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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174891
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】集電装置の空力音低減構造
(51)【国際特許分類】
   B60L 5/26 20060101AFI20221117BHJP
   B61D 49/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
B60L5/26 Z
B61D49/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080919
(22)【出願日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100104064
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 岳人
(72)【発明者】
【氏名】光用 剛
(72)【発明者】
【氏名】平川 裕雅
(72)【発明者】
【氏名】小林 樹幸
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 真理子
【テーマコード(参考)】
5H105
【Fターム(参考)】
5H105AA14
5H105BA02
5H105BB01
5H105CC02
5H105CC12
5H105DD04
5H105DD06
5H105DD12
5H105DD14
5H105DD22
5H105DD29
5H105EE03
5H105EE07
5H105EE13
(57)【要約】
【課題】簡単な加工で部材に適用することができるとともに、高強度に取り付けることができる集電装置の空力音低減構造とその製造方法を提供する。
【解決手段】空力音低減構造20A,20Bは、集電装置3から発生する空力音を低減する構造であり、集電装置3の頂点カバー8との間に間隙部21を形成するように、頂点カバー8を覆う被覆部22を備え、被覆部22は間隙部21に流れが流入し、この流入した流れをこの間隙部21から流出させる複数の貫通孔22aを有する。間隙部21は、頂点カバー8の上側稜角部8eに沿って形成されている。間隙部21は、この間隙部21の底面21a,21bが平面、湾曲面又は傾斜面に形成されており、被覆部22は間隙部21の底面21a,21bとの間に所定の隙間を形成するように、この間隙部21の底面21a,21bを覆う。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電装置から発生する空力音を低減する集電装置の空力音低減構造であって、
前記集電装置の空力音発生源との間に間隙部を形成するように、この空力音発生源を覆う被覆部を備え、
前記被覆部は、前記間隙部に流れが流入し、この流入した流れをこの間隙部から流出させる複数の貫通孔を有すること、
を特徴とする集電装置の空力音低減構造。
【請求項2】
請求項1に記載の集電装置の空力音低減構造において、
前記間隙部は、前記空力音発生源が前記集電装置の頂点カバーであるときに、この頂点カバーの上側稜角部に沿って形成されていること、
を特徴とする集電装置の空力音低減構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の集電装置の空力音低減構造において、
前記間隙部は、この間隙部の底面が平面、湾曲面又は傾斜面に形成されており、
前記被覆部は、前記間隙部の底面との間に所定の隙間を形成するように、この間隙部の底面を覆うこと、
を特徴とする集電装置の空力音低減構造。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の集電装置の空力音低減構造において、
前記間隙部に収容された状態で前記空力音を低減する空力音低減部を備え、
前記被覆部は、前記空力音低減部との間に所定の隙間を形成するように、この空力音低減部を覆うこと、
を特徴とする集電装置の空力音低減構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、集電装置から発生する空力音を低減する集電装置の空力音低減構造に関する。
【背景技術】
【0002】
(多孔質材による空力音低減について)
新幹線(登録商標)の高速化にとって、車両各部から放射される空力音の低減は重要な課題である。パンタグラフは主要な空力音源であり、パンタグラフの各部材のなかでも、舟体・舟支え部は最も寄与が大きい空力音源である。舟体の空力音低減には断面形状の平滑化・貫通孔の適用が有効だが、それだけでは十分ではなく、舟体・舟支え部の流れの干渉を緩和する必要がある。舟体・舟支え部の流れの干渉を緩和する手法の一つとして、舟支え部の頂点カバーの表面に連続気孔を有する多孔質材を適用する(貼り付ける)手法を提案している。
【0003】
従来の空力音低減構造は、空力音を低減する連続気泡の多孔質体を物体の表面に備えている(例えば、特許文献1参照)。多孔質材の表面貼付による空力音低減効果と集電装置への応用では、円柱供試体の表面に多孔質材を貼付して空力音を低減している(例えば、非特許文献1参照)。パンタグラフの舟支え部への多孔質材適用による空力音低減では、多孔質材を必要最小限の領域に埋め込むことによって空力音を低減する手法を提案している(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
(多孔質材の現車への適用と取り付け方法について)
風洞試験では、加工が容易なウレタン樹脂製多孔質材を使用しているが、現車への適用においては、金属製多孔質材を使用し、対象物に強固に取り付ける必要がある。金属多孔質材の取り付けに関しては、接着、リベット止め、又はFRP母材との順次積層などの技術がある。従来のセル構造多孔質金属材の設置構造は、多孔質材及び被固定部材の貫通孔を貫通するリベット体によって多孔質材を非固定部材に固定している(例えば、特許文献2参照)。従来のセル構造多孔質金属材の取付構造は、多孔質材の表面にFRPの皮膜形成材を塗布して固定層を形成し、この固定層と被固定部材とをねじで固定している(例えば、特許文献3参照)。従来の多孔質金属を非固定部材上に与える方法は、多孔質金属の成形パネルの表面に接合層樹脂を浸入させて硬化させ、この接合層樹脂の表面にFRP層を形成している(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-136332号公報
【0006】
【非特許文献1】末木健之、他2名,「多孔質材の表面貼付による空力音低減効果と集電装置への応用」,鉄道総研報告,一般財団法人研友社,2008年,22巻,第5号,p.11-16
【0007】
【非特許文献2】光用剛、他3名,「パンタグラフの舟支え部への多孔質材適用による空力音低減」,第28回環境工学総合シンポジウム,一般社団法人日本機械学会,2018年7月11日-12日,No.18-10
【0008】
【特許文献2】特開2009-085406号公報
【0009】
【特許文献3】特開2009-085407号公報
【0010】
【特許文献4】特開2010-208287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来のセル構造多孔質金属材の設置構造などは、パンタグラフ部材の表面に金属多孔質材を接着などで取り付けるものであり、加工上の制約から複雑な三次元曲面への適用が困難であることや、一体成型のような強度の高い方法での製作ができないといった課題がある。
【0012】
この発明の課題は、簡単な加工で部材に適用することができるとともに、高強度に取り付けることができる集電装置の空力音低減構造とその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、図8図11図14図17及び図20に示すように、集電装置(3)から発生する空力音を低減する集電装置の空力音低減構造であって、前記集電装置の空力音発生源(8)との間に間隙部(21)を形成するように、この空力音発生源を覆う被覆部(22)を備え、前記被覆部は、前記間隙部に流れ(F)が流入し、この流入した流れをこの間隙部から流出させる複数の貫通孔(22a)を有することを特徴とする集電装置の空力音低減構造(20A,20B)である。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1に記載の集電装置の空力音低減構造において、図8及び図9に示すように、前記間隙部は、前記空力音発生源が前記集電装置の頂点カバー(8)であるときに、この頂点カバーの上側稜角部(8e)に沿って形成されていることを特徴とする集電装置の空力音低減構造である。
【0015】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の集電装置の空力音低減構造において、図10図11図14図17及び図20に示すように、前記間隙部は、この間隙部の底面(21a,21b;21e)が平面、湾曲面又は傾斜面に形成されており、前記被覆部は、前記間隙部の底面との間に所定の隙間を形成するように、この間隙部の底面を覆うことを特徴とする集電装置の空力音低減構造である。
【0016】
請求項4の発明は、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の集電装置の空力音低減構造において、図20に示すように、前記間隙部に収容された状態で前記空力音を低減する空力音低減部(24)を備え、前記被覆部は、前記空力音低減部との間に所定の隙間を形成するように、この空力音低減部を覆うことを特徴とする集電装置の空力音低減構造である。
【発明の効果】
【0017】
この発明によると、簡単な加工で部材に適用できるとともに、高強度に取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】この発明の第1実施形態に係る集電装置の空力音低減構造を備える集電装置の一部を概略的に示す斜視図である。
図2】この発明の第1実施形態に係る集電装置の空力音低減構造を備える集電装置を概略的に示す側面図である。
図3】この発明の第1実施形態に係る集電装置の空力音低減構造を備える集電装置を概略的に示す平面図である。
図4】この発明の第1実施形態に係る集電装置の空力音低減構造を備える集電装置を概略的に示す正面図である。
図5】この発明の第1実施形態に係る集電装置の空力音低減構造を備える集電装置を概略的に示す背面図である。
図6】この発明の第1実施形態に係る集電装置の空力音低減構造を備える集電装置の構造を概略的に示す模式図である。
図7】この発明の第1実施形態に係る集電装置の空力音低減構造を備える頂点カバーを概略的に示す斜視図である。
図8】この発明の第1実施形態に係る集電装置の空力音低減構造を備える頂点カバーの一部を判断して概略的に示す平面図である。
図9】この発明の第1実施形態に係る集電装置の空力音低減構造を備える頂点カバーの一部を破断して概略的に示す側面図である。
図10図8のX-X線で切断した状態を示す断面図である。
図11図10のXI部分を拡大して示す断面図である。
図12】この発明の第1実施形態に係る集電装置の空力音低減構造の被覆部の一部を破断して示す展開図である。
図13】この発明の第1実施形態に係る集電装置の空力音低減構造の作用を説明するための写真であり、(A)は空力音低減構造を模擬した多孔質材を拡大して示す写真であり、(B)(C)は空力音低減構造を備える場合の流れ場のコンター図であり、(D)(E)は空力音低減構造を備えていない場合の流れ場のコンター図である。
図14】この発明の第2実施形態に係る集電装置の空力音低減構造の縦断面図である。
図15】この発明の第3実施形態に係る集電装置の空力音低減構造の縦断面図である。
図16】この発明の第4実施形態に係る集電装置の空力音低減構造の縦断面図である。
図17】この発明の第5実施形態に係る集電装置の空力音低減構造の縦断面図である。
図18】この発明の第6実施形態に係る集電装置の空力音低減構造の被覆部の一部を破断して示す展開図である。
図19】この発明の第7実施形態に係る集電装置の空力音低減構造の被覆部の一部を破断して示す展開図である。
図20】この発明の第8実施形態に係る集電装置の空力音低減構造の縦断面図である。
図21】この発明の第9実施形態に係る集電装置の空力音低減構造の縦断面図である。
図22】この発明の実施例に係る集電装置の空力音低減構造による空力音低減効果試験に使用した風洞試験装置を概略的に示す模式図である。
図23】この発明の実施例に係る集電装置の空力音低減構造の上側稜角部が切欠である場合の各供試体A~Cの空力音低減効果試験の試験結果を示すグラフ、試験状況を示す写真及び上側稜角部の縦断面図である。
図24】この発明の実施例に係る集電装置の空力音低減構造の上側稜角部がR面取りである場合の各供試体A,D,Eの空力音低減効果試験の試験結果を示すグラフ、試験状況を示す写真及び上側稜角部の縦断面図である。
図25】この発明の実施例に係る集電装置の空力音低減構造の各供試体F~Hの被覆部の空力音低減効果試験の試験結果を示すグラフ、試験状況を示す写真、被覆部の設置方向及び折れ目を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、この発明の第1実施形態について詳しく説明する。
図1図2及び図4図6に示す架線1は、線路上空に架設される架空電車線である。架線1は、所定の間隔をあけて支持点で支持されている。トロリ線1aは、集電装置3が接触移動する電線である。トロリ線1aは、集電装置3が摺動することによって、車両2に負荷電流を供給する。図2及び図4図6に示す車両2は、電車又は電気機関車などの電気車である。車両2は、例えば、高速で走行する新幹線などの鉄道車両である。車体2aは、乗客又は貨物を積載し輸送するための構造物である。
【0020】
図1図6に示す集電装置3は、トロリ線1aから車両2に電力を導くための装置である。集電装置3は、図1図6に示すすり板4と、舟体(集電舟)5と、枠組6と、図6に示す台枠17と、図2図6に示す風防カバー18と、図2及び図4図6に示すがいし19と、図1図5に示す空力音低減構造20A,20Bなどを備えている。図1図6に示す集電装置3は、図1及び図2に示すように、車両2の進行方向Dに対して非対称であり、一方向又は双方向に使用可能なシングルアーム式パンタグラフである。集電装置3は、図1及び図2に示すように、車両2の進行方向前側に中間ヒンジ13が位置するなびき方向で使用したときには空力音が比較的小さくなり、車両2の進行方向後側に中間ヒンジ13が位置する反なびき方向で使用したときには空力音が比較的大きくなる。図1図6に示す集電装置3は、車両2の進行方向前側に中間ヒンジ13が位置するなびき方向に移動している。
【0021】
図1図6に示すすり板4は、トロリ線1aと摺動する部材である。すり板4は、図1及び図3図5に示すように、車両2の進行方向Dと直交する方向(まくらぎ方向)に伸びた金属製又は炭素製の板状部材である。すり板4は、舟体5とは別個に製造される別部品であり、舟体5の長さ方向(まくらぎ方向)に複数並べた状態で、この舟体5の上部に取り付けられている。すり板4は、舟体5との間で相対変位可能なようにばねなどの弾性体によって支持されている。
【0022】
図1図6に示す舟体5は、すり板4を支持する部材である。舟体5は、一般にトロリ線1aと直交する方向(まくらぎ方向)に伸びた細長い金属製の柱状部材である。舟体5は、例えば、図2に示すように、この舟体5の中心軸に対して前後対称であり、前後がいずれも同一形状に形成されている。舟体5は、流れ(気流)Fのはく離を可能な限り防止するために断面形状が流線型又は流線型に近似した曲面で構成されており、滑らかな曲線によって構成されている。舟体5は、例えば、数値流体力学(Computational Fluid Dynamics(CFD))解析及び最適化手法を組み合わせた手法によって、空力音低減及び揚力特性安定化を両立可能なように舟体断面形状が平滑化されている平滑化舟体(平滑形状舟体)である。図1図6に示す舟体5は、例えば、トロリ線1aに対する追従性能を向上させた新幹線用(高速用)パンタグラフ舟体である。舟体5は、図1図5に示すように、ホーン5aなどを備えている。
【0023】
ホーン5aは、車両2が分岐器を通過するときに、この分岐器の上方で交差する2本のトロリ線1aのうち車両2の進行方向とは異なる方向のトロリ線1aへの割込みを防止するための部材である。ホーン5aは、舟体5の長さ方向の両端部から突出しており、図1図4及び図5に示すように先端部が下方に向かって湾曲して形成された金属製の部材である。
【0024】
図1図6に示す枠組6は、舟体5を支持する部材である。枠組6は、舟体5を支持した状態で上下方向に動作可能なリンク機構を備えている。枠組6は、図1及び図4図10に示す舟支え部7と、図1図10に示す頂点カバー8と、上枠9と、図6に示す舟支えリンク(平衡棒)10と、図1図2及び図4図6に示す下枠11と、図6に示す釣り合い棒12と、図1図6に示す中間ヒンジ(屈曲部)13などを備えている。枠組6は、使用時には図6に示す主ばね16の付勢力によって上昇し、非使用時(折畳時)には主ばね16の付勢力に抗してシリンダ装置が発生する駆動力によって下降する。
【0025】
図1及び図4図10に示す舟支え部7は、舟体5を支持する部分である。舟支え部7は、舟体5を架線1に対して水平に押上げるとともに、舟体5にばねによる緩衝作用を与える。舟支え部7は、舟体5の平衡維持を図るとともに、トロリ線1aへの追従性を向上させる。舟支え部7は、図1及び図4図10に示すように、上枠9の頂部に支持されている。
【0026】
図1図10に示す頂点カバー8は、舟支え部7を覆う部材である。頂点カバー8は、図6に示すように、上枠9及び舟支えリンク10と舟支え部7とを回転自在に連結するヒンジ部(頂点ヒンジ部)を覆うように、上枠9の上端部(頂部)に着脱自在に装着されており、図7図9に示すように流れFを妨げないような形状に形成されている。頂点カバー8は、舟支え部7内に流れFが侵入して大きな空力音が発生するのを防ぐとともに、空気抵抗が増加するのを防ぐ。頂点カバー8は、例えば、不燃性又は難燃性を有する金属製又は繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics(FRP))製の被覆部材である。頂点カバー8は、図8に示すように平面形状が略U字状であり、図10に示すように縦断面形状が略U次字状の部材である。頂点カバー8は、図7図9に示す上面部8aと、図7図9及び図10に示す下面部8bと、図7図9及び図10に示す側面部8cと、図7及び図8に示す背面部8dと、図7図9に示す上側稜角部(上側縁部)8eと、図7図9及び図10に示す下側稜角部(下側縁部)8fと、図8図11に示す装着部8gと、図10に示す貫通孔8hなどを備えている。頂点カバー8は、図7に示すように、上面部8a、下面部8b、側面部8c及び背面部8dから構成される多面体であり、図7図10に示すように多面体の隣り合う二面が上側稜角部8e及び下側稜角部8fで交わっている。
【0027】
図7図9に示す上面部8aは、頂点カバー8の上面を構成する部分である。上面部8aは、図7及び図9に示すように、上枠9の上面と略同じ高さ(面一)になるように、平坦な傾斜面に形成されている。図7図9及び図10に示す下面部8bは、頂点カバー8の下面を構成する部分である。下面部8bは、図10に示すように、前側が上枠9の下面と略同じ高さ(面一)であり、後側が上枠9の下面よりも低く(下方に突出)、図9に示すように前側から後側に向かって複数の傾斜角度で傾斜する平坦な傾斜面に形成されている。
【0028】
図7図9及び図10に示す側面部8cは、頂点カバー8の側面を構成する部分である。側面部8cは、図7図8及び図10に示すように、上枠9の上端部の両側面を挟み込むように、上枠9の上端部の両側面にそれぞれ着脱自在に取り付けられる。側面部8cは、図7及び図9に示すように、前側及び後側に丸みが形成された平坦な板状部である。図7及び図8に示す背面部8dは、頂点カバー8の背面を構成する部分である。背面部8dは、図7及び図8に示すように、外観が略球面状に形成されており、上面部8a、下面部8b及び側面部8cの後側を接続するように、上面部8a、下面部8b及び側面部8cと同じ高さ(面一)に形成されている。
【0029】
図7図9に示す上側稜角部8eは、上面部8aと側面部8cとが交わる部分である。上側稜角部8eは、図7に示すように、上面部8a及び側面部8cの長さ方向に沿って直線状に形成されており、図10に示すように断面形状が角に形成されている。図7図9及び図10に示す下側稜角部8fは、下面部8bと側面部8cとが交わる部分である。下側稜角部8fは、図7に示すように、下面部8b及び側面部8cの長さ方向に沿って曲線状及び直線状に形成されており、図10に示すように断面形状が角に形成されている。
【0030】
図8図11に示す装着部8gは、被覆部22を装着する部分である。装着部8gは、図10及び図11に示すように、上面部8a及び側面部8cに形成された凹部であり、この装着部8gに被覆部22が装着されたときに、被覆部22の表面が上面部8a及び側面部8cと同じ高さ(面一)になるように、所定の長さ、幅及び深さで形成されている。装着部8gは、被覆部22が着脱自在に嵌合するように、図8及び図9に示すように平面形状及び側面形状が四角形に形成されている。図10に示す貫通孔8hは、頂点カバー8を貫通する部分である。貫通孔8hは、頂点カバー8の側面部8cを貫通するように形成されている。
【0031】
図1図10に示す上枠9は、舟支え部7に回転自在に連結される部材である。上枠9は、枠組6の上半分を構成する筒状部材であり、図6に示す舟支えリンク10を内部に収容している。上枠9は、この上枠9の一端が舟支え部7に回転自在に連結されており、この上枠9の他端が下枠11に回転自在に連結されている。舟支えリンク10は、舟体5及び舟支え部7を所定の姿勢に維持する部材である。舟支えリンク10は、この舟支えリンク10の一端が舟支え部7に回転自在に連結されており、この舟支えリンク10の他端が下枠11に回転自在に連結されている。
【0032】
図1図2及び図4図6に示す下枠11は、台枠17に回転自在に連結される部材である。下枠11は、枠組6の下半分を構成する筒状部材であり、図6に示す釣り合い棒12を内部に収容している。下枠11は、この下枠11の一端が上枠9に回転自在に連結されており、この下枠11の他端が主軸14に連結されている。釣り合い棒12は、舟体5を上下変位させる軌跡を調整するための部材である。釣り合い棒12は、この釣り合い棒12の一端が上枠9に回転自在に連結され、この釣り合い棒12の他端が主軸14に回転自在に連結されている。図1図6に示す中間ヒンジ13は、上枠9と下枠11とを回転自在に連結する部分である。中間ヒンジ13は、図6に示すように、上枠9と下枠11とを連結する関節部として機能する。
【0033】
図6に示す主軸14は、枠組6を昇降動作させる部材である。主軸14は、枠組6と連動して動作し、正逆方向に回転することによって枠組6を昇降動作させる。主軸14は、台枠17に回転自在に支持されており、下枠11の下端部と一体となって回転する。てこ部15は、直線運動を回転運動に変換する部分である。てこ部15は、主軸14を支点として主軸14と一体となって回転する。主ばね16は、枠組6に上昇力を付与する部材である。主ばね16は、主軸14が回転して枠組6が上昇するように主軸14を付勢する押上げ用ばねである、主ばね16は、この主ばね16の一端が台枠17に回転自在に連結されており、この主ばね16の他端がてこ部15に回転自在に連結されている。
【0034】
図6示す台枠17は、枠組6を支持する部材である。台枠17は、枠組6の基部を支持した状態で、がいし18を介して車体2aの屋根上に設置されている。台枠17は、枠組6を昇降動作させる主軸14、てこ部15及び主ばね16などから構成される昇降機構部を支持する。
【0035】
図2図6に示す風防カバー18は、台枠17を被覆する部材である。風防カバー18は、図6に示すように、主軸14、てこ部15、主ばね16及び台枠17などを被覆しており、図2及び図3に示すように流れFを妨げないような形状に形成されている。風防カバー18は、台枠17内に流れFが侵入して大きな空力音が発生するのを防ぐとともに、空気抵抗が増加するのを防ぐ。風防カバー18は、例えば、FRP製の被覆部材である。
【0036】
図2及び図4図6に示すがいし19は、車体2aと台枠17との間を電気的に絶縁する部材である。がいし19は、例えば、空力音の発生に対して抑制効果のある形状に形成されている低騒音がいしである。がいし19は、このがいし19の後縁部に発生する渦の放出を抑制するために、水平面で切断したときの断面が略楕円形に形成されている。がいし19は、台枠17の両縁部寄りの底面をそれぞれ支持する。
【0037】
図1図5及び図7図11に示す空力音低減構造20A,20Bは、集電装置3から発生する空力音を低減する構造である。空力音低減構造20A,20Bは、集電装置3の空力音発生源から発生する空力音を低減する。ここで、空力音発生源とは、頂点カバー8の隣り合う上面部8a及び側面部8cが交わる上側稜角部8eである。空力音低減構造20A,20Bは、図8及び図10に示すように、頂点カバー8に装着されたときに、この頂点カバー8の中心線を中心として対称構造である。空力音低減構造20A,20Bは、いずれも同一構造であり、以下では一方の空力音低減構造20Aについて説明し、他方の空力音低減構造20Bについては詳細な説明を省略する。空力音低減構造20A,20Bは、図8図11に示す間隙部21と、図7図12に示す被覆部22と、図7図10に示す固定部23などを備えている。
【0038】
図8図11に示す間隙部21は、頂点カバー8と被覆部22との間に形成される隙間である。間隙部21は、図8及び図9に示すように、頂点カバー8の上側稜角部8eに沿って形成されており、図10及び図11に示すようにこの間隙部21の底面21a,21bが平面に形成されている。間隙部21は、図10及び図11に示すように、縦断面形状が略L字状に形成された凹部であり、図8図11に示すように頂点カバー8の表面に形成された段差である。間隙部21は、例えば、切削などの機械加工によって形成されており、図10及び図11に示すように上側稜角部8eを切り欠くように所定の長さ、深さ及び幅で形成された切欠部である。間隙部21は、この間隙部21内を任意の方向に流れFが通過する空間であり、この間隙部21内で流れFを遮るような遮蔽物が存在しない空洞であり、頂点カバー8の長さ方向に連続して延びた1本の通気室として機能する。間隙部21は、図8図11に示す底面21a,21bと、図8及び図9に示す端面21c,21dなどを備えている。
【0039】
図8図11に示す底面21a,21bは、頂点カバー8の表面に形成され間隙部21の底部を構成する部分である。底面21aは、図9に示すように、上面部8aと平行に形成された平面である。底面21bは、図8に示すように、側面部8cと平行に形成された平面である。底面21a,21bは、図10及び図11に示すように、互いに直交しており、図8及び図9に示すように端面21c,21dに対して垂直に形成されている。端面21c,21dは、頂点カバー8の表面に形成され間隙部21の端部を構成する部分である。端面21cは、背面部8dとは反対側の端部寄りに形成されており、端面21dは背面部8d寄りに形成されている。端面21c,21dは、互いに平行に対向して形成された平面である。
【0040】
図7図11に示す被覆部22は、頂点カバー8との間に間隙部21を形成するように、頂点カバー8を被覆する部分である。被覆部22は、図7図10及び図11に示すように、頂点カバー8の表面に沿った形状に形成されており、図10及び図11に示すように間隙部21の開口部を塞ぐように頂点カバー8の表面に装着されている。被覆部22は、間隙部21の底面21a,21bとの間に所定の隙間を形成するように、底面21a,21bを覆っている。被覆部22は、例えば、板厚が0.5mm程度の薄板状の部材であり、頂点カバー8の装着部8gに接着剤などによって接着されている。被覆部22は、例えば、アルミニウム合金製又はステンレス製のパンチングメタルのような多孔板(穴開き板)である。被覆部22は、頂点カバー8の装着部8gに装着されたときに、頂点カバー8の一部を構成しており、この被覆部22の上面部、側面部及び上側稜角部が頂点カバー8の上面部8a、側面部8c及び上側稜角部8eの一部をそれぞれ構成する。
【0041】
被覆部22は、図7に示すように、この被覆部22の上面が頂点カバー8の上面部8aと同じ高さ(面一)になるように平坦面に形成されており、図8に示すように頂点カバー8の背面部8d寄りの被覆部22の上面が平坦な傾斜面に形成されている。被覆部22は、図10及び図11に示すように、この被覆部22の側面部が、頂点カバー8の側面部8cと同じ高さ(面一)になるように平坦面に形成されている。被覆部22は、図10に示すように、頂点カバー8の側面部8cを挟み込むように装着部8gに装着されており、断面が略逆U次状になるように折り曲げて形成されている。被覆部22は、図8図12に示す貫通孔22aと、図10図12に示す骨(バー)22bと、図10に示す貫通孔22cなどを有する。被覆部22は、図7に示すように、上側稜角部8eに沿って折り曲げられており、図12に示すように貫通孔22aと重ならないように、骨22bを折り線LBとして折り曲げられている。被覆部22は、図12に示すように、複数の貫通孔22aの中心線L0が流れFの方向と一致するように、この複数の貫通孔22aが配列されており、この複数の貫通孔22aの中心線L0と平行な折り線LB上で折り曲げられている。ここで、中心線L0は、隣り合う貫通孔22aの中心線を結ぶ直線である。
【0042】
被覆部22は、機械加工以外に造形装置によっても製造可能である。ここで、造形装置は、任意の形状の物体を製造する装置である。造形装置は、例えば、仮想の3次元空間上に立体的な形状をコンピュータによって設計する3DCAD(3 Dimensional Computer Aided Design)、又は仮想の3次元空間上に立体的な形状をコンピュータによって作成する3DCG(3 Dimensional Computer Graphics)などによって生成された3次元的なデータで構成された3次元ディジタル・モデルに基づいて物体を製造する3Dプリンタなどである。
【0043】
被覆部22を樹脂3Dプリンタによって製造する場合には、例えば、液状樹脂に紫外線などを照射して少しずつ硬化させて物体を製造する光造形法、熱で溶解した樹脂を少しずつ積み重ねて物体を製造する熱溶解積層法(Fused Deposition Modeling(FDM)法)、シート材を物体の断面形状に切断して各層を接着及び溶接しながら積層し紫外線を照射又は加熱し硬化させ物体を製造するシート積層法、粉末樹脂に接着剤を吹き付けて物体を製造する粉末固着法、液体の光硬化性樹脂又はワックスをノズルから吹き付けて紫外線を照射又は加熱し硬化させ物体を製造する材料噴射法などによって、被覆部22を製造する。
【0044】
被覆部22を金属3Dプリンタによって製造する場合には、例えば、金属粉末にレーザ光を照射してこの金属粉末を焼結し物体を製造するレーザ焼結法(Selective laser sintering(SLS)法)、レーザ焼結法の炭酸ガスレーザに代えてイッテルビウムレーザ光を金属粉末に照射してこの金属粉末を焼結し物体を製造する直接金属レーザ焼結法(Direct metal laser sintering(DMLS)法)、金属粉末にレーザ光を照射してこの金属粉末を溶融させ物体を製造するレーザ溶融法(Selective laser melting(SLM)法)、金属粉末に電子ビームを照射してこの金属粉末を溶融させ物体を製造する電子ビーム溶解法(Electron Beam Melting(EBM)法、電子ビーム溶解法の金属粉末に代えて金属ワイヤに電子ビームを照射してこの金属ワイヤを溶融させ物体を製造する溶融金属積層法、ノズルから金属粉末を溶融プールに落としレーザ光で焼結して物体を製造するレーザ直接積層法(Laser engineered net shaping(LENS)法などによって、被覆部22を製造する。
【0045】
図8図12に示す貫通孔22aは、間隙部21に流れFを流入させ、この流入した流れFをこの間隙部21から流出させる部分である。貫通孔22aは、図12に示すように、所定の間隔(孔ピッチ)をあけて円形に形成された複数の丸孔であり、孔配列(パターン)が正三角形の各頂点に孔が存在する60°千鳥配列である。貫通孔22aは、これらの貫通孔22aの中心線L0が流れFの方向と一致するように多数配列されている。貫通孔22aは、例えば、空力音低減効果を大きく損なうことがないように、開口率が0.33程度以上で形成されている。図10図12に示す骨22bは、隣り合う貫通孔22a間の部分である。骨22bは、貫通孔22aの孔縁と貫通孔22aの孔縁との間隔である。図10に示す貫通孔22cは、被覆部22の側面部を貫通する部分である。貫通孔22cは、被覆部22を頂点カバー8に装着したときに、頂点カバー8の貫通孔8hと対応する位置に形成されている。
【0046】
図7図10に示す固定部23は、被覆部22を固定する部材である。固定部23は、図10に示すように、舟支え部7の側面部に形成された雌ねじ部と噛み合う雄ねじ部を有するボルトなどの締結部材である。固定部23は、頂点カバー8の貫通孔8h及び被覆部22の貫通孔22cに挿入されて、被覆部22を舟支え部7に着脱自在に固定する。固定部23は、被覆部22と舟支え部7との間に頂点カバー8を挟み込むように、被覆部22を頂点カバー8とともに舟支え部7に締結(共締め)している。
【0047】
次に、この発明の第1実施形態に係る集電装置の空力音低減構造の作用を説明する。
図13は、円柱表面に多孔質材を適用した場合及び多孔質材を適用しなかった場合の流れ場の変化を示す写真である。図13(A)に示す空力音低減構造は、図1図5及び図7図11に示す空力音低減構造20A,20Bを模擬した多孔質材である。多孔質材は、気孔同士の壁に微小な孔が形成されており、気孔同士が連通している連続気孔のような三次元の骨格網状構造を有する。多孔質材は、難燃性又は不燃性の金属製の多孔質材のような硬質多孔質材である。図13(B)(C)は、多孔質材を適用した場合の流れ場の測定結果であり、図13(D)(E)は多孔質材を適用しなかった場合の流れ場の測定結果である。ここで、図13(B)(D)は風洞試験による測定結果であり、図13(C)(E)は数値流体力学(Computational Fluid Dynamics(CFD))解析による解析結果である。
【0048】
図13(A)に示す流れ場の円柱の表面が空力音低減構造を備えていない場合には、図13(D)(E)に示すように円柱の最大幅部よりも僅かに上流側の表面上の剥離点で、矢印方向の流れFが剥離して、この円柱の下流側に空気が交互に回り込む。このため、円柱の表面の剥離せん断層から発生する渦の相互作用によってカルマン渦が発生し、このカルマン渦に起因する騒音や振動が発生する。一方、図13(A)に示す流れ場の円柱の表面が空力音低減構造を備えている場合には、図13(B)(C)に示すように空力音低減構造の内部に流れFが流入し、空力音低減構造内の流れFが剥離点近傍などの低圧部から自然に流出する。その結果、流れ場が安定化して渦の放出が弱まり空力音が低減する。
【0049】
図2及び図4図6に示す進行方向Dに車両2が走行すると、図2図5及び図7図9に示す集電装置3の直線的な上側稜角部8eにおいて流れFの剥離が生ずる。図8図11に示す頂点カバー8の表面のよどみ点などの高圧部の貫通孔22aから流れFが流入する。高圧部の貫通孔22aから流れFが流入すると、図8図11に示す間隙部21を流れFが通過して、頂点カバー8の表面の剥離点近傍などの低圧部の貫通孔22aから流れFが自然に流出する。その結果、流れ場が安定化して渦の放出が弱まり空力音が低減する。
【0050】
この発明の第1実施形態に係る集電装置の空力音低減構造には、以下に記載するような効果がある。
(1) この第1実施形態では、集電装置3の頂点カバー8との間に間隙部21を形成するように、頂点カバー8を被覆部22が覆い、間隙部21に流れFが流入し、この流入した流れFをこの間隙部21から流出させる複数の貫通孔22aを被覆部22が有する。このため、部材表面で流れFの流入及び流出を自然に生じさせるような貫通孔22aを設けるとともに、内部で流れFが移流可能な間隙部21を有する構造によって、空力音を低減することができる。また、貫通孔22aを有する被覆部22によって間隙部21を覆うのみで実施可能であり、従来の多孔質材と比べて容易に実施することができる。例えば、多孔板のような被覆部22を頂点カバー8に共締めなどによって強固に締結することができる。その結果、従来の多孔質材のように剥がれるリスクを考慮する必要がなくなるとともに、従来の多孔質材の接着よりも信頼性が高く容易に適用することができる。さらに、例えば、多孔板などによって間隙部21を覆うような、適用や製造が容易な空力音低減構造によって、空力音発生源から発生する空力音を低減することができる。
【0051】
(2) この第1実施形態では、頂点カバー8の上側稜角部8eに沿って間隙部21が形成されている。このため、上側稜角部8eが単純な形状である場合には、多孔板を曲げ加工やプレス加工することによって、被覆部22を簡単に製造することができる。また、上側稜角部8eが複雑な形状である場合には、高強度な金属3Dプリンタなどの加工技術を使用して多孔板を製造して、被覆部22を簡単に製造することができる。その結果、従来の多孔質材のような接着や取り付けが困難な三次元曲面についても適用することができる。
【0052】
(3) この第1実施形態では、間隙部21の底面21a,21bが平面に形成されており、間隙部21の底面21a,21bとの間に所定の隙間を形成するように、間隙部21の底面21a,21bを被覆部22が覆う。このため、例えば、頂点カバー8の上側稜角部8eを切り欠くように凹状の間隙部21を機械加工などによって簡単に形成することができ、簡単に空力音低減効果を得ることができる。
【0053】
(第2実施形態)
以下では、図1図12に示す部分と同一の部分については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
図14に示す間隙部21は、この間隙部21の底面21eが湾曲面に形成されている。間隙部21は、縦断面形状が所定の半径の円弧(R状)に形成された1/4円であり、上側稜角部8eの角部に丸みを付けるように削られた面取り(R面取り)である。この第2実施形態には、第1実施形態と同様の効果がある。
【0054】
(第3実施形態)
図15に示す間隙部21は、図14に示す間隙部21と同様に、この間隙部21の底面21eが1/4円の湾曲面に形成されている。被覆部22は、図11及び図14に示す被覆部22とは異なり、図15に示すように間隙部21の底面21eに沿って湾曲面に形成されており、外側が平滑な形状な円弧(R状)に折り曲げられている。被覆部22は、底面21eとの間に一定の隙間を形成するように、底面21eを覆っている。この第3実施形態には、第1実施形態及び第2実施形態と同様の効果がある。
【0055】
(第4実施形態)
図16に示す間隙部21は、図11に示す間隙部21に比べて底面21a,21bの深さが浅く形成されており、縦断面形状が逆L字状に形成された凹部である。被覆部22は、間隙部21の底面21a,21bに沿って、底面21a,21bとの間に一定の隙間を形成するように、底面21a,21bを覆っている。この第4実施形態には、第1実施形態~第3実施形態と同様の効果がある。
【0056】
(第5実施形態)
図17に示す間隙部21は、この間隙部21の底面21eが傾斜面に形成されている。間隙部21は、縦断面形状が所定の傾斜角に形成された平面であり、上側稜角部8eの角部に斜面を付けるように削られた面取り(C面取り)である。被覆部22は、間隙部21の底面21eに沿って、底面21eとの間に一定の隙間を形成するように、底面21eを覆っている。この第5実施形態には、第1実施形態~第4実施形態と同様の効果がある。
【0057】
(第6実施形態)
図18に示す被覆部22は、複数の貫通孔22aの中心線L0が流れFの方向と直交するように、この複数の貫通孔22aが配列されており、この複数の貫通孔22aの中心線L0と直交する折り線LB上で折り曲げられている。被覆部22は、上側稜角部8eに沿って折り曲げられており、中心線L0と直交し、かつ、貫通孔22aの中心点を通過する折り線LBで折り曲げられている。貫通孔22aは、図11に示す貫通孔22aと同様に、60°千鳥配列であるが、図11に示す貫通孔22aの配列(向き)とは異なり、この貫通孔22aの中心点を回転中心として貫通孔22aの配列(向き)を90°回転させている。貫通孔22aは、これらの貫通孔22aの中心線L0が流れFの方向と直交するように多数配列されている。この第6実施形態には、第1実施形態~第5実施形態と同様の効果がある。
【0058】
(第7実施形態)
図19に示す被覆部22は、上側稜角部8eに沿って折り曲げられているが、図11に示す被覆部22とは異なり、貫通孔22aと重なる(中心線L0と一致する)ように折り線LBで折り曲げられている。被覆部22は、複数の貫通孔22aの中心線L0が流れFの方向と一致するように、この複数の貫通孔22aが配列されており、この複数の貫通孔22aの中心線L0上で折り曲げられている。貫通孔22aは、図11に示す貫通孔22aと同様に、60°千鳥配列である。この第7実施形態には、第1実施形態~第6実施形態と同様の効果がある。
【0059】
(第8実施形態)
図20に示す空力音低減構造20Aは、間隙部21と空力音低減部24などを備えている。間隙部21は、被覆部22と空力音低減部24との間に形成される隙間である。間隙部21は、頂点カバー8の上側稜角部8eに沿って形成されており、縦断面形状が略L字状に形成された凹部であり、空力音低減部24の表面に形成された段差である。底面21a,21bは、空力音低減部24の表面に形成され間隙部21の底部を構成する部分である。被覆部22は、空力音低減部24との間に所定の隙間を形成するように空力音低減部24を覆っている。
【0060】
空力音低減部24は、間隙部21に収容された状態で空力音を低減する手段である。空力音低減部24は、頂点カバー8の表面を被覆して空力音を低減する。空力音低減部24は、頂点カバー8の上側稜角部8eに接着剤などによって貼り付けられている。空力音低減部24は、気孔同士の壁に微小な孔が形成されており、気孔同士が連通している連続気孔の多孔質材のような三次元の骨格網状構造を有する。空力音低減部24は、例えば、難燃性又は不燃性の金属製の多孔質材のような硬質多孔質材である。空力音低減部24は、よどみ点などの高圧部から貫通孔22aを通じて、この空力音低減部24の内部に流れFを流入させる。空力音低減部24は、この空力音低減部24内の流れFを剥離点近傍などの低圧部から貫通孔22aを通じて自然に流出させることによって、流れ場を安定化させ渦の放出を弱め空力音を低減させる。
【0061】
空力音低減部24は、一般に吸音効果を目的とする場合にはセルの小さいものが選択されるが、空力音低減を目的とする場合には吸音効果を目的とする場合に比べてセルの大きなものが選択される。空力音低減部24は、長さ25mm(1インチ)の直線上の気孔の数を表すセル範囲が6を下回り55を超えると騒音レベルの低下が期待できないため、セル範囲が6以上55以下のものが好ましく、セル範囲が11以上16以下のものが特に好ましい。空力音低減部24は、セル範囲が適切であっても、多孔質材と同形状な無垢物(バルク材)の体積と多孔質材が有する空気部分の体積との比率である空隙率(気孔率又は空孔率)が低い場合には、騒音レベルの低下が期待できないため、80%以上の高い空隙率を有するものが好ましい。
【0062】
この第8実施形態に係る集電装置の空力音低減構造には、第1実施形態~第7実施形態の効果に加えて、以下に記載するような効果がある。
この第8実施形態では、間隙部21に収容された状態で空力音低減部24が空力音を低減し、空力音低減部24との間に所定の隙間を形成するように、空力音低減部24を被覆部22が覆う。このため、よどみ点などの高圧部から貫通孔22aを通じて、空力音低減部24の内部に流れFを流入させることができる。その結果、空力音低減部24内の流れFを剥離点近傍などの低圧部から貫通孔22aを通じて自然に流出させることによって空力音低減部24によって流れ場を安定化させ渦の放出を弱め空力音を低減させることができる。
【0063】
(第9実施形態)
図21に示す空力音低減部24は、図20に示す空力音低減部24とは異なり、間隙部21を通過する空力音を間隙部21内で吸収する吸音材である。空力音低減部24は、例えば、グラスウール、グラスファイバ又はロックウールなどの無機質繊維系、アルミニウム繊維、ステンレス繊維又は鉄系合金繊維などの金属繊維系、プラスチックフォーム、ウレタン、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロプレン、ポリウレタンフォーム、発泡ポリスチロール又は天然高分子多孔質体などの有機発泡系、セラミックスなどの多孔質吸音材又はこれらの任意の組み合わせからなる吸音材である。この第9実施形態では、第1実施形態~第7実施形態の効果に加えて、被覆部22の貫通孔22aから間隙部21を通過する空力音を空力音低減部24によって低減することができ、頂点カバーから発生する空力音をより一層低下させることができる。
【実施例0064】
次に、この発明の実施例について説明する。
(風洞試験)
平滑化舟体を備える実物の新幹線パンタグラフの頂点カバーに供試体A~Hを取り付けて、風洞試験により空力音の評価を行った。風洞試験は、公益財団法人鉄道総合技術研究所の開放胴型の風洞試験装置を使用した。図22に示すように、風洞試験装置の風洞測定部の第1模型支持台車上に実物の新幹線パンタグラフを支持した状態で、風洞測定部内の新幹線用パンタグラフに吹き出しノズルから風速360km/hの空気を吹き出し、この空気の流れによって新幹線パンタグラフから発生する空力音を空力音測定マイクによって測定した。
【0065】
(供試体A~C)
図23に示すように、上側稜角部に切欠きを設けた頂点カバーを用いて、上側稜角部の条件を様々に変更した場合の空力音低減効果を、図22に示す風洞試験において確認した。供試体A~Cは、現用品の新幹線パンタグラフの頂点カバーである。供試体Aは、図10及び図11に示す頂点カバー8の上側稜角部8eの間隙部21を塞ぐように、貫通孔22aのない板を頂点カバー8に装着している。供試体Bは、図10及び図11に示す頂点カバー8の上側稜角部8eの間隙部21を塞がずに開放している。供試体Cは、図10及び図11に示す第1実施形態であり、頂点カバー8の上側稜角部8eの間隙部21を塞ぐように、多孔板の被覆部22を頂点カバー8に装着している。供試体Cは、内径3mmの孔を4mmピッチで60°千鳥配置した厚さ0.5mmの多孔板を使用し、図12に示すように多孔板の向きが縦目、多孔板の折り目が骨折りである。
【0066】
(供試体D,E)
図24に示すように、上側稜角部に円弧形状のR面取りを設けた頂点カバーを用いて、上側稜角部の条件を様々に変更した場合の空力音低減効果を、図22に示す風洞試験において確認した。供試体D,Eは、現用品の新幹線パンタグラフの頂点カバーである。供試体Dは、図14に示す頂点カバー8の上側稜角部8eの間隙部21を塞がずに開放している。供試体Eは、図14に示す第2実施形態であり、頂点カバー8の上側稜角部8eの間隙部21を塞ぐように、多孔板の被覆部22を頂点カバー8に装着している。供試体Eは、供試体Cと同様の多孔板を使用し、図12に示すように多孔板の向きが縦目、多孔板の折り目が骨折りである。
【0067】
(供試体F~H)
図24に示す上側稜角部に円弧形状のR面取りを設けた頂点カバーを用いて、図25に示すように多孔板の設置方向及び折り目を変化させた場合の空力音低減効果を、図22に示す風洞試験において確認した。供試体F~Hは、供試体C,Eと同様の多孔板を使用した。供試体Fは、図14に示す第2実施形態であり、多孔板の向きが縦目、多孔板の折り目が骨折りである。供試体Gは、多孔板の向きが横目、多孔板の折り目が孔折りである。供試体Hは、多孔板の向きが縦目、多孔板の折り目が孔折りである。
【0068】
(空力音低減効果の評価結果)
図23は、風洞試験による供試体A~Cの空力音の測定結果である。図23に示す縦軸は、騒音レベルOA値(dB(A))である。供試体Bは、供試体Aとほぼ同等のOA値であり、空力音低減効果が認められないことが確認された。その結果、上側稜角部の切欠きを塞がない場合には、上側稜角部の切欠きを塞いだ場合と同様に、空力音低減効果が認められないことが確認された。一方、供試体Cは、供試体Aに比べてOA値を0.6dB程度低減でき、供試体A,Bに比べて空力音低減効果が高いことが確認された。その結果、上側稜角部の切欠きを多孔板で覆った場合には、上側稜角部の切欠きを塞いだ場合や上側稜角部の切欠きを塞がない場合に比べて、空力音低減効果を得られることが確認された。
【0069】
図24は、風洞試験による供試体D,Eの空力音の測定結果である。図24に示す縦軸は、騒音レベルOA値(dB(A))である。供試体Dは、供試体Aに比べてOA値を0.4dB程度低減できることが確認された。その結果、上側稜角部のR面取りを塞がない場合には、上側稜角部に面取りがない場合に比べて、空力音低減効果が認められることが確認された。供試体Eは、供試体Aに比べてOA値を0.8dB程度低減でき、供試体A,Dに比べて空力音低減効果が高いことが確認された。その結果、上側稜角部のR面取りを多孔板で覆った場合には、上側稜角部にR面取りがない場合や、上側稜角部にR面取りがある場合に比べて、空力音低減効果を得られることが確認された。
【0070】
図25は、風洞試験による供試体F~Hの空力音の測定結果である。図25に示す縦軸は、騒音レベルOA値(dB(A))である。供試体G,Hは、供試体Fを基準としてOA値の変化量が小さいことが確認された。その結果、多孔板が縦目及び骨折りの場合と同様に、多孔板の向きを90°変更した横目で孔折りに変更した場合や、折り目を孔折りのみに変更した場合についても、空力音低減効果が得られることが確認された。但し、多孔板が孔折りの場合の方が、空力音低減効果が若干大きくなることが示唆された。
【0071】
(他の実施形態)
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、新幹線用の集電装置3を例に挙げて説明したが、在来線用の集電装置についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、集電装置3としてシングルアーム式パンタグラフを例に挙げて説明したが、菱型パンタグラフなどの他の形式のパンタグラフについても、この発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、車両2の進行方向前側に中間ヒンジ13が位置するなびき方向に集電装置3が移動する場合を例に挙げて説明したが、車両2の進行方向後側に中間ヒンジ13が位置する反なびき方向に集電装置3が移動する場合についても、この発明を適用することができる。
【0072】
(2) この実施形態では、隣り合う複数面が交わる稜角部が空力音発生源である場合を例に挙げて説明したが、複数の部材が接合又は近接する箇所の周辺部のような空力音発生源についても、この発明を適用することができる。同様に、この実施形態では、集電装置3の空力音発生源として頂点カバー8の上側稜角部8eを例に挙げて説明したが、上側稜角部8eにこの発明を限定するものではない。例えば、頂点カバー8の下側稜角部8fや、中間ヒンジ13の上側稜角部又は下側稜角部や、風防カバー18の上側稜角部、下側稜角部又は風防カバー18とがいし19との接合部などの空力音発生源から発生する空力音を低減する場合についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、被覆部22が頂点カバー8と別部材である場合を例に挙げて説明したが、被覆部22を頂点カバー8と一体成型する場合や、被覆部22を他のパンタグラフ部材と一体成型する場合などについても、この発明を適用することができる。
【0073】
(3) この実施形態では、貫通孔22aの形状が円形である場合を例に挙げて説明したが、貫通孔22aの形状が楕円形、四角形、多角形又は長孔(スリット)などである場合であっても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、貫通孔22aの孔配列(パターン)が60°千鳥配列である場合を例に挙げて説明したが、孔配列(パターン)が二等辺三角形の各頂点に孔が存在する45°千鳥配列である場合についても、この発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、被覆部22を頂点カバー8とともに舟支え部7に固定部23によって締結する場合を例に挙げて説明したが、このような締結方法にこの発明に限定するものではない。例えば、固定部23の雄ねじ部と噛み合う雌ねじ部を頂点カバー8の側面部8cに形成し、被覆部22を頂点カバー8に固定部23によって締結する場合についても、この発明を適用することができる。
【0074】
(4) この第1実施形態及び第3実施形態~第8実施形態では、間隙部21の底面21a,21bの断面形状と被覆部22の断面形状とが同じである場合を例に挙げて説明したが、間隙部21の底面21a,21bの断面形状と被覆部22の断面形状とを任意に組み合わせる場合についても、この発明を適用することができる。例えば、間隙部21の底面21eの断面形状を円弧に形成し、被覆部22の断面形状を角に形成する場合についても、この発明を適用することができる。同様に、間隙部21の底面21a,21b,21eの断面形状を四角、円弧又は三角に形成し、被覆部22の断面形状を角に形成する場合についても、この発明を適用することができる。また、この第8実施形態では、空力音低減部24が多孔質材である場合を例に挙げて説明したが、吸音材である場合についても、この発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、空力音低減部24が連続気孔の多孔質材である場合を例に挙げて説明したが、空力音低減部24が網状の多孔質材である場合についても、この発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 架線
1a トロリ線
2 車両
2a 車体
3 集電装置
4 すり板
5 舟体
6 枠組
7 舟支え部
8 頂点カバー(空力音発生源)
8a 上面部
8b 下面部
8c 側面部
8d 背面部
8e 上側稜角部
8f 下側稜角部
8g 装着部
9 上枠
11 下枠
17 台枠
20A,20B 空力音低減構造
21 間隙部
21a,21b 底面
21e 底面
22 被覆部
22a 貫通孔
22b 骨
23 固定部
24 空力音低減部
F 流れ
D 進行方向
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