IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大豊工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-半割軸受、内燃機関、及び自動車 図1
  • 特開-半割軸受、内燃機関、及び自動車 図2
  • 特開-半割軸受、内燃機関、及び自動車 図3
  • 特開-半割軸受、内燃機関、及び自動車 図4
  • 特開-半割軸受、内燃機関、及び自動車 図5
  • 特開-半割軸受、内燃機関、及び自動車 図6
  • 特開-半割軸受、内燃機関、及び自動車 図7
  • 特開-半割軸受、内燃機関、及び自動車 図8
  • 特開-半割軸受、内燃機関、及び自動車 図9
  • 特開-半割軸受、内燃機関、及び自動車 図10
  • 特開-半割軸受、内燃機関、及び自動車 図11
  • 特開-半割軸受、内燃機関、及び自動車 図12
  • 特開-半割軸受、内燃機関、及び自動車 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174624
(43)【公開日】2022-11-24
(54)【発明の名称】半割軸受、内燃機関、及び自動車
(51)【国際特許分類】
   F16C 17/02 20060101AFI20221116BHJP
   F16C 9/02 20060101ALI20221116BHJP
   F16C 33/06 20060101ALI20221116BHJP
   F16C 33/20 20060101ALI20221116BHJP
   F16C 33/24 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
F16C17/02 Z
F16C9/02
F16C33/06
F16C33/20 Z
F16C33/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080544
(22)【出願日】2021-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000207791
【氏名又は名称】大豊工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100147810
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 浩
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慎一
【テーマコード(参考)】
3J011
3J033
【Fターム(参考)】
3J011AA02
3J011BA02
3J011BA13
3J011CA01
3J011JA02
3J011KA02
3J011MA03
3J011SB02
3J011SB03
3J011SB04
3J011SB05
3J011SC01
3J011SD01
3J033AA02
3J033GA05
(57)【要約】
【課題】軸の片当たりを抑制しつつ、応力分布をより均一化する。
【解決手段】半割軸受(1)は、相手軸(9)と摺動する内周面(12)を含む半円筒形状を有する軸受本体(11)と、内周面(12)のうち相手軸(9)の軸方向の少なくとも一方の端において、周方向の少なくとも一部に渡って形成された傾斜(121、122)とを有し、周方向の中心において、内周面(12)を相手軸(9)の軸方向において少なくとも7等分する点において、軸方向の中心から端に向かうにつれ、傾斜(121、122)の深さの変化率が徐々に大きくなる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸と摺動する内周面を含む半円筒形状を有する軸受本体と、
前記内周面のうち前記軸の軸方向の少なくとも一方の端において、周方向の少なくとも一部に渡って形成された傾斜と
を有し、
前記周方向の中心において、前記内周面を前記軸の軸方向において少なくとも7等分する点において、前記軸方向の中心から端に向かうにつれ、前記傾斜の深さの変化率が徐々に大きくなる
半割軸受。
【請求項2】
前記傾斜は、周方向において深さが異なる
請求項1に記載の半割軸受。
【請求項3】
前記傾斜に形成された、前記周方向に沿って延びる複数の溝を有する
請求項1又は2に記載の半割軸受。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の半割軸受を用いた内燃機関。
【請求項5】
請求項4に記載の内燃機関を有する自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半割軸受、内燃機関、及び自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
半割軸受において軸方向の端に傾斜を形成する技術が知られている。例えば特許文献1は、負荷能力の減少を抑えつつ弾性変形による軸の片当たりを防止するため、周方向において幅が異なるクラウニングが形成されたコンロッド軸受を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3955737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
軸受にかかる負荷は周方向において一様ではなく、特定の領域に偏る傾向がある。特許文献1に記載の軸受にはフリクションに改善の余地があった。
【0005】
これに対し本発明は、片当たりによる焼付きを抑制しつつ、応力分布をより均一化する軸受を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、軸と摺動する内周面を含む半円筒形状を有する軸受本体と、前記内周面のうち前記軸の軸方向の少なくとも一方の端において、周方向の少なくとも一部に渡って形成された傾斜とを有し、前記周方向の中心において、前記内周面を前記軸の軸方向において少なくとも7等分する点において、前記軸方向の中心から端に向かうにつれ、前記傾斜の深さの変化率が徐々に大きくなる半割軸受を提供する。
【0007】
前記傾斜は、周方向において深さが異なってもよい。
【0008】
前記傾斜に形成された、前記周方向に沿って延びる複数の溝を有してもよい。
【0009】
また、本発明は、上記いずれかの半割軸受を用いた内燃機関を提供する。
【0010】
さらに、本発明は、上記の内燃機関を有する自動車。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、片当たりによる焼付きを抑制しつつ、応力分布をより均一化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態に係る軸受10の構造を例示する図。
図2】一実施形態に係る半割軸受1の構造を例示する図。
図3】傾斜121及び傾斜122の形状を例示する図。
図4】傾斜121及び傾斜122の深さプロファイルを説明する図。
図5】治具90の構造を例示する図。
図6】半割軸受1の製造方法を示す図。
図7】半割軸受1の製造方法を示す図。
図8】半割軸受1の製造方法を示す図。
図9】半割軸受1の製造方法を示す図。
図10】半割軸受1の製造方法を示す図。
図11】実施例及び比較例の表面プロファイルの測定結果を示す。
図12】応力分布のシミュレーション結果を例示する図。
図13】変形例に係る内周面12の表面形状を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.構成
本実施形態に係る軸受は、摺動面にクラウニングを形成して軸の片当たりを抑制しようとするものである。ここで、「クラウニング」はその語源からして軸方向の両側に形成されるものを指すと理解されることがあるが、後述するように本発明の表面形状は必ずしも軸方向の両端に形成する必要はなく、片側だけに形成されてもよい。したがって、以下においてはクラウニングに相当する表面形状を「傾斜」と表す。
【0014】
図1は、一実施形態に係る軸受10の構造を例示する図である。軸受10は、例えば、自動車の内燃機関において主軸受として用いられる軸受である。軸受10は、相手軸9と摺動し、かつ相手軸を支持する。軸受10は、ハウジング8に固定される。図1は、相手軸9の軸方向に平行かつ相手軸9の径方向の中心を通る断面を示す。軸受10は、2つの半割軸受、具体的には半割軸受1及び半割軸受2から構成される。一例において、ハウジング8は自動車のエンジン(すなわち内燃機関)のシリンダブロックであり、相手軸9はクランクシャフト(詳細にはクランクシャフトのメインジャーナル又はクランクピン)である。
【0015】
図2は、一実施形態に係る半割軸受1の構造を例示する図である。図2(A)は上面図を、図2(B)は側面図を、それぞれ示す。半割軸受1は、半円筒形状の軸受本体11を有する。半円筒形状とは、円筒を軸方向に平行な面で半分に分割した形状をいう。軸受本体11は、使用される環境において要求される特性を満たす材料、例えば、金属、樹脂、又はこれらの複合材料で形成される。金属材料としては、例えば、鉄系合金(例えば鋼又は鋳鉄など)、アルミニウム系合金、又は銅系合金が用いられる。樹脂材料としては、例えば、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、又はこれらの複合材料が用いられる。これらの樹脂をバインダー樹脂として用い、バインダー樹脂中に添加剤を分散させてもよい。添加剤としては、固体潤滑剤(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、MoS2、又は黒鉛など)、硬質物(SiC、Al2O3、Si3N4など)、及び軟質物(Sn、Al、又はBiなど)のうち少なくとも1種を含む。一例において、軸受本体11は金属で形成され、樹脂コーティング層を有さない。さらに、複合材料としては、金属材料(例えば、鋼の基材層に積層したアルミニウム系合金又は銅系合金の軸受層)の上に樹脂材料(例えば上記の樹脂コーティング層)の被覆層が用いられてもよい。別の複合材料としては、金属材料(例えば、銅の基材層に積層したアルミニウム系合金又は銅系合金の軸受層)の上に積層した軟質な金属材料(例えばSn、Sn合金、Bi、Bi合金などの金属めっき層)の被覆層が用いられてもよい。
【0016】
軸受本体11は、内周面12、外周面13、合せ面14、及び合せ面15を有する。内周面12は、相手軸9と摺動する。内周面12は、相手軸9の軸方向の一端及び他端(すなわち両端)において傾斜121及び傾斜122を有する。傾斜121及び傾斜122については後述する。外周面13は、ハウジング8と接する。外周面13は、半割軸受1がハウジング8に対して滑るのを抑制する表面構造(例えば、突起又は爪)を有してもよい。合せ面14及び合せ面15は、半割軸受2の合せ面と接する。半割軸受1と半割軸受2とを組み合わせ、円筒形状の軸受10が構成される。この例において、半割軸受2は、傾斜121及び傾斜122に相当する傾斜を有さない点以外は、半割軸受1と同様の構造を有する。
【0017】
以降の説明のため、外周面13が描く円弧の中心Cを原点とする極座標を定義する。外周面13の周方向の中心と中心Cとを結ぶ線を角度θ=0とし、図中時計回りを正方向、反時計回りを負方向として定義する。角度θを軸受角という。
【0018】
図3は、傾斜121及び傾斜122の形状を例示する図である。図3(A)、(B)、及び(C)は、それぞれ、図2(A)の上面図におけるA-A断面、B-B断面、及びC-C断面を示す。なおこれらの図においては、説明を容易にするため、傾斜121及び傾斜122の大きさを誇張して描いている。傾斜121及び傾斜122は縦横比も誇張されており、実物よりも深く図示されている。傾斜121及び傾斜122は、前述のとおりクラウニングに相当する表面形状であり、緩やかに傾斜した表面形状をいう。具体的には、傾斜の深さ(軸受の径方向の長さ、図のd1及びd2)は、傾斜の幅(軸方向の長さ、図のw1及びw2)よりも数桁程度小さい。一例において、傾斜の幅は数mmかつ深さは数μmであり、深さは幅の1/1000程度のオーダーである。関連技術において、摺動面に面取りを形成した軸受が知られている。「面取り」とは幅と深さが同程度の表面形状をいう。一例において、面取りは幅も深さも数mmであり同程度のオーダーである。また、A-A断面又はB-B断面において、傾斜121及び傾斜122が基準面(例えば外周面13)となす角は0.6°未満であることが好ましく、0.15°未満であることがさらに好ましく、0.06°未満であることがさらに好ましい。これに対し、面取りの角度は約30乃至60°である。これらの意味において、本実施形態でいう「傾斜」は面取りとは異なる表面形状を指す。
【0019】
図3(A)のA-A断面は、軸受本体11の周方向中央における、軸方向に平行な断面である。この例において、内周面12は、軸方向の中心から端に向かって緩やかな曲線を描く傾斜121及び傾斜122を有する。傾斜121及び傾斜122の深さ(すなわち軸方向中央と端との高さの差)はd1である。図3(B)のB-B断面は、軸受本体11の周方向端(すなわち合せ面との境界)における、軸方向に平行な断面である。周方向端において、傾斜121及び傾斜122の深さはd2である。ここで、傾斜121及び傾斜122の周方向端と周方向中央とを比較すると、周方向端の方が深さが深い。すなわちd2>d1である。
【0020】
図3(C)のC-C断面は実際には半円筒形状を有しているが、ここでは傾斜121及び傾斜122の深さプロファイルを明確にするため、外周面13を直線に展開した仮想展開図を示す。傾斜121及び傾斜122は、全周に渡って形成される。すなわち、傾斜121及び傾斜122の周方向一端は合せ面14に達して(すなわち繋がって)おり、他端は合せ面15に達して(すなわち繋がって)いる。傾斜121及び傾斜122の深さは周方向において異なっている。θ1<θ<θ2の範囲において、傾斜121及び傾斜122の深さはほぼ一定である。θ1及びθ2の値は、軸受10が使用される環境(例えばエンジンの形式)に応じて設計される。一例において、V型エンジンを想定すると、θ1<-60°かつθ2>60°であることが好ましい。
【0021】
θ<θ1の範囲において、傾斜121及び傾斜122の深さは、合せ面14に向かうにつれ徐々に深くなる。同様に、θ>θ2の範囲において、傾斜121及び傾斜122の深さは、合せ面14に向かうにつれ徐々に深くなる。深さd2と深さd1との関係は、
d2=kd1
と表せる。係数kは、1.2より大きいことが好ましく、1.5より大きいことがより好ましく、2.0より大きいことがさらに好ましい。
【0022】
なおここでは説明を省略したが、半割軸受1はクラッシリリーフを有してもよい。クラッシリリーフは内周面12において、周方向に沿って合せ面近傍に形成される逃げである。クラッシリリーフの深さは、傾斜121及び傾斜122の深さよりも深い。θ1及びθ2は、クラッシリリーフの内側であっても外側であってもよい。
【0023】
図4は、傾斜121及び傾斜122の深さプロファイルを説明する図である。図4は、図3(A)と同様に、軸方向に平行かつ周方向の中央を通る断面を示す。いま、内周面12を、軸方向において7等分する点を考える。これらの点の位置を位置x[i]と表す。軸方向の中心cwに相当する位置はi=0であり、一方(図の右方向)に向かうにつれiが増え、他方に向かうにつれiが減る。傾斜121及び傾斜122が描く曲線の変化率は、軸方向の中心から端に向かうにつれ徐々に大きくなる。すなわち、この例において、
Δd[i]>Δd[i-1] (i>0の場合)
ここで、Δd[i]=[i]-d[i-1]
Δd[i]>Δd[i+1] (i<0の場合)
ここで、Δd[i]=[i]-d[i+1]
である。このような表面構造を採用することにより、応力分布をより均一化し(又は応力の軸方向の変化を少なくし)、結果として耐負荷能力を向上させることができる。
【0024】
2.製造方法
半割軸受1の製造方法、特に、傾斜121及び傾斜122を形成する方法について説明する。まず、作業者は治具90を準備する。治具90は、以下の工程の間、半割軸受を支持する装置である。
【0025】
図5は、治具90の構造を例示する図である。図5(A)は上面図を、図5(B)は正面図を、図5(C)はD-D断面を、それぞれ示す。治具90の構成要素の相互の位置関係を説明する際には、半割軸受1を説明する際に用いた座標系を用いる。治具90は、半円筒形状の内周面91を有する。治具90は、内周面91において半割軸受を支持する。内周面91は、傾斜92及び傾斜93を有する。傾斜92及び傾斜93は、内周面91において軸方向の中心から両端に向かって形成される。傾斜92及び傾斜93は、内周面91において全周に渡って形成される。傾斜92及び傾斜93の形状は狙いとする傾斜(傾斜121及び傾斜122)の形状に応じて設計される。一例において、傾斜92及び傾斜93は、最大高さ数μm程度の大きさを有する。傾斜92及び傾斜93は、切削、溶接、研磨、又はめっきなどにより形成される。なお図5に示す治具90の構造はあくまで例示である。治具90は、傾斜92及び傾斜93に代えて、軸方向両端に突起を有してもよい。
【0026】
以下、図6乃至図10を参照して傾斜121及び傾斜122を形成する方法を説明する。作業者は、(まだ傾斜121及び傾斜122が形成されていない)半割軸受を治具90に取り付ける(図6)。半割軸受は、外周面13が傾斜92及び傾斜93に接するように取り付けられる。半割軸受を治具90に取り付けた状態で、作業者は、半割軸受に圧力を加える(図7)。一例において、作業者は、合せ面14及び合せ面15に対して圧力を加える。
【0027】
圧力を加えない状態において、半割軸受の外周面13は、治具90の内周面91と平行である(図8。なお図8乃至図10はD-D断面に相当する)。半割軸受に圧力が加えられると、半割軸受は、傾斜92及び傾斜93の高さに応じて、軸方向中央付近が外周側に張り出すように弾性変形する(すなわちたわむ)(図9)。作業者は、圧力をかけたまま、半割軸受の内周面12を切削する。切削は、軸受の中心Cを中心として回転する刃を用いて行われる。この刃による切削面は、軸方向に平行である(図9の破線)。この工程により、半割軸受の軸方向端が中央よりも多く切削される(図10)。合せ面14及び合せ面15から圧力をかけているので、合せ面14及び合せ面15近傍の方がより弾性変形の量が大きく、周方向中央の方がより弾性変形の量が小さい。したがって、回転刃により切削することにより、合せ面14及び合せ面15近傍においてより広く深い傾斜が形成される。
【0028】
3.実施例
本願の発明者らは半割軸受1(実施例)、傾斜を有さない半割軸受(比較例1)及び断面が矩形の傾斜を有する半割軸受(比較例2)を試作し、その表面プロファイルを測定した。
【0029】
図11は、実施例並びに比較例1及び2の表面プロファイルの測定結果を示す。実施例においては、中央において深さ約1~3μm、合せ面近傍において深さ約4~8μmの傾斜が形成されている。また、中央においても合せ面近傍においても、高さが最大の点(概ね軸方向の中央)から軸方向端に向かって徐々に高さが低くなっている(徐々に傾斜が深くなっている)。比較例1においては、傾斜は観察されない(なお実験の都合上、実施例1は表面の切削条件が他と異なるため表面の凹凸が大きくなっている)。比較例2においては、軸方向中央を含む領域はほぼ平坦であり、軸方向端に幅約3.5mm、深さ約5μmの傾斜が形成されている。このように、表面プロファイルを測定すれば半割軸受1のように周方向の位置に応じて幅及び深さが異なる傾斜が形成された半割軸受は、比較例1及び2のような、傾斜が形成されていない又は一様な傾斜が形成された半割軸受と異なっていることが分かる。
【0030】
図12は、V6エンジンにおける1~4番目の主軸受のロア半割軸受における、応力分布のシミュレーション結果を例示する図である。シミュレーションは以下の条件で行われた。
解析条件:EHL(弾性流体潤滑)解析
モデル:V6過給エンジン
回転数:6,000rpm
このシミュレーション結果が示すように、内周面の傾斜を矩形から曲線形状に変更することにより、応力分布をより均一化できることが分かる。
【0031】
4.変形例
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。以下、変形例をいくつか説明する。以下の変形例に記載された事項のうち2つ以上の事項が組み合わせて適用されてもよい。
【0032】
図13は、変形例に係る内周面12の表面形状を例示する図である。なお図面を簡単にするため内周面12において頂部を結ぶ線が矩形を描く図を示すが、実際には、頂部を結ぶ線は緩やかな曲線を描く。この例において、内周面12には、複数の溝123が形成される。溝123は、周方向に沿って内周面12の全周に渡って延びる溝である。これら複数の溝123は、隣り合う溝と間隔pで形成される。個々の溝123は、幅wgかつ高さhである。なお図では高さhを誇張して示しているが、高さhは、間隔pの1/100、1/1000、又はそれよりさらに小さいオーダーである。幅wgは、個々の溝123における頂部と頂部との距離である。ここで、傾斜121及び傾斜122の最大深さをdmaxとすると、h≧dmaxである。この例において、未使用の状態ではwg=pである。この例の半割軸受1が使用されると、使用に伴って溝123の頂部が摩耗し、幅wg及び高さhが減少する。使用時において、まず傾斜121及び傾斜122における溝123から摩耗が始まる。環境により摩耗量は異なるが、ある程度摩耗すると傾斜121及び傾斜122以外の部分(ランド部という)がプラトー面となって負荷容量が増大し、摩耗は停止する。負荷が低い、又は中程度の環境では、溝123の頂部を結ぶ線が(図13の断面において)平坦となるように摩耗する(すなわち傾斜121及び傾斜122の方がランド部より高さhが高い)。負荷が高い環境では、傾斜121及び/又は傾斜122における溝123の頂部がさらに摩耗し、傾斜121及び傾斜122の溝123はランド部の溝123と同程度又はそれ以上に摩耗する。この例の半割軸受1は、溝123の摩耗を利用しているので、どのような負荷のエンジンでもフリクション向上の効果を得ることができる。
【0033】
実施形態で説明した傾斜121及び傾斜122の形状はあくまで例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、傾斜121及び傾斜122は、周方向において一定の深さを有してもよい。あるいは、傾斜121及び傾斜122は、周方向の一部のみにおいて形成されてもよい。また、傾斜121及び傾斜122は、軸方向に平行な断面において、軸方向中心に対して対称でなくてもよい。例えば、軸方向中心の一方側にのみ傾斜が形成されてもよい。すなわち、内周面12において傾斜121及び傾斜122のいずれか一方のみが形成されてもよい。また、傾斜121及び傾斜122は、周方向中央に対して回転方向の上流と下流で対称でなくてもよい。回転方向の上流のみ、又は下流のみ、傾斜121及び傾斜122が深くなってもよい。傾斜121及び傾斜122は、例えば治具90の傾斜92及び傾斜93の形状及び/又は位置を調整することによりその形状及び位置を調整することができる。なお実施形態において説明した傾斜121及び傾斜122の形成方法はあくまで例示であり、例えばプレス加工により傾斜121及び傾斜122が形成されてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1…半割軸受、2…半割軸受、8…ハウジング、9…相手軸、10…軸受、11…軸受本体、12…内周面、13…外周面、14…合せ面、15…合せ面、90…治具、91…内周面、92…傾斜、93…傾斜、121…傾斜、122…傾斜、123…溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13