IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイシン精機株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ボルト 図1
  • 特開-ボルト 図2
  • 特開-ボルト 図3
  • 特開-ボルト 図4
  • 特開-ボルト 図5
  • 特開-ボルト 図6
  • 特開-ボルト 図7
  • 特開-ボルト 図8
  • 特開-ボルト 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174791
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】ボルト
(51)【国際特許分類】
   F16B 39/20 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
F16B39/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080752
(22)【出願日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野町 博康
(72)【発明者】
【氏名】大谷 啓一
(57)【要約】
【課題】ワイヤーロックを施工する場合にワイヤーが頭部から外れることを防止または抑制できるボルトを提供する。
【解決手段】ボルト10aは、ネジ山が設けられているネジ部11と、前記ネジ部11の軸線C方向の一方の端部側に設けられている頭部12aと、を有し、頭部12aは、ネジ部11の軸線C方向に直角な方向に延伸し外周面に開口部151が現れているワイヤー孔15と、頭部12aの側面121に部分的に設けられる複数の溝部16aとを有している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向の一端側にネジ部が設けられ前記軸線方向の他端側に柱状の頭部が設けられているボルトであって、
前記頭部には、
前記軸線方向に略直角な方向に貫通し側面に2か所の開口部が現れている貫通孔と、前記側面の一部であって前記2か所の開口部どうしの間に位置しており前記軸線方向に直角な方向に延伸する溝部と、が設けられている頭部を有する、
ボルト。
【請求項2】
請求項1に記載のボルトであって、
複数の前記溝部は、前記軸線方向視において前記貫通孔を挟んで互いに反対側に設けられている、
ボルト。
【請求項3】
請求項2に記載のボルトであって、
複数の前記溝部の底面が、前記貫通孔の中心線に略平行である、
ボルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーロックに好適なボルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボルトの緩み止めにワイヤーロックが用いられている。ワイヤーロックは、近接するボルトの頭部どうし、またはボルトの頭部とボルト以外の構造物(以下、「他の構造物」と記すことがある)とをワイヤー(金属線)で連結することにより、振動などによってボルトが緩むこと(緩む方向にボルトが回転すること)を防止する方法であり、緩んだボルトが脱落することを防止する方法である。ワイヤーロックに使用されるボルトの頭部には、半径方向に延伸する貫通孔が設けられている。そして、ワイヤーロックの施工の際には、ワイヤーをこの貫通孔に挿通するとともにボルトの頭部の側面に巻き付けることによって、近接するボルトの頭部どうし、またはボルトの頭部と他の構造物とをワイヤーによって連結する。
【0003】
ワイヤーロックが施工されたボルトの頭部からワイヤーが外れると、ボルトが緩むことを防止できなくなる。このため、ワイヤーがボルトの頭部から外れないようにしなければならない。しかしながら、ワイヤーがボルトの頭部から外れないようにワイヤーを頭部の側面に巻き付ける作業は手間と熟練を要する。なお、ボルトの頭部に2本の貫通孔を設け、ワイヤーを折り返すようにしてこれら2本の孔に挿通させる構成が用いられることがある。このような構成によれば、ワイヤーを1本の貫通孔に挿通させるとともに頭部の側面に巻き付ける構成に比較して、ワイヤーがボルトから外れにくくできる。しかしながら、このような構成では、1本のワイヤーを2本の貫通孔に挿通させる必要があるため、施工の際に手間を要する。なお、特許文献1には、ワイヤーロックに使用できるボルトとして、頭部の側面の全周にわたって形成される凹溝と、頭部を半径方向に貫通するワイヤー孔とが設けられているボルトが開示されている。このようなボルトによれば、ワイヤーを凹溝に嵌め込むことにより、ワイヤーがボルトの頭部から外れることを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平7-19616号公報
【発明の概要】
【0005】
(発明が解決しようとする課題)
しかしながら、特許文献1に開示されるボルトの頭部の側面にワイヤーを巻き付ける際に、ワイヤーを凹溝に嵌め込まなければならない。このため、作業に手間を要する。また、特許文献1に開示されるような凹溝を成形するためには、ボルトの頭部に対して例えば旋盤などを使用した機械加工が必要になる。このため、凹溝を有さないボルトに比較して製造工数が増加するから、ボルトの製造コストが上昇し、その結果製品価格が上昇する。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、ワイヤーロックを施す場合にワイヤーが頭部から外れることが防止または抑制されるボルトを提供することである。さらに本発明の他の目的は、ワイヤーロックに使用されるボルトの製造コストの削減を図ることである。
【0007】
(課題を解決するための手段)
前記課題を解決するため、本発明に係るボルトは、
軸線方向の一端側にネジ部が設けられ前記軸線方向の他端側に柱状の頭部が設けられているボルトであって、前記頭部には、前記軸線方向に略直角な方向に貫通し側面に2か所の開口部が現れている貫通孔と、前記側面の一部であって前記2か所の開口部どうしの間に位置しており前記軸線方向に直角な方向に延伸する溝部と、が設けられている頭部を有する。
【0008】
本発明に係るボルトにワイヤーロックを施工する場合、ボルトの頭部の側面に沿わせたワイヤーを溝部に嵌め込む(引っ掛ける)ことにより、ワイヤーがボルトの頭部から外れることを防止できる。そして、本発明によれば、互いに交差する複数の貫通孔が頭部に設けられているボルトを使用する場合と比較して、貫通孔にワイヤーを挿通する手間を削減できるから、ワイヤーロックの施工が容易になる。また、頭部の側面の全周にわたって凹溝が設けられるボルトを使用する場合には、ワイヤーのうちのボルトの頭部の側面に沿わせる部分の全体を凹溝に嵌め込まなければならないが、本発明によれば、頭部の側面の一部に部分的に設けられた溝部にワイヤーを嵌め込む(引っ掛ける)だけでよい。このため、ワイヤーロックの施工が容易になる。さらに、頭部に対してプレス加工を施すことにより溝部を成形できるから、プレス加工により頭部を成形する設備を用いて溝部を成形できる。したがって、製造のための設備コストの上昇を抑制できる。
【0009】
複数の前記溝部は、前記軸線方向視において前記貫通孔を挟んで互いに反対側に設けられている、
という構成が適用できる。
【0010】
2本のボルトにワイヤーロックを施工する場合、ボルトを対象物に締結した後、ワイヤーをボルトの頭部の側面のうちの他方のボルトから遠い側の部分に沿わせる。また、1本のボルトに対して他の構造物を使用してワイヤーロックを施工する場合、ボルトを対象物に締結した後、ワイヤーをボルトの頭部の側面のうちの他の構造物から遠い側の部分に沿わせる。このため、前記ネジ部の軸線方向視において、前記貫通孔の中心線を挟んで互いに反対側に位置する複数の前記溝部が設けられる構成であると、ボルトの頭部の側面のうちの他方のボルトから遠い側の部分、または他の構造物から遠い側の部分に少なくとも1つの溝部が存在するようにできる。したがって、対象物に締結された状態におけるボルトの頭部の向き(位相)にかかわらず、溝部によってワイヤーがボルトの頭部から外れることを防止できる。
【0011】
複数の前記溝部の底面が、前記貫通孔の中心線に略平行である、
という構成が適用できる。
【0012】
このような構成であれば、ボルトを製造する際に、頭部を貫通孔の中心線の両側からプレス型で挟むことにより1工程でこれらの溝部を成形できる。このため、製造が容易であるとともに製造工数の増加を抑制できるから、製造コストの上昇を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、第一実施形態に係るボルトの構成を示す斜視図である。
図2図2は、第一実施形態に係るボルトの頭部の構成を示す断面図である。
図3図3は、第一実施形態に係るボルトの使用例を示す図である。
図4図4は、第一実施形態に係るボルトの使用例の他の例を示す図である。
図5図5は、第二実施形態に係るボルトの構成を示す斜視図である。
図6図6は、第二実施形態に係るボルトの頭部の構成を示す断面図である。
図7図7は、第二実施形態に係るボルトの構成を示す斜視図である。
図8図8は、第二実施形態の変形例に係るボルトの構成を示す斜視図である。
図9図9は、変形例に係るボルトの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の各実施形態について説明する。本発明の各実施形態体に係るボルトは、軸線方向の一端側に設けられているネジ部と、軸線方向の前記一端側とは反対側である他端側に設けられている頭部とを有する。説明の便宜上、ボルトの軸線方向のうちのネジ部が設けられている側を「先端側」と記し、頭部が設けられている側を「基端側」と称する。各図においては、先端側を矢印Pで示し、基端側を矢印Tで示し、ボルトの軸線(中心線)を一点鎖線Cで示す。以下、一点鎖線Cで示す方向を、ボルトの軸線方向と言う場合もある。
【0015】
<第一実施形態>
(ボルトの構成)
図1は、第一実施形態に係るボルト10aの構成を示す斜視図である。図2は、第一実施形態に係るボルト10aの頭部の構成を示す断面図である。図1および図2に示すように、第一実施形態に係るボルト10aは六角孔付きボルト(「キャップボルト」と称されることもある)である。ボルト10aは、ネジ部11と頭部12aとを有している。ネジ部11はネジ山(雄ネジ)が設けられている棒状の部分であり、ボルト10aの軸線方向の一端側に設けられる。なお、ネジ部11の構成は特に限定されるものではない。
【0016】
頭部12aは、ボルト10aの軸線方向の他端側に設けられ、断面略円形の円柱状の構成を有している。頭部12aは、側面121及び基端側の端面13を有し、端面13には六角レンチを差し込むための工具孔14が設けられている。さらに、頭部12aは、ワイヤーロック用のワイヤーW(金属線)を挿通可能なワイヤー孔15およびワイヤーロックのワイヤーWが外れることを防止するための複数の溝部16aを有している。ワイヤー孔15が本発明の貫通孔に相当する。
【0017】
ワイヤー孔15は、頭部12aをその半径方向に略平行な方向、すなわち軸線方向に略直角な方向に貫通する貫通孔である。なお、図2に示すように、頭部12aには工具孔14が設けられている。このため、頭部12aには、側面121(外周面)と工具孔14の内周面とを連通する2本のワイヤー孔15が、互いに同軸かつ直列に並ぶように設けられる。そして、2本のワイヤー孔15の互いに遠い側の開口部151(ワイヤー孔15の端部)は、頭部12aの側面121に位置している。なお、ワイヤー孔15の中心線Aは軸線C方向視において頭部12aの中心を通過している。そして、ワイヤー孔15の側面121の2か所の開口部151は、軸線C方向視において頭部12aの中心に関して点対称の位置に位置している。
【0018】
また、頭部12aの側面121には局所的な平面部122が設けられていてもよく、その場合、ワイヤー孔15の開口部151はこの平面部122に位置している。平面部122は、ワイヤー孔15の中心線Aに対して直角な平面である。なお、平面部122の寸法および形状については、ワイヤー孔15の開口部151を形成し得る程度の大きさであれば特に限定されない(なお、平面が無い状態でも許容される)。
【0019】
また、ワイヤー孔15の内径は、ワイヤーロックに使用されるワイヤーWを挿通可能な径であればよく、具体的な径は特に限定されるものではない。例えば、ワイヤーロックにφ1.2mmのワイヤーWが用いられる場合には、ワイヤー孔15の内径はφ1.4mmでよい。また、2本のワイヤーWを通す場合には、2本のワイヤーWを挿通可能な内径とする。
【0020】
溝部16aは、ワイヤーWを嵌め込む(引っ掛ける)ことができるように構成されている。複数の溝部16aは、頭部12aの側面121に設けられている。具体的には、複数の溝部16aは、側面121のうちワイヤー孔15の2か所の開口部151どうしの間(軸線C方向視において略半円状の部分)に設けられている。すなわち、溝部16aと開口部151とは側面121の周方向に関して互いに異なる位置に設けられている。また、複数の溝部16aの軸線C方向位置と開口部151の軸線C方向位置とは略同じである。そして、複数の溝部16aは側面121の円周方向(軸線Cに略直角な方向)に延伸する。
【0021】
なお、複数の溝部16aは、頭部12aの側面121の全周にわたって設けられるのではなく、側面121の複数の箇所に部分的に、すなわち側面121の一部に設けられる。本実施形態では、複数の溝部16aとして、2か所の溝部16aが設けられる構成を示す。そして、2か所の溝部16aは、図2に示すように、軸線C方向視においてワイヤー孔15の中心線Aを挟んで互いに反対側に設けられる。さらに、2か所の溝部16aは、側面121の周方向において2か所の開口部151から等距離の位置(2か所の開口部151の中心)に設けられる。換言すれば、2か所の溝部16aは、軸線C方向視において、側面121のうち中心線Aから最も離れた領域であって中心線Aに対して線対称の領域に設けられる。そして、本実施形態では、両溝部16aの底面の延在方向が中心線Aと平行となるように、両溝部16aが形成されている。なお、溝部16aの数は限定されるものではなく、3か所以上の溝部16aが設けられてもよい。なお、3か所以上の溝部16aが設けられる構成であっても、これら3か所以上の溝部16aには、ワイヤー孔15の中心線Aを挟んで互いに反対側に設けられる2か所の溝部16aが含まれる。
【0022】
なお、溝部16aの幅および深さは、ワイヤーロックに使用されるワイヤーWの径に応じて適宜設定される。要は、ワイヤーWを嵌め込むことができる深さおよび幅(換言すると、ワイヤーWを引っ掛けることができる幅および深さ)であればよい。例えば、溝部16aの最大深さには、ワイヤーロックに使用するワイヤーWの外径の半分以上の深さが適用できる。なお、図2においては、複数の溝部16aの底面がワイヤー孔15の中心線Aに平行である構成を示すが、複数の溝部16aの底面はワイヤー孔15の中心線Aに平行でなくてもよい。また、溝部16aの断面形状は特に限定されないが、略V字形状、略U字形状、略四角形状、略半円形状などが適用できる。
【0023】
(使用方法)
次に、第一実施形態に係るボルト10aを使用したワイヤーロックの施工方法について、図3を参照して説明する。図3は、第一実施形態に係るボルト10aの使用例を示す図である。ここでは、図3に示すように、近接する2本のボルト10aどうしをワイヤーWによって連結する例を示す。なお、説明の便宜上、2本のボルト10aを区別するため、図3中の上側に位置するボルト10aを第一のボルト10aと記し、下側に位置するボルト10aを第二のボルト10aと示す。
【0024】
まず、対象物に2本のボルト10aを締結する。次いで、ワイヤーロックの対象である2本のうちの一方のボルト10aである第一のボルト10aの頭部12aに設けられているワイヤー孔15にワイヤーWを挿通する。そして、ワイヤーWにおける「第一のボルト10aが緩む(抜ける)方向(反時計回転方向)に回転したと仮定した場合に第二のボルト10aに接近する方向に移動するワイヤー孔15の開口部151から突出している部分」を、他方の開口部151に向かって締り方向(時計回り方向)に曲げ返す。なお、前述のように、ワイヤー孔15の2か所の開口部151は、軸線C方向視で頭部12aの中心に関して点対称の位置に位置する。このため、第一のボルト10aが軸線Cを中心として回転すると、一方の開口部151は第二のボルト10aに接近する方向に移動し、他方の開口部151は第二のボルト10aから離れる方向に移動する。図3においては、第一のボルト10aが緩む方向に回転(反時計回転)した場合、2か所の開口部151のうちの左側に位置する開口部151は下側(すなわち、第二のボルト10aに近づく側)に移動する。したがって、図3に示す例では、ワイヤーWにおける「左側に位置する開口部151から突出している部分」を、右側の開口部151の側に向かって締り方向(時計回り方向)に曲げ返す。
【0025】
そして、ワイヤーWにおける曲げ返した部分を、第一のボルト10aの頭部12aの側面121のうちの「2つの開口部151どうしの間の部分(軸線C方向視において半円状の部分)であって、第二のボルト10aから遠い側(図3においては上側)の部分」に沿わせる。この際、ワイヤーWを溝部16aに嵌め込む(引っ掛ける)。そして、ワイヤーWにおける「側面121に沿わせた部分よりも端部寄りの部分」と「他方の開口部151(第一のボルト10aが緩む方向(反時計回転方向)に回転したと仮定した場合に第二のボルト10aから離れる方向に移動するワイヤー孔15の開口部151)から突出している部分」とを互いに捩じり合わせる。
【0026】
これらの部分が捩じり合わせられると、ワイヤーWにおける「ワイヤー孔15に挿通されている部分」と「頭部12aの側面121に沿っている部分」とによって、閉じた略半円形状の部分が形成される。具体的には、ワイヤーWにおける「ワイヤー孔15に挿通されている部分」が閉じた略半円形状の「弦」の部分を成形し、「頭部12aの側面121に沿っている部分」が「(中心角が略180度の)略円弧」の部分を成形する。そして、捩じる回数を増やしていくと、この閉じた略半円形状の部分の大きさが小さくなっていく。このため、ワイヤーWにおける「頭部12aの側面121に沿っている部分」と当該頭部12aの側面121との間に隙間が存在している場合、この隙間が小さくなるか、またはこの隙間がなくなる。その結果、ワイヤーWにおける溝部16aに嵌まり込んでいる部分が、当該溝部16aから外れることが防止または抑制される。したがって、ワイヤーWにおける頭部12aの側面に沿っている部分がボルト10aの頭部12aから外れることが防止または抑制される。
【0027】
さらに、第一実施形態に係るボルト10aによれば、従来のボルトに比較してワイヤーロックの施工作業の内容が簡単である。すなわち、従来のようなボルトの頭部に互いに交差する複数のワイヤー孔が設けられる構成では、ワイヤーWをこれら交差する複数のワイヤー孔のそれぞれに挿通しなければならない。これに対して、本実施形態では、ワイヤーWを2本の同軸なワイヤー孔15に挿通すればよいから、作業工数が少なくなる。
【0028】
また、頭部の側面の全周にわたって凹溝が設けられ、この凹溝にワイヤーWを嵌め込む構成では、ワイヤーWを曲げ返してボルトの頭部に沿わせる作業において、ワイヤーWのうちの頭部に沿わせる部分の全部を凹溝に嵌め込まなければならない。これに対して、本実施形態によれば、ワイヤーWにおける頭部12aに沿わせる部分の一部を溝部16aに嵌め込む(引っ掛ける)だけでよいから、従来構成に比較して作業に要する手間の削減を図ることができる。
【0029】
次いで、ワイヤーWにおける「捩じり合わされた部分よりも端部寄りの部分(閉じた略半円形状が成形された側とは反対側の端部寄りの部分)」を、第二のボルト10aの頭部12aのワイヤー孔15の2か所の開口部151のうち、第二のボルト10aが緩む方向(反時計回転方向)に回転したと仮定した場合に第一のボルト10aから離れる方向に移動する開口部151から挿入し、その反対側の開口部151から突出させる。なお、ワイヤーWにおける「捩じり合わされた部分および当該部分よりも端部寄りの部分」は、見かけ上、2本のワイヤーWが存在する。ここでは、見かけ上の2本のうちの1本のワイヤーW(すなわち、ワイヤーWの一方の端部)を、第二のボルト10aの頭部12aのワイヤー孔15に挿通する。さらに、見かけ上の2本のうちのもう1本のワイヤーWを、第二のボルト10aの頭部12aの側面121のうち、2つの開口部151どうしの間の部分(軸線C方向視において半円状の部分)であって第一のボルト10aから遠い側に位置する部分に沿わせる。この際、ワイヤーWを溝部16aに嵌め込む(引っ掛ける)。
【0030】
そして、ワイヤーWにおける「第二のボルト10aの頭部12aのワイヤー孔15の開口部151から突出させた部分」と「頭部12aの側面121を沿わせた部分よりも先端側の部分」とを互いに捩じり合わせる。これにより、2本のボルト10aの頭部12aどうしが、ワイヤーWによって連結される。そして、これらの部分が捩じり合わせられると、前記同様に、ワイヤーWにおける「ワイヤー孔15に挿通されている部分」と「頭部12aの側面121に沿っている部分」とにより、閉じた略半円形状の部分が形成される。そして、捩じる回数を増やしていくと、この閉じた略半円形状の部分の大きさが小さくなっていく。このため、この第二のボルト10aに対しても、前記同様の効果を奏することができる。
【0031】
以上で、ワイヤーロックの施工が完了する。このようなワイヤーロックによれば、2本のボルト10aの頭部12aどうしを連結しているワイヤーWの張力が、2本のボルト10aに対して互いに締まる方向(時計回転方向)に作用する。よって、2本のボルト10aが緩む方向に回転することが、ワイヤーWにより防止される。したがって、ボルト10aの緩みが防止または抑制される。このように、2つのボルト10aの緩みを防止するという、従来のワイヤーロックと同様の効果を奏する。
【0032】
なお、ここでは、2本のボルト10aに対してワイヤーロックを施工する方法を示したが、1本のボルト10aと他の構造物とをワイヤーWによって連結する態様のワイヤーロックにも適用できる。この場合、ワイヤーWにおける「ボルト10aが緩む方向に回転したと仮定した場合に他の構造物に接近する方向に移動するワイヤー孔15の開口部151から突出している部分」を、他方の開口部151に向かって曲げ返すとともに、頭部12aの側面121に沿わせる。この際、頭部12aの側面121のうちの他の構造物から遠い側の部分に沿わせる。そして、ワイヤーWにおける曲げ返された部分と他方の開口部151から突出している部分と、を互いに捩じり合わせる。そして、捩じり合わされた部分を他の構造物に巻き付けるなどして当該他の構造物に固定する。
【0033】
なお、ワイヤーロックの施工方法は前記方法に限定されない。図4は、第一実施形態に係るボルト10aの使用例の他の例を示す図である。図4に示す他の例では、まず、ワイヤーWの中間部分を一方のボルト10a(第一のボルト10a)の頭部12aの側面121に巻き付ける。この際、ワイヤーWを溝部16aに嵌め込む。そして、ワイヤーWの両端部を第一のボルト10aの頭部12aのワイヤー孔15の一方の開口部151から挿入し、他方の開口部151から突出させる。これにより、第一のボルト10aの頭部12aの側面121の全周にワイヤーWが巻き付けられた状態となる。また、ワイヤー孔15には、見かけ上2本のワイヤーWが挿通された状態になる。
【0034】
そして、ワイヤーWの他方の開口部151から突出させた部分どうしを捩じり合せる。さらに、ワイヤーWの捩じり合された部分よりも端部側の部分を、他方のボルト10a(第二のボルト10a)の頭部12aのワイヤー孔15の一方の開口部151から挿入し、他方の開口部151から突出させる。そして、他方の開口部151から突出させたワイヤーWの両端部のそれぞれを、第二のボルト10aの頭部12aの側面121に巻き付ける。この際、ワイヤーWを溝部16aに嵌め込む。そして、ワイヤーWの端部どうしを捩じり合せる。これにより、第二のボルト10aの頭部12aの側面121の全周にワイヤーWが巻き付けられた状態となる。また、ワイヤー孔15には、見かけ上2本のワイヤーWが挿通された状態になる。
【0035】
図4に示す他の例のように、ワイヤー孔15に見かけ上2本のワイヤーWが挿通されてもよい。また、ボルト10aの頭部12aの全周にわたってワイヤーWが巻き付けられてもよい。
【0036】
(製造方法)
次に、ボルト10aの製造方法について説明する。ボルト10aは、金属棒を開始材料とし、ヘッダー成形工程と孔あけ工程と転造工程とを経ることにより製造される。ヘッダー成形工程は頭部12aを成形する工程である。ヘッダー成形工程には、(1)金属棒の端部にポンチとダイスによって圧縮荷重をかけることにより、当該端部の半径方向寸法を大きくして頭部12aを成形する工程(工程1)、(2)金属棒の端部(成形途中の頭部12aの端面13)にポンチを押し付けることにより工具孔14を成形するとともに、頭部12aの半径方向寸法をさらに大きくする工程(工程2)、(3)金属棒の端部(成形途中の頭部12aの端面13)にポンチを押し付けることにより工具孔14を所定の寸法および形状に整形するとともに、頭部12aの外形を所定の寸法および形状に整形する工程(工程3)、(4)頭部12aに複数の溝部16aを成形する工程、が含まれる。孔あけ工程はワイヤー孔15を成形する工程である。転造工程は、転造によってネジ部11にネジ山を成形する工程である。
【0037】
工程1~工程3には、従来公知のプレス加工などの方法が適用できる。なお、工程3において、頭部12aに平面部122を成形する。工程4においては、軸線C方向に直角な方向の両側からプレス型を頭部12aに押し付ける(一対のプレス型によって頭部12aを挟む)ことによって、2か所の溝部16aを成形するという方法(プレス加工)が適用できる。そして、孔あけ工程において、ボール盤などを用いて頭部12aにワイヤー孔15を成形する。この際、頭部12aの側面121の平面部122に孔を開けることにより、ドリルの刃先の位置ずれを防止または抑制できる。すなわち、平面部122にドリルを当てることができるから、曲面(円周面)にドリルを当てる構成に比較して、ドリルの刃先の位置ずれを生じにくくできる。そして、転造工程においてネジ部11にネジ山を成形する。なお、孔あけ工程と転造工程の順序は限定されるものではない。なお、平面部122を成形する方法に代えて、ドリルの刃先の位置ずれを防止するための凹部を成形してもよい。
【0038】
このような製造方法によれば、ボルト10aの製造コストの上昇を抑制できる。すなわち、頭部12aに全周にわたって凹溝が設けられる構成では、凹溝を成形するために、例えば、旋盤により凹溝を切削する工程が必要になる。これに対して、第一実施形態に係るボルト10aの頭部12aの溝部16aは、プレス加工により成形可能である。特に、ワイヤー孔15の中心線Aを挟んで互いに反対側に2か所の溝部16aが成形される構成であると、ボルト10aの頭部12aをプレス型によって挟むことにより1工程で2か所の溝部16aを成形できる。したがって、旋盤などを用いた機械加工に比較して、加工時間を短くできる。また、ヘッダー成形工程と同様にプレス機を用いてプレス加工により溝部16aを成形できるため、既存のボルト製造設備を使用できる。したがって、設備コストの増加を抑制できる。また、頭部12aに互いに交差する方向の複数のワイヤー孔15が設けられるボルトに比較して、孔あけ工程の工数を削減できる(但し、孔の数を限定するものではない)。
【0039】
<第二実施形態>
次に、第二実施形態に係るボルト10bについて説明する。図5は、第二実施形態に係るボルト10bの構成を示す斜視図である。図6は、第二実施形態に係るボルト10bの頭部12bの構成を示す断面図である。図5および図6に示すように、第二実施形態に係るボルト10bは六角ボルトである。
【0040】
頭部12bには、ワイヤーロック用のワイヤーWを挿通可能なワイヤー孔15と、ワイヤーWが外れることを防止するための複数の溝部16bとが設けられている。
【0041】
ワイヤー孔15は、頭部12bをネジ部11の軸線Cに略直角な方向に貫通する貫通孔である。ワイヤー孔15は、頭部12bの側面121のうちの互いに平行な(互いに反対側を向く)2つの平面部123を連通するように設けられている。このため、ワイヤー孔15の開口部151は、互いに平行な2つの平面部123のそれぞれに位置している。なお、ワイヤー孔15は、軸線C方向視において頭部12bの中心を通過するように設けられる。そして、ワイヤー孔15の開口部151は、側面121の6つの平面部123のうちの2つの平面部123のそれぞれの中心(周方向の中心)に現れている。
【0042】
溝部16bは、頭部12bの側面に設けられており、側面121の周方向(軸線Cに略直角な方向)に延伸する。溝部16bの軸線C方向位置は、ワイヤー孔15の開口部151の軸線C方向位置と同じである。そして、溝部16bは、側面121に沿わせたワイヤーWが嵌まり込むように、頭部12bの各角部124に設けられている。換言すると、溝部16bは、周方向に互いに隣り合う2つの平面部123に跨るように設けられる。すなわち、溝部16bが平面部123にのみ設けられる構成では、側面121に沿わせたワイヤーWは溝部16bに嵌まり込まない。溝部16bが角部124に設けられると、ワイヤーWを側面121に沿わせることにより、ワイヤーWが溝部16bに嵌まり込む。
【0043】
なお、図5および図6に示すように、1つの溝部が頭部12bの側面121の全周にわたって設けられるのではなく(すなわち、環状の溝部が設けられるのではなく)、複数の溝部16bが頭部12bの側面121の複数の箇所のそれぞれに設けられる。本実施形態では、複数の溝部16bとして、6か所の溝部16bが設けられる構成を示す。そして、3か所ずつの溝部16bが、軸線C方向視においてワイヤー孔15の中心線Aを挟んで互いに反対側に設けられる。
【0044】
第二実施形態に係るボルト10bを使用したワイヤーロックの施工方法は、第一実施形態に係るボルト10aを使用したワイヤーロックの施工方法と同じである。したがって、施工方法の説明は省略する。
【0045】
第二実施形態に係るボルト10bの製造方法は、頭部12bに工具孔が設けられないため工具孔14を成形しなくてもよい点、および側面121が平面部123により構成されるため、別途平面部122を成形しなくてもよい点を除いては、第一実施形態に係るボルト10aの製造方法と同じ製造方法が適用できる。そして、側面121の角部124にプレス加工を施すことにより溝部16bを成形できるから、側面121の全周にわたって凹溝を成形する加工に比較して、加工が容易であり、加工に要する時間を短くできる。
【0046】
<第二実施形態の変形例>
次に、第二実施形態の変形例について説明する。前記第二実施形態に係るボルト10bが頭部12bの全ての角部124に設けられる溝部16bを有するのに対し、第二実施形態の変形例に係るボルト10cは、頭部12cの6か所のうちの2か所の角部124に設けられる溝部16cを有する。
【0047】
図7は、第二実施形態の変形例に係るボルト10cの構成を示す斜視図である。図8は、第二実施形態の変形例に係るボルト10cの頭部12cの構成を示す断面図である。図7図8に示すように、第二実施形態の変形例に係るボルト10cの頭部12cには、軸線C方向視においてワイヤー孔15の中心線Aを挟んで互いに反対側に1か所ずつの溝部16cが設けられている。より具体的には、頭部12cの側面121に含まれる6つの平面部123のうち、ワイヤー孔15の開口部151が設けられない平面部123どうしにより形成される角部124に溝部16cが設けられる。換言すると、ワイヤー孔15の開口部151が存在する2か所の平面部123から等距離に位置する2か所の角部124のそれぞれに溝部16cが設けられる。
【0048】
第二実施形態の変形例に係るボルト10cの使用方法は、前記第一実施形態に係るボルト10aの使用方法と同じである。したがって、説明は省略する。そして、第二実施形態の変形例に係るボルト10cは、軸線C方向視においてワイヤー孔15の中心線Aを挟んで互いに反対側に1か所ずつの溝部16cを有するため、ボルト10cの側面121のうちの互いに連結する相手方のボルト10cまたは他の構造物から遠い側に位置する部分にも溝部16cが存在する。このためこの溝部16cによって、ワイヤーWが頭部12cから外れることを防止または抑制できる。したがって、第二実施形態の変形例に係るボルト10cによれば、前記第一実施形態に係るボルト10aおよび第二実施形態に係るボルト10bと同様の効果を奏することができる。
【0049】
また、第二実施形態の変形例に係るボルト10cによれば、溝部16cの数が2個所であるから、第二実施形態に係るボルト10bに比較して、溝部16cの成形に要する工数を削減できる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の改変が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0051】
例えば、前記実施形態では、ボルトの頭部に1つのワイヤー孔15が設けられる構成と、互いに同軸かつ直列に並ぶ複数のワイヤー孔15が設けられる構成を示したが、このような構成に限定されない。図9に示すように、ボルト10dの頭部12dに、互いに異なる方向に延伸する複数のワイヤー孔15(ボルト10dの軸線C方向視において、中心線の方向が互いに異なる複数のワイヤー孔15が)が設けられる構成であってもよい。そして、ボルト10dの頭部12dの側面の開口部151どうしの間にワイヤー溝16dが設けられる。なお、図9においては、第一実施形態の変形例を示すが、第二実施形態についても同様の変形例が適用できる。
【0052】
また、前記実施形態では、ボルトとして六角穴付きボルトと六角ボルトを示したが、ボルトの種類はこれらに限定されない。本発明は、ワイヤーロックに使用可能なボルトであれば、種類を問わずに適用できる。
【符号の説明】
【0053】
10a,10b…ボルト、11…ボルトのネジ部、12a,12b,12c,12d…ボルトの頭部、121…頭部の側面、122…頭部の平面部、15…ワイヤー孔(貫通孔)、151…開口部、16a,16b,16c…溝部、W…ワイヤー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9