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特開2022-174564バナジウム化合物の製造方法及び製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174564
(43)【公開日】2022-11-24
(54)【発明の名称】バナジウム化合物の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   C01G 31/00 20060101AFI20221116BHJP
   C22B 7/02 20060101ALI20221116BHJP
   C22B 3/04 20060101ALI20221116BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20221116BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
C01G31/00
C22B7/02 B
C22B3/04
C22B3/22
C22B3/44 101Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080443
(22)【出願日】2021-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】514132268
【氏名又は名称】日本管機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西野 毅
(72)【発明者】
【氏名】政本 学
(72)【発明者】
【氏名】北川 雄太
(72)【発明者】
【氏名】大慶 美南海
(72)【発明者】
【氏名】西出 勉
(72)【発明者】
【氏名】高橋 博
【テーマコード(参考)】
4G048
4K001
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AB08
4G048AC06
4G048AE02
4K001AA28
4K001BA14
4K001DB07
4K001DB08
4K001DB22
(57)【要約】
【課題】高純度バナジウム化合物を、効率よく、高い回収率で製造する方法の提供。
【解決手段】この製造方法は、硫安分と、硫酸と、バナジウムと、を少なくとも含有する原料灰に、アルカリ及び水、又はアルカリ溶液を添加して、バナジウムを液相に浸出させ、バナジウムを含むアルカリ浸出液を得る、アルカリ抽出工程(ステップ12)と、アルカリ浸出液を固液分離して、バナジウムを含む浸出ろ液を得る、第一固液分離工程(ステップ14)と、浸出ろ液に、バナジウム化合物に対する貧溶媒を添加してバナジウム化合物を析出させる、晶析工程(ステップ16)と、バナジウム化合物を含む析出物を固形分として回収する、第二固液分離工程(ステップ18)と、を含んでいる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸アンモニウム及び/又は硫酸水素アンモニウムからなる硫安分と、硫酸と、バナジウムと、を少なくとも含有する原料灰に、アルカリ及び水、又はアルカリ溶液を添加して、前記バナジウムを液相に浸出させ、バナジウムを含むアルカリ浸出液を得る、アルカリ抽出工程と、
前記アルカリ浸出液を固液分離して、バナジウムを含む浸出ろ液を得る、第一固液分離工程と、
前記浸出ろ液に、バナジウム化合物に対する貧溶媒を添加してバナジウム化合物を析出させる、晶析工程と、
前記バナジウム化合物を含む析出物を固形分として回収する、第二固液分離工程と、を含む、バナジウム化合物の製造方法。
【請求項2】
前記貧溶媒が、アルコール類である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記浸出ろ液に対する前記貧溶媒の添加量が、20質量%以上である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記晶析工程前に、前記浸出ろ液を蒸発濃縮する蒸発濃縮工程を、さらに含む、請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記蒸発濃縮工程後の晶析工程では、前記蒸発濃縮後の浸出ろ液に対して、前記貧溶媒を20質量%以上添加する、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
硫酸アンモニウム及び/又は硫酸水素アンモニウムからなる硫安分と、硫酸と、バナジウムと、を少なくとも含有する原料灰に、アルカリ及び水、又はアルカリ溶液を添加して、前記バナジウムを液相に浸出させ、バナジウムを含むアルカリ浸出液を得る、アルカリ抽出手段と、
前記アルカリ浸出液を固液分離して、バナジウムを含む浸出ろ液を得る、第一固液分離手段と、
前記浸出ろ液に、バナジウム化合物に対する貧溶媒を添加してバナジウム化合物を析出させる、晶析手段と、
前記バナジウム化合物を含む析出物を固形分として回収する、第二固液分離手段と、を備えている、バナジウム化合物の製造装置。
【請求項7】
前記貧溶媒の添加量を、前記浸出ろ液に対して、20質量%以上に調整する調整手段を、さらに備えている、請求項6に記載の製造装置。
【請求項8】
前記浸出ろ液に前記貧溶媒を添加する前に、この浸出ろ液を蒸発濃縮する蒸発濃縮手段を、さらに備えている、請求項7に記載の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バナジウム化合物の製造方法及び製造装置に関する。詳細には、本発明は、燃焼灰などからバナジウム化合物を分離するための製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バナジウムは、大型蓄電池であるレドックス・フロー電池の主要構成物である電解液の原料として使用されている。バナジウムを含むレドックス・フロー電池(バナジウム・レドックス・フロー電池)では、電解液の構成物として、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)などの夾雑金属化合物を含まない安価な高純度バナジウムが求められている。
【0003】
特許文献1では、燃焼灰を原料として、鉄等の夾雑金属化合物の少ないバナジウム化合物を回収する技術が提案されている。この方法では、焼却灰をアルカリ性溶液に浸漬し、焼却灰からバナジウムをアルカリ性溶液中に浸出させて浸出液スラリーを得るアルカリ浸出工程と、アルカリ浸出工程で得られた浸出液スラリーを固液分離し、不溶物を除去して浸出液を得る固液分離工程と、固液分離後の浸出液に酸を添加し酸性にするpH調整工程と、pH調整後の浸出液に析出物が析出するまで熟成する熟成工程と、熟成工程後の浸出液から析出物を分離する分離工程と、を有する。
【0004】
特許文献2には、集塵機灰を水で洗浄しながらpH調整を行った後、洗浄残渣と洗浄廃水とに固液分離する第1工程と、洗浄残渣にアルカリ溶液を添加して加熱した後、第1ろ液と第1ろ過残渣とに固液分離する第2工程と、第1ろ液中からバナジン酸アルカリを析出させた後、第2ろ液と第2ろ過残渣とに固液分離する第3工程と、第2ろ過残渣を酸で中和するとともに、洗浄廃水を混合して、生成した五酸化バナジウムを含む第3ろ過残渣を固液分離により取り出す第4工程と、第3ろ過残渣をか焼還元して四酸化二バナジウムを生成する第5工程と、四酸化二バナジウムを硫酸に溶解して硫酸バナジル電解液を製造する第6工程と、を有するレドックス・フロー電池用電解液の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2017/208471号
【特許文献2】特開2019-46723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
燃焼灰は、原油など重質油を常圧蒸留した常圧蒸留残渣油や減圧蒸留して得られる減圧蒸留残渣油、オイルコークス、オイルサンドなどを燃焼したものであり、バナジウム(V)の他に、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)などの複数の金属が含まれる。通常、燃焼灰中のバナジウム含量(濃度)は少ない。燃焼灰から、選択的にバナジウムを高収率で浸出液に抽出するためには、固形分(燃焼灰)に対して多くのアルカリ溶液を投入する必要があり、実用的な安価な処理コストを達成することが困難であった。
【0007】
特許文献1の方法によれば、多くのアルカリを含む浸出液のpH調整のため、多くの酸性化薬剤が必要であり、薬剤コスト増加の要因となっている。また、バナジウムを高収率で回収するために熟成工程が行われており、製造効率の低下をもたらしている。さらには、熟成工程後に析出物を分離した浸出液中に残存するバナジウムを回収するために、これをアルカリ浸出工程にリサイクルすることが好ましいが、浸出液が酸性に調整されているため、再度アルカリ溶液の投入が必要となり、多大なコストや手間がかかるという問題があった。
【0008】
特許文献2では、バナジウムを高収率で回収するために、アルカリ溶液添加後に加熱処理が行われており、エネルギー的な負担が生じている。また、特許文献2によれば、第3工程で得られる第2ろ液を回収して、第2工程のアルカリ溶液として再利用することにより、薬剤コストを低減する工夫がなされているが、バナジウム源である燃焼灰に硫酸イオンが多く含まれている場合、結果的に、得られる第2ろ過残渣中の硫酸アルカリ塩が増加して、製品純度低下の要因となっている。
【0009】
例えば、アルカリ浸出液からバナジウムを含む固形分(ケーキ)として回収する方法として、固液分離後のろ液を蒸発濃縮して冷却晶析する方法が知られている。この手法において、バナジン酸アルカリ塩と硫酸アルカリ塩との溶解度差を利用することにより、夾雑物である硫酸アルカリ塩含有量は低減されうる。しかし、この方法によれば、ろ液を加熱して蒸発濃縮した後、所定温度まで冷却するという精密な温度制御が必要であり、エネルギー負担が増加することに加えて、バナジウム化合物の回収率が低いことから、製造効率の点で課題となっていた。
【0010】
本発明の目的は、レドックス・フロー電池用電解液の原料に適用しうる純度のバナジウム化合物を、効率よく、高い回収率で得ることができる製造方法及び製造装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、バナジウムを含む溶液中への貧溶媒の添加により、オルトバナジン酸ナトリウム(V)等のバナジウム化合物の溶解度が急激に低下して、バナジウム化合物が速やかに析出することに着目して、本発明を完成させた。
【0012】
即ち、本発明に係るバナジウム化合物の製造方法は、
(1)硫酸アンモニウム及び/又は硫酸水素アンモニウムからなる硫安分と、硫酸と、バナジウムと、を少なくとも含有する原料灰に、アルカリ及び水、又はアルカリ溶液を添加して、バナジウムを液相に浸出させ、バナジウムを含むアルカリ浸出液を得る、アルカリ抽出工程、
(2)アルカリ浸出液を固液分離して、バナジウムを含む浸出ろ液を得る、第一固液分離工程、
(3)浸出ろ液に、バナジウム化合物に対する貧溶媒を添加してバナジウム化合物を析出させる、晶析工程、
(4)バナジウム化合物を含む析出物を固形分として回収する、第二固液分離工程
を含んでいる。
【0013】
好ましくは、貧溶媒は、アルコール類である。好ましくは、浸出ろ液に対する貧溶媒の添加量は、20質量%以上である。
【0014】
好ましくは、この製造方法は、晶析工程前に、浸出ろ液を蒸発濃縮する蒸発濃縮工程を、さらに含む。好ましくは、蒸発濃縮工程後の晶析工程において、蒸発濃縮後の浸出ろ液に対して、貧溶媒を20質量%以上添加する。
【0015】
他の観点から、本発明に係るバナジウム化合物の製造装置は、硫酸アンモニウム及び/又は硫酸水素アンモニウムからなる硫安分と、硫酸と、バナジウムと、を少なくとも含有する原料灰に、アルカリ及び水、又はアルカリ溶液を添加して、前記バナジウムを液相に浸出させ、バナジウムを含むアルカリ浸出液を得る、アルカリ抽出手段と、アルカリ浸出液を固液分離して、バナジウムを含む浸出ろ液を得る、第一固液分離手段と、浸出ろ液に、バナジウム化合物に対する貧溶媒を添加してバナジウム化合物を析出させる、晶析手段と、バナジウム化合物を含む析出物を固形分として回収する、第二固液分離手段と、を備えている。
【0016】
好ましくは、この製造装置は、貧溶媒の添加量を、浸出ろ液に対して、20質量%以上に調整する調整手段を、さらに備えている。
【0017】
好ましくは、この製造装置は、浸出ろ液に貧溶媒を添加する前に、この浸出ろ液を蒸発濃縮する蒸発濃縮手段を、さらに備えている。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る製造方法では、晶析工程において、バナジウム化合物に対する貧溶媒を添加してバナジウム化合物を析出させる貧溶媒晶析法を用いる。本発明に係る製造装置は、バナジウム化合物に対する貧溶媒を添加してバナジウム化合物を析出させる晶析手段を備えている。この製造方法及び製造装置によれば、精密な温度制御を要することなく、高い回収率で、バナジウム化合物を含む析出物を回収することができる。本発明によれば、高純度のバナジウム化合物を、効率よく安定して製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1(a)は、本発明の一実施形態に係るバナジウム化合物の製造方法が示されたフローチャートであり、図1(b)は、図1(a)の各工程における成分の推移を示す模式図である。
図2図2は、メタノール添加によるオルトバナジン酸ナトリウム(V)回収率の変化を示すグラフである。
図3図3は、エタノール添加によるオルトバナジン酸ナトリウム(V)回収率の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。本発明は、その要旨を変更しない範囲で、適宜変更して実施することが可能である。なお、本願明細書において特に言及しない限り、「X~Y」は「X以上Y以下」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。
【0021】
本発明のバナジウム化合物の製造方法は、バナジウム及び/又はバナジウム化合物を含有する原料灰から、バナジウム化合物を回収するための方法である。このような原料灰としては、例えば、重質油、常圧蒸留残渣油、減圧蒸留残渣油などの燃焼灰、焼却ボイラ灰、部分酸化灰、石油コークス灰、オイルサンドの残渣灰などを挙げることができる。
【0022】
本発明に係るバナジウム化合物の製造方法は、アルカリ抽出工程、第一固液分離工程、晶析工程及び第二固液分離工程を、必須の工程として含んでいる。この製造方法の晶析工程では、貧溶媒晶析法が用いられる。好ましくは、この製造方法は、付加的な工程として、晶析工程前の蒸発濃縮工程を含む。
【0023】
図1は、本発明の好ましい一実施形態に係るバナジウム化合物の製造方法を示しており、(a)はバナジウム化合物の製造方法の工程を示すフローチャート、(b)は(a)の各工程における成分の推移を示す模式図である。図1(b)中、「バナ」は「バナジウム」を意味し、「Naバナ」は「オルトバナジン酸ナトリウム(NaVO)」を意味する。「硫安」は、硫酸アンモニウム((NHSO)及び/又は硫酸水素アンモニウム(NHHSO)からなり、硫安分とも称される。
【0024】
図1(a)に示される通り、この実施形態では、まず、原料灰として燃焼灰が準備される(ステップ10)。続いて、アルカリ抽出工程(ステップ12)、第一固液分離工程(ステップ14)、蒸発濃縮工程(ステップ22)、晶析工程(ステップ16)及び第二固液分離工程(ステップ18)が、順次、実施されて、バナジウム化合物が回収される(ステップ20)。以下、各工程について詳細に説明する。
【0025】
(準備工程:ステップ10)
前述した通り、この準備工程では、燃焼灰が準備される(ステップ10)。燃焼灰をそのまま原料灰として使用してもよいし、水などの溶媒に溶解してスラリー状にしたものを原料灰として使用してもよい。
【0026】
この製造方法において、原料灰は、硫安分と、硫酸と、バナジウムと、を少なくとも含んでいる。図1(b)(ステップ10)に示される通り、この実施形態における原料灰(燃焼灰)に含まれる成分は、炭素、硫安、硫酸及びバナジウムである。
【0027】
原料灰に含まれるバナジウムは、3価、4価、5価の様々な価数の化合物の形態をとっている。具体的にはNH(OH)(SO、VOSO・5HO、V等である。一般に、原料灰に含まれるバナジウムは、0.1~30質量%程度であり、より一般的には1~10質量%程度である。
【0028】
原料灰に含まれる硫安分は、通常、質量比で20~60%程度であり、より一般的には30~50%程度である。炭素は、未燃焼カーボンを主成分とする非水溶性固形物(SS分)であり、その含有量は乾物当たり5~90質量%程度であり、より一般的には30~70質量%程度である。
【0029】
図示されないが、原料灰には、バナジウム以外の他の元素(金属夾雑物)が含まれる場合がある。このような夾雑物の例として、鉄、マグネシウム、ニッケル、コバルト、モリブデン、マンガン、チタン、銅、亜鉛、パラジウム、白金、リン、硫黄等が挙げられる。これら金属夾雑物の含有量は、元素の種類にもよるが、0.1~20質量%程度であり、より一般的には1~10質量%程度である。
【0030】
(アルカリ抽出工程:ステップ12)
アルカリ抽出工程では、原料灰(原料灰そのもの又は原料灰スラリー)に、アルカリ及び水、又はアルカリ溶液を添加して、液相にバナジウムを浸出させて、バナジウムを含むアルカリ浸出液を得る(ステップ12)。図1(b)(ステップ12)に示される通り、この実施形態では、アルカリとして、水酸化ナトリウムを添加する。
【0031】
本工程で使用するアルカリとしては、特に限定されないが、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物が好ましい。その具体例としては、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ルビジウム(RbOH)、水酸化セシウム(CsOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化ストロンチウム(Sr(OH))、水酸化バリウム(Ba(OH))等を挙げることができる。これらのうち、入手が容易などの理由から、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0032】
アルカリ添加後のアルカリ浸出液は、pH12.5~15が好ましく、pH13~14がより好ましい。アルカリ浸出液のpHが13以上14以下とすることにより、原料灰中のバナジウム及び/又はバナジウム化合物が選択的に抽出される。アルカリ抽出工程の温度は、例えば10~40℃程度であり、20~30℃が好ましい。
【0033】
(第一固液分離工程:ステップ14)
第一固液分離工程では、得られたアルカリ浸出液を固液分離して、バナジウムを含む浸出ろ液を得る(ステップ14)。図1(b)(ステップ12)に示される通り、アルカリ浸出液には、炭素、硫安分、硫酸、バナジウム及びアルカリ(水酸化ナトリウム)が含まれている。本工程では、不溶物である炭素が固形分として除去される。本工程で得られる浸出ろ液に含まれる成分は、図1(b)(ステップ14)に示される通り、硫安分、硫酸、バナジウム及びアルカリである。
【0034】
本発明に係る製造方法では、アルカリ浸出液を固液分離する方法は特に限定されない。例えば、沈殿分離、遠心分離、吸引ろ過等が適宜選択して用いられる。
【0035】
(蒸発濃縮工程:ステップ22)
この実施形態に係る製造方法では、第一固液分離工程後、晶析工程前に、蒸発濃縮工程をおこなう。蒸発濃縮工程では、バナジウムを含む浸出ろ液を蒸発濃縮して、濃縮液を得る(ステップ22)。
【0036】
本工程では、浸出ろ液から水分が蒸気として除去されることにより、減容化される。減容化された浸出ろ液を濃縮液と称する。濃縮液では、バナジウム化合物の濃度が増加する。後の晶析工程で、濃縮液に貧溶媒を添加することにより、バナジウム化合物が析出しやすくなり、貧溶媒の使用量が低減されるという効果が得られる。
【0037】
図1(b)(ステップ22)に示すように、蒸発濃縮工程後に減容化された浸出ろ液(濃縮液)中には、硫安分、硫酸イオン、バナジウム及びアルカリが含まれる。蒸発させた水分については、回収して、アルカリ抽出工程における調整水として使用してもよく、後述する洗浄工程における洗浄水として使用してもよい。
【0038】
蒸発濃縮工程後の浸出ろ液(濃縮液)の体積に対する蒸発濃縮工程前の浸出ろ液の体積の割合(濃縮倍率)は、通常は2~8倍程度である。本発明に係る製造方法では、本工程後の晶析工程で貧溶媒晶析法を用いることにより、本工程における濃縮倍率を、3~5倍、好ましくは3~4倍程度とすることができる。これにより、蒸発濃縮工程をおこなう実施形態において、省エネルギー及びコストの低減が達成される。
【0039】
蒸発濃縮方法としては、特に制限はなく、多重効用式蒸発法(MED)、自己蒸気機械圧縮式蒸発法(MVR)、蒸気圧縮式蒸発法(VCD)、真空多段蒸発濃縮式蒸発法(VMEC)、多段フラッシュ式蒸発法(MSF)等が適宜選択して用いられる。省エネルギー及びコストの観点から、自己蒸気機械圧縮式(MVR)が好ましい。
【0040】
本発明において、蒸発濃縮条件は特に限定されない。省エネルギーの観点から、蒸発濃縮温度は、70~130℃であることが好ましい。減圧下で蒸発させることにより、温度100℃以下、特に80~90℃で蒸発濃縮することがより好ましい。本工程で得られる濃縮液中のアルカリ濃度は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0041】
(晶析工程:ステップ16)
晶析工程は、バナジウムを含む浸出ろ液から、バナジウム化合物を固形分として析出させる工程である(ステップ16)。本発明に係る製造方法では、晶析工程において、従来提案されてきた冷却晶析法に替えて、貧溶媒晶析法を用いる。貧溶媒晶析法とは、目的成分である化合物が溶解した溶液に、この化合物に対する貧溶媒を添加することにより、この化合物を結晶化させて分離する方法をいう。本願明細書において、貧溶媒とは、バナジウムを含む浸出ろ液の溶媒(アルカリ水溶液)よりも、バナジウム化合物の溶解度がより低い溶媒、又は、バナジウム化合物を全く溶解しない溶媒を意味する。換言すれば、晶析工程とは、浸出ろ液又は濃縮液に、バナジウム化合物に対する貧溶媒を添加してバナジウムを含む化合物を析出させる工程である。
【0042】
本発明に係る製造方法によれば、晶析工程において、浸出ろ液に貧溶媒を添加することにより、バナジウムを含む化合物の溶解度が、瞬時に、かつ、急激に低下する。これにより、バナジウムを含む化合物が速やかに、かつ高収率で析出する。
【0043】
この実施形態では、本工程において、硫安分、硫酸アルカリ及びバナジウム化合物の一部が、それぞれ固形分として析出する。詳細には、図1(b)(ステップ18)に示されるように、硫酸アルカリとして硫酸ナトリウム(NaSO:芒硝)の一部と、バナジウム化合物としてオルトバナジン酸ナトリウム(NaVO)等の一部とが、それぞれ固形分として析出する。
【0044】
本発明者らの知見によれば、貧溶媒晶析法で得られる析出物には、冷却晶析法による析出物と比較して、バナジウム化合物がより高い比率で含有されている。そのメカニズムは不明ながら、貧溶媒の添加により、バナジウム化合物の溶解度が、硫酸アルカリ等の溶解度に比べて、より急激に低下することにより、バナジウム化合物が優先的に析出したものと考えられる。本発明に係る製造方法によれば、晶析工程において、バナジウム化合物を高い濃度で含む析出物を、効率的かつ簡便に得ることができる。さらに、本工程では、従来の冷却晶析法における精密な温度制御を要しない。この製造方法によれば、晶析工程で用いる装置の省力化及び小型化が可能である。
【0045】
本工程で用いる貧溶媒は、バナジウムを含む浸出ろ液の溶媒(アルカリ溶液)よりも、バナジウム化合物の溶解度がより低い溶媒であればよく、その種類は特に限定されない。貧溶媒を溶液に添加することで、目的成分のバナジウム化合物であるオルトバナジン酸ナトリウム(NaVO)の溶解度が急激に低下する。オルトバナジン酸ナトリウム(NaVO)の場合、貧溶媒を添加した溶液に対する溶解度(溶媒100gに溶解する溶質の質量)が、常温(20℃~30℃)において、2g以下となることが好ましく、0.5g以下となることがさらに好ましい。
【0046】
より好ましい貧溶媒は、バナジウムを含む浸出ろ液の溶媒である水又はアルカリ溶液と混和可能な溶媒である。このような貧溶媒の例として、アルコール類が挙げられる。炭素数1~5のアルコール類がより好ましく、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールがさらに好ましく、メタノール及びエタノールが特に好ましい。2種以上を併用してもよい。
【0047】
本工程における貧溶媒の添加量は、選択された貧溶媒の種類、バナジウムを含む浸出ろ液の量、蒸発濃縮工程をおこなう場合の濃縮倍率等に応じて適宜調整される。ここで、本願明細書における貧溶媒添加量は、下記式により定義される。
貧溶媒添加量(質量%)=貧溶媒の質量(g)/浸出ろ液の質量(g)×100
【0048】
例えば、濃度1~5質量%でバナジウムを含む浸出ろ液又は蒸発濃縮後の浸出ろ液(濃縮液)に、メタノール又はエタノールを添加する場合、その添加量は、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましく、50質量%以上が特に好ましい。
【0049】
本工程によれば、バナジウムを含む浸出ろ液又は濃縮液の温度にかかわらず、貧溶媒の添加後、瞬時にバナジウムを含む化合物が固形分として析出する。従って、本発明に係る製造方法では、貧溶媒添加時の浸出ろ液の温度、即ち、晶析温度は、特に限定されない。晶析工程前に蒸発濃縮工程をおこなうこの実施形態では、バナジウムを含む化合物の回収率向上の観点から、濃縮液を常温程度まで放冷することが好ましい。濃縮液の放冷は、貧溶媒添加前であってもよく、貧溶媒添加後であってもよい。
【0050】
(第二固液分離工程:ステップ18)
第二固液分離工程では、晶析工程で得たバナジウム化合物を含む析出物を固形分(ケーキとも称される)として回収する(ステップ18)。詳細には、バナジウム化合物を含む固形分と、晶析ろ液とに分離する固液分離を行う。固液分離方法としては、シックナー、デカンター、バスケット遠心真空ベルトフィルタなどを用いた方法を挙げることができる。
【0051】
固液分離により固形分と分離された晶析ろ液には、晶析工程で析出した硫安分、硫酸アルカリ及びバナジウム化合物の残りと、アルカリと、貧溶媒とが含まれる。図1(b)(ステップ18)に示される通り、この実施形態の晶析ろ液には、アルカリとして水酸化ナトリウム(NaOH)が含まれる。得られた固形分は、バナジウム化合物を主成分として精製されたバナジウム原料として回収される(ステップ20)。
【0052】
前述した通り、貧溶媒晶析法による晶析工程では、冷却晶析法を用いた場合と比べて、析出した固形分中のバナジウム化合物の濃度が増加し、バナジウム以外の化合物の濃度が減少する。これにより、第二固液分離工程において、夾雑物の含有量が少なく、バナジウム化合物を高純度で含む固形分が得られる。本発明に係る製造方法によれば、高純度のバナジウム化合物の高い回収率が達成される。なお、本願明細書において、回収率とは、貧溶媒添加前の浸出ろ液又は濃縮液中に含まれる全バナジウムの質量に対する、貧溶媒添加後に析出した固形分中のバナジウムの質量の割合(質量%)として定義される。
【0053】
本発明に係る製造方法によれば、第二固液分離工程で得られる固形分中のバナジウム化合物の含有量を30~40質量%とすることができる。また、固形分を乾燥させた乾物ベースであれば、バナジウム化合物70~80質量%、硫酸アルカリ2~5質量%、アルカリ20~25質量%とすることができる。また、第二固液分離工程後に、固形分を水等で洗浄するケーキ洗浄工程を設けると、乾物ベースでバナジウム化合物の含有量を90質量%以上とすることも可能である。
【0054】
(貧溶媒リサイクル工程)
好ましくは、この製造方法は、貧溶媒リサイクル工程を含む。貧溶媒リサイクル工程では、第二固液分離工程で分離された晶析ろ液から貧溶媒を回収し、晶析工程に返送して再利用する。晶析ろ液から貧溶媒を回収する方法は、特に限定されず、蒸留法、膜分離法等既知の手法が採用されうる。回収した貧溶媒の返送には、返送ポンプ、オーバーフロー槽等を使用することができる。
【0055】
貧溶媒リサイクル工程をおこなうことにより、有機溶媒の使用量が減少して、製造コストが低減される。また、系外に排出する有機溶媒の量も減少するため、廃棄コストも低減される。この貧媒リサイクル工程を含む製造方法によれば、さらに安価かつ効率的に、高純度のバナジウム化合物を製造することができる。
【0056】
(その他の工程)
本発明の効果が阻害されない限り、この製造方法がさらに他の工程を含んでもよい。この他の工程として、準備工程後アルカリ抽出工程前に原料灰を洗浄する洗浄工程、準備工程後アルカリ抽出工程前に原料灰を酸化する酸化工程、或いは蒸発濃縮工程で分離された凝縮水をアルカリ抽出工程で再利用するリサイクル工程等が挙げられる。
【0057】
(用途)
本発明に係る製造方法で得られるバナジウム化合物は、レドックス・フロー電池用電解液の原料として用いることができる。本発明によれば、従来よりも安価かつ簡便に、高純度のバナジウム化合物を高収率で製造することができる。このバナジウム化合物を原料とすることにより、レドックス・フロー電池用電解液を安価で簡便に、効率よく製造することができる。
【0058】
レドックス・フロー電池用電解液としては、正極側はバナジウム(V)やバナジウム(IV)が、負極側はバナジウム(III)やバナジウム(II)が用いられている。本発明の方法では、バナジウムは主にオルトバナジン酸ナトリウム(NaVO)等のバナジウム(V)として回収されるため、特に正極側の電解液の製造に好適に使用することができる。しかしながら、本発明はこれに限定されず、例えば回収されたバナジウム(V)を還元してバナジウム(III)やバナジウム(II)とすることで、負極側の電解液の製造に使用してもよい。レドックス・フロー電池用電解液中に含まれるバナジウムの濃度は、特に制限はないが、正極側、負極側いずれも、例えば0.1mol/l~10mol/lの範囲内、好ましくは1~3mol/lの範囲内とすることができる。
【0059】
(バナジウム化合物の製造装置)
本発明のバナジウム化合物の製造装置は、前述したバナジウム化合物の製造方法を実施するための装置として構成することができる。この実施形態のバナジウム化合物の製造装置は、アルカリ抽出手段、第一固液分離手段、晶析手段及び第二固液分離手段を備える。
【0060】
アルカリ抽出手段は、前述したアルカリ抽出工程を実施する手段であり、原料灰(原料灰そのもの又は原料灰スラリー)に、アルカリ及び水、又はアルカリ溶液を添加して、液相にバナジウムを浸出させて、バナジウムを含むアルカリ浸出液を得るための手段である。アルカリ抽出手段としては、例えば、アルカリ溶液及び原料灰を混合する撹拌混合槽などを挙げることができる。
【0061】
第一固液分離手段は、前述した第一固液分離工程を実施する手段であり、アルカリ浸出液を固液分離して、炭素等の不溶物を固形分として除去するとともに、バナジウムを含む浸出ろ液を得るための手段である。第一固液分離手段としては、例えば、アルカリ浸出液から固形分を分離する脱水機等を挙げることができる。
【0062】
晶析手段は、前述した晶析工程を実施する手段であり、浸出ろ液に、バナジウム化合物に対する貧溶媒を添加してバナジウム化合物を析出させるための手段である。本発明において、製造装置が備える晶析手段は、貧溶媒晶析法をおこなうための手段である。その具体例としては、メタノール等の貧溶媒を添加する貧溶媒晶析槽、晶析缶等を挙げることができる。
【0063】
好ましくは、この製造装置は、貧溶媒の添加量を、浸出ろ液に対して、20質量%以上に調整する調整手段をさらに備えている。この調整手段としては、浸出ろ液又は濃縮液を収容した晶析槽等に貧溶媒を送液するポンプや送液管に設置されたバルブ等が挙げられる。
【0064】
第二固液分離手段は、前述した第二固液分離工程を実施する手段であり、バナジウム化合物を含む析出物を固形分(ケーキ)として回収するための手段である。第二固液分離手段としては、例えば、シックナー、デカンター、バスケット遠心真空ベルトフィルタ等を挙げることができる。
【0065】
好ましくは、この製造装置は、蒸発濃縮手段をさらに備えている。蒸発濃縮手段は、前述した浸出ろ液に貧溶媒を添加する前に、この浸出ろ液を蒸発濃縮するための手段である。蒸発濃縮手段としては、例えば、蒸発濃縮缶等を挙げることができる。
【0066】
好ましくは、この製造装置は、第二固液分離工程で分離された晶析ろ液から貧溶媒を回収し、必要に応じて蒸留精製後に晶析手段で再利用する、貧溶媒リサイクル手段をさらに備える。この製造装置が、原料灰を洗浄水で洗浄する原料灰洗浄手段、この洗浄水のpHを調整するpH調整手段、原料灰を酸化する酸化手段、アルカリ抽出手段によりバナジウムを液相に浸出させる間、その温度を10℃以上50℃未満に制御する温度制御手段、第二固液分離工程で分離した固形分を洗浄して、固形分中のバナジウムを回収する固形分洗浄工程、蒸発濃縮工程で分離された凝縮水、或いは第二固液分離手段で固形分から分離された晶析ろ液を精製して、アルカリ抽出手段で再利用するリサイクル手段をさらに備えてもよい。
【0067】
本発明に係る製造装置では、従来の冷却晶析法による晶析手段に代えて、貧溶媒晶析法による晶析手段を備えることにより、バナジウム化合物が選択的に分離される。これにより、高純度のバナジウム化合物の高い回収率が達成される。さらに、この製造装置では、晶析手段である晶析缶等の小型化を図ることが可能であり、かつ、冷却晶析に必要な精密な温度制御手段が不要であることから、省エネルギー及びコスト低減という効果も得られる。
【0068】
本発明に係る製造装置によれば、高純度のバナジウム化合物を、安価かつ効率的に製造することができる。この製造装置により得られたバナジウム化合物は、レドックス・フロー電池用電解液の原料として好適に用いられ得る。
【実施例0069】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0070】
[実施例1]
(1)アルカリ抽出工程及び第一固液分離工程
原料灰として準備した燃焼灰100kgに、5質量%苛性ソーダ(NaOH):171kg及び48質量%苛性ソーダ(NaOH):1kgを投入してpH13として60分間撹拌したのち、加圧ろ過を行って、バナジウムを含む浸出ろ液:137kg(NaVOとして、バナジウム(V)濃度0.47質量%、NaVO、NaSO及びNaOHとして、ナトリウム(Na)濃度3.4質量%)を得た。
(2)蒸発濃縮工程
得られた浸出ろ液から350gを採取し、自己蒸気機械圧縮(MVR)式蒸発装置を用いて、80~85℃、-70kPaの条件にて減圧濃縮を行い、濃縮液:116gを得た(濃縮倍率3倍)。
(3)晶析工程及び第二固液分離工程
得られた濃縮液から20gを採取し、これにメタノール10gを添加した(濃縮液に対する貧溶媒添加量:50質量%)。続いて、30℃まで放冷して、1時間撹拌した後、析出した結晶を、1.0μmのメンブレンを用いた吸引ろ過により固液分離した。これにより、固形分であるケーキI:9.574g(wet状態)、4.74g(乾物状態)を得た。このケーキIの重量分析から、乾物中、濃度5.43質量%のバナジウム(V)がNaVOとして含まれており、濃度35質量%のナトリウム(Na)が、NaVO、NaSO及びNaOHとして、含まれていることがわかった。
(4)バナジウム回収率
実施例1の製造方法によるバナジウム(V)回収率は、90.7%であった。この結果が下表1に示されている。
【0071】
[比較例1]
(1)アルカリ抽出工程及び第一固液分離工程
実施例1と同様の方法にてアルカリ抽出工程及び第一固液分離工程を実施して、バナジウムを含む浸出ろ液(NaVOとして、バナジウム(V)濃度0.6質量%、NaVO、NaSO及びNaOHとして、ナトリウム(Na)濃度1.8質量%)を得た。
(2)蒸発濃縮工程
得られた浸出ろ液から52000gを採取し、自己蒸気機械圧縮(MVR)式蒸発装置を用いて、80~85℃、-70kPaの条件にて減圧濃縮を行い、濃縮液:11560gを得た(濃縮倍率5倍)。
(3)晶析工程及び第二固液分離工程
得られた濃縮液から115.6gを採取し、これを徐々に冷却して、4℃にて18時間静置して、結晶を析出させた。その後、300rpmで500秒間遠心分離をおこなって、固液分離することにより、固形分であるケーキI:36.8gを得た。このケーキIの重量分析から、乾物中、濃度1.1質量%のバナジウム(V)がNaVOとして含まれており、濃度13.7質量%のナトリウム(Na)が、NaVO、NaSO及びNaOHとして、含まれていることがわかった。
(4)バナジウム回収率
比較例1の製造方法によるバナジウム(V)回収率は、12.4%であった。この結果が下表1に示されている。
【0072】
【表1】
【0073】
[実施例2-4]
濃度1.4質量%のバナジウム(V)を含む浸出ろ液を使用し、メタノールに替えてエタノールを下表2に示される添加量で添加した他は、実施例1と同様にして、バナジウム化合物を回収した。実施例2-4の製造方法によるバナジウム(V)回収率が、下表2に示されている。エタノール添加量によるバナジウム回収率の変化が、図2に示されている。
【0074】
[実施例5及び6]
濃度1.4質量%のバナジウム(V)を含む浸出ろ液を使用し、メタノールの添加量を、下表2に示されるものとした他は、実施例1と同様にして、バナジウム化合物を回収した。実施例5及び6の製造方法によるバナジウム(V)回収率が、下表2に示されている。メタノール添加量によるバナジウム回収率の変化が、図3に示されている。
【0075】
【表2】
【0076】
表1に示されるように、晶析工程において貧溶媒晶析法を用いる本発明に係る製造方法によれば、冷却晶析法による従来の方法と比較して、低い濃縮倍率でバナジウム回収率が著しく向上した。この製造方法によれば、特段の冷却操作が不要であるばかりでなく、蒸発濃縮工程に要するエネルギー等を低減することができる。
【0077】
また、実施例の第二固液分離工程では、比較例と比べて、Na濃度に対するV濃度の比率が高い固形分が得られた。このことから、本発明に係る製造方法によれば、そのメカニズムは不明ながら、夾雑物である硫酸アルカリ塩等が少なく、バナジン酸アルカリ塩を高純度で含む固形分を回収できることがわかる。
【0078】
表2並びに図2及び3から、バナジウム化合物に対する貧溶媒として、特に、低級アルコールが適しており、その添加量に応じてバナジウム化合物の回収率が著しく向上することがわかる。これらの評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【符号の説明】
【0079】
10・・・原料灰準備工程
12・・・アルカリ抽出工程
14・・・第一固液分離工程
16・・・晶析工程
18・・・第二固液分離工程
20・・・バナジウム化合物回収
22・・・蒸発濃縮工程
図1
図2
図3