IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本化薬株式会社の特許一覧

特開2022-174913インク組成物、インクセット、インクジェット記録方法、印刷メディア、及び印刷メディアセット
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174913
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】インク組成物、インクセット、インクジェット記録方法、印刷メディア、及び印刷メディアセット
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/38 20140101AFI20221117BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20221117BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
C09D11/38
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080954
(22)【出願日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】武田 径明
(72)【発明者】
【氏名】崔 波
(72)【発明者】
【氏名】戸田 正悟
(72)【発明者】
【氏名】高橋 博俊
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA13
2C056FC01
2H186AB12
2H186BA08
2H186DA12
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB30
2H186FB48
2H186FB55
4J039AB12
4J039AD09
4J039BB01
4J039BC12
4J039BC57
4J039BE01
4J039BE22
4J039BE28
4J039CA06
4J039EA42
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】 インク非・難吸収性メディア上での濡れ広がりが良好で、保存期間に係らず色間にじみが悪化せず、且つ、粒状性が極めて少ない印刷画像の提供を可能にするインクセット、並びにこれを用いるインクジェット印刷方法、印刷メディア、及び印刷メディアセットを提供することを目的とする。
【解決手段】 水、着色剤、界面活性剤、及び樹脂エマルションを含有し、
前記界面活性剤が下記式(1):
【化1】
で表されるシリコン系界面活性剤であり、
前記樹脂エマルションの酸価が10mgKOH/g未満であるインク組成物を提供する。
【選択図】 なし


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、着色剤、界面活性剤、及び樹脂エマルションを含有し、
前記界面活性剤が下記式(1):
【化1】
(式中、aは1~14の整数であり、x及びyは各々独立して1~4の整数であり、m及びnは各々独立して1~20の整数であり、o及びpは各々独立して0~20の整数であり、m+nは2~40であり、o+pは0~40であり、R及びRは各々独立して、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、及び(メタ)アクリル基からなる群より選択される。)
で表されるシリコン系界面活性剤であり、
前記樹脂エマルションの酸価が10mgKOH/g未満であるインク組成物。
【請求項2】
前記式(1)において、m及びnが各々独立して2~15の整数である請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記樹脂エマルションが、ポリマー及びワックスから選択される少なくとも1種類を含有する請求項1又は2に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記ワックスがポリアルキレンワックス、酸化ポリアルキレンワックス、及びパラフィンワックスから選択される1種類以上である請求項3に記載のインク組成物。
【請求項5】
前記ワックスが酸化ポリエチレンワックスである請求項3又は4に記載のインク組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のインク組成物である第1のインク組成物と、
請求項1~5のいずれか一項に記載のインク組成物であって、第1のインク組成物とは異なる着色剤を含有する第2のインク組成物と
を有するインクセット。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載のインク組成物の液滴を吐出して、印刷メディアに付着させて画像を形成する工程を含むインクジェット記録方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載のインク組成物が付着した印刷メディア。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか一項に記載のインク組成物又は請求項6に記載のインクセットと、印刷メディアとを含むインクメディアセット。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインク組成物、インクセット、インクジェット印刷方法、印刷メディア、及び印刷メディアセットに関する。
【背景技術】
【0002】
各種のカラー印刷方法の中でも代表的方法の1つであるインクジェットプリンタによる印刷方法は、インクの小滴を発生させ、これを紙等の印刷メディアに付着させ印刷を行うものである。近年では産業用途としての需要が高まり、様々な印刷メディアに対して印刷ができるインクが求められている。
【0003】
印刷メディアの中でも、インク非吸収性メディア、及び、インク難吸収性メディア(以下、「インク非・難吸収メディア」ということがある。)に対しては、メディア上での濡れ広がりが良好なインクが要望されている。メディア上での濡れ広がりがよいと、同じ量のインク滴を使用したときに着色できる面積が広くなる(換言すると、インクのドット径が大きくなる)ため、インクの消費量を抑えることができるためである。しかし、インク非・難吸収メディアは、インクの吸収性が悪いメディアである。このため、インクがメディア中にしみ込みにくく、インク吸収性メディアと比較して、インクの濡れ広がりが悪いことから、一般的にインクのドット径が小さくなる。この理由から、その改善が要望されている。
【0004】
さらに、印刷画質に関しては、粒状性ができるだけ少ないことが要求される。水不溶性の着色剤を含有するインクは、インク自体が不均一な状態(溶液の状態ではなく、分散液の状態)にある。そのような不均一な状態のインクで印刷メディアにベタ印刷を行うと、印刷画像に濃淡の「粒」が散在しているように見え、均一な画像に見えないことがある。そのような印刷画像は「粒状性が認められる」と評価され、印刷品質を著しく悪化させる要因の1つである。このため、粒状性ができるだけ少ない印刷画像が得られるインクが、強く要望されている。例えば、特許文献1、2、3にあるように、特定の有機溶剤や界面活性剤を組み合わせたインク組成物が開示されており、インク非・難吸収メディア向けに濡れ広がりが良好なインクが開示されている。
【0005】
また、カラー印刷を行うときは、複数の色からなるインクセットが使用される。そのようなインクセットを使用してカラー印刷を行うときに、第1の色のインクの着弾位置と、第2の色のインクの着弾位置とが印刷メディア上で隣り合うことによって、第1の色と、第2の色との色間において、にじみが発生する場合のあることが知られている。この「色間のにじみ」は、印刷品質を著しく悪化させる要因の1つである。このため、この色間のにじみの解消が求められ、これを解決するためのインクセットも提案されている。
【0006】
特許文献4によれば、これら色間にじみを解消すべく、アセチレングリコール系界面活性剤のポリアルコキシレートが含まれるインクが開示されており、インク非・難吸収メディア向けに色ムラ、色間にじみの無い高品質な画像が得られるインクが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-044188号公報
【特許文献2】特開2014-139004号公報
【特許文献3】国際公開2011/136000号
【特許文献4】特開2012-136573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、この色間のにじみの問題は、さらに複雑な要因を含むことが分かってきた。すなわち、印刷の初期においては、いずれも製造されてから間もない(換言すると、いずれも新しい)第1の色のインク組成物と第2の色のインク組成物とを併用して印刷を行うことができる。このため、色間のにじみに配慮したインクセットを選択して使用することにより、色間のにじみのない、高品質な印刷を行うことができる。
【0009】
しかし、印刷が継続して行われるようになると、インク組成物の色の種類により、それぞれのインク組成物の消費量は異なってくる。このため、消費量の多いインク組成物は、インク組成物が無くなれば、新しいインク組成物に置き換えられていく。一方、消費量の少ないインク組成物は、最初に使用していたインク組成物が無くなるまで、そのまま継続して使用される。その結果、新しいインク組成物と、古いインク組成物とが併用されることになる。消費量の多いインク組成物と、消費量の少ないインク組成物とでは、使用されるまでの保存期間に数カ月~1年程度の差が生じることがある。保存期間が異なるインク組成物を併用して印刷したときに、各インク組成物自体の保存安定性(吐出性、平均粒子径、粘度、pH等の様々な物性値)には大きな変化がないにもかかわらず、色間のにじみが悪化して、印刷画質が低下することがあり、その解決が要望されている。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、色間にじみが極めて良好でかつ、さらに保存期間に係らず色間にじみが悪化せず、粒状性が極めて少ない印刷画像の提供を可能にするインク組成物、インクセット、そのインクセットを用いるインクジェット記録方法、印刷メディア、及び印刷メディアセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の[1]~[9]に記載の発明により、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
即ち、本発明は以下の[1]~[9]に関する。
[1] 水、着色剤、界面活性剤、及び樹脂エマルションを含有し、
前記界面活性剤が下記式(1):
【化1】
(式中、aは1~14の整数であり、x及びyは各々独立して1~4の整数であり、m及びnは各々独立して1~20の整数であり、o及びpは各々独立して0~20の整数であり、m+nは2~40であり、o+pは0~40であり、R及びRは各々独立して、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、及び(メタ)アクリル基からなる群より選択される。)
で表されるシリコン系界面活性剤であり、
前記樹脂エマルションの酸価が10mgKOH/g未満であるインク組成物。
[2] 前記式(1)において、m及びnが各々独立して2~15の整数である[1]に記載のインク組成物。
[3] 前記樹脂エマルションが、ポリマー及びワックスから選択される少なくとも1種類を含有する[1]又は[2]に記載のインク組成物。
[4] 前記ワックスがポリアルキレンワックス、酸化ポリアルキレンワックス、及びパラフィンワックスから選択される1種類以上である[3]に記載のインク組成物。
[5] 前記ワックスが酸化ポリエチレンワックスである[3]又は[4]に記載のインク組成物。
[6] [1]~[5]のいずれかに記載のインク組成物である第1のインク組成物と、
[1]~[5]のいずれかに記載のインク組成物であって、第1のインク組成物とは異なる着色剤を含有する第2のインク組成物と
を有するインクセット。
[7] [1]~[5]のいずれかに記載のインク組成物の液滴を吐出して、印刷メディアに付着させて画像を形成する工程を含むインクジェット記録方法。
[8] [1]~[5]のいずれかに記載のインク組成物が付着した印刷メディア。
[9] [1]~[5]のいずれかに記載のインク組成物又は請求項6に記載のインクセットと、印刷メディアとを含むインクメディアセット。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、インク非・難吸収性メディア上での濡れ広がりが良好で、保存期間に係らず色間にじみが悪化せず、且つ、粒状性が極めて少ない印刷画像の提供を可能にするインク組成物、インクセット、そのインクを用いるインクジェット印刷方法、印刷メディア、及び印刷メディアセットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<インク組成物>
インク組成物は、水、着色剤、界面活性剤、及び樹脂エマルションを少なくとも含有し、その他の成分を任意選択的に含有する。その他の成分としては、例えば、分散剤及びインク調製剤が挙げられる。
【0015】
(着色剤)
着色剤は、水不溶性の着色剤であれば特に限定されない。本願の明細書及び特許請求の範囲において、水不溶性の着色剤は、25℃の水1リットルに対する溶解度が通常5g以下、好ましくは3g以下、より好ましくは1g以下、さらに好ましくは0.5g以下の着色剤を意味する。溶解度の下限は0gを含む。以下、特に断りのない限り「水不溶性の着色剤」を、単に「着色剤」とも称する。着色剤としては、例えば、公知の顔料、分散染料、溶剤染料、並びに、染料及び顔料等の着色剤により着色された水不溶性の樹脂等が使用できる。着色剤は、顔料であることが好ましい。顔料としては無機顔料、有機顔料、及び体質顔料等が挙げられる。
【0016】
無機顔料としては、例えばカーボンブラック、酸化チタン、金属酸化物、水酸化物、硫化物、フェロシアン化物、及び金属塩化物等が挙げられる。黒インクに含有させるカーボンブラックとしては、サーマルブラック、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、ガスファーネスブラック、ランプブラック、ガスブラック、及びチャンネルブラックが好ましい。カーボンブラックの具体例としては、例えば、コロンビア・カーボン社製のRavenシリーズ;キャボット社製のMonarchシリーズ、Regalシリーズ、及びMogulシリーズ;オリオンエンジニアドカーボンズ社製のColorBlackシリーズ、Printexシリーズ、SPECIALBLACKシリーズ、及びNeroxシリーズ;三菱化学株式会社製のMAシリーズ、MCFシリーズ、No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、及びNo.2300等が挙げられる。
【0017】
有機顔料として、例えばアゾ、ジアゾ、フタロシアニン、キナクリドン、イソインドリノン、ジオキサジン、ペリレン、ペリノン、チオインジゴ、アンソラキノン、及びキノフタロン等の各種の顔料が挙げられる。有機顔料の具体例としては、例えばC.I.Pigment Yellow 1、2、3、12、13、14、16、17、24、55、73、74、75、83、93、94、95、97、98、108、114、128、129、138、139、150、151、154、180、185、193、199、202、213等のイエロー;C.I.Pigment Red 5、7、12、48、48:1、57、88、112、122、123、146、149、150、166、168、177、178、179、184、185、202、206、207、254、255、257、260、264、272等のレッド;C.I.Pigment Blue 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、22、25、60、66、80等のブルー;C.I.Pigment Violet 19、23、29、37、38、50等のバイオレット;C.I.Pigment Orange 13、16、68、69、71、73等のオレンジ;C.I.Pigment Green7、36、54等のグリーン;C.I.Pigment Black 1等のブラックの各色の顔料が挙げられる。
【0018】
体質顔料としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、クレー、硫酸バリウム、及びホワイトカーボン等が挙げられる。体質顔料は、他の着色剤と併用されることが多い。
【0019】
分散染料としては、公知の分散染料が挙げられる。それらの中ではC.I.Dispersから選択される染料が好ましい。その具体例としては、例えば、C.I.Dispers Yellow9、23、33、42、49、54、58、60、64、66、71、76、79、83、86、90、93、99、114、116、119、122、126、149、160、163、165、180、183、186、198、200、211、224、226、227、231、237等のイエロー;C.I.Dispers Red 60、73、88、91、92,111、127、131、143、145、146、152、153、154、167、179、191、192、206、221、258、283等のレッド;C.I.Dispers Orange 9、25、29、30、31、32、37、38、42、44、45、53、54、55、56、61、71、73、76、80、96、97等のオレンジ;C.I.Dispers Violet 25、27、28、54、57、60、73、77、79、79:1等のバイオレット;C.I.Disperse Blue 27、56、60、79:1、87、143、165、165:1、165:2、181、185、197、202、225、257、266、267、281、341、353、354、358、364、365、368等のブルーの各色の分散染料が挙げられる。
【0020】
インク組成物の総質量に対する着色剤の含有量は、通常1~30%、好ましくは1~10%、より好ましくは2~7%である。ここで、本願の明細書及び特許請求の範囲において、特に断りのない限り「%」及び「部」は質量基準で記載する。
また、着色剤の平均粒径は通常50nm~250nm、好ましくは60nm~200nmである。本願の明細書及び特許請求の範囲において平均粒径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径をいう。
【0021】
水不溶性の着色剤をインク組成物中に分散するために、分散剤を使用することが好ましい。分散剤は特に制限されず、公知の分散剤を使用できる。分散剤としては、一般に樹脂等の高分子分散剤が用いられる。そのような樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース系誘導体、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、イタコン酸モノエステル、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、フマール酸、フマール酸モノエステル、ビニルスルホン酸、スルホエチルメタクリレート、スルホプロピルメタクリレート、スルホン化ビニルナフタレンのα,β-不飽和モノマー等のイオン性モノマー、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル、アクリルニトリル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、N-ブトキシメチルアクリルアミド等から誘導されたポリマー等が挙げられる。
【0022】
上記分散剤としての樹脂としては、例えば、スチレン及びその誘導体;ビニルナフタレン及びその誘導体;α,β-エチレン性不飽和性カルボン酸の脂肪族アルコールエステル;アクリル酸及びその誘導体;マイレン酸及びその誘導体;イタコン酸及びその誘導体;ファール酸及びその誘導体;酢酸ビニル、ビニルアルコール、ビニルピロリドン、アクリルアミド、及びそれらの誘導体等よりなる群の単量体から選択される、少なくとも2つの単量体(好ましくは、このうち少なくとも1つが親水性の単量体)から構成される共重合体が挙げられる。そのような共重合体としては、例えば、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体等が挙げられる。
これらの中ではスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート-(メタ)アクリル酸共重合体が好ましく;スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸共重合体がより好ましく;(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸共重合体がさらに好ましく;メタクリル酸エステル-メタクリル酸共重合体が特に好ましい。
なお、本願の明細書及び特許請求の範囲において「(メタ)アクリル酸」の用語は、「アクリル酸」と「メタクリル酸」の両方を含む意味で用いる。「(メタ)アクリレート」も同様に、メタクリレート及びアクリレートの両方を意味する。
共重合体の種類としては、例えば、ブロック共重合体、ランダム共重合体及びグラフト共重合体、及び/又はそれらの塩等が挙げられる。
【0023】
分散剤としての樹脂は合成することも、市販品として入手することもできる。市販品の具体例としては、例えば、ジョンクリル62、67、68、678、及び687(BASF社製)等のスチレン-アクリル系共重合体;モビニールS-100A(ジャパンコーティングレジン社製の変性酢酸ビニル共重合体);並びにジュリマーAT-210(東亜合成社製のポリアクリル酸エステル共重合体)等が挙げられる。
合成により得られる共重合体としては、国際公開第2013/115071号に開示されたA-Bブロックポリマーが好ましく挙げられる。
【0024】
分散剤の酸価は通常90~200mgKOH/g、好ましくは100~150mgKOH/g、より好ましくは100~120mgKOH/gである。
分散剤の質量平均分子量は通常10000~60000、好ましくは10000~40000、より好ましくは15000~30000、さらに好ましくは20000~25000である。
分散剤のPDI(質量平均分子量/数平均分子量)は1.29~1.49程度である。上記のような範囲とすることにより、インク組成物の分散性及び保存安定性を良好にできる。
【0025】
ブロック共重合体を用いて調製された着色剤の分散物を水に溶解させるために用いられる中和剤としては、例えば、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、脂肪族アミン化合物及びアルカノールアミン化合物等が挙げられる。アンモニア及びアルカリ金属の水酸化物が好ましく、アンモニアが特に好ましい。中和剤の使用量は特に制限されない。その目安としては、分散剤の酸価の理論等量で中和したときを100%中和度として、通常30~300%中和度、より好ましくは50~200%中和度である。
【0026】
上記分散剤としての樹脂は、着色剤と混合した状態、又は、着色剤の表面の一部、若しくは全てを分散剤としての樹脂で被覆した状態のいずれでも使用することができる。また、これらの両方の状態を併用することもできる。
インク組成物は、水不溶性の着色剤と分散剤としての樹脂を含有する分散液を調製した後、他の成分と混合して調製するのが好ましい。分散液の調製方法は、公知の方法を使用することができる。その一例としては、転相乳化法が挙げられる。すなわち、2-ブタノン等の有機溶剤に分散剤としての樹脂を溶解し、中和剤の水溶液を加えて乳化液を調製する。得られた乳化液に着色剤を加えて分散処理を行う。このようにして得られた液から有機溶剤と一部の水を減圧留去することにより、目的とする分散液を得ることができる。
分散処理は、例えば、サンドミル(ビーズミル)、ロールミル、ボールミル、ペイントシェーカー、超音波分散機、マイクロフルイダイザー等を用いて行うことができる。一例として、サンドミルを用いるときは、粒子径が0.01mm~1mm程度のビーズを使用し、ビーズの充填率を適宜設定して分散処理を行うことができる。
上記のようにして得られた分散液に対して、ろ過及び/又は遠心分離等の操作をすることができる。この操作により、分散液が含有する粒子の粒子径の大きさを揃えることができる。
分散液の調製中に泡立ちが生じるときは、公知のシリコン系、アセチレングリコール系等の消泡剤を極微量加えることができる。
上記以外の分散液の調製方法としては、酸析法、界面重合法、in-situ重合法、液中硬化被膜法、コアセルベーション(相分離)法、液中乾燥法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、及びスプレードライング法等が挙げられる。これらの中では酸析法、及び界面重合法が好ましい。
【0027】
分散液中における着色剤分散体の平均粒径(D50)は通常300nm以下、好ましくは30~280nm、より好ましくは40~270nm、さらに好ましくは50~250nmである。また、D90は通常400nm以下、好ましくは350nm以下、より好ましくは300nm以下である。下限は100nm好ましい。D10は通常10nm以上、好ましくは20nm以上、より好ましくは30nm以上、上限は100nmである。分散液中における着色剤の粒径が以上のような範囲であることにより、インク保存安定性を担保しつつ、インクジェットヘッドノズルを詰まらせること無く安定してインクを吐出するという効果がある。
ここで、平均粒径(D50)は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における小粒径側からの積算粒径の分布が50%となる粒径であり、D10は小粒径側からの積算粒径の分布が10%となる粒径であり、D90は小粒径側からの積算粒径の分布が90%となる粒径をいう。
【0028】
(界面活性剤)
界面活性剤は、下記式(1)で表されるシリコン系界面活性剤である。
【化2】
【0029】
式(1)において、aは1~14の整数であり、好ましくは2~10である。
x及びyは各々独立して1~4の整数であり、好ましくは1~3である。
m及びnは各々独立して1~20の整数であり、好ましくは2~15、より好ましくは4~10である。
o及びpは各々独立して0~20の整数であり、好ましくは0~10、より好ましくは0~5である。
m+nは2~40であり、好ましくは4~30より好ましくは8~20である。
o+pは0~40であり、好ましくは0~20、より好ましくは0~10である。
及びRは各々独立して、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、及び(メタ)アクリル基からなる群より選択され、好ましくはヒドロキシ基である。
【0030】
インク組成物は、インク非・難吸収性メディア上での十分な濡れ性を有することが重要であり、濡れ性を付与するためには、界面活性剤を用いることが一般的である。濡れ性を付与するための界面活性剤として、シリコン系、フッ素系、アセチレン系など用途に合わせて様々な界面活性剤が広く知られている。中でもシリコン系界面活性剤は、その濡れ性を付与する能力に優れている。しかし、保存期間が異なるインクを併用して印刷するとき、各シリコン系界面活性剤の構造によっては、各インク自体の保存安定性(吐出性、平均粒子径、粘度、pH等の様々な物性値)には大きな変化がないにも関わらず、色間のにじみが悪化する現象を本発明者らは確認した。色材協会誌、2001年74巻1号p.34-38(作田晃司著)によれば、一般的にシリコン系界面活性剤は長期保管により、経時で分解することが確認されている。このことから、特定の構造を有するシリコン系界面活性剤では、構造が分解することで、色間にじみ調整能力を失ったと推察される。
【0031】
本発明者らはシリコン系界面活性剤の構造と経時での色間滲み変化の関係性について検討を行い、第1の界面活性剤として式(1)で表されるシリコン系界面活性剤を用いることで、2つのインク組成物の保存期間が同じか異なるかに係らず、色間にじみが悪化しない印刷画像が得られるインク組成物のセットを提供できることを見出した。色間滲みの経時変化を抑制できる理由については定かではないが、式(1)で示されるシリコン系界面活性剤を用いることで、経時で構造が分解しても、シロキサン構造(-Si-O-)の疎水部と、エチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基から構成される親水部からなる構造部分の多くが維持されるため、界面活性剤としての機能を損なわないためと考えられる。
【0032】
さらに、上記式(1)に示すポリジメチルシロキサン基の数aが1~14の界面活性剤を用いることで、aが15以上のものと比較して、インク非・難吸収性メディア上での濡れ広がりが良好で、且つ、粒状性が極めて少ない印刷画像の提供を可能にするインクが得られることを本発明者らは見出した。ポリジメチルシロキサン基の数aが1~14の界面活性剤は、界面活性剤の新疎水性制御の観点から、aが15以上のものと比較して、疎水部であるポリジメチルシロキサン基の数が少ないため、エチレンオキシ基とプロピレンオキシ基の数が小さい構造を有していることが好ましい。ポリジメチルシロキサン基の数aが1~14の界面活性剤はaが15以上のものと比較して、分子構造の小さい界面活性剤であることから、動的表面張力の値が小さくなるため、インク着弾時の基材に対して、効率よく濡れ広がることができると考えられる。
【0033】
式(1)で表されるシリコン系界面活性剤のインク組成物中の含有量は通常0.01~3%、好ましくは0.05~2%、より好ましくは0.1~1%である。式(1)で表されるシリコン系界面活性剤の市販品の具体例としては、ビックケミー社製の2020年6月22日公表資料(URL:https://www.byk.com/ja/company-news/media/news/detail/japanese-news-20200622-new-silicone-surface-modifier-for-aqueous-systems)に記載のBYK-新製品1一般グレード、及びBYK-新製品2環状シロキサン低減グレード等が挙げられる。
式(1)で表されるシリコン系界面活性剤は、アリル基を片末端に有するポリエチレングリコールと両末端に水素基を含有するポリジメチルシロキサンを材料とし、白金触媒を用いたヒドロシリル化反応により、合成することができる。
【0034】
(樹脂エマルション)
樹脂エマルションは、酸価が10mgKOH/g未満の樹脂エマルションである。インク組成物中に酸価が10mgKOH/g未満の樹脂エマルションが含有されることにより、インク粘度を好適な範囲内に抑えることができ、粒状性が極めて少ない印刷画像を実現することができる。酸価が10mgKOH/gを超える樹脂エマルションは水分が蒸発した時のインク粘度上昇の度合いが大きいため、メディアへのインク着弾後にインクの濡れ広がりを抑制して、均一なベタ印刷品質を得られない。樹脂エマルションは、ポリマー及びワックスから選択される1種類以上を含むことが好ましい。
樹脂エマルションの調製方法は特に制限されない。その一例としては、樹脂を機械的に水性媒体中で微細化し、分散する方法;乳化重合、分散重合、懸濁重合などにより樹脂エマルションを調製する方法;等が挙げられる。乳化重合は、乳化剤を用いることも、ソープフリーで行うこともできる。前記樹脂エマルションの調製方法としては、例えば、特開2000-336292号公報の製造例1に公開された方法が挙げられる。樹脂エマルションの樹脂含有量としては好ましくは20~50%である。
ポリマーとしては、例えば、ウレタン系、ポリエステル、アクリル系、酢酸ビニル系、塩化ビニル系、スチレン-アクリル系、アクリル-シリコン系、スチレン-ブタジエン系の各ポリマー又はそれを含有するエマルションが挙げられる。これらの中ではウレタン系、アクリル系、及びスチレン-ブタジエン系から選択されるポリマーが好ましく、アクリル系ポリマーがより好ましい。
市販品としては、例えば、ウレタン系ポリマーである三洋化成社製のユーコート UX―320(酸価:10)、大成ファインケミカル社製のWBR―016U(酸価:7)、WBR―2101(酸価:10)、ポリエステル系ポリマーである東洋紡社製のバイロナールMD―1480(酸価:3)、バイロナールMD―1985(酸価:2)、バイロナールMD―2000(酸価:2)、酢酸ビニル系ポリマーである日信化学工業社製のビニブラン715(酸価:8)、ビニブラン985(酸価:5)等が挙げられる。
【0035】
ワックスとしては、ワックスエマルションが好ましく、水系ワックスエマルションがより好ましい。ワックスとしては、天然ワックス及び合成ワックスを用いることができる。
天然ワックスとしては、石油系ワックスであるパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等;褐炭系ワックスであるモンタンワックス等;植物系ワックスであるカルナバワックス、キャンデリアワックス等;動植物系ワックスである蜜蝋、ラノリン等のワックスを、水性媒体中に分散させたエマルション等が挙げられる。
【0036】
合成ワックスとしてはポリアルキレンワックス(好ましくはポリC2-C4アルキレンワックス)、酸化ポリアルキレンワックス(好ましくは酸化ポリC2-C4アルキレンワックス)、及びパラフィンワックスが挙げられる。前記のうち、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス及びパラフィンワックスから選択される1種類以上のワックスが好ましく、酸化ポリエチレンワックスがより好ましい。
また、ワックスの平均粒径は、インクジェットヘッドの目詰まりを防止するために50nm~5μmが好ましく、100nm~1μmがより好ましい。
【0037】
ワックスエマルションの市販品としては、例えば、ビックケミー・ジャパン社製のAQUACER 515(酸価:5)、東邦化学株式会社製のHYTEC E-6500(酸価:10~20)等が挙げられる。
【0038】
樹脂エマルションのインク組成物における含有量は、好ましくは0.2~10%であり、より好ましくは0.5~5%である。
【0039】
(インク調製剤)
インク調製剤としては、例えば、浸透剤、粘度調整剤、シリコン系界面活性剤以外の界面活性剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、キレート剤、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、酸化防止剤等が挙げられる。
インク組成物の総質量に対して、浸透剤、及び粘度調整剤を除くインク調製剤の総含有量は通常0~30%、好ましくは0.1~20%、より好ましくは0.5~10%程度である。
【0040】
(b)浸透剤
インク組成物は、水-オクタノール分配係数が0.00以上2.00未満の、グリコールエーテル、及びC4-C9アルカンジオールから選択される少なくとも1種類の有機溶剤を、浸透剤としてさらに含有することができる。これにより、インク非・難吸収メディア上において、インクの濡れ広がり、及び、インクの乾燥が良好になる傾向がある。
上記数値範囲内のClog Pを有する浸透剤としては、例えば、1,2-ペンタンジオール(-0.00)、エチレングリコールモノアリルエーテル(0.03)、イソプロピルアルコール(0.07)、イソプロピルグリコール(0.09)、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル(0.13)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(0.36)、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(0.42)、ブチルトリグリコール(0.49)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(0.52)、1,2-ヘキサンジオール(0.53)、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(0.54)、プロピルプロピレングリコール(0.62)、ブチルジグリコール(0.67)、ジプロピレングリコール n-プロピルエーテル(0.75)、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール(0.82)、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール(1.00)、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(1.26)、1,2-オクタンジオール(1.58)、及びヘキシルジグリコール(1.72)、等が挙げられる。
インク組成物の総質量中における、これらの総含有量は通常0.1~30%、好ましくは0.2~20%、より好ましくは0.5~10%、さらに好ましくは2~8%、特に好ましくは4~6%である。
【0041】
(c)粘度調整剤
インク組成物は、粘度調整剤をさらに含有することができる。産業用インクジェットプリンタは、搭載するプリンタヘッド(インクを吐出するヘッド)の仕様に基づき、通常は、吐出できるインクの粘度範囲が決まっている。このため、インクに粘度調整剤を加え、その粘度を適正な範囲に調整することができる。
粘度調整剤としては、インクの粘度を調整できる物質であれば特に制限されず、公知の物質を使用することができる。その具体例としては、例えば、水溶性有機溶剤(この中に上記浸透剤として挙げた「有機溶剤」は含まれない。)、糖類等が挙げられる。これらの中では、ClogPの数値が通常0.00未満、好ましくは-0.05以下、より好ましくは-0.08以下の、水溶性有機溶剤が挙げられる。水溶性有機溶剤のClog Pの数値の下限は特に限定されないが、通常-4.00以上、好ましくは-3.00以上、より好ましくは-2.00以上、さらに好ましくは-1.50以上である。
そのような水溶性有機溶剤としては、例えば、2-メチル-2,4-ペンタンジオール(-0.02)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(-0.03)、イソプロピルジグリコール(-0.08)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(-0.16)、エタノール(-0.24)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール(-0.24)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(-0.26)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(-0.30)、3-メチル-1,3-ブタンジオール(-0.33)、トリメチロールプロパン(-0.39)、N-メチル-2-ピロリドン(-0.40)、1,2-ブタンジオール(-0.53)、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン(-0.58)、1,5-ペンタンジオール(-0.64)、2-メチル-1,3-プロパンジオール(-0.64)、ジプロピレングリコール(-0.69)、1,3-ブタンジオール(-0.73)、メチルジグリコール(-0.78)、メチルトリグリコール(-0.96)、2-ピロリドン(-0.97)、プロピレングリコール(-1.06)、1,4-ブタンジオール(-1.16)、ジエチレングリコール(-1.30)、エチレングリコール(-1.37)、トリエチレングリコール(-1.48)、グリセリン(-1.54)、ジグリセリン(-2.96)、青木油脂工業製のグリセレス-3(-3.49)、及びグリセレス-20(-5.42)等が挙げられる。
水溶性有機溶剤の総含有量は通常0%~55%、好ましくは5%~40%、より好ましくは10%~30%程度である。
【0042】
(d)シリコン系界面活性剤以外の界面活性剤
界面活性剤としては、アニオン、カチオン、両性、及びフッ素系の、各界面活性剤が挙げられる。
【0043】
アニオン界面活性剤としてはアルキルスルホカルボン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、N-アシルアミノ酸又はその塩、N-アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキシルスルホ琥珀酸塩、及びジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げられる。
【0044】
カチオン界面活性剤としては2-ビニルピリジン誘導体及びポリ4-ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。
【0045】
両性界面活性剤としてはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、及びイミダゾリン誘導体等が挙げられる。
【0046】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸系化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物等が挙げられる。
シリコン系界面活性剤以外の界面活性剤のインク組成物中の含有量は、0.1~2.0%であることが好ましい。
【0047】
(e)防腐剤
防腐剤としては、例えば有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリールスルホン系、ヨードプロパギル系、ハロアルキルチオ系、ニトリル系、ピリジン系、8-オキシキノリン系、ベンゾチアゾール系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、及び無機塩系等の化合物が挙げられる。防腐剤の市販品の具体例としては、アーチケミカル社製のプロクセル GXL(S)、及びXL-2(S)等が挙げられる。
【0048】
(f)防黴剤
防黴剤としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン-1-オキシド、p-ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、及び1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン並びにこれらの塩等が挙げられる。
【0049】
(g)pH調整剤
pH調整剤としては、調製されるインク組成物に悪影響を及ぼさずに、そのpHを5~11に調整できれば、任意の物質を使用することができる。その具体例としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、及びN-メチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化アンモニウム(アンモニア水);あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;ケイ酸ナトリウム及び酢酸カリウム等の有機酸のアルカリ金属塩;並びにリン酸二ナトリウム等の無機塩基等が挙げられる。
【0050】
(h)キレート剤
キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、及びウラシル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0051】
(i)防錆剤
防錆剤としては、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、及びジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト等が挙げられる。
【0052】
(j)水溶性紫外線吸収剤
水溶性紫外線吸収剤の例としては、スルホ化されたベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾ-ル系化合物、サリチル酸系化合物、桂皮酸系化合物、及びトリアジン系化合物が挙げられる。
【0053】
(k)酸化防止剤
酸化防止剤の例としては、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。上記有機系の褪色防止剤の例としては、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、及び複素環類等が挙げられる。
【0054】
[水]
インク組成物は上記の各成分、及び、必要に応じてインク調製剤を含有し、残部は水である。インクに使用する水は、イオン交換水及び蒸留水等の、例えば金属イオンのような不純物の含有量の少ないものが好ましい。
【0055】
インク組成物のpHは通常7~11、好ましくは8~10である。インク組成物の表面張力は通常10~50mN/m、好ましくは20~40mN/mである。インク組成物の粘度は通常2~30mPa・s、好ましくは3~20mPa・sである。
インク組成物のpH及び表面張力は、pH調整剤、界面活性剤、及び水溶性有機溶剤等を使用することにより調整できる。
【0056】
インク組成物は、各種の印刷において使用することができる。例えば、筆記具、各種の印刷、情報印刷、捺染等に好適であり、インクジェット印刷に用いることが特に好ましい。
【0057】
<インクセット>
インクセットは、上記インク組成物である第1のインク組成物と、上記インク組成物であって、第1のインク組成物とは異なる着色剤を含有する第2のインク組成物とを有する。第1のインク組成物に含有される着色剤及び第2のインク組成物に含有される着色剤は、異なる色であることが好ましく、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、グリーン、オレンジ、レッド、及びバイオレットを含む群から選択される異なる2色であることが好ましい。着色剤の色が目視で識別可能な程度に異なる場合に色間滲みが観察されやすいためである。
【0058】
上記インクセットによれば、色間にじみが極めて良好でかつ、さらに保存期間に係らず色間にじみが悪化せず、粒状性が極めて少ない印刷画像を実現することができる。さらに、上記インクセットは、インク非・難吸収性メディア上での濡れ広がりが良好で、粒状性が極めて少ない印刷画像を得ることができる。上記インクセットは、各種の印刷、特にインクジェット印刷の用途に極めて有用である。
【0059】
<インクジェット記録方法>
インクジェット記録方法は、上記のインク組成物の液滴を吐出して、印刷メディアに付着させて画像を形成する工程を含む。画像を形成する工程は、インクジェット方式を用いて行うことができる。
【0060】
インクジェット方式としては、公知の方式が使用できる。インクジェット方式の具体例としては、例えば、電荷制御方式、ドロップオンデマンド(圧力パルス)方式、音響インクジェット方式、及びサーマルインクジェット方式等が挙げられる。
また、インクジェット方式には、インク中の着色剤の含有量が少ないインクを小さい体積で多数射出して画質を改良する方式、実質的に同じ色相で、インク中の着色剤の濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式、及び、無色透明のインクを用いることにより、着色剤の定着性を向上させる方式等も含まれる。
【0061】
<印刷メディア>
印刷メディアは、上記インク組成物が付着できる物質を意味する。印刷メディアの一例としては、例えば、紙、フィルム等、繊維や布(セルロース、ナイロン、羊毛等)、皮革、カラーフィルター用基材等が挙げられる。
印刷メディアは、インク受容層を有するものと、有さないものとに大別することができる。上記インクセットは、いずれの印刷メディアにも適用することができるが、インク受容層を有さない印刷メディアに好適に用いることができる。
インク受容層を有する印刷メディアは、通常インクジェット専用紙、インクジェット専用フィルム、光沢紙等と呼ばれる。その代表的な市販品の例としては、キヤノン社製のプロフェッショナルフォトペーパー、スーパーフォトペーパー、光沢ゴールド及びマットフォトペーパー;セイコーエプソン株式会社製の写真用紙クリスピア(高光沢)、写真用紙(光沢)、及びフォトマット紙;日本ヒューレット・パッカード株式会社製のアドバンスフォト用紙(光沢);並びに富士フィルム株式会社製の画彩写真仕上げPro等が挙げられる。
インク受容層を有さない印刷メディアとしては、グラビア印刷、及びオフセット印刷等の用途に用いられるコート紙、及びアート紙等の各種の用紙;並びにラベル印刷用途に用いられるキャストコート紙等が挙げられる。インク受容層を有さない印刷メディアを用いるときは、着色剤の定着性等を向上させる目的で、印刷メディアに対して表面改質処理を施すことも好ましく行われる。表面改質処理としては、コロナ放電処理、プラズマ処理及びフレーム処理等の、公知の方法が挙げられる。
【0062】
<インクメディアセット>
インクメディアセットは、本発明のインク組成物又はインクセットと、印刷メディアとを含むセットである。
【0063】
上記した全ての事項について、好ましいもの同士の組み合わせはより好ましく、より好ましいもの同士の組み合わせはさらに好ましい。好ましいものとより好ましいものとの組み合わせ、より好ましいものとさらに好ましいものとの組み合わせ等についても同様である。
また、特に断りのない限り上記した全ての成分等は、そのうちの1種類を単独で使用することができるし、2種類以上を併用することもできる。
【実施例0064】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって限定されるものではない。
実施例において、各種の液が含有する着色剤の含有量(固形分)の測定が必要なときは、株式会社エイ・アンド・デイ社製、MS-70を用いて、乾燥重量法により、着色剤のみの換算値として算出した。
【0065】
[着色剤の分散液(Dp1)の調製例1]
国際公開第2013/115071号の合成例3を追試することにより、ブロック共重合体(ブロック共重合体A)を得た。得られたブロック共重合体(4.8部)を、2-ブタノン20部に溶解させ、均一な溶液とした。この液に、水酸化ナトリウム(0.35部)を水(58.8部)に溶解させた液を加え、1時間攪拌して液を得た。この液にC.I.Pigment Blue 15:4(以下、「PB15:4」という。16部)を加え、1500rpmの条件下で15時間、サンドグラインダー中で分散処理を行って液を得た。得られた液に水(100部)を滴下した後、この液を濾過することにより、濾液を得た。得られた濾液から、エバポレータで2-ブタノン及び水の一部を減圧留去することにより、着色剤の含有量が12.0%のシアン分散液を得た。得られた分散液を、「Dp1」とする。
【0066】
[着色剤の分散液(Dp2)の調製例2]
PB15:4の代わりに、C.I.Pigment Yellow 74(以下、「PY74」という。16部)を用いる点以外は調製例1と同様にして、着色剤の含有量が12.0%のイエロー分散液を得た。得られた分散液を、「Dp2」とする。
【0067】
[シリコン系界面活性剤Bの合成例]
ヘキサエチレングリコールアリルメチルエーテル7.0gのテトラヒドロフラン20mL溶液に、ヘキサデカメチルオクタシロキサン5.8gと、塩化白金酸0.1mLとを添加し、攪拌しながら65℃で24時間保持することで、反応させた。反応終了後、ロータリーエバポレーションにより溶媒を留去することで、シリコン系界面活性剤を得た。得られたシリコン系界面活性剤は式(1)において、a=6、x=2、y=2、m=7、n=7、o=0、p=0、R及びRがヒドロキシ基のものである。
【0068】
[ポリマー1の調製例]
国際公開第2015/147192号の「[調製例4]ポリマーエマルション3の調製。」を追試することにより、酸価が6mgKOH/g、Tgが0℃、固形分が25.0%のポリマーエマルションを白色懸濁液として得た。得られたポリマーエマルションを、「ポリマー1」とする。
【0069】
[実施例1~8及び比較例1~18:インク組成物の調製例]
分散液Dp1およびDp2を、下記表1、2に記載の各成分と混合した後、3μmのメンブランフィルター(アドバンテック社製セルロース混合エステルタイプメンブレンフィルター)で濾過することにより、評価試験用の各インク組成物C1~13及びY1~13を得た。インク組成物の総質量に対する着色剤の含有量は、いずれのインクも4.5%になるように調整した。表1に記載のインク組成物C1~13は、いずれもシアンインクである。また、表2に記載のインク組成物Y1~13は、いずれもイエローインクである。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
表1及び表2中の成分の詳細は以下のとおりである。括弧内の表記はポリマー酸価(mgKOH/g)を示す。
・Dp1:調製例1で得た分散剤1
・Dp2:調製例1で得た分散剤2
・PG:プロピレングリコール
・1,2-HD:1,2-ヘキサンジオール
・TEA:トリエタノールアミン
・TG450:TEGO Glide 450
・SAG005:シルフェイスSAG005
・界面活性剤A:2020年6月22日公表資料に記載のBYK-新製品1一般グレード
・界面活性剤B:合成例で得た界面活性剤B
・TW270:TEGO wet 270
・AQ515:Aquacer 515(3)
・UX―320:ユーコート UX―320(10)
・ポリマー1:調製例で得たポリマー1(6)
・537J:JONCRYL 537J(40)
・PDX―7700:JONCRYL PDX―7700(60)
・PDX―7696JONCRYL PDX―7696(122)
【0073】
[粒状性の評価]
実施例1~4及び比較例1~9のインク組成物の80%のベタ画像を印刷し、印刷画像を得た。印刷は、京セラ株式会社製のインクジェットヘッドであるKJ4Bを2ヘッド備えた印刷冶具を用い、周波数10kHz、2値(中滴)の条件で、王子製紙社製の「OKトップコート+」を印刷メディアとして行った。得られた印刷画像を100℃設定のIRヒーター下で3秒間、乾燥することにより、試験片1を得た。
上記のようにして得た試験片1の濃度80%の粒状性(graininess)を、タイルサイズが42.3μmの設定で小数点以下2桁目まで測定し、下記4段階の評価基準で評価した。粒状性の数値は小さい方が、粒状性が少ないことを意味し、印刷品質が優れる。測定には、QEA社製の印刷画像評価装置PIAS-IIを用いた。結果を表3に示す。
[評価基準]
A:2.0未満
B:2.0以上4.0未満
C:4.0以上6.0未満
D:6.0以上
【0074】
【表3】
【0075】
表3の結果から、実施例1~4のインク組成物は、粒状性の数値が2.0未満という低い値であり、粒状性が非常に小さく、印刷品質に優れることが示された。一方、比較例1及び3~9のインク組成物は、粒状性の数値が2.0以上と大きい値を示し、粒状性が大きく、印刷品質が劣っていた。
【0076】
[実施例9~12及び比較例19~27:インクセットの作製例]
表4中の第1のインク組成物を60℃の恒温槽で4週間保管することにより加速試験を行った。第2のインク組成物は、加速試験は行わずに室温で4週間保管した。60℃で4週間保管の加速試験は、25℃ので1年間の期間にわたり保管することに相当する。
加速試験を行った第1のインク組成物と、室温保管した第2のインク組成物とを、表4に示すように組み合わせ、実施例9~12及び比較例19~27のインクセットを作製した。
【0077】
[加速試験後の色間にじみの評価]
(1)試験片2の作製
実施例9~12及び比較例19~27のインクセットを用い、各々の第1のインク組成物100%のベタ画像(第1の画像)の上に重なるように、第2のインク組成物100%、線幅1.0mmの直線状の画像(第2の画像)1本を印刷し、印刷画像を得た。印刷は、京セラ株式会社製のインクジェットヘッドであるKJ4Bを2ヘッド備えた印刷冶具を用い、第1のインク組成物、第2のインク組成物の順で、周波数10kHz、2値(中滴)の条件で、王子製紙社製の「OKトップコート+」を印刷メディアとして行った。2つのインクジェットヘッドは、印刷媒体の送り方向の上流側から、第1のインク組成物、第2のインク組成物の順に印刷評価装置に備える。この時、第1のインク組成物、第2のインク組成物を充填したそれぞれのインクジェットヘッドの間隔は90mmに設定した。得られた印刷画像を100℃設定のIRヒーター下で3秒間、乾燥することにより、試験片2を得た。試験片の第1の画像に形成された第2の画像の線幅を測定した。線幅の測定には、QEA社製の印刷画像評価装置PIAS-IIを用いた。
【0078】
(2)評価
試験片2の第1の画像上に形成された第2の画像の線幅を測定した。得られた線幅の測定値を、線幅の設定値である1.0mmで除することにより、線幅の比率を算出し、以下の4段階の評価基準で評価した。線幅の比率は小さい方が、保存期間に係らず色間にじみが悪化しないことを示すため、色間にじみの性能が優れる。評価結果を下記表4に示す。
[評価基準]
A:比率25%以下
B:比率26~50%
C:比率51~100%
D:比率101%以上
【0079】
【表4】
【0080】
上記表4から明らかなように、実施例9~12のインクセットの色間にじみが25%に抑えられていた。このことから、実施例9~12のインクセットは、該インクセットが有するインク組成物の保存期間が異なるときにおいて、色間にじみの悪化が低減されることが確認された。
表3及び4の結果より、実施例9~12のインクセットは、インク組成物の保存期間が異なる場合でも色間にじみが低いという優れた性能を有していた。粒状性低下と色間滲みの両方の抑制により、極めて良好な画質を得ることができる。粒状感の低減は、同一色間でのベタ均一性の良化につながり、色間滲み抑制は色間の混色を抑制するため、その相乗効果で画質を向上することができる。
これに対し、比較例19~27のインクセットは、保存期間が異なる場合の色間にじみの評価と、各インク組成物の粒状性評価の少なくとも一方の評価が劣っていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明により、インク非・難吸収性メディア上での濡れ広がりが良好で、保存期間に係らず色間にじみが悪化せず、且つ、粒状性が極めて少ない印刷画像の提供を可能にするインク組成物、インクセット、インクジェット記録方法、印刷メディア、及び印刷メディアセットを提供できた。このため、本発明のインク組成物は、各種の印刷用インク、特にインクジェット印刷用インクの用途に極めて有用である。