(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174894
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】ボロメータ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 35/34 20060101AFI20221117BHJP
G01J 1/02 20060101ALI20221117BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20221117BHJP
H01L 35/00 20060101ALI20221117BHJP
H01L 35/22 20060101ALI20221117BHJP
C01B 32/159 20170101ALI20221117BHJP
C01B 32/17 20170101ALI20221117BHJP
C01B 32/172 20170101ALI20221117BHJP
H01L 31/08 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
H01L35/34
G01J1/02 C
G01J1/02 Q
H01L29/06 601N
H01L35/00
H01L35/22
C01B32/159
C01B32/17
C01B32/172
H01L31/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080925
(22)【出願日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】小坂 眞由美
【テーマコード(参考)】
2G065
4G146
5F849
【Fターム(参考)】
2G065AA04
2G065AA11
2G065AB02
2G065BA12
2G065BA34
2G065BA40
2G065DA18
4G146AA12
4G146AC03B
4G146AC16B
4G146AC19B
4G146AD28
4G146AD40
4G146CA02
4G146CA08
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4G146CA20
4G146CB16
4G146CB17
4G146CB29
4G146CB35
5F849AA17
5F849AB02
5F849BA25
5F849BB07
5F849DA16
5F849DA34
5F849EA04
5F849LA01
5F849XB15
5F849XB24
5F849XB32
5F849XB51
(57)【要約】
【課題】高いTCR値を有し、かつ低抵抗であるボロメータ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明によれば、基板上に、半導体型カーボンナノチューブ分散液をライン形状又は円形状に塗布し、前記分散液を乾燥させることによって、ライン形状の縁に2本一組の互いに略平行なカーボンナノチューブ細線を、又は円形状の円周に円形状のカーボンナノチューブ細線を作製する工程であって、前記細線の線幅は5μm以上である、工程、及び、前記細線の一部を第1の電極と第2の電極に接続する工程を含む、ボロメータ製造方法が提供される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、半導体型カーボンナノチューブ分散液をライン形状又は円形状に塗布し、前記分散液を乾燥させることによって、ライン形状の縁に2本一組の互いに略平行なカーボンナノチューブ細線を、又は円形状の円周に円形状のカーボンナノチューブ細線を作製する工程であって、前記細線の線幅は5μm以上である、工程、及び
前記細線の一部を第1の電極と第2の電極に接続する工程を含む、ボロメータ製造方法。
【請求項2】
前記ライン形状の幅又は前記円形状の直径が20μm以上1cm以下である、請求項1に記載のボロメータ製造方法。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブ細線の厚みが30nm以上1μm以下である、請求項1又は2に記載のボロメータ製造方法。
【請求項4】
前記半導体型カーボンナノチューブの分散液が、半導体型カーボンナノチューブを、カーボンナノチューブの総量の90質量%以上含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
【請求項5】
前記半導体型カーボンナノチューブの分散液が、非イオン性の界面活性剤を臨界ミセル濃度以上、5質量%以下含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
【請求項6】
1列のライン形状のカーボンナノチューブ分散液の液滴から製造されるライン形状細線、又は1列の円形状のカーボンナノチューブ分散液の液滴列から製造される1列の円形状細線を、2列以上の電極対列に対して、該電極対列を構成する各電極対に略垂直にまたがるように接続する工程を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
【請求項7】
少なくとも3列の電極対列を備えるボロメータであって、
1列に配列した半導体型カーボンナノチューブの円形状細線から切り出された円弧状細線が、3列の電極対列に、各電極対列を構成する各電極対に略垂直にまたがるように接続されており、
3列の電極対列のうちの1列は、該電極対列を構成する電極対が、他の2列を構成する電極対に対して略垂直方向となるように配置されている、ボロメータ電極。
【請求項8】
少なくとも3列の電極対列を備えるボロメータ電極の製造方法であって、
1列に配列した半導体型カーボンナノチューブの円形状細線を形成する工程、及び
半導体型カーボンナノチューブの円形状細線が、電極対列を構成する各電極対に対して略垂直となるように、3列の電極対列を配置する工程
を含み、
3列の電極対列のうちの1列を、該電極対列を構成する電極対が、他の2列の電極対列を構成する電極対に対して略垂直方向となるように配置する、ボロメータ電極の製造方法。
【請求項9】
前記ライン形状の一部、又は前記円形状の円弧である、第1の電極と第2の電極間のカーボンナノチューブ細線と、該カーボンナノチューブ細線と第1の電極及び第2の電極との接続部とを保護膜で覆い、保護膜で覆われない部分のカーボンナノチューブを除去する工程を含む、請求項1~6及び8のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
【請求項10】
ディスペンサー、インクジェット、又は印刷機を用いて、基板上に、カーボンナノチューブ分散液をライン形状又は円形状に塗布する、請求項1~6及び8~9のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを使用したボロメータ、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
赤外線センサは、HgCdTeを材料とする量子型赤外センサが広く使われてきたが、素子温度を液体窒素以下に冷却する必要があり、機器の小型化に制約があった。そこで近年、素子を低温まで冷却する必要のない非冷却型赤外センサが注目され、素子の温度変化に伴う電気抵抗の変化を検出するボロメータが広く用いられるようになった。
ボロメータの性能としては、特にTCR(Temperature Coefficient of Resistance:抵抗温度係数)と呼ばれる電気抵抗の温度変化率と、抵抗率が重要である。TCRの絶対値が大きくなると、赤外線センサの温度分解能が小さくなり感度が向上する。また、ノイズ低減のため、抵抗率は低減する必要がある。
従来、非冷却型ボロメータとしては酸化バナジウム薄膜が用いられているが、TCRが小さい(約-2.0%/K)ため、TCRの向上が広く検討されている。TCR向上には、半導体的特性を有し、かつ、大きなバンドギャップを持つ必要があり、半導体性単層カーボンナノチューブをボロメータに適用することが期待されている。
特許文献1では通常の単層カーボンナノチューブをボロメータ部に適用し、単層カーボンナノチューブを有機溶媒に混ぜた分散液を電極上にキャストし、単層カーボンナノチューブを空気中でアニール処理する薄膜プロセスのボロメータ作製が提案されている。
特許文献2では、単層カーボンナノチューブには金属的と半導体的成分が混在しているため、イオン性の界面活性剤を用いて半導体型単層カーボンナノチューブを抽出し、ボロメータ部に適用する、ボロメータ作製が提案されている。
また、特許文献3では、導電性材料のライン状液体からコーヒーステイン現象により2本の導電性細線を形成し、その内1本を除去し、透明導電膜を作製する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2012/049801号
【特許文献2】特許第6455910号
【特許文献3】特許第6717316号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された赤外線センサに用いるカーボンナノチューブ薄膜は、カーボンナノチューブに金属型カーボンナノチューブが混在するため、TCRが低く、赤外線センサの性能向上に限界があった。特許文献2に記載された半導体型カーボンナノチューブを用いた赤外線センサは、分離のためのイオン性界面活性剤が簡単に除去できないという課題があった。特許文献3に記載された機能性細線は、透明導電膜に用いる導電性微粒子の細線であり、2本の内1本を除去する工程が必要であるという課題があった。赤外線センサに用いるには半導体性材料が適しており、かつ低抵抗であることが望ましいことから、細線の線幅がより太い必要がある。
【0005】
本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、TCR値が高く、かつ抵抗が低いボロメータと、その製造方法を提供するものである。また、本発明の一態様は、簡便な方法で微小な半導体型カーボンナノチューブ細線を製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するものとして、以下のことを特長としている。
【0007】
本発明の一態様は、
基板上に、半導体型カーボンナノチューブ分散液をライン形状又は円形状に塗布し、前記分散液を乾燥させることによって、ライン形状の縁に2本一組の互いに略平行なカーボンナノチューブ細線を、又は円形状の円周に円形状のカーボンナノチューブ細線を作製する工程であって、前記細線の線幅は5μm以上である、工程、及び
前記細線の一部を第1の電極と第2の電極に接続する工程を含む、ボロメータ製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
この出願の発明によれば、高いTCR値を有し、かつ低抵抗であるボロメータおよびその製造方法を提供することができる。
【0009】
また、本発明の一態様によれば、簡便な方法でカーボンナノチューブ層を小型化できることにより、ボロメータ素子の小型化を行うことができる。
【0010】
また、本発明の一態様に係る製造方法は、低コストで量産性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】基板上に2本のライン形状にカーボンナノチューブ分散液をパターニングした模式図
【
図4】ライン形状の2縁を異なる電極列に配置した例(上)及びライン形状でアレイを作製した例(下)
【
図5】ライン形状アレイの電極部にPMMAを塗布し不要CNTを除去した例
【
図7】円形状の対向する円弧を異なる電極列に配置した例
【
図9】円形状の対向する円弧及びその中間に異なる電極列を配置した例
【
図10】円形状から3列の電極列を配置したアレイの例
【
図11】円形状から3列の電極列を配置したアレイの例
【発明を実施するための形態】
【0012】
この出願の発明は、上記の通りの特徴を持つものであるが、以下に実施の形態について説明する。但し、以下に述べる実施形態には本発明を実施するために技術的に好ましい限定がされているが、発明の範囲を以下に限定するものではない。
【0013】
基板上に、カーボンナノチューブ分散液をライン状あるいはドット状(円形状)に塗布し(パターニング)、乾燥させることによって、分散液の液滴中に生じる毛管現象を利用して、カーボンナノチューブをライン又はドットの縁に堆積させることができる。これにより、ライン形状の縁に2本一組の互いに略平行なカーボンナノチューブ細線を、又はドットの縁(円形状の円周)に円形状のカーボンナノチューブ細線を作製することができる。このようにして作製したカーボンナノチューブ細線を第1の電極と第2の電極に接続することにより、ボロメータ電極を形成する。
このように、本実施形態のボロメータ製造方法では、カーボンナノチューブ分散液の液滴を所望のパターン形状に形成することにより、基板上に、所望の形状及び大きさのカーボンナノチューブ細線を容易に形成することができる。
【0014】
さらに、一実施形態では、1本のラインあるいは1列のドット液滴から、一度に、2列以上の電極対にカーボンナノチューブがそれぞれ略垂直に配置されるボロメータを製造することができる。具体的には、1列のライン形状の分散液の液滴から形成されるライン形状細線、又は1列の円形状の分散液の液滴列から形成される1列の円形状細線を、2列以上の電極対列に接続する。ここで、カーボンナノチューブ細線は、電極対列を構成する各電極対に略垂直に(すなわち、該電極対間を流れる電流と略平行となるように)接続される。
【0015】
一実施形態では、基板の表面に、基板とカーボンナノチューブとの結合性を高める機能を有する中間層を形成しておくことが好ましい。このような中間層は、カーボンナノチューブ分散液の液滴が形成される領域よりも広い範囲に形成されることが好ましく、基板の表面全体に中間層を形成してもよい。
【0016】
なお、以下の実施形態の例では、中間層としてAPTES層又はポリリジン層、基板としてSi基板又はプラスチック基板を用いた例を説明するが、中間層及び基板はこれらに限定されるものではない。
【0017】
また、ボロメータの製造方法において、基板上にカーボンナノチューブ層を形成するプロセス以外のプロセスは、下記に例示したものに限定されず、当技術分野で使用されるものを特に制限なく使用できる。
【0018】
なお、本明細書において、「略垂直」という用語は、完全な垂直、及び完全な垂直から30°以下、好ましくは20°以下、例えば10°以下の範囲でずれた場合を含む。「略平行」という用語は、完全な平行、及び完全な平行から30°以下、好ましくは20°以下、例えば10°以下の範囲でずれた場合を含む。また、略垂直及び略平行には、対象(例えば電極)に交わる辺が直線である場合だけでなく、円弧の一部である場合も含み、この場合、円弧の接線が上記範囲内であるのが好ましい。
本明細書において、「カーボンナノチューブ細線」は、細線状のカーボンナノチューブを意味し、「カーボンナノチューブ層」等と記載することもある。用語「カーボンナノチューブ細線」は、ネットワーク状態のカーボンナノチューブ細線及びカーボンナノチューブが一定方向に配向した細線状のカーボンナノチューブ配向膜のいずれも意味し得る。
また、「APTES層」は「APTES膜」等と記載することがある。
また、本実施形態に係るボロメータは、赤外光の他、例えば0.7μm~1mmの波長を有する電磁波、例えばテラヘルツ波の検知にも用いることができる。一実施形態において、ボロメータは赤外線センサである。また、本実施形態のボロメータ製造方法は、ボロメータアレイの製造に好適に適用することができる。
【0019】
<第1の実施形態>
本発明の一実施形態に係るボロメータ部の断面概略図を
図1に示す。Si基板1の上に3-アミノプロピルトルエトキシシラン(APTES)層2があり、その上にカーボンナノチューブ層3と第1の電極4と第2の電極5があり、電極4と電極5はその間にあるカーボンナノチューブ層3により接続されている。基板1上のAPTES層2、カーボンナノチューブ層3、及び電極4、5の配置は、
図1に示した配置に限定されず、第1の電極4と第2の電極5はAPTES層の上に配置されてもよいし、又はSi基板1の上に直接配置されてもよい。また、カーボンナノチューブ層3は、一部がAPTES層2上にあり、第1の電極4と第2の電極5に接続していれば、両電極の下でも上でもよい。このカーボンナノチューブ層3は、後述するように、好ましくは非イオン性界面活性剤を用いて分離された複数の半導体型カーボンナノチューブから主に構成されている。
【0020】
基板であるSiO
2を被覆したSi上をアセトン、イソプロピルアルコール、水により順に洗浄し、酸素プラズマ処理で表面の有機物を除去する。この基板をAPTES水溶液中に浸漬し、あるいは基板にAPTES水溶液を噴霧し、水洗後に乾燥する。
図3に示すように、APTES層上に、非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテル又はポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル水溶液に分散させた半導体型カーボンナノチューブ分散液をライン状2に塗布する。次いで該基板を、分散液の溶媒が蒸発し得る条件下におくと、液滴の外縁付近は、蒸発速度が中心付近に比べて大きいため、分散液はライン形状の縁から徐々に水が乾燥する。その際、ライン形状の縁が液滴の接触線のピン止めとなり、液滴内で縁に向かう毛管流が生じ、カーボンナノチューブが液滴の中心から外向きに移動して、移動したカーボンナノチューブは、縁(2a及び2a’)付近に該縁と略平行に配向しながら蓄積する。これにより、ライン形状の両縁にカーボンナノチューブの配向膜を形成することができる。また、カーボンナノチューブの配向度については、カーボンナノチューブの直径および長さ、界面活性剤の濃度、乾燥速度等の条件で制御することができ、これらを調整することで、殆ど配向していないネットワーク状態のカーボンナノチューブ線状蓄積物を得ることもできる。
【0021】
基板上にカーボンナノチューブ分散液を所望の形状に塗布する方法としては、ディスペンサーやインクジェット、もしくは印刷機等が挙げられる。液滴量は、所望の液滴形状を維持でき、かつ、液滴中で毛管現象が起こり得る範囲に適宜調整することができる。
【0022】
基板と液滴の水接触角は0°超~90°以下で可能であるが、0°超~60°であることが好ましい。水接触角は、JIS R3257;1999に規定されている静置法を用いて求められる。液滴の水接触角はカーボンナノチューブ分散液の塗布部(ライン形状)の面積に対しての液滴量で制御できる。
【0023】
分散液のライン形状の幅(
図3における幅a)は、20μm~1cmが望ましく、20μm~1mmが好ましく、30μm~500μmがより好ましい。
【0024】
カーボンナノチューブは、分散液塗布部の縁付近に堆積する。堆積する幅は、例えば、分散液の量、分散液中のカーボンナノチューブの種類と濃度、界面活性剤の種類と濃度、カーボンナノチューブの直径や長さ、基板温度、相対湿度等によって変化させることができ、縁から5μm~30μm幅に堆積したカーボンナノチューブの堆積層が望ましく、より好ましくは7μm~20μm幅である。カーボンナノチューブは半導体型を用いるので、低抵抗化のため、幅が5μm以上であることが好ましく、より好ましくは7μm以上である。また、小型化の観点から30μm以下、好ましくは20μm以下の幅が望ましい。堆積する幅(カーボンナノチューブ膜の幅)は、走査型電子顕微鏡等により測定した任意の10点における測定値の平均値とすることができる。
【0025】
カーボンナノチューブ層の厚みは、特に限定されないが、好ましくはライン形状の縁から10μmの範囲において、例えば、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、例えば20nm以上、さらに好ましくは30nm以上であり、また、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。カーボンナノチューブの厚さは、縁から10μm以内の範囲の任意の10地点でレーザー顕微鏡を用いて厚みを測定し、その平均値とすることができる。
【0026】
本実施形態に係る製造方法でカーボンナノチューブが分散液塗布部の縁付近に堆積するときに、カーボンナノチューブを配向させることもできる。
図2は、分散液塗布部の縁から数μm中央側の位置の走査型電子顕微鏡(SEM)像である(画像の上辺側に分散液塗布部の縁がある)。この
図2に示すように、カーボンナノチューブは分散液塗布部の縁に略平行に配向して堆積することができる。また、カーボンナノチューブの一部を配向させる、または配向させずにネットワーク状態で堆積させることもできる。
カーボンナノチューブの配向度は、カーボンナノチューブの直径および長さ、界面活性剤の濃度、乾燥速度等の条件で制御することができる。配向度を上げるためには、分散液の溶媒を遅い速度で蒸発させることが望ましく、分散液の溶媒を蒸発させる際の基板の温度は、例えば、5℃~60℃が望ましく、10℃~40℃が好ましい。相対湿度は、15%RH~80%RHが好ましい。
カーボンナノチューブの配向度は、カーボンナノチューブ膜のSEM画像を二次元高速フーリエ変換処理して各方向の凹凸の分布を周波数分布で表した平面FFT画像において、中心から一方向に周波数-1μm
-1から+1μm
-1までの振幅の積算値fを算出し、前記積算値fが最大となる方向xに関する積算値をfx、方向xに対して垂直である方向yに関する積算値をfyとしたとき、fx/fy≧2をカーボンナノチューブが配向していると定義する。本実施形態に係る製造方法では、fx/fy=1~2の、カーボンナノチューブが配向していない(または配向度の低い)カーボンナノチューブ細線を作製することもできるが、上記の作製条件を制御することでfx/fy≧2の配向カーボンナノチューブ細線を作製することもできる。なお、上記FFT画像の元になるSEM画像は、フーリエ変換による算出のために凹凸が見える必要があり、カーボンナノチューブを観察する観点から、視野範囲は、縦および横それぞれ0.05~10μm程度であるのが好ましい。
【0027】
カーボンナノチューブは半導体型カーボンナノチューブをカーボンナノチューブの総量の好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上の割合で含む。このようなカーボンナノチューブ層の製造には、例えば、電界誘起層形成法等を用いて、金属型カーボンナノチューブと半導体型カーボンナノチューブを分離して得られた、半導体型カーボンナノチューブの濃度が高い分散液を用いるのが望ましい。
カーボンナノチューブの直径は、0.6~1.5nmが望ましく、0.6~1.2nmが好ましく、0.6~1.0nmがより好ましい。カーボンナノチューブの長さは、100nm~5μmの範囲内であると分散しやすく、液滴を形成しやすいため望ましい。カーボンナノチューブの導電性の観点から、長さが100nm以上であることが好ましく、凝集しにくい観点から、長さが5μm以下であることが好ましい。より好ましくは、500nm~3μm、さらに好ましくは700nm~1.5μmの範囲内である。カーボンナノチューブの70%(個数)以上が、上記範囲の直径及び長さを有することが好ましい。
【0028】
カーボンナノチューブの直径及び長さが上記範囲内であると、半導体型カーボンナノチューブを用いる場合に半導体性の影響が大きくなり、かつ、大きな電流値を得られるため、ボロメータに用いた場合に高いTCR値が得られやすい。
【0029】
本実施形態に係る製造方法において用いることができるAPTES溶液及びカーボンナノチューブ分散液について説明する。
APTES溶液の濃度は特に限定されないが、例えば、0.001体積%以上30体積%以下が好ましく、0.01体積%以上10体積%以下がより好ましく、更に0.05体積%以上5体積%以下がより好ましい。また、APTESの溶媒としては、水、あるいは該化合物を溶解し得、かつ基板に塗布後に容易に除去し得るものであれば特に限定されない。
なお、これらの濃度及び溶媒は、後述するように中間層としてAPTES以外の化合物を用いる場合は、用いる化合物に応じて適宜変更してもよい。
【0030】
本実施形態の製造方法において用いるカーボンナノチューブ分散液について以下に説明する。
【0031】
カーボンナノチューブ分散液は、上述のカーボンナノチューブを含む。分散液中のカーボンナノチューブの濃度や液適量は、形成するカーボンナノチューブ層の密度や厚み等に応じて適宜選択できる。特に限定されるものではないが、分散液中のカーボンナノチューブの濃度は、例えば0.0003質量%以上、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.003質量%以上、また、10質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下とすることができる。
【0032】
カーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブに加えて、界面活性剤を含むことが好ましい。本実施形態に係る製造方法でカーボンナノチューブを分散液塗布部の縁付近に堆積させる場合、界面活性剤を含むカーボンナノチューブ分散液の方がカーボンナノチューブを配向させやすい。分散液中の界面活性剤の濃度は、特に限定されるものではないが、例えば臨界ミセル濃度以上~5質量%程度が好ましく、0.001質量%~3質量%がより好ましく、0.01質量%~1質量%が特に好ましい。また、カーボンナノチューブ分散液に含まれる界面活性剤は、非イオン性界面活性剤であるのが好ましい。非イオン性界面活性剤は、イオン性界面活性剤と異なり、カーボンナノチューブとの相互作用が弱く、分散液を基板上に提供した後に容易に除去することができる。そのため、安定したカーボンナノチューブ導電パスを形成でき、優れたTCR値を得ることができる。カーボンナノチューブは配向することで、カーボンナノチューブ同士の接触面積が多くなり、導電パスは増えることから抵抗が低くなる。これにより、温度変化に対して大きな抵抗変化を実現できる。
一方、カーボンナノチューブがネットワーク状態または配向度が低い場合も、カーボンナノチューブの密度および膜厚を増加させることができる。また、分子長が長い非イオン性界面活性剤を用いることにより、カーボンナノチューブの再凝集を抑制してネットワーク状態を維持することができるため好ましい。カーボンナノチューブが密度の高いネットワークを形成することで、カーボンナノチューブ同士の接触点が多くなり、導電パスが増えることから抵抗が低くなる。また、ネットワーク状態では僅かに含まれる金属型カーボンナノチューブ同士が繋がって電極間に接続する確率が低いため、半導体性の影響が大きく、温度変化に対して大きな抵抗変化を実現できる。
【0033】
非イオン性界面活性剤は、適宜選択できるが、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系に代表されるポリエチレングリコール構造を有する非イオン性界面活性剤を1種類もしくは複数組み合わせて用いることが好ましい。
【0034】
カーボンナノチューブ分散液の溶媒としては、カーボンナノチューブを分散浮遊できるものであれば特に限定されないが、例えば水、重水、有機溶媒、又はこれらの混合物等が挙げられ、水が好ましい。
【0035】
半導体型カーボンナノチューブの比率の高いカーボンナノチューブ分散液の分離及び調製の方法、ならびに、当該方法に用いる非イオン性界面活性剤については、例えば、WO2020/158455に記載のものを用いることができ、該文献は参照により本明細書に組み込まれる。
【0036】
本実施形態のボロメータは、上記半導体型カーボンナノチューブのライン形状細線を基板上に形成させた後、例えば次のようにして製造することができる。カーボンナノチューブはラインの両縁に堆積するため、カーボンナノチューブ細線が2本の略平行の線状に作製される。このカーボンナノチューブ細線に重ねて、金蒸着等により、第1電極と第2電極を作製する。カーボンナノチューブ細線のカーボンナノチューブがライン形状の縁と略平行に配向していることも好ましい。このときカーボンナノチューブの配向方向と、第1の電極と第2の電極との間を流れる電流方向が略平行になるように電極を設置する。
【0037】
本実施形態のボロメータにおいて、第1の電極と第2の電極の間の距離は、1μm~500μmが好ましく、10μm~300μmがより好ましい。また、小型化のためには1μm~200μmがより好ましい。電極間距離が1μm以上であると、金属型カーボンナノチューブを僅かに含む場合でも、TCRの特性の低下を抑制することができる。また、電極間距離が50μm以下であると、2次元アレイ化による画像センサの適用に有利である。電極4と電極5の長さは、カーボンナノチューブが両電極に接続し、導通できれば短い方が好ましく、カーボンナノチューブとの接続部が例えば50μm以下であると、2次元アレイ化による画像センサの適用に有利である。
【0038】
電極は、ライン形状の両縁に形成される2本のカーボンナノチューブ細線の両方が接続するように設置、もしくはどちらか1本の細線が接続するように設置する。2本の細線が接続する場合には、抵抗は約半分になるため、低抵抗化には有利であるが、電極の長さは2本の細線を含むよりも長く作製しなければならない。一方、片方の縁である1本の細線のみが接続する場合には、カーボンナノチューブと電極の接続幅を小さく、例えば50μm以下にできるため、2次元アレイ化等の素子小型化に有利である。また、分散液の塗布幅を、
図4(上)のように素子の間隔に合わせて塗布すれば、両縁の細線を第1列と第2列の2列の電極対に一度に使用することができ、簡便にアレイ化することができる。
【0039】
図5に示すように、カーボンナノチューブ細線が線状である(複数の電極対にわたるように延在している)ために隣の電極対にもカーボンナノチューブが接続している場合には、例えば次の方法で、不要なカーボンナノチューブを除去する必要がある。形成されたカーボンナノチューブの細線3上の電極間を含む領域6にポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)等のアクリル樹脂溶液を塗布してPMMAの保護層を形成する。大気中において200℃で加熱し、余分な溶媒、不純物等を除去後、基板全体を酸素プラズマ処理することにより、カーボンナノチューブ層3のPMMA層で被覆した領域6以外の領域にある余分なカーボンナノチューブ等を除去する。
【0040】
本実施形態のアレイ化の例を
図4(下)に示す。カーボンナノチューブの2本のラインが、それぞれ、第1列の電極列及び第2列の電極列の電極対間をまたがるように電極を設置する。その後、
図5の上段2列のように、電極(電極4及び電極5)間のカーボンナノチューブを含む領域6にPMMAを塗布し、200℃で乾燥後に酸素プラズマ処理により、
図5下段2列のように不要なカーボンナノチューブを除去する。
【0041】
カーボンナノチューブ層の表面に、必要により保護層を設けてもよい。ボロメータを赤外線センサとして用いる場合、保護膜は検知したい赤外線波長域において透明性の高い材料が好ましく、例えば、PMMA等のアクリル樹脂、エポキシ樹脂、テフロン(登録商標)等を用いることができる。
【0042】
上記の実施形態は、Si基板上にAPTES膜を形成し、カーボンナノチューブ層を作製した後に電極を作製する順番のボロメータ素子作製方法を示したが、次のように順序を変える作製方法でもよい。まず、洗浄したSi基板上に金蒸着等により第1の電極と第2の電極を作製し、APTES水溶液中に基板を浸漬し、あるいは基板にAPTES水溶液を噴霧し、水洗い後に乾燥する。APTES膜は絶縁膜であるが、基板のシリコン酸化膜表面と結合してアミノ基を表面に提示するため、金電極部には付着しない。この上にカーボンナノチューブ分散液をライン状に塗布、徐々に乾燥させると、ライン液滴の縁にカーボンナノチューブがネットワーク状に又は少なくとも一部が配向して堆積してカーボンナノチューブ細線が形成され、該細線の両端は電極に直接接続する。隣の電極対間にカーボンナノチューブが接続している場合には、上記と同様の方法により、電極対と電極対の間に存在する不要なカーボンナノチューブを酸素プラズマ処理等で除去すればよい。
【0043】
<第2の実施形態>
一実施形態では、半導体型カーボンナノチューブ分散液を円形のドット状に塗布する。次いで該基板を、分散液の溶媒が蒸発し得る条件下におくと、液滴の外縁(ドットの外周)付近は、蒸発速度が中心付近に比べて大きいため、分散液は円形状の縁から徐々に水が乾燥する。その際、円形状の縁が液滴の接触線のピン止めとなり、液滴内で縁に向かう毛管流が生じ、カーボンナノチューブが液滴の中心から外向きに移動して縁に該縁と略平行に配向しながら蓄積して、円形状配向膜(円形状細線)が形成される。また、カーボンナノチューブの配向度は、カーボンナノチューブの直径および長さ、界面活性剤の濃度、乾燥速度等の条件で適宜制御することができ、これらを調整することで、カーボンナノチューブが殆ど配向していないネットワーク状態のカーボンナノチューブの円形状(ドーナツ状)蓄積物を得ることもできる。
【0044】
円形状の大きさは、直径10μm~1cmが望ましく、20μm~1mmが好ましく、30μm~500μmがより好ましい。
【0045】
カーボンナノチューブ、カーボンナノチューブ分散液及びその調製方法、形成されるカーボンナノチューブ細線の幅及び厚み等、及び中間層の形成に用いるAPTES溶液等は、第1の実施形態において説明したものを適宜適用することができる。
【0046】
本実施形態のボロメータは、上記半導体型カーボンナノチューブの円形状細線を基板上に形成させた後、例えば次のようにして製造することができる。カーボンナノチューブは円の周囲にネットワーク状に又は少なくとも一部が配向して堆積するため、カーボンナノチューブ細線がドーナツ状に作製される。このカーボンナノチューブの円の弧が、第1電極と第2電極との間を流れる電流方向に略平行になるように、第1電極及び第2電極を金蒸着により作製する。
【0047】
本実施形態のボロメータにおいて、第1の電極と第2の電極の間の距離は、1μm~500μmが好ましく、10μm~300μmがより好ましい。また、小型化のためには1μm~200μmがより好ましい。電極間距離が1μm以上であると、金属型カーボンナノチューブを僅かに含む場合でも、TCRの特性の低下を抑制することができる。また、電極間距離が50μm以下であると、2次元アレイ化による画像センサの適用に有利である。電極4と電極5の長さは、カーボンナノチューブが両電極に接続し、導通できれば短い方が好ましく、カーボンナノチューブとの接続部が50μm以下であると、2次元アレイ化による画像センサの適用に有利である。
【0048】
電極は、
図6のように2本の対向する円弧状細線の両方が接続するように設置、もしくは
図7のように1本の円弧状細線が接続するように設置する。2本の円弧状細線が接続する場合には、抵抗は約半分になるため、低抵抗化には有利であるが、電極の長さは2本の細線を含むよりも長く作製しなければならない。一方、1本の円弧状細線のみが接続する場合には、カーボンナノチューブと電極の接続幅を小さく、例えば50μm以下にできるため、2次元アレイ化等の素子小型化に有利である。また、分散液の円形塗布の直径を、
図7のように素子の間隔に合わせて塗布すれば、円の直径の両端に対向する2本の円弧細線を第1列と第2列の2列の電極対に使用することができ、簡便にアレイ化することができる。
図8に本実施形態のアレイ化の例を示す。第1の実施形態と同様に、電極間のカーボンナノチューブを含む領域6にPMMAを塗布し、酸素プラズマ処理により不要なカーボンナノチューブを除去する。
【0049】
また、アレイをより細密化する場合には、
図9のように、直径の対向する円弧から90°の円弧部分にも第1列および第2列の第1と第2の電極対(4及び5)に対して略垂直な方向に列をなす、第3列の第3と第4の電極対(7及び8)を作製することもできる。
具体的には、1列に配列したカーボンナノチューブの円形状細線の各円において、
図9に示すように、縦方向の直径方向に対向する2本の円弧部分を第1列及び第2列の電極対列に使用し、さらに、該直径方向から約90°に位置する横方向の円弧部分を第3列の電極対列に使用する。すなわち、第3列の電極対列は、該電極対列を構成する電極対(7、8)が、第1列及び第2列の電極対列を構成する電極対(4、5)に対して略垂直方向となるように配置されることとなる。
このようなボロメータ電極は、1列の円形状のカーボンナノチューブ分散液の液滴列から1列に配列したカーボンナノチューブの円形状細線を形成し、形成した円形状細線に対して、3列の電極対列を、円形状細線が各電極対列を構成する各電極対に略垂直にまたがるように配置することによって製造することができる。電極対と電極対の間にある不要なカーボンナノチューブを酸素プラズマ等で除去すると、1列に配列したカーボンナノチューブ円形状細線から切り出された円弧状細線が各電極対に略垂直にまたがるように接続された3列の電極対列を備えるボロメータ電極が形成される。
この場合、
図9に示すように4つの素子を1個の円形細線から作製することができ、低コスト化、簡便化を実現できる。
【0050】
図10と
図11に第3列の電極を作製する実施形態のアレイ化のさらなる例を示す。これらの例に示すように、横方向に配列した円状細線及び/又は縦方向に配列した円状細線が互いに重なり合う部分に電極対を配置することで、アレイのさらなる細密化を図ってもよい。第1の実施形態と同様に、不要なカーボンナノチューブは除去処理を行う。
【0051】
カーボンナノチューブ細線はドーナツ円状であるため、隣の電極対にもカーボンナノチューブが接続している場合には、例えば次の方法で、不要なカーボンナノチューブを除去する必要がある。形成されたカーボンナノチューブの細線上の電極間を含む領域にポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)等のアクリル樹脂溶液を塗布してPMMAの保護層を形成する。大気中において200℃で加熱し、余分な溶媒、不純物等を除去後、基板全体を酸素プラズマ処理することにより、カーボンナノチューブ層3のPMMA層で被覆した領域6以外の領域にある余分なカーボンナノチューブ等を除去する。
【0052】
本実施形態においても、カーボンナノチューブ層の表面に、必要により保護層を設けてもよい。ボロメータを赤外線センサとして用いる場合、保護膜は検知したい赤外線波長域において透明性の高い材料が好ましく、例えば、PMMA等のアクリル樹脂、エポキシ樹脂、テフロン(登録商標)等を用いることができる。
【0053】
上記の実施形態は、Si基板上にAPTES膜を形成し、カーボンナノチューブ層を作製した後に電極を作製する順番のボロメータ素子作製方法を示したが、次のように順序を変える作製方法でもよい。まず、洗浄したSi基板上に金蒸着等により第1の電極と第2の電極を作製し、APTES水溶液中に基板を浸漬あるいはAPTES水溶液を噴霧し、水洗い後に乾燥する。APTES膜は絶縁膜であるが、基板のシリコン酸化膜表面と結合してアミノ基を表面に提示するため、金電極部には付着しない。この上にカーボンナノチューブ分散液を円形状に塗布、徐々に乾燥させると、円形液滴の縁にカーボンナノチューブがネットワーク状に又は少なくとも一部が配向して堆積し、円形状(ドーナツ状)細線が形成される。円形状細線の両端は電極に直接接続する。隣の電極対間にカーボンナノチューブが接続している場合には、上記と同様の方法により、不要なカーボンナノチューブを除去すればよい。
【0054】
<第3の実施形態>
本実施形態に係るボロメータは、
図1と構造は同様であるが、Si基板1に代えてプラスチック基板を用いる。また、APTES層2に代えて、ポリリジンを用いる。ポリリジンはプラスチック基板表面に結合しやすく、APTESと同様にアミノ基を表面に提示するため、ポリリジン膜はカーボンナノチューブ分散液をはじかず、分散液滴をピン止めしやすい。ポリリジン膜の塗布方法及びボロメータ製造方法は、第1及び第2の実施形態で述べた工程と同様の工程を用いることができる。本実施形態では、基板をフレキシブルにできることから、フレキシブルな画像センサ等に用いることができる。
【0055】
なお、上記の実施形態では、基板とカーボンナノチューブとの結合性を高める中間層の材料として、APTES又はポリリジンを用いた例を説明したが、中間層の材料はこれらに限定されない。中間層の材料は、基板表面に結合又は付着する部分構造と、カーボンナノチューブに結合又は付着する部分構造との両方を有する化合物であることが好ましい。これにより、中間層は、基板とカーボンナノチューブを結合させる仲介役として機能する。ここで、基板と中間層との間の結合、及び中間層とカーボンナノチューブとの間の結合は、化学結合だけでなく、静電相互作用、表面吸着、疎水性相互作用など、各種分子間相互作用を利用することができる。
【0056】
基板表面に結合又は付着する部分構造としては、アルコキシシリル基(SiOR)、SiOH等の、疎水性部分又は疎水性基等が挙げられる。疎水性部分又は疎水性基としては、炭素数が好ましくは1以上、より好ましくは2以上、また好ましくは20以下、より好ましくは10以下のメチレン基(メチレン鎖)、アルキル基等が挙げられる。
カーボンナノチューブに結合又は付着する部分構造としては、例えば、第一級アミノ基(-NH2)、第二級アミノ基(-NHR1)、第三級アミノ基(-NR1R2)等のアミノ基、アンモニウム基(-NH4)、イミノ基(=NH)、イミド基(-C(=O)-NH-C(=O)-)、アミド基(-C(=O)NH-)、エポキシ基、イソシアヌレート基、イソシアネート基、ウレイド基、スルフィド基、メルカプト基等が挙げられる。
【0057】
このような中間層の材料としては特に限定されるものではないが、例えば、シランカップリング剤が挙げられる。シランカップリング剤は、無機材料に結合又は相互作用する反応基と有機材料に結合又は相互作用する反応基の両方を分子内に有し、有機材料と無機材料とを結合する働きを有する。本実施形態においては、例えば、Si基板等の基板に結合する反応基と、カーボンナノチューブに結合する反応基とを併せ持つシランカップリング剤を用いて、基板上にカーボンナノチューブと結合する反応基を提示する単層の多分子膜を形成することにより、カーボンナノチューブを基板上に固定することができる。
【0058】
シランカップリング剤の例としては、
3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基とアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤(アミノシラン化合物);
3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルジエトキシシラン、トリエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)シラン等のエポキシ基とアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤;
トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート等のイソシアヌレート系シランカップリング剤;
3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン等のウレイド系シランカップリング剤;
3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプト系シランカップリング剤;
ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド系シランカップリング剤;及び
3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート系シランカップリング剤;
などが挙げられる。
【0059】
特には、カーボンナノチューブとの結合性が良いことから、アミノ基を有するシランカップリング剤(アミノシラン化合物)が好ましい。
【0060】
中間層の材料の他の例としては、プラスチック基板等の基板に結合又は付着することができる部分構造と、カーボンナノチューブに結合する反応基とを有するポリマー、例えばカチオンポリマーが挙げられる。
【0061】
このようなポリマーの例としては、ポリ(N-メチルビニルアミン)、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリアリルジメチルアミン、ポリジアリルメチルアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ポリジアリルジメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホネート、ポリジアリルジメチルアンモニウムナイトレート、ポリジアリルジメチルアンモニウムペルクロレート、ポリビニルピリジニウムクロリド、ポリ(2-ビニルピリジン)、ポリ(4-ビニルピリジン)、ポリビニルイミダゾール、ポリ(4-アミノメチルスチレン)、ポリ(4-アミノスチレン)、ポリビニル(アクリルアミド-co-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)、ポリビニル(アクリルアミド-co-ジメチルアミノエチルメタクリレート)、ポリエチレンイミン(PEI)、DAB-Am及びポリアミドアミンデンドリマー、ポリアミノアミド、ポリヘキサメチレンビグアニド、ポリジメチルアミン-エピクロロヒドリン、塩化メチルによるポリエチレンイミンのアルキル化の生成物、エピクロロヒドリンによるポリアミノアミドのアルキル化の生成物、カチオン性モノマーによるカチオン性ポリアクリルアミド、ジシアンジアミドのホルマリン縮合物、ジシアンジアミド、ポリアルキレンポリアミン重縮合物、天然ベースのカチオン性ポリマー(例として、部分的に脱アセチル化したキチン、キトサン及びキトサン塩など)、合成ポリペプチド(例として、ポリアスパラギン、ポリリジン、ポリグルタミン、及びポリアルギニンなど)が挙げられる。
【0062】
このようなポリマーの中でも、カーボンナノチューブを基板上に固定する観点で、アミノ基と疎水性基又は疎水性部分とを有するカチオンポリマーが好ましい。
【0063】
このようなポリマーを用いることにより、カーボンナノチューブに結合又は付着する反応基を複数提示する中間層を基板上に形成することができる。そのような中間層は、特に限定されるものではないが均一に付着させるためという観点から単分子膜が望ましく、1nm~1μm、好ましくは2nm~100nmの厚さとすることができる。
【0064】
上述の中間層の材料は、用いる基板の材料を考慮して、適宜選択することができる。ここで、基板を構成する材料は、無機材料であっても有機材料であってもよく、当技術分野で使用されるものを特に制限なく使用できる。無機材料としては、限定されるものではないが、例えば、ガラス、Si、SiO2、SiN等が挙げられ、有機材料としては、限定されるものではないが、例えばプラスチック、ゴム等、例えば、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、アクリロニトリルスチレン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、フッ素樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート等が挙げられ、一実施形態では、フレキシブル基板に用いられる材料が好ましい。
【0065】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限定されない。
[付記1]
基板上に、半導体型カーボンナノチューブ分散液をライン形状又は円形状に塗布し、前記分散液を乾燥させることによって、ライン形状の縁に2本一組の互いに略平行なカーボンナノチューブ細線を、又は円形状の円周に円形状のカーボンナノチューブ細線を作製する工程であって、前記細線の線幅は5μm以上である、工程、及び
前記細線の一部を第1の電極と第2の電極に接続する工程を含む、ボロメータ製造方法。
[付記2]
前記ライン形状の幅又は前記円形状の直径が20μm以上1cm以下である、付記1に記載のボロメータ製造方法。
[付記3]
前記カーボンナノチューブ細線の厚みが30nm以上1μm以下である、付記1又は2に記載のボロメータ製造方法。
[付記4]
前記半導体型カーボンナノチューブの分散液が、半導体型カーボンナノチューブを、カーボンナノチューブの総量の90質量%以上含む、付記1~3のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
[付記5]
前記半導体型カーボンナノチューブの分散液が、非イオン性の界面活性剤を臨界ミセル濃度以上、5質量%以下含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
[付記6]
1列のライン形状のカーボンナノチューブ分散液の液滴から製造されるライン形状細線、又は1列の円形状のカーボンナノチューブ分散液の液滴列から製造される1列の円形状細線を、2列以上の電極対列に対して、該電極対列を構成する各電極対に略垂直にまたがるように接続する工程を含む、付記1~5のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
[付記7]
少なくとも3列の電極対列を備えるボロメータであって、
1列に配列した半導体型カーボンナノチューブの円形状細線から切り出された円弧状細線が、3列の電極対列に、各電極対列を構成する各電極対に略垂直にまたがるように接続されており、
3列の電極対列のうちの1列は、該電極対列を構成する電極対が、他の2列を構成する電極対に対して略垂直方向となるように配置されている、ボロメータ電極。
[付記8]
少なくとも3列の電極対列を備えるボロメータ電極の製造方法であって、
1列に配列した半導体型カーボンナノチューブの円形状細線を形成する工程、及び
半導体型カーボンナノチューブの円形状細線が、電極対列を構成する各電極対に対して略垂直となるように、3列の電極対列を配置する工程
を含み、
3列の電極対列のうちの1列を、該電極対列を構成する電極対が、他の2列の電極対列を構成する電極対に対して略垂直方向となるように配置する、ボロメータ電極の製造方法。
[付記9]
前記ライン形状の一部、又は前記円形状の円弧である、第1の電極と第2の電極間のカーボンナノチューブ細線と、該カーボンナノチューブ細線と第1の電極及び第2の電極との接続部とを保護膜で覆い、保護膜で覆われない部分のカーボンナノチューブを除去する工程を含む、付記1~6及び8のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
[付記10]
ディスペンサー、インクジェット、又は印刷機を用いて、基板上に、カーボンナノチューブ分散液をライン形状又は円形状に塗布する、付記1~6及び8~9のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
[付記11]
ボロメータがボロメータアレイである、付記1~6及び8~10のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
[付記12]
ボロメータが赤外線センサである、付記1~6及び8~11のいずれか1項に記載のボロメータ製造方法。
【実施例0066】
以下、実施例によりさらに詳しく本発明について例示説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
単層カーボンナノチューブ((株)名城ナノカーボン、EC1.0(直径:1.1~1.5nm程度、平均直径1.2nm)100mgを石英ボートに入れ、真空雰囲気化下で電気炉を使った熱処理を行った。熱処理は、温度は900℃で、時間は2時間で行った。熱処理後の重さは、80mgに減少し、表面官能基や不純物が除去されていることが分かった。得られた単層カーボンナノチューブをピンセットで破砕後、12mgを1wt%の界面活性剤(ポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテル)水溶液40mlに浸漬させ、十分に沈めた後、超音波分散処理(BRANSON ADVANCED-DIGITAL SONIFIER装置、出力50W)を3時間行った。これにより、溶液内にカーボンナノチューブの凝集物がなくなった。この操作により、バンドルや残留触媒等を除去し、カーボンナノチューブ分散液を得た。カーボンナノチューブの長さ及び直径を観察するために、この分散液をSiO2基板上に塗布し、100℃で乾燥後、原子間力顕微鏡(AFM)観察を行った。その結果、単層カーボンナノチューブは、その70%が長さ500nm~1.5μmの範囲にあり、その平均の長さがおよそ800nmであることが分かった。
【0068】
上記により得られたカーボンナノチューブ分散液を、二重管構造の分離装置に導入した。二重管の外側管に水約15ml、カーボンナノチューブ分散液約70ml、2wt%界面活性剤水溶液約10mlを入れ、内側管にも2wt%界面活性剤水溶液約20mlを入れた。その後、内側管の下側のふたを開けることで界面活性剤の濃度が異なる3層構造ができた。内側管の下側を陽極、外側管の上側を陰極として、120Vの電圧をかけることで、半導体型カーボンナノチューブが陽極側に移動した。一方、金属型カーボンナノチューブは陰極側に移動した。半導体型及び金属型カーボンナノチューブの分離は、分離開始から約80時間後にきれいに分離した。分離工程は室温(約25℃)で実施した。陽極側に移動した半導体型カーボンナノチューブ分散液を回収し、光吸収スペクトルで分析したところ、金属型カーボンナノチューブの成分が除去されていることが分かった。また、ラマンスペクトルから、陽極側に移動したカーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブの99wt%が半導体カーボンナノチューブであった。単層カーボンナノチューブの直径は、約1.2nmが最も多く(70%以上)、平均直径は1.2nmであった。
【0069】
上記半導体型カーボンナノチューブを99wt%含むカーボンナノチューブ分散液(陽極側に移動したカーボンナノチューブ分散液)から界面活性剤を一部除去し、界面活性剤の濃度を0.05wt%にした。その後、分散液中のカーボンナノチューブの濃度が0.01wt%になるようにカーボンナノチューブ分散液A(分散液Aと記載)を調整した。この分散液Aをカーボンナノチューブ層の形成に用いた。
【0070】
SiO2を被覆したSi基板上をアセトン、イソプロピルアルコール、水により順に洗浄し、酸素プラズマ処理で表面の有機物を除去した。基板を、0.1%のAPTES水溶液中に30分浸漬し、水洗後、乾燥した。
【0071】
APTES付着基板上に、ディスペンサーを用いて分散液Aを、ドット状に塗布した。ドットの直径は360μm、ドットの間隔は1mm、ドット当たりの液滴量は約1μLとした。分散液Aを室温(約25℃)、大気圧、湿度50%RHで徐々に乾燥させた。水とエタノールとイソプロピルアルコールで洗浄し、110℃で乾燥した。その後、大気中200℃で加熱し、分散液A中の非イオン界面活性剤等を除去した。ドット形状の縁をSEM観察すると、
図2のように縁から10μm~20μmの幅のドーナツ円状にカーボンナノチューブが高い配向度で集合していることが観察された。また、SEM画像を二次元フーリエ変換処理し、中心から一方向に周波数-1μm
-1から+1μm
-1までの振幅の積算値fを算出し、前記積算値fが最大となる方向xに関する積算値をfx、方向xに対して垂直である方向yに関する積算値をfyとしたとき、fx/fyを算出すると、2.0であった。カーボンナノチューブ層の厚みは、レーザー顕微鏡を用いて測定したところ、縁から10μmでは平均約100nm(10点の平均値)であった。
【0072】
上記で得られた円状カーボンナノチューブ配向膜の円弧上に、第1電極及び第2電極としての金を、厚み300nmで、電極間が100μmになるように蒸着して作製した。このとき、円弧のラインが電極間で電流の流れる方向と略平行になるように、電極を設置した。また、同時に、
図7のように、第2列目の第1電極及び第2電極を、上記の円弧と対向する円弧の位置に設置した。次に、第1電極と第2電極間のカーボンナノチューブと、第1電極及び第2電極とカーボンナノチューブの接続部を含む領域を、PMMAアニソール溶液を塗布することで保護した。その後、大気中200℃の条件下で1時間乾燥し、隣の電極対に接続する不要なカーボンナノチューブを酸素プラズマ処理で除去した。
【0073】
(比較例1)
実施例1の工程と同様に、カーボンナノチューブ分散液Aを調製した。実施例1と同様にSi基板を洗浄後、基板全面にAPTESを付着させた。分散液A約200μLを基板に滴下すると、分散液Aは基板全面に広がった。水とエタノールとイソプロピルアルコールで洗浄後、110℃で乾燥し、その後、大気中において200℃で加熱し、非イオン性界面活性剤等を除去した。基板上をSEM観察すると、カーボンナノチューブがランダムな網目状に付着していた。カーボンナノチューブ層の厚みは、レーザー顕微鏡を用いて測定したところ、平均約10nmであった。
【0074】
その後、カーボンナノチューブ層上に、第1電極及び第2電極としての金を、厚み300nmで、電極間が100μmになるようになるように蒸着して作製した。カーボンナノチューブと第1電極及び第2電極を、実施例1と同じ面積のPMMAで保護し、大気中200℃で1時間乾燥し、酸素プラズマ処理で不要なカーボンナノチューブを除去した。
【0075】
(実施例1と比較例1の比較)
表1に、実施例1と比較例1でそれぞれ得られたカーボンナノチューブ膜から作製されたボロメータの、300Kにおける膜抵抗測定結果と、20℃~40℃の領域でのTCR値を示す。実施例1の配向したカーボンナノチューブ膜は、比較例1と比べて1桁以上低いことが分かった。これは、実施例1ではカーボンナノチューブが配向することで、カーボンナノチューブ同士の導電パスの接点の面積が増えたからである。その結果、センサ作製時にノイズが減り、高感度化した。
【表1】