(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175032
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】冠形保持器及び玉軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/41 20060101AFI20221117BHJP
F16C 33/44 20060101ALI20221117BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
F16C33/41
F16C33/44
F16C19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081144
(22)【出願日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雷
(72)【発明者】
【氏名】松本 兼明
(72)【発明者】
【氏名】矢部 俊一
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA25
3J701BA44
3J701BA49
3J701BA50
3J701BA70
3J701EA36
3J701EA47
3J701FA44
3J701XB03
3J701XB12
3J701XB19
3J701XB26
3J701XE03
(57)【要約】
【課題】冠形保持器にPA4Tを適用した場合であっても、ボールの組み込み時に割れや欠けを発生させず、高温環境や高速回転条件等の過酷な使用条件下で長時間使用した場合でも保持器が変形せず、ボールの保持性能が良好で、焼き付きや破損を生じさせにくい冠形保持器を提供する。
【解決手段】内輪、外輪及びボールとともに玉軸受を構成してボールを回転自在に保持し、ボールを保持するための複数のポケットは、環状体の軸方向一端に周方向に沿って一定間隔で形成された凹部41であり、凹部41の内面は球面形状であり、各凹部41の一対の開口端にそれぞれ弾性片42が形成された冠形保持器4であって、半芳香族ポリアミドであるPA4Tと、繊維状強化材とを含む樹脂組成物で形成され、保持する前記ボールの直径A1に対する前記凹部の入り口の開口径A2の比(A2/A1)が0.95超0.97以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪、外輪及びボールとともに玉軸受を構成して前記ボールを回転自在に保持し、前記ボールを保持するための複数のポケットは、環状体の軸方向一端に周方向に沿って一定間隔で形成された凹部であり、前記凹部の内面は球面形状であり、各凹部の一対の開口端にそれぞれ弾性片が形成された冠形保持器であって、
半芳香族ポリアミドであるPA4Tと、繊維状強化材とを含む樹脂組成物で形成され、
保持する前記ボールの直径A1に対する前記凹部の入り口の開口径A2の比(A2/A1)が0.95超0.97以下であることを特徴とする冠形保持器。
【請求項2】
前記繊維状強化材は、前記樹脂組成物中に10質量%以上40質量%以下の割合で添加され、平均繊維径が5μm以上15μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の冠形保持器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の冠形保持器を備えることを特徴とする玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冠形保持器及びこれを備えた玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
玉軸受は、転動体としてボールを有する転がり軸受であって、内輪、外輪、転動体及び転動体を回転自在に保持する保持器を有する。玉軸受用の保持器としては、もみ抜き型保持器や冠形保持器が挙げられる。もみ抜き型保持器は、ボールを保持するための複数のポケットが、環状体の周面を貫通する穴として、周方向に一定間隔で形成されたものである。また、冠形保持器は、ボールを保持するための複数のポケットが、環状体の軸方向一端から凹む凹部として、周方向に沿って一定間隔で形成されたものである。なお、凹部の面は球面形状であり、各凹部の一対の開口端はそれぞれ弾性片となっている。
【0003】
ここで、保持器の材料として樹脂組成物を用いた場合、歯科用スピンドルやトランスミッション等のように玉軸受を高速回転させると、高速回転によって発生する遠心力が保持器に作用して、保持器が変形してしまう可能性がある。そして、保持器が変形し、軸受外輪との接触が起こると、接触による摩擦熱によって樹脂が溶融して、軸受が焼き付く可能性がある。
特に冠形保持器では、ポケットである凹部の軸方向一端が閉じられていないため、ボールの組み込み作業が容易であるという利点がある一方で、軸受の高速回転時には、遠心力で凹部が開く方向に変形しやすく、ボールの保持能力が低下することがある。
【0004】
遠心力による凹部の開きを抑制する手法として、剛性の高い材料である、ポリフェニレンサルファイド樹脂や、ポリアミド9T(PA9T)等のような芳香族ポリアミド樹脂を、保持器の材料として使用することが考えられる。例えば、特許文献1には、樹脂組成物としてポリアミド4T(PA4T)やポリアミド6T(PA6T)などを用いることで、保持器の剛性(弾性率)が高く、高温環境下や、高速回転となる条件下でも変形を小さくでき、高速回転で使用されても、焼付きや破損を防止できる転がり軸受用保持器が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、樹脂として芳香族ポリアミドであるPA9Tを用いた場合でも、ボール組み込み時に保持器の破損を生じさせにくくし、また高速回転条件下においても保持器の変形を抑制し、焼き付きや破損を生じない玉軸受用保持器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-056417号公報
【特許文献2】特開2020-003070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、冠形保持器に対し、上記ポリフェニレンサルファイド樹脂やPA9T、又は特許文献1に記載のようなPA4TやPA6Tなどを適用した場合、これらの材料は延性が低いため、ボール組み込み時において保持器に割れや欠けを発生させてしまう可能性がある。なお、特許文献1には、冠形保持器に関してボールの組み込み時に割れや欠けを発生させず、また、高速回転条件下における保持器の変形を抑制するという課題は記載されていない。
【0008】
このため、高速回転で使用される玉軸受に組み込まれる樹脂製の保持器には、高速回転等の過酷な使用条件下でも変形しないこと、かつ、軸受組立時において保持器にボールを圧入により組み込む際に割れや欠けを生じないことが要求されている。
【0009】
なお、特許文献2においては、ボール組み込み時に保持器の破損を生じさせにくくし、また高速回転条件下においても保持器の変形を抑制し、焼き付きや破損を生じないことを課題とするものの、その解決方法としては、樹脂組成物としてPA9Tを用いた場合に限るのであって、例えば、他の芳香族ポリアミド樹脂としてPA4Tを用いる場合における、上記課題の解決が望まれていた。
【0010】
そこで本発明は、冠形保持器にPA4Tを適用した場合であっても、ボールの組み込み時に割れや欠けを発生させず、この冠形保持器を備える玉軸受を、高温環境や高速回転条件等の過酷な使用条件下で長期間使用した場合でも保持器が変形せず、ボールの保持性能が良好で、焼き付きや破損を生じさせにくい冠形保持器を提供することを目的とする。
また、本発明は、このような冠形保持器を備え、組立が容易で、高速回転に適した玉軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、冠形保持器に係る下記(1)の構成により達成される。
(1) 内輪、外輪及びボールとともに玉軸受を構成して前記ボールを回転自在に保持し、前記ボールを保持するための複数のポケットは、環状体の軸方向一端に周方向に沿って一定間隔で形成された凹部であり、前記凹部の内面は球面形状であり、各凹部の一対の開口端にそれぞれ弾性片が形成された冠形保持器であって、
半芳香族ポリアミドであるPA4Tと、繊維状強化材とを含む樹脂組成物で形成され、
保持する前記ボールの直径A1に対する前記凹部の入り口の開口径A2の比(A2/A1)が0.95超0.97以下であることを特徴とする冠形保持器。
【0012】
また、冠形保持器に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の(2)に関する。
(2) 前記繊維状強化材は、前記樹脂組成物中に10質量%以上40質量%以下の割合で添加され、平均繊維径が5μm以上15μm以下であることを特徴とする上記(1)に記載の冠形保持器。
【0013】
また本発明の上記目的は、玉軸受に係る下記(3)の構成により達成される。
(3) 上記(1)又は(2)に記載の冠形保持器を備えることを特徴とする玉軸受。
【発明の効果】
【0014】
本発明の冠形保持器は、高温環境下での剛性が高い材料であるPA4Tを使用し、かつ、ボール3の直径A1と、押圧力が作用していない状態、すなわち元の冠形保持器4の開口径A2との比、すなわちA2/A1が0.95超0.97以下に設定されていることから、ボールの組み込み時に割れや欠けを発生させず、この冠形保持器を備える玉軸受を、高温環境や高速回転条件等の過酷な使用条件下で長期間使用した場合でも保持器の変形が生じにくく、ボールの保持性能が良好であって、焼き付きや破損を生じさせにくい。
【0015】
また、本発明の玉軸受は、このような冠形保持器を備えるため、過酷な使用条件下で長期間使用した場合であっても、ボールの保持能力に優れ、焼き付きや破損の発生を抑制できる。また、冠形保持器にボールを組み込む際に割れや欠けを発生することも抑制できるため、組立性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本実施形態の玉軸受を示す断面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の冠形保持器を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」ともいう。)について説明するが、本発明は以下に示す実施形態に限定されるものではない。また、以下に示す実施形態において、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
【0018】
<1.玉軸受及び冠形保持器の基本構成>
図1に示すように、本発明の一実施形態に相当する玉軸受10は、内輪1、外輪2、ボール3、冠形保持器4及びシール5で構成されている。なお、これら部材間に形成される軸受空間には、不図示のグリースや潤滑剤が封入されていてもよい。
【0019】
内輪1の外周面には軌道面1aが、外輪2の内周面には軌道面2aがそれぞれ形成されている。これらの軌道面1a、2aが対向配置され、その間にボール3が、冠形保持器4を介して回転自在に保持されている。
【0020】
図2に示すように、冠形保持器4には、ボール3を保持するための複数の凹部(すなわち、ポケット)41が、環状体の軸方向一端に周方向に沿って一定間隔で形成されている。そして、複数の凹部41の内面は球面形状であり、各凹部41の一対の開口端はそれぞれ弾性片42となっている。
【0021】
本実施形態に係る冠形保持器4は、半芳香族ポリアミドであるPA4Tと、繊維状強化材とからなる樹脂組成物を、射出成形することで形成される。この樹脂組成物において、PA4Tは、高温での剛性保持性に優れ、高速回転時の変形を抑制する作用を発揮する。また、繊維状強化材は、剛性維持性能を発揮する。
【0022】
シール5は、非接触形であって、外輪2に支持されている。本実施形態では、冠形保持器4が上記樹脂組成物で形成されているため、高温での剛性が保持され、軸受の高速回転時に遠心力で冠形保持器4が凹部41を開く方向に変形することが抑制される。
【0023】
<2.樹脂組成物:PA4T>
母材として用いるPA4Tは、テレフタル酸と、1,4-ブタンジアミンとを主原料に用いた半芳香族ポリアミド樹脂であり、主に下記の式1のように表される分子構造を有している。
【0024】
【0025】
ただし、成形性を考慮して融点を低下させた共重合体を用いており、主成分としては上記テレフタル酸と1,4-ブタンジアミンとを用いる必要がある。共重合成分としては、例えばジアミン成分として1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミンのようなアルキル鎖の両末端にアミノ基を有する化合物と、イソフタル酸(IPA)やテレフタル酸(TPA)との縮合体が挙げられる。
アルキル主鎖の炭素数は、本実施形態の効果を損なわない限り限定されず、分岐した構造も取ることができる。分岐した構造には、例えば2-メチル-1,5-ペンタンジアミンなどが挙げられる。他にも共重合成分として、ジアミン成分に芳香環を持つメタキシレンジアミンとアジピン酸との縮合体などが挙げられる。共重合成分は、本実施形態の効果を損なわない限り、上記に限定されない。
【0026】
これらPA4Tは、ガラス転移点が120℃以上、融点が300℃以上である。ガラス転移点が高温であるため、高温環境下でも保持器の剛性を高く保つことができる。そのため、高温環境や高速回転条件等の過酷な使用条件下で長期間使用した場合でも、保持器の変形を抑えることができ、ボールの保持能力も良好で、焼き付きや破損を防止することができる。
【0027】
また、PA4Tの分子量は、後述するガラス繊維等の繊維状強化材を含有した状態で射出成形できる範囲、具体的には数平均分子量で13000以上28000以下、より好ましくは、耐疲労性、成形性を考慮すると、数平均分子量で18000以上26000以下の範囲である。数平均分子量が13000未満の場合は、分子量が低すぎて耐疲労性が悪く、実用性が低い。それに対し、数平均分子量が28000を超える場合は、繊維状強化材の実用的な含有量として10質量%以上40質量%以下を含有させると、溶融粘度が高くなりすぎ、保持器を精度良く射出成形で製造することが難しくなり、好ましくない。
【0028】
PA4Tは、樹脂単独でも一定以上の耐久性を示し、保持器が接触する可能性がある相手材(転動体及び外輪)の摩耗に対して有利に働き、保持器として十分に機能する。しかしながら、より過酷な使用条件で使用されると、保持器が破損、変形又は摩耗することも想定されるため、信頼性をより高めるために繊維状強化材を配合する。
【0029】
<3.樹脂組成物:繊維状強化材>
繊維状強化材としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー等が好ましく、上記に挙げたPA4Tとの接着性を考慮してシランカップリング剤等で表面処理したものが更に好ましい。また、これらの繊維状強化材は複数種を組み合わせて使用することができる。機械的強度を考慮すると、ガラス繊維や炭素繊維等の繊維状物を配合することが好ましく、更に相手材の損傷を考慮するとウィスカー状物を繊維状物と組み合わせて配合することが好ましい。混合使用する場合の混合比は、繊維状物及びウィスカー状物の種類により異なり、機械的強度や相手材の損傷等を考慮して適宜選択される。
【0030】
繊維状強化材の平均繊維径は、強化性能を考慮すると、5μm以上15μm以下とすることが好ましい。
また、繊維状強化材の含有量が樹脂組成物全質量に対して10質量%以上であると、機械的強度を改善する効果を得ることができる。したがって、繊維状強化材は、樹脂組成物中に10質量%以上の割合で添加されることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。
一方、繊維状強化材の含有量が、樹脂組成物全質量に対して40質量%以下であると、良好な成形性を得ることができるとともに、繊維状強化材の種類にかかわらず、相手材に対する損傷を防止することができる。したがって、繊維状強化材は、樹脂組成物中に40質量%以下の割合で添加されることが好ましく、30質量%以下であることが好ましい。
なお、上記「平均繊維径」は、任意に選択した10個の繊維状強化材に対し、光学顕微鏡を使って、それぞれの繊維径を測定し、これを平均した値として求めることができる。
【0031】
なお、ガラス繊維としては、一般的な平均繊維径である10μm以上13μm以下のものの他、少ない含有量で高強度化と耐摩耗性の改善が可能な平均繊維径が5μm以上7μm以下のもの、あるいは異形断面のものがより好適である。
【0032】
炭素繊維としては、強度を優先するのであれば、ポリアクリロニトリル(PAN)系のものが好適であるが、コスト面で有利なピッチ系のものも使用可能である。平均繊維径としては、5μm以上15μm以下のものが好適である。炭素繊維は、繊維自体の強度、弾性率が高いため、ガラス繊維に比べて、保持器の高強度化、高弾性率化が可能である。
【0033】
アラミド繊維としては、強化性に優れるパラ系アラミド繊維を好適に使用することが可能である。平均繊維径としては、5μm以上15μm以下のものが好適である。アラミド繊維は、ガラス繊維及び炭素繊維のように、鉄鋼材料を傷つけることはなく、接触する相手材の表面状態を悪くすることがないので、軸受の音響特性等を重視する場合は、特に好適である。
【0034】
上記のようなPA4Tと繊維状強化材とを含有する樹脂組成物は、市場からも入手することが可能であり、例えばDSM社製「ForTii Ace MX51」、DSM社製「ForTii MX1」やDSM社製「ForTii K11」が挙げられる。いずれもガラス転移点が120℃以上、融点が300℃以上であり、玉軸受10が高温環境や高速回転条件等の過酷な使用条件下で長期間使用した場合でも変形が生じ難く、ボールの保持能力に優れ、焼き付きや破損を起こし難くする。
【0035】
樹脂組成物には、各種添加剤を添加することができる。添加剤は、本実施形態の効果を阻害しない限り特に限定されないが、成形時及び使用時の熱による劣化を防止するために、ヨウ化物系熱安定剤やフェノール系、アミン系酸化防止剤を、それぞれ単独あるいは併用して添加することが好ましい。
【0036】
<4.保持するボールの直径A1に対する凹部の入り口の開口径A2の比:A2/A1>
ボール3を冠形保持器4の凹部41に組み込む際には、例えば、一対の弾性片42の間にボール3を位置合わせした状態から、凹部41に向けてボール3を押し込む。この押圧力(荷重)により一対の弾性片42が外側に弾性変形し、
図2に符号「A2」で示される開口径が、
図1に符号「A1」で示されるボール3の直径よりも拡がることで、ボール3が凹部41に挿入される。このとき、一対の弾性片42が、元の形状に弾性的に復元して開口径が再び狭められ、押圧力が作用していない元の開口径に戻り、ボール3が保持される。
【0037】
本実施形態では、ボール3の直径A1と、押圧力が作用していない状態、すなわち元の冠形保持器4の開口径A2との比、すなわち(A2/A1)が0.95超0.97以下に設定されている。上記比(A2/A1)が小さいほど、冠形保持器4によるボール3の保持性能は高くなるが、ボール3を凹部41に組み込む際に弾性片42を大きく変形させる必要があるため、組み込み作業が困難になるとともに、弾性片42に破損が生じ易くなる。そのため、従来の冠形保持器では比(A2/A1)を0.95程度に抑えていた。
【0038】
本実施形態においては、保持器材料として上記した特定の樹脂組成物を用いており、PA4Tは、高温での剛性保持性に優れ、高速回転時の変形を抑制する作用を発揮する。また、繊維状強化材は、高温での剛性維持性能を発揮する。したがって、比(A2/A1)を0.95より大きくした場合であっても、良好な組み込み性能とボール3の保持性能とを確保することができる。
これらのことから、比(A2/A1)は0.950超とし、0.952以上とすることが好ましく、0.955以上とすることがより好ましい。一方、比(A2/A1)は、0.970以下とし、0.965以下とすることが好ましく、0.960以下とすることがより好ましい。
【0039】
以上説明したように、PA4Tと繊維状強化材とを含む樹脂組成物からなり、ボールの直径A1に対する凹部の入り口の開口径A2の比(A2/A1)が制御された冠形保持器は、組込時に割れや欠けを発生することなく、高温環境や高速回転条件等の過酷な使用条件下で長期間使用した場合でも保持器が変形しにくく、ボールの保持能力に優れている。
【符号の説明】
【0040】
1 内輪
2 外輪
3 ボール
4 冠形保持器
5 シール
10 玉軸受
41 凹部(ポケット)
42 弾性片