(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175038
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】混捏時間の短縮方法、ドウの製造方法およびドウ加熱食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 6/00 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
A21D6/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081153
(22)【出願日】2021-05-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り Pain 9号、発行所 株式会社J・I・B、発行人 宮崎健、編集人 西島ゆかり、監修 一般社団法人 日本パン技術研究所、令和2(2020)年8月25日 発行
(71)【出願人】
【識別番号】000226415
【氏名又は名称】物産フードサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】柏倉 雄一
(72)【発明者】
【氏名】安井 忍
(72)【発明者】
【氏名】栃尾 巧
(72)【発明者】
【氏名】伊賀 大八
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DB13
4B032DK03
4B032DK11
4B032DK14
4B032DP08
(57)【要約】
【課題】 還元水飴を配合したドウを製造する時の混捏時間を短縮することができる方法、ならびに、これを用いるドウの製造方法およびドウ加熱食品の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 ドウの材料のうち、少なくとも還元水飴または還元水飴および食塩を除く材料を混捏した後、還元水飴または還元水飴および食塩を加えて更に混捏する後入れ工程を有する、ドウ製造のための混捏時間の短縮方法。本発明によれば、還元水飴を配合したドウの製造に要する混捏時間を短縮することができる。よって、当該ドウあるいはこれを用いる食品の製造にあたり、生産費の低減ないし生産性の向上に大きく寄与することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドウを製造するための混捏時間を短縮する方法であって、
ドウの材料のうち、少なくとも還元水飴または還元水飴および食塩を除く材料を混捏した後、還元水飴または還元水飴および食塩を加えて更に混捏する後入れ工程
を有する前記方法。
【請求項2】
ドウを製造する方法であって、
ドウの材料のうち、少なくとも還元水飴または還元水飴および食塩を除く材料を混捏した後、還元水飴または還元水飴および食塩を加えて更に混捏する後入れ工程
を有する前記方法。
【請求項3】
前記後入れ工程が、ドウの材料のうち、還元水飴または還元水飴および食塩を除き、かつ、油脂を含む材料を混捏した後、還元水飴または還元水飴および食塩を加えて更に混捏する工程である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記還元水飴が、下記(a)~(d)のいずれかである、請求項2または請求項3に記載の方法;
(a)単糖を30~50質量%、二糖を20~50質量%および三糖以上を25質量%以下含有する糖組成である、還元水飴、
(b)単糖を30質量%未満および五糖以上を50質量%未満含有する糖組成である、還元水飴、
(c)五糖以上を50質量%以上含有する糖組成である、還元水飴、
(d)デキストロース当量が14以上70以下の水飴を還元してなる、還元水飴。
【請求項5】
ドウ加熱食品を製造する方法であって、
ドウの材料のうち、少なくとも還元水飴または還元水飴および食塩を除く材料を混捏した後、還元水飴または還元水飴および食塩を加えて更に混捏する後入れ工程と、
前記後入れ工程を含む方法により製造したドウを加熱する工程と、
を有する前記方法。
【請求項6】
前記後入れ工程が、ドウの材料のうち、還元水飴または還元水飴および食塩を除き、かつ、油脂を含む材料を混捏した後、還元水飴または還元水飴および食塩を加えて更に混捏する工程である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記還元水飴が、下記(a)~(d)のいずれかである、請求項5または請求項6に記載の方法;
(a)単糖を30~50質量%、二糖を20~50質量%および三糖以上を25質量%以下含有する糖組成である、還元水飴、
(b)単糖を30質量%未満および五糖以上を50質量%未満含有する糖組成である、還元水飴、
(c)五糖以上を50質量%以上含有する糖組成である、還元水飴、
(d)デキストロース当量が14以上70以下の水飴を還元してなる、還元水飴。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドウを製造するための混捏時間を短縮する方法、ドウを製造する方法およびドウ加熱食品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドウ(dough)とは、穀物や豆などから得られる澱粉を主体とする食材に、水および必要に応じて他の材料(副材料)を配合してなる食品生地のうち、水分含有量が比較的少なく、流動性に乏しい固いものを指す。ドウは、焼く、蒸す、揚げる、茹でるなどの加熱調理を経て、ドウ加熱食品として食用に供される。その具体例としては、パンやドーナツ、パイ、麺、餃子やシュウマイ、春巻きなどの皮、饅頭の皮、団子、クッキーや煎餅などの焼き菓子の生地が挙げられる。
【0003】
一方、還元水飴は、水飴を還元して得られる糖アルコールである。本発明者らはこれまでに、還元水飴をドウに配合することにより、ドウの伸展性が向上する、ドウ加熱食品のボリュームや柔らかさ、食感が向上するなどの好ましい効果が得られることを報告している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ドウは、上述のように、澱粉を主体とする食材に水、または水および副材料を混ぜ合わせ、捏ねて作られる。代表的なドウであるパン生地の場合において明らかなように、この混捏工程には多大な時間やミキサー等の機械の稼働エネルギーを要している。
【0006】
今般、本発明者らは、還元水飴がドウに上記のような好ましい効果を与える一方で、これを配合することによりドウ製造のための混捏時間が長くなるという、特有の課題を有することを見出した。そこで、還元水飴を配合したドウを製造するにあたり、係る混捏時間を短縮することができれば、生産費の低減ないし生産性の向上に大きく寄与することができると考えた。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、還元水飴を配合したドウ製造時の混捏時間を短縮することができる方法、ならびに、これを用いるドウの製造方法およびドウ加熱食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ドウの材料のうち還元水飴を、混捏開始から一定程度の時間ないし混捏処理が経過した後に加える(後入れする)ことにより、ドウ製造のための混捏時間を顕著に短縮できることを見出した。また、還元水飴のみならず食塩も後入れすることにより、混捏時間をより短縮できることを見出した。また、油脂を当初から加えて混捏を開始し、かつ還元水飴を後入れすることにより、混捏時間をより短縮できることを見出した。そこで、これらの知見に基づいて下記の各発明を完成した。
【0009】
(1)本発明に係るドウ製造のための混捏時間の短縮方法は、ドウの材料のうち、少なくとも還元水飴または還元水飴および食塩を除く材料を混捏した後、還元水飴または還元水飴および食塩を加えて更に混捏する後入れ工程を有する。
【0010】
(2)本発明に係るドウの製造方法は、ドウの材料のうち、少なくとも還元水飴または還元水飴および食塩を除く材料を混捏した後、還元水飴または還元水飴および食塩を加えて更に混捏する後入れ工程を有する。
【0011】
(3)本発明に係るドウ加熱食品の製造方法は、ドウの材料のうち、少なくとも還元水飴または還元水飴および食塩を除く材料を混捏した後、還元水飴または還元水飴および食塩を加えて更に混捏する後入れ工程と、前記後入れ工程を含む方法により製造したドウを加熱する工程とを有する。
【0012】
(4)本発明において、後入れ工程は、ドウの材料のうち、還元水飴または還元水飴および食塩を除き、かつ、油脂を含む材料を混捏した後、還元水飴または還元水飴および食塩を加えて更に混捏する工程であってもよい。
【0013】
(5)本発明において、還元水飴は、下記(a)~(d)のいずれかであってもよい;
(a)単糖を30~50質量%、二糖を20~50質量%および三糖以上を25質量%以下含有する糖組成である、還元水飴、
(b)単糖を30質量%未満および五糖以上を50質量%未満含有する糖組成である、還元水飴、
(c)五糖以上を50質量%以上含有する糖組成である、還元水飴、
(d)デキストロース当量が14以上70以下の水飴を還元してなる、還元水飴。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、還元水飴を配合したドウの製造に要する混捏時間を短縮することができる。よって、当該ドウあるいはこれを用いる食品の製造にあたり、生産費の低減ないし生産性の向上に大きく寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】還元水飴を配合しないドウ(試料1)および還元水飴を配合したドウ(試料2~4)を製造した際の、混捏時間とミキサーの消費電力との関係を示すグラフ(ドウグラフ)である。
【
図2】還元水飴を配合し、かつ、還元水飴および/または食塩を後入れして製造したドウのドウグラフである。
【
図3】油脂を混捏開始の当初から投入して製造したドウ(試料5)および油脂を後入れして製造したドウ(試料6)のドウグラフである。
【
図4】中糖化還元水飴を混捏開始の当初から投入して製造したドウ(試料7)および中糖化還元水飴を後入れして製造したドウ(試料8)のドウグラフである。
【
図5】低糖化還元水飴を混捏開始の当初から投入して製造したドウ(試料9)および低糖化還元水飴を後入れして製造したドウ(試料10)のドウグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0017】
本発明においては、ドウの製造にあたり、1または複数の材料を除いた残りの材料を混捏装置の容器(ミキサー)に入れて混捏を開始し、混捏開始から一定程度の時間ないし混捏処理が経過した後に、当該除いた材料を加えて更に一定程度の混捏を行うことを「後入れする」という。
【0018】
本発明は、下記(i)~(iii)の方法を提供する。これらの方法はいずれも、後入れ工程を有することを特徴としている。
(i)ドウを製造するための混捏時間を短縮する方法、
(ii)ドウを製造する方法、
(iii)ドウ加熱食品を製造する方法。
【0019】
後入れ工程は、ドウの材料のうち、少なくとも還元水飴を除く材料を混捏した後、還元水飴を加えて更に混捏する工程である。すなわち、後入れ工程は、還元水飴を後入れする工程である。
【0020】
ドウの材料は、還元水飴を含む限り特に限定されず、任意の食材を用いることができる。例えば、通常、ドウの主材料として用いられる水および穀粉などの澱粉を主体とする食材(小麦粉、米粉、大麦粉、ライ麦粉、トウモロコシ粉、ジャガイモ粉、テフ粉、ひえ粉、きな粉、大豆粉、ヒヨコ豆粉、エンドウ豆粉、緑豆粉、そば粉、アマランサス粉、片栗粉、くず粉、タピオカ粉、栗粉、どんぐり粉など)のほか、副材料として、例えば、イーストや油脂、甘味料や食塩などの調味料、乳製品、卵、グルテン、各種の食品添加物、生地改良剤などを用いることができる。
【0021】
還元水飴は、上述のとおり、水飴を還元して得られる糖アルコールである。ここで、水飴は、デンプンを酸や酵素などで糖化して得られる物質であり、単糖(ブドウ糖)および多糖(オリゴ糖やデキストリンなど)の混合物である。よって、還元水飴もまた、単糖の糖アルコールおよび多糖(二糖、三糖、四糖または五糖以上)の糖アルコールのうち、2種以上の糖アルコールを含む混合物である。
【0022】
還元水飴は、糖化の程度により高糖化還元水飴(糖組成:単糖が30~50質量%、二糖が20~50質量%、三糖以上が25質量%以下)、中糖化還元水飴(糖組成:単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満)および低糖化還元水飴(糖組成:五糖以上が50質量%以上)に分けられる場合がある。本発明においては、後述する実施例に示すとおり、糖化の程度を問わず、高糖化~低糖化のいずれの還元水飴も用いることができる。
【0023】
なお、本発明において、糖組成とは、糖の総質量に占める各糖の質量割合を百分率で示すものをいう。すなわち、糖の総質量を100とした場合の、各糖の質量百分率である。還元水飴の具体的な糖組成としては、例えば、単糖を4~50質量%、二糖を6~50質量%、三糖を8~25質量%、四糖を1~8質量%、五糖以上を1~68質量%含有する糖組成を例示することができる。
【0024】
糖組成は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて確認することができる。すなわち、還元水飴を試料としてHPLCに供してクロマトグラムを得る。当該クロマトグラムにおいて、全ピークの面積の総和が「糖の総質量」に、各ピークの面積が「各糖の質量」に相当する。よって、試料における各糖の質量百分率は、検出された全ピークの面積の総和に対する各ピークの面積の割合として算出することができる。HPLCの条件は、定法に従って適宜設定することができるが、下記条件を例示することができる。
《HPLCの条件》
カラム;MCI GEL CK04S(10mm ID x 200mm)
溶離液;高純水
流速;0.4mL/分
注入量;20μL
カラム温度;65℃
検出;示差屈折率検出器RI-10A(島津製作所)
【0025】
還元水飴は、水飴を還元して製造することから、還元水飴の糖化の程度は、水飴の糖化の程度に準じる。すなわち、原料水飴の糖化の程度が高いほど還元水飴の糖化の程度が高く、原料水飴の糖化の程度が低いほど還元水飴の糖化の程度は低い。
【0026】
水飴の糖化の程度の指標は、一般に、デキストロース当量(Dextrose Equivalent値;DE)が用いられる。DEは、試料中の還元糖をブドウ糖として測定したときの、当該還元糖の全固形分に対する割合(百分率)である。DEの最大値は100で、固形分の全てがブドウ糖であることを意味し、DEが小さくなるほど少糖類や多糖類が多いことを意味する。
【0027】
本発明において、還元水飴は糖化の程度を問わず使用可能であるから、還元水飴が原料とする水飴のDEもまた特に限定されない。原料水飴のDEとしては、例えば、14以上70以下、20以上80以下、30以上80以下を例示することができる。
【0028】
なお、水飴のDEは、下記の方法により測定することができる。
《DEの測定方法》
試料2.5gを正確に量り、水で溶かして200mLとする。この液10mLを量り、1/25mol/L ヨウ素溶液(注1)10mLと1/25mol/L 水酸化ナトリウム溶液(注2)15mLを加えて20分間暗所に放置する。次に、2mol/L塩酸(注3)を5mL加えて混和した後、1/25mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液(注4)で滴定する。滴定の終点近くで液が微黄色になったら、デンプン指示薬(注5)2滴を加えて滴定を継続し、液の色が消失した時点を滴定の終点とする。水を用いてブランク値を求め、次式1によりDEを求める。
(注1)1/25mol/L ヨウ素溶液:ヨウ化カリウム20.4gとヨウ素10.2gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注2)1/25mol/L 水酸化ナトリウム溶液:水酸化ナトリウム3.2gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注3)2mol/L 塩酸:水750mLに塩酸150mLをかき混ぜながら徐々に加える。
(注4)1/25mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液:チオ硫酸ナトリウム20gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注5)デンプン指示薬:可溶性デンプン5gを水500mLに溶解し、これに塩化ナトリウム100gを溶解する。
【0029】
本発明において、還元水飴は、市販されているものをそのまま用いてもよく、当業者に公知の方法に従って製造して用いてもよい。還元水飴の公知の製造方法としては、原料となる水飴(原料糖)に水素を添加する還元反応を挙げることができる。
【0030】
水素添加による還元反応は、例えば、40~75質量%の原料糖水溶液を、還元触媒と併せて高圧反応器中に仕込み、反応器中の水素圧を4.9~19.6MPa、反応液温を70~180℃として、混合攪拌しながら、水素の吸収が認められなくなるまで反応を行なえばよい。その後、還元触媒を分離し、イオン交換樹脂処理、必要であれば活性炭処理等で脱色脱塩した後、所定の濃度まで濃縮すれば、高濃度の還元水飴を作ることができる。
【0031】
後入れ工程において、後入れする材料は、還元水飴のみであってもよく、還元水飴に加えて他の材料を後入れしてもよい。後述する実施例で示すように、還元水飴に加えて食塩も後入れすると、高い混捏時間の短縮効果を得ることができる。その一方で、油脂(バターやマーガリン、ショートニング、オリーブ油など)は、混捏開始時に入れた方が混捏時間の短縮効果が高くなる。
【0032】
換言すれば、混捏開始時にミキサーに入れる材料(当初材料)は、少なくとも還元水飴を除く材料であればよい。例えば、当初材料は、水や穀粉などの主材料のみであってもよく、還元水飴を除く全材料であってもよく、還元水飴および食塩を除く全材料であってもよいが、混捏時間の短縮効果の観点からは、当初材料には油脂が含まれることが好ましい。
【0033】
材料を後入れするまでの当初材料の混捏時間(還元水飴等を添加する前の混捏時間)は、ドウの組成や所望の食感、風味などに応じて適宜設定することができる。すなわち、還元水飴等の材料を後入れする時機(タイミング)は適宜設定することができるが、例えば、下記(ア)~(エ)を例示することができる;
(ア)ドウの材料が、外見上、一定程度まとまったとき。
(イ)ドウが完成するまでの混捏時間全体を100%とすると、その約25~40%の時間が経過したとき。
(ウ)ドウの弾力が最初のピークを迎えたとき。
(エ)混捏曲線描画装置に供して得られた、混捏中の消費電力の測定結果を示すグラフ(ドウグラフ)が最初のピークを迎えたとき。
【0034】
還元水飴添加後の混捏時間、すなわち、材料の後入れから混捏完了までの時間もまた、ドウの組成や所望の食感、風味などに応じて適宜設定することができる。混捏完了は、一般には、材料の後入れにより一時的に低下したドウの弾力が、再度ピークとなったときを目安にすることができる。
【0035】
本発明に係るドウ加熱食品の製造方法は、後入れ工程と、それにより製造されたドウを加熱する工程とを有する。ドウを加熱する方法は特に限定されず、例えば、焼く(焼成)、蒸す(蒸製)、揚げる(油調)、茹でるなどの任意の方法で行うことができる。
【0036】
本発明の方法には、本発明の特徴を損なわない限り他の工程を含むものであってもよい。係る工程としては、例えば、材料の計量工程、発酵工程、分割工程、寝かし工程、成形工程、調味工程、殺菌工程、冷却工程、包装工程などを例示することができる。
【0037】
以下、本発明について各実施例に基づいて説明する。本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例0038】
<試験方法>
(1)還元水飴
還元水飴は表1に示す市販品を用いた。
【表1】
【0039】
(2)ドウの配合
ドウの配合は表2のとおりとした。表2において、還元水飴は固形分の値である。
【表2】
【0040】
(3)所要混捏時間の測定
パン生地混捏曲線描画装置のミキサー(Kemper)に材料を入れ、低速で4分、続いて高速で4分混捏したのち、高速で約34分混捏してドウを製造した。本実施例において、材料の後入れは、混捏開始から低速で4分、続いて高速で4分混捏した後のタイミングで行った。混捏の間、経時的にミキサーの消費電力(ワット、W)を測定した。当該消費電力はドウの弾力と相関関係にあり、消費電力が大きいほどドウの弾力が大きいといえる。よって、当該消費電力が最大ピークを記録した時点(ドウの弾力が最大となった時点)を混捏完了時とし、混捏完了時までに要した混捏時間を所要混捏時間とした。すなわち、所要混捏時間は、ドウが製パンに必要な弾力を獲得するまでの混捏時間(ドウの製造に要する混捏時間)といえる。
【0041】
<実施例1>各材料を投入する時機の検討
(1)還元水飴
試料1~4のドウを製造し、所要混捏時間を測定した。ただし、試料2~4の還元水飴は高糖化還元水飴を用いた。また、試料1および試料2は、全ての材料をミキサーに入れてから混捏を開始した。一方、試料3は、食塩を除いた全材料をミキサーに入れて混捏を開始し、食塩を後入れした。すなわち、混捏開始から一定程度の時間ないし混捏処理が経過した後に食塩を加え、更に混捏することから、これを後塩法という。試料4は、還元水飴を除いた全材料をミキサーに入れて混捏を開始し、還元水飴を後入れした(後還元水飴法)。各混捏時間における消費電力の測定結果(ドウグラフ)および所要混捏時間を
図1に示す。
【0042】
図1に示すように、試料1と試料2とを比較すると、試料2の方が約2倍程度、所要混捏時間が長かった。すなわち、還元水飴を混捏開始の当初から加えると、還元水飴を配合しないものと比較して、ドウの製造に要する混捏時間が長くなることが明らかになった。
【0043】
また、試料2と試料3とを比較すると、試料3の方が若干所要混捏時間が長かった。すなわち、食塩を後入れしても、ドウの製造に要する混捏時間の短縮効果は得られないことが明らかになった。
【0044】
一方、試料2と試料4とを比較すると、試料4の所要混捏時間は試料2の2/3程度であり、試料4の方が顕著に短かった。すなわち、還元水飴を後入れすると、ドウの製造に要する混捏時間を顕著に短縮できることが明らかになった。
【0045】
(2)還元水飴および食塩
試料3~5のドウを製造し、所要混捏時間を測定した。ただし、還元水飴は高糖化還元水飴を用いた。また、試料3は、食塩を除いた全材料をミキサーに入れて混捏を開始し、食塩を後入れした(後塩法)。試料4は、還元水飴を除いた全材料をミキサーに入れて混捏を開始し、還元水飴を後入れした(後還元水飴法)。試料5は、還元水飴および食塩を除いた全材料をミキサーに入れて混捏を開始し、還元水飴および食塩を後入れした(後還元水飴・後塩法)。ドウグラフおよび所要混捏時間を
図2に示す。
【0046】
図2に示すように、試料3~5のうちでは、試料5の所要混捏時間が最も短かった。すなわち、所要混捏時間の短縮効果について、食塩を後入れしても効果は得られないが、還元水飴と食塩とを後入れすると、還元水飴のみを後入れする場合よりも高い効果が得られることが明らかになった。この結果から、還元水飴および食塩を後入れすると、ドウの製造に要する混捏時間を顕著に短縮できることが明らかになった。
【0047】
(3)油脂
試料5および試料6のドウを製造し、所要混捏時間を測定した。ただし、還元水飴は高糖化還元水飴を用いた。また、試料5は、還元水飴および食塩を除いた全材料をミキサーに入れて混捏を開始し、還元水飴および食塩を後入れした(後還元水飴・後塩法)。試料6は、還元水飴、食塩およびショートニングを除いた全材料をミキサーに入れて混捏を開始し、還元水飴、食塩およびショートニングを後入れした(後還元水飴・後塩・後油脂法)。ドウグラフおよび所要混捏時間を
図3に示す。
【0048】
図3に示すように、試料5の方が試料6よりも所要混捏時間が短かった。すなわち、油脂を混捏開始の当初から加えた方が、油脂を後入れしたものよりも、ドウの製造に要する混捏時間が短かった。この結果から、ドウの製造にあたって、油脂を当初から加えて混捏を開始し、かつ、還元水飴を後入れすると、ドウの製造に要する混捏時間をより短縮できることが明らかになった。
【0049】
<実施例2>還元水飴の種類の検討
試料7~10のドウを製造し、所要混捏時間を測定した。ただし、試料7~8の還元水飴は中糖化還元水飴を、試料9~10の還元水飴は低糖化還元水飴を、それぞれ用いた。また、試料7および試料9は、全ての材料をミキサーに入れてから混捏を開始した。一方、試料8および試料10は、還元水飴および食塩を除いた全材料をミキサーに入れて混捏を開始し、還元水飴および食塩を後入れした(後還元水飴・後塩法)。試料7~8のドウグラフおよび所要混捏時間を
図4に、試料9~10のドウグラフおよび所要混捏時間を
図5に、それぞれ示す。
【0050】
図4に示すように、試料8の所要混捏時間は試料7の約1/2程度であり、試料8の方が顕著に短かった。すなわち、中還元水飴を後入れすると、ドウの製造に要する混捏時間を顕著に短縮できることが明らかになった。
【0051】
また、
図5に示すように、試料10の所要混捏時間は試料9の約1/2程度であり、試料10の方が顕著に短かった。すなわち、低還元水飴を後入れすると、ドウの製造に要する混捏時間を顕著に短縮できることが明らかになった。
【0052】
これらの結果から、還元水飴は、その糖化度にかかわらず、後入れすることにより混捏時間の短縮効果が得られることが明らかになった。