(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174959
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】水処理方法及びその装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20060101AFI20221117BHJP
C02F 1/52 20060101ALI20221117BHJP
C02F 1/56 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
C02F1/44 D
C02F1/52 Z
C02F1/56 Z
C02F1/44 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081035
(22)【出願日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】矢出 乃大
(72)【発明者】
【氏名】岩本 拓也
【テーマコード(参考)】
4D006
4D015
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006GA07
4D006HA93
4D006JA57Z
4D006KA01
4D006KA67
4D006KA72
4D006KB13
4D006KB20
4D006KC16
4D006KE04P
4D006KE14P
4D006PA01
4D006PB02
4D015BA19
4D015BA21
4D015BA22
4D015BB08
4D015BB09
4D015BB12
4D015CA14
4D015DA04
4D015DA05
4D015DA12
4D015DA13
4D015DB02
4D015DB03
4D015DB15
4D015DB18
4D015DC08
4D015EA07
4D015EA37
(57)【要約】 (修正有)
【課題】凝集膜ろ過法における、無機凝集剤に起因する膜ファウリングを抑制し得る方法、ならびに当該方法を採用した水処理方法およびそのための装置を提供する。
【解決手段】水処理方法は、被処理水と無機凝集剤とを混合する凝結工程と、前記凝結工程後の被処理水中に凝集フロックを形成させる凝集工程と、前記凝集工程後の被処理水を固液分離する膜ろ過工程と、前記膜ろ過工程で膜ろ過されなかった固形分を含む処理水の少なくとも一部を抽出する抽出工程と、前記膜ろ過されなかった固形分を含む処理水の少なくとも一部を前記凝集工程に返送する返送工程からなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水と無機凝集剤とを混合する凝結工程と、
前記凝結工程後の被処理水中に凝集フロックを形成させる凝集工程と、
前記凝集工程後の被処理水を固液分離する膜ろ過工程と、
前記膜ろ過工程で膜ろ過されなかった固形分を含む処理水の少なくとも一部を抽出する抽出工程と、
前記膜ろ過されなかった固形分を含む処理水の少なくとも一部を前記凝集工程に返送する返送工程と、
を有することを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
前記膜ろ過されなかった固形分を含む処理水の少なくとも一部に高分子凝集剤を添加する工程をさらに有することを特徴とする、請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記凝集工程における凝集フロックの形成が、20mg/L以上の懸濁物質(SS)濃度にて実施されることを特徴とする、請求項1または2に記載の水処理方法。
【請求項4】
前記無機凝集剤は、アルミニウムを含有するものであることを特徴とする、請求項1~3のうちいずれか1項に記載の水処理方法。
【請求項5】
被処理水と無機凝集剤とを混合する凝結手段と、
前記凝結手段を経た後の被処理水中に凝集フロックを形成させる凝集手段と、
前記凝集手段を経た被処理水を固液分離する膜ろ過手段と、
前記膜ろ過手段で膜ろ過されなかった固形分を含む処理水の少なくとも一部を抽出する抽出手段と、
前記膜ろ過されなかった固形分を含む処理水の少なくとも一部を前記凝集手段に返送する返送手段と、
を有することを特徴とする、水処理装置。
【請求項6】
前記膜ろ過されなかった固形分を含む処理水の少なくとも一部に高分子凝集剤を添加する手段をさらに有することを特徴とする、請求項4に記載の水処理装置。
【請求項7】
前記凝集手段における凝集フロックの形成が、20mg/L以上の懸濁物質(SS)濃度にて実施されることを特徴とする、請求項5または6に記載の水処理装置。
【請求項8】
前記無機凝集剤は、アルミニウムを含有するものであることを特徴とする、請求項5~7のうちいずれか1項に記載の水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理の固液分離を限外膜や精密膜を用いた膜ろ過方法にて行う水処理方法およびその水処理装置に関する。特に本発明は、凝集工程および膜ろ過工程を有する、浄水処理のための水処理方法およびその水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水処理における主な固液分離方法としては、重力による沈殿法、浮上分離法、ろ過法および膜分離法などを挙げることができる。
【0003】
このうち、重力による沈殿法は、被処理水の懸濁物質(Suspended solid;以下「SS」とも呼ぶ)や沈みやすい固形物を、無薬注で、被処理水の密度差で重力分離したり、または、無機凝集剤や高分子凝集剤を被処理水に添加して凝集処理を行い、沈みやすくなった凝集フロックを重力分離する方法である。
【0004】
また、浮上分離法には、常圧浮上処理法と加圧浮上処理法とがある。
常圧浮上処理法は、被処理水や被処理水を無機凝集剤や高分子凝集剤で凝集後に、凝集フロックの浮力だけで浮上分離する方法である。
これに対して、加圧浮上処理法は、被処理水のSSや被処理水の凝集処理後の凝集フロックに微細な空気を付着させて、常圧浮上処理より分離速度を高めて、浮上分離する方法である。
【0005】
また、ろ過法は、ろ過砂やアンスラサイトのろ過材で形成されるろ過層に被処理水を通して、そのろ過層で被処理水のSSや濁質をろ過する方法であり、産業排水処理や下水の2次処理水や浄水処理の急速ろ過に使用されている。
【0006】
さらにまた、膜分離法は、被処理水を有機膜や無機膜で透過させて、処理水を得る方法であり、その膜を透過する処理水が非常に清澄であること、高濃度のSSでも固液分離できることから、優れた固液分離方法であるといえる。
一般的には、分離膜として精密ろ過膜(以下、「MF膜」とも呼ぶ)や限外ろ過膜(以下、「UF膜」とも呼ぶ)が用いられた固液分離法が膜分離法であり、その一方では、特に浄水処理分野での同意義の用語は、膜ろ過とも呼ばれる。
膜ろ過法の対象である被処理水は、製造用水や工業用水としての河川水や地下水など、河川水やダム湖水などの水道原水、下水の二次処理水、各種産業排水やその処理水などである。
そして、このような膜ろ過法を採用した膜ろ過装置としては、浸漬型膜ろ過装置と、ケーシング収納型(以下、「ケーシング型」とも呼ぶ)膜ろ過装置が一般的である。
【0007】
ところで、浄水処理分野においてMF膜やUF膜を用いた低圧膜ろ過法を適用する場合、被処理水をそのまま膜ろ過する場合もあるが、水道原水として利用する河川水などの表流水を使用する場合には、そこに色度成分などの溶解性物質が含まれているため、前処理として凝集剤を用いた凝集処理を組み合わせることが多くなっている。
【0008】
このような、凝集処理と膜ろ過法とを組み合わせた凝集膜ろ過法(以下、「凝集膜ろ過法」とも呼ぶ)では、被処理水に無機凝集剤または無機凝集剤および高分子凝集剤を添加して、除去対象物を無機凝集剤や無機凝集剤と高分子凝集剤から生成する凝集フロックに取り込んで、さらに膜ろ過することによって、除去対象物質の処理効果を高めることができる。
【0009】
浄水処理における従来の凝集膜ろ過技術として、例えば
図5に示す、混和槽22、凝集槽23および膜ろ過槽24が採用された、凝集膜ろ過処理フローに基づく技術が挙げられる。
浄水処理としては、着水井を経由した水道原水を、混和槽22と凝集槽23と膜ろ過槽24とを有する凝集膜ろ過設備で膜ろ過し、その膜ろ過水(以下、「処理水」ともいう)に消毒剤を添加して水道水とするものである。浄水処理は、混和槽22にて無機凝集剤を添加し、水道原水の濁質を微細粒子にして、濁質を凝結させる凝結工程と、次の凝集槽23で緩速攪拌することによりその微細粒子を集合させて凝集フロックを得る凝集工程とを有する。そしてこの凝集フロックを膜ろ過することにより、膜ろ過水が得られる。
【0010】
また、浄水処理における従来のさらなる凝集膜ろ過技術の1つとして、例えば
図6に示す、混和槽25、凝集槽26および浸漬型膜ろ過槽27が採用された、浸漬型凝集膜ろ過フローに基づく技術が挙げられる。
当該技術においては、水道原水を混和槽25に受け入れ、そして無機凝集剤を添加し、急速攪拌することで、無機凝集剤の凝結作用により水道原水の濁質が微細粒子となる。そして、次の凝集槽26で緩速攪拌することにより、その微細粒子が集合して大きな凝集フロックが形成され、その凝集フロックは、浸漬型膜ろ過槽27の内部に設置された浸漬型膜モジュール28で固液分離される。このとき、浸漬型膜モジュール28に接続された吸引ポンプ29で吸引することにより、浸漬型膜モジュール28から膜透過した膜ろ過水(処理水)が得られる。その一方で、浸漬型膜ろ過槽27の内部には、固液分離された固形物を含む濃縮液が存在する。この濃縮液は適宜、浸漬型膜ろ過槽27から濃縮液引抜配管30を経て系外に排出されて、濃縮または脱水される。
【0011】
さらにまた、浄水処理における従来のさらに別の凝集膜ろ過法の1つとして、例えば
図7に示す、混和槽31、凝集槽32およびケーシング型膜モジュール33が採用された、ケーシング型凝集膜ろ過フローに基づく技術が挙げられる。
当該技術においては、水道原水を混和槽31に受け入れ、無機凝集剤を添加し、急速攪拌することで、無機凝集剤の凝結作用により水道原水の濁質が微細粒子となる。そして、次の凝集槽32で緩速攪拌することで、その微細粒子が集合して大きな凝集フロックが形成され、その凝集フロックを含む膜供給水として、膜供給水ポンプ34で1基または複数のケーシング型膜モジュール33に圧送される。そして、膜供給水ポンプ34の運転圧力でケーシング型膜モジュール33から膜透過させて、膜ろ過水(処理水)が得られる。
【0012】
上記挙げた水処理の方法およびそのための装置に関連する、より具体的な従来技術としては、例えば、特許文献1は、原水中の金属イオンを除去する膜モジュールを用いた水処理装置であって、金属イオンを固形分として析出させる接触滞留槽と、当該接触滞留槽からの原水を分離する膜モジュールと、膜モジュールの逆圧洗浄排水を貯留する洗浄排水槽と、当該金属イオンの固形分を含む洗浄排水の少なくとも一部を洗浄排水槽から接触滞留槽に送るための返送機構とを備えた水処理装置を挙げることができる(特許文献1)。
当該特許文献1に記載の技術においては、金属イオンがマンガンイオンである場合には、膜の洗浄排水を接触滞留槽に供給することによって、原水中の固形分の含有量(マンガンイオンが酸化された二酸化マンガンの含有量)を高めることにより、接触滞留槽内でマンガンイオンから二酸化マンガンへの析出反応が促進されて、マンガンイオン濃度を低減させることができると記載されている。
【0013】
また、例えば特許文献2は、マンガンイオンを含有する原水を浸漬型の精密ろ過/ 限外ろ過膜モジュールで膜ろ過する水処理方法において、原水に酸化剤を添加するとともに、ろ過工程時間の少なくとも一部に前記膜モジュールから微細気泡を発生させ、ろ過工程終了後に前記膜モジュールから通常気泡を発生して空気洗浄を実施する水処理方法およびその装置を提案している。
当該特許文献2に記載の技術においては、浸漬型膜モジュールで固液分離された二酸化マンガンを含む固形分が、浸漬槽内での微細気泡の発生によって浸漬槽の底部に沈殿することなく、その固形分が浮遊した状態で原水中のマンガンイオンを酸化剤で酸化することができる。そしてこれにより、原水中のマンガンイオンを二酸化マンガンとして除去することができると記載されている。
【0014】
さらにまた、特許文献3は、砒素及び鉄イオンを含む被処理水を酸化処理してフロックを生成させ、この生成されたフロックを濃縮して高濃度に保持した状態で、前記被処理水とフロックとを接触させることを特徴とする、砒素含有水の処理方法およびその装置を提案している。当該方法によれば、フロックの生成段階で分子状の砒素がフロックに取り込まれ、あるいは、フロックの表面にイオン状の砒素が吸着されることでイオン状の砒素の除去効果を向上させることができると記載されている。
また、当該特許文献3には、酸化槽に、その後段の膜ろ過手段で分離されたフロックが固形分循環手段にて返送循環されて、酸化槽のフロックが高濃度に保持されることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2015-188781号公報
【特許文献2】特開2012-86182号公報
【特許文献3】特開2003-126874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、膜ろ過法では、他の固液分離法に比べて、清澄な処理水が得られるという利点を有するが、その反面、各種原因で膜汚染が進行し、安定的に処理水量が得られなくなることがある。こうした、処理水量が低下、または安定的に水量が確保できなくなる原因は、ろ過膜の劣化または膜汚染(以下、「膜ファウリング」と呼ぶ)である。
このうち、ろ過離膜の劣化は、膜の経年劣化や酸化剤等による膜損傷など膜自身の変質によって生じる不可逆的な膜性能の低下であり、この対処方法は、ろ過膜の交換である。
他方で、ろ過膜の膜ファウリングは、ろ過膜それ自体の変質ではなく、外的因子によって膜性能が低下して生ずるものであり、その原因は、無機物質由来のスケールや微生物によるスライムの、膜表面への付着である。そして、それらが原因である場合には、薬品洗浄によって膜性能は回復する。例えば、スケールに対しては、クエン酸等の有機酸やキレート剤による薬品洗浄が効果的であり、そして、スライムに対しては、次亜塩素酸塩や界面活性剤による薬品洗浄が効果的である。
【0017】
ここで、膜ファウリングのうち、凝集膜ろ過法において生ずる膜ファウリングの主原因として挙げられるのは、無機凝集剤の使用である。無機凝集剤を原水に添加して、十分な攪拌時間が取れなかった場合、またはショートパスして十分な混合ができない場合には、無機凝集剤が均一に混合できず、更に無機凝集剤の構成金属イオン(例えば、無機凝集剤がポリ塩化アルミニウム(PAC)である場合には、アルミニウムイオン)の加水分解が不十分となって、金属イオンすべてが金属水酸化物にならず、金属イオンのまま残留する。この残留した金属イオンが、膜ろ過面で析出し、水酸化物化して、膜ファウリングを引き起こす。そして膜ファウリングが進行すると、ろ過膜にかかる膜差圧が高まり、そのぶん、膜ろ過水量が低下してしまうため、作業効率の点で課題が残る。
凝集膜ろ過法におけるこの膜ファウリングの発生は、特に低水温時には顕著である。無機凝集剤の加水分解が十分に進まないため、無機凝集剤に起因する金属イオンが残留しやすくなり、膜ろ過面にてそれら残留した金属イオンが析出および水酸化物化するためである。
【0018】
このような、無機凝集剤に起因する膜ファウリングを解消するためには、ろ過膜を定期的に薬品洗浄することが有効であるが、薬品洗浄することによって、薬品費やその作業時間、洗浄排水の処理など、経済的および作業的な効率の点で課題を残してしまう。
【0019】
この点、上記のような特許文献1~3に記載の技術は、原水中の有害なイオンを除去する手段を提案するにとどまり、凝集膜ろ過法が採用された水処理法において、無機凝集剤に起因する膜ファウリングの回避までを提案するものではない。
【0020】
そこで、本発明は、凝集膜ろ過法における、無機凝集剤に起因する膜ファウリングを抑制し得る方法、ならびに当該方法を採用した水処理方法およびそのための装置を見出すことを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0021】
すなわち、本発明は、
被処理水と無機凝集剤とを混合する凝結工程と、
前記凝結工程後の被処理水中に凝集フロックを形成させる凝集工程と、
前記凝集工程後の被処理水を固液分離する膜ろ過工程と、
前記膜ろ過工程で膜ろ過されなかった固形分を含む処理水の少なくとも一部を抽出する抽出工程と、
前記膜ろ過されなかった固形分を含む処理水の少なくとも一部を前記凝集工程に返送する返送工程と、
を有することを特徴とする水処理方法に関する。
このうち好ましくは、前記膜ろ過されなかった固形分を含む処理水の少なくとも一部に高分子凝集剤を添加する工程をさらに有することを特徴とする態様である。
さらに好ましくは、前記凝集工程における凝集フロックの形成が、20mg/L以上の懸濁物質(SS)濃度にて実施されることを特徴とする態様である。
また特に好ましくは、前記無機凝集剤は、アルミニウムを含有するものであることを特徴とする態様である。
本発明はまた、
被処理水と無機凝集剤とを混合する凝結手段と、
前記凝結手段を経た後の被処理水中に凝集フロックを形成させる凝集手段と、
前記凝集手段を経た被処理水を固液分離する膜ろ過手段と、
前記膜ろ過手段で膜ろ過されなかった固形分を含む処理水の少なくとも一部を抽出する抽出手段と、
前記膜ろ過されなかった固形分を含む処理水の少なくとも一部を前記凝集手段に返送する返送手段と、
を有することを特徴とする、水処理装置にも関する。
このうち好ましくは、前記膜ろ過されなかった固形分を含む処理水の少なくとも一部に高分子凝集剤を添加する手段をさらに有することを特徴とする態様である。
さらに好ましくは、前記凝集手段における凝集フロックの形成が、20mg/L以上の懸濁物質(SS)濃度にて実施されることを特徴とする態様である。
また特に好ましくは、前記無機凝集剤は、アルミニウムを含有するものであることを特徴とする態様である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によって、膜ろ過法、とりわけ凝集膜ろ過法における膜ファウリングを効果的に抑制することができる。その結果、安定した膜ろ過効果が発揮でき、また、ろ過膜の薬品洗浄の頻度を下げることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明の一態様である、凝集膜ろ過処理フローを示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の別の一態様である、凝集膜ろ過処理フローを示す模式図である。
【
図3】
図3は、本発明のさらに別の一態様である、浸漬型凝集膜ろ過処理フローに基づく浸漬型凝集膜ろ過装置を示す模式図である。
【
図4】
図4は、本発明のさらにまた別の一態様である、ケーシング型凝集膜ろ過処理フローに基づくケーシング型凝集膜ろ過装置を示す模式図である。
【
図5】
図5は、従来の凝集膜ろ過処理フローを示す模式図である。
【
図6】
図6は、従来の浸漬型凝集膜ろ過処理フローに基づく浸漬型凝集膜ろ過装置を示す模式図である。
【
図7】
図7は、従来のケーシング型凝集膜ろ過処理フローに基づくケーシング型凝集膜ろ過装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の態様の例として、例えば浄水処理における凝集膜ろ過について、図面に記載の例に基づき説明する。
本発明は、浄水処理の凝集膜ろ過にかかわらず、膜ろ過工程の前段に、混和槽による凝結工程や、凝集槽による凝集工程、混和槽による凝結工程と凝集槽による凝集工程を組み合わせた工程を含む凝集膜ろ過に関する。
【0025】
また、本願明細書において、「濃縮液」とは、浸漬型膜ろ過槽から装置外に引き抜かれる濃縮液であって、凝集槽に返送されるものを指すもので、前記の「膜ろ過されなかった固形分を含む処理水」に包含される。
また、本願明細書において「膜洗浄排水」とは、ケーシング型膜ろ過槽から装置外に引き抜かれて、処理水による逆流洗浄時に排出される膜洗浄排水であって、凝集槽に返送されるものを指すもので、前記の「膜ろ過されなかった固形分を含む処理水」に包含される。
そして、膜ろ過工程で膜ろ過されなかった固形分を含む処理水の少なくとも一部を抽出する工程を抽出工程として、濃縮液の引抜工程および膜洗浄排水の排出工程が、この抽出工程という概念に含まれる。
引抜手段および排出手段も同様に、抽出手段という概念に含まれる。
【0026】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態として、混和槽1、凝集槽2および膜ろ過槽3を有し、且つ、濃縮液または膜洗浄排水を凝集槽2に返送する手段を有する凝集膜ろ過処理フローを挙げる(
図1)。
この膜ろ過槽3として挙げられるのは、例えば、浸漬型膜ろ過槽(
図3に示す)とケーシング型膜モジュール(
図4に示す)である。
混和槽1においては、原水に無機凝集剤を注入して原水中の濁質を凝結させる凝結工程が行われる。そして、凝集槽2においては、凝結工程を経た後の原水に対して、凝集フロックを形成させる凝集工程が行われる。さらに、膜ろ過槽3においては、凝集工程で得られた凝集フロックを膜ろ過して固液分離が行われる。この膜ろ過槽3においては、処理水と濃縮液または膜洗浄排水とが得られるところ、本発明においては、その濃縮液または膜洗浄排水の少なくとも1部を凝集槽2に返送することを特徴の1つとする。これによって、凝集槽2のSS濃度が高められ、濃縮液または膜洗浄水のSSに、凝結した原水中の濁質や無機凝集剤由来の残留金属イオン(例えば、アルミニウム系無機凝集剤を用いた場合は、アルミニウムイオン)や無機凝集剤由来の金属イオン(例えば、アルミニウム系無機凝集剤を用いた場合は、アルミニウムイオン)の加水分解生成物が取り込まれ、それらが凝集して、膜ろ過性の良い凝集フロックを形成させることができる。
特にアルミニウムは両性金属であるために、アルミニウム系無機凝集剤を被処理水に添加して凝集膜ろ過すると、凝集pH6~7の狭いpH範囲で、処理水の残留アルミニウム濃度が極小値になる。一方、アルミニウム系無機凝集剤以外の鉄系無機凝集剤、例えば塩化第二鉄は、凝集pH6以上の広いpH範囲で、処理水の残留鉄濃度が極小値になる。つまり、凝集pHの変動で鉄系無機凝集剤より、はるかにアルミニウム系無機凝集剤のほうが、処理水に残留する金属イオン、アルミニウムイオン濃度が高まるのである。
【0027】
凝集槽2への濃縮液または膜洗浄水の返送は、予め設定された凝集槽2のSS濃度となるように濃縮液または膜洗浄水を凝集槽2に返送するのが好ましい。凝集槽2のそのようなSS濃度は、例えば20mg/L以上であり、好ましくは20~300mg/Lであり、より好ましくは20~100mg/Lである。凝集槽2のSS濃度が20mg/L以上であれば、凝集槽2での凝集性が高まって、膜ろ過性が向上する。また、凝集槽2のSS濃度が300mg/L以下であれば、原水の濁度の影響を受けずに凝集槽2での凝集性が高まって、膜ろ過性が向上する。
凝集槽2への濃縮液または膜洗浄排水の返送によって、凝集槽2のSS濃度は、原水の濁度や無機凝集剤由来の発生汚泥濃度と比べて高濃度となるため、凝集槽2のSS濃度は濃縮液または膜洗浄排水のSS濃度が支配的となる。そのため、凝集槽2のSS濃度は、濃縮液または膜洗浄排水のSS濃度と、その返送流量で任意に設定できる。
【0028】
また、凝集槽2に返送されるものは、濃縮液または膜洗浄排水の全量でも、またはその一部でもよい。さらには、引き抜かれた濃縮液そのままのものでもよいし、または排出された膜洗浄排水そのままでもよいし、それらを重力等で濃縮して、SS濃度を高めた状態にしてから凝集槽2に返送してもよい。
【0029】
返送工程においては、例えば、浸漬型凝集膜ろ過処理の場合には、浸漬型膜ろ過槽からの濃縮液が凝集槽2に返送される。また、ケーシング型凝集膜ろ過処理の場合には、ケーシング型膜モジュールからの膜洗浄排水が凝集工程の凝集槽2に返送される。
既に上記したとおりであるが、濃縮液または膜洗浄排水を凝集工程の凝集槽2に返送することによって、それらを返送しない場合と比較して、凝集槽のSS濃度がより高められて、濃縮液のSS汚泥に対して、凝結した原水中の濁質や無機凝集剤由来の残留金属イオン(例えば、アルミニウム系無機凝集剤を用いた場合は、アルミニウムイオン)や無機凝集剤由来の金属イオン(例えば、アルミニウム系無機凝集剤を用いた場合は、アルミニウムイオン)の加水分解生成物が取り込まれ、それらが凝集して、膜ろ過性の良い凝集フロックが形成され得る。これにより、凝集フロックが十分に粗大化して、凝集フロックの膜ろ過性を高めることができ、原水の濁質の取りこぼしが低減できる。特に、濁度10度以下の、更には濁度2度以下の低濁度原水や水温が10℃以下の低水温原水、M-アルカリ度が10mg/L未満の低アルカリ度原水の凝集膜ろ過効果を向上させることができる。
一方で、凝集膜ろ過により得られた処理水は、水道水に好適な処理水質のため、殺菌処理や消毒処理等を施して水道水に供される。
【0030】
また、当該
図1のフローに基づく膜ろ過装置において、例えば、膜モジュールとして浸漬型膜モジュールを用いた浸漬型凝集膜ろ過装置(以下、「浸漬型」とも呼ぶ)の場合には、膜ろ過槽の膜モジュールにより膜ろ過水と濃縮液とに固液分離される。濃縮液は膜ろ過装置から引き抜かれて、濃縮や脱水される。
また、膜モジュールとしてケーシング型膜モジュールを用いたケーシング型凝集膜ろ過装置(以下、「ケーシング型」とも呼ぶ)の場合には、膜ろ過により膜ろ過水が得られる一方で、膜表面で捕捉された濁質等は、膜ろ過を中断して実施される逆流洗浄の洗浄排水(以下、「膜洗浄排水」とも呼ぶ)として、系外に排出される。この膜洗浄排水は、濃縮や脱水される。
また、定期的に膜の洗浄操作が行われ、膜の洗浄によって排出される濃縮液や膜洗浄排水は、排水池で汚泥と上澄水に分離される。汚泥は、濃縮槽で重力により沈降濃縮されて脱水機に供給される。さらに、濃縮槽からの上澄水は、排水池からの上澄水とともに着水井へ返送される。
また、無機凝集剤の使用のみでは、凝集槽2で形成する凝集フロックが小さかったり、またはその形成が難しい場合には、凝集槽2に水道用高分子凝集剤を添加することによって凝集フロックを大きくして、膜ろ過を促進させることができる。
【0031】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態として、膜ろ過槽6から引き抜かれた濃縮液または膜洗浄排水を返送配管7を介して凝集槽5へと返送する際に、返送配管7に高分子凝集剤を添加する工程をさらに追加した、凝集膜ろ過処理フローを挙げる(
図2)。
当該
図2のフローは、混和槽4において原水に無機凝集剤を注入して原水中の濁質を凝結させる凝結工程と、膜ろ過槽6の濃縮液または膜洗浄排水の少なくとも一部に高分子凝集剤を添加して凝集工程の凝集槽5に返送し、凝結工程後の原水と高分子凝集剤の存在下で凝集フロックを形成させる凝集工程、および凝集工程で得られる凝集フロックを膜ろ過して固液分離するものである。
【0032】
濃縮液または膜洗浄排水の返送量は、上記第1の実施の形態においても説明したとおり、予め設定された凝集槽5のSS濃度になるように濃縮液または膜洗浄排水を凝集槽5に返送するか、または、凝集槽5のSS濃度を監視、モニタリングして、SS設定濃度になるように濃縮液または膜洗浄排水の返送量を調整することができる。
そして、凝集槽5に返送する濃縮液または膜洗浄排水のSS濃度を基準に、予め設定した高分子凝集剤添加率に基づいて、高分子凝集剤の添加量を決定し、その決定された重量分の高分子凝集剤を、返送する濃縮液または膜洗浄排水に添加して、高分子凝集剤を含む濃縮液または膜洗浄排水を凝集槽5に返送する。
【0033】
近年の河川水に見られる濁度10度以下の低濁度の原水に対しては、無機凝集剤または高分子凝集剤を最適注入率で注入しても凝集反応が起こりにくい場合がある。これに対して、本発明の当該実施態様に係る浄水処理方法によれば、凝集剤の添加効果を最大限に発揮させながら、高い凝集膜ろ過効果を安定して継続的に得ることが可能となる。
特に、原水の水温が低くなる冬期には凝集反応が進みにくいために、凝集性の悪いフロックが形成されて、このために膜ファウリングが発生して膜ろ過処理の効率が低下するおそれがより高い。そのため、従来の無機凝集剤の注入方法のように原水の流量を基準とした高分子凝集剤重量の注入方法では、原水の濁度変動や無機凝集剤の注入量の変動などに対して、良好な凝集性が得られない場合がある。さらには、高分子凝集剤溶液は高粘度であるため、従来のように緩速攪拌で攪拌力が弱い凝集槽への添加時には原水との十分な混合が難しく、良好な凝集フロックが生成できない。そのため、原水由来の濁度や無機凝集剤由来の水酸化物を含む加水分解生成物の除去が十分にできない。
また、冬期には水道原水が低濁度、低水温や低アルカリ度のために凝集反応が進みにくいために、無機凝集剤の過剰添加になる傾向にある。無機凝集剤が過剰添加になると、無機凝集剤の加水分解が十分に起こらず、無機凝集剤を構成する金属イオンが残留し、これが膜ろ過の膜ファウリングの原因となる。
これに対して、本発明の当該実施態様においては、予め設定した凝集槽5のSS濃度になるように濃縮液または膜洗浄排水を凝集槽5に返送するため、仮に、高分子凝集剤を併用することによって無機凝集剤を過剰添加しない場合であっても、凝集性の良い凝集フロックが生成でき、凝集膜ろ過性能が維持できる。低水温時や低濁度原水では、無機凝集剤の過剰分を削減することで、無機凝集剤の注入率が削減できる。さらに無機凝集剤由来の発生汚泥量分が削減できて排水処理への負荷低減になる。
【0034】
また、濃縮液または膜洗浄排水のSS重量を基準として高分子凝集剤の添加量を決定することにより、従来の原水の流量を基準とした高分子凝集剤の注入率設定方法に比べて、原水の性状及び原水の浄水処理状況にかかわらず、常に最適な添加量で高分子凝集剤を添加することが可能となる。これにより、高分子凝集剤の使用量を最適化して効率的な処理を行いながら、高い凝集膜ろ過効果を安定して継続的に得ることが可能となる。
濃縮液または膜洗浄排水に対する高分子凝集剤の添加率は、以下の数値範囲に限定されるものではないが、濃縮液または膜洗浄排水のSS重量に対して、0.001~3.0wt%対SSとすることができ、0.01~2.0wt%対SSとするのが好ましく、さらには0.02~0.15wt%対SSとすることがより好ましい。
高分子凝集剤の添加率が0.001wt%対SS以上であれば、凝集効果が高まり、凝集膜ろ過効果も高まる。高分子凝集剤の添加率が3.0wt%対SS未満であれば、濃縮液または膜洗浄排水の汚泥に対して、高分子凝集剤が適正で、粘性の低い凝集フロックが生成し、その粘性の低い凝集フロックの分散性が良く、原水等に由来する濁質等が取り込めて、凝集膜ろ過効果が得られる。
高分子凝集剤の溶解濃度は、例えば、0.1~0.3wt%とすることができる。高濃度で高分子凝集剤溶解液を保存できるので、高分子凝集剤の劣化も遅くできるため、高分子凝集剤溶解液の保存性も良好とすることができる。高分子凝集剤の溶解装置、注入装置及び溶解液の貯槽もコンパクトにできる。
【0035】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施形態として、混和槽8、凝集槽9、浸漬型膜ろ過槽10および濃縮液の返送配管11を有し、且つ、この返送配管11に高分子凝集剤を添加する形態である、本発明の浸漬型凝集膜ろ過処理フローに基づく浸漬型凝集膜ろ過装置を挙げる(
図3)。
当該本発明の第3の実施形態においては、水道原水を混和槽8に受け入れて、無機凝集剤注入設備から無機凝集剤を添加して、混和槽8内を急速攪拌機で急速攪拌する。そして、次の凝集槽9内を緩速攪拌機で緩速攪拌することによって、大きな凝集フロックを形成させ、その凝集フロックを含む水道原水について、浸漬型膜ろ過槽10の内部に設置された浸漬型膜モジュール12において固液分離する。
そして、浸漬型膜モジュール12に接続された吸引ポンプ13で吸引することで、浸漬型膜モジュール12から膜透過した処理水(膜ろ過水)が得られる。一方、浸漬型膜ろ過槽10内部には固液分離された固形物を含む濃縮液が槽内にとどまる。
【0036】
また、この
図3の装置においては、浸漬型膜モジュール12の底部から、洗浄用空気を導入して、浸漬型膜モジュール12のろ過面を常に空気で洗浄することができる。また、吸引ポンプ13の吸引圧が上昇すると、吸引ポンプ吸い込み配管から、逆洗ポンプ14にて処理水である逆洗水によって逆流洗浄することができる。処理水のみでは吸引ポンプ圧が回復しない場合には、処理水に有機酸や、次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を溶解させて、その処理水で逆流洗浄することで、浸漬型膜モジュール12内部の閉塞物質を洗浄除去することができる。
凝集膜ろ過の継続によって、浸漬型膜ろ過槽10内部の濃縮液のSS濃度が高まったり、膜モジュール12の逆流洗浄時に浸漬型膜ろ過槽10内部に洗浄薬品を含まない処理水だけの逆流洗浄排水が排出されて、この逆流洗浄排水で濃縮液のSS濃度がさらに高まったりするので、濃縮液は適宜、浸漬型膜ろ過槽10から濃縮液引抜配管で系外に排出される。
【0037】
高分子凝集剤を併用する場合には濃縮液引抜配管15の途中から分岐した返送配管11に返送ポンプを配備して、返送配管11の途中で、あるいは返送ポンプ吸込部(図示せず)に高分子凝集剤添加設備から、濃縮液に高分子凝集剤を添加して、濃縮液を凝集槽9に返送する。
または、図示していないが、浸漬型膜ろ過槽10底部に返送配管を配備して、当該返送配管の途中に返送ポンプを配備して、濃縮液を凝集槽9に返送してもよい。
返送手段は、濃縮液を返送する返送ポンプと返送配管11等とで構成され、濃縮液のSS濃度を検出するSS濃度検出手段及び濃縮液の返送流量を検出する濃縮液流量検出手段を備えていてもよい。
SS濃度検出手段としては、近赤外光式汚泥濃度計、レーザー光式汚泥濃度計、マイクロ波濃縮液濃度計などの市販の汚泥濃度計が使用できる。
濃縮液流量検出手段としては、市販の電磁流量計、超音波流量計等が使用できる。返送には市販のポンプが使用できる。中でも高濃度SSを含む濃縮液を定量的に移送できるポンプ、例えば、ギアポンプ又は回転容積式一軸偏心ねじポンプ(モーノポンプ)などを使用し、回転数制御で設定流量を調整してもよい。
【0038】
また、図示していないが、引き抜いた濃縮液を更に濃縮して、その濃縮液を凝集槽9に返送してもよい。濃縮方法は、別途設置した重力式濃縮槽を用いた重力濃縮でも、遠心濃縮機等を用いた機械式濃縮でもよい。また、濃縮液の濃縮設備から、濃縮液の一部を分取して、本発明の濃縮液に用いてもよい。
【0039】
高分子凝集剤添加手段としては、凝集槽9内へ返送される濃縮液に高分子凝集剤を添加する場合には、高分子凝集剤を一旦、溶媒へ溶解して高分子凝集剤水溶液の形態とし、これを添加することができる。濃縮液に高分子凝集剤水溶液を添加することにより、結果的に粘性の高い高分子凝集剤水溶液が濃縮液で希釈されるため、凝集槽9へ高分子凝集剤を直接添加する場合に比べて高分子凝集剤の分散性を良好にでき、凝集反応時間である緩速撹拌時間の短縮が図られ、凝集反応を早めて凝集フロックを生成しやすくすることができる。また、従来のように凝集槽9へ高分子凝集剤を直接添加する場合よりも、凝集フロックの凝集性が高まり、膜ろ過性が高まる。
【0040】
また、混和槽8においては急速攪拌にて、および、凝集槽9においては緩速攪拌にて工程を行うことが好ましい。このように急速攪拌と緩速攪拌とを組み合わせることによって、残留する無機凝集剤に起因する金属イオンの凝集フロックへの取り込みがより促進される。急速攪拌の望ましい速度(速度勾配)は、G値として150l/s以上が好ましく、250l/sがより好ましい。また、緩速攪拌の望ましい速度(速度勾配)は、G値として75l/s以下が好ましい。
【0041】
また、この
図3においては、浸漬型膜モジュール12の底部から、空気を導入して、当該浸漬型膜モジュール12の膜面を常に空気で洗浄することもできる。また、吸引ポンプ13の吸引圧が上昇すると、吸引ポンプ吸い込み配管から、逆洗ポンプ14で処理水によって逆流洗浄することができる。処理水による逆流洗浄だけでは吸引ポンプ圧が回復しない場合には、処理水に有機酸や、次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を溶解させて、その洗浄水で逆流洗浄することで、浸漬型膜モジュール12内部の閉塞物質を薬品洗浄で除去することも可能である。
【0042】
[第4の実施の形態]
さらに次に、本発明の第4の実施形態として、混和槽16、凝集槽17、ケーシング型膜モジュール18および膜洗浄排水の返送配管19を有し、且つ、この返送配管19に高分子凝集剤を添加する形態である、本発明のケーシング型凝集膜ろ過処理フローに基づくケーシング型凝集膜ろ過装置を挙げる(
図4)。
当該本発明の第4の実施形態においては、凝集後の膜供給水が、膜供給水ポンプ20で、複数のケーシング型膜モジュール18に送水されて、当該ケーシング型膜モジュール18で膜ろ過されて、膜ろ過水が得られる。
【0043】
膜ファウリングが進行すると、膜モジュール18で差圧が大きくなり、膜ろ過水量が低下するため、これを抑制するため、膜モジュール18を洗浄空気で洗浄、あるいは、処理水を逆流洗浄水にして逆洗ポンプ21で逆流洗浄する。しかしながら、逆流洗浄によっても膜モジュール18での差圧が低下しない場合には、処理水洗浄用薬品を溶解した薬品洗浄水と逆洗ポンプで薬品洗浄を行うのがよい。
洗浄用薬品を添加しない処理水だけでの逆流洗浄後の膜洗浄排水は、膜モジュール18で固液分離されたSSを含むため、膜洗浄排水の少なくとも一部を膜洗浄排水配管から分岐した返送配管19で凝集槽17に膜洗浄排水を返送する。
また、高分子凝集剤を併用する場合には、膜洗浄排水配管の途中から分岐した返送配管19に返送ポンプを配備して、膜洗浄排水の返送配管19の途中、あるいは返送ポンプ吸込部に高分子凝集剤添加手段から高分子凝集剤を添加して、膜洗浄排水を凝集槽17に返送する。
【0044】
また、吸引ポンプの吸引圧が上昇した場合には、ケーシング型膜モジュール18の底部から、洗浄用空気を導入して、このケーシング型膜モジュール18のろ過面を適宜空気で洗浄することもできる。また、吸引ポンプ吸い込み配管から、逆洗ポンプ21で処理水である逆洗水によって逆流洗浄することもできる。処理水による逆流洗浄だけでは吸引ポンプ圧が回復しない場合には、処理水に有機酸や、次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を溶解させて、その処理水で逆流洗浄することにより、ケーシング型膜モジュール18内部の閉塞物質を薬品洗浄で除去することも可能である。
処理水による逆流洗浄で発生する膜洗浄排水は系外に排出されて、濃縮や脱水される。
また薬品を使用した薬品洗浄排水は系外に排出されて、無害に処理されて放流される。
【0045】
上記本発明の実施の形態のように浸漬型膜ろ過槽の濃縮液やケーシング型膜モジュールの膜洗浄排水を凝集槽に返送することによって、無機凝集剤由来の膜ファウリングを効果的に防止あるいは抑制することができ、ひいてはさらに以下の効果も期待される。
・使用する無機凝集剤の量を削減できるため、薬品費の節約ができる。特に、低水温時期の無機凝集剤の量の削減がより顕著である。
・膜の薬品洗浄頻度または洗浄用薬品使用量を削減できる。
・薬品洗浄頻度が下がり、薬品による膜の劣化が抑えられて膜交換費用を削減できる。
・膜ろ過水量の安定した確保が可能となる。
・化学薬品を含む薬品洗浄排水量や処理の手間を削減できる。
・薬品の取り扱い機会が減るため、安全衛生に有利である。
・膜運転管理性の向上により洗浄作業等の非定常作業を削減できるため、作業時間の低減化を図ることができる。
・膜濃縮液の高濃度化による後段の濃縮や脱水の効率化を図ることができる。
【0046】
さらに、高分子凝集剤を凝集槽に直接添加するのでなく、浸漬型膜ろ過槽の濃縮液やケーシング型膜モジュールから引き抜かれた濃縮駅または膜洗浄排水の凝集槽への返送途中に添加して、そしてそれぞれの凝集槽に返送することによって、ひいては以下の効果が期待される。
・無機凝集剤由来の膜ファウリング物質が凝集フロックに取り込まれて、薬品洗浄頻度が低下する。
・凝集膜ろ過処理水量が安定して、運転管理をよりしやすくなるとともに作業時間を削減できる。
【0047】
このような、本発明で用いられる無機凝集剤としては、凝集沈殿処理等に使用されるものであって、例えば、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)またはポリ塩化アルミニウム(PAC)等の、アルミニウムを含有するアルミニウム系無機凝集剤、または、ポリ硫酸第二鉄、硫酸第一鉄および塩化第二鉄などの、鉄を含有する鉄系無機凝集剤が挙げられる。本発明においては、無機凝集剤としてアルミニウム系凝集剤を用いることが好ましい。
また、無機凝集剤の注入率は、処理される水道原水の水量に基づき、5~100mg/Lである。
【0048】
また、本発明で用いられる高分子凝集剤としては、好適には、浄水処理や浄水処理場の排水処理においては水道用高分子凝集剤であり、その一方で、浄水処理以外の水処理においては水道用高分子凝集剤や水道用高分子凝集剤以外の高分子凝集剤である。
水道用高分子凝集剤以外の高分子凝集剤としては、市販品が使用され得るが、特に限定されるものではない。そのような高分子凝集剤として、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸カリウム、ポリメタクリル酸アンモニウムからなる群より選択されるいずれか1種以上を用いることが可能である。このうち特に好ましくは、ポリアクリル酸ナトリウムである。
また、ポリアクリルアミド系高分子凝集剤も使用することができ、これは、ポリアクリルアミドとポリ(メタ)アクリル酸塩の共重合物であって、アニオン系高分子凝集剤としての市販品が使用できる。
一般に、浄水処理における水道用高分子凝集剤の注入率は、被処理水の量に基づき、0.01~1mg/Lである。浄水処理以外の各種産業排水処理等で使用する高分子凝集剤の注入率は、被処理水のSSや無機凝集剤の注入率が高いために、0.1~5mg/Lが好ましい。
高分子凝集剤は粉末品や液状品であり、それらを水道水等の溶解水に0.01~0.3重量%になるように溶解し、溶解調製された水道用高分子凝集剤は、注入量に合わせて、原水に添加する。
【0049】
このような本発明の水処理法または水処理装置は、従来技術、例えば上記特許文献1に記載の技術と比較して、少なくとも下記の点の優れた特徴を有する。
・特許文献1に記載の技術は、二酸化マンガンを触媒に、酸化剤との共存で原水のマンガンイオンを除去するものであり、本発明では二酸化マンガンのような触媒も酸化剤も使用することを要しない。よって薬品の取り扱い機会が減るため、安全衛生に有利である。
【0050】
また、本発明の水処理法または水処理装置は、上記特許文献2に記載の技術と比較して、少なくとも下記の点の優れた特徴を有する。
・特許文献2に記載の技術においては、膜モジュールの浸漬槽の濃縮液を膜モジュールの浸漬槽の前段の手段へと返送する手段について開示していない。このため、当該特許文献2に記載の技術においては、膜モジュールの浸漬槽でのマンガンイオンを含有する原水と固液分離された二酸化マンガンを含む固形分との接触が不十分なために、原水のマンガンイオンが膜面で析出して、膜ファウリングが発生するおそれがある。
これに対して、本発明においては、返送手段を有するために膜ファウリングが効果的に抑制され得る。
・特許文献2に記載の技術においては、二酸化マンガンを触媒に、酸化剤との共存で原水のマンガンイオンを除去するものであるのに対して、本発明において、二酸化マンガンのような触媒も酸化剤も使用することを要しない。よって、薬品の取り扱い機会が減るため、安全衛生に有利である。
【0051】
また、本発明の水処理法または水処理装置は、上記特許文献3に記載の技術と比較して、少なくとも下記の点の優れた特徴を有する。
・特許文献3に記載の技術においては、酸化槽や空気酸化を使用するのに対して、本発明においては、そのような手段の使用を要しない。そのため、本発明においては、作業効率がより良好である。
・特許文献3に記載の技術においては、砒素イオンを除去するために、もう1つの除去対象である鉄イオンを酸化させる手段を要するのに対して、本発明においては、そのような除去対象を酸化させる手段を必要としない。そのため、本発明においては作業効率がより良好である。また、本発明においては、無機凝集剤として好ましくはアルミニウム系無機凝集剤を用いる点で、特許文献1に記載の技術とは相違する。
・特許文献3に記載の技術においては、除去対象が砒素及び鉄イオンに特化しているのに対して、本発明においては、むしろ無機凝集剤に起因する金属イオン全般を対象としている。そのため、本発明においては、凝集膜ろ過法における膜ファウリングを抑制するのに汎用性がより高い。
【実施例0052】
以下、本発明を実施例と共に更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]
高分子凝集剤を添加しなかった以外は、
図3に示すフローに基づく浸漬型凝集膜ろ過装置を用いた。
pH7.1、濁度3度、水温20~25℃の河川水を原水(被処理水)として用い、混和槽8で原水とポリ塩化アルミニウム(以下、PAC)(製品名:タイパック;大明化学工業(株)製)20mg/LとをG値200l/sで5分間混合攪拌して凝結後、凝集槽9でG値50l/sで10分間混合攪拌して凝集を行った。その後、その原水を浸漬型膜ろ過槽10に移送して膜ろ過を行った。さらに、浸漬型膜ろ過槽10から、浸漬型膜ろ過槽10の濃縮液を凝集槽9に返送することにより、凝集槽9のSS濃度が20~300mg/Lの範囲内となるよう調整した。
他方で、濃縮液を凝集槽9に返送せずに膜ろ過を行ったところ、凝集槽9のSS濃度は5mg/Lであった。
吸引ポンプ13で吸引して膜ろ過水を得た。
吸引ポンプ13のポンプ運転圧を膜ファウリングの指標とした。
また、凝集槽出口水(凝集槽9から出る処理水)中の残留アルミニウム濃度として、当該凝集槽出口水を孔径0.45μmのMF膜でろ過したろ過水のアルミニウムをICP発光分光分析法(JIS K0102、2016工場排水試験方法58.4)で測定した。
下記表1に、実施例1で使用した浸漬型凝集膜ろ過装置の仕様および試験条件を示す。
また、下記表2には、浸漬型膜ろ過の試験結果を示す。
【0054】
【0055】
【0056】
上記表2の結果に示されるとおり、浸漬型膜ろ過槽10の濃縮液を凝集槽9に返送しなかった場合は、凝集槽9のSS濃度は5mg/Lであり、試験開始4か月後にはポンプ運転圧は9.8kPaにもなった(試験番号No.1)。この時の凝集槽出口水の残留アルミニウム濃度は1.03mg/Lであった。
他方で、浸漬型膜ろ過槽10の濃縮液を凝集槽9に返送した場合であって、凝集槽9のSS濃度が20~300mg/Lの範囲内においは、試験開始6か月後にはポンプ運転圧は7.4~8.5kPaの範囲内に抑えられた(試験番号No.2~6)。
また、この時の凝集槽出口水の残留アルミニウム濃度は0.29~0.60mg/Lであり、浸漬型膜ろ過槽10の濃縮液を凝集槽9に返送したことによって、凝集槽出口水の残留アルミニウム濃度が大きく低下した。
凝集槽のSS濃度を50~200mg/Lにすると、試験開始6か月後にはポンプ運転圧は7.4~7.5kPaとなり、さらに安定した凝集膜ろ過を行うことができたといえる(試験番号No.3~5)。
また、この時の凝集槽出口水の残留アルミニウム濃度は0.32~0.43mg/Lであった。
また、いずれの試験条件や試験番号においても処理水の濁度は0.02度以下であった。
【0057】
[実施例2]
図3に示すフローに基づく浸漬型凝集膜ろ過装置を用い、混和槽8にて、実施例1と同様の原水に無機凝集剤PACを20mg/Lで添加して5分間攪拌し、水道用高分子凝集剤(水ing(株)製;エバグロースWA-521;アニオン系)を、膜ろ過の濃縮液のSSに対して添加率0.01~0.2%対SSで添加した。その後、その原水を浸漬型膜ろ過槽10に移送して膜ろ過を行った。さらにそのときの濃縮液を凝集槽9に返送して、凝集槽9で10分間攪拌した後に、凝集膜ろ過試験を行った。
凝集槽9のSS濃度が20~300mg/Lの範囲となるように、水道用高分子凝集剤を添加した濃縮液を凝集槽9に返送することによって、凝集槽9のSS濃度を調整して維持した。
下記表3に浸漬型膜ろ過試験結果を示す。
【0058】
【0059】
表3に示されるとおり、凝集槽9のSS濃度を50~200mg/Lに調整し、水道用高分子凝集剤を膜ろ過の濃縮液のSS重量に対して添加率0.02~0.15%対SSで添加して凝集膜ろ過を行った場合には、試験開始6か月後にはポンプ運転圧は5.8~6.6kPaに抑えられ、安定した凝集膜ろ過を行うことが出来た(試験番号No.5、6、9~12、14~16)。この時の凝集槽出口水の残留アルミニウム濃度は0.30mg/L以下であった。このことは、浸漬型膜ろ過槽10から濃縮液を抽出し、水道用高分子凝集剤を添加した濃縮液を凝集槽9に返送したことによって、凝集槽出口水の残留アルミニウム濃度が大きく低下したことを示す。そして凝集槽出口水の残留アルミニウム濃度が低下したことにより、試験開始6か月後にはポンプ運転圧も低下した。
これに対して、上記実施例1の試験番号No.3~5においては、試験開始6か月後のポンプ運転圧が7.4~7.5kPa、及び、凝集槽出口水の残留アルミニウム濃度が0.14~0.30mg/Lであったことから、濃縮液に水道用高分子凝集剤を添加して返送することは、凝集槽出口水の残留アルミニウム濃度を低く抑えられ、その結果、ポンプ運転圧も低くできることが分かった。
他方で、凝集槽9のSS濃度を20mg/Lに調整し、水道用高分子凝集剤添加率0.1~0.5%対SSとした場合には、試験開始6か月後にはポンプ運転圧は7.1~7.8kPaと高くなった(試験番号No.1~3)。
また、この時の凝集槽出口水の残留アルミニウム濃度は0.32~0.48mg/Lであった。
さらにまた、凝集槽のSS濃度を300mg/Lに調整し、水道用高分子凝集剤添加率0.02~0.07%対SSとした場合には、試験開始6か月後にはポンプ運転圧は6.9~7.4kPaとやや高かった(試験番号No.17~19)。
また、この時の凝集槽出口水の残留アルミニウム濃度は0.23~0.28mg/Lであった。
また、いずれの試験条件や試験番号においても処理水の濁度は0.02度以下であった。