(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174903
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】レーザ加工装置、レーザ加工方法、プログラム及び記憶媒体
(51)【国際特許分類】
B23K 26/0622 20140101AFI20221117BHJP
【FI】
B23K26/0622
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080941
(22)【出願日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000233332
【氏名又は名称】ビアメカニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武川 裕亮
(72)【発明者】
【氏名】簑島 悠
(72)【発明者】
【氏名】坂本 淳
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD11
4E168CB03
4E168CB07
4E168DA23
4E168DA43
4E168DA54
4E168EA05
4E168EA15
4E168JB01
4E168KA17
(57)【要約】
【課題】音響光学素子での熱レンズ作用の変動による影響を抑えて加工品質を向上させる。
【解決手段】偏向器を加工位置の次の加工位置に向けて位置決めするための位置決め動作の完了時点までの時間Tを予測する。時間Tが2以上の整数n及び所定時間T0に対してn×T0>T>(n-1)×T0である場合に、所定時間T0が経過する度に、加工用レーザパルスと同じパルス幅Tpで第1のダミーパルスをレーザ発振器に出射させることを(n-1)回繰り返した後、パルス幅Tpより短いパルス幅Tdで第2のダミーパルスをレーザ発振器に出射させる。時間Tを所定時間T0で除算した剰余Trと、パルス幅Tpの所定時間T0に対するデューティD0との積(Tr×D0)が閾値Td_min未満である場合、第2のダミーパルスのパルス幅Td2を閾値Td_minに設定し、次の加工位置に照射させるための加工用レーザパルスの出力開始を遅らせる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザパルスを出射するレーザ発振器と、
前記レーザ発振器から出射された前記レーザパルスの光路を加工方向と非加工方向とに切り替える音響光学素子と、
前記音響光学素子から前記加工方向に出射されたレーザパルスを被加工物に照射するために偏向する偏向器と、
前記レーザ発振器を制御する制御手段と、
前記レーザ発振器による前記被加工物の加工位置に照射するための加工用レーザパルスの出力開始時点を基準として、前記偏向器を前記加工位置の次の加工位置に向けて位置決めするための位置決め動作の完了時点までの時間Tを予測する予測手段と、
を有し、
前記制御手段は、
前記時間Tの値が、2以上の整数n及び所定時間T0に対してn×T0>T>(n-1)×T0である場合に、前記加工用レーザパルスの前記出力開始時点から前記所定時間T0が経過する度に、前記加工用レーザパルスと同じパルス幅Tpで第1のダミーパルスを前記レーザ発振器に出射させることを(n-1)回繰り返した後、前記パルス幅Tpより短いパルス幅Tdで第2のダミーパルスを前記レーザ発振器に出射させ、
前記制御手段は、
前記時間Tを前記所定時間T0で除算した剰余Trと、前記パルス幅Tpの前記所定時間T0に対するデューティD0との積(Tr×D0)が、予め定められた閾値Td_min未満である場合、前記第2のダミーパルスのパルス幅Td2を前記閾値Td_minに設定し、かつ、前記加工用レーザパルスの前記出力開始時点から前記時間Tが経過した時点よりも後の時点で、前記次の加工位置に照射させるための加工用レーザパルスを前記レーザ発振器に出射させる、
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ加工装置において、
前記制御手段は、
前記第2のダミーパルスのパルス幅Td2を前記閾値Td_minに設定した場合、前記第2のダミーパルスの出力開始時点からTd_min/Tr_min=D0を満たす時間Tr_minが経過した時点で、前記次の加工位置に照射させるための加工用レーザパルスを前記レーザ発振器に出射させる、
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のレーザ加工装置において、
前記制御手段は、
前記Tr×D0が前記閾値Td_min以上である場合、前記第2のダミーパルスのパルス幅Tdを前記Tr×D0に設定し、かつ、前記第2のダミーパルスの出力開始時点から前記Trの時間が経過した時点で、前記次の加工位置に照射させるための加工用レーザパルスを前記レーザ発振器に出射させる、
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のレーザ加工装置において、
前記所定時間T0は前記レーザ発振器が最短でレーザパルスを再出射する場合に確保すべき時間であることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項5】
レーザ発振器から出射されたレーザパルスの光路を音響光学素子によって加工方向と非加工方向とに切り替え、前記加工方向に出射された前記レーザパルスを偏向器によって偏向して被加工物に照射することで前記被加工物を加工するレーザ加工方法において、
前記レーザ発振器による前記被加工物の加工位置に照射するための加工用レーザパルスの出力開始時点を基準として、前記偏向器を前記加工位置の次の加工位置に向けて位置決めするための位置決め動作の完了時点までの時間Tを予測し、
前記時間Tの値が、2以上の整数n及び所定時間T0に対してn×T0>T>(n-1)×T0である場合に、前記加工用レーザパルスの前記出力開始時点から前記所定時間T0が経過する度に、前記加工用レーザパルスと同じパルス幅Tpで第1のダミーパルスを前記レーザ発振器に出射させることを(n-1)回繰り返した後、前記パルス幅Tpより短いパルス幅Tdで第2のダミーパルスを前記レーザ発振器に出射させ、
前記時間Tを前記所定時間T0で除算した剰余Trと、前記パルス幅Tpの前記所定時間T0に対するデューティD0との積(Tr×D0)が、予め定められた閾値Td_min未満である場合、前記第2のダミーパルスのパルス幅Td2を前記閾値Td_minに設定し、かつ、前記加工用レーザパルスの前記出力開始時点から前記時間Tが経過した時点よりも後の時点で、前記次の加工位置に照射させるための加工用レーザパルスを前記レーザ発振器に出射させる、
ことを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項6】
レーザ発振器から出射されたレーザパルスの光路を音響光学素子によって加工方向と非加工方向とに切り替え、前記加工方向に出射された前記レーザパルスを偏向器によって偏向して被加工物に照射することで、前記被加工物を加工するレーザ加工方法のためのプログラムにおいて、
前記レーザ発振器による前記被加工物の加工位置に照射するための加工用レーザパルスの出力開始時点を基準として、前記偏向器を前記加工位置の次の加工位置に向けて位置決めするための位置決め動作の完了時点までの時間Tを予測し、
前記時間Tの値が、2以上の整数n及び所定時間T0に対してn×T0>T>(n-1)×T0である場合に、前記加工用レーザパルスの前記出力開始時点から前記所定時間T0が経過する度に、前記加工用レーザパルスと同じパルス幅Tpで第1のダミーパルスを前記レーザ発振器に出射させることを(n-1)回繰り返した後、前記パルス幅Tpより短いパルス幅Tdで第2のダミーパルスを前記レーザ発振器に出射させ、
前記時間Tを前記所定時間T0で除算した剰余Trと、前記パルス幅Tpの前記所定時間T0に対するデューティD0との積(Tr×D0)が、予め定められた閾値Td_min未満である場合、前記第2のダミーパルスのパルス幅Td2を前記閾値Td_minに設定し、かつ、前記加工用レーザパルスの前記出力開始時点から前記時間Tが経過した時点よりも後の時点で、前記次の加工位置に照射させるための加工用レーザパルスを前記レーザ発振器に出射させるように前記レーザ発振器を制御する、
ことを特徴とするレーザ加工方法のためのプログラム。
【請求項7】
レーザ発振器から出射されたレーザパルスの光路を音響光学素子によって加工方向と非加工方向とに切り替え、前記加工方向に出射された前記レーザパルスを偏向器によって偏向して被加工物に照射することで、前記被加工物を加工するレーザ加工方法のためのプログラムを記憶した記憶媒体において、
前記レーザ発振器による前記被加工物の加工位置に照射するための加工用レーザパルスの出力開始時点を基準として、前記偏向器を前記加工位置の次の加工位置に向けて位置決めするための位置決め動作の完了時点までの時間Tを予測し、
前記時間Tの値が、2以上の整数n及び所定時間T0に対してn×T0>T>(n-1)×T0である場合に、前記加工用レーザパルスの前記出力開始時点から前記所定時間T0が経過する度に、前記加工用レーザパルスと同じパルス幅Tpで第1のダミーパルスを前記レーザ発振器に出射させることを(n-1)回繰り返した後、前記パルス幅Tpより短いパルス幅Tdで第2のダミーパルスを前記レーザ発振器に出射させ、
前記時間Tを前記所定時間T0で除算した剰余Trと、前記パルス幅Tpの前記所定時間T0に対するデューティD0との積(Tr×D0)が、予め定められた閾値Td_min未満である場合、前記第2のダミーパルスのパルス幅Td2を前記閾値Td_minに設定し、かつ、前記加工用レーザパルスの前記出力開始時点から前記時間Tが経過した時点よりも後の時点で、前記次の加工位置に照射させるための加工用レーザパルスを前記レーザ発振器に出射させるように前記レーザ発振器を制御する、
ことを特徴とするレーザ加工方法のためのプログラムを記憶した記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を用いて被加工物を加工するためのレーザ加工装置、レーザ加工方法、レーザ加工方法のためのプログラム、及び、レーザ加工方法のためのプログラムを記憶した記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザ加工装置として、レーザ発振器から出射されるレーザパルスの光路を、音響光学素子によって被加工物に向かう加工方向と被加工物に向かわない非加工方向とに切り替えるものが知られている。この種のレーザ加工装置において、音響光学素子がレーザパルスを吸収して発熱することでレンズとしての作用が生じること(熱レンズ作用)が知られている。音響光学素子に対する熱レンズ作用が時間的に変動すると、被加工物の加工品質が低下する可能性がある。
【0003】
特許文献1には、音響光学素子によって加工方向に偏向されたレーザパルスをガルバノスキャナによって偏向して被加工物の複数の加工位置を加工するレーザ加工装置において、前回の加工位置から次の加工位置に向けてガルバノスキャナの位置決め動作が行われる期間中に、被加工物の加工に用いないダミーパルスをレーザ発振器から出射させることが記載されている。この文献によると、ガルバノスキャナの動作期間中に加工用のレーザパルスと同じデューティでダミーパルスを音響光学素子に照射し、かつ、当該期間における最後のダミーパルスのパルス幅を調整することで、被加工物の加工が行われる期間とガルバノスキャナの動作期間とを通じてデューティが一定となり、音響光学素子に対する熱レンズ作用の変動が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記文献では、ガルバノスキャナの動作期間の長さによっては、当該期間中の最後のダミーパルスのパルス幅が非常に短くなる場合があった。しかしながら、
図5に示すように、レーザ発振器に対する発振指令Sがオンになってから実際にレーザ発振器からレーザ光の出射が開始されるまでには、レーザ発振器の具体的構成に応じて一定の時間遅れΔtが存在する。従って、上記文献の制御に従って非常に短いパルス幅のダミーパルスの出射が指示されると、実際に出射されたダミーパルスのパルス幅が指示されたパルス幅より短くなり、或いはダミーパルスが実際には出射されない場合がある。このような理由で単位時間あたりに音響光学素子に入射するレーザパルスのエネルギー量が変動すると、音響光学素子に対する熱レンズ作用の変動の影響が十分に抑制されず、加工品質の低下が生じる能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、音響光学素子での熱レンズ作用の変動による影響を抑えて加工品質を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るレーザ加工装置は、レーザパルスを出射するレーザ発振器と、前記レーザ発振器から出射された前記レーザパルスの光路を加工方向と非加工方向とに切り替える音響光学素子と、前記音響光学素子から前記加工方向に出射されたレーザパルスを被加工物に照射するために偏向する偏向器と、前記レーザ発振器を制御する制御手段と、前記レーザ発振器による前記被加工物の加工位置に照射するための加工用レーザパルスの出力開始時点を基準として、前記偏向器を前記加工位置の次の加工位置に向けて位置決めするための位置決め動作の完了時点までの時間Tを予測する予測手段と、を有し、前記制御手段は、前記時間Tの値が、2以上の整数n及び所定時間T0に対してn×T0>T>(n-1)×T0である場合に、前記加工用レーザパルスの前記出力開始時点から前記所定時間T0が経過する度に、前記加工用レーザパルスと同じパルス幅Tpで第1のダミーパルスを前記レーザ発振器に出射させることを(n-1)回繰り返した後、前記パルス幅Tpより短いパルス幅Tdで第2のダミーパルスを前記レーザ発振器に出射させ、前記制御手段は、前記時間Tを前記所定時間T0で除算した剰余Trと、前記パルス幅Tpの前記所定時間T0に対するデューティD0との積(Tr×D0)が、予め定められた閾値Td_min未満である場合、前記第2のダミーパルスのパルス幅Td2を前記閾値Td_minに設定し、かつ、前記加工用レーザパルスの前記出力開始時点から前記時間Tが経過した時点よりも後の時点で、前記次の加工位置に照射させるための加工用レーザパルスを前記レーザ発振器に出射させる、ことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の一態様に係るレーザ加工方法は、レーザ発振器から出射されたレーザパルスの光路を音響光学素子によって加工方向と非加工方向とに切り替え、前記加工方向に出射された前記レーザパルスを偏向器によって偏向して被加工物に照射することで前記被加工物を加工するレーザ加工方法において、前記レーザ発振器による前記被加工物の加工位置に照射するための加工用レーザパルスの出力開始時点を基準として、前記偏向器を前記加工位置の次の加工位置に向けて位置決めするための位置決め動作の完了時点までの時間Tを予測し、前記時間Tの値が、2以上の整数n及び所定時間T0に対してn×T0>T>(n-1)×T0である場合に、前記加工用レーザパルスの前記出力開始時点から前記所定時間T0が経過する度に、前記加工用レーザパルスと同じパルス幅Tpで第1のダミーパルスを前記レーザ発振器に出射させることを(n-1)回繰り返した後、前記パルス幅Tpより短いパルス幅Tdで第2のダミーパルスを前記レーザ発振器に出射させ、前記時間Tを前記所定時間T0で除算した剰余Trと、前記パルス幅Tpの前記所定時間T0に対するデューティD0との積(Tr×D0)が、予め定められた閾値Td_min未満である場合、前記第2のダミーパルスのパルス幅Td2を前記閾値Td_minに設定し、かつ、前記加工用レーザパルスの前記出力開始時点から前記時間Tが経過した時点よりも後の時点で、前記次の加工位置に照射させるための加工用レーザパルスを前記レーザ発振器に出射させる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、音響光学素子での熱レンズ作用の変動による影響を抑えて加工品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一実施例に係るレーザ加工装置の構造を説明するための図。
【
図2】本開示の一実施例に係るレーザ加工装置におけるレーザパルスの発振の様子を表すタイミングチャート。
【
図3】本開示の一実施例に係るレーザ加工装置の制御例を示すフローチャート。
【
図4】本開示の一実施例に係るレーザ加工装置の制御例を示すフローチャート。
【
図5】ダミーパルスの発振指令に対する実際のレーザ光の出力開始の遅れを説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本開示に係る実施形態を実施例に基づいて説明する。なお、以下の説明において、同等な各部には同一の符号を付して説明を省略する。
【0012】
図1は、本開示の一実施例に係るレーザ加工装置の構造を示す図である。本レーザ加工装置は、テーブル2と、レーザ発振器3と、音響光学素子(Acoust-Optic Modulator。以下、AOMとする)4と、ガルバノスキャナ5と、集光レンズ6と、装置全体の動作を制御するための全体制御部11と、を含むシステムである。
【0013】
テーブル2は、被加工物の一例であるプリント基板等の基板1が載置される部分である。テーブル2には、全体制御部11内のテーブル駆動部の指令に基づいて、基板1上の二次元方向(
図1において基板1を上方から見た場合に互いに直角な方向X,Y)に基板1を移動させる駆動機構を含む。
【0014】
AOM4は、レーザ発振器3から出射されたレーザ光L1を偏向させる光学素子である。AOM4は、全体制御部11内のAOM制御部9から出力されるAOM駆動信号Eによって駆動され、レーザ光L1の光路を、ガルバノスキャナ等を介して最終的に基板1に向かう方向(以下、加工方向とする)と、ダンパ7Dに向かう方向(非加工方向)とに切り替える。加工方向に向かうレーザ光L2は、基板1の加工に用いられるレーザ光であり、非加工方向に向かうレーザ光L2’は、基板1の加工に用いないレーザ光である。ダンパ7Dは、非加工方向に偏向されたレーザ光L2’を吸収する。なお、レーザ発振器3としては、CO2レーザを例とするガスレーザ等、既知のレーザ発振器を用いることができる。
【0015】
ガルバノスキャナ5は、全体制御部11内のガルバノ制御部10から出力されるガルバノ動作制御信号Gによって制御され、AOM4によって加工方向へ偏向されたレーザ光L2を基板1上の加工位置へ向けて偏向する偏向器である。ガルバノスキャナ5は、互いに異なる方向に延びる回転軸線を中心に回転する2つのミラー(ガルバノミラー)を有し、レーザ光L2の反射方向を制御することで、基板1上の二次元方向における任意の位置に向けてレーザ光L3を偏向することができる。集光レンズ6は、ガルバノスキャナ5によって偏向されたレーザ光L3を基板1上の加工面に集光する。
【0016】
このような構成を備えるレーザ加工装置では、レーザ発振器3から出射されレーザパルスが、AOM4によって加工方向に偏向され、ガルバノスキャナ5を介して基板1上の加工位置に照射されることで、基板1に対して穴あけ加工等のレーザ加工が施される。以下では、基板1の加工に用いるためにレーザ発振器3が出射するレーザパルスを「加工用のレーザパルス」とする。基板1上の複数の加工位置に加工を施す場合は、加工用のレーザパルスが出射されない期間にガルバノスキャナ5の駆動及びテーブル2における基板1の移動が行われ、ガルバノスキャナ5及び基板1の位置決め完了後に再び加工用のレーザパルスが出射される。
【0017】
全体制御部11は、例えばプログラム制御の処理装置を中心にして構成され、その中の各構成要素(レーザ発振制御部7、AOM制御部9及びガルバノ制御部10を含む)や接続線は、論理的なものも含むものとする。また各構成要素の一部はこれと別個に設けられていてもよい。また、全体制御部11はここで説明するもの以外の制御機能を有し、図示されていないブロックにも接続されているものとする。
【0018】
全体制御部11は、レーザ発振器3でのレーザ光L1の発振と減衰を指令するための発振指令Sを出力する制御手段(レーザ発振制御手段)としてのレーザ発振制御部7と、AOM4を制御するためのAOM駆動信号Eを出力するAOM制御手段としてのAOM制御部9と、ガルバノスキャナ5を制御するためのガルバノ動作制御信号Gを出力するガルバノ制御手段としてのガルバノ制御部10と、ガルバノスキャナ5の位置決め動作に要する時間を計算して位置決め動作完了時点を予測する予測手段としての位置決め完了予測部12と、を含む。
【0019】
位置決め完了予測部12は、ガルバノ動作制御信号Gがオンになって駆動される毎に、ガルバノ制御部9から与えられる次の加工位置の情報に基づいて、次のガルバノスキャナ5の位置決め動作が完了する時点(位置決め動作完了時点)を予測し、前回の加工用レーザパルスの出力タイミングを基準とする位置決め動作完了時点までの時間Tを計算する。なお、この時間Tは、ガルバノスキャナ4を目標位置に完全に一致させるための整定時間を含むものとする。
【0020】
本レーザ加工装置では、原則として、ガルバノスキャナ5の停止(加工位置に合わせた位置決め動作の完了)に同期してレーザ発振器3が加工用のレーザパルスを出射して基板1にレーザ光が照射されるように、レーザ発振制御部7が発振指令Sを出力するタイミングを制御している。ここで、ガルバノスキャナ5の次の加工位置への位置決め動作を待機している期間中にレーザ発振器3によるレーザパルスの出射を停止させると、加工用のレーザパルスが出射される期間に比べて単位時間あたりにAOM4に入射するレーザ光のエネルギー量が少なくなり、AOM4における熱レンズ作用が変動し、加工精度の低下につながる可能性がある。そこで、本レーザ加工装置では、ガルバノスキャナ5の位置決め動作を待機している期間中に、レーザ発振器3に対し、基板1の加工に用いないレーザパルスをダミーパルス(捨てパルス)として出射させる。
【0021】
以下で説明する通り、本実施例では、ガルバノ動作制御信号Gがオンになった場合に、前回の加工用レーザパルスの出力タイミングから一定の時間(T0)が経過する度にレーザ発振器3にダミーパルスを出力させ、かつ、加工用レーザパルスのデューティとダミーパルスのデューティとが実質的に等しくなるように制御を行うことで、AOM4における熱レンズ作用の変動を抑制する。
【0022】
図2(a、c、d)は、本実施例のレーザ加工装置においてレーザ発振器3からレーザパルスが出射されるタイミングを表すタイミングチャートである。各タイミングチャートは、
図3及び
図4に示すフローチャートに従う制御が行われることで実現される。
図2(b)は、比較例のレーザ加工装置においてレーザ発振器3からレーザパルスが出射されるタイミングを表すタイミングチャートである。各図の上段は、ガルバノ制御部10が出力するガルバノ動作制御信号Gを表し、中段はレーザ発振制御部7が出力する発振指令Sを表し、下段はレーザ発振器3から出射されるレーザ光L1のエネルギーを表す。
【0023】
以下、
図2(a~d)に沿って、本実施例に係るレーザ加工装置の動作及び制御方法について説明する。
図2(a)は、位置決め完了予測部12によって予測された時間Tの値(T1)が、所定時間T0より短い場合、つまり、T1/T0<1の場合を示している。所定時間T0とは、少なくとも、レーザ発振器3が最短でレーザパルスを再出射(再発振)する場合に確保すべき時間以上の長さであり、好ましくは、当該確保すべき時間に等しい時間である。時間T1と所定時間T0の差をt1とすると、位置決め動作完了予測時点A1は、前回の加工用のレーザパルスの出力開始時点A0から所定時間T0が経過した時点より時間t1だけ早いタイミングである。
【0024】
この場合、
図2(a)に示すように、レーザ発振器3は、位置決め動作完了予測時点A1でレーザパルスを出射せず、前回の加工用のレーザパルスの出力開始時点A0から所定時間T0が経過した時点で、つまり、位置決め動作完了予測時点A1から時間t1だけ遅れたタイミングで、次の加工用のレーザパルスを出射する。次の加工用のレーザパルスのパルス幅は、加工用のレーザパルスの通常のパルス幅Tpである。
図2(a)の場合には、次の加工用のレーザパルスの出力開始タイミングを調整することで単位時間あたりにAOM4に入射するレーザパルスのエネルギー量が一定に保つことが可能であるため、レーザ発振器3にダミーパルスを出射させる制御は行わない。
【0025】
図2(b)は、位置決め完了予測部12によって予測された時間Tの値(T2)が、所定時間T0より長い場合であって、1<T2/T0<2の場合を示す。即ち、時間T2が1×T0なる時間よりt2なる時間だけ長く、2×T0なる時間より短い場合である。時間t2は、位置決め完了予測部12によって予測された時間Tを、所定時間T0で除算した場合の剰余Trに相当する。
図2(b)の場合において、本比較例では、レーザ発振器3は先ず前回の加工用のレーザパルスの出力開始時点B0から時間T0後に通常のレーザパルスよりも短いパルス幅Td2のレーザパルスをダミーパルスとして出射し、その後、位置決め動作完了時点B1で通常のパルス幅Tpの加工用のレーザパルスを出射するものとする。本比較例について、レーザ加工装置の基本的なハードウェア構成(
図1)は、本実施例と同じである。なお、
図2(b)において、ダミーパルスについては網掛けをしてあり、以下の同種の図でも同様とする。
【0026】
ここで、ダミーパルスのパルス幅Td2は、前回の加工用のレーザパルスの出力開始時点B0からガルバノスキャナ5の位置決め動作完了時点B1までの期間におけるレーザ発振器3に出力が指示されるレーザパルスのデューティが、加工用のレーザパルスのデューティと等しくなるように設定される。言い換えると、加工用のレーザパルスのデューティをD0(=Tp/T0)としたとき、比較例におけるダミーパルスのパルス幅Td2は、Td2/t2=D0を満たす値である。
【0027】
しかしながら、実際にレーザ発振器3から出力されるダミーパルスのパルス幅は、レーザ発振制御部7が出力する発振指令Sのパルス幅に比べて短くなる。これは、
図2(b)の一部を拡大した図である
図5に示すように、レーザ発振器3に対する発振指令Sがオンになってから実際にレーザ発振器からレーザ光の出射が開始されるまでには、レーザ発振器3の具体的構成に応じて一定の時間遅れΔtが存在するからである。また、上記の時間t2の長さが極端に短ければ(つまり、Td2<Δtの場合)、レーザ発振器3によるダミーパルスの出射が始まる前に発振指令Sがオフになってしまい、そもそもダミーパルスが出射されない場合もある。その結果、この比較例では、レーザ発振器3にダミーパルスを出力させたとしても、実際にAOM4に照射されるダミーパルスのエネルギーが少なくなる場合がある。このような理由でAOM4の温度が低下すると、AOM4に対する熱レンズ作用の変動の影響が十分に抑制されず、加工品質の低下が生じる能性がある。
【0028】
そこで、本実施例では、
図2(c)に示すように、ダミーパルスのパルス幅Td3に閾値Td_minを設けている。
図2(b)と
図2(c)の時間T2は同じである。本実施例では、位置決め完了予測部12によって予測された時間Tの値(T2)と維持すべきデューティD0とに基づいて計算されるパルス幅(
図2(b)のTd2=t2×D0)が閾値Td_min未満となる場合に、ダミーパルスのパルス幅Td3を閾値Td_minに切り上げる制御を行う。言い換えると、本実施例では、時間Tを所定時間T0で除算した剰余Trと、維持すべきデューティD0との積(Tr×D0)が、予め定められたパルス幅の閾値Td_min未満である場合、ダミーパルスのパルス幅(第2のパルス幅)を閾値Td_minに設定する。
【0029】
なお、ダミーパルスのパルス幅の下限である閾値Td_minの値は、AOM4に対する熱レンズ作用の変動の影響が許容範囲内に納まるように、予め試験を行って決定するものとする。従って、閾値Td_minの値は、AOM4の熱容量、レーザ発振器3や、レーザ発振制御部7とレーザ発振器3に介在する要素(信号線等)の具体的構成に応じて変更可能である。なお、
図5においてTd2<Δtの場合はレーザ発振器3によるダミーパルスの出射が始まる前に発振指令Sがオフになってしまい、そもそもダミーパルスが出射されないことから、閾値Td_minは、少なくとも発振指令Sのオンに対するレーザ発振器3の応答の時間遅れであるΔt以上に設定される。
【0030】
また、ダミーパルスのパルス幅Td3を閾値Td_minに切り上げることに伴って、次の加工用のレーザパルスの出力開始時点B4を、ガルバノスキャナ5の位置決め動作完了時点B1よりもt4なる時間だけ先延ばしにする。言い換えると、本実施例では、ダミーパルスのパルス幅を閾値Td_minに切り上げた場合には、加工用レーザパルスの出力開始時点B0から前記時間Tが経過した時点B1よりも後の時点B4で、次の加工位置に照射させるための加工用レーザパルスをレーザ発振器に出射させる。このように次の加工用レーザパルスの出力開始を遅らせることで、ダミーパルスのパルス幅をTd_minまで切り上げたことによりダミーパルスのデューティがD0より大きくなってAOM4の温度が上昇することを防ぐことができる。
【0031】
なお、次の加工用のレーザパルスの出射を遅らせる時間t4は、ダミーパルスの出力開始時点B3から次の加工用のレーザパルスの出力開始時点B4までの時間をt3(=t2+t4)としたとき、好ましくはTd3/t3=D0を満たす値である。言い換えると、t3の好ましい値は、Td_min/Tr_min=D0を満たす時間Tr_minである。更に言い換えると、第2のパルス幅のダミーパルスの出力開始時点からTd_min/Tr_min=D0を満たす時間Tr_minが経過した時点で次の加工位置に照射させるための加工用レーザパルスをレーザ発振器に出射させると好適である。この場合、ダミーパルスの出力開始時点B3から次の加工用のレーザパルスの出力開始時点B4までの時間t3に対するダミーパルスのパルス幅Td3の比(Td3/t3)が、加工用のレーザパルスのデューティD0に等しくなるからである。
【0032】
図2(d)は、位置決め完了予測部12によって予測された時間Tの値(T3)が、所定時間T0より長い場合であって、n-1<T3/T0<nの場合を示す。ただし、nは2以上の整数である。なお、
図2(d)は
図2(c)を一般化したものであって、
図2(c)は
図2(d)においてn=2の場合に相当する。
【0033】
この場合において、レーザ発振器3は前回の加工用のレーザパルスの出力開始時点C0から所定時間T0が経過する度に通常のパルス幅Tpのダミーパルス(第1のダミーパルス)を出射する動作を、n-1回繰り返す。従って、n-1回目までのダミーパルスのデューティは、加工用のレーザパルスのデューティD0と同じである。
【0034】
その後、n回目のダミーパルス(第2のダミーパルス)として、n-1回目までのダミーパルスのパルス幅Tpより短いパルス幅Td4のダミーパルスをレーザ発振器3に出射させる。この場合において、位置決め完了予測部12によって予測された時間Tの値(T3)と維持すべきデューティD0とに基づいて計算されるパルス幅(
図2(d)のt2’×D0)が閾値Td_min以上の場合、パルス幅Td4はt2’×D0に設定される。一方、上記のように計算されるパルス幅(
図2(d)のt2’×D0)が
図2(d)のように閾値Td_min未満の場合、n回目のダミーパルスのパルス幅Td4を閾値Td_minに切り上げる制御が行われる。時間t2’は、時間Tを所定時間T0で除算した剰余Trに相当する。言い換えると、時間Tを所定時間T0で除算した剰余Trと、維持すべきデューティD0との積(Tr×D0)が、予め定められたパルス幅の閾値Td_min未満である場合、第2のダミーパルスのパルス幅(パルス幅)を閾値Td_minに設定する。
【0035】
また、ダミーパルスのパルス幅Td4を閾値Td_minに切り上げることに伴って、次の加工用のレーザパルスの出力開始時点C4を、ガルバノスキャナ5の位置決め動作完了時点C1よりも先延ばしにする。言い換えると、n回目のダミーパルスのパルス幅Td4を閾値Td_minに切り上げた場合には、加工用レーザパルスの出力開始時点C0から前記時間Tが経過した時点C1よりも後の時点C4で、次の加工位置に照射させるための加工用レーザパルスをレーザ発振器3に出射させる。このように次の加工用レーザパルスの出力開始を遅らせることで、ダミーパルスのパルス幅をTd_minまで切り上げたことによりダミーパルスのデューティがD0より大きくなってAOM4の温度が上昇することを防ぐことができる。
【0036】
なお、次の加工用のレーザパルスの出射を遅らせる時間t4’は、好ましくは、n-1回目のダミーパルスの出力開始時点C3から次の加工用のレーザパルスの出力開始時点C4までの時間をt3’(=t2’+t4’)としたとき、Td3/t3’=D0を満たす値である。言い換えると、t3’の好ましい値は、Td_min/Tr_min=D0を満たす時間Tr_minである。更に言い換えると、第2のパルス幅のダミーパルスの出力開始時点からTd_min/Tr_min=D0を満たす時間Tr_minが経過した時点で次の加工位置に照射させるための加工用レーザパルスをレーザ発振器に出射させると好適である。この場合、ダミーパルスの出力開始時点C3から次の加工用のレーザパルスの出力開始時点C4までの時間t3’に対するダミーパルスのパルス幅Td4の比(Td4/t3’)が、加工用のレーザパルスのデューティD0に等しくなるからである。
【0037】
(制御フロー)
図3及び
図4を用いて、本実施例に係るレーザ加工装置を制御するために全体制御部11が実行する制御方法の一例を説明する。なお、
図3のS1及びS2以外のフローチャートの各工程は、レーザ発振制御部7により実現される。また、本フローチャートの各工程を実行するためのプログラムは、全体制御部11に用意された記憶装置に格納されている。当該プログラムは本開示に係るレーザ加工方法を実行するためのプログラムの一例であり、当該プログラムを格納した記憶装置は本開示に係るレーザ加工方法を実行するための非一過性の記憶媒体の一例である。なお、記憶媒体は、全体制御部11と物理的に分離可能であって、USB接続等の手段で全体制御部11に接続することで全体制御部11にプログラムを読み込ませることが可能なものであってもよい。
【0038】
上述した通り、位置決め完了予測部12は、ガルバノ動作制御信号Gがオンになってガルバノスキャナ5が駆動される毎に、前回の加工用レーザパルスの出力タイミングを基準とする位置決め動作完了時点までの時間Tを計算する(
図3のS1,S2)。レーザ発振制御部7は、計算された時間Tの値に基づいて、T=n×T0+Trを満たすn,Tr(nは0以上の整数、0≦Tr<T0とする)を計算する(
図3のS3)。nは、ガルバノ動作制御信号Gがオンになってから次の加工用のレーザパルスの出力を開始させるまでの期間にレーザ発振器3に出射させるべきダミーパルスの回数を表していると言える。Trは、位置決め完了予測部12によって予測された時間Tを所定時間T0で除算した場合の剰余であり、所定時間T0毎にダミーパルスを出射させる場合の最後のダミーパルスのパルス幅を決定するために用いられる。
【0039】
S3で計算されたnが0の場合(
図3のS4:Yes)、次の加工用のレーザパルスの出力タイミングを調整するための処理(
図3のルーチンR1)が行われる。この場合、レーザ発振制御部7は、前回の加工用のレーザパルスの出力開始時点から所定時間T0が経過した時点で、レーザ発振器3に次の加工用のレーザパルスを出射させるための発振指令Sを出力する(
図3のS5,S6)。上述した
図2(a)は、
図3のS3で計算されるnが0である場合に相当する。
【0040】
S3で計算されたnが0でない場合(
図3のS4:No)、所定時間T0が経過する度にダミーパルスを出力させるための処理が行われる。この場合において、n≧2のときは(
図3のS7:Yes)、所定時間T0が経過する度に通常のパルス幅でダミーパルスを出力させてnをカウントダウンする処理(
図3のルーチンR2)が行われる。具体的には、レーザ発振制御部7は、レーザ発振器3に対する前回の発振指令Sがオンになったタイミングから所定時間T0が経過した時点で(S8)、パルス幅Tpのダミーパルスを出力させるために発振指令Sを出力し(S9)、nを1だけ減算して(S10)からS7に戻る。上述した
図2(d)はn≧2の場合に相当し、
図2(d)において通常のパルス幅Tpのダミーパルスが繰り返し出力される動作は、
図3のルーチンR2がループ処理された結果である。
【0041】
S3で計算されたnが1の場合、又は、ルーチンR2によってn=1までカウントダウンされた場合(
図3のS7:No)、
図4に示すように、n回目のダミーパルス(最後のダミーパルス)のパルス幅等を決定するための処理が行われる。
【0042】
S3で計算されたTrと維持すべきデューティD0との積(Tr×D0)がパルス幅の閾値Td_min以上である場合(
図4のS11:Yes)、レーザ発振器3に指示されるダミーパルスのパルス幅が極端に短いことによる不都合は生じない。そのため、この場合は、Td=Tr×D0で定まるパルス幅Tdでn回目のダミーパルスを出力させる処理(
図4のルーチンR3)を行うことにより、ダミーパルスのデューティを加工用のレーザパルスのデューティD0と同じ値に維持すると共に、ガルバノスキャナ5の位置決め動作完了に同期してレーザ発振器3に加工用のレーザパルスの出射を開始させる。
【0043】
具体的には、レーザ発振制御部7は、レーザ発振器3に対する前回の発振指令Sがオンになったタイミングから所定時間T0が経過した時点で(S12)、パルス幅Td=Tr×D0でn回目のダミーパルスを出力させるために発振指令Sを出力する(S13)。また、レーザ発振制御部7は、レーザ発振器3に対する前回の発振指令S(n回目のダミーパルスを出力させるための発振指令S)がオンになったタイミングからTrなる時間が経過した時点で(S14)、レーザ発振器3に次の加工用のレーザパルスを出射させるための発振指令Sを出力する(S15)。つまり、この場合には、レーザ発振制御部7は、次の加工用のレーザパルスの出力開始をガルバノスキャナ5の位置決め動作完了時点より先延ばしにすることは行わず、ガルバノスキャナ5の位置決め動作完了に同期してレーザ発振器3に加工用のレーザパルスの出射を開始させる。その後、
図3のS1に戻って次にガルバノ動作制御信号Gがオンになるのを待機する。
【0044】
S3で計算されたTrと維持すべきデューティD0との積(Tr×D0)がパルス幅の閾値Td_min未満である場合(
図4のS16:Yes)、仮にTd=Tr×D0で定まるパルス幅Tdでダミーパルスを出力させると、上述したように、実際に出力されるダミーパルスのパルス幅が短く、又は実際にはダミーパルスが出力されないことによりAOM4における熱レンズ作用の変動が生じる可能性がある。そのため、この場合は、パルス幅Tdを閾値Td_minに切り上げてn回目のダミーパルスを出力させる処理(
図4のルーチンR4)を行い、かつ、次の加工用のレーザパルスの出力開始をガルバノスキャナ5の位置決め動作完了時点より先延ばしにする処理を行うことで、n回目のダミーパルスのデューティを加工用のレーザパルスのデューティD0と同じ値に維持する。上述した
図2(c、d)においてTd_minのパルス幅でダミーパルスが出力される動作、及び、次の加工用のレーザパルスの出力開始がガルバノスキャナ5の位置決め動作完了時点B1,C1より後の時点B4,C4に設定される動作は、
図4のルーチンR4が処理された結果である。
【0045】
具体的には、レーザ発振制御部7は、レーザ発振器3に対する前回の発振指令Sがオンになったタイミングから所定時間T0が経過した時点で(S17)、パルス幅Td=Td_minでn回目のダミーパルスを出力させるために発振指令Sを出力する(S18)。また、レーザ発振制御部7は、レーザ発振器3に対する前回の発振指令S(n回目のダミーパルスを出力させるための発振指令S)がオンになったタイミングから、Td_min/Tr_min=D0を満たす時間Tr_minが経過した時点で(S19)、レーザ発振器3に次の加工用のレーザパルスを出射させるための発振指令Sを出力する(S20)。その後、
図3のS1に戻って次にガルバノ動作制御信号Gがオンになるのを待機する。
【0046】
S3で計算されたTrと維持すべきデューティD0との積(Tr×D0)が0の場合(
図4のS16:No)、S2で位置決め完了予測部12が予測した時間Tが所定時間T0の整数倍となっている。この場合、例外的にn回目のダミーパルスを出力させることなく、ガルバノスキャナ5の位置決め動作完了に同期して次の加工用のレーザパルスを出力させるための処理(
図4のルーチンR5)が行われる。具体的には、レーザ発振制御部7は、レーザ発振器3に対する前回の発振指令S(n-1回目のダミーパルスを出力させるための発振指令S)がオンになったタイミングから所定時間T0が経過した時点で(S21)、レーザ発振器3に次の加工用のレーザパルスを出射させるための発振指令Sを出力する(S22)。これにより、ダミーパルスのデューティを加工用のレーザパルスのデューティD0と一定に維持しながら、ガルバノスキャナ5の位置決め動作完了に同期して次の加工位置に対するレーザパルスの照射を開始することができる。
【0047】
(その他の実施形態)
上述した実施例では、音響光学素子によって加工方向に出射されたレーザパルスを被加工物に照射するために偏向する偏向器の一例としてガルバノスキャナ5を例示したが、他の偏向器を用いてもよい。例えば、AOM4及びガルバノスキャナ5を2組配置し、レーザ発振器3から出射されるレーザ光をビームスプリッタによって2方向に分割し、分割されたレーザ光を用いて2箇所の加工位置を同時に加工可能とする構成が考えられる。この場合、偏向器としての2つのガルバノスキャナ5が駆動される場合に、位置決め完了時点のいずれか遅い方を基準にして位置決め完了予測部12がガルバノスキャナ5の位置決め完了に要する時間Tを計算することにより、本開示の技術を適用することができる。
【0048】
また、1つのAOM4に対して2つのガルバノスキャナ5を配置して、AOM4から2つのガルバノスキャナ5に向かう2つの加工方向に偏向されたレーザ光を用いて2箇所の加工位置を同時に加工可能とする構成が考えられる。この場合も、偏向器としての2つのガルバノスキャナ5が駆動される場合に、位置決め完了時点のいずれか遅い方を基準にして位置決め完了予測部12がガルバノスキャナ5の位置決め完了に要する時間Tを計算することにより、本開示の技術を適用することができる。更なる変形例として、1つのAOM4に対して2つのガルバノスキャナ5を有するユニットを2組配置して、4箇所の加工位置を同時に加工可能とする構成に対しても、偏向器としての4つのガルバノスキャナ5が駆動される場合に、位置決め完了時点のいずれか最も遅いものを基準にして位置決め完了予測部12がガルバノスキャナ5の位置決め完了に要する時間Tを計算することにより、本開示の技術を適用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1:基板/2:テーブル/3:レーザ発振器/4:音響光学素子(AOM)/5:偏向器(ガルバノスキャナ)/6:集光レンズ/7D:ダンパ/7:レーザ発振制御部/9:AOM制御部/10:ガルバノ制御部/11:全体制御部/12:位置決め完了予測部