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特開2022-174981締付ボルト締付状態判定装置、締付ボルト締結状態判定システム及び締付ボルト締結状態判定方法
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  • 特開-締付ボルト締付状態判定装置、締付ボルト締結状態判定システム及び締付ボルト締結状態判定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022174981
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】締付ボルト締付状態判定装置、締付ボルト締結状態判定システム及び締付ボルト締結状態判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/00 20190101AFI20221117BHJP
   G01N 29/04 20060101ALI20221117BHJP
   G01N 29/46 20060101ALI20221117BHJP
   G01N 29/48 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
G01M13/00
G01N29/04
G01N29/46
G01N29/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081068
(22)【出願日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 正
(72)【発明者】
【氏名】原 賢一
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀和
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕矢
【テーマコード(参考)】
2G024
2G047
【Fターム(参考)】
2G024AA03
2G024BA25
2G024CA13
2G024DA12
2G024FA04
2G024FA06
2G047AA05
2G047AC07
2G047BA04
2G047BC04
2G047BC11
2G047CA03
2G047EA14
2G047GD02
2G047GG12
2G047GG17
2G047GG28
2G047GG33
2G047GG34
2G047GG38
(57)【要約】
【課題】回転機械の動翼を固定するための締付ボルトの締付状態を簡素な構成で判定することができる締付ボルト締付状態判定装置を提供する。
【解決手段】回転機械の動翼を固定するための締付ボルトの締付状態を判定するため締付ボルト締付状態判定装置であって、固有振動数帯振幅算出部によって算出した固有振動数帯振幅とオーバーオール振幅算出部によって算出したオーバーオール振幅との比率である振幅比率を算出するように構成された振幅比率算出部と、振幅比率算出部によって算出した振幅比率に基づいて締付ボルトの締付状態を判定するように構成された締付状態判定部と、を備える。
【選択図】 図4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械の動翼を固定するための締付ボルトの締付状態を判定するため締付ボルト締付状態判定装置であって、
前記締付ボルトに対する打撃による前記締付ボルトの振動を示す振動信号の周波数分析を行い、前記振動信号の各周波数成分の振幅を積算した値であるオーバーオール振幅を算出するように構成されたオーバーオール振幅算出部と、
前記締付ボルトの振動を示す前記振動信号から、前記締付ボルトの固有振動数を含む周波数帯である固有振動数帯の成分を抽出するように構成された固有振動数帯成分抽出部と、
前記固有振動数帯成分抽出部によって抽出された前記固有振動数帯の成分について、前記固有振動数帯の各周波数成分の振幅を積算した値である固有振動数帯振幅を算出するように構成された固有振動数帯振幅算出部と、
前記固有振動数帯振幅算出部によって算出した前記固有振動数帯振幅と、前記オーバーオール振幅算出部によって算出した前記オーバーオール振幅との比率である振幅比率を算出するように構成された振幅比率算出部と、
前記振幅比率算出部によって算出した前記振幅比率に基づいて、前記締付ボルトの締付状態を判定するように構成された締付状態判定部と、
を備える、締付ボルト締付状態判定装置。
【請求項2】
前記締付状態判定部は、前記振幅比率算出部によって算出した前記振幅比率と閾値との比較に基づいて、前記締付ボルトの締付状態を判定するように構成された、請求項1に記載の締付ボルト締付状態判定装置。
【請求項3】
前記締付状態判定部は、前記締付ボルトに対する複数回の打撃における前記振幅比率の平均値に基づいて、前記締付ボルトの締付状態を判定するように構成された、請求項1に記載の締付ボルト締付状態判定装置。
【請求項4】
前記締付状態判定部は、前記振幅比率の平均値と閾値との比較に基づいて、前記締付ボルトの締付状態を判定するように構成された、請求項3に記載の締付ボルト締付状態判定装置。
【請求項5】
前記振幅比率算出部は、前記固有振動数帯振幅算出部によって算出した前記固有振動数帯振幅を、前記オーバーオール振幅算出部によって算出した前記オーバーオール振幅で除算することで前記振幅比率を算出するように構成され、
前記閾値は0.5以上1未満である、請求項2又は4に記載の締付ボルト締付状態判定装置。
【請求項6】
前記振幅比率算出部は、前記オーバーオール振幅算出部によって算出した前記オーバーオール振幅を、前記固有振動数帯振幅算出部によって算出した前記固有振動数帯振幅で除算することで前記振幅比率を算出するように構成され、
前記閾値は1より大きく2以下である、請求項2又は4に記載の締付ボルト締付状態判定装置。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の締付ボルト締付状態判定装置と、前記締付ボルトの振動を検出する振動センサと、を備える、締付ボルト締付状態判定システム。
【請求項8】
回転機械の動翼を固定するための締付ボルトの締付状態を判定するため締付ボルト締付状態判定方法であって、
前記締付ボルトに対する打撃による前記締付ボルトの振動を示す振動信号の周波数分析を行い、前記振動信号の各周波数成分の振幅を積算した値であるオーバーオール振幅を算出するオーバーオール振幅算出ステップと、
前記締付ボルトの振動を示す前記振動信号から、前記締付ボルトの固有振動数を含む周波数帯である固有振動数帯の成分を抽出する固有振動数帯成分抽出ステップと、
前記固有振動数帯成分抽出ステップで抽出された前記固有振動数帯の成分について、前記固有振動数帯の各周波数成分の振幅を積算した値である固有振動数帯振幅を算出する固有振動数帯振幅算出ステップと、
前記固有振動数帯振幅算出ステップで算出した前記固有振動数帯振幅と、前記オーバーオール振幅算出ステップで算出した前記オーバーオール振幅との比率である振幅比率を算出する振幅比率算出ステップと、
前記振幅比率算出ステップで算出した前記振幅比率に基づいて、前記締付ボルトの締付状態を判定する締付状態判定ステップと、
を備える、締付ボルト締付状態判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、締付ボルト締付状態判定装置、締付ボルト締結状態判定システム及び締付ボルト締結状態判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、缶製品の内容物の判別や気密検査、ボルトの緩み判定、構造物の表面剥離や割れ・内部傷などの検査、鋳物の内部空洞検査等に用いられる打音判定装置が開示されている。この打音判定装置では、打音信号を複数のバンドパスフィルタにて複数の周波数帯域ごとの時系列信号に変換し、時系列信号の最大値を周波数帯域ごとに抽出し、各最大値を基準値と比較して打音の判定が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-300730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の打音判定装置では、複数の周波数帯域について周波数帯域毎のバンドパスフィルタを設ける必要があるため、装置構成が複雑となる。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも一実施形態は、回転機械の動翼を固定するための締付ボルトの締付状態を簡素な構成で判定することができる締付ボルト締付状態判定装置、締付ボルト締結状態判定システム及び締付ボルト締結状態判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示の少なくとも一実施形態に係る締付ボルト締付状態判定装置は、
回転機械の動翼を固定するための締付ボルトの締付状態を判定するため締付ボルト締付状態判定装置であって、
前記締付ボルトに対する打撃による前記締付ボルトの振動を示す振動信号の周波数分析を行い、前記振動信号の各周波数成分の振幅を積算した値であるオーバーオール振幅を算出するように構成されたオーバーオール振幅算出部と、
前記締付ボルトの振動を示す前記振動信号から、前記締付ボルトの固有振動数を含む周波数帯である固有振動数帯の成分を抽出するように構成された固有振動数帯成分抽出部と、
前記固有振動数帯成分抽出部によって抽出された前記固有振動数帯の成分について、前記固有振動数帯の各周波数成分の振幅を積算した値である固有振動数帯振幅を算出するように構成された固有振動数帯振幅算出部と、
前記固有振動数帯振幅算出部によって算出した前記固有振動数帯振幅と、前記オーバーオール振幅算出部によって算出した前記オーバーオール振幅との比率である振幅比率を算出するように構成された振幅比率算出部と、
前記振幅比率算出部によって算出した前記振幅比率に基づいて、前記締付ボルトの締付状態を判定するように構成された締付状態判定部と、
を備える。
【0007】
上記目的を達成するため、本開示の少なくとも一実施形態に係る締付ボルト締付状態判定システムは、
前記締付ボルト締付状態判定装置と、前記締付ボルトの振動を検出する振動センサと、を備える。
【0008】
上記目的を達成するため、本開示の少なくとも一実施形態に係る締付ボルト締付状態判定方法は、
回転機械の動翼を固定するための締付ボルトの締付状態を判定するため締付ボルト締付状態判定方法であって、
前記締付ボルトに対する打撃による前記締付ボルトの振動を示す振動信号の周波数分析を行い、前記振動信号の各周波数成分の振幅を積算した値であるオーバーオール振幅を算出するオーバーオール振幅算出ステップと、
前記締付ボルトの振動を示す前記振動信号から、前記締付ボルトの固有振動数を含む周波数帯である固有振動数帯の成分を抽出する固有振動数帯成分抽出ステップと、
前記固有振動数帯成分抽出ステップで抽出された前記固有振動数帯の成分について、前記固有振動数帯の各周波数成分の振幅を積算した値である固有振動数帯振幅を算出する固有振動数帯振幅算出ステップと、
前記固有振動数帯振幅算出ステップで算出した前記固有振動数帯振幅と、前記オーバーオール振幅算出ステップで算出した前記オーバーオール振幅との比率である振幅比率を算出する振幅比率算出ステップと、
前記振幅比率算出ステップで算出した前記振幅比率に基づいて、前記締付ボルトの締付状態を判定する締付状態判定ステップと、
を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、回転機械の動翼を固定するための締付ボルトの締付状態を簡素な構成で判定することができる締付ボルト締付状態判定装置、締付ボルト締結状態判定システム及び締付ボルト締結状態判定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る締付ボルト締付状態判定システム2の概略構成を示すブロック図である。
図2】分析器22による振動信号の周波数分析の結果である周波数スペクトルの一例を模式的に示す図である。
図3】分析器26による振動信号の周波数分析の結果である周波数スペクトルの一例を模式的に示す図である。
図4】他の実施形態に係る締付ボルト締付状態判定システム2の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0012】
図1は、一実施形態に係る締付ボルト締付状態判定システム2の概略構成を示すブロック図であり、締付ボルト締付状態判定システム2とともに軸流送風機10の動翼14の近傍部を示している。
【0013】
図1に示すように、締付ボルト締付状態判定システム2は、振動センサ4と、振動センサ4の出力信号に基づいて締付ボルト6の締付状態を判定するように構成された締付ボルト締付状態判定装置8とを備える。図示する例では、締付ボルト6は、軸流送風機10(回転機械)が備えるロータ12の動翼14をロータ12のハブ16に固定するための締付ボルトである。
【0014】
振動センサ4は、締付ボルト6の頭部18に設置されており、ハンマー40で締付ボルト6を打撃することで発生する締付ボルト6の振動を検出して電気信号に変換するように構成されている。すなわち、振動センサ4は、ハンマー40で締付ボルト6を打撃したときの締付ボルト6の振動を示す振動信号を電気信号として出力するように構成されている。振動センサ4としては、締付ボルト6の振動を比較的高周波領域まで検出できる圧電型加速度ピックアップを好適に用いることができるが、振動センサ4による振動の検出方式は特に限定されず、例えば音の領域まで検出可能なマイクロフォンを振動センサ4として用いてもよい。
【0015】
図1に示すように、締付ボルト締付状態判定装置8は、増幅器20(増幅部)、分析器22(オーバーオール振幅算出部)、バンドパスフィルタ24(固有振動数帯成分抽出部)、分析器26(固有振動数帯振幅算出部)、除算器28(振幅比率算出部)、平均化演算器30(平均化演算部)及び判定器32(締付状態判定部)を備える。
【0016】
増幅器20には、ハンマー40で締付ボルト6を打撃したときに振動センサ4が出力する出力信号(締付ボルト6に対する打撃による締付ボルト6の振動を示す振動信号)が入力される。増幅器20は、振動センサ4の出力信号を増幅するように構成されている。
【0017】
分析器22には、増幅器20によって増幅された上記振動信号が入力される。分析器22は、周波数分析器である。分析器22は、増幅器20によって増幅された上記振動信号についてFFT(高速フーリエ変換)による周波数分析を行い、該振動信号の各周波数成分の振幅を積算した値であるオーバーオール振幅VSRDを算出するように構成されている。
【0018】
図2は、分析器22による上記振動信号の周波数分析の結果である周波数スペクトルの一例を模式的に示す図である。図2に示すように、分析器22は、増幅器20によって増幅された上記振動信号についてFFTによる周波数分析を行うことにより、該振動信号の周波数スペクトルとして該振動信号の各周波数成分の振幅を算出し、該振動信号の各周波数成分の振幅を積算することにより、上記オーバーオール振幅VSRDを算出する。このオーバーオール振幅VSRDは、図2に示す周波数スペクトル全体の面積(図2においてハッチングを付した部分の面積)に相当する。
【0019】
一方、分析器26には、増幅器20によって増幅された上記振動信号がバンドパスフィルタ24を通ってから入力される。バンドパスフィルタ24は、図3に示すように、増幅器20によって増幅された上記振動信号から、締付ボルト6の固有振動数Fnを含む周波数帯である固有振動数帯FBの成分を抽出するように構成されている。すなわち、バンドパスフィルタ24は、締付ボルト6の固有振動数Fnを含む固有振動数帯FBのみを通し、固有振動数帯FB以外の周波数は通さないように構成されている。バンドパスフィルタ24は、例えば、締付ボルト6の固有振動数が9000Hzであれば、8500~9500Hzの通過帯域を固有振動数帯FBとして有しててもよい。固有振動数帯FBは、締付ボルト6が適切な規定トルクで締め付けられている場合に後述の振幅比率が1に近い値(例えば0.5以上1未満の値)となるような周波数帯である。
【0020】
分析器26は、周波数分析器である。分析器26は、バンドパスフィルタ24を通過した振動信号についてFFT(高速フーリエ変換)による周波数分析を行い、バンドパスフィルタ24によって抽出された固有振動数帯FBにおける各周波数成分の振幅を固有振動数帯FBに亘って積算した値である固有振動数帯振幅VBPFを算出するように構成されている。この固有振動数帯振幅VBPFは、図3に示す周波数スペクトルにおける2本の破線で挟まれた領域の面積(図3においてハッチングを付した部分の面積)に相当する。例えば、バンドパスフィルタ24が8500~9500Hzの通過帯域を有している場合には、分析器26は、8500~9500Hzおける各周波数成分の振幅を足し合わせた値である固有振動数帯振幅VBPFを算出する。
【0021】
除算器28は、分析器26により算出した固有振動数帯振幅VBPFを、分析器22により算出したオーバーオール振幅VSRDで除算することにより、固有振動数帯振幅VBPFとオーバーオール振幅VSRDとの比率である振幅比率VBPF/VSRDを算出するように構成されている。
【0022】
平均化演算器30は、除算器28で算出した振幅比率VBPF/VSRDをハンマー40で締付ボルト6を打撃した回数によって平均化するように構成されている。すなわち、締付ボルト6に対する複数回の打撃における振幅比率VBPF/VSRDの平均値を算出するように構成されている。例えば、ハンマー40で締付ボルト6を打撃した回数をn回とすると、n回の打撃のうちi番目の打撃に対応する上記オーバーオール振幅をVSRDi、n回の打撃のうちi番目の打撃に対応する上記固有振動数帯振幅をVBPFi、n回の打撃のうちi番目の打撃に対応する上記振幅比率をVBPFi/VSRDiとすると、平均化演算器30は、下記式(a)により、締付ボルト6に対するn回の打撃における上記振動信号の振幅比率VBPF/VSRDの平均値Anを算出するように構成されている。
ここで、nは1以上の整数であり、iは1以上n以下の整数である。
【0023】
判定器32は、除算器28によって算出した振幅比率VBPF/VSRDに基づいて締付ボルト6の締付状態を判定するように構成されている。図示する実施形態では、判定器32は、平均化演算器30によって算出した振幅比率VBPF/VSRDの平均値Anを用いて、締付ボルト6の締付状態を判定するように構成されている。具体的には、判定器32は、平均化演算器30によって算出した振幅比率VBPF/VSRDの平均値Anが1に近いほど、締付ボルト6の締付状態を良好である(締付ボルト6の緩みが小さい)と判定する。すなわち、判定器32は、判定器32は、平均化演算器30によって算出した振幅比率VBPF/VSRDの平均値Anが1から離れるほど、締付ボルト6の締付状態を悪い状態である(締付ボルト6の緩みが大きい)と判定する。
【0024】
上記の締付ボルト締付状態判定装置8によれば、上記振動信号から締付ボルト6の固有振動数Fnを含む固有振動数帯FBの成分を抽出して、固有振動数帯FBの各周波数成分の振幅を積算した値である固有振動数帯振幅VBPFを算出し、固有振動数帯振幅VBPFとオーバーオール振幅VSRDとの比率である振幅比率VBPF/VSRDに基づいて締付ボルト6の締付状態を判定している。
【0025】
ここで、締付ボルト6の固有振動数を含む適切な幅の固有振動数帯FBを通過帯域とするバンドパスフィルタ24を用いれば、締付ボルト6の締結状態が良好である場合(締付ボルト6が規定トルクで適切に締め付けられている場合)には、除算器28によって算出される振幅比率VBPF/VSRDは1に近い値となる。また、振幅比率VBPF/VSRDは、締付ボルト6の締付状態が悪化するにつれて(締付ボルト6の緩みが大きくなるにつれて)小さくなる。このため、特許文献1に記載のように多くのバンドパスフィルタ24を用いなくとも、振幅比率VBPF/VSRDに基づいて締付ボルト6の締付状態を定量的に判定することができる。すなわち、締付ボルト6の締付状態を簡素な構成で定量的に判定することができる。
【0026】
また、上記の締付ボルト締付状態判定装置8によれば、平均化演算器30によって上記振動信号の振幅比率VBPF/VSRDの平均値Anを算出し、該平均値Anに基づいて締付ボルト6の締付状態を判定している。このため、ハンマー40で締付ボルト6を複数回打撃した場合において、打撃の強さ等のバラツキや周囲のノイズが締付ボルト6の締結状態に与える影響を低減することができ、締付ボルト6の締付状態の判定の信頼性を向上することができる。すなわち、締付ボルト6の締付状態を精度良く判定することができる。
【0027】
図4は、他の実施形態に係る締付ボルト締付状態判定システム2の概略構成を示すブロック図である。図4に示す締付ボルト締付状態判定システム2において、図1に示した締付ボルト締付状態判定システム2の各構成と共通の符号は、特記しない限り図1に示した締付ボルト締付状態判定システム2の各構成と同様の構成を示すものとし、説明を省略する。
【0028】
図4に示す締付ボルト締付状態判定システム2は、比較器50及び記憶部52を更に備えている点が図1に示す締付ボルト締付状態判定システム2と異なる。
【0029】
比較器50は、平均化演算器30によって算出した上記振幅比率VBPF/VSRDの平均値Anと、記憶部52に記憶された閾値Athとを比較するように構成されている。
【0030】
判定器32は、比較器50における上記振幅比率VBPF/VSRDの平均値Anと閾値Athとの比較の結果に基づいて、締付ボルト6の締付状態を判定する。判定器32は、平均化演算器30によって算出した上記振幅比率VBPF/VSRDの平均値Anが記憶部52に記憶された閾値Ath以上である場合に、締付ボルト6の締付状態が良好である(すなわち締付ボルト6が規定トルクで適切に締め付けられている)と判定し、上記振幅比率VBPF/VSRDの平均値Anが上記閾値Ath未満である場合に、締付ボルト6の締付状態が良好ではない(すなわち締付ボルト6が規定トルクで適切に締め付けられておらず、締付ボルト6が緩んでいる)と判定する。
【0031】
なお、記憶部52に記憶する閾値Athは、予め試験等を行って締付ボルト6の締付力と上記振幅比率VBPF/VSRDとの相関を求めておき、その相関に基づいて定められてもよい。この閾値Athは、例えば0.5以上1未満の値であってもよく、好ましくは0.7以上0.9未満の値(例えば0.8)であってもよい。
【0032】
このように、締付ボルト6の締付力と上記振幅比率VBPF/VSRDとの相関を考慮して定めた閾値Athを用いて締付ボルト6が良好に締め付けられているか否かを判定することにより、締付ボルト6の締付状態の判定の信頼性を向上することができる。すなわち、締付ボルト6の締付状態を精度良く判定することができる。
【0033】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0034】
例えば、上述した実施形態では、締付ボルト6の振動を示す振動信号から、締付ボルト6の固有振動数Fnを含む固有振動数帯FBの成分を抽出するための固有振動数帯成分抽出部としてバンドパスフィルタ24を用いたが、固有振動数帯成分抽出部の構成はバンドパスフィルタに限らない。固有振動数帯成分抽出部は、例えばローパスフィルタとハイパスフィルタの組み合わせを用いて締付ボルト6の固有振動数Fnを含む固有振動数帯FBの成分を抽出するように構成されていてもよい。
【0035】
また、締付ボルト締付状態判定装置8は、電気回路から構成されてもよいし、コンピュータから構成されてもよい。締付ボルト締付状態判定装置は、コンピュータから構成される場合、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等の記憶装置と、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサとを備え、プロセッサが、記憶装置に記憶されているプログラムを実行することにより、その機能を実現する。
【0036】
また、除算器28は、分析器22により算出したオーバーオール振幅VSRDを分析器26により算出した固有振動数帯振幅VBPFで除算することにより、固有振動数帯振幅VBPFとオーバーオール振幅VSRDとの比率である振幅比率VSRD/VBPFを算出してもよい。この場合、振幅比率VSRD/VBPFは1よりも大きい値となり、締付ボルト6の緩みが大きくなるにつれて振幅比率VSRD/VBPFは大きくなる。この場合、判定器32は、振幅比率VSRD/VBPFの平均値Anが1に近いほど、締付ボルト6の緩みを小さいと判定してもよい。また、判定器32は、振幅比率VSRD/VBPFが閾値Athよりも小さい場合に締付状態が良好である(すなわち締付ボルト6が規定トルクで適切に締め付けられている)と判定し、振幅比率VSRD/VBPFが閾値Ath以上である場合に締付状態が良好でではない(すなわち締付ボルト6が規定トルクで適切に締め付けられておらず、締付ボルト6が緩んでいる)と判定してもよく、この場合、閾値Athは、例えば1より大きく2以下の値であってもよく、好ましくは1.1以上1.5以下の値(例えば1.2)であってもよい。
【0037】
また、上述した実施形態では、上記オーバーオール振幅VSRDと固有振動数帯振幅VBPFとをそれぞれ別の分析器22,26によって算出したが、上記オーバーオール振幅VSRDと固有振動数帯振幅VBPFとの両方を1つの分析器によって算出してもよい。
【0038】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0039】
(1)本開示の少なくとも一実施形態に係る締付ボルト締付状態判定装置(例えば上述の締付ボルト締付状態判定装置8)は、
回転機械(例えば上述の軸流送風機10)の動翼(例えば上述の動翼14)を固定するための締付ボルト(例えば上述の締付ボルト6)の締付状態を判定するため締付ボルト締付状態判定装置であって、
前記締付ボルトに対する打撃による前記締付ボルトの振動を示す振動信号の周波数分析を行い、前記振動信号の各周波数成分の振幅を積算した値であるオーバーオール振幅(例えば上述のオーバーオール振幅VSRD)を算出するように構成されたオーバーオール振幅算出部(例えば上述の分析器22)と、
前記締付ボルトの振動を示す前記振動信号から、前記締付ボルトの固有振動数を含む周波数帯である固有振動数帯(例えば上述の固有振動数帯FB)の成分を抽出するように構成された固有振動数帯成分抽出部(例えば上述のバンドパスフィルタ24)と、
前記固有振動数帯成分抽出部によって抽出された前記固有振動数帯の成分について、前記固有振動数帯の各周波数成分の振幅を積算した値である固有振動数帯振幅(例えば上述の固有振動数帯振幅VBPF)を算出するように構成された固有振動数帯振幅算出部(例えば上述の分析器26)と、
前記固有振動数帯振幅算出部によって算出した前記固有振動数帯振幅と、前記オーバーオール振幅算出部によって算出した前記オーバーオール振幅との比率である振幅比率を算出するように構成された振幅比率算出部(例えば上述の除算器28)と、
前記振幅比率算出部によって算出した前記振幅比率に基づいて、前記締付ボルトの締付状態を判定するように構成された締付状態判定部(例えば上述の判定器32)と、
を備える。
【0040】
上記(1)に記載の締付ボルト締付状態判定装置によれば、上記振動信号から締付ボルトの固有振動数を含む固有振動数帯の成分を抽出して、固有振動数帯の各周波数成分の振幅を積算した値である固有振動数帯振幅を算出し、固有振動数帯振幅とオーバーオール振幅との比率である振幅比率に基づいて締付ボルトの締付状態を判定している。
ここで、締付ボルトの固有振動数を含む適切な幅の固有振動数帯を抽出すれば、締付ボルトの締結状態が良好である場合(締付ボルトが適切に締め付けられている場合)には上記振幅比率は1に近い値となる。また、上記振幅比率は、締付ボルトの締結状態が悪化するにつれて(締付ボルトの緩みが大きくなるにつれて)1から遠ざかることとなる。このため、特許文献1に記載のように多くのバンドパスフィルタを用いなくとも、上記振幅比率を用いて締付ボルトの締付状態を判定することができる。すなわち、締付ボルトの締付状態を簡素な構成で判定することができる。
【0041】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の締付ボルト締付状態判定装置において、
前記締付状態判定部は、前記振幅比率算出部によって算出した前記振幅比率と閾値(例えば上述の閾値Ath)との比較に基づいて、前記締付ボルトの締付状態を判定するように構成される。
【0042】
上記(2)に記載の締付ボルト締付状態判定装置によれば、予め試験等を行って締付ボルトの締付力と上記振幅比率との相関を求めておき、その相関に基づく適切な閾値を上記振幅比率との比較に用いることにより、締付ボルトの締付状態を精度良く判定することができる。
【0043】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の締付ボルト締付状態判定装置において、
前記締付状態判定部は、前記締付ボルトに対する複数回の打撃における前記振幅比率の平均値(例えば上述の平均値An)に基づいて、前記締付ボルトの締付状態を判定するように構成される。
【0044】
上記(3)に記載の締付ボルト締付状態判定装置によれば、締付ボルトを複数回打撃した場合において、打撃の強さ等のバラツキや周囲のノイズが締付ボルトの締付状態の判定の精度に与える影響を低減することができ、締付ボルトの締付状態を精度良く判定することができる。
【0045】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)に記載の締付ボルト締付状態判定装置において、
前記締付状態判定部は、前記振幅比率の平均値と閾値(例えば上述の閾値Ath)との比較に基づいて、前記締付ボルトの締付状態を判定するように構成される。
【0046】
上記(4)に記載の締付ボルト締付状態判定装置によれば、予め試験等を行って締付ボルトの締付力と上記振幅比率との相関を求めておき、その相関に基づく適切な閾値を上記振幅比率との比較に用いることにより、締付ボルトの締付状態を精度良く判定することができる。
【0047】
(5)幾つかの実施形態では、上記(2)又は(4)に記載の締付ボルト締付状態判定装置において、
前記振幅比率算出部は、前記固有振動数帯振幅算出部によって算出した前記固有振動数帯振幅を、前記オーバーオール振幅算出部によって算出した前記オーバーオール振幅で除算することで前記振幅比率を算出するように構成され、
前記閾値は0.5以上1未満である。
【0048】
上記(5)に記載の締付ボルト締付状態判定装置において、締付ボルトが規定トルクで適切に締め付けられている場合には、振幅比率算出部によって算出される上記振幅比率は1に近い値となり、締付ボルトの緩みが大きくなるにつれて上記振幅比率は小さくなる。このため、上記閾値を0.5以上1未満とすることにより、締付ボルトの締付状態を精度良く判定することができる。
【0049】
(6)幾つかの実施形態では、上記(2)又は(4)に記載の締付ボルト締付状態判定装置において、
前記振幅比率算出部は、前記オーバーオール振幅算出部によって算出した前記オーバーオール振幅を、前記固有振動数帯振幅算出部によって算出した前記固有振動数帯振幅で除算することで前記振幅比率を算出するように構成され、
前記閾値は1より大きく2以下である。
【0050】
上記(6)に記載の締付ボルト締付状態判定装置において、締付ボルトが規定トルクで適切に締め付けられている場合には、振幅比率算出部によって算出される上記振幅比率は1に近い値となり、締付ボルトの緩みが大きくなるにつれて上記振幅比率は大きくなる。このため、上記閾値を1より大きく2以下とすることにより、締付ボルトの締付状態を精度良く判定することができる。
【0051】
(7)本開示の少なくとも一実施形態に係る締付ボルト締結状態判定システムは、
上記(1)乃至(6)の何れか1項に記載の締付ボルト締付状態判定装置と、前記締付ボルトの振動を検出する振動センサ(例えば上述の振動センサ4)と、を備える。
【0052】
上記(7)に記載の締付ボルト締付状態判定システムによれば、上記(1)乃至(6)の何れか1項に記載の締付ボルト締付状態判定装置を備えているため、締付ボルトの締付状態を簡素な構成で判定することができる。
【0053】
(8)本開示の少なくとも一実施形態に係る締付ボルト締結状態判定方法は、
回転機械(例えば上述の軸流送風機10)の動翼(例えば上述の動翼14)を固定するための締付ボルト(例えば上述の締付ボルト6)の締付状態を判定するため締付ボルト締付状態判定方法であって、
前記締付ボルトに対する打撃による前記締付ボルトの振動を示す振動信号の周波数分析を行い、前記振動信号の各周波数成分の振幅を積算した値であるオーバーオール振幅(例えば上述のオーバーオール振幅VSRD)を算出するオーバーオール振幅算出ステップと、
前記締付ボルトの振動を示す前記振動信号から、前記締付ボルトの固有振動数を含む周波数帯である固有振動数帯(例えば上述の固有振動数帯FB)の成分を抽出する固有振動数帯成分抽出ステップと、
前記固有振動数帯成分抽出ステップで抽出された前記固有振動数帯の成分について、前記固有振動数帯の各周波数成分の振幅を積算した値である固有振動数帯振幅(例えば上述の固有振動数帯振幅VBPF)を算出する固有振動数帯振幅算出ステップと、
前記固有振動数帯振幅算出ステップで算出した前記固有振動数帯振幅と、前記オーバーオール振幅算出ステップで算出した前記オーバーオール振幅との比率である振幅比率を算出する振幅比率算出ステップと、
前記振幅比率算出ステップで算出した前記振幅比率に基づいて、前記締付ボルトの締付状態を判定する締付状態判定ステップと、
を備える。
【0054】
上記(8)に記載の締付ボルト締付状態判定方法によれば、上記振動信号から締付ボルトの固有振動数を含む固有振動数帯の成分を抽出して、固有振動数帯の各周波数成分の振幅を積算した値である固有振動数帯振幅を算出し、固有振動数帯振幅とオーバーオール振幅との比率である振幅比率に基づいて締付ボルトの締付状態を判定している。
ここで、締付ボルトの固有振動数を含む適切な幅の固有振動数帯を抽出すれば、締付ボルトの締結状態が良好である場合(締付ボルトが適切に締め付けられている場合)には上記振幅比率は1に近い値となる。また、上記振幅比率は、締付ボルトの締結状態が悪化するにつれて(締付ボルトの緩みが大きくなるにつれて)1から遠ざかることとなる。このため、特許文献1に記載のように多くのバンドパスフィルタを用いなくとも、上記振幅比率を用いて締付ボルトの締付状態を判定することができる。すなわち、締付ボルトの締付状態を簡素な構成で判定することができる。
【符号の説明】
【0055】
2 締付ボルト締付状態判定システム
4 振動センサ
6 締付ボルト
8 締付ボルト締付状態判定装置
10 軸流送風機
12 ロータ
14 動翼
16 ハブ
18 頭部
20 増幅器
22,26 分析器
24 バンドパスフィルタ
28 除算器
30 平均化演算器
32 判定器
40 ハンマー
50 比較器
52 記憶部
図1
図2
図3
図4