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特開2022-175063疲労試験方法、疲労試験装置及び疲労解析プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175063
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】疲労試験方法、疲労試験装置及び疲労解析プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/34 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
G01N3/34 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081197
(22)【出願日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(71)【出願人】
【識別番号】599113822
【氏名又は名称】株式会社アクロエッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】比江嶋 祐介
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 舜弥
(72)【発明者】
【氏名】新田 晃平
(72)【発明者】
【氏名】中宗 基裕
(72)【発明者】
【氏名】西村 将
(72)【発明者】
【氏名】立岡 さゆり
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061AA02
2G061AB05
2G061BA15
2G061CA10
2G061DA12
2G061EA03
2G061EA04
2G061EB05
2G061EC02
(57)【要約】
【課題】短時間で材料の疲労特性を把握できる疲労試験方法を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様に係る疲労試験方法は、複数の応力条件で試験片に周期的に変化する変動応力を作用させることにより、前記応力条件ごとに前記変動応力の繰返回数に対する前記試験片での単位周期当たりのエネルギ損失の指標値の変化を取得する工程と、前記応力条件ごとに設定されるシフトファクタを前記繰返回数に乗じて得られる標準回数と前記指標値との関係を両対数でグラフ化した場合に前記複数の応力条件のデータが同一のマスタカーブ上にプロットされるように前記シフトファクタを設定する工程と、前記応力条件と前記シフトファクタとの関係を表す補正関数を算出する工程と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の応力条件で試験片に周期的に変化する変動応力を作用させることにより、前記応力条件ごとに前記変動応力の繰返回数に対する前記試験片での単位周期当たりのエネルギ損失の指標値の変化を取得する工程と、
前記応力条件ごとに設定されるシフトファクタを前記繰返回数に乗じて得られる標準回数と前記指標値との関係を両対数でグラフ化した場合に前記複数の応力条件のデータが同一のマスタカーブ上にプロットされるように前記シフトファクタを設定する工程と、
前記応力条件と前記シフトファクタとの関係を表す補正関数を算出する工程と、
を備える、疲労試験方法。
【請求項2】
前記補正関数を前記応力条件と前記シフトファクタとが両対数で線形の関係にあるものとして算出する、請求項1に記載の疲労試験方法。
【請求項3】
所望の前記応力条件における前記シフトファクタの値を前記補正関数から逆算する工程と、
前記逆算した前記シフトファクタで前記標準回数を除した想定回数に対して前記マスタカーブを描き直すことにより、前記所望の前記応力条件における疲労特性を推測する工程と、
をさらに備える、請求項1又は2に記載の疲労試験方法。
【請求項4】
前記指標値は、損失エネルギ量、エネルギ損失率、又はエネルギ入出力のヒステリシスの特徴量である、請求項1から3のいずれかに記載の疲労試験方法。
【請求項5】
前記変動応力は、前記試験片に正弦波状に変化する応力又は歪みを作用させるよう変化する、請求項1から4のいずれかに記載の疲労試験方法。
【請求項6】
基準となる応力条件で標準試料の試験片に周期的に変化する変動応力を作用させた場合に前記変動応力の繰返回数に対する前記試験片での単位周期当たりのエネルギ損失の指標値の変化を両対数でグラフ化したマスタカーブを用意する工程と、
前記標準試料と同じ材料からなる対象試料の試験片に任意の前記応力条件で前記変動応力を作用させることにより、前記指標値を取得する工程と、
前記対象試料の前記指標値と前記マスタカーブとの対応関係に基づいて前記対象試料の疲労度合いを推測する工程と、
を備える、疲労試験方法。
【請求項7】
試験片の両端を把持する一対の把持部と、
前記一対の把持部の少なくとも一方を移動させる駆動機構と、
前記一対の把持部の間に作用する力を検出する検出機構と、
設定される応力条件で、前記試験片に周期的に変化する変動応力を作用させるよう、前記駆動機構を制御する駆動制御部と、
前記駆動機構の駆動量及び前記検出機構の検出値に基づいて前記変動応力の繰返回数に対する前記試験片での単位周期当たりのエネルギ損失の指標値の変化を取得する指標値取得部と、
前記応力条件ごとに設定されるシフトファクタを前記繰返回数に乗じて得られる標準回数と前記指標値との関係を両対数でグラフ化した場合に複数の前記応力条件のデータが同一のマスタカーブ上にプロットされるように前記シフトファクタを設定するシフトファクタ設定部と、
前記応力条件と前記シフトファクタとの関係を表す補正関数を算出する補正関数算出部と、
を備える、疲労試験装置。
【請求項8】
複数の応力条件で試験片に周期的に変化する変動応力を作用させることにより前記応力条件ごとに測定された、前記変動応力の繰返回数に対する前記試験片での単位周期当たりのエネルギ損失の指標値の変化に基づいて疲労特性を解析する疲労解析プログラムであって、
前記応力条件ごとに設定されるシフトファクタを前記繰返回数に乗じて得られる標準回数と前記指標値との関係を両対数でグラフ化した場合に前記複数の応力条件のデータが同一のマスタカーブ上にプロットされるように前記シフトファクタを設定するシフトファクタ設定機能部と、
前記応力条件と前記シフトファクタとの関係を表す補正関数を算出する補正関数算出機能部と、
を備える、疲労解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疲労試験方法、疲労試験装置及び疲労解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
高分子材料の疲労特性を確認する疲労試験方法としては、JIS-K7118に「硬質プラスチック材料の疲れ試験方法通則」と題された規格が定められている。この規格によれば、試験片に周期的な応力を作用させて試験片が破断するまでの繰返回数を計測する試験を応力値を変えて複数回行うことによって、応力値と破断までの繰返回数との関係をプロットしたS-N線図を作成するものとされている。
【0003】
このような疲労試験を行う疲労試験装置としては、応力値をロードセルによって確認しつつサーボモータによって試験片に繰り返し引っ張り応力を自動的に作用させる装置が存在する(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63-37233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
樹脂材料の場合、その組成を微調整することで疲労特性を含む物性を調整することができるが、組成の違いが材料の物性にどの程度影響するかを正確に予測することは難しい。このため、所望の疲労特性が得られるか否かは疲労試験によって確認することが望まれる。しかしながら、上述のように自動的に繰り返し応力を作用させる疲労試験装置を用いたとしても、試験片が破断に至るまでには極めて長い時間を必要とする。このため、疲労特性に関する個々の要求に合わせて樹脂材料の組成を試行錯誤によって調整することは容易ではない。
【0006】
このため、本発明は、短時間で材料の疲労特性を把握できる疲労試験方法、疲労試験装置及び疲労解析プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る疲労試験方法は、複数の応力条件で試験片に周期的に変化する変動応力を作用させることにより、前記応力条件ごとに前記変動応力の繰返回数に対する前記試験片での単位周期当たりのエネルギ損失の指標値の変化を取得する工程と、前記応力条件ごとに設定されるシフトファクタを前記繰返回数に乗じて得られる標準回数と前記指標値との関係を両対数でグラフ化した場合に前記複数の応力条件のデータが同一のマスタカーブ上にプロットされるように前記シフトファクタを設定する工程と、前記応力条件と前記シフトファクタとの関係を表す補正関数算出する工程と、を備える。
【0008】
上述の疲労試験方法において、前記補正関数を、前記応力条件と前記シフトファクタとが両対数で線形の関係にあるものとして算出してもよい。
【0009】
上述の疲労試験方法は、所望の前記応力条件における前記シフトファクタの値を前記補正関数から逆算する工程と、前記逆算した前記シフトファクタで前記標準回数を除した想定回数に対して前記マスタカーブを描き直すことにより、前記所望の前記応力条件における疲労特性を推測する工程と、をさらに備えてもよい。
【0010】
上述の疲労試験方法において、前記指標値は、損失エネルギ量、エネルギ損失率、又はエネルギ入出力のヒステリシスの特徴量であってもよい。
【0011】
上述の疲労試験方法において、前記変動応力は、前記試験片に正弦波状に変化する応力又は歪みを作用させるよう変化してもよい。
【0012】
本発明の別の態様に係る疲労試験方法は、基準となる応力条件で標準試料の試験片に周期的に変化する変動応力を作用させた場合に前記変動応力の繰返回数に対する前記試験片での単位周期当たりのエネルギ損失の指標値の変化を両対数でグラフ化したマスタカーブを用意する工程と、前記標準試料と同じ材料からなる対象試料の試験片に任意の前記応力条件で前記変動応力を作用させることにより、前記対象試料の前記繰返回数に対する前記指標値の変化を取得する工程と、前記対象試料の前記指標値と前記マスタカーブとの対応関係に基づいて前記対象試料の疲労度合いを推測する工程と、を備える。
【0013】
本発明の一態様に係る疲労試験装置は、試験片の両端を把持する一対の把持部と、前記一対の把持部の少なくとも一方を移動させる駆動機構と、前記一対の把持部の間に作用する力を検出する検出機構と、設定される応力条件で、前記試験片に周期的に変化する変動応力を作用させるよう、前記駆動機構を制御する駆動制御部と、前記駆動機構の駆動量及び前記検出機構の検出値に基づいて前記変動応力の繰返回数に対する前記試験片での単位周期当たりのエネルギ損失の指標値の変化を取得する指標値取得部と、前記応力条件ごとに設定されるシフトファクタを前記繰返回数に乗じて得られる標準回数と前記指標値との関係を両対数でグラフ化した場合に前記複数の応力条件のデータが同一のマスタカーブ上にプロットされるように前記シフトファクタを設定するシフトファクタ設定部と、前記応力条件と前記シフトファクタとの関係を表す補正関数を算出する補正関数算出部と、を備える。
【0014】
本発明の一態様に係る疲労試験プログラムは、複数の応力条件で試験片に周期的に変化する変動応力を作用させることにより前記応力条件ごとに測定された、前記変動応力の繰返回数に対する前記試験片での単位周期当たりのエネルギ損失の指標値の変化に基づいて疲労特性を解析する疲労解析プログラムであって、前記応力条件ごとに設定されるシフトファクタを前記繰返回数に乗じて得られる標準回数と前記指標値との関係を両対数でグラフ化した場合に前記複数の応力条件のデータが同一のマスタカーブ上にプロットされるように前記シフトファクタを設定するシフトファクタ設定機能部と、前記応力条件と前記シフトファクタとの関係を表す補正関数を算出する補正関数算出機能部と、を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、短時間で材料の疲労特性を把握できる疲労試験方法、疲労試験装置及び疲労解析プログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る疲労試験装置の構成を示す模式図である。
図2】本発明の応力と歪みのリサジュー図形である。
図3】歪みの振幅を一定とした場合の繰返回数とエネルギ損失率との関係を示すグラフである。
図4】応力の振幅を一定とした場合の繰返回数とエネルギ損失率との関係を示すグラフである。
図5図3のデータにおける応力条件とシフトファクタとの関係を表すグラフである。
図6図4のデータにおける応力条件とシフトファクタとの関係を表すグラフである。
図7】本発明の一実施形態に係る疲労試験方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る疲労試験装置1の構成を示す模式図である。
【0018】
疲労試験装置1は、測定対象となる材料の試験片Tに繰り返し応力を作用させてその材料の疲労特性を確認する装置である。疲労試験装置1の測定対象としては、比較的軟質の樹脂材料が想定されるが、これに限定されない。また、疲労試験装置1は、本発明に係る疲労試験方法を実施するために用いられ、その方法の少なくとも一部を自動的に実行する。
【0019】
疲労試験装置1は、試験片Tに繰り返し応力加える物理的な構成要素からなる機械装置部10と、機械装置部10の制御及び演算を行う制御装置部20とを備える。疲労試験装置1において試験される試験片Tとしては、例えば帯状に成形された材料が想定される。
【0020】
機械装置部10は、試験片Tの両端を把持する一対の把持部(第1把持部11及び第2把持部12)と、一対の把持部11,12の少なくとも一方(図示する例では第1把持部11)を移動させる駆動機構13と、一対の把持部11,12の間に作用する力を検出する検出機構14と、駆動機構13及び検出機構14、ひいては把持部11,12を支持する支持体15と、を備える。
【0021】
把持部11,12は、試験片Tの疲労させる被測定領域の両側部分をその幅全体に亘って挟み込んで保持するクランプとされ得る。試験片Tを全幅に亘って挟み込むことで、局所的に応力が集中して作用することを防止し、正確な測定が行える。また、把持部11,12は、その歪みを無視できるよう十分に大きい剛性を有するものとされる。
【0022】
駆動機構13は、第1把持部11を試験片Tの長手方向に移動させる。これにより、試験片Tに引張応力を作用させられる。駆動機構13は、例えばサーボモータによって第1把持部11を移動させる構成とされ得る。このような駆動機構13を用いることによって、試験片Tに任意の大きさの応力又は歪みを作用させられる。
【0023】
検出機構14は、例えばロードセル等によって構成され、第2把持部12と支持体15との間に配設され得る。
【0024】
支持体15は、試験片Tに作用する応力によって駆動機構13及び検出機構14を支持する点が移動しないよう十分に大きい剛性を有する。また、支持体15は、試験片Tに作用させる応力が引張領域内で変動するよう試験片Tに初期歪みを与える機構を有してもよい。
【0025】
制御装置部20は、例えば制御用IC等を含む専用回路であってもよく、例えばメモリ、CPU、入出力インターフェイス等を有する1又は複数のコンピュータ装置に適切なプログラムを実行させることによって実現されてもよく、専用回路とコンピュータ装置との組み合わせによって実現されてもよい。なお、制御装置部20を実現するコンピュータ装置において実行されるプログラムは、本発明に係る疲労解析プログラムの一実施形態であり得る。なお、本発明に係る疲労解析プログラムは、非一時的にプログラムを記憶するプログラム記憶媒体に記憶された状態で提供され得る。
【0026】
制御装置部20は、駆動制御部21、指標値取得部22、シフトファクタ設定部23、補正関数算出部24、シフトファクタ逆算部25、疲労特性推測部26及びインターフェイス部27を備える構成とされ得る。なお、制御装置部20のこれらの構成要素は、制御装置部20の機能を類別したものであって、その物理構成及びプログラム構成において明確に区分できるものでなくてもよい。
【0027】
駆動制御部21は、設定される応力条件で、試験片Tに周期的に変化する変動応力を作用させるよう、駆動機構13を制御する。変動応力は、試験片Tに正弦波状に変化する応力又は歪みを作用させるよう変化することが好ましい。つまり、応力条件は、試験片Tに作用する歪みの振幅を一定としてもよく、試験片Tに作用する応力の振幅を一定としてもよい。また、正弦波状の変動応力を作用させるよう駆動機構13を制御すれば加速度が抑制されるので、駆動機構13の負荷を軽減できる。試験片Tに作用する歪みの振幅を一定とする場合、検出機構14の検出値の波形が変動応力の繰返回数の増大に伴って変化し得る。一方、試験片Tに作用する応力の振幅を一定とする場合、駆動制御部21は、検出機構14の検出値に基づいて駆動機構13をフィードバック制御することにより、駆動機構13の駆動量の波形が変動応力の繰返回数の増大に伴って変化し得る。
【0028】
疲労試験装置1では、同じ材料の少なくとも2つの試験片Tに対して異なる応力条件で変動応力を作用させる試験を行う必要がある。このため、駆動制御部21は、予め複数の応力条件を設定できるよう構成されてもよい。なお、変動応力の波形及び周波数は、単位周期当たりの疲労の進行度合いに影響を与え得る。例えば周波数を高くすると単位周期当たりの疲労の進行度合いが大きくなる。このため、少なくとも1種類の材料の疲労特性を確認するための試験における複数の応力条件は、波形及び周波数を一定とし、変動応力の振幅(応力又は歪みの最大値)を異ならせたものとすることが好ましい。
【0029】
指標値取得部22は、駆動機構13の駆動量及び検出機構14の検出値に基づいて、変動応力の繰返回数に対する試験片Tでの単位周期当たりのエネルギ損失の指標値を取得する。指標値取得部22が取得する指標値としては、損失エネルギ量、エネルギ損失率、又はエネルギ入出力のヒステリシスの特徴量が好ましい。これらの指標値は、駆動機構13の駆動量及び検出機構14の検出値に基いて算出できる。
【0030】
図2に、歪みの振幅を一定する応力条件での各時刻における歪みの値と測定値である応力の値とをプロットした図、つまり歪みと応力のリサジュー図形を示す。エネルギは、試験片Tに作用する力と変化量との積であるため、試験片Tに作用する応力を歪みの変化量について積分した値として把握できる。試験片Tにおいてエネルギ損失がなければ、リサジュー図形は1本の直線となる。しかし、試験片Tにおけるエネルギ損失のために、実際のリサジュー図形は、試験片Tの伸長時には上に凸な曲線を描き、試験片Tの収縮時には下に凸な曲線状を描く。つまり、このリサジュー図形は、右回りに移動する点の集合であり、歪みの増減と応力の増減と歪の間にヒステリシスが存在する。
【0031】
試験片Tが伸長している間は、応力の方向と歪みの変化方向とが一致するので積分値が正の値となり、エネルギが試験片Tに入力されていることを示す。一方、試験片Tが収縮している間は、応力の方向と歪みの変化方向とが異なるので積分値が負の値となり、エネルギが試験片Tから出力されていることを示す。したがって、単位周期当たりの損失エネルギは、リサジュー図形の上側の曲線部分の積分値からリサジュー図形の下側の曲線部分の積分値を差し引いた値、つまりリサジュー図形の内部の面積として算出できる。
【0032】
損失エネルギは、歪みの増減と応力の増減との間のヒステリシスの大きさを表す特徴量、つまりリサジュー図形の形状を代表する値として把握してもよい。具体的には、リサジュー図形の短径(最大径と垂直な方向の幅)、同一の応力における伸長時と収縮時との歪みの偏差の最大値、リサジュー図形のエネルギ損失がない場合の直線からの最大離間量、エネルギ損失がない場合の直線とリサジュー図形の上側の曲線とで囲まれる領域の面積等、を単位周期当たりのエネルギ損失の指標値として用いてもよい。
【0033】
発明者らの研究の結果、単位周期当たりのエネルギ損失は試験片Tの疲労が進むにつれて減少すること、及び変動応力の振幅のみが異なる場合、繰返回数の増大に伴う指標値の変化を両対数でグラフ化すると測定誤差を除けば繰返回数の軸方向の位置が異なるだけで同じ形状の線を描くことが確認された。そこで、疲労試験装置1では、指標値の繰返回数に対する変化を正規化するためのシフトファクタを応力条件ごとに設定する。シフトファクタ設定部23を備える構成とされた。なお、繰返回数に対する指標値の変化波形は、選択する指標値、試験する材料の特性、試験環境(温度及び湿度)等により異なり得る。また、指標値の変化波形はほぼ直線状となることもある。
【0034】
シフトファクタ設定部23は、それぞれの応力条件のデータを基準となる応力条件におけるグラフであるマスタカーブに重ねるために必要なグラフの移動量を、変動応力の繰返回数に掛け合わされるシフトファクタとして算出する。つまり、シフトファクタ設定部23は、それぞれ応力条件の指標値の繰返回数に対するデータを、応力条件ごとに設定されるシフトファクタを繰返回数に乗じて得られる標準回数に対するデータに変換し、この標準回数と指標値との関係を両対数でグラフ化した場合に複数の応力条件のデータが同一のマスタカーブ上にプロットされるように、応力条件ごとシフトファクタを設定する。マスタカーブは、任意に選択される応力条件の場合の繰返回数に対する指標値の変化を表すグラフであり、マスタカーブの応力条件は、実際に測定された応力条件の中から選択されてもよく、実測した応力条件とは異なる条件、例えばその材料の利用が想定される部品の疲労特性を正確に判断し得ると考えられる応力条件とされてもよい。
【0035】
図3に、歪みの振幅が異なる複数の応力条件での変動応力の繰返回数に対する試験片Tでの単位周期当たりのエネルギ損失率(指標値)の変化を両対数グラフにして例示する。また、図3には、それぞれの応力条件について適切なシフトファクタを設定して繰返回数を補正した標準回数に対するエネルギ損失率の変化を合わせて示す。このように、適切にシフトファクタを設定することで、データを正規化した1本のマスタカーブを得ることができる。図示する例では、歪みの振幅が0.8%である場合のシフトファクタを1に設定、つまり歪みの振幅が0.8%である場合の繰返回数(標準回数)に対するエネルギ損失率を示す曲線をマスタカーブとしている。
【0036】
図3に、応力の振幅が異なる複数の応力条件での変動応力の繰返回数にシフトファクタを乗じて正規化した標準回数に対する試験片Tでの単位周期当たりのエネルギ損失率の変化を両対数グラフにして例示する。このように、応力の振幅を一定としても、繰返回数に対する指標値の変化形状が一定となり、シフトファクタを設定することでマスタカーブ上に正規化できる。
【0037】
補正関数算出部24は、応力条件とシフトファクタとの関係を表す補正関数を算出する。補正関数算出部24は、応力条件とシフトファクタとの関係が両対数で線形の関係にあるものとして算出してもよい。図5に、図3のデータの応力条件、つまり歪みの振幅とシフトファクトの関係を示す。また、図6に、図4のデータの変動応力の振幅とシフトファクタとの関係を示す。このように、応力条件によって傾きは異なるが、応力条件とシフトファクタとの関係は線形と考えられる。
【0038】
シフトファクタ逆算部25は、補正関数から、所望の応力条件におけるシフトファクタの値を逆算する。つまり、シフトファクタ逆算部25は、実際に試験を行っていない振幅で試験を行った場合に測定データをマスタカーブ上にプロットできる標準回数を得るためのシフトファクタの値を推定する。
【0039】
疲労特性推測部26は、シフトファクタ逆算部25が逆算したシフトファクタで標準回数を除した想定回数に対してマスタカーブを描き直すことにより、所望の応力条件における疲労特性を推測する。つまり、疲労特性推測部26は、シフトファクタ逆算部25が設定した応力条件で試験を行った場合の測定値が描くカーブ又はカーブ上の特定の点の位置を推定する。
【0040】
マスタカーブは、その終点として、試験片Tが破断する標準回数を示すことができる。つまり、疲労試験装置1では、複数の応力条件での試験のうち、少なくとも1つの応力条件において試験片Tを破断に至らせるまで試験を行えば、任意の応力条件において試験片Tが破断すると考えられる想定回数を算出できる。したがって、疲労試験装置1では、変動応力の振幅が大きい応力条件によって比較的少ない繰返回数で試験片Tを破断に至らせることができれば、振幅が比較的小さい応力条件では試験片Tが破断するまで変動応力を作用させ続けることを要しない。
【0041】
インターフェイス部27は、ユーザによる応力条件の設定、疲労特性推測部26により推測された疲労特性のユーザに対する表示等を行う。このため、疲労試験装置1は、ディスプレイ、タッチパネル等の入出力装置を有してもよく、外部の入出力装置に接続されるよう構成されてもよい。
【0042】
インターフェイス部27による疲労特性の表示は、想定回数に対して描きなおしたマスタカーブのグラフを表示してもよく、破断が予想される想定回数、破断が予想される想定回数に対するユーザが指定する想定回数の割合(例えば製品の耐用負荷回数に対する部品の余裕度)等を数値で表示してもよい。
【0043】
以上のような疲労試験装置1を用いれば、基準となる応力条件で標準試料の試験片Tに周期的に変化する変動応力を作用させた場合の変動応力の繰返回数、つまり標準回数に対する標準試料の試験片Tでの単位周期当たりのエネルギ損失の指標値の変化を両対数でグラフ化したマスタカーブを用意しておき、標準試料と同一の材料からなり疲労度合いが不明な対象試料から試験片Tを切り出し、任意の応力条件で最低限の回数の変動応力を作用させて単位周期当たりのエネルギ損失の指標値を得ることによって、対象試料の指標値とマスタカーブとの対応関係に基づいて、具体的には対象試料の指標値を繰返回数の軸方向に平行移動した場合のマスタカーブ上の位置から対象試料の疲労度合いを推定することもできる。このため、インターフェイス部27は、マスタカーブ上に特定の試験データがプロットされる位置、それから推定される試験片Tの疲労度合いの数値等を表示する機能を備えてもよい。
【0044】
以上の説明から明らかなように、疲労試験装置1を用いて行われる本発明の一実施形態に係る疲労試験方法は、図5に示すように、指標値取得工程(S1)と、シフトファクタ設定工程(S2)と、補正関数算出工程(S3)と、シフトファクタ逆算工程(S4)と、疲労特性推測工程(S5)とを備える。
【0045】
ステップS1の指標値取得工程では、駆動制御部21によってTに周期的に変化する変動応力を作用させることにより、指標値取得部22によって応力条件ごとに変動応力の繰返回数に対する試験片Tでの単位周期当たりのエネルギ損失の指標値の変化を算出する。
【0046】
S2のシフトファクタ設定工程では、シフトファクタ設定部23によって、駆動制御部21が作用させた全ての応力条件のデータを同一のマスタカーブ上にプロットできるように応力条件ごとにシフトファクタを設定する。つまり、繰返回数にシフトファクタを乗じて得られる標準回数について指標値をプロットしたときにマスタカーブに一致する線を描くように応力条件ごとにシフトファクタを設定する。
【0047】
S3の補正関数算出工程では、補正関数算出部24によって、応力条件つまり歪み又は応力の振幅とシフトファクタとの関係を表す補正関数を算出する。
【0048】
S4のシフトファクタ逆算工程では、シフトファクタ逆算部25によって、所望の応力条件におけるシフトファクタの値を補正関数から逆算する。
【0049】
S5の疲労特性推測工程では、疲労特性推測部26によって、シフトファクタ逆算工程で逆算したシフトファクタで標準回数を除した想定回数に対してマスタカーブを描き直すことにより、所望の応力条件における疲労特性を推測する。
【0050】
また、疲労試験装置1を実現する本発明の一実施形態に係る疲労解析プログラムは、駆動制御部21を実現する駆動制御機能部と、指標値取得部22を実現する指標取得機能部と、シフトファクタ設定部23を実現するシフトファクタ設定機能部と、補正関数算出部24を実現する補正関数算出機能部と、シフトファクタ逆算部25を実現するシフトファクタ逆算機能部と、疲労特性推測部26を実現する疲労特性推測機能部と、インターフェイス部27を実現するインターフェイス機能部と、を備え得る。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に制限されるものではなく適宜変更が可能である。
【0052】
本発明に係る疲労解析装置におけるシフトファクタ逆算部及び疲労特性推測部、本発明に係る疲労解析方法のシフトファクタ逆算工程及び疲労特性推測工程、並びに本発明に係る疲労解析プログラムにおけるシフトファクタ逆算機能部及び疲労特性推測機能部は、任意の構成である。つまり、本発明に係る疲労解析装置、疲労解析方法及び疲労解析プログラムは、マスタカーブ及び補正関数をユーザに提供し、シフトファクタの逆算及び疲労特性の推定をユーザに委ねてもよい。また、本発明に係る疲労解析プログラムは、駆動制御機能部及び指標値取得機能部を備えていなくてもよい。つまり、本発明に係る疲労解析プログラムは、例えば従来の疲労試験装置の測定データからマスタカーブ及び補正関数を算出するものであってもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 疲労試験装置
10 機械装置部
11,12 把持部
13 駆動機構
14 検出機構
15 支持体
20 制御装置部
21 駆動制御部
22 指標値取得部
23 シフトファクタ設定部
24 補正関数算出部
25 シフトファクタ逆算部
26 疲労特性推測部
27 インターフェイス部
T 試験片
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7