(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174764
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】真空鋳造装置
(51)【国際特許分類】
B22D 17/20 20060101AFI20221117BHJP
B22D 18/02 20060101ALI20221117BHJP
B22D 18/06 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
B22D17/20 G
B22D18/02 B
B22D18/06 509B
B22D18/06 509L
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080707
(22)【出願日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡本 昭男
(72)【発明者】
【氏名】宮本 悠生
(57)【要約】
【課題】射出スリーブ内と金型キャビティ内とを真空吸引する真空鋳造成形において、簡単な構造で溶湯の漏出と外気の流入を阻止できる真空鋳造装置を提供すること。
【解決手段】射出スリーブに設けた真空吸引経路から射出スリーブ内と金型キャビティとを真空吸引し、射出スリーブ内を進退自在に動作するプランジャの前進動作により、射出スリーブ内の溶湯を金型キャビティ内に射出充填する真空鋳造装置において、プランジャは、溶湯が漏出することを阻止する溶湯シール部と、射出スリーブ内に外気が流入することを阻止する真空シール部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出スリーブに設けた真空吸引経路から前記射出スリーブ内と金型キャビティとを真空吸引し、前記射出スリーブ内を進退自在に動作するプランジャの前進動作により、前記射出スリーブ内の溶湯を前記金型キャビティ内に射出充填する真空鋳造装置において、
前記プランジャは、前記溶湯が漏出することを阻止する溶湯シール部と、前記射出スリーブ内に外気が流入することを阻止する真空シール部と、を備えたことを特徴とする真空鋳造装置。
【請求項2】
前記溶湯シール部の外周面は、環状の凸部と環状の凹部が並列に複数配列する、請求項1記載の真空鋳造装置。
【請求項3】
前記真空シール部の外周面は、環状の凸部と環状の凹部が並列に複数配列する、請求項1記載の真空鋳造装置。
【請求項4】
前記環状の凸部と前記射出スリーブの隙間の凸容積に対して、前記環状の凹部と前記射出スリーブの隙間の凹容積が大きく、前記凸容積と前記凹容積との容積比が、前記プランジャの進退方向に向けて段階的に拡大する、請求項1から3のいずれか1に記載の真空鋳造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出スリーブに設けた真空吸引経路から射出スリーブ内と金型キャビティとを真空吸引し、射出スリーブ内を進退自在に動作するプランジャの前進動作により、射出スリーブ内の溶湯を金型キャビティ内に射出充填する真空鋳造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金等の溶湯を用いた真空鋳造装置による鋳造成形は、以下の手順で行われる。先ず、射出スリーブ内に溶湯を供給する。次いで、金型キャビティに連通する真空吸引経路を金型に設け、真空吸引経路と接続した真空吸引装置等で金型キャビティ内を真空吸引する。プランジャの前進動作により射出スリーブ内の溶湯が金型キャビティ内へ射出充填され、保圧工程と冷却工程を経て、金型キャビティから鋳造品を取り出す。金型キャビティ内の真空吸引は、保圧工程または冷却工程のタイミングで停止する。金型キャビティ内の真空吸引により、空気巻込みに起因する鋳造不良(ボイド不良、ブリスター不良、湯廻り不良、湯ジワ、圧漏れ等)を防止でき、高品質な鋳造品を得ることができる。
【0003】
ここで、金型キャビティ内の真空吸引は、金型キャビティと連通している射出スリーブ内も同時に真空吸引することになる。射出スリーブの後面側は、プランジャを前後進動作させる射出駆動部が配置され開放状態である。そのため、射出スリーブから金型キャビティ側へ外気が流入し易い状態である。仮に、外気が流入すると、流入した外気の流れにより射出スリーブ内の溶湯が波打つように暴れてしまう。その結果、溶湯と空気が混ざった状態となり、空気巻込みに起因する鋳造不良が発生することがある。さらに、暴れた溶湯の一部が外気と一緒に金型キャビティ内に飛ばされる。この現象を先湯といい、この先湯に起因する鋳造不良(異物混入、湯ジワ、湯境、圧漏れ等)が発生することがある。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1に示すような、金型キャビティ内の真空吸引において、プランジャに真空吸引経路と背圧調整室とシール部材を設け、金型キャビティ内の真空圧力よりも背圧調整室の真空圧力を高くすることが提案されている。これにより、射出スリーブからの外気の流入を阻止して、先湯を防止できるとされている。
また、特許文献2に示すような、金型キャビティ内の真空吸引において、プランジャに真空吸引経路と環状吸引溝とラビリンスシール部材を設け、環状吸引溝を真空吸引することが提案されている。これにより、射出スリーブからの外気の流入を阻止して、先湯を防止できるとされている。
【0005】
また、特許文献3に示すような、金型キャビティ内の真空吸引において、プランジャに真空吸引経路と吸引用凹部とシール用凸部を設け、さらに、射出スリーブに真空吸引経路と吸引孔を設け、射出スリーブとプランジャと金型キャビティの真空吸引のタイミングを調整することが提案されている。これにより、先湯と空気巻込みに起因する鋳造不良を防ぐことができるとされている。なお、プランジャの真空吸引は、射出スリーブ後方からの外気の流入を阻止する狙いよりも、射出スリーブとプランジャの隙間を利用して、プランジャよりも前方の溶湯が供給されている射出スリーブ内を真空吸引するとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1-31375号公報
【特許文献2】特開2004-268051号
【特許文献3】特開2014-117741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、真空鋳造成形を行う作業環境は、真空鋳造装置、溶湯を製造する高温の溶解炉と溶湯を貯蔵する高温の保持炉、保持炉から真空鋳造装置に溶湯を輸送する輸送手段や給湯装置、射出スリーブや金型に離型剤を塗布するスプレー装置、鋳造品を搬送する搬送ロボット等、多くの設備が配置された密集状態となりやすい。
これに対して、特許文献1とから特許文献3に示す手段は、プランジャに真空吸引経路を設けている点で共通である。そのため、プランジャは射出スリーブ内を前後進動作し、このプランジャの前後進動作に合わせて、真空吸引経路と接続する真空吸引装置も前後進動作させることになり、周囲の設備に接触することが考えられる。また、プランジャには冷却水等の冷却媒体が流れる流路を含む冷却機構を設ける。この冷却機構との干渉を避けるため、真空吸引経路の配置は制約を受け、必ずしも好ましい位置に真空吸引経路を設けるとは限らない。その場合、プランジャの真空吸引経路は、期待される効果を発揮できないことが考えられる。さらに、射出スリーブは溶湯の熱量を受けて湾曲状に熱変形しやすい。射出スリーブが熱変形すると、プランジャと射出スリーブの隙間が大きくなり、溶湯のシール性が低下し、真空吸引経路に漏れた溶湯が詰まることが考えられる。
【0008】
また、特許文献1から特許文献3に示す手段は、金型キャビティとプランジャに異なる真空吸引経路を設け異なる条件で真空吸引する点が共通である。特に、特許文献3においては、射出スリーブの真空吸引経路も追加される。つまり、複数の異なる真空吸引経路を異なる条件で真空吸引の制御を行うことは、真空鋳造装置の煩雑化と制御方法の複雑化につながり、真空吸引を含む鋳造成形の条件調整の間違いを誘発しやすい。
【0009】
そこで本発明は、射出スリーブに設けた真空吸引経路から射出スリーブ内と金型キャビティ内とを真空吸引する真空鋳造成形において、簡単な構造で溶湯の漏出と外気の流入を阻止し、高品質な鋳造品を安定生産できる真空鋳造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の真空鋳造装置は、射出スリーブに設けた真空吸引経路から射出スリーブ内と金型キャビティとを真空吸引し、射出スリーブ内を進退自在に動作するプランジャの前進動作により、射出スリーブ内の溶湯を金型キャビティ内に射出充填する真空鋳造装置において、プランジャは、溶湯が漏出することを阻止する溶湯シール部と、射出スリーブ内に外気が流入することを阻止する真空シール部と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明の真空鋳造装置において、溶湯シール部の外周面は、環状の凸部と環状の凹部が並列に複数配列することが好ましい。
【0012】
また、本発明の真空鋳造装置において、真空シール部の外周面は、環状の凸部と環状の凹部が並列に複数配列することが好ましい。
【0013】
さらに、本発明の真空鋳造装置において、環状の凸部と射出スリーブの隙間の凸容積に対して、環状の凹部と射出スリーブの隙間の凹容積が大きく、凸容積と凹容積との容積比が、プランジャの進退方向に向けて段階的に拡大することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、射出スリーブに設けた真空吸引経路から射出スリーブ内と金型キャビティ内とを真空吸引する真空鋳造成形において、簡単な構造で溶湯の漏出と外気の流入を阻止し、高品質な鋳造品を安定生産できる真空鋳造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係る真空鋳造装置の概念図である。
【
図3】第1実施形態に係るプランジャを拡大した断面図である。
【
図4】第2実施形態に係るプランジャを拡大した断面図である。
【
図5】第3実施形態に係るプランジャを拡大した断面図である。
【
図6】実施形態に係る真空鋳造装置を用いた真空鋳造成形のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組合せの全てが、各請求項に係る発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、本実施形態においては、各構成要素の尺度や寸法が誇張されて示されている場合や、一部の構成要素が省略されている場合がある。
【0017】
[真空鋳造装置]
先ず、本実施形態に係る真空鋳造装置について、
図1を用いて説明する。
図1は真空鋳造装置の概念図を示す。なお、以下の説明では、本実施形態に係る真空鋳造装置として、横型の真空鋳造装置をベースとしたが、これに限定されるものではない。
【0018】
図1に示す真空鋳造装置100は、図示しない固定盤に支持された固定金型1と、図示しない可動盤に支持され固定盤1に対して進退可能な可動金型2と、溶湯を射出充填する射出装置10と、射出装置10の動作を制御する射出制御部40とを備えている。アルミニウム合金等の溶湯を、射出装置10により固定金型1及び可動金型2で形成された金型キャビティ3に向けて射出充填することで鋳造品が成形される。
【0019】
射出装置10は、溶湯が内部に供給される射出スリーブ11と、射出スリーブ11の内側で進退可能なプランジャ20と、プランジャ20と連結したロッド13と、射出制御部40の制御データに基づいてロッド13を介してプランジャ20の前後進動作を行う油圧駆動部30とを備えている。ここで、プランジャ20の動作に関し、金型キャビティ3に近い方向を前方F、前方F方向への動作を前進動作、金型キャビティ3から遠い方向を後方B、後方B方向への動作を後退動作と定義する。また、プランジャ20の後退動作の完了位置を待機位置BE、プランジャ20の前進動作の完了位置を射出完了位置FEと定義する。プランジャ20は、待機位置BEと射出完了位置FEの範囲内で前後進動作する。
【0020】
射出スリーブ11は、図示しない固定盤から後方に突出した状態に水平に支持される円筒形状である。射出スリーブ11の軸方向は、プランジャ20の前後進動作に一致する。射出スリーブ11の前方F側は、金型キャビティ3と連通するように、固定盤を貫通し、固定金型1の所定の位置に締結される。射出スリーブ11の後方B側は、注湯口14が設けられている。待機位置BEにプランジャ20が待機している時に、図示しない給湯装置等から溶湯が注湯口14を通じて射出スリーブ11の内部に供給される。
また、射出スリーブ11及びプランジャ20には、必要に応じて、冷却水等の冷却媒体が流れる流路を含む図示しない冷却機構が設けられている。また、プランジャ20の摩耗損傷の防止や摺動状態の安定化及び溶湯残渣物の付着抑制等のため、射出スリーブ11とプランジャ20との摺動面に潤滑剤を塗布することが好ましい。
【0021】
ここで、射出スリーブ11の所定の位置に真空吸引経路15を設けており、真空吸引装置16により真空吸引経路15を介して射出スリーブ11内の真空吸引を行う。同時に、射出スリーブ11と連通している金型キャビティ3内も真空吸引される。この射出スリーブ11からの真空吸引により、真空度は射出スリーブ11側の方が必ず高くなるので、先湯不良を確実に抑制することができる。真空吸引経路15は、注湯口14から射出完了位置FEの範囲内で、射出スリーブ11内及び金型キャビティ3内を最も効率よく真空吸引する位置に設定される。なお、射出スリーブ11内の溶湯が真空吸引経路に吸引されないよう、適切な位置に真空吸引経路を設定することは当然である。真空吸引経路15の配置数や大きさ、真空吸引装置16の容量は、射出スリーブ11の容量、射出スリーブ11に供給する溶湯の量、真空吸引の時間や真空吸引後の状態、射出充填の設定条件等から適正に設定される。また、
図1においては、真空吸引経路15の経路数を3経路としたが、これに限定されることなく、経路数は必要に応じて増減させても良い。また、真空吸引経路15が複数経路の場合は、射出充填におけるプランジャ20の前進動作の位置に基づいて、複数経路の開閉を個別に制御することが好ましい。
【0022】
[第1実施形態]
次に、第1実施形態に係る射出装置のプランジャについて、
図2と
図3用いて説明する。
図2はプランジャ20の拡大図を示し、
図3(a)は
図2に示す領域Mを拡大した断面図を示し、
図3(b)は
図2に示す領域Vを拡大した断面図を示す。
先ず、
図2に示すプランジャ20は、前方Fから後方Bに向かって、溶湯シール部21、中間部23、真空シール部22、連結部24を備える。なお、中間部23は、溶湯シール部21と真空シール部22を仕切るための部位であって、プランジャ20のメンテナンス作業時に工具等をかけることにも利用される。また、連結部24は、ロッド13を連結するための部位である。各部位は一体構造としても良く、分割構造としても良い。
【0023】
溶湯シール部21は、射出充填工程において、射出スリーブ11内の溶湯をシールして金型キャビティ3内に溶湯を射出充填する役割を担う。そこで、
図3(a)に示すように、前方Fから後方Bに向かって、溶湯シール部21の外周面は、環状の凸部(211、213、215)と環状の凹部(212、214、216)を並列に複数配列させる。また、射出スリーブ11が溶湯の熱量を受けて熱変形しても、環状の凸部と射出スリーブ11の内面11Uとは、強く接触してカジリ損傷が生じない程度の適度な隙間を得る外径Rを設定する。これにより、プランジャ20または射出スリーブ11のカジリ損傷が防止できる。なお、
図2および
図3(a)は、環状の凸部と環状の凹部の配列数を3列としたが、これに限定されることなく、例えば、配列数は2列以上とすることが好ましく、プランジャ20の寸法の範囲内で最大の配列数とすることがより好ましい。
【0024】
射出充填工程において、プランジャ20の前進動作に伴って、プランジャ20より前方F側の射出スリーブ11内の溶湯の圧力は上昇し、溶湯シール部21の外周面と射出スリーブ11の内面11Uとの隙間を、前方Fから後方Bに向かって溶湯が流動し漏出する。その際に、環状の凸部と射出スリーブ11の内面11Uとの狭い隙間(凸隙間という)と、環状の凹部と内面11Uとの広い隙間(凹隙間という)を交互に溶湯が流動する。ここで、例えば、それぞれの凸隙間の容積を同量に設定する(QM1=QM3=QM5)。また、それぞれの凹隙間の容量を同量に設定する(QM2=QM4=QM6)。それぞれの凸隙間の容積に対して、それぞれの凹隙間の容積の方がいずれも大きいことは
図3(a)より明白である(凸隙間<凹隙間)。
【0025】
ここで、射出スリーブ11内の溶湯の圧力PM0とすると、最初の凸隙間QM1に流入する溶湯の圧力PM1=PM0である。凸隙間QM1を超えて後方B側に隣接する凹隙間QM2に流入する溶湯の圧力PM2は、以下の式(1)で特定できる。つまり、凸隙間QM1と凹隙間QM2の容積比に応じて、凹隙間QM2に流入する溶湯の圧力PM2は低下し(圧力緩和効果という)、容積比が大きいほど大きな圧力緩和効果を得るとなる。
PM2=(QM1/QM2)×PM1 ・・・式(1)。
【0026】
次いで、凹隙間QM2内の溶湯の圧力PM2と、後方B側に隣接する凸隙間QM3に流入する溶湯の圧力PM3は同じであるので(PM2=PM3)、さらに後方B側に隣接する凹隙間QM4に流入する溶湯の圧力PM4は、以下の式(2)で特定できる。ここでも、容積比に応じた圧力緩和効果を得ることができる。さらに、圧力PM3は、既に圧力緩和効果を受けて大きく低下した圧力状態であるので、圧力PM4はさらに小さくなる。
PM4=(QM3/QM4)×PM3 ・・・式(2)。
【0027】
この圧力緩和効果は、凸隙間と凹隙間の組合せが連続する限り継続される(圧力緩和効果の連続作用)。その結果、溶湯シール部21と射出スリーブ11の隙間を流動する溶湯の圧力は、前方Fから後方Bに向かって段階的に低下される。最終的には、溶湯シール部21の範囲内で、隙間を流動する溶湯の圧力はゼロに近い状態となり、溶湯の隙間への流動が阻止され、溶湯シール部21と射出スリーブ11の隙間からの溶湯の漏出を防止することができる。また、溶湯シール部21と射出スリーブ11とは適度な隙間により、カジリ損傷を防止できる。さらに、射出スリーブ11の熱変形への対応性も備えている。
【0028】
次に、真空シール部22は、射出スリーブ11に設けた真空吸引経路15を用いて射出スリーブ11内の真空吸引において、射出スリーブ11の後方B側から外気が流入するのを阻止する真空シールの役割を担う。そこで、
図3(b)に示すように、後方Bから前方Fに向かって、真空シール部22の外周面は、環状の凸部(221、223、225)と環状の凹部(222、224、226)を並列に複数配列させる。また、射出スリーブ11が溶湯の熱量を受けて熱変形しても、環状の凸部と射出スリーブ11の内面11Uとは、強く接触してカジリ損傷が生じない程度に、溶湯シール部21と同等の適度な隙間を設ける。これにより、プランジャ20または射出スリーブ11のカジリ損傷が防止できる。なお、
図2および
図3(b)は、環状の凸部と環状の凹部の配列数を3列としたが、これに限定されることなく、例えば、配列数は2列以上とすることが好ましく、プランジャ20の寸法の範囲内で最大の配列数とすることがより好ましい。
【0029】
射出スリーブ11の真空吸引において、射出スリーブ11内の真空度と外気との差圧によって、開放された射出スリーブ11の後方B側から、真空シール部22の外周面と射出スリーブ11の内面11Uとの隙間を、後方Bから前方Fに向かって外気が流入する。その際に、環状の凸部と射出スリーブ11の内面11Uとの狭い隙間(凸隙間)と、環状の凹部と内面11Uとの広い隙間(凹隙間)を交互に外気が流入する。ここで、例えば、それぞれの凸隙間の容積を同量に設定する(Q1=Q3=Q5)。また、それぞれの凹隙間の容量を同量に設定する(Q2=Q4=Q6)。なお、それぞれの凸隙間の容積に対して、それぞれの凹隙間の容積の方がいずれも大きいことは
図3(a)より明白である(凸隙間<凹隙間)。
【0030】
ここで、外気の圧力P0とすると、最初の凸隙間Q1に流入する外気の圧力P1=P0である。凸隙間Q1を超えて前方F側の凹隙間Q2に流入する外気の圧力P2は、以下の式(3)で特定できる。つまり、凸隙間Q1と凹隙間Q2の容積比に応じて、凹隙間Q2に流入する外気の圧力P2は低下し(圧力緩和効果という)、容積比が大きいほど大きな圧力緩和効果を得るとなる。
P2=(Q1/Q2)×P1 ・・・式(3)。
【0031】
次いで、凹隙間Q2内の外気の圧力P2と、前方F側に隣接する凸隙間Q3に流入する外気の圧力P3は同じであるので(P2=P3)、さらに前方F側に隣接する凹隙間Q4に流入する外気の圧力P4は、以下の式(4)で特定できる。ここでも、容積比に応じた圧力緩和効果を得ることができる。さらに、圧力P3は、既に圧力緩和効果を受けて大きく低下した圧力状態であるので、圧力P4はさらに小さくなる。
P4=(Q3/Q4)×P3 ・・・式(4)。
【0032】
この圧力緩和効果は、凸隙間と凹隙間の組合せが連続する限り継続される(圧力緩和効果の連続作用)。その結果、真空シール部22と射出スリーブ11の隙間を流入する外気の圧力は、後方Bから前方Fに向かって段階的に低下される。最終的には、真空シール部22の範囲内で、隙間を流入する外気の圧力はゼロに近い状態となり、外気の隙間への流入が阻止され、真空シール部22と射出スリーブ11の隙間からの外気の流入を防止することができる。また、真空シール部22と射出スリーブ11とは適度な隙間により、カジリ損傷を防止できる。さらに、射出スリーブ11の熱変形への対応性も備えている。
【0033】
このように、溶湯シール部21により射出充填時の溶湯シール性を確実とし、溶湯量の安定化による鋳造品の高品質化を実現する。また、溶湯の漏れによる目詰りトラブルや鋳造不良を防止することができる。さらに、真空シール部22により外気の流入を確実に阻止でき、外気の流入によって生じる先湯に起因する鋳造不良を確実に防止できる。また、プランジャ20に真空吸引経路を設ける必要がないので、プランジャ20の構造のシンプル化を実現する。さらに、射出スリーブ11に設けた真空吸引経路15のみで真空鋳造成形を行うことにより、制御装置及び制御方法のシンプル化も実現する。
【0034】
なお、
図2及び
図3に示すプランジャ20は、環状の凸部と環状の凹部を、溶湯シール部21と真空シール部22の両方を備えるものとしたが、これに限定されることなく、例えば、溶湯漏れが懸念される鋳造成形においては、溶湯シール部21に重点的に設けて、真空シール部22は省略または簡素化しても良い。この場合の溶湯シール部21は、例えば、凸隙間と凹隙間の面積比を大きく設定する、あるいは凸隙間と凹隙間の配列数を多く設定することが好ましい。また、外気の流入が懸念される鋳造成形においては、真空シール部22に重点的に設けて、溶湯シール部21は簡素化あるいは省略しても良い。
【0035】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る射出装置のプランジャについて、
図4を用いて説明する。第2実施形態のプランジャ20は、第1実施形態と同様に、前方Fから順に、溶湯シール部21C、中間部23、真空シール部22D、連結部24を備える。各部位は一体構造としても良く、分割構造としても良い。なお、中間部23と連結部24は、第1実施形態と同じであるので説明は割愛し、第1実施形態と異なる溶湯シール部21Cと真空シール部22Dについて詳細に説明する。
図4(a)は溶湯シール部21Cの一部分を拡大した断面図(
図2の領域Mに相当する)を示し、
図4(b)は真空シール部22Dの一部分を拡大した断面図(
図2の領域Vに相当する)を示す。
【0036】
溶湯シール部21Cは、射出充填工程において、射出スリーブ11内の溶湯をシールして金型キャビティ3内に溶湯を射出充填する役割を担う。そこで、
図4(a)に示すように、前方Fから後方Bに向かって、溶湯シール部21Cの外周面は、環状の凸部(2C1、2C3、2C5)と環状の凹部(2C2、2C4、2C6)を並列に複数配列させる。環状の凸部と射出スリーブ11の内面11Uとの隙間や、環状の凸部と環状の凹部の配列数、および凸隙間や凹隙間に関しては、第1実施例と同じ設定とする。
【0037】
射出充填工程の溶湯の漏れは、第1実施形態と同様に、溶湯シール部21Cの外周面と射出スリーブ11の内面11Uとの隙間を、前方Fから後方Bに向かって溶湯が流動することで生じ、凸隙間と凹隙間を交互に溶湯が流動する。そこで、第2実施形態においては、前方Fから後方Bに向かって、環状の凸部の配置の間隔が段階的に大きくすることを特徴とする。つまり、それぞれの凹隙間の容積は、前方Fから後方Bに向かって段階的におおきくなる(QC2<QC4<QC6)。これに対して、それぞれの凸隙間の容積を凹隙間より小さく同量に設定する(QC1=QC3=QC5)。その結果、圧力緩和効果を示す容積比は、前方Fから後方Bに向かって、段階的に大きくなり(QC1/QC2<QC3/QC4<QC5/QC6)、圧力緩和効果も段階的に大きくなり、前方Fから後方Bに向かって圧力は段階的に小さくなり、溶湯の漏れを確実に防止できる。
【0038】
ここで、射出スリーブ11内の溶湯が、凸隙間QC1を超えて、後方B側に隣接する凹隙間QC2に流入する溶湯の圧力PC2は、以下の式(5)で特定できる。また、凹隙間QC2に流入した溶湯が、後方B側に隣接する凸隙間QC3を超えて、さらに後方B側に隣接する凹隙間QC4に流入する溶湯の圧力PC4は、以下の式(6)で特定できる。
PC2=(QC1/QC2)×PC1 ・・・式(5)。
PC4=(QC3/QC4)×PC3 ・・・式(6)。
【0039】
このように、第2実施形態においても、凸隙間と凹隙間の容積に応じて圧力緩和効果が作用し、流動する溶湯の圧力は低下する。この圧力緩和効果は、凸隙間と凹隙間の組合せが連続する限り継続される(圧力緩和効果の連続作用)。さらに、前方Fから後方Bに向かって容積比は段階的に大きくすることで、圧力緩和効果も段階的に大きくなる。これにより、隙間を流動する溶湯の圧力は確実にゼロに近づき、溶湯の隙間への流動が確実に止まり、溶湯の漏出を確実に防止することができる。その結果、溶湯の漏れに起因する鋳造不良の確実に回避でき、高品質な鋳造品の安定生産を実現する。
【0040】
次に、真空シール部22Dは、射出スリーブ11内の真空吸引に際して、開放されている射出スリーブ11の後方Bから、射出スリーブ11内への外気の流入を阻止する役割を担う。そこで、
図4(b)に示すように、後方Bから前方Fに向かって、真空シール部22Dの外周面は、環状の凸部(2D1、2D3、2D5)と環状の凹部(2D2、2D4、2D6)を並列に複数配列させる。環状の凸部と射出スリーブ11の内面11Uとの隙間や、環状の凸部と環状の凹部の配列数、および凸隙間や凹隙間に関しては、第1実施例と同じ設定とする。
【0041】
射出スリーブ11内の真空吸引時は、第1実施形態と同様に、真空シール部22Dの外周面と射出スリーブ11の内面11Uとの隙間を、後方Bから前方Fに向かって外気が流入する。その際、凸隙間と凹隙間を交互に外気が流入する。そこで、第2実施形態においては、後方Bから前方Fに向かって、環状の凹部の深さが段階的に大きくすることを特徴とする。つまり、それぞれの凹隙間の容積は、後方Bから前方Fに向かって段階的におおきくなる(QD2<QD4<QD6)。これに対して、それぞれの凸隙間の容積を凹隙間より小さく同量に設定する(QD1=QD3=QD5)。その結果、圧力緩和効果を示す容積比は、後方Bから前方Fに向かって、段階的に大きくなり(QD1/QD2<QD3/QD4<QD5/QD6)、圧力緩和効果は段階的に大きくなり、後方Bから前方Fに向かって圧力は段階的に小さくなり、外気の流入を確実に防止できる。
【0042】
ここで、後方Bから外気が、凸隙間QD1を超えて、前方F側に隣接する凹隙間QD2に流入する外気の圧力PD2は、以下の式(7)で特定できる。また、凹隙間QD2に流入した外気が、前方F側に隣接する凸隙間QD3を超えて、さらに前方F側に隣接する凹隙間QD4に流入する外気の圧力PD4は、以下の式(8)で特定できる。
PD2=(QD1/QD2)×PD1 ・・・式(7)。
PD4=(QD3/QD4)×PD3 ・・・式(8)。
【0043】
このように、第2実施形態においても、凸隙間と凹隙間の容積に応じて、流入する外気の圧力は低下する(圧力緩和効果)。この圧力緩和効果は、凸隙間と凹隙間の組合せが連続する限り継続される(圧力緩和効果の連続作用)。さらに、後方Bから前方Fに向かって容積比を段階的に大きくする。これにより、圧力緩和効果は段階的に大きくなり、隙間を流入する外気の圧力は確実にゼロに近づき、外気の隙間への流入が確実に止まり、外気の流入を確実に防止することができる。その結果、外気の流入に起因する鋳造不良を確実に回避でき、高品質な鋳造品の安定生産を実現する。さらに、環状の凸部と凹部の配置の間隔を小さくすることができるので、プランジャ20の小型化を可能とする。加えて、プランジャ20から真空吸引経路を無くすことができ、機械装置と制御装置のシンプル化と、制御方法の簡素化を得る。
【0044】
なお、
図4において、環状の凸部と環状の凹部の並列の複数配置は、溶湯シール部21Dと真空シール部22Dの両方を備えるものとしたが、これに限定されることなく、例えば、溶湯シール部21Dあるいは真空シール部22Dの一方に設けても良い。また、凸隙間と凹隙間の容積比の段階的に大きくする手段は、凸部の配置の間隔を段階的に大きくする、凹部の深さを段階的に大きくする、の2パターンを示し、前者は溶湯シール部21Dで示し、後者は真空シール部22Dで示したが、これに限定されることなく、例えば、前者と後者を入れ替えても良く、前者と後者を組み合わせた手段としても良い。
【0045】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態に係る射出装置のプランジャについて、
図5を用いて説明する。第3実施形態に係るプランジャ20は、第1実施形態及び第2実施形態と同様に、前方Fから、溶湯シール部、中間部23、真空シール部、連結部24を備える。中間部23と連結部24は、第1実施形態及び第2実施形態と同じである。溶湯シール部と真空シール部のどちらか一方は、リング形状の分割構造とする。ここでは、真空シール部の一部分を拡大した断面図(
図2の領域Vに相当する)を示す
図5を用いて第3実施形を説明する。なお、
図5の前方Fと後方Bの向きを変えると、溶湯シール部と類似し重複するので、溶湯シール部については説明を割愛する。
【0046】
図5に示す真空シール部22Rは、軸部22Zと射出スリーブ11との間に、適度な隙間を設けてプランジャ20に固定され、プランジャ20の前後進方向に伸びるリング形状の分割構造とする。真空シール部22Rの外周面は、環状の凸部(2R1、2R3、2R5)と環状の凹部(2R2、2R4、2R6)を並列に複数配列させる。また、内周面は、環状の凸部(2Z1、2Z3、2Z5)と環状の凹部(2Z2、2Z4、2Z6)を並列に複数配列させる。この外周面に設けた、環状の凸部と射出スリーブ11の内面11Uとの隙間や、環状の凸部と環状の凹部の配列数、および凸隙間や凹隙間に関しては、第1実施例及び第2実施形態と同じ設定とする。内周面においても同様な設定とする。
【0047】
射出スリーブ11内の真空吸引時は、真空シール部22Rの外周面と射出スリーブ11の内面11Uとの隙間と、真空シール部22Rの内周面と軸部22Zとの隙間の2方向から、後方Bから前方Fに向かって外気が流入する。そのために、真空シール部22Rの外周面と内周面に環状の凸部と凹部を並列に複数配置とする。流入した外気は、後方Bから前方Fに向かって、真空シール部22Rの外周面の凸隙間と凹隙間と、真空シール部22Rの内周面の凸隙間と凹隙間を交互に流入する。その際に、凸隙間と凹隙間の容積比に応じて外気の圧力は段階的に低下し(圧力緩和効果)、最終的に、外気の圧力はゼロに近い状態に低下することで、外気の流入を阻止する。
【0048】
このように、第3実施形態においても、凸隙間と凹隙間の容積に応じて、流入する外気の圧力は低下する(圧力緩和効果)。この圧力緩和効果は、凸隙間と凹隙間の組合せが連続する限り継続される(圧力緩和効果の連続作用)。さらに、第2実施形態と同様に、後方Bから前方Fに向かって容積比を段階的に大きくし、圧力緩和効果を段階的に大きくする手段を加えることができる。これにより、隙間を流入する外気の圧力は確実にゼロに近づき、外気の隙間への流入が確実に止まり、外気の流入を確実に防止することができる。その結果、外気の流入に起因する鋳造不良を確実に回避でき、高品質な鋳造品の安定生産を実現する。さらに、第2実施形態と同様に環状の凸部と凹部の配置の間隔を小さくすることができるので、プランジャ20の小型化を可能とする。加えて、プランジャ20から真空吸引経路を無くすことができ、機械装置と制御装置のシンプル化と、制御方法の簡素化を得る。さらに、真空シール部22Dを分割構造とすることで、交換する部品点数を少なくできる。なお、これらの効果は、溶湯シール部に展開した場合も同様である。
【0049】
[真空鋳造成形]
次に、本実施形態に係る真空鋳造成形装置を用いた真空鋳造成形について、
図6を用いて説明する。金型キャビティ3及び射出スリーブ11とプランジャ20に離型剤を塗布する等の鋳造成形の準備工程は終えている状態である。
鋳造成形が開始されると、固定金型1と可動金型2を型締して金型キャビティ3を形成する。次いで、図示しない給湯装置等を用いて射出スリーブ11内に溶湯が供給され、射出充填工程を開始する(プランジャ20の前進動作)。プランジャ20が予め設定された真空吸引開始位置到達すると、真空吸引経路15から射出スリーブ11内と金型キャビティ3内の真空吸引を開始する。その後、プランジャ20の前進動作により射出スリーブ11内の溶湯を金型キャビティ13内に射出充填する。プランジャ20が真空吸引停止位置に到達すると、真空吸引を停止する。金型キャビティ13内への溶湯の射出充填(保圧工程を含む)の完了後は、冷却工程を経て、固定金型1と可動金型2を型開して、金型キャビティ3から冷却固化した鋳造品を取り出す。同時に、プランジャ20を後退動作させて、待機位置BEでプランジャ20は停止し、次ショットの準備工程に進む。
【0050】
ここで、溶湯シール部による射出スリーブ内の溶湯シールは、射出充填開始から射出充填完了の範囲内である。また、真空シール部による外気の流入阻止の真空シールは、真空吸引開始から真空吸引停止の範囲内である。なお、プランジャ20が待機位置BEに停止しているタイミングで、溶湯シール部と真空シール部を重点的に、例えば、エアブロー等の清掃装置を用いてプランジャ20の清掃を行うことが好ましい。
【0051】
このように、射出スリーブ11に設けた真空吸引経路15から、射出スリーブ11内と金型キャビティ3内の真空吸引と、溶湯の漏出を阻止する溶湯シール部21と外気の流入を阻止する真空シール部22を備えたプランジャ20の、簡単な構造と制御の真空鋳造装置100によって、空気巻込みに起因する鋳造不良(ボイド不良、ブリスター不良、湯廻り不良、湯ジワ、圧漏れ等)と、先湯に起因する鋳造不良(異物混入、湯ジワ、湯境、圧漏れ等)を同時に防止することができる。
【0052】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に記載された範囲には限定されない。上記の実施形態には多様な変更または改良を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 固定金型
2 可動金型
3 金型キャビティ
10 射出装置
11 射出スリーブ
13 ロッド
14 注湯口
15 真空吸引経路
16 真空吸引装置
20 プランジャ
21 溶湯シール部
22 真空シール部
23 中間部
24 連結部
30 油圧駆動部
40 射出制御部
100 真空鋳造装置