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特開2022-174541SARS-CoV-2の免疫学的検出方法および試薬
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  • 特開-SARS-CoV-2の免疫学的検出方法および試薬 図1
  • 特開-SARS-CoV-2の免疫学的検出方法および試薬 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174541
(43)【公開日】2022-11-24
(54)【発明の名称】SARS-CoV-2の免疫学的検出方法および試薬
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/569 20060101AFI20221116BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20221116BHJP
   C07K 16/10 20060101ALI20221116BHJP
   C12Q 1/70 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
G01N33/569 L
G01N33/53 D
C07K16/10 ZNA
C12Q1/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080409
(22)【出願日】2021-05-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年5月13日にウェブサイトで公開 https://ssl4.eir-parts.net/doc/4544/tdnet/1827081/00.pdf https://www2.tse.or.jp/disc/45440/140120200512411290.pdf 令和2年6月19日にウェブサイトで公開 https://ssl4.eir-parts.net/doc/4544/tdnet/1850470/00.pdf https://www2.tse.or.jp/disc/45440/140120200619447766.pdf 令和2年10月30日にウェブサイトで公開 https://ssl4.eir-parts.net/doc/4544/tdnet/1895524/00.pdf https://www2.tse.or.jp/disc/45440/140120201030413055.pdf 令和2年5月13日以降に検査・研究主体に販売 令和2年6月19日以降に検査・研究主体に販売 令和2年10月30日以降に検査・研究主体に販売 令和2年5月13日にウェブサイトで公開 https://ssl4.eir-parts.net/doc/4544/tdnet/1827081/00.pdf 令和2年6月19日にウェブサイトで公開 https://ssl4.eir-parts.net/doc/4544/tdnet/1850470/00.pdf 令和2年10月30日にウェブサイトで公開 https://www.fujirebio.co.jp/information/pdf/20201030_news.pdf
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「感染症実用化研究事業 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業」「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の診断法開発に資する研究」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】306008724
【氏名又は名称】富士レビオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今泉 正恭
(72)【発明者】
【氏名】山川 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】西井 友教
(72)【発明者】
【氏名】田中 尚志
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 梓
(72)【発明者】
【氏名】藤本 陽
(72)【発明者】
【氏名】伊勢 伸之
(72)【発明者】
【氏名】宮本 和慶
(72)【発明者】
【氏名】八木 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】青柳 克己
【テーマコード(参考)】
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ10
4B063QQ79
4B063QR72
4B063QR79
4B063QR82
4B063QS33
4B063QX01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA40
4H045BA60
4H045DA76
4H045DA89
4H045EA53
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】SARS-CoV-2の免疫学的な検出に有用な技術を提供すること。
【解決手段】被験体から採取されたSARS-CoV-2含有検体を、炭素原子数12~18個の鎖長を有する炭化水素鎖を含む両イオン性界面活性剤を含む溶液と混合する、SARS-CoV-2の免疫学的検出方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体から採取された検体を、炭素原子数12~18個の鎖長を有する炭化水素鎖を含む両イオン性界面活性剤を含む溶液と混合する、SARS-CoV-2の免疫学的検出方法。
【請求項2】
前記炭化水素鎖が炭素原子数14~18個の鎖長を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記炭化水素鎖がアルキル鎖である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
両イオン性界面活性剤が、前記炭化水素鎖を有するアンモニウム基を含む両イオン性界面活性剤である、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
前記炭化水素鎖を有するアンモニウム基を含む両イオン性界面活性剤が、3-(N,N-ジメチルドデシルアンモニオ)プロパンスルホナート(C12APS)、3-(N,N-ジメチルミリスチルアンモニオ)プロパンスルホナート(C14APS)、3-(N,N-ジメチルパルミチルアンモニオ)プロパンスルホナート(C16APS)、または3-(N,N-ジメチルステアリルアンモニオ)プロパンスルホナート(C18APS)である、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記溶液が、ステロイド骨格を有する陰イオン性界面活性剤または両イオン性界面活性剤をさらに含む、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
ステロイド骨格を有する陰イオン性界面活性剤または両イオン性界面活性剤が、胆汁酸またはステロイド骨格を保持するその誘導体、またはそれらの塩である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
胆汁酸またはステロイド骨格を保持するその誘導体が、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、コール酸、グリココール酸、タウロコール酸、ヒオコール酸、5α-シプリノール、リトコール酸、タウロデオキシコール酸、タウロコール酸、CHAPS、およびCHAPSOからなる群より選ばれる1以上の化合物である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記溶液が、非イオン性界面活性剤をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
免疫学的検出において、SARS-CoV-2 ヌクレオキャプシドタンパク質(Nタンパク質)に対する1以上の抗体が使用される、請求項1~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
免疫学的検出が、サンドイッチ法により行われる、請求項1~10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
下記(1)および(2)の成分を含む、SARS-CoV-2の免疫学的検出試薬:
(1)炭素原子数12~18個の鎖長を有する炭化水素鎖を含む両イオン性界面活性剤;および
(2)SARS-CoV-2を構成する目的分子に対する1以上の抗体。
【請求項13】
前記試薬が、下記(3)ならびに/あるいは(4)の成分をさらに含む、請求項12記載の試薬:
(3)ステロイド骨格を有する陰イオン性界面活性剤または両イオン性界面活性剤;ならびに/あるいは
(4)非イオン性界面活性剤。
【請求項14】
前記試薬が、サンドイッチ法に用いられる試薬である、請求項12または13記載の試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SARS-CoV-2の免疫学的検出方法および試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
SARSコロナウイルス-2(SARS-CoV-2)は、コロナウイルス科ベータコロナウイルス属に分類される、新型コロナウイルス感染症であるCOVID-19の原因ウイルスである。SARS-CoV-2は、2000年代に中国で流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)を引き起こすSARSコロナウイルス(SARS-CoV)と近縁ではあるが、異なるウイルスである。
【0003】
コロナウイルスはプラス鎖1本鎖のRNAをウイルスゲノムとして有するエンベロープウイルスである。ウイルス粒子中のヌクレオキャプシドタンパク質(Nタンパク質)は、C末端ドメイン(C-terminal domain:CTD)によってダイマーを形成し、さらにそれらが4量体を形成する。さらにヌクレオキャプシドタンパク質(Nタンパク質)のN末端ドメイン(N-terminal Domain:NTD)にゲノムRNAが結合し、ヌクレオキャプシドを形成すると考えられている。ヌクレオキャプシドは、脂質二重膜からなる外被(envelope)によって覆われた構造を持つ。外被には、Sタンパク質、Eタンパク質、Mタンパク質が、それらの膜貫通部位によって結合している。Nタンパク質は、外被を構成するMタンパク質と結合し、被膜されたウイルス粒子を形成している。
【0004】
検体中のNタンパク質の分子性状についての報告は存在しないが、一般的には、(i)ウイルス粒子のヌクレオキャプシドに含まれているものと、(ii)ウイルスが感染した細胞が、ウイルスの増殖または感染している宿主の免疫反応によって破砕されることで放出されるものが存在すると考えられる。
【0005】
SARSコロナウイルスの免疫学的測定方法に関連して、非イオン性界面活性剤(例、Triton X100、NP40)、または陰イオン性界面活性剤(例、SDS)でSARS-CoV含有検体を処理する方法が報告されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-109426号
【特許文献2】国際公開第2005/042579号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、SARS-CoV-2の免疫学的な検出に有用な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、検体を、炭素原子数12~18個の鎖長を有する炭化水素鎖を含む両イオン性界面活性剤と混合することにより、SARS-CoV-2を免疫学的に高感度で検出できることを見出した。
【0009】
特許文献1、2は、SARS-CoVの免疫学的検出を可能にする技術であるが、SARS-CoV-2を免疫学的に高感度で検出することを開示していない。また、特許文献1、2は、免疫学的検出における上記両イオン性界面活性剤の使用を教示も示唆もしていない。
【0010】
上記知見に基づき、本発明者らは、SARS-CoV-2の免疫学的検出方法および試薬を開発することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕被験体から採取された検体を、炭素原子数12~18個の鎖長を有する炭化水素鎖を含む両イオン性界面活性剤を含む溶液と混合する、SARS-CoV-2の免疫学的検出方法。
〔2〕前記炭化水素鎖が炭素原子数14~18個の鎖長を有する、〔1〕の方法。
〔3〕前記炭化水素鎖がアルキル鎖である、〔1〕または〔2〕の方法。
〔4〕両イオン性界面活性剤が、前記炭化水素鎖を有するアンモニウム基を含む両イオン性界面活性剤である、〔1〕~〔3〕のいずれかの方法。
〔5〕前記炭化水素鎖を有するアンモニウム基を含む両イオン性界面活性剤が、3-(N,N-ジメチルドデシルアンモニオ)プロパンスルホナート(C12APS)、3-(N,N-ジメチルミリスチルアンモニオ)プロパンスルホナート(C14APS)、3-(N,N-ジメチルパルミチルアンモニオ)プロパンスルホナート(C16APS)、または3-(N,N-ジメチルステアリルアンモニオ)プロパンスルホナート(C18APS)である、〔1〕~〔4〕のいずれかの方法。
〔6〕前記溶液が、ステロイド骨格を有する陰イオン性界面活性剤または両イオン性界面活性剤をさらに含む、〔1〕~〔5〕のいずれかの方法。
〔7〕ステロイド骨格を有する陰イオン性界面活性剤または両イオン性界面活性剤が、胆汁酸またはステロイド骨格を保持するその誘導体、またはそれらの塩である、〔6〕の方法。
〔8〕胆汁酸またはステロイド骨格を保持するその誘導体が、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、コール酸、グリココール酸、タウロコール酸、ヒオコール酸、5α-シプリノール、リトコール酸、タウロデオキシコール酸、タウロコール酸、CHAPS、およびCHAPSOからなる群より選ばれる1以上の化合物である、〔7〕の方法。
〔9〕前記溶液が、非イオン性界面活性剤をさらに含む、〔1〕~〔8〕のいずれかの方法。
〔10〕免疫学的検出において、SARS-CoV-2 ヌクレオキャプシドタンパク質(Nタンパク質)に対する1以上の抗体が使用される、〔1〕~〔9〕のいずれかの方法。
〔11〕免疫学的検出が、サンドイッチ法により行われる、〔1〕~〔10〕のいずれかの方法。
〔12〕下記(1)および(2)の成分を含む、SARS-CoV-2の免疫学的検出試薬:
(1)炭素原子数12~18個の鎖長を有する炭化水素鎖を含む両イオン性界面活性剤;および
(2)SARS-CoV-2を構成する目的分子に対する1以上の抗体。
〔13〕前記試薬が、下記(3)ならびに/あるいは(4)の成分をさらに含む、〔12〕の試薬:
(3)ステロイド骨格を有する陰イオン性界面活性剤または両イオン性界面活性剤;ならびに/あるいは
(4)非イオン性界面活性剤。
〔14〕前記試薬が、サンドイッチ法に用いられる試薬である、〔12〕または〔13〕の試薬。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、SARS-CoV-2を高感度で検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、イムノクロマトグラフィーカートリッジの一例の概略を示す図である。
図2図2は、(A)SARS-CoV Nタンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)、および(B)SARS-CoV-2 Nタンパク質のアミノ酸配列(配列番号4)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、被験体から採取された検体を、炭素原子数12~18個の鎖長を有する炭化水素鎖を含む両イオン性界面活性剤を含む溶液と混合する、SARS-CoV-2の免疫学的検出方法を提供する。
【0015】
検体が得られる被験体としては、SARS-CoV-2に感染し得る任意の被験体を利用することができる。このような被験体としては、例えば、哺乳動物(例、ヒト、サル等の霊長類;マウス、ラット、ウサギ等の齧歯類;ウシ、ブタ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の有蹄類、イヌ、ネコ等の食肉類)、鳥類(例、ニワトリ)が挙げられる。好ましくは、被験体は、ヒト等の哺乳動物である。臨床応用の観点から、被験体は、好ましくはヒトである。
【0016】
検体としては、SARS-CoV-2を含み得る任意の生物学的試料を利用することができる。このような検体としては、例えば、唾液、痰、鼻水、スワブ(例、鼻腔スワブ、咽頭スワブ等の粘膜部位のスワブ)、洗浄液(例、鼻腔洗浄液、口腔内洗浄液、気管支洗浄液、肺洗浄液)、血液(例、全血、血漿、血清)、糞便、およびその他の検体(例、感染細胞を含む検体)が挙げられる。SARS-CoV-2を多量に含み得る検体を低侵襲性で迅速かつ簡便に入手する観点では、検体は、好ましくは、唾液、痰、鼻水、またはスワブである。検体は、予め処理されていてもよい。このような処理としては、例えば、遠心分離、抽出、希釈、ろ過、沈殿、加熱、凍結、冷蔵、および攪拌、ならびに界面活性剤等の成分による処理に付されてもよい。
【0017】
検体と混合される溶液としては、水溶液を用いることができる。水溶液としては、例えば、水(例、蒸留水、滅菌水、滅菌蒸留水、および純水)、ならびに緩衝液が挙げられ、緩衝液が好ましい。緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、酒石酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、グリシン緩衝液、炭酸緩衝液、2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)緩衝液、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)緩衝液、ホウ酸緩衝液、3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)緩衝液、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)緩衝液、ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis-Tris)緩衝液、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)1-ピペラジニルエタンスルホン酸(HEPES)緩衝液、イミダゾール緩衝液が挙げられる。溶液は、少量の有機溶媒(例、アルコール)を含んでいてもよい。溶液の容量は、検体の容量等の因子に応じて適宜設定することができ、例えば1μL~10mL、好ましくは5μL~5mL、より好ましくは10μL~1mLであってもよい。緩衝液のpHは中性が好ましい。より具体的には、このようなpHは、好ましくは5.0以上、より好ましくは5.5以上、さらにより好ましくは6.0以上であってもよい。pHはまた、好ましくは9.0以下、より好ましくは8.5以下、さらにより好ましくは8.0以下であってもよい。pHの測定は、当該分野における公知の方法を用いて行うことができる。好ましくは、pHは、ガラス電極を有するpH計を用いて25℃で測定された値を採用することができる。
【0018】
上記両イオン性界面活性剤は、炭素原子数12~18個の鎖長を有する炭化水素鎖を含む。好ましくは、炭素原子数は、13個以上、14個以上、15個以上、また16個以上であってもよい。炭素原子数はまた、17個以下、または16個以下であってもよい。炭化水素鎖は、直鎖または分岐鎖であってもよく、直鎖が好ましい。炭化水素鎖はまた、アルキル鎖、アルケニル鎖、またはアルキニル鎖であってもよく、アルキル鎖が好ましい。このような両イオン性界面活性剤と検体を混合することにより、検体中のタンパク質を免疫学的に高感度で検出することができる。両イオン性界面活性剤は、1種または2種以上を使用することができる。
【0019】
上記炭化水素鎖を含む両イオン性界面活性剤はまた、陽イオン性部分(例、アンモニウム、ホスホニウム、スルホニウム)、および陰イオン性部分(例、硫酸基、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基)の双方を含む界面活性剤である。したがって、本発明では、炭素原子数12~18個の鎖長を有する炭化水素鎖、ならびにこのような陽イオン性部分および陰イオン性部分を含む界面活性剤を使用することができる。
【0020】
上記炭化水素鎖を含む両イオン性界面活性剤は、遊離の形態であっても、塩の形態であってもよい。塩としては、例えば、金属塩(例、ナトリウム塩、カリウム塩等の一価の金属塩、およびカルシウム塩、マグネシウム塩等の二価の金属塩)、無機塩(例、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物等のハロゲン化物塩、およびアンモニウム塩)、有機塩(例、アルキル基で置換されたアンモニウム塩)、ならびに酸付加塩(例、硫酸、塩酸、臭化水素酸、硝酸、リン酸等の無機酸との塩、および酢酸、シュウ酸、乳酸、クエン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸等の塩)が挙げられる。
【0021】
特定の実施形態では、上記炭化水素鎖を含む両イオン性界面活性剤は、上記炭化水素鎖を有するアンモニウム基を含んでいてもよい。このような両イオン性界面活性剤としては、例えば、上記炭化水素鎖を有する第四級アンモニウム-スルホン酸型界面活性剤、および上記炭化水素鎖を有する第四級アンモニウム-カルボン酸型界面活性剤が挙げられる。
【0022】
上記炭化水素鎖を有する第四級アンモニウム-スルホン酸型界面活性剤としては、例えば、3-(N,N-ジメチルドデシルアンモニオ)プロパンスルホナート(C12APS)、3-(N,N-ジメチルミリスチルアンモニオ)プロパンスルホナート(C14APS)、3-(N,N-ジメチルパルミチルアンモニオ)プロパンスルホナート(C16APS)、3-(N,N-ジメチルステアリルアンモニオ)プロパンスルホナート(C18APS)、ならびにそれらの塩が挙げられる。
【0023】
上記炭化水素鎖を有する第四級アンモニウム-カルボン酸型界面活性剤としては、例えば、ラウリル(C12)ジメチルアミノ酢酸ベタイン、ミリスチル(C14)ジメチルアミノ酢酸ベタイン、パルミチル(C16)ジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリル(C18)ジメチルアミノ酢酸ベタインなどのC12-C18アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ならびにそれらの塩が挙げられる。
【0024】
上記炭化水素鎖を含む両イオン性界面活性剤としては、上記炭化水素鎖を有する第四級アンモニウム-スルホン酸型界面活性剤が好ましい。
【0025】
上記炭化水素鎖を含む両イオン性界面活性剤の濃度(検体を含む混合液中の終濃度)は、検体との混合に十分な濃度である限り特に限定されず、検体、および免疫学的に検出される目的分子(例、Nタンパク質等の目的タンパク質)の種類等の因子に応じて変動するものの、例えば0.001~10重量%、好ましくは0.005~5重量%、より好ましくは0.01~2重量%、さらにより好ましくは0.02~1.8重量%、特に好ましく0.04~0.5重量%の濃度であってもよい。
【0026】
検体と混合される溶液は、ステロイド骨格を有する陰イオン性界面活性剤または両イオン性界面活性剤をさらに含んでいてもよい。ステロイド骨格を有する陰イオン性界面活性剤または両イオン性界面活性剤を、上記炭化水素鎖を含む両イオン性界面活性剤と組み合わせて使用することにより、SARS-CoV-2の外被膜の処理に有効であり、目的タンパク質(例、Nタンパク質)の抽出効率を向上させることができる。ステロイド骨格を有する陰イオン性界面活性剤または両イオン性界面活性剤は、1種または2種以上を使用することができる。
【0027】
ステロイド骨格を有する陰イオン性界面活性剤は、典型的には、胆汁酸もしくはステロイド骨格を保持するその誘導体、またはそれらの塩である。より具体的には、このような陰イオン性界面活性剤としては、例えば、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、コール酸、グリココール酸、タウロコール酸、ヒオコール酸、5α-シプリノール、リトコール酸、タウロデオキシコール酸、およびタウロコール酸、ならびにそれらの塩が挙げられる。塩は、上述したものと同様である。
【0028】
ステロイド骨格を有する両イオン性界面活性剤は、典型的には、陽イオン性部分を有するように誘導体化された胆汁酸の誘導体、またはステロイド骨格を保持するその塩である。より具体的には、このような両イオン性界面活性剤としては、例えば、CHAPS、CHAPSO、ならびにそれらの塩が挙げられる。塩は、上述したものと同様である。
【0029】
ステロイド骨格を有する陰イオン性界面活性剤または両イオン性界面活性剤としては、ステロイド骨格を有する陰イオン性界面活性剤が好ましい。
【0030】
ステロイド骨格を有する陰イオン性界面活性剤または両イオン性界面活性剤の濃度(検体を含む混合液中の終濃度)は、検体との混合に十分な濃度である限り特に限定されず、検体、および免疫学的に検出される目的分子の種類等の因子に応じて変動するものの、例えば0.001~10重量%、好ましくは0.01~5重量%、より好ましくは0.05~4重量%、さらにより好ましくは0.12~2.0重量%の濃度であってもよい。
【0031】
検体と混合される溶液は、非イオン性界面活性剤をさらに含んでいてもよい。ステロイド骨格を有する界面活性剤は、その種類によっては高濃度で使用したときにミセルを形成するおそれがある。非イオン性界面活性剤は、このようなミセル形成を抑制することができ、また、免疫学的検出における非特異反応を抑制することができる。非イオン性界面活性剤は、1種または2種以上を使用することができる。
【0032】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル〔例えば、TWEEN(登録商標)シリーズ(例、TWEEN20、TWEEN40、TWEEN80)〕、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル〔例えば、TRITON(登録商標)シリーズ(例、Triton X-100、Triton X-114、Triton X-305、Triton X-405、Triton X-705)〕、N-D-グルコ-N-メチルアルカンアミド〔例えば、MEGAシリーズ(例、MEGA 8、MEGA 10)〕、ポリオキシエチレンアルコール構造含有非イオン性界面活性剤(例、アルコールエトキシレート、ポリオキシエチレン-ポリオキシアルキレンブロックブロックポリマー)が挙げられる。
【0033】
非イオン性界面活性剤の濃度(検体を含む混合液中の終濃度)は、検体との混合に十分な濃度である限り特に限定されず、検体、および免疫学的に検出される目的分子の種類等の因子に応じて変動するものの、例えば0.001~10重量%、好ましくは0.01~5重量%、より好ましくは0.02~1重量%、好ましくは0.04~0.5重量%の濃度であってもよい。
【0034】
免疫学的検出では、SARS-CoV-2を構成する目的分子に対する1以上の抗体を用いて、当該目的分子が検出される。目的分子に対する1以上の抗体は、上記溶液に含まれることにより上記のとおり混合されてもよい。あるいは、目的分子に対する1以上の抗体は、上記溶液(第1溶液)とは別の溶液(第2溶液)に含まれていてもよい。このような場合、目的分子に対する1以上の抗体を含む別の溶液は、上記溶液(第1溶液)と同時に検体と混合されてもよく、または上記溶液(第1溶液)と検体との混合後に生成した混合液と混合されてもよい。このような抗体を利用することにより、目的分子を検出することができる。
【0035】
目的分子は、SARS-CoV-2により保持され得る物質であって、抗体を用いて検出できるものである限り特に限定されないが、タンパク質が好ましい。このようなタンパク質としては、SARS-CoV-2により保持され得るタンパク質である限り特に限定されず、例えば、ヌクレオキャプシドタンパク質(Nタンパク質)、Sタンパク質、Eタンパク質、Mタンパク質が挙げられる。好ましくは、タンパク質は、Nタンパク質である。したがって、SARS-CoV-2を構成する目的分子に対する1以上の抗体としては、Nタンパク質に対する1以上の抗体が好ましい。
【0036】
本発明で検出されるSARS-CoV-2 Nタンパク質は、SARS-CoV-2の任意の株におけるNタンパク質(すなわち、天然型または変異型Nタンパク質)である。このような株としては、例えば、L型およびS型の主要株、ならびにそれらの亜株が挙げられる。SARS-CoV-2としては、多数の株が報告されている。例えば、このような多数の株については、インフルエンザウイルス遺伝子データベースGISAID(Global Initiative on Sharing All Influenza Data)を参照することができる。SARS-CoV-2については、そのゲノム配列情報が開示されている(例えば、SARS-CoV-2 Wuhan-Hu-1株については、GenBankアクセッション番号:MN908947を参照)。したがって、SARS-CoV-2 Nタンパク質として、このようなゲノム配列によりコードされるNタンパク質を参照することができる。また、SARS-CoV-2の天然型Nタンパク質については、配列番号4のアミノ酸配列を参照してもよい。
【0037】
抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれであってもよい。抗体は、免疫グロブリン(例、IgG、IgM、IgA、IgD、IgE、IgY)のいずれのアイソタイプであってもよい。抗体はまた、全長抗体であってもよい。全長抗体とは、可変領域および定常領域を各々含む重鎖および軽鎖を含む抗体(例、2つのFab部分およびFc部分を含む抗体)をいう。抗体はまた、このような全長抗体に由来する抗体断片であってもよい。抗体断片は、全長抗体の一部であり、例えば、定常領域欠失抗体(例、F(ab’)、Fab’、Fab、Fv)が挙げられる。抗体はまた、単鎖抗体等の改変抗体であってもよい。
【0038】
抗体は、従前公知の方法を使用して作製することができる。例えば、抗体は、所望のエピトープを抗原として使用することにより効率良く作製することができる。
【0039】
一実施形態では、上記抗体は、固相抗体であってもよい。固相抗体とは、固相に固定された抗体をいう。固相としては、例えば、液相中に懸濁または分散可能な固相(例、粒子、ビーズ等の固相担体)、ならびに液相を収容または搭載可能な固相(例、プレート、メンブレン、試験管等の支持体、およびウェルプレート、マイクロ流路、ガラスキャピラリー、ナノピラー、モノリスカラム等の容器)が挙げられる。固相の材料としては、例えば、ガラス、シリカ、高分子化合物(例、ポリスチレン、プラスチック)、金属、およびカーボンが挙げられる。固相の材料としてはまた、非磁性材料、または磁性材料を使用することができる。抗体の固相への固定は、任意の方法により行うことができる。このような方法としては、例えば、共有結合法、親和性物質(例、ビオチン、ストレプトアビジン)を利用する方法、イオン結合法、および物理的吸着法が挙げられる。共有結合法では、例えば、過ヨウ素酸、グルタルアルデヒド、マレイミド、またはN-ヒドロキシスクシンイミドを使用することができる。
【0040】
別の実施形態では、上記抗体は、標識抗体であってもよい。標識抗体とは、標識物質で標識された抗体をいう。標識物質としては、例えば、酵素(例、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ)、親和性物質(例、ストレプトアビジンおよびビオチンのうちの一方、互いに相補的なセンス鎖およびアンチセンス鎖の核酸のうちの一方)、蛍光物質(例、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質)、発光物質(例、ルシフェリン、エクオリン、アクリジニウムエステル、トリス(2,2’-ビピリジル)ルテニウム、ルミノール)、放射性物質(例、H、14C、32P、35S、125I)、金属コロイド(例、金コロイド、銀コロイド、白金コロイド、酸化鉄コロイド、水酸化アルミニウムコロイド)、および呈色物質(例、色素、染料及び顔料などで着色されたラテックス粒子)が挙げられる。標識物質による抗体の標識は、任意の方法により行うことができる。このような方法としては、例えば、抗体の固相への固定で述べたような方法が挙げられる。
【0041】
本発明の方法は、上記抗体を使用する免疫学的方法により、目的分子を検出することができる。このような免疫学的方法としては、例えば、直接競合法、間接競合法、サンドイッチ法、ウエスタンブロット法、および免疫組織化学的染色法が挙げられる。このようなイムノアッセイは、好ましくはサンドイッチ法であってもよい。また、このようなイムノアッセイとしては、化学発光イムノアッセイ(CLIA)(例、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA))、免疫比濁法(TIA)、酵素免疫測定法(EIA)(例、直接競合ELISA、間接競合ELISA、およびサンドイッチELISA)、放射イムノアッセイ(RIA)、ラテックス凝集反応法、蛍光イムノアッセイ(FIA)、イムノクロマトグラフィー法が挙げられ、抗原と抗体の結合を特異的検出の原理とする測定系であれば適用可能である。本発明の方法は、定性的方法または定量的方法であってもよい。
【0042】
標識の検出は、標識の種類に応じて適宜選択した手法に基づいて行うことができる。例えば、標識が酵素である場合、シグナル発生基質(例、蛍光基質、発光基質、発色基質)を用いて酵素活性を検出することにより、標識を検出することができる。標識が親和性物質である場合、親和性物質と結合する能力を有する酵素またはシグナル発生物質を用いて、親和性物質に結合した酵素またはシグナル発生物質を検出することにより、標識を検出することができる。そのような親和性物質と結合する能力を有する酵素またはシグナル発生物質は、親和性物質と結合する能力を有する物質を結合した酵素またはシグナル発生物質であってもよい。標識が蛍光物質、発光物質、または放射性物質である場合、これらの標識から発生するシグナルを検出することにより、標識を検出することができる。標識物質として呈色物質が用いられる場合、目視により標識を検出することができる。
【0043】
特定の実施形態では、本発明の方法は、サンドイッチ法により行われてもよい。サンドイッチ法は、感度や特異性に優れる。
【0044】
サンドイッチ法では、目的分子の検出は、例えば、検体を固相抗体で処理して検体中の目的分子を固相抗体に結合させる工程(例、検体と固相抗体を接触させる工程)、および固相抗体に結合した目的分子を標識抗体で検出する工程により行われてよい。目的分子の検出は、固相抗体に結合していない目的分子を除去する工程(例、(B/F分離または洗浄工程)をさらに含んでもよい。また、サンドイッチ法では、目的分子の検出は、例えば、検体を標識抗体と処理して検体中の目的分子を標識抗体に結合させる工程(例、検体と標識抗体を接触させる工程)、目的分子をさらに固相抗体と処理して目的分子を固相抗体に結合させる工程、および固相抗体と標識抗体に結合した目的分子を標識抗体で検出する工程により行われてもよい。また、固相抗体としては、あらかじめ固相に固定された抗体でも、Nタンパク質の検出の際に固相に固定される抗体を用いてもよい。例えば、検体を固相に固定されうる抗体で処理して検体中のNタンパク質を抗体に結合させる工程(例、検体と固相抗体を接触させる工程)、固相に固定されうる抗体に結合したNタンパク質を標識抗体に結合させる工程、固相に固定されうる抗体を固相に固定する工程、および固相に固定された抗体(固相抗体)と標識抗体に結合したNタンパク質を標識抗体で検出する工程により行われてもよい。固相に固定される抗体と固相の結合方法としては、上述した親和性物質を用いることができる。
【0045】
別の特定の実施形態では、イムノクロマトグラフィー法により行われてもよい。イムノクロマトグラフィー法は、迅速かつ簡便な定性的方法として好ましい。イムノクロマトグラフィー法及びそれに用いられる器具は周知である。このような器具としては、例えば、固相抗体を含むゾーン、および標識抗体を含むゾーンを備えるイムノクロマトグラフィーカートリッジ(展開液の貯蔵部をさらに備えていてもよい)を用いることができる。以下、イムノクロマトグラフィーの好適な一例として、ラテラルフロー方式のイムノクロマトグラフィー法および器具の概要を、図1を参照して説明する。
【0046】
図1において、イムノクロマトグラフィーカートリッジ1は、ニトロセルロース膜のような多孔性素材からなるマトリクス2上に、捕捉用抗体をライン状に固相化した検出ゾーン3(固相抗体を含むゾーン)と、その上流側(後述する展開液が流れる方向における上流)に、検出用抗体を担持した標識試薬ゾーン4(標識抗体を含むゾーン)を備える。マトリクス2は通常、帯状に形成される。標識試薬ゾーン4は、標記抗体を点着した多孔性のパッドにより構成される。マトリクスの上流端には、展開液を貯蔵した展開液槽5が設けられている。さらに、検出ゾーンの下流に、展開液が流れたことを確認するための展開確認部6と、さらにその下流に、展開液を吸収するための多孔性の吸収パッドが設けられた展開液吸収ゾーン7が設けられている。展開確認部には、抗標識抗体などの、展開液とともに流れる、検出物質(目的分子)以外の物質と親和性を有するプローブ(例えば抗体)がライン上に固相化されている。さらに、標識が酵素である場合は、標識試薬ゾーンよりも上流に、当該酵素の基質を担持した基質ゾーン8が設けられる。展開液槽5の近傍に、例えば、突起を有する押し込み部など、それを押し込むことで展開液槽を破ることができる部材(記載なし)を予め設けることで、容易に展開液槽を破って展開液をマトリックスに供給することができる。また、破れた展開液槽中の展開液がマトリックス上端に供給されやすいように、展開液槽とマトリックス上端を覆うように展開液パッド9が設けられてもよい。
【0047】
使用時には、検体を標識試薬ゾーン4に添加し、展開液槽5を破って展開液をマトリックスの上端部に接触させて供給する。マトリクスに供給された展開液は、マトリックスの毛管現象により下流に向かって流れる。展開液が基質ゾーンを通過する際に基質が展開液中に溶出され、基質を含む展開液が流れる。続いて、展開液が標識試薬ゾーンを通過する際に、標識抗体と検体とが展開液中に溶出され、基質、標識抗体及び検体を含む展開液が流れる。検体中に目的分子が含まれる場合には、目的分子と標識抗体が、抗原抗体反応により結合する。これらが検出ゾーンに到達すると、検出ゾーンにおいて、固相抗体と目的分子とが抗原抗体反応により結合する。その結果、目的分子を介して標識抗体が検出ゾーンに固定される。こうして検出ゾーンに固定された標識を検出することにより、目的分子が検出されることになる。検体中に目的分子が含まれない場合には、固相化抗体には何も結合されないので、標識抗体は検出ゾーンに固定されない。展開液はさらに下流にながれ、展開液確認部に到達すると、例えば、展開液確認部に抗標識抗体が固定化されている場合は、目的分子に結合しなかった標識抗体と抗標識抗体とが抗原抗体反応により結合し、その結果、標識抗体が展開液確認部に固定される。展開液確認部に標識が検出された場合には、展開液が展開確認部まで正しく展開されたことを確認できる。展開液は、さらにその下流の吸収パッドに吸収される。
【0048】
特定の実施形態では、下記(1)および(2)の抗体を使用して、SARS-CoV-2 Nタンパク質が検出されてもよい:
(1)SARS-CoV-2 Nタンパク質における260~305番目のアミノ酸領域中の第1エピトープに対する第1抗体;および
(2)SARS-CoV-2 Nタンパク質における365~419番目のアミノ酸領域中の第2エピトープに対する第2抗体。
【0049】
第1エピトープは、SARS-CoV-2 Nタンパク質における260~305番目のアミノ酸領域中に存在する。
【0050】
第2エピトープは、SARS-CoV-2 Nタンパク質における365~419番目のアミノ酸領域中に存在する。
【0051】
一実施形態では、本発明の方法は、SARS-CoV-2 Nタンパク質における120~147番目のアミノ酸領域中の第3エピトープに対する第3抗体をさらに使用することを含んでいてもよい。このような第3抗体を、上記(1)および(2)の抗体とさらに組み合わせて使用することにより、SARS-CoV-2 Nタンパク質を高感度で検出することができる。第3エピトープは、SARS-CoV-2 Nタンパク質における120~147番目のアミノ酸領域中に存在する。
【0052】
別の実施形態では、本発明の方法は、SARS-CoV-2 Nタンパク質における44~78番目のアミノ酸領域中の第4エピトープに対する第4抗体をさらに使用することを含んでいてもよい。このような第4抗体を、上記(1)および(2)の抗体とさらに組み合わせて使用することにより、SARS-CoV-2 Nタンパク質を高感度で検出することができる。第4エピトープは、SARS-CoV-2 Nタンパク質における44~78番目のアミノ酸領域中に存在する。
【0053】
さらに別の実施形態では、本発明の方法は、SARS-CoV-2 Nタンパク質における243~259番目のアミノ酸領域中の第5エピトープに対する第5抗体をさらに使用することを含んでいてもよい。このような第5抗体を、上記(1)および(2)の抗体とさらに組み合わせて使用することにより、SARS-CoV-2 Nタンパク質を高感度で検出することができる。第5エピトープは、SARS-CoV-2 Nタンパク質における243~259番目のアミノ酸領域中に存在する。
【0054】
さらに別の実施形態では、本発明の方法は、SARS-CoV-2 Nタンパク質における306~339番目のアミノ酸領域中の第6エピトープに対する第6抗体をさらに使用することを含んでいてもよい。このような第6抗体を、上記(1)および(2)の抗体とさらに組み合わせて使用することにより、SARS-CoV-2 Nタンパク質を高感度で検出することができる。第6エピトープは、SARS-CoV-2 Nタンパク質における306~339番目のアミノ酸領域中に存在する。
【0055】
本発明はまた、下記の抗体の組合せが使用されてもよい:
(1)第3抗体および第1抗体の組合せ;
(2)第3抗体および第2抗体の組合せ;
(3)第4抗体および第1抗体の組合せ;
(4)第4抗体および第2抗体の組合せ;
(5)第6抗体および第1抗体の組合せ;
(6)第5抗体および第1抗体の組合せ;または
(7)第5抗体および第3抗体の組合せ。
【0056】
特定の実施形態では、第1抗体または第2抗体の双方は、固相抗体または標識抗体として使用されてもよい。第1抗体または第2抗体の双方を固相抗体または標識抗体として一緒に使用することにより、SARS-CoV-2 Nタンパク質をより高感度に検出することができ、また、固相抗体および標識抗体間でしばしば見受けられる結合の競合を回避し易くなるというメリットがある。より好ましくは、第1抗体または第2抗体の双方が固相抗体として使用されてもよい。
【0057】
別の特定の実施形態では、第3抗体は、標識抗体または固相抗体として使用されてもよい。より具体的には、第1抗体または第2抗体の双方が固相抗体として使用される場合、第3抗体は、標識抗体として使用されてもよい。また、第1抗体または第2抗体の双方が標識抗体として使用される場合、第3抗体は、固相抗体として使用されてもよい。第3抗体は、第1抗体または第2抗体の形態と異なる形態で使用される場合、SARS-CoV-2 Nタンパク質をより高感度に検出することができる。
【0058】
別の特定の実施形態では、第4抗体および第5抗体は、異なる形態で使用されてもよい。より具体的には、第4抗体が固相抗体として使用される場合、第5抗体は、標識抗体として使用されてもよい。また、第4抗体が標識抗体として使用される場合、第5抗体は、固相抗体として使用されてもよい。第4抗体および第5抗体は、異なる形態で使用される場合、SARS-CoV-2 Nタンパク質をより高感度に検出することができる。
【0059】
別の特定の実施形態では、第6抗体は、標識抗体または固相抗体として使用されてもよい。
【0060】
本発明はまた、下記(1)および(2)の抗体を含む、SARS-CoV-2の免疫学的検出試薬を提供する:
(1)炭素原子数12~18個の鎖長を有する炭化水素鎖を含む両イオン性界面活性剤;および
(2)SARS-CoV-2を構成する目的分子に対する1以上の抗体。
【0061】
本発明の試薬は、下記(3)ならびに/あるいは(4)の成分をさらに含んでいてもよい:
(3)ステロイド骨格を有する陰イオン性界面活性剤または両イオン性界面活性剤;ならびに/あるいは
(4)非イオン性界面活性剤。
【0062】
本発明の試薬における上記炭化水素鎖を含む両イオン性界面活性剤および上記1以上の抗体等の用語の詳細(例えば、定義、例示、および好ましい例示)は、本発明の方法において述べたものと同様である。
【0063】
本発明の試薬は、上記炭化水素鎖を含む両イオン性界面活性剤および上記1以上の抗体を、混合物の形態(例、同一容器に収容された混合液の形態)、または互いに隔離された形態(例、異なる容器に収容された形態)で含むことができる。本発明の試薬はまた、上記炭化水素鎖を含む両イオン性界面活性剤および上記1以上の抗体に加えて、上記(3)ならびに/あるいは(4)の成分を、混合物の形態、または互いに隔離された形態で含むことができる。本発明の試薬はキットの形態で提供されてもよい。本発明の試薬はまた、デバイスの形態で提供されてもよい。例えば、上記1以上の抗体の全部がデバイス中に収容されてもよい。あるいは、上記1以上の抗体の一部がデバイス中に収容され、残りのものがデバイス中に収容されていなくてもよい(例、異なる容器に収容された形態)。この場合、デバイス中に収容されない抗体は、検出の際に、デバイス中に注入されてもよい。
【0064】
本発明の試薬は、上記1以上の抗体として、固相抗体および/または標識抗体を含むことができる。あるいは、このような試薬は、固相抗体および/または標識抗体を含まない場合、固相および/または標識物質を含んでいてもよい。固相および標識物質は、上述したものと同様である。標識物質が酵素である場合、本発明の試薬は、酵素の基質(例、検出シグナルを発生する基質、または酵素により検出シグナルを発生する生成物に変換される基質、あるいは、検出シグナルを発生する基質、または酵素により検出シグナルを発生する生成物に変換される基質を利用する他の酵素反応と共役し得る反応における基質)を含んでいてもよい。
【0065】
本発明の試薬は、上記抗体の組合せをさらに含んでいてもよい。
【0066】
本発明の試薬は、免疫学的測定方法に利用できるものである限り特に限定されず、免疫学的測定方法の種類に応じた構成を有することができる。好ましくは、本発明の試薬は、サンドイッチ法に用いられる試薬であってもよい。したがって、本発明の試薬は、サンドイッチ法で用いられる固相(例、磁性粒子等の粒子、ウェルプレート、メンブレン)、またはそのような固相に固定された固相抗体を含んでいてもよい。本発明の試薬はまた、イムノクロマト法で用いられる固相を含む器具(すなわち、上述したようなイムノクロマトグラフィーカートリッジ)、またはそのような固相に固定された固相抗体を含んでいてもよい。本発明の試薬は、目的分子の標品(例、Nタンパク質標品等のタンパク質標品)を含んでいてもよい。
【実施例0067】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、下記実施例で記載される量に関する限り、%は、重量%に対応する。
【0068】
実施例1:抗体の製造
国際公開第2005/042579号に記載の方法に従って抗体を製造した。具体的には、以下のとおりである。
【0069】
(1)リコンビナントNタンパク質の製造と精製
SARSコロナウイルス(SARS-CoV)のヌクレオキャプシドタンパク質(Nタンパク質)遺伝子を発現用プラスミドに挿入し、プラスミドpWS-Nを作製した。これを用い大腸菌を形質転換させ、アンピシリン耐性の形質転換体大腸菌を得た。Nタンパク質の塩基配列およびアミノ酸配列をそれぞれ配列番号1及び2に示す。
【0070】
得られた形質転換体を、50μg/mlのアンピシリンを含むLB培地2ml中にて37℃で培養した。この形質転換体を予備培養にて増殖させ、600nmでのODが約0.7の密度となるようにしたのち、0.4mM IPTGを添加し、発現誘導を行った。18時間培養後、遠心分離を行い、大腸菌を回収した。回収した大腸菌に0.1mM PMSFを含む20mM Tris―HCl緩衝液(pH8.0)を加え、氷冷下で超音波破砕処理を行った。遠心後、可溶性画分に硫酸アンモニウムを加え、20~40%の硫酸アンモニウム画分を回収した。この硫酸アンモニウム画分を、0.1M NaCl、8M尿素、20mMリン酸緩衝液(pH6.9)で平衡化したSPセファロースファーストフロー(アマシャム社製)にアプライし、0.2M NaCl、8M尿素、20mMリン酸緩衝液(pH6.9)で溶出し精製した。溶出画分を0.2M NaCl、20mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)に対して透析し、精製されたリコンビナントNタンパク質(CoV)溶液を得た。SDS-PAGE及びウェスタンブロットによって、リコンビナントNタンパク質の精製度を確認したところ、単一のバンドを示した。
【0071】
(2)モノクローナル抗体の作製
上記で作製したリコンビナントNタンパク質(CoV)をマウスに免疫し、同マウスの脾臓リンパ球とミエローマ細胞を融合することにより、抗Nタンパク質モノクローナル抗体を作製した。すなわち、BALB/Cマウスに、フロイント完全アジュバントでエマルジョン化したリコンビナントNタンパク質を50~100μg/マウスで初回免疫を行い、2~3週間後、フロイント不完全アジュバントでエマルジョン化した同抗原50~100μg/マウスで追加免疫を行った。抗体価のチェックは、リコンビナントNタンパク質をコートした96ウェルELISAプレートを用いた固相ELISAで行った。抗体価の上昇が認められたマウスに遊離のリコンビナントNタンパク質25~100μgを静脈内投与し、その3~4日後、マウスから脾臓を取り出し、脾細胞を調製した。前もってRPMI-1640培地で培養していたマウスミエローマ細胞(P3U1)と脾細胞を1:2~1:5の比率で混合し、PEGを用いて細胞融合を行った。融合した細胞はHAT培地に浮遊した後、96ウェル培養プレートに分注し、37℃のCOインキュベーターで培養した。
【0072】
抗体のスクリーニングは、上記に示した固相ELISAで行った。すなわち、リコンビナントNタンパク質を96ウェルELISAプレートに1μg/mLの濃度で50μL/ウェルずつ分注し、4℃にて一晩放置することにより吸着させた。ウェルを1%スキムミルクでブロッキングした後、洗浄緩衝液(0.05%Tweenを含むPBS)で3回洗浄し、細胞融合を行ったプレートの培養上清50μLを加え、37℃にて1時間反応させた。同様に洗浄緩衝液で3回洗浄後、POD標識抗マウスイムノグロブリン抗体(DACO社製)を加え、さらに37℃にて1時間反応させた。洗浄緩衝液で4回洗浄後、基質ABTSを加え、発色の見られるウェルを選択した。次に、選択したウェルの細胞を24ウェル培養プレートに移し37℃のCOインキュベーター中で培養した後、限外希釈法にて単一クローンとし、各モノクローナル抗体を得た。
【0073】
また、リコンビナントNタンパク質(CoV)のかわりに、免疫原として、合成ペプチド(N5ペプチド:GQTVTKKSAAEASKKPRC:配列番号3)のKLHコンジュゲートをマウスに免疫し、同様に抗Nタンパク質モノクローナル抗体を得た。
【0074】
(3)モノクローナル抗体の反応性の確認
確立した各モノクローナル抗体の天然型抗原(SARS―CoV由来のNタンパク質)に対する反応性を、濃縮ウイルス懸濁液を検体としたウエスタンブロット(WB)で確認した。VeroE6細胞にSARSウイルスHanoi株を感染させ、48時間、COインキュベーターで培養した後、2,000rpm、15分間遠心し、ウイルス培養上清(TCID50は7.95×10/mL)を調製した。この培養上清に対して56℃、90分で不活性化処理を行なった後、その31.5mLを日立超遠心機(40Tローター)を用いて、30,000rpmで3時間遠心した。得られた沈殿にTris-NaCl-EDTA緩衝液0.3mLを加え、ピペッティングを行い、濃縮ウイルス懸濁液を調製した。本懸濁液に等量の電気泳動用検体処理液を添加し、次いで過熱処理を行うことにより分析用検体とした。12.5%ゲルを用いてSDS-PAGEを行った後、検体をニトロセルロース膜に転写し、WB用転写膜(抗原転写WB膜)を作製した。転写膜をスキムミルクでブロッキングした後、各モノクローナル抗体を抗原転写WB膜と室温にて1時間振盪し、反応に付した後、洗浄緩衝液で3回洗浄(5分の振盪洗浄)した。次にPOD標識抗マウスイムノグロブリン抗体を加え、さらに室温で1時間反応させた。洗浄緩衝液で4回洗浄(5分の振盪洗浄)後、基質として4-クロロナフトール溶液を加え、バンドの確認を行い、分子量50kD弱のNタンパク質に相当する位置にバンドが確認されたモノクローナル抗体を選択した。
【0075】
選択したモノクローナル抗体を、さらに、上記(1)と同様に作製したSARS-CoV-2のリコンビナントNタンパク質、及びコモンコロナウイルスNタンパク質を用いたWBに供し、SARS-CoV-2のリコンビナントNタンパク質に結合し、コモンコロナウイルスのNタンパク質には結合しないものを、抗Nタンパク質モノクローナル抗体とした。以降の実施例では、特に言及しない限り、Nタンパク質として、SARS-CoV-2のNタンパク質を用いた。
【0076】
実施例2:抗体の反応領域の特定(その1)
上記実施例1で得られた複数の抗Nタンパク質モノクローナル抗体について、Nタンパク質の部分配列を含むリコンビナント抗原を用いたWB法により、そのエピトープを同定した。
【0077】
まず、上記実施例1と同様に作製したSARS-CoV-2のNタンパク質全長(419個のアミノ酸)、NTD(44~180番目のアミノ酸)、CTD(247~364番目のアミノ酸)およびNタンパク質のC末端ペプチド(330~419番目のアミノ酸)のリコンビナント抗原を含む溶液に等量の電気泳動用検体処理液を添加し、次いで過熱処理を行うことにより分析用検体とし、上記実施例1(3)と同様にSDS-PAGEおよびWBを行い、各Nタンパク質モノクローナル抗体の反応性を確認した。
【0078】
その結果、6個の抗体(抗Nタンパク質抗体N1~N6)が全長抗原及びNTD抗原と反応し、6個の抗体(抗Nタンパク質抗体C1~C6)が全長抗原及びCTD抗原と反応することが確認され、NTDとCTDそれぞれに反応する複数の抗体が取得できた。また、全長抗原とC末端ペプチドには反応するが、NTDやCTD抗原には反応しない、365~419番目のアミノ酸配列に含まれる領域を認識する抗体(抗Nタンパク質抗体C12、C13)も得られた。さらに免疫原として、合成ペプチド(N5ペプチド:GQTVTKKSAAEASKKPRC:配列番号3)のKLHコンジュゲートをマウスに免疫して得られた、Nタンパク質の243~259番目のアミノ酸領域を認識する抗Nタンパク質モノクローナル抗体も複数(P1、P2)得られた。
【0079】
実施例3:固相抗体(抗体固相化磁性粒子)の調製
カルボキシル-アミン架橋剤(カルボジイミド、Thermo-Fisher Scientific社)を用い、製品マニュアルに従って、上記で取得した抗Nタンパク質モノクローナル抗体を磁性粒子(富士レビオ社製)に化学結合させ、固相抗体(抗体固相化磁性粒子)を得た。
【0080】
実施例4:標識抗体(アルカリホスファターゼ標識抗Nタンパク質モノクローナル抗体)の作製
上記で取得した抗Nタンパク質モノクローナル抗体とペプシンとを0.1Mクエン酸緩衝液(pH3.5)中で混合し、37℃で1時間静置してペプシン消化を行った。反応を停止させた後にゲルろ過精製を行い、Fc領域を除去した抗体を得た。次いで、2-メルカプトエチルアミン塩酸塩(2-MEA)を添加して、チオール化を行った。さらに、これを脱塩処理し、Fab’断片を得た。
【0081】
N-(4-マレイミドブチリロキシ)-スクシンイミド(GMBS)処理をしたアルカリホスファターゼと、各抗Nタンパク質モノクローナル抗体から作製したFab’断片を、モル比1~3:1になるように混合して、カップリングを行った。カップリング液に2-メルカプトエチルアミン塩酸塩及びヨードアセトアミドを加え、反応を停止させた。さらにゲルろ過によりFab’とALPとが1~3:1となる分子量のピークをプールし、標識抗体(ALP標識抗Nタンパク質モノクローナル抗体)を得た。
【0082】
実施例5:粒子を用いたサンドイッチイムノアッセイ
リコンビナントNタンパク質を含む溶液、又は検体100μLを、上記実施例3で調製した抗体固相化磁性粒子を0.03%含む粒子懸濁希釈液(50mM Tris、1% BSA、150mM NaCl、1mM EDTA、0.1% NaN)50μLに加えて37℃で8分間反応させた。
【0083】
反応後に、磁石にてB/F分離し、ルミパルス(登録商標)洗浄液(富士レビオ社製)で洗浄した後、上記実施例4で調製したALP標識抗体を1μg/mL含む標識体液(50mM MES、150mM NaCl、1% BSA、3mM MgCl2、0.3mM ZnCl2)を50μL加え、37℃で8分間反応させた。磁石にてB/F分離し、ルミパルス洗浄液で洗浄後、3-(2’-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3’’-ホスホリルオキシ)フェニル-1,2-ジオキセタン・2ナトリウム塩(AMPPD)を含むルミパルス(登録商標)基質液(富士レビオ社製)を200μL添加して37℃で4分間酵素反応を行い、波長463nmにおける発光量を測定した。
【0084】
実施例6:イムノクロマトグラフィー法
図1に示すように、幅3.7mm、長さ50mmのニトロセルロース膜からなるマトリクスの展開液吸収ゾーン側の末端から15mmの位置に抗Nタンパク質モノクローナル抗体を含む水溶液0.5μLをニトロセルロース膜に点着し乾燥させ、検出ゾーンを作成した。更に展開液吸収ゾーン側の末端から12mmの位置に抗アルカリホスファターゼ(ALP)抗体溶液(0.15M NaClを含む炭酸ナトリウム緩衝液)を点着し乾燥させ、展開確認部を作成した。また、基質として5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-リン酸二ナトリウム塩(BCIP)溶液0.9μLをライン状に点着して基質ゾーンを作成した。次いで、マトリクスにALP標識抗Nタンパク質モノクローナル抗体(標識抗体)を含む溶液3μLを点着し乾燥させ、酵素標識試薬パッドからなる標識試薬ゾーンを作成した。
【0085】
前記マトリクス、展開液パッド、酵素標識試薬パッドおよび吸収パッド(高保水性ろ紙)を図1のように重ねて粘着テープで固定した後、展開液槽11を有するプラスチックケースに固定して、SARS-Nタンパク質検出用イムノクロマトグラフィーカートリッジを製造した。
【0086】
リコンビナントNタンパク質を含む溶液、又は検体20μLと処理液100μLを混合し、室温で約5分間静置した。得られた混合液中のNタンパク質を、製造したイムノクロマトグラフィーカートリッジを用いて検出した。具体的には、混合液20μLを、イムノクロマトグラフィーカートリッジの標識抗体ゾーンに滴下した後、展開液槽を破り、展開液を展開液パッド及びマトリクス上端に供給し測定を開始した。測定開始30分後、展開確認部10の発色によって展開液の展開を確認した後、検出ゾーンの発色を目視で測定した。
【0087】
実施例7:抗体の反応領域の特定(その2)
上記実施例5のサンドイッチイムノアッセイの方法に従って、リコンビナントNタンパク質(SARS-CoV-2またはSARS-CoV)を測定し、各Nタンパク質モノクローナル抗体の反応領域に応じたグループ化を行った。具体的には、抗体固相化磁性粒子(固相抗体)及びALP標識抗体として、それぞれ、N1~N6抗体、C1~C6抗体、及びC12抗体を用い、リコンビナントNタンパク質を測定した。
【0088】
その結果、固相抗体と標識抗体として、それぞれN1抗体とN2抗体を用いて、リコンビナントNタンパク質(0、10ng/mL)を測定した場合、0ng/mLの発光量(バックグランド値)に対する10ng/mLの発光量比が非常に低く、両者は重複する領域に反応することが確認された(表1)。同様に、固相抗体と標識抗体として、それぞれN4、N5、N6抗体(N6抗体グループ)を用いてリコンビナントNタンパク質(0、1ng/mL)を測定した場合、1ng/mLの発光量から0ng/mLの発光量を差し引いた発光量差が非常に低く、これら抗体は重複する領域を認識することが確認された(表2)。一方で、固相抗体と標識抗体として、N1抗体とN3抗体を用いた場合、発光量差が他の抗体との組み合わせに比べて小さいことから、一部競合することが確認された。N1抗体の方がN3抗体と比べて、他のNTD抗体とのサンドイッチイムノアッセイの際の反応性が高いことから、複数抗体を用いたサンドイッチイムノアッセイにおいては、N1抗体グループ(N1、N2抗体)の方がN3抗体よりも有用と考えられた。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
同様にC1~C6抗体についても検討したところ、C1抗体とC2抗体が重複する領域を認識すること、C3抗体とC4抗体が重複する領域を認識すること、C5抗体とC6抗体が重複する領域を認識することが確認された(表3~5)。しかしながら、C5及びC6抗体は、何れの組合せでも発光量が低くなったことから、C5抗体グループ(C5、C6抗体)が認識する領域に対する抗体は、サンドイッチイムノアッセイによる測定において反応性が低いことが確認された。
【0092】
【表3】
【0093】
【表4】
【0094】
【表5】
【0095】
実施例8:抗体の組合せの検討(その1)
上記実施例7でグループ化された抗体と、C12抗体について、固相抗体と標識抗体の組合せを検討した。上記実施例5のサンドイッチイムノアッセイの方法と同様にして、表6に示す抗体の各組合せを用いて、リコンビナントNタンパク質を測定した。それぞれN=2で測定した。
【0096】
結果を表6に示す。表6では、0ng/mLの検体からの発光量の平均値に対する1ng/mLの検体からの発光量の平均値の比率(S/N比)を示す。
【0097】
【表6】
【0098】
その結果、サンドイッチイムノアッセイの固相抗体と標識抗体の組合せとして、どちらの組合せでも高いS/N比を示す、N1抗体とC3抗体、N1抗体とC12抗体、N4抗体とC3抗体、N4抗体とC12抗体、C3抗体とC12抗体との組み合わせが好ましいことが確認された。
【0099】
実施例9:抗体の組合せの検討(その2)
上記実施例7でグループ化された抗体と、P1抗体、C12抗体について、固相抗体と標識抗体の組合せを検討した。上記実施例6のイムノクロマトグラフィー法により、表7および表8に示す抗体の各組合せを用いて、リコンビナントNタンパク質10ng/mLを含む検体を測定した。また、表7及び表8に示す抗体の各組合せを用いて、測定開始30分後(表7)または60分後(表8)、展開確認部10の発色によって展開液の展開を確認した後、検出ゾーンの発色を目視で測定した。結果を表7と表8に示す。表7および表8では、各条件における検出ゾーンの発色強度を示す。数値が大きいほど、発色が濃く、「w」はより弱いことを示す。つまり、発色強度としては、4.5>4>3>2>1>wの順に弱くなる。空欄は未実施を示す。
【0100】
【表7】
【0101】
【表8】
【0102】
その結果、粒子を用いたサンドイッチイムノアッセイと同様に、N1抗体・N2抗体とC3抗体、N1抗体とC12抗体、N4抗体とC3抗体、N4抗体とC12抗体、C3抗体とC12抗体の組合せで強い発光強度が確認された。さらに、N1抗体・N2抗体とN4抗体も比較的高い発光強度を示した。
【0103】
さらに、C1抗体とP1抗体の、他の抗体との組み合わせについても評価したところ、C1抗体は、C3抗体との組み合わせで比較的強い発光強度を示した。一方、P1抗体は、C3抗体との組み合わせで強い発光強度を示し、N1抗体、N4抗体との組み合わせで比較的強い発光強度を示した。
【0104】
実施例10:抗体の組合せの検討(その3)
上記実施例8および9では、単独の固相抗体と単独の標識抗体の組合せについて検討した。このような組合せでも十分に感度の高い測定系を構築することができたが、異なる領域を認識する固相抗体および/または異なる領域を認識する標識抗体を組み合わせて使用することがより好ましい。そこで、上記実施例8および9で単独で効果が認められた抗体の一つを標識抗体とし、それ以外の複数の抗体を固相抗体として用いたイムノアッセイ系を構築し、上記実施例8と同様の方法でリコンビナントNタンパク質(SARS-CoV)10ng/mLを含む検体を評価した。固相抗体は、上記実施例3の製造方法に従い、複数の抗体と粒子を同時に化学結合させることで調製した。結果を表9に示す。
【0105】
その結果、C3抗体とC12抗体の混合物を用いた場合、発光量(1000pg/mlでのカウント)およびS/N比の優れた向上が認められた。特に、標識抗体としてN1抗体またはN4抗体を用いた場合、C3抗体とC12抗体の混合物を固相抗体として使用すると、C3抗体とC12抗体を単独で固相抗体として用いた場合に比べて発光量が増加し、S/N比も増加することが確認された。一方、標識抗体としてC3抗体またはC12抗体を用いた場合、N1抗体とN4抗体の混合物を固相抗体として用いても、カウント値とS/N比の両方が増加することはなかった。このことから、単に複数の抗体を固相抗体に使用することが理由ではなく、C3抗体とC12抗体を組み合わせて使用することが、サンドイッチイムノアッセイにおける感度の向上に有効であることが確認された。
【0106】
【表9】
【0107】
実施例11:抗体の反応領域の特定(その3)
上記実施例8~10で有効であることが確認された抗体について、Nタンパク質(SARS-CoV-2)のエピトープを解析した。
【0108】
NTDを認識する、N1抗体グループ(N1、N2抗体)及びN6抗体グループ(N4~N6抗体)については、上記実施例1と同様に作製したNTDのN末領域(44~112番目のアミノ酸)、NTDの中央領域(79~147番目のアミノ酸)、NTDのC末領域(113~180番目のアミノ酸)からなるリコンビナント抗原、およびNタンパク質の1~119番目、110~229番目、220~339番目、及び330~419番目のアミノ酸領域からなるリコンビナント抗原(trNP1、trNP2、trNP3、trNP4抗原)を用いたWBによって、反応領域を解析した。その結果、N1抗体グループは、Nタンパク質の44~78番目のアミノ酸領域を認識することが示された。また、N6抗体グループは、Nタンパク質の120~147番目のアミノ酸領域を認識することが示された。
【0109】
同様に、CTDを認識するC3抗体グループ、C1抗体グループについて、上記実施例1と同様に作製したCTDのN末領域(247~305番目のアミノ酸)、CTDの中央領域(276~334番目のアミノ酸)、CTDのC末領域(306~364番目のアミノ酸)からなるリコンビナント抗原およびtrNP1、trNP2、trNP4およびtrNP4抗原を用いたWBおよびサンドイッチアッセイ、並びに合成ペプチドおよび他の抗体との反応性に基づき、反応領域を解析した。その結果、C3抗体グループは、Nタンパク質の260~305番目のアミノ酸領域を認識することが示された。また、C1抗体グループは、Nタンパク質の306~339番目のアミノ酸領域を認識することが示された。
【0110】
まとめると、解析した抗体のエピトープは、以下のとおりであった。
【表A】
【0111】
実施例12:抗体の組合せの検討(その4)
上記実施例10にて、N1抗体またはN4抗体を用いた場合、C3抗体とC12抗体の混合物を固相抗体として使用することが有用であることが示された。これらの抗体の組合せがSARS-CoV-2でも同様に有用であることを確認するため、表10に記載された固相抗体と標識抗体の組合せを用い、上記実施例5と同様の方法でリコンビナントNタンパク質100pg/mLを含む溶液を測定した。
【0112】
具体的には、リコンビナントNタンパク質を含む溶液100μLと、処理液(Tris緩衝液、150mM NaCl、0.1%NaN、2.5%C16APS)20μLとを、固相抗体を含む粒子懸濁希釈液50μLに添加し、37℃で8分間反応させた。反応後に、磁石にてB/F分離し、ルミパルス洗浄液で洗浄した後、ALP標識抗体を含む標識体液を50μL加え、37℃で8分間反応させた。磁石にてB/F分離し、ルミパルス洗浄液で洗浄後、AMPPDを含むルミパルス基質液を200μL添加して37℃で4分間酵素反応を行い、波長463nmにおける発光量を測定することで、各サンプルのNタンパク質を測定した。固相抗体は、上記実施例3に従い、各抗体と粒子を化学結合させたのち、それらを1:1で混合することで調製した。標識抗体は、上記実施例4に従い、ALPに対する各Fab’断片のモル比が1:1になるように、GMBS処理をしたALPと、複数の抗Nタンパク質モノクローナル抗体から作製したFab’断片を同時に混合して、カップリングを行い、ALP標識抗体を調製した。
【0113】
結果を表10に示す。その結果、C3抗体とC12抗体の混合物を用いた場合、発光量(100pg/mlでのカウント)およびS/N比の優れた向上が認められた。C3抗体とC12抗体を組み合わせて使用することが、SARS-CoV-2のサンドイッチイムノアッセイにおける感度の向上にも有効であることが確認された。
【0114】
【表10】
【0115】
実施例13:抗体の組合せの検討(その5)
上記実施例10及び実施例12にて、N1抗体またはN4抗体を用いた場合、C3抗体とC12抗体の混合物を固相抗体として使用することが有用であることが示された。上述した通り、SARS-CoV-2では変異等が生じる可能性があるため、異なる領域を認識する抗体を組み合わせて使用することがより好ましい。そこで、N1/N2抗体、N4/N6抗体、C3/C4抗体、C12/C13抗体のグループとは反応性の異なるグループの抗体であり、上記実施例10でN1抗体、N4抗体やC3抗体と反応性の高い、P1/P2抗体との組み合わせを評価した。また、C1/C2抗体との組み合わせについても評価した。
【0116】
具体的には、表11-1~11-3に記載された固相抗体と標識抗体の組合せを用い、上記実施例8と同様の方法で評価した。固相抗体は、上記実施例3に従い、複数の抗体と粒子を同時に化学結合させることで調製した。標識抗体は、上記実施例4に従い、アルカリホスファターゼ(ALP)に対する各Fab’断片のモル比が1:1になるように、GMBS処理をしたALPと、複数の抗Nタンパク質モノクローナル抗体から作製したFab’断片を同時に混合して、カップリングを行い、ALP標識抗体を調製した。
【0117】
検体としては、SARS-CoV-2陰性の唾液検体に、リコンビナントNタンパク質又はSARS-CoV-2陽性患者の鼻腔ぬぐい液1~5(購入検体:Boca Biolistics,LLC)を添加したものを検体とし、検体100μLに、検体処理液(Tris緩衝液、150mM NaCl、1% BSA、0.1%NaN、0.25%C16APS)170μLを添加した検体を用いた。
【0118】
結果を表11-1~11-3に示す。表11-1~11-3では、リコンビナントNタンパク質0ng/mLを測定した際の発光量に対するリコンビナントNタンパク質10ng/mLを測定した際の発光量比(S/N比)、およびリコンビナントNタンパク質0ng/mLを測定した際の発光量に対する各SARS-CoV-2陽性検体を測定した際の発光量比を示す。
【0119】
【表11-1】
【0120】
【表11-2】
【0121】
【表11-3】
【0122】
その結果、C3抗体とC12抗体を固相抗体又は標識抗体として使用し、他方にN6抗体を使用すると、非常に高い感度で検体中のSARS-CoV-2を測定することができた。つまり、260~305番目のアミノ酸領域を認識する抗体と、365~419番目のアミノ酸領域を認識する抗体を固相抗体又は標識抗体として使用し、他方に120~147番目のアミノ酸領域を認識する抗体を使用すると、非常に高い感度で検体中のSARS-CoV-2を測定することができることが確認された。
【0123】
さらに、N1抗体とP1抗体を組み合わせることでより高い感度で検体中のSARS-CoV-2を測定することができた。つまり、上記の抗体の組合せに追加して、さらに、44~78番目のアミノ酸領域を認識する抗体と243~259番目のアミノ酸領域を認識する抗体を組合せると、より高い感度で検体中のSARS-CoV-2を測定することができることが確認された。
【0124】
また、これらの抗体の組合せに、さらにC1抗体を追加しても、十分に高い感度で検体中のSARS-CoV-2を測定することができた。つまり、これらの抗体とは異なるCTD領域を認識する抗体をさらに組み合わせることも効果があることが確認された。
【0125】
実施例14:反応液中で用いられる界面活性剤の検討
SARS-CoV-2陰性の唾液検体に、SARS-CoV-2陽性患者の鼻腔ぬぐい液(Boca Biolistics,LLC)を添加したものをサンプルとした。このサンプル100μLと、表12に示す界面活性剤を含む処理液(Tris緩衝液、150mM NaCl、1% BSA、0.1%NaN、各界面活性剤の処理液中濃度2.5%、検体と粒子懸濁液との混和後の濃度0.19%)20μLを、固相抗体を含む粒子懸濁希釈液150μLに添加し、37℃で8分間反応させた。反応後に、磁石にてB/F分離し、ルミパルス洗浄液(富士レビオ社製)で洗浄した後、上記実施例4で調製したALP(アルカリホスファターゼ)標識抗体を含む標識体液を150μL加え、37℃で8分間反応させた。磁石にてB/F分離し、ルミパルス洗浄液で洗浄後、AMPPD(3-(2’-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3’’-ホスホリルオキシ) フェニル-1,2-ジオキセタン・2ナトリウム塩)を含むルミパルス基質液を200μL添加して37℃で4分間酵素反応を行い、波長463nmにおける発光量を測定することで、各サンプルのNタンパク質を測定した。なお、固相抗体としてN6抗体およびP1抗体を用い、標識抗体としてN1抗体、C3抗体及びC12抗体を用いた。
【0126】
結果を表12に示す。表12では、測定された発光値に加えて、界面活性剤を添加していない条件における発光値に対する、各界面活性剤添加条件の発光値の比率(%)も示す。
【0127】
【表12】
【0128】
その結果、疎水部として炭化水素鎖を含む両イオン性界面活性剤(C12APSおよびC14APS)を用いると、陽性検体で非常に高い発光値が得られ、高感度にNタンパク質を検出することができた。以上のことから、疎水部として炭化水素鎖を含む両イオン性界面活性剤が患者検体に含まれるSARS-CoV-2 Nタンパク質の測定に有効であることが示された。
【0129】
実施例15:検体処理液中で用いられる界面活性剤の検討(その1)
上記実施例14では、SARS-CoV-2 Nタンパク質の測定において、疎水部として炭化水素鎖を含む両イオン性界面活性剤を検体と混合することが有用であることが分かった。そこで、疎水部として炭化水素鎖を含む両イオン性界面活性剤を用いて処理した検体を用いて、上記実施例6のイムノクロマトグラフィー法により、Nタンパク質を検出した。
【0130】
検体としては、購入した鼻咽頭検体(陰性検体、陽性検体、Boca Biolistics,LLC)を用いた。検体処理液としては、各界面活性剤を含むTris緩衝液(150mM NaCl、1% BSA、0.1%NaN)を用いた。また、固相抗体としてP1抗体とN6抗体を用い、標識抗体としてN1抗体、C3抗体およびC12抗体を用いた。各条件における検出ゾーンの発色状態を表13に示す。数値が大きいほど、発色が濃く、「w」はより弱いことを示す。つまり、発色強度としては、1>1w>1wwの順に弱くなる。その結果、表13に示すように、Nタンパク質を十分な感度で検出できることが確認された。
【0131】
【表13】
【0132】
実施例16:検体処理液の界面活性剤の検討(その2)
上記実施例14および15では、SARS-CoV-2 Nタンパク質の測定において、疎水部として炭化水素鎖を含む両イオン性界面活性剤で検体を処理することが有用であることが分かった。
【0133】
次に、疎水部として炭化水素鎖を含む両イオン性界面活性剤及び他の界面活性剤との組み合わせを、粒子を用いたサンドイッチイムノアッセイ法にて検討した。
【0134】
検体として、ウイルス輸送液SGVTM-3R(スギヤマケン社)3mLにSARS-CoV-2陽性鼻咽頭検体(Boca Biolistics, LLC)6μLを添加したものを用いた。購入したSARS-CoV-2陽性検体(Boca Biolistics,LLC)のうち、RT-PCR法でウイルス量の異なることが判明している検体を低値検体、中値検体として選んで用いた。
【0135】
表14に示す界面活性剤と、0.25%C16APSを含む検体処理液(Tris緩衝液、150mM NaCl、1% BSA、0.1%NaN)20μLを、検体100μLに添加し、37℃で6.5分インキュベートした。その後、処理検体に固相抗体を含む粒子懸濁希釈液50μLを添加し、37℃で8分間反応させた。反応後に、磁石にてB/F分離し、ルミパルス洗浄液(富士レビオ社製)で洗浄した後、上記実施例4で調製したALP標識抗体を含む標識体液を50μL加え、37℃で8分間反応させた。磁石にてB/F分離し、ルミパルス洗浄液で洗浄後、AMPPDを含むルミパルス基質液を200μL添加して37℃で4分間酵素反応を行い、波長463nmにおける発光量を測定することで、各サンプルのNタンパク質を測定した。また、既知濃度のリコンビナントNタンパク質を含む標準溶液(0,100,5000,10000pg/mL)を同様に測定し、標準曲線を作成した。各サンプルの発光量と標準曲線から、各サンプルのNタンパク質の濃度を求めた。結果を表14に示す。
【0136】
その結果、デオキシコール酸、又はコール酸をさらに処理液に添加することで、低値検体(LS)、中値検体(MS)ともに、発光量の増加が認められた。特にデオキシコール酸を追加で添加することにより、添加したすべての濃度で発光量が大きく増加した。
【0137】
また、デオキシコール酸などの成分を添加すると、溶液がゲル化する。ゲル化した溶液でも検体処理は可能であるが、取り扱いがより容易になるように、処理液にさらにTween80、Tween20又はNP-40などの非イオン性界面活性剤を添加すると、溶液がゲル化することなく、高い発光量が得られることが分かった。
【0138】
【表14】
【0139】
実施例17:検体処理によるキャプシドの破壊
検体処理によるキャプシドの破壊効率を検討した。
【0140】
方法としては、ウイルス粒子から抽出されたゲノムRNAをRT-PCR法で半定量することにより、抽出されたRNAの定量を行った。その際、検体処理液または、コントロールとして用いている検体希釈液中にRNaseをあらかじめ加えておく事により、検体処理液によってウイルスのキャプシドが破壊される場合は、RNA抽出処理を行う前にRNAが分解される。RNase処理を加える前のRNA量と比較することにより、処理液によって粒子から抽出されたRNA量を推定することができる。これにより、キャプシドの破壊効率を推定することができる。
【0141】
具体的には、それぞれにRNase A(終濃度200μg/mL)を添加した、検体希釈液(Tris緩衝液、150mM NaCl、1% BSA)、0.25%C16APSを含む検体処理液(Tris緩衝液、150mM NaCl、1% BSA、0.1%NaN)、表16に記載の各濃度の界面活性剤と0.25%C16APSを含む検体処理液を、購入した鼻咽頭拭い液(Boca Biolistics,LLC)を検体希釈液に加えて調製した検体に当量添加し、混和後、室温で5分間静置した。その後、RNA抽出キット(GeneJET Viral DNA/RNA Purification kit(Thermo Fisher))を用いて、添付のマニュアルに従い、RNAを抽出した。得られたRNAをRT-PCRキット(SARS-CoV-2 Direct Detection RT-qPCR Kit(TaKaRa))を用いて測定し、RT-PCRのCt値を算出した。Ct値が大きいほど、RNAが分解され、キャプシドの破壊効率が高いことを示す。結果を表15と表16に示す。
【0142】
【表15】
【0143】
【表16】
【0144】
その結果、検体希釈液に対し検体処理液(追加なし)で処理することでCt値が4.9増加した。すなわちRNA量が約1/30に減少したことから、RNAの抽出効率が30倍増加したことが判明した。
【0145】
また、検体処理液にデオキシコール酸を0.5%加えたところCt値に大きな変動は無かったものの、1%、2%と加えていくにつれ、Ct値は3.8、4.9増加した。すなわち、RNA量はそれぞれ約1/14、1/30減少し、RNA抽出効率はそれぞれ14倍、30倍上昇したことが判明した。
【0146】
さらに、検体処理液に非イオン性界面活性剤(Tween20)を添加すると、Ct値は1増加した。すなわちRNA量は1/2減少したことから、RNA抽出効率が増加した。
【0147】
これらの結果から、キャプシドの抽出にはC16APSが有効であり、さらにそこにデオキシコール酸を1%以上、および非イオン性界面活性剤を加えると、RNAの抽出効果、つまりキャプシドの破壊効率が増強されることが判明した。
【符号の説明】
【0148】
1 イムノクロマトグラフィーカートリッジ
2 マトリクス
3 検出ゾーン
4 標識試薬ゾーン
5 展開液槽
6 展開確認部
7 展開液吸収ゾーン
8 基質ゾーン
9 展開液パッド
図1
図2
【配列表】
2022174541000001.app