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特開2022-175092可視又は赤外レーザー硬化型のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175092
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】可視又は赤外レーザー硬化型のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/68 20060101AFI20221117BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
C08G59/68
C08L63/00 C
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081236
(22)【出願日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】391047558
【氏名又は名称】ヘンケルジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】築野 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】菅野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】原田 繁夫
【テーマコード(参考)】
4J002
4J036
【Fターム(参考)】
4J002CD02W
4J002CD05X
4J002DJ016
4J002FA086
4J002GJ01
4J002GP00
4J002GQ00
4J036AA05
4J036AD08
4J036AJ01
4J036AJ10
4J036FA10
4J036GA02
4J036HA02
4J036JA06
(57)【要約】
【課題】短時間かつ低エネルギーで硬化する可視又は赤外レーザー硬化型の樹脂組成物を提供する。
【解決手段】可視又は赤外レーザー硬化型のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物であって、(A)エポキシ樹脂、及び(B)酸発生剤を含む、カチオン重合系エポキシ樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視又は赤外レーザー硬化型のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物であって、
(A)エポキシ樹脂、及び
(B)酸発生剤
を含む、
カチオン重合系エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂(A)が、脂環型エポキシ樹脂を含む、請求項1に記載のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂(A)が、さらにグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を含む、請求項2に記載のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記可視又は赤外レーザーが、600~1200nmの波長を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、
(C)無機フィラー
を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記酸発生剤が、光酸発生剤又は熱酸発生剤である、請求項1~5のいずれか一項に記載のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
金属の接着、並びにカメラモジュール及び電子センサーの組み立てからなる群より選択される少なくとも一種の用途のために用いられる、請求項1~6のいずれか一項に記載のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
カチオン重合系エポキシ樹脂組成物であって、
(A)エポキシ樹脂、及び
(B)酸発生剤
を含む、
カチオン重合系エポキシ樹脂組成物の、可視又は赤外レーザー硬化のための使用。
【請求項9】
カチオン重合系エポキシ樹脂組成物を硬化させる方法であって、
前記カチオン重合系エポキシ樹脂組成物を、可視又は赤外レーザーを照射することにより硬化させる工程を含み、
前記カチオン重合系エポキシ樹脂組成物が、
(A)エポキシ樹脂、及び
(B)酸発生剤
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は可視又は赤外レーザー硬化型のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
可視又は赤外レーザーは、狙った箇所に集中的に照射できるため、溶接において汎用されている。また、同様の理由で、可視又は赤外レーザーは、熱硬化型の接着剤を硬化させる目的でも使用されている。
【0003】
可視又は赤外レーザーで熱硬化型の接着剤を硬化させる技術としては、ジシアンジアミド又はイミダゾールを含む接着剤、並びにアニオン重合系接着剤が汎用されている(特許文献1)。しかし、これらの接着剤は高いエネルギーを必要とし、例えば、加熱オーブンを用いる場合には150℃以上とする必要がある。このような硬化条件は、自動車ボディパネルの接合等の、金属の接合には適している。しかし、カメラモジュール及び電子センサーの組み立てのような、光学部品の接合には適していない。これらの部品自体の特性や、完成品の仕様上、高温に曝すことは好ましくなく、また、光学部品が高温の影響を受けて所定位置からずれることもあるが、完成品の仕様上、これは避けられるべきだからである。
【0004】
そこで、カメラモジュールにおいてベースホルダにレンズホルダを接合する場合において、これらを位置がずれないようにUVにより一時的に固定しておいてから、所望の硬化度に到達するまで、加熱オーブンで最終硬化させる手法も用いられている。
【0005】
また、ジシアンジアミド又はイミダゾールを含む接着剤、並びにアニオン重合系接着剤であって、可視又は赤外レーザー硬化型の接着剤においては、硬化をより促進するため、レーザーを吸収して熱エネルギーを放出させる目的で主にブラックの顔料を添加することが広く行われている(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第US2017/0145268号公報
【特許文献2】特開2020-045435号公報
【特許文献3】特開2016-088980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ジシアンジアミド又はイミダゾールを含む接着剤、並びにアニオン重合系接着剤であって、硬化をより促進する目的で顔料が添加されている、可視又は赤外レーザー硬化型の従来の接着剤においては、以下の問題があることを本発明者らは見出した。すなわち、これらの従来の接着剤においては、顔料の周辺のみが極端に高温となり、硬化物の物性が悪化したり、分解が生じたりする。また、顔料が存在する表面のみが硬化したり、表面に過度の吸収エネルギーが集中して焼けたりするといった問題もある。
【0008】
本発明は、従来技術と比較してより短時間かつ低エネルギーで硬化する可視又は赤外レーザー硬化型の樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行ったところ、(A)エポキシ樹脂、及び(B)酸発生剤を含むカチオン重合系エポキシ樹脂組成物により、上記課題を解決できることを見出した。本発明はかかる知見に基づいてさらに検討を加えることにより完成したものであり、以下の態様を含む。
【0010】
項1.
可視又は赤外レーザー硬化型のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物であって、
(A)エポキシ樹脂、及び
(B)酸発生剤
を含む、
カチオン重合系エポキシ樹脂組成物。
項2.
前記エポキシ樹脂(A)が、脂環型エポキシ樹脂を含む、項1に記載のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物。
項3.
前記エポキシ樹脂(A)が、さらにグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を含む、項2に記載のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物。
項4.
前記可視又は赤外レーザーが、600~1200nmの波長を有する、項1~3のいずれか一項に記載のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物。
項5.
さらに、
(C)無機フィラー
を含む、項1~4のいずれか一項に記載のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物。
項6.
前記酸発生剤が、光酸発生剤又は熱酸発生剤である、項1~5のいずれか一項に記載のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物。
項7.
金属の接着、並びにカメラモジュール及び電子センサーの組み立てからなる群より選択される少なくとも一種の用途のために用いられる、項1~6のいずれか一項に記載のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物。
項8.
カチオン重合系エポキシ樹脂組成物であって、
(A)エポキシ樹脂、及び
(B)酸発生剤
を含む、
カチオン重合系エポキシ樹脂組成物の、可視又は赤外レーザー硬化のための使用。
項9.
カチオン重合系エポキシ樹脂組成物を硬化させる方法であって、
前記カチオン重合系エポキシ樹脂組成物を、可視又は赤外レーザーを照射することにより硬化させる工程を含み、
前記カチオン重合系エポキシ樹脂組成物が、
(A)エポキシ樹脂、及び
(B)酸発生剤
を含む、方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の可視又は赤外レーザー硬化型の樹脂組成物を用いることにより、従来技術と比較してより短時間かつ低エネルギーで硬化させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(A)エポキシ樹脂
本発明で用いるエポキシ樹脂は、カチオン重合しうるものであればよく、特に限定されない。エポキシ樹脂のカチオン重合の反応機構は周知である。具体的には、本発明で用いるエポキシ樹脂は、成長鎖が炭素カチオン(カルボカチオン)である重合系であればよい。本発明で用いるエポキシ樹脂は、酸発生剤より生じる酸との反応によりカルボカチオンを生じる。このカルボカチオンと、本発明で用いるエポキシ樹脂との間で生長反応が起こり、最終的に硬化物が得られる。
【0013】
本発明で用いるエポキシ樹脂は、一種のエポキシ樹脂であってもよいし、必要に応じて二種以上のエポキシ樹脂の組合せであってもよい。
【0014】
本発明で用いるエポキシ樹脂は、硬化性に優れている点で、脂環型エポキシ樹脂を含むことが好ましい。脂環型エポキシ樹脂とは、その分子内に脂環を有し、かつその環を形成する炭素-炭素結合の一部がエポキシ環と共有されているエポキシ樹脂である。脂環型エポキシ樹脂としては、公知のものを使用することができる。
【0015】
本発明で用いるエポキシ樹脂は、脂環型エポキシ樹脂を含む場合、硬化性の点で、エポキシ樹脂の全体に対して、好ましくは3重量%以上、より好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上の脂環型エポキシ樹脂を含む。
【0016】
本発明で用いる脂環型エポキシ樹脂は、エポキシ当量が、例えば100~500、好ましくは100~400、より好ましくは100~300である。
【0017】
本発明で用いる脂環型エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、例えば、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル社製「セロキサイド2021P[CEL2021P]」)、ε-カプロラクトン変性3',4'-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル社製「セロキサイド2081[CEL2081]」)、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン(ダイセル社製「セロキサイド 2000[CEL2000]」)、(ダイセル社製「セロキサイド8010[CEL8010]」)、(信越化学工業社製「KR-470」)、等が挙げられる。
【0018】
本発明で用いるエポキシ樹脂は、硬化物に柔軟性を付与する点で、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、及びグリシジルエステル型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも一種のエポキシ樹脂を含むことが好ましい。これらのエポキシ樹脂は、脂環型エポキシ樹脂と比較して成長反応がより遅いため、レーザー照射後においても硬化反応が持続し、分子量も数千程度にしかならない。よって、最終硬化物に好ましい柔軟性を付与しうる。
【0019】
本発明で用いるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、及びグリシジルエステル型エポキシ樹脂は、エポキシ当量が、例えば100~1000、好ましくは100~800、より好ましくは100~600である。
【0020】
本発明で用いるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、及びグリシジルエステル型エポキシ樹脂は、常温(約23℃)で液体又は半固体であるのが好ましいが、固体であっても溶解させて使用することができる。
【0021】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、及びグリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、芳香族構造を主鎖に有するものが好ましい。グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、及びグリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、多環芳香族構造(ナフタレン、アントラセン等)を主鎖に有するものであってもよい。
【0022】
硬化物に柔軟性を付与する点で添加されうる上記エポキシ樹脂においては、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好ましい。グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型グリシジルエーテル、等が挙げられる。
【0023】
ビスフェノール型グリシジルエーテルとしては、ビスフェノールA型グリシジルエーテル、ビスフェノールF型グリシジルエーテル、ビスフェノールAP型グリシジルエーテル、ビスフェノールB型グリシジルエーテル、ビスフェノールC型グリシジルエーテル、ビスフェノールE型グリシジルエーテル、及びビスフェノールG型グリシジルエーテル等が挙げられる。
【0024】
好ましいビスフェノールA型グリシジルエーテルとしては、(DIC株式会社製「EPICLON 840」)、(DIC株式会社製「EPICLON 840S」)、(DIC株式会社製「EPICLON 850」)、(DIC株式会社製「EPICLON 850S」)、(DIC株式会社製「EXA-850CRP」)、(DIC株式会社製「EXA-850LC」)、(DIC株式会社製「EXA-860」)、(DIC株式会社製「EXA-1050」)、(DIC株式会社製「EXA-1055」)、(三菱ケミカル株式会社製「825」)、(三菱ケミカル株式会社製「827」)、(三菱ケミカル株式会社製「828」)、(三菱ケミカル株式会社製「1001」)、(三菱ケミカル株式会社製「1002」)、(日本化薬株式会社製「RE-310S」)、等が挙げられる。
【0025】
好ましいビスフェノールF型グリシジルエーテルとしては、(DIC株式会社製「EXA-830」)、(DIC株式会社製「EXA-830S」)、(DIC株式会社製「EXA-835」)、(DIC株式会社製「EXA-830CRP」)、(DIC株式会社製「EXA830LVP」)、(DIC株式会社製「EXA835LV」)、(三菱ケミカル株式会社製「806」)、(三菱ケミカル株式会社製「806H」)、(三菱ケミカル株式会社製「807」)、(日本化薬株式会社製「RE-303SL」)、またフェノールアラルキル型エポキシとしては(日本化薬株式会社製「NC3000L」)、(日本化薬株式会社製「NC2000L」)、等が挙げられる。
【0026】
本発明で用いるエポキシ樹脂は、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、又はグリシジルエステル型エポキシ樹脂を含む場合、硬化物に柔軟性を付与する点で、エポキシ樹脂の全体に対して、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、及びグリシジルエステル型エポキシ樹脂を総量で、好ましくは3重量%以上、より好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上含む。
【0027】
(B)酸発生剤
本発明で用いる酸発生剤は、可視又は赤外レーザーにより直接的に又は間接的に酸を発生し、その酸がエポキシ樹脂(A)と反応することによりカルボカチオンを生じるものであればよく、特に限定されない。
【0028】
上記において、可視又は赤外レーザーにより直接的に酸を発生する酸発生剤としては、例えば光酸発生剤等が挙げられる。光酸発生剤は、光を照射されることにより酸を発生する化合物である。光酸発生剤はその分子内に、光を吸収する部分と、酸の発生源となる部分とを有する。特に限定されないが、例えば、カチオン部とアニオン部とを有するオニウム塩等が挙げられる。これらのオニウム塩においては、カチオン部が光を吸収する部分に該当し、またアニオン部が酸の発生源となる。
【0029】
上記のオニウム塩は、カチオン部として、スルホニウムイオン、ヨードニウムイオン、ホスホニウムイオン、第4級アンモニウムイオン、又はジアゾニウムイオン等を有していてもよい。スルホニウムイオンとして、例えば、トリアリールスルホニウムイオン等を用いることができる。
【0030】
上記のオニウム塩は、アニオン部として、PF 、SbF 、BF 等を有していてもよい。
【0031】
光酸発生剤としては、サンアプロ社製の、CPI-100P、CPI-101A、CPI-200K、CPI-210S、CPI-310B、CPI-310FG、CPI-410SおよびIK-1;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製の、イルガキュア250、イルガキュア270、Elkem社製のBLUESIL PI 2074等が挙げられる。
【0032】
上記において、可視又は赤外レーザーにより間接的に酸を発生する酸発生剤としては、例えば熱酸発生剤等が挙げられる。熱酸発生剤は、熱を吸収することにより酸を発生する化合物である。可視又は赤外レーザーにより生じた熱により、熱酸発生剤は酸を発生しうる。必要に応じて例えば無機フィラー等を適宜、本発明のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物に配合することにより、可視又は赤外レーザーの照射によって熱をより発生させやすくし、熱酸発生剤から酸をより発生させやすくすることができる。
【0033】
熱酸発生剤としては、(キングインダストリーズ社製「TGA CXC1612」、「TGA CXC1821」)、(三新化学工業株式会社製「サンエイドSI-B2A」)、(三新化学工業株式会社製「サンエイドSI-B7」)、(三新化学工業株式会社製「サンエイドSI-B3A」)、(三新化学工業株式会社製「サンエイドSI-B3」)、(三新化学工業株式会社製「サンエイドSI-B5」)、等が挙げられる。
【0034】
本発明で用いる酸発生剤は、一種の酸発生剤であってもよいし、必要に応じて二種以上の酸発生剤の組合せであってもよい。
【0035】
本発明のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物は、酸発生剤を、カチオン重合系エポキシ樹脂組成物の全体に対して、例えば0.01~10重量%、好ましくは0.1~8重量%、より好ましくは0.1~5重量%、さらに好ましくは0.1~3重量%含んでいる。
【0036】
(C)無機フィラー
本発明のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物は、さらに無機フィラーを含んでいてもよい。
【0037】
本発明で用いる無機フィラーは、一種の無機フィラーであってもよいし、必要に応じて二種以上の無機フィラーの組合せであってもよい。
【0038】
本発明で用いる無機フィラーとしては、例えば、コロイダルシリカ、疎水性シリカ、微細シリカ及びナノシリカ等のシリカフィラー、並びにアクリルビーズ、ガラスビーズ、ウレタンビーズ、ベントナイト、アセチレンブラック及びケッチェンブラック等が挙げられる。
【0039】
本発明で用いる無機フィラーとしては、体積平均粒子径(粒状でない場合は、その重量平均最大径)が、例えば0.01~50μm、好ましくは0.1~40μm、より好ましくは1~30μmのものを使用できる。本明細書において、無機フィラーの体積平均粒子径は、具体的には動的光散乱式ナノトラック粒度分析計により測定する。
【0040】
無機フィラーの市販品としては、高純度合成球状シリカ(アドマテックス社製「SO-E5」、平均粒径:2μm;「SO-E2」、平均粒径:0.6μm)、シリカ(株式会社龍森製、「FB7SDX」、平均粒径:10μm)、及びシリカ(株式会社マイクロン製、「TS-10-034P」、平均粒径:20μm)等が挙げられる。
【0041】
本発明のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物は、無機フィラーを、カチオン重合系エポキシ樹脂組成物の全体に対して、例えば40~80重量%、好ましくは50~70重量%含んでいる。
【0042】
(D)その他の成分
本発明のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物は、さらに必要に応じて一種又は二種以上のその他の成分を含んでいてもよい。
【0043】
その他の成分の具体例として、オキセタン樹脂が挙げられる。本発明のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物は、特に、硬化物に柔軟性を付与する点で、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、又はグリシジルエステル型エポキシ樹脂を含んでいる場合、さらにオキセタン樹脂を含んでいることにより、これらのエポキシ樹脂の酸発生剤による硬化が促進されるため好ましい。
【0044】
本発明のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物は、オキセタン樹脂を、カチオン重合系エポキシ樹脂組成物の全体に対して、例えば3~60重量%、好ましくは5~50重量%含んでいる。
【0045】
その他の成分としては、さらに、接着剤助剤(例えばシラン等)、カップリン剤(チタネート等)及びレオロジー調整剤(ヒュームドシリカ等)等が挙げられる。
【0046】
本発明のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物は、顔料が含まれていない場合であっても、可視又は赤外レーザーで効率よく硬化させることができる。本発明のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物は、必要に応じて顔料を含んでいてもよい。
【0047】
用途
本発明のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物は、可視又は赤外レーザーで硬化させるために使用することができる。本発明において、可視又は赤外レーザーは、具体的には、600~1200nmの波長を有するものを指す。本発明のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物は、好ましくは800~1100nm、より好ましくは900~1100nmの波長のレーザーで硬化させるために使用することができる。
【0048】
本発明のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物は、好ましくは、カメラモジュール組み立てのために用いられる。より具体的には、本発明のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物は、好ましくは、カメラモジュール組み立てにおいて、レンズホルダと、撮像素子が固定化された基板とを接着するために用いられる。上記において、カメラモジュールは、特に限定されず、例えば、スマートフォン等に使用される小型カメラモジュールである。
【0049】
また、本発明のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物は、電子センサーの組み立てにおいても好ましく使用できる。
【実施例0050】
表1に示す組成比(表1の各数値の単位はmgである)で各成分を混合することにより実施例1及び2、並びに比較例1~4の樹脂組成物をそれぞれ調製した。具体的には、各成分を任意の割合で配合し、3本ロールミルを用いて混練分散、さらに真空脱泡を行って樹脂組成物を得た。
【0051】
なお、使用した各成分は具体的には以下の通りである。
[脂環型エポキシ樹脂]
3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル社製「セロキサイド2021P[CEL2021P]」)
[グリシジルエーテル]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC株式会社製「EPICLON 840」)
[オキセタン樹脂]
3-エチル-3{[(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]メチル}オキセタン(東亜合成社製「OXT 221)
[酸発生剤]
熱酸発生剤(キングインダストリーズ社製「TGA CXC1821」)
[フィラー]
高純度合成球状シリカ(アドマテックス社製「SO-E5」、平均粒径:2μm)
[硬化剤1]
潜在性ポリアミン型硬化剤(ADEKA社製「EH-5057P」)
[硬化剤2]
酸無水物(昭和電工株式会社製「MHAC-P」)
[顔料]
カーボンブラック(三菱ガスケミカル株式会社製「MA100」)
[アクリレート樹脂]
ビスフェノールA型ジアクリレート(サートマー社製「SR-540」)
[ぺルオキシド]
有機過酸化物、重合開始剤(日油株式会社製「Per Octa-O」)
【0052】
硬化試験は以下の通りに行った。評価結果を表1に示す。
<硬化試験方法>
各エポキシ樹脂組成物を、スライドガラスに0.01cc塗布し、90°の角度で980nmのレーザーをパナソニック株式会社製「CB1F」を用いて照射した後、外観と触診で竹串の硬化性を評価した。
【0053】
【表1】
【0054】
比較例1のアニオン系エポキシ樹脂組成物にレーザー照射した場合、硬化しなかった。カーボンブラックを含む比較例2及び3のアニオン系エポキシ樹脂組成物にレーザー照射した場合、炭化又は硬化が見られた。比較例4のアクリル系樹脂組成物にレーザー照射した場合、硬化しなかった。
【0055】
一方、実施例1カチオン系エポキシ樹脂組成物にレーザー照射した場合、顔料を含まないにも関わらず、5秒後に硬化が見られた。実施例1のカチオン系エポキシ樹脂組成物は、顔料を含まない比較例の樹脂組成物と比較してより短時間かつ低エネルギーで硬化することが判る。
【手続補正書】
【提出日】2022-08-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視又は赤外レーザー硬化型のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物であって、
(A)脂環型エポキシ樹脂及びグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂、
(B)酸発生剤、及び
(C)オキセタン樹脂
を含む、
カチオン重合系エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記可視又は赤外レーザーが、600~1200nmの波長を有する、請求項1に記載のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、
(C)無機フィラー
を含む、請求項1又は2に記載のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記酸発生剤が、光酸発生剤又は熱酸発生剤である、請求項1~のいずれか一項に記載のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
金属の接着、並びにカメラモジュール及び電子センサーの組み立てからなる群より選択される少なくとも一種の用途のために用いられる、請求項1~のいずれか一項に記載のカチオン重合系エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
カチオン重合系エポキシ樹脂組成物であって、
(A)脂環型エポキシ樹脂及びグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂、
(B)酸発生剤、及び
(C)オキセタン樹脂
を含む、
カチオン重合系エポキシ樹脂組成物の、可視又は赤外レーザー硬化のための使用。
【請求項7】
カチオン重合系エポキシ樹脂組成物を硬化させる方法であって、
前記カチオン重合系エポキシ樹脂組成物を、可視又は赤外レーザーを照射することにより硬化させる工程を含み、
前記カチオン重合系エポキシ樹脂組成物が、
(A)脂環型エポキシ樹脂及びグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂、
(B)酸発生剤、及び
(C)オキセタン樹脂を含む、方法。