(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175007
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】金属板の圧延制御方法、圧延制御装置及び圧延金属板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21B 37/28 20060101AFI20221117BHJP
B21B 38/02 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
B21B37/28 Z
B21B38/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081104
(22)【出願日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】明石 透
(72)【発明者】
【氏名】山田 健二
(72)【発明者】
【氏名】白石 利幸
【テーマコード(参考)】
4E124
【Fターム(参考)】
4E124AA02
4E124AA07
4E124AA08
4E124BB01
4E124BB03
4E124CC02
4E124EE11
(57)【要約】
【課題】圧延後の金属板の形状を精度よく予測し、当該金属板の形状を自在に制御する。
【解決手段】金属板の圧延制御方法は、所定の圧延条件下での圧延時の金属板に付与された塑性伸びひずみ差に基づいて、座屈後も金属板に内在する弾性ひずみ差を用いた座屈解析を行い、金属板の座屈発生の判定基準となる座屈固有ひずみ差を算出する第1ステップと、塑性伸びひずみ差が座屈固有ひずみ差を超えた場合、塑性伸びひずみ差と座屈固有ひずみ差との差分と、塑性伸びひずみ差とを加えて真の伸びひずみ差を算出する第2ステップと、塑性伸びひずみ差が座屈固有ひずみ差を超えない場合には、所定の圧延条件を変更せずに金属板の圧延を行い、塑性伸びひずみ差が座屈固有ひずみ差を超えた場合には、真の伸びひずみ差に基づいて設定された圧延条件で金属板の圧延を行う第3ステップと、を有する。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の形状を予測して制御する方法であって、
金属板に付与された塑性伸びひずみ差に基づいて座屈後の波形状プロフィールを予測する際に、座屈後も金属板に内在する弾性ひずみ差を用いた座屈解析によって真の伸びひずみ差を求めるステップと、
前記真の伸びひずみ差に基づいて設定された圧延条件で前記金属板の圧延を行うステップと、を含むことを特徴とする、金属板の圧延制御方法。
【請求項2】
前記真の伸びひずみ差を求めるステップと前記金属板の圧延を行うステップは、
金属板の板厚中心の変位が、上下ロールの回転中心を結んだ線の中点を通り且つ前記金属板の板面に平行な面である基準面の面内への変位となることを許容し、前記基準面の面外への変位となることを許容しない上下対称モデルを使用することにより前記金属板の面外変形を拘束した条件で求められる、所定の圧延条件下での圧延時の前記金属板の圧延方向に伸びるひずみの板幅方向における差である塑性伸びひずみ差、前記金属板の板厚、前記金属板の板幅、及び圧延機の出側における前記金属板に作用する張力に基づいて、前記金属板が座屈に至る前記板幅方向における臨界的なひずみ差である座屈固有ひずみ差を求める第1ステップと、
前記塑性伸びひずみ差が前記座屈固有ひずみ差を超えた場合、座屈の波発生によって再配分され座屈後も金属板に内在する弾性ひずみ差を用いて新たな座屈固有ひずみ差を計算し、前記塑性伸びひずみ差と前記新たな座屈固有ひずみ差との差分と、前記塑性伸びひずみ差とを加えて真の伸びひずみ差を求める第2ステップと、
前記塑性伸びひずみ差が前記座屈固有ひずみ差を超えない場合には、前記所定の圧延条件を変更せずに前記金属板の圧延を行い、前記塑性伸びひずみ差が前記座屈固有ひずみ差を超えた場合には、前記真の伸びひずみ差に基づいて設定された圧延条件で前記金属板の圧延を行う第3ステップと、を含むことを特徴とする、請求項1に記載の金属板の圧延制御方法。
【請求項3】
前記塑性伸びひずみ差を求めるステップをさらに含むことを特徴とする、請求項2に記載の金属板の圧延制御方法。
【請求項4】
前記第2ステップにおいて、前記塑性伸びひずみ差と前記座屈固有ひずみ差との差分を前記圧延機の出側において前記金属板に作用する張力に変換した変換張力を求め、前記変換張力に対応する伸びひずみ差と、前記塑性伸びひずみ差とを加えて前記真の伸びひずみ差を求めることを特徴とする、請求項2又は請求項3に記載の金属板の圧延制御方法。
【請求項5】
前記第2ステップにおいて、前記変換張力に対応する前記金属板の前記板幅方向における圧延荷重差を、前記板幅方向に2階微分したものを前記変換張力に対応する伸びひずみ差として求めることを特徴とする、請求項4に記載の金属板の圧延制御方法。
【請求項6】
前記真の伸びひずみ差を求めるステップと前記金属板の圧延を行うステップは、
金属板の板厚中心の変位が、上下ロールの回転中心を結んだ線の中点を通り且つ前記金属板の板面に平行な面である基準面の面内への変位となることを許容し、前記基準面の面外への変位となることを許容しない上下対称モデルを使用することにより前記金属板の面外変形を拘束した条件で、所定の圧延条件下での圧延時の前記金属板の板幅方向における圧延荷重の差である圧延荷重差及び圧延時の前記金属板の圧延方向に伸びるひずみの前記板幅方向における差である塑性伸びひずみ差を求める第1ステップと、
前記塑性伸びひずみ差、前記金属板の板厚、前記金属板の板幅、及び圧延機の出側における前記金属板に作用する張力に基づいて、前記金属板が座屈に至る前記板幅方向における臨界的なひずみ差である座屈固有ひずみ差を求める第2ステップと、
前記塑性伸びひずみ差が前記座屈固有ひずみ差を超えた場合、座屈の波発生によって再配分され座屈後も金属板に内在する弾性ひずみ差を用いて新たな座屈固有ひずみ差を計算し、前記圧延荷重差と前記塑性伸びひずみ差との相関から、前記新たな座屈固有ひずみ差に対応する圧延荷重差である座屈固有荷重差を求めて、前記圧延荷重差と前記座屈固有荷重差の差分を求め、前記圧延機の出側と入側で前記金属板のクラウン比率変化が無いと仮定して、座屈形状変換伸びひずみ差と前記塑性伸びひずみ差とを加えて真の伸びひずみ差を求める第3ステップと、
前記塑性伸びひずみ差が前記座屈固有ひずみ差を超えない場合には、前記所定の圧延条件を変更せずに前記金属板の圧延を行い、前記塑性伸びひずみ差が前記座屈固有ひずみ差を超えた場合には、前記真の伸びひずみ差に基づいて設定された圧延条件で前記金属板の圧延を行う第4ステップと、を含むことを特徴とする、請求項1に記載の金属板の圧延制御方法。
【請求項7】
前記真の伸びひずみ差を求めるステップと前記金属板の圧延を行うステップは、
金属板の板厚中心の変位が、上下ロールの回転中心を結んだ線の中点を通り且つ前記金属板の板面に平行な面である基準面の面内への変位となることを許容し、前記基準面の面外への変位となることを許容しない上下対称モデルを使用することにより前記金属板の面外変形を拘束した条件で、所定の圧延条件下での圧延時の前記金属板の板幅方向における圧延荷重の差である圧延荷重差及び圧延時の前記金属板の圧延方向に伸びるひずみの前記板幅方向における差である塑性伸びひずみ差を求める第1ステップと、
前記塑性伸びひずみ差、前記金属板の板厚、前記金属板の板幅、及び圧延機の出側における前記金属板に作用する張力に基づいて、前記金属板が座屈に至る前記板幅方向における臨界的なひずみ差である座屈固有ひずみ差を求める第2ステップと、
前記塑性伸びひずみ差が前記座屈固有ひずみ差を超えた場合、座屈の波発生によって再配分され座屈後も金属板に内在する弾性ひずみ差を用いて新たな座屈固有ひずみ差を計算し、前記圧延荷重差と前記塑性伸びひずみ差との相関から、前記塑性伸びひずみ差と前記新たな座屈固有ひずみ差の差分である座屈形状変換伸びひずみ差に対応する座屈形状変換荷重差を求めて、前記座屈形状変換荷重差を前記圧延荷重差に重ね合わせて新たな圧延荷重差を導出し、前記金属板にクラウン比率変化が有ると仮定して、前記新たな圧延荷重差を求める第3ステップと、
前記座屈形状変換伸びひずみ差と新たな塑性伸びひずみ差とを加えて真の伸びひずみ差を求め、前記真の伸びひずみ差の収束判定を行う第4ステップと、
前記塑性伸びひずみ差が前記第2ステップで求められる前記座屈固有ひずみ差を超えない場合には、前記所定の圧延条件を変更せずに前記金属板の圧延を行い、前記塑性伸びひずみ差が前記第2ステップで求められた前記座屈固有ひずみ差を超えた場合には、前記真の伸びひずみ差に基づいて設定された圧延条件で前記金属板の圧延を行う第5ステップと、を含むことを特徴とする、請求項1に記載の金属板の圧延制御方法。
【請求項8】
前記第3ステップで求められる前記新たな塑性伸びひずみ差が前記第1ステップで求められる前記塑性伸びひずみ差であると仮定し、前記第3ステップで求められる前記新たな座屈固有ひずみ差が前記第2ステップで求められる座屈固有ひずみ差であると仮定することを特徴とする、請求項7に記載の金属板の圧延制御方法。
【請求項9】
前記圧延機の入側において前記金属板が面外変形していることを特徴とする、請求項2~8のいずれか一項に記載の金属板の圧延制御方法。
【請求項10】
前記圧延機の出側に設置した形状計を用いて圧延後の前記金属板の形状を測定するステップと、
測定された前記金属板の形状から求められる面外変形に変換される実績の伸びひずみ差と、面外変形に変換される予測の伸びひずみ差との差分に基づいて前記塑性伸びひずみ差を修正するステップと、をさらに含むことを特徴とする、請求項2~9のいずれか一項に記載の金属板の圧延制御方法。
【請求項11】
金属板の板厚中心の変位が、上下ロールの回転中心を結んだ線の中点を通り且つ前記金属板の板面に平行な面である基準面の面内への変位となることを許容し、前記基準面の面外への変位となることを許容しない上下対称モデルを使用することにより前記金属板の面外変形を拘束した条件で求められる、所定の圧延条件下での圧延時の前記金属板の圧延方向に伸びるひずみの板幅方向における差である塑性伸びひずみ差、前記金属板の板厚、前記金属板の板幅、及び圧延機の出側における前記金属板に作用する張力に基づいて、前記金属板が座屈に至る前記板幅方向における臨界的なひずみ差である座屈固有ひずみ差を求め、前記塑性伸びひずみ差が前記座屈固有ひずみ差を超えた場合、座屈後に再配分される弾性ひずみ差を用いて新たな座屈固有ひずみ差を計算し、前記塑性伸びひずみ差と前記新たな座屈固有ひずみ差との差分と、前記塑性伸びひずみ差と、を加えて真の伸びひずみ差を求める演算部と、
前記塑性伸びひずみ差が前記座屈固有ひずみ差を超えない場合には、前記所定の圧延条件を変更せずに前記金属板の圧延を行い、前記塑性伸びひずみ差が前記座屈固有ひずみ差を超えた場合には、前記真の伸びひずみ差に基づいて設定された圧延条件で前記金属板の圧延を行う制御部と、を含むことを特徴とする、金属板の圧延制御装置。
【請求項12】
金属板の板厚中心の変位が、上下ロールの回転中心を結んだ線の中点を通り且つ前記金属板の板面に平行な面である基準面の面内への変位となることを許容し、前記基準面の面外への変位となることを許容しない上下対称モデルを使用することにより前記金属板の面外変形を拘束した条件で求められる、所定の圧延条件下での圧延時の前記金属板の圧延方向に伸びるひずみの板幅方向における差である塑性伸びひずみ差、前記金属板の板厚、前記金属板の板幅、及び圧延機の出側における前記金属板に作用する張力に基づいて、前記金属板が座屈に至る前記板幅方向における臨界的なひずみ差である座屈固有ひずみ差を求める第1ステップと、
前記塑性伸びひずみ差が前記座屈固有ひずみ差を超えた場合、座屈の波発生によって再配分され座屈後も金属板に内在する弾性ひずみ差を用いて新たな座屈固有ひずみ差を計算し、前記塑性伸びひずみ差と前記新たな座屈固有ひずみ差との差分と、前記塑性伸びひずみ差とを加えて真の伸びひずみ差を求める第2ステップと、
前記塑性伸びひずみ差が前記座屈固有ひずみ差を超えない場合には、前記所定の圧延条件を変更せずに前記金属板の圧延を行い、前記塑性伸びひずみ差が前記座屈固有ひずみ差を超えた場合には、前記真の伸びひずみ差に基づいて設定された圧延条件で前記金属板の圧延を行う第3ステップと、を含むことを特徴とする、圧延金属板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延後の金属板の形状を制御する圧延制御方法、当該圧延制御方法を実行する圧延制御装置、及び圧延金属板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄板や厚板などの金属板を圧延した後の形状を予測する技術として、従来、様々な方法が提案されている。
【0003】
特許文献1には、実績データが存在しない外挿域の予測精度を向上させ、さらに圧延モデルの誤差を修正する技術が開示されている。具体的には、過去に製造された製品の製造条件とその製造の結果情報とを対応付けて記憶した実績データベースを用いて、当該実績データベースの各サンプルと要求点(予測対象点)との類似度を計算し、この類似度を重みとした重み付き回帰により要求点近傍の予測式を作成する。この予測式により、上記外挿域の予測精度を向上させている。
【0004】
特許文献2には、圧延時の金属板の板幅方向に分布する伸びひずみ(応力)を、座屈時に波形状として幾何学的に変換される伸びひずみと、座屈後も金属板に内在する伸びひずみとに分離して、金属板の形状を予測する技術が開示されている。
【0005】
特許文献3には、圧延機出側で測定した金属板の形状特徴量に加え、測定時に金属板に内在する伸びひずみを求めて、これを上記形状特徴量と重ね合わせをして圧延機から付与された真の形状特徴量として計測することで、金属板の形状を予測する技術が開示されている。なお、ここでは、幾何学的値として圧延機出側で板通板方向及び板幅方向位置と高さ方向変位を測定し、また形状特徴量として、プロフィール、急峻度、伸びひずみ差を求めている。
【0006】
特許文献4には、次の第1~第3のステップを有する金属板の圧延制御方法が開示されている。第1のステップでは、金属板の面外変形を拘束した条件で、圧延時の金属板の暫定的な伸びひずみ差分布を求め、この暫定的な伸びひずみ差分布、金属板の板厚と板幅、及び圧延機出側における金属板に作用する張力に基づいて、座屈臨界ひずみ差分布を求める。第2のステップでは、暫定的な伸びひずみ差分布が座屈臨界ひずみ差分布を超えた場合、暫定的な伸びひずみ差分布と座屈臨界ひずみ差分布との差分を求め、この差分を暫定的な伸びひずみ差分布に加えたものを真の伸びひずみ差分布として求める。第3のステップでは、真の伸びひずみ差分布に基づいて圧延条件を設定し、金属板の圧延を行うことにより金属板の形状を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-112288号公報
【特許文献2】特開2005-153011号公報
【特許文献3】特開2012-218010号公報
【特許文献4】特許第6172401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された方法では、金属板の座屈現象のような非線形現象については考慮されておらず、また当該非線形現象を予測式に反映させることはできない。そして、非線形現象が考慮されていない場合には、モデルに誤差を生じさせることになるため、圧延後の金属板の形状を正確に予測することはできない。
【0009】
また、特許文献2~4のそれぞれに開示された方法は、金属板の座屈現象を考慮して当該金属板の形状を予測するものであり、座屈現象を考慮しない場合に比べると、その予測精度は向上されている。特に特許文献4にかかる発明は、特許文献2、3にかかる発明を発展させたものであり、座屈によって変化する金属板の板幅方向における圧延荷重差分布と伸びひずみ差分布の相関を定量的に把握することにより、金属板の真の伸びひずみ差分布を求め、金属板の形状を予測する。しかしながら、発明者が鋭意検討した結果、後述するように予測精度の向上には改善の余地があることが分かった。
【0010】
そして特許文献4に開示された方法では、金属板の座屈判定を行った後、座屈しない場合(上述した暫定的な伸びひずみ差分布が座屈臨界ひずみ差分布を超えない場合)には、所定の圧延条件を変更せずに金属板の圧延を行う。一方、座屈する場合(暫定的な伸びひずみ差分布が座屈臨界ひずみ差分布を超えた場合)には、真の伸びひずみ差分布に基づいて設定された圧延条件で金属板の圧延を行う。したがって、金属板の形状の予測精度を向上させることは肝要である。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、圧延後の金属板の形状を精度よく予測し、当該金属板の形状を自在に制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するため、本発明者は圧延後の金属板の形状を予測し、予測された金属板の形状に基づいて、金属板の形状を制御する方法について検討を行った結果、以下の知見を得るに至った。
【0013】
特許文献4に開示された方法では、上述した座屈によって変化する圧延荷重差分布と伸びひずみ差分布の相関を定量的に把握することにより、金属板の真の伸びひずみ差分布を求め、金属板の形状を予測する。すなわち、金属板の板幅方向に分布する伸びひずみ差のうち、波形状に変換され、面外変形を生じさせる伸びひずみ差が、実際に金属板の座屈により波形状に変換されると、当該伸びひずみ差に対応する荷重分布がさらに伸びひずみ差に変換されて金属板に内在される。そして、この増加した伸びひずみ差の分だけ、金属板の真の伸びひずみ差分布が増加する。このように金属板の真の伸びひずみ差分布を予測することで、金属板の形状の制御を行っている。
【0014】
本発明は、特許文献4にかかる発明をさらに発展させたものである。本発明者が鋭意検討したところ、特許文献4にかかる発明では、座屈固有解析で算出される形状プロフィールがそのまま座屈後も形状プロフィールを維持すると仮定しているため、形状プロフィールに誤差が生じることを見出した。そして、座屈固有値解析では評価対象の塑性伸びひずみ差で計算するのではなく、座屈後に生じた形状プロフィールの発生によって再配分された弾性ひずみ差で再計算(理論座屈モデルを用いた固有値解析計算)を行うことで、金属板の形状を適切に予測できることを想到した。すなわち、従来、開示された座屈後の形状プロフィールは初期に計算で用いた塑性伸びひずみ差で決定されると考えていたが、本発明者らが鋭意検討してきた結果、座屈形状が発生した後に金属板に再配分される、すなわち座屈後も板に内在する弾性ひずみ差によって形状プロフィールが決定することを見出した。そして、決定された形状プロフィールから真の伸びひずみ差を予測することで、金属板の形状の制御をより高精度に行うことができる。本発明は上記知見に基づくのであり、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0015】
本発明によれば、金属板の形状を予測して制御する方法であって、金属板に付与された塑性伸びひずみ差に基づいて座屈後の波形状プロフィールを予測する際に、座屈後も金属板に内在する弾性ひずみ差を用いた座屈解析によって真の伸びひずみ差を求めるステップと、前記真の伸びひずみ差に基づいて設定された圧延条件で前記金属板の圧延を行うステップと、を含むことを特徴とする、金属板の圧延制御方法が提供される。
【0016】
前記金属板の圧延制御方法において、前記真の伸びひずみ差を求めるステップと前記金属板の圧延を行うステップは、金属板の板厚中心の変位が、上下ロールの回転中心を結んだ線の中点を通り且つ前記金属板の板面に平行な面である基準面の面内への変位となることを許容し、前記基準面の面外への変位となることを許容しない上下対称モデルを使用することにより前記金属板の面外変形を拘束した条件で求められる、所定の圧延条件下での圧延時の前記金属板の圧延方向に伸びるひずみの板幅方向における差である塑性伸びひずみ差、前記金属板の板厚、前記金属板の板幅、及び圧延機の出側における前記金属板に作用する張力に基づいて、前記金属板が座屈に至る前記板幅方向における臨界的なひずみ差である座屈固有ひずみ差を求める第1ステップと、前記塑性伸びひずみ差が前記座屈固有ひずみ差を超えた場合、座屈の波発生によって再配分され座屈後も金属板に内在する弾性ひずみ差を用いて新たな座屈固有ひずみ差を計算し、前記塑性伸びひずみ差と前記新たな座屈固有ひずみ差との差分と、前記塑性伸びひずみ差とを加えて真の伸びひずみ差を求める第2ステップと、前記塑性伸びひずみ差が前記座屈固有ひずみ差を超えない場合には、前記所定の圧延条件を変更せずに前記金属板の圧延を行い、前記塑性伸びひずみ差が前記座屈固有ひずみ差を超えた場合には、前記真の伸びひずみ差に基づいて設定された圧延条件で前記金属板の圧延を行う第3ステップと、を含んでいてもよい。
【0017】
前記金属板の圧延制御方法は、前記塑性伸びひずみ差を求めるステップをさらに含んでいてもよい。
【0018】
前記金属板の圧延制御方法では、前記第2ステップにおいて、前記塑性伸びひずみ差と前記座屈固有ひずみ差との差分を前記圧延機の出側において前記金属板に作用する張力に変換した変換張力を求め、前記変換張力に対応する伸びひずみ差と、前記塑性伸びひずみ差とを加えて前記真の伸びひずみ差を求めてもよい。
【0019】
前記金属板の圧延制御方法では、前記第2ステップにおいて、前記変換張力に対応する前記金属板の前記板幅方向における圧延荷重差を、前記板幅方向に2階微分したものを前記変換張力に対応する伸びひずみ差として求めてもよい。
【0020】
前記金属板の圧延制御方法において、前記真の伸びひずみ差を求めるステップと前記金属板の圧延を行うステップは、金属板の板厚中心の変位が、上下ロールの回転中心を結んだ線の中点を通り且つ前記金属板の板面に平行な面である基準面の面内への変位となることを許容し、前記基準面の面外への変位となることを許容しない上下対称モデルを使用することにより前記金属板の面外変形を拘束した条件で、所定の圧延条件下での圧延時の前記金属板の板幅方向における圧延荷重の差である圧延荷重差及び圧延時の前記金属板の圧延方向に伸びるひずみの前記板幅方向における差である塑性伸びひずみ差を求める第1ステップと、前記塑性伸びひずみ差、前記金属板の板厚、前記金属板の板幅、及び圧延機の出側における前記金属板に作用する張力に基づいて、前記金属板が座屈に至る前記板幅方向における臨界的なひずみ差である座屈固有ひずみ差を求める第2ステップと、前記塑性伸びひずみ差が前記座屈固有ひずみ差を超えた場合、座屈の波発生によって再配分され座屈後も金属板に内在する弾性ひずみ差を用いて新たな座屈固有ひずみ差を計算し、前記圧延荷重差と前記塑性伸びひずみ差との相関から、前記新たな座屈固有ひずみ差に対応する圧延荷重差である座屈固有荷重差を求めて、前記圧延荷重差と前記座屈固有荷重差の差分を求め、前記圧延機の出側と入側で前記金属板のクラウン比率変化が無いと仮定して、座屈形状変換伸びひずみ差と前記塑性伸びひずみ差とを加えて真の伸びひずみ差を求める第3ステップと、前記塑性伸びひずみ差が前記座屈固有ひずみ差を超えない場合には、前記所定の圧延条件を変更せずに前記金属板の圧延を行い、前記塑性伸びひずみ差が前記座屈固有ひずみ差を超えた場合には、前記真の伸びひずみ差に基づいて設定された圧延条件で前記金属板の圧延を行う第4ステップと、を含んでいてもよい。
【0021】
前記金属板の圧延制御方法において、前記真の伸びひずみ差を求めるステップと前記金属板の圧延を行うステップは、金属板の板厚中心の変位が、上下ロールの回転中心を結んだ線の中点を通り且つ前記金属板の板面に平行な面である基準面の面内への変位となることを許容し、前記基準面の面外への変位となることを許容しない上下対称モデルを使用することにより前記金属板の面外変形を拘束した条件で、所定の圧延条件下での圧延時の前記金属板の板幅方向における圧延荷重の差である圧延荷重差及び圧延時の前記金属板の圧延方向に伸びるひずみの前記板幅方向における差である塑性伸びひずみ差を求める第1ステップと、前記塑性伸びひずみ差、前記金属板の板厚、前記金属板の板幅、及び圧延機の出側における前記金属板に作用する張力に基づいて、前記金属板が座屈に至る前記板幅方向における臨界的なひずみ差である座屈固有ひずみ差を求める第2ステップと、前記塑性伸びひずみ差が前記座屈固有ひずみ差を超えた場合、座屈の波発生によって再配分され座屈後も金属板に内在する弾性ひずみ差を用いて新たな座屈固有ひずみ差を計算し、前記圧延荷重差と前記塑性伸びひずみ差との相関から、前記塑性伸びひずみ差と前記新たな座屈固有ひずみ差の差分である座屈形状変換伸びひずみ差に対応する座屈形状変換荷重差を求めて、前記座屈形状変換荷重差を前記圧延荷重差に重ね合わせて新たな圧延荷重差を導出し、前記金属板にクラウン比率変化が有ると仮定して、前記新たな圧延荷重差求める第3ステップと、前記座屈形状変換伸びひずみ差と新たな塑性伸びひずみ差とを加えて真の伸びひずみ差を求め、前記真の伸びひずみ差の収束判定を行う第4ステップと、前記塑性伸びひずみ差が前記第2ステップで求められる前記座屈固有ひずみ差を超えない場合には、前記所定の圧延条件を変更せずに前記金属板の圧延を行い、前記塑性伸びひずみ差が前記第2ステップで求められた前記座屈固有ひずみ差を超えた場合には、前記真の伸びひずみ差に基づいて設定された圧延条件で前記金属板の圧延を行う第5ステップと、を含んでいてもよい。
【0022】
前記金属板の圧延制御方法では、前記第3ステップで求められる前記新たな塑性伸びひずみ差が前記第1ステップで求められる前記塑性伸びひずみ差であると仮定し、前記第3ステップで求められる前記新たな座屈固有ひずみ差が前記第2ステップで求められる座屈固有ひずみ差であると仮定してもよい。
【0023】
前記金属板の圧延制御方法では、前記圧延機の入側において前記金属板が面外変形していてもよい。
【0024】
前記金属板の圧延制御方法は、前記圧延機の出側に設置した形状計を用いて圧延後の前記金属板の形状を測定するステップと、測定された前記金属板の形状から求められる面外変形に変換される実績の伸びひずみ差と、面外変形に変換される予測の伸びひずみ差との差分に基づいて前記塑性伸びひずみ差を修正するステップと、をさらに含んでいてもよい。
【0025】
別な観点による本発明によれば、金属板の板厚中心の変位が、上下ロールの回転中心を結んだ線の中点を通り且つ前記金属板の板面に平行な面である基準面の面内への変位となることを許容し、前記基準面の面外への変位となることを許容しない上下対称モデルを使用することにより前記金属板の面外変形を拘束した条件で求められる、所定の圧延条件下での圧延時の前記金属板の圧延方向に伸びるひずみの板幅方向における差である塑性伸びひずみ差、前記金属板の板厚、前記金属板の板幅、及び圧延機の出側における前記金属板に作用する張力に基づいて、前記金属板が座屈に至る前記板幅方向における臨界的なひずみ差である座屈固有ひずみ差を求め、前記塑性伸びひずみ差が前記座屈固有ひずみ差を超えた場合、座屈後に再配分される弾性ひずみ差を用いて新たな座屈固有ひずみ差を計算し、前記塑性伸びひずみ差と前記新たな座屈固有ひずみ差との差分と、前記塑性伸びひずみ差と、を加えて真の伸びひずみ差を求める演算部と、前記塑性伸びひずみ差が前記座屈固有ひずみ差を超えない場合には、前記所定の圧延条件を変更せずに前記金属板の圧延を行い、前記塑性伸びひずみ差が前記座屈固有ひずみ差を超えた場合には、前記真の伸びひずみ差に基づいて設定された圧延条件で前記金属板の圧延を行う制御部と、を含むことを特徴とする、金属板の圧延制御装置が提供される。
【0026】
別な観点による本発明によれば、金属板の板厚中心の変位が、上下ロールの回転中心を結んだ線の中点を通り且つ前記金属板の板面に平行な面である基準面の面内への変位となることを許容し、前記基準面の面外への変位となることを許容しない上下対称モデルを使用することにより前記金属板の面外変形を拘束した条件で求められる、所定の圧延条件下での圧延時の前記金属板の圧延方向に伸びるひずみの板幅方向における差である塑性伸びひずみ差、前記金属板の板厚、前記金属板の板幅、及び圧延機の出側における前記金属板に作用する張力に基づいて、前記金属板が座屈に至る前記板幅方向における臨界的なひずみ差である座屈固有ひずみ差を求める第1ステップと、前記塑性伸びひずみ差が前記座屈固有ひずみ差を超えた場合、座屈の波発生によって再配分され座屈後も金属板に内在する弾性ひずみ差を用いて新たな座屈固有ひずみ差を計算し、前記塑性伸びひずみ差と前記新たな座屈固有ひずみ差との差分と、前記塑性伸びひずみ差とを加えて真の伸びひずみ差を求める第2ステップと、前記塑性伸びひずみ差が前記座屈固有ひずみ差を超えない場合には、前記所定の圧延条件を変更せずに前記金属板の圧延を行い、前記塑性伸びひずみ差が前記座屈固有ひずみ差を超えた場合には、前記真の伸びひずみ差に基づいて設定された圧延条件で前記金属板の圧延を行う第3ステップと、を含むことを特徴とする、圧延金属板の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、座屈後の形状変形によって再配分される弾性ひずみ差を算出し、当該弾性ひずみ差を用いて再計算(理論座屈モデルを用いた固有値解析計算)を行っているので、金属板の形状(真の伸びひずみ差)を精度よく予測することができる。その結果、この真の伸びひずみ差に基づいて圧延条件を設定し、当該圧延条件で金属板を圧延することにより、圧延後の金属板の形状を自在に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図2】金属板の面外変形を拘束した条件で金属板を圧延した場合の、金属板の塑性伸びひずみ差Δε
pl(y)及び圧延荷重差ΔP(y)を示す図である。
【
図3】金属板の面外変形を拘束した条件で金属板を圧延した場合の、塑性伸びひずみ差Δε
pl(y)を構成する座屈固有ひずみ差Δε
cr(y)及び座屈形状変換伸びひずみ差Δε
ts(y)並びに、圧延荷重差ΔP(y)を構成する座屈固有荷重差ΔP
cr(y)及び座屈形状変換荷重差ΔP
ts(y)を示す図である。
【
図4】金属板の面外変形を許した場合に、座屈形状変換伸びひずみ差Δε
ts(y)と座屈形状変換荷重差ΔP
ts(y)が消滅した後の状態を示す図である。
【
図5】ロールバイト内の荷重低下領域に金属が流入し、金属板における伸びひずみ差が増大する様子を示す図である。
【
図6】上記
図2~
図5に対応し、従来の金属板の圧延制御方法における金属板の伸びひずみ差と圧延荷重との関係を平面視において模式的に示した説明図であり、(a)は塑性伸びひずみ差Δε
pl(y)を示し、(b)は座屈固有ひずみ差Δε
cr(y)と座屈形状変換伸びひずみ差Δε
ts(y)を示し、(c)は真の伸びひずみ差Δε’
pl(y)を示している。
【
図7】従来の圧延制御方法を示すフローチャートである。
【
図8】従来の圧延制御方法(形状予測方法)とFEMを用いた場合の金属板の形状予測結果を示す説明図である。
【
図9】従来の圧延制御方法(形状予測方法)とFEMを用いた場合の金属板の形状を示す説明図である。
【
図10】上記
図2~
図5に対応し、本実施形態の金属板の圧延制御方法における金属板の伸びひずみ差と圧延荷重との関係を平面視において模式的に示した説明図であり、(a)は塑性伸びひずみ差Δε
pl(y)を示し、(b)は座屈固有ひずみ差Δε
cr(y)と座屈形状変換伸びひずみ差Δε
ts(y)を示し、(c)は真の伸びひずみ差Δε’
pl(y)を示している。
【
図11】第1の実施形態にかかる圧延制御方法を示すフローチャートである。
【
図12】第1の実施形態にかかる圧延制御方法を模式的に示す説明図である。
【
図13】第1の実施形態にかかる圧延制御方法を用いた場合の金属板の形状予測結果を示す説明図である。
【
図14】第1の実施形態にかかる圧延制御方法を用いた場合の金属板の形状予測結果を示す説明図である。
【
図15】第2の実施形態にかかる圧延制御方法を示すフローチャートである。
【
図16】第3の実施形態にかかる圧延制御方法を示すフローチャートである。
【
図17】圧延機、圧延制御装置及び形状計を備えた圧延ラインを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0030】
<対称波形状>
先ず、対象とする波形状について
図1を用いて説明する。X軸は周期的な波が生じる長手方向、Y軸は板幅方向、Z軸は板厚あるいは波高さ方向とし、
図1に示す波は代表的な耳波を示す。なお、中波や、耳波と中波の中間位置に生じるクォータ波に代表される波の周期的な座屈(図ではX方向)波も対象となる。波の大きさとして用いられる急峻度或いは平坦度の定義は、金属板の幅方向エッジ部の波片振幅高さHを波ピッチP(周期P)で割り、100倍して、パーセント表示で表す。また、この波形状を波片振幅高さHで示している位置でY-Z断面で切り出した幅方向位置毎形状プロフィール(波形状プロフィール)と称し、後に述べる座屈解析では求められる形状プロフィールは高さの次元が無い0~1の基準化プロフィールである。
【0031】
<金属板の伸びひずみ差の発生原理>
次に、圧延された金属板が座屈する場合(金属板に面外変形が発生する場合)に、金属板の長手方向(圧延方向)に伸びるひずみ差(以下、「伸びひずみ差」という。)が発生する原理について、
図2~
図6を用いて説明する。
図6は、
図2~
図5に対応し、金属板における伸びひずみ差と圧延荷重との関係を平面視において模式的に示した説明図である。なお、
図6は後述するように、従来の金属板の圧延制御方法における伸びひずみ差と圧延荷重との関係図である。
【0032】
図2に示すように一対のロールを備えた圧延機10を用いて、金属板Hを圧延する。
図2のX軸は金属板Hの長手方向を示し、X軸負方向側から正方向側に向けて金属板Hが搬送され圧延される。
図2のY軸は金属板Hの板幅方向を示す。
図2では金属板Hの板幅方向の半分、すなわち金属板Hの板幅方向のセンターH
cからエッジH
eまでが図示されている。
【0033】
図2は、金属板Hの面外変形を拘束した条件(すなわち、金属板Hの面外変形を許容しない条件)で金属板Hを圧延した場合の、ロールバイト内の金属板Hの板幅方向における塑性伸びひずみ差Δε
pl(y)と、金属板Hの垂直方向(Z軸方向)に作用する板幅方向における圧延荷重差ΔP(y)とを図示している。塑性伸びひずみ差Δε
pl(y)は、圧延された金属板Hが座屈する場合(金属板に面外変形が発生する場合)に、圧延時に金属板の長手方向に伸びひずみの板幅方向のエッジH
eの伸びひずみを基準とした板幅方向位置yにおける差分である。以下の説明において、伸びひずみと伸びひずみ差の定義は、これと同様である。また、圧延荷重差ΔP(y)は、金属板Hの板幅方向のエッジH
eの圧延荷重を基準とした板幅方向位置yにおける圧延荷重差である。また、塑性伸びひずみ差Δε
pl(y)と圧延荷重差ΔP(y)は、板幅方向において1:1に対応している。
図2においては、金属板Hの面外変形を拘束しているので、ロールバイト出側直後、長手方向に圧縮応力が発生している(
図2中の太矢印)。なお、
図2に示される塑性伸びひずみ差Δε
pl(y)と圧延荷重差ΔP(y)の関係は、
図6(a)に模式的に示されている。
【0034】
塑性伸びひずみ差Δε
pl(y)は、
図3に示すように座屈後も金属板Hに内在する伸びひずみ差Δε
cr(y)(以下、「座屈固有ひずみ差Δε
cr(y)」という。)と、座屈後に波形状の面外変形に変換される伸びひずみ差Δε
ts(y)(以下、「座屈形状変換伸びひずみ差Δε
ts(y)」という。)とに分離される。このうち、座屈固有ひずみ差Δε
cr(y)は、これ以上ひずみ差が大きくなると金属板Hが座屈をしてしまう限界のひずみ差である。換言すれば、座屈固有ひずみ差Δε
cr(y)は、金属板Hが座屈に至る板幅方向における臨界的なひずみ差である。同様に、圧延荷重差ΔP(y)は、座屈固有ひずみ差Δε
cr(y)に板幅方向に1:1で対応する圧延荷重差ΔP
cr(y)(以下、「座屈固有荷重差ΔP
cr(y)」という。)と、座屈形状変換伸びひずみ差Δε
ts(y)に板幅方向に1:1で対応する圧延荷重差ΔP
ts(y)(以下、「座屈形状変換荷重差ΔP
ts(y)」という。)とに分離される。なお、
図3に示される座屈固有ひずみ差Δε
cr(y)、座屈形状変換伸びひずみ差Δε
ts(y)、座屈固有荷重差ΔP
cr(y)、座屈形状変換荷重差ΔP
ts(y)は、
図6(b)に模式的に示されている。
【0035】
次に、金属板Hの面外変形を許すと、
図4に示すように座屈形状変換伸びひずみ差Δε
ts(y)が面外変形に変換されて消滅する。また、
図2に太矢印で示した圧縮応力が低下し、金属板Hに作用する見かけ上の長手方向の張力が増加する(
図4中の太矢印)。そうすると、この張力に見合った圧延荷重、すなわち座屈形状変換伸びひずみ差Δε
ts(y)に対応する座屈形状変換荷重差ΔP
ts(y)が消滅する。座屈形状変換荷重差ΔP
ts(y)が消滅すると、
図5に示すように荷重低下領域に向かって、すなわち金属板HのセンターH
cからエッジH
eに向かって板幅方向に金属が流入する(
図5中の太矢印)。その結果、体積一定の原理により、板幅方向の金属の流入量に応じて金属板HのエッジH
eにおける伸びひずみが増大する。すなわち、座屈形状変換荷重差ΔP
ts(y)の消滅に対応する伸びひずみ差の増大が生じる(
図5中の細矢印)。したがって、
図6(c)に示すように、この座屈形状変換荷重差ΔP
ts(y)の消滅に対応して増大する伸びひずみ差Δε
n(y)(以下、「座屈助長ひずみ差Δε
n(y)」という。)を、
図2に示した金属板Hの面外変形を拘束した場合の塑性伸びひずみ差Δε
pl(y)に加えることにより、金属板Hにおける真の伸びひずみ差Δε’
pl(y)が得られる。座屈助長ひずみ差Δε
n(y)は、金属板Hが座屈することによって生じる伸びひずみ差であり、金属板Hの面外変形を拘束した場合には、座屈は生じないため、観測されないひずみ差である。なお、座屈形状変換伸びひずみ差Δε
ts(y)と座屈助長ひずみ差Δε
n(y)は、共に座屈形状変換荷重差ΔP
ts(y)に対応した伸びひずみ差であり、これらは同一の分布となるが、便宜上、異なる用語を使用している。
【0036】
以上のように、座屈によって変化する金属板Hの板幅方向における圧延荷重差と伸びひずみ差において、金属板Hの面外変形を拘束した場合、
図6(a)に示した圧延荷重差ΔP(y)と塑性伸びひずみ差Δε
pl(y)との相関があり、さらに
図6(b)に示した圧延荷重差ΔP
cr(y)、ΔP
ts(y)と伸びひずみ差Δε
cr(y)、Δε
ts(y)との相関があるのに対し、金属板Hの面外変形を許した場合、
図6(c)に示した圧延荷重差ΔP
cr(y)と伸びひずみ差Δε
cr(y)、Δε
ts(y)、Δε
n(y)との相関がある。そして、
図6(c)で示した真の伸びひずみ差Δε’
pl(y)が、
図6(a)、(b)で示した、面外変形を拘束した条件で得られる塑性伸びひずみ差Δε
pl(y)よりも、座屈助長ひずみ差Δε
n(y)分だけ増大し、下記式(1)が導出される。
Δε’
pl(y)=Δε
pl(y)+Δε
n(y) ・・・(1)
【0037】
<従来の圧延制御方法>
上述したように本発明は、特許文献4にかかる発明をさらに発展させたものである。そこで、本実施形態にかかる圧延制御方法を説明するに先だって、特許文献4に開示された従来の圧延制御方法について説明する。
図7は、従来の形状予測方法を示すフローチャートである。
【0038】
(ステップX1)
ステップX1では、板幅方向(y方向)に所定の幅でN分割された任意の板幅方向位置yでの評価対象の金属板の塑性伸びひずみ差Δεpl(y)を設定する。
【0039】
(ステップX2)
ステップX2では、理論座屈モデルを用いて固有値解析計算を行う。理論座屈モデルとは、例えば日本塑性加工学会誌 塑性と加工、第28巻第312号(1987-1)p58-66に示された、三角形の残留応力分布で定式化されたモデルをベースにして作成された波形状座屈方程式により、座屈解析を実行するモデルである。そして、理論座屈モデルでは、塑性伸びひずみ差Δεpl(y)金属板の板厚、金属板の板幅、金属板に作用する張力に基づいて、座屈固有ひずみ差Δεcr(y)を算出する。
【0040】
(ステップX3)
ステップX3では、座屈の発生の有無を判定する。塑性伸びひずみ差Δεpl(y)と座屈固有ひずみ差Δεcr(y)を比較し、Δεpl(y)がΔεcr(y)以下であれば、金属板が座屈せず平坦であると判定して、ステップX4に進む。一方、Δεpl(y)がΔεcr(y)より大きければ、金属板が座屈すると判定して、ステップX5に進む。
【0041】
(ステップX4)
ステップX4では、金属板は座屈せず、金属板は平坦であると判定される。かかる場合、圧延条件を変更せずにそのままとして、金属板の圧延を行うことにより、金属板の形状が制御される。
【0042】
(ステップX5)
ステップX5では、金属板が座屈すると判定される。かかる場合、塑性伸びひずみ差Δε
pl(y)と座屈固有ひずみ差Δε
cr(y)の差分を求め、この差分が上記
図6(c)で示した座屈助長ひずみ差Δε
n(y)となる。そして、上記式(1)に従い、座屈助長ひずみ差Δε
n(y)を塑性伸びひずみ差Δε
pl(y)に加えて真の伸びひずみ差Δε’
pl(y)と予測する。
【0043】
(ステップX6)
ステップX6では、ステップX5で予測された真の伸びひずみ差Δε’pl(y)に基づいて、圧延条件を設定し、圧延後の金属板の形状を制御する。具体的には、例えば真の伸びひずみ差Δε’pl(y)が座屈固有ひずみ差Δεcr(y)以下になるように圧延条件を設定する。そうすると、圧延後の金属板は座屈せず、平坦になる。
【0044】
<従来の圧延制御方法の検証>
従来の方法では、以上のように座屈固有解析を行って座屈固有ひずみ差Δεcr(y)を算出し、さらに真の伸びひずみ差Δε’pl(y)を予測して、金属板の圧延を制御している。ここで、本発明者が鋭意検討したところ、従来の座屈固有解析で予測される形状プロフィールが、実際の形状プロフィールと誤差があることを見出した。具体的には、従来予測される形状について、有限要素法(FEM)による解析結果と比較して検証した。
【0045】
図8及び
図9は、同一金属板条件で且つ同一塑性伸びひずみ差での、従来方法とFEMを用いた場合の金属板の形状を示す説明図である。なお、
図8は板幅センター部の長手方向変位における板厚方向変位、すなわち波高さ方向変位を示し、
図9は
図8のA断面の波高さプロフィールを拡大して示すものである。
【0046】
図8を参照すると、従来方法とFEMを比較して、座屈後の波ピッチはほぼ同じである。一方、
図9を参照すると、従来方法とFEMを比較して、幅方向センター部の波高さ変位はほぼ同じであるが、
図9中点線で囲った範囲の波高さ変位が異なり、形状プロフィールに誤差が生じることが分かった。
【0047】
本発明者らは鋭意検討を行い、この形状プロフィールの誤差の要因として、従来方法では、ステップX2の座屈固有解析で算出される形状プロフィールがそのまま座屈後も形状プロフィールを維持すると仮定している点にあることを見出した。そして、座屈固有値解析では評価対象の塑性伸びひずみ差で計算するのではなく、座屈後に生じた座屈波の発生によって金属板に再配分された座屈後も金属板に残留応力として内在する弾性ひずみ差で再計算(理論座屈モデルを用いた固有値解析計算)を行うことで、金属板の形状を適切に予測できることを想到した。具体的には、
図6に示した従来方法で算出される座屈固有ひずみ差Δε
cr(y)と座屈固有荷重差ΔP
cr(y)に対して、本発明の方法を用いると、
図10に示すように異なる形状の座屈固有ひずみ差Δε
cr(y)と座屈固有荷重差ΔP
cr(y)の形状が得られる。以下の説明においては、上記知見に基づいて、本実施形態にかかる金属板の圧延制御方法について説明する。
【0048】
<第1の実施形態にかかる圧延制御方法>
第1の実施形態にかかる金属板の圧延制御方法について説明する。
図11は、第1の実施形態にかかる圧延制御方法を示すフローチャートである。
図12は、第1の実施形態にかかる圧延制御方法において、金属板の形状を予測する方法を模式的に示す説明図である。なお、第1の実施形態では、後述するステップA12~A20を繰り返し、収束計算を行う。また、第1の実施形態では、ステップA11~A13が本発明の第1ステップに相当し、ステップA14~A21が本発明の第2ステップに相当し、ステップA22、A23が本発明の第3ステップに相当する。
【0049】
(ステップA11)
ステップA11では、
図12(a)に示すように、板幅方向(y軸方向)に所定の幅でN分割された任意の板幅方向位置yでの評価対象の金属板の塑性伸びひずみ差Δε
pl(y)を設定する。塑性伸びひずみ差Δε
pl(y)は、公知の方法、例えば有限要素法(FEM)、スラブ法、物理モデル、実験や計算の回帰式を用いて算出することができる。より詳細には、金属板の板厚中心の変位が、上下ロールの回転中心を結んだ線の中点を通り且つ金属板の板面に平行な面である基準面の面内への変位となることを許容し、基準面の面外への変位となることを許容しない上下対称モデルを使用することにより金属板の面外変形を拘束した条件で、塑性伸びひずみ差Δε
pl(y)は求められる。なお、Nは幅方向を等分割した節点数を表す。以後、Nは節点数とする。
【0050】
ステップA11における圧延形状を予測するモデルは以前より取り組まれている。実操業で必要とされる板クラウン予測式は、数値解析手法による計算結果をもとに個々の圧延機ごとに統計的手法によって求めることが行われている。例えば日本塑性加工学会誌 塑性と加工、第25巻第286号(1984-11)、p1034-1041に示すように、板クラウンを、圧延機の弾性変形条件のみに依存する要因と、圧延材の塑性変形条件に依存する要因とに分離して導いた汎用的な圧延機出側の板クラウン予測式を用いる方法がある。
これらを用いれば圧延機入側の板クラウンと出側の板クラウンを求めることが可能となる。そして、別途実験によって求めた形状変化係数ξにクラウン比率変化(Ch/h-CH/H)を掛けあわせることによって塑性伸びひずみ差Δεpl(y)を求めることができる。すなわち、塑性伸びひずみ差Δεpl(y)は、下記の式(2)によって表すことができる。
Δεpl(y)=ξ×(Ch(y)/h(y)-CH(y)/H(y)) ・・・(2)
なお、CHは圧延機入側のクラウン、Hは圧延機入側の板厚、Chは圧延機出側のクラウン、hは圧延機出側の板厚である。そして、上記式(2)に基づいて塑性伸びひずみ差Δεpl(y)を求めることができる。
【0051】
(ステップA12)
ステップA12では、繰り返し計算の1回目の計算において、塑性伸びひずみ差Δεpl(y)を最大値1とする、0(ゼロ)から1までの値に基準化した基準化伸びひずみ差Δεnormal(y)に変換する。繰り返し計算の2回目以降の計算では、後述するステップA20で補正された基準化伸びひずみ差Δεnormal(y)を次以降のステップでの基準化伸びひずみ差とする。
【0052】
(ステップA13)
ステップA13では、理論座屈モデルを用いて固有値解析計算を行う。理論座屈モデルとは、例えば日本塑性加工学会誌 塑性と加工、第28巻第312号(1987-1)p58-66に示された、三角形の残留応力分布で定式化されたモデルをベースにして作成された波形状座屈方程式により、座屈解析を実行するモデルである。そして、理論座屈モデルでは、基準化伸びひずみ差Δεnormal(y)、金属板の板厚t、金属板の板幅B、金属板に作用する張力Utを入力すれば、塑性伸びひずみ差Δεpl(y)に相似形となっている座屈固有ひずみ差Δεcr(y)(座屈発生のクライテリア)、座屈によって発生する波ピッチP、座屈時の幅方向断面において0~1で基準化された高さプロフィール(形状プロフィール)W(y)が出力される。なお、繰り返し計算の2回目以降の計算の場合、座屈固有ひずみ差Δεcr(y)は、後述のステップA17において伸びひずみ誤差Δεer(y)で修正されるので、塑性伸びひずみ差Δεpl(y)と相似形にはならない。
【0053】
ここで、本来、金属板に働く長手方向応力は板幅方向に積分すると0(ゼロ)となる残留応力成分と張力(ユニットテンション)成分が重なる。しかし、座屈モデルでは張力成分は別途与えるので、ここでは板幅方向に積分すると0、すなわち残留応力成分は板幅方向の積分値、あるいは板幅方向の平均を取ると0となるとして、下記式(3)により残留応力σres(y)の分布と塑性伸びひずみ差Δεpl(y)の分布の換算を行っている。
Δεpl(y)=-(σres(y)/E-Max(σres(y))/E) ・・・(3)
【0054】
(ステップA14)
ステップA14では、繰り返し計算の1回目の計算であるか、あるいは2回目以降の計算であるかの判定を行う。そして、1回目の計算の場合、後述するステップA15に進み、2回目以降の計算の場合、後述するステップA16に進む。ステップA15では座屈の発生有無が判定されるが、2回目以降の計算の場合、金属板が座屈すると判定されているので、ステップA15を省略することができる。
【0055】
(ステップA15)
ステップA15では、座屈の発生の有無を判定する。具体的には、塑性伸びひずみ差Δεpl(y)と座屈固有ひずみ差Δεcr(y)を比較する。そして、Δεpl(y)がΔεcr(y)より大きければ、金属板が座屈すると判定して、ステップA16に進む。ちなみに従来方法と同様に座屈固有ひずみ差Δεcr(y)は塑性伸びひずみ差Δεpl(y)と相似の関係を持つので板幅方向位置yのどこで判定しても良いが、ここではそれぞれの最大値で比較している。一方、Δεpl(y)がΔεcr(y)以下であれば、金属板が座屈せず平坦であると判定して、ステップA22に進む。
【0056】
(ステップA22)
ステップA22では、金属板は座屈せず、金属板は平坦であると判定される。かかる場合、圧延条件を変更せずにそのままとして、金属板の圧延を行うことにより、金属板の形状が制御される。
【0057】
(ステップA16)
ステップA16では、金属板が座屈すると判定され、形状予測モデルを用いて金属板の形状を予測する。先ず、
図12(b)に示すように、塑性伸びひずみ差Δε
pl(y)を、座屈後の形状変形に変換する成分(座屈形状変換伸びひずみ差Δε
ts(y))と、座屈後も金属板に残留して内在する成分(座屈固有ひずみ差Δε
cr(y))とに分離する。そして、下記式(4)により、塑性伸びひずみ差Δε
pl(y)から座屈固有ひずみ差Δε
cr(y)を引き算し、座屈形状変換伸びひずみ差Δε
ts(y)を算出する。
Δε
ts(y)=Δε
pl(y)-Δε
cr(y) ・・・(4)
【0058】
次に、上記式(4)より算出された座屈形状変換伸びひずみ差Δεts(y)に対して、ステップA13で算出された波ピッチPは変化しないと仮定し、基準化高さプロフィールW(y)に波片振幅高さHを掛けた波高さ幅分布h(x,y)=H×W(y)×Sin(2πx/P)を座屈後の金属板の形状として予測する。ここで、座屈後の波形状の急峻度λ(y)は、板幅方向位置y毎に波片振幅高さH、基準化高さプロフィールW(y)、波ピッチPで表され、すなわち面外変形して形状に現れる幾何学的形状伸びひずみ差Δεgs(y)を用いて下記式(5)で表される。しかし一般的に圧延操業では波の大きさを表す際は片振幅波の最大振幅Hの2倍の両振幅として(5’)のように表すことが多い。また、この式(5)を幾何学的形状伸びひずみ差Δεgs(y)で整理すると式(6)となる。
λ(y)=2×H×W(y)/P=(2/π)√Δεgs(y) ・・・(5)
λ=2×H/P ・・・・・・・(5’)
Δεgs(P、H、W(y))=(π/2×W(y)×2×H/P)2 ・・・(6)
【0059】
基準化高さプロフィールW(y)の値は0~1として基準化されたプロフィールであるため、片振幅波の最大振幅Hを仮定すれば幾何学的形状伸びひずみ差Δε
gs(P、H、W(y))が算出できる。そこで座屈形状変換伸びひずみ差Δε
ts(y)とほぼ同じであると考えると、
図12(c)に示すように波形状に変換されない伸びひずみ差Δε
er(y)(以下、「伸びひずみ誤差Δε
er(y)」という。)は下記式(7)で表される。
Δε
er(y)=Δε
gs(P、H、W(y))-Δε
ts(y) ・・・(7)
【0060】
(ステップA17)
ステップA17では、座屈波発生後に再配分される残留応力、すなわち金属板に内在する弾性ひずみ差Δε
el
*(y)を算出する。具体的に
図12(d)に示すように、下記式(8)、(8’)により、弾性の座屈固有ひずみ差(Δε
el_cr(y))と弾性の伸びひずみ誤差(Δε
er(y))を足し合わせて、座屈の波発生によって再配分され座屈後も金属板に内在する弾性ひずみ差Δε
el
*(y)を算出する。このようにステップA17では、座屈後の形状変形によって再配分される弾性ひずみ差Δε
el
*(y)が算出される。
Δε
el_cr(y)=-(Δε
cr(y)-(ΣΔε
cr(y))/N) ・・・(8’)
Δε
el
*(y)=-{Δε
pl(y)-Δε
gs(P、H、W(y))}=Δε
el_cr(y)+Δε
er(y) ・・・(8)
【0061】
(ステップA18)
ステップA18では、座屈後の再配分された金属板の残留応力分布をもとに基準化伸びひずみ差Δε
normal
*(y)を再度決定する。具体的には、後述するようにステップA12~A20を繰り返し行う収束計算において、下記式(9)により、再配分された金属板に内在する弾性ひずみ差Δε
el
*(y)を用いて、これに対応する0~1の値を持つ基準化伸びひずみ差Δε
normal
*(y)を決定する。
図12(e)は、この基準化伸びひずみ差Δε
normal
*(y)の一例を示す。
Δε
normal
*(y)=-(Δε
el
*(y)-Max(ε
el
*(y)))/(Max(ε
el
*(y))-Min(ε
el
*(y))) ・・・(9)
【0062】
(ステップA19)
ステップA19では、収束計算において解が求まったどうかを、座屈し再配分された後の基準化伸びひずみ差Δεnormal
*(y)の値と再配分前の基準化伸びひずみ差Δεnormal(y)の値が等しくなるか否かで判定を行う。先ず、下記式(10)により、板幅方向位置y毎に再配分前後の基準化伸びひずみ差の誤差Δerror(y)を算出する。すなわち、誤差Δerror(y)は、基準化伸びひずみ差Δεnormal(y)の変化量である。次に、下記式(11)に示すように、各板幅方向位置y毎の2乗誤差を積算することでΔerror*を算出し、この誤差Δerror*と所定の閾値とを比較する。そして、誤差Δerror*が所定の閾値よりも大きければ、再配分された基準化伸びひずみ差Δεnormal
*(y)は収束していないと判定して、再計算(理論座屈モデルを用いた固有値解析計算)を行うため、ステップA20に進む。一方、誤差Δerror*が所定の閾値以下であれば、基準化伸びひずみ差Δεnormal
*(y)が収束したと判定して、ステップA21に進む。
Δerror(y)=Δεnormal
*(y)-Δεnormal(y) ・・・(10)
Δerror*={Σ(Δerror(y))2}>閾値 ・・・(11)
【0063】
(ステップA20)
ステップA20では、ステップA12に戻って再計算で用いる基準化伸びひずみ差Δεnormal(y)をΔεnormal
*(y)とΔerror(y)を用いて補正する。具体的には、下記式(12)により、誤差Δerror(y)に緩和係数αをかけたものを、再配分後の基準化伸びひずみ差Δεnormal(y)に足し合わせて、再計算用の基準化伸びひずみ差Δεnormal(y)を再設定する。ここで、再計算を行うにあたり、緩和係数αをかけずに誤差Δerror(y)をすべて重ね合わせると、計算結果が振動し、基準化伸びひずみ差Δεnormal(y)は収束しにくい。そこで本実施形態では、緩和係数αをかけることで基準化伸びひずみ差Δεnormal(y)を収束させやすくしている。なお、この緩和係数αは任意であるが、本発明者が鋭意検討したところ、0.1~0.4が適切であることを確認している。
Δεnormal(y)=Δεnormal(y)+α×Δerror(y)=Δεnormal(y)+α×{Δεnormal
*(y)-Δεnormal(y)} ・・・(12)
【0064】
次に、ステップA12に戻り、ステップA20で補正された基準化伸びひずみ差Δεnormal(y)を用いて、以降のステップA13~A20を行う。そして、ステップA12~A20を繰り返し行い、ステップA19における収束判定で、基準化伸びひずみ差Δεnormal
*(y)が収束したと判定されるまで、収束計算を行う。
【0065】
(ステップA21)
ステップA19において基準化伸びひずみ差Δε
normal
*(y)が収束したと判定されると、ステップA21に進む。ステップA21では、
図6に示した真の伸びひずみ差Δε’
pl(y)を算出する。具体的には、下記式(13)により、座屈後も金属板に再配分された弾性ひずみ差Δε
el
*(y)で算出した新たな座屈固有ひずみ差Δε
cr(y)と塑性伸びひずみ差Δε
pl(y)から、真の伸びひずみ差Δε’
pl(y)を算出する。また、この式(13)を展開し、真の伸びひずみ差Δε’
pl(y)は、塑性伸びひずみ差Δε
pl(y)と座屈形状変換伸びひずみ差Δε
ts(y)からも算出できる。
Δε’
pl(y)=Δε
pl(y)+(Δε
pl(y)-Δε
cr(y))=Δε
pl(y)+Δε
ts(y) ・・・(13)
【0066】
(ステップA23)
ステップA23では、ステップA21で算出された真の伸びひずみ差Δε’pl(y)に基づいて、圧延条件を設定し、圧延後の金属板の形状を制御する。具体的には、例えば真の伸びひずみ差Δε’pl(y)が座屈固有ひずみ差Δεcr(y)以下になるように圧延条件を設定する。そうすると、圧延後の金属板は座屈せず、平坦になる。圧延条件としては、圧延荷重や、ロールの撓みを制御するロールベンダーのモーメント等が挙げられる。なお、圧延条件の設定は任意であって、必要に応じて、本アルゴリズムを通じて真の伸びひずみ差Δε’pl(y)を決定し、圧延後の金属板の形状を制御できる。
【0067】
本第1の実施形態によれば、塑性伸びひずみ差Δεpl(y)と、座屈固有ひずみ差Δεcr(y)又は座屈形状変換伸びひずみ差Δεts(y)とから、金属板の真の伸びひずみ差Δε’pl(y)を求める。このようにして伸びひずみ差を求めることにより、伸びひずみ差の予測精度を従来よりも高くすることができる。したがって、当該真の伸びひずみ差Δε’pl(y)に基づいて圧延条件を設定することにより、圧延後の金属板の形状を自在に制御することができる。
【0068】
ここで、上述したように従来方法では、座屈後も形状プロフィールが維持されると仮定していたが、実際には座屈後に再配分される残留応力分布によって変化する形状プロフィールの影響を考慮していなかったため、
図9に示したような形状プロフィールの誤差が生じていた。
【0069】
この点、本発明者は、座屈後の形状変形によって形状プロフィールが変わることを見出した。そして、以上の第1の実施形態にかかる圧延制御方法によれば、座屈後の形状変形によって再配分される弾性ひずみ差Δεel
*(y)を算出し、当該弾性ひずみ差Δεel
*(y)を用いて再計算を行っているので、金属板の形状を適切に予測することができる。その結果、圧延後の金属板の形状をより適切に制御することが可能となる。
【0070】
本発明者らは、本第1の実施形態の効果(形状予測の高精度化の効果)を検証するため、本第1の実施形態を行った形状予測結果(収束解)について、従来方法を行った形状予測結果と、FEMによる解析結果と比較した。検証結果を
図13及び
図14に示す。
図13は座屈後に金属板に内在する弾性ひずみ差の幅方向分布を示し、
図14は基準化プロフィールの幅方向分布を示している。
【0071】
図13及び
図14を参照すると、従来の形状予測結果はFEMによる解析結果と若干のずれがあるのに対し、第1の実施形態の形状予測結果はFEMによる解析結果とほぼ一致している。したがって、第1の実施形態によれば、金属板の形状を適切に予測することができることがわかった。
【0072】
なお、本第1の実施形態において、座屈に起因する圧延機出側の張力の変動に基づいて真の伸びひずみ差Δε’pl(y)を求めてもよい。具体的には、ステップA16で求めた座屈形状変換伸びひずみ差Δεts(y)を金属板に作用する張力に変換する。圧延機出側の張力の変動によって生じる板幅方向における圧延荷重差の変化ΔPts(y)を求め、さらに下記式(14)に14示すようにΔPts(y)を板幅方向xに2階微分することで伸びひずみ差Δεts’(y)を求める。そして、下記式(8)に示すように、式(15)によって求められる伸びひずみ差Δεts’(y)をステップA11で設定した塑性伸びひずみ差Δεpl(y)に加えたものを、真の伸びひずみ差Δε’pl(y)として求める。
Δεts’(y)=d2ΔPts(y)/dx2・・・・(14)
Δε’pl(y)=Δεpl(y)+Δεts’(y)・・・・(15)
【0073】
このように、座屈形状変換伸びひずみ差Δεts(y)を一旦張力に変換した変換張力を求め、さらにこの変換張力に対応する伸びひずみ差Δεts’(y)を求めているので、求められた伸びひずみ差Δεts’(y)は実現象に近くなる。しかも、当該伸びひずみ差Δεts’(y)を求める際、圧延荷重差の変化ΔPts(y)を2階微分しているので、さらに実現象に近くなる。したがって、金属板の真の伸びひずみ差Δε’pl(y)をさらに精度よく予測することができる。
【0074】
なお、本第1の実施形態では、ステップA11において塑性伸びひずみ差Δεpl(y)を設定しているが、塑性伸びひずみ差Δεpl(y)が既知である場合、あるいは既に求めたものを流用可能な場合には、ステップA11を省略することが可能である。この場合、ステップA13において、既知の塑性伸びひずみ差Δεpl(y)を用いて座屈固有ひずみ差Δεcr(y)を求める。
【0075】
<第2の実施形態にかかる圧延制御方法>
第2の実施形態にかかる金属板の圧延制御方法について説明する。
図15は、第2の実施形態にかかる圧延制御方法を示すフローチャートである。なお、第2の実施形態では、ステップB11が本発明の第1ステップに相当し、ステップB12、B13が本発明の第2ステップに相当し、ステップB14~B21が本発明の第3ステップに相当し、ステップB22、B23が本発明の第4ステップに相当する。
【0076】
(ステップB11)
ステップB11では、板幅方向に所定の幅でN分割された任意の板幅方向位置yでの評価対象の、金属板に作用する圧延荷重差ΔP(y)と、金属板の塑性伸びひずみ差Δεpl(y)を設定する。これら圧延荷重差ΔP(y)と塑性伸びひずみ差Δεpl(y)は、上記ステップA11と同様に、公知の方法、例えば有限要素法(FEM)、スラブ法、物理モデル、実験や計算の回帰式を用いて算出することができる。
【0077】
(ステップB12~B20)
ステップB12~B20は、収束計算を行い、金属板の形状を予測する。これらステップB12~B20は上記ステップA12~A20と同様であり、ここでは詳細な説明を省略する。
【0078】
(ステップB22)
ステップB22は、ステップB15で座屈の発生の有無を判定した結果、金属板は座屈せず、金属板は平坦であると判定された場合である。かかる場合、圧延条件を変更せずにそのままとして、金属板の圧延を行うことにより、金属板の形状が制御される。
【0079】
(ステップB21)
ステップB21は、ステップB15で座屈の発生の有無を判定した結果、金属板が座屈し、且つステップB19において基準化伸びひずみ差Δεnormal
*(y)が収束したと判定された場合である。ステップB21では、真の伸びひずみ差Δε’pl(y)を算出する。
【0080】
ここで、上記ステップB11では、圧延荷重差ΔP(y)と塑性伸びひずみ差Δεpl(y)が設定されており、これら圧延荷重差ΔP(y)と塑性伸びひずみ差Δεpl(y)の相関が導出される。本ステップB21では、この相関に基づいて、ステップB13で算出した座屈固有ひずみ差Δεcr(y)に対応する座屈固有荷重差ΔPcr(y)を求める。そして、ステップB11で設定した圧延荷重差ΔP(y)と、本ステップB21で求めた座屈固有荷重差ΔPcr(y)との差分である、座屈形状変換荷重差ΔPts(y)(ΔPts(y)=ΔP(y)-ΔPcr(y))を算出する。さらに、圧延機の出側と入側で金属板のクラウン比率変化がないと仮定して、公知の方法、例えば有限要素法(FEM)、スラブ法、物理モデル、実験や計算の回帰式を用いて、座屈形状変換荷重差ΔPts(y)から座屈形状変換伸びひずみ差Δεts(y)を求める。なお、座屈形状変換荷重差ΔPts(y)から座屈形状変換伸びひずみ差Δεts(y)を求める際に、ステップB11で求めた圧延荷重差ΔP(y)と塑性伸びひずみ差Δεpl(y)との相関を用いてもよい。そして、下記式(16)により、座屈形状変換伸びひずみ差Δεts(y)に、ステップB11で設定した塑性伸びひずみ差Δεpl(y)に加えたものを、真の伸びひずみ差Δε’pl(y)として求める。
Δε’pl(y)=Δεpl(y)+Δεts(y) ・・・(16)
【0081】
(ステップB23)
ステップB23では、ステップB21で算出された真の伸びひずみ差Δε’pl(y)に基づいて、圧延条件を設定し、金属板の圧延を行うことにより、金属板の形状を制御する。このステップB23は上記ステップA23と同様である。
【0082】
本第2の実施形態は、上記第1の実施形態の変形例である。第1の実施形態と第2の実施形態では、塑性伸びひずみ差Δεpl(y)から増加する分の伸びひずみ差を算出する方法が異なる。第1の実施形態のステップA21では、塑性伸びひずみ差Δεpl(y)と座屈固有ひずみ差Δεcr(y)の差分から伸びひずみ差の増加分を求めるのに対し、第2の実施形態のステップB21では、圧延荷重差ΔP(y)と座屈固有荷重差ΔPcr(y)の差分から伸びひずみ差の増加分を求める。したがって、第2の実施形態では、第1の実施形態と同様の効果を享受できる。すなわち、金属板の真の伸びひずみ差Δε’pl(y)を従来よりも精度よく正確に予測することができる。さらに当該真の伸びひずみ差Δε’pl(y)に基づいて圧延条件を設定することにより、圧延後の金属板の形状を自在に制御することができる。
【0083】
<第3の実施形態にかかる圧延制御方法>
第3の実施形態にかかる金属板の圧延制御方法について説明する。
図16は、第3の実施形態にかかる圧延制御方法を示すフローチャートである。なお、本実施形態では後述するように、iはステップC12~C26の繰り返し計算(以下、「第1の繰り返し計算」という。)の回数を示し、jはステップC13~C22の繰り返し計算(以下、「第2の繰り返し計算」という。)の回数を示す。また、第3の実施形態では、ステップC11、C12が本発明の第1ステップに相当し、ステップC13、C14が本発明の第2ステップに相当し、ステップC15~C24が本発明の第3ステップに相当し、ステップC25、C26が本発明の第4ステップに相当し、ステップC27、C28が本発明の第5ステップに相当する。
【0084】
(ステップC11)
第1の繰り返し計算の1回目(i=1)を始める。
【0085】
(ステップC12)
ステップC12では、板幅方向に所定の幅でN分割された任意の板幅方向位置yでの評価対象の、金属板に作用する圧延荷重差ΔP(i、y)と、金属板の塑性伸びひずみ差Δεpl(i、y)を設定する。このステップC12は、上記ステップB11と同様である。
【0086】
(ステップC13~C21)
ステップC13~C21は、収束計算(第2の繰り返し計算)を行い、金属板の形状を予測する。これらステップC13~C21は上記ステップB12~B20と同様であり、ここでは詳細な説明を省略する。なお、上記第2の実施形態では、各パラメータは板幅方向位置yの分布であり、(y)が付されていたが、本第3の実施形態では、各パラメータには板幅方向位置yの分布であることに加えて、第1の繰り返し計算のi回目であり、(i、y)が付されている。
【0087】
(ステップC22)
上記ステップC20において基準化伸びひずみ差Δεnormal
*(y)が収束していないと判定された場合、ステップC21で再計算用の基準化伸びひずみ差Δεnormal(y)を再設定した後、ステップC13に戻る。この際、ステップC22において、第2の繰り返し計算の回数jが1回増える(j=j+1)。
【0088】
(ステップC27)
ステップC27は、ステップC16で座屈の発生の有無を判定した結果、金属板は座屈せず、金属板は平坦であると判定された場合である。かかる場合、圧延条件を変更せずにそのままとして、金属板の圧延を行うことにより、金属板の形状が制御される。
【0089】
(ステップC23)
ステップC23は、ステップC16で座屈の発生の有無を判定した結果、金属板が座屈し、且つステップC20において基準化伸びひずみ差Δε
normal
*(y)が収束したと判定された場合である。ステップC23では、第1の繰り返し計算の回数iが1回増える(i=i+1)。なお、
図16においては、第2の繰り返し計算が1回目(j=1)を例示しているが、この回数は実際の回数に応じて変動する。
【0090】
(ステップC24)
ステップC24では、新たな圧延荷重差ΔP’(i、y)を算出する。ここで上記ステップC12では、圧延荷重差ΔP(i、y)と塑性伸びひずみ差Δεpl(i、y)が設定されており、これら圧延荷重差ΔP(i、y)と塑性伸びひずみ差Δεpl(i、y)の相関が導出される。本ステップC24では、この相関に基づいて、ステップC14で算出した座屈固有ひずみ差Δεcr(i-1、y)に対応する座屈固有荷重差ΔPcr(i-1、y)を求める。そして、ステップC12で設定した圧延荷重差ΔP(i-1、y)と、本ステップC24で求めた座屈固有荷重差ΔPcr(i-1、、y)との差分である、座屈形状変換荷重差ΔPts(i-1、y)(ΔPts(i-1、y)=ΔP(i-1、y)-ΔPcr(i-1、y))を算出する。そして、下記式(17)により、第1の繰り返し計算の1回前の圧延荷重差ΔP(i-1、y)に対して、座屈形状変換荷重差ΔPts(i-1、y)を加えて、新たな圧延荷重差ΔP’(i、y)を算出する。
ΔP’(i、y)=ΔP(i-1、y)+ΔPts(i-1、y) ・・・(17)
【0091】
本第3の実施形態では、圧延機の出側と入側で金属板のクラウン比率変化があると仮定する。すなわち、金属板に作用する圧延荷重が変動する場合、当該圧延荷重の変動によって圧延機のロールのたわみが変動し、金属板の伸びひずみが変動すると仮定する。そして、ステップC24において、新たな圧延荷重差ΔP’(i、y)を算出する。
【0092】
(ステップC25)
ステップC25では、真の伸びひずみ差Δε’pl(i、y)を算出する。
具体的には、公知の方法、例えば有限要素法(FEM)、スラブ法、物理モデル、実験や計算の回帰式を用いて、ステップC24で求めた座屈形状変換荷重差ΔPts(i-1、y)から座屈形状変換伸びひずみ差Δεts(i-1、y)を求める。なお、座屈形状変換荷重差ΔPts(i-1、y)から座屈形状変換伸びひずみ差Δεts(i-1、y)を求める際に、ステップC12で求めた圧延荷重差ΔP(i、y)と塑性伸びひずみ差Δεpl(i、y)との相関を用いてもよい。そして、下記式(18)により、新たな塑性伸びひずみ差Δεpl(i-1、y)に座屈形状変換伸びひずみ差Δεts(i-1、y)を加えたものを、真の伸びひずみ差Δε’pl(i、y)として求める。
Δε’pl(i、y)=Δεpl(i-1、y)+Δεts(i-1、y) ・・・(18)
【0093】
(ステップC26)
ステップC26では、収束計算(第1の繰り返し計算)において解が求まったどうかを判定する。先ず、下記式(19)により、板幅方向位置y毎に、真の伸びひずみ差Δε’pl(i、y)と1回前の塑性伸びひずみ差Δεpl(i-1、y)の誤差Δer(y)を算出する。すなわち、誤差Δer(y)は、塑性伸びひずみ差Δεpl(y)の変化量である。次に、下記式(20)に示すように、各板幅方向位置y毎の2乗誤差を積算することでΔer*を算出し、この誤差Δer*と所定の閾値とを比較する。そして、誤差Δer*が所定の閾値よりも大きければ、真の伸びひずみ差Δε’pl(i、y)は収束していないと判定して、再計算を行うため、ステップC12に戻る。この際、下記式(21)、(22)に示すように、新たな圧延荷重差ΔP’(i、y)を圧延荷重差ΔP(i、y)とし、真の伸びひずみ差Δε’pl(i、y)を伸びひずみ差Δεpl(i、y)とする。一方、誤差Δer*が所定の閾値以下であれば、真の伸びひずみ差Δε’pl(i、y)が収束したと判定して、ステップC28に進む。
Δer(y)=Δε’pl(i、y)-Δεpl(i-1、y) ・・・(19)
Δer*={Σ(Δer(y))2}>閾値 ・・・(20)
ΔP(i、y)=ΔP’(i、y) ・・・(21)
Δεpl(i、y)=Δε’pl(i、y) ・・・(22)
【0094】
(ステップC28)
ステップC28では、ステップC25で算出された真の伸びひずみ差Δε’pl(i、y))に基づいて、圧延条件を設定し、金属板の圧延を行うことにより、金属板の形状を制御する。このステップC28は上記ステップB23と同様である。
なお、第3ステップで求められる新たな塑性伸びひずみ差が第1ステップで求められる塑性伸びひずみ差であると仮定し、第3ステップで求められる新たな座屈固有ひずみ差が第2ステップで求められる座屈固有ひずみ差であると仮定しても良い。
【0095】
本第3の実施形態によれば、圧延機の出側と入側で金属板のクラウン比率変化があると仮定して、繰り返し演算している。したがって、真の伸びひずみ差Δε’pl(i、y))をさらに精度よく予測することができる。
【0096】
<その他の実施形態>
以上の第1の実施形態、第2の実施形態、第3の実施形態は、それぞれ
図17に示す圧延ライン1において実行される。圧延ライン1は、上述した圧延機10と、当該圧延機10を制御する圧延制御装置20とを有している。圧延制御装置20は、演算部21と制御部22を有している。
【0097】
演算部21では、先ず、圧延制御装置20に設定される暫定的な圧延条件の入力を受け付ける。続いて、演算部21は、入力の受け付けを行った圧延条件に基づいて、第1の実施形態のステップA11~A21、第2の実施形態のステップB11~B21、第3の実施形態のステップC11~C26における演算を行う。そして、第1の実施形態のステップA22、第2の実施形態のステップB22、第3の実施形態のステップC27において、圧延条件の変更なしとされた場合、上述した暫定的な圧延条件の変更が不要である旨を、演算部21から制御部22に通知する。一方、第1の実施形態のステップA21、第2の実施形態のステップB21、第3の実施形態のステップC25において、真の伸びひずみ差Δε’pl(y)が算出されると、当該真の伸びひずみ差Δε’pl(y)を演算部21から制御部22に通知する。
【0098】
制御部22は、演算部21から通知された真の伸びひずみ差Δε’pl(y)に基づいて圧延条件を設定する。制御部22は、例えば真の伸びひずみ差Δε’pl(y)が座屈固有ひずみ差Δεcr(y)以下になるように圧延条件を導出する。なお、新たな圧延条件の導出を演算部21が行ってもよい。
【0099】
そして、制御部22では、圧延条件の変更が不要である旨の通知を演算部21から受けた場合には、当初の圧延条件を圧延機10に出力して圧延機10を制御することにより、圧延後の金属板Hの形状を制御する。一方、制御部22は、上述したように新たな圧延条件が導出された場合には、当該新たな圧延条件を圧延機10に出力して圧延機10を制御することにより、圧延後の金属板Hの形状を制御する。
【0100】
さらに、制御部22では、圧延を終了するか否かに判定を行う。制御部22は、圧延を終了しないと判定した場合には処理を圧延条件の入力に戻し、第1の実施形態のステップA11、第2の実施形態のステップB11、第3の実施形態のステップC11以降を行う。一方、制御部22は、圧延を終了すると判定した場合には、本ルーチンを終了させる。
【0101】
また、圧延ライン1には、圧延機10の出側において形状計30が設置されていてもよい。形状計30は、圧延後の金属板Hの形状を測定する。金属板Hの形状としては、金属板Hの長手方向位置及び板幅方向位置と、その位置における高さ変位が測定される。形状計30における測定結果は、圧延制御装置20に出力される。圧延制御装置20では、演算部21において、形状計30の測定結果に基づいて座屈形状変換伸びひずみ差Δεts(y)が補正され、これに伴い真の伸びひずみ差Δε’pl(y)が補正される。この真の伸びひずみ差Δε’pl(y)の補正は、特許文献3(特開2012-218010号公報)に記載の方法に従う。すなわち、先ず、形状計30の測定結果に基づいて、実績の座屈形状変換伸びひずみ差Δεts(y)を求める。この実績の座屈形状変換伸びひずみ差Δεts(y)と、上記実施形態において予測した座屈形状変換伸びひずみ差Δεts(y)とを比較し、これらの差分(誤差)Eをモデルの誤差とし、この差分Eに基づいて、ステップA11、B11、C12で求められる塑性伸びひずみ差Δεpl(y)(圧延荷重差ΔP(y))に対して学習、修正を行う。具体的には、ステップA11、B11、C12で求められた塑性伸びひずみ差Δεpl(y)(圧延荷重差ΔP(y))に対して差分Eを加えた後に、以降の各処理を行って真の伸びひずみ差Δε’pl(y)を求める。そして、制御部22では、演算部21における真の伸びひずみ差Δε’pl(y)の補正結果に基づいて、金属板Hの形状が目標形状となるように圧延条件が補正される。こうして、形状計30の測定結果に基づいて、圧延条件がフィードバック制御される。
【0102】
本発明は、圧延機10の入側において金属板Hが面外変形している場合にも適用することができる。本発明者が調べたところ、このように圧延機入側で金属板Hが面外変形している場合、当該圧延機入側で金属板Hが面外変形していない場合に比べて、圧延後の金属板Hにおける伸びひずみ差が大きくなることが分かった。換言すれば、従来の方法によれば金属板の形状予測精度がさらに悪化する。これに対して、本発明では、この圧延機入側での面外変形分に対応する伸びひずみ差を、座屈形状変換伸びひずみ差Δεts(y)に含めることができるので、金属板Hにおける真の伸びひずみ差Δε’pl(y)を予測するのに影響がない。したがって、圧延機入側で金属板Hが面外変形していても、当該金属板Hの形状を適切に制御することができる。
【0103】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、薄板や厚板などの金属板の圧延後の形状を予測して、当該予測結果に基づいて、当該金属板の形状を制御する場合に有用である。
【符号の説明】
【0105】
1 圧延ライン
10 圧延機
20 圧延制御装置
21 演算部
22 制御部
30 形状計
H 金属板