(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175076
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】パイ用可塑性油脂組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20221117BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
A23D7/00 506
A23D9/00 502
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081215
(22)【出願日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】591040144
【氏名又は名称】太陽油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 孝徳
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 敦史
(72)【発明者】
【氏名】岡部 文
【テーマコード(参考)】
4B026
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG15
4B026DH01
4B026DH03
4B026DH05
4B026DH10
4B026DX03
(57)【要約】
【課題】成形性及び伸展性に優れ、室温でダレにくく、さらに口どけが良好なパイ用可塑性油脂組成物を提供すること。
【解決手段】乳脂肪を20質量%以上含み、40℃におけるSFCが2%以下であって、下記特徴(a)~(c)を有する、パイ用可塑性油脂組成物:
(a)炭素数16~20の飽和脂肪酸含量:44質量%以上、
(b)炭素数22の飽和脂肪酸含量:0.5質量%以上、
(c)不飽和脂肪酸含量:37質量%以上。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳脂肪を20質量%以上含み、40℃におけるSFCが2%以下であって、
下記特徴(a)~(c)を有する、パイ用可塑性油脂組成物:
(a)炭素数16~20の飽和脂肪酸含量:44質量%以上、
(b)炭素数22の飽和脂肪酸含量:0.5質量%以上、
(c)不飽和脂肪酸含量:37質量%以上。
【請求項2】
さらに、下記特徴(d)を有する、請求項1に記載のパイ用可塑性油脂組成物:
(d)炭素数14以下の飽和脂肪酸含量:10質量%以上。
【請求項3】
30℃におけるSFCが11%以上である、請求項1又は2に記載のパイ用可塑性油脂組成物。
【請求項4】
5℃で4日間保管後、品温15℃における硬度が85以下である、請求項1~3の何れか一項に記載のパイ用可塑性油脂組成物。
【請求項5】
軟質エステル交換油20~40質量%と、
硬質エステル交換油7~25質量%と、
極度硬化油1.5~5質量%を含み、
前記軟質エステル交換油は下記特徴(ア)、(イ)を有し、
前記硬質エステル交換油は下記特徴(ウ)、(エ)を有する、請求項1~4の何れか一項に記載のパイ用可塑性油脂組成物:
(ア)軟質エステル交換油の5℃におけるSFCが47~58%、
(イ)軟質エステル交換油の40℃におけるSFCが3%以下、
(ウ)硬質エステル交換油の5℃におけるSFCが75~85%、
(エ)硬質エステル交換油の40℃におけるSFCが20~30%。
【請求項6】
液状油を1.5~5質量%含む、請求項5に記載のパイ用可塑性油脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイ用可塑性油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
パイは、薄い生地と油脂の多層構造からなる層状小麦粉膨化食品(ペーストリー)の一種であり、生地に油脂を包み込み、伸ばして折りたたむ作業を複数回繰り返すことで製造される。近年、消費の拡大等の影響により、パイの製造は機械を用いて行われるようになっている。そのため、パイの製造に用いられる可塑性油脂組成物は、伸展性が良好で、機械耐性がある必要がある。
【0003】
特許文献1には、所定の脂肪酸含有量、及びSFCの値を有し、油脂の押出装置負担軽減作用に優れ、かつ伸展性、焼成時のパイの生地浮きに優れたパイ用可塑性油脂組成物が記載されている。
【0004】
また、近年、高価なバターの代替品として、バターオイル等の乳脂肪と、乳脂肪を含まない食用油脂を混合させたコンパウンドタイプの可塑性油脂組成物が開発されている。当該コンパウンドタイプの可塑性油脂組成物は、バター由来の優れた風味を有し、バターに起因するダレ等の欠点を改善したものとして、パイ等のペーストリーにも広く利用されている。
【0005】
例えば、特許文献2には、乳由来の油脂と、全構成脂肪酸中に炭素数14以下の脂肪酸を20~65質量%、パルミチン酸を20~65質量%含有するエステル交換油を所定量配合し、結晶性が良好でくちどけがよく、ベーカリー製品に使用した場合に十分なジューシー感が得られる可塑性油脂組成物が記載されている。
特許文献3には、乳脂肪と、特定のトリグリセリド組成を有する油脂を組み合わせることにより、口どけがよく、バター風味の発現が良好なベーカリー食品を製造することができる可塑性油中水型乳化油脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-68786号公報
【特許文献2】WO2014/050448号公報
【特許文献3】特開2014-50323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、乳脂肪を高配合した可塑性油脂組成物(ハイコンパウンドマーガリン等)は品質安定性に問題があり、機械によりパイ等のベーカリー食品を大量生産する場合の作業性の観点からは、克服すべき課題が残されている。例えば、ハイコンパウンドマーガリンでは、低温で伸びが悪く室温でダレやすいという、バターに由来する温度依存性の欠点が顕著となる。そのため、パイの製造において、ハイコンパウンドマーガリンは機械的圧力あるいは機械熱等により容易にその品質が変化してしまう。
【0008】
また、ハイコンパウンドマーガリンは、油脂の結晶化に時間を要し、シートマーガリンを製造する際に成形性が悪いといった欠点もあった。このような欠点を克服するため、硬質化によりマーガリンの硬度を調節すると、逆にマーガリンの口どけが悪くなるといった問題もあった。このように、ハイコンパウンドマーガリンを製造する際には、機械化による作業性の向上と口どけ等の食感の向上の両立を図る点において課題があった。
【0009】
そこで、本発明者らは、乳脂肪を高配合した場合であっても、バターを高配合しない可塑性油脂組成物と同等の機械作業性を有する、可塑性油脂組成物を得ることを目的とし、鋭意研究を行った。
【0010】
上記事情に鑑みなされた本発明は、成形性及び伸展性に優れ、室温でダレにくく、さらに口どけが良好なパイ用可塑性油脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明は、乳脂肪を20質量%以上含み、40℃におけるSFCが2%以下であって、下記特徴(a)~(c)を有する、パイ用可塑性油脂組成物である。
(a)炭素数16~20の飽和脂肪酸含量:44質量%以上、
(b)炭素数22の飽和脂肪酸含量:0.5質量%以上、
(c)不飽和脂肪酸含量:37質量%以上。
【0012】
本発明のパイ用可塑性油脂組成物は、成形性及び伸展性に優れ、室温でダレにくく、さらに口どけが良好である。
【0013】
本発明の好ましい形態では、本発明のパイ用可塑性油脂組成物は、さらに、下記特徴(d)を有する。
(d)炭素数14以下の飽和脂肪酸含量:10質量%以上
上記構成を有する本発明のパイ用可塑性油脂組成物は、成形性及び伸展性に優れ、室温でダレにくく、さらに可塑性油脂組成物の口どけが良好である。
【0014】
本発明の好ましい形態では、30℃におけるSFCが11%以上である。
30℃におけるSFCの値を上記範囲とすることで、成形性に優れたパイ用可塑性油脂組成物を得ることができる。
【0015】
本発明の好ましい形態では、5℃で4日間保管後、品温15℃における硬度が85以下である。
5℃で4日間保管後、品温15℃における硬度を上記範囲とすることで、室温でダレにくいパイ用可塑性油脂組成物を得ることができる。
【0016】
本発明の好ましい形態では、本発明のパイ用可塑性油脂組成物は、
軟質エステル交換油20~40質量%と、
硬質エステル交換油7~25質量%と、
極度硬化油1.5~5質量%を含み、
前記軟質エステル交換油は下記特徴(ア)、(イ)を有し、
前記硬質エステル交換油は下記特徴(ウ)、(エ)を有する。
(ア)軟質エステル交換油の5℃におけるSFCが47~58%、
(イ)軟質エステル交換油の40℃におけるSFCが3%以下、
(ウ)硬質エステル交換油の5℃におけるSFCが75~85%、
(エ)硬質エステル交換油の40℃におけるSFCが20~30%。
上記構成を有する本発明のパイ用可塑性油脂組成物は、成形性及び伸展性に優れ、室温でダレにくく、さらに可塑性油脂組成物の口どけが良好である。
【0017】
本発明の好ましい形態では、本発明のパイ用可塑性油脂組成物は、液状油を1.5~5質量%含む。
液状油を上記範囲内で含むことで、伸展性に優れたパイ用可塑性油脂組成物を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、乳脂肪を多量に含む場合であっても、成形性及び伸展性に優れ、室温でダレにくく、さらに良好な口どけが付与されたパイ用可塑性油脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができる。
【0020】
なお、本明細書において、「パイ」はパイ生地を焼成した後の多層構造を有する食品を意味する。また、「パイ用可塑性油脂組成物」はパイの製造に用いられる可塑性の油脂組成物であって、パイ用可塑性油脂組成物としては、例えば、ショートニング、マーガリン、ファットスプレッド等を挙げることができる。
【0021】
<パイ用可塑性油脂組成物>
本発明のパイ用可塑性油脂組成物は、乳脂肪を20質量%以上含有し、下記特徴(a)~(c)を有する。
(a)炭素数16~20の飽和脂肪酸含量:44質量%以上、
(b)炭素数22の飽和脂肪酸含量:0.5質量%以上、
(c)不飽和脂肪酸含量:37質量%以上。
上記特徴(a)~(c)を有する本発明のパイ用可塑性油脂組成物は、成形性及び伸展性に優れ、室温でダレにくく、さらに口どけが良好となる。
【0022】
本発明に用いる乳脂肪は、乳脂肪及びその加工品を含み、例えば、バター、バターオイルもしくはその分別油、分別油の発酵物、発酵バター、発酵バターオイルもしくはその分別油等が挙げられる。また、乳脂肪として、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、部分脱脂乳、加工乳、クリームチーズ、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、アイスクリーム類、濃縮乳、無糖れん乳、加糖れん乳、全粉乳、クリーム、クリームパウダー、サワークリーム、バターミルク、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調製粉乳、はっ酵乳、ヨーグルト、乳酸菌飲料、乳飲料等の乳脂肪を含有する乳製品をそのまま使用しても、これらから脂質分だけを抽出した乳脂肪そのものを使用してもよい。
本発明においては、乳脂肪として特にバターオイルを用いることが好ましい。
【0023】
乳脂肪は、本発明のパイ用可塑性油脂組成物全量に対し、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは32質量%以上配合することが好ましい。
乳脂肪の含有量の下限値を上記範囲とすることで、バターのコク味や風味に優れたパイ用可塑性油脂組成物を得ることができる。
【0024】
一方、乳脂肪は、本発明のパイ用可塑性油脂組成物全量に対し、好ましくは50%質量以下、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下となるように配合することが好ましい。
乳脂肪の含有量の上限値を上記範囲とすることで、品質安定性に優れたパイ用可塑性油脂組成物を得ることができる。
【0025】
本発明のパイ用可塑性油脂組成物の特徴(a)に関し、炭素数16~20の飽和脂肪酸含量の下限値は、本発明のパイ用可塑性油脂組成物の脂肪酸の総量に対し、好ましくは44質量%以上、より好ましくは45質量%以上、さらに好ましくは46質量%以上、特に好ましくは47質量%以上である。
また、炭素数16~20の飽和脂肪酸含量の上限値は、本発明のパイ用可塑性油脂組成物の脂肪酸の総量に対し、好ましくは55質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは49質量%以下、特に好ましくは質量48%以下である。
炭素数16~20の飽和脂肪酸含量を上記範囲とすることで、成形性及び伸展性に優れ、室温でダレにくく、さらに口どけが良好なパイ用可塑性油脂組成物を得ることができる。
【0026】
本発明のパイ用可塑性油脂組成物の特徴(b)に関し、炭素数22の飽和脂肪酸含量の下限値は、本発明のパイ用可塑性油脂組成物の脂肪酸の総量に対し、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.7質量%以上、より好ましくは0.8質量%以上、さらに好ましくは0.9質量%以上、特に好ましくは1.0質量%以上である。
また、炭素数22の飽和脂肪酸含量の上限値は、本発明のパイ用可塑性油脂組成物の脂肪酸の総量に対し、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、特に好ましくは1.5質量%以下である。
炭素数22の飽和脂肪酸含量を上記範囲とすることで、成形性及び伸展性に優れ、室温でダレにくく、さらに口どけが良好なパイ用可塑性油脂組成物を得ることができる。
【0027】
本発明のパイ用可塑性油脂組成物の特徴(c)に関し、不飽和脂肪酸含量の下限値は、本発明のパイ用可塑性油脂組成物の脂肪酸の総量に対し、好ましくは37質量%以上、より好ましくは37.5質量%以上、さらに好ましくは38質量%以上である。
また、不飽和脂肪酸含量の上限値は、本発明のパイ用可塑性油脂組成物の脂肪酸の総量に対し、好ましくは45.5質量%以下、より好ましくは45質量%以下、より好ましくは43質量%以下、さらに好ましくは42質量%以下、特に好ましくは40質量%以下である。
不飽和脂肪酸含量を上記範囲とすることで、成形性及び伸展性に優れ、室温でダレにくく、さらに口どけが良好なパイ用可塑性油脂組成物を得ることができる。
【0028】
また、本発明のパイ用可塑性油脂組成物は、さらに、下記特徴(d)を有することが好ましい。
(d)炭素数14以下の飽和脂肪酸含量:10質量%以上
【0029】
本発明のパイ用可塑性油脂組成物の特徴(d)に関し、炭素数14以下の飽和脂肪酸含量の下限値は、本発明のパイ用可塑性油脂組成物の脂肪酸の総量に対し、好ましくは10質量%以上、より好ましくは質量10.5質量%以上、さらに好ましくは11質量%以上である。
また、炭素数14以下の飽和脂肪酸含量の上限値は、本発明のパイ用可塑性油脂組成物の脂肪酸の総量に対し、好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下、より好ましくは15質量%以下、より好ましくは13質量%以下、特に好ましくは12.5質量%以下である。
炭素数14以下の飽和脂肪酸含量を上記範囲とすることで、成形性及び伸展性に優れ、室温でダレにくく、さらに口どけが良好なパイ用可塑性油脂組成物を得ることができる。
【0030】
なお、パイ用可塑性油脂組成物の構成脂肪酸は、例えば、基準油脂分析試験法(2.4.1.2-2013(メチルエステル化法)および2.4.2.3-2013(キャピラリーガスクロマトグラフ法))を用いて分析することができる。
【0031】
また、本発明のパイ用可塑性油脂組成物は、40℃におけるSFCの上限値が、好ましくは2%以下、より好ましくは1.8%以下、さらに好ましくは1.5%以下であることが好ましい。
40℃におけるSFCの上限値が上記範囲である本発明のパイ用可塑性油脂組成物は、口どけが良好となる。
【0032】
本発明のパイ用可塑性油脂組成物は、40℃におけるSFCの下限値を、好ましくは0.3%以上、より好ましくは0.6%以上、さらに好ましくは0.8%以上とすることができる。
【0033】
本発明のパイ用可塑性油脂組成物は、30℃におけるSFCの上限値が、好ましくは18%以下、より好ましくは17%以下、さらに好ましくは16%以下であることが好ましい。
30℃におけるSFCの下限値が、好ましくは10%以上、より好ましくは11%以上、より好ましくは12%以上、より好ましくは12.5%以上、より好ましくは13%以上、さらに好ましくは13.5%以上、特に好ましくは14%以上であることが好ましい。
以上の特徴を有する本発明のパイ用可塑性油脂組成物は、成形性に優れる。
【0034】
なお、本発明のパイ用可塑性油脂組成物のSFCは、例えば、基準油脂分析試験法(2.2.9-2013 固体脂含量(NMR法))に従い、分析することができる。
【0035】
また、本発明のパイ用可塑性油脂組成物は、パーム油を主体として得られるエステル交換油を27~65質量%含むことが好ましく、より好ましくは30~60質量%、より好ましくは34~56質量%、さらに好ましくは37~53質量%、特に好ましくは40~53質量%含む形態とすることがより好ましい。
上記構成を有する本発明のパイ用可塑性油脂組成物は、成形性及び伸展性に優れ、室温でダレにくく、さらに口どけが良好となる。
【0036】
ここで、パーム油を主体として得られるエステル交換油としては、軟質エステル交換油、硬質エステル交換油を好ましく挙げることができる。
【0037】
ここで、本発明に用いる軟質エステル交換油は、下記特徴(ア)、(イ)を有する軟質エステル交換油であることが好ましい。
(ア)軟質エステル交換油の5℃におけるSFCが47~58%、
(イ)軟質エステル交換油の40℃におけるSFCが3%以下。
上記特徴(ア)、(イ)を有する軟質エステル交換油を含む本発明のパイ用可塑性油脂組成物は、成形性及び伸展性に優れ、室温でダレにくく、さらに口どけが良好となる。
【0038】
また、本発明のパイ用油脂に含まれる軟質エステル交換油の特徴(ア)に関し、以下の特徴を有することがより好ましい。
軟質エステル交換油の5℃におけるSFCが48~56%、より好ましくは50~54%。
【0039】
また、本発明のパイ用油脂に含まれる軟質エステル交換油の特徴(イ)に関し、以下の特徴を有することがより好ましい。
軟質エステル交換油の40℃におけるSFCが2%以下、より好ましくは1%以下。
【0040】
上記特徴を有する軟質エステル交換油としては、パーム油、パーム核油軟質部、パーム油軟質部のエステル交換油を挙げることができ、具体的には、例えば、パーム油を67質量%、パーム核油軟質部23質量%、パーム油軟質部10質量%をエステル交換したものを挙げることができる。
【0041】
また、本発明に用いる硬質エステル交換油は、下記特徴(ウ)、(エ)を有する硬質エステル交換油であることがさらに好ましい。
(ウ)硬質エステル交換油の5℃におけるSFCが75~85%、
(エ)硬質エステル交換油の40℃におけるSFCが20~30%。
上記特徴(ウ)、(エ)を有する硬質エステル交換油を含む本発明のパイ用可塑性油脂組成物は、成形性及び伸展性に優れ、室温でダレにくく、さらに口どけが良好となる。
【0042】
また、本発明のパイ用油脂に含まれる硬質エステル交換油の特徴(ウ)に関し、以下の特徴を有することがより好ましい。
硬質エステル交換油の5℃におけるSFCが78~83%、より好ましくは80~82%。
【0043】
また、本発明のパイ用油脂に含まれる硬質エステル交換油の特徴(エ)に関し、以下の特徴を有することがより好ましい。
硬質エステル交換油の40℃におけるSFCが22~28%、より好ましくは24~27%。
【0044】
上記特徴を有する硬質エステル交換油としては、例えば、パーム油硬質部をエステル交換したものを挙げることができる。
【0045】
なお、エステル交換は、当該技術分野で公知の方法で行うことができる。本発明では、ランダムエステル交換反応方法により得られたエステル交換油を用いることが好ましい。
ランダムエステル交換は、例えば、ナトリウムメチラート、水酸化ナトリウム等を触媒としてエステル交換を行う化学的な方法、非選択的リパーゼ等を触媒としてエステル交換を行う酵素的な方法に従って行うことができる。本発明では、特に、化学的な方法でランダムエステル交換反応を行うことにより得られたエステル交換油を用いることが、より好ましい。
【0046】
本発明のパイ用可塑性油脂組成物において、軟質エステル交換油の含有量の下限値は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは22質量%以上、より好ましくは24質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上、特に好ましくは26質量%以上である。
軟質エステル交換油の含有量の下限値を上記範囲とすることで、成形性に優れ、口どけの良いパイ用可塑性油脂組成物を得ることができる。
【0047】
軟質エステル交換油の含有量の上限値は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは38質量%以下、さらに好ましくは36質量%以下、特に好ましくは35質量%以下である。
軟質エステル交換油の含有量の上限値を上記範囲とすることで、成形性に優れ、口どけの良いパイ用可塑性油脂組成物を得ることができる。
【0048】
硬質エステル交換油の含有量の下限値は、好ましくは7質量%以上、より好ましくは8質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは12質量%以上、特に好ましくは14質量%以上である。
硬質エステル交換油の含有量の下限値を上記範囲とすることで、成形性に優れ、室温でのダレが抑制されたパイ用可塑性油脂組成物を得ることができる。
【0049】
硬質エステル交換油の含有量の上限値は、好ましくは25質量%以下、より好ましくは22質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、特に好ましくは18質量%以下である。
硬質エステル交換油の含有量の上限値を上記範囲とすることで、口どけの良いパイ用可塑性油脂組成物を得ることができる。
【0050】
なお、本発明のパイ用可塑性油脂組成物は、パイ用可塑性油脂組成物、及びこれを含むパイに求められる基本的性質を損なわない限り、前述した硬質エステル交換油、軟質エステル交換油以外の油脂を含んでいてもよい。硬質エステル交換油、軟質エステル交換油以外の油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、オリーブ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、ハイオレイック菜種油、ハイエルシン菜種油、米油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、シア油、並びにこれらを硬化、分別およびエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂、および、動物脂が挙げられる。
【0051】
本発明のパイ用可塑性油脂組成物は、上述したエステル交換油以外の油脂として、極度硬化油を含むことが好ましい。極度硬化油の例として、ハイエルシン菜種極度硬化油を好ましく挙げることができる。
【0052】
極度硬化油の含有量の下限値は、好ましくは1.5質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは2.5質量%以上、特に好ましくは3質量%以上である。
極度硬化油の含有量の下限値を上記範囲とすることで、油脂の結晶化が促進され成形性に優れるとともに、室温でのダレが抑制されたパイ用可塑性油脂を得ることができる。
【0053】
極度硬化油の含有量の上限値は、好ましくは6質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは4.5質量%以下である。
極度硬化油の含有量の上限値を上記範囲とすることで、口どけの良いパイ用可塑性油脂組成物を得ることができる。
【0054】
また、本発明のパイ用可塑性油脂組成物は、上述したエステル交換油以外の油脂として、液状油を含む形態としてもよい。液状油の例として、菜種油を好ましく挙げることができる。
【0055】
液状油を含む形態とする場合、液状油の含有量の下限値は、好ましくは1.5質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは2.5質量%以上、特に好ましくは3質量%以上である。
液状油の含有量の上限値は、好ましくは6質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは4.5質量%以下である。
液状油の含有量を上記範囲とすることで、伸展性に優れたパイ用可塑性油脂組成物を得ることができる。すなわち、本発明のパイ用可塑性油脂組成物の好ましい形態では、上記含有量の液状油を含む。
【0056】
本発明における油脂の構成としては、例えば、軟質エステル交換油20~40質量%と、硬質エステル交換油7~25質量%と、極度硬化油1.5~5質量%と、液状油1.5~5質量%とを含む形態が好ましく例示できる。
【0057】
また、本発明のパイ用油脂において、トランス脂肪酸は実質的に含まないことが好ましい。
【0058】
本発明のパイ用可塑性油脂組成物は、上述した成分を含む油相のみで構成されていてもよいし、油相と水相で構成されていてもよい。
【0059】
水相を含む形態とする場合、水相と油相の質量比は適宜設定することができるが、0:100~30:70、より好ましくは10:90~20:80である。
【0060】
上記のパイ用可塑性油脂組成物は本発明の効果を妨げない範囲においてその他の成分を含有することができる。
上記のその他の成分として、水、脱脂粉乳、食塩、ホエイパウダー、その他乳主原料、糖類や必要に応じて、蔗糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、クエン酸ナトリウム、トリポリりん酸ナトリウム、第二りん酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、ヘキサメタりん酸ナトリウム、増粘多糖類、香料などを挙げることができる。
【0061】
本発明のパイ用可塑性油脂組成物は、一般的な製造方法により調製できるが、代表的な方法を述べると、油相部に水相部を加えて乳化した後、急冷練り合わせをすることにより、調製することができる。また、急冷練り合わせの後に、レスティングチューブを使用した結晶化と成形を行うこともできる。
【0062】
また、調製したパイ用可塑性油脂組成物はブロック状に成形し、冷暗所に保管することができる。なお、本発明のパイ用可塑性油脂組成物を用いてパイを製造する場合には、ブロック状パイ用可塑性油脂組成物を、混練機を用いて混練し、混練状態のパイ用可塑性油脂組成物を可塑性油脂組成物押し出し装置により圧延しシート状にしてパイの製造に用いることができる。
【0063】
また、本発明のパイ用可塑性油脂組成物は、(1)硬度、(2)レオメーター破断荷重(N)が、以下の数値範囲となることが好ましい。
【0064】
(1)硬度
本発明のパイ用可塑性油脂組成物は、以下の手順で得られた充填直後のパイ用可塑性油脂組成物の硬度が、好ましくは45~100、より好ましくは50~90、さらに好ましくは50~80、特に好ましくは50~75である。
充填直後の硬度が上記範囲内のパイ用可塑性油脂組成物は、シートの成形性に優れる。
【0065】
(充填直後のパイ用可塑性油脂組成物の硬度の測定)
出口の温度が16℃に設定された捏和機を用いて、パイ用油脂可塑組成物の材料を急冷捏和後、得られた2cm厚のパイ用可塑性油脂組成物を2つ重ねた硬度を、充填直後の硬度として測定した。
【0066】
なお、本発明における硬度は、ミクロペネメーター(円スイ(102.5g))を使用して測定した、針入度(単位は1/10mm)のことを示す。ミクロペネメーターとしては、RIGOSHA製のPENETRO METER等を用いることができる。
【0067】
本発明のパイ用可塑性油脂組成物は、5℃で4日間保管後、15℃の水浴に2時間静置し、品温15℃とした場合における硬度が、好ましくは85以下、より好ましくは80以下、より好ましくは70以下、さらに好ましくは65以下、特に好ましくは60以下である。
5℃で保存後品温15℃における硬度が上記範囲内のパイ用可塑性油脂組成物は、室温におけるダレが抑制される。
【0068】
(2)レオメーター破断荷重(N)
本発明のパイ用可塑性組成物は、5℃で4日保管後、15℃雰囲気下に1日静置し、品温15℃とした場合におけるレオメーター破断荷重(スピード:1mm/秒)が、好ましくは15N以下、より好ましくは13N以下、さらに好ましくは12N以下である。
品温15℃における破断荷重が上記範囲内のパイ用可塑性油脂組成物は、伸展性に優れる。
なお、上記破断荷重は、島津製作所株式会社製のレオメーター(型名:EZ-SX)等を用いて測定することができる。
【0069】
<パイ>
本発明のパイ用可塑性油脂組成物を用いたパイは、常法により製造することができる。製造方法としては、シート状パイ用可塑性油脂組成物を小麦粉生地で包みこみ、折りたたむことにより多層構造とし、それを焼成する方法を挙げることができる。
【実施例0070】
以下に実施例を用いて、より詳細に本発明について説明する。本実施例において、%(パーセント)による表記は、特に断らない限り質量を基準としたものである。
【0071】
パイ用可塑性油脂組成物の調製に用いた油脂は以下の通りである。
【0072】
【0073】
(i)軟質エステル交換油A
パーム油67%、パーム核油軟質部23%、パーム油軟質部10%を0.12%のナトリウムメチラートを触媒とし、90℃で30分間、ランダムエステル交換反応を行い、脱色、脱臭することにより得た。
【0074】
(ii)硬質エステル交換油B
パーム油硬質部を0.12%のナトリウムメチラートを触媒とし、90℃で30分間、ランダムエステル交換反応を行い、脱色、脱臭することにより得た。
【0075】
固体脂含量(SFC)
油脂の固体脂含量(SFC)を、基準油脂分析試験法(2.2.9-2013 固体脂含量(NMR法))に従って測定した。
【0076】
構成脂肪酸組成
油脂の構成脂肪酸組成を、基準油脂分析試験法(2.4.1.2-2013(メチルエステル化法)および2.4.2.3-2013(キャピラリーガスクロマトグラフ法))を用いて分析した。
【0077】
表2に示した比率で混合した油脂計85.3質量%に、グリセリン脂肪酸エステル0.6質量%、レシチン0.4質量%を加え、油相部を調製した。
一方、水11.5質量%と乳主原食品1質量%、食塩1.2質量%、を加え、水相部を調製した。
油相部86.3質量%に水相部13.7質量%を加えて乳化した後、捏和機を用いて急冷練り合わせを行った。急速練り合わせは、捏和機の出口温度を16℃に設定して行った。続いて、捏和機から取り出した油脂組成物についてレスティングチューブを使用した結晶化と成形を行い、厚さ2cmのシート状のマーガリン(パイ用可塑性油脂組成物)を調製した。
得られたマーガリンについて、結晶化及び成形直後(すなわち、充填直後)の物性、及び、5℃の低温で冷却した場合の物性を、以下の手順で評価した。
【0078】
【0079】
(A)充填直後のマーガリンの物性評価
上述の結晶化、成形工程の直後(充填直後)のマーガリンの物性について、以下の評価(A1及びA2)を行った。
【0080】
(A1)物性の測定(硬度の測定)
充填直後のシート状マーガリンを二重に折りたたみ、直径6cm、高さ3cmの丸セルクル型を用いて打ち抜いた。得られたマーガリンについて、ミクロペネメーター(RIGOSHA製のPENETRO METER、円スイ(102.5g))を使用し、針入度(単位は1/10mm)の1単位を硬度として測定した。
【0081】
(A2)官能評価(マーガリンの硬さ)
捏和機にて最大16℃まで急冷捏和したマーガリンを、上述の方法でシート状に成形後、2分以内に、下記の基準に従ってマーガリンの感触を評価した。
<評価基準>
1・・・マーガリンの内部、外部共に軟らかい、又は、マーガリンに割れが発生している
2・・・マーガリンの内部はやや軟らかく、外部は軟らかい
3・・・マーガリンの内部はやや硬いが、外部はやや軟らかい
4・・・マーガリンの内部は硬いが、外部はやや硬い
5・・・マーガリンの内部、外部共に硬い
【0082】
(B)低温保存後のマーガリンの物性評価
成形後、低温(5℃)で保管後のシート状のマーガリンの物性について、以下の評価(B1及びB2)を行った。
(B1)物性の測定
(B1-1)硬度の測定
5℃の恒温槽で4日保管後のシート状マーガリンを二重に折りたたみ、直径6cm、高さ3cmの丸セルクル型を用いて打ち抜いた。その後、打ち抜いたシート状マーガリンを15℃の水浴に2時間保存した後に、ミクロペネメーター(RIGOSHA製のPENETRO METER、円スイ(102.5g))を使用し、針入度(単位は1/10mm)の1単位を、マーガリンの硬度とした。
【0083】
(B1-2)レオメーターを用いた破断荷重の測定
5℃の恒温槽で4日保管後のシート状マーガリンを15℃の恒温槽で1日保管後、レオメーター(島津製作所(株)製、型名:EZ-SX)を用い、スピード:1mm/秒で破断荷重(N)の測定を行った。
【0084】
(B2)官能評価
【0085】
(B2-1)マーガリンの伸展性
成形時におけるマーガリンの伸びについて、以下の評価基準に従い、油脂組成物を専門とする評価者による評価を行った。
<評価基準>
5℃で4日間保管したマーガリンを、短冊状(縦2cm×横5cm×高さ1cm)に成形した後、15℃雰囲気下に1日静置し、品温を15℃とした。この短冊状のマーガリンを親指の腹で押したときの抵抗感から伸びを評価した。
◎・・・最初の変形に力を有するのみで、その後はなめらかに変形し、マーガリンの伸びは均一である。
〇・・・変形に力を有するが、マーガリンの伸びは均一である。
△・・・変形に力を有し、マーガリンの伸びは均一でない。
×・・・変形のため力をかけると、マーガリンの切れが生じる。
【0086】
(B2-2)マーガリンのダレにくさ
成形時におけるマーガリンのダレにくさについて、以下の評価基準に従い、油脂組成物を専門とする評価者による評価を行った。
<評価基準>
5℃で4日間保管したマーガリンを、短冊状(縦2cm×横5cm×高さ1cm)に成形した後、15℃雰囲気下に1日静置し、品温を15℃とした。この短冊状のマーガリンを手で数回捏ねた場合におけるマーガリンの変化を観察し、下記の基準に従って評価した。
◎・・・成形時に軟化するが軟化度は小さく、数回捏ねた後は手に感じる抵抗が均一となり、手で容易にシート成形できる。
〇・・・軟化度は大きいが、数回捏ねた後でも手でシート成形が可能である。
△・・・軟化度が大きく、数回捏ねた後には手でのシート成形が困難である。
×・・・数回捏ねただけでマヨネーズ状となり、シート成形ができない。
【0087】
(B2-3)マーガリンの口どけ
5℃の恒温槽で4日保管し、品温を5℃としたマーガリンを、以下の基準に従い、油脂組成物を専門とする評価者による評価を行った。
<評価基準>
◎・・・口内で溶けて、口残りがない。
〇・・・口内でやや溶け、わずかに口残りがある。
△・・・口内でほとんど解けずに存在する。
×・・・口内で全く解けずに存在する。
【0088】
【0089】
(結果及び考察)
表3は、実施例1~4のマーガリンと、比較例1~4のマーガリンに関する物性の測定値、及び官能評価結果を示す。
この結果より、実施例1~4のマーガリンは、マーガリンの成形性、伸展性、ダレにくさ、口どけのすべてが良好となることが明らかとなった。特に、実施例1は、充填直後及び5℃保存後品温15℃の何れにおいても、マーガリンの成形性、伸展性、ダレにくさ、及び口どけに関する官能評価の値がすべて良好であり、物性の測定値も好ましい範囲となっていた。
【0090】
比較例1は、軟質エステル交換油A、硬質エステル交換油B及びはハイエルシン菜種極度硬化油の配合量が、実施例と異なる。このように実施例と脂肪酸組成の異なる比較例1は、伸展性及び口どけに優れていた。しかし、比較例1は、充填直後及び5℃保存後品温15℃における硬度の測定値が何れも大きくなっており、官能評価の結果からも成形性やダレにくさに劣ることが明らかとなった。
【0091】
ハイエルシン菜種極度硬化油を配合していない比較例2は、伸展性、ダレにくさ、及び口どけに優れていた。一方、比較例2は充填直後の硬度の測定値が大きく、官能評価の結果からも成形時に好ましい硬さとなっていないものであった。これにより、比較例2は、実施例よりも成形性等のシート作製時の作業性に劣ることが明らかとなった。
【0092】
ハイエルシン菜種極度硬化油を過剰に配合した比較例3は、口どけに著しく劣っていた。また、比較例3は、ダレにくさや成形性に関する官能評価結果は良好であったが、伸展性に関する官能評価結果は低く、かつ破断荷重が実施例1~4よりも大きくなっていた。すなわち、比較例3は、伸展性といったパイの成形時における作業性について、実施例に劣る結果となった。
【0093】
硬質エステル交換油Bを過剰に配合した比較例4は、口どけに著しく劣っていた。また、シート状マーガリンの作製時に割れが発生するなど、成形性等のシート作製時の作業性に著しく劣っていた。
【0094】
以上の結果から、40℃におけるSFCが2%以下であって、下記特徴(a)~(c)を有する、マーガリン(パイ用可塑性油脂組成物)であれば、成形性及び伸展性に優れ、室温でダレにくく、さらに口どけが良好となることが明らかとなった。
すなわち、本発明のパイ用可塑性油脂組成物は、シートマーガリン作製等の低温保管前の作業性に優れるだけでなく、伸展性及びダレにくさに優れることで、パイ等の製品の加工における作業性にも優れ、さらには良好な口どけを有するものである。
【0095】
(a)炭素数16~20の飽和脂肪酸含量:44質量%以上、
(b)炭素数22の飽和脂肪酸含量:0.5質量%以上、
(c)不飽和脂肪酸含量:37質量%以上