(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174977
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】弾性波デバイス、フィルタ、マルチプレクサ並びにウエハおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20221117BHJP
H03H 3/08 20060101ALI20221117BHJP
C30B 33/06 20060101ALI20221117BHJP
C30B 29/30 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H03H3/08
C30B33/06
C30B29/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081063
(22)【出願日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】清水 洋平
(72)【発明者】
【氏名】三浦 享
(72)【発明者】
【氏名】小宮山 凌平
【テーマコード(参考)】
4G077
5J097
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB02
4G077BB01
4G077BC32
4G077BC37
4G077FF01
4G077HA11
5J097AA05
5J097AA14
5J097EE08
5J097GG03
5J097HA03
5J097KK09
(57)【要約】
【課題】中間層と圧電基板と接合強度を向上させる弾性波デバイスを提供する。
【解決手段】弾性波デバイスは、支持基板10と、支持基板10上に設けられ、結晶粒の平均粒径が100nm以上である第1中間層12と、第1中間層12上に設けられ、第1中間層12との界面32の粗さは支持基板10と第1中間層12との界面の粗さより小さく、第1中間層12より薄く、結晶粒の平均粒径が100nm未満である第2中間層13と、第2中間層13上に直接接合された圧電基板14と、圧電基板14上に設けられた一対の櫛型電極20とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
前記支持基板上に設けられ、結晶粒の平均粒径が100nm以上である第1中間層と、
前記第1中間層上に設けられ、前記第1中間層との界面の粗さは前記支持基板と前記第1中間層との界面の粗さより小さく、前記第1中間層より薄く、結晶粒の平均粒径が100nm未満である第2中間層と、
前記第2中間層上に直接接合された圧電基板と、
前記圧電基板上に設けられた一対の櫛型電極と、
を備える弾性波デバイス。
【請求項2】
前記圧電基板は前記第2中間層との界面にアモルファス層を有する請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記支持基板と前記第1中間層との間の算術平均粗さは10nm以上であり、前記第1中間層と前記第2中間層との間の算術平均粗さは1nm以下である請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記第2中間層の厚さは前記第1中間層の厚さの0.1倍以下である請求項1から3のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記圧電基板の厚さは前記一対の櫛型電極の電極指の平均ピッチの2倍以下である請求項1から4のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記第2中間層は、酸化アルミニウムまたは窒化酸化アルミニウムを主成分とする請求項1から5のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記第1中間層は、酸化アルミニウムまたは窒化酸化アルミニウムを主成分とする請求項6に記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記圧電基板は、タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板である請求項1から7のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の弾性波デバイスを含むフィルタ。
【請求項10】
請求項9に記載のフィルタを含むマルチプレクサ。
【請求項11】
支持基板と、
前記支持基板上に設けられ、結晶粒の平均粒径が100nm以上である第1中間層と、
前記第1中間層上に設けられ、前記第1中間層との界面の粗さは前記支持基板と前記第1中間層との界面の粗さより小さく、前記第1中間層より薄く、結晶粒の平均粒径が100nm未満である第2中間層と、
前記第2中間層上に直接接合された圧電基板と、
を備えるウエハ。
【請求項12】
支持基板上に結晶粒の平均粒径が100nm以上である第1中間層を形成する工程と、
前記第1中間層の表面を平坦化する工程と、
前記第1中間層の表面に、前記第1中間層より薄く、結晶粒の平均粒径が100nm未満である第2中間層を形成する工程と、
前記第2中間層上に圧電基板を直接接合する工程と、
を含むウエハの製造方法。
【請求項13】
前記第2中間層上に前記圧電基板を直接接合する工程は、表面活性化法を用い前記第2中間層上に前記圧電基板を直接接合する工程を含む請求項12に記載のウエハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイス、フィルタ、マルチプレクサ並びにウエハおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の通信機器に用いられる弾性波デバイスとして、圧電基板上に一対の櫛型電極を有するIDT(Interdigital Transducer)が設けられた弾性波デバイスが知られている。弾性波デバイスに、支持基板上に圧電基板を接合した複合基板を用いることが知られている(例えば特許文献1)。支持基板と圧電基板との間に中間層を設けることが知られている(例えば特許文献2、3)。支持基板の接合面を凹凸面とすることが知られている(例えば特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-034363号公報
【特許文献2】国際公報第2018/203430号
【特許文献3】国際公報第2019/082806号
【特許文献4】特開2020-161899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2および3のように、支持基板と圧電基板との間に中間層を設けた構造では、スプリアスを十分には抑制できない。支持基板と中間層との界面を粗面または凹凸面とすることでスプリアスを抑制できる。しかしながら、粗面または凹凸面上に中間層を形成すると、中間層と圧電基板との十分な接合強度が保てない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、中間層と圧電基板と接合強度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、支持基板と、前記支持基板上に設けられ、結晶粒の平均粒径が100nm以上である第1中間層と、前記第1中間層上に設けられ、前記第1中間層との界面の粗さは前記支持基板と前記第1中間層との界面の粗さより小さく、前記第1中間層より薄く、結晶粒の平均粒径が100nm未満である第2中間層と、前記第2中間層上に直接接合された圧電基板と、前記圧電基板上に設けられた一対の櫛型電極と、を備える弾性波デバイスである。
【0007】
上記構成において、前記圧電基板は前記第2中間層との界面にアモルファス層を有する構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記支持基板と前記第1中間層との間の算術平均粗さは10nm以上であり、前記第1中間層と前記第2中間層との間の算術平均粗さは1nm以下である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記第2中間層の厚さは前記第1中間層の厚さの0.1倍以下である構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記圧電基板の厚さは前記一対の櫛型電極の電極指の平均ピッチの2倍以下である構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記第2中間層は、酸化アルミニウムまたは窒化酸化アルミニウムを主成分とする構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記第1中間層は、酸化アルミニウムまたは窒化酸化アルミニウムを主成分とする構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記圧電基板は、タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板である構成とすることができる。
【0014】
本発明は、上記弾性波デバイスを含むフィルタである。
【0015】
本発明は、上記フィルタを含むマルチプレクサである。
【0016】
本発明は、支持基板と、前記支持基板上に設けられ、結晶粒の平均粒径が100nm以上である第1中間層と、前記第1中間層上に設けられ、前記第1中間層との界面の粗さは前記支持基板と前記第1中間層との界面の粗さより小さく、前記第1中間層より薄く、結晶粒の平均粒径が100nm未満である第2中間層と、前記第2中間層上に直接接合された圧電基板と、を備えるウエハである。
【0017】
本発明は、支持基板上に結晶粒の平均粒径が100nm以上である第1中間層を形成する工程と、前記第1中間層の表面を平坦化する工程と、前記第1中間層の表面に、前記第1中間層より薄く、結晶粒の平均粒径が100nm未満である第2中間層を形成する工程と、前記第2中間層上に圧電基板を直接接合する工程と、を含むウエハの製造方法である。
【0018】
上記構成において、前記第2中間層上に前記圧電基板を直接接合する工程は、表面活性化法を用い前記第2中間層上に前記圧電基板を直接接合する工程を含む構成とすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、中間層と圧電基板と接合強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1(a)は、実施例1に係る弾性波共振器の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。
【
図2】
図2(a)から
図2(e)は、実施例1に係る弾性波共振器の製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図3】
図3(a)から
図3(c)は、実施例1に係る弾性波共振器の製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図4】
図4(a)から
図4(c)は、実施例1における基板の接合方法を示す模式図である。
【
図5】
図5(a)および
図5(b)は、実施例1におけるウエハの製造方法において中間層の上面のAFM画像を示す図である。
【
図6】
図6(a)から
図6(c)は、実施例1におけるウエハの製造方法において中間層の上面のAFM画像を示す図である。
【
図7】
図7(a)および
図7(b)は、比較例1におけるウエハの製造方法において中間層の上面のAFM画像を示す図である。
【
図8】
図8(a)および
図8(b)は、比較例1におけるウエハの製造方法においてウエハの平面模式図である。
【
図9】
図9(a)から
図9(c)は、実験3における中間層の上面のAFM画像である。
【
図11】
図11(a)は、実施例2に係るフィルタの回路図、
図11(b)は、実施例2の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。
【実施例0022】
図1(a)は、実施例1に係る弾性波共振器の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。電極指の配列方向をX方向、電極指の延伸方向をY方向、支持基板および圧電基板の積層方向をZ方向とする。X方向、Y方向およびZ方向は、圧電基板の結晶方位のX軸方向およびY軸方向とは必ずしも対応しない。圧電基板が回転YカットX伝搬基板の場合、X方向は結晶方位のX軸方向となる。
【0023】
図1(a)および
図1(b)に示すように、支持基板10上に中間層12が設けられ、中間層12上に中間層13が設けられている。中間層13上に圧電基板14が接合されている。支持基板10と中間層12との界面30は粗面または凹凸面である。中間層12と13との界面32および中間層12と圧電基板14との界面34は鏡面である。界面30の算術平均粗さRaは例えば10nm以上であり、例えば100nm以上である。界面32および34の算術平均粗さRaは例えば1nm以下であり、例えば0.1nm以下である。中間層12、13および圧電基板14の厚さをそれぞれT2、T3およびT4とする。なお、界面32が粗面または凹凸面であるため、厚さT2は平均の厚さである。
【0024】
圧電基板14上に弾性波共振器26が設けられている。弾性波共振器26はIDT22および反射器24を有する。反射器24はIDT22のX方向の両側に設けられている。IDT22および反射器24は、圧電基板14上の金属膜16により形成される。
【0025】
IDT22は、対向する一対の櫛型電極20を備える。櫛型電極20は、複数の電極指18と、複数の電極指18が接続されたバスバー19と、を備える。一対の櫛型電極20の電極指18が交差する領域が交差領域25である。交差領域25の長さが開口長である。一対の櫛型電極20は、交差領域25の少なくとも一部において電極指18がほぼ互い違いとなるように、対向して設けられている。交差領域25において複数の電極指18が励振する弾性波は、主にX方向に伝搬する。一対の櫛型電極20のうち一方の櫛型電極の電極指18のピッチがほぼ弾性波の波長λとなる。複数の電極指18のピッチ(電極指18の中心間のピッチ)をDとすると、一方の櫛型電極20の電極指18のピッチは電極指18の2本分のピッチDとなる。反射器24は、IDT22の電極指18が励振した弾性波(弾性表面波)を反射する。これにより弾性波はIDT22の交差領域25内に閉じ込められる。
【0026】
IDT22が励振した主モードの弾性波46(弾性表面波、例えばSH(Shear Horizontal)波)は主に圧電基板14と中間層12および13との界面32および34において反射され、圧電基板14に閉じ込められる。よって、損失を抑制できる。主モードの弾性波より速いバルク波等の弾性波48は、界面32および34を通過し、支持基板10と中間層12との界面30で反射しIDT22に戻る。これにより、スプリアスとなる。界面30を粗面または凹凸面とすることで、弾性波48が界面30において散乱される。また、中間層12を厚くすることで、弾性波48が中間層12を伝搬するときに減衰する。これにより、スプリアスを抑制できる。
【0027】
圧電基板14は、単結晶タンタル酸リチウム(LiTaO3)基板または単結晶ニオブ酸リチウム(LiNbO3)基板であり、例えば回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板または回転YカットX伝搬ニオブ酸リチウム基板である。主モードの弾性波46がSH波の場合、圧電基板14は例えば36°~48°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板である。
【0028】
支持基板10は、例えばシリコン基板、サファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板、水晶基板、炭化シリコン基板または窒化シリコン基板である。シリコン基板は単結晶または多結晶のSi基板であり、サファイア基板は単結晶Al2O3基板であり、アルミナ基板は多結晶または非晶質Al2O3基板であり、スピネル基板は多結晶MgAl2O4基板であり、水晶基板は単結晶SiO2基板であり、炭化シリコン基板は単結晶、多結晶または非晶質SiC基板であり、窒化シリコン基板は多結晶または非晶質SiN基板である。支持基板10のX方向の線膨張係数は圧電基板14のX方向の線膨張係数より小さい。これにより、弾性波共振器の周波数温度依存性を小さくできる。
【0029】
中間層12は、例えば酸化アルミニウム層、窒化酸化アルミニウム層、窒化シリコン層またはシリコン層である。中間層12を伝搬するバルク波の音速は圧電基板14を伝搬するバルク波の音速より速い。これにより、圧電基板14内に弾性波46が閉じ込められる。中間層12は多結晶であり、結晶粒の平均粒径は100nm以上である。
【0030】
中間層13は、例えば酸化アルミニウム層または窒化酸化アルミニウム(AlON)層であり、中間層12と圧電基板14とを接合させる接合層である。中間層13は多結晶であり、結晶粒の平均粒径は100nm未満である。
【0031】
弾性波のエネルギーを圧電基板14内にある程度存在させるため、圧電基板14の厚さT4は例えば1λ以下である。弾性波を圧電基板14に閉じ込めるため、中間層12の厚さT2は例えば1λ以上である。支持基板10が他の層を支持するため、支持基板10の厚さは、例えば50μm以上である。中間層13の厚さT3は、接合層として機能するため例えば5nm以上であり、弾性波を反射しないため、100nm以下である。
【0032】
金属膜16は、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)またはモリブデン(Mo)を主成分とする膜である。電極指18と圧電基板14との間にチタン(Ti)膜またはクロム(Cr)膜等の密着膜が設けられていてもよい。密着膜は電極指18より薄い。電極指18を覆うように絶縁膜が設けられていてもよい。絶縁膜は保護膜または温度補償膜として機能する。
【0033】
弾性波の波長λは例えば1μmから6μmである。2本の電極指18を1対としたときの対数は例えば20対から300対である。IDT22のデュティ比は、電極指18の太さを電極指18のピッチで除した値であり、例えば30%から70%である。IDT22の開口長は例えば10λから50λである。
【0034】
[実施例1の製造方法]
図2(a)から
図3(c)は、実施例1に係る弾性波共振器の製造方法を示す断面図である。
図2(a)に示すように、支持基板10の上面を粗面または凹凸面とする。支持基板10の上面を不規則な粗面とする場合、支持基板10の上面を粗い研磨剤を用い研磨することで、支持基板10の上面を粗面とする。支持基板10の上面を規則的(すなわち周期的)な凹凸面とする場合、特許文献4のように支持基板10の上面に規則的な開口を有するマスク層を設けマスク層をマスクに支持基板10の上面をエッチングすることで、支持基板10の上面を凹凸面とする。
【0035】
図2(b)に示すように、支持基板10上に中間層12を例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法、スパッタリング法または真空蒸着法を用い形成する。中間層12の上面は粗面または凹凸面となる。中間層12の厚さはT2´である。厚さT2´は平均の厚さである。
図2(c)に示すように、中間層12の上面の研磨することにより中間層12の上面を平坦化する。中間層12の上面の研磨には例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing)法を用いる。これにより中間層12の厚さはT2となる。
【0036】
図2(d)に示すように、中間層12上に中間層13を形成する。中間層12の形成には例えばCVD法、スパッタリング法または真空蒸着法を用いる。中間層13の厚さはT3である。
図2(e)に示すように、中間層13の上面および圧電基板14の下面に原子またはイオン等を照射する(矢印55)。これにより、中間層13の上面および圧電基板14の下面が活性化する。
【0037】
図3(a)に示すように、中間層13の上面と圧電基板14の下面とを接触させ、中間層13の上面と圧電基板14の下面とを常温において直接接合する。
図3(b)に示すように、圧電基板14の上面を例えばCMP法を用い平坦化する。これにより、圧電基板14の厚さがT4となる。支持基板10上に圧電基板14が積層されたウエハ28が完成する。
図3(c)に示すように、圧電基板14上に金属膜16を形成することで、圧電基板14上にIDT22および反射器24を形成する。
【0038】
図4(a)から
図4(c)は、実施例1における基板の接合方法を示す模式図である。
図4(a)に示すように、中間層13は中間層13aおよび非晶質層13bを有する。中間層13aが多結晶酸化アルミニウムの場合、非晶質層13bはアルミニウム原子および酸素原子である原子50を有する。中間層13aが多結晶窒化酸化アルミニウムの場合、非晶質層13bはアルミニウム原子、窒素原子および酸素原子である原子50を有する。矢印55のように真空中において中間層13の上面に原子54またはイオンを照射する。原子54またはイオンが照射された領域は、非晶質層13bであり、原子50と照射された原子54を有する。
【0039】
図4(b)に示すように、圧電基板14は圧電基板14aおよび非晶質層14bを有する。圧電基板14aは、単結晶圧電基板であり、タンタル酸リチウム基板の場合、タンタル原子、リチウム原子および酸素原子である原子52を有し、ニオブ酸リチウム基板の場合、ニオブ原子、リチウム原子および酸素原子である原子を有する。矢印55のように真空中において圧電基板14の下面に原子54またはイオンを照射する。原子54またはイオンが照射された領域は、非晶質層14bであり、原子52と照射された原子54を有する。
【0040】
図4(a)および
図4(b)において、原子54は例えばアルゴン(Ar)、キセノン(Xe)またはクリプトン(Kr)等の不活性元素(例えば希ガス元素)である。原子54またはイオン等をイオンビーム、中性化したビームまたはプラズマとして、照射する。これにより、非晶質層13bの上面および非晶質層14bの下面に未結合の未結合手が形成される(すなわち非晶質層13bの上面および非晶質層14bの下面が活性化される)。アルゴンイオンを用いる場合、例えば表面活性化接合(SAB:Surface Activated Bonding)装置を用いればよい。
【0041】
図4(c)に示すように、真空を維持した状態で、矢印56のように支持基板10と圧電基板14とを押圧することで、非晶質層13bと14bとを張り合わせる。このとき、非晶質層13bおよび14bの表面に形成された未結合手同士が結合し、強固な結合となる。これにより、中間層13と圧電基板14が接合される。このような接合は常温(例えば100℃以下かつ-20℃以上、好ましくは80℃以下かつ0℃以上)で行われるため熱応力を抑制できる。常温で接合されたか否かは、残留応力の温度依存性により確かめることができる。すなわち、接合された温度において、残留応力が最も小さくなる。
【0042】
非晶質層13bは、中間層13の構成元素を主成分とし、表面活性化のための元素(例えばアルゴン)を含む。非晶質層14bは、圧電基板14の構成元素を主成分とし、表面活性化のための元素(例えばアルゴン)を含む。中間層13が酸化アルミニウム膜のとき、非晶質層13bはアルミニウムおよび酸素を主成分とし、表面活性化のための元素(例えばアルゴン)を含む。中間層13が窒化酸化アルミニウム膜のとき、非晶質層13bはアルミニウム、窒素および酸素を主成分とし、表面活性化のための元素(例えばアルゴン)を含む。圧電基板14がタンタル酸リチウム基板のとき非晶質層14bはタンタル、リチウムおよび酸素を主成分とし、表面活性化のための元素(例えばアルゴン)を含む。圧電基板14がニオブ酸リチウム基板のとき非晶質層14bはニオブ、リチウムおよび酸素を主成分とし、表面活性化のための元素(例えばアルゴン)を含む。
【0043】
非晶質層13bおよび14bの合計の厚さは、0nmより大きいことが好ましく、0.5nm以上がより好ましい。これにより、中間層13と圧電基板14との接合性を向上させることができる。非晶質層13bおよび14bの合計の厚さは、10nm以下が好ましく、5nm以下がより好ましい。これにより、弾性波共振器の特性の劣化を抑制できる。
【0044】
[実験1]
実施例1における
図2(a)~
図3(b)を行い、ウエハ28を作製した。実験1におけるウエハ28の作成方法は以下である。
図2(a)において、算術平均粗さRaが約150nmの不規則な粗面を上面とするサファイア基板を支持基板10として準備する。支持基板10のサイズは4インチである。
図2(b)において、スパッタリング法を用い、支持基板10上に酸化アルミニウム層を中間層12として形成する。このとき、中間層12の上面の算術平均粗さRaは15nm~27nmである。
図2(c)として、中間層12の上面をCMP法を用い平坦化する。これにより、中間層12の厚さT2となる。このとき、中間層12の上面の算術平均粗さRaは約0.2nmである。
図2(d)において、スパッタリング法を用い、中間層12に厚さT3の窒化酸化アルミニウム層を中間層13として形成する。
図2(e)において、アルゴンを圧電基板14の下面および中間層13の上面に照射し、圧電基板14の下面および中間層13の上面を活性化する。
図3(a)において、圧電基板14の下面と中間層13の上面とを常温において接合する。
図3(b)において、圧電基板14の上面をCMP法を用い研磨し圧電基板14の厚さT4とする。
【0045】
図5(a)および
図5(b)は、実施例1におけるウエハの製造方法において中間層の上面のAFM画像を示す図である。
図5(a)は、
図2(b)における中間層12の上面のAFM画像であり、
図5(b)は、
図2(d)における中間層13の上面のAFM画像である。中間層12および13の厚さT2´およびT3は10μmおよび40nmである。
【0046】
図5(a)に示すように、中間層12の上面に結晶粒35が観察できる。結晶粒35の粒径は100nm~2μmである。結晶粒35の平均粒径を以下のように算出する。
図5(a)の10μm×10μmの画像内の結晶粒35の個数を計測する。画像の外周にかかる結晶粒35は1/2個として計測する。面積S(例えば10μm×10μm)を結晶粒35の個数Nで除することで結晶粒35の平均面積s=S/Nが算出できる。結晶粒35の断面が円形と仮定したとき、結晶粒35の平均粒径をrとすると、s=π×(r/2)
2である。これにより、結晶粒35の平均粒径rが算出できる。
図5(a)の画像では、結晶粒の平均粒径rは1629nmである。
【0047】
図5(b)に示すように、中間層13の上面の結晶粒35の粒径は非常に小さい。結晶粒35の粒径は2nm~100nmである。
図5(b)を拡大した0.1μm×0.1μmの画像から
図5(a)と同様の方法で算出した結晶粒35の平均粒径17nmである。
【0048】
図6(a)から
図6(c)は、実施例1におけるウエハの製造方法において中間層の上面のAFM画像を示す図である。
図6(a)から
図6(c)は、それぞれ中間層12の厚さT2´が4μm、6μmおよび10μmのときの
図2(b)における中間層12の上面のAFM画像である。中間層12の形成方法等は
図5(a)と同じである。
図6(a)から
図6(c)に示すように、中間層12の厚さT2´が厚くなると、結晶粒35の粒径が大きくなる傾向がある。
【0049】
[比較例1:実験2]
比較例1として、
図2(c)において、中間層12の上面を約2μm研磨し、厚さT2が10μmの中間層12を形成した。
図2(d)における中間層13の形成を行わず、中間層12上に圧電基板14を直接接合したウエハを作製した。その他のウエハの製造方法は実施例1の
図2(a)~
図3(b)と同じである。
【0050】
図7(a)および
図7(b)は、比較例1におけるウエハの製造方法において中間層の上面のAFM画像を示す図である。
図7(a)は、
図2(b)における中間層12の上面のAFM画像であり、
図7(b)は、
図2(c)における中間層12の上面のAFM画像である。
図7(a)のように、CMP前の中間層12の上面には粒径が1μm~2μmの結晶粒が観察され、上面の凹凸が大きい。
図7(b)に示すように、中間層12の上面をCMP法により研磨することで上面の凹凸が小さくなる。
【0051】
図8(a)および
図8(b)は、比較例1におけるウエハの製造方法においてウエハの平面模式図である。
図8(a)は、
図3(b)における圧電基板14を研磨のウエハの平面模式図である。
図8(a)に示すように、圧電基板14を接合後のウエハでは中間層12と圧電基板14とは接合されているようにみえる。
図8(b)に示すように、圧電基板14の厚さT4が波長λ以下になるように圧電基板14の上面を研磨すると、ウエハ28の前面に渦状の圧電基板14の剥がれが観察される。
【0052】
このように、比較例1では、
図7(a)のように、中間層12の結晶粒35の粒径が大きく、中間層12の上面の凹凸が大きい場合であっても、
図7(b)のように、中間層12の上面をCMP法を用い平坦化することで、中間層12の上面が平坦になる。
図8(a)のように、中間層12上に圧電基板14を直接接合できているようにみえる。しかし、
図8(b)のように、圧電基板14を研磨すると、中間層12から圧電基板14が剥がれてしまう。このように、中間層12の結晶粒35が大きい場合、中間層12の上面を平坦化しても中間層12と圧電基板14との接合強度が低下する。
【0053】
[実験3]
中間層12の結晶粒が大きくなる理由を調べるため、支持基板10の上面が粗面の場合と鏡面の場合について、支持基板10上に中間層12をスパッタリング法を用い形成し、中間層12の上面をAFM観察した。支持基板10の上面が粗面の場合の算術平均粗さRaは約150nmである。支持基板10の上面が鏡面の場合の算術平均粗さRaは0.1nm以下である。
【0054】
図9(a)から
図9(c)は、実験3における中間層の上面のAFM画像である。支持基板10の上面は粗面である。
図9(a)から
図9(c)は、それぞれ中間層12の厚さT2´が4μm、6μmおよび10μmである。
図9(a)から
図9(c)に示すように、中間層12の厚さT2´のいずれのウエハも結晶粒35の粒径は1μm以上である。
【0055】
図10(a)から
図10(c)は、実験3における中間層の上面のAFM画像である。支持基板10の上面は鏡面である。
図10(a)から
図10(c)は、それぞれ中間層12の厚さT2´が4μm、6μmおよび10μmである。
図10(a)から
図10(c)に示すように、中間層12の厚さT2´のいずれのウエハも結晶粒35の粒径は400nm以下である。厚さT2´が大きくなると結晶粒35の粒径は大きくなるように見える。
【0056】
実験3のように、中間層12の結晶粒35は支持基板10の上面が粗面または凹凸面の場合大きくなる。また、
図6(a)から
図6(c)のように、中間層12の厚さT2´が厚くなると結晶粒35の粒径が大きくなる。実験2のように、中間層12の結晶粒35が大きい場合、中間層12の上面をCPM法を用い平坦化しても、中間層12上に圧電基板14を直接接合すると接合強度が低下する。
【0057】
[実験4]
実施例1のウエハの製造方法において中間層12の厚さT2´を4μm、6μmおよび10μmと変えた。中間層13の厚さT3を10nm、20nmおよび40nmと変えた。圧電基板14の厚さT4を1.2μmとした。
図2(c)におけるCMP法を用いた研磨量[μm]を1.3μm、2.0μmおよび2.5μmと変えた。
図3(b)において、ウエハ28における圧電基板14のはがれを観察した。
【0058】
表1は、実験1における圧電基板14の剥がれの程度を示す表である。
【表1】
【0059】
剥がれの程度は「A」、「B」、「C」および「D」で表した。「A」はウエハ28の外周から5mmより内側に圧電基板14の剥がれが観測されていないことを示す。「B」はウエハ28の外周から15mmより内側に圧電基板14の剥がれが観測されていないことを示す。「C」はウエハ28の外周から30mmより内側に圧電基板14の剥がれが観測されていないことを示す。「D」はウエハ28の全面に圧電基板14の剥がれが観測されることを示す。「A」から「D」に行くに従い剥がれの程度が悪くなる。実験2の
図8(b)の剥がれは「D」に相当する。
【0060】
表1に示すように、ほとんどの場合において、圧電基板14の剥がれは実験2の
図8(b)より改善する。中間層12の厚さT2が薄くかつ中間層13のT3が厚い方が圧電基板14の剥がれは改善する。
【0061】
図2(b)のように、表面に凹凸を有する支持基板上に中間層12(第1中間層)を形成すると、結晶粒35の平均粒径が100nm以上となる。
図2(c)のように、中間層12の表面を平坦化する。実験2の比較例1のように、この状態で中間層12上に圧電基板14を直接接合すると、圧電基板14の接合強度が低下する。そこで、実施例1では、
図2(d)のように、中間層12の表面に、結晶粒の平均粒径が100nm未満であり、中間層12より薄い中間層13(第2中間層)を形成する。
図2(e)および
図3(a)のように、中間層13上に圧電基板14を直接接合する。これにより、中間層12と圧電基板14との接合強度の大きいウエハを製造できる。
【0062】
このようにウエハ28を製造すると、ウエハおよび弾性波デバイスでは、支持基板10と中間層12との界面30が粗面または凹凸面となる。中間層12と13との界面32の粗さは界面30の粗さより小さくなる。中間層13と圧電基板14との界面34の粗さは界面30の粗さより小さくなる。
【0063】
結晶粒35の平均粒径は以下のように求めることができる。10個以上、好ましくは20個以上の結晶粒が含まれるAFM画像、SEM(Scanning Electron Microscope)画像またはTEM(Transmission Electron Microscope)画像を取得する。画像は平面方向の画像であることが好ましい。取得した画像において、画像の面積Sを結晶粒35の個数Nで除することで結晶粒35の平均面積s=S/Nを求める。s=π×(r/2)2となるようなrを平均粒径とすればよい。
【0064】
中間層12内の結晶粒35の平均粒径が大きくなると、圧電基板14と中間層12の接合強度が低下するため、中間層13を設ける。この観点から中間層12内の結晶粒35の平均粒径は、200nm以上が好ましく、500nm以上がより好ましく、1000nm以上がさらに好ましい。中間層12内の結晶粒35の平均粒径が大きくなりすぎると、中間層12の上面の平坦化が難しくなる。この観点から中間層12内の結晶粒35の平均粒径は10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。
【0065】
中間層13内の結晶粒の平均粒径が大きくなると、圧電基板14と中間層13の接合強度が低下する。この観点から中間層13内の結晶粒の平均粒径は、50nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましい。中間層13内の結晶粒の平均粒径は、中間層12内の結晶粒35の平均粒径の1/10以下が好ましく、1/20以下がより好ましく、1/50以下がさらに好ましい。
【0066】
界面30の算術平均粗さRaが大きいと中間層12の結晶粒35が大きくなり、圧電基板14が中間層12から剥がれやすくなり、中間層13を設けることになる。この観点から、界面30の算術平均粗さRaは、10nm以上であり、100nm以上が好ましい。界面30の算術平均粗さRaが大きいと、中間層12の形成が難しくなる。この観点から、界面30の算術平均粗さRaは、1μm以下が好ましい。
【0067】
圧電基板14と中間層13との接合強度を高める観点から界面32および34の算術平均粗さRaは1nm以下が好ましく、0.5nm以下がより好ましく、0.2nm以下がさらに好ましい。
【0068】
界面30、32および34の表面粗さは、製造工程中に、支持基板10、中間層12および13の表面の粗さをAFM法等により測定することで算出できる。ウエハおよび弾性波デバイスにおける界面30、32および34の粗さは、断面SEM画像または断面TEM画像により比較できる。
【0069】
表面活性化法を用い中間層12上に圧電基板14を直接接合する工程を含む場合、圧電基板14が中間層12から剥がれやすくなる。よって、中間層13を設けることが好ましい。
【0070】
このようにウエハ28を製造すると、ウエハおよび弾性波デバイスでは、
図4(c)のように、圧電基板14は中間層13との界面に非晶質層14b(アモルファス層)を有する。非晶質層14bは圧電基板14の構成元素を主成分とする。中間層13は圧電基板14との界面に非晶質層13bを有してもよい。非晶質層13bは中間層13の構成元素を主成分とする。
【0071】
圧電基板14との接合強度を高めるため、中間層13は、酸化アルミニウムまたは窒化酸化アルミニウムを主成分とする。中間層12と13との接合強度を高めかつ圧電基板14より弾性波の音速を速くするため、中間層12は、酸化アルミニウムまたは窒化酸化アルミニウムを主成分とする。ある層がある元素を主成分とするとは、意図的または意図せず含有する不純物を許容し、例えばある層のある元素の濃度は50原子%以上であり、80原子%以上であり、90原子%以上である。中間層12および13が酸化アルミニウムを主成分とする場合、中間層12および13内のアルミニウム濃度と酸素濃度との合計は50原子%以上、80原子%以上または90原子%以上である。また、中間層12および13内のアルミニウム濃度および酸素濃度は各々10原子%以上または20原子%以上である。中間層12および13が窒化酸化アルミニウムを主成分とする場合、中間層12および13内のアルミニウム濃度と窒素濃度と酸素濃度との合計は50原子%以上、80原子%以上または90原子%以上である。また、中間層12および13内のアルミニウム濃度、窒素濃度および酸素濃度は各々10原子%以上または20原子%以上である。
【0072】
表1のように、接合強度の観点では中間層12は薄い方が好ましい。中間層12の厚さT2は、例えば10μm以下が好ましく、6μm以下がより好ましい。スプリアスの抑制の観点からT2は電極指18の平均ピッチDの2倍(1λ)以上が好ましく、3倍(1.5λ)以上がより好ましい。表1のように、接合強度の観点では中間層13は厚い方が好ましい。中間層13の厚さT3は、例えば20nm以上が好ましく、40nm以上がより好ましい。厚さT3が厚くなると、界面34付近の粒径が大きくなり、中間層13と圧電基板14との接合強度が小さくなる。この観点から厚さT3は1μm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。厚さT3は厚さT2の0.1倍以下が好ましく、0.05倍以下がより好ましい。
【0073】
弾性波のエネルギーを圧電基板14の閉じ込めるため、圧電基板14の厚さT4は櫛型電極20の電極指18の平均ピッチDの2倍(1λ)以下が好ましく、1.6倍(0.8λ)以下がより好ましく、1.2倍(0.6λ)以下がさらに好ましい。圧電基板14が薄すぎると弾性波が励振できない。この観点から厚さT4は0.2倍以上が好ましい。電極指18の平均ピッチはIDT22のX方向の幅を電極指18の本数で除することで算出できる。
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。