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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174774
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】電気化学センサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/28 20060101AFI20221117BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
G01N27/28 P
G01N27/416 336G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080727
(22)【出願日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】318004947
【氏名又は名称】株式会社ファーストスクリーニング
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】浅井 開
(72)【発明者】
【氏名】金澤 洋平
(72)【発明者】
【氏名】益子 淳
(57)【要約】
【課題】毛細管現象による被検液の貯留後に、センサが触れる被検液の流れが生じたままであっても、貯留した被検液が吸い出されてしまうことを抑制できる技術を提供する。
【解決手段】表裏関係にある第一面と第二面を有し、前記第一面の側に被検液の供給流路11aが形成される板状部材11と、前記板状部材11の前記第二面の側に配され、前記板状部材11の下流側端部11cを越えた被検液の一部が流れ込む液貯留路15と、を備え、前記板状部材11の平面視において、前記液貯留路15の入口となる採液口15aが前記下流側端部11cから前記供給流路11aの上流側に離れて位置するように、電気化学センサ10を構成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏関係にある第一面と第二面を有し、前記第一面の側に被検液の供給流路が形成される板状部材と、
前記板状部材の前記第二面の側に配され、前記供給流路が形成された前記板状部材の下流側端部を越えた被検液の一部が流れ込む液貯留路と、を備え、
前記板状部材の平面視において、前記液貯留路の入口となる採液口が前記下流側端部から前記供給流路の上流側に離れて位置している
電気化学センサ。
【請求項2】
前記板状部材における前記下流側端部の近傍に貫通孔または切欠部が設けられている
請求項1に記載の電気化学センサ。
【請求項3】
前記液貯留路を構成する壁面の少なくとも1つの面が親水処理面である
請求項1または2に記載の電気化学センサ。
【請求項4】
前記液貯留路に繋がる通気路を有する
請求項1から3のいずれか1項に記載の電気化学センサ。
【請求項5】
前記板状部材または前記板状部材との積層部材の少なくともいずれかに折り曲げ部が設けられている
請求項1から4のいずれか1項に記載の電気化学センサ。
【請求項6】
前記板状部材に積層されるスペーサ部材および基材を備え、
前記スペーサ部材には、前記液貯留路を構成するための切欠き部が設けられており、
前記基材には、前記液貯留路内に配置されることになる電極が搭載されており、
前記液貯留路に流れ込んだ被検液に前記電極が接触することで、当該被検液中の特定成分を検出するように構成されている
請求項1から5のいずれか1項に記載の電気化学センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検液中の特定成分を電気化学的に検出する電気化学センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、被験者の疾病の診断や予防等のために、尿等の被検液中の特定成分を電気化学センサで検出して濃度値を測定する、といったことが行われる。特に、尿は、体を傷つけることなく採取できるため、被験者の負担が少なく、測定に供する被検液として好都合である。その場合に、尿の採取は、極めて簡便に行えること、すなわち被験者が電気化学センサに直接排尿するという動作だけで行えることが望ましい。このことから、尿のように流れを有する被検液が供給される電気化学センサとして、被検液の流れに触れさせると毛細管現象により被検液が液貯留路内に充填され、これにより一定量の被検液を採取でき、その液貯留路内の被検液にセンサ電極を接触させるように構成されたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-007717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来構成の電気化学センサでは、毛細管現象により液貯留路に被検液を貯留した後においても、当該センサが触れる被検液の流れが生じたままであると、被検液同士の親和性に起因する吸引力が生じ、被検液の流れによって液貯留路内の被検液が吸い出されるおそれがある。液貯留路内の被検液が吸い出されると、センサ電極への被検液の接触量が保証できず、センサ電極を用いたセンシング結果に悪影響が及ぶことが懸念される。
【0005】
本開示は、毛細管現象による被検液の貯留後に、センサが触れる被検液の流れが生じたままであっても、その被検液の流れによって生じる吸引力を弱めることができ、貯留した被検液が吸い出されてしまうことを抑制できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によれば、
表裏関係にある第一面と第二面を有し、前記第一面の側に被検液の供給流路が形成される板状部材と、
前記板状部材の前記第二面の側に配され、前記供給流路が形成された前記板状部材の下流側端部を越えた被検液の一部が流れ込む液貯留路と、を備え、
前記板状部材の平面視において、前記液貯留路の入口となる採液口が前記下流側端部から前記供給流路の上流側に離れて位置している
電気化学センサが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、毛細管現象による被検液の貯留後に、センサが触れる被検液の流れが生じたままであっても、その被検液の流れによって生じる吸引力を弱めることができ、貯留した被検液が吸い出されてしまうことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の第一実施形態に係る電気化学センサの使用態様の一具体例を模式的に示す斜視図である。
図2】本開示の第一実施形態に係る電気化学センサの構成例を模式的に示す分解斜視図である。
図3】本開示の第一実施形態に係る電気化学センサの要部における処理動作例を模式的に示す側断面図である。
図4】本開示の第一実施形態に係る電気化学センサの要部構成例を示す部分拡大図である。
図5】本開示の第二実施形態に係る電気化学センサの要部構成例を示す側面図である。
図6】本開示の第三実施形態に係る電気化学センサの構成例を模式的に示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0010】
<第一実施形態>
まず、本開示の第一実施形態を説明する。
【0011】
(電気化学センサの概要)
本実施形態に係る電気化学センサは、被検液中の特定成分を電気化学的に検出するものである。本実施形態では、被験者から採取する尿中に含まれる尿酸を検出する場合を例に挙げる。つまり、本実施形態においては、被検液として被験者から採取する尿を例示し、検出対象となる特定成分として尿中に含まれる尿酸を例示する。
【0012】
尿中における尿酸の濃度の検出は、例えば、尿中に含まれる物質を特定の条件下で電気分解させ、その際に生じる電気化学反応(例えば酸化還元反応)を利用して行うものとする。本実施形態では、尿中の尿酸の濃度を、三電極法によって検出する場合を例に挙げる。三電極法とは、作用電極、対(カウンタ)電極、参照電極の三つの電極を組み合わせて電気化学測定を行う手法である。
【0013】
図1は、本実施形態に係る電気化学センサ10の使用態様の一具体例を模式的に示す斜視図である。
図例のように、本実施形態に係る電気化学センサ10は、短冊状に形成されており、その一端側が測定器20の挿入口(スロット)21に挿入されて用いられる(図中矢印A参照)。
【0014】
測定器20は、例えばポテンショスタットと呼ばれる装置で、挿入口21に挿入された電気化学センサ10の各電極と電気的に接続した状態で、所定の電圧掃引操作を行うことが可能なように構成されている。そのために、測定器20は、例えば、電圧印加部、電流測定部、電位差測定部、電位調整部を有している。電圧印加部は、電気化学センサ10との接続により所定の回路が形成されたら、その電気化学センサ10における作用電極と対電極との間に電圧を印加するように構成されている。電流測定部は、尿酸の酸化還元反応により生じた電流を測定するように構成されている。電位差測定部は、作用電極と参照電極との間の電位差を測定するように構成されている。電位調整部は、電位差測定部により測定した電位差に基づき、参照電極の電位を基準として作用電極の電位を一定に維持するように構成されている。
【0015】
このような測定器20の挿入口21に挿入された状態で、電気化学センサ10には、被験者の排尿によって流れる尿が直接供給される(図中矢印B参照)。これにより、電気化学センサ10は、少なくとも挿入口21への挿入端とは反対側の端部近傍領域が、被検液である尿の流れに触れることになる。
【0016】
尿の流れに触れると、電気化学センサ10は、毛細管現象を利用して、流れる尿の一部を採取する。そして、電気化学センサ10は、採取した尿を各電極(すなわち、作用電極、対電極、参照電極の三つの電極)に接触させる。これにより、採取した尿中の尿酸の濃度を、三電極法によって検出することが可能となる。
【0017】
(電気化学センサの構成例)
ここで、本実施形態に係る電気化学センサ10の構成例について、具体的に説明する。
図2は、本実施形態に係る電気化学センサ10の構成例を模式的に示す分解斜視図である。なお、図例では、便宜上、各構成要素を分離させた状態で示している。
【0018】
本実施形態に係る電気化学センサ10は、保護カバー部材11と、流路カバー部材12と、スペーサ部材13と、基材14とを備え、これらが積層されて構成されている。
【0019】
保護カバー部材11は、後述する基材14上の各電極14a,14b,14cを覆って保護するためのもので、表裏関係にある第一面(例えば表面)と第二面(例えば裏面)を有する板状部材によって形成されている。そして、保護カバー部材11は、電気化学センサ10に対して被検液である尿が供給されると(図中矢印B参照)、供給された尿が第一面に沿って流れ、これにより第一面の側に尿の供給流路11aが形成されるように構成されている。
保護カバー部材11は、耐水性を有する材料、具体的には樹脂材料、セラミック、ガラス、紙等のいずれか、好ましくはポリエチレン(PE)やポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂材料によって形成されている。PEやPET等の樹脂材料である場合、保護カバー部材11の板厚は、0.1~0.6mm程度であればよい。
保護カバー部材11には、電気化学センサ10を測定器20の挿入口21に挿入する際の挿入端とは反対側の端部(すなわち、供給流路11aの下流側端部)11cの近傍に、保護カバー部材11の板厚方向に貫通する貫通孔11bが設けられている。貫通孔11bの平面形状は、特に限定されるものではない。
【0020】
流路カバー部材12は、保護カバー部材11の第二面に接するように配されており、後述する液貯留路15の壁面の一部を構成するものである。また、流路カバー部材12には、液貯留路15に繋がる通気路を構成するためのスリット溝12aが設けられている。スリット溝12aが構成する通気路は、液貯留路15とは反対側の端部が大気に開放されている。
流路カバー部材12は、保護カバー部材11と同様の材料によって形成されている。
なお、流路カバー部材12は、供給流路11aにおける流れの下流側の端部12bが、保護カバー部材11における下流側端部11cの位置よりも、平面視において供給流路11aの上流側に所定距離(図中矢印C参照)だけ離れて位置した状態で、保護カバー部材11に対して積層されている。所定距離については、詳細を後述する。
【0021】
スペーサ部材13は、流路カバー部材12と基材14との間に介在するように配されており、後述する液貯留路15を構成するためのものである。そのために、スペーサ部材13には、液貯留路15を構成するための切欠き部13aが設けられている。
スペーサ部材13は、保護カバー部材11および流路カバー部材12と同様の材料によって形成されている。
なお、スペーサ部材13についても、流路カバー部材12と同様に、供給流路11aにおける流れの下流側の端部13bが、保護カバー部材11における下流側端部11cの位置よりも、平面視において供給流路11aの上流側に所定距離(図中矢印C参照)だけ離れて位置した状態で、流路カバー部材12に対して積層されている。
【0022】
基材14は、三電極法による検出を行うための作用電極14a、対電極14bおよび参照電極14cを支持するもので、供給流路11aの下流側の端部14eの近傍領域上に各電極14a,14b,14cを搭載するとともに、当該端部14eとは反対側が測定器20の挿入口21への挿入端となるように構成されている。また、基材14には、各電極14a,14b,14cを測定器20と個別に導通させるための配線14dが設けられている。作用電極14aとしては、例えば、尿が付着した状態で印加電圧に応じた酸化還元反応を生じさせるダイヤモンド膜を有するチップ状の電極(ダイヤモンドチップ電極)を用いることができる。対電極14bとしては、例えば、白金(Pt)、金(Au)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)等の金属で形成された電極、ダイヤモンド電極、ボロンドープダイヤモンド(BDD)電極、カーボン電極等を用いることができる。参照電極14cとしては、例えば、銀/塩化銀(Ag/AgCl)電極、標準水素電極、可逆水素電極、パラジウム・水素電極、飽和カロメル電極、カーボン電極、ダイヤモンド電極、Pt、Au、Cu、Pd、Ni、Ag等の金属で形成された電極等を用いることができる。これらの各電極14a,14b,14cおよび配線14dについては、公知技術を利用して構成されたものであればよく、ここではその詳細な説明を省略する。
基材14は、保護カバー部材11、流路カバー部材12およびスペーサ部材13と同様の材料によって形成されている。
なお、基材14についても、流路カバー部材12およびスペーサ部材13と同様に、供給流路11aにおける流れの下流側の端部14eが、保護カバー部材11における下流側端部11cの位置よりも、平面視において供給流路11aの上流側に所定距離(図中矢印C参照)だけ離れて位置した状態で、スペーサ部材13に対して積層されている。
【0023】
以上のような保護カバー部材11、流路カバー部材12、スペーサ部材13および基材14を積層させると、保護カバー部材11の第二面の側には、スペーサ部材13の切欠き部13aが流路カバー部材12と基材14とに挟まれることで、これらによって四方が囲われた空間が形成される。この空間が、液貯留路15を構成することになる。
【0024】
液貯留路15は、その液貯留路15としての空間内に一定量の尿を貯留するように構成されたものである。保護カバー部材11の供給流路11aに供給された尿は(図中矢印B参照)、そのうちの一部が保護カバー部材11の下流側端部11cを越えて、液貯留路15の側に流れ込む(図中矢印D参照)。具体的には、流速や流形状等が揺らぐ尿において、数秒間の尿かけにより、数μL以上の尿が下流側端部11cを越える。このような尿が流れ込むことで、液貯留路15としての空間内に尿が充填され、これにより液貯留路15が一定量の尿を貯留することになる。液貯留路15に流れ込む尿には、保護カバー部材11の貫通孔11bを通過した尿が含まれていてもよい。
【0025】
液貯留路15には、その液貯留路15となる空間に面するように、基材14上の各電極14a,14b,14cが配置されている。これにより、液貯留路15では、流れ込んだ尿を貯留すると、その尿に各電極14a,14b,14cが接触することになる。
【0026】
液貯留路15への尿の流れ込みは、毛細管現象を利用して生じさせる。したがって、液貯留路15は、そのサイズ(切欠き部13aの形成幅やスペーサ部材13の板厚等)が、毛細管現象を生じさせる大きさに形成されている。さらに、毛細管現象を生じさせるべく、液貯留路15には、流路カバー部材12のスリット溝12aが連通しており、これにより液貯留路15に繋がる通気路(すなわち、空気の通り道)が構成されるようになっている。具体的には、液貯留路15のサイズについては、例えば、切欠き部13aの形成幅が1~7mm程度、スペーサ部材13の板厚が0.1~0.6mm程度であれば、毛細管現象を生じさせることが可能である。
【0027】
また、液貯留路15への尿の流れ込みは、その液貯留路15の入口となる採液口15aを介して行われる。採液口15aは、液貯留路15となる空間の内外の境界に位置するもので、流路カバー部材12の端部12b、スペーサ部材13の端部13bおよび基材14の端部14eによって形成される。つまり、採液口15aは、流路カバー部材12、スペーサ部材13および基材14の端縁部分に、これらによって四方が囲われるように形成される。なお、ここでは、各端部12b,13b,14eの位置が揃っており、これにより採液口15aが四方を囲まれた方形状に形成されている場合を例に挙げるが、必ずしもこれに限定されるものではない。すなわち、採液口15aは、空間内外の境界に位置していれば、必ずしも方形状である必要はなく、例えば円形状に形成されていてもよい。また、必ずしも各端部12b,13b,14eの全ての位置が揃っていなくてもよく、その場合は少なくとも三方が囲まれることで液貯留路15となる空間が形成されるので、その三方を囲う端部の位置によって空間内外の境界が画定され、その境界に採液口15aが位置することになる。
【0028】
採液口15aを形成する流路カバー部材12の端部12b、スペーサ部材13の端部13bおよび基材14の端部14eは、いずれも、保護カバー部材11における下流側端部11cの位置よりも、平面視において供給流路11aの上流側に所定距離(図中矢印C参照)だけ離れて位置している。したがって、採液口15aについても、保護カバー部材11の平面視において、下流側端部11cから供給流路11aの上流側に所定距離(図中矢印C参照)だけ離れて位置していることになる。所定距離については、詳細を後述する。
【0029】
なお、液貯留路15を構成する壁面、すなわち液貯留路15となる空間を囲う流路カバー部材12、スペーサ部材13および基材14のそれぞれの面は、液貯留路15への尿の流れ込みを生じ易くすべく、親水処理面であることが好ましい。親水処理面とは、液体(例えば水)との親和性(すなわち、親水性または濡れ性)を向上させる処理が施された面のことをいう。親水性を向上させる処理は、プラズマ処理等の公知技術を利用して行えばよく、ここではその詳細な説明を省略する。
液貯留路15を構成する壁面については、全ての面が親水処理面であることが好ましいが、必ずしもこれに限定されることはなく、液貯留路15を構成する壁面の少なくとも一つの面が親水処理面であればよい。その場合であっても、親水処理面が全く存在しない場合に比べると、液貯留路15への尿の流れ込みが生じ易くなる。
親水処理面は、液貯留路15を構成する壁面に加えて、当該壁面以外に配されていてもよい。具体的には、保護カバー部材11の第二面の露出部分(流路カバー部材12等によって覆われていない部分)、保護カバー部材11の下流側端部11cを構成する端面、流路カバー部材12の下流側の端部12bを構成する端面、スペーサ部材13の下流側の端部13bを構成する端面、および、基材14の下流側の端部14eを構成する端面が、親水処理面であってもよい。これらの面が親水処理面であれば、供給流路11aから液貯留路15の採液口15aに尿が到達し易くなる。
【0030】
(電気化学センサにおける処理動作例)
次に、以上のように構成された本実施形態に係る電気化学センサ10の処理動作例を説明する。
図3は、本実施形態に係る電気化学センサ10の要部における処理動作例を模式的に示す側断面図である。
【0031】
本実施形態に係る電気化学センサ10を用いて被験者の尿中における尿酸濃度を検出する場合には、まず、電気化学センサ10を測定器20に接続する。そして、被験者が測定器20を把持しつつ、その被験者からの排尿によって流れる尿に、測定器20に接続された状態の電気化学センサ10を触れさせる。これにより、電気化学センサ10には、保護カバー部材11の第一面の側に、尿の供給流路11aが形成されることになる。
【0032】
尿の供給流路11aが形成されると、保護カバー部材11の下流側端部11cを越えた尿の一部は、保護カバー部材11の第二面の側に回り込み、液貯留路15の採液口15aに到達する。そして、採液口15aに到達した尿は、毛細管現象により液貯留路15としての空間内に流れ込み、その空間内に充填される。これにより、液貯留路15には、スリット溝12aによる通気路からの大気圧とのバランスにより、一定量の尿が貯留されて、その状態が維持される。
【0033】
このとき、保護カバー部材11に貫通孔11bが設けられていると、その貫通孔11bを通過した尿についても、採液口15aに到達して、液貯留路15に流れ込む。したがって、供給流路11aを流れる尿が、液貯留路15に流れ込みやすくなる。
【0034】
また、液貯留路15を構成する壁面が親水処理面であると、液貯留路15に尿が流れ込む際の抵抗を削減でき、液貯留路15への尿の流れ込みを生じさせ易くなる。
【0035】
また、尿が流れ込む液貯留路15にはスリット溝12aによる通気路が連通しているが、その通気路は保護カバー部材11によって覆われているので、通気路の側から液貯留路15内に尿が流れ込むことはない。つまり、通気路が保護カバー部材11によって保護されており、これにより液貯留路15内での一定量の尿の貯留状態を維持することができる。
【0036】
液貯留路15が一定量の尿を貯留すると、その液貯留路15内では、その尿に基材14上の作用電極14a、対電極14bおよび参照電極14cが接触した状態となる。その状態で、作用電極14aと対電極14bとの間には、測定器20から所定の電圧が印加される。これにより、作用電極14aで尿酸の酸化還元反応が生じ、作用電極14a内を電流(反応電流)が流れる。この反応電流の値を、測定器20の電流測定部を用いて、例えばサイクリックボルタンメトリーにより測定する。反応電流の値は、スクエアウェーブボルタンメトリー(矩形波ボルタンメトリー)、微分パルスボルタンメトリー、ノーマルパルスボルタンメトリー、交流ボルタンメトリー等の手法を用いて測定してもよい。また、尿が接触した状態において、測定器20の電位差測定部により、作用電極14aと参照電極14cとの間の電位差(電圧の差)を測定する。
【0037】
その後は、測定器20の電流測定部で測定した反応電流の値から、例えばサイクリックボルタモグラムを作成し、酸化ピークの電流値を取得する。そして、取得した酸化ピーク電流値および測定器20の電位差測定部で測定した電位差の値に基づいて、尿中の尿酸濃度を算出する(定量する)。反応電流の値が尿酸濃度と相関関係にあることは、公知文献(例えば、Anal.Methods,2018.10,991-996,図3,4参照)に開示されている。したがって、反応電流の値と尿酸濃度との関係を予め求めておけば、測定した反応電流の値に基づいて尿酸濃度を定量することができる。
【0038】
以上のような手順を経ることで、被検液である尿が流れを有した状態で供給される場合であっても、その尿中の尿酸濃度を電気化学測定によって検出することが可能となる。
【0039】
ところで、被験者からの排尿は、一定時間続くことが一般的である。そのため、液貯留路15が一定量の尿を貯留した後においても、保護カバー部材11上の供給流路11aでは、尿の流れが生じたままとなることがある。
【0040】
その場合、供給流路11aを流れる尿と、液貯留路15に貯留された尿とは、それぞれが同一の液体なので、液体分子同士が分子間力により引き付けあって、同一液体同士の親和性に起因する吸引力が生じ得る。つまり、供給流路11aで尿の流れが生じたままであると、その尿の流れによって、液貯留路15に貯留された尿に対して吸引力が作用し得る。
【0041】
そのため、例えば図3(b)に示す参考例のように、保護カバー部材11の平面視において、保護カバー部材11の下流側端部11cの位置と液貯留路15の採液口15aの位置とが一致していると、供給流路11aにおける尿の流れが作用させる吸引力によって(図中矢印E参照)、液貯留路15内の尿が吸い出されるおそれがある。液貯留路15内の尿が吸い出されると、基材14上の各電極14a,14b,14cへの尿の接触量が保証できず、各電極14a,14b,14cを用いたセンシング結果に悪影響が及ぶことが懸念される。
【0042】
これに対して、本実施形態に係る電気化学センサ10は、図3(a)に示すように、液貯留路15の採液口15aが保護カバー部材11の下流側端部11cから供給流路11aの上流側に所定距離(図中矢印C参照)だけ離れて位置している。つまり、液貯留路15の採液口15aからみると、保護カバー部材11の下流側端部11cが供給流路11aの下流側に向けて突出している分だけ、その供給流路11aにおける尿の流れが遮蔽されている。そのため、液貯留路15内に尿が流れ込み、その液貯留路15が尿を貯留している状態で、供給流路11aにて尿の流れが生じていても(図中矢印B参照)、採液口15aが下流側端部11cから離れている分だけ、その尿の流れによって生じる液貯留路15内の尿に対する吸引力を弱めることができる(図中の破線矢印E参照)。したがって、本実施形態に係る電気化学センサ10は、供給流路11aにおける尿の流れによって、液貯留路15内の尿が吸い出されてしまうことを抑制できる。
【0043】
下流側端部11cと採液口15aとの間の所定距離(すなわち、採液口15aからみた下流側端部11cの突出量)は、以下に述べるように設定される。
下流側端部11cと採液口15aとの間は、下流側端部11cを越えた尿が回り込んで採液口15aに到達できる距離に設定される。具体的には、尿の表面張力や保護カバー部材11の第二面の濡れ性等を考慮して、尿が採液口15aに到達できる距離を設定すればよい。
また、下流側端部11cと採液口15aとの間は、供給流路11aにおける尿の流れによる液貯留路15内の尿に対する吸引力を弱めることができる距離に設定される。具体的には、供給流路11aにおける尿の流速や尿の表面張力等を考慮して、吸引力を弱めることができる距離を設定すればよい。さらに具体的には、かかる距離は、液貯留路15内の尿の保持力>液貯留路15内の尿に対する吸引力、という関係が成立する距離となる。
つまり、下流側端部11cと採液口15aとの間は、液貯留路15内に尿がない状態では採液口15aへの尿の回り込みが生じ、かつ、液貯留路15内に尿がある状態では供給流路11aを流れる尿による吸引力を弱められる距離に設定される。
このような距離(突出量)の具体例は、被検液が人体から排出される尿である場合であれば、例えば0.3~1.5mm程度、好ましくは0.5~1.0mm程度、より好ましくは0.6~0.8mm程度となる。
【0044】
なお、保護カバー部材11に貫通孔11bが設けられている場合には、その貫通孔11bの径を考慮しつつ、下流側端部11cと採液口15aとの間の距離を設定するようにしてもよい。
ただし、貫通孔11bが設けられている場合でも、供給流路11aにおける尿の流れを遮蔽するための保護カバー部材11の領域部分は確保されるものとする。
図4は、本実施形態に係る電気化学センサの要部構成例を示す部分拡大図である。
具体的には、図4(a)に示すように、貫通孔11bが設けられている場合でも、保護カバー部材11は、スペーサ部材13の端部13b等と貫通孔11bの上流側孔端との間の領域部分、貫通孔11bの下流側孔端と保護カバー部材11の下流側端部11cとの間の領域部分、液貯留路15における尿の流れ方向から見て貫通孔11bの両側部に位置する領域部分の少なくともいずれかが、供給流路11aにおける尿の流れを遮蔽するための領域部分として機能する。したがって、貫通孔11bが設けられていても、保護カバー部材11の当該領域部分によって、液貯留路15内の尿に対する吸引力を弱めることができる。
【0045】
以上のように、本実施形態に係る電気化学センサ10は、保護カバー部材11の下流側端部11cと液貯留路15の採液口15aとの位置関係によって、液貯留路15内の尿が供給流路11aの尿の流れによって吸い出されてしまうことを抑制できる。これにより、尿が流れを有した状態で供給される場合であっても、液貯留路15が一定量の尿を貯留している状態を維持することができ、これにより基材14上の各電極14a,14b,14cへの尿の接触量が保証されることになる。
【0046】
(効果)
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
【0047】
(a)本実施形態において、保護カバー部材11の第一面の側に被検液である尿が供給されると、その第一面の側に供給流路11aが形成され、供給された尿が供給流路11aを流れる。そして、供給流路11aを流れる尿の一部が保護カバー部材11の第二面の側に回り込み、採液口15aから毛細管現象を利用して液貯留路15内に流れ込んで、その液貯留路15内に貯留される。したがって、液貯留路15内に貯留される尿に基材14上の各電極14a,14b,14cが接触することで、被検液である尿が流れを有した状態で供給される場合であっても、尿中の尿酸濃度を検出することが可能となる。
【0048】
しかも、本実施形態によれば、液貯留路15の採液口15aが保護カバー部材11の下流側端部11cから供給流路11aの上流側に離れて位置している。そのため、液貯留路15が尿を貯留している状態で、供給流路11aにおいて尿の流れが生じていても、下流側端部11cと採液口15aとが離れている分だけ、その尿の流れによって生じる液貯留路15内の尿に対する吸引力を弱めることができ、これにより液貯留路15内の尿が供給流路11aの尿の流れによって吸い出されてしまうことを抑制できる。したがって、尿が流れを有した状態で供給される場合であっても、液貯留路15が一定量の尿を貯留している状態を維持することができるので、基材14上の各電極14a,14b,14cへの尿の接触量が保証され、各電極14a,14b,14cを用いて尿中の尿酸濃度を精度よく検出することが可能となる。
【0049】
(b)本実施形態によれば、保護カバー部材11に貫通孔11bが設けることで、供給流路11aを流れる尿が液貯留路15に流れ込みやすくなる。つまり、保護カバー部材11の下流側端部11cを液貯留路15の採液口15aからみて突出させた場合であっても、貫通孔11bを利用して尿が液貯留路15に流れ込みやすくすることで、液貯留路15が一定量の尿を貯留している状態を容易かつ確実に実現可能になる。
【0050】
(c)本実施形態によれば、液貯留路15を構成する壁面を親水処理面とすることで、当該親水処理面でない場合に比べて、液貯留路15に尿が流れ込む際の抵抗を削減することができる。したがって、液貯留路15への尿の流れ込みを生じさせ易くなり、これにより液貯留路15が一定量の尿を貯留している状態を容易かつ確実に実現可能になる。
【0051】
(d)本実施形態によれば、流路カバー部材12に設けられたスリット溝12aが液貯留路15に繋がる通気路を構成し、これにより採液口15aから液貯留路15内に尿が流れ込み、その液貯留路15に一定量の尿が貯留されることになるが、その通気路が保護カバー部材11によって覆われて保護されている。そのため、通気路の側から液貯留路15内に尿が流れ込むことはなく、液貯留路15内での一定量の尿の貯留状態を確実に維持することができる。
【0052】
(変形例)
以上に、本開示の第一実施形態を具体的に説明したが、第一実施形態は必ずしも上述の内容に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0053】
例えば、第一実施形態では、被検液が尿である例について説明したが、本開示はこのような態様に限定されない。例えば、被検液としては、流れを有した状態で供給されるものであれば、尿の他、血液、唾液、鼻水、汗、涙等の体液であってもよい。また、被検液は人間由来のものに限定されず、例えば、犬や猫等の動物由来のものであってもよい。
【0054】
また、第一実施形態では、被検液中に含まれる特定物質が尿酸である例について説明したが、本開示はこのような態様に限定されない。例えば、被検液中に含まれる特定物質としては、尿酸の他、尿糖、アルギニン、アルブミン等であってもよい。
【0055】
また、第一実施形態では、被検液中の特定成分の濃度を三電極法により測定する例を説明したが、本開示はこのような態様に限定されない。例えば、被検液中の特定物質の濃度を、二電極法により測定してもよい。この場合、センサ電極は、作用電極と対電極(または参照電極)と、の2つの電極を有していればよい。
【0056】
また、第一実施形態では、保護カバー部材11に貫通孔11bが設けられている例を説明したが、本開示はこのような態様に限定されない。例えば、保護カバー部材11には、図4(b)に示すように、貫通孔11bに代わって、切欠部11dが設けられていてもよい。切欠部11dが設けられている場合も、貫通孔11bの場合と同様に、供給流路11aを流れる尿が液貯留路15に流れ込みやすくなり、しかも、供給流路11aにおける尿の流れを遮蔽するための領域部分によって、液貯留路15内の尿に対する吸引力を弱めることができる。
【0057】
また、第一実施形態では、流路カバー部材12にスリット溝12aが設けられており、これにより液貯留路15に繋がる通気路が構成される場合を例に挙げて説明したが、本開示はこのような態様に限定されない。例えば、スペーサ部材13に形成された図示せぬスリット加工部によって構成されるものであってもよく、その場合には流路カバー部材12を備えていなくても構わない。さらに、液貯留路15に繋がる通気路は、例えば、基材14に形成された図示せぬ溝加工部、または、基材14に形成された図示せぬ貫通孔の少なくとも一方によって構成されるものであってもよい。基材14に形成された貫通孔が通気路として機能する場合であっても、貫通孔は尿の供給流路11aとは反対の面側に位置するので、通気路の側からの尿の流れ込みは抑制されることになる。
通気路の側からの尿の流れ込みを抑制できれば、保護カバー部材11は、その形成長さが制限されていてもよい。具体的には、例えば、流路カバー部材12にスリット溝12aが設けられている場合において、保護カバー部材11は通気路を保護するのに十分な長さであればよく、保護カバー部材11の下流側端部11cに代わって、流路カバー部材12の下流側の端部12bの位置を、スペーサ部材13よりも突き出すように配置してもよい。その場合であっても、流路カバー部材12の端部12bがスペーサ部材13よりも突き出ていることで、尿の一部を液貯留路15内に導きつつ、その尿の流れによって生じる液貯留路15内の尿に対する吸引力を弱めることができる。つまり、保護カバー部材11と流路カバー部材12を有する構成の場合、これらの積層体を「板状部材」として機能させることが可能とになり、それぞれの端部11c,12bの少なくとも一方が液貯留路15の採液口15aから離れて位置していれば、第一実施形態で説明した効果を奏することになる。
【0058】
また、第一実施形態では、かけ流しの実施中に電圧印加して濃度測定する場合を例に挙げて説明したが、本開示はこのような態様に限定されない。例えば、かけ流しの完了後に電圧印加して濃度測定する場合であっても、同様の効果が得られる。
【0059】
<第二実施形態>
次に、本開示の第二実施形態を説明する。ここでは、主に、第一実施形態との相違点を説明する。
【0060】
図5は、本実施形態に係る電気化学センサの要部構成例を示す側面図である。
図例のように、本実施形態に係る電気化学センサにおいて、保護カバー部材11との積層部材の一つである基材14には、折り曲げ部14fが設けられている。
【0061】
折り曲げ部14fは、基材14の各電極14a,14b,14cが搭載される側(すなわち、保護カバー部材11等が積層される側)と、当該基材14の測定器20への挿入側とを、互いに非平行に連結する部分である。非平行とは、それぞれの側が平行ではなく、所定の曲げ角αで交わる状態のことをいう。
【0062】
このような構成の基材14が挿入された測定器20を被験者が把持しつつ、その被験者からの排尿によって流れる尿が供給されると、その尿は、基材14に積層された保護カバー部材11の第一面に対して入射角βで入射し、その第一面上に供給流路11aを形成する。折り曲げ部14fの曲げ角αは、以下に説明するように、尿の入射角βを考慮して設定される。
【0063】
例えば、折り曲げ部14fの曲げ角αは、尿の入射角βが極力小さくなるように、その大きさが設定される。このように曲げ角αが設定されていれば、保護カバー部材11の第一面に尿が入射した際の跳ね返りを抑制し得るので、供給流路11aを流れる尿の流量を十分に確保することができる。したがって、これに伴い、保護カバー部材11の第二面の側に回り込む尿の量も十分に確保することができ、採液口15aから液貯留路15内への尿の充填を行う上で非常に好ましいものとなる。
【0064】
また、例えば、折り曲げ部14fの曲げ角αは、尿の入射角βが極力大きくなるように、その大きさが設定される。このように曲げ角αが設定されていれば、供給流路11aに沿った方向のベクトル成分が小さくなるので、保護カバー部材11の第一面への入射後に供給流路11aを流れる尿の流速を低く抑えることができる。したがって、尿の流速が低いことから、液貯留路15の採液口15aからの保護カバー部材11の下流側端部11cの突出量を大きくしなくても、液貯留路15内の尿に対する吸引力を弱められるようになる。つまり、下流側端部11cの突出量を小さく抑えられるようになる。
【0065】
他の箇所は、第一実施形態の場合と同様に構成されている。
【0066】
以上のような本実施形態における構成によれば、第一実施形態で説明した1つまたは複数の効果に加えて、以下に示す効果を奏する。
【0067】
(e)本実施形態によれば、基材14に折り曲げ部14fが設けられていることで、その折り曲げ部14fの曲げ角αの設定により、供給流路11aに対する尿の入射角βを小さくし、または、供給流路11aに対する尿の入射角βを大きくすることができる。尿の入射角βを小さくすれば、採液口15aから液貯留路15内への尿の充填を行う上で非常に好ましいものとなり、また、尿の入射角βを大きくすれば、保護カバー部材11の下流側端部11cの突出量を大きくしなくても、液貯留路15内の尿に対する吸引力を弱められる。したがって、いずれの場合においても、電気化学センサを使用する被検者の使い勝手が向上し、被検者にとっての利便性が優れたものとなる。
【0068】
以上に、本開示の第二実施形態を具体的に説明したが、第二実施形態は必ずしも上述の内容に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0069】
例えば、第二実施形態では、基材14に折り曲げ部14fが設けられている例を説明したが、本開示はこのような態様に限定されない。すなわち、折り曲げ部14fは、例えば、保護カバー部材11または保護カバー部材11との積層部材(具体的には、流路カバー部材12、スペーサ部材13、基材14等)の少なくともいずれかに設けられていればよく、少なくともいずれかに設けられていれば、被検者にとっての利便性が優れたものとなる。
【0070】
<第三実施形態>
次に、本開示の第三実施形態を説明する。ここでも、主に、第一実施形態または第二実施形態との相違点を説明する。
【0071】
図6は、本実施形態に係る電気化学センサ10aの構成例を模式的に示す分解斜視図である。なお、図例においても、図2の場合と同様に、便宜上、各構成要素を分離させた状態で示している。
【0072】
本実施形態に係る電気化学センサ10aは、電極構成が、第一実施形態または第二実施形態の場合とは異なる。
本実施形態において、基材14上の各電極14a,14b,14c、特に少なくとも作用電極14aは、酵素膜14gによって覆われている。
【0073】
酵素膜14gは、酵素、電子伝達体および親水性高分子を含んで構成されたものである。酵素、電子伝達体および親水性高分子については、公知のものを用いることができ、ここではその詳細な説明を省略する。
【0074】
このような電極構成の電気化学センサ10aは、被検液に含まれる基質と酵素との反応により生成する電子によって電子伝達体を還元し、測定器20がその電子伝達体の還元量を電気化学的に計測することにより、検体の定量分析を行う。つまり、電気化学センサ10aは、被検液中の特定物質と特異的に反応する分子識別素子として酵素を用いた酵素センサとして機能するものであり、微生物、酵素、抗体等といった生体分子の分子認識能を利用したセンサであるバイオセンサの一種に相当する。
【0075】
他の箇所は、第一実施形態または第二実施形態の場合と同様に構成されている。つまり、電気化学センサ10aには、被検液が流れを有した状態で供給され、その被検液が毛細管現象を利用して液貯留路15内に貯留される。そして、その状態で供給流路11aに被検液の流れが生じていても、下流側端部11cと採液口15aとが離れているので、液貯留路15内の被検液が供給流路11aの被検液の流れによって吸い出されてしまうことを抑制でき、液貯留路15が一定量の被検液を貯留している状態を維持することができる。
【0076】
以上のように、本実施形態における構成においても、第一実施形態または第二実施形態で説明した1つまたは複数の効果を奏する。
【0077】
このことは、本開示の特徴的な構成について、被検液が流れを有した状態で供給されるものであれば、電気化学反応(例えば酸化還元反応)を利用した電気化学センサの他に、生体分子の分子認識能を利用したセンサであるバイオセンサにも適用可能であることを意味する。さらには、被検液が流れを有した状態で供給されるものであれば、例えば、被検液としての尿中のナトリウムイオンやカリウムイオン等のイオン成分の測定を可能とするイオン選択膜を利用したイオンセンサに適用することも考えられる。イオンセンサに適用した場合には、酵素膜14gに代わってイオン選択膜が配されることになる。
【0078】
つまり、本開示に係る電気化学センサは、医療・創薬分野、食品分野、環境分野等の幅広い分野で利用されるものに適用可能である。具体的には、体液中の特定成分を電気化学反応(例えば酸化還元反応)の利用により検出するセンサ、生体分子の分子認識能を利用したバイオセンサ、イオン選択膜を用いたイオンセンサ等が、本開示に係る電気化学センサに含まれる。このような電気化学センサについて、本開示の特徴的な構成を適用することで、毛細管現象による被検液の貯留後に、センサが触れる被検液の流れが生じたままであっても、貯留した被検液が吸い出されてしまうことを抑制できるようになる。
【0079】
<本開示の好ましい態様>
以下、本開示の好ましい態様について付記する。
【0080】
(付記1)
本開示の一態様によれば、
表裏関係にある第一面と第二面を有し、前記第一面の側に被検液の供給流路が形成される板状部材と、
前記板状部材の前記第二面の側に配され、前記供給流路が形成された前記板状部材の下流側端部を越えた被検液の一部が流れ込む液貯留路と、を備え、
前記板状部材の平面視において、前記液貯留路の入口となる採液口が前記下流側端部から前記供給流路の上流側に離れて位置している
電気化学センサが提供される。
【0081】
(付記2)
好ましくは、
前記板状部材における前記下流側端部の近傍に貫通孔または切欠部が設けられている
付記1に記載の電気化学センサが提供される。
【0082】
(付記3)
好ましくは、
前記液貯留路を構成する壁面が親水処理面である
付記1または2に記載の電気化学センサが提供される。
【0083】
(付記4)
好ましくは、
前記液貯留路に繋がる通気路を有する
付記1から3のいずれか1態様に記載の電気化学センサが提供される。
【0084】
(付記5)
好ましくは、
前記板状部材または前記板状部材との積層部材の少なくともいずれかに折り曲げ部が設けられている
付記1から4のいずれか1態様に記載の電気化学センサが提供される。
【0085】
(付記6)
好ましくは、
前記板状部材に積層されるスペーサ部材および基材を備え、
前記スペーサ部材には、前記液貯留路を構成するための切欠き部が設けられており、
前記基材には、前記液貯留路内に配置されることになる電極が搭載されており、
前記液貯留路に流れ込んだ被検液に前記電極が接触することで、当該被検液中の特定成分を検出するように構成されている
付記1から5のいずれか1態様に記載の電気化学センサが提供される。
【0086】
(付記7)
好ましくは、
前記下流側端部と前記採液口との間の距離は、前記液貯留路内の被検液の保持力>前記液貯留路内の被検液に対する吸引力、という関係が成立する距離に設定される
付記1から6のいずれか1態様に記載の電気化学センサが提供される。
【符号の説明】
【0087】
10,10a 電気化学センサ
11 保護カバー部材
11a 供給流路
11b 貫通孔
11c 下流側端部
11d 切欠部
12 流路カバー部材
12a スリット溝
12b 端部
13 スペーサ部材
13a 切欠き部
13b 端部
14 基材
14a 作用電極
14b 対電極
14c 参照電極
14d 配線
14f 折り曲げ部
14g 酵素膜(イオン選択膜)
15 液貯留路
15a 採液口
20 測定器
図1
図2
図3
図4
図5
図6