(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175074
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】プロピレン系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 23/12 20060101AFI20221117BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20221117BHJP
C08K 5/103 20060101ALI20221117BHJP
C08L 23/14 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
C08L23/12
C08K5/00
C08K5/103
C08L23/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081213
(22)【出願日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】村上 卓生
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】田口 智啓
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 沙耶
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB111
4J002BB151
4J002BB161
4J002BB171
4J002EC057
4J002EG077
4J002EH046
4J002EH056
4J002EL107
4J002EW047
4J002FD176
4J002FD207
4J002GG01
(57)【要約】
【課題】高濃度で液体を含有している場合においても、該液体のブリーディングが長期間にわたって有効に抑制されている液体含有樹脂組成物を提供する。
【解決手段】プロピレン系樹脂(A成分)、潤滑液(B成分)および結晶核剤(C成分)を含み、前記B成分の含有量が、前記A成分100質量部に対して10質量部以上である樹脂組成物であって、
前記B成分は、23℃で液体であり、該B成分により形成された膜の表面に23℃、50%RHにおいて3μlの蒸留水を着滴させた場合の着滴10秒後の接触角が70°以上であり、
前記樹脂組成物の中心部の球晶の最大サイズは、0.1μm以上30μm以下であることを特徴とする前記樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン系樹脂(A成分)、潤滑液(B成分)および結晶核剤(C成分)を含み、前記B成分の含有量が、前記A成分100質量部に対して10質量部以上である樹脂組成物であって、
前記B成分は、23℃で液体であり、該B成分により形成された膜の表面に23℃、50%RHにおいて3μlの蒸留水を着滴させた場合の着滴10秒後の接触角が70°以上であり、
前記樹脂組成物の中心部の最大球晶径は、0.1μm以上30μm以下であることを特徴とする前記樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂組成物がペレット状である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記潤滑液(B成分)が、グリセリン脂肪酸エステル、食用油およびそれらの組合せからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記潤滑液(B成分)の25℃における粘度が、1mPa・s以上1000mPa・s以下である請求項1~3の何れか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記プロピレン系樹脂(A成分)がα-オレフィンとのランダム共重合体である請求項1~4の何れか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
示差走査熱量計(DSC)測定の融解エンタルピーから求められる結晶化度が10%以上60%以下である請求項1~5の何れか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
プロピレン系樹脂のγ型結晶に由来するX線回折ピークが観察される請求項1~6の何れか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記結晶核剤(C成分)が、ノニトール系核剤、ソルビトール系核剤、リン酸エステル系核剤、トリアミノベンゼン誘導体系核剤、カルボン酸金属塩系核剤およびキシリトール系核剤からなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項1~7の何れか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
下記式(1)で表される表面ブリード率が10%以下である請求項1~8の何れか一項に記載の樹脂組成物。
表面ブリード率(%)=B60/B0×100 (1)
B0:保管開始時の1質量部の樹脂組成物中の潤滑液(B成分)の量(質量部)
B60:22℃、60%RHの環境下で60日間保管した後の1質量部の樹脂組成物の表面の潤滑液(B成分)の量(質量部)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン系樹脂組成物に関するものであり、より詳細には、潤滑液を含むプロピレン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック容器は、成形が容易であり、安価に製造できることなどから、各種の用途に広く使用されており、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂は、ケチャップなどの粘稠なスラリー状或いはペースト状の内容物を収容するためのボトルなどの成形に好適に使用されている。
【0003】
ところで、粘稠な内容物が収容されるボトル等の容器では、該内容物を速やかに排出するため、或いは容器内に残存させることなくきれいに最後まで使いきるために、容器を倒立させたときには、粘稠な内容物が容器の内面に付着することなく、速やかに落下するという特性が望まれている。
【0004】
このような要求を満足させるために、古くは、特許文献1に記載されているように、容器内面を形成する樹脂の内面に脂肪族アミド等の固体状の滑剤を配合しておき、この滑剤が容器内面にブリーディングすることにより、容器内容物の滑落性が向上するという手法が採用されていた。
【0005】
しかるに、最近では、特許文献2に記載されているように、内容物と接触する内表面に内容物とは異なる液体の層を形成するという手法が注目されている。かかる手法では、内容物と非混和性の液体による液層を容器の内面に形成しておくことにより、内容物に対する滑り性を従来公知のものに比して格段に向上させることができ、容器を倒立或いは傾倒せしめることにより、容器内壁に付着・残存させることなく、内容物を速やかに容器外に排出することが可能となっている。
このように表面に液層を形成することにより滑り性等の表面特性を改質する方法は、容器の形態に限らず、フィルム等の形態を有する成形体にも適用できるものであり、液体の種類を適宜選択することにより、表面の性質を大幅に改質することができる。
【0006】
しかるに、上記のように、容器等の成形体の表面に液体の層を形成して表面特性を改質するという手段では、容器を成形後、容器の内面に内容物ではない液体を浸漬、スプレー等により施して液体層を形成するが、この場合には、液層を形成するために、格別の処理工程が必要となり、生産性の点で問題がある。このために、表面に液層を形成するためには、液層を形成する液体を内面形成する樹脂に混合し、このような液体が混合された樹脂組成物を用いて成形を行い、成形後の液体のブリーディングにより成形体の表面に液層を形成するという手段が工業的に有利である。即ち、成形後に、格別の処理を行わずとも、容器の内面に前記樹脂組成物に含まれる液体が偏析し、これにより、自動的に液体の層が表面に形成することとなるからである。
【0007】
ところで、上記のような液体(以下、潤滑液と呼ぶことがある)含有樹脂組成物を用いて容器を成形する場合、工業的には、当然、成形用樹脂に潤滑液が配合されたペレット形態の樹脂組成物が使用される。即ち、成形時に、その都度、潤滑液と成形用樹脂とを混合して樹脂組成物を調製するのでは、効率が悪く、潤滑液を多量に収容するタンクなども必要となってしまう。従って、該潤滑液を高濃度で含むペレット形状の樹脂組成物を予め調製し、保管、搬送などの取り扱いは、この樹脂組成物の形で潤滑液を取り扱い、成形時に、該樹脂組成物を成形用樹脂により希釈して、表面形成用樹脂組成物を調製し、容器等への成形が行われることとなる。
【0008】
そこで、問題となるのは樹脂組成物からの潤滑液のブリード性である。即ち、樹脂組成物に含まれる液体の濃度が薄い場合(例えば5質量%以下)には問題は無いのであるが、樹脂組成物の液体濃度が高い場合には、樹脂組成物から液体がブリードしてしまい、該ペレットがベタついて取扱いが困難となることや、液体のブリーディングにより、これを希釈して成形用の樹脂組成物を調製した時、液体濃度が目標値よりも小さくなってしまうなどの問題がある。この傾向は、液体と混合する成形用樹脂がスクイズ容器等の成形に使用されるポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂の場合に顕著である。
【0009】
また、液体成分を含む樹脂組成物に関して、特許文献3の実施例には、ポリグリセリンの脂肪酸エステル(液体成分)をポリエチレンやポリプロピレンに5%添加し、押出成形機により樹脂組成物ペレットを作成し、この樹脂組成物ペレットを、ポリエチレンやポリプロピレンの樹脂ペレットと混合しての押し出しにより、フィルムを成形したことが記載されている。しかるに、この特許文献3では、液体成分であるポリグリセリンの濃度が5%と低いため、この樹脂組成物から形成される成形用樹脂組成物は、その濃度がかなり低いもの(特許文献3の実施例では、何れも1.5%以下である)に限られてしまい、高濃度で液体成分を含む成形用樹脂組成物を調製することができない。
【0010】
また、特許文献4には、ポリプロピレンなどの結晶性熱可塑性樹脂100重量部に、1~30重量部の帯電防止剤と0.1~1重量部の結晶核剤(C成分)が配合されている樹脂組成物が開示されており、この帯電防止剤の例としては、グリセリンの脂肪酸エステルなどの非イオン系界面活性剤も挙げられている。即ち、この特許文献4の技術は、結晶性熱可塑性樹脂を結晶化させておくことにより帯電防止剤のブリーディング量を抑制し、帯電防止剤のブリーディングによるべたつきを防止するというものである。しかしながら、この技術では、樹脂組成物当りの帯電防止剤の含有量がおおよそ20質量%程度であるが、マスターバッチペレットに対するブリーディング量は7~9質量%程度(含有されている帯電防止剤に対して35~45質量%程度)に抑制されるに過ぎない。さらに、ここで配合されている帯電防止剤は、埃等の付着を防止するために使用されるものであり、流動性物質の滑り性を向上させるために使用されるものではないため、表面に撥液性を有する液層を形成することはない。即ち、多量の帯電防止剤を配合するものではなく、撥液性を有する液層を形成する潤滑液のように多量の液体が配合される樹脂組成物に関して、そのべたつきを防止するためには、さらなる工夫が必要である。
【0011】
さらに、特許文献5には、本出願人により、ガラス転移点が35℃以上のマトリックス樹脂(A)中に、粘度(23℃)が1000mPa・s以下である液体(B)が分散されていることを特徴とする樹脂組成物が提案されている。この樹脂組成物は、流動性物質に対する滑り性を向上させるための潤滑液(液体(B))を含んでおり、高ガラス転移点のマトリックス樹脂(A)を使用することにより、液体(B)のブリーディングを抑制するというものであり、そのブリーディング抑制効果は極めて高い。しかしながら、この特許文献5で使用される高ガラス転移点のマトリックス樹脂は、環状オレフィン系樹脂であり、極めて高価であり、通常のポリプロピレン或いはプロピレンとα-オレフィンとの共重合体のような安価なプロピレン系樹脂には適用できないという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008-222291号公報
【特許文献2】WO2014/010534号公報
【特許文献3】特公昭43-8605号公報
【特許文献4】特開2012-72335号公報
【特許文献5】特開2015-105308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の目的は、潤滑液を高濃度で含有している場合においても、該潤滑液のブリーディングが長期間にわたって有効に抑制されている樹脂組成物を提供することにある。本発明の他の目的は、安価なプロピレン系樹脂に潤滑液が分散されている樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、潤滑液含有樹脂組成物について多くの実験を行い、そのブリーディング性を検討した結果、プロピレン系樹脂に潤滑液を配合した場合には、微細な球晶を均一に多く生成させることにより、該潤滑液のブリーディングを著しく抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち本発明は、以下の発明を包含する。
1. プロピレン系樹脂(A成分)、潤滑液(B成分)および結晶核剤(C成分)を含み、前記B成分の含有量が、前記A成分100質量部に対して10質量部以上である樹脂組成物であって、
前記B成分は、23℃で液体であり、該B成分により形成された膜の表面に23℃、50%RHにおいて3μlの蒸留水を着滴させた場合の着滴10秒後の接触角が70°以上であり、
前記樹脂組成物の中心部の最大球晶径は、0.1μm以上30μm以下であることを特徴とする前記樹脂組成物。
2. 前記樹脂組成物がペレット状である前項1に記載の樹脂組成物。
3. 前記潤滑液(B成分)が、グリセリン脂肪酸エステル、食用油およびそれらの組合せからなる群から選ばれる少なくとも一種である前項1または2に記載の樹脂組成物。
4. 前記潤滑液(B成分)の25℃における粘度が、1mPa・s以上1000mPa・s以下である前項1~3の何れか一項に記載の樹脂組成物。
5. 前記プロピレン系樹脂(A成分)がα-オレフィンとのランダム共重合体である前項1~4の何れか一項に記載の樹脂組成物。
【0016】
6. 示差走査熱量計(DSC)測定の融解エンタルピーから求められる結晶化度が10%以上60%以下である前項1~5の何れか一項に記載の樹脂組成物。
7. プロピレン系樹脂のγ型結晶に由来するX線回折ピークが観察される前項1~6の何れか一項に記載の樹脂組成物。
8. 前記結晶核剤(C成分)が、ノニトール系核剤、ソルビトール系核剤、リン酸エステル系核剤、トリアミノベンゼン誘導体系核剤、カルボン酸金属塩系核剤およびキシリトール系核剤からなる群より選ばれる少なくとも一種である前項1~7の何れか一項に記載の樹脂組成物。
9. 下記式(1)で表される表面ブリード率が10%以下である前項1~8の何れか一項に記載の樹脂組成物。
表面ブリード率(%)=B60/B0×100 (1)
B0:保管開始時の1質量部の樹脂組成物中の潤滑液(B成分)の量(質量部)
B60:22℃、60%RHの環境下で60日間保管した後の1質量部の樹脂組成物の表面の潤滑液(B成分)の量(質量部)
【発明の効果】
【0017】
本発明の樹脂組成物は、ブリーディングを長期にわたって有効に抑制することができる。特に、後述する実施例に示されているように、20質量%もの多量の潤滑液(B成分)を含んでいる樹脂組成物を60日間保管したとき、樹脂組成物1質量部当りのブリーディング量は極めて小さく、潤滑液(B成分)のブリーディングによるベタツキを有効に防止することができ、また、この樹脂組成物に所定の樹脂を配合して成形用樹脂としたとき、成形用樹脂中の潤滑液(B成分)の量を安定に維持することができ、この潤滑液(B成分)による改質を設計通り行うことができる。
【0018】
本発明の樹脂組成物は、プロピレン系樹脂(A成分)に結晶核剤(C成分)が配合されており、プロピレン系樹脂を含むマトリックス樹脂と潤滑液(B成分)とを溶融混練し冷却したとき、微細な球晶が均一に多く生成していることを意味し、このような多くの微細な球晶によって球晶間の非晶部に溶解している潤滑液(B成分)が封じ込められ、そのブリーディングが有効に抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例1の樹脂組成物の中心断面の光学顕微鏡写真。
【
図2】実施例2の樹脂組成物の中心断面の光学顕微鏡写真
【
図3】実施例3の樹脂組成物の中心断面の光学顕微鏡写真。
【
図4】比較例1の樹脂組成物の中心断面の光学顕微鏡写真。
【
図5】比較例2の樹脂組成物の中心断面の光学顕微鏡写真。
【
図6】比較例3の樹脂組成物の中心断面の光学顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の樹脂組成物は、プロピレン系樹脂(A成分)、潤滑液(B成分)および結晶核剤(C成分)を含む。
【0021】
<潤滑液(B成分)>
潤滑液(B成分)は、23℃で液体であり、該潤滑液(B成分)により形成された膜の表面に23℃、50%RHにおいて3μlの蒸留水を着滴させた場合の着滴10秒後の接触角が70°以上である。
潤滑液(B成分)は、この樹脂組成物を成形用の樹脂と混合して成形体を製造したとき、その表面に該潤滑液(B成分)が析出した液層を形成し、かかる液層により、成形体の表面に潤滑液(B成分)の種類に応じた表面特性を発現させるというものである。従って、かかる潤滑液(B成分)は、当然、大気圧で揮散しないような沸点、例えば200℃より高い沸点を有するものであり、且つ成形体表面に付与しようとする表面特性に応じて選択される。
【0022】
例えば、撥水性を付与しようとする場合には、シリコーンオイル、グリセリン脂肪酸エステル、植物油(或いは食用油脂)などの中から選択される。
また、撥油性を付与しようとする場合には、親水性の高いイオン液体等を使用することができ、成形体の用途も考慮して、適宜の液体を選択すればよい。
【0023】
さらに、成形体が容器であり、粘稠な内容物に対する滑り性を高めるようとするときには、用いる潤滑液(B成分)は、内容物に対して非混和性であり、内容物と混ざり合わないようなものが選択される。内容物に対して混和性であると、容器内面に露出した潤滑液(B成分)が内容物と混ざり合ってしまい、容器内面から脱落してしまい、目的とする表面特性を付与することが困難となってしまうからである。
特に、かかる内容物として、水分を含有しているもの、例えばケチャップでは、潤滑液(B成分)として、シリコーンオイル、グリセリン脂肪酸エステル、流動パラフィン、植物油などが好適に使用される。中でも、中鎖脂肪酸トリグリセライド(C数6~12のものが市販されている)、グリセリントリオレートおよびグリセリンジアセトモノオレートに代表されるグリセリン脂肪酸エステル、植物油は、揮散し難く、しかも、食品添加物として認可されており、さらには、無臭であり、内容物のフレーバ-を損なわないという利点もある。特に中鎖脂肪酸エステル(MCT)は、前述した温度条件を満足させ易いという点で最適である。
また、マヨネーズ等の乳化系の内容物に対しては、シリコーンオイル、グリセリン脂肪酸エステル、植物油などが潤滑液(B成分)として好適であり、その中でも、乳化に時間を有する性質を示す潤滑液(B成分)が最適である。このような性質を有するものは、これらの中でも比較的分子量の高いものである。
潤滑液(B成分)は、グリセリン脂肪酸エステル、食用油およびそれらの組合せからなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
潤滑液(B成分)は、25℃における粘度が、1mPa・s以上1000mPa・s以下であることが好ましい。
【0024】
本発明において、上述した潤滑液(B成分)は、この樹脂組成物を所定の成形用樹脂で希釈して成形したときに、成形体表面に液層が形成されるようにブリーディングするものであるため、その配合量は多いことが好ましいが、その配合量が多すぎると樹脂組成物成形時の結晶核剤(C成分)の効果が小さくなり、樹脂組成物からの潤滑液(B成分)のブリーディングが有効に抑制されない可能性がある。
従って、潤滑液(B成分)の含有量は、プロピレン系樹脂(A成分)100質量部当り、好ましくは10質量部以上100質量部未満、より好ましくは20質量部以上70質量部未満、さらに好ましくは25質量部以上40質量部未満の範囲である。
【0025】
<プロピレン系樹脂(A成分)>
本発明において、上記の潤滑液(B成分)を分散させるマトリックス樹脂としては、プロピレン系樹脂(A成分)が使用される。プロピレン系樹脂(A成分)をマトリックス樹脂として使用することにより、所定の最大球晶径を満足するように結晶性を調整することができる。
【0026】
このようなプロピレン系樹脂(A成分)としては、その用途に応じて、プロピレンホモポリマーのみならず、プロピレンと、エチレン、ブテン-1、ヘキセン-1、4-メチル-1-ペンテン等の線状のα-オレフィンとのランダムもしくはブロック共重合体も使用することができる。結晶性の観点から、共重合体中のプロピレン含量は90mol%以上、特に95mol%以上であることが望ましい。また、成形性の観点から、MFR(230℃)が0.1g/10min以上で26g/10min未満の範囲、より好ましくは0.3~10g/10minの範囲にあるものが好ましい。
【0027】
所定の最大球晶径を確保できる限りにおいて、上記のプロピレン系樹脂以外の他の熱可塑性樹脂がブレンドされているものをマトリックス樹脂として使用することもできる。このような他の熱可塑性樹脂としては、特に制限されるものではないが、一般には成形性の観点からオレフィン系樹脂を挙げることができ、例えばポリエチレンや、エチレンと他のα-オレフィンとの共重合体が代表的であり、そのブレンド量は、マトリックス樹脂中に30質量%以下であることが好適である。
【0028】
<結晶核剤(C成分)>
本発明の樹脂組成物は結晶核剤(C成分)を含有する。結晶核剤(C成分)としては、ポリプロピレンの結晶核剤として公知のもの、例えば、安息香酸ナトリウム、アルミニウムジベンゾエート、カリウムベンゾエート、リチウムベンゾエート、ソジウムβ(ナフタレートソジウムシクロヘキサンカルボキレート)などのカルボン酸金属塩タイプのものや、ベンジリデンソルビトールおよびその誘導体などのソルビトールタイプ、その他として、ポリ-3-メチルブテン-1、ポリビニルシクロアルカン、ポロビニルトリアルキルシランなどのポリマータイプのものが挙げられる。
結晶核剤(C成分)は、ノニトール系核剤、ソルビトール系核剤、リン酸エステル系核剤、トリアミノベンゼン誘導体系核剤、カルボン酸金属塩系核剤およびキシリトール系核剤からなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
尚、上記のような結晶核剤(C成分)は、一般にプロピレン系樹脂に配合されて市販されている。例えば、このような結晶核剤(C成分)入りプロピレン系樹脂は、サンアロマー社製ランダムポリプロピレンPM931M、サンアロマー社製ランダムポリプロピレンPM731Mなどの商品名で市販されている。
【0029】
結晶核剤(C成分)はノニトール系核剤が好ましい。例えば、下記式で表される1,2,3-トリデオキシ-4,6:5,7-O-ビス(4-プロピルベンジリデン)ノニトールが挙げられる。
【化1】
【0030】
樹脂組成物中の結晶核剤(C成分)の含有量は、プロピレン系樹脂(A成分)100質量部当り、好ましくは0.10質量部以上1.0質量部未満、より好ましくは0.15質量部以上0.9質量部未満、さらに好ましくは0.20質量部以上0.80質量部未満の範囲である。
【0031】
<樹脂組成物>
(樹脂組成物の大きさ)
樹脂組成物が円柱形状を有するペレット状である場合、その大きさは、所定の最大球晶径を確保する観点から、直径は、10mm以下、5mm以下、さらには3mm以下、長さは20mm以下、10mm以下、さらには5mm以下であることが好ましい。いずれも下限は特に限定されないが、好ましくは1mmである。
(最大球晶径)
本発明の樹脂組成物の中心部の最大球晶径は、0.1μm以上30μm以下である。樹脂組成物の中心部の最大球晶径の上限は、該液体のブリーディングを抑制する観点から、より小さい方が好ましく、例えば、30μm以下、15μm以下、さらには5μm以下であることが好ましい。下限は特に限定されないが、好ましくは0.1μmである。本明細書において最大球晶径とは、樹脂組成物の中心断面に存在する球晶の最大径のことを意味し、偏光顕微鏡や透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定することができる。
【0032】
(結晶化度)
樹脂組成物の結晶化度は、潤滑液(B成分)のブリーディングを抑制する観点から、より大きい方が好ましいが、大きすぎると非晶部の割合が低下し、該潤滑液(B成分)のプロピレン系樹脂(A成分)に対する飽和溶解量が低下する場合や、造粒時の加工性が低下する場合がある。
従って、樹脂組成物の示差走査熱量計(DSC)測定の融解エンタルピーから求められる結晶化度は、好ましくは15%以上60%以下、より好ましくは20%以上57%以下、さらに好ましくは25%以上54%以下である。
結晶化度とは、示差走査熱量計(DSC)の樹脂組成物の融解エンタルピーと樹脂組成物の完全結晶の融解エンタルピーの比率から求められた値を意味する。
【0033】
(γ型結晶に由来するX線回折ピーク)
樹脂組成物は、プロピレン系樹脂のγ型結晶に由来するX線回折ピークが観察されることが好ましい。潤滑液体の拡散が抑制される理由は定かではないが、γ型結晶はα型結晶(010)側面から成長することが知られており、これにより緻密化された球晶が形成され、球晶内部に存在する潤滑液体の拡散が阻害されるためであると推定される。
【0034】
(表面ブリード率)
本発明の樹脂組成物は、下記式(1)で表される表面ブリード率が、好ましくは10%以下、より好ましくは8%以下である。
表面ブリード率(%)=B60/B0×100 (1)
B0:保管開始時の1質量部の樹脂組成物中の潤滑液(B成分)の量(質量部)
B60:22℃、60%RHの環境下で60日間保管した後の1質量部の樹脂組成物表面の潤滑液(B成分)の量(質量部)
表面ブリード率は、樹脂組成物をガラス瓶に8g入れ、22℃、60%RHの環境下で60日間保管した樹脂組成物表面の潤滑液(B成分)の量から算出する。
【0035】
<樹脂組成物の調製および使用>
本発明の樹脂組成物は、プロピレン系樹脂(A成分)、潤滑液(B成分)および結晶核剤(C成分)の所定量を、例えば押出機の混練部等へ供給して混練し、溶融押出し、溶融押出物をペレタイザーなどにより切断し、所定の大きさのペレットとして保管、搬送或いは販売等を通して、使用に供される。即ち、製造直後から使用までの間に、潤滑液(B成分)がブリーディングしてペレットがベタつくなどの不都合を生じることが有効に防止されている。
樹脂組成物は、ペレット状であることが好ましい。この樹脂組成物のペレットは、所定の最大球晶径を確保できる限りにおいて、前述した潤滑液(B成分)を分散させた結晶核剤(C成分)含有プロピレン系樹脂(A成分)を芯材層とする二層ペレットとして使用することもできる。
【0036】
この樹脂組成物のペレットは、特に、潤滑液(B成分)による液層が表面に形成された成形体を成形するために使用される。即ち、この樹脂組成物ペレットを成形用樹脂(希釈樹脂)と混練し、所定濃度で潤滑液(B成分)を含む混練物を調製し、この混練物を用いて所定形状に成形することにより、目的とする成形体が得られる。また、成形体が多層構造体から成る場合、液層を表面に形成するためだけではなく、例えば、多層構造中の任意の層における潤滑液(B成分)の濃度調整のために、この樹脂組成物ペレットを成形用樹脂(希釈樹脂)と混合して使用することもできる。
【0037】
樹脂組成物ペレットと混合する成形用樹脂としては、プロピレン系樹脂(A成分)、と均一に混合し得るものであれば特に制限されないが、一般的には、プロピレン系樹脂(A成分)と同種のオレフィン系樹脂、例えばプロピレン系樹脂、ポリエチレン等が好適に使用される。成形条件の設定が容易であり、しかも、樹脂の特性を最大限に活かした成形体を得ることができるからである。
【0038】
さらに、混練手段や成形手段は、樹脂の物性(例えばメルトフローレート)などに応じて適宜の手段を採用することができるが、液体を固体のマトリックス樹脂と混練するという観点から、両者の混練は、押出機等の成形機中の混練部での溶融混練により行うことが好ましく、さらに、成形手段は、押出成形や押出ブロー成形(ダイレクトブロー成形)が好適に適用される。このような手段は、混練時や成形時での潤滑液(B成分)の逸散を有効に回避でき、さらには潤滑液(B成分)の存在が成形に及ぼす影響(例えば成形等への液体の付着など)を無視することができるからである。
【0039】
このようなプロピレン系樹脂(A成分)を主体とし且つ潤滑液(B成分)を含む樹脂組成物は、粘稠な内容物を絞り出すスクイズ容器(ダイレクトブローボトル)などの可撓性容器の成形に好適に使用されるものであり、このような可撓性容器の成形に本発明の樹脂組成物を使用したとき、潤滑液(B成分)の液層による表面特性を最大限に活かすことができる。勿論、カップ或いはコップ状、ボトル状、袋状(パウチ)、シリンジ状、ツボ状、トレイ状等、種々の形態を有する容器の成形にも適用することができ、延伸成形容器に適用することも可能である。
【実施例0040】
本発明の樹脂組成物の優れた特性を、次の実施例で説明する。尚、以下の実施例等で行った各種の物性、特性等の測定方法及び樹脂組成物の作製は次の通りである。
【0041】
1.最大球晶径の測定
光学顕微鏡(LSM5 Pascal:Carl Zeiss)を用いて、樹脂組成物の中心断面をクロスニコル状態にて倍率50倍または100倍で観察し、観察される球晶の長軸方向の径の最大値を測定した。
【0042】
2.結晶化度測定
結晶化度測定は、示差走査熱量計(TA Instruments社製 DSC 2500)を用いて行った。試料3mgをサンプルパンに充填したサンプルを、窒素雰囲気下25℃で3分間保持後、降温速度50℃/分で-40℃まで冷却した。次いで、-40℃で3分間保持した後、試料を-40℃から200℃まで昇温速度10℃/分で加熱した。昇温の過程で最も高温側に観測された融解ピークと20℃から180℃の範囲に引いたベースラインによって囲まれてなるピーク面積から試料の融解エンタルピーΔH(J/g)を求め、結晶化度を次式により算出した。
結晶化度(%)=ΔH/(ΔH0×φ)×100
ΔH0はプロピレン系樹脂の完全結晶の融解エンタルピー、φはプロピレン系樹脂の重量分率である。ここで、プロピレン系樹脂の完全結晶の融解エンタルピーを207J/gとした。
【0043】
3.γ型結晶の形成の確認
プロピレン系樹脂のγ型結晶の形成の確認を、X線回折測定装置(リガク社製 SmartLab)を用いて行った。深さ0.2mmのガラス試料ホルダーに試料を乗せ、以下の条件により測定を行った。得られたX線回折プロファイルから、γ型結晶に由来するピークである回折角(2θ)が20.3°付近のピークの有無を確認した。
・管電圧:45kV、
・管電流:200mA
・X線源:Cu-Kα線(1.5418Å)、
・光学系:集中法
・入射スリット1/3度、長手制限スリット:10mm、受光スリット1:Open、受光スリット2:20mm
・スキャンモード:2θ/θスキャン
・2θスキャン範囲:5~40度
・角度ステップ幅:0.01度
・スキャン速度:5度/分
・検出器:HyPix-3000
【0044】
4.樹脂組成物の表面ブリード量評価
後述の方法で作製した樹脂組成物をガラス瓶に8g入れ、22℃、60%RHの環境下で60日間保管した。経時保管した樹脂組成物入りのガラス瓶に8gのヘプタンを入れて10秒間攪拌し、樹脂組成物表面の液体を洗浄回収した。ヘプタンを120℃で乾燥した後、残留した液体の重量を測定し、投入した樹脂組成物の重量で除することにより、樹脂組成物1gに対する潤滑液(B成分)の表面ブリード量を算出し、下記式(1)で表される表面ブリード率を求めた。
表面ブリード率(%)=B60/B0×100 (1)
B0:保管開始時の1質量部の樹脂組成物中の潤滑液(B成分)の量(質量部)
B60:22℃、60%RHの環境下で60日間保管した後の1質量部の樹脂組成物表面の潤滑液(B成分)の量(質量部)
【0045】
以下の材料を用いた。
<プロピレン系樹脂(A成分)>
プロピレン系樹脂A:ランダムポリプロピレン(プロピレン:エチレン=96:4(モル))、サンアロマー社製PC630A
プロピレン系樹脂B:ホモポリプロピレン、サンアロマー社製PM600A
【0046】
<潤滑液(B成分)>
中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)
水接触角:81°
粘度:24mPa・s
尚、液体膜に対する水接触角は、固液界面解析システムDropMaster700(協和界面科学(株)製)を用いて、LDPEフィルム(宇部丸善ポリエチレン(株)製LDPE-F120N)上に形成された液体膜の表面に、23℃、50%RHにおいて3μlの蒸留水を着滴させ、着滴10秒後の接触角を測定することで求めた。
また、潤滑液の粘度はB型粘度計DV2T(ブルックフィールド社製)を用いて25℃にて測定した値を示した。
【0047】
<結晶核剤(C成分)>
ノニトール系核剤(Millad NX8000E(ミリケンジャパン))
【0048】
<実施例1>
プロピレン系樹脂(A成分)としてプロピレン系樹脂Aを、潤滑液(B成分)として中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)を、結晶核剤(C成分)としてMillad NX8000E(ミリケンジャパン)をそれぞれ用いた。ここで、結晶核剤(C成分)は事前にプロピレン系樹脂(A成分)と溶融混練させて12質量%にマスターバッチ化したものを用いた。プロピレン系樹脂A:MCT:結晶核剤=100:25:0.30(質量部)となるように、二軸混練押出機(株式会社テクノベル製 KZW20TW)を用い、シリンダー温度220℃の条件下で溶融混練を行った。混練物をストランド状に押出し、空冷した後、ペレタイズし、直径2.5mm、長さ3mmの円柱形状を有するペレット状の樹脂組成物を作製した。
【0049】
<実施例2>
プロピレン系樹脂A:MCT:結晶核剤=100:25:0.15(質量部)とした以外は実施例1と同様の条件で二軸混練押出機を用いて樹脂組成物を作製した。
【0050】
<実施例3>
プロピレン系樹脂B:MCT:結晶核剤=100:25:0.30(質量部)とした以外は実施例1と同様の条件で二軸混練押出機を用いて樹脂組成物を作製した。
【0051】
<比較例1>
プロピレン系樹脂A:MCT:結晶核剤=100:25:0(質量部)とした以外は実施例1と同様の条件で二軸混練押出機を用いて樹脂組成物を作製した。
【0052】
<比較例2>
プロピレン系樹脂B:MCT:結晶核剤=100:25:0(質量部)とした以外は実施例1と同様の条件で二軸混練押出機を用いて樹脂組成物を作製した。
【0053】
<比較例3>
プロピレン系樹脂B:MCT:結晶核剤=100:25:0.15(質量部)とした以外は実施例1と同様の条件で二軸混練押出機を用いて樹脂組成物を作製した。
【0054】
以上の実施例1~3及び比較例1~3で作製された樹脂組成物について、最大球晶径、結晶化度、γ晶ピークを測定し、また、ブリーディング量を測定し、これらの結果を表1に示した。実施例1から3においては、樹脂組成物の表面ブリード率評価の結果から、比較例1~3に比べ、配合した液体の表面ブリードが抑制できていることが分かる。
また、実施例1~3及び比較例1~3の樹脂組成物についての光学顕微鏡写真を
図1~6に示した。
【0055】