す。上記式において、ベクトルの各成分は複素数の信号である。
【0063】
l段目のフィルタのタップ数M[l]について、畳み込みの性質から、
【数3】
である。l段目のフィルタがSL MIMOフィルタの場合、M[l]タップのFIRフィルタ係数(係数ベクトル)hij [l]は、下記式4で表されるとする。
【数4】
l段目のフィルタの入力(入力ベクトル)を
【数5】
とすると、出力サンプルは
【数6】
となる。上記式において、「+」はエルミート共役を表す。従って、
【数7】
である。式7において、「」は複素共役を表す。Hij [l]は、下記式8で表される。
【数8】
【0064】
上記式7を変形すると、下記式9が得られる。
【数9】
上記式9において、U [l-1]は、
【数10】
である。式9において、jに関する和をj=iに代えることで、これは偏波ごとの1×1SLフィルタの場合も含む。
【0065】
l段目のフィルタがWL MIMOフィルタの場合、式4で表されるhij [l]と、下記式11で表されるh*ij [l]がフィルタ係数(係数ベクトル)となる。
【数11】
出力サンプルは、
【数12】
となる。上記と同様に、H*ij [l]
【数13】
とすると、
【数14】
である。これは、偏波ごとの2×1 WLフィルタの場合も含む。
【0066】
l段目のフィルタが図5に示される構成の非線形フィルタの場合、IQ成分の実信号に変換された非線形フィルタの入力を、
【数15】
とする。ここで、iはi=1、2、3、4であり、これらはそれぞれX偏波のI成分及びQ成分と、Y偏波のI成分及びQ成分とに相当する。例えば、
【数16】
である。上記式16において、Reは実数部分を表す。IQ成分の実信号に変換された非線形フィルタの出力y[k]を、
【数17】
とする。非線形フィルタの入力と同様に、iはi=1、2、3、4であり、これらはそれぞれX偏波のI成分及びQ成分と、Y偏波のI成分及びQ成分とに相当する。
【0067】
ここで、j=1,2,3,4のいずれかの成分に着目し、それに施される非線形フィルタを考える。CNNをP層とし、CNNのp層(1≦p≦P)の入力を、
【数18】
とする。CNNのp=1層目の入力では、
【数19】
である。CNNでは、偏波ごと、及びIQ成分ごとに独立に非線形フィルタが施されることとしているため、i=1である。なお、非線形フィルタが、独立に施されるのではなく、クロス項を有する場合も、容易に拡張できる。
【0068】
CNNのp層目の出力を、
【数20】
とする。CNNの中間層においては、i=1である必要はなく、p層目のフィルタ数をN(p)として、i=1、2、・・・、N(p)である。
【0069】
CNNの最終層であるp=P層目の出力を、
【数21】
と表す。CNNの最終のP層目では、i=1である。CNNのp層目の活性化関数をg(p)とする。例えば、g(p)は、最終のP層目以外ではRectified linear unit(ReLU)であり、最終のP層目では線形関数(Linear)である。CNNのp層目の入力と出力の間には、下記関係式が成り立つ。
【数22】
(p)が線形関数の場合、
【数23】
である。g(p)がReLUの場合、
【数24】
である。ここで、式22における「1」は、適切なサイズの、成分が全て1のベクトルである。また、式22は、
【数25】
とも表せる。Hij (p)を構成するhij (p)、及びb (p)は、CNNのp層目のフィルタ係数となる。hij (p)は、タップ数M(p)であり、M(p)=Min (p)-Mout (p)+1である。これをCNNの1層目から逐次算出することで、y (CNN)[k]=x (P)[k]が得られる。
【0070】
CNNの出力に加算される線形フィルタの出力をy (L)[k]とする。線形フィルタの出力y (L)[k]は、
【数26】
である。ここで、jに関する和は、偏波ごと、及びIQ成分ごとに独立に非線形フィルタを施す場合は不要で、最初に着目したjについて、x (L)[k]=x[k]である。Hij (L)を構成するhij (L)は、線形フィルタの係数である。線形フィルタのタップ数は、CNNにおけるタップ数と同等となるように、
【数27】
である。CNNの出力と線形フィルタの出力との和y (CNN)[k]+y (L)[k]が、初めに着目したj=1から4の何れかについて、
【数28】
に対応する。
【0071】
上述の各種フィルタの入出力関係を、入力から順次適用することで、最終のL層目のフィルタの出力が算出できる。最終のL層目のフィルタ出力(出力ベクトル)は、u [L][k]であり、ここでは、Mout [L]=1であるとする。従って、式1から、
【数29】
である。
【0072】
本実施形態において、損失関数φは、最終のフィルタ出力から構築される。損失関数は、CMAやDDLMSのような方法で構築できる。例えば、通常のCMAであれば、kをシンボルのタイミングとし、フィルタ出力の振幅の所望値(所定値)をrとして、フィルタ出力の所望値rからの誤差の大きさの期待値<φ[k]>を損失関数とする。ここで、<・>は、期待値を表す。損失関数の瞬時値φ[k]は、
【数30】
である。
【0073】
係数更新部170(図4を参照)は、1層目からL層目までの適応的に制御されるフィルタブロックの全てのフィルタ係数を、損失関数<φ[k]>を最小化するように制御する。係数更新部170は、確率的勾配降下法を用いて、各フィルタブロックのフィルタ係数を制御する。確率的勾配降下法は、損失関数の瞬時値φ[k]の係数についての勾配に基づいて、損失関数の瞬時値を最小化するように係数の制御を繰り返す方法である。
【0074】
確率的勾配降下法において、最小化する損失関数をφ=φ[k]とする。ある係数ξについて、確率的勾配降下法による係数更新は
【数31】
で表される。上記式32において、αは、係数更新の強さを決めるステップサイズである。全てのフィルタ係数についての損失関数φの勾配は、誤差逆伝播法により、以下に説明されるように算出できる。
【0075】
フィルタ最終段の出力について、CMAの損失関数が用いられる場合、
【数32】
である。これが、損失関数の最終段のL段目のフィルタ出力に関する勾配となる。l段目のフィルタの出力に関する損失関数の勾配から、損失関数のl段目のフィルタ係数、及びフィルタ入力、すなわちl-1段目のフィルタの出力に関する勾配が計算できる。
【0076】
l段目のフィルタがSL MIMOフィルタの場合、微分を計算すると、
【数33】
となる。
【0077】
l段目のフィルタがWL MIMOフィルタの場合、微分を計算すると、
【数34】
となる。
【0078】
l段目のフィルタが、図5に示される構成の非線形フィルタの場合、IQ成分の実信号に変換された非線形フィルタ出力に関する微分は、Wirtingerの微分に基づき、
【数35】
となる。ここで、i=1,2である。IQ成分の実信号に変換された非線形フィルタ入力に関する微分は、l段目のフィルタ入力に関する微分と、下記の関係を持つ。
【数36】
CNNの出力y (CNN)[k]、及びy (L)[k]に関する微分は、
【数37】
である。ここで、i=1、...、4である。
【0079】
CNNの最終のP層目の出力に関する微分は、
【数38】
である。CNNのp層目の出力に関する微分と、p層目の係数、及びp層目の入力に関する微分との関係は、次のように導くことができる。
【数39】
(p)がLinearの場合、下記式50が成り立つ。
【数40】
(p)がReLUの場合、下記式51が成り立つ。
【数41】
式51において、χはステップ関数を表す。
【0080】
下記式52-54を、繰り返し適用することで、CNNの全ての係数、及びCNNの入力についての微分∂φ/∂x (0)[k]が求められる。
【数42】
線形フィルタについては、
【数43】
である。上記から、非線形フィルタ入力に関する微分が、下記式57で算出できる。
【数44】
【0081】
以上に記載された各種のフィルタについての誤差逆伝播を、最終層から順次適用することにより、最初の1層目のフィルタまで、全ての係数に関する勾配が算出できる。これにより、各フィルタブロックのフィルタ係数が更新できる。
【0082】
図4に示される構成において、波長分散補償フィルタ163については、補償すべき蓄積波長分散量Dから、下記式58を用いてフィルタ係数が決定される。
【数45】

式58において、λは光信号の波長であり、cは光速である。キャリア位相補償フィルタ165については、係数は、下記式59を用いて決定される。
【数46】
式59において、θ[k]は、前述のように、最終段のフィルタ出力に基づいてPLL171により決定される。
【0083】
以上のように、適応的に制御されるフィルタブロックのフィルタ係数を、最終段のフィルタブロックの出力を所望の状態に近づけるように更新することが可能となる。従って、送信機及び受信機内で生じた非線形歪みを含む光ファイバ通信システムにおいて、各種の歪みを補償する受信側等化信号処理が可能となる。
【0084】
本発明者は、各種の歪みを補償する受信側等化信号処理の効果を検証するために、シミュレーションを行った。シミュレーションでは、32Gbaud偏波多重16QAM信号のシングルモードファイバ100km伝送をシミュレートした。
【0085】
シミュレーションでは、送信機内で、Mach-Zehnder光変調器の特性を想定して、asin(bx)型の非線形歪みを付与した。受信機内では、クリッピングを想定してatanh(bx)型の非線形歪みを付与した。送信側及び受信側で、ロールオフ率0.1のルートNyquistフィルタを施した。偏波変動、並びに送信機及び受信機内線形IQ歪みは付与していない。受信OSNR(Optical Signal-to- Noise Ratio)を30dB/0.1nmとした。2倍オーバーサンプリングでサンプリングされた受信信号に対し、受信側等化信号処理方式を適用した。損失関数は、DALMSによって構成した。
【0086】
シミュレーション条件として、送/受信機内非線形歪みなし(no NL)、送信機内非線形歪みあり(Tx NL)、受信機内非線形歪みあり(Rx NL)、送/受信機内非線形歪みあり(both NL)の4種類の条件を考えた。シミュレーションでは、各条件について、下記の4種類の受信側等化信号処理を実施した場合の出力のError vector magnitude(EVM)の大きさを評価した。
図10に示される構成に相当する、送信機及び受信機内の非線形歪みは補償しない受信側等化信号処理(Linear)
図4の構成において、送信機内非線形歪み補償フィルタ167は配置されるが、受信機内非線形歪み補償フィルタ161は配置されない構成の受信側等化信号処理(Tx CNN)
図4の構成において、受信機内非線形歪み補償フィルタ161は配置されるが、送信機内非線形歪み補償フィルタ167は配置されない構成の受信側等化信号処理(Rx CNN)
図4の構成において、受信機内非線形歪み補償フィルタ161、及び送信機内非線形歪み補償フィルタ167の双方が配置される構成の受信側等化信号処理(both CNN)
【0087】
図7は、シミュレーション結果を示す。図7に示されるグラフにおいて、縦軸は、EVMを表す。EVMは、理想的な伝送信号と測定された受信信号との間の所定の時間におけるベクトルの差を表し、値が小さいほど、等化信号処理の性能が良好であることを示す。図7に示されるグラフを参照すると、上記Tx CNN、Rx CNN、及びboth CNNの場合に、Linearの場合に比べてEVMが改善できていることがわかる。このように、シミュレーション結果から、送信機、及び/又は受信機内で生じる非線形歪みの補償が可能であることが確認できた。
【0088】
なお、上記実施形態では、等化器154が、受信機内非線形歪み補償フィルタ161と、送信機内非線形歪み補償フィルタ167との双方を有する例を説明した。上記実施形態において、等化器154は、非線形歪みを補償するためのフィルタを1つだけ有する構成であってもよい。例えば、送信機内非線形歪み、及び受信機内非線形歪みのどちらかについて、その非線形歪みが受信信号に与える影響が小さいことがわかっている場合がある。そのような場合、等化器154は、上記したTx CNN又はRx CNNのように、受信機内非線形歪み補償フィルタ161又は送信機内非線形歪み補償フィルタ167のどちらか一方を含む構成であってもよい。その場合でも、フィルタ群の最終段のフィルタの出力信号を用いて、フィルタ群を構成するフィルタの係数を適応的に制御することで、高精度な歪み補償を実現できる。
【0089】
上記実施形態において、等化部154は、任意のデジタル信号処理回路として構成され得る。例えば、等化部154は、1以上のプロセッサ及び1以上のメモリを含む回路として構成されてもよい。その場合、等化部154に含まれるプロセッサがメモリに格納されたプログラムを読み出すことで、受信側等化信号処理が実施されてもよい。
【0090】
上記プログラムは、プロセッサに読み込まれた場合に、実施形態で説明された1又はそれ以上の機能をプロセッサに行わせるための命令群(又はソフトウェアコード)を含む。プログラムは、非一時的なコンピュータ可読媒体又は実体のある記憶媒体に格納されてもよい。限定ではなく例として、コンピュータ可読媒体又は実体のある記憶媒体は、random-access memory(RAM)、read-only memory(ROM)、フラッシュメモリ、solid-state drive(SSD)又はその他のメモリ技術、CD(compact disc)-ROM、digital versatile disc(DVD)、Blu-ray(登録商標)ディスク又はその他の光ディスクストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージ又はその他の磁気ストレージデバイスを含む。プログラムは、一時的なコンピュータ可読媒体又は通信媒体上で送信されてもよい。限定ではなく例として、一時的なコンピュータ可読媒体又は通信媒体は、電気的、光学的、音響的、またはその他の形式の伝搬信号を含む。
【0091】
以上、本開示の実施形態を詳細に説明したが、本開示は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に対して変更や修正を加えたものも、本開示に含まれる。
【符号の説明】
【0092】
10:通信システム
11:送信機
15:受信機
13:伝送路
21:検波器
22:等化信号処理回路
23:フィルタ群
24:非線形歪み補償フィルタ
25:線形歪み補償フィルタ
26:係数更新手段
100:光ファイバ通信システム
110:光送信機
130:伝送路
150:光受信機
111:符号化部
112:予等化部
113:DAC
114:光変調器
115:LD
132:光ファイバ
133:光増幅器
151:LD
152:コヒーレント受信機
153:ADC
154:等化部
155:復号部
156:歪み推定部
161:受信機内非線形歪み補償フィルタ
162:受信機内線形歪み補償フィルタ
163:波長分散補償フィルタ
164:偏波分離フィルタ
165:キャリア位相補償フィルタ
166:送信機内線形歪み補償フィルタ
167:送信機内非線形歪み補償フィルタ
170:係数更新部
171:PLL
172:損失関数計算部
180:非線形フィルタ
181、186:信号変換部
182、184:CNN
183、185:線形フィルタ
図1
図2
図3
図4
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図12