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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174871
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】ボロメータおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/34 20060101AFI20221117BHJP
   G01J 1/02 20060101ALI20221117BHJP
   H01L 35/00 20060101ALI20221117BHJP
   H01L 35/22 20060101ALI20221117BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20221117BHJP
   C01B 32/159 20170101ALI20221117BHJP
   C01B 32/17 20170101ALI20221117BHJP
   C01B 32/172 20170101ALI20221117BHJP
   H01L 31/08 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
H01L35/34
G01J1/02 C
H01L35/00
H01L35/22
H01L29/06 601N
C01B32/159
C01B32/17
C01B32/172
H01L31/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080882
(22)【出願日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】小坂 眞由美
【テーマコード(参考)】
2G065
4G146
5F849
【Fターム(参考)】
2G065AA04
2G065AB02
2G065BA12
2G065BA40
4G146AA12
4G146AC03B
4G146AC16B
4G146AC19B
4G146AD28
4G146AD40
4G146CA02
4G146CA08
4G146CA09
4G146CA15
4G146CA20
4G146CB16
4G146CB17
4G146CB29
4G146CB35
5F849AA17
5F849AB02
5F849BA01
5F849BB07
5F849DA16
5F849DA34
5F849EA04
5F849LA01
5F849XB15
5F849XB24
5F849XB32
5F849XB51
(57)【要約】
【課題】高いTCR値を有し、かつ低抵抗であるボロメータおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明によれば、基板上に、基板とカーボンナノチューブとの結合性を高める機能を有する中間層を所定の形状に作製する工程と、作製した中間層上で、半導体型カーボンナノチューブ分散液を、該中間層に対して相対的に一方向に移動させる工程を含む、ボロメータ製造方法が提供される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、基板とカーボンナノチューブとの結合性を高める機能を有する中間層を所定の形状に作製する工程と、作製した中間層上で、半導体型カーボンナノチューブ分散液を、該中間層に対して相対的に一方向に移動させる工程を含む、ボロメータ製造方法。
【請求項2】
前記中間層をライン形状または四角形状に作製する工程を含む、請求項1に記載のボロメータ製造方法。
【請求項3】
前記ライン形状又は四角形状の中間層の一端から半導体型カーボンナノチューブ分散液を複数回一方向に提供するまたは移動させる工程を含む、請求項2に記載のボロメータ製造方法。
【請求項4】
前記ライン形状の幅は1μm~10cmである、請求項2または3に記載のボロメータ製造方法。
【請求項5】
前記四角形状の短い方の1辺は1μm~1cmである、請求項2または3に記載のボロメータ製造方法。
【請求項6】
前記中間層上に堆積するカーボンナノチューブの厚みが平均500nm以下である、請求項1から5のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
【請求項7】
前記中間層がシランカップリング剤の層であり、前記基板がSi基板である、請求項1から6のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
【請求項8】
濃度が0.001体積%以上30体積%以下のアミノシラン化合物の水溶液を用いて前記中間層を形成する工程を含み、前記基板がSi基板である、請求項1から7のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
【請求項9】
前記中間層がカチオンポリマー層であり、前記基板がプラスチック基板である、請求項1から6のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
【請求項10】
前記半導体型カーボンナノチューブの分散液が、半導体型カーボンナノチューブを、カーボンナノチューブの総量の90質量%以上含む、請求項1から9のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを使用したボロメータ、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
赤外線センサは、HgCdTeを材料とする量子型赤外センサが広く使われてきたが、素子温度を液体窒素以下に冷却する必要があり、機器の小型化に制約があった。そこで近年、素子を低温まで冷却する必要のない非冷却型赤外センサが注目され、素子の温度変化に伴う電気抵抗の変化を検出するボロメータが広く用いられるようになった。
ボロメータの性能としては、特にTCR(Temperature Coefficient of Resistance:抵抗温度係数)と呼ばれる電気抵抗の温度変化率と、抵抗率が重要である。TCRの絶対値が大きくなると、赤外線センサの温度分解能が小さくなり感度が向上する。また、ノイズ低減のため、抵抗率は低減する必要がある。
従来、非冷却型ボロメータとしては酸化バナジウム薄膜が用いられているが、TCRが小さい(約-2.0%/K)ため、TCRの向上が広く検討されている。TCR向上には、半導体的特性を有し、かつ、キャリア密度が大きい材料が必要であるため、半導体性単層カーボンナノチューブをボロメータに適用することが期待されている。
特許文献1では通常の単層カーボンナノチューブをボロメータ部に適用し、単層カーボンナノチューブを有機溶媒に混ぜた分散液を電極上にキャストし、単層カーボンナノチューブを空気中でアニール処理する薄膜プロセスのボロメータ作製が提案されている。
特許文献2では、単層カーボンナノチューブには金属的と半導体的成分が混在しているため、イオン性の界面活性剤を用いて半導体型単層カーボンナノチューブを抽出し、ボロメータ部に適用する、ボロメータ作製が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2012/049801号
【特許文献2】特許第6455910号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された赤外線センサに用いるカーボンナノチューブ薄膜は、カーボンナノチューブに金属型カーボンナノチューブが混在するため、TCRが低く、赤外線センサの性能向上に限界があった。特許文献2に記載された半導体型カーボンナノチューブを用いた赤外線センサは、分離のためのイオン性界面活性剤が簡単に除去できず、高抵抗であるという課題があった。
【0005】
本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、TCR値が高く、かつ抵抗が低いボロメータと、その製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するものとして、以下のことを特長としている。
【0007】
本発明の一態様は、
基板上に、基板とカーボンナノチューブとの結合性を高める機能を有する中間層を所定の形状に作製する工程と、作製した中間層上で、半導体型カーボンナノチューブ分散液を、該中間層に対して相対的に一方向に移動させる工程を含む、ボロメータ製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
この出願の発明によれば、高い配向度を有するカーボンナノチューブ層を備えることにより、高いTCR値を有し、かつ低抵抗であるボロメータおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ボロメータ部の断面概略図
図2】基板にライン形状のAPTES膜を形成する模式図(上)及びAPTES膜上にカーボンナノチューブ膜を形成し、電極を配置した模式図(下)。
図3】APTESライン上のカーボンナノチューブ膜のSEM像。
図4】ライン形状のAPTES膜上に形成したカーボンナノチューブ膜を電極列に配置した例
図5】電極対とカーボンナノチューブ膜との位置関係の一例を表す模式図
図6】基板に四角形状のAPTES膜を形成する模式図。
図7】四角形状のAPTES膜上にカーボンナノチューブ膜を形成し、電極を配置した模式図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本実施形態のボロメータ製造方法について詳細に説明する。
【0011】
本実施形態のボロメータ製造方法は、基板上に、基板とカーボンナノチューブとの結合性を高める機能を有する中間層を所定の形状に作製する(パターニング)工程と、作製した中間層上で、半導体型カーボンナノチューブ分散液を該中間層に対して相対的に一方向に移動させる工程を含む。
具体的には、基板上に、第1の電極と第2の電極に略垂直にまたがるように、基板とカーボンナノチューブとの結合性を高める機能を有する中間層をライン状または四角形状等の形状に形成する。または、中間層の一部が第1の電極と第2の電極に略垂直にまたがるように、中間層をライン状または四角形状に形成する。その後、中間層の形成部に、半導体カーボンナノチューブ分散液を、該分散液がラインまたは四角形の一端から一方向に移動するように提供し、乾燥させることによって、カーボンナノチューブが電極に垂直に配向するボロメータ製造方法を提供するものである。
【0012】
このように、基板上に、基板とカーボンナノチューブとの結合性を高める機能を有する中間層をパターニングすることにより、基板上に、所望の形状及び大きさのライン状または四角状等のカーボンナノチューブ膜を容易に形成することができる。
さらに、本実施形態のボロメータ製造方法では、パターニングした中間層上で、カーボンナノチューブ分散液を相対的に一方向に移動させることにより、カーボンナノチューブが分散液が移動する方向に沿って配向した高配向のカーボンナノチューブ膜を容易に形成することができる。
【0013】
このような方法によれば、高い配向度を有するカーボンナノチューブ層を備えることにより、高いTCR値を有し、かつ低抵抗であるボロメータを製造することができる。
また、一実施形態では、上記のように簡便な方法で微小な半導体型カーボンナノチューブ配向膜及びそれを用いたボロメータを製造することができる。
さらに、一実施形態では、高い配向度を有するカーボンナノチューブ層を小型化できることにより、ボロメータ素子の小型化を行うことが可能である。
さらに、本実施形態の製造方法は、低コストで量産性に優れているという利点もある。
【0014】
本実施形態の製造方法において、中間層は、基板とカーボンナノチューブとの結合性を高める材料からなる層であれば特に限定されない。
中間層の材料は、基板表面に結合または付着する部分構造と、カーボンナノチューブに結合または付着する部分構造との両方を有する化合物であることが好ましい。これにより、中間層は、基板とカーボンナノチューブを結合させる仲介役として機能する。ここで、基板と中間層との間の結合、および中間層とカーボンナノチューブとの間の結合は、化学結合だけでなく、静電相互作用、表面吸着、疎水性相互作用、ファンデルワールス力、水素結合など、各種分子間相互作用を利用することができる。
また、中間層の材料は、基板表面の親液性を増大させる化合物であることも好ましい。このような化合物で処理することにより、カーボンナノチューブ分散液の液滴を、主に該中間層の形成部上のみに提供および保持することができ、かつ/または分散液中のカーボンナノチューブを主に該中間層の形成部上のみに付着させることができる。これにより、中間層のパターニングによって、カーボンナノチューブ膜の形状および大きさを容易に制御することができる。
【0015】
中間層の材料における基板表面に結合又は付着する部分構造としては、アルコキシシリル基(SiOR)、SiOH、疎水性部分又は疎水性基等が挙げられる。疎水性部分又は疎水性基としては、炭素数が好ましくは1以上、より好ましくは2以上、また好ましくは20以下、より好ましくは10以下のメチレン基(メチレン鎖)、アルキル基等が挙げられる。
中間層の材料におけるカーボンナノチューブに結合又は付着する部分構造としては、例えば、第一級アミノ基(-NH)、第二級アミノ基(-NHR)、第三級アミノ基(-NR)等のアミノ基、アンモニウム基(-NH)、イミノ基(=NH)、イミド基(-C(=O)-NH-C(=O)-)、アミド基(-C(=O)NH-)、エポキシ基、イソシアヌレート基、イソシアネート基、ウレイド基、スルフィド基、メルカプト基等が挙げられる。
【0016】
このような中間層の材料としては特に限定されるものではないが、例えば、シランカップリング剤が挙げられる。シランカップリング剤は、無機材料に結合または相互作用する反応基と有機材料に結合または相互作用する反応基の両方を分子内に有し、有機材料と無機材料とを結合する働きを有する。本実施形態においては、例えば、Si基板等の基板に結合する反応基と、カーボンナノチューブに結合する反応基とを併せ持つシランカップリング剤を用いることにより、カーボンナノチューブと結合する反応基を提示する単層の多分子膜を基板上に形成することにより、カーボンナノチューブを基板上に固定することができる。
【0017】
シランカップリング剤の例としては、
3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基とアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤(アミノシラン化合物);
3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルジエトキシシラン、トリエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)シラン等のエポキシ基とアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤;
トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート等のイソシアヌレート系シランカップリング剤;
3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン等のウレイド系シランカップリング剤;
3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプト系シランカップリング剤;
ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド系シランカップリング剤;及び
3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート系シランカップリング剤;
などが挙げられる。
【0018】
特には、カーボンナノチューブとの結合性が良いことから、アミノ基を有するシランカップリング剤(アミノシラン化合物)が好ましい。
【0019】
中間層の材料の他の例としては、プラスチック基板等の基板に結合または付着することができる部分構造と、カーボンナノチューブに結合する反応基とを有するポリマー、例えばカチオンポリマーが挙げられる。
【0020】
このようなポリマーの例としては、ポリ(N-メチルビニルアミン)、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリアリルジメチルアミン、ポリジアリルメチルアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ポリジアリルジメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホネート、ポリジアリルジメチルアンモニウムナイトレート、ポリジアリルジメチルアンモニウムペルクロレート、ポリビニルピリジニウムクロリド、ポリ(2-ビニルピリジン)、ポリ(4-ビニルピリジン)、ポリビニルイミダゾール、ポリ(4-アミノメチルスチレン)、ポリ(4-アミノスチレン)、ポリビニル(アクリルアミド-co-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)、ポリビニル(アクリルアミド-co-ジメチルアミノエチルメタクリレート)、ポリエチレンイミン(PEI)、DAB-Am及びポリアミドアミンデンドリマー、ポリアミノアミド、ポリヘキサメチレンビグアニド、ポリジメチルアミン-エピクロロヒドリン、塩化メチルによるポリエチレンイミンのアルキル化の生成物、エピクロロヒドリンによるポリアミノアミドのアルキル化の生成物、カチオン性モノマーによるカチオン性ポリアクリルアミド、ジシアンジアミドのホルマリン縮合物、ジシアンジアミド、ポリアルキレンポリアミン重縮合物、天然ベースのカチオン性ポリマー(例として、部分的に脱アセチル化したキチン、キトサンおよびキトサン塩など)、合成ポリペプチド(例として、ポリアスパラギン、ポリリジン、ポリグルタミン、およびポリアルギニンなど)が挙げられる。
【0021】
このようなポリマーの中でも、カーボンナノチューブを基板上に固定する観点で、アミノ基と疎水性基又は疎水性部分とを有するカチオンポリマーが好ましい。
【0022】
このようなポリマーを用いることにより、カーボンナノチューブに結合又は付着する反応基を複数提示する中間層を基板上に形成することができる。そのような中間層は、特に限定されるものではないが、均一に付着させるためという観点から単分子膜が望ましく、1nm~1μm、好ましくは2nm~100nmの厚さとすることができる。
【0023】
上述の中間層の材料は、用いる基板の材料を考慮して、適宜選択することができる。ここで、基板を構成する材料は、無機材料であっても有機材料であってもよく、当技術分野で使用されるものを特に制限なく使用できる。無機材料としては、限定されるものではないが、例えば、ガラス、Si、SiO、SiN等が挙げられ、有機材料としては、限定されるものではないが、例えばプラスチック、ゴム等が好ましく、例えば、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、アクリロニトリルスチレン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、フッ素樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート等が挙げられ、一実施形態では、フレキシブル基板に用いられる材料が好ましい。
【0024】
この出願の発明は、上記の通りの特徴を持つものであるが、以下に実施の形態について説明する。但し、以下に述べる実施形態には本発明を実施するために技術的に好ましい限定がされているが、発明の範囲を以下に限定するものではない。
【0025】
なお、以下の実施形態では、中間層としてAPTES層またはポリリジン層、基板としてSi基板またはプラスチック基板を用いた例を説明するが、中間層および基板はこれらに限定されるものではない。
【0026】
また、ボロメータの製造方法において、基板上にカーボンナノチューブ層を形成するプロセス以外のプロセスは、下記に例示したものに限定されず、当技術分野で使用されるものを特に制限なく使用できる。
【0027】
なお、本明細書において、「略垂直」という用語は、完全な垂直、および完全な垂直から30°以下、好ましくは20°以下、例えば10°以下の範囲でずれた場合を含む。「略平行」という用語は、完全な平行、および完全な平行から30°以下、好ましくは20°以下、例えば10°以下の範囲でずれた場合を含む。
また、本明細書において、「APTES付着部」、「APTES塗布部」、「APTES部」等の用語は同義であり、APTESにより中間層を形成した領域を意味する。また、「APTES層」は「APTES膜」等と記載することがある。
また、本明細書において、「カーボンナノチューブ層」、「カーボンナノチューブ膜」等の用語は同義に用いることができ、また「カーボンナノチューブ配向膜」を単に「カーボンナノチューブ層」等と記載することもある。
また、本実施形態に係るボロメータは、赤外光の他、例えば0.7μm~1mmの波長を有する電磁波、例えばテラヘルツ波の検知にも用いることができる。一実施形態において、ボロメータは赤外線センサである。
【0028】
<第1の実施形態>
本発明の一実施形態に係るボロメータ部の断面概略図を図1に示す。Si基板1の上に3-アミノプロピルトルエトキシシラン(APTES)層2があり、その上にカーボンナノチューブ層3と第1の電極4と第2の電極5があり、電極4と電極5はその間にあるカーボンナノチューブ層3により接続されている。基板1上のAPTES層2、カーボンナノチューブ層3、および電極4、5の配置は、図1に示した配置に限定されず、電極4と電極5はAPTES層の上に配置されてもよいし、もしくはSi基板1の上に直接配置されてもよい。また、カーボンナノチューブ層3は、少なくとも一部がAPTES上にあり、電極4と電極5に接続していれば、両電極の下でも上でもよい。このカーボンナノチューブ層3は、後述するように、好ましくは非イオン性界面活性剤を用いて分離された複数の半導体型カーボンナノチューブから主に構成されている。
【0029】
本発明の一実施形態に係るAPTES層2を、ライン形状に作製した平面概略図を図2(上図)に示す。基板であるSiOを被覆したSi上をアセトン、イソプロピルアルコール、水により順に洗浄し、酸素プラズマ処理で表面の有機物を除去する。図2(上図)のライン状APTES部以外をマスクしてから、APTES水溶液中に基板を浸漬し、あるいは基板にAPTES水溶液を噴霧し、水洗後に乾燥する。その後、基板からマスクを除去する。上記ライン状APTES部はディスペンサやインクジェット、もしくは印刷機等を用いて塗布、必要に応じて水洗後に乾燥してもよい。
【0030】
ライン形状の幅は、1μm~10cmが望ましく、2μm~1cmが好ましく、5μm~2mmがより好ましい。小型化のためには100μm以下であることも好ましい。また、ライン形状の幅は、カーボンナノチューブ膜を介して電流が流れる面積を最大にするために、向き合った電極対間が最小のデバイス長になる部分の電極長さ以上であることも好ましい。向き合った電極対間が最小のデバイス長になる部分の電極長さとは、例えば平行電極対の場合では、平行に対向している部分の長さである。図5に示す平行電極対では、図中「CNT膜に電流が流れる電極長さ」と記載した長さが対応する。
【0031】
APTES水溶液の濃度は、0.001体積%以上30体積%以下が好ましく、0.01体積%以上10体積%以下がより好ましく、更に0.05体積%以上5体積%以下がより好ましい。なお、この濃度及び溶媒は、中間層としてAPTES以外の化合物を用いる場合は、用いる化合物に応じて適宜変更してもよい。
【0032】
ライン形状以外の部分のマスクは、基板をAPTES水溶液に浸漬する場合には、例えばカプトンテープやマスキングテープ等のテープ類や粘着シート類、もしくはレジスト等のマスク材料を使用できる。APTES水溶液を噴霧する場合には、基板に接するメタルマスクやステンシルマスク等を用いることができる。
【0033】
ライン状のAPTES付着部の一端から、非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテルまたはポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル水溶液に分散させた半導体型カーボンナノチューブ分散液を導入すると、APTESが付着していない部分(マスク部)は分散液をはじくため、APTES付着部のみにカーボンナノチューブ分散液が流れることができ、かつ/または分散液中のカーボンナノチューブを該中間層の形成部上のみに付着させることができる。
カーボンナノチューブ分散液の導入方法は特に限定されず、図2において矢印で示すように、APTES膜上を分散液が該APTES膜に対して相対的に一方向に移動すればどのような方法でも良い。例えば、APTES膜上に分散液を一方向に提供する場合、ライン端から注射器やポンプなどを用いて分散液を流すか、あるいはライン端に液滴を滴下して基板を傾けて流すことができる。基板の傾斜角度は特に限定されないが、例えば5°以上、好ましくは10°以上、例えば90°以下、好ましくは60°以下とすることができる。また、APTES膜上で分散液を移動させる場合は、例えば、分散液内を分散液もしくは基板を移動させる、または分散液と基板の両方を移動させる等の方法で、APTESライン上を分散液が相対的に一方向に移動するようにする。カーボンナノチューブ分散液の供給量及び濃度等は、カーボンナノチューブ膜としたときに所望の密度が得られ、またカーボンナノチューブ分散液が主にAPTESライン上に提供される、かつ/または分散液中のカーボンナノチューブが主にAPTES層形成部のみに付着するとした範囲で、適宜設定することができる。
【0034】
分散液内を分散液もしくは基板が一方向に移動する方法としては、特に限定されないが、APTES膜を付着させた基板を、例えばベルトコンベアのような移動手段のある状態や、引いたり押したり等の移動ができる治具に設置し、カーボンナノチューブ分散液の液槽中を一方向に移動させて、APTES上にカーボンナノチューブ膜を作製することができる。基板や分散液は水平に動かしても、傾けて動かしてもよい。基板の傾きを垂直にし、例えば、ディップコートのように基板を分散液に漬けてから引き上げる方法で、分散液が基板上を一方向に動くようにしてもよい。さらに、この方法では上記のように基板を斜めに傾けて引き上げてもよい。
【0035】
カーボンナノチューブ分散液は界面活性剤を含むことが好ましく、この場合、分散液に流れる方向があれば、カーボンナノチューブ同士が絡まりあうことなく、その流れ方向に配向して移動する。この時、APTES上にはアミノ基が出ているので、カーボンナノチューブの一部がAPTESのアミノ基と結合すると、カーボンナノチューブがAPTES上に留まり、流れに配向した状態で吸着する。カーボンナノチューブの1層目がAPTESに吸着すると、2層目以降は配向したカーボンナノチューブ同士が束になるように堆積し、その結果、液滴の流れであるAPTESラインの向きに配向したカーボンナノチューブ膜が作製される。
【0036】
図3に、APTES塗布部に堆積したカーボンナノチューブの走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す。SEM像の矢印方向(斜め左上向き)がAPTESラインの向きと並行である。カーボンナノチューブはAPTESラインに略平行に配向している。カーボンナノチューブ膜はライン形状の幅にほぼ均一に堆積する。
【0037】
カーボンナノチューブ層の厚みは、特に限定されないが、例えば、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上、さらに好ましくは5nm以上であり、また、好ましくは1μm以下、より好ましくは500nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。カーボンナノチューブ層の厚みは任意の10地点でレーザー顕微鏡を用いて厚み測定し、その平均値とすることができる。
【0038】
配向度を上げるため、基板および分散液の温度は、例えば、5℃~60℃が望ましく、10℃~40℃が好ましい。相対湿度は、15%RH~80%RHが好ましい。
カーボンナノチューブの配向度は、カーボンナノチューブ膜のSEM画像を二次元高速フーリエ変換処理して各方向の凹凸の分布を周波数分布で表した平面FFT画像において、中心から一方向に周波数-1μm-1から+1μm-1までの振幅の積算値fを算出し、前記積算値fが最大となる方向xに関する積算値をfx、方向xに対して垂直である方向yに関する積算値をfyとしたとき、fx/fyでカーボンナノチューブの配向度を示すことができ、fx/fy≧2であることが好ましい。なお、上記FFT画像の元になるSEM画像は、フーリエ変換による算出のために凹凸が見える必要があり、カーボンナノチューブを観察する観点から、視野範囲は、縦および横それぞれ0.05~10μm程度であるのが好ましい。
この配向度の定義は、後述の実施形態における配向膜にも適用することができる。
【0039】
カーボンナノチューブ分散液が基板上を移動する速度については、特に限定されないが、APTES上にCNTが付着する必要があるため、例えば10mm/秒以下、好ましくは1mm/秒以下、より好ましくは100μm/秒以下、さらに好ましくは10μm/秒以下である。移動速度が適度に早い方がカーボンナノチューブの配向性には有利であるが、APTES上に付着する量が減少するため、付着量が少ない場合には繰り返し処理や連続に分散液を供給することでカーボンナノチューブを付着しやすくすることができる。
【0040】
カーボンナノチューブ層は半導体型カーボンナノチューブをカーボンナノチューブの総量の好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、場合によりさらに好ましくは98質量%以上の割合で含む。このようなカーボンナノチューブ層の製造には、例えば、電界誘起層形成法等を用いて、金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブを分離して得られる、半導体型カーボンナノチューブの濃度が高い分散液を用いるのが望ましい。カーボンナノチューブの直径は、0.6~1.5nmが望ましく、0.6~1.2nmが好ましく、0.6~1.0nmがより好ましい。カーボンナノチューブの長さは、100nm~5μmの範囲内であると分散しやすく、液滴を形成しやすいため望ましい。カーボンナノチューブの導電性の観点から、長さが100nm以上であることが好ましく、凝集しにくい観点から、長さが5μm以下であることが好ましい。より好ましくは、500nm~3μm、さらに好ましくは700nm~1.5μmの範囲内である。カーボンナノチューブの70%(個数)以上が、上記範囲の直径および長さを有することが好ましい。
【0041】
カーボンナノチューブの直径および長さが上記範囲内であると、半導体型カーボンナノチューブを用いる場合に半導体性の影響が大きくなり、かつ、大きな電流値を得られるため、ボロメータに用いた場合に高いTCR値が得られやすい。
【0042】
本実施形態の製造方法において用いることができるカーボンナノチューブ分散液の例を説明する。
【0043】
カーボンナノチューブ分散液は、上述のカーボンナノチューブを含む。分散液中のカーボンナノチューブの濃度や液適量は、形成するカーボンナノチューブ層の密度や厚み等に応じて適宜選択できる。特に限定されるものではないが、分散液中のカーボンナノチューブの濃度は、例えば0.0003質量%以上、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.003質量%以上、また、10質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下とすることができる。
【0044】
カーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブに加えて、界面活性剤を含むことが好ましい。分散液中の界面活性剤の濃度は、特に限定されるものではないが、例えば臨界ミセル濃度以上~5質量%程度が好ましく、0.001質量%~3質量%がより好ましく、0.01質量%~1質量%が特に好ましい。カーボンナノチューブ分散液に含まれる界面活性剤は、非イオン性界面活性剤であるのが好ましい。非イオン性界面活性剤は、イオン性界面活性剤と異なり、カーボンナノチューブとの相互作用が弱く、分散液を基板上に提供した後に容易に除去することができる。そのため、安定したカーボンナノチューブ導電パスを形成でき、優れたTCR値を得ることができる。また、分子長が長い非イオン性界面活性剤は、分散液を基板上に提供する際にカーボンナノチューブ間の距離が大きくなり、水の蒸発後に再凝集しにくいため、配向状態を維持することができ好ましい。カーボンナノチューブは配向することで、カーボンナノチューブ同士の接触面積が多くなり、導電パスは増えることから抵抗が低くなる。これにより、温度変化に対して大きな抵抗変化を実現できる。
【0045】
非イオン性界面活性剤は、適宜選択できるが、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系に代表されるポリエチレングリコール構造を有する非イオン性界面活性剤を1種類もしくは複数組み合わせて用いることが好ましい。
【0046】
カーボンナノチューブ分散液の溶媒としては、カーボンナノチューブを分散浮遊できるものであれば特に限定されないが、例えば水、重水、有機溶媒、又はこれらの混合物等が挙げられ、水が好ましい。
【0047】
半導体型カーボンナノチューブの比率の高いカーボンナノチューブ分散液の分離および調製の方法、ならびに、当該方法に用いる非イオン性界面活性剤については、例えば、WO2020/158455に記載のものを用いることができ、該文献は参照により本明細書に組み込まれる。
【0048】
本実施形態のボロメータは、上記半導体型カーボンナノチューブのライン形状配向膜を基板上に形成させた後、例えば次のようにして製造することができる。カーボンナノチューブはラインに平行に配向して堆積するため、配向膜が線状に作製される。このカーボンナノチューブの配向膜に重ねて、金蒸着等により、第1電極と第2電極を作製する。このときカーボンナノチューブの配向方向と、第1の電極と第2の電極との間を流れる電流方向が略平行になるように電極を設置する。
【0049】
電極の材料は導電性のものであれば特に限定されないが、金、白金、チタン等の単体または複数を使用することができる。電極の作製方法は特に限定されないが、蒸着、スパッタ、印刷法が挙げられる。厚みは適宜調整できるが、10nm~1mmが好ましく、50nm~1μmがより好ましい。
【0050】
本実施形態のボロメータにおいて、第1の電極と第2の電極の間の距離(チャネル長)は、1μm~500μmが好ましく、10μm~300μmがより好ましい。また小型化のためには1μm~200μmがより好ましい。電極間距離が1μm以上であると、金属型カーボンナノチューブを僅かに含む場合でも、TCRの特性の低下を抑制することができる。また、電極間距離が100μm以下、例えば50μm以下であると、2次元アレイ化による画像センサの適用に有利である。電極4と電極5の長さは、カーボンナノチューブが両電極に接続し、導通できれば短い方が好ましく、カーボンナノチューブとの接続部が100μm以下、例えば50μm以下であると、2次元アレイ化による画像センサの適用に有利である。
【0051】
図4に示すように、カーボンナノチューブ配向膜が線状である(複数の電極対にわたるように延在している)ために隣の電極対にもカーボンナノチューブが接続している場合には、例えば次の方法で、不要なカーボンナノチューブを除去する。形成されたカーボンナノチューブの配向膜上の電極間を含む領域6にポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)等のアクリル樹脂溶液を塗布してPMMAの保護層を形成する。大気中において200℃で加熱し、余分な溶媒、不純物等を除去後、基板全体を酸素プラズマ処理することにより、カーボンナノチューブ層3のPMMA層で被覆した領域6以外の領域にある余分なカーボンナノチューブ等を除去する。
【0052】
また、図4に示すように、APTES塗布部のラインを、電極対列の間隔に合わせて略並行に複数形成することにより、簡単にアレイ化することができる。
【0053】
カーボンナノチューブ層の表面に、必要により保護層を設けてもよい。ボロメータを赤外線センサとして用いる場合、保護膜は検知したい赤外線波長域において透明性の高い材料が好ましく、例えば、PMMA等のアクリル樹脂、エポキシ樹脂、テフロン(登録商標)等を用いることができる。
【0054】
上記の実施形態は、Si基板上にAPTES膜を形成し、カーボンナノチューブ層を作製した後に電極を作製する順番のボロメータ素子作製方法を示したが、次のように順序を変える作製方法でもよい。まず、洗浄したSi基板上にチタンと金、あるいは金蒸着等により第1の電極と第2の電極を作製し、その上にAPTESを塗布する。APTES塗布は、ライン形状部以外をマスクしてから、APTES水溶液中に基板を浸漬あるいはAPTES水溶液を噴霧し、乾燥する。その後、マスクを除去する。APTES塗布は、ディスペンサやインクジェット、もしくは印刷機等を用いて塗布、必要に応じて水洗後に乾燥してもよい。APTES膜は絶縁膜であるが、基板のシリコン酸化膜表面と結合してアミノ基を表面に提示するため、金電極部には付着しない。この上にカーボンナノチューブ分散液を流すと、APTES膜にカーボンナノチューブが配向して堆積し、配向膜の両端は電極に直接接続する。隣の電極対間にカーボンナノチューブが接続している場合には、上記と同様の方法により、不要なカーボンナノチューブを除去すればよい。
【0055】
<第2の実施形態>
本発明の一実施形態に係るAPTES層2を、四角、あるいは複数の四角形が線状に配列した破線のライン形状に作製した平面概略図を図6に示す。第1の実施形態と同様に洗浄したSi基板上に、図6の四角状APTES部以外の部分をマスクしてから、APTES水溶液中に基板を浸漬し、あるいは基板にAPTES水溶液を噴霧し、水洗後に乾燥する。その後、基板からマスクを除去する。上記四角状APTES部はディスペンサやインクジェット、もしくは印刷機等を用いて塗布、水洗後に乾燥してもよい。
【0056】
四角形状の大きさは、図7のように第1電極と第2電極に対して略平行な辺の長さ(幅b)は、例えば1μm~1cmであり、10μm~1cmが望ましく、20μm~1mmが好ましく、30μm~300μmがより好ましい。また、四角形状の長さbは、カーボンナノチューブ膜を介して電流が流れる面積を最大にするために、向き合った電極対間が最小のデバイス長になる部分の電極長さ以上であることも好ましい。電極に対して略垂直な辺の長さ(幅c)は、例えば1μm~1cmであり、10μm~1cmが好ましく、20μm~1mmが好ましく、30μm~300μmがより好ましい。また小型化のためには10μm~300μmがより好ましい。また、四角形状の長さc(幅c)は、後で述べる電極対のデバイス長より長いことが好ましい。また、幅bと幅cは、望まれる素子の形状に応じて、いずれが短くてもよい。
【0057】
四角形状のAPTES付着部の上で、第1の実施形態と同様にカーボンナノチューブ分散液を一方向に移動させると、四角形状の部分に、カーボンナノチューブが移動方向と略平行に配向して付着し、蓄積される。
【0058】
本実施形態のボロメータは、上記半導体型カーボンナノチューブの四角形状配向膜を基板上に形成させた後、例えば次のようにして製造することができる。図6の破線部を図7に示す。カーボンナノチューブは、図6の分散液移動方向(図中、矢印で示す)に平行に配向して付着し、配向膜は四角形状部分全面に作製される。このカーボンナノチューブの配向膜に重ねて、金蒸着により、第1電極4と第2電極5の両方が配向膜に接するように電極を作製する。配向膜は四角形なので、図7のように、一組の辺が電極下にあり、もう一組の辺が第1電極4と第2電極5との間を流れる電流方向に略平行になることが好ましい。またカーボンナノチューブ膜を介して電流が流れる面積を最大にするためには、図7のように、向き合った電極対間の電極長さを全て含める部分に配置されることが好ましい。
【0059】
本実施形態のボロメータにおいて、第1の電極と第2の電極の間の距離は、1μm~500μmが好ましく、5μm~300μmがより好ましい。また、小型化のためには1μm~200μmがより好ましい。電極間距離が1μm以上であると、金属型カーボンナノチューブを僅かに含む場合でも、TCRの特性の低下を抑制することができる。また、電極間距離が100μm以下、例えば50μm以下であると、2次元アレイ化による画像センサの適用に有利である。電極4と電極5の長さは、カーボンナノチューブが両電極に接続し、導通できれば短い方が好ましく、カーボンナノチューブとの接続部が100μm以下、例えば50μm以下であると、2次元アレイ化による画像センサの適用に有利である。
【0060】
本実施形態では、図6に示すように、カーボンナノチューブ配向膜が破線状であるため、電極対の電極間にカーボンナノチューブが接続するように電極を設置することができる。この場合、隣の電極対間にはカーボンナノチューブが存在しない部分があるので、不要なカーボンナノチューブを除去する工程は必要ない。大気中において200℃で加熱すれば、余分な溶媒や界面活性剤等を除去することができる。
【0061】
本実施形態においても、カーボンナノチューブ層の表面に、必要により保護層を設けてもよい。ボロメータを赤外線センサとして用いる場合、保護膜は検知したい赤外線波長域において透明性の高い材料が好ましく、例えば、PMMA等のアクリル樹脂、エポキシ樹脂、テフロン(登録商標)等を用いることができる。
【0062】
上記の実施形態は、Si基板上にAPTES膜を形成し、カーボンナノチューブ層を作製した後に電極を作製する順番のボロメータ素子作製方法を示したが、次のように順序を変える作製方法でもよい。まず、洗浄したSi基板上に金蒸着等により第1の電極と第2の電極を作製し、その上にAPTESを塗布する。APTES塗布は、電極対間に四角形状のAPTES膜が設置され、かつ隣の電極対間にはAPTESが塗布されない部分があるようにマスクしてから、APTES水溶液中に基板を浸漬し、あるいは基板にAPTES水溶液を噴霧し、乾燥する。その後、マスクを除去する。上記四角状APTES部はディスペンサやインクジェット、もしくは印刷機等を用いて塗布、必要に応じて水洗後に乾燥してもよい。APTES膜は絶縁膜であるが、シリコン酸化膜表面と結合してアミノ基を表面に提示するため、金電極部には付着しない。四角形状のAPTES付着部の上で、第1の実施形態と同様にカーボンナノチューブ分散液を一方向に移動させると、四角形状の部分に、カーボンナノチューブが移動方向と略平行に配向して付着し、配向膜の両端は電極に直接接続する。隣の電極対間にはカーボンナノチューブが接続しないので、PMMA等による不要なカーボンナノチューブ除去工程は必要ない。
【0063】
APTES付着部を四角形状に形成する点以外のボロメータの構成要素および製造工程は、特に記載がない場合、実施形態1に記載のものを適宜適用することができる。
【0064】
<第3の実施形態>
本実施形態に係るボロメータは、図1と構造は同様であるが、Si基板1に代えてプラスチック基板を用いる。また、APTES層2に代えて、ポリリジンを用いる。ポリリジンはプラスチック基板表面に結合しやすく、APTESと同様にアミノ基を表面に提示するため、ポリリジン膜はカーボンナノチューブ分散液をはじかず、分散液滴を吸着しやすい。ポリリジン膜の塗布方法およびボロメータ製造方法は、第1および2の実施形態で述べた工程と同様の工程を用いることができる。本実施形態では、基板をフレキシブルにできることから、フレキシブルな画像センサ等に用いることができる。
【0065】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限定されない。
[付記1]
基板上に、基板とカーボンナノチューブとの結合性を高める機能を有する中間層を所定の形状に作製する工程と、作製した中間層上で、半導体型カーボンナノチューブ分散液を、該中間層に対して相対的に一方向に移動させる工程を含む、ボロメータ製造方法。
[付記2]
前記中間層をライン形状または四角形状に作製する工程を含む、付記1に記載のボロメータ製造方法。
[付記3]
前記ライン形状又は四角形状の中間層の一端から半導体型カーボンナノチューブ分散液を複数回一方向に提供するまたは移動させる工程を含む、付記2に記載のボロメータ製造方法。
[付記4]
前記ライン形状の幅は1μm~10cmである、付記2または3に記載のボロメータ製造方法。
[付記5]
前記四角形状の短い方の1辺は1μm~1cmである、付記2または3に記載のボロメータ製造方法。
[付記6]
前記中間層上に堆積するカーボンナノチューブの厚みが平均500nm以下である、付記1から5のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
[付記7]
前記中間層がシランカップリング剤の層であり、前記基板がSi基板である、付記1から6のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
[付記8]
濃度が0.001体積%以上30体積%以下のアミノシラン化合物の水溶液を用いて前記中間層を形成する工程を含み、前記基板がSi基板である、付記1から7のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
[付記9]
アミノシラン化合物が3-アミノプロピルトルエトキシシラン(APTES)である、付記8に記載のボロメータ製造方法。
[付記10]
前記中間層がカチオンポリマー層であり、前記基板がプラスチック基板である、付記1から6のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
[付記11]
前記中間層がアミノ基を有するカチオンポリマーの層であり、前記基板がプラスチック基板である、付記10に記載のボロメータの製造方法。
[付記12]
前記半導体型カーボンナノチューブの分散液が、半導体型カーボンナノチューブを、カーボンナノチューブの総量の90質量%以上含む、付記1から11のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
[付記13]
ボロメータが赤外線センサである、付記1~12のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
[付記14]
ボロメータがボロメータアレイである、付記1~13のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
【実施例0066】
以下、実施例によりさらに詳しく本発明について例示説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
単層カーボンナノチューブ((株)名城ナノカーボン、EC1.0(直径:1.1~1.5nm程度、平均直径1.2nm)100mgを石英ボートに入れ、真空雰囲気化下で電気炉を使った熱処理を行った。熱処理は、温度は900℃で、時間は2時間で行った。熱処理後の重さは、80mgに減少し、表面官能基や不純物が除去されていることが分かった。得られた単層カーボンナノチューブをピンセットで破砕後、12mgを1wt%の界面活性剤(ポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテル)水溶液40mlに浸漬させ、十分に沈めた後、超音波分散処理(BRANSON ADVANCED-DIGITAL SONIFIER装置、出力50W)を3時間行った。これにより、溶液内にカーボンナノチューブの凝集物がなくなった。この操作により、バンドルや残留触媒等を除去し、カーボンナノチューブ分散液を得た。カーボンナノチューブの長さ及び直径を観察するために、この分散液をSiO基板上に塗布し、100℃で乾燥後、原子間力顕微鏡(AFM)観察を行った。その結果、単層カーボンナノチューブは、その70%が長さ500nm~1.5μmの範囲にあり、その平均の長さがおよそ800nmであることが分かった。
【0068】
上記により得られたカーボンナノチューブ分散液を、二重管構造の分離装置に導入した。二重管の外側管に水約15ml、カーボンナノチューブ分散液約70ml、2wt%界面活性剤水溶液約10mlを入れ、内側管にも2wt%界面活性剤水溶液約20mlを入れた。その後、内側管の下側のふたを開けることで界面活性剤の濃度が異なる3層構造ができた。内側管の下側を陽極、外側管の上側を陰極として、120Vの電圧をかけることで、半導体型カーボンナノチューブが陽極側に移動した。一方、金属型カーボンナノチューブは陰極側に移動した。半導体型および金属型カーボンナノチューブの分離は、分離開始から約80時間後にきれいに分離した。分離工程は室温(約25℃)で実施した。陽極側に移動した半導体型カーボンナノチューブ分散液を回収し、光吸収スペクトルで分析したところ、金属型カーボンナノチューブの成分が除去されていることが分かった。また、ラマンスペクトルから、陽極側に移動したカーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブの99wt%が半導体カーボンナノチューブであった。単層カーボンナノチューブの直径は、約1.2nmが最も多く(70%以上)、平均直径は1.2nmであった。
【0069】
上記半導体型カーボンナノチューブを99wt%含むカーボンナノチューブ分散液(陽極側に移動したカーボンナノチューブ分散液)から界面活性剤を一部除去し、界面活性剤の濃度を0.05wt%にした。その後、分散液中のカーボンナノチューブの濃度が0.01wt%になるようにカーボンナノチューブ分散液A(分散液Aと記載)を調整した。この分散液Aをカーボンナノチューブ層の形成に用いた。
【0070】
SiOを被覆したSi基板上をアセトン、イソプロピルアルコール、水により順に洗浄し、酸素プラズマ処理で表面の有機物を除去した。図2(上図)のように、約300μm幅のライン状APTES部以外をカプトンテープでマスクしてから、0.1体積%のAPTES水溶液中に基板を30分浸漬し、基板からカプトンテープを剥がし、乾燥した。
【0071】
基板を約15°に傾け、ライン状のAPTES付着部の一端からカーボンナノチューブ分散液Aを注射器で滴下し、ライン状APTES上を一方向に流れるように導入すると、APTESが付着していない部分(マスク部)は分散液をはじくため、APTES付着部のみにカーボンナノチューブ分散液が流れた。移動後の分散液を回収して再度滴下するこの操作を繰り返し行い、カーボンナノチューブ分散液A計200μLを用いて、カーボンナノチューブをAPTES上に付着させた。操作は、温度23℃、相対湿度60%RHで実施した。水とエタノールとイソプロピルアルコールで洗浄後、110℃で乾燥した。その後、大気中200℃で加熱し、分散液A中の非イオン界面活性剤等を除去した。APTES上のカーボンナノチューブ膜をSEM観察すると、図3のSEM像のように、カーボンナノチューブがAPTESのラインと平行に配向して付着していることが観察された。また、SEM画像を二次元フーリエ変換処理し、中心から一方向に周波数-1μm-1から+1μm-1までの振幅の積算値fを算出し、前記積算値fが最大となる方向xに関する積算値をfx、方向xに対して垂直である方向yに関する積算値をfyとしたとき、fx/fyを算出すると、2.2であった。カーボンナノチューブ層の厚みは、レーザー顕微鏡を用いて測定したところ、平均約20nm(ランダムな10点の平均値)であった。
【0072】
上記で得られたカーボンナノチューブ配向膜上に、第1電極および第2電極としての金を、厚み300nmで、電極間が100μmになるように蒸着して作製した。このとき、APTESのライン、つまり配向しているカーボンナノチューブの配向方向と電極間で電流の流れる方向とが略平行になるように、電極を設置した。次に、カーボンナノチューブと、第1電極および第2電極とカーボンナノチューブの接続部を含む領域を、PMMAアニソール溶液を塗布することで保護した。その後、大気中200℃の条件下で1時間乾燥し、隣の電極対に接続する不要なカーボンナノチューブを酸素プラズマ処理で除去した。
【0073】
(比較例1)
実施例1の工程と同様に、カーボンナノチューブ分散液Aを調製した。実施例1と同様にSi基板を洗浄後、マスクせずに基板全面にAPTESを付着させた。分散液A約200μLを基板に滴下すると、分散液Aは基板全面に広がった。水とエタノールとイソプロピルアルコールで洗浄後、110℃で乾燥し、その後、大気中において200℃で加熱し、非イオン性界面活性剤等を除去した。基板上をSEM観察すると、カーボンナノチューブがランダムな網目状に付着していた。カーボンナノチューブ層の厚みは、レーザー顕微鏡を用いて測定したところ、平均約10nmであった。
【0074】
その後、カーボンナノチューブ層上に、第1電極および第2電極としての金を、厚み300nmで、電極間が100μmになるようになるように蒸着して作製した。カーボンナノチューブと第1電極および第2電極を、実施例1と同じ面積のPMMAで保護し、大気中200℃で1時間乾燥し、酸素プラズマ処理で不要なカーボンナノチューブを除去した。
【0075】
(実施例1と比較例1の比較)
表1に、実施例1と比較例1でそれぞれ得られたカーボンナノチューブ膜から作製されたボロメータの、300Kにおける膜抵抗測定結果と、20℃~40℃の領域でのTCR値を示す。実施例1の配向したカーボンナノチューブ膜は、比較例1と比べて1桁低いことが分かった。これは、実施例1ではカーボンナノチューブが配向することで、カーボンナノチューブ同士の導電パスの接点の面積が増えたからである。その結果、センサ作製時にノイズが減り、高感度化した。
【表1】
【符号の説明】
【0076】
1 Si基板
2 APTES層
3 カーボンナノチューブ層
4 第1電極
5 第2電極
6 PMMA層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7