(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174614
(43)【公開日】2022-11-24
(54)【発明の名称】プログラム、情報処理装置及び情報処理方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20221116BHJP
G01T 1/164 20060101ALI20221116BHJP
G01T 1/161 20060101ALI20221116BHJP
A61K 51/04 20060101ALI20221116BHJP
G16H 10/20 20180101ALI20221116BHJP
【FI】
A61B5/00 G
G01T1/164 Z
G01T1/161 D
A61K51/04 200
G16H10/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080533
(22)【出願日】2021-05-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年5月14日に“Journal of Nuclear Cardiology”の速報(インターネットアドレス「https://link.springer.com/article/10.1007/s12350-020-02173-6」)にて掲載 〔刊行物等〕 令和3年3月26日に第85回日本循環器学会の学術集会のオンデマンドセッションにて発表 〔刊行物等〕 令和3年5月10日にWEB開催された“The International Conference on Nuclear Cardiology and Cardiac CT”にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(71)【出願人】
【識別番号】322005219
【氏名又は名称】PDRファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 憲一
(72)【発明者】
【氏名】北村 千枝美
【テーマコード(参考)】
4C085
4C117
4C188
5L099
【Fターム(参考)】
4C085HH03
4C085JJ01
4C085KA29
4C085KB45
4C085LL07
4C117XA01
4C117XB09
4C117XD24
4C117XE15
4C117XE37
4C117XE42
4C117XJ01
4C117XJ14
4C117XJ31
4C117XJ60
4C117XR10
4C188EE01
4C188EE25
4C188MM08
5L099AA04
(57)【要約】
【課題】心臓死が生じる可能性を心臓死の種類ごとに評価することが可能なプログラムを提供すること。
【解決手段】取得部1は、第1の被験者に心機能診断薬を投与して得られた心/縦隔比を含む被験者データを取得する。予測部3は、複数の第2の被験者のそれぞれにおける心臓死に関する複数種類のイベントの発生実績を示す分析用データに基づいて生成された機械学習モデルに対して、被験者データを入力することにより、第1の被験者に生じるイベントを予測する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに、
第1の被験者に関する被験者データであって、前記第1の被験者に心機能診断薬を投与して得られた心/縦隔比を含む被験者データを取得する取得部と、
複数の第2の被験者のそれぞれにおける心臓死に関する複数種類のイベントの発生実績を示す分析用データに基づいて生成された機械学習モデルに対して、前記被験者データを入力することにより、前記第1の被験者に生じる前記イベントを予測する予測部と、を実現させるためのプログラム。
【請求項2】
前記被験者データは、年齢、性別、心不全の重症度を示す指標、腎機能を示す指標、左室機能を示す指標、心不全マーカーの血中濃度、高血圧症の有無を示す情報、及び、糖尿病の有無を示す情報をさらに含む、請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
前記被験者データは、心筋からの前記心機能診断薬の洗い出し率、血色素量、透析の有無を示す情報、及び、虚血性心臓病の有無を示す情報をさらに含む、請求項2に記載のプログラム。
【請求項4】
前記複数種類のイベントは、心不全死と、重症不整脈とである、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のプログラム。
【請求項5】
前記予測部は、所定経過期間後までに生じる前記イベントを予測する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のプログラム。
【請求項6】
前記所定経過期間は、2年である、請求項5に記載のプログラム。
【請求項7】
前記機械学習モデルは、ロジスティック回帰モデルである、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のプログラム。
【請求項8】
前記心機能診断薬は、MIBG(123I-3-iodobenzylguanidine)である、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のプログラム。
【請求項9】
第1の被験者に関する被験者データであって、前記第1の被験者に心機能診断薬を投与して得られた心/縦隔比を含む被験者データを取得する取得部と、
複数の第2の被験者のそれぞれにおける心臓死に関する複数種類のイベントの発生実績を示す分析用データに基づいて生成された機械学習モデルに対して、前記被験者データを入力することにより、前記第1の被験者に生じる前記イベントを予測する予測部と、を有する情報処理装置。
【請求項10】
第1の被験者に関する被験者データであって、前記第1の被験者に心機能診断薬を投与して得られた心/縦隔比を含む被験者データを取得し、
複数の第2の被験者のそれぞれにおける心臓死に関する複数種類のイベントの発生実績を示す分析用データに基づいて生成された機械学習モデルに対して、前記被験者データを入力することにより、前記第1の被験者に生じる前記イベントを予測する、情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プログラム、情報処理装置及び情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、心臓の障害に起因する心臓死が生じる可能性を予測する技術が記載されている。特許文献1に記載の技術では、被験者に心機能診断薬を投与することで得られたH/M(Heart/Mediastinum:心/縦隔)比などを含む被験者データに基づいて、被験者の5年生存率が算出されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
心臓死には、心不全死(HFD:Heart Failure Death)及び重症不整脈(ArE:Life Threatening Arrhythmic Events)などの複数の種類が存在する。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、5年生存率が算出されるだけなので、種類ごとに心臓死が生じる可能性を評価することができず、適切な治療に結び付けることが難しい場合があった。
【0005】
本開示の目的は、心臓死が生じる可能性を心臓死の種類ごとに評価することが可能なプログラム、情報処理装置及び情報処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に従うプログラムは、コンピュータに、第1の被験者に関する被験者データであって、前記第1の被験者に心機能診断薬を投与して得られた心/縦隔比を含む被験者データを取得する取得部と、複数の第2の被験者のそれぞれにおける心臓死に関する複数種類のイベントの発生実績を示す分析用データに基づいて生成された機械学習モデルに対して、前記被験者データを入力することにより、前記第1の被験者に生じる前記イベントを予測する予測部と、を実現させる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、心臓死が生じる可能性を心臓死の種類ごとに評価することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の一実施形態の情報処理装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】モデル生成処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図3】イベント予測処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図5】学習アルゴリズムの検証結果を示す図である。
【
図6】機械学習モデルによる評価結果の一例を示す図である。
【
図7】機械学習モデルによる評価結果の他の例を示す図である。
【
図8】13変数モデルと9変数モデルとの比較結果の一例を示す図である。
【
図9】13変数モデルと9変数モデルとの比較結果の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。
【0010】
図1は、本開示の一実施形態の情報処理装置の構成を示すブロック図である。
図1に示す情報処理装置100は、例えば、プロセッサ(コンピュータ)及びメモリ(共に図示せず)を備えたコンピュータシステムにより構成される。この場合、以下で説明する情報処理装置100の各構成要素及び各機能は、例えば、プロセッサがコンピュータプログラムを読み取り、その読み取ったコンピュータプログラムを実行することで実現される。コンピュータプログラムは、コンピュータにて読み取り可能な記録媒体200に記録可能である。記録媒体200は、例えば、半導体メモリ、磁気ディスク、光ディスク、磁気テープ及び光磁気ディスクなどである。
【0011】
また、情報処理装置100は、入出力装置101と、補助記憶装置102とに接続されている。入出力装置101は、キーボード、タッチパネル及びポインティングデバイスのような情報処理装置100を利用するユーザから種々の情報を受け付ける入力装置と、ディスプレイ装置及びプリンタのようなユーザに対して種々の情報を出力する出力装置とを有する。また、入出力装置101は、インターネットなどの通信網を介して種々の情報の送受信を行うネットワークインタフェース装置を含んでもよい。補助記憶装置102は、例えば、大容量記憶装置のような種々の情報を記憶する記憶装置である。
【0012】
情報処理装置100は、取得部1と、モデル生成部2と、予測部3と、出力部4とを有する。
【0013】
取得部1は、心臓死に関するイベントである心臓死イベントを予測する予測対象の被験者である第1の被験者に関する被験者データと、第1の被験者に生じる心臓死イベントを予測する機械学習モデルを構築するための分析用データとを取得する。なお、被験者データ及び分析用データは、例えば、補助記憶装置102に予め記憶され、取得部1は、補助記憶装置102から被験者データ及び分析用データを取得する。
【0014】
心臓死イベントには、複数の種類が存在する。本実施形態では、心臓死イベントとして、HFD(心不全死)と、ArE(重症不整脈、不整脈死)とを考慮するが、他のイベントが考慮されてもよい。
【0015】
被験者データは、パラメータとして、心機能を診断するための放射性医薬品である心機能診断薬を第1の被験者に投与することで得られるH/M比を含む。より具体的には、被験者データは、パラメータとして、H/M比、心筋からの心機能診断薬の洗い出し率であるMIBG洗い出し率、年齢、性別、心不全の重症度を示す指標、腎機能を示す指標、左室機能を示す指標、心不全マーカーの血中濃度、血色素量、透析の有無を示す情報、虚血性心臓病(虚血性心疾患)の有無を示す情報、高血圧症の有無を示す情報、及び、糖尿病の有無を示す情報の13個のパラメータを含む。以下では、これらの13個のパラメータを特定パラメータと呼ぶこともある。
【0016】
MIBG洗い出し率は、H/M比と同様に、心機能診断薬を第1の被験者に投与することで得られるデータである。H/M比及びMIBG洗い出し率は、具体的には、心機能診断薬を投与した被験者を所定の撮像装置で撮像した撮像画像から算出される。心機能診断薬は、本実施形態では、MIBG(123I-3-iodobenzylguanidine)とするが、この例に限らず、心筋SPECT検査又は心筋PET検査に用いられる放射性医薬品のような、H/M比及びMIBG洗い出し率の算出が可能な撮影画像を取得できるものであればよい。なお、上記の撮影画像には、撮像装置などの撮影環境によるバラツキが生じることがある。このため、そのバラツキを抑制するためにファントム実験などによる補正を用いて撮影画像の標準化を行い、標準化された撮影画像からH/M比及びMIBG洗い出し率を算出することが好ましい。
【0017】
心不全の重症度を示す指標は、例えば、心機能NYHA(New York Heart Association:ニューヨーク心臓協会)分類である。心機能NYHA分類は、ニューヨーク心臓協会が定めた心不全の重症度(症状の程度)の分類であり、画像及び問診などを総合的に判断することにより、心不全の重症度を以下の4種類に分類するものである。
I度:心疾患があるが症状はなく、通常の日常生活は制限されないもの。
II度:心疾患患者で日常生活が軽度から中等度に制限されるもの。安静時には無症状だが、普通の行動で疲労・動悸・呼吸困難・狭心痛を生じる。
III度:心疾患患者で日常生活が高度に制限されるもの。安静時は無症状だが、平地の歩行や日常生活以下の労作によっても症状が生じる。
IV度:心疾患患者で非常に軽度の活動でも何らかの症状を生ずる。安静時においても心不全・狭心症症状を生ずることもある。
【0018】
腎機能を示す指標は、例えば、eGFR(estimated Glomerular Filtration Rate:推算糸球体濾過値)である。左室機能を示す指標は、例えば、LVEF(Left Ventricular Ejection Fraction:左心室駆出率)である。心不全マーカーは、例えば、BNP(Human Brain Natriuretic Peptide:脳性(B型)ナトリウム利尿ペプチド)又はNT-proBNPである。
【0019】
分析用データは、複数の第2の被験者のそれぞれに関する複数のデータであり、各分析用データは、上記の13個の特定パラメータと、第2の被験者における複数種類の心臓死イベント(本実施形態では、HFD及びArE)の発生実績を示すイベント情報とを含む。分析用データは、13個のパラメータ及びイベント情報以外の情報(パラメータ)を含んでもよい。
【0020】
イベント情報は、本実施形態では、心臓死イベントの発生実績として、基準時点から所定経過期間後までに第2の被験者に生じた心臓死イベントを示し、より具体的には、HFD、ArE、及び、生存(イベントなし)のいずれかを示す。基準時点は、例えば、心機能診断薬を用いた検査(撮影)を行った時点である。なお、分析用データの各パラメータの値は、基準時点での値である。所定経過期間は、本実施形態では、2年とするが、2年に限定されず、例えば、5年などでもよい。
【0021】
モデル生成部2は、取得部1にて取得された分析用データに基づいて、分析用データに含まれるイベント情報を目的変数、分析用データに含まれる他のパラメータを説明変数とした機械学習を行い、被験者データから第1の被験者に生じる心臓死イベントを予測する機械学習モデルを生成する。
【0022】
機械学習モデルは、本実施形態では、被験者データの13個の特定パラメータを入力として、その被験者データを、被験者データを目的変数であるイベント情報にて示されるクラス(値)に分類する分類モデルである。分類モデルの出力結果は、3つのクラス(HFD、ArE、及び、生存)のいずれかを示してもよいし、各クラスの分類確率などを示してもよい。
【0023】
予測部3は、取得部1にて取得された被験者データに含まれる13個の特定パラメータをモデル生成部2にて構築された機械学習モデルに入力することで、被験者データを分類して、所定経過時間後までに第1の被験者に発生する心臓死イベントを予測する。したがって、
【0024】
出力部4は、予測部3による予測結果を、入出力装置101を用いて出力する。
【0025】
図2は、情報処理装置100による機械学習モデルを生成するモデル生成処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【0026】
モデル生成処理では、先ず、取得部1は、補助記憶装置102から分析用データを取得する(ステップS101)。
【0027】
モデル生成部2は、分析用データに対して所定の機械学習アルゴリズムを用いて分析して、機械学習モデルを生成する(ステップS102)。機械学習アルゴリズムは、例えば、ロジスティック回帰、ランダムフォレスト、勾配ブースティングツリー、サポートベクターマシン、単純ベイズ分類器又は最近傍法などである。
【0028】
モデル生成部2は、機械学習モデルを予測部3に設定して(ステップS103)、処理を終了する。
【0029】
図3は、情報処理装置100による第1の被験者に生じる心臓病イベントを予測するイベント予測処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【0030】
イベント予測処理では、先ず、取得部1は、補助記憶装置102から被験者データを取得する(ステップS201)。
【0031】
予測部3は、モデル生成部2から設定された機械学習モデルに対して、取得部1に取得された被験者データに含まれる13個の特定パラメータを入力し、機械学習モデルの出力を、2年後までに第1の被験者に生じる心臓死イベントの予測結果として取得する(ステップS202)。
【0032】
出力部4は、予測部3による予測結果を示す出力データを、入出力装置101を用いて出力して(ステップS203)、処理を終了する。なお、予測結果は、出力すると共に、又は、出力する代わりに、補助記憶装置102などに記憶されてもよい。
【0033】
図4は、出力データの一例を示す図である。
図4に示す出力データ400は、被験者データに含まれる13個の特定パラメータの値を示す領域401と、予測部3による予測結果を示す領域402とを含む。領域402では、第1の被験者データが分類される各クラスの分類確率がヒストグラムで示されている。
【0034】
以上説明した本実施形態では、心臓死イベントを予測するためのパラメータとして13個の特定パラメータを用いて説明したが、この特定パラメータは一例であって、これに限るものではない。例えば、特定パラメータは、H/M比、年齢、性別、心不全の重症度を示す指標、腎機能を示す指標、左室機能を示す指標、心不全マーカーの血中濃度、高血圧症の有無を示す情報、及び、糖尿病の有無を示す情報の9個のパラメータでもよい。
【実施例0035】
以下、実施例として、機械学習モデルの評価を行う。
【0036】
分析データとしては、4つの病院で取得された526人の慢性心不全患者を第2の被験者とし、各第2の被験者に関する13個の特定パラメータと、第2の被験者に生じた心臓死イベントを示す情報とを含むデータを用いた。13個の特定パラメータは、R他のパラメータとして、脂質異常性を示す指標、及び、所定の薬剤の投薬(薬物療法)の有無を示す情報などを考慮した上で、ROC(Receiver Operating Characteristic:受信者動作特性)解析により決定した。薬剤は、例えば、交感神経β受容体遮断薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬及びアンジオテンシンII受容体拮抗薬の少なくとも一方、及び、利尿剤などである。
【0037】
第2の被験者については、心機能診断薬による検査を行った時点を基準時点とし、基準時点から少なくとも2年以上にわたって追跡調査を行った。その際、ArEが発生したが植え込み型除細動器などの適切な治療により生存した患者に対しては、イベント情報の値をArEとした。また、第2の被験者のうち2年間に急性心筋梗塞を起こした患者はいなかった。また、心臓死以外に関する死亡イベントの数は少ないため、そのような患者は第2の被験者から除外した。なお、第2の被験者に対する医療は各病院にて継続的に行われた。また、第2の被験者の77%が心機能NYHA分類のI度又はII度に分類され、被験者の23%が心機能NYHA分類のIII度又はIV度に分類されていた。また、第2の被験者の平均年齢は66歳、男性が72%(女性が28%)、第2の被験者の2次元心エコー検査又はゲート心筋灌流シンチグラフィーにて算出された各被験者のLVEFの平均値は38%、標準偏差は14%であった。
【0038】
H/M比及びMIBG洗い出し率は、心機能診断薬として111MBqのMIBG(123I-3-iodobenzylguanidine)を被験者に注射し、注射してから15分~30分後及び3~4時間後のそれぞれにおいて取得した心筋前壁のプラナー画像(シンチグラム)から算出した。画像の取得には、マトリックスサイズを256×256、エネルギウインドウを159keV±10%とした標準的な取得プロトコルを用いた。なお、各病院で使用されたコリメータが異なるため、コリメータ間のばらつきを調整するために、ファントムを使用して、中エネルギー汎用型コリメータ条件に標準化した。
【0039】
心機能診断薬を被験者に注射してから15分~30分後に取得されたプラナー画像から取得したH/M比を初期H/M比、3~4時間後に取得されたプラナー画像から取得したH/M比を後期H/M比と呼ぶ。分析用データには、後期H/M比をH/M比として含めた。また、MIBG洗い出し率は、(初期H/M比-後期H/M比)/初期H/M比にて算出した。
【0040】
機械学習には、ウルフラム・リサーチ(Wolfram Research)社のマセマティカ(Mathematica)のバージョン12を使用した。また、学習アルゴリズムとして、ロジスティック回帰、ランダムフォレスト、勾配ブースティングツリー、サポートベクターマシン、単純ベイズ分類器及び最近傍法のそれぞれを用いて学習モデルを構築し、各学習モデルの検証には、ROC解析による4分割交差検証を用いた。つまり、分析用データの75%を学習モデルの構築を行うための学習用データ、分析用データの25%を学習モデルの検証を行うための検証用データとして4回学習を行い、各学習の検証結果の平均を精度として求めた。
【0041】
図5は、各学習アルゴリズムの検証結果を示す図である。
図5では、ロジスティック回帰(LL)、ランダムフォレスト(RF)、勾配ブースティングツリー(GBT)、サポートベクターマシン(SVM)、単純ベイズ分類器(NB)及び最近傍法(NN)のそれぞれにおける、ROC曲線のAUC(Area Under the Curve:曲線下面積)と、SE(standard error:標準誤差)、P値とを示す。P値は、ロジスティック回帰に対する相対的な値が示されている。
【0042】
図5に示されたようにHFDに関しては、ランダムフォレスト(RF)が最も精度がよく、ArEに関しては、ロジスティック回帰(LL)が最も精度がよい。ここでは、ArEに関して最も精度が良いロジスティック回帰を全ての分析用データに対して適用して、分類関数を機械学習モデルとして構築した。
【0043】
図6及び
図7は、上記のロジスティック回帰にて生成した機械学習モデルによる評価結果の一例を示す図である。
図6及び
図7では、312人の患者を第1の被験者としてログ・ランク(Log Rank)検定を行った。
【0044】
図6は、312人の第1の被験者を、被験者データがHFDに分類されたHFD高リスク群と、被験者データがHFDに分類されていないHFD低リスク群とに分けて2年間(24カ月)の経過観察を行った結果を示す図である。
図6では、HFD高リスク群にてHFDが発生した割合の時間変化601と、HFD低リスク群にてHFDが発生した割合の時間変化602とが示されている。
【0045】
図6に示されたようにHFD高リスク群では、2年間に22%の患者にHFDが発生したのに対して、HFD低リスク群では、2年間にHFDが発生した患者は3.5%であった。また、カイ2乗値は27.10であり、P値は0.0001以下であった。
【0046】
図7は、312人の第1の被験者を、被験者データがArEに分類されたArE高リスク群と、被験者データがArEに分類されていないArE低リスク群を分けて2年間の経過観察を行った結果を示す図である。
図7では、ArE高リスク群にてArEが発生した割合の時間変化601と、ArE低リスク群にてArEが発生した割合の時間変化602とが示されている。
【0047】
図7に示されたようにArE高リスク群では、2年間に11.4%の患者にArEが発生したのに対して、ArE低リスク群では、2年間にHFDが発生した患者は4.5%であった。また、カイ2乗値は3.86であり、P値は0.049であった。
【0048】
したがって、上記のロジスティック回帰にて生成した機械学習モデルによって心臓死が生じる可能性を心臓死の種類ごとに評価することが可能となっている。
【0049】
図8及び
図9は、13個の特定パラメータによる機械学習モデルである13変数モデルと、9個の特定パラメータによる機械学習モデルである9変数モデルとを比較した図である。
【0050】
図8は、526人の第1の被験者に対して13変数モデルを用いて予測したHFD(心不全死)の発生確率(HFDクラスの分類確率)と、同じ526人の第1の被験者に対して9変数モデルを用いて予測したHFDの発生確率との相関を示す散布図である。散布図の各点は、実際に第1の被験者に生じた心臓死イベントに応じてマーカーの種類を変えて示している。具体的には、白丸が生存、黒丸がArE(不整脈死)、黒四角がHFDを示す。
【0051】
図8に示されたように、13変数モデルでも9変数モデルでもHFDの発生確率が高いと予測された被験者にHFDが多く発生していた。また、13変数モデルの予測結果と9変数モデルの予測結果との相関係数は0.974、相関係数の95%信頼区間の下限は0.969、上限は0.978、P値は0.0001未満であった。
【0052】
図9は、526人の第1の被験者に対して13変数モデルを用いて予測したArE(不整脈死)の発生確率と、同じ526人の第1の被験者に対して9変数モデルを用いて予測したArEの発生確率との相関を示す散布図である。散布図の各点は、
図8と同様に、実際に第1の被験者に生じた心臓死イベントに応じてマーカーの種類を変えて示している。
【0053】
図9に示されたように、13変数モデルでも9変数モデルでもArEの発生確率が高いと予測された被験者にArEが多く発生していた。また、13変数モデルの予測結果と9変数モデルの予測結果との相関係数は0.973、相関係数の95%信頼区間の下限は0.968、その上限は0.977、P値は0.0001未満であった。
【0054】
したがって、9変数モデルでも、13変数モデルと同様に、心臓死が生じる可能性を心臓死の種類ごとに評価することが可能である。
【0055】
以上説明したように本開示によれば、取得部1は、第1の被験者に心機能診断薬を投与して得られた心/縦隔比を含む被験者データを取得する。予測部3は、複数の第2の被験者のそれぞれにおける心臓死に関する複数種類のイベントの発生実績を示す分析用データに基づいて生成された機械学習モデルに対して、被験者データを入力することにより、第1の被験者に生じるイベントを予測する。したがって、複数種類のイベントのいずれが生じるかが予測されるため、心臓死が生じる可能性を心臓死の種類ごとに評価することが可能になる。
【0056】
また、本開示では、被験者データは、年齢、性別、心不全の重症度を示す指標、腎機能を示す指標、左室機能を示す指標、心不全マーカーの血中濃度、高血圧症の有無を示す情報、及び、糖尿病の有無を示す情報をさらに含む。また、被験者データは、MIBG洗い出し率、血色素量、透析の有無を示す情報、虚血性心臓病の有無を示す情報をさらに含んでもよい。この場合、心臓死に関するイベントをより正確に予測することが可能になる。
【0057】
また、本開示では、複数種類のイベントは、心不全死と、重症不整脈とである。このため、心臓死に関するイベントとして発生する可能性の高い心不全死と重症不整脈とを別々に予測することが可能となるため、より適切な治療を行うことが可能となる。
【0058】
また、本開示では、所定経過期間後までに生じる心臓死イベントを予測し、所定経過期間は、特に2年である。この場合、心臓死に関するイベントをより正確に予測することが可能になる。
【0059】
また、本開示では、機械学習モデルはロジスティック回帰モデルである。このため、心臓死に関するイベントをより正確に予測することが可能になる。
【0060】
また、本開示では、心機能診断薬は、MIBG(123I-3-iodobenzylguanidine)である。このため、適切な心/縦隔比及びMIBG洗い出し率を算出することが可能になるため、心臓死に関するイベントをより正確に予測することが可能になる。
【0061】
上述した本開示の実施形態は、本開示の説明のための例示であり、本開示の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本開示の範囲を逸脱することなしに、他の様々な態様で本開示を実施することができる。