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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174494
(43)【公開日】2022-11-24
(54)【発明の名称】吹付けシステムおよび吹付け方法
(51)【国際特許分類】
   B05B 13/04 20060101AFI20221116BHJP
   B05B 12/00 20180101ALI20221116BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20221116BHJP
   B05D 1/02 20060101ALI20221116BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20221116BHJP
   E04B 1/94 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
B05B13/04
B05B12/00 A
B05C11/10
B05D1/02 Z
B05D3/00 D
E04B1/94 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080329
(22)【出願日】2021-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 豊
(72)【発明者】
【氏名】村松 慶紀
【テーマコード(参考)】
2E001
4D075
4F035
4F042
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001FA01
2E001FA02
2E001GA06
2E001HF12
2E001LA04
4D075AA01
4D075AA37
4D075AA43
4D075AA76
4D075AA81
4D075AA85
4D075CA18
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA10
4D075DA23
4D075DB02
4D075DC01
4D075DC05
4D075EA02
4F035AA03
4F035BA22
4F035BB03
4F035BB06
4F035BB07
4F035BB12
4F035BB32
4F035BC02
4F035CA01
4F035CA05
4F035CB03
4F035CB26
4F035CB27
4F035CB29
4F035CD06
4F035CD12
4F035CD15
4F035CD18
4F035CD19
4F042AA16
4F042AA28
4F042BA04
4F042BA08
4F042BA10
4F042DH09
4F042ED09
4F042ED10
(57)【要約】
【課題】省力化に寄与することができる吹付けシステムおよび吹付け方法を提供する。
【解決手段】被吹付け部材12に対して吹付け材を吹付け施工するシステム10であって、被吹付け部材12から所定の距離Dだけ離れた位置と高さに配置される吹付け装置14と、あらかじめ設定された被吹付け部材12の断面形状を示す情報と、基準位置32からの被吹付け部材12の位置を示す情報と、吹付け装置14と被吹付け部材12との位置関係を示す情報と、被吹付け部材12における吹付け範囲を示す情報と、吹付け順序を示す情報に基づいて、吹付け装置14を制御するための制御情報を生成し、生成した制御情報に基づいて吹付け装置14による吹付け動作を制御する制御手段16とを有するようにする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被吹付け部材に対して吹付け材を吹付け施工するシステムであって、
被吹付け部材から所定の距離だけ離れた位置と高さに配置される吹付け装置と、
あらかじめ設定された被吹付け部材の断面形状を示す情報と、基準位置からの被吹付け部材の位置を示す情報と、吹付け装置と被吹付け部材との位置関係を示す情報と、被吹付け部材における吹付け範囲を示す情報と、吹付け順序を示す情報に基づいて、吹付け装置を制御するための制御情報を生成し、生成した制御情報に基づいて吹付け装置による吹付け動作を制御する制御手段とを有することを特徴とする吹付けシステム。
【請求項2】
被吹付け部材は、H形鋼からなる鉄骨梁であり、制御手段は、この鉄骨梁のウェブの表面と上下フランジの表面および小口面に対して、あらかじめ設定した所定の吹付け順序で吹付け材を吹付けることを特徴とする請求項1に記載の吹付けシステム。
【請求項3】
被吹付け部材に対して吹付け材を吹付け施工する方法であって、
被吹付け部材から所定の距離だけ離れた位置と高さに吹付け装置を配置するステップと、
被吹付け部材の断面形状を示す情報と、基準位置からの被吹付け部材の位置を示す情報と、吹付け装置と被吹付け部材との位置関係を示す情報と、被吹付け部材における吹付け範囲を示す情報と、吹付け順序を示す情報を入力するステップと、
入力された情報に基づいて、吹付け装置を制御するための制御情報を生成するステップと、
生成された制御情報に基づいて、吹付け装置による吹付け動作を制御し、被吹付け部材に対して吹付け材を吹付けるステップとを有することを特徴とする吹付け方法。
【請求項4】
被吹付け部材は、H形鋼からなる鉄骨梁であり、この鉄骨梁のウェブの表面と上下フランジの表面および小口面に対して、あらかじめ設定した所定の吹付け順序で吹付け材を吹付けることを特徴とする請求項3に記載の吹付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の梁、柱等の鉄骨部材への耐火被覆材などの吹付け作業に好適な吹付けシステムおよび吹付け方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄骨造建物の施工において、耐火被覆吹付け工事が行われている。この工事は、材料の粉じんが舞うことで作業環境が悪くなるおそれがあり、また、近年では、作業員の不足などの問題もある。こういった背景から、吹付け作業の機械化、省力化などが求められている。
【0003】
吹付け作業の機械化、省力化などを実現するための従来の吹付け装置として、例えば特許文献1に示すものが知られている。この吹付け装置は、台車上に、複数の運動関節部からなるマニプレータを設置し、マニプレータの終端側運動関節部に吹付けノズル部材を設け、所要の運動関節部の内部に、ノズル部材に材料を供給する管路を形成し、その管路に外部管路部材を連結して構成したものであり、ノズル部材より被吹付け体への距離を検知するセンサを備えている。この装置では、センサの検知信号に基づいてマニプレータを操作し、距離を制御しながら吹付け作業を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-302429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の従来の特許文献1の吹付け装置は、吹付けようとする部分をユーザーが目視で確認しながら、ノズル部材を材料噴射に最も好ましい位置に移動させるなどの操作の手間を要していた。このため、こうした手間を減らして省力化に寄与することができる技術が求められていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、省力化に寄与することができる吹付けシステムおよび吹付け方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る吹付けシステムは、被吹付け部材に対して吹付け材を吹付け施工するシステムであって、被吹付け部材から所定の距離だけ離れた位置と高さに配置される吹付け装置と、あらかじめ設定された被吹付け部材の断面形状を示す情報と、基準位置からの被吹付け部材の位置を示す情報と、吹付け装置と被吹付け部材との位置関係を示す情報と、被吹付け部材における吹付け範囲を示す情報と、吹付け順序を示す情報に基づいて、吹付け装置を制御するための制御情報を生成し、生成した制御情報に基づいて吹付け装置による吹付け動作を制御する制御手段とを有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る他の吹付けシステムは、上述した発明において、被吹付け部材は、H形鋼からなる鉄骨梁であり、制御手段は、この鉄骨梁のウェブの表面と上下フランジの表面および小口面に対して、あらかじめ設定した所定の吹付け順序で吹付け材を吹付けることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る吹付け方法は、被吹付け部材に対して吹付け材を吹付け施工する方法であって、被吹付け部材から所定の距離だけ離れた位置と高さに吹付け装置を配置するステップと、被吹付け部材の断面形状を示す情報と、基準位置からの被吹付け部材の位置を示す情報と、吹付け装置と被吹付け部材との位置関係を示す情報と、被吹付け部材における吹付け範囲を示す情報と、吹付け順序を示す情報を入力するステップと、入力された情報に基づいて、吹付け装置を制御するための制御情報を生成するステップと、生成された制御情報に基づいて、吹付け装置による吹付け動作を制御し、被吹付け部材に対して吹付け材を吹付けるステップとを有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る他の吹付け方法は、上述した発明において、被吹付け部材は、H形鋼からなる鉄骨梁であり、この鉄骨梁のウェブの表面と上下フランジの表面および小口面に対して、あらかじめ設定した所定の吹付け順序で吹付け材を吹付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る吹付けシステムによれば、被吹付け部材に対して吹付け材を吹付け施工するシステムであって、被吹付け部材から所定の距離だけ離れた位置と高さに配置される吹付け装置と、あらかじめ設定された被吹付け部材の断面形状を示す情報と、基準位置からの被吹付け部材の位置を示す情報と、吹付け装置と被吹付け部材との位置関係を示す情報と、被吹付け部材における吹付け範囲を示す情報と、吹付け順序を示す情報に基づいて、吹付け装置を制御するための制御情報を生成し、生成した制御情報に基づいて吹付け装置による吹付け動作を制御する制御手段とを有するので、被吹付け部材の断面形状を示す情報などを入力することで、吹付け装置を用いて所定の吹付け範囲に対する吹付け作業を簡易に行うことができる。したがって、吹付け作業の省力化に寄与することができるという効果を奏する。
【0012】
また、本発明に係る他の吹付けシステムによれば、被吹付け部材は、H形鋼からなる鉄骨梁であり、制御手段は、この鉄骨梁のウェブの表面と上下フランジの表面および小口面に対して、あらかじめ設定した所定の吹付け順序で吹付け材を吹付けるので、鉄骨梁に吹付け施工される耐火被覆材などの吹付け材の施工品質を確保することができるという効果を奏する。
【0013】
また、本発明に係る吹付け方法によれば、被吹付け部材に対して吹付け材を吹付け施工する方法であって、被吹付け部材から所定の距離だけ離れた位置と高さに吹付け装置を配置するステップと、被吹付け部材の断面形状を示す情報と、基準位置からの被吹付け部材の位置を示す情報と、吹付け装置と被吹付け部材との位置関係を示す情報と、被吹付け部材における吹付け範囲を示す情報と、吹付け順序を示す情報を入力するステップと、入力された情報に基づいて、吹付け装置を制御するための制御情報を生成するステップと、生成された制御情報に基づいて、吹付け装置による吹付け動作を制御し、被吹付け部材に対して吹付け材を吹付けるステップとを有するので、被吹付け部材の断面形状を示す情報などを入力することで、吹付け装置を用いて所定の吹付け範囲に対する吹付け作業を簡易に行うことができる。したがって、吹付け作業の省力化に寄与することができるという効果を奏する。
【0014】
また、本発明に係る他の吹付け方法によれば、被吹付け部材は、H形鋼からなる鉄骨梁であり、この鉄骨梁のウェブの表面と上下フランジの表面および小口面に対して、あらかじめ設定した所定の吹付け順序で吹付け材を吹付けるので、鉄骨梁に吹付け施工される耐火被覆材などの吹付け材の施工品質を確保することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明に係る吹付けシステムおよび吹付け方法の実施の形態を示す図であり、(1)は正面図、(2)は側断面図、(3)は他の側断面図である。
図2図2(1)~(3)は、鉄骨梁とロボットの位置合わせの説明図、図2(4)は、吹付け範囲の指定方法の説明図である。
図3図3は、吹付け条件の説明図であり、(1)は吹付け順序、(2)は吹付けピッチ、(3)は吹付け角度である。
図4図4は、吹付け動作のイメージを示す図である。
図5図5は、吹付け範囲の区分割の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る吹付けシステムおよび吹付け方法の実施の形態について、自動で鉄骨梁に吹付ける場合を例にとり、図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0017】
図1(1)、(2)に示すように、本発明の実施の形態に係る吹付けシステム10は、建物内の鉄骨梁12(被吹付け部材)に対して耐火被覆材(吹付け材)を吹付け施工するシステムであり、鉄骨梁12の正面に配置される吹付け装置14と、吹付け装置14による吹付け動作を制御するための操作端末16(制御手段)とを備えている。
【0018】
鉄骨梁12は、ウェブ18と、上下フランジ20、22とを備えたH形鋼からなる。鉄骨梁12の長手方向が水平左右方向(X軸方向)、ウェブ18の面の法線方向が水平前後方向(Y軸方向)、上下フランジ20、22の面の法線方向が上下方向(Z軸方向)に向いている。鉄骨梁12に対して吹付ける耐火被覆材は、吹付けロックウール耐火被覆材を想定しているが、これ以外の材料であってもよい。
【0019】
吹付け装置14は、台車24と、台車24上に設置されるリフター26と、リフター26の上に設置される水平移動機構28と、水平移動機構28の上に搭載される多関節型6軸ロボット30とにより構成され、鉄骨梁12からY軸方向に所定の距離Dだけ離れた位置に配置される。なお、ロボット30の軸数は6に限定されるものではない。
【0020】
台車24は、リフター26を支持するとともに、床面32上を走行可能な車輪34を有するものである。台車24は、手動で走行移動させる方式でもよいし、操作端末16などから遠隔操作で走行移動させる方式でもよい。リフター26は、上面を上下方向(Z軸方向)に昇降可能なパンタグラフ機構36を備える。パンタグラフ機構36は、図示しないアクチュエーターとカム機構により昇降駆動される。パンタグラフ機構36の動作は、操作端末16によって制御される。
【0021】
水平移動機構28は、水平なリフター26上面に沿って左右方向(X軸方向)にロボット30を移動させる機構であり、図示しないアクチュエーターと、リフター26上面に固定されるとともに左右方向に延びるガイドと、ガイドに沿って左右方向に移動可能に設けられるステージとを有する。アクチュエーターでステージをガイドに沿って動かすことで、ステージ上に固定されたロボット30を左右方向に水平移動させることができる。水平移動機構28の動作は、操作端末16によって制御される。
【0022】
ロボット30は、図1(2)に示すように、基台38と、第一関節40と、基端アーム42と、第二関節44と、第一中間アーム46と、第二中間アーム48と、第三関節50と、先端アーム52とを備えており、これら部材38~52がこの順で順次に連結されている。基台38は、水平移動機構28のステージ上面に設置される。第一関節40は、基台38に対して回転軸線C1周りに回転可能である。基端アーム42は、第一関節40に対して回転軸線C2周りに回転可能である。第一中間アーム46は、第二関節44に対して回転軸線C3周りに回転可能である。第二中間アーム48は、第一中間アーム46に対して回転軸線C4周りに回転可能である。先端アーム52は、第三関節50に対して回転軸線C5周りに回転可能であるとともに、回転軸線C6周りに回転可能である。ロボット30の動作および姿勢は、操作端末16によって制御される。ロボット39単体での吹付け可能範囲(アームの届く範囲)は、図1(1)の水平距離Lの領域である。
【0023】
先端アーム52の先端には、耐火被覆材を外部に噴射するノズルを有するノズル装置54が着脱自在に装着されている。ノズル装置54の基部には、外部から供給される耐火被覆材をノズル装置54に供給するための図示しない配管が接続される。また、先端アーム52には、図示しない距離センサが装着されている。この距離センサは、鉄骨梁12の所定点と自身との間の距離を計測するためのものであり、例えばレーザー光を用いて距離を計測するレーザー距離計で構成することができる。ノズル装置54、距離センサは、操作端末16との間で情報の送受信が可能であり、ノズル装置54、距離センサの動作は操作端末16によって制御可能である。
【0024】
操作端末16は、有線通信回線または無線通信回線を通じて吹付け装置14と接続しており、吹付け装置14に向けて制御情報を送信可能であるとともに、吹付け装置14が発信する情報を受信可能である。この操作端末16には、鉄骨梁12の断面形状を示す情報と、床面32(基準位置)からの鉄骨梁12の高さ位置を示す情報と、吹付け装置14と鉄骨梁12との位置関係を示す情報と、鉄骨梁12における吹付け範囲を示す情報と、吹付け順序を示す情報を入力可能である。操作端末16は、これら入力された情報等に基づいて、吹付け装置14を制御するための制御情報を生成する。また、操作端末16は、生成した制御情報を吹付け装置14に送信することで、吹付け装置14による吹付け動作を制御する。
【0025】
上記の構成の動作および作用について説明する。
まず、吹付け作業を実施しようとする鉄骨梁12の断面形状の入力を行う。具体的には、図1(1)、(2)に示す梁成A、梁幅B、フランジ厚tの各寸法(情報)を操作端末16に入力する。
【0026】
次に、床面32から梁天端の高さHを操作端末16に入力し、鉄骨梁12の床からの高さ(情報)を本システム10に認識させる。
【0027】
次に、台車24を動かして、吹付け装置14を鉄骨梁12の正面に配置し、台車24を床面32に対して移動不能に固定する。この場合、あらかじめシミュレーションにより得られた適切な位置に配置することが望ましい。図1(2)の例では、鉄骨梁12のウェブ18中心線からロボット30の基台38の中心線までの水平距離Dが1300mmとなるように配置している。
【0028】
次に、リフター26の高さを適切な高さに調整する。この場合、リフター26上のロボット30の高さが、あらかじめシミュレーションにより得られた適切な高さになるように操作端末16で調整することが望ましい。図1(1)、(2)の例では、高さh2となるように配置した場合を示している。
【0029】
次に、図2(1)~(3)に示すように、鉄骨梁12とロボット30の位置合わせを行う。この場合、ロボット30の先端アーム52に設置した距離センサを用いて、手動でウェブ18面上の異なる3点(教示点)と自身との間の距離をそれぞれ計測することで、ウェブ18面とロボット30の位置関係を取得する。具体的には、図2(1)に示すように、ウェブ18上に異なる3点P1、P2、P3を設定する。P1は原点、P2はX軸上、P3はZ軸上に設定することが好ましい。Y軸方向の定位置から距離センサで3点までの各距離を取得する。続いて、図2(2)に示すように、取得した距離を操作端末16に送信し、操作端末16で3点の3次元座標を求める。3点の3次元座標は、距離センサのロボット座標を用いて計算する。こうすることでウェブ18面とロボット30の位置関係(情報)を取得する。取得した位置関係に基づいて、操作端末16で座標変換計算を行いロボット座標を補正する。これにより、図2(3)に示すように、ロボット30は、補正したロボット座標を用いて操作端末16から適切に制御される。
【0030】
次に、吹付け範囲の指定を行う。この場合、ロボット30を手動操作して、吹付け範囲を指定することで、操作端末16に入力してもよいし、操作端末16の操作画面上で吹付け範囲を示す位置(情報)を直接入力してもよい。手動操作する場合は、例えば、ノズル装置54を矩形の吹付け範囲の隅角点のうち3点に正対する位置に手動で配置し、各位置でのノズル装置54の位置座標、姿勢を操作端末16に入力する方法が考えられる。なお、図2(4)の例では、ウェブ18面に対して矩形の吹付け範囲Rを3点Q1、Q2、Q3で指定する場合を示している。吹付け範囲Rは、梁端から水平距離L0だけ内方、ウェブ上下端から鉛直距離H0だけ内方の領域に設定してもよい。L0、H0は、例えば200mm程度に設定することができる。
【0031】
次に、上記の各情報に基づいて、操作端末16でロボット30を制御するための制御情報を生成する。制御情報には、様々な吹付け条件を組み込むことができる。吹付け条件としては、例えば、吹付け順序、吹付けピッチ、吹付け精度、吹付け速度、吹付け距離(鉄骨梁12とノズル間の距離)、吹付け角度(鉄骨梁12に対するノズル噴射角度)などがある。
【0032】
吹付け順序は、図3(1)に示すように、リフター26の高さが高いとき(h2)に吹付ける領域R2と、リフター26の高さが低いとき(h1)に吹付ける領域R1とに分けて設定することができる。領域R2は、例えばウェブ18面→上フランジ20下面→上フランジ20小口面の吹付け順序に設定することができる。領域R1は、例えば下フランジ22下面→下フランジ22上面→下フランジ22小口面の吹付け順序に設定することができる。なお、本発明の吹付け順序はこれに限るものではなく、任意の手順を適宜設定可能である。
【0033】
吹付けピッチは、図3(2)に示すように、縦と横についてジグザグ状にノズルを動かして吹付ける場合の横の長さS1である。この長さは例えば50~150mmで調整可能なようにしてもよい。縦の長さS2は、吹付け範囲に基づいて適宜設定可能である。ジグザグの折れ曲がり部分は、滑らかな曲線状(例えば円弧状)にしてもよい。この円弧の曲率半径を例えば50mm程度前後の吹付け精度で調整可能なようにしてもよい。吹付け速度は、ノズルの移動速度であり、事前に試験などで把握した適切な速度に設定することができる。吹付け距離は、例えば300~500mm程度で任意に設定可能にしてもよい。吹付け角度は、図3(3)に示すように、ノズルからの噴射角度θが鉄骨梁12に対して正対する90°を基本とするが、吹付け範囲の両端に位置する吹始めと終わりでは、噴射角度を振ってもよい。また、吹付け範囲の中心から離れるにしたがって鉄骨梁12に対するノズルの姿勢を連続的に変えるようにしてもよい。吹付け角度については、事前に試験などで出来形を把握し、任意の数値を操作端末に入力することで適宜設定可能であることが好ましい。
【0034】
次に、生成した制御情報を操作端末16からロボット30に送信して、ロボット30に吹付け作業を開始させる。ロボット30は制御情報にしたがって姿勢を変化させながら、先端アーム52に装着したノズル装置54を所定の経路に沿って移動させる。例えば図3(1)に示すように、ウェブ18面→上フランジ20下面→上フランジ20小口面の吹付け順序で吹付け作業を行う。図4に、ウェブ18、上フランジ20周辺に対するノズル装置54の移動経路S3の一例を示す。ノズル装置54から耐火被覆材が所定の吹付け条件で噴射されることにより、ロボット30単体での吹付け可能範囲に耐火被覆材が吹付けられる。
【0035】
ウェブ18、上フランジ20に対する作業完了後は、図1(3)に示すように、リフター26を下降してリフター26の高さをh1に下げる。その後、ロボット30から下フランジ22周辺への吹付け作業を行う。この場合、例えば図3(1)に示すように、下フランジ22下面→下フランジ22上面→下フランジ22小口面の吹付け順序で吹付け作業を行う。
【0036】
以上により、吹付け作業が完了する。他の鉄骨梁12にも吹付け作業を行う場合には、次の施工位置へ台車24を移動し、上記と同様の作業を繰り返す。吹付け作業開始と終了の信号をロボット30から操作端末16に送り、その信号をノズル装置54(吹付け材噴射装置)に送ることで、吹付け材の噴射のON、OFFをするようにしてもよい。
【0037】
本実施の形態によれば、鉄骨梁12の断面形状を示す情報などを入力することで、吹付け装置14を用いて所定の吹付け範囲に対する吹付け作業を簡易に行うことができる。したがって、吹付け作業の省力化、生産性向上に寄与することができる。また、粉じん環境下での作業を削減できる。
【0038】
また、あらかじめ設定した所定の吹付け順序で耐火被覆材を吹付けることで、耐火被覆の施工品質を確保することができる。特に下フランジ下面については、吹付け後の耐火被覆材が剥離落下するおそれがある。しかし、本実施の形態によれば、下フランジ廻りの耐火被覆材を一体化すべく上記の吹付け順序にて断面視でコの字状に吹付けを行うので、下フランジ下面からの耐火被覆材の剥離落下を未然に防止することができる。
【0039】
なお、CADデータや3次元データ情報を取り込み、吹付け作業の完全自動化を達成する方法も考えられるが、本実施の形態では、CADデータなどは必要とせず、鉄骨梁12の断面形状を示す情報などを入力することで、簡易に部分的な自動吹付けを実現できる。
【0040】
上記の実施の形態においては、水平移動機構28を用いないで吹付け作業を行う場合を例にとり説明したが、本発明はこれに限るものではなく、水平移動機構28を用いて吹付け作業を行ってもよい。図5(1)は、水平移動機構28を用いない場合の吹付け領域の区分割である。図5(2)は、水平移動機構28を用いた場合の吹付け領域の区分割である。水平移動機構28を用いない場合は、図5(1)に示すように、ロボット30の稼働範囲T1によって、ロボット30単体での吹付け範囲U1を台車24を動かさずに連続して施工可能である。左側の範囲U1について施工した後、台車24を右に動かしてロボット30を右隣に移設し、右側の範囲U1について吹付けを行う。なお、折り返し範囲Vについては移設前後のノズルの首振り動作で吹付け施工する。
【0041】
これに対し、水平移動機構28を用いる場合は、図5(2)に示すように、ロボット30の稼働範囲T1に加えて水平移動機構28による稼働範囲T2が生じる。稼働範囲T2の長さSTは、水平移動機構28の移動可能範囲によるが、例えば800mm程度に設定可能である。これによって、ロボット30単体での吹付け範囲U1と、ロボット30と水平移動機構28の協働による吹付け範囲U2を台車24を動かさずに連続して施工可能である。したがって、水平移動機構28を用いない場合に比べて、より広い範囲を連続的に施工することができ、作業効率が向上する。なお、図5(1)の場合と同様に、左側の範囲U1、U2について施工した後、台車24を右に動かしてロボット30を右隣に移設し、右側の範囲U1、U2について吹付けを行う。折り返し範囲Vについては移設前後のノズルの首振り動作で吹付け施工する。
【0042】
以上説明したように、本発明に係る吹付けシステムによれば、被吹付け部材に対して吹付け材を吹付け施工するシステムであって、被吹付け部材から所定の距離だけ離れた位置と高さに配置される吹付け装置と、あらかじめ設定された被吹付け部材の断面形状を示す情報と、基準位置からの被吹付け部材の位置を示す情報と、吹付け装置と被吹付け部材との位置関係を示す情報と、被吹付け部材における吹付け範囲を示す情報と、吹付け順序を示す情報に基づいて、吹付け装置を制御するための制御情報を生成し、生成した制御情報に基づいて吹付け装置による吹付け動作を制御する制御手段とを有するので、被吹付け部材の断面形状を示す情報などを入力することで、吹付け装置を用いて所定の吹付け範囲に対する吹付け作業を簡易に行うことができる。したがって、吹付け作業の省力化に寄与することができる。
【0043】
また、本発明に係る他の吹付けシステムによれば、被吹付け部材は、H形鋼からなる鉄骨梁であり、制御手段は、この鉄骨梁のウェブの表面と上下フランジの表面および小口面に対して、あらかじめ設定した所定の吹付け順序で吹付け材を吹付けるので、鉄骨梁に吹付け施工される耐火被覆材などの吹付け材の施工品質を確保することができる。
【0044】
また、本発明に係る吹付け方法によれば、被吹付け部材に対して吹付け材を吹付け施工する方法であって、被吹付け部材から所定の距離だけ離れた位置と高さに吹付け装置を配置するステップと、被吹付け部材の断面形状を示す情報と、基準位置からの被吹付け部材の位置を示す情報と、吹付け装置と被吹付け部材との位置関係を示す情報と、被吹付け部材における吹付け範囲を示す情報と、吹付け順序を示す情報を入力するステップと、入力された情報に基づいて、吹付け装置を制御するための制御情報を生成するステップと、生成された制御情報に基づいて、吹付け装置による吹付け動作を制御し、被吹付け部材に対して吹付け材を吹付けるステップとを有するので、被吹付け部材の断面形状を示す情報などを入力することで、吹付け装置を用いて所定の吹付け範囲に対する吹付け作業を簡易に行うことができる。したがって、吹付け作業の省力化に寄与することができる。
【0045】
また、本発明に係る他の吹付け方法によれば、被吹付け部材は、H形鋼からなる鉄骨梁であり、この鉄骨梁のウェブの表面と上下フランジの表面および小口面に対して、あらかじめ設定した所定の吹付け順序で吹付け材を吹付けるので、鉄骨梁に吹付け施工される耐火被覆材などの吹付け材の施工品質を確保することができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上のように、本発明に係る吹付けシステムおよび吹付け方法は、鉄骨部材などに対する耐火被覆材の吹付け施工に有用であり、特に、吹付け作業の省力化を図るのに適している。
【符号の説明】
【0047】
10 吹付けシステム
12 鉄骨梁(被吹付け部材)
14 吹付け装置
16 操作端末(制御手段)
18 ウェブ
20 上フランジ
22 下フランジ
24 台車
26 リフター
28 水平移動機構
30 ロボット
32 床面(基準位置)
34 車輪
36 パンタグラフ機構
38 基台
40 第一関節
42 基端アーム
44 第二関節
46 第一中間アーム
48 第二中間アーム
50 第三関節
52 先端アーム
54 ノズル装置
図1
図2
図3
図4
図5