(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174552
(43)【公開日】2022-11-24
(54)【発明の名称】内視鏡用薬液注入チューブ
(51)【国際特許分類】
A61M 31/00 20060101AFI20221116BHJP
A61B 1/12 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
A61M31/00
A61B1/12 523
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080429
(22)【出願日】2021-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100177714
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昌平
(72)【発明者】
【氏名】五嶋 敦史
(72)【発明者】
【氏名】岡本 健志
【テーマコード(参考)】
4C066
4C161
【Fターム(参考)】
4C066AA02
4C066BB10
4C066CC01
4C066FF02
4C161AA00
4C161BB01
4C161HH04
4C161HH21
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、消化管穿孔や薬液漏れを防止し、消化管組織に薬液を簡便に注入できる内視鏡用薬液注入チューブを提供することである。
【解決手段】上記課題を解決するために、薬液供給部と、前記薬液供給部の先端に連結する先端部とを備え、前記先端部を消化管組織に押し当てて使用する内視鏡用薬液注入チューブであって、
前記先端部が弾性体を備え、
前記弾性体が薬液を噴出する1又は複数の噴出孔を有する、
ことを特徴とする内視鏡用薬液注入チューブを提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液供給部と、前記薬液供給部の先端に連結する先端部とを備え、前記先端部を消化管組織に押し当てて使用する内視鏡用薬液注入チューブであって、
前記先端部が弾性体を備え、
前記弾性体が薬液を噴出する1又は複数の噴出孔を有する、
ことを特徴とする内視鏡用薬液注入チューブ。
【請求項2】
前記弾性体の材質がシリコーンゴムであることを特徴とする請求項1に記載の内視鏡用薬液注入チューブ。
【請求項3】
前記先端部が先端方向へ凸状に湾曲していることを特徴とする請求項1又は2に記載の内視鏡用薬液注入チューブ。
【請求項4】
前記弾性体が先端からの距離に応じた目印を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の内視鏡用薬液注入チューブ。
【請求項5】
前記弾性体が前記噴出孔に接した噴出管を有し、前記噴出管が前記弾性体の先端方向に対して、10度以上45度以下の角度を有して配置されることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の内視鏡用薬液注入チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡用薬液注入チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡は、侵襲性が低く患者の負担を抑えられることから医療における診断や治療で汎用されている。また、内視鏡は、周辺機器の発達に伴い、対応できる検査や手術における汎用性が拡大している。例えば、消化器分野における食道表在がん、早期胃がん、あるいは早期大腸がんに対する内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection: ESD)では、内視鏡と共にナイフデバイス、穿刺デバイス又は鉗子デバイス等を組み合わせて行われる。また、食道静脈瘤や出血性胃潰瘍、放射線治療の合併症である放射性腸炎などの出血性病変を治療するために、内視鏡と穿刺デバイスを組み合わせて、出血部位への止血剤の注射や焼灼治療をする。
【0003】
近年、食道表在がんに対する内視鏡的粘膜下層剥離術の普及により、病巣はサイズにほぼ制限無く一括切除ができるようになっている。一方で、切除範囲の広い内視鏡的粘膜下層剥離術では、高頻発で生じる合併症として術後食道狭窄が問題となる。特に、術後食道狭窄は、管腔の四分の三周を超える広範囲の内視鏡的粘膜下層剥離術を行った際に生じやすい。高度な食道狭窄は、頻回の内視鏡的なバルーン拡張術を要し、QOLの著しい低下や拡張術に伴う合併症のリスクが上昇する。食道狭窄に対する予防的処置としては、内視鏡的粘膜下層剥離術後潰瘍に対するステロイドの局注やステロイドの経口投与が効果的である。しかし、長期間のステロイド内服に伴い、脳膿瘍のような致命的な合併症が起こったことが報告されている。また、従来の、内視鏡と穿刺デバイスを用いた術後潰瘍へのステロイドの局所的な注射では、粘膜下層の深層に位置する筋層への穿孔や食道壁外への薬液漏れ、膿瘍形成が報告されている。
【0004】
内視鏡の鉗子口を利用して組み合わせ、薬液を目的の組織に投与するためのデバイスとしては、例えば、特許文献1には針先の向きを調節できる組織内に薬液を注入する内視鏡用注射針、特許文献2には広範囲の組織表面に薬液を散布するための内視鏡用散布用チューブ、特許文献3には内視鏡本体の鉗子口や曲げ部を傷つけることがなく、組織表面に薬液を散布するための内視鏡用色素散布チューブが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-180939号公報
【特許文献2】特開2002-369793号公報
【特許文献3】特開2013-233232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
内視鏡的粘膜下層剥離術後の残存する粘膜下層部位や消化管組織の炎症部位等に薬液を注入する穿刺デバイスは、筋層への穿孔や薬液漏れの危険性が高く、また、正確に穿刺しないと十分な薬剤を注入できないという問題点がある。また、従来の内視鏡用散布チューブでは、粘膜下層内に目的とする薬剤量を注入することが困難である。そのため、消化管穿孔を防止し、安全に消化管組織に薬液を注入できる内視鏡用薬液注入チューブが望まれている。
【0007】
したがって、本発明の課題は、消化管穿孔や薬液漏れを防止し、消化管組織に薬液を簡便に注入できる内視鏡用薬液注入チューブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、薬液供給管の先端部に噴出孔を有する弾性体を備えることにより、先端部を消化管組織に押し当てても消化管穿孔や薬液漏れを防止することができ、その状態で薬液を噴出することで目的組織に薬液を簡便に注入することができるという知見に至り、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[5]を提供する。
[1]薬液供給部と、前記薬液供給部の先端に連結する先端部とを備え、前記先端部を消化管組織に押し当てて使用する内視鏡用薬液注入チューブであって、
前記先端部が弾性体を備え、前記弾性体が薬液を噴出する1又は複数の噴出孔を有する、ことを特徴とする内視鏡用薬液注入チューブ。
[2]前記弾性体の材質がシリコーンゴムであることを特徴とする[1]に記載の内視鏡用薬液注入チューブ。
[3]前記先端部が先端方向へ凸状に湾曲していることを特徴とする[1]又は[2]に記載の内視鏡用薬液注入チューブ。
[4]前記弾性体が先端からの距離に応じた目印を有することを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の内視鏡用薬液注入チューブ。
[5]前記弾性体が前記噴出孔に接した噴出管を有し、前記噴出管が前記弾性体の先端方向に対して、10度以上45度以下の角度を有して配置されることを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載の内視鏡用薬液注入チューブ。
【0010】
また、内視鏡用薬液注入チューブを用いた消化管組織への薬液の注入方法を提供するという課題もある。
すなわち、本発明は、以下の[5]を提供する。
[5][1]~[4]のいずれかに記載の内視鏡用薬液注入チューブを消化管組織に押し当てた状態で薬液を射出し、前記消化管組織内に薬液を注入することを特徴とする薬液注入方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、薬液注入時における消化管穿孔や薬液漏れを防止し、安全かつ簡便に消化管組織に薬液を注入できる内視鏡用薬液注入チューブを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の内視鏡用薬液注入チューブにおける形状を示す概略説明図である。(A)内視鏡用薬液注入チューブの正面図である。(B)内視鏡用薬液注入チューブの先端部を拡大した正面図である。(C)内視鏡用薬液注入チューブの左側面図である。(D)内視鏡用薬液注入チューブの左側面図である。
【
図2】本発明の内視鏡用薬液注入チューブにおける先端部の形状を示す概略説明図である。(A)先端部が先端方向へ凸状に湾曲している形状を示す正面図である。(B)先端部の消化管組織に接する部分が消化管組織に押し当てる方向へ凸状に湾曲している形状を示す正面図である。(C)先端部が先端から距離に応じて目印として深度目盛りを有することを示す正面図である。
【
図3】本発明の内視鏡用薬液注入チューブにおける噴出孔の形状を示す概略説明図である。(A)噴出孔が先端方向へ凹状に湾曲している形状を示す正面図である。(B)噴出孔が先端方向へ凸状に突き出している形状を示す正面図である。(C)噴出孔が先端部表面に対して平坦である形状を示す正面図である。(D)噴出孔が先端方向に対して中央に配置されている形状を示す左側面図である。(E)噴出孔が先端方向に対して所定の角度をもって配置されている形状を示す正面図である。(F)噴出孔が先端方向に対して所定の角度をもって配置されている形状を示す左側面図である。(G)噴出孔が複数配置されている形状を示す正面図である。(H)噴出孔が複数配置されている形状を示す左側面図である。
【
図4】本発明の内視鏡用薬液注入チューブの構造を示す概略説明図である。(A)噴出方向指示線を有する先端部の形状を示す正面図である。(B)噴出方向指示線を有する先端部の形状を示す平面図である。(C)先端部から薬液が噴出する状態を示す正面図である。(D)噴出孔が先端方向に対して所定の角度をもって配置された先端部の形状を示す左側面図である。(E)
図4(D)のy-y’断面における断面図である。(F)噴出管の形状を示す断面図である。(G)噴出管の形状を示す断面図である。
【
図5】本発明の内視鏡用薬液注入チューブと内視鏡の組み合わせ方法を示す概略説明図である。(A)内視鏡用薬液注入チューブの先端部を内視鏡の鉗子口を介して患部に送達させる態様を示す。(B)内視鏡先端部の構造を示す斜視図である。(C)内視鏡用薬液注入チューブの先端部を内視鏡に装着したガイドチューブを介して患部に送達させる態様を示す。(D)内視鏡先端部の構造を示す斜視図である。
【
図6】本発明の内視鏡用薬液注入チューブの使用方法を示す概略説明図である。(A)内視鏡用薬液注入チューブを消化管組織に押し当てる前の先端部の状態を示す正面図である。(B)内視鏡用薬液注入チューブを消化管組織に押し当てた時の先端部の状態を示す正面図である。
【
図7】実施例において、作製した内視鏡用薬液注入チューブモデルを押し当てた場合の結果を示す図である。(A)は板上に押し当てた場合、(B)はガーゼ上に押し当てた場合の結果を示す図である。
【
図8】実施例において、市販の内視鏡用散布チューブを押し当てた場合の結果を示す図である。(A)は板上に押し当てた場合、(B)はハイゼガーゼ上に押し当てた場合の結果を示す図である。
【
図9】実施例において、作製した内視鏡用薬液注入チューブモデルをハイゼガーゼ上に押し当てて、注入した着色水の漏れを調べた結果を示す図である。
【
図10】実施例において、市販の内視鏡用散布チューブをハイゼガーゼ上に押し当てて、注入した着色水の漏れを調べた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[定義]
本明細書中において、「消化管」とは、摂取した食物の消化・吸収を行う口から肛門までの管腔臓器であり、具体的には、口、口腔、咽頭、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、肛門を意味する。
【0014】
本明細書中において、「薬液」とは、治療や検査などの目的に資する物質を含有する液剤である。薬液に添加する物質としては、例えば、ステロイドなどの抗炎症剤、エピネフリン又はトロンビンなどの止血剤、ガストログラフィンなどの造影剤、インジゴカルミン、クリスタルバイオレットなどの色素、水酸化アルミニウムゲル、水酸化マグネシウムなどの制酸剤のほか、アルギン酸ナトリウム、ヨウ素などが挙げられる。また、必要に応じて、適宜生理食塩水などで上記物質を希釈すると共に、緩衝剤、等張剤などの添加物を配合することができる。上記ステロイドとしては、トリアムシノロンアセトニドが挙げられる。
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る内視鏡用薬液注入チューブの実施形態を詳細に説明する。なお、実施形態に記載する内視鏡用薬液注入チューブについては、本発明に係る内視鏡用薬液注入チューブを説明するために例示したに過ぎず、これに限定されるものではない。
【0016】
本発明の内視鏡用薬液注入チューブは、薬液供給管の一端にシリンジコネクターを有する薬液供給部と、かかる薬液供給部の他端(先端側)に連結し、薬液を噴出する噴出孔を設置した弾性体を有する先端部を備えたものである。この内視鏡用薬液注入チューブを用いることにより、薬液供給部を介して先端部から薬液を噴出し、目的とする患部の消化管組織内に薬液を注入することができる。
【0017】
[実施形態]
本発明の内視鏡用薬液注入チューブの実施形態は、内視鏡用薬液注入チューブ1として、弾性体2を備える先端部3が、薬液供給管4、シリンジコネクター5を備える薬液供給部6と連結したものである。内視鏡用薬液注入チューブ1は、内視鏡12の鉗子口14、16を介して患部に送達させ、先端部3を消化管組織21に押し当てるように使用するものである。
【0018】
図1は、本発明の実施形態における内視鏡用薬液注入チューブの形状を示す概略説明図である。かかる実施形態における内視鏡用薬液注入チューブ1は、
図1(A)に示すようにシリンジコネクター5と連結している薬液供給管4が弾性体2を備える先端部3と接合することで、薬液供給部6と先端部3が連結したものである。先端部3の弾性体2は、
図1(B)に示すように噴出孔7を有する。なお、上記実施形態における内視鏡用薬液注入チューブ1の正面図である
図1(A)に対する左側面図は、
図1(C)に示したとおりである。
【0019】
先端部3は、内視鏡用薬液注入チューブ1の先端に位置し、消化管組織に接する部位である。
【0020】
先端部3の先端方向における形状は、消化管組織に損傷を与えないものであれば、特に制限されるものではない。先端部3の先端方向における形状としては、例えば、
図2(A)に示すように先端方向へ凸状に湾曲している形状、
図2(B)に示すように角が丸みを有する形状などが挙げられる。
【0021】
図2(B)の角の丸みは、特に制限されるものではなく、例えば、角Rが0.1mm以上15mm以下である。下限値としては0.2mm以上、0.3mm以上、又は0.4mm以上であってもよい。一方、上限値としては、13.0mm以下、11.0mm以下、又は10.0mm以下であってもよい。
【0022】
先端部3の側面における形状は、消化管組織に損傷を与えないものであれば、特に制限されるものではない。先端部3の側面における形状としては、例えば、
図1(C)に示すように円形の形状、
図1(D)に示すように楕円形の形状のほか、角が丸みを有する四角形、多角形の形状など(図示なし)が挙げられる。
【0023】
先端部3の側面における最大外径は、内視鏡のガイド孔又は内視鏡に備えられたガイドチューブに挿通可能な径であれば特に制限されるものではなく、例えば、0.5mm以上5.0mm以下である。下限値としては、0.7mm以上、0.9mm以上、又は1.0mm以上であってもよい。一方、上限値としては、4.5mm以下、4.2mm以下、又は4.0mm以下であってもよい。
【0024】
先端部3の先端方向における長さは、特に制限されるものではなく、例えば、2mm以上25mm以下である。下限値としては、3mm以上、4mm以上、又は5mm以上でもよい。一方、上限値としては、20mm以下、17mm以下、又は15mm以下でもよい。
【0025】
先端部3の側面における最大外径、先端方向における長さを上記範囲とすることにより、内視鏡用薬液注入チューブの先端部が消化管組織と十分に接することができる。
【0026】
先端部3の色は、特に制限されるものではない。先端部3の色としては、例えば、透明色、半透明色、寒色などが挙げられる。好ましい先端部3の色は、内視鏡下での先端部3の位置や噴出した薬液に対する視認性を高めるという観点から、半透明色又は透明である。
【0027】
先端部3は、内視鏡用薬液注入チューブ1を消化管組織に押し当てる強さや先端の位置を確認するために、
図2(C)に示すように先端からの距離に応じた目印として深度目盛り8を設けてもよい。深度目盛り8としては、色、実線、点線、破線、波線などによる区別やmm単位の長さ目盛りなどが挙げられる。また、これらの深度目盛り8は、単独で設置してもよいし、二種以上を組み合わせて設置してもよい。
【0028】
先端部3の深度目盛り8の位置は、特に制限されるものではなく、例えば、先端から0.1mm以上30mm以下であり、押し当てる消化管組織の状態や薬液の種類に応じて適宜調整できる。
【0029】
弾性体2は、先端部3の主な構成体であり、薬液供給管4と直接接合しているものである。弾性体2の材質は、先端部3を消化管組織に押し込むことができるとともに、用いる薬液に対して耐性を有し、消化管組織に損傷を与えることなく変形するものであれば、特に制限されるものではない。弾性体2の材質としては、例えば、非ジエン系ゴム、ジエン系ゴム、天然ゴム、熱可塑性エラストマー、又はフッ素樹脂などが挙げられる。
【0030】
弾性体2の材質の具体例としては、例えば、シリコーンゴムやブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴムなどの非ジエン系ゴム;スチレンブタジエンゴムやイソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴムなどのジエン系ゴム;天然ゴム;ポリスチレン系エラストマーやオレフィン-/アルケン系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマーなどの熱可塑性エラストマー;ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂などが挙げられる。好ましい弾性体2の材質は、生体との適合性や成型し易さの観点から、生体適合性材料のシリコーンゴムである。また、これらの弾性体2の材質は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。二種以上の弾性体2を組み合わせる場合は、消化管組織に接する表面にシリコーンゴムなどの生体適合性材料を配置することが望ましい。
【0031】
シリコーンゴムは、物性を調節するために、添加剤を加えてもよい。シリコーンゴムに添加する物質としては、例えば、シリコーンゴムの物理的強度を高めるための微粉状シリカなどの物理的強度増強剤;ビニルシクロテトラシロキサンなどのビニル基含有オルガノポリシロキサン;トリアリルイソシアヌレートやアルキルマレエート、アセチレンアルコール類及びそのシラン、シロキサン変性物、ハイドロパーオキサイド、テトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾールなどのシリコーンゴムの硬化時間調整剤;石英粉末や珪藻土、炭酸カルシウムなどの非補強性の充填剤;コバルトブルーなどの無機顔料;有機染料などの着色剤;酸化セリウムや炭酸亜鉛、炭酸マンガン、ベンガラ、酸化チタン、カーボンブラックなどの耐熱性若しくは難燃性向上剤などが挙げられる。
【0032】
弾性体2の硬度は、消化管組織に接した際に損傷を与えることなく変形するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、Hs値として20以上35以下、好ましくは22以上30以下である。また、デュロメータ(JIS K 6253、デュロメータタイプA)値として1以上30以下である。弾性体2の硬度を上記範囲とすることにより、弾性体2は、消化管組織に接した際に損傷を与えることなく変形し、先端部3が消化管組織と十分に接することを可能とすることができる。
【0033】
噴出孔7は、薬液供給部6から送達される薬液を消化管組織に噴出するためのものである。噴出孔7の先端方向における形状は、消化管組織に損傷を与えないものであれば、特に制限されるものではない。噴出孔7の先端方向における形状としては、例えば、
図3(A)に示すように先端方向へ凹状に湾曲している形状、
図3(B)に示すように先端方向へ突出した形状、
図3(C)に示すように先端方向に対して平坦な形状などが挙げられる。
【0034】
噴出孔7の孔の形状は、特に制限されるものではない。噴出孔7の孔の形状としては、例えば、
図3(D)に示すように円形の形状のほか、楕円形の形状、角が丸みを有する四角形、多角形の形状などが挙げられる。
【0035】
噴出孔7の孔の内径は、特に制限されるものではなく、例えば、0.02mm以上2.0mm以下である。下限値としては、0.1mm以上、0.4mm以上、又は0.5mm以上であってもよい。一方、上限値としては、1.5mm以下、1.2mm以下、又は1.0mm以下であってもよい。また、薬液が噴出する際に、直線状(送水状)に噴出されても、噴霧状に噴出されてもよいように孔を設計することもできる。
【0036】
噴出孔7の位置は、特に制限されるものではない。噴出孔7の位置としては、例えば、
図3(A)~(D)に示すように先端方向に対して中央に配置されてもよいし、
図3(E)、(F)に示すように先端方向に対して所定の角度をもって配置されてもよい。
【0037】
噴出孔7の数は、特に制限されるものではない。噴出孔7の数としては、1つでもよいし、例えば、
図3(G)、(H)に示すように2つ、3つ以上の複数でもよい。また、噴出孔7を複数設ける場合、それぞれの噴出孔7は、先端方向における形状、孔の形状、孔の内径が同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0038】
先端部3は、作業者が内視鏡視野から外れた噴出孔7の位置を確認するために、
図4(A)、
図4(B)に示すように噴出方向指示線9を設けてもよい。噴出方向指示線9としては、色、実線、点線、破線、波線などによる区別が挙げられる。また、これらの噴出方向指示線9は、単独で設置してもよいし、二種以上を組み合わせて設置してもよい。
【0039】
噴出孔7が先端方向に対して所定の角度をもって配置されている場合は、
図4(C)に示すように薬液10が先端方向に対して所定の角度xで噴出される。薬液10の先端方向に対する噴出角度xは、特に制限されるものではなく、例えば、1度以上60度以下である。下限値としては、4度以上、7度以上又は10度以上であってもよい。一方、上限値としては、55度以下、50度以下、又は45度以下であってもよい。薬液10の先端方向に対する噴出角度xを上記範囲とすることにより、消化管組織に効率よく薬液を注入することができる。
【0040】
図4(D)、(E)は、噴出孔7が先端方向に対して所定の角度をもって配置された先端部3の構造を示す概略説明図である。噴出孔7が先端方向に対して所定の角度をもって配置された先端部3は、
図4(E)に示すように弾性体2に噴出管11が先端方向に対して所定の角度をもって配置される。
【0041】
噴出管11は薬液供給管4を介して送達された薬液を噴出孔7へ送り出す管である。かかる噴出管11の形状は、特に制限されるものではない。噴出管11の形状としては、例えば、
図4(F)に示すように折れ曲がっていてもよいし、
図4(G)に示すように湾曲していてもよい。
【0042】
薬液供給管4は、シリンジコネクター5に投入された薬液を先端部3に送達させるためのものである。薬液供給管4と先端部3は、接着剤などの接着部材や粘着部材などを用いて接合される。
【0043】
薬液供給管4の材質は、注入する薬液に対して耐性を有し、内視鏡12の挿入部15の屈曲を妨げない柔軟性を付与できるものであれば、特に制限されるものではない。薬液供給管4の材質としては、例えば、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合合成樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン共重合合成樹脂(AS樹脂)、シリコーンゴム;ナイロンなどのポリアミド樹脂;ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂;ポリスチレン系エラストマーやオレフィン-/アルケン系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマーなどの熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。好ましい薬液供給管4の材質は、生体との適合性や成型し易さの観点から、ポリプロピレン、ポリウレタン、ナイロンである。また、これらの薬液供給管4の材質は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
本発明の内視鏡用薬液注入チューブは、作業者が内視鏡本体側の鉗子口14付近で内視鏡用薬液注入チューブ1の薬液供給部6を押し込むことで、先端部3を消化管組織に押し当てて用いられる。薬液供給管4の材質は、内視鏡用薬液注入チューブ1の薬液供給部6を押し当てる力が先端部3に伝達し、先端部3を消化管組織に押し当て易くする観点から、先端部3よりも高い硬度を有するものを選択することが望ましい。
【0045】
薬液供給管4の長さは、特に制限されるものではなく、作業する部位、用いる内視鏡の種類などに応じて適宜調整でき、例えば、100cm以上250cm以下、好ましくは150cm以上200cm以下である。
【0046】
薬液供給管4の内径は、特に制限されるものではなく、作業する部位、用いる内視鏡の種類、薬液の量などに応じて適宜調整でき、例えば、0.5mm以上3.0mm以下である。下限値としては、0.7mm以上、0.9mm以上、又は1.0mm以上であってもよい。一方、上限値としては、2.5mm以下、2.2mm以下、又は2.0mm以下であってもよい。
【0047】
薬液供給管4の外径は、特に制限されるものではなく、内視鏡のガイド孔又は内視鏡に備えられたガイドチューブを挿通可能であればよく、例えば、0.5mm以上5.0mm以下である。下限値としては、0.7mm以上、0.9mm以上、又は1.0mm以上であってもよい。一方、上限値としては、4.5mm以下、4.2mm以下、又は4.0mm以下であってもよい。
【0048】
シリンジコネクター5は、薬液供給管4に対して薬液を充填したシリンジを接続するためのものである。シリンジは、特に制限されるものではない。シリンジとしては、例えば、ルアーロック式シリンジ、ルアースリップ式シリンジ、ルアーメタル式シリンジなどが挙げられる。
【0049】
シリンジの容量は、特に制限されるものではなく、例えば、0.5mL以上30mL以下であり、投与する薬液に応じて適宜調整可能である。シリンジの容量を上記範囲とすることにより、薬液を消化管組織に注入することができる注入圧を制御し易くすることができる。
【0050】
図5は、内視鏡用薬液注入チューブ1と内視鏡12の使用態様を示す概略説明図である。
【0051】
第1の使用態様として、内視鏡用薬液注入チューブ1は、
図5(A)、(B)に示すように内視鏡12の本体部13に設置されている内視鏡本体側の鉗子口14から挿入され、内視鏡12の挿入部15の内視鏡先端部側の鉗子口16まで挿通される。
【0052】
第1の使用態様において内視鏡用薬液注入チューブ1を用いて消化管組織21に薬液を注入する際は、作業者が内視鏡12の内視鏡先端部側の鉗子口16まで送達させた先端部3を、
図6(A)に示すように目的とする消化管組織表面付近に移動させる。次に、作業者が内視鏡本体側の鉗子口14付近で内視鏡用薬液注入チューブ1の薬液供給部6を押し込むことで、
図6(B)に示すように先端部3を消化管組織21に押し当て、弾性部2が変形することで噴出孔7は消化管組織21と密着させる。次に、作業者が、噴出孔7と消化管組織21と密着した状態を維持しながら薬液を噴出することで、消化管組織21に薬液を注入することができる。
【0053】
第2の使用態様として、内視鏡用薬液注入チューブ1は、
図5(C)、(D)に示すように、内視鏡12の本体部13に設置したガイドチューブ17の内視鏡本体側のガイド孔18から挿入され、内視鏡12の挿入部15の内視鏡先端部側に設置したフード19に固定したガイドチューブ17における内視鏡先端部側のガイド孔20まで挿通される。
【0054】
第2の使用態様において内視鏡用薬液注入チューブ1を用いて消化管組織21に薬液を注入する際は、内視鏡12の内視鏡先端部側に設置したフード19に固定したガイドチューブ17における内視鏡先端部側のガイド孔20まで送達させた先端部3を、
図6(A)に示すように目的とする消化管組織表面付近に移動させる。次に、
図6(B)に示すように先端部3を消化管組織21に押し当て、弾性部2が変形することで噴出孔7は消化管組織21と密着させ、薬液を噴出することで、消化管組織21に薬液を注入する。
【0055】
ガイドチューブ17の材質は、内視鏡12の挿入部15の屈曲を妨げない柔軟性を付与できるものであれば、特に制限されるものではない。ガイドチューブ17の材質としては、例えば、シリコーンゴム、ポリプロピレン、ポリウレタン、ナイロン、ポリエチレン、ポリウレタン、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ABS樹脂、金属などが挙げられる。好ましいガイドチューブ17の材質は、生体適合性の観点から、シリコーンゴム、ポリプロピレン、ポリウレタン、ナイロンである。また、これらのガイドチューブ17の材質は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
ガイドチューブ17と内視鏡12の挿入部15の固定方法は、特に制限されるものではない。固定方法としては、例えば、医療用テープ、装着バンド、密着ラップ、縫合糸などを用いた方法が挙げられる。
【0057】
フード19はガイドチューブ17と内視鏡挿入部15の先端を固定できるものであれば、特に制限されるものではない。ガイドチューブ17と内視鏡挿入部15の先端の固定は、フード19の代わりに、医療用テープ、装着バンド、密着ラップ、縫合糸などを用いてもよい。
【0058】
以上の特徴により、本発明の内視鏡用薬液注入チューブ1は、弾性体2を備える先端部3を消化管組織21に押し当ても消化管穿孔や薬液漏れが生じることなく、噴出孔7を消化管組織21に密着させることで、目的とする消化管組織21に薬液を簡便に注入することができる。
【実施例0059】
(内視鏡用薬液注入チューブモデルの作製)
長さ1600mmの可撓性チューブの先端に長さ5mm、直径8mmのシリコーン(シリコーンシーラント セメダイン8060:Hs値25、セメダイン社)を接着固定して弾性体2からなる先端部3を設けた。次に、上記先端部3の先端から千枚通しを挿入して、円形の噴出孔7及び直線上の噴出管11を設けた。薬液の噴出孔7は先端部3の先端(中心)から3mmずらして、薬液排出管は先端方向に対して15度をなすように設けて内視鏡用薬液注入チューブモデルを作製した。
【0060】
得られた内視鏡用薬液注入チューブモデル及び市販の内視鏡用散布チューブ(ファイン・ジェット噴霧型:長さ1600mm、適応チャネル径2.8mm以上 トップ社)を用いて、板上、及びハイゼ(登録商標)ガーゼ上で力を加えた場合の噴出孔の位置を確認した。内視鏡用薬液注入チューブモデルで押し当てた場合の結果を
図7に、市販の内視鏡用散布チューブで押し当てた場合の結果を
図8に示す。
図7、8それぞれにおいて、(A)が板状でチューブを押し当てた場合、(B)がハイゼガーゼ上でチューブを押し当てた場合である。また、(A)における矢印は、噴出孔の位置を示している。
図7(A)から明らかなように、内視鏡用薬液注入チューブモデルを用いた場合は噴出孔が板と接着していた。一方、
図8(A)から明らかなように、市販の内視鏡用散布チューブを用いた場合は、噴出孔は板から2mm上方に位置しており、板と接着していなかった。したがって、先端にシリコーンからなる弾性体を備えた先端部を設け、かつ噴出孔の位置を先端の中心からずらすことによって、噴出孔を板表面に接着しやすいことが確認された。
【0061】
さらに、
図7(B)、
図8(B)におけるハイゼガーゼのくぼみ具合から明らかなように、噴出孔をガーゼと密着させるために、内視鏡用薬液注入チューブモデルを用いた場合は、市販の内視鏡用散布チューブを用いた場合と比較して弱い力であっても噴出孔とハイゼガーゼを密着することが可能であることが確認された。かかる結果より、本発明の内視鏡用薬液注入チューブを用いれば、先端部を消化管組織に押し当てた場合に、消化管組織を損傷させることなく、薬液を注入できることが明らかとなった。
【0062】
(薬液の排出)
上記内視鏡用薬液注入チューブモデルを用いて着色水を噴霧した。内視鏡用薬液注入チューブモデルにシリンジを用いて薬液のモデルとしてインジゴカルミンで着色した着色水を注入し、10cm離れた板に向けて噴出孔から上記着色水を噴出した。その結果、チューブの先端方向に対しておよそ40度下方へ直線上に着色水が噴霧されることが確認された。
【0063】
(薬液のもれ)
本発明の内視鏡用薬液注入チューブを用いた場合に、噴霧される薬液が漏れないかどうかのモデル実験を行った。上記内視鏡用薬液注入チューブモデル及び上記市販の内視鏡用散布チューブの先端をハイゼガーゼ上に軽く押し当てて、シリンジを用いて上記着色水を注入して、噴出孔から着色水を噴霧させた。内視鏡用薬液注入チューブモデルを用いた場合の結果を
図9、市販の内視鏡用散布チューブを用いた場合の結果を
図10に示す。
図9から明らかなように、内視鏡用薬液注入チューブモデルを用いた場合にはハイゼガーゼに押し当てた噴出孔の周辺に着色水がしみている。一方、
図10から明らかなように、市販の内視鏡用散布チューブを用いた場合にはハイゼガーゼに押し当てた噴出孔の周辺に着色水がしみているものの、一部の着色水は漏れてハイゼガーゼにしみこまず、ハイゼガーゼの表面に噴霧されていた。したがって、本発明の内視鏡用薬液注入チューブを用いることで、薬液を漏れることなく噴出孔に接着した消化管組織へ注入できると考えられた。
1…内視鏡用薬液注入チューブ、2…弾性体、3…先端部、4…薬液供給管、5…シリンジコネクター、6…薬液供給部、7…噴出孔、8…深度目盛り、9…噴出方向指示線、10…薬液、11…噴出管、12…内視鏡、13…本体部、14…内視鏡本体側の鉗子口、15…挿入部、16…内視鏡先端部側の鉗子口、17…ガイドチューブ、18…内視鏡本体側のガイド孔、19…フード、20…内視鏡先端部側のガイド孔、21…消化管組織