(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174851
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】ボロメータ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 35/34 20060101AFI20221117BHJP
G01J 1/02 20060101ALI20221117BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20221117BHJP
H01L 35/22 20060101ALI20221117BHJP
H01L 35/00 20060101ALI20221117BHJP
C01B 32/159 20170101ALI20221117BHJP
C01B 32/172 20170101ALI20221117BHJP
C01B 32/17 20170101ALI20221117BHJP
H01L 31/08 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
H01L35/34
G01J1/02 C
H01L29/06 601N
H01L35/22
H01L35/00
C01B32/159
C01B32/172
C01B32/17
H01L31/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080853
(22)【出願日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】小坂 眞由美
【テーマコード(参考)】
2G065
4G146
5F849
【Fターム(参考)】
2G065AA04
2G065AB02
2G065BA12
2G065BA34
2G065BA40
4G146AA12
4G146AC03B
4G146AC16B
4G146AC19B
4G146AD28
4G146AD40
4G146CA02
4G146CA08
4G146CA09
4G146CA15
4G146CA20
4G146CB10
4G146CB16
4G146CB17
4G146CB29
4G146CB35
5F849AA17
5F849AB02
5F849BA28
5F849BB07
5F849DA16
5F849DA34
5F849EA04
5F849LA01
5F849XB15
5F849XB24
5F849XB32
5F849XB51
(57)【要約】
【課題】 簡便な方法で微小なボロメータ膜及びそれを用いたボロメータを製造する方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、基板上に、該基板と半導体型カーボンナノチューブとの結合性を高める機能を有する中間層を、所定のパターン形状に形成する工程と、形成した中間層上に、半導体型カーボンナノチューブ分散液の液滴を提供する工程を含む、ボロメータ製造方法に関する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、該基板と半導体型カーボンナノチューブとの結合性を高める機能を有する中間層を、所定のパターン形状に形成する工程と、形成した中間層上に、半導体型カーボンナノチューブ分散液の液滴を提供する工程を含む、ボロメータ製造方法。
【請求項2】
前記中間層を、ライン形状、四角形状、又は円形状に作製する工程を含む、請求項1に記載のボロメータ製造方法。
【請求項3】
前記基板上に作製した中間層に、前記半導体型カーボンナノチューブ分散液の液滴を提供する工程の後に、基板を静置し、その後液滴を洗い流し、基板を乾燥させる工程を含む、請求項1又は2に記載のボロメータ製造方法。
【請求項4】
前記基板上に作製した中間層に、前記半導体型カーボンナノチューブ分散液の液滴を提供する工程の後、前記液滴を中間層の形状の縁で乾燥させる工程を含む、請求項1又は2に記載のボロメータ製造方法。
【請求項5】
前記ライン形状の幅は10μm~1cmである、請求項2に記載のボロメータ製造方法。
【請求項6】
前記四角形状の大きさは、電極に対して略平行な辺の長さは10μm~1cm、略垂直な辺の長さは10μm~1mmである、請求項2に記載のボロメータ製造方法。
【請求項7】
前記円形状の大きさは、直径10μm~1cmである、請求項2に記載のボロメータ製造方法。
【請求項8】
前記中間層の形状の縁から10μm以内に堆積するカーボンナノチューブの厚みが30nm以上1μm以下である、請求項4に記載のボロメータ製造方法。
【請求項9】
前記中間層がシランカップリング剤層またはカチオンポリマー層である、請求項1~7のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
【請求項10】
前記半導体型カーボンナノチューブの分散液が、半導体型カーボンナノチューブを、カーボンナノチューブの総量の90質量%以上含む、請求項1~9のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを使用したボロメータ、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
赤外線センサは、HgCdTeを材料とする量子型赤外センサが広く使われてきたが、素子温度を液体窒素以下に冷却する必要があり、機器の小型化に制約があった。そこで近年、素子を低温まで冷却する必要のない非冷却型赤外センサが注目され、素子の温度変化に伴う電気抵抗の変化を検出するボロメータが広く用いられるようになった。
ボロメータの性能としては、特にTCR(Temperature Coefficient of Resistance:抵抗温度係数)と呼ばれる電気抵抗の温度変化率と、抵抗率が重要である。TCRの絶対値が大きくなると、赤外線センサの温度分解能が小さくなり感度が向上する。また、ノイズ低減のため、抵抗率は低減する必要がある。
従来、非冷却型ボロメータとしては酸化バナジウム薄膜が用いられているが、TCRが小さい(約-2.0%/K)ため、TCRの向上が広く検討されている。TCR向上には、半導体的特性を有し、かつ、キャリア密度が大きい材料が必要であるため、半導体性単層カーボンナノチューブをボロメータに適用することが期待されている。
特許文献1では通常の単層カーボンナノチューブをボロメータ部に適用し、単層カーボンナノチューブを有機溶媒に混ぜた分散液を電極上にキャストし、単層カーボンナノチューブを空気中でアニール処理する薄膜プロセスのボロメータ作製が提案されている。
特許文献2では、単層カーボンナノチューブには金属的と半導体的成分が混在しているため、イオン性の界面活性剤を用いて半導体型単層カーボンナノチューブを抽出し、ボロメータ部に適用する、ボロメータ作製が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2012/049801号
【特許文献2】特許第6455910号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された赤外線センサに用いるカーボンナノチューブ薄膜は、カーボンナノチューブに金属型カーボンナノチューブが混在するため、TCRが低く、赤外線センサの性能向上に限界があった。特許文献2に記載された半導体型カーボンナノチューブを用いた赤外線センサは、分離のためのイオン性界面活性剤が簡単に除去できないという課題があった。
【0005】
本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡便な方法で微小なボロメータ膜及びそれを用いたボロメータを製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するものとして、以下のことを特長としている。
【0007】
本発明の一態様は、
基板上に、該基板と半導体型カーボンナノチューブとの結合性を高める機能を有する中間層を、所定のパターン形状に形成する工程と、形成した中間層上に、半導体型カーボンナノチューブ分散液の液滴を提供する工程を含む、ボロメータ製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
この出願の発明によれば、簡便な方法で微小なボロメータ膜及びそれを用いたボロメータを製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】基板にライン形状のAPTES膜を形成する模式図(上)及び電極対とカーボンナノチューブ膜との位置関係の一例を表す模式図(下)
【
図3】APTES塗布ライン上にCNT膜を形成し、電極列に配置した例
【
図6】ライン形状の2縁を異なる電極列に配置した例
【
図7】基板に四角形状のAPTES膜を形成する模式図
【
図8】四角形状のAPTES膜上に形成されたカーボンナノチューブ配向膜及び該配向膜に電極を配置した模式図
【
図9】基板に円形状のAPTES膜を形成する模式図
【
図11】円形状のAPTES膜を異なる2列の電極列に配置した例
【
図12】円形状の対向する円弧及びその中間に異なる電極列を配置した例
【
図13】円形状から3列の電極列を配置したアレイの例
【
図14】円形状から3列の電極列を配置したアレイの例
【
図15】APTES塗布ラインとカーボンナノチューブ塗布ラインが直交した四角形状部に電極を配置した例
【発明を実施するための形態】
【0010】
この出願の発明は、上記の通りの特徴を持つものであるが、以下に実施の形態について説明する。但し、以下に述べる実施形態には本発明を実施するために技術的に好ましい限定がされているが、発明の範囲を以下に限定するものではない。
【0011】
本発明のボロメータの製造方法は、基板上に、基板とカーボンナノチューブとの結合性を高める機能を有する中間層を所定のパターン形状に形成(パターニング)し、形成した中間層上にカーボンナノチューブ分散液を提供することにより、該中間層上に所望の形状のカーボンナノチューブ膜を形成することを特徴とする。
具体的には、基板上に、その少なくとも一部が第1の電極と第2の電極に略垂直にまたがるように、基板とカーボンナノチューブとの結合性を高める機能を有する中間層を形成する。又は、中間層の形成部分の縁が第1の電極と第2の電極に略垂直にまたがるように、中間層を形成する。その後、中間層の形成部に半導体カーボンナノチューブ分散液を滴下し、その後、分散媒を除去し、且つ/又は乾燥させることによって、第1の電極と第2の電極とを接続するカーボンナノチューブ層を形成することを特徴とするボロメータ製造方法を提供するものである。
【0012】
このような製造方法によれば、簡便な方法で微小なボロメータ膜及びそれを用いたボロメータを製造することができる。
また、一実施形態では、カーボンナノチューブ層を小型化できることにより、ボロメータ素子の小型化を行うことができる。
さらに、本実施形態の製造方法は、低コストで量産性に優れているという利点も有している。
【0013】
本実施形態において、基板とカーボンナノチューブとの結合性を高める機能を有する中間層の形状は、例えば、ライン形状、四角形状、又は円形状とすることができる。
ライン形状としては、第1の電極及び第2の電極が略長方形状であり、かつそれらの長辺が略平行に配置されているボロメータにおいて、両電極の長辺に対して略垂直又は略平行な方向に延在する形状が例示される。
【0014】
四角形状とは、その少なくとも一辺が第1の電極と第2の電極の間を流れる電流と略平行な四角形状とすることができる。また、複数の四角形が該電流に略平行な方向(すなわち両電極の長辺に略垂直な方向)に配列した破線状としてもよい。
【0015】
円形状とは、円弧の一部が第1の電極と第2の電極とをまたぐ形状であればよく、円の形状としては、真円形、楕円形、長円形、類円形が挙げられる。
【0016】
これらの中間層の形状については、後述の各実施形態においてより詳細に説明する。
【0017】
本発明において、中間層は、基板とカーボンナノチューブとの結合性を高める材料からなる層であれば特に限定されない。
中間層の材料は、基板表面に結合又は付着する部分構造と、カーボンナノチューブに結合又は付着する部分構造との両方を有する化合物であることが好ましい。これにより、中間層は、基板とカーボンナノチューブを結合させる仲介役として機能する。ここで、基板と中間層との間の結合、及び中間層とカーボンナノチューブとの間の結合は、化学結合だけでなく、静電相互作用、表面吸着、疎水性相互作用、ファンデルワールス力、水素結合など、各種分子間相互作用を利用することができる。
【0018】
また、中間層の材料は、基板表面の親液性を増大させる化合物であることも好ましい。このような化合物で処理することにより、カーボンナノチューブ分散液の液滴を、該中間層の形成部上のみに提供及び保持することができる。これにより、中間層のパターニングによって、カーボンナノチューブ膜の形状及び大きさを容易に制御することができる。
また一実施形態では、中間層を所定形状にパターニングすることで、カーボンナノチューブを配向させたい箇所に容易に配向させることができる。
また一実施形態では、中間層を所定形状にパターニングすることで、カーボンナノチューブ膜の密度、膜厚、配向度などをより均一にすることができる。
【0019】
中間層の材料における基板表面に結合又は付着する部分構造としては、アルコキシシリル基(SiOR)、SiOH、疎水性部分又は疎水性基等が挙げられる。疎水性部分又は疎水性基としては、炭素数が1以上、好ましくは2以上、また好ましくは20以下、より好ましくは10以下のメチレン基(メチレン鎖)、アルキル基等が挙げられる。
中間層の材料におけるカーボンナノチューブに結合又は付着する部分構造としては、例えば、第一級アミノ基(-NH2)、第二級アミノ基(-NHR1)、第三級アミノ基(-NR1R2)等のアミノ基、アンモニウム基(-NH4)、イミノ基(=NH)、イミド基(-C(=O)-NH-C(=O)-)、アミド基(-C(=O)NH-)、エポキシ基、イソシアヌレート基、イソシアネート基、ウレイド基、スルフィド基、メルカプト基等が挙げられる。
【0020】
このような中間層の材料としては特に限定されるものではないが、例えば、シランカップリング剤が挙げられる。シランカップリング剤は、無機材料に結合又は相互作用する反応基と有機材料に結合又は相互作用する反応基の両方を分子内に有し、有機材料と無機材料とを結合する働きを有する。本実施形態においては、例えば、Si基板等の基板に結合する反応基と、カーボンナノチューブに結合する反応基とを併せ持つシランカップリング剤を用いて、基板上にカーボンナノチューブと結合する反応基を提示する単層の多分子膜を形成することにより、カーボンナノチューブを基板上に固定することができる。
【0021】
シランカップリング剤の例としては、
3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基とアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤(アミノシラン化合物);
3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルジエトキシシラン、トリエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)シラン等のエポキシ基とアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤;
トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート等のイソシアヌレート系シランカップリング剤;
3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン等のウレイド系シランカップリング剤;
3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプト系シランカップリング剤;
ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド系シランカップリング剤;及び
3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート系シランカップリング剤;
などが挙げられる。
【0022】
特には、カーボンナノチューブとの結合性が良いことから、アミノ基を有するシランカップリング剤(アミノシラン化合物)が好ましい。
【0023】
中間層の材料の他の例としては、プラスチック基板等の基板に結合又は付着することができる部分構造と、カーボンナノチューブに結合する反応基とを有するポリマー、例えばカチオンポリマーが挙げられる。
【0024】
このようなポリマーの例としては、ポリ(N-メチルビニルアミン)、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリアリルジメチルアミン、ポリジアリルメチルアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ポリジアリルジメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホネート、ポリジアリルジメチルアンモニウムナイトレート、ポリジアリルジメチルアンモニウムペルクロレート、ポリビニルピリジニウムクロリド、ポリ(2-ビニルピリジン)、ポリ(4-ビニルピリジン)、ポリビニルイミダゾール、ポリ(4-アミノメチルスチレン)、ポリ(4-アミノスチレン)、ポリビニル(アクリルアミド-co-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)、ポリビニル(アクリルアミド-co-ジメチルアミノエチルメタクリレート)、ポリエチレンイミン(PEI)、DAB-Am及びポリアミドアミンデンドリマー、ポリアミノアミド、ポリヘキサメチレンビグアニド、ポリジメチルアミン-エピクロロヒドリン、塩化メチルによるポリエチレンイミンのアルキル化の生成物、エピクロロヒドリンによるポリアミノアミドのアルキル化の生成物、カチオン性モノマーによるカチオン性ポリアクリルアミド、ジシアンジアミドのホルマリン縮合物、ジシアンジアミド、ポリアルキレンポリアミン重縮合物、天然ベースのカチオン性ポリマー(例として、部分的に脱アセチル化したキチン、キトサン及びキトサン塩など)、合成ポリペプチド(例として、ポリアスパラギン、ポリリジン、ポリグルタミン、及びポリアルギニンなど)が挙げられる。
【0025】
このようなポリマーの中でも、カーボンナノチューブを基板上に固定する観点で、アミノ基と疎水性基又は疎水性部分とを有するカチオンポリマーが好ましい。
【0026】
このようなポリマーを用いることにより、カーボンナノチューブに結合又は付着する反応基を複数提示する中間層を基板上に形成することができる。そのような中間層は、特に限定されるものではないが、均一に付着させるためという観点から、5nm~10μm、好ましくは10nm~1μmの厚さとすることができる。
【0027】
上述の中間層の材料は、用いる基板の材料を考慮して、適宜選択することができる。ここで、基板を構成する材料は、無機材料であっても有機材料であってもよく、当技術分野で使用されるものを特に制限なく使用できる。無機材料としては、限定されるものではないが、例えば、ガラス、Si、SiO2、SiN等が挙げられる。有機材料としては、限定されるものではないが、例えば、プラスチック、ゴム等、例えば、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、アクリロニトリルスチレン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、フッ素樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート等が挙げられ、一実施形態では、フレキシブル基板に用いられる材料が好ましい。
【0028】
以下に本発明の実施形態の例を詳細に説明する。以下の例では、中間層としてAPTES層又はポリリジン層、基板としてSi基板又はプラスチック基板を用いた例を説明するが、中間層及び基板はこれらに限定されるものではない。
また、ボロメータの製造方法において、基板上にカーボンナノチューブ層を形成するプロセス以外のプロセスは、下記に例示したものに限定されず、当技術分野で使用されるものを特に制限なく使用できる。
【0029】
なお、本明細書において、「略垂直」という用語は、完全な垂直、及び完全な垂直から30°以下、好ましくは20°以下、例えば10°以下の範囲でずれた場合を含む。「略平行」という用語は、完全な平行、及び完全な平行から30°以下、好ましくは20°以下、例えば10°以下の範囲でずれた場合を含む。また、略垂直及び略平行には、対象(例えば電極)に交わる辺が直線である場合だけでなく、円弧の一部である場合も含み、この場合、円弧の接線が上記範囲内であるのが好ましい。
また、「APTES付着部」、「APTES塗布部」、「APTES部」等の用語は同義であり、APTESにより中間層を形成した領域を意味する。
また、「カーボンナノチューブ層」、「カーボンナノチューブ膜」等の用語は同義に用いることができる。また、「カーボンナノチューブ配向膜」または「ネットワーク状のカーボンナノチューブ膜」を単に「カーボンナノチューブ層」、「カーボンナノチューブ膜」等と記載することもある。
また、本実施形態に係るボロメータは、赤外光の他、例えば0.7μm~1mmの波長を有する電磁波、例えばテラヘルツ波の検知にも用いることができる。一実施形態において、ボロメータは赤外線センサである。また、本実施形態のボロメータ製造方法は、ボロメータアレイの製造に好適に適用することができる。
【0030】
<第1の実施形態>
本発明の一実施形態に係るボロメータ部の断面概略図を
図1に示す。Si基板1の上にAPTES層2があり、その上にカーボンナノチューブ層3と第1の電極4と第2の電極5があり、電極4と電極5はその間にあるカーボンナノチューブ層3により接続されている。基板1上のAPTES層2、カーボンナノチューブ層3、及び電極4、5の配置は、
図1に示した配置に限定されず、電極4と電極5はAPTES層2の上に配置されてもよいし、もしくはSi基板1の上に直接配置されてもよい。また、カーボンナノチューブ層3は、少なくとも一部がAPTES層2上にあり、電極4と電極5に接続していれば、両電極の下でも上でもよい。このカーボンナノチューブ層3は、後述するように、非イオン性界面活性剤を用いて分離された複数の半導体型カーボンナノチューブから主に構成されている。
【0031】
本発明の一実施形態に係るAPTES層2をライン状のパターン形状に作製した平面概略図を
図2(上)に示す。基板であるSiO
2を被覆したSi上をアセトン、イソプロピルアルコール、水により順に洗浄し、酸素プラズマ処理で表面の有機物を除去する。
図2(上)のライン状APTES部以外をマスクしてから、APTES水溶液中に基板を浸漬し、あるいは基板にAPTES水溶液を噴霧し、水洗後に乾燥する。その後、基板からマスクを除去する。上記ライン状APTES部はディスペンサやインクジェット、もしくは印刷機等を用いて塗布、必要に応じて水洗後に乾燥してもよい。APTES溶液の濃度は特に限定されないが、例えば、0.001体積%以上30体積%以下が好ましく、0.01体積%以上10体積%以下がより好ましく、更に0.05体積%以上5体積%以下がより好ましい。また、APTESの溶媒としては、水、あるいは該化合物を溶解し得、かつ基板に塗布後に容易に除去し得るものであれば特に限定されない。
なお、これらの濃度及び溶媒は、中間層としてAPTES以外の化合物を用いる場合は、用いる化合物に応じて適宜変更してもよい。
【0032】
ライン形状の幅aは、10μm~1cmが望ましく、20μm~1mmが好ましく、30μm~500μmがより好ましい。小型化のためには、100μm以下が好ましい場合もある。また、ライン形状の幅は、カーボンナノチューブ膜を介して電流が流れる面積を最大にするために、向き合った電極対間が最小のデバイス長になる部分の電極長さ以上であることも好ましい。向き合った電極対間が最小のデバイス長になる部分の電極長さとは、例えば平行電極対の場合では、平行に対向している部分の長さである。
図2(下)に示す平行電極対では、図中「CNT膜に電流が流れる電極長さ」と記載した長さが対応する。
【0033】
ライン形状以外のマスクは、基板をAPTES水溶液に浸漬する場合には、例えばカプトンテープやマスキングテープ等のテープ類や粘着シート類、もしくはレジスト等のマスク材料を使用できる。APTES水溶液を噴霧する場合には、基板に接するメタルマスクやステンシルマスク等を用いることができる。
【0034】
ライン状のAPTES付着部2の上に、非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテル又はポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル水溶液に分散させた半導体型カーボンナノチューブ分散液を滴下すると、APTESが付着していない部分(マスク部)は分散液をはじくが、APTES付着部2にはカーボンナノチューブ分散液が水液滴となって載る。
【0035】
基板上に作製したAPTES付着部2にカーボンナノチューブ分散液の液滴を載せた状態で該基板を例えば1分以上24時間以内静置してから、該液滴をエタノールやイソプロピルアルコール等のアルコールや水で洗い流して乾燥させると、APTES付着部にカーボンナノチューブが付着してカーボンナノチューブ膜が作製される。静置時間によりカーボンナノチューブの付着量を制御することもでき、APTES塗布部に付着したカーボンナノチューブは、ネットワーク状態で均一に付着する。
【0036】
このように、所定の形状のAPTES付着部にカーボンナノチューブを付着させることによりネットワーク状のカーボンナノチューブ層を形成することで、均一性の高いカーボンナノチューブ層、及びそのようなカーボンナノチューブ層を備えるボロメータを簡便な方法で製造することができる。
【0037】
カーボンナノチューブ層の厚みは、特に限定されないが、例えば、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上、さらに好ましくは5nm以上であり、また、好ましくは1μm以下、より好ましくは500nm以下、さらに好ましくは200nm以下である。
【0038】
カーボンナノチューブ層は半導体型カーボンナノチューブをカーボンナノチューブの総量の好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、場合によりさらに好ましくは98質量%以上の割合で含む。このようなカーボンナノチューブ層の製造には、例えば、電界誘起層形成法等を用いて、金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブを分離して得られる、半導体型カーボンナノチューブの濃度が高い分散液を用いるのが望ましい。
【0039】
カーボンナノチューブの直径は、0.6~1.5nmが望ましく、0.6~1.2nmが好ましく、0.6~1.0nmがより好ましい。カーボンナノチューブの長さは、100nm~5μmの範囲内であると分散しやすく、液滴を形成しやすいため望ましい。カーボンナノチューブの導電性の観点から、長さが100nm以上であることが好ましく、凝集しにくい観点から、長さが5μm以下であることが好ましい。より好ましくは、500nm~3μm、さらに好ましくは700nm~1.5μmの範囲内である。カーボンナノチューブの70%(個数)以上が、上記範囲の直径及び長さを有することが好ましい。
【0040】
カーボンナノチューブの直径及び長さが上記範囲内であると、半導体型カーボンナノチューブを用いる場合に半導体性の影響が大きくなり、かつ、大きな電流値を得られるため、ボロメータに用いた場合に高いTCR値が得られやすい。
【0041】
本実施形態の製造方法において用いるカーボンナノチューブ分散液について以下に説明する。
【0042】
カーボンナノチューブ分散液は、上述のカーボンナノチューブを含む。分散液中のカーボンナノチューブの濃度や液適量は、形成するカーボンナノチューブ層の密度や厚み等に応じて適宜選択できる。特に限定されるものではないが、分散液中のカーボンナノチューブの濃度は、例えば0.0003wt%以上、好ましくは0.001wt%以上、より好ましくは0.003wt%以上、また、10wt%以下、好ましくは3wt%以下、より好ましくは0.3wt%以下とすることができる。
【0043】
カーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブに加えて、界面活性剤を含むことが好ましい。カーボンナノチューブ分散液に含まれる界面活性剤は、非イオン性界面活性剤であるのが好ましい。非イオン性界面活性剤は、イオン性界面活性剤と異なり、カーボンナノチューブとの相互作用が弱く、分散液を基板上に提供した後に容易に除去することができる。そのため、安定したカーボンナノチューブ導電パスを形成でき、優れたTCR値を得ることができる。また、分子長が長い非イオン性界面活性剤は、分散液を基板上に提供する際にカーボンナノチューブ間の距離が大きくなり、水の蒸発後に再凝集しにくいため、ネットワーク状態を維持することができ好ましい。
【0044】
カーボンナノチューブはネットワークを形成することで、カーボンナノチューブ同士の接触点が多くなり、導電パスは増えることから抵抗が低くなる。また、ネットワーク状態では僅かに含まれる金属型カーボンナノチューブ同士が繋がって電極間に接続する確率が低いため、半導体性の影響が大きく、温度変化に対して大きな抵抗変化(高TCR)を実現できる。
さらに、基板全面にカーボンナノチューブ膜を作製する場合は、作製時にカーボンナノチューブの局所的凝集が起こりやすく、密度や厚みが不均一になるという課題があるが、APTESのパターニングにより、カーボンナノチューブネットワークがパターニング箇所のみに作製されるため、カーボンナノチューブの密度、膜厚などを制御し易く、より均一な膜を作製することができる。
【0045】
非イオン性界面活性剤は、適宜選択できるが、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系に代表されるポリエチレングリコール構造を有する非イオン性界面活性剤を1種類もしくは複数組み合わせて用いることが好ましい。
【0046】
カーボンナノチューブ分散液の溶媒としては、好ましくはカーボンナノチューブを分散浮遊できるものであれば特に限定されないが、例えば水、重水、有機溶媒、又はこれらの混合物等が挙げられ、水が好ましい。
【0047】
半導体型カーボンナノチューブの比率の高いカーボンナノチューブ分散液の分離及び調製の方法、ならびに、当該方法に用いる非イオン性界面活性剤については、例えば、WO2020/158455に記載のものを用いることができ、該文献は参照により本明細書に組み込まれる。
【0048】
本実施形態のボロメータは、上記半導体型カーボンナノチューブのライン形状膜を基板上に形成させた後、例えば次のようにして製造することができる。カーボンナノチューブはAPTESラインの上にのみ付着するため、膜が1本のライン状に作製される。
図3のように、このカーボンナノチューブの膜に重ねて、金蒸着等により、第1電極と第2電極を作製する。このときカーボンナノチューブ膜の長辺方向と、第1の電極と第2の電極との間を流れる電流方向が略平行になるように電極を設置する。
【0049】
電極の材料は導電性のものであれば特に限定されないが、金、白金、チタン等の単体又は複数を使用することができる。電極の作製方法は特に限定されないが、蒸着、スパッタ、印刷法が挙げられる。厚みは適宜調整できるが、10nm~1mmが好ましく、50nm~1μmがより好ましい。
【0050】
本実施形態のボロメータにおいて、第1の電極と第2の電極の間の距離は、1μm~500μmが好ましく、5μm~300μmがより好ましい。また、小型化のためには1μm~200μmがより好ましい。電極間距離が1μm以上であると、金属型カーボンナノチューブを僅かに含む場合でも、TCRの特性の低下を抑制することができる。また、電極間距離が100μm以下、例えば50μm以下であると、2次元アレイ化による画像センサの適用に有利である。第1の電極4と第2の電極5の長さは、カーボンナノチューブが両電極に接続し、導通できれば短い方が好ましく、カーボンナノチューブとの接続部が100μm以下、例えば50μm以下であると、2次元アレイ化による画像センサの適用に有利である。
【0051】
カーボンナノチューブ膜が線状である(複数の電極対にわたるように延在している)ために隣の電極対にもカーボンナノチューブが接続している場合(
図3上段)には、例えば次の方法で、不要なカーボンナノチューブを除去する。形成されたカーボンナノチューブ膜3上の電極間を含む領域6にポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)等のアクリル樹脂溶液を塗布してPMMAの保護層6を形成する(
図3下段)。大気中において200℃で加熱し、余分な溶媒、不純物等を除去後、基板全体を酸素プラズマ処理することにより、カーボンナノチューブ層3のPMMA層で被覆した領域6以外の領域にある余分なカーボンナノチューブ等を除去する。
【0052】
カーボンナノチューブ層の表面に、必要により保護層を設けてもよい。ボロメータを赤外線センサとして用いる場合、保護膜は検知したい赤外線波長域において透明性の高い材料が好ましく、例えば、PMMA等のアクリル樹脂、エポキシ樹脂、テフロン(登録商標)等を用いることができる。
【0053】
上記の実施形態は、Si基板上にAPTES膜を形成し、カーボンナノチューブ層を作製した後に電極を作製する順番のボロメータ素子作製方法を示したが、次のように順序を変える作製方法でもよい。まず、洗浄したSi基板上に金蒸着等により第1の電極と第2の電極を作製し、その上にAPTESを塗布する。APTES塗布は、ライン形状部以外をマスクしてから、APTES水溶液中に基板を浸漬し、あるいは基板にAPTES水溶液を噴霧し、乾燥する。その後、マスクを除去する。上記ライン状APTES部はディスペンサやインクジェット、もしくは印刷機等を用いて塗布、必要に応じて水洗後に乾燥してもよい。
【0054】
APTES膜は絶縁膜であるが、基板のシリコン酸化膜表面と結合してアミノ基を表面に提示するため、金電極部には付着しない。この上にカーボンナノチューブ分散液を滴下、静置後、分散液の分散媒をアルコールや水等で洗い流して乾燥させると、APTES膜にカーボンナノチューブがネットワーク状に付着し、形成されたカーボンナノチューブ膜の両端は両電極に直接接続する。隣の電極対間にカーボンナノチューブが接続している場合には、上記と同様の方法により、電極対と電極対の間に存在する不要なカーボンナノチューブを酸素プラズマ処理等で除去すればよい。
【0055】
なお、APTES塗布部のパターニング及び該APTES層上にカーボンナノチューブ層を形成する工程以外については、本実施形態で説明した各構成要素、材料、製造プロセス等は、適宜以下の実施形態にも適用することができる。
【0056】
<第2の実施形態>
本発明の一実施形態に係るボロメータ部の断面概略図を
図1に示す。Si基板1の上にAPTES層2があり、その上にカーボンナノチューブ層3と第1の電極4と第2の電極5があり、電極4と電極5はその間にあるカーボンナノチューブ層3により接続されている。基板1上のAPTES層2、カーボンナノチューブ層3、及び電極4、5の配置は、
図1に示した配置に限定されず、電極4と電極5はAPTES層2の上に配置されてもよいし、もしくはSi基板1の上に直接配置されてもよい。また、カーボンナノチューブ層3は、少なくとも一部がAPTES層2上にあり、電極4と電極5に接続していれば、両電極の下でも上でもよい。このカーボンナノチューブ層3は、後述するように、非イオン性界面活性剤を用いて分離された複数の半導体型カーボンナノチューブから主に構成されている。
【0057】
本発明の一実施形態に係るAPTES層2をライン形状に作製した平面概略図を
図2(上)に示す。基板であるSiO
2を被覆したSi上をアセトン、イソプロピルアルコール、水により順に洗浄し、酸素プラズマ処理で表面の有機物を除去する。
図2(上)のライン状APTES部以外をマスクしてから、APTES水溶液中に基板を浸漬し、あるいは基板にAPTES水溶液を噴霧し、水洗後に乾燥する。その後、基板からマスクを除去する。上記ライン状APTES部はディスペンサやインクジェット、もしくは印刷機等を用いて塗布、必要に応じて水洗後に乾燥してもよい。APTES溶液は第1の実施形態と同様に調製することができる。
【0058】
ライン形状の幅aは、10μm~1cmが望ましく、20μm~1mmが好ましく、30μm~500μmがより好ましい。
【0059】
ライン形状以外のマスクは、基板をAPTES水溶液に浸漬する場合には、例えばカプトンテープやマスキングテープ等のテープ類や粘着シート類、もしくはレジスト等のマスク材料を使用できる。APTES水溶液を基板に噴霧する場合には、基板に接するメタルマスクやステンシルマスク等を用いることができる。
【0060】
ライン状のAPTES付着部2の上に、非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテル又はポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル水溶液に分散させた半導体型カーボンナノチューブ分散液を滴下すると、APTESが付着していない部分(マスク部)は分散液をはじくが、APTES付着部2にはカーボンナノチューブ分散液が水液滴となって載る。次いで、該液滴をAPTES付着部2の縁で乾燥させる。具体的には、該基板を、分散液の溶媒が蒸発し得る条件下におくと、液滴の外縁付近は、蒸発速度が中心付近に比べて大きいため、APTESライン形状2の縁から徐々に水が乾燥する。その際、APTESライン部2の縁が液滴の接触線のピン止めとなり、液滴内で縁に向かう毛管流が生じ、カーボンナノチューブが液滴の中心から外向きに移動して、移動したカーボンナノチューブは、縁2a及び2a’付近に該縁と略平行に配向しながら蓄積する。これにより、中間層塗布部の縁に、電極間を流れる電流と略平行に配向したカーボンナノチューブの配向膜を形成することができる。本明細書において、用語「配向膜」は、毛管現象によりカーボンナノチューブが所定のパターン形状の縁付近に移動し配向しながら堆積することにより形成されるカーボンナノチューブ配向膜を意味する。なお、本実施形態におけるカーボンナノチューブの配向度は、カーボンナノチューブの直径および長さ、界面活性剤の濃度、乾燥速度等の条件で制御することができ、これらを調整することで、配向度の低いまたは殆ど配向していないネットワーク状態のカーボンナノチューブ膜を縁2a及び2a’付近に形成することもできる。本明細書において、配向膜に関する各記載(例えば、後述の電極に対する位置関係、素子構造、アレイ化の説明など)は、このような配向度の低い膜にも適宜適用することができる。
【0061】
このように、カーボンナノチューブを所定の形状のAPTES付着部の縁付近に配向させることで、高い配向度を有するカーボンナノチューブ層を備えるボロメータを簡便な方法で製造することができる。
また、これにより、高いTCR値を有し、かつ低抵抗であるボロメータを製造することができる。
【0062】
カーボンナノチューブの配向度は、カーボンナノチューブ膜のSEM画像を二次元高速フーリエ変換処理して各方向の凹凸の分布を周波数分布で表した平面FFT画像において、中心から一方向に周波数-1μm-1から+1μm-1までの振幅の積算値fを算出し、前記積算値fが最大となる方向xに関する積算値をfx、方向xに対して垂直である方向yに関する積算値をfyとしたとき、fx/fy≧2をカーボンナノチューブが配向していると定義する。本実施形態に係る製造方法では、fx/fy=1~2の、カーボンナノチューブが配向していないカーボンナノチューブ膜を作製することもできるが、上記の作製条件を制御することでfx/fy≧2の配向カーボンナノチューブ配向膜を作製することもできる。なお、上記FFT画像の元になるSEM画像は、フーリエ変換による算出のために凹凸が見える必要があり、カーボンナノチューブを観察する観点から、視野範囲は、縦および横それぞれ0.05~10μm程度であるのが好ましい。
この配向度の定義は、後述の第3~第6の実施形態における配向膜(または配向度の低い膜)にも適用することができる。
【0063】
基板と液滴の水接触角は0°超~90°以下で可能であるが、0°超~60°であることが好ましい。水接触角は、JIS R3257;1999に規定されている静置法を用いて求められる。液滴の水接触角はAPTES塗布部の面積に対しての液滴量で制御できる。
【0064】
配向度を上げるため、分散液の溶媒を蒸発させる際の基板の温度は、例えば、5℃~60℃が望ましく、10℃~40℃が好ましい。相対湿度は、15%RH~80%RHが好ましい。
【0065】
APTES塗布部の縁に蓄積したカーボンナノチューブは、
図4の走査型電子顕微鏡(SEM)像で示すように縁に平行に配向して堆積する。
図4はAPTES塗布部の縁から数μm中央側のSEM像の画像(画像の上辺側がAPTES塗布部の縁)であり、カーボンナノチューブが縁と略平行に配向していることが分かる。
堆積する幅は、例えば、分散液の量、分散液中のカーボンナノチューブの種類と濃度、界面活性剤の種類と濃度、カーボンナノチューブの直径や長さ、基板温度、相対湿度等によって変化させることができ、縁から1μm~20μm幅に配向したカーボンナノチューブの堆積層が望ましく、より好ましくは2μm~10μm幅である。カーボンナノチューブ配向膜の幅は、走査型電子顕微鏡等により測定した任意の10点における測定値の平均値とすることができる。
【0066】
カーボンナノチューブ層の厚みは、特に限定されないが、好ましくはAPTES塗布部の縁から10μmの範囲において、例えば、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、さらに好ましくは30nm以上であり、また、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。カーボンナノチューブの厚さは、縁から10μm以内の範囲の任意の10地点でレーザー顕微鏡を用いて厚み測定し、その平均値とすることができる。
【0067】
カーボンナノチューブ層は半導体型カーボンナノチューブをカーボンナノチューブの総量の好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上の割合で含む。このようなカーボンナノチューブ層の製造には、例えば、電界誘起層形成法等を用いて、金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブを分離して得られる、半導体型カーボンナノチューブの濃度が高い分散液を用いるのが望ましい。
【0068】
カーボンナノチューブの直径は、0.6~1.5nmが望ましく、0.6~1.2nmが好ましく、0.6~1.0nmがより好ましい。カーボンナノチューブの長さは、100nm~5μmの範囲内であると分散しやすく、液滴を形成しやすいため望ましい。カーボンナノチューブの導電性の観点から、長さが100nm以上であることが好ましく、凝集しにくい観点から、長さが5μm以下であることが好ましい。より好ましくは、500nm~3μm、さらに好ましくは700nm~1.5μmの範囲内である。カーボンナノチューブの70%(個数)以上が、上記範囲の直径及び長さを有することが好ましい。
【0069】
カーボンナノチューブの直径及び長さが上記範囲内であると、半導体型カーボンナノチューブを用いる場合に半導体性の影響が大きくなり、かつ、大きな電流値を得られるため、ボロメータに用いた場合に高いTCR値が得られやすい。
【0070】
カーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブに加えて、界面活性剤を含むことが好ましい。本実施形態に係る製造方法でカーボンナノチューブをAPTES付着部の縁付近に堆積させる場合、界面活性剤を含むカーボンナノチューブ分散液の方がカーボンナノチューブを配向させやすい。分散液中の界面活性剤の濃度は、特に限定されるものではないが、例えば臨界ミセル濃度以上~5質量%程度が好ましく、0.001質量%~3質量%がより好ましく、0.01質量%~1質量%が特に好ましい。また、カーボンナノチューブ分散液に含まれる界面活性剤は、非イオン性界面活性剤であるのが好ましい。非イオン性界面活性剤は、適宜選択できるが、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系に代表されるポリエチレングリコール構造を有する非イオン性界面活性剤を1種類もしくは複数組み合わせて用いることが好ましい。非イオン性界面活性剤は、イオン性界面活性剤と異なり、カーボンナノチューブとの相互作用が弱く、分散液を基板上に提供した後に、アルコールや水での洗浄および加熱により容易に除去することができる。そのため、安定したカーボンナノチューブ導電パスを形成でき、優れたTCR値を得ることができる。また、分子長が長い非イオン性界面活性剤は、分散液を基板上に提供する際にカーボンナノチューブ間の距離が大きくなり、水の蒸発後に再凝集しにくいため、配向状態を維持することができ好ましい。
【0071】
カーボンナノチューブは配向することで、カーボンナノチューブ同士の接触面積が多くなり、導電パスが増えることから抵抗が低くなる。これにより、温度変化に対して大きな抵抗変化(高TCR)を実現できる。一方、パターン形状の縁付近に移動したカーボンナノチューブの配向度が低い又はネットワーク状態である場合も、カーボンナノチューブの密度および膜厚増加の効果が得られる。これにより、カーボンナノチューブが密度の高いネットワークを形成することで、カーボンナノチューブ同士の接触点が多くなり、導電パスが増えることから低抵抗を実現できる。また、ネットワーク状態では僅かに含まれる金属型カーボンナノチューブ同士が繋がって電極間に接続する確率が低いため、半導体性の影響が大きく、温度変化に対して大きな抵抗変化を実現できる。また、一実施形態では、上述の界面活性剤として分子長が長い非イオン性界面活性剤を用いると、カーボンナノチューブの再凝集を抑制してネットワーク状態を維持することができるため好ましい。
【0072】
さらに、本実施形態の製造方法によれば、APTESのパターニング及び毛管現象を用いて所定の位置、すなわちパターン形状の縁付近にカーボンナノチューブ膜を形成させることで、均一性の高いボロメータ膜を作製できるという利点もある。
【0073】
本実施形態のボロメータは、上記半導体型カーボンナノチューブのライン形状配向膜を基板上に形成させた後、例えば次のようにして製造することができる。
図5のように、カーボンナノチューブはライン2の両縁(
図2(上)の2a、2a’)付近に該縁と略平行に配向して堆積するため、配向膜が2本の平行した線状に作製される。このカーボンナノチューブの配向膜に重ねて、金蒸着等により第1電極と第2電極を作製する。このときカーボンナノチューブの配向方向と、第1の電極と第2の電極との間を流れる電流方向が略平行になるように電極を設置する。
【0074】
本実施形態のボロメータにおいて、第1の電極と第2の電極の間の距離は、1μm~500μmが好ましく、5μm~300μmがより好ましい。また、小型化のためには1μm~200μmがより好ましい。電極間距離が1μm以上であると、金属型カーボンナノチューブを僅かに含む場合でも、TCRの特性の低下を抑制することができる。また、電極間距離が100μm以下、例えば50μm以下であると、2次元アレイ化による画像センサの適用に有利である。電極4と電極5の長さは、カーボンナノチューブが両電極に接続し、導通できれば短い方が好ましく、カーボンナノチューブとの接続部が100μm以下、例えば50μm以下であると、2次元アレイ化による画像センサの適用に有利である。
【0075】
電極は、APTES塗布部の両縁に形成される2本の線状配向膜の両方が接続するように設置するか、もしくはどちらか1本の線状配向膜が接続するように設置する。
図5(上)のように2本の線状配向膜が接続する場合には、抵抗は約半分になるため、低抵抗化には有利であるが、電極の長さはAPTESのライン形状幅(
図2(上)の幅a)よりも長く作製しなければならない。一方、
図6に示すように片方の縁である1本の線状配向膜のみが接続する場合には、カーボンナノチューブと電極の接続幅を狭く、例えば50μm以下にできるため、2次元アレイ化等の素子小型化に有利である。また、APTESのライン形状幅aを、
図6のように素子の間隔に合わせて塗布すれば、その両縁の線状配向膜を2ラインの素子に使用することができ、簡便にアレイ化することができる。
【0076】
カーボンナノチューブ配向膜が線状である(複数の電極対にわたるように延在している)ために隣の電極対にもカーボンナノチューブが接続している場合(
図5上段)には、例えば次の方法で、不要なカーボンナノチューブを除去する必要がある。形成されたカーボンナノチューブの配向膜上の電極間を含む領域6に、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)等のアクリル樹脂溶液を塗布してPMMAの保護層6を形成する(
図5下段)。大気中において200℃で加熱し、余分な溶媒、不純物等を除去後、基板全体を酸素プラズマ処理することにより、カーボンナノチューブ層3のPMMA層で被覆した領域6以外の領域にある余分なカーボンナノチューブ等を除去する。
【0077】
カーボンナノチューブ層の表面に、必要により保護層を設けてもよい。ボロメータを赤外線センサとして用いる場合、保護膜は検知したい赤外線波長域において透明性の高い材料が好ましく、例えば、PMMA等のアクリル樹脂、エポキシ樹脂、テフロン(登録商標)等を用いることができる。
【0078】
上記の実施形態は、Si基板上にAPTES膜を形成し、カーボンナノチューブ層を作製した後に電極を作製する順番のボロメータ素子作製方法を示したが、次のように順序を変える作製方法でもよい。まず、洗浄したSi基板上に金蒸着等により第1の電極と第2の電極を作製し、その上にAPTESを塗布する。APTES塗布は、ライン形状部以外をマスクしてから、APTES水溶液中に基板を浸漬し、あるいは基板にAPTES水溶液を噴霧し、乾燥する。その後、マスクを除去する。上記ライン状APTES部はディスペンサやインクジェット、もしくは印刷機等を用いて塗布、必要に応じて水洗後に乾燥してもよい。
【0079】
APTES膜は絶縁膜であるが、基板のシリコン酸化膜表面と結合してアミノ基を表面に提示するため、金電極部には付着しない。この上にカーボンナノチューブ分散液を滴下、徐々に乾燥させると、APTES膜の縁にカーボンナノチューブが配向して堆積して配向膜が形成され、該配向膜の両端は両電極に直接接続する。隣の電極対間にカーボンナノチューブが接続している場合には、上記と同様の方法により、不要なカーボンナノチューブを除去すればよい。
【0080】
なお、以下の実施形態において、カーボンナノチューブ膜を形成する工程以外のボロメータの構成要素および製造工程は、特に記載がない場合、上記第1の実施形態または第2の実施形態に記載のものを適宜適用することができる。
【0081】
<第3の実施形態>
本発明の一実施形態に係るAPTES層2を、四角、あるいは複数の四角形が線状に配列した破線のライン形状に作製した平面概略図を
図7に示す。第1の実施形態と同様に洗浄したSi基板上に、
図7の四角状APTES部以外の部分をマスクしてから、APTES水溶液中に基板を浸漬し、あるいは基板にAPTES水溶液を噴霧し、水洗後に乾燥する。その後、基板からマスクを除去する。上記四角状APTES部はディスペンサやインクジェット、もしくは印刷機等を用いて塗布、水洗後に乾燥してもよい。
【0082】
四角形状の大きさは、後に述べる第1電極と第2電極に対して略平行な辺の長さ(幅b)は、10μm~1cmが望ましく、20μm~1mmが好ましく、30μm~300μmがより好ましい。電極に対して略垂直な辺の長さ(幅c)は、10μm~1mmが好ましく、20μm~500μmがより好ましい。また小型化のためには10μm~300μmがより好ましい。
【0083】
四角状のAPTES付着部の上に、第1の実施形態と同様にカーボンナノチューブ分散液を滴下し、静置してからアルコールや水等で洗い流して乾燥させると、APTES付着部全体にカーボンナノチューブがネットワーク状態で付着したカーボンナノチューブ膜(ネットワーク状の膜)を作製することができる。四角形状にパターニングする場合は、カーボンナノチューブがより均一に付着したカーボンナノチューブ膜を形成することができる。
【0084】
また、四角状のAPTES付着部の上に、第2の実施形態と同様にカーボンナノチューブ分散液を滴下し、徐々に乾燥させると、四角形状の四辺の縁に、カーボンナノチューブが各辺と略平行に配向して蓄積される(配向膜)。また、カーボンナノチューブの直径および長さ、界面活性剤の濃度、乾燥速度等の条件によっては、配向度の低いまたは殆ど配向していないネットワーク状態のカーボンナノチューブ膜を四角形状の四辺の縁付近に形成することもできる。後述の配向膜に関する各記載は、このような配向度の低い膜にも適宜適用することができる。
【0085】
本実施形態のボロメータは、上記半導体型カーボンナノチューブの四角形状のネットワーク状の膜、または四角形状配向膜(四角形の四辺の縁付近に形成される配向膜)を基板上に形成させた後、例えば形成したカーボンナノチューブ膜の形状にあわせて電極を配置することで製造することができる。四角形状配向膜を形成した場合を例により詳細に説明する。
図7の破線部を
図8に示す。カーボンナノチューブは、
図8に示すように四辺の縁に配向して堆積するため、配向膜が二組の2本ずつの平行した線状(すなわち、2b/2b’と2c/2c’)に作製される。このカーボンナノチューブの一組の配向膜(2b/2b’)に重ねて、金蒸着により、第1電極4と第2電極5を作製する。二組の配向膜は四角形の四辺なのでそれぞれが略垂直になっており、一組(2b/2b’)が電極下にあると、もう一組(2c/2c’)は第1電極4と第2電極5との間を流れる電流方向に略平行になる。
【0086】
本実施形態のボロメータにおいて、第1の電極と第2の電極の間の距離は、1μm~500μmが好ましく、5μm~300μmがより好ましい。また、小型化のためには1μm~200μmがより好ましい。電極間距離が1μm以上であると、金属型カーボンナノチューブを僅かに含む場合でも、TCRの特性の低下を抑制することができる。また、電極間距離が100μm以下、例えば50μm以下であると、2次元アレイ化による画像センサの適用に有利である。
【0087】
ネットワーク状態のカーボンナノチューブ膜(ネットワーク状の膜)の場合、電極は、1つの電極対に対して、1つのネットワーク状の膜が接続するように設置することができる。
【0088】
配向膜の場合、電極は、2本の線状配向膜の両方が接続するように設置、もしくはどちらか1本の線状配向膜が接続するように設置する。
図8のように2本の線状配向膜が接続する場合には、抵抗は約半分になるため、低抵抗化には有利であるが、電極の長さはAPTESの四角形の幅bよりも長く作製しなければならない。一方、片方の縁である1本の線状配向膜のみが接続する場合には、カーボンナノチューブと電極の接続幅を狭く、例えば50μm以下にできるため、2次元アレイ化等の素子小型化に有利である。
【0089】
本実施形態では、
図7に示すように、カーボンナノチューブのネットワーク状の膜又は配向膜が破線状であるため、電極対の電極間のみにカーボンナノチューブが接続するように電極を設置することができる。この場合、隣の電極対間にはカーボンナノチューブが存在しないので、不要なカーボンナノチューブを除去する工程は必要ない。大気中において200℃で加熱すれば、余分な溶媒や界面活性剤等を除去することができる。
【0090】
本実施形態においても、カーボンナノチューブ層の表面に、必要により保護層を設けてもよい。ボロメータを赤外線センサとして用いる場合、保護膜は検知したい赤外線波長域において透明性の高い材料が好ましく、例えば、PMMA等のアクリル樹脂、エポキシ樹脂、テフロン(登録商標)等を用いることができる。
【0091】
上記の実施形態は、Si基板上にAPTES膜を形成し、カーボンナノチューブ層を作製した後に電極を作製する順番のボロメータ素子作製方法を示したが、次のように順序を変える作製方法でもよい。まず、洗浄したSi基板上に金蒸着等により第1の電極と第2の電極を作製し、その上にAPTESを塗布する。APTES塗布は、電極対間に四角形状のAPTES膜が設置され、かつ隣の電極対間にはAPTESが塗布されないようにマスクしてから、APTES水溶液中に基板を浸漬し、あるいは基板にAPTES水溶液を噴霧し、乾燥する。その後、マスクを除去する。上記四角状APTES部はディスペンサやインクジェット、もしくは印刷機等を用いて塗布、必要に応じて水洗後に乾燥してもよい。APTES膜は絶縁膜であるが、シリコン酸化膜表面と結合してアミノ基を表面に提示するため、金電極部には付着しない。この上に、カーボンナノチューブ分散液を滴下し、静置してからアルコールや水等で洗い流して乾燥させると、APTES付着部全体にカーボンナノチューブがネットワーク状態で付着する。また、滴下した分散液を徐々に乾燥させると、APTES膜の四辺の縁にカーボンナノチューブが配向して堆積する。形成されたネットワーク状の膜または配向膜の両端は電極に直接接続する。隣の電極対間にはカーボンナノチューブが接続しないので、PMMA等による不要なカーボンナノチューブ除去工程は必要ない。
【0092】
<第4の実施形態>
本発明の一実施形態に係るAPTES層2を、円形状に作製した平面概略図を
図9に示す。第1の実施形態と同様に洗浄したSi基板上に、図の円形状APTES部以外の部分をマスクしてから、APTES水溶液中に基板を浸漬し、あるいはAPTES水溶液を基板に噴霧し、水洗後に乾燥する。その後、基板からマスクを除去する。上記円形状APTES部はディスペンサやインクジェット、もしくは印刷機等を用いて塗布、乾燥してもよい。
【0093】
円形状の大きさは、直径10μm~1cmが望ましく、20μm~1mmが好ましく、30μm~500μmがより好ましい。円の形状としては、真円、楕円、長円、類円形が挙げられる。
【0094】
円形状のAPTES付着部の上に、第1の実施形態と同様にカーボンナノチューブ分散液を滴下して静置してからアルコールや水等で洗い流して乾燥させると、APTES付着部全体にカーボンナノチューブがネットワーク状態で付着したカーボンナノチューブ膜(ネットワーク状の膜)を作製することができる。
【0095】
また、円形状のAPTES付着部の上に、第2の実施形態と同様にカーボンナノチューブ分散液を滴下し、徐々に乾燥させると、円形状の円周にカーボンナノチューブが配向して蓄積される(配向膜)。また、カーボンナノチューブの直径および長さ、界面活性剤の濃度、乾燥速度等の条件によっては、配向度の低いまたは殆ど配向していないネットワーク状態のカーボンナノチューブ膜を円形状の縁付近にドーナツ線状に形成することもできる。後述の配向膜に関する各記載は、このような配向度の低いドーナツ線状の膜にも適宜適用することができる。
【0096】
本実施形態のボロメータは、上記半導体型カーボンナノチューブの円形状のネットワーク状の膜または円形状(ドーナツ線状)配向膜を基板上に形成させた後、形成したカーボンナノチューブ膜の形状に合わせて電極を配置することで製造することができる。例えば円形状(ドーナツ線状)配向膜の場合、カーボンナノチューブは円の縁に配向して堆積するため、配向膜がドーナツ線状に作製される。このカーボンナノチューブ配向膜の円弧に重ねて、金蒸着により、第1電極と第2電極を作製する。円弧は第1電極と第2電極との間を流れる電流方向に略平行になるようにする。
【0097】
本実施形態のボロメータにおいて、第1の電極と第2の電極の間の距離は、1μm~500μmが好ましく、10μm~300μmがより好ましい。また、小型化のためには1μm~200μmがより好ましい。電極間距離が1μm以上であると、金属型カーボンナノチューブを僅かに含む場合でも、TCRの特性の低下を抑制することができる。また、電極間距離が100μm以下、例えば50μm以下であると、2次元アレイ化による画像センサの適用に有利である。電極4と電極5の長さは、カーボンナノチューブが両電極に接続し、導通できれば短い方が好ましく、カーボンナノチューブとの接続部が100μm以下、例えば50μm以下であると、2次元アレイ化による画像センサの適用に有利である。
【0098】
ネットワーク状の膜の場合、電極は、例えば、
図10のように1つの円形膜が1つの電極対に接続するように設置することができる。
配向膜の場合、電極は、
図10のように2本の円弧状配向膜の両方が接続するように設置、もしくは
図11のようにどちらか1本の円弧状配向膜が接続するように設置することができる。2本の円弧状配向膜が接続する場合には、抵抗は約半分になるため、低抵抗化には有利であるが、電極の長さはAPTESの円直径よりも長く作製しなければならない。一方、片方の縁である1本の円弧状配向膜のみが接続する場合には、カーボンナノチューブと電極の接続幅を例えば50μm以下にできるため、2次元アレイ化等の素子小型化に有利である。
【0099】
また、配向膜の場合、アレイをより細密化するために、
図12のように、直径方向に対向する2つの円弧に第1列および第2列の第1と第2の電極対(4及び5)を作製し、さらに該2つの円弧から約90°の円弧部分にも第1列および第2列の電極対に略垂直な方向に列をなす、第3列の第3と第4の電極対(7及び8)を作製することもできる。
【0100】
具体的には、1列に配列したカーボンナノチューブの円形状配向膜の各円において、
図12に示すように、縦方向の直径方向に対向する2本の円弧部分を第1列及び第2列の電極対列に使用し、さらに、該直径方向から約90°に位置する横方向の円弧部分を第3列の電極対列に使用する。すなわち、第3列の電極対列は、該電極対列を構成する電極対(7、8)が、第1列及び第2列の電極対列を構成する電極対(4、5)に対して略垂直方向となるように配置されることとなる。
【0101】
このようなボロメータ電極は、1列の円形状APTES塗布層を形成し、該円形状APTES上にカーボンナノチューブ分散液を滴下し、滴下した分散液を徐々に乾燥させると、APTES膜の縁にカーボンナノチューブが配向して堆積する。このようにして形成した1列の円形状配向膜に対して、3列の電極対列を、円形状配向膜が各電極対列を構成する各電極対に略垂直にまたがるように配置することによって製造することができる。電極対と電極対の間にある不要なカーボンナノチューブを酸素プラズマ等で除去すると、1列に配列したカーボンナノチューブ円形状配向膜から切り出された円弧状配向膜が各電極対に略垂直にまたがるように接続された3列の電極対列を備えるボロメータ電極が形成される。
この場合、
図12に示すように4つの素子を1個の円形状配向膜から作製することができ、低コスト化、簡便化を実現できる。
【0102】
図13と
図14に第3列の電極を作製する実施形態のアレイ化のさらなる例を示す。これらの例に示すように、横方向に配列した円形状配向膜及び/又は縦方向に配列した円形状配向膜が互いに重なり合う部分に電極対を配置することで、アレイのさらなる細密化を図ってもよい。第1の実施形態と同様に、不要なカーボンナノチューブは除去処理を行う。
【0103】
図10のように、カーボンナノチューブのネットワーク状の膜または配向膜が電極対の電極間のみに設置される場合には、隣の電極対間にはカーボンナノチューブが存在しないので、不要なカーボンナノチューブを除去する工程は必要ない。大気中において200℃で加熱すれば、余分な溶媒や界面活性剤等を除去することができる。
【0104】
図11~16のように、カーボンナノチューブのネットワーク状の膜または配向膜が隣の電極対にも接続している場合には、例えば次の方法で、不要なカーボンナノチューブを除去する必要がある。形成されたカーボンナノチューブ膜上の電極間を含む領域にポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)等のアクリル樹脂溶液を塗布してPMMAの保護層を形成する。大気中において200℃で加熱し、余分な溶媒、不純物等を除去後、基板全体を酸素プラズマ処理することにより、第1電極と第2電極とを接続するカーボンナノチューブ層以外の領域にある余分なカーボンナノチューブ等を除去する。
【0105】
本実施形態においても、カーボンナノチューブ層の表面に、必要により保護層を設けてもよい。ボロメータを赤外線センサとして用いる場合、保護膜は検知したい赤外線波長域において透明性の高い材料が好ましく、例えば、PMMA等のアクリル樹脂、エポキシ樹脂、テフロン(登録商標)等を用いることができる。
【0106】
上記の実施形態は、Si基板上にAPTES膜を形成し、カーボンナノチューブ層を作製した後に電極を作製する順番のボロメータ素子作製方法を示したが、次のように順序を変える作製方法でもよい。まず、洗浄したSi基板上に金蒸着等により第1の電極と第2の電極を作製し、その上にAPTESを塗布する。APTES塗布は、円形状部以外をマスクしてから、APTES水溶液中に基板を浸漬し、あるいは基板にAPTES水溶液を噴霧し、乾燥する。その後、マスクを除去する。上記円形状APTES部はディスペンサや印刷機等を用いて塗布、水洗後に乾燥してもよい。APTES膜は絶縁膜であるが、シリコン酸化膜表面と結合してアミノ基を表面に提示するため、金電極部には付着しない。この上にカーボンナノチューブ分散液を滴下し、静置してからアルコールや水等で洗い流して乾燥させると、APTES付着部全体にカーボンナノチューブがネットワーク状態で付着する。また、滴下した分散液を徐々に乾燥させると、APTES膜の縁にカーボンナノチューブが配向して堆積する。形成されたネットワーク状の膜または配向膜の両端は電極に直接接続する。
図10のように隣の電極対間にはカーボンナノチューブが接続しない場合は、PMMA等による不要なカーボンナノチューブ除去工程は必要ない。
【0107】
<第5の実施形態>
本発明の一実施形態に係るAPTES層2を、第1電極4と第2電極5が形成されるべき位置を含み、両電極に略平行なライン形状に作製した平面概略図を
図15に示す。第1の実施形態と同様に洗浄したSi基板上に
図15のライン状APTES部2以外の部分をマスクしてから、APTES水溶液中に基板を浸漬し、あるいは該基板にAPTES水溶液を噴霧し、水洗後に乾燥する。その後、基板からマスクを除去する。上記ライン状APTES部2はディスペンサやインクジェット、もしくは印刷機等を用いて塗布、乾燥してもよい。
【0108】
ライン形状の幅は、10μm~1mmが望ましく、20μm~500μmが好ましく、30μm~300μmがより好ましい。
【0109】
APTESのライン形状に対して略垂直に、かつ、
図15のように第1電極4と第2電極5を接続するように該電極に略垂直に(すなわち、電流が流れる向きに略平行に)、第1の実施形態と同様のカーボンナノチューブ分散液を塗布すると(
図15の破線部3)、APTESが塗布されていない部分は分散液をはじくため、APTES塗布部と分散液塗布部が重なった部分のみに分散液が留まる。この基板を静置してからアルコールや水等で洗い流して乾燥させると、APTES塗布部と分散液塗布部が重なった部分のみにカーボンナノチューブがネットワーク状態で付着したカーボンナノチューブ膜(ネットワーク状の膜)を作製することができる。
また、カーボンナノチューブ分散液を塗布し、上記のとおり必要により重なった部分以外に付着した分散液を除去した後、分散液を徐々に乾燥させると、前記重なった部分に留まった分散液は、乾燥中にその四角形状部分の縁にカーボンナノチューブが配向して蓄積される(配向膜)。また、カーボンナノチューブの直径および長さ、界面活性剤の濃度、乾燥速度等の条件によっては、配向度の低いまたは殆ど配向していないネットワーク状態のカーボンナノチューブ膜を四角形状部分の縁付近に形成することもできる。後述の配向膜に関する各記載は、このような配向度の低い膜にも適宜適用することができる。
【0110】
本実施形態のボロメータは、上記半導体型カーボンナノチューブの四角形状のネットワーク状の膜または四角形状の配向膜(四辺の縁付近に形成される配向膜)を基板に形成させた後、形成したカーボンナノチューブ膜の形状にあわせて電極を配置することで製造することができる。例えば、
図15のように、APTESのラインに重ねて、金蒸着により、第1電極と第2電極を作製する。これにより、第1電極と第2電極は形成した四角形状のネットワーク状の膜または配向膜で接続される。配向膜の場合は、カーボンナノチューブは四辺の縁に配向して堆積するため、配向膜が二組の2本ずつの平行した線状に作製される。このカーボンナノチューブの一組の配向膜が第1電極と第2電極に重なると、もう一組は第1電極と第2電極との間を流れる電流方向に略平行に配置される。
【0111】
本実施形態のボロメータにおいて、第1の電極と第2の電極の間の距離は、1μm~500μmが好ましく、10μm~300μmがより好ましい。また、小型化のためには1μm~200μmがより好ましい。電極間距離が1μm以上であると、金属型カーボンナノチューブを僅かに含む場合でも、TCRの特性の低下を抑制することができる。また、電極間距離が100μm以下、例えば50μm以下であると、2次元アレイ化による画像センサの適用に有利である。第1電極と第2電極の長さは、カーボンナノチューブが両電極に接続し、導通できれば短い方が好ましく、カーボンナノチューブとの接続部が100μm以下、例えば50μm以下であると、2次元アレイ化による画像センサの適用に有利である。
【0112】
本実施形態では、カーボンナノチューブのネットワーク状の膜または配向膜がAPTESラインとカーボンナノチューブラインの交点の四角形状に作製されるため、電極対の電極間のみにカーボンナノチューブが接続するように電極を設置することができる。この場合、隣の電極対間にはカーボンナノチューブが存在しないので、不要なカーボンナノチューブを除去する工程は必要ない。大気中において200℃で加熱すれば、余分な溶媒や界面活性剤等を除去することができる。
【0113】
本実施形態においても、カーボンナノチューブ層の表面に、必要により保護層を設けてもよい。ボロメータを赤外線センサとして用いる場合、保護膜は検知したい赤外線波長域において透明性の高い材料が好ましく、例えば、PMMA等のアクリル樹脂、エポキシ樹脂、テフロン(登録商標)等を用いることができる。
【0114】
上記の実施形態は、Si基板上にAPTES膜を形成し、カーボンナノチューブ層を作製した後に電極を作製する順番のボロメータ素子作製方法を示したが、次のように順序を変える作製方法でもよい。まず、洗浄したSi基板上に金蒸着等により第1の電極と第2の電極を作製し、その上にAPTESを塗布する。APTES塗布は、第1電極と第2電極を含むライン状に設置され、隣の電極対間にはAPTESが塗布されないようにマスクしてから、APTES水溶液中に基板を浸漬し、あるいは基板にAPTES水溶液を噴霧し、乾燥する。その後、マスクを除去する。上記ライン状APTES部はディスペンサや印刷機等を用いて塗布、必要に応じて水洗後に乾燥してもよい。APTES膜は絶縁膜であるが、基板のシリコン酸化膜表面と結合してアミノ基を表面に提示するため、金電極部には付着しない。この上にカーボンナノチューブ分散液を、第1電極と第2電極にまたがるように、APTESラインと略垂直なラインに塗布し、静置してからアルコールや水等で洗い流して乾燥させると、APTESラインとカーボンナノチューブラインの重なった四角部分にカーボンナノチューブがネットワーク状態で付着する。また、滴下した分散液を徐々に乾燥させると、APTESラインとカーボンナノチューブラインの重なった四角部分の縁にカーボンナノチューブが配向して堆積する。形成されたネットワーク状の膜または配向膜の両端は電極に直接接続する。隣の電極対間にはカーボンナノチューブが接続しないので、PMMA等による不要なカーボンナノチューブ除去工程は必要ない。
【0115】
<第6の実施形態>
本実施形態に係るボロメータは、
図1と構造は同様であるが、Si基板1に代えてプラスチック基板を用いる。また、APTES層2に代えて、ポリリジンを用いる。ポリリジンはプラスチック基板表面に結合しやすく、APTESと同様にアミノ基を表面に提示するため、ポリリジン膜はカーボンナノチューブ分散液をはじかず、分散液滴をピン止めしやすい。ポリリジン膜の塗布方法及びボロメータ製造方法は、及び第1~第5の実施方法で述べた工程と同様の工程を用いることができる。本実施形態では、基板をフレキシブルにできることから、フレキシブルな画像センサ等に用いることができる。
【0116】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限定されない。
[付記1]
基板上に、該基板と半導体型カーボンナノチューブとの結合性を高める機能を有する中間層を、所定のパターン形状に形成する工程と、形成した中間層上に、半導体型カーボンナノチューブ分散液の液滴を提供する工程を含む、ボロメータ製造方法。
[付記2]
前記中間層を、ライン形状、四角形状、又は円形状に作製する工程を含む、付記1に記載のボロメータ製造方法。
[付記3]
前記基板上に作製した中間層に、前記半導体型カーボンナノチューブ分散液の液滴を提供する工程の後に、基板を静置し、その後液滴を洗い流し、基板を乾燥させる工程を含む、付記1又は2に記載のボロメータ製造方法。
[付記4]
前記基板上に作製した中間層に、前記半導体型カーボンナノチューブ分散液の液滴を提供する工程の後、前記液滴を中間層の形状の縁で乾燥させる工程を含む、付記1又は2に記載のボロメータ製造方法。
[付記5]
前記ライン形状の幅は10μm~1cmである、付記2に記載のボロメータ製造方法。
[付記6]
前記四角形状の大きさは、電極に対して略平行な辺の長さは10μm~1cm、略垂直な辺の長さは10μm~1mmである、付記2に記載のボロメータ製造方法。
[付記7]
前記円形状の大きさは、直径10μm~1cmである、付記2に記載のボロメータ製造方法。
[付記8]
前記中間層の形状の縁から10μm以内に堆積するカーボンナノチューブの厚みが30nm以上1μm以下である、付記4に記載のボロメータ製造方法。
[付記9]
カーボンナノチューブ分散液の液滴を、ライン形状に形成した中間層に対して略垂直なライン形状となるように提供する、付記1~4のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
[付記10]
前記中間層がシランカップリング剤層またはカチオンポリマー層である、付記1~9のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
[付記11]
前記半導体型カーボンナノチューブの分散液が、半導体型カーボンナノチューブを、カーボンナノチューブの総量の90質量%以上含む、付記1~10のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
[付記12]
前記半導体型カーボンナノチューブの分散液が、非イオン性の界面活性剤を臨界ミセル濃度以上、5質量%以下含む、付記1~11のいずれか1項にに記載の製造方法。
[付記13]
前記基板がSi基板であり、前記中間層がシランカップリング剤層である、付記1~12のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
[付記14]
前記基板がプラスチック基板であり、前記中間層がカチオンポリマー層である、付記1~12のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
[付記15]
前記中間層が、アミノシラン化合物層又はアミノ基を有するカチオンポリマー層である、付記1~12のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
[付記16]
前記中間層が、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)又はポリリジンの層である、付記15に記載のボロメータ製造方法。
[付記17]
前記半導体型カーボンナノチューブ分散液を、前記中間層の層上に、滴下法、インクジェット、スプレー塗布、又はディップコート法によって提供することにより、前記層上に該半導体型カーボンナノチューブ分散液の液滴を形成する、付記1~16のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
[付記18]
ボロメータが赤外線センサである、付記1~17のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
[付記19]
ボロメータがボロメータアレイである、付記1~18のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
【実施例0117】
以下、実施例によりさらに詳しく本発明について例示説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0118】
(実施例1)
単層カーボンナノチューブ((株)名城ナノカーボン、EC1.0(直径:1.1~1.5nm程度、平均直径1.2nm)100mgを石英ボートに入れ、真空雰囲気化下で電気炉を使った熱処理を行った。熱処理は、温度は900℃で、時間は2時間で行った。熱処理後の重さは、80mgに減少し、表面官能基や不純物が除去されていることが分かった。得られた単層カーボンナノチューブをピンセットで破砕後、12mgを1wt%の界面活性剤(ポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテル)水溶液40mlに浸漬させ、十分に沈めた後、超音波分散処理(BRANSON ADVANCED-DIGITAL SONIFIER装置、出力50W)を3時間行った。これにより、溶液内にカーボンナノチューブの凝集物がなくなった。この操作により、バンドルや残留触媒等を除去し、カーボンナノチューブ分散液を得た。カーボンナノチューブの長さ及び直径を観察するために、この分散液をSiO2基板上に塗布し、100℃で乾燥後、原子間力顕微鏡(AFM)観察を行った。その結果、単層カーボンナノチューブは、その70%が長さ500nm~1.5μmの範囲にあり、その平均の長さがおよそ800nmであることが分かった。
【0119】
上記により得られたカーボンナノチューブ分散液を、二重管構造の分離装置に導入した。二重管の外側管に水約15ml、カーボンナノチューブ分散液約70ml、2wt%界面活性剤水溶液約10mlを入れ、内側管にも2wt%界面活性剤水溶液約20mlを入れた。その後、内側管の下側のふたを開けることで界面活性剤の濃度が異なる3層構造ができた。内側管の下側を陽極、外側管の上側を陰極として、120Vの電圧をかけることで、半導体型カーボンナノチューブが陽極側に移動した。一方、金属型カーボンナノチューブは陰極側に移動した。半導体型及び金属型カーボンナノチューブの分離は、分離開始から約80時間後にきれいに分離した。分離工程は室温(約25℃)で実施した。陽極側に移動した半導体型カーボンナノチューブ分散液を回収し、光吸収スペクトルで分析したところ、金属型カーボンナノチューブの成分が除去されていることが分かった。また、ラマンスペクトルから、陽極側に移動したカーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブの99wt%が半導体カーボンナノチューブであった。単層カーボンナノチューブの直径は、約1.2nmが最も多く(70%以上)、平均直径は1.2nmであった。
【0120】
上記半導体型カーボンナノチューブを99wt%含むカーボンナノチューブ分散液(陽極側に移動したカーボンナノチューブ分散液)から界面活性剤を一部除去し、界面活性剤の濃度を0.05wt%にした。その後、分散液中のカーボンナノチューブの濃度が0.01wt%になるようにカーボンナノチューブ分散液A(分散液Aと記載)を調整した。この分散液Aをカーボンナノチューブ層の形成に用いた。
【0121】
SiO
2を被覆したSi基板上をアセトン、イソプロピルアルコール、水により順に洗浄し、酸素プラズマ処理で表面の有機物を除去した。
図2(上)のように、約300μm幅のライン状APTES部以外をカプトンテープでマスクしてから、0.1体積%のAPTES水溶液中に基板を30分浸漬し、水洗後、基板からカプトンテープを剥がし、乾燥した。
【0122】
ライン状のAPTES付着部の上に、上記の分散液A約10μLを滴下すると、APTESが付着していない部分(マスク部)は分散液をはじき、APTES付着部のみに分散液Aが載った。分散液Aを室温(約25℃)、大気圧、湿度60%RHで徐々に乾燥させた。水とエタノールとイソプロピルアルコールで洗浄後、110℃で乾燥し、その後、大気中200℃で加熱し、分散液A中の非イオン界面活性剤等を除去した。APTESライン形状の縁をSEM観察すると、縁から約10μm幅にカーボンナノチューブがそれぞれの縁に線状に堆積し、
図4のSEM像のように、カーボンナノチューブが高い配向度で集合していることが観察された。SEM画像を二次元フーリエ変換処理し、中心から一方向に周波数-1μm
-1から+1μm
-1までの振幅の積算値fを算出し、前記積算値fが最大となる方向xに関する積算値をfx、方向xに対して垂直である方向yに関する積算値をfyとしたとき、fx/fyを算出すると、2.1であった。カーボンナノチューブ層の厚みは、レーザー顕微鏡を用いて測定したところ、縁から10μmでは平均約100nm(10点の平均値)であった。
【0123】
上記で得られたカーボンナノチューブ配向膜上に、第1電極及び第2電極としての金を、厚み300nmで、電極間が100μmになるように蒸着して作製した。このとき、APTESの縁ライン、つまり配向しているカーボンナノチューブの配向方向と電極間で電流の流れる方向とが略平行になるように、電極を設置した。次に、カーボンナノチューブと、第1電極及び第2電極とカーボンナノチューブの接続部を含む領域を、PMMAアニソール溶液を塗布することで保護した。その後、大気中200℃の条件下で1時間乾燥し、隣の電極対に接続する不要なカーボンナノチューブを酸素プラズマ処理で除去した。
【0124】
(実施例2)
実施例1の工程と同様に、カーボンナノチューブ分散液Aを調製した。実施例1と同様にSi基板を洗浄後、
図7のように、約300μm×約300μmの四角状APTES部以外をカプトンテープでマスクしてから、0.1体積%のAPTES水溶液中に基板を30分浸漬し、水洗後、基板からカプトンテープを剥がし、乾燥した。
【0125】
四角状のAPTES付着部の上に、上記の分散液A約1μLを滴下すると、APTESが付着していない部分(マスク部)は分散液をはじき、APTES付着部のみに分散液Aが載った。約30分静置してから、水とエタノールとイソプロピルアルコールで洗浄後、110℃で乾燥し、その後、大気中において200℃で加熱し、非イオン性界面活性剤等を除去した。APTESライン形状の部分をSEM観察すると、カーボンナノチューブがランダムな網目状に付着していた。カーボンナノチューブ層の厚みは、レーザー顕微鏡を用いて測定したところ、縁から10μmでは平均約20nm(10点の平均値)であった。
【0126】
上記で得られた網目状のカーボンナノチューブ膜上に、第1電極及び第2電極としての金を、厚み300nmで、電極間が100μmになるように蒸着して作製した。このとき、APTESの1辺と電極間で電流の流れる方向とが略平行になるように、電極を設置した。次に、カーボンナノチューブと、第1電極及び第2電極とカーボンナノチューブの接続部を含む領域を、PMMAアニソール溶液を塗布することで保護した。その後、大気中200℃の条件下で1時間乾燥した。
【0127】
(比較例1)
実施例1の工程と同様に、カーボンナノチューブ分散液Aを調製した。実施例1と同様にSi基板を洗浄後、マスクせずに基板全面にAPTESを付着させた。分散液Aを基板に滴下すると、分散液Aは基板全面に広がった。水とエタノールとイソプロピルアルコールで洗浄後、110℃で乾燥し、その後、大気中において200℃で加熱し、非イオン性界面活性剤等を除去した。基板上をSEM観察すると、カーボンナノチューブがランダムな網目状に付着していた。カーボンナノチューブ層の厚みは、レーザー顕微鏡を用いて測定したところ、平均約10nmであった。
【0128】
その後、カーボンナノチューブ層上に、第1電極及び第2電極としての金を、厚み300nmで、電極間が100μmになるようになるように蒸着して作製した。カーボンナノチューブと第1電極及び第2電極を、実施例1と同じ面積のPMMAで保護し、大気中200℃で1時間乾燥し、酸素プラズマ処理で不要なカーボンナノチューブを除去した。
【0129】
表1に、実施例1、2および比較例1でそれぞれ得られたカーボンナノチューブ膜から作製されたボロメータの、300Kにおける膜抵抗測定結果と、同様に作製した10個のサンプルの抵抗ばらつきと、20℃~40℃の領域でのTCR値を示す。
【0130】
(実施例1と比較例1の比較)
実施例1の配向したカーボンナノチューブ膜は、膜抵抗が、比較例1と比べて2桁低く、サンプル間の抵抗ばらつきが小さいことが分かった。これは、実施例1ではカーボンナノチューブが配向することで、カーボンナノチューブ同士の導電パスの接点の面積が増えたからである。また、実施例1のボロメータは、比較例1のボロメータよりもTCR値が大きかった。これは、抵抗値が大きく下がり、安定した導電パスによって、温度に対する抵抗変化が安定して測定できたためと考えられる。
【0131】
(実施例2と比較例1の比較)
APTES膜でパターニングして作製した実施例2のカーボンナノチューブ膜では、比較例1と比べると、膜抵抗が比較例1と比べて1桁低く、サンプル間の抵抗ばらつきが小さいことが分かった。これは実施例2ではカーボンナノチューブが高密度のネットワークを形成し、カーボンナノチューブ同士の導電パスの接点が増えたからである。また、パターニングにより、比較例1よりも均一なネットワーク膜ができたことにより、サンプル間の膜状態のばらつきが抑えられたと考えられる。
【0132】