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▶ アクロン・バイオテクノロジー・リミテッド・ライアビリティ・カンパニーの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022017508
(43)【公開日】2022-01-25
(54)【発明の名称】凍結保存組成物およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/02 20060101AFI20220118BHJP
【FI】
C12N5/02
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021181056
(22)【出願日】2021-11-05
(62)【分割の表示】P 2018545112の分割
【原出願日】2016-11-15
(31)【優先権主張番号】62/255,813
(32)【優先日】2015-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518170033
【氏名又は名称】アクロン・バイオテクノロジー・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Akron Biotechnology, LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】クラウディア・ジルバーバーグ
(72)【発明者】
【氏名】サンドロ・マトセヴィッチ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA87X
4B065AA90X
4B065BD09
4B065BD12
4B065BD33
4B065BD38
4B065BD39
4B065BD50
(57)【要約】      (修正有)
【課題】凍結保存に関連する凍結および解凍サイクル中の細胞および組織を保護する組成物及び凍結保存方法を提供する。
【解決手段】カルボキシル化ポリアミノ酸、有機両性剤、および場合により多糖を含む、凍結保存組成物である。一実施態様において、カルボキシル化ポリアミノ酸は、カルボキシル化ポリリシンである。一実施態様において、有機両性剤は、エクトインおよび/またはヒドロキシエクトインより選択される。一実施態様において、多糖は、デキストランである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル化ポリアミノ酸、有機両性剤、および場合により多糖を含む、凍結保存組成物。
【請求項2】
カルボキシル化ポリアミノ酸がカルボキシル化ポリリシンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
カルボキシル化ポリリシン上の50%超のアミノ基がブロックされる、請求項1または2のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項4】
カルボキシル化ポリリシン上の約50%~約65%のアミノ基がブロックされる、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
カルボキシル化ポリアミノ酸が凍結保存組成物の0.1%v/v~約20%v/vの範囲の量で存在する、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
カルボキシル化ポリアミノ酸が凍結保存組成物の1.0%v/v~約10%v/vの範囲の量で存在する、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
有機両性剤がエクトイン、ヒドロキシエクトイン、およびそれらの組合せより選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
有機両性剤が凍結保存組成物の約0.1%w/v~約20%w/vの範囲の量で存在する、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
有機両性剤が凍結保存組成物の約1.0%w/v~約10%w/vの範囲の量で存在する、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
多糖がデキストランである、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
多糖が凍結保存組成物の約0.1%w/v~約20%w/vの範囲の量で存在する、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
多糖が凍結保存組成物の約1.0%w/v~約10%w/vの範囲の量で存在する、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
多糖および有機両性剤が凍結保存組成物の約3.0%w/v~約8%w/vの範囲の同じ量で存在する、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
凍結保存組成物が約7.5%v/v以下のカルボキシル化ポリアミノ酸、約5%w/v以下の有機両性剤、および約5%w/v以下の多糖を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
カルボキシル化ポリアミノ酸が約7.5%v/v以下のカルボキシル化ポリリシンを含み、有機両性剤が約5%w/v以下のエクトインおよび/またはヒドロキシエクトインを含み、多糖が約5%w/v以下のデキストランを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
カルボキシル化ポリアミノ酸が約1.1:1~約3:1の範囲の有機両性剤に対する比で存在する、請求項1~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
カルボキシル化ポリアミノ酸が約1.3:1~約1.7:1の有機両性剤に対する比で存在する、請求項1~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
有機両性剤がエクトインであり、多糖がデキストランである、請求項2に記載の組成物。
【請求項19】
DMEM、EMEM、X-VIVO、生理食塩水、水、およびそれらの組合せからなる群より選択される溶媒をさらに含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
生体試料を得ること;および生体試料を凍結保存組成物と接触させることを含む、生体試料を凍結保存する方法であって、該凍結保存組成物が約1%v/v~約10%v/vのカルボキシル化ポリアミノ酸、約1%w/v~約10%w/vの有機両性剤、および約0%w/v~約10%w/vの多糖を含む、方法。
【請求項21】
凍結保存組成物が、約1%v/v~約10%v/vのカルボキシル化ポリリシン、ここで該カルボキシル化ポリリシンは50%超のアミノ基がブロックされており、約1%w/v~約10%w/vのエクトインおよび約1%w/v~約10%w/vのデキストランを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
カルボキシル化ポリリシンが約1.1:1:1~約3:1:1の範囲の有機両性剤と多糖に対する比で存在する、請求項20~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
カルボキシル化ポリリシンが約1.5:1:1の有機両性剤と多糖に対する比で存在する、請求項20~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
凍結保存組成物を生体試料に加えること、および生体試料を低速凍結保存することを含む、生きた状態で生体試料を貯蔵する方法であって、該凍結保存組成物が、約1%v/v~約10%v/vのカルボキシル化ポリリシン、ここで該カルボキシル化ポリリシンは50%超のアミノ基がカルボキシル基でブロックブロックされており、約1%w/v~約10%w/vのエクトイン、および約0%w/v~約10%w/vのデキストランを含む、方法。
【請求項25】
カルボキシル化ポリリシンが約1.5:1:1のエクトインとデキストランに対する比で存在する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
生体試料を解凍することをさらに含み、該生体試料が50%超の解凍後生存率を示す、請求項24~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
約20%v/v~約55%v/vのカルボキシル化ポリリシン、約20%~約55%のエクトインまたはヒドロキシエクトイン、および場合により約20%~約55%の多糖を含む、高速凍結保存のための凍結保存組成物。
【請求項28】
カルボキシル化ポリリシン上の50%超のアミノ基がブロックされる、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
カルボキシル化ポリリシン上の約60%のアミノ基がブロックされる、請求項27~28のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項30】
カルボキシル化ポリリシンが凍結保存組成物の約22.5%v/v~約52.5%v/vの範囲の量で存在する、請求項27~29のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項31】
エクトインまたはヒドロキシエクトインが凍結保存組成物の約25%w/v~約35%w/vの範囲の量で存在する、請求項27~30のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項32】
多糖がデキストランである、請求項27~31のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項33】
デキストランが凍結保存組成物の約25%w/v~約35%w/vの範囲の量で存在する、請求項27~32のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項34】
多糖および有機両性剤が凍結保存組成物の約25.0%w/v~約35%w/vの範囲の同じ量で存在する、請求項27~33のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項35】
カルボキシル化ポリリシンが約1.1:1~約3:1の範囲のエクトインおよび/またはヒドロキシエクトインに対する比で存在する、請求項27~34のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項36】
カルボキシル化ポリリシンが約1.3:1~約1.7:1のエクトインおよび/またはヒドロキシエクトインに対する比で存在する、請求項27~35のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項37】
生体試料を得ること;および生体試料を凍結保存組成物と接触させることを含む、生体試料を凍結保存する方法であって、該凍結保存組成物が約20%v/v~約55%v/vのカルボキシル化ポリリシン、約20%w/v~約55%w/vの有機両性剤、および場合により約20%w/v~約55%w/vの多糖を含む、方法。
【請求項38】
凍結保存組成物が、約20%v/v~約55%v/vのカルボキシル化ポリリシン、ここで該カルボキシル化ポリリシンは50%超のアミノ基がブロックされており、約25%w/v~約35%w/vのエクトインおよび約25%w/v~約35%w/vのデキストランを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
カルボキシル化ポリリシンが約1.1:1:1~約3:1:1の範囲のエクトインとデキストランに対する比で存在する、請求項37~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
カルボキシル化ポリリシンが約1.5:1:1のエクトインとデキストランに対する比で存在する、請求項37~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
凍結保存組成物を生体試料に加えること、生体試料をガラス化または超急速凍結させることを含む、生きた状態で生体試料を貯蔵する方法であって、該凍結保存組成物が、約20%v/v~約55%v/vのカルボキシル化ポリリシン、ここで該カルボキシル化ポリリシンは50%超のアミノ基がブロックされており、約20%w/v~約55%w/vのエクトインおよび約20%w/v~約55%w/vのデキストランを含む、方法。
【請求項42】
カルボキシル化ポリリシンが約1.5:1:1からのエクトインとデキストランに対する比で存在する、請求項41に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体試料の凍結保存に適する組成物、特に、カルボキシル化ポリアミノ酸、および有機両性剤または多糖の少なくとも1つを含む凍結保存組成物(cryopreservative composition)に関する。凍結保存組成物の使用方法もまた本明細書に記載する。
【背景技術】
【0002】
凍結保存は、生体試料、例えば細胞または全組織を低い、サブゼロ温度に冷却することにより保存する方法である。このような低温において、通常細胞死を引き起こす生化学反応を含む何らかの生物活性が、効果的に止められる。凍結保存は、多様な研究および臨床適用を有する。例として、細胞培養試料およびハイブリドーマの場合のように生物活性を回復させるための潜在力を保存するような方法で細胞または組織試料を一定期間貯蔵することが研究で頻繁に必要とされている。また、自家骨髄移植、臍帯血貯蔵、およびヒト配偶子の貯蔵の場合のように潜在的生物活性を保存する間に細胞を保存および貯蔵することが臨床で頻繁に必要とされている。
【0003】
しかしながら、従来の凍結保存技術は、氷晶の形成および非凍結濃縮溶液のイオン強度の増加により妨げられ得て、これらの両方は、生体試料に損傷を引き起こし得る。凍結保存に関する細胞試料の生物活性を維持するための一技術は、冷却工程およびその後の加熱工程の両方を生き延びる細胞数を増加させる働きをする凍結保存剤としてのジメチルスルホキシド(DMSO)の使用である。DMSOは、一般的に、5%v/v~15%v/v(容積当たりの容積)(0.74~2.5 molal)の最終濃度で用いられる。DMSOは、少なくとも部分的には、氷晶形成工程を妨害し、これにより細胞膜の物理的破壊を減少させることによって作用すると考えられている。しかしながら、DMSOは、毒性があり、様々な副作用も引き起こし得る。例えば、DMSO中に保存された自己細胞移植を受ける患者は、頭痛、悪心および皮膚発疹を含む副作用を経験し得る(Davis, J M et. al., Blood, 75(3), 1990, pp 781-786)。また、DMSOとの長期間の接触によりいくつかの細胞株に悪影響を及ぼし得る。
【0004】
凍結保存に関する細胞試料の生物活性を維持するための別の一技術は、凍結保存剤としてのグリセロールの使用である。グリセロールは、一般的に、5~20%v/vの最終濃度で用いられる。グリセロールは一般的にDMSOより低毒性であるが、グリセロールは、特に解凍後に、細胞生存率に影響を及ぼし得る浸透圧の問題を引き起こし得る。
【0005】
凍結保存に関する細胞試料の生物活性を維持するためのまた別の一技術は、ポリエチレングリコール(PEG)の使用である。しかしながら、DMSOと組み合わせるときPEGが最も効果的であり、それ故にDMSOに付随する望ましくない特性を排除しないことを大部分の研究が示す。さらに、PEGは超音波分解(sonolytic degradation)を受け、その副生成物は哺乳類細胞に毒性がある。
【0006】
したがって、凍結保存に関連する凍結および解凍サイクル中の細胞および組織の保護が当該技術分野において必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、カルボキシル化ポリアミノ酸、および有機両性剤または多糖の少なくとも1つを含む凍結保存組成物を提供する。一実施態様において、カルボキシル化ポリアミノ酸は、カルボキシル化ポリリシンである。一実施態様において、有機両性剤は、エクトインおよび/またはヒドロキシエクトインより選択される。一実施態様において、多糖は、デキストランである。
【0008】
一実施態様において、本開示による凍結保存組成物は、低速(slow-rate)凍結保存に有用であり、約0.1%v/v~約20%v/v(容積当たりの容積)のカルボキシル化ポリアミノ酸および約0.1%w/v~約20%w/v(容積当たりの重量)の有機両性剤を含む。一実施態様において、低速凍結保存のための凍結保存組成物は、約0.1%v/v~約20%v/vのカルボキシル化ポリアミノおよび約0.1%w/v~約20%w/vの多糖を含む。一実施態様において、低速凍結保存のための凍結保存組成物は、約0.1%v/v~約20%v/vのカルボキシル化ポリアミノ酸、約0.1%w/v~約20%w/vの有機両性剤、および約0.1%w/v~約20%w/vの多糖を含む。一実施態様において、本明細書に記載の低速凍結保存のための凍結保存組成物は、約1%v/v~約10%v/vのカルボキシル化ポリアミノ酸および約1%w/v~約10%w/vの有機両性剤を含む。一実施態様において、低速凍結保存のための凍結保存組成物は、約0.1%v/v~約10%v/vのカルボキシル化ポリアミノおよび約1%w/v~約10%w/vの多糖を含む。一実施態様において、低速凍結保存のための凍結保存組成物は、約0.1%v/v~約10%v/vのカルボキシル化ポリアミノ酸、約0.1%w/v~約10%w/vの有機両性剤、および約0.1%w/v~約10%w/vの多糖を含む。一実施態様において、低速凍結保存のための凍結保存組成物は、約1.1:1~約3:1の有機両性剤に対する比でカルボキシル化ポリアミノ酸を含み、一実施態様において、約1.3:1~約1.7:1であり、一実施態様において、約1.5:1である。一実施態様において、低速凍結保存のための凍結保存組成物は、約1.1:1:1~約3:1:1の有機両性剤と多糖に対する比でカルボキシル化ポリアミノ酸を含み、一実施態様において、約1.3:1:1~約1.7:1:1であり、一実施態様において、約1.5:1:1である。
【0009】
一実施態様において、低速凍結保存のための凍結保存組成物は、約7.5%v/v以下のカルボキシル化ポリアミノ酸、約5%w/v以下の有機両性剤、および約5%w/v以下の多糖を含む。一実施態様において、低速凍結保存のための凍結保存組成物は、約7.5%v/v以下のカルボキシル化ポリリシン、約5%w/v以下のエクトインおよび/またはヒドロキシエクトイン、および約5%w/v以下のデキストランを含む。
【0010】
凍結保存組成物を生体試料に加えること、および生体試料において低速凍結保存を実施することを含む、生きた状態で生体試料を貯蔵する方法であって、該凍結保存組成物がカルボキシル化ポリリシン、および有機両性剤または多糖の少なくとも1つを含む、方法もまた記載されている。一実施態様において、凍結保存組成物は、約1%v/v~約10%v/vのカルボキシル化ポリリシン(50%超のアミノ基がブロックされている)、約1%w/v~約10%w/vのエクトイン、および約0%w/v~約10%w/vのデキストランを含む。
【0011】
一実施態様において、本開示による凍結保存組成物は、高速(fast-rate)凍結保存に有用であり、約25%v/v~約55%v/vのカルボキシル化ポリアミノ酸、約25%w/v~約55%w/vの有機両性剤、および場合により約25%w/v~約55%w/vの多糖を含む。一実施態様において、カルボキシル化ポリアミノ酸は、カルボキシル化ポリリシンである。一実施態様において、有機両性剤は、エクトインおよび/またはヒドロキシエクトインより選択される。一実施態様において、高速凍結保存のための凍結保存組成物は、多糖を含まない。一実施態様において、高速凍結保存のための凍結保存組成物は、多糖を含む。一実施態様において、多糖は、デキストランである。
【0012】
一実施態様において、高速凍結保存のための凍結保存組成物は、約30%v/v~約52.5%v/vのカルボキシル化ポリアミノ酸、約25%w/v~約35%w/vの有機両性剤、および場合により約25%w/v~約35%w/vの多糖を含む。一実施態様において、高速凍結保存のための凍結保存組成物は、約1.1:1~約3:1の有機両性剤に対する比でカルボキシル化ポリアミノ酸を含み、一実施態様において、約1.3:1~約1.7:1であり、一実施態様において、約1.5:1である。一実施態様において、高速凍結保存のための凍結保存組成物は、約1.1:1:1~約3:1:1の有機両性剤と多糖に対する比でカルボキシル化ポリアミノ酸を含み、一実施態様において、約1.3:1:1~約1.7:1:1であり、一実施態様において、約1.5:1:1である。
【0013】
凍結保存組成物を生体試料に加えること、および生体試料において高速凍結保存を実施することを含む、生きた状態で生体試料を貯蔵する方法であって、該凍結保存組成物がカルボキシル化ポリリシン、および有機両性剤または多糖の少なくとも1つを含む、方法もまた記載されている。一実施態様において、凍結保存組成物は、約25%v/v~約55%v/vのカルボキシル化ポリリシン(50%超のアミノ基がブロックされている)、約25%w/v~約35%w/vのエクトイン、および場合により約25%w/v~約35%w/vのデキストランを含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本明細書に記載の少なくとも1つの実施態様の凍結保存組成物におけるTIG-3-20線維芽細胞の細胞回収を示す棒グラフである。
図2図2は、本明細書に記載の少なくとも1つの実施態様の凍結保存組成物におけるTIG-3-20線維芽細胞の細胞生存率を示す棒グラフである。
図3図3は、本明細書に記載の少なくとも1つの実施態様の凍結保存組成物における樹状細胞のCalceinAMによる細胞生存率を示す棒グラフである。
図4図4は、本明細書に記載の少なくとも1つの実施態様の凍結保存組成物におけるナチュラルキラー92(NK-92)細胞の細胞回収を示す棒グラフである。
図5図5aおよび5bは、本明細書に記載の少なくとも1つの実施態様の凍結保存組成物におけるNK-92細胞の細胞生存率を示す棒グラフである。
図6図6aおよび6bは、本明細書に記載の凍結保存組成物における解凍後のNK-92細胞の増殖および形態を示す拡大下での画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
他に定義しない限り、本明細書で用いられるすべての用語(技術的および科学的用語を含む)は、本開示が関係する技術分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。また、一般に用いられる辞書で定義されるもののような用語は、明示的にそのように本明細書で定義されない限り、関連技術の文中での意味と一致する意味を有すると解釈され、理想化されたまたは過度に形式的な意味で解釈されないと理解されるだろう。
【0016】
本明細書で用いられる用語は、特定の実施態様のみを説明する目的のためであり、本開示を限定することを意図しない。値の範囲が提供される場合、その範囲の上限と下限の間の、文脈上他の解釈が明確に指示されない限り下限の単位の10分の1までの、各介在値および他の記載するもしくはその記載範囲における介在値が本開示内に包含されると理解される。これらのより小さい範囲の下限および上限は、独立してより小さい範囲に含まれ得て、また、規定範囲における任意の特定除外限界を限界として本開示内に包含される。規定範囲が限界の一方または両方を含む場合、これら限界のいずれかまたは両方を除外する範囲もまた、本開示に含まれる。
【0017】
本明細書で用いる単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上他に明確に断らない限り、複数形も含むことを意図する。さらに、用語「含むこと(including)」、「含む(includes)」、「有すること(having)」、「有する(has)」、「~と(with)」、またはそれらの変形が詳細な説明および/または特許請求の範囲のいずれかで用いられる限り、該用語は、用語「含むこと(comprising)」と同様の方式で包含されることを意図する。
【0018】
本明細書および特許請求の範囲で用いられる用語「または」は、文脈上他に明確に断らない限り、「および/または」を含む意味で一般に使用される。
【0019】
用語「約」または「およそ」は、当業者により決定される特定の値についての許容される誤差範囲内を意味し、これは、値がどのように測定または決定されるか、すなわち測定系の限界に幾分依存する。例えば、「約」は、当該技術分野における慣習に従って、1標準偏差以内または1以上の標準偏差以内を意味し得る。あるいは、「約」は、所与の値または範囲の20%まで、10%まで、5%まで、または1%までの範囲を意味し得る。あるいは、特に生物学的システムまたはプロセスに関して、当該用語は、ある値の1桁以内、好ましくは5倍以内、さらに好ましくは2倍以内を意味し得る。特定の値が本願および請求項に記載される場合、他に断らない限り、特定の値について許容される誤差範囲内を意味する用語「約」が想定されるべきである。
【0020】
本明細書で用いる「生体試料」は、組織、細胞、臓器、生体液、ポリペプチド、核酸、または他の生物学的物質を含む試料を指す。いくつかの実施態様において、生体試料は、防腐剤をさらに含む。いくつかの実施態様において、試料は、対象体から得られ得る。いくつかの実施態様において、試料は、対象体から得られる診断試料であり得る。比限定的な例として、試料は、配偶子、精子、卵子、胚、接合子、軟骨細胞、赤血球、血液、血液の一部もしくはフラクション、肝細胞、繊維芽細胞、幹細胞、臍帯血細胞、成体幹細胞、人工多能性幹細胞、自己細胞、自己幹細胞、骨髄細胞、造血細胞、造血幹細胞、体細胞、生殖細胞系列細胞、分化細胞、体性幹細胞、胚性幹細胞、血清、血漿、痰、脳脊髄液、尿、涙、肺胞単離物、胸水、心膜液、嚢胞液、腫瘍組織、生検、唾液、吸引物、またはそれらの組合せであり得る。いくつかの実施態様において、試料は、切除、生検または採卵により得られ得る。
【0021】
本明細書で用いる語句「凍結保存剤」は、凍結および解凍中に細胞および組織の傷害を減少させることにより凍結保存の方法を容易にする化学物質または化学物質溶液を指す。凍結保存剤は、サブゼロ温度での貯蔵および/または凍結に関連する損傷、例えば、氷晶形成による細胞膜損傷から細胞および組織を保護する。
【0022】
「凍結保存細胞」または「凍結保存組織」は、サブゼロ温度に冷却することにより保存される細胞または組織である。凍結保存細胞は、真核および原核細胞を含む。凍結保存細胞および組織は、例えば、動物、昆虫類、鳥類、魚類、爬虫類および植物の細胞または組織を含む。
【0023】
したがって、本開示の組成物は、凍結保護、凍結保存、または両方である。
【0024】
本明細書で用いる用語「細胞」、「細胞株」および「細胞培養」は、相互交換可能に用いられ得る。すべてのこれらの用語はまた、あらゆる後継世代である、後代を含む。故意または偶然の変異のためにすべての後代が同一でない可能性があると解される。「細胞」は、原核または真核細胞であり得て、すべての種、例えば哺乳類、魚類、鳥類、爬虫類、昆虫類、真菌類、細菌類などが包含し得る。異種核酸配列の発現との関連で、「宿主細胞」は、原核または真核細胞を指し、それは、ベクターを複製するかまたはベクターによりコードされた異種遺伝子を発現することが可能である任意の形質転換可能な生物体を含む。宿主細胞は、ベクターまたはウイルスためのレシピエントとして用いられることができ、用いられてきた。宿主細胞は、「トランスフェクト」または「形質転換」されてもよく、これは外因性核酸、例えば組み換えタンパク質をコードする配列により宿主細胞内に移行または導入される工程を指す。形質転換細胞は、初代対象細胞およびその後代を含む。
【0025】
「カルボキシル化ポリアミノ酸」は、アミノ基およびカルボキシル基の両方を有する繰返し単位を有するポリアミノ酸であって、該ポリアミノ酸のアミノ基の少なくとも一部が、カルボン酸無水物でカルボキシル化(またはアセチル化)されることにより部分的にブロックされる、任意のポリアミノ酸、例えばポリリシン、ポリアルギニン、ポリグルタミンなどを含む。このブロックは、50%を超える程度まで、および約50~99%の範囲、一実施態様において約52~90%、他の実施態様において約55~75%、さらに他の実施態様において約57~67%、さらに他の実施態様において約60%のアミノ基のカルボキシル化によってなされる。ポリアミノ酸中のアミノ基のモル量に基づいて52~53 mol%の無水カルボン酸との反応により、約50%のアミノ基がブロックされる。通常の反応条件において、100 mol%の無水カルボン酸と反応させるとき、90~95%のアミノ基がブロックされる。
【0026】
ポリアミノ酸をカルボキシル化するのに有用である適切なカルボン酸無水物としては、酢酸無水物、クエン酸無水物、コハク酸無水物、グルタル酸無水物、リンゴ酸無水物、フマル酸無水物およびマレイン酸無水物が挙げられるが、これらに限定されない。これらのうち、コハク酸無水物および酢酸無水物が、特に有用である。
【0027】
一実施態様において、カルボキシル化ポリアミノ酸は、ポリリシンに由来し得る。ポリリシンは、ε-ポリ-L-リシンまたはε-ポリ-D-リシンまたはα-ポリ-L-リシンを含むことが意図される。ポリリシンは、約1,000~20,000ダルトン、特に約1,000~10,000ダルトンの平均分子量を含み得る。
【0028】
「両性(amphoteric)」剤は、関与する反応に応じて酸または塩基のいずれかとして作用することができるものである。「有機両性剤」は、酸性(例えば、カルボキシル)と塩基性(例えば、アミノ)の官能基の両方を含有する有機分子である。したがって例えば、有機両性剤は、炭化水素骨格の同一または異なる炭素原子に結合するアミノ基(NH2)およびカルボキシル基(COOH)を含む。更なる官能基としては、例えば、アミノ基(NH2)、カルボキシル基(COOH)、カルボニル基(CO)、ヒドロキシ(OH)またはメルカプト基(SH)またはフェニルなどのアリールが挙げれれる。一実施態様において、有機両性剤は、エクトイン、ヒドロキシエクトイン、エクトイン誘導体、ヒドロキシエクトイン誘導体、アナログ、バリアントまたはそれらの組合せであり得る。いくつかの実施態様において、有機両性剤は、エクトインおよび/またはヒドロキシエクトインである。
【0029】
本明細書で用いる用語「多糖」は、グリコシド結合により一緒に結合した単糖または二糖単位の鎖を指す。それらは、線状構造から高度に分岐した構造まで及ぶ。いくつかの非限定的例としては、デンプン、グリコーゲン、セルロース、キチン、キトサン、キシラン、アラビノキシラン、マンナン、フコイダン、ガラクトマンナン、カロース、ラミナリン、クリソラミナリン、アミロペクチン、デキストラン、デキストリン、マルトデキストリン、ヒアルロン酸、イヌリン、オリゴフルクトース、ポリデキストロース、ポリスクロース、プラナン(pullanan)などが挙げられる。一実施態様において、凍結保存組成物は、デキストラン、ポリスクロースおよびヒアルロン酸より選択される少なくとも1つの多糖を含み得る。特定の実施態様において、凍結保存組成物は、デキストランを含み得る。
【0030】
デキストランは、α-結合D-グルコピラノシル繰返し単位の線状骨格を有する分子量≧1000ダルトンの多糖である。デキストランの3つのクラスは、それらの構造的特徴により区別され得る:
【0031】
クラス1のデキストランは、α(1→2)、α(1→3)およびα(1→4)-結合を有するD-グルコース分岐鎖の小側鎖で修飾されたα(1→6)-結合D-グルコピラノシル骨格を含む。クラス1のデキストランは、微生物産生株および培養条件に応じて、分子量、空間配置、分岐のタイプおよび程度、ならびに分岐鎖の長さが変化する。イソマルトースおよびイソマルトトリオースは、クラス1のデキストラン骨格構造を有するオリゴ糖である。
【0032】
クラス2のデキストラン(アルタナン)は、α(1→3)-結合分岐を有するα(1→3)およびα(1→6)-結合D-グルコピラノシル単位を交互に有する骨格構造を含む。
【0033】
クラス3のデキストラン(ムタン)は、α(1→6)-結合分岐を有するα(1→3)-結合D-グルコピラノシル単位が連続した骨格構造を有する。1または2次元NMR分光技術が、デキストランの構造分析に使用されている。
【0034】
一実施態様において、カルボキシル化ポリアミノ酸、および有機両性剤または多糖の少なくとも1つは、凍結保存のために、生理溶液、例えば生理食塩水およびデキストロース、ならびに培地、例えばダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM)中で組み合され得る。
【0035】
凍結保存または凍結保護は、生物活性が効果的に停止するサブゼロ温度における、細胞、組織および臓器を含む生体試料の貯蔵を含む。これは、試料の最小限の分解で生体試料の貯蔵および/または生体試料の長期貯蔵を可能にする。凍結保存は、様々な異なる方法で実施され得る。例えば、凍結保存は、本明細書で「低速凍結保存」と称される、より低速で実施され得て、該低速凍結保存においては、サブゼロ温度への生体試料の温度の低下が、典型的には、数分間、数時間、数日間などにわたって実施される。別の例として、凍結保存は、例えば、ガラス化および/または超急速凍結を含む本明細書で「高速凍結保存」と称される、より高速で実施され得て、該高速凍結保存においては、サブゼロ温度への生体試料の温度の低下が、典型的には、低速凍結保存に関する温度より顕著に低い温度にて数秒またはミリ秒のような数分の1秒で実施される。一実施態様において、低速凍結保存法は0℃~-100℃の範囲の温度で生じ得て、一方、高速凍結保存法は-100℃より低い温度で生じ得る。
【0036】
本明細書に記載の凍結保存組成物は、例えば低速凍結保存または高速凍結保存(ガラス化および/または超急速凍結を含む)を含む、任意のタイプの凍結保存方法における使用のために採用され得る。
【0037】
一実施態様において、本開示による凍結保存組成物は、低速凍結保存における使用に適し得る。このような実施態様において、凍結保存組成物は、約0.1%v/v~約20%v/vのカルボキシル化ポリアミノ酸、約0.1%w/v~約20%w/vの有機両性剤、および場合により、約0.1%w/v~約20%w/vの多糖を含み得る。いくつかの実施態様において、有機両性剤および多糖は、等しいまたは同じ量で組成物中存在し、特定の実施態様において、約3%w/v~約8%w/vである。いくつかの実施態様において、カルボキシル化ポリアミノ酸は、約1.1:1~約3:1の範囲、特に約1.5:1の有機両性剤に対する比で組成物中存在する。いくつかの実施態様において、カルボキシル化ポリアミノ酸は、約1.1:1:1~約3:1:1の範囲、特に約1.5:1:1の有機両性剤と多糖に対する比で組成物中存在する。
【0038】
更なる低速凍結保存の実施態様において、凍結保存組成物は、約0.1%v/v~約20%v/vのカルボキシル化ポリリシン、約0.1%w/v~約20%w/vのエクトインおよび/またはヒドロキシエクトインいずれか、および場合により、約0.1%w/v~約20%w/vのデキストランを含み得る。
【0039】
更なる低速凍結保存の実施態様において、凍結保存組成物は、約7.5%v/v以下のカルボキシル化ポリアミノ酸を約5%w/v以下の有機両性剤および/または約5%w/v以下の多糖と組み合せて含み得る。
【0040】
更なる低速凍結保存の実施態様において、凍結保存組成物は、約7.5%v/v以下のカルボキシル化ポリリシン、約5%w/v以下のエクトインおよび/またはヒドロキシエクトイン、および約5%w/v以下のデキストランを含み得る。
【0041】
更なる低速凍結保存の実施態様において、凍結保存組成物は、約1%v/v~約10%v/vのカルボキシル化ポリリシン、約1%w/v~約10%w/vのエクトインおよび/またはヒドロキシエクトインいずれか、および場合により、約1%w/v~約10%w/vのデキストランを含み得る。このような実施態様において、エクトインおよび/またはヒドロキシエクトインおよびデキストランは、等しいまたは同じ量で組成物中存在し、特定の実施態様において、約3%w/v~約8%w/vである。いくつかの実施態様において、カルボキシル化ポリリシンは、エクトインおよび/またはヒドロキシエクトインとデキストランに対する約1.1:1:1~約3:1:1の範囲、特に約1.5:1:1の比で組成物中存在する。
【0042】
低速凍結保存の実施態様において、凍結保存組成物は、溶媒をさらに含み得る。凍結保存に適する任意の溶媒が、本開示による組成物に組み込まれ得る。いくつかの非限定的例としては、ダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM)、イーグル最小必須培地(EMEM)、X-VIVO、水、生理食塩水、デキストロース、およびそれらの組合せが挙げられる。一実施態様において、組成物は、DMEMを含む。他の実施態様において、組成物は、EMEMを含む。
【0043】
更なる低速凍結保存の実施態様において、凍結保存組成物は、更なる凍結保護剤を5%w/v未満の量で含み得る。更なる凍結保護剤のいくつかの非限定的例としては、トレハロース、グリセロール、ポリエチレングリコール、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。他の低速凍結保存の実施態様において、凍結保存組成物は、トレハロース、グリセロール、ポリエチレングリコール、ジメチルスルホキシドのいずれか1つ、またはこれらの任意の組合せを含むがこれらに限定されない、更なる凍結保護剤を含まなくてもよい。
【0044】
一実施態様において、生体試料を凍結保存する方法は、生体試料を得るかまたは採取すること、および低速凍結保存に適した凍結保存組成物と生体試料を接触させることを含む。一実施態様において、凍結保存組成物は、約0.1%v/v~約20%v/vのカルボキシル化ポリアミノ酸、約0.1%w/v~約20%w/vの有機両性剤、および場合により、約0.1%w/v~約20%w/vの多糖を含む。一実施態様において、カルボキシル化ポリアミノ酸は、50%超のアミノ基がカルボキシル基でブロックされている。一実施態様において、組成物は、カルボキシル化ポリリシン、エクトインおよび/またはヒドロキシエクトイン、およびデキストランを含む。
【0045】
他の実施態様において、本開示による凍結保存組成物は、高速凍結保存、例えばガラス化および/または超急速凍結における使用に適し得る。このような実施態様において、凍結保存組成物は、約25%v/v~約55%v/vのカルボキシル化ポリアミノ酸、約25%w/v~約55%w/vの有機両性剤、および場合により、約25%w/v~約55%w/vの多糖を含み得る。いくつかの実施態様において、有機両性剤および多糖は、等しいまたは同じ量で組成物中存在し、特定の実施態様において、約25%w/v~約35%w/vである。いくつかの実施態様において、カルボキシル化ポリアミノ酸は、有機両性剤に対する約1.1:1~約3:1の範囲、特に約1.5:1の比で組成物中存在する。いくつかの実施態様において、カルボキシル化ポリアミノ酸は、有機両性剤と多糖に対する約1.1:1:1~約3:1:1の範囲、特に約1.5:1:1の比で組成物中存在する。
【0046】
更なる高速凍結保存の実施態様において、凍結保存組成物は、約25%v/v~約55%v/vのカルボキシル化ポリリシン、約25%w/v~約55%w/vのエクトインおよび/またはヒドロキシエクトインいずれか、および場合により、約25%w/v~約55%w/vのデキストランを含み得る。このような実施態様において、カルボキシル化ポリリシンは、組成物の最大濃度または大多数の化合物を表し得る。
【0047】
更なる高速凍結保存の実施態様において、凍結保存組成物は、約25%v/v~約55%v/vのカルボキシル化ポリリシン、約25%w/v~約55%w/vのエクトインおよび/またはヒドロキシエクトインいずれか、および場合により、約25%w/v~約55%w/vのデキストランを含み得る。このような実施態様において、エクトインおよび/またはヒドロキシエクトインおよびデキストランは、等しいまたは同じ量で組成物中存在し、特定の実施態様において、約25%w/v~約35%w/vである。いくつかの実施態様において、カルボキシル化ポリリシンは、エクトインおよび/またはヒドロキシエクトインとデキストランに対する約1.1:1:1~約3:1:1の範囲、特に約1.5:1:1の比で組成物中存在する。
【0048】
更なる高速凍結保存の実施態様において、凍結保存組成物は、溶媒をさらに含み得る。凍結保存に適する任意の溶媒が、本開示による組成物に組み込まれ得る。いくつかの非限定的例としては、ダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM)、イーグル最小必須培地(EMEM)、X-VIVO、水、生理食塩水、デキストロース、およびそれらの組合せが挙げられる。一実施態様において、組成物は、DMEMを含む。一実施態様において、組成物は、EMEMを含む。
【0049】
更なる高速凍結保存の実施態様において、凍結保存組成物は、更なる凍結保護剤を5%w/v未満の量で含み得る。更なる凍結保護剤のいくつかの非限定的例としては、トレハロース、グリセロール、ポリエチレングリコール、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。一実施態様において、高速凍結保存組成物は、トレハロース、グリセロール、ポリエチレングリコール、ジメチルスルホキシドのいずれか1つ、またはこれらの組合せを含むがこれらに限定されない、更なる凍結保護剤を含まなくてもよい。
【0050】
一実施態様において、生体試料を凍結保存する方法は、生体試料を得るかまたは採取すること、および高速凍結保存に適した凍結保存組成物と生体試料を接触させることを含む。一実施態様において、凍結保存組成物は、約25%v/v~約55%v/vのカルボキシル化ポリアミノ酸、約25%w/v~約55%w/vの有機両性剤、および場合により、約25%w/v~約55%w/vの多糖を含む。一実施態様において、カルボキシル化ポリアミノ酸は、50%超のアミノ基がブロックされ、特に約60%のアミノ基がブロックされている。一実施態様において、組成物は、カルボキシル化ポリリシン、エクトインおよび/またはヒドロキシエクトイン、およびデキストランを含む。
【0051】
他の実施態様において、凍結保存の速度にかかわらず、凍結保存組成物は、1つ以上の医薬的に許容される添加剤をさらに含み得るか、または医薬的に許容される添加剤中で希釈されて、凍結保護組成物中の薬剤の所望の比を得る。本明細書で用いる医薬的に許容される添加剤は、所望の特定の製剤に適する、任意のすべての溶媒、分散媒、希釈剤、または他の液体ビヒクル、分散または懸濁補助剤、界面活性剤、等張化剤、増粘剤または乳化剤、防腐剤、固形結合剤、滑沢剤などを含む。Remington's The Science and Practice of Pharmacy、21st Edition, A. R. Gennaro(Lippincott, Williams & Wilkins, Baltimore, Md., 2006;出典明示により本明細書の一部とする)は、医薬組成物を製剤化するのに用いられる様々な添加剤を開示しており、該添加剤は本凍結保護組成物を製造するのに有用である。任意の従来の添加剤が、何らかの所望でない生物学的効果を生じるかまたは医薬組成物のその他の成分と有害な方法で別な相互作用するなどによって物質またはその誘導体と不適合である場合を例外として、その使用は、本開示の範囲内であると企図される。
【0052】
いくつかの実施態様において、医薬的に許容される添加剤は、少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または100%純粋である。いくつかの実施態様において、添加剤は、ヒトでの使用または獣医学的使用が承認されている。いくつかの実施態様において、添加剤は、米国食品医薬品局によりヒトでの使用が承認されている。いくつかの実施態様において、添加剤は、医薬グレードである。いくつかの実施態様において、添加剤は、米国薬局方(USP)、欧州薬局方(EP)、英国薬局方および/または国際薬局方の基準を満たす。
【0053】
別の一実施態様において、組成物は、増粘剤を含む。特定の実施態様において、増粘剤は、セルロースまたはセルロース誘導体である。特定の実施態様において、増粘剤は、カルボキシメチルセルロースである。特定の実施態様において、増粘剤は、メチルセルロースである。特定の実施態様において、増粘剤は、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースまたはヒドロキシブチルセルロースの1つ以上である。他の例示的な増粘剤としては、合成ポリマー(例えば、アクリルアミド、アクリル酸エステル)が挙げられる。特定の実施態様において、増粘剤は、ワックスまたは脂肪アルコール(例えば、セチルアルコール)である。
【0054】
特定の実施態様において、組成物は、1つ以上の治療剤、ホルモン、増殖因子、脂質、サイトカイン、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、小分子、化学療法剤など(例えば、ポリフェノール、脂肪アルコール)をさらに含む。
【0055】
一実施態様において、本明細書で具体化される凍結保護および凍結保存組成物は、極度の冷却および解凍速度を可能にし、高い凍結保護剤(CPA)濃度の毒性を解消し、少量の生物学的媒体の使用を可能にし、従来の凍結保存剤より優れている。
【0056】
凍結保存細胞または組織の解凍速度は、例えば、様々な要因により影響されると理解されるだろう。例えば、凍結保存細胞の容量、ハンドリング時間、周囲温度、用いられるインキュベーションチャンバーの温度、細胞を収容する容器の熱伝達特性、凍結保存細胞に加えられる凍結溶液の容量などが解凍速度に影響を及ぼし得る。また、凍結保存細胞の特定の試料中の細胞は、すべて同じ速度または同じ時間内にで解凍するわけではないと理解されるだろう。凍結保存細胞を解凍するための方法は、当該技術分野において周知である(例えば、Freshney R I, Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique, 4th Edition, 2000, Wiley-Liss, Inc., Chapter 19参照)。
【0057】
解凍される凍結保存細胞は、約0.1 ml、0.5 ml、1 ml、約2 ml、約3 ml、約4 ml、約5 ml、約10 ml、約20 ml、約30 ml、約40 ml、約50 ml、約100 ml、約200 ml、約300 ml、約400 ml、約500 ml、約1 L、またはそれ以上の容積を占める組成物中にあり得る。凍結保存細胞は、約0.1 ml、0.5 ml、1 mlから約10 ml、約10 ml~約20 ml、約20 ml~約30 ml、約30 ml~約40 ml、約40 ml~約50 ml、約50 ml~約100 ml、約100 ml~約200 ml、約200 ml~約300 ml、約300 ml~約400 ml、約400 ml~約500 ml、または約500 ml~約1 Lの範囲の容積を占める組成物中にあり得る。細胞を含む組成物は、組織試料、例えば血液試料、脂肪試料を含み得る。
【0058】
典型的に、解凍工程は、約0℃未満の温度(サブゼロ温度)での貯蔵から凍結保存細胞を得ることおよびそれらを0℃超の温度に解凍させることができることを含む。解凍工程は、約-205℃~約-195℃の範囲の温度での貯蔵から凍結保存細胞を得ることを含み得る。解凍工程は、約-80℃~約-60℃の範囲の温度での貯蔵から凍結保存細胞を得ることを含み得る。解凍工程は、例えば解凍速度を制御するために、より温かい温度範囲を各々有するインキュベーター間で細胞を移動させることにより凍結保存細胞を徐々に温めることを含み得る。例えば、解凍工程は、第1に、例えば約-205℃~約-195℃の範囲である、第1サブゼロ温度での貯蔵から凍結保存細胞を得ること、および第2の、典型的にはより温かい、さらに典型的にはサブゼロの、貯蔵温度、例えば約-80℃~約-60℃の範囲である温度に、解凍前に凍結保存細胞を移すことを含み得る。任意の数の段階、例えば、2、3、4、5、6、またはそれ以上の段階が、この方法で解凍する速度を制御するために想定される。解凍工程はまた、温度制御されたチャンバー、例えば水浴、熱ブロック、オーブンなどにおいて細胞をインキュベートすることにより凍結保存細胞を徐々に温めること、および凍結保存細胞がチャンバーに存在する間に、例えば制御された速度で、チャンバーを徐々に温めることを含み得る。
【0059】
解凍工程は、約15℃~約30℃の範囲の温度で凍結保存細胞をインキュベートすることを含み得る。解凍工程は、約30℃~約45℃の範囲の温度で凍結保存細胞をインキュベートすることを含み得る。このようなインキュベーションは、温度制御されたインキュベーター、例えば温度制御された水浴、温度制御されたオーブンなどにおいて凍結保存細胞を収容する容器をインキュベートすることにより実施され得る。他のインキュベーション方法は、当業者に明らかであろう。
【0060】
解凍工程は、約30秒、約1分、約2分、約3分、約4分、約5分、約10分、約20分、約30分、約40分、約50分、約1時間以内、またはそれ以上の時間内で完了し得る。解凍工程は、約1分~約5分の範囲内で完了し得る。解凍工程は、約5分~約10分の範囲内で完了し得る。解凍工程は、約10分~約30分の範囲内で完了し得る。解凍工程は、約30分~約60分の範囲内で完了し得る。
【0061】
解凍工程は、約1℃/分、約2℃/分、約3℃/分、約4℃/分、約5℃/分、約10℃/分、約20℃/分、約30℃/分、約40℃/分、約50℃/分、約60℃/分、約70℃/分、約80℃/分、約90℃/分、約100℃/分、約200℃/分、またはそれ以上の速度で凍結保存細胞を温めることを含み得る。解凍工程は、約1℃/分~約5℃/分の範囲の速度で凍結保存細胞を温めることを含み得る。解凍工程は、約5℃/分~約25℃/分の範囲の速度で凍結保存細胞を温めることを含み得る。解凍工程は、約25℃/分~約50℃/分の範囲の速度で凍結保存細胞を温めることを含み得る。解凍工程は、約50℃/分~約100℃/分の範囲の速度で凍結保存細胞を温めることを含み得る。解凍工程は、約100℃/分~約200℃/分の範囲の速度で凍結保存細胞を温めることを含み得る。解凍速度は、細胞が完全に解凍されるまで、連続的、例えば一定の速度であり得る。解凍速度はまた、非連続的であり得て、例えば、当該速度が、解凍中ある温度範囲では他の温度範囲での速度と比較してより急速であり得て、例えば、当該速度が、解凍中約-200℃~約0℃の範囲では約0℃~約45℃の範囲においてより急速であり得る。
【0062】
必要または必須ではないが、細胞は、凍結保存法中の任意の段階で洗浄され得る。特定の実施態様において、細胞は、採取後に洗浄される。特定の実施態様において、細胞は、解凍後に洗浄される。特定の実施態様において、細胞は、移植前に洗浄される。このような洗浄は、細胞採取法または凍結保存法により生じる任意の細胞残屑の存在を最小限にし得る。細胞の洗浄は、当該技術分野において公知の任意の方法を用いて実施され得る。例えば、細胞は、通常生理食塩水または別の適切な洗浄液で洗浄され得る。特定の実施態様において、用いられる洗浄液の容量は、洗浄される細胞の容量と少なくとも等しい。洗浄は、洗浄液中に細胞を懸濁させ、その後細胞を遠心分離して、洗浄された細胞を採取することを含み得る。他の実施態様において、細胞は、洗浄液を加えることなく遠心分離され、細胞ペレットは、通常生理食塩水または移植のような更なる使用に適する別の液に再懸濁される。洗浄工程は、1回または複数回実施され得る。特定の実施態様において、洗浄工程は、2回、3回、4回、5回、6回、7回、またはそれ以上繰り返され得る。典型的に、洗浄工程は、2~3回を超えて実施されない。特定の実施態様において、1回のみの洗浄が実施される。
【0063】
細胞を凍結させるとき、凍結保存される細胞の濃度は、例えば細胞または組織のタイプ、下流の適応などを含む、様々な要因に応じて変化し得る。特定の細胞タイプの濃度は、低くてもよく、例えば卵母細胞については、濃度は、約1~30細胞/ml、またはそれ以下と低くてもよい。細胞の濃度は、約100細胞/ml、約101細胞/ml、約102細胞/ml、約103細胞/ml、約104細胞/ml、約105細胞/ml、約106細胞/ml、約107細胞/ml、約108細胞/ml、約109細胞/ml、またはそれ以上であり得る。細胞の濃度は、例えば、約100細胞/ml~約1010細胞/ml、約100細胞/ml~約101細胞/ml、約101細胞/ml~約102細胞/ml、約102細胞/ml~約103細胞/ml、約103細胞/ml~約104細胞/ml、約104細胞/ml~約105細胞/ml、約105細胞/ml~約106細胞/ml、約106細胞/ml~約107細胞/ml、約107細胞/ml~約108細胞/ml、または約108細胞/ml~約109細胞/mlの範囲であり得る。
【0064】
本明細書に記載の方法および組成物は、任意の凍結保存細胞、典型的には真核細胞と用いられ得る。しかしながら、本明細書に記載の方法および組成物はまた、原核細胞との使用を想定される。本明細書に記載の方法および組成物または、植物細胞、昆虫細胞などで有用である。
【0065】
細胞は、任意の組織または臓器(例えば、結合、神経、筋肉、脂肪または上皮組織)から単離される初代細胞であり得る。細胞は、間葉性、外胚葉性または内胚葉性であり得る。細胞はまた、単離された結合、神経、筋肉、脂肪または上皮組織、例えば、組織外植片、例えば、脂肪吸引により得られた脂肪組織に存在し得る。結合組織は、例えば、骨、靭帯、血液、軟骨、腱または脂肪組織であり得る。筋肉組織は、例えば、血管平滑筋、心臓平滑筋または骨格筋であり得る。上皮組織は、例えば、血管、顎下腺管、付着歯肉、舌背、硬口蓋、食道、膵臓、副腎、脳下垂体、前立腺、肝臓、甲状腺、胃、小腸、大腸、直腸、肛門、胆嚢、甲状腺瀘胞、上衣、リンパ管、皮膚、汗腺管、体腔中皮、卵巣、ファロピウス管、子宮、子宮内膜、頚部(子宮頚内膜)、頚部(子宮頚部外膜)、膣、大陰唇、直尿細管直筋、精巣網、精巣輸出管、精巣上体、輸精管、射精管、尿道球腺、精嚢、口腔咽頭、喉頭、声帯、気管、呼吸気管支、角膜、鼻、腎臓の近位尿細管、腎臓の細い肢の上行、腎臓の遠位尿細管、腎臓の集合管、腎盤、輸尿管、膀胱、尿道前立腺部、膜性尿道、陰茎尿道、または外尿道口であり得る。
【0066】
細胞は、任意の哺乳類細胞であり得る。細胞は、任意のヒト細胞であり得る。細胞としては:リンパ球、B細胞、T細胞、細胞毒性T細胞、ナチュラルキラーT細胞、制御性T細胞、ヘルパーT細胞、骨髄性細胞、顆粒球、好塩基性顆粒球、好酸性顆粒球、好中性顆粒球、過分葉好中球、単球、マクロファージ、網状赤血球、血小板、マスト細胞、血小板(thrombocytes)、巨核球、樹状細胞、甲状腺細胞、甲状腺上皮細胞、濾胞傍細胞、上皮小体細胞、上皮小体主細胞、好酸性細胞、副腎細胞、クロム親和性細胞、松果体細胞(pineal cells)、松果体細胞(pinealocytes)、グリア細胞、グリア芽細胞、星状細胞、希突起膠細胞、小膠細胞、大細胞性神経分泌細胞、星細胞、ベッチェル細胞;下垂体細胞、生殖腺刺激ホルモン産生細胞、副腎皮質刺激ホルモン産生細胞、甲状腺刺激ホルモン産生細胞、成長ホルモン産生細胞、プロラクチン産生細胞、肺細胞、I型肺細胞、II型肺細胞、クララ細胞;杯細胞、肺胞マクロファージ、心筋培養細胞、周細胞、胃細胞、胃主細胞、壁細胞、杯細胞、パネート細胞、G細胞、D細胞、ECL細胞、I細胞、K細胞、S細胞、腸内分泌細胞、クロム親和性細胞、APUD細胞、肝細胞(liver cells)、肝細胞(hepatocytes)、クッパー細胞、骨細胞(bone cells)、骨芽細胞、骨細胞(osteocytes)、破骨細胞、象牙芽細胞、セメント芽細胞、エナメル芽細胞、軟骨細胞、軟骨芽細胞、軟骨細胞、皮膚細胞、有毛細胞、毛胞、ケラチノサイト、メラノサイト、母斑細胞、筋細胞(muscle cells)、筋細胞(myocytes)、筋芽細胞、筋管、脂肪細胞、繊維芽細胞、腱細胞、有足細胞、傍糸球体細胞、糸球体内メサンギウム細胞、糸球体外メサンギウム細胞、腎細胞、腎細胞、緻密斑細胞、精子、セルトリ細胞、ライディッヒ細胞、卵母細胞、およびそれらの組合せが挙げられる。
【0067】
細胞はまた、疾患組織、例えば癌から単離され得る。したがって、細胞は、癌細胞であり得る。例えば、細胞は、以下のタイプの癌のいずれかから単離され得るかまたは由来し得る:乳癌;胆道癌;膀胱癌;神経膠芽腫および髄芽腫を含む脳腫瘍;子宮頸癌;絨毛癌;結腸癌;子宮内膜癌;食道癌;胃癌;急性リンパ性および骨髄性白血病を含む血液学的新生物;T細胞急性リンパ芽球性白血病/リンパ腫;毛様細胞性白血病;慢性骨髄性白血病、多発性骨髄腫;AIDS関連白血病および成人T細胞白血病/リンパ腫;ボーエン病およびパジェット病を含む上皮内新生物;肝臓癌;肺癌;ホジキン病およびリンパ球性リンパ腫を含むリンパ腫;神経芽腫;扁平上皮癌を含む口腔癌;上皮細胞、間質細胞、生殖細胞および間葉細胞から生じるものを含む卵巣癌;膵臓癌;前立腺癌;直腸癌;平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、脂肪肉腫、線維肉腫および骨肉腫を含む肉腫;黒色腫、メルケル細胞癌、カポジ肉腫、基底細胞癌および扁平上皮癌を含む皮膚癌;胚腫瘍、例えば精上皮腫、非精上皮腫(奇形腫、絨毛癌)、間質腫瘍、および胚細胞腫瘍を含む精巣癌;甲状腺癌(thyroid adenocarcinoma)および髄様癌腫を含む甲状腺癌(thyroid cancer);ならびに腺癌およびウィルムス腫瘍を含む腎臓癌。
【0068】
細胞は、臍帯血細胞、幹細胞、臍帯細胞、羊膜細胞、胚性幹細胞、成体幹細胞、癌幹細胞、前駆細胞、自己細胞、同種移植細胞、同種異型移植細胞、異種移植細胞、骨髄細胞または遺伝子操作された細胞を含み得る。細胞は、誘導された前駆細胞であり得る。細胞は、細胞において多能性を誘導するために幹細胞関連遺伝子でトランスフェクトされた、対象体、例えばドナー対象体から単離された細胞であり得る。細胞は、多能性を誘導するために幹細胞関連遺伝子でトランスフェクトされ、所定の細胞系統に沿って分化した、対象体から単離された細胞であり得る。細胞は、所望の産物を発現するベクターを含む細胞であり得る。これらまたはその他のタイプの細胞は、治療を必要とする対象体への移植または投与に用いられ得る。
【0069】
本明細書に記載の細胞のいずれかの細胞株はまた、本明細書に記載の方法で用いられ得る。
【0070】
本開示はまた、対象体において細胞を移植する方法を提供する。細胞または組織は、自己由来で、ハロタイプの一致した、形質転換された細胞、同種異系で、異種の、所望の産物を発現する細胞、またはそれらの組合せであり得る。方法は、典型的には、本明細書で具体化される凍結保護組成物において凍結された凍結保存細胞を解凍すること、および対象体において解凍された細胞を移植することを含む。方法は、例えば同種異型移植、同種移植または異種移植として用いるため、移植レシピエントではないドナーから細胞を得ることを含み得る。方法は、自己移植として用いるため、移植レシピエントである対象体から細胞を得ることを含み得る。方法は、移植前にインビトロで細胞を増殖させることを含み得る。細胞は、組織中に位置している間に凍結保存され得る。細胞は、組織から単離され、その後凍結保存され得る。細胞は、組織中に位置している間に凍結保存され、解凍後に組織から単離され得る。
【0071】
得られた凍結細胞組成物は、対象体への移植前にさらに処理され得る。例えば、細胞は、対象体への移植前に、洗浄、精製、抽出、増殖またはその他処理をされ得る。
【0072】
凍結保存細胞は、細胞の接着を可能にし、培養組織の産生を促進する足場物質において解凍および播種され得る。一実施態様において、他の物質、例えばヒドロキシアパタイト、シリコーンおよび他の無機物質が用いられ得るが、足場は、合成または天然ポリマーで形成される。足場は、生分解性または非生分解性であり得る。代表的な合成非生分解性ポリマーとしては、エチレン酢酸ビニルおよびポリメタクリレートが挙げられる。代表的な生分解性ポリマーとしては、ポリヒドロキシ酸、例えばポリ乳酸およびポリグリコール酸、ポリ無水物、ポリオルトエステル、およびそれらの共重合体が挙げられる。天然ポリマーとしては、コラーゲン、ヒアルロン酸およびアルブミンが挙げられる。ヒドロゲルもまた適する。他のヒドロゲル物質としては、アルギン酸カルシウム、および適応性があり、細胞を封入するのに用いられ得るイオン性ヒドロゲルを形成できる特定の他のポリマーが挙げられる。
【0073】
足場は、新しい組織、例えば血管組織、骨、軟骨、脂肪、筋肉、腱および靭帯を産生するために用いられ得る。足場を典型的には細胞と播種し;細胞を培養し;そして足場を移植する。用途としては、臓器または組織、例えば血管、軟骨、関節、腱または靭帯の修復および/または置き換え、または「充填物」として用いるための組織の作成が挙げられ、ここで該充填物は、典型的には、逆流の処置におけるような、開口部または内腔をブロックするか、または隣接組織を移動させるために用いられる。
【0074】
脂肪細胞を除いて、脂肪組織は、幹細胞の供給源であることが見出されている(Gimble et al., "Adipose-Derived Stem Cells for Regenerative Medicine" Circulation Research 100:1249-1260, 2007;出典明示により本明細書の一部とする)。したがって、本明細書で具体化される組成物は、安定化し、凍結保存後の幹細胞または脂肪組織由来の他の細胞への損傷を防ぐのに有用である。特定の実施態様において、組成物は、成体幹細胞の移植に有用である。特定の実施態様において、組成物は、線維芽細胞の移植に有用である。
【0075】
凍結保存細胞は、任意の適切な下流適用、例えば、研究、組織培養、創薬、生物製剤などに用いられ得る。細胞は、例えば免疫染色と組み合せて、顕微鏡検査、インサイチュハイブリダイゼーションなどに用いられ得る。細胞は、機能研究、例えば遺伝子ノックダウンまたは過剰発現研究に用いられ得る。細胞は、様々な分子経路、例えば細胞周期、細胞シグナル伝達、遺伝子制御などを研究するために用いられ得る。細胞は、フローサイトメトリーにより分離され得る。細胞は、細胞株を作製するために用いられ得る。細胞は、例えば種々の細胞コンパートメントからタンパク質または分子を精製するために、分画研究に用いられ得る。細胞は、種々の疾患経路、例えば癌を研究するために用いられ得る。細胞は、例えば腫瘍増殖を研究するために、動物モデルに移植され得る。細胞は、遺伝子、例えばmRNAまたはmiRNAのプロファイリング研究に用いられ得る。細胞の核型または遺伝子型は評価され得る。細胞は、様々な生体分子、例えば抗体、タンパク質、RNA、DNA、リガンドなどの単離に用いられ得る。
【0076】
細胞は、ハイコンテントスクリーニング、例えばリード同定および化合物の特性評価のための自動顕微鏡検査に用いられ得る。細胞は、例えば、所望の活性、例えば細胞増殖の阻害、特定の生化学経路の調節、特定の遺伝子の発現の調節、標的への結合などについて、化合物、例えば小分子、siRNA、ペプチドなどのスクリーニングする、例えばハイスループットスクリーニングすることによる評価に用いられ得る。
【0077】
細胞は、治療分子、例えば抗体、酵素などの産生および単離のための生物薬剤コンテクストにおいて用いられ得る。細胞は、例えばポリマーなどのポリエステルの存在下ドライアイス上で、顧客、協力者などに輸送され得る。細胞は、例えば細菌、マイコプラズマ、ウイルスなどのコンタミネーションについて評価され得る。本明細書に記載の使用は限定されることは意図されず、凍結保存細胞についての様々な他の使用も想定され、当業者に明らかであろう。
【0078】
他の実施態様において、凍結保存組成物は、臓器移植または臓器提供プログラムにおける使用のために様々な臓器の維持に適する温度下で臓器の凍結保存または臓器の移送に用いられ得る。臓器の凍結保存のために、臓器を凍結保護組成物で潅流し、様々な臓器を保存する条件下で凍結し得る。移植のために臓器を解凍する手順は、当業者に公知である。
【0079】
本開示はまた、本明細書に記載の凍結保存組成物を処方するのに適した薬剤で満たされた1つ以上の容器を含み、該容器が単一包装に封入されているキットを提供する。例えば、キットは、その中にカルボキシル化ポリアミノ酸を有する第1の容器、その中に少なくとも1つの有機両性剤を有する第2の容器、およびその中に多糖を有する第3の容器を含み得る。当該薬剤は、混合の準備ができているまたは予め混合された形態であってもよく、または使用者が濃縮形態を所定の規格に希釈する濃縮された形態であってもよい。いくつかの実施態様において、カルボキシル化ポリアミノ酸は、カルボキシル化ポリリシンである。いくつかの実施態様において、有機両性剤は、エクトインおよび/またはヒドロキシエクトインである。いくつかの実施態様において、有機両性剤は、エクトイン、ヒドロキシエクトイン、エクトイン誘導体、ヒドロキシエクトイン誘導体、アナログ、バリアントまたはそれらの組合せを含む。いくつかの実施態様において、多糖は、デキストランである。キットはまた、1つ以上の希釈剤、例えば医薬的に許容される添加剤、蒸留水、生理食塩水、生物学的媒体などを含み得る。
【0080】
キットはまた、薬剤を希釈または混合するための指示書を含み得る。指示書はまた、凍結させるための組成物との生体試料の接触に関する情報を含み得る。指示書はまた、凍結保存細胞を解凍させることを含み得る。このような指示書はまた、凍結保存し、解凍された細胞、組織などの投与に関する情報を含み得る。
【0081】
キットはまた、典型的には医療デバイスおよび/または医薬品の製造、使用または販売を規制する政府機関により規定された形式の通知を含み得て、ここで当該通知は、組織移植におけるヒトまたは動物の投与についての組成物の当該機関による承認を反映するものである。
【0082】
キットは、組成物の調製のためのデバイスまたは容器を含み得る。デバイスは、例えば計量または混合デバイスであり得る。
【0083】
キットはまた、場合により、本開示の組成物を投与するためのデバイスを含み得る。例示的なデバイスとしては、様々な喉頭鏡設計に適合する特殊なシリンジ、ニードルおよびカテーテルが挙げられる。
【実施例0084】
実施例1
-80℃の温度への低速凍結保存法に適する凍結保存組成物は、ダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM)中で混合した7.5%v/vのカルボキシル化ポリリシンおよび5%w/vのデキストラン-40を含む。コハク酸無水物との反応によりポリリシンのアミノ基のおよそ60%をカルボキシル化した。その溶媒としての水中のカルボキシル化ポリリシンを、DMEM中1:3の比でデキストラン-40と混合する。
【0085】
実施例2
-80℃の温度への低速凍結保存法に適する凍結保存組成物は、DMEM中で混合した7.5%v/vのカルボキシル化ポリリシンおよび5%w/vのエクトインを含む。コハク酸無水物との反応によりポリリシンのアミノ基のおよそ60%をカルボキシル化した。その溶媒としての水中のカルボキシル化ポリリシを、DMEM中1:3の比でエクトインと混合する。
【0086】
実施例1および2の凍結保存組成物の有効性を分析し、EMEM、FBSおよび10%ジメチルスルホキシド(DMSO)を含む、標準的な凍結保存培地と比較した。結果を図1~3に要約する。
【0087】
図1に示すように、解凍後(左のバー)および1回継代後(右のバー)の両方について、胎児の肺線維芽細胞TIG-3-20の細胞回収をTrypan Blueアッセイにより分析した。線維芽細胞を、コントロール培地、実施例1の凍結保存組成物、および実施例2の凍結保存組成物の1つに置いた。
【0088】
図1に示すように、低濃度のエクトイン(5%)と組み合わせたカルボキシル化ポリリシンは、線維芽細胞を含む様々な細胞タイプを凍結保存するのに効率的であり、DMSOを含む標準的な凍結保存培地と比較して細胞回収を向上させる。
【0089】
図2に示すように、コントロール培地、実施例1の凍結保存組成物、および実施例2の凍結保存組成物の1つにおいて、解凍後3日間、胎児の肺線維芽細胞TIG-3-20についてTrypan Blueアッセイによる細胞生存率をまた分析した。
【0090】
図2に示すように、低濃度のエクトイン(5%)と組み合わせたカルボキシル化ポリリシンまたは低濃度のデキストラン(5%)と組み合わせたカルボキシル化ポリリシンは、線維芽細胞を含む様々な細胞タイプを凍結保存し、DMSOを含む標準的な凍結保存培地と比較して細胞の解凍後生存率を向上させるのに効率的である。
【0091】
図3に示すように、コントロール培地、実施例1の凍結保存組成物、および実施例2の凍結保存組成物の1つにおいて、解凍した後、樹状細胞についてCalceinAMアッセイにより細胞生存率を分析した。細胞を解凍した後、生存率を測定した。
【0092】
実施例3
-80℃の温度への低速凍結保存法に適する凍結保存組成物は、DMEM中で混合した7.5%v/vのカルボキシル化ポリリシン、5%w/vのエクトインおよび5%w/vのデキストラン-40を含む。コハク酸無水物との反応によりポリリシンのアミノ基のおよそ60%をカルボキシル化した。その溶媒としての水中のカルボキシル化ポリリシを、DMEM中1:3の比でデキストラン-40およびエクトインと混合する。
【0093】
図4に示すように、解凍した後、ナチュラルキラー92(NK-92)細胞の細胞回収をTrypan Blueアッセイにより分析した。NK-92細胞は、実施例1および2の凍結保存組成物、ならびにコントロール(5%のAB血清、X-VIVOTM中10%のDMSO)と比較して、実施例3の凍結保存組成物において解凍後の回収の向上を示した。
【0094】
図4に示すように、低濃度のエクトイン(5%未満)および低濃度のデキストラン(5%未満)の両方と組み合わせたカルボキシル化ポリリシンは、NK細胞を含む様々な細胞タイプを凍結保存し、DMSOを含む標準的な凍結保存培地、低濃度のエクトイン(5%未満)のみと組み合わせたカルボキシル化ポリリシンおよび低濃度のデキストラン(5%未満)のみと組み合わせたカルボキシル化ポリリシンと比較して、細胞回収を向上させるのに効率的である。
【0095】
実施例4
凍結保存法に適する凍結保存組成物は、DMEM中で混合した7.5%v/vのカルボキシル化ポリリシン、20%w/vのエクトインおよび20%w/vのデキストラン-40を含む。その溶媒としての水中のカルボキシル化ポリリシを、DMEM中1:3の比でデキストラン-40およびエクトインと混合する。
【0096】
図5Aおよび5Bに示すように、コントロール培地、実施例3の凍結保存組成物および実施例4の凍結保存組成物の1つにおいて、解凍した後、NK-92細胞の細胞生存率も分析した。NK-92細胞は、実施例4の凍結保存組成物、および実施例3の10%DMSOコントロールと比較して、実施例3の凍結保存組成物において解凍後の回収の向上を示した。
【0097】
図5Aおよび5Bのデータを得るために、NK-92細胞を、十分に増殖させてコンフルエンスにし、その後、同じ濃度のNK-92細胞を実施例3の凍結保存組成物、実施例4の凍結保存組成物、およびコントロール培地の各々において24時間-80℃にて凍結させ、続いて最大7日間液体窒素(LN2)に置き換えることによりゆっくり凍結保存した。
【0098】
図5Aおよび5Bに示すように、低濃度のエクトイン(5%未満)および低濃度のデキストラン(5%未満)の両方と組み合わせたカルボキシル化ポリリシンは、NK細胞を含む様々な細胞タイプを凍結保存し、DMSOを含む標準的な凍結保存培地、ならびに高濃度のエクトイン(20%)および高濃度のデキストラン(20%)の両方と組み合わせたカルボキシル化ポリリシンと比較して細胞生存率を向上させるのに効率的である。
【0099】
さらに図6Aおよび6Bに示すように、実施例3の凍結保存組成物において凍結保存された後解凍したNK-92細胞は、解凍した24時間後より弱い増殖を示した、実施例4の凍結保存組成物においてゆっくり凍結保存したNK-92細胞より数が多く、形態学的に健常であった。
【0100】
ゆっくりな凍結保存法により適する実施例1~3の凍結保存組成物と比較して、実施例4の凍結保存組成物はガラス化などの速い凍結保存法により適することが想定される。
【0101】
実施例5
-100℃未満の温度へのガラス化および/または超急速凍結を含む高速凍結保存に適する凍結保存組成物は、DMEM中で混合した52.5%v/vのカルボキシル化ポリリシン、35%w/vのエクトインおよび35%w/vのデキストラン-40を含む。コハク酸無水物との反応によりポリリシンのアミノ基のおよそ60%をカルボキシル化する。その溶媒としての水中のカルボキシル化ポリリシを、DMEMを加えることによりそれらの最終濃度にデキストラン-40およびエクトインと混合する。
【0102】
実施例6
-100℃未満の温度へのガラス化および/または超急速凍結を含む高速凍結保存に適する凍結保存組成物は、DMEM中で混合した37.5%v/vのカルボキシル化ポリリシン、25%w/vのエクトインおよび25%w/vのデキストラン-40を含む。コハク酸無水物との反応によりポリリシンのアミノ基のおよそ60%をカルボキシル化する。その溶媒としての水中のカルボキシル化ポリリシを、DMEMを加えることによりそれらの最終濃度にデキストラン-40およびエクトインと混合する。
【0103】
本開示の様々な実施態様が上に記載されているが、それらは限定ではなく例としてのみ示されていると理解されるべきである。本開示の精神および範囲から逸脱することなく本開示に従って開示された実施態様への多数の変更がなされ得る。したがって、本開示の幅および範囲は、上記実施態様のいずれかにより制限されるべきではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2021-12-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル化ポリアミノ酸、有機両性剤、および場合により多糖を含む、凍結保存組成物。
【外国語明細書】