(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174741
(43)【公開日】2022-11-24
(54)【発明の名称】繊維強化無機成形体、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/26 20060101AFI20221116BHJP
C04B 12/04 20060101ALI20221116BHJP
C04B 14/42 20060101ALI20221116BHJP
C04B 14/46 20060101ALI20221116BHJP
B28B 1/30 20060101ALI20221116BHJP
B32B 5/02 20060101ALI20221116BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20221116BHJP
B32B 13/02 20060101ALI20221116BHJP
B32B 17/04 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
C04B28/26
C04B12/04
C04B14/42 Z
C04B14/46
C04B14/42 B
B28B1/30
B32B5/02 B
B32B5/28 Z
B32B13/02
B32B17/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077749
(22)【出願日】2022-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2021080585
(32)【優先日】2021-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521202455
【氏名又は名称】株式会社秋山工房
(71)【出願人】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504230132
【氏名又は名称】株式会社京和
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】瀧華 裕之
(72)【発明者】
【氏名】新美 律
(72)【発明者】
【氏名】秋山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】上村 良彰
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 勝
【テーマコード(参考)】
4F100
4G052
4G112
【Fターム(参考)】
4F100AC06B
4F100AC06C
4F100AE08
4F100AE08A
4F100AE08B
4F100AG00
4F100AG00B
4F100AG00C
4F100BA04
4F100BA07
4F100CA23A
4F100DE01A
4F100DG01
4F100DG01B
4F100DG01C
4F100DG15B
4F100DG15C
4F100EJ08
4F100EJ82B
4F100GB07
4F100HB00A
4F100JB12
4F100JB12A
4F100JB12B
4F100JK11B
4F100JK11C
4F100YY00B
4G052DA01
4G052DB12
4G052DC06
4G112PA02
4G112PA17
4G112PA18
(57)【要約】
【課題】一態様において、軽量で、不燃性であり、良外観の、繊維強化無機成形体を提供する。
【解決手段】本開示は、一態様において、ジオポリマーの硬化体3を含む表面層2と、繊維基材6と繊維基材6に含浸され硬化されたジオポリマー7を含む強化層5とを含む繊維強化無機成形体1に関する。繊維基材6は、ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材である。繊維基材6は、好ましくは不織布又はマットである。強化層5に含まれる繊維基材6の含有量は、好ましくは前記強化層の全質量のうちの5~25質量%である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジオポリマーの硬化体を含む表面層と、
繊維基材と前記繊維基材に含浸され硬化されたジオポリマーを含む強化層と、を含み、
前記繊維基材は、ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材である、繊維強化無機成形体。
【請求項2】
前記繊維基材は不織布又はマットである、請求項1に記載の繊維強化無機成形体。
【請求項3】
前記強化層に含まれる前記繊維基材の含有量は、前記強化層の全質量のうちの5~25質量%である、請求項1又は2に記載の繊維強化無機成形体。
【請求項4】
前記表面層は、前記ジオポリマーに分散された骨材をさらに含む、請求項1又は2に記載の繊維強化無機成形体。
【請求項5】
前記表面層に含まれる前記骨材の含有量は、表面層の全質量のうちの10~50質量%である、請求項4に記載の繊維強化無機成形体。
【請求項6】
前記表面層の表面に意匠が形成されている、請求項1又は2に記載の繊維強化無機成形体。
【請求項7】
成形型に第1ジオポリマー組成物を塗布し、
前記成形型に塗布した前記第1ジオポリマー組成物上に、第2ジオポリマー組成物が含浸された繊維基材を少なくとも1枚配置して、積層構造体を形成し、前記繊維基材は、ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材であり、
前記積層構造体を、養生し、離型する、繊維強化無機成形体の製造方法。
【請求項8】
前記第1ジオポリマー組成物は、前記第1ジオポリマー組成物に含まれる活性フィラー100質量部に対して、骨材を20~100質量部含む、請求項7に記載の繊維強化無機成形体の製造方法。
【請求項9】
前記第1ジオポリマー組成物の上に、前記繊維基材を配置した後、前記繊維基材に前記第2ジオポリマー組成物を含浸させる、請求項7又は8に記載の繊維強化無機成形体の製造方法。
【請求項10】
前記繊維基材に前記第2ジオポリマー組成物を含浸してから、これらを前記第1ジオポリマー組成物の上に配置する、請求項7又は8に記載の繊維強化無機成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化無機成形体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物の壁面に設置するパネルやモニュメントなどの成形体は地表から高いところに設置されることもあり、軽量かつ強度が求められる。繊維強化プラスチックを利用することで、強度を保ったまま成形体の軽量化が可能であるが、耐火性能はよくない。一方、難燃および防火性能を求める場合は、繊維強化コンクリート、繊維強化石膏などが使用されるが、これらは、軽量性に関し、繊維強化プラスチックよりも劣る。また、石膏は、耐水性がないため屋外での使用ができず、また脆い点に欠点がある。一方、ガラス繊維は、強度、不燃性、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性に優れるため、広範囲の用途に使用されている。
【0003】
特許文献1には、珪酸ナトリウム硬化物のマトリックス中にガラス繊維が含有された繊維強化珪酸化合物複合材が開示されている。この複合材は、水ガラスをマトリックスとし、ガラス繊維又はガラス繊維粉の添加によって、マトリックスの硬化を促進するとともにマトリックスの脆さを補い、複合材全体の強度を向上させている。当該複合材は、珪酸ナトリウム水溶液とガラス繊維等の各成分を混合して得たスラリーを、型に注入し、硬化条件下におくことで、所定の形状に成形される。
【0004】
特許文献2には、パネル等の無機質硬化体の製造に使用される無機質硬化性組成物が開示されている。当該組成物は、メタカオリン(無機質粉体)、珪酸カリウム水溶液、珪石粉、ワラストナイト、ビニロン繊維、金属珪素粉末を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05-330889号公報
【特許文献2】特開2007-290316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、成形体の強度向上のために繊維を高充填する場合、成形体の表面に繊維痕が生じる場合があり、製品としての外観上の審美性を損なうという問題があった。特に、成形体の不燃性の向上のためにガラス繊維を高充填した場合は、その問題が顕著であり、成形体の表面が無模様である場合は、繊維痕が目立つ。
【0007】
そこで、本開示は、一態様において、軽量で、不燃性であり、良外観の、繊維強化無機成形体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、一態様において、ジオポリマーの硬化体を含む表面層と、繊維基材と前記繊維基材に含浸され硬化されたジオポリマーを含む強化層と、を含み、前記繊維基材は、ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材である、繊維強化無機成形体に関する。
【0009】
本開示は、一態様において、成形型に第1ジオポリマー組成物を塗布し、前記成形型に塗布した前記第1ジオポリマー組成物の上に、第2ジオポリマー組成物が含浸された繊維基材を少なくとも1枚配置して、積層構造体を形成し、前記繊維基材は、ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材であり、前記積層構造体を、養生し、離型する、繊維強化無機成形体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一態様によれば、軽量で、不燃性であり、良外観の、繊維強化無機成形体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本開示の一態様の繊維強化無機成形体の模式的斜視図である。
【
図2】
図2は、本開示の一態様の繊維強化無機成形体の模式的斜視図である。
【
図3】
図3A~Eは、本開示の一態様の繊維強化無機成形体の製造方法を説明する各工程図である。
【
図4】
図4A~Eは、本開示の一態様の繊維強化無機成形体の製造方法を説明する各工程図である。
【
図5】
図5は、実施例1の成形体の表面の写真である。
【
図6】
図6は、比較例1の成形体の表面の写真である。
【
図7】
図7は、実施例2の成形体の表面の写真である。
【
図8】
図8は、比較例2の成形体の表面の写真である。
【
図9】
図9は、実施例3の成形体の表面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、一態様において、表面層と強化層とを含む繊維強化無機成形体(以下、「成形体」と略称する場合もある。)である。表面層と強化層のマトリックス材が、いずれもジオポリマー(以下「GP」と略称する場合もある。)の硬化体であり、強化層に含まれる強化繊維がガラス繊維又はバサルト繊維であるため、成形体は軽量かつ不燃性である。前記成形体は、ガラス繊維又はバサルト繊維を含む強化層の上に表面層が設けられた構成であるため、強化層にガラス繊維又はバサルト繊維を高充填しても、成形体の表面に繊維痕が生じることが防止される。したがって、本開示は、一態様において、軽量、不燃性であり、良外観と高強度とが両立された、繊維強化無機成形体を提供できる。尚、「成形体の表面」とは、成形体のオモテ面のことであり、型内成形する際に型内面に接触して成形された接触面を意味する。
【0013】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態をより詳細に説明する。しかし、本発明は、下記図面に示したものに限定されない。
【0014】
[繊維強化無機成形体]
図1は、本開示の一態様の繊維強化無機成形体を説明する模式的斜視図であり、
図2は、本開示の別の一態様の繊維強化無機成形体を説明する模式的斜視図である。
図1および
図2に示すように、成形体1は、表面層2と、表面層2に接合された強化層5とを含む。
【0015】
[表面層]
表面層2は、主成分として、GPの硬化体3を含む。GPは、非晶質の珪酸アルミニウムを主成分とした原料(以下「活性フィラー」とも言う。)と、アルカリ金属の、珪酸塩、炭酸塩、水酸化物の水溶液(アルカリ溶液)の少なくとも1種類との反応によって形成される非晶質の縮重合体の総称である。GPは、セメントのように水と反応して生成された水和物ではないので、高温でも結合が切れず、強固な無機ポリマー構造を有するため、風雨、日射、酸、温度変化等の劣化要因に対して強い。
【0016】
活性フィラー(図示せず)としては、非晶質珪酸アルミニウムが挙げられ、代表的なものとして、メタカオリン、フライアッシュ、下水汚泥スラグ、高炉水砕スラグなどが挙げられるが、なかでも、白色で、反応が速く、品質のバラツキが少ないメタカオリンが好ましい。
【0017】
アルカリ金属の珪酸塩としては、好ましくは、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、および珪酸リチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは、珪酸カリウムを含み、さらに好ましくは珪酸カリウムである。アルカリ金属珪酸塩の水溶液は、アルカリ金属水酸化物と非晶質シリカと水を混合することにより調整することもできる。
【0018】
表面層2には、表面層2を補強するために、必要に応じて、GPに分散された補強繊維(図示せず)が含まれていてもよい。補強繊維は、成形体1の用途に応じて任意のものが使用できる。補強繊維としては、成形体1の表面の良外観、及び、成形体1の表面に意匠を形成する場合の当該意匠の高再現性の観点から、例えば、ビニロン、アクリル、PE、PP、セルロース、アラミド、炭素繊維、アルミナ繊維、ガラス繊維等の強化繊維が好ましく使用できる。表面層2には、耐久性の観点からアルカリに弱いEガラス等のガラス繊維が含まれないことが好ましいが、耐アルカリガラス繊維であれば、成形体1の表面性状に影響しない範囲で、含まれていてもよい。これらの補強繊維の表面層2における含有量は、強度向上、成形体1の表面の良外観、及び、成形体1の表面に意匠を形成する場合の当該意匠の高再現性の観点から、好ましくは、表面層2の全質量のうちの0.3~1.0質量%が好ましい。強度向上および補強繊維の分散性の観点から、補強繊維の繊維径は、10~50μmが好ましく、繊維長さは、1~10mmが好ましい。
【0019】
表面層2には、表面層2を補強するために、必要に応じて、水に対して不溶であり、アルカリ金属珪酸塩と反応しない、骨材4が含まれていてもよい。特に、成形体1の表面に意匠を形成する場合は、細かい凹凸における強度低下や、クラック発生を予防する観点から、骨材4が含まれていると好ましい。骨材4としては、例えば、ワラストナイト、ジルコンサンド、珪砂、結晶質アルミナ、マイカ、銅からみ、石灰石、都市ごみスラグ等が挙げられる。これらは、単独使用してもよいし2種以上併用されてもよい。なかでも針状で収縮防止の効果があるという理由から、ワラストナイトが好ましい。
【0020】
骨材4の粒径は、良外観および意匠の高再現性の観点から、好ましくは、50~1000μm、より好ましくは50~200μmである。骨材4の表面層2における含有量は、強度向上、成形体1の表面の良外観、及び、意匠の高再現性の観点から、好ましくは、表面層2の全質量のうちの10~50質量%が好ましい。なお、本明細書において「粒径」は、50%(重量)累積粒径、すなわち、粒径の小さいものから累積していった場合において、骨材全体の50重量%に達したときの粒径をいう。
【0021】
表面層2の好ましい厚みは、成形体1の用途および意匠の形成の有無等に応じて異なるが、成形体全体の強度および良外観の観点から、好ましくは0.3~2.0mm、より好ましくは0.5~1.0mmである。
【0022】
表面層2の表面、即ち、成形体1の表面は、
図1に示すように無模様の平滑な面であってもよいし、
図2に示すように意匠が形成されていてもよい。意匠としては、亀甲、市松文様、七宝つなぎ等の日本の伝統文様、幾何学模様、皮シボ模様、岩肌、木目、木肌(木皮)、櫛引、掻き落とし、はつり等、種々のものが挙げられる。
【0023】
[強化層]
強化層5は、表面層2に接合されており、ガラス繊維基材等の繊維基材6と、ガラス繊維基材等の繊維基材6に含浸され硬化されたジオポリマー7を含んでいる。強化材として、ガラス繊維基材等の繊維基材6を用いれば、強化層5にガラス繊維等の強化材を高充填できる。GPの硬化体7は、強化層5におけるマトリックス材であり、表面層に含まれるGPの硬化体3と同様に、アルカリ金属珪酸塩等の水溶液と、活性フィラーとの反応によって形成される非晶質の縮重合体である。強化層5を構成する繊維基材は、ガラス繊維基材の他に、バサルト繊維基材であってもよい。バサルト繊維は、玄武岩を溶融し、紡糸して得られた繊維であることから玄武岩繊維ともよばれる。バサルト繊維は、ガラス繊維よりも耐熱性が高く、強度が高いことが知られている。
【0024】
繊維基材(ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材)6の形態は、平織り、朱子織り、不織布、マット、編み物、組み物、又はこれらの組み合わせ、又はこれらとチョップとの組み合わせ等が挙げられる。強化層5へのガラス繊維又はバサルト繊維の高充填の観点から、好ましくは不織布又はマット、より好ましくはマットである。マットの種類は、例えば、所定の長さに切断されたガラス繊維ストランド又はバサルト繊維ストランドを、ランダム方向に分散させて均一な厚みに積層し、結合剤によりマット状とされた、チョップドストランドマット、所定の長さに切断されたガラス繊維ストランド又はバサルト繊維ストランドを別の連続繊維で縫い込んでシート状に縫合した、ステッチマット、又は、連続した繊維を例えば渦巻状に積み重ね、結着剤によりマットとされた、コンティニュアスストランドマットなどがある。1枚の不織布又はマットの好適な目付けは、GPの含浸性と、マット自体のハンドリング性、後述する第2ジオポリマー組成物が含浸されたポリマー含有繊維基材(ポリマー含有ガラス繊維基材又はポリマー含有バサルト繊維基材)のハンドリング性との両立の観点から、30~600g/m2である。ガラス繊維基材を構成するガラス繊維ストランドの番手は5~500texが好ましく、繊維長さは、1~100mmが好ましく、20~100mmがより好ましい。バサルト繊維基材を構成するバサルト繊維ストランドの番手は5~500texが好ましく、繊維長さは、1~100mmが好ましく、20~100mmがより好ましい。
【0025】
強化層5における、繊維基材(ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材)6の層数については、成形体の用途に応じて適宜選択すればよく、例えば、1~10層であり、好ましくは3~5層である。また、繊維基材(ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材)6は、ロービングを1~100mm、好ましくは20~100mmにカットして得たストランドをスプレーガンにて吹き付けることにより基材状に積層したものであってもよい。ガラス繊維基材の強化層5における含有量は、強度向上の観点から、好ましくは、強化層の全質量のうちの5~25質量%であり、更に好ましくは5~20質量%である。バサルト繊維基材の強化層5における含有量も、強度向上の観点から、好ましくは、強化層の全質量のうちの5~25質量%であり、更に好ましくは5~20質量%である。
【0026】
強化層5には、必要に応じて、例えば、重量調整のために、無機充填材(図示せず)が含まれていてもよい。無機充填材としては、タルク、微粉のワラストナイト、珪石粉、ゼオライト、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、その他岩石の粉砕品等が挙げられる。無機充填材の粒径は、GPの繊維基材(ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材)6への含浸の妨げとならなければ特に制限はなく、好ましくは、5μm以上50μm未満である。無機充填材の強化層5における含有量は、強度向上とGPの繊維基材(ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材)6への含浸性の両立の観点から、好ましくは、強化層の全質量のうち、50質量%以下が好ましい。
【0027】
強化層5の好ましい厚みは、成形体1の用途等に応じて異なるが、成形体の強度向上の観点から、好ましくは2.0~10mm、より好ましくは3.0~6.0mmである。
【0028】
成形体1の好ましい厚みは、成形体1の用途等に応じて異なるが、成形体の強度向上の観点から、好ましくは2.3~12mm、より好ましくは3.5~7.0mmである。
【0029】
[繊維強化無機成形体の製造方法]
次に、本開示の一態様の成形体の製造方法について、
図3および
図4を用いて説明する。
本開示は、一態様において、成形型に第1ジオポリマー組成物(以下「第1GP組成物」と略記する場合もある。)を塗布し、成形型に塗布した前記第1GP組成物の上に、第2ジオポリマー組成物(以下「第2GP組成物」と略記する場合もある。)が含浸されたガラス繊維基材を1枚又は複数枚配置して、積層構造体を作製し、前記積層構造体を養生して完全に硬化させた後、離型する、繊維強化無機成形体の製造方法に関する。
また、本開示は、一態様において、成形型に第1ジオポリマー組成物(以下「第1GP組成物」と略記する場合もある。)を塗布し、成形型に塗布した前記第1GP組成物の上に、第2ジオポリマー組成物(以下「第2GP組成物」と略記する場合もある。)が含浸されたバサルト繊維基材を1枚又は複数枚配置して、積層構造体を作製し、前記積層構造体を養生して完全に硬化させた後、離型する、繊維強化無機成形体の製造方法に関する。
【0030】
第1GP組成物は、例えば、前記活性フィラーと、アルカリ金属珪酸塩の水溶液等のアルカリ水溶液とを含む。第1GP組成物には、必要に応じて、有機繊維等の前記強化繊維(補強繊維)や骨材等が含まれていてもよい。好適な、アルカリ水溶液、活性フィラー、強化繊維、骨材については、上述の通りである。第1GP組成物の固形分濃度は、塗布性の観点から、好ましくは70~85質量%である。第1GP組成物において、アルカリ金属珪酸塩の好適な含有量は、固形分換算で、活性フィラー100質量部に対して、35~60質量部であり、骨材4の好適な含有量は、収縮防止、成形体の強度の観点から、活性フィラー100質量部に対して、20~100質量部である。
【0031】
第2GP組成物は、例えば、活性フィラーと、アルカリ金属珪酸塩の水溶液等のアルカリ水溶液とを含む。第2GP組成物には、必要に応じて、無機充填材等が含まれていてもよい。好適な、アルカリ水溶液、活性フィラー、無機充填材の詳細については、上述の通りである。第2GP組成物の固形分濃度は、繊維基材(ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材)6への含浸性の観点から、好ましくは70~85質量%である。第2GP組成物において、アルカリ金属珪酸塩の好適な含有量は、固形分換算で、活性フィラー100質量部に対して、好ましくは40~60質量部であり、無機充填材の好適な含有量は、成形体の強度、加工性の観点から、活性フィラー100質量部に対して、好ましくは75質量部以下である。
【0032】
本開示の一態様の成形体の製造方法で用いる成形型として、例えば、ウレタンゴム、繊維強化プラスチック、シリコーンゴム等の素材の成形型を用いることができる。必要に応じて離型剤が使用でき、例えばワックス系、シリコーン系、フッ素系、界面活性剤系離型剤等が使用できる。
【0033】
次に、
図3Aおよび
図4Aに示すように、離型剤が塗布された成形型8に、骨材4を含む第1GP組成物30を塗布する。次いで、成形型8に塗布した第1GP組成物30の上に、第2GP組成物70が含浸された繊維基材(ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材)6を配置する。好適なガラス繊維基材およびバサルト繊維基材の詳細については、上述の通りである。前記成形型に塗布した第1GP組成物の上への、繊維基材(ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材)6の配置は、第1GP組成物30中のジオポリマーが未硬化の状態で行っても良いし、第1GP組成物30中のジオポリマーが硬化しているが完全には硬化していない状態で行ってもよい。
【0034】
成形型8に塗布した第1GP組成物30上への、複数枚の、第2GP組成物70が含浸された繊維基材(ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材)6の配置は、下記方法(I)および方法(II)のうちのいずれか一方、または双方により行う。
(I)
図3Bに示すように、第1GP組成物30の上に、繊維基材(ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材)6を配置した後、
図3Cに示すように、繊維基材(ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材)6へ第2GP組成物70を含浸させて、ポリマー含有繊維基材(ポリマー含有ガラス繊維基材又はポリマー含有バサルト繊維基材)9とする。
(II)
図4Bに示すように、繊維基材(ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材)6へ第2GP組成物70を含浸させて得たポリマー含有繊維基材(ポリマー含有ガラス繊維基材又はポリマー含有バサルト繊維基材)9を用意し、これを、
図4Cに示すように、第1GP組成物30の上に配置する。即ち、繊維基材(ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材)6に第2GP組成物70を含浸してから、それを第1GP組成物30の上に配置する。
【0035】
方法(I)において、繊維基材(ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材)6への第2GP組成物の含浸は、例えば、人手によってハケやローラーを用いて行う。含浸と同時に繊維基材(ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材)6中の空気も抜く。方法(II)において、繊維基材(ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材)6への第2GP組成物の含浸は、例えば、第2GP組成物へ繊維基材(ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材)を浸漬させることにより行う。浸漬と同時に繊維基材(ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材)6中の空気も抜く。
【0036】
成形体の表面に意匠を形成する場合、方法(I)では、成形型8側に繊維基材(ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材)6を押し付けて賦形させた後、繊維基材(ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材)6へ第2GP組成物70を含浸させる。又は、繊維基材(ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材)6へ第2GP組成物70を摺り込むように塗布して、繊維基材(ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材)6へ第2GP組成物70を含浸させながら、繊維基材(ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材)6を賦形する。又は、繊維基材(ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材)6の賦形は、第2GP組成物70の含浸前および含侵最中に行う。方法(II)では、繊維基材(ガラス繊維基材又はバサルト繊維基材)6の賦形は、ポリマー含有繊維基材(ポリマー含有ガラス繊維基材又はポリマー含有バサルト繊維基材)9を、第1GP組成物30の上に配置する際に、成形型8側に押し付けることにより行う。
【0037】
例えば、方法(I)および方法(II)を所定回数行い、
図3Dおよび
図4Dに示すように、第1GP組成物30が塗布された成形型8上に、ポリマー含有繊維基材(ポリマー含有ガラス繊維基材又はポリマー含有バサルト繊維基材)9が複数積層された、積層構造体10を形成する。
【0038】
次に、積層構造体10を、養生し、ジオポリマーを完全に硬化した後、離型する。
図3E及び
図4Eに示すように、養生により、第1GP組成物30は表面層2となり、ポリマー含有繊維基材(ポリマー含有ガラス繊維基材又はポリマー含有バサルト繊維基材)9の積層体は強化層5となる。養生温度は、好ましくは10~90℃であり、相対湿度は、好ましくは50~90%である。養生時間は、好ましくは2~24時間である。
【0039】
図1~4を用いて説明した本開示の成形体の一形態は、平板状であるが、本開示の成形体は平板状に限定されず、湾曲した板状の成形体であってもよい。また、本開示の成形体の一形態は、擬岩、擬木、モニュメント、像等の立体形状の造形物であってもよい。
【実施例0040】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0041】
[使用原料]
ジオポリマー組成物の調整に使用した原料の詳細は下記の通りである。
・メタカオリン(ソブエクレー社製)
・珪酸カリウム水溶液(大阪硅曹製1.4 50°(モル比1.4、固形分45.4質量%))
・ワラストナイト(IMERYS社製 NYAD-G)
【0042】
(実施例1)
メタカオリンおよび珪酸カリウム水溶液を、質量比100:100(固形分換算で100:45.4)の割合で混合し、強化層用ジオポリマーモルタル(第2GP組成物)を調整した。メタカオリン、珪酸カリウム水溶液、ワラストナイト(骨材)を、質量比100:90:30(固形分換算で100:40.9:30)の割合で混合し、表面層用ジオポリマーモルタル(第1GP組成物)を調整した。実施例1の成形体は、下記の通り、ハンドレイアップ法で作製した。
まず、無模様のウレタンゴム型にワックス系離型剤を塗布した。次いで、前記ウレタンゴム型に第1GP組成物を塗布した。塗布された第1GP組成物上に、ガラス製チョップドストランドマット(日東紡製、目付450g/m2)を配置した。次に、第2GP組成物を、前記マットに摺り込むように塗布し、マット内の空気を抜きながら含浸させて、ポリマー含有ガラス繊維基材とした。これを4回繰り返した。得られた積層構造体を、60℃の雰囲気下で24時間養生して、GPを完全に硬化させた。次いで、離型して、実施例1の成形体を得た。
実施例1の成形体における、表面層の厚みは、1.0mm、強化層の厚みは4.0mmである。表面層に含まれる骨材の含有量は、表面層の全質量のうちの17.6質量%であり、強化層に含まれる前記マットの含有量は、強化層の全質量のうちの17質量%である。
【0043】
(実施例2)
成形型として、木目模様付きのウレタンゴム型を用いた以外は、実施例1と同構成の実施例2の成形体を作製した。
【0044】
(実施例3)
実施例1と同様にして、第1GP組成物と第2GP組成物を調製し、下記の通り、実施例3の成形体を作製した。
まず、木目模様付きのウレタンゴム型にワックス系離型剤を塗布した。次いで、前記ウレタンゴム型に第1GP組成物を塗布した。第2GP組成物へバサルト繊維製マット(Each DreaM社製、目付450g/m2)を浸漬させることにより得られたポリマー含有ガラス繊維基材を4枚用意し、これらを、前記ウレタンゴム型に塗布された第1GP組成物上に積層した。得られた積層構造体を、60℃の雰囲気下で24時間養生して、完全に硬化させた。次いで、離型して、実施例3の成形体を得た。
実施例3の成形体における、表面層の厚みは、1.0mm、強化層の厚みは5.0mmである。表面層に含まれる骨材の含有量は、表面層の全質量のうちの17.6質量%であり、強化層に含まれる前記マットの含有量は、強化層の全質量のうちの14質量%である。
【0045】
(比較例1)
表面層を設けないこと以外は実施例1と同構成の成形体を作製した。
【0046】
(比較例2)
表面層を設けないこと以外は実施例2と同構成の成形体を作製した。
【0047】
<成形体表面の外観>
図5、
図6は、各々、実施例1、比較例1の成形体の表面の写真である。
図6に示すように、比較例1の成形体の表面には繊維痕が多数みられるが、
図5に示すように、実施例1の成形体の表面には、繊維痕は見られなかった。
【0048】
<意匠再現性>
図7、
図8は、各々、実施例2、比較例2の成形体の表面の写真である。
図7と
図8との比較から、実施例2の成形体の方が比較例2の成形体よりも模様の再現性が良好であることがわかる。
図8に示すように、比較例2の成形体の表面のうちの、ジオポリマーによってガラス繊維が被覆できている箇所をみても、繊維痕が多数みられた。
図9は、実施例3の成形体の表面の写真であるが、繊維基材としてバサルト繊維を用いても、模様の再現性が良好であり、繊維痕が少ないことがわかる。
【0049】
<安定性促進試験>
1.耐水試験
上記実施例2および実施例3の成形体について耐水試験を行った。
プラスチック製密閉容器の中に、成形体および水を入れ、当該成形体を水に浸漬させた。容器に蓋をして密閉し、これを80℃のオーブン内に28日間入れて、成形体の曲げ強度の経時変化を調べた。実施例2の成形体の曲げ強度の初期値の平均値(n=5)は45.8MPaであり、耐水試験実施後の曲げ強度の平均値(n=5)は37.7MPaであった。実施例3の成形体の曲げ強度の初期値の平均値(n=5)は57.9MPaであり、耐水試験実施後の曲げ強度の平均値(n=5)は64.7MPaであった。
2.耐湿試験
上記実施例2および実施例3の成形体について耐湿試験を行った。
プラスチック製密閉容器の中に、足つきの網を配置し、網の下に水をはり、網の上に成形体を配置した。容器に蓋をして密閉し、これを80℃のオーブン内に28日数入れて、成形体の曲げ強度の経時変化を調べた。実施例2の成形体の曲げ強度の初期値の平均値(n=5)は45.8MPaであり、耐湿試験実施後の曲げ強度の平均値(n=5)は42.5MPaであった。実施例3の成形体の曲げ強度の初期値の平均値(n=5)は57.9MPaであり、耐湿試験実施後の曲げ強度の平均値(n=5)は57.2MPaであった。
【0050】
(曲げ強度)
上記実施例2および実施例3の成形体の曲げ強度(MPa)は下記のように測定した。
上記耐水試験前後、耐湿試験前後の試験片について、JIS A 1408の3点曲げ試験に準じて曲げ試験を行い、曲げ強度を測定した。曲げ強度を示す単位MPaはN/mm2と表記されることもある。
【0051】
ガラス繊維を補強材として含む成形体が、例えば、屋外や、高湿度下で使用される場合に、成形体の内部へ侵入した水がアルカリ性となり、このアルカリ液によりガラス繊維が劣化し、延いては、成形体自体の強度の経時低下を引き起こす恐れがある。しかし、実施例2の成形体について、上記安定性促進試験において、耐水、耐湿試験後であっても、ガラス繊維強化セメントの一般的な物性(例えば、ダイレクトスプレー法、曲げ強度(破壊強度)20~30N/mm2(20~30MPa)、出典:「GRCの物性と製品規格」日本GRC工業会、 HYPERLINK "https://www.grc.gr.jp/product/index3.html" https://www.grc.gr.jp/product/index3.html)を上回る曲げ強度を有していた。実施例3の成形体については、耐水、耐湿試験前後で、曲げ強度の実質的な変化はなかった。故に、本開示は、軽量で、不燃性であり、良外観と高強度との両立がなされていることに加えて、高い耐久性を備えた、成形体を提供できる。