(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174781
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】超音波診断装置及び診断支援方法
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
A61B8/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080736
(22)【出願日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 洋子
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601BB03
4C601EE09
4C601GA18
4C601GA25
4C601JB34
4C601JC05
4C601JC06
4C601JC11
4C601JC16
4C601JC31
4C601KK02
4C601KK31
(57)【要約】
【課題】病変部候補を通知するマークの形態の変化により病変部候補の検出の信頼度を表現する場合において、マークの形態の望ましくない変化を制限する。
【解決手段】画像解析部28は、病変部候補が病変部である可能性を示す信頼度を演算する信頼度演算部29を有する。マーク表示制御部30は、超音波画像上に病変部候補を通知するマークを表示する。信頼度が候補検出条件を満たし続けている連続検出状態においてマークが継続的に表示される。その際、候補検出条件が最初に満たれた時点から形態不変期間を経過するまでマークの形態が固定され、その後、信頼度の変化に応じてマークの形態が変更される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波ビームの走査を繰り返すことにより得られたフレームデータ列を受け入れ、フレームデータごとに当該フレームデータに含まれる病変部候補が病変部である可能性を示す信頼度を演算する演算部と、
前記フレームデータ列に基づいて形成された超音波画像上に前記病変部候補を通知するマークを表示する表示制御部であって、前記病変部候補の検出が連続している連続検出状態において前記マークを継続的に表示する表示制御部と、
を含み、
前記表示制御部は、前記連続検出状態において、前記病変部候補が最初に検出された時点から形態不変期間を経過するまで前記マークの形態を固定すると共に前記形態不変期間の経過後に前記信頼度に応じて前記マークの形態を変更する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記表示制御部は、前記連続検出状態において、前記形態不変期間の経過後に前記信頼度が高くなるに従って前記マークの形態を段階的に変更する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2記載の超音波診断装置において、
信頼度軸上に非表示範囲及び表示範囲が定められ、
前記表示範囲は最下位区間を含む複数の区間に分けられ、
前記形態不変期間において前記マークの形態は初期形態であり、
前記形態不変期間の経過後において前記マークの形態は前記複数の区間に対応する複数の形態の中のいずれかであり、
前記複数の形態には前記最下位区間に対応する前記初期形態が含まれる、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項2記載の超音波診断装置において、
前記マークの形態の段階的な変更には、前記マークの太さの段階的な変更、前記マークの色の段階的な変更、前記マークの透明度の段階的な変更、及び、前記マークを構成する線の種類の段階的な変更、の内の少なくとも1つが含まれる、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記表示制御部は、前記信頼度が閾値よりも大きくなった場合に前記マークを表示し、前記信頼度が前記閾値よりも小さくなった場合に前記マークを消去し、
前記形態不変期間の経過前に前記信頼度が前記閾値よりも小さくなった場合に、前記超音波画像上の前記マークが消去される、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記演算部は、前記フレームデータごとに、当該フレームデータに含まれる病変部候補の属性を判定し、
前記表示制御部は、前記連続検出状態において、前記形態不変期間の経過後に、前記信頼度及び前記属性の組み合わせに応じて前記マークの形態を変更する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記演算部は、前記フレームデータごとに、当該フレームデータに含まれる病変部候補の属性として重要属性及び非重要属性のいずれかを判定し、
前記表示制御部は、前記重要属性が判定された場合に、前記連続検出状態において、前記形態不変期間の経過後に、前記信頼度に応じて前記マークの形態を変更し、
前記表示制御部は、前記非重要属性が判定された場合に、前記連続検出状態において、前記形態不変期間の経過後に、前記マークを消去する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
超音波ビームの走査を繰り返すことにより得られたフレームデータ列を構成するフレームデータごとに、当該フレームデータに含まれる病変部候補が病変部である可能性を示す信頼度を演算する工程と、
前記フレームデータ列に基づいて形成された超音波画像上に前記病変部候補を通知するマークを表示する工程と、
を含み、
前記病変部候補の検出が連続している連続検出状態において前記マークが継続的に表示され、
前記マークの継続的な表示に際して、前記病変部候補が最初に検出された時点から形態不変期間を経過するまで前記マークの形態が固定され、その後、前記信頼度に応じて前記マークの形態が変更される、
ことを特徴とする診断支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超音波診断装置及び診断支援方法に関し、特に、検査者に対して病変部候補を通知する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波検査においては、被検者の表面に当接されたプローブが被検者の表面に沿って走査される。その走査の過程において、表示器に表示されるリアルタイム断層画像が観察され、その観察を通じて病変部の有無が判断される。病変部が見つかった場合、病変部が詳しく検査される。
【0003】
動的に変化する断層画像上において、一時的に現れる病変部を視覚的に特定することは容易ではない。病変部の特定を支援する技術として、CADe(Computer Aided Detection)がある。その技術は、例えば、断層画像に含まれる病変部候補を検出し、検出された病変部候補を検査者に通知するものである。例えば、断層画像上に病変部候補を囲むマークが表示される。CADeは、CAD(Computer Aided Diagnosis)と共に利用され又はCADに含まれるものである。CADはCADxとも表記される。
【0004】
特許文献1には、CAD機能を備えた超音波診断装置が開示されている。特許文献1には、病変部候補を通知するマークの表示態様を変更することについては記載されていない。特許文献2には、CAD機能を備えた超音波診断装置において、病変部候補を通知するマークの表示態様を変更することが記載されている。しかし、その技術は、検査者ごとに病変部候補を見逃す傾向が異なることを前提とし、検査者ごとに病変部候補の見逃しを防止することをその目的とするものである。すなわち、その技術は、病変部候補が病変部である可能性の大小とは無関係である。特許文献3には、CAD機能を備えた超音波診断装置において、病変部候補の検出の信頼度が閾値以上である場合に診断名を表示することが記載されている。
【0005】
なお、本願明細書において、病変部は、疾患の可能性がある部位又は精査しておく必要性のある部位を意味する。病変部候補は、検査者による病変部の特定及び診断を支援するために検出された部位を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-159739号公報
【特許文献2】国際公開2018/198327号公報
【特許文献3】特開2012-249964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
病変部候補を通知するマークを表示する場合において、病変部候補の検出の信頼度をマークの形態の変更により表現することが考えられる。その技術を採用した場合、病変部候補の検出初期においては、不安定な検出状態になり易く、信頼度が変化し易い。つまり、マーク表示開始直後においてはマークの形態が変化し易い。そのような形態の変化は、超音波画像の観察の妨げになるものであり、具体的には、超音波画像を観察している検査者にとって目障りとなるものである。
【0008】
本開示の目的は、病変部候補を通知するマークの形態の変化により病変部候補の検出の信頼度を表現する場合において、マークの形態の望ましくない変化を制限することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る超音波診断装置は、超音波ビームの走査を繰り返すことにより得られたフレームデータ列を受け入れ、フレームデータごとに当該フレームデータに含まれる病変部候補が病変部である可能性を示す信頼度を演算する演算部と、前記フレームデータ列に基づいて形成された超音波画像上に前記病変部候補を通知するマークを表示する表示制御部であって、前記病変部候補の検出が連続している連続検出状態において前記マークを継続的に表示する表示制御部と、を含み、前記表示制御部は、前記連続検出状態において、前記病変部候補が最初に検出された時点から形態不変期間を経過するまで前記マークの形態を固定すると共に前記形態不変期間の経過後に前記信頼度に応じて前記マークの形態を変更する、ことを特徴とする。
【0010】
本開示に係る診断支援方法は、超音波ビームの走査を繰り返すことにより得られたフレームデータ列を構成するフレームデータごとに、当該フレームデータに含まれる病変部候補が病変部である可能性を示す信頼度を演算する工程と、前記フレームデータ列に基づいて形成された超音波画像上に前記病変部候補を通知するマークを表示する工程と、を含み、前記病変部候補の検出が連続している連続検出状態において前記マークが継続的に表示され、前記マークの継続的な表示に際して、前記病変部候補が最初に検出された時点から形態不変期間を経過するまで前記マークの形態が固定され、その後、前記信頼度に応じて前記マークの形態が変更される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、病変部候補を通知するマークの形態の変化により病変部候補の検出の信頼度を表現する場合において、マークの形態の望ましくない変化を制限できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る超音波診断装置を示すブロック図である。
【
図3】マーク表示に関わる動作例を示すフローチャートである。
【
図5】第1例をより詳しく説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る超音波診断装置は、演算部、及び、表示制御部を有する。演算部は、超音波ビームの走査を繰り返すことにより得られたフレームデータ列を受け入れ、フレームデータごとに当該フレームデータに含まれる病変部候補が病変部である可能性を示す信頼度を演算する。表示制御部は、フレームデータ列に基づいて形成された超音波画像上に病変部候補を通知するマークを表示する。病変部候補の検出が連続している連続検出状態においてマークが継続的に表示される。表示制御部は、連続検出状態において、病変部候補が最初に検出された時点から形態不変期間を経過するまでマークの形態を固定すると共に形態不変期間の経過後に信頼度に応じてマークの形態を変更する。
【0015】
上記構成によれば、病変部候補が検出された場合、形態不変期間が経過するまで、マークの形態が固定される。病変部候補の検出初期においては、通常、信頼度が不安定となるため、その期間においては信頼度の表示を停止させるものである。これによれば、検出初期におけるマーク形態の変化に起因して生じる問題、例えば、検査者にとってマーク形態の変化が目障りとなることを回避できる。よって、検出初期において、マークで通知された部位の観察に意識を集中させることが可能となる。検出初期を過ぎた場合、つまり形態不変期間が経過した場合、マークの形態が変化しても、通常、その変化はゆっくりとしたものなので、上記問題は生じ難い。なお、典型的には、検出初期はプローブを比較的に速く動かしている期間であり、その後にプローブが停止された上で、プローブの位置や姿勢がゆっくりと調整されつつ、病変部候補が詳しく観察される。
【0016】
実施形態において、表示制御部は、連続検出状態において、形態不変期間の経過後に信頼度が高くなるに従ってマークの形態を段階的に変更する。マークの形態を連続的に変化させてもよいが、マークの形態を段階的に変化させれば信頼度の変化を認識し易くなる。
【0017】
実施形態においては、信頼度軸上に非表示範囲及び表示範囲が定められる。表示範囲は最下位区間を含む複数の区間に分けられる。形態不変期間においてマークの形態は初期形態である。形態不変期間の経過後においてマークの形態は複数の区間に対応する複数の形態の中のいずれかである。複数の形態には最下位区間に対応する初期形態が含まれる。形態不変期間において表示されるマーク形態と最下位区間に対応するマーク形態とを同じにすれば、形態不変期間の経過時点での形態変化の頻度を少なくできる。
【0018】
実施形態において、マークの形態の段階的な変更には、マークの太さの段階的な変更、マークの色の段階的な変更、マークの透明度の段階的な変更、及び、マークを構成する線の種類の段階的な変更、の内の少なくとも1つが含まれる。マークが病変部位候補を包含するエリアの4隅を特定する4つの表示要素により構成されてもよい。マークがペイントされたエリアであってもよい。
【0019】
実施形態において、表示制御部は、信頼度が閾値よりも大きくなった場合にマークを表示し、信頼度が閾値よりも小さくなった場合にマークを消去する。形態不変期間の経過前に信頼度が閾値よりも小さくなった場合に、超音波画像上のマークが消去される。この構成によれば、一時的検出の事実を通知でき、同時に、マークが超音波画像の観察上の妨げとなることを防止できる。
【0020】
実施形態において、演算部は、フレームデータごとに、当該フレームデータに含まれる病変部候補の属性を判定する。表示制御部は、連続検出状態において、形態不変期間を経過後に、信頼度及び属性の組み合わせに応じてマークの形態を変更する。この構成によれば、マークの形態を通じて、信頼度の大小を認識でき且つ病変部候補の属性を認識できる。属性の概念には、例えば、病名、病態、悪性度、等が含まれる。
【0021】
実施形態において、演算部は、フレームデータごとに、当該フレームデータに含まれる病変部候補の属性として重要属性及び非重要属性のいずれかを判定する。表示制御部は、重要属性が判定された場合に、連続検出状態において、形態不変期間の経過後に、信頼度に応じてマークの形態を変更する。一方、表示制御部は、非重要属性が判定された場合に、連続検出状態において、形態不変期間の経過後に、マークを消去する。この構成によれば、精査不要な特定の組織について過度な通知が行われることを防止できる。
【0022】
実施形態に係る診断支援方法は、演算工程、及び、表示工程を有する。演算工程では、超音波ビームの走査を繰り返すことにより得られたフレームデータ列を構成するフレームデータごとに、当該フレームデータに含まれる病変部候補が病変部である可能性を示す信頼度が演算される。表示工程では、フレームデータ列に基づいて形成された超音波画像上に病変部候補を通知するマークが表示される。病変部候補の検出が連続している連続検出状態においてマークが継続的に表示される。マークの継続的な表示に際して、病変部候補が最初に検出された時点から形態不変期間を経過するまでマークの形態が固定され、その後、信頼度に応じてマークの形態が変更される。
【0023】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る超音波診断装置の構成がブロック図として示されている。超音波診断装置は、病院等の医療機関に設置され、生体(被検者)に対する超音波の送受波により得られた受信信号に基づいて、超音波画像を形成する医療用の装置である。超音波診断対象となる臓器は、例えば、乳房である。
【0024】
乳房の集団健診においては、短時間にしかも見落としなく病変部を特定する必要がある。実施形態に係る超音波診断装置は、検査者による病変部の特定を支援するために、超音波画像に含まれる病変部候補(例えば腫瘤である可能性が認められる低輝度部分)を自動的に検出するCADe機能を備えている。これについては後に詳述する。
【0025】
プローブ10は、超音波を送受波する手段として機能するものである。具体的には、プローブ10は、可搬型送受波器であり、それはユーザーである検査者(医師、検査技師等)によって保持及び操作される。乳房の超音波診断に際しては、プローブ10の送受波面(具体的には音響レンズ表面)が被検者の胸部表面に当接される。リアルタイムで表示される断層画像を観察しながら、胸部表面に沿ってプローブ10がマニュアルで走査される。断層画像上において病変部候補が特定された場合、プローブ10の位置及び姿勢がゆっくり調整され、その後、プローブ10の位置及び姿勢を固定したまま、断層画像がじっくり観察される。
【0026】
プローブ10は、図示された構成例において、一次元配列された複数の振動素子からなる振動素子アレイを備えている。振動素子アレイによって超音波ビーム(送信ビーム及び受信ビーム)12が形成され、超音波ビーム12の電子的な走査により走査面14が形成される。走査面14は観察面であり、すなわち二次元データ取込領域である。超音波ビーム12の電子走査方式として、電子セクタ走査方式、電子リニア走査方式等が知られている。超音波ビーム12のコンベックス走査が行われてもよい。プローブ10内に2D振動素子アレイを設け、超音波ビームの二次元走査により、生体内からボリュームデータが取得されてもよい。
【0027】
プローブ10の位置情報を求める測位システムを設けてもよい。測位システムは、例えば、磁気センサ及び磁場発生器により構成される。プローブ(正確にはプローブヘッド)に磁気センサが装着される。磁気センサによって磁場発生器により生成された磁場が検出される。これにより、磁気センサの三次元座標情報が得られる。三次元座標情報に基づいてプローブ10の位置及び姿勢を特定し得る。測位システムから出力された情報に基づいてプローブ10の運動情報を求め、その運動情報を後述するマーク表示制御で利用してもよい。
【0028】
送信回路22は送信ビームフォーマーとして機能する。具体的には、送信時において、送信回路22は、振動素子アレイに対して複数の送信信号を並列的に供給する。これにより送信ビームが形成される。受信時において、生体内からの反射波が振動素子アレイに到達すると、複数の振動素子から複数の受信信号が並列的に出力される。受信回路24は受信ビームフォーマーとして機能し、複数の受信信号の整相加算(遅延加算ともいう。)により、ビームデータを生成する。
【0029】
1回の電子走査当たり、電子走査方向に並ぶ複数のビームデータが生成され、それらが走査面14に対応する受信フレームデータを構成する。個々のビームデータは深さ方向に並ぶ複数のエコーデータにより構成される。受信回路24の後段にはビームデータ処理部が設けられているが、その図示が省略されている。
【0030】
画像形成部26は、受信フレームデータに基づいて断層画像(Bモード断層画像)を生成する電子回路である。それはDSC(Digital Scan Converter)を有している。DSCは、座標変換機能、画素補間機能、フレームレート変換機能等を有している。より詳しくは、画像形成部26により、受信フレームデータ列に基づいて表示フレームデータ列が生成される。表示フレームデータ列を構成する各表示フレームデータは、断層画像データである。複数の断層画像データによりリアルタイム動画像が構成される。断層画像以外の超音波画像が生成されてもよい。例えば、カラーフローマッピング画像が形成されてもよいし、組織を立体的に表現した三次元画像が形成されてもよい。図示の構成例では、表示フレームデータ列は、表示処理部32及び画像解析部28に送られている。
【0031】
画像解析部28は、CADe機能を発揮するモジュールである。画像解析部28は、フレームデータごとに、つまり断層画像ごとに、病変部候補を検出する処理を実行する。具体的には、断層画像に対する、二値化処理、エッジ検出等により、低輝度の閉領域として病変部候補が検出される。病変部候補が検出された場合、画像解析部28から病変部候補情報が出力される。
【0032】
病変部候補情報には、病変部候補の位置情報、及び、病変部候補のサイズ情報が含まれる。病変部候補情報には、更に、信頼度が含まれる。信頼度は、病変部候補が実際に病変部である可能性を示す数値である。
図1においては、信頼度を演算する信頼度演算部29が示されている。病変部候補情報に、病変部候補の属性(病名、病態、悪性度、)が含まれてもよい。
【0033】
病変部候補の位置情報は、例えば、病変部候補それ自体の中心点の座標を示す情報であり、あるいは、病変部候補に接しつつそれを囲む図形の中心点の座標を示す情報である。中心点は代表点である。中心点として、図形の幾何学的な中心点や図形の重心点を採用し得る。病変部候補のサイズ情報は、例えば、病変部候補それ自体のサイズを示す情報であり、あるいは、病変部候補に接しつつそれを囲む図形のサイズを示す情報である。例えば、図形の中心点の座標と図形の左上隅点の座標から、病変部候補のサイズが特定される。中心点の座標が特定されている前提の下、左上隅点の座標を病変部候補のサイズ情報とみなしてもよい。病変部候補のサイズ情報として、病変部候補の面積が求められてもよい。複数の病変部候補が並列的に検出されてもよい。
【0034】
マーク表示制御部30は、検出された病変部候補を通知するマークを超音波画像上に重畳表示するものである。マーク表示制御部30は、信頼度が所定の閾値よりも大きい場合に病変部候補が検出されたとみなし、病変部候補を囲むマークを生成する。マーク表示制御部30は、信頼度の大小をマークの形態の段階的な変化によって表現する。但し、検出開始から一定期間(検出初期)は形態不変期間とされており、形態不変期間内ではマークの形態が初期形態に固定される。形態不変期間の経過後においては信頼度に応じてマークの形態が変更される。マークの形態の変更として、線の太さの変更、線の色の変更、線の透明度の変更、線種の変更、マークの形状の変更、等が挙げられる。
【0035】
初期形態は、その後に表示される強調形態群に比べて、目立たないものであり、つまり控えめなものである。逆に言えば、強調形態群は、初期形態に比べて、識別性又は顕現性の高いものであり、つまり目立つものである。
【0036】
形態変更について幾つかの具体例をあげておく。信頼度が低い場合に寒色系の色でマークを表示し、信頼度が高い場合に暖色系の色でマークを表示してもよい。信頼度が低い場合に低輝度でマークを表示し、信頼度が高い場合に高輝度でマークを表示してもよい。信頼度が低い場合に高い透明度でマークを表示し、信頼度が高い場合に低い透明度でマークを表示してもよい。信頼度が低い場合に細い線幅でマークを表示し、信頼度が高い場合に太い線幅でマークを表示してもよい。信頼度が低い場合に破線でマークを表示し、信頼度が高い場合に実線でマークを表示してもよい。マーク自体の種類を切り替えてもよい。例えば、4つの角を示す4つの表示要素の表示と矩形の図形の表示とを切り替えてもよい。幾つかの手法を同時に適用してもよい。
【0037】
検出初期においては、病変部候補の検出が不安定であり、信頼度も不安定である。検出初期にけるマーク形態の変化を制限することにより、マーク表示の応答性を良好にしつつも、検出初期においてマークが必要以上に目立って目障りとなることを防止できる。
【0038】
画像形成部26、画像解析部28及びマーク表示制御部30は、それぞれ、プロセッサにより構成され得る。単一のプロセッサが、画像形成部26、画像解析部28及びマーク表示制御部30として機能してもよい。後述するCPUが、画像形成部26、画像解析部28及びマーク表示制御部30として機能してもよい。
【0039】
表示処理部32は、グラフィック画像生成機能、カラー演算機能、画像合成機能等を有する。表示処理部32には、画像形成部26の出力及びマーク表示制御部30の出力が与えられている。病変部候補を囲むマークは、グラフィック画像を構成する1つの要素である。実施形態においては、マーク表示制御部30がマークを生成しているが、主制御部38、表示処理部32、等がマークを生成するようにしてもよい。
【0040】
表示器36は、LCD、有機EL表示デバイス等によって構成される。表示器36には、動画像としての断層画像がリアルタイムで表示され、また、グラフィック画像の一部としてマークが表示される。表示処理部32は、例えば、プロセッサにより構成される。
【0041】
主制御部38は、
図1に示された各構成要素の動作を制御するものである。主制御部38は、実施形態において、プログラムを実行するCPUによって構成される。主制御部38には、操作パネル40が接続されている。操作パネル40は入力デバイスであり、それは、複数のスイッチ、複数のボタン、トラックボール、キーボード等を有する。
【0042】
操作パネル40を利用してマーク表示条件を設定又は変更し得る。マーク表示条件には、形態固定期間、複数の閾値、等が含まれる。例えば、プローブ10の移動速度、フレームデータの安定度、信頼度のばらつき、等に基づいて、形態固定期間が適応的に定められてもよい。
【0043】
実施形態においては、表示フレームデータ列が画像解析部28に与えられているが、受信フレームデータ列が画像解析部28に与えられてもよい(符号42を参照)。その場合、画像形成部26とは別に、画像形成を簡易且つ迅速に実行する他の画像形成部が設けられる。
【0044】
図2には、マーク生成方法が示されている。断層画像44には病変部候補46が含まれる。断層画像44の二値化47により二値化画像が生成される。二値化画像に対するエッジ検出又は領域検出により、二値化された病変部候補46Aが抽出される。例えば、病変部候補46Aにおける水平方向の両端座標、及び、病変部候補46Aにおける垂直方向の両端座標により、病変部候補46Aに外接する矩形52が定義される。実際には、矩形52の中心点48の座標及び矩形の左上隅点50の座標が特定される。
【0045】
矩形52の外側に、水平方向及び垂直方向に一定のマージン56,58をおいた図形として、矩形54が定義される。その矩形54が断層画像44上にマーク64として表示される。マーク64は、病変部候補46及びその周囲を囲む図形である。図示の例では、マーク64は、破線で構成されている。4つの隅部分のみを表す4つの要素からなるマークが表示されてもよい。円形や楕円のマークが表示されてもよい。
【0046】
実施形態においては、フレームデータ単位で病変部候補46の検出が実行される。病変部候補46が検出された場合に、それを含むフレームデータに対応する断層画像44上にマーク64が表示される。マーク64の表示により、検査者に対して病変部候補46の存在を知覚させることが可能となり、病変部候補46の見落としを防止できる。
【0047】
病変部候補46の検出が連続している連続検出状態において、病変部候補の検出開始時点から形態不変期間が経過するまで、マーク64の形態が固定され、形態不変期間の経過後に、信頼度に応じてマーク64の形態が変更される。つまり、マーク64の形態により信頼度の大小が表現される。病変部候補46が検出されなくなった時点で、マーク64が消去される。実際には、信頼度が後述する第1閾値と比較されており、第1閾値よりも信頼度が低い場合には病変部候補が非検出であるとみなされ、第1閾値よりも信頼度が高い場合には病変部候補が検出されたとみなされる。病変部候補46の検出が1又は数フレーム途絶えた場合、病変部候補46の検出が連続しているとみなしてもよい。
【0048】
図3には、
図1に示したマーク表示制御部の動作がフローチャートとして示されている。S10では、病変部候補が検出されたか否かが判定される。上記のように、フレームデータごとに病変部候補の有無が検査され、また、フレームデータごとに信頼度が参照される。なお、図示の例では、S10においてマーク表示終了も判定される。
【0049】
S12では、マーク表示が開始される。マークの形態として初期形態が選択される。S14において、マークが最初に検出された時点から形態不変期間を経過しているか否かが判定される。S16では、病変部候補の検出が現時点でも連続しているか否かが判定される。病変部候補の検出が連続している場合、つまり連続検出状態が判定された場合、S14が繰り返し実行される。その過程で、形態不変期間が経過した時点で、S18が実行される。S16において病変部候補の検出が途絶えたと判定された場合、つまり連続検出状態が終了した場合、S17でマークが消去された上で、S10以降の各工程が実行される。なお、図示の例では、S16においてマーク表示終了も判定される。
【0050】
S18では、信頼度に従ってマークの形態が変更される。後述する第1例では、信頼度軸上に定められるマーク表示範囲が3つの区間に分割されており、3つの区間に対して3つのマーク形態が割り当てられている。S18では、信頼度の大きさに従って3つの形態の中から特定の形態が選択され、その形態を有するマークが表示される。3つの形態には、最下位区分に対応する形態としての初期形態が含まれる。形態不変期間の経過直後において信頼度が最下位区分に属する場合、結果として、マークの形態が維持されることになる。これによりマーク形態の変更の頻度を低減して、信頼度情報の提供と画像観察の便宜とを両立させることが可能となる。
【0051】
S20では、上記S16と同様、病変部候補の検出が連続しているか否かが判定される。病変部候補の検出が連続している場合、つまり連続検出状態においては、S18が繰り返し実行される。S20において病変部候補の検出が途絶えたと判定された場合、つまり連続検出状態が終了した場合、S17でマークが消去された上で、S10以降の各工程が実行される。なお、図示の例では、S20においてマーク表示終了も判定される。
【0052】
図4には、マーク表示制御の第1例が示されている。
図4の下部には、信頼度Rの大小を表す信頼度軸が示されている。信頼度軸上には、マーク表示範囲200及びそれ以下のマーク非表示範囲202が定められている。マーク表示範囲200の下限は第1閾値th1で規定される。マーク表示範囲200は、低区間200A、中区間200B、高区間200Cに分割されている。低区間200Aが最下位区間である。なお、信頼度は0から100の間の数値をとる。あるタイミングtでの信頼度がRtと表現されている。
【0053】
検出初期(符号72を参照)においては、形態(初期形態)Aをもったマークが表示される。検出初期は形態不変期間に相当し、その期間内においては信頼度Rtの大きさにかかわらず形態Aをもったマークが表示される。検出初期後つまり形態不変期間の経過後においては(符号74を参照)、符号76,78,80で示されているように、形態A,形態B及び形態Cの内で、信頼度Rtが属する区間に対応する形態が選択され、その形態をもったマークが表示される。
【0054】
形態Aは上述した初期形態である。各形態の顕現性又は顕著性(つまり目立つ度合い)を不等号で表現すると、形態A<形態B<形態Cの関係が成立している。形態Aは信頼度Rtが第1閾値th1以上且つ第2閾値th2未満の場合に選択される。形態Bは信頼度Rtが第2閾値th2以上且つ第3閾値th3未満の場合に選択される。形態Cは信頼度Rtが第3閾値th3以上の場合に選択される。th1は例えば60であり、th2は例えば75であり、th3は例えば90である。
【0055】
以上のように、病変部候補の検出が連続している連続検出状態においては、病変部候補の検出開始から一定の期間が経過するまで、信頼度が変化してもマークの形態は変化しない。その期間においては信頼度が不安定であることも多く、信頼度に応じてマークの形態を変化させると、マークが超音波画像の観察の妨げとなり易い。実施形態によれば、そのような問題が生じることを回避できる。また、実施形態によれば、一定の期間の経過後においては、マークの形態の変化を通じて信頼度の変化を把握又は認識することが可能となる。これにより、信頼度を考慮しつつ、マークによって通知された病変部候補を精査することが可能となる。一定の期間の経過後においては通常、プローブの動きはゆっくりとなり又はプローブが事実上静止した状態となるので、マークの形態が激しく変化することもない。
【0056】
図5を用いて、
図4に示した第1例をより詳しく説明する。符号82は信頼度の時間変化を表すグラフを示している。横軸は時間軸であり、縦軸は信頼度軸である。信頼度軸上に第1閾値th1、第2閾値th2及び第3閾値th3が設定されており、それによって3つの区間が設定されている。符号84は、各時刻で表示されるマークを示している。
【0057】
時刻t1において、信頼度Rtが第1閾値th1を超えており、これにより初期形態Aを有するマークが表示されている。時刻t2では信頼度Rtが第1閾値th1を下回っている。時刻t1から時刻t2までの期間は形態不変期間86に達していない。
【0058】
時刻t3において、信頼度Rtが再び第1閾値th1を超えており、更に、第2閾値th2も超えている。その場合、初期形態Aを有するマークが表示される。時刻t4において、形態不変期間88を経過しており、時刻t4以降からマーク形態の変化が許容される。形態不変期間88として数秒が定められてもよい。
【0059】
時刻t4においては、信頼度Rtは第1区間に属しており、初期形態Aが維持されている。その後、時刻t5におおいて信頼度Rtが第2閾値を超えており、時刻t5では形態Bを有するマークに変更される。更に、時刻t6では、信頼度Rtが第3閾値を超えており、形態Cを有するマークに変更される。その後、時刻t7で信頼度Rtが第1区間に復帰しており、その時点で初期形態Aを有するマークに変更される。時刻t8では、信頼度Rtが第1閾値を下回っており、その時点でマークが消去される。
【0060】
その後、時刻t9において、信頼度Rtが第1閾値th1を超えており、実際には第3閾値th3に達しているが、その時点で表示されるものは初期形態Aを有するマークである。時刻t10では、信頼度Rtが第1閾値th1を下回っている。マークは瞬時的に又は短期間のみ表示されたことになる。時刻t11では再び信頼度Rtが第1閾値を超えており、時刻t12において、形態不変期間が経過し、マークの形態の変化が許容されている。
【0061】
ユーザーにより形態不変期間が指定されてもよいし、状況に応じて形態不変期間が適応的に自動設定されてもよい。例えば、フレームデータの安定度、フレーム全体の信頼度分布の変化率、等に基づいて形態不変期間が定められてもよい。
【0062】
図6には、マーク表示制御の第2例が示されている。マークがとり得る形態92~98の内で、形態92が初期形態であり、他の3つの形態94,96,98がそれぞれ信頼度表現形態である。形態不変期間の経過後、信頼度が第1区間に属する場合に形態94が選択され、信頼度が第2区間に属する場合に形態96が選択され、信頼度が第3区間に属する場合に形態98が選択される。初期形態92には、矩形のマーク本体100が含まれる。エリア102にはバーグラフは含まれない。
【0063】
形態94,96,98は、それぞれ、矩形のマーク本体100を有し、また、バーグラフ102A,102B,102Cを有する。バーグラフ102A,102B,102Cにおけるバーの長さ(水平方向の大きさ)が信頼度の大きさを表している。第2例によれば、形態不変期間の経過後に表示されるマークの形態を観察することにより、信頼度を直感的に認識することが可能である。バーグラフ102A,102B,102Cの表示に当たっては、それが超音波画像を完全に隠さないように、それを半透明で表示してもよい。
【0064】
図7には、
図1に示した一部の構成の変形例が示されている。画像解析部28Aは、信頼度演算部29Aの他、評価部104を有している。評価部104は、図示の例では、腫瘍の属性として3つのクラスを識別する機能を備えている。具体的には、嚢胞に相当する良性腫瘍1、それ以外の良性腫瘍2、及び、悪性腫瘍を識別する機能を備えている。それらの内で、例えば、良性腫瘍が非重要属性とされ、良性腫瘍2及び悪性腫瘍が重要属性とされる。
【0065】
マーク表示制御部30Aは、候補検出状況において、検出開始から形態不変期間が経過するまで、マークの形態として初期形態を選択し、その後においては、良性腫瘍1についてはマークを非表示にし、良性腫瘍2及び悪性腫瘍については信頼度に応じてマークの形態を変更する。すなわち、非重要属性を有する病変部候補については、マークを短時間表示してその存在を検査者に通知した上で、表示内容簡素化の観点からマークを消去するものである。重要属性を有する病変部候補については、
図3等に示した手順に従ってマーク表示制御が実行される。
【0066】
図8には、マーク表示制御の第3例が示されている。これは
図7に示した構成を前提とするものである。なお、
図8において、
図4に示した要素と同様の要素には同一符号を付しその説明を省略する。
【0067】
図8において、検出初期(形態不変期間)106においては、マークの形態として、属性(クラス)にかかわらず初期形態120が選択される。初期検出期間後においては、良性腫瘍116及び悪性腫瘍118についてはマークの形態が変更されるが、良性腫瘍114についてはマークが消去される(符号134を参照)。符号115は重要属性を示しており、それは腫瘍116及び悪性腫瘍118に相当する。良性腫瘍114は非重要属性に相当する。重要属性115については、検出初期の経過後、信頼度Rtに応じてマークの形態が変更される。
【0068】
具体的には、図示の例において、良性腫瘍116については青色を有するマークが表示され、その形態(線種)が信頼度Rtに応じて符号122,124,126で示すように変更される。悪性腫瘍118については赤色を有するマークが表示され、その形態(線種)が信頼度Rtに応じて符号128,130,132で示すように変更される。信頼度Rtが高くなるに従って、より目立つようにマークの形態が段階的に選択される。なお、
図8に示した第3例では、最下位区間に対応する形態122,128は初期形態120に一致していない。一方、属性の違いによらず初期形態120は同一である。
【0069】
実施形態において、超音波画像上に複数の病変部候補が含まれる場合、病変部候補ごとに上記のマーク表示制御が実行される。画像解析部は機械学習型解析器で構成され得る。それは例えばCNNで構成される。
【符号の説明】
【0070】
10 プローブ、26 画像形成部、28 画像解析部、29 信頼度演算部、30 マーク表示制御部、32 表示処理部。