(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174525
(43)【公開日】2022-11-24
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
A61F 13/494 20060101AFI20221116BHJP
【FI】
A61F13/494 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080376
(22)【出願日】2021-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金田 悠太郎
【テーマコード(参考)】
3B200
【Fターム(参考)】
3B200AA01
3B200BA05
3B200BB03
3B200BB11
3B200BB20
3B200CA02
3B200CA08
3B200DA02
(57)【要約】
【課題】立体ギャザーの幅方向外側の吸収体から体液が漏出するのを防止する。
【解決手段】着用者の腹部側に対応する前身頃領域と、着用者の背部側に対応する後身頃領域と、前記前身頃領域及び前記後身頃領域の間に位置する股下領域とを有する吸収性物品であって、前記前身頃領域から前記後身頃領域へ延在し、前記股下領域と比べて前記前身頃領域と前記後身頃領域が幅方向に広い瓢箪型の吸収体と、前記吸収体の肌面側を覆う透水性のトップシートと、前記吸収体の非肌面側を覆う非透水性のバックシートと、前記股下領域の幅方向両端部付近を基端部とし、長手方向に平行に起立して装着者の肌面に密着する立体ギャザーを形成する非透水性のサイドシートと、を備え、前記股下領域と前記後身頃領域との間における前記立体ギャザーと前記トップシートの間に、流体を堰き止める流動制御部を設けた、吸収性物品を提供する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の腹部側に対応する前身頃領域と、着用者の背部側に対応する後身頃領域と、前記前身頃領域及び前記後身頃領域の間に位置する股下領域とを有する吸収性物品であって、
前記前身頃領域から前記後身頃領域へ延在し、前記股下領域と比べて前記前身頃領域と前記後身頃領域が幅方向に広い瓢箪型の吸収体と、
前記吸収体の肌面側を覆う透水性のトップシートと、
前記吸収体の非肌面側を覆う非透水性のバックシートと、
前記股下領域の幅方向両端部付近を基端部とし、長手方向に平行に起立して装着者の肌面に密着する立体ギャザーを形成する非透水性のサイドシートと、
を備え、
前記股下領域と前記後身頃領域との間における前記立体ギャザーと前記トップシートの間に、流体を堰き止める流動制御部を設けた、
吸収性物品。
【請求項2】
前記流動制御部を、前記立体ギャザーと前記トップシートとを、前記基端部の幅方向内側で接着することで形成した、
請求項1記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記サイドシートは、前記立体ギャザーの基端部の幅方向外側では前記吸収体の肌面側を覆っている、
請求項1または2に記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記サイドシートの耐水圧は、150mmH2Oである、
請求項1~3のうちいずれか一項記載の吸収性物品。
【請求項5】
前記瓢箪型の吸収体の、前記立体ギャザーの基端部の幅方向外側では、前記立体ギャザーの基端部の幅方向内側よりも高分子吸水材の配合量が少ない、請求項1~4のうちいずれか一項記載の吸収性物品。
【請求項6】
前記瓢箪型の吸収体は複数の吸水層で構成されており、前記立体ギャザーの基端部の幅方向外側では、そのうち一部の吸水層のみが延在している、
請求項1~5のうちいずれか1項記載の吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
吸収性物品であるおむつは、積層されたシートの内部に吸収体を内蔵することが一般的である。吸収体は、着用者が排出した体液に含まれる水分を吸収する。
【0003】
吸収体の幅方向には非透水性の側面シートが存在し、側面シートの自由端側が糸ゴム等で付勢されている。側面シートはおむつ装着時、装着者の身体曲面に応じて立ち上がり、肌面に密着して体液がおむつの幅方向に漏出するのを防ぐ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
おむつ着用者がうつ伏せまたは仰向けの体勢である場合、吸収体に強い圧はかからない。しかし、着用者が横向き姿勢である場合、寝床と着用者の臀部との間に強い圧がかかることがある。水分を吸収した吸収体に強い圧がかかると、非透水性の側面シートが圧に耐え切れず、おむつの外に排出物が漏出する恐れがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、立体ギャザーの股下領域と後身頃領域との間に流動制御部を設ける。
【0007】
具体的には、本発明は、着用者の腹部側に対応する前身頃領域と、着用者の背部側に対応する後身頃領域と、前記前身頃領域及び前記後身頃領域の間に位置する股下領域とを有する吸収性物品であって、前記前身頃領域から前記後身頃領域へ延在し、前記股下領域と比べて前記前身頃領域と前記後身頃領域が幅方向に広い瓢箪型の吸収体と、前記吸収体の肌面側を覆う透水性のトップシートと、前記吸収体の非肌面側を覆う非透水性のバックシートと、前記股下領域の幅方向両端部付近を基端部とし、長手方向に平行に起立して装着者の肌面に密着する立体ギャザーを形成する非透水性のサイドシートと、を備え、前記股下領域と前記後身頃領域との間における前記立体ギャザーと前記トップシートの間に、流体を堰き止める流動制御部を設けた、吸収性物品を提供する。
【0008】
前記流動制御部を、前記立体ギャザーと前記トップシートとを、前記基端部の幅方向内側で接着することで形成してよい。
【0009】
前記サイドシートは、前記立体ギャザーの基端部の幅方向外側では前記吸収体の肌面側を覆っていてよい。
【0010】
前記サイドシートの耐水圧は、150mmH2Oとしてよい。
【0011】
前記瓢箪型の吸収体の、前記立体ギャザーの基端部の幅方向外側では、前記立体ギャザーの基端部の幅方向内側よりも高分子吸水材の配合量を少なくしてよい。
【0012】
前記瓢箪型の吸収体は複数の吸水層で構成されており、前記立体ギャザーの基端部の幅方向外側では、そのうち一部の吸水層のみが延在していてよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、着用者の臀部への尿の移動を妨げることができるので、臀部と寝床との間に強い圧がかかったとしても、側面シートを超えて尿がおむつの外に漏出しない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施形態に係るインナーパッドの平面図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るインナーパッドの分解斜視図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係るインナーパッドの股下部断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係るインナーパッドの腰部断面図である。
【
図5】
図5は、流路に堰を設けたインナーパッドの平面図である。
【
図6】
図6は、流路に堰を設けたインナーパッドの堰部断面図である。
【
図7】
図7は、インナーパッドに実験用人形から人工尿を流した結果を示した図である。
【
図8】
図8は、好適なサイドシートの耐水圧に関する実験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態に係る吸収性物品について説明する。なお、以下の実施形態の構成は例示であり、本発明はこれらの実施の形態の構成に限定されるものではない。
【0016】
本実施形態では、交換式のインナーパッド(本願でいう「吸収性物品」の一例である)について、着用者の腹部に対向して配置される前身頃(腹部側)と背部に対向して配置される後身頃(背部側)とを結ぶ方向を長手方向とする。これらの前身頃(長手方向の一側)と後身頃(長手方向の他側)との間(長手方向の中央)には、着用者の股下に配置(股間に対向して配置)される股下部が位置する。また、インナーパッドが着用者に装着された状態(以下、「装着状態」と略称する)において、着用者の肌に向かう側(装着された状態で内側)を肌面側とし、肌面側の反対側(装着された状態で外側)を非肌面側とする。さらに、肌面側と非肌面側とを結ぶ方向を厚み方向とし、長手方向と厚み方向の何れにも直交する方向を幅方向とする。そのほか、厚み方向から視ることを平面視とする。
【0017】
本実施形態では交換式のインナーパッドを例として用いて発明の内容を説明する。本発明は主に幅方向肌面側末端に配置された非透水性のシートを、糸ゴムなどで付勢したもの(立体ギャザー)に関するものであり、立体ギャザーを備えるパンツタイプのおむつや、テープ型のおむつについても、当然に適用することができるものである。
【0018】
図1は、実施形態に係るインナーパッドの平面図である。インナーパッド1は、装着状態において着用者の陰部を覆う股下に対応する股下領域1Bと、股下領域1Bの前側に位置し、着用者の前身頃に対応する部位である前身頃領域1Fと、股下領域1Bの後ろ側に位置し、着用者の後身頃に対応する部位である後身頃領域1Rとを有する。前身頃領域1F、後身頃領域1R、股下領域1Bには、股下領域1Bを中心に、クロッチ部分が絞られた、すなわち股下領域1Bと比べて前身頃領域1Fと後身頃領域1Rが幅方向に広い瓢箪型の吸収体6が組み込まれている。前身頃領域1Fと後身頃領域1Rの先、おむつの短手方向と長手方向の吸収体のない部分では、吸収体6を覆う全てのシートがホットメルト接着剤等で溶着されており、非溶着部分からの体液流入を防ぎ、吸収体6の位置を規制する。インナーパッド1は、下衣肌着と肌面との間に装着することにより着用者の肌に密着する。また、インナーパッド1をテープ型おむつやパンツ型おむつの内側に装着すれば、インナーパッド1が体液を規制するので、例え体液の放出があったとしても、おむつ自体は
再利用することができる。
【0019】
また、インナーパッド1には、インナーパッド1と着用者の肌との間に液体の流出経路となる隙間が形成されるのを抑制するべく、着用者の脚周り部(大腿部)を取り巻く部位(クロッチ部分における幅方向端部)に、弾性体2が設けられている。弾性体2は、インナーパッド1の長手方向に延在する。また、弾性体よりもインナーパッド1の肌面側幅方向内側に設けられたシートの端には、別の弾性体3BR,3BLが付されている。当該シートは、着用の際に弾性体3BR,3BLの力により立ち上がり、立体ギャザーとなる。インナーパッド1は、弾性体2と、立体ギャザーにより着用者の肌面に密着する。着用者から排出される体液は、インナーパッド1から漏出することなくインナーパッド1の吸収体6に吸収される。なお、弾性体の部材としては、糸ゴムや帯状のゴム等を適宜選択できる。
【0020】
図2は、実施形態に係るインナーパッドの分解斜視図である。インナーパッド1は、弾性体3BR,3BLの付勢力により立体ギャザー3R,3Lを形成するサイドシート8R,8Lと、トップシート7と、クロッチ部分が瓢箪型の吸収体6と、バックシート5と、弾性体2を備え、液不透過性である瓢箪型のカバーシート4とを備え、肌面側から非肌面側まで順に積層されている。インナーパッド1の前身頃端部と後身頃端部に吸収体6は存在せず、全てのシートが接着されている。
【0021】
バックシート5は、カバーシート4と同様に、体液の漏れを抑制するために液不透過性の熱可塑性樹脂を材料として形成されたシートである。バックシート5は、着用状態での蒸れを抑えるため、透湿性を併せもつ材料で構成されることが好ましい。また、トップシート7は、吸収体6の吸水面を被覆するように着用者の肌面側に配置される、熱可塑性樹脂の繊維を含んで形成されたエアスルー不織布からなる。このトップシート7は、その一部又は全部において液透過性を有する。そのため、おむつ1が装着された状態において、着用者から放出された体液は、着用者の肌に接触し得るトップシート7を通って吸収体6に進入し、そこで吸収される。また、トップシート7は親水性を有していてもよい。なお、おむつ1の長手方向と、吸収体6およびトップシート7の長手方向とは、同じである。
【0022】
バックシート5、吸収体6、トップシート7は、何れも前身頃領域1Fから後身頃領域1Rにまで延在する。よって、バックシート5と吸収体6とトップシート7が積層されているカバーシート4で着用者の陰部を覆うと、バックシート5と吸収体6とトップシート7の各長手方向の両端部は、着用者の腹側と背側に位置する状態となる。
【0023】
サイドシート8R,8Lは、透湿性を備える、非透水性の不織布である。前述の通りサイドシート8R,8Lの片端は、弾性体3BR,3BLの弾性力により立体ギャザー3R,3Lとして起立して肌に密着するため、サイドシート8R,8Lに当接した排出物はインナーパッド1の幅方向にはこれ以上漏洩せず、排出物に含まれる水分は吸収体6に順次吸収される。サイドシート8R,8Lの耐水圧は、150mmH2Oであり、このように設定することで、排泄された尿が立体ギャザー部に溜まったときでも、吸収体に尿が吸収されるまでサイドシートから染み出させることを防止する効果がある。センターシート7は、肌触りが良く、親水性の不織布である。肌に当接して体液を直接受け止め、順次吸収体6に吸収させる役割をする。また、吸収体6が既に吸収した体液の逆流を防ぐ。
【0024】
吸収体6は、パルプ繊維、レーヨン繊維、またはコットン繊維のような天然繊維からなる短繊維や、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはポリエチレンテレフタレート等の合成繊維に親水化処理を施した短繊維の隙間に、水を吸収し保持することのできる架橋構造を持つ親水性ポリマーであるSAP(高吸収性重合体:Super Absorbent
Polymer)等の粒状の吸収性樹脂(高分子吸水材)を保持させた構造を有してい
る。
【0025】
本実施形態のSAP粒子とは、SAPを含む樹脂組成物を粒状としたものを指す。ここで言う「SAPを含む樹脂組成物」とは、SAPのみからなる組成物、SAPを主成分とし、これに吸水性に悪影響を及ぼさない程度に他の物質が含まれた組成物、の双方を包含する概念である。「他の物質」としては、添加剤(粒子表面を疎水化する目的で添加される表面改質剤等)、SAPの合成時に残存した未反応のモノマー等を挙げることができる。
【0026】
吸収体6に含まれる短繊維とSAP粒子は、必ずしもランダムに散布されている訳ではなく、その目的に叶うように設計されて配置されている。短繊維は、吸収体6に染み込んだ体液を迅速に保持するものの、圧がかかると容易に放出する。一方、SAP粒子は体液に当接してもすぐには吸水しないが、一端体液を保持すれば容易に放出しないという特徴があり、両方の素材を適切な位置に配置することにより、体液を迅速に吸収してかつ圧をかけても吸収した体液を肌面に逆流させない吸収体6が実現できる。
【0027】
吸収体6は、2層以上のシート(複数の吸水層)を積み重ねたものでよい。例えば、肌面側のシートには、SAP粒子が散布されていないSAP不散布領域を設け、当該SAP不散布領域を体液の流路とし、体液が吸収体6の内部構造に効率よく広げ、吸収を早めることができる。この場合、非肌面側のシートには、短繊維とSAP粒子の密度を高くし、吸収した体液をしっかりと保持するようにしてよい。これらのシート同士が接触している部分は体液流路としての機能を果たすが、シート間にSAP粒子を散布した上で積層することで、体液吸収能力を与えてもよい。
【0028】
吸収体6は前述のように瓢箪型であり、前身頃領域1Fと後身頃領域1Rで幅方向に広がり、広がった部分で所謂耳部を構成している。カバーシート4とサイドシート8R,8Lも、前身頃領域1Fと後身頃領域1Rでは吸収体6の耳部を包むように幅方向に広がって接着されている。当該耳部では、吸収体6は、サイドシート8R,8Lの立ち上げ位置(基端部)よりも幅方向外側に延在する。
【0029】
本図では省略しているが、吸収体6は、その周囲をパルプ繊維や不織布等で構成される透水性のコアラップシート9で覆われている。コアラップシート9は、吸収体6の型崩れや、吸収体6に含まれるSAP粒子が他の構造に散乱するのを防止する役割を果たす。
【0030】
図3は、実施形態に係るインナーパッドの股下部断面図である。具体的には、
図1のインナーパッド1における、A-A線の断面図である。サイドシート8R,8Lは、インナーパッド1の幅方向両端部付近で、吸収体6の幅方向両側面から立ち上がっており、吸収体6の肌面側に積層されているトップシート7に、ホットメルト等で接着されている。接着位置から先は規制されていないが、端部が弾性体3BR,3BLにより付勢されており、立体ギャザー3R,3Lを構成している。
【0031】
立体ギャザー3R,3Lは、立ち上がり位置(基端部)から幅方向中央側に向けて斜めに立ち上がっている。このようにすることで、立ち上がった立体ギャザー3R,3Lとトップシート7との間には一定の空間ができる。また、立体ギャザー3R,3Lの端部は肌面に対して垂直に近い形で当たるので、排出物が立体ギャザー3R,3Lを超えて幅方向に漏出するのを強く規制することができる。着用者から発生した排出物が尿である場合、幅方向に流れた排出物は、立体ギャザー3R,3Lによって規制されている間に長手方向に広がり、吸収体6によって順次吸収される。
【0032】
図4は、実施形態に係るインナーパッドの腰部断面図である。具体的には、
図1に示す
インナーパッド1におけるB-B線の断面図である。なお、当該図面は前身頃領域1Fの断面図であるが、後身頃領域1Rでも同様である。
図1に示す通り、弾性体3BR,3BLはインナーパッドの長手方向端部には存在しないので、サイドシート8R,8Lは付勢されていない。当該位置では、サイドシート8R,8Lの立ち上げ位置から更に先についても、同一方向(すなわち、幅方向内側)にホットメルト等でトップシート7と接着されている。このように、サイドシート8R,8Lの長手方向端部から腰部にかけて折曲方向を規定することにより、装着のために広げた際に、立体ギャザー3R,3Lが幅方向内側に向かいやすくすることができる。
【0033】
図5は、流路に堰を設けたインナーパッドの平面図である。インナーパッド1の構造は
図1と同様であるが、股下領域1Bと後身頃領域1Rとの境界付近、瓢箪型に形成された吸収体6が後身頃領域1Rで幅方向外側に膨らむ直前に、流体を堰き止める流動抑制部10を備えている。流動抑制部10は、サイドシート8R,8Lの立ち上がり位置よりも更に幅方向内側、立体ギャザー3R,3Lの根元をホットメルト等でトップシート7と接着することで形成される。流動抑制部10があることにより、サイドシート8R,8Lの立ち上がり位置から立体ギャザー3R,3Lと、トップシート7との間に出来た空間の内側を流動してきた排出物が、股下領域1Bから後身頃領域1Rに向かって流れるのを妨げることができる。この結果、排出物が後身頃領域1Rの吸収体6に吸収されて、所謂耳部に到達するのを妨げることができる。
【0034】
図6は、流路に堰を設けたインナーパッドの堰部断面図である。具体的には、
図5に示すインナーパッド1におけるC-C線の断面図である。本図では、サイドシート8L,8Rの立体ギャザー3R,3L立ち上げ位置よりも幅方向内側に更にホットメルトが塗布されてトップシート7と接着されて、流動抑制部10を形成している。流動抑制部10の存在により、前身頃領域1F付近で排出された尿が立体ギャザー3R,3Lとトップシート7との間に出来た空間を流れて後身頃領域1Rに到達し、吸収されて吸収体6の耳部に到達するのを制限することができる。
【0035】
以上、説明したインナーパッド1では、尿が後身頃領域1Rの吸収体6の所謂耳部に浸透するのを妨げられる。前述の通り、吸収体6の所謂耳部には装着者の臀部が当接する。装着者が斜めを向いて臀部と寝床との間に体重がかかった場合でも、吸収体6の所謂耳部は多量の水分を吸収していないので、吸収体6から放出される水分がサイドシート8R,8Lの耐水圧を上回って肌面に漏洩することはない。また、サイドシート8R,8Lは肌面と接するため、着用中に摩耗することがあるが、摩耗してサイドシート8R,8Lの耐水圧が低くなった場合でも、吸収体6の所謂耳部が水分を大量に吸収していなければ、肌面に漏洩することはない。
【0036】
このため、吸収体6のカバー範囲が広く、かつ、使用者の体勢が変化して臀部に力がかかったとしても、排出物が立体ギャザー3R,3Lの幅方向外側に漏洩しないインナーパッド1が実現できる。また、吸収体6の所謂耳部は多くの水分を吸収する必要がないため、所謂耳部ではSAP粒子の配合量を少なくするか、或いはSAP粒子を配置しないようにすることができ、SAP粒子の必要量を低減できる。また、吸収体6が2層以上のシートから構成されている場合、所謂耳部はそのうちいくつかの層のみで構成されることとしてもよい。このように、所謂耳部では吸収体の構造を単純にできるため、インナーパッド1が体表に追従しやすくなる。
【0037】
上記のようなインナーパッドを、模擬尿道を備える実験用人形に装着して人工尿を流し、流動抑制部10により、人工尿の動きの変化について確認を行ったので、以下にその実験結果を示す。人工尿は、純水40Lに対して尿素(NH2CONH2)を776g、塩化ナトリウム(NaCl)を321.6g、硫酸マグネシウム七水和物(MgSO4・7
H2O)を81.8g、塩化カルシウム二水和物(CaCl2・2H2O)を33.4g、0.5%青色一号水溶液を60g混入し、700rpmで30分以上攪拌して生成した。
【0038】
人間の腰部を模した、尿排出孔を備えたダミー人形に、実験用人形の向きとパッドの向きが平行になり、人形の中心とパッドの吸収体中心が合致しており、立体ギャザーが捻れないようにインナーパッドを装着する。装着後、アウター(肌着)を履かせてインナーパッドが肌に密着するように固定する。次に、実験用人形を、腹部を下にして斜め30度に傾けて固定する。
【0039】
前述の人工尿を150ml用意し、定量送液ポンプから模擬尿道を介して、10ml/秒の速度でインナーパッドに注入する。作業終了後、実験用人形にインナーパッドを装着したまま10分間放置して、人工尿をインナーパッドに十分に浸透させた後、インナーパッドを実験用人形から取り外す。人工尿は青く着色されているので、インナーパッド上を人工尿がどのように流れ、どの位置で吸収されたかを目視することができる。
【0040】
図7は、インナーパッドに実験用人形から人工尿を流した結果を示した図である。前述の通り人工尿は青く着色されているので、インナーパッドが青く染色された箇所で人工尿が浸透している。股下領域幅方向中央部の色の濃い点は、模擬尿道の当接位置である。
図7(a)は、流動抑制部を設けないインナーパッドに人工尿を流した結果である。実験用人形を傾けて人工尿を注入しているので、人工尿はインナーパッドの右側に偏っている。また、人工尿は、前身頃領域は勿論、後身頃領域にも流れ、後身頃領域では立体ギャザーの立上位置を超えて吸収体の所謂耳部にまで到達していることが分かる。
【0041】
図7(b)は、流動抑制部を設けたインナーパッドに人工尿を流した結果である。条件は
図7(a)と同様であるが、流動抑制部の効果によって人工尿の流れは抑止され、吸収体の所謂耳部には、人工尿が到達していないことが分かる。このように、流動抑制部により、吸収体の後身頃領域耳部に尿が到達するのを制限できることが実験によっても確かめられた。
【0042】
好適なサイドシートの耐水圧についても実験を行ったので、その結果を示す。耐水圧について規格化された試験方法として、JIS A法(低水圧法)(AATCC127、ISO811)が存在する。当該方法では、昇圧速度10cm/minで試験片に水圧をかけていき、水滴が3滴出水した時点の水圧を測定する。
【0043】
図8は、好適なサイドシートの耐水圧に関する実験結果を示す表である。サイドシートの耐水圧について、上述の規格化された試験方法に準じた方法で実験を行った。様々な耐水圧を持つサイドシート8R,8Lを構成する素材について、素材を袋状にし、その中に150mlの人工尿を滴下する実験を、素材毎に10回行い、袋の底から人工尿が染み出てきた回数を確認した。作成した人工尿の組成は上述の実験で用いた物と同じであるが、着色料を添加していないものを用いた。袋の底から人工尿が染み出してきたかどうかは、袋の底を人差し指の腹で2回撫でることにより判断した。
【0044】
10回の実験のうち、人工尿が染み出した回数が4回以上の素材(サイドシート耐久力を×で表記)をサイドシート8R,8Lとして用いると、実際に尿が到達した場合に尿を透過させてしまう可能性が高いため不適切である。10回の実験のうち、人工尿が染み出した回数が2~3回の素材(サイドシート耐久力を△で表記)をサイドシート8R,8Lとして用いると、尿を止める確率は上がるが、透過させてしまうこともある。10回の実験のうち、人工尿が染み出した回数が1回以下の素材(サイドシート耐久力を〇で記載)は、ほぼ尿を通過させない。実際には、尿は、排出後にその相当量が吸収体6に吸収され
ており全量が到達する訳ではない。よって、このような素材を用いれば、サイドシート8R,8Lに到達した尿が、サイドシート8R,8Lを透過して幅方向に漏洩することはないといえる。
【0045】
素材の耐水性を必要以上に上げると着用感が悪くなるため、サイドシート8R,8Lに用いる素材として、表中のサイドシート耐久力が〇であって、かつ表中のサイドシート耐水圧が最も小さいものを用いるのが好適である。よって、実験の結果、条件を満たすサイドシート8R,8Lの耐水圧は、150mmH2Oであることが判明した。
【0046】
以上、本発明の特徴について実施の形態を説明したが、本発明の内容は上記実施の形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、流動制御部10は立体ギャザー3R,3Lとトップシート7との間を一定区間ホットメルトで接着することにより形成した。このような流動制御部10は、形成に他の素材が必要でなく、製造工程を大きく変更する必要がない点で好適である。しかし、流動制御部10は、立体ギャザー3R,3Lとの間に流動制御用シートを挿入することで形成されてもよい。
【0047】
ホットメルトで立体ギャザー3R,3Lとトップシート7を接着することで流動制御部10を形成すると、流動制御部10が存在する箇所では立体ギャザー3R,3Lの立ち上がり高さが制限されることになる。立体ギャザー3R,3Lの立ち上がり高さが制限される箇所があり、排出物が大量であれば、排出物がその箇所から漏洩する可能性もある。流動制御部10を別部材として、立体ギャザー3R,3Lとトップシート7との間に挟み込めば、立体ギャザー3R,3Lの立ち上がり高さを犠牲にせずに同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0048】
1・・インナーパッド
2・・レグギャザー
3R,3L・・立体ギャザー
3BR,3BL・・弾性体
4・・カバーシート
5・・バックシート
6・・吸収体
7・・トップシート
8R,8L・・サイドシート
9・・コアラップシート
10・・流動制御部
HM・・ホットメルト