(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174559
(43)【公開日】2022-11-24
(54)【発明の名称】切削インサート及び刃先交換式回転切削工具
(51)【国際特許分類】
B23C 5/20 20060101AFI20221116BHJP
B23C 5/06 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
B23C5/20
B23C5/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080438
(22)【出願日】2021-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000233066
【氏名又は名称】株式会社MOLDINO
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】植元 晶
(72)【発明者】
【氏名】野下 雅史
(72)【発明者】
【氏名】長島 由光
(72)【発明者】
【氏名】小林 由幸
【テーマコード(参考)】
3C022
【Fターム(参考)】
3C022HH01
3C022HH05
3C022HH12
3C022LL05
(57)【要約】
【課題】本発明は、高能率加工時においても切りくずの衝突に起因する切削抵抗の上昇を抑えることのできる切削インサート、およびこのような切削インサートを備えた刃先交換式切削工具を提供する。
【解決手段】本発明の切削インサートは、着座面に平行な第1平面に対向する方向から見た平面視において、周方向で隣り合う第1切刃と第2切刃との境界から第1切刃に直交する方向の第1平面の突起部までの最短距離をL1、コーナ刃と第1切刃の境界から第1切刃に直交する方向の第1平面までの最短距離をL2とすると、L1<L2の関係を満たし、すくい面は、切刃部と第1平面との間に、第1傾斜面と第2傾斜面を含むブレーカをインサート全周に備え、第1傾斜面は、切刃部側から中心線側へ向かうにしたがって着座面側へ傾斜し、第2傾斜面は第1傾斜面と第1平面の間に形成され且つ第1傾斜面側から中心線側へ向かって着座面側とは反対側へ傾斜する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸回りに回転する工具本体に取り付けられ、厚さ方向に延びる中心線に対し回転対称な多角形板状のポジティブタイプの切削インサートであって、
一対の多角形面の一方を構成するすくい面と、
一対の多角形面の他方を構成する着座面と、
前記すくい面と前記着座面との間を繋ぐ側面と、
前記すくい面と前記側面との交差稜線に形成され、前記すくい面の辺部に位置する第1切刃と、前記第1切刃の一端側に連なる第2切刃と、前記第2切刃の前記第1切刃側とは反対側の端部に連なり前記すくい面のコーナ部に位置するコーナ刃と、を含む切刃部と、
前記厚さ方向に貫通するとともに前記工具本体に取り付けるための取付孔と、
を備え、
前記すくい面には、前記着座面に平行な第1平面が形成され、
前記第1平面は、前記中心線の軸周りに交互に並ぶ直線状部と突起部とからなる外周を有し、
前記第1平面に対向する方向から見た平面視において、周方向で隣り合う前記第1切刃と前記第2切刃との境界から、前記第1切刃に直交する方向の前記第1平面の前記突起部までの最短距離をL1、前記コーナ刃と前記第1切刃の境界から、前記第1切刃に直交する方向の前記第1平面までの最短距離をL2とすると、L1<L2の関係を満たすとともに、
前記すくい面は、前記切刃部と前記第1平面との間に、第1傾斜面と第2傾斜面を含むブレーカをインサート全周に備え、
前記第1傾斜面は、前記切刃部側から前記中心線側へ向かうにしたがって前記着座面側へ傾斜し、
前記第2傾斜面は前記第1傾斜面と前記第1平面の間に形成され、かつ、前記第1傾斜面側から前記中心線側へ向かって前記着座面側とは反対側へ傾斜するよう形成されていることを特徴とする切削インサート。
【請求項2】
前記すくい面の内接円の直径をDとすると、
前記Dと前記L2は、3.0≦D/L2≦6.5の関係を満たす、
請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
前記第1平面に対向する方向から見た平面視において、前記第1傾斜面の幅は前記第2傾斜面の幅よりも広く、かつ、
前記第1傾斜面の角度θ1は前記第2傾斜面の角度θ2よりも小さい、
請求項1又は2に記載の切削インサート。
【請求項4】
前記第1平面に垂直な方向から見て、
隣り合う前記第1切刃の延長線の交点と前記中心線を結んだ直線を第1直線とし、前記第1直線が前記コーナ刃を通過する点を第1頂点としたとき、複数の前記コーナ刃の前記第1頂点を結んだ形状は正多角形を形成し、
前記取付孔から最も離れている前記突起部の頂点を第2頂点としたとき、複数の前記第2頂点を結んだ形状もまた正多角形を形成し、
前記第1頂点を結んだ正多角形と前記第2頂点を結んだ正多角形との間には、前記中心線の回りにおいて位相のずれが生じており、
前記第1直線と、前記第1平面に平行であるとともに前記中心線を通って前記第2頂点を結んだ第2直線と、が角度θ3で前記中心線において交差している、
請求項1から3のいずれか1項に記載の切削インサート。
【請求項5】
前記角度θ3が、3°<θ3<15°の範囲内である、
請求項4に記載の切削インサート。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の切削インサートと、
前記切削インサートが着脱可能に取り付けられ回転軸回りに回転する前記工具本体と、を備える、刃先交換式回転切削工具。
【請求項7】
前記切削インサートが、前記切刃部の半径方向すくい角を負角とするように前記工具本体に取り付けられている、請求項6に記載の刃先交換式回転切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削インサート及び刃先交換式回転切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
このような切削インサートにおいては、切削加工時に切込み深さや切込み幅を大きくすることで加工能率を向上させることが知られている。しかし、切り込み深さや切込み幅を大きくすればするほど切刃によって生成された切りくずの厚さや切りくずの幅は大きくなり、切削抵抗が高くなってしまう。さらに、大きい切りくずが工具外へ排出されず切削インサートにぶつかった場合、切削インサートへ大きな衝撃が加わってしまうことでも切削抵抗が高くなってしまう。
【0003】
そこで、特許文献1には切削インサートによる加工時の切削抵抗を抑えるために、すくい面側における主切刃と着座面との間にブレーカが形成された構成が開示されている。このブレーカは、凹状の湾曲部と、すくい面の中央方向に上り傾斜の第一傾斜面および第二傾斜面から構成されている。また、ブレーカの幅が低切込み時には狭く、深切込み時には広くなるよう形成することによって、切りくず排出性が向上すると記載されている。
【0004】
さらに、特許文献1には、直線状の主切刃をコーナ部に位置する副切刃から離れる方向に下面側に傾斜させ、かつすくい面側の着座面高さを主切刃高さよりも低くすることが開示されている。この構成によって、切りくず詰まりをおこしにくくし、かつ、切削荷重が小さくなることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の場合、ブレーカは凹状の湾曲部から成るすくい面の中央方向に下る傾斜面の面積よりも、第一傾斜面と第二傾斜面を合わせたすくい面の中央方向に上る傾斜面の面積が大きい。加えて、着座面と凹状の湾曲部はほぼ平行に形成されている(
図6)。そのため、切削時に切りくずをブレーカに沿わせた場合、往生の湾曲部の効果は低く、切りくずはすぐにすくい面の中央方向に上る傾斜面に当たることによって、切りくずが切削インサートに勢いよくぶつかり、大きな衝撃を与え、切削インサートに損傷が生じるおそれがあった。
【0007】
また、すくい面側における着座面と主切刃との間には、すくい面およびブレーカが存在するものの、すくい面側における着座面と副切刃との間にはブレーカがない構成となっている。このため、切削時に副切刃によって生成された切りくずがブレーカを介することなくすくい面側における着座面に接触して当該切りくずの排出性が阻害され、切削インサートに損傷が生じたり、切りくずと切削インサートの衝突による切削抵抗が増大したりするおそれがあった。
【0008】
さらに、第一傾斜面と第二傾斜面の両方を使用する領域が深切込み側に存在するため、傾斜面に沿わせるように生成された切りくずは、第一傾斜面と第二傾斜面の角度変化に起因して歪んでしまう可能性がある。そうすると、特許文献1に記載の切削インサートは主切刃よりもすくい面側における着座面高さが低いため、歪んだ切りくずが切刃と被削材の間で噛み込んでしまったり、クランプねじ頭部に詰まってしまったりするおそれがあった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、高能率加工時においても切りくずの衝突に起因する切削抵抗の上昇を抑えることのできる切削インサート、およびこのような切削インサートを備えた刃先交換式切削工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様の切削インサートは、回転軸回りに回転する工具本体に取り付けられ、厚さ方向に延びる中心線に対し回転対称な多角形板状のポジティブタイプの切削インサートであって、一対の多角形面の一方を構成するすくい面と、一対の多角形面の他方を構成する着座面と、前記すくい面と前記着座面との間を繋ぐ側面と、前記すくい面と前記側面との交差稜線に形成され、前記すくい面の辺部に位置する第1切刃と、前記第1切刃の一端側に連なる第2切刃と、前記第2切刃の前記第1切刃側とは反対側の端部に連なり前記すくい面のコーナ部に位置するコーナ刃と、を含む切刃部と、前記厚さ方向に貫通するとともに前記工具本体に取り付けるための取付孔と、を備え、前記すくい面には、前記着座面に平行な第1平面が形成され、前記第1平面は、前記中心線の軸周りに交互に並ぶ直線状部と突起部とからなる外周を有し、前記第1平面に対向する方向から見た平面視において、周方向で隣り合う前記第1切刃と前記第2切刃との境界から、前記第1切刃に直交する方向の前記第1平面の前記突起部までの最短距離をL1、前記コーナ刃と前記第1切刃の境界から、前記第1切刃に直交する方向の前記第1平面までの最短距離をL2とすると、L1<L2の関係を満たすとともに、前記すくい面は、前記切刃部と前記第1平面との間に、第1傾斜面と第2傾斜面を含むブレーカをインサート全周に備え、前記第1傾斜面は、前記切刃部側から前記中心線側へ向かうにしたがって前記着座面側へ傾斜し、前記第2傾斜面は前記第1傾斜面と前記第1平面の間に形成され、かつ、前記第1傾斜面側から前記中心線側へ向かって前記着座面側とは反対側へ傾斜するよう形成されていることを特徴とする。
【0011】
上述の構成によれば、「コーナ刃と第1切刃の境界から、第1平面までの最短距離L2」を、「中心線に直交する方向において、周方向で隣り合う第1切刃と第2切刃との境界から、第1平面の前記突起部までの最短距離L1」よりも大きくなるように第1平面を設けることで、切りくずが第1平面に接触するのを避けることができるので、切りくずと切削インサートの衝突による切削抵抗の増大を防ぐことができる。
【0012】
また、第1平面の外周を第1切刃に対向する大部分は直線状部で形成し、コーナ部付近は突起部で形成することによって、切りくず衝突への対応とインサート製造時の基準面を広くとることで切削インサートの寸法精度を出しやすくすることを両立することができる。本発明は、切刃部と第1平面との距離が遠いほど切りくずが切削インサートにぶつかるおそれが減るが、一方で、第1平面の面積が小さくなるほど基準面もまた減ってしまうという問題を解決するため、切削時に使用頻度の高い第1切刃から生成される切りくずが第1平面に衝突するのを防ぐために第1切刃と第1平面との距離を十分に確保しつつ、コーナ部付近に突起部を形成することでバランスよく基準面の面積を増やしている。
【0013】
さらに、第1平面は、前記中心線に沿う方向において前記切刃部全体よりも前記着座面からの距離が大きい。そのため、万が一、切りくずが工具の外へ排出されなかった場合でも、切りくずが切刃と被削材の間で噛み込んでしまったり、クランプねじ頭部に詰まってしまったりするおそれを減らすことができる。
【0014】
また、上述の構成によれば、切削時に使用する切刃部や切刃長さは切込み深さなどの加工条件によって異なるが、本発明はブレーカが切削インサートの全周に形成されているため、どんな加工条件であっても切りくずはブレーカを介して排出されるため、切削抵抗を抑制することができる。
【0015】
本発明の一態様の切削インサートにおいては、前記すくい面の内接円の直径をDとすると、前記Dと前記L2は、3.0≦D/L2≦6.5の関係を満たす構成としてもよい。
【0016】
上述の構成によれば、D/L2が3.0よりも小さい場合は、切削インサートの大きさに対してL2の長さが十分ではないため、切削時に切りくずが第1平面に衝突するおそれが高くなる。一方で、D/L2が6.5よりも大きい場合は、取付孔周りの第1平面の面積が小さすぎるため、切削インサート製造時の基準面積が十分ではなくなり、寸法精度を確保することが難しくなってしまう。
【0017】
本発明の一態様の切削インサートにおいては、前記第1平面に対向する方向から見た平面視において、前記第1傾斜面の幅は前記第2傾斜面の幅よりも広く、かつ、前記第1傾斜面の角度θ1は前記第2傾斜面の角度θ2よりも小さい構成としてもよい。
【0018】
上述の構成によれば、切りくずは刃先から離れた後に緩やかかつ幅広の第1傾斜面に沿わせることができる。そのため、ブレーカ面と切りくずの衝撃による抵抗を抑えながら切りくずを排出することができる。また、第2傾斜面の幅を狭くすることで、第1傾斜面の幅の確保と第1平面の面積の確保を両立することができる。さらに、第1平面に対する第2傾斜面の角度を大きくすることで、第1平面を切刃部よりも高い位置に形成しやすくなる。
【0019】
本発明の一態様の切削インサートにおいては、前記第1平面に垂直な方向から見て、隣り合う前記第1切刃の延長線の交点と前記中心線を結んだ直線を第1直線とし、前記第1直線が前記コーナ刃を通過する点を第1頂点としたとき、複数の前記コーナ刃の前記第1頂点を結んだ形状は正多角形を形成し、取付孔から最も離れている前記突起部の頂点を第2頂点としたとき、複数の前記第2頂点を結んだ形状もまた正多角形を形成し、前記第1頂点を結んだ正多角形と前記第2頂点を結んだ正多角形との間には、前記中心線の回りにおいて位相のずれが生じており、前記第1直線と、前記第1平面に平行であるとともに前記中心線を通って前記第2頂点を結んだ第2直線と、が角度θ3で前記中心線において交差している構成としてもよい。
【0020】
上述の構成によれば、第1平面とすくい面との間において、中心線回りに位相のずれが生じた形状であるため、第1平面のうち、コーナ部に位置する突起部が切刃部から最も離れることとなり、切削加工時に第1切刃によって生成された切りくずが、第1平面に接触するのを避けることができる。これにより、切削抵抗を抑えることができる。
【0021】
本発明の一態様の切削インサートにおいては、前記角度θ3が、3°<θ3<15°の範囲内である構成としてもよい。
【0022】
上述の構成によれば、位相のずれ量(上記角度θ3)が上記範囲内であることによって、工具本体へ取り付ける際の拘束領域を確保しつつ、第1切刃によって生成された切りくずが第1平面(突起部)に接触するのを防ぐことができる。
【0023】
また、本発明の一態様の刃先交換式回転切削工具は、上記の切削インサートと、前記切削インサートが着脱可能に取り付けられ回転軸回りに回転する前記工具本体と、を備える。
【0024】
本発明の刃先交換式回転切削工具によれば、上述の切削インサートから得られる効果を奏する。
【0025】
また、上述の刃先交換式回転切削工具において、前記切削インサートが、前記切刃部の半径方向すくい角を負角とするように前記工具本体に取り付けられている、構成としてもよい。
【0026】
上述の構成によれば、切刃部の半径方向すくい角を負角とした場合であっても、切刃部の逃げを十分に確保した刃先交換式回転切削工具を提供できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、切込み深さを深くするなど高い加工能率を達成する加工条件においても、切りくずが切削インサートに衝突するのを防ぐことのできる切削インサート、このような切削インサートを備えた刃先交換式切削工具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、切削インサートについてその一実施形態を示す平面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す切削インサートの構成を示す側面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す第1切刃に直交する方向のI-I断面図である。
【
図4】
図4は、切削インサート1のすくい面側の構成を示す平面図である。
【
図5】
図5は、複数の切削インサートと、これらの切削インサートが着脱可能に取り付けられた工具本体とを有する刃先交換式回転切削工具の構成を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、
図5に示す刃先交換式回転切削工具における工具本体の構成を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、
図6に示す工具本体に取り付けられた状態の切削インサートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明を適用した実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴部分をわかりやすくするために、特徴ではない部分を便宜上省略して図示している場合がある。
【0030】
図1は、切削インサート1についてその一実施形態を示す平面図である。
図2は、
図1に示す切削インサート1の構成を示す側面図である。
図3は、
図1の第1切刃21に直交する方向のI-I断面図である。
図4は、切削インサート1のすくい面2側の構成を示す平面図である。
【0031】
図1に示すように、切削インサート1は、厚さ方向に延びる中心線COに対し回転対称な多角形板状(本実施形態では四角形板状)をなしている。なお、以下の説明において、中心線COに沿う方向のことを単に厚さ方向と呼ぶ場合がある。また、中心線COに直交する方向を単に径方向と呼ぶ場合がある。同様に、中心線COを中心とする軸周りの周方向を単に周方向と呼ぶ場合がある。
【0032】
切削インサート1は、一対の多角形面の一方を構成するすくい面2と、一対の多角形面の他方を構成する着座面3と、すくい面2と着座面3との間を繋ぐ側面10と、を備える。
図2に示すように、すくい面2および着座面3は、略正方形状に形成されている。着座面3は、すくい面2の厚さ方向への投影領域の内側に内包される。
【0033】
図1に示すように、すくい面2は、切刃部20と第1平面4との間にブレーカ5を備えている。ブレーカ5は、インサート全周に形成され、切刃部20の刃先に形成されたホーニング6に接続する。
ブレーカ5は、
図3に示すように、切刃部20から中心線CO側へ向かうに従い着座面3(
図2)側へ傾斜する第1傾斜面5aと、中心線CO側へ向かうに従い着座面3(
図2)側とは反対方向(すくい面2側)へ傾斜する第2傾斜面5bとから成る。第2傾斜面5bは、第1傾斜面5aと第1平面4の間に形成されている。
【0034】
切削時に使用する切刃部20や切刃長さは切込み深さなどの加工条件によって異なるが、本実施形態ではブレーカ5が切削インサート1の全周に形成されているため、切削インサート1がどんな加工条件で使用されても、切りくずはブレーカ5を介して排出されるため、切削抵抗を抑制することができる。
【0035】
図3に示すように、ブレーカ5の第1傾斜面5aと第1平面4との成す角度θ1は10°である。また、ブレーカ5の第2傾斜面5bと第1平面4との成す角度θ2は30°である。
図3に示すブレーカ5は、第1傾斜面5aと第2傾斜面5bとの間を円弧でつないだ形状とされているが、第1傾斜面5aと第2傾斜面5bとを滑らかにつないでいれば円弧に限られない。
【0036】
また、第1傾斜面5aにおいてホーニング6側の端部は多段構成となっているが、この構成はあってもなくてもよい。多段面8を備える場合は、多段面8と第1平面4の成す角θ4は、第1傾斜面5aと第1平面4の成す角度θ1よりも小さいこととし、
図3において多段面8と第1平面4の成す角θ4は、5°以下である。
【0037】
本実施形態におけるブレーカ5は、
図1に示すように、第1平面4に対向する方向から見た平面視において、径方向における第1傾斜面5aの幅W5aは、第2傾斜面5bの幅W5bよりも広い(
図3も併せて参照)。また、
図3に示すように、第1傾斜面5aの角度θ1は、第2傾斜面5bの角度θ2よりも小さいことが好ましい。
【0038】
これにより、切りくずは、刃先から離れた後に緩やかかつ幅広の第1傾斜面5aに沿わせることができる。そのため、ブレーカ面と切りくずの衝突による抵抗を抑えながら切りくずを排出することができる。また、径方向における第2傾斜面5bの幅を狭くすることで、「第1傾斜面5aの幅W5aの確保」と「第1平面4の面積の確保」を両立することができる。さらに、第1平面4に対する第2傾斜面5bの角度を大きくすることで、第1平面4を切刃部20よりも高い位置に形成しやすくなる。
【0039】
切削インサート1は、
図5に示す工具本体31の先端部にクランプネジ(固定部材)38により着脱可能に取り付けられる。
図1に示すように、切削インサート1の中央には、クランプネジ38が挿通される取付孔7が貫通する。取付孔7は、中心線COと同軸をなすとともに中心線COに沿って延びる。
【0040】
すくい面2と側面10との交差稜線には、切刃部20が設けられている。切刃部20は、第1切刃21と、第1切刃21の一端側に連なる第2切刃22と、第2切刃22の第1切刃21側とは反対側の端部に連なるコーナ刃23と、を含む。第1切刃21、第2切刃22およびコーナ刃23は、すくい面2の平面視において、右回り(時計回り)にこの順で配置される。
【0041】
本実施形態の切削インサート1において、第1切刃21、第2切刃22およびコーナ刃23から構成される切刃部20は、中心線COを中心とする周方向に90°毎に4つ設けられている。4つの切刃部20は、中心線COを中心とする回転対称に配置されている。周方向に沿って配置された4つの切刃部20どうしは互いに連続する。
【0042】
第1切刃21は、すくい面2の辺部に位置し、すくい面2の平面視において、直線状に延びる。第1切刃21は、切刃部20の大部分を構成する。第1切刃21は、切削インサート1を工具本体31に取り付けた状態(
図5参照)において、工具本体31の回転方向TD側を向き被削材と対向する。
【0043】
コーナ刃23は、すくい面2のコーナ部に位置する。コーナ刃23は、
図1に示す平面視において円弧形状を有する。一方で、第1切刃21および第2切刃22は、直線状に延びる。そのため、コーナ刃23と、第1切刃21および第2切刃22との境界は、切刃部20における直線形状の部分と円弧形状の部分との境界によって判断される。
【0044】
第2切刃22は、第1切刃21とコーナ刃23との間に位置する。第2切刃22は、第1切刃21とコーナ刃23との間で直線状に延びる。第2切刃22は、第1切刃21の延在方向に対して、第1切刃21からコーナ刃23へ行くにしたがって中心線COに近づくように傾斜して延びる。したがって、第1切刃21と第2切刃22との境界部は、外側に向かってわずかに突出する形状となっている。
【0045】
本実施形態では、切刃部20の強度を保持するための刃先処理が施されており、切刃部20の刃先先端にホーニング6が形成されている。ホーニング6は、4つの切刃部20の刃先先端のそれぞれに形成されており、すくい面2の外周全体に存在している。ホーニング6の形状として本実施形態では、面取り形状のネガホーニングが形成されているが、ラウンド形状の丸ホーニング、水平形状のフラットホーニング等、他のホーニング処理を施した形状であってもよい。ホーニング量は、所望の刃先強度、すくい面摩耗量、切削抵抗等を考慮して適宜設定する。
【0046】
図1に示すように、本実施形態において、すくい面2は、取付孔7の周囲全体に亘って設けられた第1平面4と、第1平面4と切刃部20(ホーニング6)との間に存在するブレーカ5と、を有している。第1平面4は、切刃部20(ホーニング6)には接続されておらず、その外周全体が切刃部20(ホーニング6)から中心線CO側へ離れている。
【0047】
図2に示すように、第1平面4は、着座面3に平行な面であるとともに、切削インサート1の厚さ方向(中心線COに沿う方向)において、着座面3からの距離が切刃部20よりも大きく、切刃部20よりも突出した面である。
【0048】
図1に示すように、ブレーカ5は、第1平面4の周囲全体に亘って設けられており、切刃部20から中心線COに向かうに従って着座面3側へ傾斜する第1傾斜面5aを有する。本実施形態のブレーカ5の第1傾斜面5aは、4つの切刃部20(ホーニング6)に連なる構成とされ、すくい面2の内側(中心線CO側)に向かうに従って着座面3側になだらかに傾斜した後、第1平面4に向かって突出するように急激に傾斜して第1平面4の外周縁に連なっている。
上記取付孔7は第1平面4及び着座面3に開口する。
【0049】
本実施形態における切削インサート1は、ポジタイプの切削インサートであることから、
図2に示すように、側面10を構成する逃げ面11および連結面15は、略逃げ角に沿った傾斜面となっている。逃げ面11と連結面15との間には、境界線14が位置する。すなわち、側面10は、境界線14により逃げ面11と連結面15とに区画されている。
【0050】
逃げ面11と連結面15とは、切削インサート1の中心線COに沿う方向で互いに隣り合う。逃げ面11は、側面10において境界線14よりすくい面2側に位置する。また、連結面15は、側面10において、境界線14より着座面3側に位置する。
【0051】
逃げ面11は、第1切刃21に連なる第1領域11Aと、第2切刃22に連なる第2領域11Bと、コーナ刃に連なる11Cとに区画される。第1領域11A、第2領域11Bおよび第3領域11Cは、中心線COの周方向に沿って並んでいる。
【0052】
境界線14は、側面10において、厚さ方向に湾曲しながら中心線COの周方向に沿って延びる。境界線14は、第1切刃21に沿って延びる第1区間14aと、第2切刃22に沿って延びる第2区間14bと、コーナ刃23に沿って延びる第3区間14cと、を含む。側面10において、第1区間14aは連結面15と逃げ面11の第1領域11Aとを区画し、第2区間14bは連結面15と第2領域11Bとを区画し、第3区間14cは連結面15と第3領域11Cとを区画する。
図2に示すように、第2区間14bは、第1区間14aよりすくい面2側に位置する。また、第3区間14cは、第1区間14aより着座面3側に位置する。
【0053】
図5に示すように、クランプネジ38の締め付けることにより、工具本体31に切削インサート1を取り付ける。切削インサート1を工具本体31に取り付ける際に、逃げ面11の第1領域11Aと、着座面3とは、インサート取付座33に接触する拘束部として機能する。切削インサート1は、クランプネジ38の締めつけにより、着座面3が工具本体31のインサート取付座33に対して押し付けられるとともに、逃げ面11のうちすくい面2側に位置する第1領域11A(
図2参照)が工具本体31に接触することで、工具本体31に拘束される。これにより、工具本体31における軸回り及び径方向において切削インサート1が位置決めされる。逃げ面11のうち、切刃部20に近い第1領域11Aが工具本体31に拘束されることにより、切刃部20に付与する切削力に対して切削インサート1を十分に強固に拘束することが可能となる。
【0054】
一方で、工具本体31には、切削インサート1のすくい面2を押さえるクランプ駒(不図示)が設けられている。クランプ駒は、切削インサート1を介して工具本体31側のインサート取付座33(
図6)に対向し、切削インサート1をインサート取付座33に向かって押圧する。本実施形態において、クランプ駒は、すくい面2に存在する第1平面4を押さえている。クランプ駒により、切削加工時における切削インサート1の浮き上がりを抑制することができる。
【0055】
本実施形態の切削インサート1は、4コーナ型の形状をなすインサートである。切削インサート1は、回転対称に配置された切刃部20が所定の摩耗量に達した際に、中心線COの周りに90°回転されて他の切刃部20を被削材に対向させるように工具本体31に再装着される。
【0056】
次に、本実施形態における切削インサート1のすくい面2側の形状について詳述する。
図1に示すように、本実施形態のすくい面2には、取付孔7の周囲全体に、着座面3に平行な第1平面4が存在する。第1平面4は、
図2に示すように、切刃部20よりも着座面3からの距離が大きく、切刃部20よりも外側へ突出している。
【0057】
第1平面4は、中心線COの軸回りに交互に並ぶ直線状部4aと突起部4bとからなる外周を有する。第1平面4の外周を構成する直線状部4a及び突起部4bは、中心線COを中心とする周方向に90°毎に4つずつ設けられている。4つの直線状部4aどうしは互いに等しい形状をなし、4つの突起部4bにおいても互いに等しい形状をなす。
【0058】
直線状部4a及び突起部4bは、周方向に交互に配置され、互いに連続している。中心線COに交差する方向において、各直線状部4aは各第1切刃21にそれぞれ対向し、各突起部4bは各第2切刃22及びコーナ刃23にそれぞれ対向する。
【0059】
図1に示すように第1平面4に垂直な方向から見て、直線状部4aは、全体的に直線状であるが、長さ方向の中央部分が外側(第1切刃21側)へ僅かに湾曲した形状をなす。
突起部4bは、取付孔7側に位置する1つ又は複数の仮想中心点を中心とする円弧形状をなし、第2切刃22及びコーナ刃23へ向かって直線状部4aよりも外側へ突出する部分である。
【0060】
また、突起部4bは、周方向の両側で隣り合う一対の直線状部4aとそれぞれ接続される接続端部4b1を一対有している。これら一対の接続端部4b1は、第1切刃21側に位置する1つ又は複数の仮想中心点を中心とする円弧形状をなし、取付孔7側に向かって直線状部4aよりも内側へ僅かに突出する部分である。
【0061】
本実施形態において、突起部4bは、複数の曲率からなる円弧形状であってもよいし、一つの曲率からなる円弧形状であってもよい。また、一部に短い直線が混在した円弧形状であってもよい。本実施形態では、例えば、突起部4bの頂点(後述する第2頂点q2)に直線部4b2が存在する。
【0062】
本実施形態では、第1平面4の四隅に突起部4bをそれぞれ設けることによって、クランプ駒(不図示)によって押圧される領域(クランプ駒が接触する領域)、いわゆる拘束領域を確保することができる。取付孔7の径方向において、当該取付孔7と第1切刃21に対向する直線状部4aとの間の最大幅W1よりも、上記取付孔7と突起部4b(第2頂点q2)との間の最大幅W2の方が大きく、W1<W2の関係を満たしている。
【0063】
第1平面4のうち、第1切刃21に対向する直線状部4a側の幅W1を大きくすると、被削材の切削時に第1切刃21による生成される切りくずの大部分が上記直線状部4aに接触するおそれがあるため、直線状部4aは第1切刃21から離れている方が好ましい。
一方で、突起部4b側はクランプ駒によって押圧される領域であることから広い押圧領域が必要となる。本実施形態では、第1平面4のうち、クランプ駒による押圧領域を確保しつつ、切りくずが接触しないようにするために、多角形状のすくい面2に対して、すくい面2よりも小さい多角形状をなす第1平面4が中心線COの回りにズレた位置関係となっている。
【0064】
図4中の破線で示すように、第1平面4は、4つの突起部4bの各第2頂点q2を結んだ形状が正多角形とされている。本実施形態において、すくい面2の外形と第1平面4の外形との間には、中心線COの回りにおいて「位相のずれ」が設けられている。
【0065】
ここで、「位相のずれ」とは、
図4に示す2つの正多角形20T及び正多角形4Tどうしにおける軸回りのずれ量である。具体的に、第1平面4に垂直な方向から見て、隣り合う第1切刃21の延長線の交点Qと中心線COとを結んだ直線を第1直線M1とし、第1直線M1がコーナ刃23を通過する点を第1頂点q1としたとき、複数のコーナ刃23の第1頂点q1を結んだ形状が正多角形20Tである。
また、第1平面4のうち、取付孔7から最も離れている突起部4bの頂点を第2頂点q2としたとき、4つの第2頂点q2を結んだ形状が正多角形4Tである。
4つの第1頂点q1を結んで形成される正多角形20Tと、4つの第2頂点q2を結んで形成される正多角形4Tとの間には、中心線COの回りにおいて位相のずれが生じており、第1直線M1と第2直線M2とが角度θ3で中心線COにおいて交差している。
【0066】
ずれ量である角度θ3は、3°<θ3<15°の範囲内であることが好ましく、5°<θ3<10°の範囲内であることがより好ましい。
【0067】
そのため、すくい面2(切刃部20)側のコーナ刃23の第1頂点q1と、第1平面4の突起部4bの第2頂点q2とは、取付孔7の径方向において互いに対向しない。このように、中心線COの回りにおいて、すくい面2と第1平面4との位相のずれがあることによって、第1平面4と切刃部20との間の距離は一定ではなく、互いに最も近づく位置と最も遠ざかる位置とが周方向に存在することになる。
【0068】
図4に示すように、中心線COに直交する方向において、周方向で隣り合う第1切刃21と第2切刃22との境界Aから第1平面4の突起部4bまでの最短距離をL1とし、コーナ刃23と第1切刃21との境界Bから第1平面4の突起部4bまでの最短距離をL2とすると、L1<L2の関係を満たす。
【0069】
すなわち、上記位相のずれによって、第1平面4が第1切刃21と第2切刃22との境界Aにおいて切刃部20に最も近づいているとともに、コーナ刃23と第1切刃21との境界Bにおいて第1平面4が切刃部20から最も離れた位置関係となっている。
【0070】
このように、第1平面4のうち、コーナ刃23に位置する突起部4bが切刃部20から最も離れることとなり、切削加工時に第1切刃21によって生成された切りくずが、第1平面4に接触するのを避けることができる。これにより、切削抵抗を抑えることができる。
【0071】
本実施形態においては、
図4に示すように、すくい面2の内接円100の直径をDとすると、直径Dと上記最短距離L2は、3.0≦D/L2≦6.5の関係を満たすことが好ましい。D/L2が3.0よりも小さい場合は、切削インサート1の大きさに対して上記最短距離L2の長さが十分ではないため、切削時に切りくずが第1平面4に衝突するおそれが高くなる。一方で、D/L2が6.5よりも大きい場合は、取付孔7の周りの第1平面4の面積が小さすぎるため、切削インサート1の製造時の基準面積が十分ではなくなり、切削インサート1の寸法精度を確保することが難しくなってしまう。
【0072】
(刃先交換式回転切削工具の構成)
図5は、複数の切削インサート1と、これらの切削インサート1が着脱可能に取り付けられた工具本体31とを有する刃先交換式回転切削工具30の構成を示す斜視図である。
図6は、
図5に示す刃先交換式回転切削工具30における工具本体31の構成を示す斜視図である。
図7は、
図6に示す工具本体に取り付けられた状態の切削インサートを示す図。
【0073】
図5及び
図6に示すように、刃先交換式回転切削工具30は、工具本体31が回転軸JOを中心として回転方向TDに回転することで、フライス加工を行う。
図5に示すように、刃先交換式回転切削工具30は、回転軸JOの軸回りに回転する工具本体31と、工具本体31に取り付けられる5つの切削インサート1と、を有する。
【0074】
工具本体31の先端部には、
図5及び
図6に示すように、4つのインサート取付座33が設けられている。インサート取付座33の数は、刃先交換式回転切削工具の工具径によって増減する。このため、工具径が小さい場合はインサート取付座33の数が少なくなり、反対に工具径が大きい場合はインサート取付座33の数が多くなる。インサート取付座33は、
図5に示すように、取付座底面33aと、一対の取付座壁面33bと、有する。
【0075】
取付座底面33aは、切削インサート1の着座面3と略等しい面積の正方形状をなすとともに回転方向TDを向く。一対の取付座壁面33bは、取付座底面33aの2辺から回転方向TD側にそれぞれ延びる。取付座底面33aの略中央には、ネジ孔33cが形成されている。
【0076】
取付座底面33aは、切削インサート1の着座面3に対向して接触する。また、取付座壁面33bは、切削インサート1の四方に形成された側面10に対向して接触する。すなわち、インサート取付座33における取付座底面33aおよび取付座壁面33bは、切削インサート1の着座面3および逃げ面11と接触する。
【0077】
切削インサート1は、工具本体31のインサート取付座33に対してクランプネジ38を用いて取り付けられている。具体的に切削インサート1は、取付孔7内に挿入されたクランプネジ38が、取付座底面33aの中央に形成されたネジ孔33cに締め付けられることで、工具本体31に取り付けられる。
【0078】
また、刃先交換式回転切削工具30には、
図5には示していないが、切削インサート1のすくい面2側を抑えるクランプ駒を設けてもよい。クランプ駒は、切削加工時の切削インサート1の浮き上がりを抑制する。
【0079】
本実施形態の切削インサート1は、着座面3を工具本体31の取付座底面33aに密着させるとともに、周方向に隣接する2つの逃げ面11を取付座壁面33bに当接させて着座させられる。さらに、クランプネジ38をネジ孔33cに挿入することにより、着座面3が取付座底面33aに押し付けられ、逃げ面11(第1領域11A)が取付座壁面33bに押し付けられる。
【0080】
本実施形態の切削インサート1は、すくい面2に第1平面4とブレーカ5とが存在した形状とされているとともに、すくい面2と第1平面4との間には、中心線COの回りに上記角度θ3のずれ量で「位相のずれ」が生じた構成とされている。これにより、第1平面4における突起部4b側にクランプ駒の接触領域(拘束領域)を確保しつつ、切刃部20と第1平面4との距離を部分的に大きくすることができる。つまり、第1平面4のうち、コーナ部に位置する突起部4bが、切刃部20(第1切刃21とコーナ刃23との境界B)から最も離れた形状となる。
【0081】
そのため、
図5に示すように工具本体31に切削インサート1を取り付けた状態においては、
図7に示すように、刃先交換式回転切削工具30の最外周に位置する各切削インサート1のコーナ刃23A(23)と被削材90の加工面90aとの間の距離が最も大きくなり、切削加工時に第1切刃21によって生成された切りくずが第1平面4、特にコーナ部(突起部4b)に接触するのを避けることができる。これにより、切りくずの排出性が阻害されず、切削抵抗を抑えることが可能となる。
また、位相のずれ量(上記角度θ3)が上記範囲内であることによっても、切削インサート1を工具本体31へ取り付ける際の拘束領域を確保しつつ、第1切刃21によって生成された切りくずが第1平面4(突起部4b)に接触するのを防ぐことができる。
【0082】
さらに、ブレーカ5によって切りくずが好適にカールさせた後に排出されるので、切削インサート1と被削材との間において切りくずの噛み込みを防ぐことができる。これにより、切削加工時における切りくず排出性を高めることができる。
【0083】
本実施形態の切削インサート1によれば、難削材の加工時であっても切りくず排出性が高いため、切込み幅や切込み深さを大きく設定することができる。これにより、高い加工能率を達成する加工条件においても切りくずが切削インサートに衝突するのを防ぐことができ、切削インサート1の本来の性能を十分に発揮することが可能である。
【0084】
以上に、本発明の実施形態を説明したが、実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはない。
【符号の説明】
【0085】
1…切削インサート
2…すくい面
3…着座面
4…第1平面
4a…直線状部
4b…突起部
5…ブレーカ
5a…第1傾斜面
5b…第2傾斜面
6…ホーニング
7…取付孔
10…側面
20…切刃部
21…第1切刃
22…第2切刃
23(23A)…コーナ刃
30…刃先交換式回転切削工具
31…工具本体
A…第1切刃と第2切刃との境界
B…コーナ刃と第1切刃との境界
CO…中心線
JO…回転軸
M1…第1直線
M2…第2直線
q1…第1頂点
q2…第2頂点
θ1…第1傾斜面5aと第1平面4の成す角
θ2…第2傾斜面5bと第1平面4の成す角
θ3…角度(ずれ量)