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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174859
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】探傷装置及び探傷検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/265 20060101AFI20221117BHJP
   G01N 27/9013 20210101ALI20221117BHJP
【FI】
G01N29/265
G01N27/9013
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080866
(22)【出願日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】594126159
【氏名又は名称】神鋼検査サービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100137143
【弁理士】
【氏名又は名称】玉串 幸久
(72)【発明者】
【氏名】松岡 良春
【テーマコード(参考)】
2G047
2G053
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047BB04
2G047BC07
2G047DB03
2G047EA13
2G047GA04
2G047GE01
2G053AA11
2G053AB21
2G053BA03
2G053BC14
2G053CA03
2G053DA01
2G053DB19
2G053DB24
2G053DB26
(57)【要約】
【課題】接触式の探傷検査を行う探傷装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本出願は、探傷検査を行う探傷装置を開示する。探傷装置は、探傷プローブと、探傷プローブを3軸方向に移動可能に構成されたマニピュレータと、探傷プローブに作用する反力及びトルクに応じて探傷プローブの位置及び姿勢をz軸方向に調整しながら、前記探傷プローブを所定の走査経路に沿って移動させる制御部と、を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物の表面を走査しながら探傷検査を行う探傷装置であって、
前記検査対象物の前記表面に向けられる端面を有する探傷プローブと、
前記探傷プローブの前記端面を前記検査対象物の前記表面に対向させて前記探傷プローブを保持するとともに、前記検査対象物の前記表面に沿う所定の走査方向と前記検査対象物の前記表面に対して直交する方向とにおいて前記探傷プローブを移動可能に構成されたマニピュレータと、
前記探傷プローブが前記検査対象物から受ける反力及びトルクを検出する検出部と、
前記走査方向に前記探傷プローブが移動するように前記マニピュレータを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記マニピュレータを制御して前記探傷プローブを前記走査方向に移動させている間において、前記検出部によって検出された前記反力が所定の閾値範囲内の大きさになるように前記検査対象物の前記表面に対して直交する方向における前記探傷プローブの位置を調整するとともに、前記検出部によって検出された前記トルクが所定のトルク閾値の範囲内になるように前記探傷プローブを傾動させて前記探傷プローブの姿勢を調整するように、前記マニピュレータを制御するように構成されている、探傷装置。
【請求項2】
前記探傷プローブは、前記端面から超音波を出射するとともに、前記検査対象物の前記表面に塗布された接触媒質を介して前記端面において超音波エコーを受信するように構成されている、請求項1に記載の探傷装置。
【請求項3】
前記探傷プローブは、内蔵したコイルに電流を流すことにより検査対象物の表面に渦電流を生じさせるように構成されている、請求項1に記載の探傷装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記検出部によって検出された前記反力が前記閾値範囲から外れた場合には、前記検査対象物に対する走査に異常が生じたと判定し、前記異常が生じたまま前記検査対象物に対する走査が続行されることを防ぐための所定の異常時制御を実行するように構成されている、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の探傷装置。
【請求項5】
前記検出部は、前記探傷プローブの前記端面に作用する摩擦力を検出するように構成され、
前記制御部は、前記摩擦力が所定の摩擦閾値を上回った場合には、前記検査対象物に対する走査に異常が生じたと判定し、前記異常が生じたまま前記検査対象物に対する走査が続行されることを防ぐための所定の異常時制御を実行するように構成されている、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の探傷装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記トルクが前記トルク閾値を上回った場合には、前記検査対象物に対する走査に異常が生じたと判定し、前記異常が生じたまま前記検査対象物に対する走査が続行されることを防ぐための所定の異常時制御を実行するように構成されている、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の探傷装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記異常時制御において、前記マニピュレータを停止させるように構成されている、請求項4乃至6のいずれか1項に記載の探傷装置。
【請求項8】
前記検査対象物の前記表面に対する走査が行われている間における前記探傷プローブの位置の履歴データを格納するように構成された記憶部を更に備え、
前記異常時制御において、前記制御部は、前記マニピュレータを停止させた後に、前記マニピュレータの停止前の前記探傷プローブの位置に前記探傷プローブを戻すように前記マニピュレータを前記履歴データに基づいて制御するとともに、前記マニピュレータの停止前の位置に戻された前記探傷プローブを、前記マニピュレータの停止前の前記探傷プローブの移動速度よりも低い速度で、前記マニピュレータが停止したときの前記探傷プローブの位置に向けて移動させて前記検査対象物を走査するように前記マニピュレータを制御する、請求項7に記載の探傷装置。
【請求項9】
探傷プローブの端面を検査対象物の表面に沿って移動させつつ前記検査対象物を走査して探傷を行う探傷検査方法であって、
前記検査対象物の前記表面に前記探傷プローブの前記端面を対向させた状態で、前記検査対象物の前記表面に沿う所定の走査方向に前記探傷プローブを移動しながら、前記探傷プローブが前記検査対象物から受ける反力及びトルクを検出することと、
前記走査方向に前記探傷プローブを移動している間において、前記検出された反力が所定の閾値範囲内の大きさになるように前記検査対象物の前記表面に対して直交する方向に前記探傷プローブの位置を調整するとともに、前記検出された反力が所定のトルク閾値の範囲内になるように前記探傷プローブを傾動させて前記探傷プローブの姿勢を調整することと、を備えている、探傷検査方法。
【請求項10】
前記検出された反力が前記閾値範囲から外れた場合には、前記検査対象物に対する走査に異常が生じたと判定し、前記異常が生じたまま前記検査対象物に対する走査が続行されることを防ぐための所定の異常時制御を実行することを更に備えている、請求項9に記載の探傷検査方法。
【請求項11】
前記探傷プローブを前記走査方向に移動している間において、前記探傷プローブの前記端面に作用する摩擦力を検出することと、
前記摩擦力が所定の摩擦閾値を上回った場合には、前記検査対象物に対する走査に異常が生じたと判定し、前記異常が生じたまま前記検査対象物に対する走査が続行されることを防ぐための所定の異常時制御を実行することと、を更に備えている、請求項9に記載の探傷検査方法。
【請求項12】
前記探傷プローブを前記走査方向に移動している間において、前記探傷プローブが傾動したときに前記探傷プローブに作用するトルクを検出することと、
前記トルクが前記トルク閾値を上回った場合には、前記検査対象物に対する走査に異常が生じたと判定し、前記異常が生じたまま前記検査対象物に対する走査が続行されることを防ぐための所定の異常時制御を実行することと、を更に備えている、請求項9に記載の探傷検査方法。
【請求項13】
前記異常時制御において、前記探傷プローブを停止する、請求項10乃至12のいずれか1項に記載の探傷検査方法。
【請求項14】
前記検査対象物の前記表面に対する走査が行われている間における前記探傷プローブの位置の履歴データを記憶部に格納することと、
前記異常時制御において前記探傷プローブを停止した後に、前記履歴データに基づいて、前記探傷プローブの停止前の前記探傷プローブの位置に前記探傷プローブを戻すことと、
停止前の位置に戻された前記探傷プローブを、前記探傷プローブが停止した位置に向けて移動することと、を更に備え、
前記探傷プローブが停止した位置に向けて移動するときの前記探傷プローブの移動速度は、前記探傷プローブを停止する前における前記探傷プローブの移動速度よりも小さい、請求項13に記載の探傷検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、探傷検査を行う探傷装置及び探傷検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
検査対象物に対して探傷検査を行う方法として、超音波エコーを用いて探傷を行う方法(超音波探傷)と渦電流を用いて探傷を行う方法(渦電流探傷)とが知られている。
【0003】
超音波探傷による探傷装置が、特許文献1に開示されている。特許文献1では、可動アームを用いて超音波センサを動かしながら、超音波エコーのデータを取得するとともに、超音波センサの位置のデータ及び超音波エコーのデータを互いに関連付けて記憶する。そして、記憶されたデータに基づいて、検査対象物の傷や欠陥の位置を検出する。
【0004】
渦電流探傷では、コイルを内蔵した探傷プローブの端面が検査対象物の表面に面接触されることにより、コイルは、検査対象物の表面に近接した状態に保たれる。この状態で、コイルに電流を流すと、検査対象物の表面に渦電流が流れる。
【0005】
探傷プローブの端面と検査対象物との面接触状態を維持したまま、探傷プローブは、検査対象物の表面に沿って移動される。この移動の間において、渦電流の変化がモニタされ、渦電流に変化が生じた場合には、この変化が生じた位置において傷が存在していると判定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5495562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
超音波探傷において、検査対象物の表面のうねりなどの表面形状情報を探傷検査前に取得すれば(いわゆるティーチング作業)、探傷プローブの位置及び姿勢を検査対象物の表面の形状に合わせて設定可能である。しかしながら、探傷プローブの走査経路全体に亘って表面形状情報を取得することの労力は多大である。
【0008】
渦電流探傷では、渦電流が探傷プローブと検査対象物の表面との接触状態に影響されることから、探傷プローブの端面全体が面接触した状態を維持することが必要とされる。探傷プローブの端面の一部又は全体が検査対象物の表面から離れた状態(リフトオフが増大した状態)になれば、渦電流は小さくなる。渦電流が小さくなっている状態では、渦電流の変化も小さくなり、探傷精度が悪化する。このような状態で検査対象物に対する走査がなされないように、従来の渦電流探傷においても、探傷プローブの走査経路全体に亘って表面形状情報を取得するために多大な労力を要するティーチング作業がなされている。
【0009】
本発明は、ティーチング作業の手間を減らし且つ検査対象物の表面に探傷プローブの端面を沿わせながら検査対象物の表面を走査することを可能にする探傷装置及び探傷検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一局面に係る探傷装置は、検査対象物の表面を走査しながら探傷検査を行うように構成されている。探傷装置は、前記検査対象物の前記表面に向けられる端面を有する探傷プローブと、前記探傷プローブの前記端面を前記検査対象物の前記表面に対向させて前記探傷プローブを保持するとともに、前記検査対象物の前記表面に沿う所定の走査方向と前記検査対象物の前記表面に対して直交する方向とにおいて前記探傷プローブを移動可能に構成されたマニピュレータと、前記探傷プローブが前記検査対象物から受ける反力及びトルクを検出する検出部と、前記走査方向に前記探傷プローブが移動するように前記マニピュレータを制御する制御部と、を備えている。前記制御部は、前記マニピュレータを制御して前記探傷プローブを前記走査方向に移動させている間において、前記検出部によって検出された前記反力が所定の閾値範囲内の大きさになるように前記検査対象物の前記表面に対して直交する方向における前記探傷プローブの位置を調整するとともに、前記検出部によって検出された前記トルクが所定のトルク閾値の範囲内になるように前記探傷プローブを傾動させて前記探傷プローブの姿勢を調整するように、前記マニピュレータを制御するように構成されている。
【0011】
上述の構成によれば、探傷プローブは、検査対象物の表面に対向するようにマニピュレータによって保持されている。この保持状態で、制御部がマニピュレータを制御すると、探傷プローブは、検査対象物の表面に沿って移動する。
【0012】
この間、検出部は、探傷プローブに作用する検査対象物からの反力を検出する。この反力は、検査対象物の表面にうねりや粗度の変化が生じていれば増減する。反力が減少した場合、検査対象物の表面のうねりにより、探傷プローブの端面が検査対象物の表面から離れつつある状態が想定される。このような場合、制御部は、反力が閾値範囲内の大きさになるように、検査対象物の表面に対して直交する方向において探傷プローブの位置の調整を行うので、探傷プローブが検査対象物の表面から離れてしまうことを防止することができる。
【0013】
逆に、反力が増加した場合、検査対象物の表面のうねりにより、探傷プローブの端面が検査対象物の表面に接近しつつある状態が想定される。このような場合、制御部は、反力が閾値範囲内の大きさになるように、検査対象物の表面に対して直交する方向において探傷プローブの位置の調整を行うので、探傷プローブにかかる負荷は過度に大きくならない。
【0014】
検査対象物の表面と探傷プローブの端面とが互いに平行な関係にあれば、反力は、探傷プローブの端面全体に亘って略均一に作用し得る。しかしながら、検査対象物の表面にうねりが生じていた場合、検査対象物の表面と探傷プローブの端面とが互いに平行でなくなり、端面において他の部分よりも強い反力を受ける部分が生じうる。たとえば、端面の前側部分が強い反力を受ければ、検出部は、探傷プローブを後方に傾動させるようなトルクを検出し得る。したがって、検出部が反力及びトルクを検出することにより、検査対象物の表面と探傷プローブの端面とが互いに平行になっているか否かが分かる。反力が調整されている場合において、検査対象物の表面と探傷プローブの端面とが非平行状態になったときに得られるトルクの値がトルク閾値として設定されれば、制御部の制御によって、探傷プローブの姿勢は、検査対象物の表面と探傷プローブの端面とが略平行な状態となるように調整され得る。すなわち、制御部は、検出部によって検出されたトルクが所定のトルク閾値の範囲内になるように探傷プローブを傾動させて探傷プローブの姿勢を調整するので、検査対象物の表面と探傷プローブの端面とが略平行な状態で互いに接触し得る。すなわち、探傷プローブの端面は、検査対象物の表面と面接触し得る。したがって、探傷プローブの傾動姿勢を制御部に事前に覚えさせるティーチング作業が不要になる。
【0015】
上述の構成に関して、前記探傷プローブは、前記端面から超音波を出射するとともに、前記検査対象物の前記表面に塗布された接触媒質を介して前記端面において超音波エコーを受信するように構成されていてもよい。
【0016】
上述の構成に関して、前記探傷プローブは、内蔵したコイルに電流を流すことにより検査対象物の表面に渦電流を生じさせるように構成されていてもよい。
【0017】
上述の構成によれば、探傷プローブの傾動姿勢を制御部に事前に覚えさせるティーチング作業が行われなくとも、探傷プローブは、検査対象物の表面形状に合わせて傾動しながら検査対象物を走査することができる。すなわち、探傷プローブの端面全体が面接触した状態を維持したまま、探傷プローブは、検査対象物の表面に沿って移動することができる。この結果、超音波探傷が行われるときには、探傷プローブと検査対象物との間に空気層が形成されず、当該空気層に妨げられることなく、超音波を出射し、超音波エコーを、接触媒質を通じて受信することができる。また、渦電流探傷が行われるときには、渦電流は、検査対象物の表面に対する探傷プローブの離接の影響を受けにくくなり、検査対象物に対する探傷を精度よく行うことができる。
【0018】
上述の構成に関して、前記制御部は、前記検出部によって検出された前記反力が前記閾値範囲から外れた場合には、前記検査対象物に対する走査に異常が生じたと判定し、前記異常が生じたまま前記検査対象物に対する走査が続行されることを防ぐための所定の異常時制御を実行するように構成されていてもよい。
【0019】
上述の構成によれば、反力が閾値範囲から外れた場合、探傷プローブと検査対象物との面接触状態が失われていたり、探傷プローブが検査対象物に過度に強い力で押し付けられていたりする可能性がある。このような状態のまま、検査対象物に対する走査が続行されることを防止するために、制御部は、異常時制御を実行する。
【0020】
上述の構成に関して、前記検出部は、前記探傷プローブの前記端面に作用する摩擦力を検出するように構成されていてもよい。前記制御部は、前記摩擦力が所定の摩擦閾値を上回った場合には、前記検査対象物に対する走査に異常が生じたと判定し、前記異常が生じたまま前記検査対象物に対する走査が続行されることを防ぐための所定の異常時制御を実行するように構成されていてもよい。
【0021】
上述の構成によれば、探傷プローブの端面に作用する摩擦力は、マニピュレータにおける探傷プローブの保持部分に回転モーメントとして作用する。検査対象物の表面のうねりにより探傷プローブの端面が検査対象物の表面に接近しつつある状態が生じていれば、探傷プローブの端面に作用する摩擦力(すなわち、回転モーメント)は増加する。探傷プローブの端面が検査対象物の表面に面接触している状態であったとしても、摩擦閾値を超えるほど大きな摩擦力が検出部によって検出されれば、探傷プローブの端面の一部が検査対象物の表面から離れるほど探傷プローブが大きく傾動することが予想される。このような状態のまま、検査対象物に対する走査が続行されることを防止するために、制御部は、異常時制御を実行する。
【0022】
上述の構成に関して、前記検出部は、前記探傷プローブが傾動したときに前記探傷プローブに作用するトルクを検出するように構成されていてもよい。前記制御部は、前記トルクが所定のトルク閾値を上回った場合には、前記検査対象物に対する走査に異常が生じたと判定し、前記異常が生じたまま前記検査対象物に対する走査が続行されることを防ぐための所定の異常時制御を実行するように構成されていてもよい。
【0023】
探傷プローブが検査対象物の平坦な面を走査し、その後、検査対象物の表面から突出した微小突起に接触して傾動した場合、摩擦力をモニタして探傷プローブの傾動を予測することは難しい。
【0024】
上述の構成によれば、検出部は、探傷プローブが傾動したときに探傷プローブに作用するトルクを検出するので、検査対象物の表面の状態に依らず、探傷プローブが傾動したことを検知することが可能になる。検出部によって検出されたトルクが、トルク閾値を超えるほど大きければ、探傷プローブが大きく傾動し、探傷プローブの端面の一部が、検査対象物の表面から離れてしまっていることが想定される。このような状態のまま、検査対象物に対する走査が続行されることを防止するために、制御部は、異常時制御を実行する。
【0025】
上述の構成に関して、前記制御部は、前記異常時制御において、前記マニピュレータを停止させるように構成されていてもよい。
【0026】
上述の構成によれば、制御部は、検査対象物に対する走査に異常が生じたと判定したときには、マニピュレータを停止させ、異常検知時以降における検査対象物に対する走査を中断させることができる。
【0027】
上述の構成に関して、探傷装置は、前記検査対象物の前記表面に対する走査が行われている間における前記探傷プローブの位置の履歴データを格納するように構成された記憶部を更に備えていてもよい。前記異常時制御において、前記制御部は、前記マニピュレータを停止させた後に、前記マニピュレータの停止前の前記探傷プローブの位置に前記探傷プローブを戻すように前記マニピュレータを前記履歴データに基づいて制御するとともに、前記マニピュレータの停止前の位置に戻された前記探傷プローブを、前記マニピュレータの停止前の前記探傷プローブの移動速度よりも低い速度で、前記マニピュレータが停止したときの前記探傷プローブの位置に向けて移動させて前記検査対象物を走査するように前記マニピュレータを制御してもよい。
【0028】
上述の構成によれば、検査対象物の表面に対する走査が行われている間における探傷プローブの位置の履歴データは、記憶部に格納される。したがって、マニピュレータが停止された後において、制御部は、探傷プローブがマニピュレータの停止前の位置に戻るようにマニピュレータを制御することができる。探傷プローブの位置を戻した後、制御部は、マニピュレータが停止したときの探傷プローブの位置に向けて探傷プローブを移動させて検査対象物を走査するようにマニピュレータを制御する。このときの探傷プローブの移動速度は、マニピュレータの停止前における探傷プローブの移動速度よりも低くなっているので、制御部の制御は、検査対象物の表面のうねりに追従しやすくなる。すなわち、制御部は、このうねりに合わせて、検査対象物の表面に対して直交する方向における探傷プローブの位置が変わるようにマニピュレータを制御することにより、反力を閾値範囲内に保つとともに摩擦力を摩擦閾値以下に保ちやすくなる。また、探傷プローブが低い移動速度で移動した場合には、トルク閾値よりも大きなトルクを生じさせた原因物(たとえば、検査対象物の表面上の微小突起)に探傷プローブが接触しても、この原因物から探傷プローブが受ける力が小さくなる。すなわち、検出部により検出されるトルクは、トルク閾値を上回りにくくなる。したがって、マニピュレータが停止した位置においても探傷プローブと検査対象物の表面との間の面接触状態を維持することが可能になる。この結果、マニピュレータを一旦停止させた後に、検査対象物に対する走査を再開及び継続することができる。
【0029】
本発明の他の局面に係る探傷検査方法は、探傷プローブの端面を検査対象物の表面に沿って移動させつつ前記検査対象物を走査して探傷を行うために利用可能である。探傷検査方法は、前記検査対象物の前記表面に前記探傷プローブの前記端面を対向させた状態で、前記検査対象物の前記表面に沿う所定の走査方向に前記探傷プローブを移動しながら、前記探傷プローブが前記検査対象物から受ける反力及びトルクを検出することと、前記走査方向に前記探傷プローブを移動している間において、前記検出された反力が所定の閾値範囲内の大きさになるように前記検査対象物の前記表面に対して直交する方向に前記探傷プローブの位置を調整するとともに、前記検出された反力が所定のトルク閾値の範囲内になるように前記探傷プローブを傾動させて前記探傷プローブの姿勢を調整することと、を備えている。
【0030】
上述の構成に関して、探傷検査方法は、前記検出された反力が前記閾値範囲から外れた場合には、前記検査対象物に対する走査に異常が生じたと判定し、前記異常が生じたまま前記検査対象物に対する走査が続行されることを防ぐための所定の異常時制御を実行することを更に備えていてもよい。
【0031】
上述の構成に関して、探傷検査方法は、前記探傷プローブを前記走査方向に移動している間において、前記探傷プローブの前記端面に作用する摩擦力を検出することと、前記摩擦力が所定の摩擦閾値を上回った場合には、前記検査対象物に対する走査に異常が生じたと判定し、前記異常が生じたまま前記検査対象物に対する走査が続行されることを防ぐための所定の異常時制御を実行することと、を更に備えていてもよい。
【0032】
上述の構成に関して、探傷検査方法は、前記探傷プローブを前記走査方向に移動している間において、前記探傷プローブが傾動したときに前記探傷プローブに作用するトルクを検出することと、前記トルクが所定のトルク閾値を上回った場合には、前記検査対象物に対する走査に異常が生じたと判定し、前記異常が生じたまま前記検査対象物に対する走査が続行されることを防ぐための所定の異常時制御を実行することと、を更に備えていてもよい。
【0033】
上述の構成に関して、前記異常時制御において、前記探傷プローブを停止してもよい。
【0034】
上述の構成に関して、探傷検査方法は、前記検査対象物の前記表面に対する走査が行われている間における前記探傷プローブの位置の履歴データを記憶部に格納することと、前記異常時制御において前記探傷プローブを停止した後に、前記履歴データに基づいて、前記探傷プローブの停止前の前記探傷プローブの位置に前記探傷プローブを戻すことと、停止前の位置に戻された前記探傷プローブを、前記探傷プローブが停止した位置に向けて移動することと、を更に備えていてもよい。前記探傷プローブが停止した位置に向けて移動するときの前記探傷プローブの移動速度は、前記探傷プローブを停止する前における前記探傷プローブの移動速度よりも小さくてもよい。
【発明の効果】
【0035】
上述の探傷装置は、ティーチング作業を減らし且つ検査対象物の表面に探傷プローブの端面を沿わせながら検査対象物の表面を走査することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】超音波探傷を行う探傷装置の概略図である。
図2】探傷装置の制御方法の概略的なフローチャートである。
図3】平坦な面を走査する探傷プローブの概略図である。
図4】探傷プローブが走査方向に移動するにつれて探傷プローブの端面との距離が小さくなるように傾斜した面に差し掛かった探傷プローブの概略図である。
図5】探傷プローブが走査方向に移動するにつれて探傷プローブの端面との距離が大きくなるように傾斜した面に差し掛かった探傷プローブの概略図である。
図6】障害物が存在している面を走査する探傷プローブの概略図である。
図7】探傷装置の制御方法の概略的なフローチャートである。
図8】渦電流探傷を行う探傷装置の探傷プローブの概略図である。
図9】渦電流の変化を表す概略図である。
図10】Y-Z平面上で検査対象物を走査するマニピュレータの概略図である。
図11】曲面上での走査方向及び探傷プローブの位置調整方向の関係を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の探傷装置100の概略図である。図1を参照して、探傷装置100が説明される。
【0038】
探傷装置100は、直接接触法による超音波探傷を行うように構成されている。直接接触法による超音波探傷では、探傷検査に利用される超音波及び超音波エコーを効率よく伝播させるために、接触媒質220の層が、検査対象物210の表面に略一様な厚さで形成される。接触媒質220としては、空気よりも大きな音響インピーダンスを有する材料(たとえば、グリセリン、モータオイルやマシンオイル)が用いられる。探傷装置100は、検査対象物210の表面を走査しながら、接触媒質220を通じて超音波を出射することにより得られた超音波エコーを受信して探傷検査を行うように構成されている。
【0039】
探傷装置100は、マニピュレータ111(6軸の多関節アームロボット)と、制御部112と、探傷プローブ120と、検出部130と、記憶部140と、を備えている。探傷装置100は、制御部112でマニピュレータ111を制御し、マニピュレータ111によって保持された探傷プローブ120を所定の走査経路に沿って移動させるように構成されている。検出部130及び記憶部140は、制御部112による制御に利用される。
【0040】
マニピュレータ111は、第1軸151~第6軸156を有しており、第1軸151~第6軸156回りに各アームを回転可能に構成されている。
【0041】
マニピュレータ111は、ベース取付面115を有する土台113に取り付けられている。マニピュレータ111の先端は、探傷プローブ120及び検出部130を取り付けるためのメカニカルインターフェース116として構成されている。土台113のベース取付面115には、ベース座標系(X軸、Y軸及びZ軸からなる右手直交座標系)の座標原点が設定されている。X軸及びY軸は、水平に延びる軸である。本実施形態では、検査対象物210は、その走査面がX-Y平面に沿うように配置され、X-Y平面内で走査が行われる。Z軸は、垂直に延びる軸であり、X軸及びY軸に対して直角の方向に延びている。ベース座標系は固定された座標系であり、X軸、Y軸及びZ軸の向きは、マニピュレータ111の動きにかかわらず一定である。
【0042】
マニピュレータ111は、メカニカルインターフェース116で探傷プローブ120及び検出部130を保持するとともに、ベース座標系のX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に探傷プローブ120及び検出部130を移動可能に構成されている。マニピュレータ111のメカニカルインターフェース116には、ツール座標系(x軸、y軸及びz軸からなる右手直交座標系)の座標原点が設定されている。ツール座標系のx軸及びy軸は、メカニカルインターフェース116の面に沿う方向に設定されている。z軸は、メカニカルインターフェース116の面に垂直な方向に設定されている。ツール座標系の座標原点は、メカニカルインターフェース116とともにベース座標系のX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に移動し得る。
【0043】
メカニカルインターフェース116、ひいては、メカニカルインターフェース116に取り付けられた探傷プローブ120及び検出部130の向きは、第1軸151~第6軸156回りのマニピュレータ111の回転動作により変わる。メカニカルインターフェース116の向きが変われば、ツール座標系のx軸、y軸及びz軸の向きは、メカニカルインターフェース116の向きの変化に合わせて変わる。
【0044】
探傷プローブ120は、端面121から超音波を出射するとともに端面121において検査対象物210からの超音波エコーを受信するように構成されている。探傷プローブ120は、端面121がツール座標系のz軸方向において検査対象物210に対向するようにマニピュレータ111のメカニカルインターフェース116に取り付けられている。
【0045】
探傷プローブ120は、データ収集装置(図示せず)に電気的に接続され、データ収集装置の制御下で超音波の出射を開始するように構成されていてもよい。また、探傷プローブ120は、受信した超音波エコーに基づき探傷信号(超音波エコーの強度信号)をデータ収集装置に出力するように構成されてもよい。
【0046】
検出部130は、検査対象物210から探傷プローブ120が受ける力を検出するようにマニピュレータ111のメカニカルインターフェース116に取り付けられている。詳細には、検出部130は、以下に示す力を検出するように構成されている。なお、検出部130が検出する力の向きは、ツール座標系にしたがう。検出部130は、たとえば、6軸の力覚センサを用いて構成されてもよい。
・検査対象物210から探傷プローブ120が受ける反力Fz(図1では、ツール座標系のz軸において負の方向に作用する力)。
・探傷プローブ120の端面121に作用する摩擦力Fx,Fy。
・ツール座標系のx軸周りに探傷プローブ120に作用するトルクTx。
・ツール座標系のy軸周りに探傷プローブ120に作用するトルクTy。
【0047】
検出部130は、検出された反力Fz、摩擦力Fx,Fy及びトルクTx,Tyを表す信号を制御部112に出力するように構成されている。なお、検出部130は、探傷プローブ120の端面121が検査対象物210の表面から離れた状態である場合、略ゼロの値を反力Fzとして出力するように構成されている。反力Fzの値が大きくなれば大きくなるほど、探傷プローブ120の端面121は、強い力で検査対象物210の表面に押し付けられている。
【0048】
制御部112は、マニピュレータ111に電気的に接続され、マニピュレータ111を制御するように構成されている。具体的には、制御部112に対して、ベース座標系を用いて検査対象物210に対する走査経路が予め設定される。制御部112は、この走査経路を沿って探傷プローブ120がベース座標系のX軸方向及び/又はY軸方向に移動するようにマニピュレータ111を制御する。また、制御部112は、探傷プローブ120の移動速度についてマニピュレータ111に指示を与えるように構成されている。
【0049】
加えて、制御部112は、検出部130に電気的に接続され、検出部130からの信号に応じてベース座標系のZ軸方向における探傷プローブ120の位置が変わるようにマニピュレータ111を制御したり、マニピュレータ111を停止させたりする。検出部130からの信号に基づく制御部112によるマニピュレータ111への制御は、別途詳述される。
【0050】
また、制御部112は、記憶部140にも電気的に接続され、探傷プローブ120が移動している間におけるベース座標系のX軸、Y軸及びZ軸上の探傷プローブ120の位置のデータ及びZ軸周りのマニピュレータ111の回転位置のデータを出力する。これらのデータは、記憶部140に履歴データとして格納され、マニピュレータ111の停止後における制御に利用される。マニピュレータ111の停止後における制御は、別途詳述される。
【0051】
探傷装置100の動作を以下に説明する。なお、ここでは、ベース座標系のX-Y平面内でX軸方向及びY軸方向において走査を行う場合について説明する。
【0052】
まず、検査対象物210に対する探傷検査のための準備がなされる(ステップS105:探傷準備)。探傷準備において、探傷プローブ120がマニピュレータ111に取り付けられる。この時点では、探傷プローブ120の端面121は、検査対象物210の表面から離間した位置(図1において、ベース座標系のZ軸の正の方向に離間した位置)にある。この状態で、制御部112は、探傷プローブ120の位置がベース座標系のX軸方向及びY軸方向において走査開始位置に一致するようにマニピュレータ111を制御する。
【0053】
その後、制御部112は、探傷プローブ120が検査対象物210に接近するようにマニピュレータ111を制御する(図1において、ベース座標系のZ軸の負の方向)。このとき、制御部112は、検出部130が検出する反力Fzに基づいて、探傷プローブ120の端面121が検査対象物210に接触したか否かを判定する。すなわち、探傷プローブ120の端面121が検査対象物210から離れていれば、検出部130が検出する反力Fzは、略ゼロの値になる。一方、探傷プローブ120の端面121が検査対象物210に接触すれば、検出部130が検出する反力Fzは、ある程度大きな値になる。したがって、制御部112は、検出部130が検出する反力Fzに基づいて、探傷プローブ120の端面121が検査対象物210に接触したか否かを判定することができる。
【0054】
探傷プローブ120の端面121が検査対象物210に接触しているとの判定結果が得られた場合において、制御部112は、検出部130が検出するトルクTx,Tyに基づいて、端面121が検査対象物210に対して面接触しているか否かを判定する。すなわち、探傷プローブ120の端面121において、一部が検査対象物210に接触しており、残りの部分が検査対象物210から離れていれば、検出部130が検出するトルクTx,Tyのうち少なくとも一方は、大きな値になる。一方、探傷プローブ120の端面121が全体的に検査対象物210に接触していれば、検出部130が検出するトルクTx,Tyは、ゼロ又はゼロに近い値になる。したがって、検出部130が検出するトルクTx,Tyに対して、検出部130の検出誤差を考慮して、ゼロに近いトルク閾値を設定すれば、探傷プローブ120の端面121が検査対象物210に面接触しているか否かが分かる。すなわち、検出部130が検出するトルクTx,Tyがともに、このように設定されたトルク閾値以下であれば、探傷プローブ120の端面121が検査対象物210に対して面接触しているものとして、マニピュレータ111に対する制御が実行され得る。
【0055】
逆に、検出部130が検出するトルクTx,Tyのうち少なくとも一方が、トルク閾値を上回っていれば、探傷プローブ120の端面121が検査対象物210に対して面接触していないものとして、マニピュレータ111に対する制御が実行され得る。詳細には、トルクTx,Tyのうち少なくとも一方が、トルク閾値を上回っていれば、制御部112は、トルクTx,Tyの両方が、トルク閾値以下になるように、マニピュレータ111の第1軸151~第6軸156の軸回りにおけるアームの位置を調整する。このような制御は、マニピュレータ111の力と位置を同時に制御する方式、たとえば、ハイブリッド制御方式又はコンプライアンス制御方式により実現可能である。
【0056】
上述の制御により、探傷プローブ120の端面121が検査対象物210に面接触した状態が得られると、制御部112は、検出部130が検出する反力Fzが所定の目標値に達しているか否かを判定する(ステップS110)。この目標値は、検査対象物210に対する走査の間において、探傷プローブ120が検査対象物210から過度に強い力を受けないように設定されている。
【0057】
検出部130が検出する反力Fzが目標値に達していなければ(ステップS110:No)、制御部112は、マニピュレータ111に検査対象物210への探傷プローブ120の接近を継続させる。検出部130よって検出された反力Fzが目標値に達すると(ステップS110:Yes)、検査対象物210に対する走査が開始される。検査対象物210に対する走査の間、探傷プローブ120は、端面121から超音波を出射し、検査対象物210からの超音波エコーを端面121で受信する。
【0058】
検査対象物210に対する走査が開始されると、制御部112は、探傷プローブ120が所定の第1速度で所定の距離だけ走査経路に沿って移動するようにマニピュレータ111を制御する(ステップS115)。この間、制御部112は、検出部130が検出した反力Fz、摩擦力Fx,Fy及びトルクTx,Tyをモニタし、所定の判定処理を行う(ステップS120)。
【0059】
この判定処理において、反力Fzに対して設定された所定の閾値範囲、摩擦力Fx,Fyに対して設定された所定の摩擦閾値及び上述のトルク閾値が利用される。なお、摩擦閾値は、探傷プローブ120の端面121全体が検査対象物210の表面に面接触していることを保証できるような大きさに設定されている。また、反力Fzに対する閾値範囲の下限値は、探傷プローブ120の端面121が検査対象物210の表面に接触していることを保証できるような値に設定されている。閾値範囲の上限値は、探傷プローブ120が許容できる反力Fzより低い値に設定されている。詳細には、閾値範囲は、検査対象物210の表面上の接触媒質220の所定の膜厚が得られれば、反力Fzが下限値と上限値との間に収まるように設定されている。なお、上述の目標値は、閾値範囲内の大きさに設定されている。
【0060】
制御部112は、検出部130が検出した摩擦力Fx,Fy及びトルクTx,Tyを、摩擦閾値及びトルク閾値と比較する(ステップS120)。検出部130が検出した摩擦力Fx,Fy及びトルクTx,Tyのいずれもが摩擦閾値及びトルク閾値以下であれば、制御部112は、探傷プローブ120の端面121が検査対象物210の表面に面接触した状態を維持していると判定する。
【0061】
制御部112は、検出部130が検出した反力Fzが上述の閾値範囲に収まるようにベース座標系のZ軸方向における探傷プローブ120の位置をマニピュレータ111に調整させる。詳細には、制御部112は、検出部130が検出する反力Fzが上述の目標値に近づくようにベース座標系のZ軸方向における探傷プローブ120の位置をマニピュレータ111に調整させる。
【0062】
検出部130が検出する反力Fzは、検査対象物210の表面の形状に影響される。検査対象物210の表面が、図3に示すように、探傷プローブ120の走査方向(ベース座標系におけるX軸及びY軸方向)に対して平行であれば、検出部130が検出する反力Fzの変動は小さく、目標値に近い値を継続的に取り得る。
【0063】
一方、検査対象物210の表面にうねりが生じていれば、検出部130が検出する反力Fzは、検査対象物210の表面が探傷プローブ120の走査方向(ベース座標系におけるX軸及びY軸方向)に対して平行であるときよりも大きく変動する。
【0064】
たとえば、検査対象物210の表面にうねりが生じている場合として、図4に示すような表面形状が考えられる。図4において、検査対象物210の表面には、探傷プローブ120がベース座標系のX軸において正の方向に移動するにつれて探傷プローブ120の端面121と検査対象物210の表面との間の距離が小さくなるような勾配が生じている。探傷プローブ120がこの勾配部分に差し掛かれば、検出部130が検出する反力Fz及び摩擦力Fxが増加する。この状態において、反力Fzを下げて目標値に近づけるために、制御部112は、ベース座標系のZ軸において正の方向に探傷プローブ120を動かす。これにより、反力Fzは低下するので、摩擦力Fxも小さくなる。
【0065】
反力Fzを低下させた後においても、検査対象物210の表面の勾配部分では、探傷プローブ120の端面121にかかる反力Fzが不均一になっている可能性がある。すなわち、検査対象物210の表面の勾配部分では、探傷プローブ120の端面121において、走査方向における前側部分は、後側部分よりも強い反力を受け得る。このような反力の状態が生じた場合、検出部130は、トルク閾値を上回るトルクTyを検出し得る。この場合には、制御部112は、検出部130が検出するトルクTyがトルク閾値以下になるまで、マニピュレータ111の第1軸151~第6軸156の軸回りにおけるアームの位置を調整する。この結果、探傷プローブ120の端面121が検査対象物210の表面に沿うように、探傷プローブ120は、走査方向において後方に傾動する。
【0066】
図4の勾配とは逆の勾配が生じている場合が、図5に示されている。すなわち、図5の検査対象物210の表面には、探傷プローブ120がベース座標系のX軸において正の方向に移動するにつれて探傷プローブ120の端面121と検査対象物210の表面との間の距離が大きくなるような勾配が生じている。この勾配部分に探傷プローブ120が差し掛かれば、反力Fz及び摩擦力Fxは減少する。この場合、制御部112は、ベース座標系のZ軸において負の方向に探傷プローブ120を動かす。これにより、反力Fzは増加し、目標値に近づく。
【0067】
このとき、探傷プローブ120の端面121のうち走査方向における後側部分のみが検査対象物210に当接し、前側部分が検査対象物210から離れた状態になっていることが想定される。この場合、検出部130は、トルク閾値を上回るトルクTyを検出し得る。検出部130がトルク閾値を上回るトルクTyを検出した場合には、制御部112は、検出部130が検出するトルクTyがトルク閾値以下になるまで、マニピュレータ111の第1軸151~第6軸156の軸回りにおけるアームの位置を調整する。この結果、探傷プローブ120の端面121が検査対象物210の表面に沿うように、探傷プローブ120は、走査方向において前方に傾動する。
【0068】
探傷プローブ120が所定の距離だけ移動している間において(ステップS115)、制御部112は、上述の判定処理(ステップS120)を行いながら、マニピュレータ111を制御し、ベース座標系のZ軸方向における探傷プローブ120の位置調整を行う。この判定処理において、以下の条件全てが成立していれば、制御部112は、探傷プローブ120が所定の距離だけ移動している間における走査は正常であると判定する(ステップS120:Yes)。
・反力Fzが閾値範囲に収まっている。
・摩擦力Fx,Fyが摩擦閾値以下である。
・トルクTx,Tyがトルク閾値以下である。
【0069】
走査が正常であるとの判定結果が得られた場合、探傷プローブ120のX軸、Y軸及びZ軸上の探傷プローブ120の位置及びZ軸周りのマニピュレータ111の回転位置のデータが制御部112から記憶部140に出力される(ステップS130)。制御部112から記憶部140に出力されたデータは、記憶部140に履歴データとして記憶される。
【0070】
履歴データが記憶部140に格納された後、制御部112は、探傷プローブ120が走査終了位置に到達したか否かを判定する(ステップS135)。探傷プローブ120が走査終了位置に到達していれば(ステップS135:Yes)、探傷検査は終了する。探傷プローブ120が走査終了位置に到達していなければ(ステップS135:No)、制御部112は、探傷プローブ120の移動(すなわち、検査対象物210に対する走査)を継続する(ステップS115)。この場合、制御部112は、ステップS115~ステップS135の処理ループを繰り返しながら、マニピュレータ111を制御し、探傷プローブ120による検査対象物210の表面に対する走査を継続する。この間、記憶部140には履歴データが蓄積され、探傷プローブ120が走査経路上のどの位置まで正常に検査対象物210を走査していたかが記録される。
【0071】
探傷プローブ120が所定の距離だけ走査を行っている間、探傷プローブ120の位置調整が行われているが、反力Fzが閾値範囲から外れたり、摩擦力Fx,Fy及びトルクTx,Tyが摩擦閾値及びトルク閾値を超えたりすることが起こり得る。
【0072】
反力Fzが閾値範囲から外れる場合として(ステップS120:No)、制御部112による制御が反力Fzの変動に追従できていない場合があり得る。すなわち、反力Fzの検出の後に探傷プローブ120の位置調整がなされるので、反力Fzの検出と探傷プローブ120の位置調整との間にはタイムラグが生ずる。このタイムラグの間に、反力Fzが閾値範囲から外れてしまうことが想定される。
【0073】
たとえば、図4に示す勾配が急であれば、反力Fzが閾値範囲の上限値を超えてしまうことが考えられる。また、図5に示す勾配が急であれば、反力Fzが閾値範囲の下限値を下回ることが考えられる。反力Fzが閾値範囲から外れた場合には(ステップS120:No)、制御部112は、検査対象物210に対する走査に異常が生じていると判定し、異常が生じたまま走査が継続されることを防ぐための異常時制御を実行する。本実施形態では、制御部112は、異常時制御においてマニピュレータ111を停止する(ステップS125)。
【0074】
反力Fzを増加させるような勾配が検査対象物210に生じている場合、摩擦力Fx,Fyも増加する。探傷プローブ120の端面121が検査対象物210の表面に面接触している状態であっても、摩擦力Fx,Fyが摩擦閾値を上回るほど大きければ、探傷プローブ120がその後大きく傾動し、端面121の一部が検査対象物210の表面から離れてしまうことが予測される。このため、摩擦力Fx,Fyが摩擦閾値よりも大きくなった場合にも、制御部112は、検査対象物210に対する走査に異常が生じていると判定し、異常が生じたまま走査が継続されることを防ぐための異常時制御を実行する。
【0075】
一方、探傷プローブ120の移動に対して障害となる障害物が検査対象物210の表面に生じていれば(図6を参照)、摩擦力Fx,Fyの増加が探傷プローブ120の大きな傾動の予兆として現れることなく、探傷プローブ120が傾動することがある。探傷プローブ120の移動に対して障害となる障害物として、図6には、検査対象物210の表面から突出した微小突起が示されており、図6の探傷プローブ120は、ベース座標系のX軸方向に移動してこの微小突起に接触した状態である。
【0076】
探傷プローブ120がベース座標系のX軸方向に移動して微小突起に接触することにより探傷プローブ120が傾動した場合には、検出部130は、探傷プローブ120が微小突起に接触する前よりも大きなトルクTyを検出する。このような場合、トルクTyの変化は、摩擦力Fxの変化よりも顕著に現れると考えられる。したがって、探傷プローブ120が実際に傾動した場合には、トルクTx,Tyを用いた判定処理(ステップS120)は、摩擦力Fx,Fyを用いた判定処理よりも、探傷プローブ120の傾動状態を精度よく判定できると考えられる。
【0077】
トルクTx,Tyがトルク閾値よりも大きければ(ステップS120:No)、探傷プローブ120を保持したマニピュレータ111の先端部分118の傾動により、探傷プローブ120の端面121の一部が検査対象物210の表面から離間した状態になった可能性がある。このような状態で検査対象物210に対する走査が続行されるのを防ぐために、制御部112は、上述の異常時制御(マニピュレータ111の停止制御)を実行する(ステップS125)。
【0078】
マニピュレータ111の停止制御(ステップS125)が行われた場合、停止制御の後において、記憶部140に格納された履歴データを利用して、検査対象物210に対する走査を再開させるための制御が行われる。なお、ステップS115~ステップS135の処理ループが繰り返される結果、履歴データには、停止制御の直前におけるX軸、Y軸及びZ軸上の探傷プローブ120の位置及びZ軸周りにおけるマニピュレータ111の回転位置の情報が含まれている。
【0079】
制御部112は、マニピュレータ111を停止した後(ステップS125)、記憶部140の履歴データに基づき、探傷プローブ120が直前の位置に戻るようにマニピュレータ111を制御する(ステップS140)。この制御により、探傷プローブ120は、マニピュレータ111の停止(ステップS125)の直前に記憶部140に格納された履歴データが示す位置に戻る。すなわち、X軸、Y軸及びZ軸上の探傷プローブ120の位置及びZ軸周りのマニピュレータ111の回転位置は、異常時制御(ステップS125)の直前の状態に戻る。
【0080】
探傷プローブ120を異常時制御(ステップS125)の直前の状態に戻した後、制御部112は、ステップS115の第1速度よりも低い第2速度で探傷プローブ120が走査経路に沿って移動するようにマニピュレータ111を制御する(ステップS145)。この結果、探傷プローブ120は、マニピュレータ111が停止したときにおける停止位置に向けて比較的低い速度で検査対象物210を走査する(ステップS145)。
【0081】
探傷プローブ120が低速移動している間(ステップS145)、制御部112は、ステップS120における判定処理と同様の判定処理を行う(ステップS150)。探傷プローブ120が低速移動しているので、上述の停止位置において検査対象物210の表面に急激な勾配が生じていたとしても、ベース座標系のZ軸方向における探傷プローブ120の位置制御は、検査対象物210の表面の形状変化に追従しやすくなっている。すなわち、反力Fzを閾値範囲内に維持した状態での検査対象物210に対する走査状態が得られやすくなっている。また、反力Fzが閾値範囲にあれば、摩擦力Fx,Fyも摩擦閾値を下回る値を取りやすくなるので、摩擦力Fx,Fyに起因する探傷プローブ120の大きな傾動も生じにくくなっている。すなわち、探傷プローブ120の端面121が検査対象物210の表面に面接触した状態で検査対象物210を走査しやすくなる。
【0082】
また、探傷プローブ120が低速移動すると、大きなトルクTx,Tyを生じさせた原因物(たとえば、図6の微小突起)に探傷プローブ120が接触したときの力は小さくなる。したがって、探傷プローブ120は、トルク閾値を上回るトルクTx,Tyを受けにくくなっている。
【0083】
探傷プローブ120が低速移動している間における走査が正常であると制御部112が判定すれば(ステップS150:Yes)、履歴データが記憶部140に格納される(ステップS130)。その後、探傷プローブ120が走査終了位置に到達しているか否かの判定処理が行われる(ステップS135)。探傷プローブ120が走査終了位置に到達していなければ(ステップS135:No)、制御部112は、探傷プローブ120の移動速度を第1速度に上げて、検査対象物210に対する走査を継続する(ステップS115)。
【0084】
探傷プローブ120が第2速度で移動している間、反力Fzが閾値範囲を外れたり、摩擦力Fx,Fy及びトルクTx,Tyが摩擦閾値及びトルク閾値を超えたりすれば(ステップS150:No)、制御部112は、検査対象物210に対する走査を終了する。
【0085】
上述の実施形態では、制御部112は、検出部130が検出するトルクTx,Tyのいずれもがトルク閾値以下になるようにマニピュレータ111を制御している。検出部130が検出するトルクTx,Tyのうち少なくとも一方は、探傷プローブ120の端面121のうち一部が残りの部分よりも検査対象物210に当たっている状態が生じれば大きくなる。この場合、トルク閾値は、検出部130の検出誤差を考慮してゼロに近い値に設定されているので、トルクTx,Tyのうち少なくとも一方は、トルク閾値を上回り得る。このとき、制御部112は、検出部130が検出するトルクTx,Tyのいずれもがトルク閾値以下になるようにマニピュレータ111を制御する。この結果、探傷プローブ120は、探傷プローブ120の端面121が検査対象物210の表面に沿うような傾動姿勢を取ることができる(倣い動作)。したがって、検査対象物210を探傷検査する前の事前情報として、探傷プローブ120の傾動姿勢の情報を取得する必要はない。
【0086】
また、ベース座標系のZ軸方向における探傷プローブ120の位置は、検出部130が検出した反力Fzに基づいて調整される。したがって、事前情報として、Z軸方向における探傷プローブ120の位置の情報を取得する必要はない。よって、検査対象物210を探傷検査する前には、検査対象物210上の走査経路を設定するための情報(すなわち、ベース座標系のX軸及びY軸上の探傷プローブ120の位置)が制御部112内で設定されればよい。言い換えると、探傷プローブ120の傾動姿勢及びベース座標系のZ軸方向における探傷プローブ120の位置を走査経路全体に亘って制御部112に事前に覚えさせるティーチング作業は必要とされない。
【0087】
上述の実施形態によれば、制御部112は、検出部130によって検出される反力Fzが閾値範囲に収まるようにベース座標系のZ軸方向における探傷プローブ120の位置を制御している。したがって、検査対象物210の表面の形状変化(たとえば、うねり)に当該制御が追従する限り、探傷プローブ120の端面121を検査対象物210の表面に面接触させた状態で検査対象物210を走査することができる。
【0088】
たとえば、検査対象物210の表面に図4に示すような勾配が生じている場合には、制御部112の制御により、探傷プローブ120は、検査対象物210の表面の傾斜に合わせてベース座標系のZ軸において正の方向に変位する。この結果、探傷プローブ120の端面121が検査対象物210の表面に過度に接近することが防止される。すなわち、探傷プローブ120の端面121と検査対象物210の表面との間の接触媒質220の膜厚が過度に小さくなる状態が回避される。
【0089】
逆に、検査対象物210の表面に図5に示すような勾配が生じている場合には、制御部112の制御により、探傷プローブ120は、検査対象物210の表面の傾斜に合わせてベース座標系のZ軸において負の方向に変位する。この結果、探傷プローブ120の端面121が検査対象物210の表面から離れることが防止される。すなわち、探傷プローブ120の端面121と接触媒質220との間に空気層が形成されず、空気層に邪魔されることなく、検査対象物210に対する探傷検査を行うことが可能になる。
【0090】
検査対象物210の表面に生じている勾配が急である場合、検出部130が反力Fzを検出してから制御部112がこの反力Fzに対応して探傷プローブ120の位置を制御するまでの間に、反力Fzが閾値範囲から外れてしまうことが想定される。この場合、制御部112は、マニピュレータ111を停止させる。したがって、探傷プローブ120の端面121が検査対象物210の表面に過度に接近した状態及び探傷プローブ120の端面121が検査対象物210の表面に面接触していない状態で探傷検査が続行されることが防止される。
【0091】
制御部112は、以下のいずれの場合においても、マニピュレータ111を停止し、探傷プローブ120の端面121の一部が検査対象物210の表面に面接触していない状態で探傷検査が続行されることを防止している。
・検出部130が摩擦閾値を超える摩擦力Fx,Fyを検出した場合。
・検出部130がトルク閾値を超えるトルクTx,Tyを検出した場合。
【0092】
探傷プローブ120の端面121が検査対象物210の表面に面接触した状態であったとしても、摩擦力Fx,Fyが摩擦閾値を超えていれば、探傷プローブ120がその後大きく傾動し、探傷プローブ120の端面121の面接触状態がその後失われることが予測される。すなわち、摩擦力Fx,Fyをモニタしながら判定処理を行うことにより、探傷プローブ120の大きな傾動の予兆を検知し、探傷プローブ120の端面121の面接触状態を維持した状態で異常時制御を実行することが可能になる。
【0093】
探傷プローブ120が傾動した場合には、探傷プローブ120の傾動は、摩擦力Fx,Fyの変化よりはむしろトルクTx,Tyの変化として顕著に現れやすい。したがって、探傷プローブ120が実際に傾動した場合には、トルクTx,Tyを用いた判定処理により、探傷プローブ120の傾動状態を精度よく判定可能になる。
【0094】
制御部112が、マニピュレータ111を停止させたとしても、検査対象物210に対する探傷検査が正常に行われていた位置から探傷検査を再開することが、以下に述べるように許容される。探傷検査が正常に行われていた位置の情報は、記憶部140に履歴データとして格納されている。したがって、マニピュレータ111の停止の直前に記憶部140に格納された履歴データに基づき、制御部112は、当該履歴データによって表される位置に探傷プローブ120が戻るようにマニピュレータ111を制御することができる。履歴データが表す直前の位置に探傷プローブ120が戻されれば、探傷プローブ120は、当該位置における検査対象物210からの反力Fzにより、端面121が検査対象物210の表面に沿うような姿勢を取ることができる。したがって、記憶部140は、履歴データとして、探傷プローブ120の傾動姿勢を格納する必要はない。
【0095】
上述の実施形態に関して、マニピュレータ111を停止するか否かの判定(図2のステップS120及びステップS150)に、反力Fz、摩擦力Fx,Fy及びトルクTx,Tyの大きさが用いられている。これらに加えて、制御部112は、反力Fz、摩擦力Fx,Fy及びトルクTx,Tyの大きさの増加率に基づいて、マニピュレータ111を停止するか否かを判定してもよい。
【0096】
たとえば、制御部112は、反力Fzが閾値範囲内であっても反力Fzの増加率が所定の閾値を超えれば、マニピュレータ111を停止させてもよい。このような制御が行われれば、探傷プローブ120に過度に大きな負荷が作用する前に、マニピュレータ111を停止させることが可能になる。
【0097】
上述の実施形態では、制御部112は、異常時制御(ステップS125)において、マニピュレータ111を停止している。代替的に、制御部112は、音声や画像といった通知手段により検査対象物210に対する走査に異常が生じたことを検査者に知らせ、走査の続行を防いでもよい。
【0098】
上述の実施形態では、探傷プローブ120を第2速度で移動しても(ステップS145)、探傷プローブ120の端面121の面接触状態が失われていると制御部112が判定すれば(ステップS150:No)、検査対象物210の探傷検査を終了している。探傷検査を終了する代わりに、制御部112は、第2速度よりも低い第3速度で探傷プローブ120を移動させ、反力Fz、摩擦力Fx,Fy及びトルクTx,Tyに対する判定処理を再度実行してもよい(ステップS150)。検査対象物210の探傷検査を再開させるときの探傷プローブ120の移動速度の設定値が複数用意されれば、検査対象物210の探傷検査を継続させやすくなる。
【0099】
上述の実施形態では、検出部130が摩擦力Fx,Fy及びトルクTx,Tyを検出し、これらは、摩擦閾値及びトルク閾値と比較されている。代替的に、検出部130は、トルクTx,Tyを検出する一方で、摩擦力Fx,Fyを検出しなくてもよい。この場合、図7のステップS120に示すように、トルクTx,Tyがトルク閾値と比較される一方で、摩擦力Fx,Fyは、摩擦閾値と比較されない。図7に示す処理では、探傷プローブ120が傾動する前に異常時制御を実行することはできないが、探傷プローブ120がトルク閾値よりも大きなトルクTx,Tyで傾動した後に異常時制御を実行することができる。また、摩擦力Fx,Fyに対する判定処理が行われないので、制御部112における判定処理が簡素化される。
【0100】
<第2実施形態>
検査対象物210の表面に渦電流を生じさせるように探傷プローブ120を構成すれば、渦電流の変化を利用して検査対象物210の表面上の傷の有無を検出することが可能である。この場合において、マニピュレータ111、制御部112、検出部130及び記憶部140は、第1実施形態と同じ構成を有してもよい。また、検査対象物210の表面に接触媒質220は塗布されない。
【0101】
探傷プローブ120は、図8に示すように、コイル122を内蔵している。コイル122は、ブリッジ回路123に接続されている。詳細には、ブリッジ回路123は、電源124と、インピーダンス部125,126と、可変インピーダンス部127と、検出回路128と、を含んでいる。コイル122及びインピーダンス部125,126のインピーダンスは一定である一方で、可変インピーダンス部127のインピーダンスは調整可能である。検出回路128は、渦電流の変化を検出するために設けられている。検出回路128を流れる電流がモニタされ、この電流の変化に基づいて、検査対象物210の表面の傷の有無が判定される。
【0102】
探傷プローブ120は、図1に示すように、マニピュレータ111に取り付けられる。その後、図7に示す手順にしたがって、探傷装置100が動作する。
【0103】
探傷準備の段階(ステップS105)において、走査開始位置に探傷プローブ120が移動された後、ベース座標系のZ軸方向における探傷プローブ120の位置が、探傷プローブ120に作用する反力Fzに基づいて調整される(ステップS110)。また、制御部112は、検出部130が検出するトルクTx,Tyに基づき、探傷プローブ120の端面121が検査対象物210に面接触する姿勢が得られるようにマニピュレータ111を制御する。
【0104】
その後、コイル122に電流が流され、ブリッジ回路123の平衡状態が得られるように可変インピーダンス部127のインピーダンスが調整される。ブリッジ回路123が平衡状態にある場合、検出回路128を流れる電流は、略ゼロになっている。なお、走査開始位置において、検査対象物210の表面に傷は存在していないものとする。
【0105】
検査対象物210の表面に傷がない場合、図9に示すように、検査対象物210の表面を流れる渦電流は、略同心円状のパターンとなる。この状態では、ブリッジ回路123の平衡状態は保たれ、検出回路128には電流は流れない。
【0106】
探傷プローブ120が検査対象物210の表面に沿って移動され、検査対象物210の表面の傷上に到達すると、渦電流の同心円状のパターンが崩れ、ブリッジ回路123の平衡状態が失われる。この場合、検出回路128に電流が流れる。この電流に基づいて、傷の大きさや深さを判定することが可能である。
【0107】
第1実施形態で説明されたように、検出部130の検出結果に基づいて、探傷プローブ120の位置調整及び姿勢調整の制御が行われる。したがって、検査対象物210に対する走査の間、探傷プローブ120の端面121全体が検査対象物210に面接触した状態が保たれる。この結果、探傷プローブ120のリフトオフ変動に起因する渦電流の変動(ひいては、検出回路128に流れる電流の大きさの変動)は生じにくくなる。したがって、検査対象物210の表面上の傷の有無は精度よく判定され得る。
【0108】
仮に、探傷プローブ120において、リフトオフが増大した状態になった場合には、異常時制御が行われる(図7のステップS125~S150)。異常時制御により、リフトオフの状態で検査対象物210に対する走査が続行されることが防止される。すなわち、検査対象物210の表面に渦電流が生じていない状態又は検査対象物210の表面の渦電流が弱くなっている状態で、検査対象物210に対する走査が続行されることが防止される。この結果、探傷装置100は、検査対象物210の表面の傷を見逃しにくくなる。
【0109】
上述の実施形態では、ベース座標系におけるX-Y平面上において走査経路が設定されている。代替的に、図10に示すように、走査経路は、ベース座標系におけるY-Z平面上において設定されてもよい。この場合、検査対象物210からの反力Fzに基づく探傷プローブ120の位置制御(ステップS120,S150)は、ベース座標系におけるX軸方向において行われる。なお、走査経路は、ベース座標系におけるX-Z平面上に設定されてもよく、任意の向きの平面に沿って設定されてもよい。
【0110】
上述の実施形態では、走査経路は、検査対象物210が有する平坦な面に設定されている。代替的に、走査経路は、検査対象物210が有する曲面上に設定されていてもよい。たとえば、図11に示すように、検査対象物210が円柱体であれば、走査経路は、当該円柱体の周面に沿って設定される。
【0111】
この場合、円柱体の周面上の点Pにおける探傷プローブ120の走査方向は、当該点P上の接線方向に略一致する。この点P上において検査対象物210からの反力Fzに基づいて探傷プローブ120の位置が調整される場合には、マニピュレータ111は、点P上の接線に対して直角の方向(すなわち、法線方向)において探傷プローブ120の位置を変更する。
【産業上の利用可能性】
【0112】
上述の実施形態の原理は、探傷検査に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0113】
100・・・・・探傷装置
111・・・・・マニピュレータ
112・・・・・制御部
120・・・・・探傷プローブ
121・・・・・端面
122・・・・・コイル
130・・・・・検出部
140・・・・・記憶部
210・・・・・検査対象物
220・・・・・接触媒質
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
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図11