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特開2022-174803圃場水管理システム、端末装置及び圃場水管理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174803
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】圃場水管理システム、端末装置及び圃場水管理装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 25/00 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
A01G25/00 501A
A01G25/00 501D
A01G25/00 501E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080776
(22)【出願日】2021-05-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 販売の申出1 2020年5月14日 クボタアグリサービス株式会社宛、電子メール及び添付ファイルを介して排水堰の校正機能を備えた「圃場水管理システム」を公開 ウェブサイト公開1 2020年6月2日 ウェブサイト https://wataras.kubota.com/loginFormにおいて、排水堰の校正機能を備えた「圃場水管理システム」を公開 ウェブサイト公開2 2021年4月12日 ウェブサイト https://www.kubota-chemix.co.jp/において、排水堰の校正機能を備えた「圃場水管理システム」を公開 ウェブサイト公開3 2021年4月13日 ウェブサイト https://agriculture.kubota.co.jp/product/kanren/wataras/screen_function.html において、排水堰の校正機能を備えた「圃場水管理システム」を公開
(71)【出願人】
【識別番号】505142964
【氏名又は名称】株式会社クボタケミックス
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100117972
【弁理士】
【氏名又は名称】河崎 眞一
(72)【発明者】
【氏名】平尾 和弘
(72)【発明者】
【氏名】井内 友昭
(72)【発明者】
【氏名】四元 友治
(57)【要約】
【課題】水位計の設置高さと排水装置の設置高さを簡単かつ正確に調節することができる圃場水管理システムを提供する。
【解決手段】給水装置、排水装置及び水位計を含む給排水機器が設置された各圃場の水位が設定水位になるように給水装置及び排水装置を遠隔制御する遠隔制御部を備えた圃場水管理装置と、圃場水管理装置との間で圃場に対する給排水を含む制御情報を遣り取りする制御情報処理部を備えた端末装置と、を備え、制御情報処理部は、圃場に備えた前記水位計の原点と排水堰の原点とのズレ量を整合させる排水水位校正情報を圃場水管理装置に送信するように構成し、圃場水管理装置は、排水水位校正情報を更新して記憶部に記憶する校正処理部と、排水水位校正情報と設定水位に基づいて排水堰の昇降高さを設定する昇降高さ設定部を備えている圃場水管理システム。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各圃場に設置され、給水栓を備えた給水装置、排水堰を備えた排水装置及び水位計を含む給排水機器と、
各圃場の水位が設定水位になるように前記給水装置及び前記排水装置を遠隔制御する遠隔制御部を備えた圃場水管理装置と、
前記圃場水管理装置との間で前記圃場に対する給排水を含む制御情報を遣り取りする制御情報処理部を備えた端末装置と、
を備えている圃場水管理システムであって、
前記端末装置に備えた制御情報処理部は、前記圃場に備えた前記水位計の原点と前記排水堰の原点とのズレ量を整合させる排水水位校正情報を前記圃場水管理装置に送信するように構成され、
前記圃場水管理装置は、前記排水水位校正情報に基づいて現在の排水水位校正情報を更新して記憶部に記憶する校正処理部と、前記排水水位校正情報と前記設定水位に基づいて前記排水堰の昇降高さを設定する昇降高さ設定部を備えている、圃場水管理システム。
【請求項2】
前記昇降高さ設定部は、前記排水堰の昇降高さが前記排水堰の昇降許容値を超える場合に、前記昇降高さを前記昇降許容値以内に制限するように構成されている、請求項1記載の圃場水管理システム。
【請求項3】
請求項1または2記載の圃場水管理システムに用いられる端末装置であって、
前記圃場に備えた前記水位計の原点と前記排水堰の原点とのズレ量を整合する排水水位校正情報を前記圃場水管理装置に送信する制御情報処理部を備えている、端末装置。
【請求項4】
請求項1または2記載の圃場水管理システムに用いられる圃場水管理装置であって、
各圃場の水位が設定水位になるように前記給水装置及び前記排水装置を遠隔制御する遠隔制御部と、
前記排水水位校正情報に基づいて前記排水水位校正情報を更新して記憶部に記憶する校正処理部と、
前記排水水位校正情報と前記設定水位に基づいて前記排水堰の昇降高さを設定する昇降高さ設定部と、を備えている、圃場水管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場水管理システム、端末装置及び圃場水管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、圃場への給水または圃場からの排水を制御するための変位機構を作動させる圃場用電動アクチュエータを備えた給水栓や排水栓が開示されている。これらの給水栓や排水栓を用いることにより、圃場水管理装置を介して圃場への給水や圃場からの排水を遠隔制御することが可能になる。
【0003】
当該圃場用電動アクチュエータは、給水栓や排水栓を制御する制御装置であり、給水栓または排水栓を作動させる電動モータを備えたアクチュエータと、アクチュエータを制御するとともに圃場水管理装置と交信する電子回路を備えている。
【0004】
特許文献2には、給水栓と、前記給水栓を作動させるアクチュエータと、前記アクチュエータを制御する給水制御部と圃場水管理サーバと交信する通信部とを有する電子制御回路と、前記電子制御回路及び前記アクチュエータに給電する蓄電池とを備え、前記給水栓から灌漑用水を圃場に給水する給水制御装置と、前記給水制御装置に対する遠隔操作情報を設定入力する遠隔操作端末と、前記遠隔操作端末から前記遠隔操作情報を受信して対応する給水制御装置を遠隔制御する圃場水管理サーバと、を備えている圃場水管理システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-193914号公報
【特許文献2】特開2020-103285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2に開示された技術を利用することにより、給水栓を備えた給水装置、排水堰を備えた排水装置、及び水位計を含む給排水機器が設置された各圃場に対して、前記水位計の検出水位に基づいて前記給水装置及び排水装置を遠隔制御する圃場水管理装置と、前記圃場水管理装置に前記圃場に対して給水要求または排水要求を送信する端末装置と、を備えた圃場水管理システムを構築することができる。
【0007】
しかし、圃場の田面は常に水平に維持されているとは限らず、傾斜している場合には、水位計の設置高さと排水装置の設置高さの基準が異なる場合もある。そのような場合に、水位計による設定水位と排水装置に備えた排水堰の高さが整合していないと、圃場の水位を設定水位に維持することが困難となる。
【0008】
例えば、水位計の原点より排水堰の原点が高くなる場合や、その逆に水位計の原点より排水堰の原点が低くなる場合には、水位計の基準水位に基づいて圃場に給水し或いは圃場から排水しても、圃場の水位を設定水位に調節することができなくなる。
【0009】
そのため、各排水装置に備えた排水堰を昇降制御する電子回路に備えた記憶部に、水位計の設置高さと排水装置の設置高さを整合する校正情報を個々に記憶しておく必要があり、そのために煩雑な処理が必要となっていた。
【0010】
しかし、圃場に排水装置を設置する時期に圃場に給水されているわけではないので、レーザレベル計などの測定装置を用いない限り、水位計の設置高さと排水装置の設置高さを正確に整合させることは困難であった。また、圃場に給水された後に正確な校正情報を電子回路に備えた記憶部に書き込むためには、排水装置のカバーを取り外して電子回路に校正処理用のコンピュータを接続して専用のアプリケーションプログラムを実行させる必要があり、個々の圃場で同様の操作を行なうのは非常に煩雑になるという問題があった。
【0011】
本発明の目的は、上述した問題に鑑み、水位計の設置高さと排水装置の設置高さを簡単かつ正確に調節することができる圃場水管理システム、端末装置及び圃場水管理装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成するため、本発明による圃場水管理システムの第一の特徴構成は、各圃場に設置され、給水栓を備えた給水装置、排水堰を備えた排水装置及び水位計を含む給排水機器と、各圃場の水位が設定水位になるように前記給水装置及び前記排水装置を遠隔制御する遠隔制御部を備えた圃場水管理装置と、前記圃場水管理装置との間で前記圃場に対する給排水を含む制御情報を遣り取りする制御情報処理部を備えた端末装置と、を備えている圃場水管理システムであって、前記端末装置に備えた制御情報処理部は、前記圃場に備えた前記水位計の原点と前記排水堰の原点とのズレ量を整合させる排水水位校正情報を前記圃場水管理装置に送信するように構成され、前記圃場水管理装置は、前記排水水位校正情報に基づいて現在の排水水位校正情報を更新して記憶部に記憶する校正処理部と、前記排水水位校正情報と前記設定水位に基づいて前記排水堰の昇降高さを設定する昇降高さ設定部を備えている点にある。
【0013】
圃場水管理装置は、圃場に給水する場合に、制御対象となる圃場の排水堰の高さが設定水位に対応する所定の貯水高さになるように排水装置を遠隔制御するとともに、水位計により計測される水位が設定水位となるように給水装置を遠隔制御する。また圃場の水を排水する場合に、排水堰の高さが所定の排水高さになるように排水装置を遠隔制御する。
【0014】
しかし、水位計の原点と排水堰の原点とのズレ量が異なると、本来の貯水高さと異なる高さに排水堰の高さが調整され、設定水位となるように給水できない場合や、排水できない場合が生じる虞がる。
【0015】
そのような場合でも、例えば営農者が圃場の近傍で排水堰の高さを確認して、営農者が所有する端末装置に備えた制御情報処理部を介して圃場水管理装置に排水水位校正情報を送信すれば、圃場水管理装置に備えた校正処理部により現在の排水水位校正情報が新たな排水水位校正情報に更新して記憶部に記憶され、昇降高さ設定部により排水水位校正情報と設定水位に基づいて排水堰の昇降高さが適正に設定されるようになる。
【0016】
同第二の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記昇降高さ設定部は、前記排水堰の昇降高さが前記排水堰の昇降許容値を超える場合に、前記昇降高さを前記昇降許容値以内に制限するように構成されている点にある。
【0017】
昇降高さ設定部が排水水位校正情報と設定水位に基づいて設定した排水堰の昇降高さが、排水堰の昇降許容値を逸脱する場合には、排水装置はその値を超えて排水堰の排水高さを制御することができないという不都合が生じる。そのような場合に排水装置から圃場水管理装置に制御不能を示すステータス情報が送信されるとシステムが停止する虞があり、正常状態に復帰させるために煩雑な手順を踏む必要が生じる。そこで、排水堰の昇降高さが排水堰の昇降許容値を超える場合には、昇降高さを昇降許容値以内に制限することで、そのような不都合な事態の発生を未然に回避することができる。
【0018】
本発明による端末装置の特徴構成は、上述した第一または第二の特徴構成を備えた圃場水管理システムに用いられる端末装置であって、前記圃場に備えた前記水位計の原点と前記排水堰の原点とのズレ量を整合する排水水位校正情報を前記圃場水管理装置に送信する制御情報処理部を備えている点にある。
【0019】
本発明による圃場水管理装置の特徴構成は、上述した第一または第二の特徴構成を備えた圃場水管理システムに用いられる圃場水管理装置であって、各圃場の水位が設定水位になるように前記給水装置及び前記排水装置を遠隔制御する遠隔制御部と、前記排水水位校正情報に基づいて前記排水水位校正情報を更新して記憶部に記憶する校正処理部と、前記排水水位校正情報と前記設定水位に基づいて前記排水堰の昇降高さを設定する昇降高さ設定部と、を備えている点にある。
【発明の効果】
【0020】
以上説明した通り、本発明によれば、水位計の設置高さと排水装置の設置高さを簡単かつ正確に調節することができる圃場水管理システム、端末装置及び圃場水管理装置を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】圃場水管理システムの説明図
図2】給水制御装置及び排水制御装置の機能ブロックの説明図
図3】(a)は圃場に備えた水位計と排水堰の原点ズレ量が適正に校正された状態の説明図、(b)は(a)の状態で設定水位に対応する排水水位に排水堰が調節された状態の説明図
図4】(a)は圃場に備えた水位計と排水堰の原点ズレ量が過大に校正された状態の説明図、(b)は(a)の状態で設定水位に排水堰が調節された状態の説明図
図5】(a)は圃場に備えた水位計と排水堰の原点ズレ量が過少に校正された状態の説明図、(b)は(a)の状態で設定水位に排水堰が調節された状態の排水堰高さの説明図
図6】圃場の水位を一定にする湛水制御の手順の一例を示すフローチャート
図7】端末装置による排水水位校正処理の手順の一例を示すフローチャート
図8】圃場水管理装置による排水水位校正処理の手順の一例を示すフローチャート
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明による圃場水管理システム、端末装置及び圃場水管理装置を説明する。
[圃場水管理システムの構成]
図1に示すように、稲作が行なわれる各圃場1には、給水管10に流れる用水を、導水路11を介して圃場1に導く給水装置12、放水路21を介して圃場1の水を排水路20に排水する排水装置22、圃場1の水位を計測する水位計2などの給排水機器が設けられている。
【0023】
給水装置12及び排水装置22が圃場1の近傍に配された無線ルータ32を経由してインターネット30を含む無線通信ネットワークにより圃場水管理サーバ40と通信可能に接続されている。また、各圃場1の管理者が所有するスマートフォンなどの端末装置50が同じくインターネット30を含む無線通信ネットワークを介して圃場水管理サーバ40と通信可能に接続されている。
【0024】
各給水装置12、水位計2、排水装置22、端末装置50、圃場水管理サーバ40と、それらを通信可能に接続するインターネット30により圃場水管理システム100が構成されている。圃場水管理サーバ40は本発明の圃場水管理装置として機能する。端末装置50はスマートフォンやタブレットコンピュータなどの携帯型の端末装置や、デスクトップ型やラップトップ型の汎用コンピュータの何れかで構成される。また、本実施形態では水位計2による測定水位が給水装置12を介して圃場水管理サーバ40に送信されるように構成されているが、当該態様に制限されるものではなく、水位計2が排水装置22を介して圃場水管理サーバ40に送信され、或いは水位計2が直接に圃場水管理サーバ40と通信できるように構成されていてもよい。
【0025】
稲作を例に説明すると、稲作の各工程、例えば、代掻き、田植え、活着期、分げつ期(前期、後期)、幼穂形成期~出穂開花期、登熟期など、各時期に応じて圃場1の貯水水位を可変に調整する必要がある。例えば代掻き時期には複数の圃場が一斉に導水することになるため、湛水のために効率的に給水管理する必要がある。また、個々の圃場で栽培される品種に応じて圃場の貯水水位を調整する時期や水位を異ならせる必要もある。そのために圃場水管理システム100が活用される。
【0026】
図2に示すように、圃場水管理サーバ40には、各圃場1の情報などを記憶する記憶部48,各圃場1の水位が設定水位になるように給水装置12及び排水装置22を遠隔制御する遠隔制御部42などを備えており、遠隔制御部42には排水装置22に備えた排水堰22Aの昇降高さを設定する昇降高さ設定部44を備えている。
【0027】
また、各圃場1の管理者により操作される端末装置50には、圃場水管理サーバ40との間で圃場1に対する給排水を含む制御情報を遣り取りする制御情報処理部52を備えている。制御情報処理部52は、圃場水管理サーバ40からの制御情報を入力し、圃場水管理サーバ40に必要な情報を出力するブラウザとしての機能を備えている。
【0028】
制御情報には、各圃場1を固有に特定する圃場IDと、各圃場1に設置された給水装置12、排水装置22、水位計2の原点ズレ量、排水堰22Aの原点ズレ量などが含まれる。さらに、制御情報には、各給水装置にリンクされた給水能力などの仕様値や、各排水装置にリンクされた排水能力などの仕様値が含まれ、給水装置に備えた給水栓の開度や、排水装置に備えた排水堰の高さの調整や位置調整に利用される。これらの制御情報は初期に端末装置50から圃場水管理サーバ40に送信され、圃場水管理サーバ40に備えた記憶部48に記憶される。
【0029】
さらに、制御情報には、各圃場IDにリンクして給水日時、設定水位を含む給水要求や、排水日時を含む排水要求などの給排水情報が含まれ、給排水情報は端末装置50に備えた制御情報処理部52により必要に応じて圃場水管理サーバ40に送信される。
【0030】
図3(a)に示すように、水位計2の原点ズレ量とは水位計2が示す水位と実測値との差をいい、水位計2が設置された地点の田面WL0を基準とする実際の水位WL1と、水位計2のセンサ原点(ゼロ値)との差WLcをいい、水位計2が示す水位と実際の水位を一致させるための校正値WLcをいう。正しく校正されていれば、校正後の水位計2の原点WLbは田面WL0と一致する。校正済みの水位計原点WLbと基準とする水位に基づいて圃場1の設定水位が管理される。
【0031】
排水堰22Aの原点ズレ量とは、排水装置22の設置位置における排水堰22Aの原点として設定された最下点Dminと水位計2が設置された地点の田面WL0との差Dcをいい、設定水位に対応して設定される排水堰22Aの昇降高さを適正な高さに調節するための校正値Dcという。圃場1に給水されていない初期には、水位が実測できないため校正値WLc,Dcには其々に仮値が設定されている。なお、排水堰22Aの原点は、最下点ではなく排水堰設置位置の田面などに設定してもよい。校正値WLc,Dcは正、負の何れの値も採り得る。
【0032】
以下では、水位計2の校正値WLcが適切な値に設定されているとの前提で説明する。
圃場1の設定水位がWL1としたとき、排水堰22Aの昇降高さHは、校正値Dcと設定水位WL1と落水マージンΔWLの加算値に設定される(H=Dc+WL1+ΔWL)。落水マージンΔWLは、水面が風で波打つ場合に備えて水位の振れを補償するために設定される余裕高さである。落水マージンΔWLは端末装置50を介して設定可能であり、通常は2cm程度に設定される。
【0033】
図3(b)に示すように、設定水位がWL1に設定され、校正値WLc,Dcが適正な値である場合には、遠隔制御部42に備えた昇降高さ設定部44により、排水装置22に昇降高さとしてDc+WL1+ΔWLが送信され、排水堰22Aが高さDc+WL1+ΔWLに設定される。
【0034】
図2に戻り、圃場水管理サーバ40に備えた遠隔制御部42は、端末装置50の制御情報処理部52から送信された給排水を含む制御情報に基づいて各圃場1を即時に制御し、或いは、各圃場1に対する給水スケジュールや排水スケジュールを生成して記憶部48に記憶し、給水スケジュールまたは排水スケジュールに応じて各圃場1に備えた給水装置12及び排水装置22を遠隔制御する。
【0035】
排水装置22は、排水堰22Aと、排水制御装置22Bを備えている。排水制御装置22Bは、排水堰22Aを昇降作動させるアクチュエータ220と、アクチュエータ220を制御する排水水位制御部222と、圃場水管理サーバ40と交信する通信部224を備えている。また、アクチュエータ220に備えたモータ、排水水位制御部222、通信部224などに給電する蓄電池226、蓄電池226を充電するソーラーセル228を備えている。
【0036】
給水装置12は、給水栓12Aと、給水制御装置12Bで構成されている。給水制御装置12Bは、給水栓12Aを作動させるアクチュエータ120と、アクチュエータ120を制御する給水制御部122と、圃場水管理サーバ40と交信する通信部124と、を備えている。また、アクチュエータ120に備えたモータ、給水制御部122、通信部124などに給電する蓄電池126、蓄電池126を充電するソーラーセル128を備えている。なお、ソーラーセル128,228は必須ではない。
【0037】
図6に示すように、圃場水管理サーバ40は、記憶部に記憶された給水スケジュールに定められた給水日時になり、或いは端末装置50からの入力を介して圃場水管理サーバ40から即時に給水要求、ここでは一定湛水の要求があると(SA1)、該当する圃場1の水位計2により測定され校正された現在の水位を把握し(SA2)、圃場1の排水装置22に対して設定水位WL1に対応した排水堰22Aの昇降高さH(H=Dc+WL1+ΔWL)に調節するように高さ調節指令を出力する(SA3)。
【0038】
圃場水管理サーバ40は、水位計2の測定値が設定水位に達しているか否かを判断して、設定水位に達していれば(SA4,Y)、給水装置12に止水指令を出力し(SA5)、設定水位に達していなければ(SA4,N)、給水装置12に給水指令を出力する(SA8)。
【0039】
圃場水管理サーバ40は、給水要求が継続する間は(SA6,Y)、ステップSA4からSA6の処理を繰り返して圃場1の水位を設定水位に維持する。給水要求が解除されると(SA6,N)、給水装置12に止水指令を出力する(SA7)。
【0040】
ステップSA1で給水要求が無く(SA1,N)、排水要求がある場合には(SA9,Y)、排水堰22Aの高さが排水水位になるように排水装置22に指令する(SA10)。
【0041】
なお、上述の説明では、圃場水管理サーバ40が圃場1の水位を把握して給水装置12に給水栓12Aに対する開閉制御を行ない、排水装置22に対して排水堰22Aの昇降制御を行なう例を説明したが、給水装置12および排水装置22が圃場水管理サーバ40の指令を受けて自律的に制御してもよい。
【0042】
つまり、圃場水管理サーバ40から給水装置12及び排水装置22に制御命令が送信されると、給水装置12及び排水装置22は当該制御命令に基づいて所定の制御を行なうのである。制御命令には「一定湛水」、「かけ流し」、「間断灌漑」、「停止」、「排水」などの各制御モードと、「設定水位」、「制御幅」、「落水マージン」、「排水水位」などのパラメータ値が含まれる。
【0043】
給水装置12は、圃場水管理サーバ40から例えば「一定湛水」の制御命令を受信すると、水位計2による計測水位が「設定水位」となり、その際の水位が「制御幅」に収まるように、給水栓12Aを所定開度に開放し、或いは閉止するように自律制御する。
【0044】
排水装置22は、圃場水管理サーバ40から送信された制御命令に基づいて排水堰22Aの高さを制御する。例えば、「一定湛水」の制御命令を受信すると、「設定水位」と「落水マージン」を加算した値に排水堰22Aの高さを調節し、「排水」の制御命令を受信すると、排水堰22Aの高さを「排水水位」となるように調節する。「落水マージン」とは、圃場に吹き付ける風などの影響で上下する水面の変動を考慮した値で、通常は数cmに設定される。
【0045】
図4(a)に示すように、初期設定された排水堰22Aの校正値が本来の排水堰22Aの最下点Dminより低い位置Dmin´となるような過大な値の校正値Dc´に設定されている場合、図4(b)に示すように、排水堰22Aの昇降高さH(H=Dc´+WL1+ΔWL)となり、本来の設定水位WL1より深いWL1´となり、ΔH(ΔH=Dmin´-Dmin=WL1´-WL1)だけ設定水位が実質的に上昇する。
【0046】
図5(a)に示すように、初期設定された排水堰22Aの校正値が本来の排水堰22Aの最下点Dminより高い位置Dmin´´となるような過少な値の校正値Dc´´に設定されている場合、図5(b)に示すように、排水堰22Aの昇降高さH(H=WL1+Dc´´+ΔWL)となり、本来の設定水位WL1より浅いWL1´´となり、ΔH(ΔH=Dmin-Dmin´´=WL1-WL1´´)だけ設定水位が実質的に低下する。
【0047】
そこで、端末装置50に備えた制御情報処理部52を介して、圃場管理者が圃場1に備えた水位計2の原点と排水堰22Aの原点とのズレ量を整合させる排水水位校正情報を圃場水管理サーバ40に送信するように構成されている。そして、記圃場水管理装置40に備えた校正処理部46は排水水位校正情報を記憶部48に記憶し、昇降高さ設定部44は排水水位校正情報と設定水位に基づいて排水堰22Aの昇降高さを設定するように構成されている。「排水水位校正情報と設定水位に基づいて設定される排水堰の昇降高さ」とは、落水マージンΔWLを加味した高さH(H=Dc+WL1+ΔWL)をいう。ただし、落水マージンΔWLを加味しない高さH(H=Dc+WL1)であってもよいことはいうまでもない。このように排水水位校正情報により適切な校正値Dcに設定されることにより、圃場1の水位が設定水位に調整されることになる。
【0048】
ところで、昇降高さ設定部44が排水水位校正情報と設定水位に基づいて設定した排水堰22Aの昇降高さが、排水堰22Aの昇降許容値を逸脱する場合には、排水制御装置22Bはその値を超えて排水堰22Aの排水高さを制御することができないという不都合が生じる。そのような場合に排水装置22から圃場水管理サーバ40に制御不能を示すステータス情報が送信されるとシステムが停止する虞があり、正常状態に復帰させるために煩雑な手順を踏む必要が生じる。
【0049】
そこで、昇降高さ設定部44は、排水堰22の昇降高さが排水堰22Aの昇降許容値を超える場合には、昇降高さを昇降許容値以内に制限することで、そのような不都合な事態の発生を未然に回避することができる。圃場1に水を貯水する際に昇降許容値の上限を超える場合には上限値に丸め込まれ、圃場1の貯水を排水する際に昇降許容値の下限を下回る場合には下限値に丸め込まれる。
【0050】
図7には、端末装置50に備えた構成処理部54により実行される処理が示されている。圃場管理者は、圃場水管理サーバ40から送信され端末装置50に表示される水位及び排水堰22Aの高さを読み取る(SB1,SB2)。端末装置50に表示される水位は水位計の水位、排水堰22Aの高さは校正値を除く高さ(WL1+ΔWL)である。
【0051】
圃場管理者は、排水堰22Aから水が溢流している場合には、校正値が過少であると判断して(SB3,Y)、端末装置50の制御情報処理部52から仮の校正値として現在の水位より高い値を設定して圃場管理サーバ40に送信する(SB8)。圃場管理サーバ40が仮の校正値に基づいて排水堰22Aの昇降高さを更新することにより、排水堰22Aからの溢流が回避される。
【0052】
この状態で、或いはステップSB3で校正値が過少であると判断しない状態で(SB3,N)、圃場管理者は、圃場水管理サーバ40から送信され端末装置50に表示される水位を基準に水面から排水堰22Aの上端までの高さを実測する(SB4)。実測値が落水マージンΔWLを含めて適切であるか否かを判断して、過不足がある場合には(SB5,N)、真の排水水位に設定するための校正値を算出して(SB6)、制御情報処理部52から当該校正値を圃場水管理サーバ40に送信する(SB7)。
【0053】
図8には、圃場水管理サーバ40に備えた校正処理部46及び昇降高さ設定部44で実行される処理が示されている。
端末装置50から排水水位校正値を受信すると(SC1)、排水水位校正値を新たな校正値として記憶部48に格納して(SC2)、現在設定されている設定水位に基づいて排水装置22に送信するべき昇降高さH(H=Dc+WL1+ΔWL)を算出する(SC3)。
【0054】
算出した昇降高さHが排水堰22Aの昇降許容値を超える場合には(SC4,N)、昇降高さが昇降許容値に収まるように補正して(SC5)、補正後の設定水位を排水装置22に送信する(SC6)。算出した昇降高さHが排水堰22Aの昇降許容値に収まる場合には(SC4,Y)、その昇降高さを排水装置22に送信する(SC6)。
【0055】
上述した例では、昇降高さ設定部44は、排水水位校正情報と設定水位に基づいて排水堰の昇降高さを設定してその昇降高さを排水装置22に送信する態様を説明したが、昇降高さ設定部44は、排水水位校正情報と設定水位に基づいて設定水位を補正して、その設定水位を排水装置22に送信するように構成してもよい。具体的にステップSC3では、設定水位をDc+WL1に設定し、ステップSC5では、昇降高さが昇降許容値に収まるように設定水位を補正し、SC6では、その昇降高さとなる目標水位を排水装置22に送信することになる。換言すると、本発明の「排水水位校正情報と設定水位に基づいて排水堰の昇降高さを設定する昇降高さ設定部」は、設定するべき排水堰の昇降高さを、設定水位で代替して設定する態様も含まれる。
【0056】
以上の説明では、水位計2の校正値WLcが適切な値に設定されているとの前提であったが、水位計2の校正値WLcが適切でない場合には、圃場管理者が所有する端末装置50を介して水位計2の校正値WLcが再度校正される。
【0057】
例えば、圃場管理者が水位計2の設置位置の水位を実測し、圃場水管理サーバ40から送信され端末装置50に表示される水位との差に基づいて新たな校正値WLcを求め、制御情報処理部52を介して新たな校正値を、圃場水管理サーバ40に送信すると、圃場水管理サーバ40が水位計2の校正値を更新処理するように構成すればよい。
【0058】
このとき、圃場水管理サーバ40は、水位計2の新たな校正値と前の校正値との差分を算出し、以前に設定された排水堰22Aに対する校正値を当該差分で補正すればよい。また、水位計2の校正値を更新処理した圃場管理者が、図7,8の手順で再度排水堰22Aに対する校正処理を行なってもよい。
【0059】
以上説明した実施形態は本発明の一例に過ぎず、該記載により本発明の技術的範囲が限定されることを意図するものではなく、各部の具体的構成は本発明による作用効果を奏する範囲において適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0060】
1:圃場
2:水位計
10:給水管
12:給水装置
12A:給水栓
12B:給水制御装置
20:排水路
22:排水装置
22A:排水堰
22B:排水制御装置
40:圃場水管理サーバ(圃場水管理装置)
42:遠隔制御部
44:昇降高さ設定部
46:校正処理部
48:記憶部
50:携帯端末(端末装置)
52:制御情報処理部
100:圃場水管理システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8