(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175014
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】尿素フリー水の製造方法及び製造装置、ならびに尿素の定量方法及び分析装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/00 20060101AFI20221117BHJP
G01N 33/18 20060101ALI20221117BHJP
C02F 1/42 20060101ALI20221117BHJP
B01D 61/02 20060101ALI20221117BHJP
C02F 1/44 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
C02F1/00 P
G01N33/18 Z
C02F1/42 D
B01D61/02 500
C02F1/44 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081113
(22)【出願日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 惟
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一重
【テーマコード(参考)】
4D006
4D025
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006KA01
4D006KB30
4D006MC18
4D006MC54
4D006PA01
4D006PB02
4D006PB53
4D025AA04
4D025AB36
4D025BA14
4D025BB02
4D025BB07
4D025DA10
(57)【要約】
【課題】試料水中の尿素の定量を行うときに例えば濃度標準液の調製や分析装置のキャリア水として用いることができ、かつ試料水中の尿素濃度の測定値に影響を与えることがない、尿素が実質的に除去された尿素フリー水を提供する。
【解決手段】少なくともウレアーゼを含む酵素が固定化された担体(固定化酵素51)に通水することより処理水を得る工程と、処理水にリークした酵素を除去または失活させて尿素フリー水を得る後処理工程とを実施して尿素フリー水を製造する。後処理工程は、例えば、処理水をアニオン交換樹脂53に通水させる工程である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿素含有水を、少なくともウレアーゼを含む酵素と接触させることより処理水を得る処理工程と、
前記処理水にリークした前記酵素を除去または失活させて尿素フリー水を得る後処理工程と、
を有する、尿素フリー水の製造方法。
【請求項2】
前記処理工程は、前記尿素含有水を、少なくともウレアーゼを含む酵素が固定化された担体に通水させて前記処理水を得る工程である、請求項1に記載の尿素フリー水の製造方法。
【請求項3】
前記後処理工程は、前記処理水をアニオン交換樹脂に通水する工程である、請求項1または2に記載の尿素フリー水の製造方法。
【請求項4】
前記アニオン交換樹脂に対し、50h-1以下の空間速度で前記処理水を通水する、請求項3に記載の尿素フリー水の製造方法。
【請求項5】
前記アニオン交換樹脂は、OH形強塩基性アニオン交換樹脂である、請求項3または4に記載の尿素フリー水の製造方法。
【請求項6】
前記後処理工程は、前記逆浸透膜により前記処理水から前記酵素を除去する工程である、請求項1または2に記載の尿素フリー水の製造方法。
【請求項7】
尿素含有水を、少なくともウレアーゼを含む酵素と接触させる処理手段と、
前記処理手段によって処理された処理水が通水されるアニオン交換樹脂と、
を備え、
前記アニオン交換樹脂から排出される前記処理水を尿素フリー水とする、尿素フリー水の製造装置。
【請求項8】
前記処理手段に対する通水温度が30℃以下となるように、前記処理手段に供給される前記尿素含有水、及び前記処理手段の少なくとも一方を冷却する冷却手段をさらに備える、請求項7に記載の尿素フリー水の製造装置。
【請求項9】
試料水中の尿素を定量する尿素の定量方法であって、
尿素標準液の調製に用いる水、及びキャリア水の少なくとも一方に、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の尿素フリー水の製造方法で製造された尿素フリー水を使用する定量方法。
【請求項10】
キャリア水の流れに対して試料水の一定量を導入して前記試料水における尿素の定量を行う尿素の分析装置であって、
請求項7または8に記載の尿素フリー水の製造装置を備え、
前記尿素フリー水の製造装置から得られる、尿素濃度が1μg/L以下の尿素フリー水を前記キャリア水とする、分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中の尿素の定量に関し、特に、尿素の定量を行う際に用いることができる尿素フリー水の製造方法及び製造装置と、そのようにして得られた尿素フリー水を用いる尿素の定量方法及び分析装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
水中の微量の尿素を精度よく分析し定量することに対する要求がある。例えば、純水製造システムあるいは超純水製造システムによって原水から純水を製造する場合、純水製造システムを構成するイオン交換装置や紫外線酸化装置では原水中の尿素を除去することが困難であるため、予め尿素を除去した原水を純水製造システムに供給する必要がある。尿素の除去方法として、次亜臭素酸を生成する薬剤を原水に加えて次亜臭素酸により尿素を選択的に酸化する方法が知られているが、次亜臭素酸を生成する薬剤も純水製造システムに対する負荷となるので、薬剤投入量は少なければ少ない方がよい。したがって、原水中の尿素濃度を定量して尿素処理の必要性を判断し、処理が必要な場合に適切な量の薬剤を投入することが望まれている。さらに、純水製造システムから得られた純水中の尿素濃度を測定することについても要求がある。
【0003】
尿素の定量法としては、ジアセチルモノオキシムを用いた比色法に基づく定量法(例えば、衛生試験法(非特許文献1)に記載された方法など)が知られている。ジアセチルモノオキシムを用いる比色法では、反応を促進するなどの目的で、他の試薬(例えば、アンチピリン+硫酸溶液、塩酸セミカルバジド水溶液、塩化マンガン+硝酸カリウムの水溶液、リン酸二水素ナトリウム+硫酸溶液など)を併用することができる。アンチピリン(1,5-ジメチル-2-フェニル-3-ピラゾロン)を併用する場合には、ジアセチルモノオキシムを酢酸溶液に溶解させてジアセチルモノオキシム酢酸溶液を調製し、アンチピリンを例えば硫酸に溶解させてアンチピリン含有試薬液を調製し、試料水に対してジアセチルモノオキシム酢酸溶液とアンリピリン含有試薬液とを順次混合し、波長460nm付近での吸光度を測定し、標準液との対照によって定量を行う。
【0004】
ジアセチルモノオキシムを用いた比色法による尿素の定量方法は、例えばプール水や公衆浴場水における尿素の定量を目指して意図されたものであるので、純水製造プロセスに供給される原水などにおける尿素の定量を行うための方法としては感度が悪い。そこで特許文献1は、ジアセチルモノオキシムを用いる比色法に基づきながらフローインジェクション分析を適用して吸光度を測定することにより、ppb以下から数ppmの濃度範囲で試料水中の尿素を連続的にオンラインで定量する方法を開示している。特許文献2は、ジアセチルモノオキシムを用いる比色法に基づきながらフローインジェクション分析を適用して尿素を定量する場合に、反応に用いる試薬を冷蔵することによって、長期間にわたるオンラインでの連続的な自動測定を安定して実行できることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-338099号公報
【特許文献2】特開2018-179545号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本薬学会編、衛生試験法・注解1990.4.1.2.3(13)1(1990年版第4刷付追補(1995)、p1028)、1995年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び特許文献2に記載された方法は、フローインジェクション分析を用いることにより高感度で尿素の定量を行うことができる方法であるが、この定量方法の実施に用いられる水、例えば、濃度標準液を調製する際に用いる水やフローインジェクション分析でのキャリア水に尿素が含まれていると、それらの水に含まれる尿素は分析誤差の要因となる。フローインジェクション分析以外の方法によって尿素を定量する場合においても、定量操作に用いる水のいずれかに尿素が含まれていると、そのことは分析誤差の要因となる。例えば液体クロマトグラフィーによる分析を行うときであっても、移動相として水を用いるときにこの水すなわちキャリア水に尿素が含まれていれば、分析誤差が発生する。特に、試料水中に含まれるμg/Lレベルの微量の尿素の分析を行う場合には、標準液の調製に用いる水やキャリア水にμg/Lレベルでも尿素が含まれていれば、その影響は大きい。
【0008】
上述したようにイオン交換処理や紫外線酸化処理によっては尿素を除去することは難しく、超純水製造システムによって超純水を製造する場合においても、原水の水質の変動や装置の不具合などによる不完全な処理のために、製造される超純水に微量の尿素が含まれ、しかもその濃度が変動することがある。したがって、濃度標準液の調製やキャリア水に超純水を使用した場合であっても、尿素の微量分析の結果が不正確なものとなることがある。また、試料水中の尿素の定量のために尿素を除去した水を用意できたとして、その水に含まれる成分が試料水中の尿素濃度の測定値を影響を与えるものであるときは、尿素の定量結果は正確さを欠くものとなる。
【0009】
本発明の目的は、試料水中の尿素を分析する際に用いることができる尿素フリー水であって、少なくとも分析に影響を及ぼさない程度にまで尿素濃度が低下しているとともに、試料水中の尿素濃度の測定値に影響を与えることがない尿素フリー水の製造方法及び製造装置と、この尿素フリー水を用いることにより試料水中の微量の尿素を精度よく定量できる定量方法及び分析装置とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
尿素を加水分解する酵素としてウレアーゼ(urease; EC 3.5.1.5)がある。ウレアーゼは、水の存在下でごく低濃度の尿素であってもその尿素を二酸化炭素とアンモニアに分解することができる。
(NH2)2CO + H2O → CO2 +NH3
【0011】
本発明者らの検討によれば、後述の実施例に示すように、ウレアーゼによって水を処理することにより、水中の尿素濃度を1μg/L以下にまでに低減することができ、分析に影響を及ぼさない程度にまで尿素が除去された尿素フリー水を得ることができる。しかしながら、尿素フリー水にウレアーゼが混入していると、その尿素フリー水を用いて試料水中の尿素の定量を行ったときにウレアーゼが試料水中の尿素を分解してしまい、その結果、実際の尿素濃度よりも低い定量結果が得られることになる。
【0012】
そこで本発明の尿素フリー水の製造方法は、尿素フリー水中にウレアーゼが混入しないようにするために、尿素含有水を、少なくともウレアーゼを含む酵素と接触させることより処理水を得る処理工程と、処理水にリークした酵素を除去または失活させて尿素フリー水を得る後処理工程と、を有する。処理工程は、例えば、尿素含有水を、少なくともウレアーゼを含む酵素が固定化された担体(すなわち固定化酵素)に通水させて処理水を得る工程である。後処理工程は、例えば、処理水をアニオン交換樹脂に通水する工程、あるいは、逆浸透膜により処理水から酵素を除去する工程である。
【0013】
本発明の尿素フリー水の製造装置は、尿素含有水を、少なくともウレアーゼを含む酵素と接触させる処理手段と、処理手段によって処理された処理水が通水されるアニオン交換樹脂と、を備え、アニオン交換樹脂から排出される処理水を尿素フリー水とする。処理手段は、例えば、少なくともウレアーゼを含む酵素が担体に固定化された固定化酵素である。
【0014】
本発明の尿素の定量方法は、試料水中の尿素を定量する定量方法であって、尿素標準液の調製に用いる水、及びキャリア水の少なくとも一方に、本発明の尿素フリー水の製造方法によって製造された尿素フリー水を使用する。
【0015】
本発明の尿素の分析装置は、キャリア水の流れに対して試料水の一定量を導入して試料水における尿素の定量を行う尿素の分析装置であって、本発明の尿素フリー水の製造装置を備え、尿素フリー水の製造装置から得られる、尿素濃度が1μg/L以下の尿素フリー水をキャリア水とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、試料水中の尿素を分析する際に用いることができる尿素フリー水であって、少なくとも分析に影響を及ぼさない程度にまで尿素濃度が低下しているとともに、試料水中の尿素濃度に影響を与えることがない尿素フリー水を容易に得ることができ、これにより、試料水中の微量の尿素を精度よく定量できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に基づく尿素フリー水の製造装置の一例を説明する図である。
【
図2】本発明に基づく尿素フリー水の製造装置の別の例を説明する図である。
【
図3】本発明の実施の一形態の分析装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態について説明する。本発明に基づく尿素フリー水の製造方法は、尿素を含有する可能性を有する水をウレアーゼによって処理することにより、試料水中の尿素の分析に影響を与えない程度まで尿素濃度が低下している尿素フリー水、例えば、尿素濃度を1μg/L以下とした尿素フリー水を製造するものである。本発明では、遊離したウレアーゼを用いて尿素フリー水を得ることもできるが、ウレアーゼの散逸を防ぐために、とりわけ尿素フリー水へのウレアーゼの混入を防ぐために、担体に固定化されたウレアーゼを用いることが好ましい。以下では、ウレアーゼが固定化された担体を「固定化酵素」と呼ぶ。固定化酵素に通水することにより、水中の尿素は選択的に高速で加水分解し、除去される。このときの通水条件は、固定化酵素を通過した水における尿素濃度が例えば1μg/L以下となるように、予め試験において定めておいてもよい。
【0019】
このような製造方法で製造され、尿素濃度が例えば1μg/L以下とされた尿素フリー水は、例えば、尿素の定量の際に用いられる尿素標準液の調製、フローインジェクション法や液体クロマトグラフィー法を用いて尿素を定量するときのキャリア水に用いることができる。微量の尿素を定量する手法として、液体クロマトグラフィー(LC)と質量分析(MS)とを組み合わせたLC/MS法、さらには質量分析を2段で行うLC/MS/MS法があるが、これらの分析手法を実施する際の液体クロマトグラフ部における移動相(すなわちキャリア水)にも、このようにして製造された尿素フリー水を用いることができる。フローインジェクション法と液体クロマトグラフィー法は、キャリア水の流れに対して試料水の一定量を導入することにより定量を行うという点で一致する。
【0020】
少なくともウレアーゼが固定化されている固定化酵素に通水することによって得られる尿素フリー水は、試験水中の微量の尿素の定量の際に用いる例えば標準液やキャリア水などに用いることができる。しかしながら尿素フリー水にウレアーゼが混入していると、そのウレアーゼが尿素の定量値に影響を与える。例えば尿素フリー水を尿素標準液に調製に用いる場合、尿素フリー水中のウレアーゼは尿素標準液中の尿素を分解除去してしまうので、検量線の直線性が得られず、尿素の定量が不可能になる。また、試験水が注入されるキャリア水として尿素フリー水を用いる場合、尿素フリー水中のウレアーゼは試験水中の尿素を分解除去してしまうので、この尿素標準液を使用した尿素の定量結果は、試験水中の本来の尿素の量よりも小さな値を与えることになる。したがって、少なくともウレアーゼが固定化されている固定化酵素に通水することによって尿素フリー水を製造する場合には、固定化酵素から離脱したウレアーゼがその酵素活性を保った状態で尿素フリー水に混じらないようにする必要がある。
【0021】
そこで本発明に基づく尿素フリー水の製造方法では、少なくともウレアーゼを含む固定化酵素に通水することより処理水を得たのち、その処理水にリークしている酵素を除去または失活させる後処理工程を行って、尿素フリー水を最終的に得る。後処理工程は、例えば、処理水をアニオン交換樹脂に通水する工程、あるいは、逆浸透膜により処理水から酵素を除去する工程である。
【0022】
図1は、後処理工程において処理水をアニオン交換樹脂に通水させる場合の尿素フリー水の製造装置の構成の一例を示している。固定化酵素51が収容された固定化酵素カラム52と、アニオン交換樹脂53が充填されたアニオン交換樹脂カラム54とが設けられ、尿素を含有する可能性がある水(以下、尿素含有水と呼ぶ)が固定化酵素カラム52に供給される。尿素含有水が固定化酵素カラム52を通過することによって、尿素含有水に含まれる尿素は、固定化酵素51として固定されたウレアーゼに接触して分解除去され、固定化酵素カラム52からは、尿素が除去された処理水が排出される。固定化酵素51から離脱したウレアーゼなどの酵素が処理水に含まれている可能性がある。続いてこの処理水は、アニオン交換樹脂カラム54に供給される。後述の実施例からも明らかになるように、処理水のウレアーゼはアニオン交換樹脂カラム54中のアニオン交換樹脂53と接触することによって失活しまたは除去され、その結果、アニオン交換樹脂カラム54の出口水として、尿素もウレアーゼなどの酵素も除去された尿素フリー水が得られる。このとき、アニオン交換樹脂53に対する処理水の空間速度が50h
-1以下であるようにアニオン交換樹脂53に処理水を通水することが好ましい。アニオン交換樹脂53としては、強塩基性アニオン交換樹脂も弱塩基性アニオン交換樹脂も使用することができる。アニオン交換樹脂53においてそのイオン形はOH形であってもCl形などの他のイオン形であってもよいが、OH形の方がより好ましく、イオン形がOH形であるときは、全イオン交換容量あたりの10~99%のイオン交換基にOH
-イオンが結合していることが好ましく、70~99%のイオン交換基にOH
-イオンが結合していることがより好ましい。アニオン交換樹脂53に処理水を通水するとアニオン交換樹脂53から気泡が発生することがあるので、アニオン樹脂カラム54を冷却するか、あるいは、アニオン交換樹脂カラム53に通水される処理水に圧力を加えることが好ましい。
【0023】
図2は、後処理工程において逆浸透膜により処理水からウレアーゼなどの酵素を除去する場合の尿素フリー水の製造装置の構成の一例を示している。
図2に示す装置は、
図1に示す装置におけるアニオン交換樹脂カラム54の代わりに逆浸透膜装置56を設けたものであり、固定化酵素カラム52から排出された処理水は、逆浸透膜装置56に供給される。逆浸透膜装置56の内部には逆浸透膜55が設けられている。酵素はその分子量が大きくて逆浸透膜55を透過することができないから、逆浸透膜装置56の透過水として、尿素もウレアーゼなどの酵素も除去された尿素フリー水が得られる。逆浸透膜55を透過できなかった酵素は、濃縮水の形態で逆浸透膜装置56から排水として排出される。逆浸透膜55としては、酢酸セルロース製の逆浸透膜や、ポリアミド製の逆浸透膜を用いることができる。新品の逆浸透膜を使用するときは、尿素の定量に影響する溶出物、より具体的には正の誤差を生じる干渉物質を予め洗浄により除去してから使用する。
【0024】
本発明において使用できるウレアーゼとしては、市販のものを好ましく用いることができる。例えばナタマメ(Canavalia gladiata)由来のウレアーゼが市販されており、ナタマメ由来のウレアーゼを本発明において好ましく使用することができる。ウレアーゼを固定化する担体としては、酵素の固定化に一般的に使用されているものを使用することができ、例えば、イオン交換樹脂、合成吸着剤、包括固定化担体などを使用することができる。固定化酵素におけるウレアーゼの固定化量は、1gの担体当たりの酵素単位(ユニット)で表して、すなわちU/g-Rで表して、300U/g-R以上7500U/g-R以下とすることが好ましく、750U/g-R以上3000U/g-R以下とすることがより好ましい。ウレアーゼの場合、1Uは、37℃において1分間に1μmolの尿素を加水分解する酵素量である。ウレアーゼの固定化量が300U/g-Rを下回ると、尿素濃度を十分低下させるためには通水時の空間速度(SV)を小さくする必要が生じる。一方、ウレアーゼの固定化量が7500U/g-Rを超えると、製造コストが高くなる。
【0025】
尿素フリー水の製造のために固定化酵素に通水される水としては、尿素濃度が低い水であることが好ましい。水に含まれる濁質などによる通水差圧の上昇などの不具合を防止するために、固定化酵素に通水される水は、純水、超純水または蒸留水などであることが好ましい。固定化酵素に対する通水速度が小さいほど、固定化酵素における尿素分解性能は向上する。生成される尿素フリー水の水質の観点から、固定化酵素に対する通水速度は、空間速度で表して500h-1以下が好ましく、300h-1以下がさらに好ましく、100h-1以下がより好ましい。
【0026】
固定化酵素に対する通水温度、すなわち、固定化酵素に通水される水の温度は、例えば0℃以上60℃以下とする。通水温度が高いほど固定化酵素における尿素の加水分解の反応速度は速くなるが、ウレアーゼの失活速度も大きくなる。一方、通水温度が低ければ尿素の加水分解の反応速度は遅くなるが、ウレアーゼの失活速度が小さくなり、固定化酵素の寿命を伸ばすことが可能になる。固定化酵素の寿命の観点から、通水温度は好ましくは2℃以上30℃(常温)以下、より好ましくは4℃以上20℃以下とする。通水温度を低くするためには、固定化酵素の入口側に冷却用の熱交換器を設置する、あるいは固定化酵素を充填したカラムを保冷庫内に配置するなどの方法を取ることができる。
【0027】
本発明に基づく製造方法によれば、尿素フリー水を連続的に製造することができるため、本発明は、バッチ分析によって尿素の定量を行う場合よりも、尿素の連続定量分析あるいは尿素のモニタリングを行う際に有用である。本発明に基づいて製造された尿素フリー水を用いることにより、μg/Lのレベルで微量の尿素を含む試料水に対する尿素の定量を精度よく行うことが可能にある。以上説明した製造方法では、少なくともウレアーゼを含む酵素が固定化された固定化酵素に尿素含有水を通水させることにより処理水を得て、この処理水にリークした酵素を除去または失活させて尿素フリー水を得ているが、本発明に基づく尿素フリー水の製造方法はこれに限定されるものではない。少なくともウレアーゼを含む酵素に尿素含有水を接触させて処理水を得る処理工程と、処理水にリークした酵素を除去または失活させる後処理工程とを備えれば、処理工程において酵素が担体に固定化されているかされていないかに関わらず、本発明の製造方法の範囲に含まれる。
【0028】
図3は、本発明に基づく尿素フリー水の製造方法を適用した尿素の分析装置を示している。ここでは、純水製造に用いる原水、あるいは純水そのものを試料水とし、試料水に含まれる微量の尿素をオンラインで連続的に定量する場合を例に挙げて説明する。もちろん、尿素の分析対象となる試料水は、純水製造に用いる原水あるいは純水に限定されるものではない。
【0029】
図3に示されるように、純水製造に用いる原水のライン20が設けられており、このライン20では、原水がポンプP0によって送水される。原水のライン20から分岐する試料水配管21が設けられている。試料水配管21は、原水から分岐した試料水の配管であり、開閉弁22、流量計FIを備えている。試料水配管21の先端は、サンプリング弁10(インジェクター、インジェクション弁ともいう)が設けられている。サンプリング弁10を含めてサンプリング弁10から下流の部分は、フローインジェクション分析(FIA;flow injection analysis)装置としての構成を有して実際に尿素の定量に関わる部分となる。
【0030】
サンプリング弁10は、FIA法において一般的に用いられる構成のものであり、六方弁11とサンプルループ12とを備えている。六方弁11は、図示丸付き数字で示される6個のポートを備えている。試料配管21はポート2に接続している。また、ポンプP1を介してキャリア水が供給される配管23がポート6に接続し、ポンプP4を介して試料水を排水するための配管25がポート3に接続している。ポート1とポート4との間には、所定容量の試料水を採取するためのサンプルループ12が接続している。ポート5には、サンプリング弁10の出口となる配管24の一端が接続している。キャリア水は、配管19を介してポンプP1に供給され、ポンプP1から配管23を介してポート6に向けて送液されている。
【0031】
キャリア水は、一般には純水などが使用されるが、尿素の定量精度に大きな影響を与えるものであり、尿素濃度が極めて低いことが要求される。後述の実施例からも明らかになるように、試料水中のμg/Lレベルの尿素の定量を行う場合には、キャリア水中の尿素濃度は1μg/L以下である必要がある。そこで本実施形態では、本発明の製造方法によって製造された尿素フリー水をキャリア水として使用する。そのため分析装置には、少なくともウレアーゼを含む酵素を担体に固定化した固定化酵素51を収納した固定化酵素カラム52と、固定化酵素カラム52の後段に設けられアニオン交換樹脂53が充填されたアニオン交換樹脂カラム54とを備える尿素フリー水製造部50が設けられている。アニオン交換樹脂カラム54の出口にはキャリア水の配管23が接続する。純水が配管62を介して固定化酵素カラム52に供給される。上述したように固定化酵素51に通水するときは通水温度を低くすることが好ましいから、尿素フリー水製造部50において配管62には冷却水が供給される熱交換器63が設けられており、配管62を流れる純水は熱交換器63によって所定温度、例えば20℃にまで冷却される。熱交換器63を設ける代わりに、尿素フリー水製造部50、特に固定化酵素カラム52を保冷庫の内部に設けるようにしてもよい。
【0032】
尿素フリー水製造部50では、配管62を介して供給された純水が固定化酵素カラム52内の固定化酵素51を通過し、その際に純水中の尿素が加水分解される。固定化酵素51を通過した水は、次に、アニオン交換樹脂カラム54内のアニオン交換樹脂53を通過してその水中のウレアーゼなどの酵素が失活しあるいは除去される。これにより、尿素フリー水製造部50から、尿素濃度が1μg/L以下でありかつ活性を有する状態ではウレアーゼなどの酵素を実質的に含まない尿素フリーがキャリア水として配管23に供給されて、FIA法による尿素の定量において使用されることになる。なお、尿素フリー水製造部50において、アニオン交換樹脂53が充填されたアニオン交換樹脂カラム54の代わりに、逆浸透膜を備える逆浸透膜装置を設けてもよい。
【0033】
六方弁11においてポートXとポートYとが連通することを(X-Y)と表すこととすると、六方弁11は、(1-2)、(3-4)、(5-6)である第1の状態と、(2-3)、(4-5)、(6-1)である第2の状態とを切り替えられるようになっている。
図1において、第1の状態でのポート間の接続関係は実線で示され、第2の状態でのポート間の接続は点線で示されている。第1の状態においてキャリア水は、配管23→ポート6→ポート5→配管24と流れてサンプリング弁10から下流側に流出する。試料水は、試料水配管21→ポート2→ポート1→サンプルループ12→ポート4→ポート3と流れて配管25から排出される。この第1の状態から第2の状態に切り替わると、試料水は、試料水配管21→ポート2→ポート3と流れて配管25から排出され、また、キャリア水は、配管23→ポート6→ポート1→サンプルループ12→ポート4→ポート5→配管24と流れ、下流側へ流出する。このとき、第1の状態であったときに既に流入してサンプルループ12内を満たしている試料水は、キャリア水に先立ってポート5から配管24へと流れ込み、サンプリング弁10の下流側へと流れる。配管24に流れる試料水の体積は、サンプルループ12によって規定される。したがって、第1の状態と第2の状態とを繰り返し切り替えることによって、例えば六方弁11を図示矢印方向に回転することによって、所定容量の試料水を繰り返して配管24に送り込むことができる。第1の状態と第2の状態との切り替えは、反応に必要な滞留時間や、検出器32で尿素が検出されるまでの時間を考慮して、所定の時間ごとに行うことができる。また、検出器32に導入した試料水が検出器32から排出されたことを検知して切り替えを行うこともできる。このように、第1の状態と第2の状態との切り替えを自動的に行うようにすることで、尿素を連続的に定量することができる。
【0034】
この分析装置では、ジアセチルモノオキシムを用いる比色法による尿素の定量に対してFIA法を適用する。そのため、尿素の定量に用いる反応試薬として、ジアセチルモノオキシム酢酸溶液(以下、試薬Aともいう)とアンチピリン含有試薬液(以下、試薬Bともいう)を使用する。ここではジアセチルモノオキシムと併用される試薬としてアンチピリン含有試薬液を用いる場合を説明するが、ジアセチルモノオキシムと併用される試薬はアンチピリン含有試薬液に限定されるものではない。試薬A及び試薬Bは、それぞれ、貯槽41,42に貯えられる。
【0035】
本発明者らは、特許文献2において既に開示したように、これらの試薬を調製後、尿素の連続定量のために長期間(例えば数日間以上)にわたって室温に保持した場合に吸光度測定でのピーク強度が低下すること、及び、このピーク強度の低下は試薬(特に試薬B)を冷蔵することにより防ぐことができることを見出している。安定した定量を行うためには吸光度測定でのピーク強度が低下しないことが好ましいので、本実施形態の分析装置では、貯槽41,42を冷蔵部40内に設けている。試薬Aはジアセチルモノオキシムを酢酸溶液に溶解させて調製されるが、冷蔵部40を設ける場合には、調製自体を貯槽41で行う、あるいは、試薬Aをその調製後、貯槽41に貯えるようにする。同様に、試薬Bは、アンチピリンを例えば硫酸に溶解させて調製されるが、調製自体を貯槽42で行う、あるいは、試薬Bをその調製後、貯槽42に貯えるようにする。冷蔵部40は、貯槽41,42を遮光するとともに、貯槽41,42を冷却し、これによって、貯槽41,42内の試薬A、試薬Bの温度を20℃以下、好ましくは3℃以上20℃以下、より好ましくは5℃以上15℃以下に維持する。なお、試薬Aを貯える貯槽41については、遮光保管できるものであれば、必ずしも冷蔵部40内に配置する必要はない。試薬の冷蔵温度は、5℃未満であっても、試薬において結晶の析出が生じなければ差し支えない。衛生試験法(非特許文献1)には、アンチピリンを硫酸に溶解させたアンチピリン硫酸溶液について、褐色瓶に保管すれば2~3箇月は使用できることと、結晶が析出し室温に戻しても再溶解しないため冷蔵保管は適さないこととが記載されているが、本発明者らは、衛生試験法にしたがって調整されたアンチピリン硫酸溶液は3℃でも結晶化しないことを実験により確認した。なお、試薬A及び試薬Bの調製の際の希釈操作を行うのであれば、希釈に使用する水としては、本発明に基づいて製造された尿素フリー水を用いることが好ましい。
【0036】
貯槽41には配管26の一端が接続し、配管26の他端は混合部43により配管24に接続している。配管26には、試薬Aを所定の流量で配管24に送り込むためのポンプP2が設けられている。同様に貯槽42には配管27の一端が接続し、配管27の他端は混合部44により配管24に接続している。配管27には、試薬Bを所定の流量で配管24に送り込むためのポンプP3が設けられている。混合部43,44は、それぞれ、試薬A、試薬Bを配管24内の液体の流れに対して均一に混合する機能を有する。配管24の他端は、反応恒温槽30内に設けられた反応コイル31の入口に接続している。反応コイル31は、その内部においてアンチピリンの存在下での尿素とジアセチルモノオキシムとによる発色反応を起こさせるものであり、その長さと反応コイル31の内部での流速とは、反応に必要な滞留時間に応じて適宜に選択される。反応恒温槽30は、反応コイル31を反応に適した温度まで昇温するものであって、例えば、50℃以上150℃以下、好ましくは90℃以上130℃以下の温度に反応コイル31を加熱する。
【0037】
反応コイル31の末端すなわち出口には、反応コイル31から流れ出る液を対象として、発色反応によって液中に生じた発色の吸光度を測定するための検出器32が設けられている。検出器32によって、例えば、波長460nm付近での吸光度のピーク強度あるいはピーク面積を求める。キャリア水が流れているときの吸光度をベースラインとし、尿素濃度が既知の標準液に対する吸光度から検量線を求めることにより、試料水に対する吸光度から試料水での尿素の濃度を求めることができる。検出器32の出口には、ポンプP1からサンプリング弁10、配管24及び反応コイル31を経て検出器32に至る管路に対して背圧を与える背圧コイル33が設けられている。検出器32の出口と背圧コイル33の入口との間の位置に対し、圧力計PIが接続している。背圧コイル33の出口から、この分析装置の排液が流出する。
【0038】
本実施形態の分析装置において尿素の定量を行う場合には、それに先立ち、尿素標準液を用いて検量線を作成する必要がある。検量線の作成に用いる尿素標準液を調製する際にも、固定化酵素によって処理し、さらにアニオン交換樹脂あるいは逆浸透膜による後処理を行って尿素濃度が1μg/L以下となった尿素フリー水を使用する。
【0039】
本実施形態の分析装置によれば、尿素濃度が1μg/L以下であるキャリア水を使用してフローインジェクション分析を行うので、試料水に含まれるμg/Lのレベルの尿素を正確に定量することができる。
【実施例0040】
次に、実施例によって本発明をさらに詳しく説明する。
【0041】
[実施例1]
酵素活性が150U/mgのウレアーゼ(富士フィルム和光純薬社製)660mgを純水80mLに溶解させてウレアーゼ水溶液を得た。オルガノ社製のアクリル製合成吸着剤AMBERLITE(登録商標) XAD-7HPを、固定化酵素を作成するための担体として使用した。このウレアーゼ水溶液と担体20gとを室温で5分間にわたって接触させ、担体にウレアーゼを固定化して固定化量が830U/g-Rの固定化酵素を得た。
【0042】
上記方法で作製した固定化酵素の後段に、実施例1-1として、イオン形がOH形であるオルガノ社製の強塩基性アニオン交換樹脂AMBERJET(登録商標) ESG4002(OH)-HGを配置した上で、固定化酵素に対して尿素濃度が5μg/Lである尿素水溶液を通液した。実施例1-1で用いた強塩基性アニオン交換樹脂は、その全イオン交換容量あたりの90%のイオン交換基に対してOH-イオンが結合しているものである。同様に、実施例1-2として、固定化酵素の後段に、イオン形がOH形であるオルガノ社製の強塩基性アニオン交換樹脂AMBERJET(登録商標) 4002(OH)を配置した上で、固定化酵素に対して尿素濃度が5μg/Lである尿素水溶液を通液した。実施例1-1で用いた強塩基性アニオン交換樹脂は、その全イオン交換容量あたりの75%のイオン交換基に対してOH-イオンが結合しているものである。実施例1-1及び1-2のいずれにおいても固定化酵素における通水のSV(空間速度)は2h-1であった。また、強塩基性アニオン交換樹脂におけるSVを5~50h-1の範囲で変化させて実験を繰り返した。固定化酵素と強塩基性アニオン交換樹脂とを順次通過した水をLC/MS/MS法で分析したところ、実施例1-1及び1-2にいずれにおいても、強塩基性アニオン交換樹脂でのSVによらず、尿素濃度は定量下限である1μg/L以下であることを確認した。すなわち、尿素濃度が1μg/L以下の尿素フリー水が得られた。
【0043】
[実施例2]
実施例1-1及び1-2において得られた尿素フリー水に対し、尿素濃度が10μg/Lとなるように尿素を添加し、20℃で1時間静置した。その後、この水の尿素濃度をオンライン尿素計(オルガノ社製ORUREA)で分析した。その結果を表1に示す。表1においてSVの欄は、実施例1-1及び1-2において尿素フリー水を得たときの強塩基性アニオン交換樹脂におけるSVを示している。1時間が経過した後でも尿素濃度がほとんど変化していないことから、実施例1-1及び1-2で得られた尿素フリー水には、尿素に対する分解活性を有する形態ではウレアーゼがほとんど含まれていないことが分かった。
【0044】
【0045】
[比較例1]
強塩基性アニオン交換樹脂に対する通水のSVを100h-1及び200h-1とした以外は実施例1-1と同様の操作を行い、固定化酵素と強塩基性アニオン交換樹脂とを順次通過した水を得た。実施例1-1と同様にこの水の尿素濃度を測定したとこと、定量下限値である1μg/L以下であった。次に、このようにして得た水に対し、実施例2と同様に尿素を加え、20℃で1時間静置した後の尿素濃度を実施例2と同様に測定した。結果を表1に示す。表1に示す結果から、強塩基性アニオン交換樹脂に対する通水のSVが100h-1及び200h-1の場合には、尿素濃度が当初添加量の10.0μg/Lから低下したことが分かる。これは、固定化酵素と強塩基性アニオン交換樹脂とを順次通過した水にウレアーゼがリークしており、リークしていたウレアーゼによって尿素が分解されたためであると考えられる。実施例2及び比較例1から、強塩基性アニオン交換樹脂における通水の空間速度(SV)を50h-1以下することが好ましいことが分かる。
【0046】
[実施例3]
アニオン交換樹脂の種類によるウレアーゼの除去性能の違いを調べた。アニオン交換樹脂として、イオン形がCl形の強塩基性アニオン交換樹脂であるオルガノ社製のAMBERJET(登録商標) 4400 Cl(実施例3-1)、イオン形がCl形の強塩基性アニオン交換樹脂であるオルガノ社製のAMBERLITE(登録商標) IRA900J Cl(実施例3-2)、及び弱塩基性アニオン交換樹脂であるオルガノ社製のAMBERLITE(登録商標) IRA96SB(実施例3-3)を用意した。実施例3-1及び実施例3-2で用いたイオン形がCl形である強塩基性アニオン交換樹脂は、いずれも、その全イオン交換容量あたりのほぼ100%のイオン交換基に対してCl-イオンが結合しているものである。また実施例3-3で使用した弱塩基性アニオン交換樹脂は、全イオン交換容量当たりの15%のイオン交換基に対してOH-イオンが結合しているものである。そして、アニオン交換樹脂の種類ごとに、そのアニオン交換樹脂の12mLをテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)製の直径10mm、長さ200mmのカラムに充填してアニオン交換樹脂カラムを得た。
【0047】
酵素活性が150U/mgのウレアーゼ(富士フィルム和光純薬社製)をその濃度が1mg/Lとなるように純水に溶解させてウレアーゼ水溶液を得た。そして、上述のようにして得られた各アニオン交換樹脂カラムに対して、SVが5h-1及び20h-1である両方の通水条件でウレアーゼ水溶液を通水し、アニオン交換樹脂カラムから排出される処理液を得た。そしてそれぞれの処理液に対し、尿素濃度が10μg/Lとなるように尿素を添加し、20℃で1時間静置した。その後、この水の尿素濃度をオンライン尿素計(オルガノ社製ORUREA)で分析した。その結果を表2に示す。表2においてSVの欄は、アニオン交換樹脂カラムにウレアーゼ水溶液を通水したときのSVを示している。表2に示す結果から、イオン形がCl形である強塩基性アニオン交換樹脂を用いた場合であっても、弱塩基性アニオン交換樹脂を用いた場合であっても、20℃で1時間静置した後の尿素濃度の低下はわずかであり、これらにアニオン交換樹脂に通液することによって、ウレアーゼを失活させあるいは除去できることが分かった。
【0048】
【0049】
[比較例2]
ウレアーゼ水溶液をアニオン交換樹脂以外に通液させたときにウレアーゼを除去できるかを調べた。実施例3においてPFA製のカラムに充填されるアニオン交換樹脂の代わりに、同じカラムに対し、オルガノ社製の合成吸着剤AMBERLITE(登録商標) XAD-7HP(比較例2-1)及びオルガノ社製のH形強酸性カチオン交換樹脂AMBERJET(登録商標) ESG1024(H)(比較例2-2)を充填し、実施例3と同様にウレアーゼ水溶液を通水し、通水によって得られた処理液に尿素を添加し、20℃1時間静置したのちの尿素濃度を測定した。結果を表2に示す。表2に示すように、合成吸着剤を用いた場合もカチオン交換樹脂を用いた場合も、尿素濃度が大きく低下しており、このことは合成吸着剤やカチオン交換樹脂によって処理した処理液には、活性を有する状態でウレアーゼが含まれていることを示している。ウレアーゼによって尿素を分解除去した処理水を合成吸着剤またはカチオン交換樹脂で処理して尿素フリー水を得たとしても、その尿素フリー水にはウレアーゼがリークしており、その尿素フリー水を用いて尿素の定量を行ったときに定量結果に誤差が生じるおそれがあることが分かる。
【0050】
[実施例4]
逆浸透膜によってもウレアーゼを除去できるかどうかを調べた。酵素活性が150U/mgのウレアーゼ(富士フィルム和光純薬社製)をその濃度が1mg/Lとなるように純水に溶解させてウレアーゼ水溶液を得た。このウレアーゼ水溶液を、デュポン社製の逆浸透膜FilmTec BW60-1812-75に対し、入口流量が1.2L/min、濃縮流量が840mL/min、透過流量が360mL/minの条件で通水した。そして透過水に対し、尿素濃度が10μg/Lとなるように尿素を添加し、20℃で1時間静置した。その後、この水の尿素濃度をオンライン尿素計(オルガノ社製ORUREA)で分析した。20℃で1時間の静置後も尿素濃度は10μg/Lのままであって変化がなかったことから、逆浸透膜によってもウレアーゼを除去できることが分かった。