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  • 特開-加硫剤、ゴム組成物及び加硫ゴム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174902
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】加硫剤、ゴム組成物及び加硫ゴム
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/34 20060101AFI20221117BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20221117BHJP
   C08K 3/06 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
C08F8/34
C08L9/00
C08K3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080939
(22)【出願日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100181179
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 洋一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197295
【弁理士】
【氏名又は名称】武藤 三千代
(72)【発明者】
【氏名】新家 雄
(72)【発明者】
【氏名】日座 操
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4J002AA022
4J002AC011
4J002AC021
4J002AF022
4J002BC022
4J002BK002
4J002CC042
4J002DA046
4J002FD142
4J002FD146
4J002GN01
4J100AR03P
4J100AR10P
4J100HA53
4J100HB50
4J100HE17
4J100HE32
4J100JA29
(57)【要約】
【課題】ゴム組成物中での分散性に優れ、かつ、破断伸び、耐熱老化性及び耐摩耗性に優れたゴム製品を製造できる加硫剤の提供を課題とする。また、上記加硫剤を含むゴム組成物、及び、これを用いて得られる加硫ゴムの提供も課題とする。
【解決手段】本発明の加硫剤は、不飽和二重結合及び芳香族環の少なくとも一方を有し軟化点が50~140℃である樹脂と、硫黄とを、加硫促進剤の存在下で反応させて得られる加硫剤である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和二重結合及び芳香族環の少なくとも一方を有し軟化点が50~140℃である樹脂と、硫黄とを、加硫促進剤の存在下で反応させて得られる、加硫剤。
【請求項2】
前記反応において、前記硫黄の使用量と、前記樹脂の使用量との合計使用量に対する、前記硫黄の使用量が、30~90質量%である、請求項1に記載の加硫剤。
【請求項3】
前記反応における温度が、100~180℃である、請求項1又は2に記載の加硫剤。
【請求項4】
ジエン系ゴム、及び、請求項1~3のいずれか1項に記載の加硫剤を含み、
前記ジエン系ゴム100質量部に対して、前記加硫剤を0.5~10質量部含む、ゴム組成物であって、
下記要件A又は要件Bを満たす、ゴム組成物。
要件A:前記ゴム組成物が、硫黄を含まない。
要件B:前記ゴム組成物が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、更に、硫黄を、0質量部超10質量部以下含む。
【請求項5】
請求項4に記載のゴム組成物を用いて得られた、加硫ゴム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫剤、ゴム組成物及び加硫ゴムに関する。
【背景技術】
【0002】
ジエン系ゴム、及び、硫黄を含む組成物が知られている。上記組成物は、加熱により速やかに架橋(加硫)して、所望のゴム製品(加硫ゴム)を形成できる。
例えば、特許文献1には、ジエン系ゴムを含むゴム成分、シリカ及び/又はカーボンブラック、並びに、硫黄と酸価が5以上である樹脂とのマスターバッチを含有するゴム組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-182983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らが、特許文献1に記載されているようなマスターバッチを加硫剤として含むゴム組成物を評価したところ、ゴム組成物中の加硫剤の分散性が不十分になる場合や、これを用いて得られるゴム製品(加硫ゴム)の破断伸び、耐熱老化性及び耐摩耗性のうち少なくとも1つの性能が不十分になる場合があることが分かった。
【0005】
そこで、本発明は、ゴム組成物中での分散性に優れ、かつ、破断伸び、耐熱老化性及び耐摩耗性に優れたゴム製品を製造できる加硫剤の提供を課題とする。また、本発明は、上記加硫剤を含むゴム組成物、及び、これを用いて得られる加硫ゴムの提供も課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、以下の構成により上記課題を解決できることを知見した。
【0007】
[1]
不飽和二重結合及び芳香族環の少なくとも一方を有し軟化点が50~140℃である樹脂と、硫黄とを、加硫促進剤の存在下で反応させて得られる、加硫剤。
[2]
上記反応において、上記硫黄の使用量と、上記樹脂の使用量との合計使用量に対する、上記硫黄の使用量が、30~90質量%である、[1]に記載の加硫剤。
[3]
上記反応における温度が、100~180℃である、[1]又は[2]に記載の加硫剤。
[4]
ジエン系ゴム、及び、[1]~[3]のいずれかに記載の加硫剤を含み、
上記ジエン系ゴム100質量部に対して、上記加硫剤を0.5~10質量部含む、ゴム組成物であって、
下記要件A又は要件Bを満たす、ゴム組成物。
要件A:上記ゴム組成物が、硫黄を含まない。
要件B:上記ゴム組成物が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、更に、硫黄を、0質量部超10質量部以下含む。
[5]
[4]に記載のゴム組成物を用いて得られた、加硫ゴム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ゴム組成物中での分散性に優れ、かつ、破断伸び、耐熱老化性及び耐摩耗性に優れたゴム製品を製造できる加硫剤を提供できる。また、本発明よれば、上記加硫剤を含むゴム組成物、及び、これを用いて得られる加硫ゴムも提供もできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例で製造した加硫剤1を示差走査熱量計により測定して得られた吸熱曲線を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について以下詳細に説明する。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、特に断りのない限り、各成分はその成分に該当する物質をそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。成分が2種以上の物質を含む場合、成分の含有量は、2種以上の物質の合計の含有量を意味する。
【0011】
[加硫剤]
本発明の加硫剤は、不飽和二重結合及び芳香族環の少なくとも一方を有し軟化点が50~140℃である樹脂(以下、「特定樹脂」ともいう。)と、硫黄とを、加硫促進剤の存在下で反応させて得られる、加硫剤である。
【0012】
このような構成をとることで本発明の課題が解決されるメカニズムは必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のように推定している。
まず、本発明の加硫剤は、複雑かつ多種多様な構造を有する有機硫黄化合物の混合物であり、構造又は特性によって直接特定することは、不可能又は非実際的ではある。
そのような事情下においても、本発明者らは、加硫促進剤の存在下で合成される上記加硫剤が、硫黄原子と上記特定樹脂に由来する構造とを有し、具体的には、硫黄原子と特定樹脂とが反応した構造を有すると想定している。
そして、本発明の加硫剤は軟化点の低い樹脂(特定樹脂)を用いて得られるため、ゴム組成物中で加硫剤と他の成分との相溶性が向上し、ゴム組成物中で加硫剤が良好に分散したと推定している。また、本発明の加硫剤を用いてゴム製品を製造すると、ゴム製品の高分子中に、上記特定樹脂に由来する構造も取り込まれ、その結果、ゴム製品の破断伸び、耐熱老化性及び耐摩耗性が改善できたものと推定している。
以下、製造されるゴム組成物中の加硫剤の分散性、並びに、製造されるゴム製品の破断伸び、耐熱老化性及び耐摩耗性のうち、少なくとも1つの性能がより優れることを、本発明の効果がより優れるともいう。
【0013】
<硫黄>
本発明の加硫剤の作製に用いられる硫黄としては、例えば、粉末硫黄、沈降性硫黄、高分散性硫黄、及び、不溶性硫黄等を挙げることができる。硫黄には、表面処理が施されていてもよい。
本発明の効果がより優れる点から、本発明の加硫剤の全質量に対して、硫黄(硫黄原子)の含有量は、10~95質量%が好ましく、30~90質量%がより好ましく、30~80質量%が更に好ましく、35~70質量%が特に好ましい。
なお、上記加硫剤の全質量に対する硫黄(硫黄原子)の含有量は、後述する加硫促進剤に由来する硫黄原子が含まれていてもよい。
また、本発明の効果がより優れる点から、本発明の加硫剤を作製するために調製される、硫黄と、特定樹脂と、加硫促進剤とを含む混合物(上記混合物を、以下「加硫剤形成用組成物」ともいう)の全質量に対して、硫黄の含有量は、10~95質量%が好ましく、30~90質量%がより好ましく、30~80質量%が更に好ましく、35~70質量%が特に好ましい。
【0014】
<特定樹脂>
本発明の加硫剤の作製に用いられる特定樹脂は、不飽和二重結合及び芳香族環の少なくとも一方を有しており、軟化点が50~140℃である。
【0015】
特定樹脂は、不飽和二重結合及び芳香族環の少なくとも一方を有していればよく、本発明の効果がより優れる点から、不飽和二重結合を有することが好ましく、不飽和二重結合及び芳香族環の両方を有することがより好ましい。
なお、特に断りのない限り、本発明における不飽和二重結合には、芳香族環を構成する炭素-炭素二重結合を含めないこととする。
不飽和二重結合の具体例としては、ビニル構造、アリル構造、プロぺニル構造、イソプレン構造、シクロアルケン構造等が挙げられる。
芳香族環の具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環等が挙げられ、本発明の効果がより優れる点から、ベンゼン環が好ましい。
【0016】
特定樹脂の軟化点は、50~140℃である。
上記軟化点の下限は、本発明の効果がより優れる点から、55℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、70℃以上が更に好ましく、75℃以上が特に好ましい。
上記軟化点の上限は、本発明の効果がより優れる点から、130℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましく、110℃以下が更に好ましく、100℃以下が特に好ましい。
ここで、軟化点は、JIS K2207:1996に準拠して測定された軟化点である。
【0017】
特定樹脂は、熱可塑性樹脂であるのが好ましい。熱可塑性樹脂としては、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂等の天然樹脂、石油系樹脂、石炭系樹脂、フェノール系樹脂、スチレン系樹脂、インデン系樹脂(インデンの単独重合体、スチレン系化合物とインデンとの共重合体、クマロンとインデンとの共重合体)、キシレン系樹脂等の合成樹脂が挙げられる。中でも、本発明の効果がより優れる理由から、テルペン系樹脂及びロジン系樹脂が好ましく、テルペン系樹脂がより好ましい。
テルペン系樹脂としては、α-ピネン樹脂、β-ピネン樹脂、リモネン樹脂、水添リモネン樹脂、ジペンテン樹脂、テルペンフェノール樹脂、テルペンスチレン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、水素添加テルペン樹脂等が挙げられる。中でも、本発明の効果がより優れる理由から、芳香族変性テルペン樹脂が好ましい。
【0018】
本発明の効果がより優れる点から、本発明の加硫剤の全質量に対して、上記特定樹脂に由来する部分構造の含有量は、5~90質量%が好ましく、10~70質量%がより好ましく、20~70質量%が更に好ましく、30~65質量%が特に好ましい。
また、本発明の効果がより優れる点から、加硫剤形成用組成物の全質量に対して、上記特定樹脂の含有量は、5~90質量%が好ましく、10~70質量%がより好ましく、20~70質量%が更に好ましく、30~65質量%が特に好ましい。
【0019】
本発明の加硫剤中、硫黄(硫黄原子)と、上記特定樹脂に由来する部分構造との合計含有質量に対する、硫黄(硫黄原子)の含有量は、10~95質量%が好ましく、30~90質量%がより好ましく、30~80質量%が更に好ましく、35~70質量%が特に好ましい。
本発明の加硫剤を製造する反応において、硫黄の使用量と、特定樹脂の使用量との合計使用量(合計質量)に対する、上記硫黄の使用量は、10~95質量%が好ましく、30~90質量%がより好ましく、30~80質量%が更に好ましく、35~70質量%が特に好ましい。なお、上記使用量は、加硫剤形成用組成物中における、硫黄と上記特定樹脂との合計使用量に対する、硫黄又は上記特定樹脂の含有量に相当する。
【0020】
<加硫促進剤>
本発明の加硫剤を製造するにあたって、上記硫黄と上記特定樹脂とは、加硫促進剤の存在下で反応させる。
本発明の効果がより優れる点から、上記加硫促進剤は、一分子中に1個以上(好ましくは1~10個)の硫黄原子を含んでいる含硫黄加硫促進剤であることが好ましい。
また、本発明の効果がより優れる点から、上記加硫促進剤は、一分子中に1個以上(好ましくは1~3個)の金属原子(亜鉛、テルル、銅、及び/又は、ナトリウム等)を含んでいることも好ましい。
加硫促進剤としては、例えば、ジチオカルバメート系加硫促進剤、スルフェンアミド系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、及び、チウラム系加硫促進剤が挙げられる。
中でも、本発明の効果がより優れる点から、加硫促進剤は、ジチオカルバメート系加硫促進剤が好ましい。
【0021】
ジチオカルバメート系加硫促進剤としては、例えば、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、N-エチル-N-フェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸テルル、ジメチルジチオカルバミン酸銅、及び、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムが挙げられる。
【0022】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-シクロヘキシルベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-t-ブチルベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-オキシジエチレンベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N-ジシクロヘキシルベンゾチアゾールスルフェンアミド、及び、(モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールが挙げられる。
【0023】
チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾチアジルジスルフィド、メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩、(ジニトロフェニル)メルカプトベンゾチアゾール、及び、(N,N-ジエチルチオカルバモイルチオ)ベンゾチアゾールが挙げられる。
【0024】
グアニジン系加硫促進剤としては、例えば、ジフェニルグアニジン、ジ(o-トリル)グアニジン、及び、o-トリルビギアニドが挙げられる。
【0025】
チウラム系加硫促進剤としては、例えば、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、及び、テトラベンジルチウラムジスルフィドが挙げられる。
【0026】
上記加硫促進剤の一部又は全部が、本発明の加硫剤に取り込まれていてもよい。本発明の効果がより優れる点から、本発明の加硫剤の全質量に対して、上記加硫促進剤に由来する部分構造の合計含有量は、0.1~10質量%が好ましく、1~8質量%がより好ましく、2~5質量%が更に好ましい。
また、本発明の効果がより優れる点から、加硫剤形成用組成物の全質量に対して、上記加硫促進剤の含有量は、0.1~10質量%が好ましく、1~8質量%がより好ましく、2~5質量%が更に好ましい。
【0027】
本発明の加硫剤を合成するにあたっては、合成される加硫剤の性能を損なわない範囲で、系中(加硫剤形成用組成物中)に、上述した以外の成分を添加してもよい。
【0028】
<加硫剤の製造>
本発明の加硫剤は、上記硫黄と、上記特定樹脂とを、上記加硫促進剤の存在下で反応させて得られる。
上記反応は、本発明の効果がより優れる点から、加熱しながら実施することが好ましい。上記反応における温度(すなわち、加硫剤形成用組成物の温度)は、100~180℃が好ましく、110~170℃がより好ましく、120~160℃が更に好ましい。上記加熱の維持時間は、0.5~20時間が好ましく、1~10時間がより好ましく、2~5時間が更に好ましい。
なお、上記加熱は、連続的に行われてもよく断続的に行われてもよい。
【0029】
上記反応は、例えば、加硫剤の製造に供する、上記硫黄、上記特定樹脂、及び、上記加硫促進剤の各成分を一括して混合して、加硫剤形成用組成物を得てから、得られた加硫剤形成用組成物を反応させてもよい。また、上記各成分の一部又は全部を順次混合して加硫剤形成用組成物を得てもよく、また、加硫剤形成用組成物が完成する前段階から上記各成分の一部又は全部に対する加熱を行っていてもよい。例えば、加熱された(又は加熱されていない)上記各成分の一部に対して、加熱された(又は加熱されていない)他の上記各成分の一部を添加して、加硫剤形成用組成物が完成させ、更に、完成された加硫剤形成用組成物中の硫黄と特定樹脂とを反応させてもよい。
加硫剤形成用組成物が完成する前段階において、上記各成分の一部が反応を開始していてもよい。
【0030】
また、例えば、116~200℃(好ましくは120~180℃)に加熱して液状となっている硫黄に対して、上記特定樹脂、及び、上記加硫促進剤を添加することで、加硫剤形成用組成物を得て、得られた加硫剤形成用組成物をそのまま加熱し続けて、上記硫黄と、上記特定樹脂とを反応させて、本発明の加硫剤を得てもよい。
【0031】
得られた加硫剤に対して洗浄処理等を行い、加硫剤から未反応成分(未反応の硫黄、未反応の上記特定樹脂、及び/又は、未反応の上記加硫促進剤)を除去してもよい。
【0032】
[ゴム組成物]
本発明は、ゴム組成物にも関する。
本発明のゴム組成物は、本発明の加硫剤を含む。
本発明の効果がより優れる点から、ゴム組成物は、ジエン系ゴム、及び、上記加硫剤を含むことが好ましい。
また、本発明の効果がより優れる点から、上記ゴム組成物は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、上記加硫剤を0.5~10質量部含むことが好ましく、0.6~8質量部含むことがより好ましく、0.8~5質量部含むことが更に好ましい。
更に、上記ゴム組成物は、下記要件A又は要件Bを満たすことが好ましい。
要件A:上記ゴム組成物が、硫黄を含まない。
要件B:上記ゴム組成物が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、更に、硫黄を、0質量部超10質量部以下(好ましくは0質量部超5質量部未満、より好ましくは0質量部超3質量部未満)含む。
なお、要件A及び要件Bにおける上記硫黄は、ゴム組成物中に、加硫剤に含まれる硫黄原子とは別に添加される硫黄である。
【0033】
<ジエン系ゴム>
ゴム組成物は、上述の通り、ジエン系ゴムを含むことが好ましい。
ジエン系ゴムは、主鎖に二重結合を有するものであれば特に制限されず、公知のジエン系ゴムを用いることができる。ジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、芳香族ビニル-共役ジエン共重合ゴム(例えば、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレンゴム、スチレン-ブタジエン-イソプレンゴム(SBIR)等)、スチレン-イソプレンゴム(SIR)、及び、スチレン-イソプレン-ブタジエンゴム(SIBR)等が挙げられる。
また、上記ジエン系ゴムは、アルキル基、アリル基、アミノ基、イソシアネート基、ヒドロキシル基、チオール基、ビニル基、エポキシ基、カルボキシ基、カルボニル基含有基、アミド基、エステル基、イミド基、ニトリル基、チオシアン基、アルコキシ基、シリル基、アルコキシシリル基、及び、ニトロ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基で、側鎖、片末端又は両末端が変成(変性)された誘導体であってもよい。
なかでも、ジエン系ゴムは、NR又はSBRが好ましい。
本発明の効果がより優れる点から、ジエン系ゴムの含有量は、ゴム組成物の全質量に対して、20~90質量%が好ましく、30~80質量%がより好ましく、40~70質量%が更に好ましい。
【0034】
<加硫剤>
ゴム組成物は、上述の通り、本発明の加硫剤を含む。
本発明の加硫剤、及び、その好ましい含有量については上述の通りである。
【0035】
<硫黄>
ゴム組成物は、硫黄を含んでもよい。
ゴム組成物に含まれる硫黄としては、例えば、本発明の加硫剤を製造するのに使用できる硫黄として説明した硫黄が同様に挙げられる。
ゴム組成物中における、硫黄の好ましい含有量は上述の通りである。
【0036】
<加硫促進剤>
ゴム組成物は、加硫促進剤を含んでもよい。
ゴム組成物に含まれる加硫促進剤としては、例えば、本発明の加硫剤を製造するのに使用できる加硫促進剤として説明した加硫促進剤が同様に挙げられる。
本発明の効果がより優れる点から、ゴム組成物中における、加硫促進剤の含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、0.05~10質量部が好ましく、0.1~5質量部がより好ましく、0.5~3質量部が更に好ましい。
【0037】
<充填剤>
ゴム組成物は、充填剤を含んでもよい。
充填剤としては、特に制限されず、特に制限なく使用できる。
充填剤としては例えば、カーボンブラック及び白色充填剤(ただし亜鉛華(酸化亜鉛)を除く)等が挙げられる。
白色充填剤としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、及び、マイカが挙げられる。
本発明の効果がより優れる点から、ゴム組成物中における、充填剤の含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1~350質量部が好ましく、10~200質量部がより好ましく、20~90質量部が更に好ましい。
【0038】
<その他の成分>
ゴム組成物は、上述の成分以外の、その他の成分を含んでもよい。
上記その他の成分としては、例えば、亜鉛華(酸化亜鉛)、ステアリン酸、及び/又は、老化防止剤等の添加剤を更に含んでもよい。これらの添加剤の含有量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜決めることができる。
例えば、ゴム組成物が亜鉛華(酸化亜鉛)を含む場合、その含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、0.5~20質量部が好ましい。
ゴム組成物がステアリン酸を含む場合、その含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1~15質量部が好ましい。
【0039】
<ゴム組成物の製造方法>
上記ゴム組成物の製造方法は、特に制限されず、公知のゴム組成物の製造方法により製造できる。ゴム組成物の製造方法としては、上述した各成分を装置(例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、又は、ロール等)を用いて、混練する方法等が挙げられる。なお、この際、各成分は同時に混合しても良いし、段階的に混合してもよい。
【0040】
[加硫ゴム]
本発明は、加硫ゴムにも関する。本発明の加硫ゴムは、上述のゴム組成物を用いて得られる加硫ゴムである。
上記加硫ゴムの製造方法としては特に制限されず、上記ゴム組成物を加熱する方法が挙げられる。加熱温度としては特に制限されないが、130~200℃が好ましい。加硫時間としては、10~240分が好ましい。
上記加硫ゴムは、例えば、タイヤ(特に、空気入りタイヤ)、コンベヤベルト、ホース、ゴルフボール、免震ゴム等の土木資材、工業用シール材、防舷材、及び、医療機器等に使用できる。
【実施例0041】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし本発明はこれらに限定されない。
【0042】
[加硫剤の製造]
<加硫剤1の製造>
フラスコ中に硫黄(鶴見化学工業社製、金華印油入微粉硫黄)75gを添加し、上記フラスコの内容物の温度が130℃になるように加熱し、上記フラスコ中の硫黄がすべて液状になったことを確認した。
その後、YSレジンTO125(ヤスハラケミカル社製、芳香族変性テルペン樹脂、軟化点125℃、特定樹脂に該当。不飽和二重結合及び芳香族環を有する。)75gと、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(加硫促進剤に該当)3gとを、上記フラスコに添加した。上記フラスコの内容物の温度が130℃になるように温度を調整し、調整された温度を3時間維持して、上記フラスコ内の硫黄と特定樹脂とを反応させて、加硫剤1を得た。
得られた加硫剤1を示差走査熱量計(DSC)によって測定して得られた吸熱曲線を図1に示す。なお、DSCによる測定は、昇温速度10℃/分の条件で実施した。
図1の吸熱曲線において、硫黄及び特定樹脂に対応する吸熱ピークが消失していることから、硫黄と特定樹脂との反応物である加硫剤が生成されたといえる。
【0043】
<その他の加硫剤>
樹脂の種類及び添加量、及び、加硫促進剤の使用の有無を、後段に示す表に記載するように変更し、それ以外は「加硫剤1の製造」と同様にして、加硫剤2~5を製造した。
加硫剤2及び3は、加硫剤の製造に、硫黄、特定樹脂及び加硫促進剤を使用したので、本発明の加硫剤に該当する。
加硫剤4は、加硫剤の製造に、硫黄、軟化点が145℃の樹脂(後述の「FMR0150」)及び加硫促進剤を使用し、特定樹脂を使用していないので、比較例の加硫剤に該当する。
加硫剤5は、加硫剤の製造に、硫黄及び特定樹脂を使用し、加硫促進剤を使用していないので、比較例の加硫剤に該当する。
また、いずれの加硫剤の製造においても、硫黄の添加量と樹脂の添加量との合計質量は一定の量(150g)になるように固定した。
・YSレジンTO85:ヤスハラケミカル社製、芳香族変性テルペン樹脂、軟化点85℃、特定樹脂に該当。なお、不飽和二重結合及び芳香族環を有する。
・ガムロジン:荒川化学社製、中国ガムロジンWW、軟化点65℃、特定樹脂に該当。なお、不飽和二重結合を有するが、芳香族環を有しない。
・FMR0150:三井化学社製、4-メチル-α-メチルスチレン・インデン共重合体、軟化点145℃、特定樹脂に該当しない。
【0044】
[ゴム組成物の製造]
後段に示す表に記載した成分を容量1Lのバンバリーミキサーにて混合して各実施例又は比較例のゴム組成物を作製した。なお、表中、各成分の含有量はジエン系ゴム100質量部に対する質量部として示した。
【0045】
[加硫ゴムの製造]
得られたゴム組成物を、所定の金型中で160℃、20分間プレスして、各実施例又は比較例のゴム試験片(加硫ゴム)を得た。
【0046】
[試験]
<分散性>
ゴム組成物を目視にて観察して、以下の評価基準により、加硫剤の分散性を評価した。
〇:ゴム組成物中に加硫剤の粒が確認できない。
×:ゴム組成物中に加硫剤の粒が確認できる。
【0047】
<破断伸び指数>
ゴム試験片について、JIS K6251:2017(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方)に基づき、室温(23℃)で切断時伸び(EB)を測定した。
。そして下記式から破断伸び指数を算出した。
破断伸び指数:(各ゴム試験片のEB/基準EB)×100
なお、比較例1-1~1-7、及び、実施例1-1~1-3の評価においては、比較例1-1のゴム試験片のEBを、基準EBとした。
比較例2-1~2-7、及び、実施例2-1~2-3の評価においては、比較例2-1のゴム試験片のEBを、基準EBとした。
破断伸び指数が大きいほど破断しにくく、破断伸びに優れることを意味する。
【0048】
<M300変化率指数>
後述する熱老化処理を実施していない熱老化前のゴム試験片について、JIS K6251(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-熱老化特性の求め方)に基づき、室温(23℃)で300%モジュラスを測定した。
また、ゴム試験片を70℃に加熱したオーブン内に96時間放置する熱老化処理を行った、熱老化後のゴム試験片についても、上記と同様に室温(23℃)で300%モジュラスを測定し、以下に示す式に基づいて、300%モジュラスの変化率(M300変化率)を求めた。
M300変化率(%):100×{(熱老化前のゴム試験片の300%モジュラス)-(熱老化後のゴム試験片の300%モジュラス)}/(熱老化後のゴム試験片の300%モジュラス)
そして、比較例1-1~1-7、及び、実施例1-1~1-3の評価においては、比較例1-1のゴム試験片のM300変化率を100とする指数(M300変化率指数)で表した。また、比較例2-1~2-7、及び、実施例2-1~2-3の評価においては、比較例2-1のゴム試験片のM300変化率を100とする指数(M300変化率指数)で表した。
M300変化率指数が小さいほど熱老化が少なく、耐熱老化性に優れることを意味する。
【0049】
<耐摩耗性指数>
ゴム試験片(熱老化前のゴム試験片)について、JIS K6264-1、2:2005に準拠し、ランボーン摩耗試験機(岩本製作所製)を用いて、温度20℃、スリップ率50%の条件で摩耗量を測定した。そして下記式から耐摩耗性指数を算出した。
耐摩耗性指数:(基準摩耗量/各ゴム試験片の摩耗量)×100
なお、比較例1-1~1-7、及び、実施例1-1~1-3の評価においては、比較例1-1のゴム試験片の摩耗量を、基準摩耗量とした。
比較例2-1~2-7、及び、実施例2-1~2-3の評価においては、比較例2-1のゴム試験片の摩耗量を、基準摩耗量とした。
耐摩耗指数が大きいほど摩耗量が小さく、耐摩耗性に優れることを意味する。
【0050】
[結果]
各ゴム組成物の配合と評価結果を下記表1及び表2に示す。
表中、加硫剤1~5の欄におけるカッコ内の記載は、各加硫剤の製造時の特徴を示す。
例えば、加硫剤1における「(TO125/硫黄=5/5)」の記載は、加硫剤1を合成する際に、TO125と硫黄とを質量比で、TO125/硫黄=5/5になるように添加して合成したことを示す。
例えば、加硫剤5における「(加硫促進剤不使用)」の記載は、加硫剤5を合成する際に、加硫促進剤を使用していないことを示す。なお、その他の加硫剤では、いずれも、合成する際に、加硫促進剤を使用している。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
各組成物における成分の詳細は以下の通りである。
・NR:TSR20
・SBR:日本ゼオン製 Nipol1502
・CB:キャボットジャパン社製 ショウブラックN220
・酸化亜鉛: 正同化学工業(株)製 酸化亜鉛3種
・ステアリン酸: NOF CORPORATION社製 ステアリン酸
・加硫促進剤:大内新興化学社製 ノクセラーNS-P
・硫黄:鶴見化学工業社製 金華印油入微粉硫黄
・樹脂1:ヤスハラケミカル社製 YSレジンTO125 芳香族変性テルペン樹脂 軟化点125℃
・樹脂2:ヤスハラケミカル社製 YSレジンTO85 芳香族変性テルペン樹脂 軟化点85℃
・樹脂3:荒川化学社製 中国ガムロジン WW 軟化点65℃
・樹脂4:三井化学社製 FMR0150(4-メチル-αメチル-スチレン/インデン共重合体) 軟化点145℃
【0054】
表1及び表2に示す結果から、本発明の加硫剤を用いれば、ゴム組成物中での分散性に優れ、かつ、破断伸び、耐熱老化性及び耐摩耗性に優れたゴム製品を製造できることが確認された。
中でも、実施例1-1~1-3の対比、実施例2-1~2-3の対比から、不飽和二重結合及び芳香族環の両方を有する特定樹脂を用いた場合(実施例1-1~1-2及び実施例2-1~2-2)、ゴム製品の耐熱老化性及び耐摩耗性がより優れることが確認された。
また、実施例1-1~1-3の対比、実施例2-1~2-3の対比から、軟化点が120℃以下の特定樹脂を用いた場合(実施例1-2~1-3及び実施例2-2~2-3)、ゴム製品の破断伸びがより優れることが確認された。
図1