(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174893
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】光触媒能測定装置、光触媒能測定方法及び光触媒能評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/78 20060101AFI20221117BHJP
G01N 21/77 20060101ALI20221117BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20221117BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
G01N21/78 C
G01N21/77 C
G01N21/64 F
B01J35/02 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080924
(22)【出願日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】521157362
【氏名又は名称】株式会社光触媒研究院
(74)【代理人】
【識別番号】100090527
【弁理士】
【氏名又は名称】舘野 千惠子
(74)【代理人】
【識別番号】100198661
【弁理士】
【氏名又は名称】久保寺 利光
(72)【発明者】
【氏名】藤嶋 昭
【テーマコード(参考)】
2G043
2G054
4G169
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043CA05
2G043DA02
2G043EA01
2G043FA03
2G043GA06
2G043GB21
2G043HA04
2G043JA02
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2G043KA03
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2G043LA02
2G043NA01
2G054AA04
2G054AB10
2G054CB10
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2G054EB04
2G054FA01
2G054FA10
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2G054FA19
2G054FA23
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2G054FA50
2G054GA02
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2G054GE05
2G054GE06
2G054GE07
2G054JA01
4G169AA02
4G169BA04B
4G169BA13B
4G169BA48A
4G169BB04B
4G169BC50B
4G169CD10
4G169DA05
4G169HA01
4G169HB01
4G169HC24
4G169HD10
4G169HE20
4G169HF02
4G169HF03
(57)【要約】
【課題】光触媒能を簡便に測定でき、高い感度で高精度に測定することができる光触媒能測定装置を提供する。
【解決手段】光触媒を有する基材40の光触媒能を測定する装置であって、前記基材は、該基材上に蛍光色素が付与されており、前記光触媒を励起させる第1の励起光及び前記蛍光色素を励起させる第2の励起光を照射する照射手段11、12と、前記蛍光色素の蛍光を受光する受光手段14と、を備えることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒を有する基材の光触媒能を測定する装置であって、
前記基材は、該基材上に蛍光色素が付与されており、
前記光触媒を励起させる第1の励起光及び前記蛍光色素を励起させる第2の励起光を照射する照射手段と、
前記蛍光色素の蛍光を受光する受光手段と、を備えることを特徴とする光触媒能測定装置。
【請求項2】
前記照射手段は、1つの光源であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒能測定装置。
【請求項3】
前記照射手段は、2つ以上の光源を有し、少なくとも前記第1の励起光を照射する光源と前記第2の励起光を照射する光源とを有することを特徴とする請求項1に記載の光触媒能測定装置。
【請求項4】
外部からの光を遮蔽する遮蔽部材を有し、
前記遮蔽部材は、前記基材の一部又は全部を覆い、内側に前記照射手段及び前記受光手段を備えることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の光触媒能測定装置。
【請求項5】
外部からの光を遮蔽する遮蔽部材と、
前記照射手段及び前記受光手段を保持する保持部材と、を有し、
前記遮蔽部材は、前記保持部材を覆うとともに、前記基材の一部又は全部を覆うことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の光触媒能測定装置。
【請求項6】
前記受光手段の近傍に、前記蛍光色素の蛍光のピーク波長近傍の光を透過するフィルタ(1)を有することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の光触媒能測定装置。
【請求項7】
所定の光を透過する又は所定の光を透過しないフィルタ(2)を有し、
前記照射手段は、前記フィルタ(2)を介して前記基材に光を照射することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の光触媒能測定装置。
【請求項8】
光触媒を有する基材の光触媒能を測定する方法であって、
前記基材に蛍光色素を付与する付与工程と、
前記光触媒を励起させる第1の励起光及び前記蛍光色素を励起させる第2の励起光を照射する照射工程と、
前記蛍光色素の蛍光を受光する受光工程と、を有することを特徴とする光触媒能測定方法。
【請求項9】
前記付与工程は、前記蛍光色素と溶媒とを含む溶液を前記基材に付与し、
前記溶媒は、アルコール又は水であることを特徴とする請求項8に記載の光触媒能測定方法。
【請求項10】
前記蛍光色素は、ローダミンB及びフルオレセインから選ばれることを特徴とする請求項8又は9に記載の光触媒能測定方法。
【請求項11】
前記照射工程は、1つの光源により行われることを特徴とする請求項8~10のいずれかに記載の光触媒能測定方法。
【請求項12】
前記照射工程は、2つ以上の光源により行われ、少なくとも前記第1の励起光を照射する光源と前記第2の励起光を照射する光源とにより行われることを特徴とする請求項8~11のいずれかに記載の光触媒能測定方法。
【請求項13】
前記照射工程は、前記第1の励起光を照射する第1の照射工程と、前記第2の励起光を照射する第2の照射工程を有し、
前記第1の照射工程と前記第2の照射工程は、別工程として段階的に行われることを特徴とする請求項12に記載の光触媒能測定方法。
【請求項14】
前記受光工程は、前記蛍光色素の蛍光のピーク波長近傍の光を透過するフィルタ(1)を用いることを特徴とする請求項8~13のいずれかに記載の光触媒能測定方法。
【請求項15】
前記照射工程は、所定の光を透過する又は所定の光を透過しないフィルタ(2)を介して前記基材に光を照射することを特徴とする請求項8~14のいずれかに記載の光触媒能測定方法。
【請求項16】
前記照射工程及び前記受光工程は、外部からの光を遮蔽する遮蔽部材により前記基材の一部又は全部が覆われた状態で行われることを特徴とする請求項8~15のいずれかに記載の光触媒能測定方法。
【請求項17】
請求項8~16のいずれかに記載の光触媒能測定方法を用いて光触媒能を評価する光触媒能評価方法であって、
測定対象の前記基材とは別の基材又は測定対象の前記基材についてあらかじめ前記付与工程、前記照射工程及び前記受光工程を行い、受光した蛍光の値を基準値とし、測定対象の前記基材に対して前記付与工程、前記照射工程及び前記受光工程を行い、受光した蛍光の値と前記基準値とを比較し、光触媒能を評価することを特徴とする光触媒能評価方法。
【請求項18】
光触媒を有する基材の光触媒能を測定する方法であって、
前記基材に蛍光色素を付与する付与工程と、
前記付与工程の後、前記蛍光色素を励起させる励起光を照射し、蛍光色素の蛍光を受光する第1の受光工程と、
前記第1の受光工程の後、前記光触媒を励起させる励起光を照射する照射工程と、
前記照射工程の後、前記蛍光色素を励起させる励起光を照射し、蛍光色素の蛍光を受光する第2の受光工程と、を含むことを特徴とする光触媒能測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒能測定装置、光触媒能測定方法及び光触媒能評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光触媒の応用範囲が広がりをみせ、身のまわりで光触媒が利用されている製品が目につくようになってきている。光触媒の有する抗菌・抗ウイルス、防汚、防曇、脱臭、大気浄化、水浄化等の特長に着目が集まり光触媒の利用がますます多くなってきている。
【0003】
光触媒能の測定や評価については、例えば、メチレンブルーで着色した溶液に光触媒を有する基材を入れ、光を照射し、溶液の色の変化を測定する方法が用いられている。また、アセトアルデヒド等の気体に対して光触媒の分解前後で対象物の量や濃度を測定して評価する方法が用いられている。
【0004】
しかし、これらの方法では、定量的な評価になじみにくく、感度を高くすることができないという問題がある。また、これらの方法では、測定するための準備に手間がかかる他、結果が出るまでに時間がかかるという問題がある。更に、メチレンブルーでは、光触媒の作用によって一時的に色が消えたとしても、時間が経つことで空気中の酸素と反応し色が元に戻ってしまうことがある。そのため、光を照射し続ける必要があり、簡易に評価を行えない問題の他、場合によっては正しく評価を行えない問題があった。
【0005】
特許文献1では、可視光照射下で可視光型光触媒活性を有する基材の光触媒性能を評価する方法が提案されており、(a)耐光性を有する有機色素を溶媒液に溶解した試験溶液を基材表面の一部に塗布する工程;(b)基材表面の試験溶液塗布部に可視光を照射する工程;(c)試験溶液塗布部の色変化を測定する工程、を含み、色変化の程度を指標として基材の光触媒性能を評価することが提案されている。
【0006】
特許文献1では、耐光性を有する有機色素が可視光型光触媒によって分解され、その色が消失する程度を指標として可視光型光触媒の性能を評価するとしている。また、特許文献1によれば、有機色素は耐光性を有しているため、光触媒が存在しない状態では可視光を照射しても退色することはなく、可視光型光触媒の性能を短時間で簡便かつ高精度に評価することができるとしている。
【0007】
また、特許文献2では、光触媒活性を有する物質(活性物質)に光を照射した際に生じるホール又はエレクトロンと反応する物質(評価反応物質)を被評価表面に適用する工程
と、該表面に紫外線を照射する工程と、評価反応物質の反応量を定量化する工程と、を含む光触媒活性の評価方法が開示されている。特許文献2における定量化する工程では、評価反応物質のpH変化を測定することや評価反応物質の色の変化を測定することが例示されている。特許文献2では、有色金属イオンの色変化やセロファン粘着テープの色変化を観測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007-3353号公報
【特許文献2】特許第3449046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1では、色変化の程度を指標として基材の光触媒能を評価しており、感度が低いという問題があった。特許文献1では、光触媒ありのサンプルと光触媒なしのサンプルとを比較し、分解率の違いを示しているが、光触媒ありのサンプル同士を比較する場合、感度が低く、光触媒能を測定するには不十分である。また、サンプル間の光触媒能の違いをより顕著に確認するには、数時間程度、測定を続ける必要があり、簡便に評価できるとは言い難いものであった。
【0010】
特許文献2についても特許文献1と同様に十分な感度が得られないという問題があった。特許文献2では評価反応物質の反応量を定量化する方法として、評価反応物質の色の変化を測定することを例示しており、例えば色差による評価を行っているが、この場合、色の変化を検知しにくい場合があり、基材の色などにも影響を受けて測定値にばらつきが生じる場合があった。例えば、釉薬が表面に塗られたタイルに光触媒を形成し、セロファン粘着テープを貼り付け、このテープの色変化を測定しているが、釉薬、光触媒、粘着テープの種類によって感度が低くなり、評価できるものが限られてしまう。このため、十分な感度が得られないという問題や十分な精度が得られないという問題があった。
【0011】
また、特許文献2では、光触媒活性の高い酸化チタンについてのみ評価を行っており、酸化チタン以外の光触媒について精度良く評価できるとは言えなかった。例えば、酸化タングステン等も可視光光触媒と言われているが、酸化チタンほど顕著に変化を測定し難く、開示されている評価方法では、種々の光触媒が本当に光触媒機能を発揮しているかを評価することは難しい。
【0012】
そこで本発明は、光触媒能を簡便に測定でき、高い感度で高精度に測定することができる光触媒能測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の光触媒能測定装置は、光触媒を有する基材の光触媒能を測定する装置であって、前記基材は、該基材上に蛍光色素が付与されており、前記光触媒を励起させる第1の励起光及び前記蛍光色素を励起させる第2の励起光を照射する照射手段と、前記蛍光色素の蛍光を受光する受光手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光触媒能を簡便に測定でき、高い感度で高精度に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の光触媒能測定装置の一例を説明するための概略図である。
【
図2】
図1における光を模式的に説明するための概略図である。
【
図3】付与工程の一例を説明するための概略図(A)~(C)である。
【
図4】蛍光色素の励起波長と蛍光波長のイメージ図(A)及び測定結果の一例(B)である。
【
図5】本発明の光触媒能測定装置の他の例を説明するための概略図である。
【
図6】本発明の光触媒能測定装置の他の例を説明するための概略図である。
【
図7】本発明の光触媒能測定装置の他の例を説明するための概略図(A)及び(B)である。
【
図8】本発明の光触媒能測定装置の他の例を説明するための概略図である。
【
図9】本発明の光触媒能測定装置の他の例を説明するための概略図である。
【
図10】フィルタの一例を説明するための図(A)及び(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る光触媒能測定装置、光触媒能測定方法及び光触媒能評価方法について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0017】
本発明の光触媒能測定装置は、光触媒を有する基材の光触媒能を測定する装置であって、前記基材は、該基材上に蛍光色素が付与されており、前記光触媒を励起させる第1の励起光及び前記蛍光色素を励起させる第2の励起光を照射する照射手段と、前記蛍光色素の蛍光を受光する受光手段と、を備えることを特徴とする。
【0018】
本発明の光触媒能測定方法は、光触媒を有する基材の光触媒能を測定する方法であって、前記基材に蛍光色素を付与する付与工程と、前記光触媒を励起させる第1の励起光及び前記蛍光色素を励起させる第2の励起光を照射する照射工程と、前記蛍光色素の蛍光を受光する受光工程と、を有することを特徴とする。
【0019】
以下、本実施形態の光触媒能測定方法、光触媒能測定装置を単に測定方法、測定装置などと称することがある。
【0020】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態の光触媒能測定装置を説明するための断面概略図である。
本実施形態の光触媒能測定装置は、光源(1)11、光源(2)12、受光センサ14、遮光カバー20、バンドパスフィルタ31を有している。また、ここでは、光触媒42を有する基材40が図示されており、基材40上に蛍光色素43が付与されている。
【0021】
光源(1)11は、光触媒を励起させる第1の励起光を照射する。特に制限されるものではないが、光源(1)11としては、例えばLED、キセノンランプ等を用いることができる。第1の励起光としては、例えば紫外線(UV)が挙げられる。この他にも、例えば可視光であってもよい。
【0022】
光源(2)12は、蛍光色素を励起させる第2の励起光を照射する。特に制限されるものではないが、光源(2)12としては、例えばLED、キセノンランプ等を用いることができる。この他にも例えばブラックライトを用いることができる。
【0023】
光源(1)11及び光源(2)12の配置等については、図示されるものに限られず、適宜選択することができる。本実施形態における照射手段は、2つ以上の光源を有していてもよく、この場合、第1の励起光を照射する光源と第2の励起光を照射する光源とを有することが好ましい。
【0024】
本実施形態では、光触媒を励起させる第1の励起光を照射する光源と、蛍光色素を励起させる第2の励起光を照射する光源とを別にしているが、後述の実施形態のように、1つの光源としてもよい。この場合、この光源が照射する光は、光触媒を励起させ、かつ、蛍光色素を励起させる。
【0025】
受光センサ14は、受光手段の一例であり、蛍光色素の蛍光を受光する。図示する例では、受光センサ14を2つ設けているが、これに限られず、個数や配置等については、適宜選択することができる。
受光センサ14としては、例えば、太陽電池、フォトマル(光電子増倍管)等を用いることができる。受光センサ14として太陽電池等、電流値を測定できるものを用いることで、測定された値が小さくても光触媒能を定量的に評価することができる。受光センサ14がどのような値の範囲を測定するかについては、光触媒の種類等を考慮して適宜選択することができる。
【0026】
本実施形態では、受光センサ14の近傍に、蛍光色素の蛍光のピーク波長近傍の光を透過するバンドパスフィルタ31(フィルタ(1))を配置している。これにより、受光センサ14が光源からの光を検出しないようにすることができ、精度が向上する。図示する例では、受光センサ14とバンドパスフィルタ31を離間させて配置しているが、これに限られず、両者を接触させるようにしてもよい。また、バンドパスフィルタ31を使用する枚数は特に制限されない。
【0027】
バンドパスフィルタ31としては、所定の波長領域の光を透過するものを用いる。例えば550nm~600nmの波長の光を透過するフィルタを用いることができるが、蛍光色素の種類等によって適宜選択することができ、これに限られない。また、狭帯域バンドパスフィルタを用いて、より狭い領域の波長領域の光を透過するようにしてもよい。バンドパスフィルタ31を使用する理由は、光源や外部からの光を受光センサ14が検出しないようにするためである。そのため、どのような波長の光を透過するか、もしくはカットするかについては、バンドパスフィルタ31を使用する理由を考慮して適宜決めればよい。
【0028】
参考として、バンドパスフィルタの一例における波長と透過率の関係を
図10(A)に示す。図示するように、バンドパスフィルタでは、所定の波長領域の光を透過する。図示する例では、500nm~550nmの波長の光を透過する。
【0029】
遮光カバー20は、遮蔽部材の一例であり、外部からの光を遮蔽する。遮光カバー20としては、外部からの光を遮蔽できればよく、特に制限されるものではないが、例えば黒色のカバーを用いることができる。遮光カバー20の材質としては、特に制限されるものではなく、例えば、金属、樹脂、布、紙等が挙げられる。本実施形態における遮光カバー20は、外部からの光を遮断するとともに、光源や受光センサ等を保持している。
【0030】
なお、後述の実施形態のように、遮蔽カバーは光源や受光センサ等を保持していなくてもよく、遮蔽カバーとは別に光源や受光センサ等を保持する保持部材を用いてもよい。この場合、遮蔽カバーとして例えば布や紙等を用いることができ、遮蔽カバーは保持部材を覆い、基材の一部又は全部を覆う。
【0031】
遮光カバー20の大きさや形状は、特に制限されるものではなく、適宜選択することができる。図示する例において、遮光カバー20は、基材40の全部を覆う大きさとしている。遮光カバー20の大きさは、これに限られず、その他にも例えば基材40の一部を覆う大きさであってもよい。
【0032】
詳細な例は後述するが、壁、床、天井など広い面積に形成された光触媒に対して測定する場合や基材が大きい場合においても本実施形態の測定装置を用いることも可能である。この場合、遮光カバー20は、基材40の一部を覆う大きさになる。
【0033】
また、図示する例において、遮光カバー20は、断面形状が円弧状のドーム形であり、このような形状をおわん形などと称してもよい。遮光カバー20の形状はこれに限られず、その他にも箱型等であってもよい。遮蔽カバーとしては、積分球であることが好ましく、蛍光色素からの蛍光が集光する箇所に受光センサ14を配置することにより感度を向上させることができる。
【0034】
図2に、
図1に示す例における光を模式的に説明するための概略図を示す。図示するように、光源(1)11から第1の励起光が照射され、光触媒42が励起される。これにより、光触媒42が蛍光色素43を分解する。光源(2)12から第2の励起光が照射され、蛍光色素43が励起される。これにより、蛍光色素43から蛍光が発せられ、受光センサ14により蛍光が検出される。
【0035】
次に、本実施形態の光触媒能測定方法について説明する。
まず、光触媒を有する基材に蛍光色素を付与する付与工程を行う。
図3に、付与工程を説明するための概略図を示す。
図3(A)は基材40の側面図もしくは断面図である。基材40は、光触媒能測定方法の測定対象である。
【0036】
本例の基材40は、ベース41と光触媒42を含む。
ベース41としては、特に制限されるものではなく、例えば、紙、布、ガラス、壁、床、天井、金属、樹脂等、適宜選択することができる。ベース41の形状としては、特に制限されるものではなく、例えば、平面、凹凸形状、フィルタ等の穴を有する形状等、適宜選択することができる。また、ベース41の厚みは、特に制限されない。
【0037】
ベース41の材質や形状によって蛍光色素の付着状態が変わることがあるため、ベース41の材質や形状、例えば表面粗さを十分に考慮することが好ましい。蛍光色素を付与する際に、基材上の蛍光色素の付着状態によって受光する蛍光量に違いが生じることがあることに留意する。そのため、例えばベース41の凹凸が少ない場合は蛍光色素を含む溶液の濃度を高くしてもよいが、凹凸が多い場合は溶液の濃度を抑えるといった調整を行うことが好ましい。
【0038】
光触媒42としては、特に制限されるものではなく、適宜選択することができる。光触媒42によって形成される層の厚み等についても、特に制限されるものではない。光触媒42が励起されて光触媒能が生じる光(第1の励起光)の波長についても特に制限されるものではない。光触媒42の種類に応じて、光源(1)11の波長を適宜選択してもよいし、カットフィルタを用いるようにしてもよい。
【0039】
図3(B)に示すように、本例の付与工程では、蛍光色素と溶媒とを含む溶液43aを基材40に付与する。
溶媒としては、適宜選択することができ、例えば、アルコール、水が挙げられる。
アルコールとしては、特に制限されるものではなく、例えば、メタノール、エタノール等が挙げられる。
【0040】
蛍光色素を溶媒に溶解させる観点や乾燥させやすいという観点から、溶媒としてはアルコールを用いることが好ましい。一方、アルコールと光触媒が反応することがあるため、溶媒としては水を用いることも好ましい。
【0041】
蛍光色素としては、適宜選択することができ、例えば、ローダミンB、ローダミン6G、ローダミン123、フルオレセイン等のキサンテン系、メロシアニン系、アクリジン系、ルシフェリン系、スチルベン系、クマリン系、ペリレン、ピラニン等が挙げられる。
蛍光色素としては、蛍光効率が高いものが好ましく、すなわち、蛍光色素を励起させるための励起光の強度と、蛍光色素の蛍光の強度との比が100%に近いものが好ましい。この場合、感度が向上する。この観点から、蛍光色素としてはとりわけローダミンB、フルオレセインが好ましい。
【0042】
また、蛍光色素としては、蛍光色素を励起させる励起光の波長と、蛍光色素が発する蛍光の波長とができるだけ離れた値であるものが好ましい。この場合、受光センサ14が第2の励起光を検出してしまうことを防ぎやすくなる。また、バンドパスフィルタ31の透過する波長領域と、蛍光色素の励起光の波長及び蛍光の波長との関係を考慮してバンドパスフィルタ31の種類と蛍光色素の種類を決めることが好ましい。
【0043】
本実施形態では蛍光色素を用いているが、従来技術のように、蛍光を発しない有機色素を用いる場合、良好な感度が得られず、高精度に評価を行えない。例えば、このような有機色素を用いる場合、可視光で測定する必要があり、基材の色にも影響を受け、測定値が安定しない。また、例えばメチレンブルーを用いる場合、光触媒の作用によっていったんは色が消えても、時間が経って空気中の酸素と反応すると、色が元に戻ってしまうことがあり、正しく評価できない場合がある。
【0044】
溶液における蛍光色素の濃度としては、適宜選択することができ、特に制限されるものではないが、例えば10-6~10-3mol/lであることが好ましい。蛍光色素をムラなく付与するには、濃度を低くすることが好ましい。また、ベース41の材質や形状等によって蛍光色素にムラが生じることがあるため、ベース41の材質や形状等を考慮して、蛍光色素の種類や蛍光色素を含む溶液の濃度等を適宜調整することが好ましい。
【0045】
溶液を付与する方法としては、適宜選択することができる。例えば、刷毛、ローラ等を用いて塗布する方法が挙げられる。この他にも、スプレー塗布など、溶液を吹き付ける方法が挙げられる。また、アンプルに溶液を入れておき、このアンプルを用いて付与してもよい。更に、ネブライザも挙げられ、例えば超音波式ネブライザ、メッシュ式ネブライザ、コンプレッサー式ネブライザを用いることができる。
【0046】
蛍光色素の付与においては、サンプルごとに、あらかじめ定められた一定量を付与することが好ましい。一定量を付与することで、サンプル同士の光触媒能を比較する際に、より精密に比較することができる。これらの観点とまた簡便に測定を行うという観点から、刷毛に溶液をしみ込ませ、1回乃至数回塗布する方法や、スプレー塗布する方法が好ましい。また、光触媒能測定装置が蛍光色素を基材に付与する付与手段を備えていてもよい。
【0047】
溶液を付与した後、必要に応じて基材40を乾燥させる。溶媒としてアルコールを用いた場合、十分に乾燥させてアルコールを飛ばすことが好ましい。溶媒として水を用いた場合、乾燥させてもよいし、乾燥させなくてもよい。
乾燥の方法としては、適宜選択することができ、例えば、自然乾燥やドライヤーを用いた乾燥等が挙げられる。
【0048】
上記のようにして測定するサンプルが得られる。
図3(C)に、蛍光色素43が付与された基材40を示している。
【0049】
上記のようにして蛍光色素を付与した後、照射工程を行う。照射工程では、光触媒を励起させる第1の励起光及び蛍光色素を励起させる第2の励起光を照射する。本例における照射工程について、
図1を参照しつつ説明する。
【0050】
本例では、蛍光色素43が付与された基材40を遮蔽カバー20の内側に設置する。上述のように、
図1に示す例では、遮蔽カバー20の内側に光源(1)11、光源(2)12、受光センサ14、バンドパスフィルタ31が設けられている。
【0051】
本例における照射工程は、2つの光源、すなわち光源(1)11と光源(2)12により行われる。上述のように、光源(1)11は、光触媒を励起させる第1の励起光を照射し、光源(2)12蛍光色素を励起させる第2の励起光を照射する。従って、本例における照射工程は、第1の励起光を照射する光源(1)と第2の励起光を照射する光源(2)とにより行われる。
【0052】
光源(1)による照射と光源(2)による照射のタイミングは、適宜選択することができ、同時に照射してもよいし、別のタイミングで照射してもよい。それぞれの照射に名前付けをしてもよく、例えば、第1の励起光を照射する工程を第1の照射工程とし、第2の励起光を照射する工程を第2の照射工程としてもよい。そして、第1の照射工程と第2の照射工程は同時に行われてもよいし、別工程として段階的に行われてもよい。
【0053】
照射工程が1つの光源により行われる場合、第1の照射工程と第2の照射工程は同時に行われることになる。この場合、光源を複数用意する必要がないという利点がある。
【0054】
照射工程が2つ以上の光源により行われる場合、第1の照射工程と第2の照射工程は同時に行われる場合と段階的に行われる場合がある。第1の照射工程と第2の照射工程が別工程として段階的に行われる場合、まず第1の照射工程を行い、光触媒を励起させて蛍光色素を分解させた後、第2の照射工程を行い、蛍光色素を励起させる。このように段階的に行う場合、光触媒の励起と蛍光色素の励起とを区別した工程にでき、測定値を検証しやすくなる。
【0055】
受光工程では、蛍光色素の蛍光を受光する。受光工程を行うタイミングは、適宜選択することができ、第2の励起光を照射し続ける間、受光してもよいし、所定のタイミングで受光するようにしてもよい。上述のように、蛍光色素の蛍光のピーク波長近傍の光を透過するフィルタ(1)を用いるようにしてもよい。
【0056】
照射工程及び受光工程は、外部からの光を遮蔽する遮蔽カバー20(遮蔽部材)により基材40の一部又は全部が覆われた状態で行われる。
図1に示すように、本例では、遮蔽カバー20により基材40の全部が覆われた状態で行われる。
【0057】
ここで、蛍光色素の励起波長と蛍光波長のイメージ及び測定結果の一例について
図4を用いて説明する。
図4(A)は、蛍光色素の励起波長と蛍光波長のイメージ図である。図示するように、蛍光色素は、短波長側の励起光により、長波長側の蛍光を発する。例えばローダミンBは、約550nmの光により励起されて約570nmの蛍光を発する。
なお、
図4(A)中、斜線部分は、第2の励起光の好ましい波長領域と、受光センサ14が検出する測定波長の好ましい領域を模式的に示している。図示するように、これら/部分で示される領域は、できるだけ離れた領域となっている。この場合、受光センサ14が光源からの光を検知することを抑制できる。斜線部分のように光を照射し、測定波長の領域を調整するには、例えばフィルタ(カットフィルタ32(後述)、バンドパスフィルタ31)を適宜選択する。
【0058】
図4(B)は、光触媒42を有する基材40に蛍光色素43を付与して測定した場合の一例であり、破線は測定開始時の蛍光の強度を示し、実線は時間経過後の蛍光の強度を示す。なお、図中のa[nm]は測定された蛍光のピーク波長を示す。図示するように、第1の励起光が照射されて光触媒が蛍光色素を分解することにより、蛍光の強度が減少する。これにより、光触媒能が確認できる。
【0059】
なお、
図4(B)の破線で示す測定開始時については、第1の励起光を照射する前に第2の励起光を照射して測定したものである。
【0060】
従来の測定方法の場合、蛍光色素ではなく、他の色素を用いており、見た目の色を数値化することで光触媒能を評価していたため、感度が低く、精度良く測定ができていなかった。これに対して本実施形態では、蛍光色素を用いて測定をしており、基材の色にも影響を受けにくく、高感度で測定することができ、光触媒能を定量的に精度良く測定ができる。例えば、受光センサ14として太陽電池等、電流値を測定できるものを用いることで、測定された値が小さくても光触媒能を定量的に評価することができる。このように、本実施形態では、光触媒能が高い酸化チタンに限られず、酸化タングステンなどの光触媒についても精度良く測定することができる。
【0061】
また、従来の測定方法の場合、可視光光触媒の評価を精度良く行うことができていなかった。例えば、特許文献1、2の場合、可視光光触媒付きの基材に蛍光灯を照射した後、可視光のもとで色差を測定しているが、測定時に光触媒が機能してしまうため、精度良く評価できるとは言い難い。例えば外壁に形成された光触媒の一部を取得して実験室で測定すればある程度の評価はできるかもしれないが、この場合、簡便に評価できるとは言えない。
【0062】
一方、本実施形態では、基材が光触媒として作用しているかを可視光のもとでも測定することができ、多数の場所でより簡便に測定を行うことができる。特に、部屋の中の壁紙などの内装材として光触媒が用いられた場合に、光触媒が機能しているかを簡便に調べることができる。なお、基材が壁である場合の例は、後述の実施形態でも述べている。基材に対して測定するための加工等が不要であり、室内であっても、室外であっても簡便に測定を行うことができる。
【0063】
また、従来技術では測定に時間を要し、例えば特許文献1の場合、測定結果を取得できるまでに数時間を要する。特許文献2であっても、最低限30分程度を要するとされており、しかもこの時間を比較的短時間としている。このため、従来技術では簡便に測定するという観点からは更なる向上が求められている。一方、本実施形態では短時間で測定を行うことができ、より簡便に測定を行うことができる。本実施形態では光源からの照射を開始してから数秒で結果を取得することができる。
また、本実施形態によれば、光触媒の分解力の大小が精度良く判別でき、その結果、その表面のウイルスをはじめ、各細菌の殺菌効果を定量的に評価することができる。
【0064】
(第2の実施形態)
次に、本発明の他の実施形態について説明する。上記実施形態と同様の事項については説明を省略する。
【0065】
本実施形態では、所定の光を透過する又は所定の光を透過しないフィルタ(2)を用いている。本実施形態における照射手段はフィルタ(2)を介して基材に光を照射し、また照射工程はフィルタ(2)を介して基材に光を照射する。
【0066】
図5に、本実施形態の光触媒能測定装置を説明するための概略図を示す。上記実施形態との違いとしては、本実施形態の測定装置は、所定の光を透過する又は所定の光を透過しないカットフィルタ32を有する。カットフィルタ32は、フィルタ(2)の一例であり、光源(1)11及び/又は光源(2)12の光は、カットフィルタ32を介して基材40に照射される。
【0067】
従来より、可視光で光触媒作用を発揮する光触媒やこのような光触媒を有する製品が提案、販売、利用されている。しかし、可視光は様々な種類の波長を有している等の理由により、可視光で光触媒作用を発揮する光触媒について、どのような波長領域の光を照射した場合に光触媒能が最大限発揮されるかを評価することが難しかった。また、評価する場合に、従来技術では定量的な評価が難しかった。
【0068】
一方、本実施形態では、所定の光を透過する又は透過しないカットフィルタ32を用いることで、どのような波長領域の光を照射した場合に、光触媒能がどの程度までの長波長側で発揮されるかを定量的に測定、評価することができる。例えば、430nmまでの波長の光をカットできるフィルタを用い、光源(1)11から照射を行う。そこで、受光センサ14の測定値を検証し、蛍光色素43の蛍光の強度が減少していた場合、430nm以上の長波長の光で光触媒42が光触媒能を発揮するか測定、評価できる。
【0069】
上記のようにして測定した光触媒42に対して、カットフィルタ32の種類を変えて同様の測定をすることで、所定の波長領域における光触媒能を定量的に測定、評価することができる。例えば、430nm、440nm、450nm・・・500nmと、このような波長よりも短い波長の光をカットするカットフィルタ32を用いて同様の測定をすることで、所定の波長領域における光触媒能を定量的に測定、評価することができる。また、本発明によれば、可視光光触媒として測定、評価することができる。
【0070】
参考として、カットフィルタの一例における波長と透過率の関係を
図10(B)に示す。図示するように、カットフィルタの一例では、所定の波長の光をカットする。図示する例では、420nm以下、430nm以下、440nm以下、450nm以下の波長の光をカットする。
【0071】
本実施形態の用途は、適宜選択することができる。例えば、光触媒42の励起光の波長が把握されている場合に本実施形態を用いて、どの波長領域で光触媒能が最大限発揮されるかを調べてもよい。この他にも、光触媒42の励起光の波長が把握されていない場合に本実施形態を用いて、光触媒42の励起光の波長領域を調べてもよい。
【0072】
カットフィルタ32としては、例えば短波長側の光をカットするロングパスフィルタ、長波長側の光をカットするショートパスフィルタ等を用いることができる。この他にも、バンドパスフィルタ、干渉フィルタ、モノクロメータ、グレイティング(干渉計)、UVカットフィルタ、IRカットフィルタ等を用いてもよい。UVカットフィルタは、上述のように例えば430nmまでの波長の光をカットする。
【0073】
(第3の実施形態)
次に、本発明の他の実施形態について説明する。上記実施形態と同様の事項については説明を省略する。
【0074】
図6に、本実施形態の光触媒能測定装置を説明するための概略図を示す。上記実施形態において、遮蔽カバー20は基材40の全部を覆っていたが、本発明はこれに限られず、本実施形態のように遮蔽カバー20は基材40の一部を覆うようにしてもよい。
【0075】
図6に示す例では、ベース41が例えば壁であり、光触媒42は壁の広範囲に形成されている。このような場合においても、本実施形態の光触媒能測定装置や光触媒能測定方法は適用可能である。ベース41として壁を例に挙げているが、本実施径形態はこれに限られず、床、天井などであってもよい。
【0076】
本実施形態の測定方法としては、上記実施形態と同様に行うことができる。蛍光色素43を付与する箇所としては、特に制限されるものではない。遮蔽カバー20の内部のみに付与してもよいし、遮蔽カバー20からはみ出す箇所に付与されていても問題ない。
【0077】
また、本実施形態では、遮蔽カバー20に可撓性を持たせ、吸引口23から遮蔽カバー20内部の空気を吸引して負圧にし、遮蔽カバー20が壁に固定されるようにしてもよい。このようにすることで、測定時間を長くする場合であっても、測定装置を固定するための部材を用いる必要がなく、また人が手で押さえておく必要がなく、簡便に測定を行うことができる。
【0078】
吸引口23を設ける場合、外部からの光が遮蔽カバー20の内部に入らないようにすることが好ましい。吸引口23を設けずに、遮蔽カバー20が基材40に固定されるようにしてもよい。例えば、図示しない保持するための部材等を用いてもよい。
【0079】
上記のように、本実施形態によれば、従来の測定装置や測定方法では適用が難しかった基材に対しても簡便に測定、評価を行うことができる。
【0080】
(第4の実施形態)
次に、本発明の他の実施形態について説明する。上記実施形態と同様の事項については説明を省略する。
【0081】
図7に、本実施形態の光触媒能測定装置を説明するための概略図を示す。
本実施形態の光触媒能測定装置は、照射手段及び受光手段を備える第1の部材21と、基材40を保持する第2の部材22と、を有する。また、第2の部材22は、第1の部材21に対して収納可能である。また、第1の部材21は、第2の部材22を収納したときに外部からの光を遮蔽するものであり、第2の部材22を収納した状態で、基材40に光を照射可能なように照射手段が配置され、かつ、蛍光色素の蛍光を受光可能なように受光手段が配置されている。
【0082】
図7(A)は、基材40を第2の部材22に配置した場合の説明図であり、
図7(B)は、第2の部材22を第1の部材21に収納したときの説明図である。本実施形態では、第2の部材22を収納した状態で、照射工程及び受光工程が行われる。
【0083】
第1の部材21の形状としては、特に制限されるものではないが、上述のように適宜選択することができ、例えば積分球であることが好ましい。積分球を用いる場合、蛍光色素からの蛍光を集光させることができ、感度を向上させ、精度を向上させることができる。
【0084】
(第5の実施形態)
次に、本発明の他の実施形態について説明する。上記実施形態と同様の事項については説明を省略する。
【0085】
図8に、本実施形態の光触媒能測定装置を説明するための概略図を示す。
本実施形態では、光源を1つとしている。本実施形態において、光源13は、光触媒を励起させる第1の励起光及び蛍光色素を励起させる第2の励起光を照射する。適宜選択することができるが、例えば、光触媒を励起させる第1の励起光と蛍光色素を励起させる第2の励起光が、近い値の波長領域である場合、光源13は光触媒と蛍光色素を励起させることができる。また、光触媒を励起させる第1の励起光と蛍光色素を励起させる第2の励起光が、異なる値の波長領域である場合であっても、光源13がある程度の範囲の波長領域の光を照射することで、光触媒と蛍光色素を励起させることができる。
【0086】
(第6の実施形態)
次に、本発明の他の実施形態について説明する。上記実施形態と同様の事項については説明を省略する。
【0087】
本実施形態の光触媒能測定装置は、外部からの光を遮蔽する遮蔽部材と、前記照射手段及び前記受光手段を保持する保持部材と、を有し、前記遮蔽部材は、前記保持部材を覆うとともに、前記基材の一部又は全部を覆う。
【0088】
図9に、本実施形態の光触媒能測定装置を説明するための概略図を示す。本実施形態の光触媒能測定装置は、光源(1)11、光源(2)12、受光センサ14及びバンドパスフィルタ31を保持する保持部材23を有している。また、本実施形態の光触媒能測定装置は、遮蔽カバー20を有しており、遮蔽カバー20は、保持部材23を覆うとともに、基材40を覆っている。このような構成であっても上記実施形態と同様に外部からの光を遮蔽して測定を行うことができる。
【0089】
本実施形態において、遮蔽カバー20としては、上記実施形態と同様に適宜選択することができ、上述のように例えば、金属、樹脂、紙、布等が挙げられる。保持部材23がどのような形状であっても覆いやすくするため、例えば紙や布を選択するようにしてもよい。また、保持部材23としては、特に制限されるものではなく、任意の材質、任意の形状を選択することができる。
【0090】
(第7の実施形態)
次に、本発明の他の実施形態について説明する。上記実施形態と同様の事項については説明を省略する。
【0091】
本実施形態は光触媒能評価方法であり、本実施形態の光触媒能評価方法は、本発明の光触媒能測定方法を用いて光触媒能を評価する光触媒能評価方法である。本実施形態の光触媒能評価方法は、測定対象の前記基材とは別の基材又は測定対象の前記基材についてあらかじめ前記付与工程、前記照射工程及び前記受光工程を行い、受光した蛍光の値を基準値とし、測定対象の前記基材に対して前記付与工程、前記照射工程及び前記受光工程を行い、受光した蛍光の値と前記基準値とを比較し、光触媒能を評価する。
【0092】
本実施形態によれば、測定対象の基材に対して測定を行って得られた結果と基準値とを比較することにより、測定対象の基材の光触媒能を相対的に評価することができる。
【0093】
本実施形態では、例えば、測定対象の基材と測定対象の基材とは別の基材とを比較する場合(パターン1と称する)、同一の基材に対して2回以上測定して比較する場合(パターン2と称する)等が想定される。
【0094】
パターン1の場合、測定対象の基材と測定対象の基材とは別の基材とを比較することで、測定対象の基材の形状等が不明な場合であっても両基材で共通する事項を踏まえつつ測定結果を検証することで光触媒能の評価を行うことができる。また、例えば蛍光色素の付与方法等を共通にしておくことで、付与された蛍光色素の量などに影響されずに評価を行うことができる。パターン2の場合、例えばある基材について基準値を取得しておき、時間経過後(例えば数日後、数か月後、数年後)に同じ基材について測定を行うことで、光触媒の劣化等を評価することができる。
【0095】
(第8の実施形態)
次に、本発明の他の実施形態について説明する。上記実施形態と同様の事項については説明を省略する。
【0096】
本実施形態の測定方法は、光触媒を有する基材の光触媒能を測定する方法であって、前記基材に蛍光色素を付与する付与工程と、前記付与工程の後、前記蛍光色素を励起させる励起光を照射し、蛍光色素の蛍光を受光する第1の受光工程と、前記第1の受光工程の後、前記光触媒を励起させる励起光を照射する照射工程と、前記照射工程の後、前記蛍光色素を励起させる励起光を照射し、蛍光色素の蛍光を受光する第2の受光工程と、を含むことを特徴とする。
【0097】
本実施形態によれば、第1の受光工程で測定された蛍光の強度と、第2の受光工程で測定された蛍光の強度とを比較することで、より精度良く、光触媒能を測定することができる。測定対象の基材において光触媒が作用する前後で蛍光の測定値(例えば強度)を比較することができ、例えば、基材の形状、蛍光色素の付与方法等による影響を低減することができる。
【0098】
なお、上記実施形態と同様に、光触媒を励起させる励起光を第1の励起光と称し、蛍光色素を励起させる励起光を第2の励起光と称してもよい。
【0099】
本実施形態の測定方法の一例としては、まず蛍光色素の溶液を基材に塗布してサンプルを得た後、例えばLEDを1秒程度照射し、蛍光色素を励起させて蛍光を測定する。次いで、例えばキセノンランプにより数秒程度照射を行い、光触媒を励起させる。次いで、例えばLEDを1秒程度照射し、蛍光色素を励起させて蛍光を測定する。光触媒の励起前に測定した蛍光の値(強度)と、光触媒の励起後に測定した蛍光の値(強度)とを比較することで、光触媒能をより精度良く測定、評価することができる。
【0100】
また、本実施形態では、カットフィルタ32を用いることが好ましい。カットフィルタ32を用いることで、例えば、第1の受光工程及び第2の受光工程の際に、光触媒が励起されることを抑制でき、より精度良く測定を行うことができる。用いるカットフィルタ32としては、例えば上記のカットフィルタを用いることができる。また特に制限されるものではないが、例えば、400nm以下の波長の光をカットするカットフィルタ、420nm以下の波長の光をカットするカットフィルタ、430nm以下の波長の光をカットするカットフィルタ・・・等が挙げられる。
【0101】
本実施形態の測定方法の他の例として、カットフィルタを用いた例を以下説明する。本例では、例えば430nm以下の波長の光をカットするカットフィルタを用いる。
まず蛍光色素の溶液を基材に塗布してサンプルを得た後、例えばキセノンランプによりカットフィルタを介して照射を行い、蛍光色素からの蛍光を測定した。カットフィルタを介しているため、光触媒の励起光(例えば、酸化チタンのルチル型で約413nm)が基材に照射されることを抑制できる。次いで、カットフィルタの配置を変え、キセノンランプからの光がカットフィルタを介さずに基材に当たるように照射を行う。これにより、光触媒を励起させる。次いで、カットフィルタの配置を元に戻し、キセノンランプによりカットフィルタを介して照射を行い、蛍光色素を励起させて蛍光を測定する。光触媒の励起前に測定した蛍光の値(強度)と、光触媒の励起後に測定した蛍光の値(強度)とを比較することで、光触媒能をより精度良く測定、評価することができる。
【実施例0102】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0103】
(実施例1)
本実施例1で用いる装置は、
図1に示す装置構成とした。ただし、本実施例は基本的な概念の検証を目的とするため、フィルタ等は用いなかった。また、光源は1つとした。
基材としては、ケイ素からなる市販のタイルに酸化チタンが形成された基材を用意した。タイルの厚みは約5mmである。蛍光色素としてローダミンBを用い、溶媒としてのエタノールに溶解させ、ローダミンBの濃度が10
-4mol/lの溶液を得た。
次いで、上記の溶液を刷毛に浸み込ませ、基材の表面を1回なぞって塗布した。次いで、基材を自然乾燥させて溶媒を蒸発させてサンプルを得た。上記サンプルに対して、
図1の配置となるように、遮蔽カバー20をサンプルにかぶせた。
光源として、ピーク波長が365nmのLEDを用いた。蛍光色素の蛍光を受光する受光手段としては、市販の太陽電池(Maximum Power(Pmax)2W、Voltage at Pmax(Vmp)6.0V、Current at Pmax(Imp)333mA)を用いた。また、上記太陽電池に電流計(Electrical Instrument社製DER EE)を接続した。
次に、上記サンプルに照射を開始したところ、蛍光を発していることが確認された。そのまま数秒間、照射を続けたところ、蛍光が薄くなっていた。上記太陽電池の測定値は、照射開始から数秒後に数nA低下していた。結果は
図4(B)に示すように、蛍光強度が低下していた。
【0104】
(実施例2)
蛍光色素としてフルオレセインを用い、溶媒としてエタノールを用い、濃度が10-4mol/lの溶液を得た。次いで、実施例1で用いた基材に蛍光色素の溶液を実施例1と同様の方法で塗布し、サンプルを得た。次いで、ピーク波長が約500nmのLEDを照射し、実施例1と同様の太陽電池と電流計を用いて蛍光を測定した。次いで、キセノンランプにより数秒照射を行い、光触媒を励起させ、蛍光色素を分解させた。
次に、上記と同様にして、ピーク波長が約500nmのLEDを照射し、蛍光を測定した。その結果、蛍光が薄くなっていた。上記太陽電池の測定値は、キセノンランプの照射前後で数nA低下していた。
【0105】
(実施例3)
上記実施例2と同様の蛍光色素の溶液を用い、上記実施例1と同様のタイルに溶液を塗布し、サンプルを得た。次いで、430nm以下の波長の光をカットするカットフィルタを用い、キセノンランプによりカットフィルタを介して照射を行い、蛍光色素からの蛍光を測定した。次いで、カットフィルタの配置を変え、キセノンランプからの光がカットフィルタを介さずにサンプルに当たるように照射を行った。これにより、光触媒を励起させた。次いで、カットフィルタの配置を元に戻し、キセノンランプによりカットフィルタを介して照射を行い、蛍光色素を励起させて蛍光を測定した。なお、蛍光の測定には、実施例1と同様の太陽電池と電流計を用いた。
光触媒を励起させる前と後とで、測定した蛍光の値を比較したところ、光触媒を励起させた後では数nA低下していた。
次に、上記カットフィルタを、450nm以下の波長の光をカットするカットフィルタ、470nm以下の波長の光をカットするカットフィルタ、500nm以下の波長の光をカットするカットフィルタに変更してそれぞれのカットフィルタで上記と同様の操作を行った。その結果、これらのカットフィルタにおいても430nm以下の波長の光をカットするカットフィルタと同様に光触媒を励起させる前後で蛍光の強度が低下していた。