(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174679
(43)【公開日】2022-11-24
(54)【発明の名称】分析装置及び分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/27 20060101AFI20221116BHJP
A61M 1/36 20060101ALI20221116BHJP
G01N 21/03 20060101ALN20221116BHJP
【FI】
G01N21/27 B
A61M1/36 100
G01N21/03 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080649
(22)【出願日】2021-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000200677
【氏名又は名称】泉工医科工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099645
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100161090
【弁理士】
【氏名又は名称】小田原 敬一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆之
(72)【発明者】
【氏名】藤江 輝
(72)【発明者】
【氏名】舩古 春輝
(72)【発明者】
【氏名】柏原 進
(72)【発明者】
【氏名】桑名 克之
【テーマコード(参考)】
2G057
2G059
4C077
【Fターム(参考)】
2G057AA01
2G057AA02
2G057AB01
2G057AB08
2G057AC01
2G057BA01
2G057BB02
2G057BB04
2G057BB06
2G057BD01
2G057CB01
2G057DA07
2G057DB02
2G057EA06
2G059AA01
2G059BB04
2G059BB06
2G059BB13
2G059CC07
2G059DD15
2G059DD20
2G059EE01
2G059EE02
2G059EE13
2G059FF08
2G059HH02
2G059JJ13
2G059MM01
2G059MM05
2G059MM10
2G059MM14
2G059NN01
2G059NN07
2G059PP04
4C077AA03
4C077BB06
4C077EE01
4C077HH03
4C077HH07
4C077HH12
(57)【要約】
【課題】分析対象である液体の酸素分圧を簡易的に推測する。
【解決手段】液体の酸素分圧を推測する分析装置10であって、酸素結合錯体膜11に液体を接触させる接触部12と、酸素結合錯体膜11の色を検出する検出部14と、色度図における酸素結合錯体膜11の色に対応する色度点を分析して、液体の酸素分圧を推測する分析部15とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の酸素分圧を推測する分析装置であって、
酸素結合錯体膜に前記液体を接触させる接触部と、
前記酸素結合錯体膜の色を検出する検出部と、
色度図における前記酸素結合錯体膜の色に対応する色度点を分析して、前記液体の前記酸素分圧を推測する分析部とを備える、分析装置。
【請求項2】
前記分析部は、前記色度図における、第1基準点及び第2基準点を結ぶ線と、前記検出部が検出した前記酸素結合錯体膜の色に対応する色度点と前記第1基準点とを結ぶ線とが成す第1角度を算出するとともに、前記第1角度から前記液体の前記酸素分圧を推測し、
前記第1基準点は、前記色度図における、酸素結合能が失活した状態の前記酸素結合錯体膜の色に対応する色度点であり、
前記第2基準点は、前記色度図における、酸素結合していない状態の前記酸素結合錯体膜の色に対応する色度点である、請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記分析部は、前記色度図における、第1基準点及び第2基準点を結ぶ線と、前記検出部が検出した前記酸素結合錯体膜の色に対応する色度点と前記第1基準点とを結ぶ線とが成す第2角度を算出するとともに、前記第2角度から前記酸素結合錯体膜の劣化度を推測し、
前記第1基準点は、前記色度図における、酸素結合能が失活した状態の前記酸素結合錯体膜の色に対応する色度点であり、
前記第2基準点は、前記色度図における、酸素結合していない状態の前記酸素結合錯体膜の色に対応する色度点である、請求項1に記載の分析装置。
【請求項4】
前記分析部は、前記色度図における、第2基準点及び第3基準点を結ぶ線と、前記検出部が検出した前記酸素結合錯体膜の色に対応する色度点と前記第3基準点とを結ぶ線とが成す第3角度を算出するとともに、前記第3角度から前記液体の前記酸素分圧を推測し、
前記第2基準点は、前記色度図における、酸素結合していない状態の前記酸素結合錯体膜の色に対応する色度点であり、
前記第3基準点は、前記色度図における白色点又は前記白色点の近傍の色度点である、請求項1に記載の分析装置。
【請求項5】
前記分析部は、前記色度図における、第2基準点及び第3基準点を結ぶ線と、前記検出部が検出した前記酸素結合錯体膜の色に対応する色度点と前記第2基準点とを結ぶ線とが成す第4角度を算出するとともに、前記第4角度から前記酸素結合錯体膜の劣化度を推測し、
前記第2基準点は、前記色度図における、酸素結合していない状態の前記酸素結合錯体膜の色に対応する色度点であり、
前記第3基準点は、前記色度図における白色点又は前記白色点の近傍の色度点である、請求項1に記載の分析装置。
【請求項6】
前記色度図は、XYZ表色系のxy色度図又はL*a*b*表色系のa*b*色度図である、請求項1から5のいずれか一項に記載の分析装置。
【請求項7】
前記分析部は、テーブルを参照して前記液体の前記酸素分圧を推測する、請求項1から6のいずれか一項に記載の分析装置。
【請求項8】
前記検出部は、前記酸素結合錯体膜の色を検出するために前記酸素結合錯体膜を撮影して画像データを取得し、
前記分析部は、前記画像データから所定の色をフィルタリングしてフィルタリング画像データを得るとともに、前記フィルタリング画像データに基づいて前記酸素結合錯体膜の色に対応する色度点を分析する、請求項1から7のいずれか一項に記載の分析装置。
【請求項9】
前記酸素結合錯体膜によって反射された反射光又は前記酸素結合錯体膜を透過した透過光から所定の色に対応する光をフィルタリングする光学フィルターをさらに備える、請求項1から7のいずれか一項に記載の分析装置。
【請求項10】
前記酸素結合錯体膜は、サルコミン錯体膜、鉄ポリフィリン錯体膜、コバルトポリフィン錯体膜、及び銅錯体膜の少なくとも一つである、請求項1から9のいずれか一項に記載の分析装置。
【請求項11】
前記酸素結合錯体膜の配位子には、メチルメタクリレート又はパーフルオロブチルエチルメタクリレートが導入されている、請求項10に記載の分析装置。
【請求項12】
前記液体には、分析対象液体としての血液から受け入れた酸素が溶解する、請求項1から11のいずれか一項に記載の分析装置。
【請求項13】
前記接触部は、前記液体と分析対象液体との間に配置され且つ酸素通気性のある疎水性膜をさらに備える、請求項1から12のいずれか一項に記載の分析装置。
【請求項14】
液体の酸素分圧を推測する分析方法であって、
酸素結合錯体膜に前記液体を接触させ、
前記酸素結合錯体膜の色を検出し、
色度図における前記酸素結合錯体膜の色に対応する色度点を分析して、前記液体の前記酸素分圧を推測する、分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の酸素分圧を推測する分析装置及び分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓疾患治療において患者の心臓を停止する場合は、患者の生命維持のために体外循環回路を使用する。具体的には、患者から静脈血を脱血し、脱血した静脈血から二酸化炭素を除去し且つ酸素を加えて動脈血化する。そして、動脈血を患者に送血することによって、患者の生命を維持しながら、心臓を停止して心臓を治療する。この時、適切に体外循環が行われていることを確認する指標として、静脈血と動脈血のそれぞれの酸素分圧及び二酸化炭素分圧等が用いられる。
【0003】
一例として、特許文献1には、血液ガスモニタが接続されている体外循環システムが記載されている。また、血液ガスモニタには、送血チューブに配置された血液ガスモニタのセンサが接続されている。そして、体外循環システムでは、患者の手術中に血液ガスモニタからpH情報、炭酸ガス分圧情報、及び酸素分圧情報が取得される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の血液ガスモニタは、測定に特殊な薬剤を使用する。また、血液ガスモニタが複雑な構成を備えるため、その価格が高く且つそのサイズが大きくなってしまう。そこで、簡易な方法で酸素分圧を測定する装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る分析装置は、液体の酸素分圧を推測する分析装置であって、酸素結合錯体膜に前記液体を接触させる接触部と、前記酸素結合錯体膜の色を検出する検出部と、色度図における前記酸素結合錯体膜の色に対応する色度点を分析して、前記液体の前記酸素分圧を推測する分析部とを備える。
【0007】
また、本発明の一態様に係る分析方法は、液体の酸素分圧を推測する分析方法であって、酸素結合錯体膜に前記液体を接触させ、前記酸素結合錯体膜の色を検出し、色度図における前記酸素結合錯体膜の色に対応する色度点を分析して、前記液体の前記酸素分圧を推測する。
【発明の効果】
【0008】
これにより、本発明に係る分析装置及び分析方法によれば、分析対象である液体の酸素分圧を簡易的に推測できる。
【0009】
本発明のさらなる特徴は、添付図面を参照して例示的に示した以下の実施例の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図7】紫外可視吸収スペクトル測定の結果を示すグラフ。
【
図8】紫外可視吸収スペクトル測定の結果を示すグラフ。
【
図9】第1実施形態に係るxy色度図の一部拡大図。
【
図11】第1角度とガスの酸素濃度との関係を示す表。
【
図16】第2実施形態に係るa*b*色度図の一部拡大図。
【
図17】第3角度とガスの酸素濃度との関係を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための例示的な実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下の実施形態において説明する寸法、材料、形状及び構成要素の相対的な位置は任意に設定でき、本発明が適用される装置の構成又は様々な条件に応じて変更できる。また、特別な記載がない限り、本発明の範囲は、以下に具体的に記載された実施形態に限定されない。
【0012】
[第1実施形態]
図1は、液体の酸素分圧を推測する分析装置10を説明する概略図である。
図1に示すように、分析装置10は、酸素結合錯体膜11に液体を接触させる接触部12を備えている。例えば、接触部12は、酸素結合錯体膜11と、分析対象である液体とを収容するように構成されている。一例として、接触部12は石英セル13と、石英セル13の内面に製膜された酸素結合錯体膜11とを備えている。代替的に、接触部12は、液体を収容する容器を備え、容器内に酸素結合錯体膜11が製膜されたフィルム等が配置されてもよい。
【0013】
酸素結合錯体膜11は、酸素分子と結合して、結合の程度に応じてその色が変化する。そのため、酸素結合錯体膜11の色は、液体の酸素分圧に応じて変化する。例えば、酸素結合錯体膜11は、サルコミン錯体膜、鉄ポリフィリン錯体膜、コバルトポリフィン錯体膜、及び銅錯体膜の少なくとも一つである。なお、酸素結合錯体膜11の一部が異なる材質であっててもよく、この場合、検出部14は、酸素結合錯体膜11の異なる材質からなる部分のそれぞれの色を検出してもよい。
【0014】
液体は、石英セル13の内部空間に収容されており、例えば、純水、血液、人赤血球液等の血液製剤、輸液、又は生理食塩水等である。また、分析装置10の分析対象液体が不透明な液体、例えば血液である場合、接触部12に収容されている液体に、血液から受け入れた酸素を溶解させてもよい。この場合の一例として、接触部12は、酸素通気性のある疎水性膜(例えばシリコーン、シリコン基材、又はフッ素系基材からなる薄膜)をさらに備える。そして、疎水性膜は、液体と分析対象液体(例えば血液)との間に配置される。これにより、血液から疎水性膜を透過した酸素が液体に溶けて、液体の酸素分圧を変化させる。そのため、分析装置10は、液体の酸素分圧に基づいて、血液の酸素分圧を推測できる。なお、以下の説明では、分析対象液体が純水である例について説明する。
【0015】
また、分析装置10は、酸素結合錯体膜11の色を検出する検出部14を備えている。検出部14は、変化する酸素結合錯体膜11の色を検出するように構成されている。一例として、検出部14は、画像又は映像を撮影するカメラ、又はイメージセンサ(例えばCCD(Charge Coupled Device)又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等)である。
【0016】
さらに、分析装置10は、後述する色度図における酸素結合錯体膜11の色に対応する色度点を分析して、液体の酸素分圧を推測する分析部15を備えている。分析部15は、検出部14が検出した色、例えば画像データの色を分析して、液体の酸素分圧を推測する。そのために、分析部15は、所定の分析プログラムに従って各種の演算処理及び動作制御を実行するプロセッサと、プロセッサの動作に必要な内部メモリと、その他の周辺装置とを組み合わせたコンピュータとして構成されている。また、検出部14と分析部15とは、無線又は有線で接続されている。なお、以下の説明では、検出部14がデジタルカメラである例について説明する。検出部14の一例としてデジタルカメラは、酸素結合錯体膜11の色を検出するために酸素結合錯体膜11を撮影して画像データを取得する。この場合、分析部15は、検出部14から画像データを取得して、取得した画像データに含まれる色を分析する。
【0017】
一例として、分析部15は、プロセッサ(不図示)と、制御プログラムを記憶した記憶部としてのメモリ(不図示)とを有している。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)、又はMPU(Micro-Processing Unit)であり、メモリに記憶されたプログラムに基づいて、装置全体を制御すると共に、各種処理についても統括的に制御する。また、メモリは、プロセッサが動作するためのシステムワークメモリであるRAM(Random Access Memory)、並びにプログラム及びシステムソフトウェアを格納するROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disc Drive)及びSSD(Solid State Drive)等の記憶装置を含む。以下では、CPUが、ROM又はHDDに記憶された制御プログラムに従って、種々の演算、制御、及び判別等の処理動作を実行する。
【0018】
また、分析部15には、所定の指令及びデータを入力するキーボード若しくは各種スイッチを含む操作部が、有線接続又は無線接続されている。また、分析部15には、装置の入力状態、設定状態、計測結果、及び各種情報を表示する表示部17が、有線接続又は無線接続されている。一例として、表示部17には、分析部15による分析結果として、液体の酸素分圧が表示される。さらに、分析部15は、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、CF(Compact Flash)カード、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の可搬記録媒体、又はインターネット上のサーバ等の外部記憶媒体に記憶されたプログラムに従って制御を行うこともできる。
【0019】
さらに、分析装置10は、酸素結合錯体膜11に光を照射する白色光源等の光源16(例えば、D65光源)を備えている。そして、検出部14には、光源16から出射して酸素結合錯体膜11によって反射された光が入射する。また、検出部14には、光源16から出射して酸素結合錯体膜11を透過した光が入射してもよい。説明のため、
図1においては、透過光が入射する場合の光源16を破線で図示している。なお、光源16と検出部14との間には、光路を構成するミラー等の反射部が配置されていてもよい。
【0020】
[色の変化の挙動]
酸素結合錯体膜11の色は、酸素分子と結合して変化する。例えば、酸素結合錯体膜11が、サルコミン錯体膜の一例である高分子サルコミン錯体膜(P(EHMA-VPy)-CoS膜)である場合、製膜時の色は黄色である。そして、酸素分子が結合すると、酸素結合錯体膜11の色は、黄色から赤紫色へ変化する。以下、高分子サルコミン錯体膜を例に、酸素結合錯体膜11と、その色の変化について説明する。
【0021】
[高分子サルコミン錯体膜の合成]
まず、高分子配位子であるP(EHMA-VPy)(ポリ(エチルヘキシルメタクリレート-コ-ビニルピリジン))を、
図2に示す手法によって合成する。これにより、EHMA:VPy=85:15(mol%)となる高分子配位子が合成される。さらに、高分子サルコミン錯体膜を作製するために、42 mgのP(EHMA-VPy)と、0.3 mgのサルコミン(CoS)とを準備する。そして、VPy unit:CoS=40:1(mol比)となるようにCoSを仕込み、窒素雰囲気下でジクロロメタン1 mLを用いて溶解させる。その後、溶媒キャスト法にて石英セル13内にP(EHMA-VPy)-CoS膜(膜厚:100 μm)を製膜する(
図3)。なお、膜厚は、100 μmに限られず、例えば50 μm又は70 μmであってもよい。ただし、膜厚が100 μmであることによって、高分子サルコミン錯体膜の酸素結合能が失活するまでの時間がより長くなる。
【0022】
[xy色度図]
分析部15は、変化する色を分析するために、色度図の一例であるCIE XYZ表色系(色空間)のxy色度図(
図4)を利用する。例えば、上述した方法によって高分子サルコミン錯体膜を製膜した直後に、室温下(24-26℃)且つ窒素雰囲気下において、光源16(例えばD65光源)から光を照射する。そして、検出部14(例えばオリンパス株式会社製のミラーレスデジタル一眼カメラ「OM-D E-M1 Mark II」)を用いて、石英セル13内の高分子サルコミン錯体膜を撮影する。このようにして、製膜直後の酸素結合していない状態の高分子サルコミン錯体膜の画像データ(以下、基準画像データともいう)を得る。なお、光源16は、自然光又は白色光源であってもよい。
【0023】
次に、酸素(O2)3%と窒素(N2)97%からなる混合ガス(酸素3%)で純水をバブリングして、分析対象液体となる液体を作製する。そして、作製した液体を、高分子サルコミン錯体膜の全体が浸るように、接触部12である石英セル13内に導入する。さらに、混合ガス(酸素3%)を、高分子サルコミン錯体膜に接触しない位置に導入する。そして、酸素結合平衡状態になるまで液体中においてバブリングする。なお、導入されたガスの一部は液体に溶解し、残部は石英セル13に形成された排気口から外部へ排気される。並行して、高分子サルコミン錯体膜の紫外可視吸収スペクトル測定を行う。そして、酸素結合平衡状態となった状態で、一例として、吸光度が変化しなくなった状態で、光源16から光を照射する。そして、検出部14を用いて、高分子サルコミン錯体膜を撮影する。このようにして、混合ガス(酸素3%)に対応する画像データ(以下、第1画像データともいう)を得る。
【0024】
同様に、酸素10%と窒素90%からなる混合ガス(酸素10%)を導入して、酸素結合平衡状態となった高分子サルコミン錯体膜を撮影する。このようにして、混合ガス(酸素10%)に対応する画像データ(以下、第2画像データともいう)を得る。また、酸素100%のガスを導入して酸素結合平衡状態となった高分子サルコミン錯体膜を撮影する。このようにして、ガス(酸素100%)に対応する画像データ(以下、第3画像データともいう)を得る。さらに、酸素結合能が失活した状態となるまでガス(酸素100%)を導入した後に、高分子サルコミン錯体膜を撮影する。このようにして、失活状態の画像データ(以下、失活画像データともいう)を得る。
【0025】
また、高分子サルコミン錯体膜の撮影と同様に、カメラプロファイルの作成ツール(例えばX-rite社製の「Colorchecker Passport」)に光源16から光を照射して、作成ツールを撮影する。そして、作成したカメラプロファイルを用いて、撮影して得られた高分子サルコミン錯体膜の画像データにキャリブレーションを施す。一例として、画像データのキャリブレーションは、Adobe社製の「Adobe Photoshop(登録商標)」を用いて行う。そして、キャリブレーションして得られた画像データから、CIE L*a*b*表色系の色情報(明度及び色度)を取得する。さらに、得られた色情報を、CIE XYZ表色系に変換する。そして、xの色度点とyの色度点を取得して、
図4に示すような、CIE XYZ表色系のxy色度図にプロットする。
【0026】
このようにして、基準画像データ、第1画像データ、第2画像データ、第3画像データ、及び失活画像データのxy色度図での色度点を取得する。なお、各画像データには、高分子サルコミン錯体膜以外のもの(例えば石英セル13の一部)が含まれている場合がある。この場合、分析部15は、高分子サルコミン錯体膜の部分の画像を用いて色度点を取得する。
【0027】
[色度点の挙動]
図5及び
図6を参照して、色度点の挙動について説明する。なお、
図5及び
図6は、
図4のxy色度図において破線で囲まれた部分Aを拡大した概略説明図である。第1基準点の一例である基準点1は、失活画像データに対応し、高分子サルコミン錯体膜が完全に劣化したときの色度点である。また、第2基準点の一例である基準点2は、製膜直後で無酸素雰囲気下の基準画像データに対応し、高分子サルコミン錯体膜の劣化が始まる前の色度点である。さらに、色度点100P0は、第3画像データに対応し、酸素100%のガスを導入して酸素結合平衡状態となったときの色度点である。なお、高分子サルコミン錯体膜の劣化の程度(以下、劣化度ともいう)については後述する。
【0028】
図5は、基準点1と各画像データに対応する色度点を結ぶ直線と、基準点1と基準点2を結ぶ直線とが成す角度である酸素角度D1を示している。第1角度の一例である酸素角度D1は、液体に接触するガスの酸素濃度と相関するため、液体の酸素分圧と相関する。例えば、液体の酸素分圧は、液体と接触するガス(気体)の酸素濃度に気圧を積算して算出できる。そのため、酸素角度D1は、液体の酸素分圧とも相関する。
【0029】
具体的に、
図5において、色度点3P0は、未劣化の高分子サルコミン錯体膜の第1画像データに対応する。また、色度点3P3は、30%劣化した高分子サルコミン錯体膜の第1画像データに対応する。そして、色度点3P5は、50%劣化した高分子サルコミン錯体膜の第1画像データに対応する。そして、色度点3P0、色度点3P3、及び色度点3P5に対応する酸素角度D1は、いずれも略等しい。よって、このときの酸素角度D1を用いれば、液体に接触するガスの酸素濃度3%を推測でき、1気圧の環境における液体の酸素分圧22.8 Torr=760 Torr×0.03を算出できる。
【0030】
また、
図5において、色度点10P0は、未劣化の高分子サルコミン錯体膜の第2画像データに対応する。また、色度点10P3は、30%劣化した高分子サルコミン錯体膜の第2画像データに対応する。そして、色度点10P5は、50%劣化した高分子サルコミン錯体膜の第2画像データに対応する。そして、色度点10P0、色度点10P3、及び色度点10P5に対応する酸素角度D1は、いずれも略等しい。よって、このときの酸素角度D1を用いれば、ガスの酸素濃度10%を推測でき、1気圧の環境における液体の酸素分圧76 Torr=760 Torr×0.10を算出できる。
【0031】
さらに、
図5において、色度点100P0は、未劣化の高分子サルコミン錯体膜の第3画像データに対応する。また、色度点100P3は、30%劣化した高分子サルコミン錯体膜の第3画像データに対応する。そして、色度点100P5は、50%劣化した高分子サルコミン錯体膜の第3画像データに対応する。そして、色度点100P0、色度点100P3、及び色度点100P5に対応する酸素角度D1は、いずれも略等しい。よって、このときの酸素角度D1を用いれば、ガスの酸素濃度100%を推測でき、1気圧の環境における液体の酸素分圧760 Torr=760 Torr×1.00を算出できる。
【0032】
続いて、
図6は、基準点2と各画像データに対応する色度点を結ぶ直線と、基準点2と基準点1を結ぶ直線とが成す角度である劣化角度D2を示している。第2角度の一例である劣化角度D2は、高分子サルコミン錯体膜の劣化度と相関する。具体的に、
図6において、色度点3P0、色度点10P0、及び色度点100P0に対応する劣化角度D2は、いずれも略等しい。よって、このときの劣化角度D2を用いれば、高分子サルコミン錯体膜の劣化度0%を推測できる。同様に、色度点3P3、色度点10P3、及び色度点100P3に対応する劣化角度D2は、いずれも略等しい。よって、このときの劣化角度D2を用いれば、高分子サルコミン錯体膜の劣化度30%を推測できる。さらに、色度点3P5、色度点10P5、及び色度点100P5に対応する劣化角度D2は、いずれも略等しい。よって、このときの劣化角度D2を用いれば、高分子サルコミン錯体膜の劣化度50%を推測できる。
【0033】
[高分子サルコミン錯体膜の劣化度]
高分子サルコミン錯体膜の劣化の程度を示す劣化度は、紫外可視吸収スペクトル測定の結果から算出できる。一例として、未劣化の高分子サルコミン錯体膜における波長560 nmの光の吸光度(例えば1.2)から、高分子サルコミン錯体膜における波長560 nmの光の吸光度(例えば0.9)を減算して第1の値(例えば0.3)を得る。さらに、未劣化の高分子サルコミン錯体膜における波長560 nmの光の吸光度(例えば1.2)から、製膜直後の酸素結合していない状態の高分子サルコミン錯体膜における波長560 nmの光の初期吸光度(例えば0.2)を減算して第2の値(例えば、1.0)を得る。さらに、第1の値を第2の値で除算して得た値(例えば、0.3)に、100を乗じて劣化度(例えば、30%)を算出する。
【0034】
なお、純水に酸素濃度が100%のガスを供給すると、高分子サルコミン錯体膜が酸素と結合することに起因して、波長560 nm付近における吸収帯における吸光度が増大することが発見された。具体的には、
図7に示すように、酸素結合の程度が50%,60%,70%,80%,及び90%のいずれの場合においても、波長560 nm付近において吸収帯が増大している。なお、
図7は、縦軸が紫外可視吸収スペクトル測定の結果に基づく吸光度を示し、横軸が光の波長を示している。そして、
図7においては、製膜直後の酸素結合していない状態(酸素結合の程度が0%の状態)の高分子サルコミン錯体膜における吸光度を示す線に「初期」の文字を付している。
【0035】
一方、複数の異なる劣化度の高分子サルコミン錯体膜を用いて吸光度を測定した結果、増大した吸収帯が、その後に減少することが発見された。具体的には、
図8に示すように、劣化度100%の場合においては、波長560 nm付近において吸収帯の吸光度が減少している。さらに、波長480 nm 付近において、製膜直後の劣化していない、すなわち劣化度が0%の高分子サルコミン錯体膜における吸収帯と、他の劣化度に対応する高分子サルコミン錯体膜における吸収帯とには違いがある。そして、当該吸収帯の吸光度は、高分子サルコミン錯体膜の劣化に伴い、不可逆的に減少していく。なお、
図8は、縦軸が紫外可視吸収スペクトル測定の結果に基づく吸光度を示し、横軸が光の波長を示している。
【0036】
ただし、
図8に示すように、劣化度0%から劣化度20%においては、波長480 nm付近の吸収帯における吸光度の変化が小さい。これに対して、波長560 nm付近の吸収帯では、酸素濃度に起因する変化と、劣化度に起因する変化とを区別することが比較的に難しい。
【0037】
[実施例1]
以下、
図9から
図12を参照して、実施例1について説明する。なお、
図9は、
図4のxy色度図において破線で囲まれた部分Aを拡大して、実施例1に係る各色度点をプロットした概略説明図である。また、
図10は、実施例1に係る各色度点を示す表である。また、
図11は、第1角度の一例である酸素角度D1とガスの酸素濃度との関係を示す表である。また、
図12は、第2角度の一例である劣化角度D2と劣化度との関係を示す表である。
【0038】
実施例1においては、上述した手法(
図2)によって高分子配位子を合成した後に、上述した手法(
図3)によって高分子サルコミン錯体膜を製膜した。そして、高分子サルコミン錯体膜の撮影及び分析と、紫外可視吸収スペクトル測定とを行った。具体的には、24℃から26℃の室温下において、高分子サルコミン錯体膜を撮影して得られた画像データを分析して、
図9及び
図10に示すようなxの色度点とyの色度点を取得した。このとき、D65光源から高分子サルコミン錯体膜に光を照射して、オリンパス株式会社製のミラーレスデジタル一眼カメラ「OM-D E-M1 Mark II」によって、高分子サルコミン錯体膜を撮影した。
【0039】
また、高分子サルコミン錯体膜の撮影と同じ条件の下で、X-rite社製の「Colorchecker Passport」を撮影して作成したカメラプロファイルを用いて、画像データにキャリブレーションを施した。このとき、キャリブレーションは、Adobe社製の「Adobe Photoshop(登録商標)」を用いて行った。そして、得られた画像データからCIE L*a*b*表色系の色情報を取得して、得られた色情報をCIE XYZ表色系に変換した。このようにして、撮影して得られた画像データに対応する色度点であって、CIE xy色度図にプロットする色度点を取得した。具体的に、基準点1、基準点2、及び各画像データに対応するxの色度点とyの色度点は、
図10に示す通りである。
【0040】
基準点2は、製膜直後の酸素結合していない状態の高分子サルコミン錯体膜の基準画像データに対応する色度点である。この基準画像データは、窒素雰囲気下において、高分子サルコミン錯体膜を撮影して取得した。また、基準点1は、酸素結合能が失活した状態の高分子サルコミン錯体膜の失活画像データに対応する色度点である。
【0041】
そして、失活画像データは、分析対象の液体としての純水を、高分子サルコミン錯体膜が製膜された石英セル13内に導入して、酸素結合能が失活するまで酸素100%のガスをバブリングした後に、高分子サルコミン錯体膜を撮影して取得した。このとき、純水は、高分子サルコミン錯体膜の全体が浸るように石英セル13内に導入した。また、酸素100%のガスは、高分子サルコミン錯体膜に接触しない位置に導入した。なお、測定開始から約15分経過したころから、波長560 nm付近の吸収帯が徐々に減少した。その後、測定開始から約60分経過したころで、スペクトルが収束して、高分子サルコミン錯体膜が酸素結合能を完全に失活した。
【0042】
色度点3P0、色度点3P10、色度点3P20、色度点3P30、色度点3P40、及び色度点3P50は、それぞれ劣化度0%,10%,20%,30%,40%,及び50%の状態の高分子サルコミン錯体膜の画像データに対応する色度点である。これらの画像データは、純水を高分子サルコミン錯体膜が成膜された石英セル13内に導入して、酸素結合平衡状態になるまで酸素3%と窒素97%からなる混合ガスをバブリングした後に、高分子サルコミン錯体膜を撮影して取得した。このとき、純水は、高分子サルコミン錯体膜の全体が浸るように石英セル13内に導入した。また、酸素3%の混合ガスは、高分子サルコミン錯体膜に接触しない位置に導入した。
【0043】
色度点10P0、色度点10P10、色度点10P20、色度点10P30、色度点10P40、及び色度点10P50は、それぞれ劣化度0%,10%,20%,30%,40%,及び50%の状態の高分子サルコミン錯体膜の画像データに対応する色度点である。これらの画像データは、純水を高分子サルコミン錯体膜が製膜された石英セル13内に導入して、酸素結合平衡状態になるまで酸素10%と窒素90%からなる混合ガスをバブリングした後に、高分子サルコミン錯体膜を撮影して取得した。このとき、純水は、高分子サルコミン錯体膜の全体が浸るように石英セル13内に導入した。また、酸素10%の混合ガスは、高分子サルコミン錯体膜に接触しない位置に導入した。
【0044】
色度点100P0、色度点100P10、色度点100P20、色度点100P30、色度点100P40、及び色度点100P50は、それぞれ劣化度0%,10%,20%,30%,40%,及び50%の状態の高分子サルコミン錯体膜の画像データに対応する色度点である。これらの画像データは、純水を高分子サルコミン錯体膜が製膜された石英セル13内に導入して、酸素結合平衡状態になるまで酸素100%のガスをバブリングした後に、高分子サルコミン錯体膜を撮影して取得した。このとき、純水は、高分子サルコミン錯体膜の全体が浸るように石英セル13内に導入した。また、酸素100%のガスは、高分子サルコミン錯体膜に接触しない位置に導入した。
【0045】
そして、基準点1と各画像データに対応する色度点とから、酸素角度D1を算出した。その結果、
図11に示すように酸素角度D1からガスの酸素濃度を推測できることを発見した。すなわち、ガスの酸素濃度は、酸素角度D1と、酸素角度D1の平均値である基準酸素角度からの所定範囲である酸素角度範囲とに基づいて推測できる。酸素角度範囲は、一例として、最大偏差又は標準偏差等であり、
図11においては最大偏差を用いている。具体的に、酸素角度D1が基準酸素角度89.36度からプラスマイナス4.66度の酸素角度範囲に含まれる場合、ガスの酸素濃度は3%と推測され、1気圧の環境における液体の酸素分圧は22.8 Torrと推測される。また、酸素角度D1が基準酸素角度100.56度からプラスマイナス4.72度の酸素角度範囲に含まれる場合、ガスの酸素濃度は10%と推測され、1気圧の環境における液体の酸素分圧は76 Torrと推測される。
【0046】
さらに、基準点2と各画像データに対応する色度点とから、劣化角度D2を算出した。その結果、
図12に示すように劣化角度D2から高分子サルコミン錯体膜の劣化度を推測できることを発見した。具体的に、推測されたガスの酸素濃度が3%であるとき、劣化角度D2が55.51度である場合、高分子サルコミン錯体膜の劣化度は0%と推測される。同様に、推測されたガスの酸素濃度が3%であるとき、劣化角度D2が52.81度である場合、高分子サルコミン錯体膜の劣化度は10%と推測される。また、推測されたガスの酸素濃度が10%であるとき、劣化角度D2が53.35度である場合、高分子サルコミン錯体膜の劣化度は0%と推測される。同様に、推測されたガスの酸素濃度が10%であるとき、劣化角度D2が53.18度である場合、高分子サルコミン錯体膜の劣化度は10%と推測される。
【0047】
以上説明した第1実施形態において、分析部15は、酸素角度D1から液体の酸素分圧を推測する。具体的に、分析部15は、色度図の一例であるXYZ表色系のxy色度図における、基準点1及び基準点2を結ぶ線と、検出部14が検出した酸素結合錯体膜11の色に対応する色度点と基準点1とを結ぶ線とが成す酸素角度D1を算出する。ここで、基準点1は、xy色度図における、酸素結合能が失活した状態の酸素結合錯体膜11の色に対応する色度点である。また、基準点2は、xy色度図における、酸素結合していない状態の酸素結合錯体膜11の色に対応する色度点である。さらに、分析部15は、酸素結合錯体膜11の色と液体の酸素分圧とを関連付けたテーブルを参照して、液体の酸素分圧を推測する。例えば、分析部15は、
図11に示す表をテーブルとして参照して、酸素角度D1からガスの酸素濃度を推測し且つ酸素分圧を推測する。
【0048】
また、分析部15は、劣化角度D2から酸素結合錯体膜11の劣化度を推測する。具体的に、分析部15は、xy色度図における、基準点1及び基準点2を結ぶ線と、検出部14が検出した酸素結合錯体膜11の色に対応する色度点と基準点1とを結ぶ線とが成す劣化角度D2を算出する。ここで、基準点1は、xy色度図における、酸素結合能が失活した状態の酸素結合錯体膜11の色に対応する色度点である。また、基準点2は、xy色度図における、酸素結合していない状態の酸素結合錯体膜11の色に対応する色度点である。さらに、分析部15は、
図12に示す表をテーブルとして参照して、劣化角度D2から酸素結合錯体膜11の劣化度を推測する。
【0049】
以上説明した第1実施形態によれば、比較的に安価なスペクトル解析装置又はデジタルカメラを用いて、分析対象である液体の酸素分圧を測定できる。すなわち、xy色度図において、酸素結合能が失活した状態の酸素結合錯体膜11の失活画像データに対応する基準点1と、酸素結合していない状態の酸素結合錯体膜11の基準画像データに対応する基準点2と、液体に接触する酸素結合錯体膜11の画像データに対応する色度点と、に基づいて酸素分圧を推測できる。
【0050】
さらに、基準点1と、基準点2と、各色度点とに基づいて酸素結合錯体膜11の劣化度を推測できる。これにより、例えば劣化度が50%に達した場合には、酸素結合錯体膜11を交換する等の対応を取ることができる。
【0051】
[第2実施形態]
図13から
図18を参照して第2実施形態について説明する。なお、
図13は、CIE L*a*b*表色系のa*b*色度図である。また、
図14は、
図13のa*b*色度図において破線で囲まれた部分Bを拡大した概略説明図である。また、
図15は、第2実施形態に係る各色度点を示す表である。また、
図13のa*b*色度図において破線で囲まれた部分Bを拡大して、第2実施形態に係る各色度点をプロットした概略説明図である。また、
図16は、第3角度の一例である酸素角度D3とガスの酸素濃度との関係を示す表である。また、
図17は、第4角度の一例である劣化角度D4と劣化度との関係を示す表である。
【0052】
第2実施形態は、フィルタリングを行う点において第1実施形態と異なる。また、分析部15は、変化する色を分析するために、色度図の一例であるCIE L*a*b*表色系のa*b*色度図(
図13)を利用する。なお、第2実施形態の説明においては、第1実施形態との相違点について説明し、既に説明した構成要素については同じ参照番号を付し、その説明を省略する。特に説明した場合を除き、同じ参照符号を付した構成要素は略同一の動作及び機能を奏し、その作用効果も略同一である。
【0053】
第2実施形態においても、第1実施形態と同様の手法(
図2)によって高分子配位子を合成した後に、第1実施形態と同様の手法(
図3)によって高分子サルコミン錯体膜を製膜する。そして、高分子サルコミン錯体膜の撮影及ぶ分析と、紫外可視吸収スペクトル測定とを行う。具体的には、24℃から26℃の室温下において、高分子サルコミン錯体膜を撮影して画像データを得る。このとき、光源16としてD65光源から高分子サルコミン錯体膜に光を照射する。また、検出部14としてオリンパス株式会社製のミラーレスデジタル一眼カメラ「OM-D E-M1 Mark II」を使用して、高分子サルコミン錯体膜を撮影する。
【0054】
その後、分析部15は、撮影して得られた画像データから所定の色をフィルタリングしてフィルタリング画像データを得る。そして、分析部15は、フィルタリング画像データに基づいて酸素結合錯体膜11の色に対応する色度点を分析する。一例として、分析部15は、Adobe社製の「Adobe Photoshop(登録商標)」のレンズフィルター機能を用いて、所定の色(例えば黄色)をフィルタリングする。そのために、分析部15は、L*値が30の青色レンズフィルター(例えば#3E30C0)を画像データに適用する。その結果、高分子サルコミン錯体膜は、製膜直後の酸素結合していない状態の画像データでは赤紫色であるが、酸素100%のガスを導入して酸素結合平衡状態のフィルタリング画像データでは黒色となる。また、高分子サルコミン錯体膜は、酸素100%のガスを導入して酸素結合平衡状態では黒色であるが、酸素結合能が失活した状態のフィルタリング画像データでは青紫色となる。なお、レンズフィルターの色(カラーコード)は、製膜直後の酸素結合していない状態の酸素結合錯体膜11の色の補色を含むことが望ましい。
【0055】
このようにして得られたフィルタリング画像データから、CIE L*a*b*表色系の色情報(明度及び色度)を取得する。さらに、得られた色情報を、CIE L*a*b*色空間を所定の明度(
図13の例ではL*値が50)で切って得られるa*b*色度図(
図13)にプロットして、a*b*色度図でのa*の色度点とb*の色度点を取得する。具体的に、第3基準点の一例である基準点3である白色点は、a*の色度点が0でありb*の色度点が0である。また、基準点2、及び各フィルタリング画像データに対応する色度点は、
図15に示す通りである。そして、第2基準点の一例である基準点2は、製膜直後の酸素結合していない状態の高分子サルコミン錯体膜の基準画像データに対応する色度点である。この基準画像データは、窒素雰囲気下において、高分子サルコミン錯体膜を撮影して取得する。
【0056】
図14及び
図15において、色度点23P0、色度点23P10、色度点23P20、色度点23P30、色度点23P40、及び色度点23P50は、それぞれ劣化度0%,10%,20%,30%,40%,及び50%の状態の高分子サルコミン錯体膜のフィルタリング画像データに対応する色度点である。これらのフィルタリング画像データの元となる画像データは、純水を高分子サルコミン錯体膜が製膜された石英セル13内に導入して、酸素結合平衡状態になるまで酸素3%と窒素97%からなる混合ガスをバブリングした後に、高分子サルコミン錯体膜を撮影して取得する。このとき、純水は、高分子サルコミン錯体膜の全体が浸るように石英セル13内に導入する。また、酸素3%の混合ガスは、高分子サルコミン錯体膜に接触しない位置に導入する。
【0057】
また、色度点20P0、色度点20P10、色度点20P20、色度点20P30、色度点20P40、及び色度点20P50は、それぞれ劣化度0%,10%,20%,30%,40%,及び50%の状態の高分子サルコミン錯体膜のフィルタリング画像データに対応する色度点である。これらのフィルタリング画像データの元となる画像データは、純水を高分子サルコミン錯体膜が製膜された石英セル13内に導入して、酸素結合平衡状態になるまで酸素10%と窒素90%からなる混合ガスをバブリングした後に、高分子サルコミン錯体膜を撮影して取得する。このとき、純水は、高分子サルコミン錯体膜の全体が浸るように石英セル13内に導入する。また、酸素10%の混合ガスは、高分子サルコミン錯体膜に接触しない位置に導入する。
【0058】
また、色度点200P0、色度点200P10、色度点200P20、色度点200P30、色度点200P40、及び色度点200P50は、それぞれ劣化度0%,10%,20%,30%,40%,及び50%の状態の高分子サルコミン錯体膜のフィルタリング画像データに対応する色度点である。これらのフィルタリング画像データの元となる画像データは、純水を高分子サルコミン錯体膜が製膜された石英セル13内に導入して、酸素結合平衡状態になるまで酸素100%のガスをバブリングした後に、高分子サルコミン錯体膜を撮影して取得する。このとき、純水は、高分子サルコミン錯体膜の全体が浸るように石英セル13内に導入する。また、酸素100%のガスは、高分子サルコミン錯体膜に接触しない位置に導入する。
【0059】
その結果、
図14のa*b*色度図に示すように、酸素濃度毎に異なる劣化度に対応する各色度点を結ぶ線が、フィルタリングを行うことにより、異なる酸素濃度間で類似した傾きとなる。すなわち、異なる酸素分圧の液体に接触する高分子サルコミン錯体膜の劣化度に対応する各色度点を結ぶ線が、異なる酸素分圧ごとに類似した傾きとなる。これは、製膜直後の酸素結合していない状態の高分子サルコミン錯体膜の色と、酸素結合能が失活した状態の高分子サルコミン錯体膜の色とが、黄色であるためであると考えられる。すなわち、黄色の補色にあたる青色系(例えばL*値が30)のレンズフィルターを用いてフィルタリングするため、 色の三要素 (色相、彩度及び明度 )において、一番変化が大きい明度の変化が抑えられる。これにより、フィルタリング画像データにおいては、高分子サルコミン錯体膜の劣化時の明度変化が抑えられ、a*b*色度図上での色変化が大きくなると考えられる。さらに、フィルタリングによって明度変化を抑えるため、二次元の色度図において色変化を把握できる。
【0060】
また、
図14のa*b*色度図に示すように、酸素分圧毎に異なる劣化度に対応する各色度点を結ぶ線が、フィルタリングを行うことにより白色点におおよそ収束する。この要因は、レンズフィルターのカラーコード#3E30C0が、白(#FFFFFF)より黒(#000000)に近い色であるからと考えられる。すなわち、黒に近い色のレンズフィルターを適用したことによって、混色が過剰となり、画像データ中の高分子サルコミン錯体膜の色が黒色に近づいたと考えられる。
【0061】
これを利用することによって、基準点3と各フィルタリング画像データに対応する色度点とから、
図16に示す酸素角度D3を算出する。酸素角度D3は、白色点と各フィルタリング画像データに対応する色度点を結ぶ直線と、白色点と基準点2を結ぶ直線とが成す角度である。また、基準点2と各フィルタリング画像データに対応する色度点とから、
図16に示す劣化角度D4を算出する。劣化角度D4は、基準点2と各フィルタリング画像データに対応する色度点を結ぶ直線と、基準点2と白色点を結ぶ直線とが成す角度である。代替的に、白色点に代えて、白色点の近傍の任意点を基準点3としてもよい。
【0062】
そして、
図17に示すように酸素角度D3から液体の酸素分圧を推測できる。すなわち、酸素分圧は、酸素角度D3と、酸素角度D3の平均値である基準酸素角度からの所定範囲である酸素角度範囲とに基づいて推測できる。酸素角度範囲は、一例として、最大偏差又は標準偏差等であり、
図17においては最大偏差を用いている。具体的に、酸素角度D3が基準酸素角度27.02度からプラスマイナス1.18度の酸素角度範囲に含まれる場合、ガスの酸素濃度は3%と推測され、1気圧の環境における液体の酸素分圧は22.8 Torrと推測される。また、酸素角度D3が基準酸素角度32.64度からプラスマイナス2.31度の酸素角度範囲に含まれる場合、ガスの酸素濃度は10%と推測され、1気圧の環境における液体の酸素分圧は76 Torrと推測される。
【0063】
さらに、
図18に示すように劣化角度D4から高分子サルコミン錯体膜の劣化度を推測できる。すなわち、劣化度は、劣化角度D4と、劣化角度D4の平均値である基準劣化角度からの所定範囲である劣化角度範囲とに基づいて推測できる。劣化角度範囲は、一例として、最大偏差及び標準偏差等であり、
図18においては最大偏差を用いている。具体的に、劣化角度D4が基準劣化角度14.84度からプラスマイナス0.98度の劣化角度範囲に含まれる場合、高分子サルコミン錯体膜の劣化度は0%と推測される。同様に、劣化角度D4が基準劣化角度20.50度からプラスマイナス0.97度の劣化角度範囲に含まれる場合、高分子サルコミン錯体膜の劣化度は10%と推測される。そして、劣化度20%,30%,40%,及び50%についても同様に、劣化角度D4から推測できる。
【0064】
以上説明した第2実施形態において、分析部15は、酸素角度D3から液体の酸素分圧を推測する。具体的に、分析部15は、a*b*色度図における、基準点2及び基準点3を結ぶ線と、検出部14が検出した酸素結合錯体膜11の色に対応する色度点と基準点3とを結ぶ線とが成す酸素角度D3を算出する。ここで、基準点2は、a*b*色度図における、酸素結合していない状態の酸素結合錯体膜11の色に対応する色度点である。また、基準点3は、a*b*色度図における白色点又は白色点の近傍の色度点である。さらに、分析部15は、酸素結合錯体膜11の色と液体の酸素分圧とを関連付けたテーブルを参照して、液体の酸素分圧を推測する。例えば、分析部15は、
図17に示す表をテーブルとして参照して、酸素角度D3からガスの酸素濃度を推測し且つ酸素分圧を推測する。
【0065】
また、分析部15は、劣化角度D4から酸素結合錯体膜11の劣化度を推測する。具体的に、分析部15は、a*b*色度図における、基準点2及び基準点3を結ぶ線と、検出部14が検出した酸素結合錯体膜11の色に対応する色度点と基準点2とを結ぶ線とが成す劣化角度D4を算出する。ここで、基準点2は、a*b*色度図における、酸素結合していない状態の酸素結合錯体膜11の色に対応する色度点である。また、基準点3は、a*b*色度図における白色点又は白色点の近傍の色度点である。さらに、分析部15は、
図18に示す表をテーブルとして参照して、劣化角度D4から酸素結合錯体膜11の劣化度を推測する。
【0066】
以上説明した第2実施形態によれば、比較的に安価なスペクトル解析装置又はデジタルカメラを用いて、分析対象である液体の酸素分圧を測定できる。すなわち、a*b*色度図において、白色点に対応する基準点3と、酸素結合していない状態の酸素結合錯体膜11の基準画像データに基づくフィルタリング画像に対応する基準点2と、液体に接触する酸素結合錯体膜11の画像データに対応する色度点と、に基づいて酸素分圧を推測できる。
【0067】
さらに、白色点に対応する基準点3と、基準点2と、各色度点とに基づいて酸素結合錯体膜11の劣化度を推測できる。これにより、例えば劣化度が50%に達した場合には、酸素結合錯体膜11を交換する等の対応を取ることができる。
【0068】
なお、フィルタリングは、酸素結合錯体膜11によって反射された反射光又は酸素結合錯体膜11を透過した透過光から所定の色に対応する光をフィルタリングする光学フィルターによって行ってもよい。具体的には、光源16と接触部12との間に、黄色をフィルタリングして除去する光学フィルターを介在させる。または、接触部12と検出部14との間に、黄色をフィルタリングして除去する光学フィルターを介在させてもよい。一例として、光学フィルターのカラーコードは、#3E30C0である。この場合、検出部14によって直接フィルタリング画像データを得ることができる。また、画像データに用いる光学フィルターの色(カラーコード)は、#3E30C0には限定されない。例えば、光学フィルターの色は、#704CBC(青紫)、#000080、#0000FF(青)、#0080FF、#8000FF、又は#FF00FFであってもよい。同様に、画像データをフィルタリングする際に用いる仮想的なレンズフィルターの色は、#704CBC(青紫)、#000080、#0000FF(青)、#0080FF、#8000FF、又は#FF00FFであってもよい。
【0069】
[変形例]
変形例において、酸素結合錯体膜11の配位子には、メチルメタクリレート又はパーフルオロブチルエチルメタクリレートが導入されている。変形例に係る酸素結合錯体膜11によれば、酸素結合錯体膜11の交換時期となるまでに要する時間(一例として、酸素結合錯体膜11の劣化度が50%に達するまでに要する時間)をより長くできる。
【0070】
具体的に、酸素結合錯体膜11は、安価且つ高い溶解性を有するメチルメタクリレート(MMA)を配位子に導入したP(EHMA-MMA-VPy)-CoS膜であってもよい。この場合、例えば、メチルメタクリレート(MMA)を配位子に導入した高分子配位子であるP(EHMA-MMA-VPy)を合成する。これにより、EHMA-MMA:VPy=85:15(mol%)となる高分子配位子が合成される。さらに、合成した高分子配位子 P(EHMA-MMA-VPy)において、VPy:CoS=40:1(mol比)となるようにCoSを仕込み、窒素雰囲気下でジクロロメタン1 mLを用いて溶解させる。その後、溶媒キャスト法にて石英セル13内にP(EHMA-MMA-VPy)-CoS膜(膜厚:100 μm)を製膜する。
【0071】
さらに、変形例において、酸素結合錯体膜11は、P(EHMA-FBEMA-VPy)-Co(o-F)S膜であってもよい。P(EHMA-FBEMA-VPy)-Co(o-F)S膜は、撥水性の高いフッ素部位を有するサルコミン錯体Co(o-F)Sと、長い炭化フッ素部位を有する化合物であるパーフルオロブチルエチルメタクリレート(FBEMA)を高分子配位子に導入している。ただし、高分子サルコミン錯体膜を用いることによって、より安価且つ溶解性が低い酸素結合錯体膜11を提供できる。
【0072】
以上、各実施形態を参照して本発明について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明に反しない範囲で変更された発明、及び本発明と均等な発明も本発明に含まれる。また、各実施形態及び各変形形態は、本発明に反しない範囲で適宜組み合わせることができる。
【0073】
例えば、仮想的なレンズフィルター又は光学フィルターに代えて、光源16を、所定の色に対応する光を出射しないように構成してもよい。
【符号の説明】
【0074】
10:分析装置、11:酸素結合錯体膜、12:接触部、:14検出部、15:分析部